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- ≪査読付研究ノート≫地方自治体における工数管理手法を通じたマネジメントの実践―準備から初年度実施まで―
PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 株式会社日本総合研究所シニアマネジャー・法政大学兼任講師 山田敦弘 キーワード: 地方自治体 工数管理 プロジェクトマネジメント 業務効率化 業務改善 定数管理 要 旨: 地方自治体においては、業務の多様化や職員数の定数管理の適正化など、少ない職員数で多くの業務に対応しなければならない状況にある。その対応策として、A市では業務実施における職員の工数管理を行い、その分散を可視化することで業務改善へ繋げる試行的取組としてプロジェクトマネジメントの手法として確立されているPMBOKの一部である工数管理を実施した。本研究では、その準備から初年度実施にかかる一連の取組を対象として研究・分析を行った。その結果として、「組織全体として、業務負荷の集中・分散状況が可視化できるようになった」、「残業により負荷がかかっている職員を察知することができるようになった」、さらには、「職員が時間を意識して仕事に従事するようになった」ことなどの成果を得ることができた。その一方で、「工数の入力の精度が高くない職員がいる」、「どの業務として入力するべきかわかりにくい」そして「工数入力の手間が職員の負担となっている」ことなどの課題がわかった。工数管理データは、業務の状況及び職員の動きなどが可視化されるため、業務と組織をマネジメントするという視点から有効なツールとなることが推察された。一方で、マネジメントのツールとして活用されないならば、単なる負担となることが懸念された。どのようなマネジメントでどのような課題を解決していくのかについて、事前に定義した上で取り組むことが重要であると考えられた。 構 成: Ⅰ はじめに―課題認識― Ⅱ 研究の対象と方法 Ⅲ 成果と課題の分析 Ⅳ ディスカッション Ⅴ おわりに Abstract Local governments are faced with the need to handle a multitude of tasks with a small number of staff due to the diversification of tasks and staff optimization. As a countermeasure, City A implemented man-hour management, which is part of PMBOK, a project-management methodology established as a trial initiative to improve operations by managing employee man-hours for tasks and visualizing the distribution of man-hours. In this study, we analyzed a series of initiatives, from preparation to implementation, in the first year. Results revealed that the organization as a whole was able to visualize the concentration and distribution of work load, that the organization was able to identify staff burdened by overtime work, and that staff became more conscious of time while working. On the other hand, we found that some staff members did not log man-hours accurately, that it was difficult to understand which tasks should be logged, and that the effort of logging manhours was a burden on staff. Results suggested that man-hour management data is an effective tool from the perspective of managing tasks and organizations as it enables the visualization of the status of tasks and the activity of staff. On the other hand, there is a concern that man-hour management would simply become a burden if it is not used as a management tool. It is important to define the type of management and the issues that would be resolved before proceeding. ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ はじめに―課題認識― 本稿では、工数管理を通じたマネジメントの実践の有効性を検証するために、地方自治体の業務遂行における人手不足にかかる課題について明らかにしたうえで、そのための対策を提示し、具体的な進め方として工数管理を試行しようとする理由と手順、そしてその成果と課題についてディスカッションをしていく。 本稿におけるマネジメントとは、地方自治体の課・係を 1 つのチームとして成果を得るためのプロジェクトマネジメントを想定している。言い換えると、複数の職員が連携・分担を行いながら、チームとしてプロジェクトの成果を上げていくことである。ここで言う成果とは、業務を達成するためにプロジェクトを実施することで得られる結果であり、地方自治体においては、 新規事業創設などの企画もあれば、課税・徴収業務などの定型業務もあり多岐に渡っている。 本稿では、下記に述べる様々な課題を解決しながら成果を得るために、実践して行くべきプロジェクトマネジメントを研究対象としている。 1 地方自治体の業務遂行における人手不足にかかる課題 近年、地域住民のライフスタイルの多様化や国や都道府県からの業務の権限移譲、加えて、官民連携や地域活性化などの推進に至るまで、過去にはあまり求められなかった範囲にまで地方自治体(本研究では主に市町村)の業務が拡大されている。パソコンや情報システムなどの普及により、データ処理を伴う業務などについては効率化が図られてきたことを加味しても、現状としては人手不足となっている。蜂屋(2021) は、地方公務員の数的充足度について、地方公務員一人当たり人口、地方公務員一人当たり実質歳出額、給与月額に対する時間外勤務手当の比率の 3 つの指標について1994年以降のデータを経年的に比較している。その中では、2010年代には、自然災害が各地で相次いだことに加え、高齢化等に伴う給付対象者の増加や子供・子育て対策の充実などにより、社会保障分野を中心に地方自治体の担う業務量が、人口減少のトレ ンドとは逆に、次第に多くなってきている可能性があり、人的不足感が高まりつつあると指摘している。また、総務省の「地方公務員の退職状況等調査」によると、一般行政職30歳未満の離職者は、2013年に1,564人であったものが、 2022年には4,244人まで増加している。これは 9 年間で2.7倍に増加したことを示しており、このようなトレンドは、将来的な人手不足にも 影響することが推察される。 さらに、首都圏を除く、ほとんどの地方自治体では、人口減少に直面しており、その結果として税収の減少やそれに合わせた職員数の抑制を定数管理の適正化という名目で取り組んでおり、実質的により少ない職員数での業務対応が求められている。 合わせて認識しておくべきこととしては、職員数を減らし業務量を増やすことで、メリットとデメリットの両方の影響があるということである。田中(2010)は、自治体の歳出において職員の人件費は 3 割近くと多くの比重を占めており、しかも人件費は固定費であることから、収支構造を改善するためには定員を縮減することが効果的であると述べている。また、その影響として石川(2021)によると、地方自治体の職員の人手不足と業務量の増加は、内部統制の脆弱化を招く事象の 1 つであるとされており、業務の引継にかかるリスクを顕在化していることが指摘されている。 2 地方自治体の業務遂行にあたっての人手不足への対策 このような人手不足への対策としては、「必要十分な人員確保」と「組織全体の業務処理能力の向上」と「アウトソーシングの活用」の 3 つの視点の対策があると考えられる。 必要十分な人員確保としては、昨今の職員数の定員管理の適正化の動きを考慮すると新しく雇用するよりも職員の退職を減らす方が理にかなっていると考える。退職理由と関係性が強いデータとして長期病休者数がある。一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会の令和 6 年度「地方公務員健康状況等の現況の概要」によると、長期病休者の中で突出して多いのは「精神及び行動の障害」であり、平成25年度に1,219.3人/10万人であったものが、10年後の令和 5 年度には、2,286.4人/10万人と1.9倍の増加であった。その背景には、役所に対する迷惑行為や悪質クレームなどのカスタマーハラスメントがある。若い職員がこのような状況に長期間にわたって晒され、上司や同僚などが良く把握をせずケアをされないことは、退職理由の主要因の 1 つとなっていることが推察される。 続いて、組織全体の業務処理能力の向上については、多くの営利組織では働きに応じた給与体系や評価の仕組みが確立されており、働きによっては容易に給与を増減されたり昇進や降格・ 退職に追い込まれることがあり、ほとんどの社員がしっかりとした戦力となっており、組織全体の業務処理能力を最大化している。しかしながら、地方自治体では、そのような給与体系や評価の仕組みや勤務実態を可視化する手段はなく、働きが悪くても減給や退職にならずに、職場に残り続けることもできる。その結果として、良く働く職員への負荷が重くなっており、組織全体のパフォーマンスの低下の 1 つの要因にもなっている。地方自治体において、組織全体の業務処理能力の向上を図るためには、一定のレベルで 1 人あたりの仕事量の平準化をしながらパフォーマンスを向上させることが望まれる。 最後に、アウトソーシングの活用は、人手不足には役立つ可能性が高いが、そのためのコストが予算増へ直結しており、むやみにアウトソーシングを増やすことは財政悪化に直結する。アウトソーシングを進めるにあたっても、より効果的な業務に絞ってアウトソーシングを活用する必要があるが、そもそもどの業務を対象にするべきか判断するための材料(データなど)がなく、結果としてアウトソーシングの活用に踏み切れていないケースも少なくない。 3 人手不足の対策として工数管理手法を選んだ理由 上記に示したカスタマーハラスメントによるメンタル病休の回避、 1 人あたりの仕事量の平準化をしながらパフォーマンスを向上させること、アウトソーシングを活用するべき業務の選定などを進める必要があるが、そのためには業務実態を定量的に把握する必要がある。また、把握した結果を分析しタイムリーに適切な対策を講じるマネジメントが重要であると考える。そのための技法としては、プロジェクトマネジメントの知識体系として世界的に普及・確立しているPMBOK(Project Management Body of Knowledge)の管理手法を活用できると考えている。 PMBOKは、1987年にアメリカの非営利団体PMI (Project Management Institute)がガイドラインを発表したプロジェクトマネジメントに関するノウハウや手法を体系立ててまとめたものであり、実施管理を組織横断的に行うことによって業務実施の全体最適化を推進することができることから、現在ではプロジェクトマネジメント手法の世界標準となっている。PMBOKの中でもプロジェクト管理手法の 1 つである工数管理は、業務実施状況の全体が可視化できるため、マネジメントを行う上での有効な手法となる。職員個人が工数入力を行うため、その手間や正確性などの問題もあるものの、長年、多くの民間企業にて実践されており、地方自治体においても同様の成果をもたらすものと考えている。工数管理の実施にて期待される主な効果は以下の通りである。 【一般的な工数管理へ期待される効果】 ① 適正な組織内リソースの配置・組織体制の構築 ② 業務進捗の把握 ③ 業務上のボトルネックの把握 ④ 業務改善効果の測定 ⑤ 外部リソース活用を判断するための情報取得 ⑥ コストの把握とその意識向上 工数管理は、業務推進状況の可視化を通して業務改善策を講じる手法であり、期待される効果についても比較的理解がしやすく、頻出する課題へ対応できる。落(2010)は、大学の技術センターにおいて、工数管理を用いて業務内容の整理と工数分析を行い、負荷分散・支援展開に関する業務課題などを把握し、解決のための方針決定に用いている。また、工数管理は、製造業などの業務プロセスが決まっている業種で活用されることが多いが、行政業務は、業務プロセスが確立されているものが多く、そのため十分に活用できると考えている。 一方で、地方自治体においては、勤怠管理はされているものの、工数管理まではほとんどされていない。自治体向けの人事管理パッケージシステムにおいても、工数管理の機能を実装したものはあまり見かけない。地方自治体において、工数管理が普及していない理由を、以下のように推察する。 【地方自治体において工数管理が普及していない理由】 ① 地方自治体の業務は公務であり、採算性に関わらず実施しなければならないものも あり、コスト改善につなげにくい。 ② 人事異動が短期間に行われるため、業務に熟達し、業務改善を行うまでに至らない。 ③ マネジメントの概念や手法が自治体運営の中で定着していない。 まず、採算性にかかわらず実施しなければならない公務とは、災害対応や住民生活の中で、決して止めることができない福祉や環境に関する業務などがある。いくら担当業務が多忙であっても災害時の避難所の設営や給水などは必須の対応である。そこに採算性の概念はあまりない。また、人事異動が短期間に行われることは、職員の経験を豊かにするが、その一方で業務実施が熟達する前に、次の部署へ移動してしまうことが多いため、業務改善にまで至りにくい。そのため、業務を可視化しても解決する方法を確立することが容易ではないことから、これまでほとんど取り組まれて来なかったのではないかと推察する。 しかしながら、地方自治体が置かれている環境は厳しく、少ない人数で多くの仕事をこなさなければならない状況に迫られており、この難問を乗り越えるには、工数管理の手法を用いて状況を把握し、できる範囲で適切な解決方法を取るという行為を積み重ねていくことが重要であると考えている。 本研究では、工数管理を試行した地方自治体において、実施準備から実施開始をした初年度までの取組を対象に、その成果及び直面した課題などについて分析をする。 Ⅱ 研究の対象と方法 1 地方自治体の業務における主な課題 地方自治体の業務における一般的な課題は以下の通りである。これらの課題は、地方自治体が本取組を着手するきっかけとなった。 ⑴ 業務多様化と職員数抑制 地域住民のライフスタイルの多様化や国や都道府県からの権限移譲、加えて、地域活性化などの新しい課題にまで業務範囲が拡大されており、その一方で、人口減少に合わせた職員数の抑制などの対応が求められている。 ⑵ 業務負荷の適性分散 少ない人数で多様な業務に取り組むため、職員が個人単位で担当する業務も多く、業務負荷の状態が把握しにくくなっている。また、季節性の業務も多く、特定の期間に特定の職員に負荷が集中していることもあり、職員の健康への影響も懸念される。 ⑶ 管理者の役割 地方自治体の部長や課長などの管理者は、業務遂行においては責任者と位置付けられているが、組織も含めて全体を管理調整する「マネジメント」について、その役割が明確にされていないことが多い。 ⑷ 個人適性の多様性 職員個人によって、得意な分野や業務が異なる。地方自治体の場合、人事異動が頻繁にあり、個人の適性に合っていない分野や業務を担当することもある。その場合は、そのことを早期に把握できれば、分担の見直しや周りのサポートで改善できる可能性がある。 ⑸ クレーマー対応 近年、深刻な問題となっているのは、クレーマーへの対応である。多少のクレームは、どの職場でも発生しており、許容することも必要であるが、特に理不尽な要求をする「ハードクレーマー」などは、対応する職員に多大な心理的負荷をかけてしまうため、対策を講じる必要がある。 2 工数管理へ期待する効果 今回、対象の地方自治体が工数管理を実施することになった理由は、前述した一般的な業務の課題がある中、個人への業務負担を軽減し、より効率的に業務が進められるような効果を得るためである(図表 1 )。 この中でも、業務負担の平準化、過重労働検知、職員配置の最適化は、少ない職員数で多くの業務に対応するためには、必要不可欠であり、大きな期待が寄せられている。 図表 1 工数管理に期待する効果 出所:筆者作成 3 研究方法 ⑴ 研究対象 工数管理の取組を実施したA市は、人口 3 万人弱で職員数300人弱の地方都市である。人口減少が続いている中で行財政改革の一環として、工数管理に取り組んだ。本取組は、2020年度より、総務部門が中心となり、全職員を対象として試行的に実施している。なお、地方自治体名を公開しないことを前提に、研究協力をいただいていることをご理解いただきたい。 ⑵ 実施手法 ① 入力様式 実施に当たっては、まず入力様式となるエクセルの専用様式(以下、専用様式)を作成した( 図表 2 )。専用様式は、年間カレンダー(列)と業務(行)が設定された職員毎のシートで構成されており、係ごとに 1 ファイルとした。業務(行) は、業務分掌表に記載された業務を大項目として設定し、その中の詳細な業務を小項目として設定した。加えて、自己学習や研修など、業務分掌にない項目を全庁の共通項目として選択できるように設定した。 また、初年度の取組であるため、過年度データはなかったものの、参考までに、年度当初の時点での年間の予定工数も入力し、参考値とした。 ② 工数入力〜確認〜フィードバックの流れ 職員は、毎日または週に 1 回程度、担当業務や共通事項(自己学習や勤務登録など業務分掌以外の仕事)について、実際に費やした時間を 1 時間単位で入力する。入力した情報は、係ごと(エクセル 1 ファイル)に集約され、各課内の全ての係ファイルは、課長の元に集約される。課長は、その内容を月次で確認し、状況の把握や対策の実施を行う。課内の全ての係ファイルと講じたアクションを取りまとめたレポートを総務部門に提出する。総務部門は、それらを確認し、必要に応じて個別に内容照会を行う。また、毎月開催されている全庁の管理者会議にて、状況を共有する( 図表 3 )。 図表 2 入力様式 出所:A市資料に基づき筆者作成 図表 3 工数入力〜確認〜フィードバックの流れ 出所:A市資料に基づき筆者作成 Ⅲ 成果と課題の分析 1 初年度実施により得られた成果 開始初年度末に 1 年間の取組を振り返るために、各部署の管理者にアンケート調査を実施した。その結果をまとめた初年度の成果は次の通りである。なお、これらの成果は、アンケートに記されていた内容から抽出しており、すべてが全員一致の回答をしたものではない。 【初年度の成果】 ① 組織全体として、業務負荷の集中・分散状況が可視化できるようになった。 ② 残業によって負荷がかかっている職員を察知することができるようになった。 ③ 効率化、アウトソーシングするべき業務が推察できるようになった。 ④ クレーム対応によって時間的負荷がかかっている職員を察知することができるようになった。 ⑤ 職員の共通事項(自己学習や勤務登録など業務分掌以外の仕事)に関する時間の使い方の概観がわかるようになった。 ⑥ 職員が時間を意識して仕事に従事するようになった。 初年度ということで、まだ工数入力作業に慣れていない職員もおり、精度においては向上の余地が多分にあるが、概観として工数分布が掴めるようになった。初年度の最も大きな成果としては、業務と工数分布の状況が個人単位及び組織全体で可視化することができるようになったことである。この結果として、これまで感覚的にこの業務に負荷がかかっているのではないかと感じていたものが可視化され、定量的に示されることになった。また、これまで業務に負荷がかかっていると感じていなかったにもかかわらず、工数を費やしている業務を見つけることができた。このような業務については、管理者と担当者がその状況について状況確認をすることにより、コミュニケーションを取るきっかけとなった。また、負荷の高い業務については、アウトソーシングを選択肢に含めた業務効率化を検討するべき業務として、当たりをつけることができるようになった。 また、本取組において重要視されている「職員を守る」という点においては、負荷検知として活用することで、担当者個人と業務を特定することができることから、人員管理において十分に役立つことが実感できた。特に、クレーマー対応に長時間を費やしているケースを見つけることができるため、早めの対応が可能となった。 今年度の成果としては表れていないが、次年度以降も継続実施することで、成果が期待できる事項としては、以下の通りである。 【次年度以降に期待される成果】 ① 同じ係で年度間の工数比較をすることで、生産性に関する検証を行うことができる。 ② 業務負荷がピークの際に、どの係に人員協力を依頼するべきなのか、目安をつける ことができるようになる。 ③ 次年度の業務スケジュール(負荷とそのタイミング)が分かるようになる 初年度の工数管理データは、当該年度の特殊事情なども一部反映されており、傾向は示しているものの標準値を示しているものとは言い切れない。数年度に渡って継続することで、標準値を知ることができ、信頼できるデータとして活用することができる。信頼できる工数管理データとなれば、生産性の検証や業務負荷やそ のピークの予知と対策に役立てることができる。 2 初年度実施により判明した課題 「 1 .初年度実施により得られた成果」と同じアンケート調査において、抽出した初年度の課題は次の通りである。 【初年度の課題】 ① 初年度の取組ということもあり、工数の入力の精度が高くない職員がいる。 ② 工数管理の入力は個別に個票管理されているため、兼務の場合の時間把握方法の正 確性が担保されていない。 ③ 「その他」など汎用性のある項目に計上された工数の内容が不明である。 ④ 工数入力の手間が職員の負担となっている。 ⑤ 業務単位となると広範となり費やした工数が却ってわかりにくいため、より詳細で ある事務単位で工数を付けることができた方が良い。(どの業務として入力するべきかわ かりにくい) 初年度の取組につき、工数入力に慣れていない職員がいることは前述したが、仕組みとしての課題も明らかとなった。まず、ひとつは、兼務をしている職員については、全ての業務を積み上げて検証できる仕組みがない。個別に実施することは可能であるが、手作業となり、仕組みとして備わっていない。調査時では、兼務はあまり多くはないが、今後、兼務が増えた場合は検証方法の確立が必要となる。二つ目は、共通項目として「その他」という項目があるが、この内容が今回の工数管理の仕組みでは把握することができない。「その他」を無くせば良いとの意見もあったが、結局、個人の解釈によって違う項目として入力されてしまうため、根本的な解決策にはならない。「その他」の工数割合が顕著となった場合、その内容を調査し、新しい項目を設定する必要がある。 この他に、使った時間によっては、どの業務として入力するべきかわかりにくいとの声が あった。その解決策として、本取組で工数を付ける単位となっている業務の粒度をもっと詳細にする方が却って正確に入力しやすいなどの意見もあり、今後の検討が必要であることが明らかとなった。 Ⅳ ディスカッション 全職員を対象とした工数管理の取組は、多くの職員の工数入力という多大な作業の上に成り立つものであり、職員の理解と見返りとなる相応の効果が期待される。また、入力した工数管理データをチェックする管理者の負荷も大きく、管理者自身の業務内容を再整理して、日常業務に取り込む必要がある。 今回、工数管理を試行的に実施した結果、個人、部署、組織全体の 3 つのレベルでそれぞれ成果がみられた。個人レベルでは、自分の工数を見返して自分の働き方を振り返ることができるようになった。その振り返りにより、時間の費やし方について自ら改善したり、同僚や上席者に改善方法の相談や支援を迷わずに問いかけたりすることで、過負担のない日常業務に近づけることができる。また、部署レベルでは、管理者が月次で部署内の職員の工数入力状況を把握することで、困っていることや過負担がないか、直接当人に問いかけることができるようになった。そのような対応により、業務課題や特定職員への過負担について、早期に対処を開始することができる。さらに、組織全体レベルとしては、働き方改革や人事異動などにおいて、現場の課題や工数のトレンドを見ることができるようになった。その情報を活用すれば、業務や組織の全体最適化を目指すことができる。これを実現することは容易なことではないが、可視化することで実施可能なことから改善に取り組むことができる。 工数管理データは、業務の状況把握及び職員の動きなどが可視化されるため、業務と組織をマネジメントするという視点(プロジェクトマネジメントの視点)から、かなり有効なツールとなる。マネジメントを実践する役割を担う者が、工数管理データを見ながら業務進捗と組織の活動状況を把握することで、必要不可欠なマネジメントの判断をタイムリーに実施することができるため、結果として冒頭で提起した「必要十分な人員確保」と「組織全体の業務処理能力の向上」と「アウトソーシングの活用」を推進することができる。 ただ、もし、当該組織にマネジメントが存在しなかったり、マネジメントのツールとして活用されないならば、単なる負担となってしまう。そのため、どのようなマネジメントでどのような課題を解決していくのかについて、しっかり定義した上で工数管理へ取り組むことが重要で あると考えられた。 Ⅴ おわりに 本研究の題材では、業務と工数と職員の関係性から課題を可視化するための工数管理に取り組んだが、地方自治体の課題はそれだけにとどまらない。浦田(2022)によると、多くの自治体職員は所属部署が 2 、 3 年で異動になることが多く、引継ぎ書など書面のみの場合もあり、対面での引継ぎ時間は少ない。また、体系的な仕事の進め方の学びの場もほとんどない状況であるとの記述にもある通り、十分なノウハウがない中でまさに「走りながら学ぶ」という面も多い。そのような状況では、最適な工数の使い方に至ることはかなり難しく、根本的な改革の必要がある。 工数管理は、それ単体だけでどんな課題も解決できる万能の手法ではなく、課題に応じて、その他の業務改善手法と組み合わせて実施することが効果的である。例えば、業務や組織体制や担当者の決裁範囲を根本的に見直すBPR(Business Process Re-engineering)、窓口業務や事務処理を外部に委託するBPO(Business Process Outsourcing)、定型業務をソフトウェアに自動的に処理をさせるRPA(Robotic Process Automation)をはじめとし、情報化・クラウド、官民連携など業務改善に繋がる様々な取組があり、それらと結び付けて実施することが肝要である。 また、中山(2019)が地方自治体としてRPAに取り組んでおり、その中で業務範囲を限定してスモールスタートを原則にトライアル・アンド・エラー(試行錯誤)で推進することを推奨している。今回は最初から全職員を対象としたが、部署ごとにスモールスタートで着手し改善していくような推進方法も有効であると考えている。 前述した工数管理や業務改善を段階的に実施したり、それらを組み合わせたりすることで、業務実施の個別最適化と全体最適化を合わせて推進することができると考えている。このような取組が地方自治体におけるマネジメントを確立させると考えており、引き続き研究を続けて行きたい。 [参考文献] 有馬昌宏ほか[2016]「自治体のBPRへの取組の現状と課題」、『経営情報学会全国研究発表大会要旨集 2016年秋季全国研究発表大会』、 369-372頁、一般社団法人 経営情報学会。 石井信明[2016]「サービス業務の動的スケジューリング問題」、『神奈川大学工学研究所 所報第39号』、 9 -14頁。 石川恵子[2021]「地方自治体の内部統制の現状と課題―パブリック・ガバナンスの充実強化に向けて―」、『非営利法人研究学会誌 VOL.23』。 稲継裕昭[2024]「(コラム・論説)地方自治体の担い手不足―若者の公務員離れ」、全国町村会HP。 一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会、「令 和 6 年地方公務員健康状況等の現況の概要 (令和 5 年度の状況)」。 浦田有佳里[2023]「自治体職員の働き方とプロジェクトマネジメントの適用―プロジェクト・プログラム・ポートフォリオマネジメン トによる事業遂行」、『プロジェクトマネジメント研究報告 3 巻 1 号』、46-50頁。 浦田有佳里[2022]「自治体におけるプロジェクトマネジメントの適用と課題―行政職員の業務とマネジメント―」、『プロジェクトマネジメント研究報告 2 巻 1 号』、 7 -11頁。 落祥弘[2010]「業務概要と工数管理」、『広島大学技術センター報告集=Hiroshima University Technical Center annual report, 第 7 号』、43-46頁。 佐藤厚[2005]「経営組織の変化と業績管理・人事管理~電機メーカーの事例」、(Doctoral dissertation, Doshisha University)。 総務省[2023]「地方公務員の退職状況等調査」。 田中啓[2010]「日本の自治体の行政改革、自治体国際化協会・政策研究大学院大学、分野別自治制度及びその運用に関する説明資料 No.18」。 田村隆善[2008]「工場管理におけるサービス業務とその見える化に関する一考察」、『日本経営診断学会論集』、 8 、32-38頁。 永松陽明ほか[2011]「業務プロセスのベストプラクティス表現方法立案とライブラリ構 築」、『一般社団法人プロジェクトマネジメン ト学会誌13巻 1 号』。 中山健太[2019]「 RPAを活用した業務改革」、『国際文化研修』全国市町村国際文化研修所編、27⑴、18-21頁。 蜂屋勝弘[2021]「地方公務員は足りているか─地方自治体の人手不足の現状把握と課題─」、 『Japan Research Institute review 2021 Vol.4、No.88』。 広兼修[2010]『新版プロジェクトマネジメン ト標準PMBOK入門』、株式会社 オーム社。 広兼修[2022]『プロジェクトマネジメント標準PMBOK入門―PMBOK第 7 版対応版』、株式 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- ≪査読付研究ノート≫非営利研究組織の社会的価値向上について―(一財)日本自動車研究所の取り組みを事例にして―
PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 (公社)非営利法人研究学会理事 半田 茂 キーワード: 非営利研究組織 社会的価値 共益と公益の分別 社会的な信頼性 確実な資金回収 新技術の社会受容性の向上 要 旨: (一財)日本自動車研究所の経験を踏まえて、非営利研究組織のもたらす社会的価値の検証を試みた。研究活動事業を「基礎研究・技術開発期」「社会ルールとのかかわり期」「新技術の社会受容性の向上期」に分けると、すべての期で代表的な研究活動事業は社会的価値を生みだしている。持続的な社会的価値の供給を実現する要件は、非営利研究組織の「社会的な信頼性」と「確実な資金回収」である。資金回収の成功事例と不成功事例を分析した結果、要因として、非営利研究組織内部の認識不足、ステークホルダーの理解不足、回収に有効な地域社会への情報提供が挙げられる。将来に向けて「新技術の社会受容性の向上期」における非営利研究組織の潜在力を生かす施策が望まれる。 構 成: Ⅰ はじめに Ⅱ 非営利研究組織のもたらす社会的価値 Ⅲ 持続的な社会的価値の供給 Ⅳ まとめ Abstract Drawing from my experience with the Japan Automobile Research Institute, this paper explores the social value created by non-profit research organizations. Research activities are divided into three stages: “Basic Research and Technology Development,” “Engagement with Social Rules,” and “Enhancement of Social Acceptance of New Technologies.” In each stage, key research activities demonstrated the generation of social value. This paper highlights the need for “social credibility” and “reliable fund recovery” to ensure the sustainable delivery of social value. Analyzing three cases of fund recovery, this paper identifies a lack of awareness within internal organizations, lack of stakeholder understanding, and the importance of providing useful information to the community. Finally, the paper discusses the importance of leveraging the potential of non-profit research organizations in the “Enhancement of Social Acceptance of New Technologies” stage. ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ はじめに (一財)日本自動車研究所(Japan Automotive Research Institute略称JARI)は日本の自動車業界が1969年に設立した自動車技術の総合研究所である。 筆者は2012年から2020年まで代表理事・専務理事として、「非営利性の徹底した一般財団」への移行(2012年 4 月)及びその後の経営安定化 1) に取り組んだ。 その過程でJARIの生み出す社会的価値 2) に「共益」と「公益」が混在することに気づいた。JARI組織内部及びステークホルダーを含めて、共益と公益を明確に分別し、それぞれの性格に適した経営を行えば、社会的価値の持続的供給が実現できるのではないか、という問題意識を持った。筆者は問題意識の整理と解明に取り組み、研究成果を中間報告として2024年10月に非営利法人研究学会の全国大会にて発表した。この小論は発表内容をベースに、非営利研究組織の生み出す社会的価値を「共益」と「公益」に分別し、その「持続的な供給」について考察したものである。 Ⅱ 非営利研究組織のもたらす社会的価値 1 (一財)日本自動車研究所の取り組み ⑴ 歴史から見た社会的価値とのかかわり JARIの原点は1961年に自動車業界が設立した高速周回路(当時茨城県矢田部)である。1969年に技術研究の強化を目指して「財団法人日本自動車研究所」へ改組された。 1970~80年代にはモータリゼーションに伴う社会課題が発生した。その解決に取り組む過程で、主たる研究領域は自動車技術規制に関連の強い「安全」や「エネルギー(排出物質を含む)」等に収斂された。本来の自動車技術の研究開発に加えて、この分野の基準化や国際的な「基準調和」、「標準化」が主要な事業となった。 2000年代には高速周回路等設備の移転や2012 年の「非営利性の徹底した一般財団」への移行を経て、研究領域は「地球温暖化対応」と「自動運転」が加わり、現在に至っている。 ⑵ 社会的価値との関連で見られる特徴 非営利研究組織としての性格は、その歴史から読み取れるように、日本自動車産業の「共益」を担う研究組織であった。設立時、欧米の技術へのキャッチアップを目的としていた。 次に、自動車という耐久消費財の性格(利便性、危険性、化石エネルギ―依存)を反映して安全・排出物質・燃費等の測定やデータの収集・解析等に強みを発揮し、新技術の研究開発、各種基準化、基準調和、標準化等の取り組みにおいて「共通基盤」を提供している。 ⑶ 自動車技術の共通基盤 2020年時点で職員数は400人程度(研究職140 人、設備機器を扱う技術職150人)、安全・エネルギー等の領域の高い専門知識を有し、計測手法の開発からデータの取得・蓄積・分析、産業横断的な調整、公的資金の獲得、公的プロジェクトの複雑な手続き対応をこなす。研究職・技術職ともに人材育成には長期間を要する。 活動規模は収益100億円程度、その内訳は試験・研究受託 9 割弱(自動車工業会等 3 割弱、官公庁 3 割、一般受託 3 割)、高速周回路の貸出 1 割強、寄付金ゼロである。 ⑷ 社会的価値への取り組み 主要な活動の柱である衝突安全・予防安全等の「安全性」向上、並びに排出物質・燃費の測定・分析等の「地球温暖化対応」はともに地域社会・不特定多数に向けた「公益」を内在している。共通基盤としての活動は「共益」目的である。 他方、「公益法人認定法」の公益目的事業と認める23業種の中ではJARIは「学術・科学技 術振興」に該当している。この点は「公益性」を裏付けている 3) 。 2 非営利研究組織の社会的価値活動への取り組み ⑴ 研究開発事業と社会的価値 非営利研究組織の主な事業は「研究開発」である。研究開発事業を社会的価値との関連で捉えると研究開発活動のサイクルはほぼ 3 期に分けることができる。新知識習得の「基礎研究」から新技術を開発する「研究開発プロジェクト」までを「基礎研究・技術開発期」、特許等の「知的財産化」から「基準化・標準化」に至るまでを「社会ルールとのかかわり期」、「市場監視」「技術改良」から「社会定着」に至るまでを「新技術の社会受容性の向上期」と便宜的に位置付ける。 各期における代表的な事業活動の社会的価値について検証した。その結果は、非営利研究組織は、法的形態・規模・資金力・産業・事業サイクル等に差異はあるが、概して社会的価値を生みだしている 4) 。以下は各期の代表的な事業活動と社会的価値の特徴である。 ⑵ 基礎研究・技術開発期の社会的価値 この期の代表的な活動は、「新技術の研究開発マネジメント」である。新しい経済価値を生み出す本源的な活動であるため「共益的」である。地球温暖化対応等の公益的色彩の強いプロジェクトであっても、ボトムラインは共益の範疇にある。 専門性が高く競合的であるが、その成果の拡散という点で長期的に「排除不可能性」を持ち、「準公共財」と位置付けられる。公益目的事業の中では「学術・科学技術振興」に相当しており、総体として共益と公益の双方を包含している。 研究開発プロジェクトは昨今巨大化・複雑化している。過大な開発負担のリスク回避、産業を超える技術協力、国際的な技術開発競争の激化等の事情により、公的資金の投入も頻繁である。そのため共通基盤として総合的なマネジメントが期待されている。新技術開発の初期段階から非技術的な分野の知見、社会のニーズや価値を探る双方向的な態度 5) にとどまらない。従来型のプロジェクト管理から社会とのかかわりを深め、新技術の社会定着を視野に入れた長期的・包括的な取り組みである。 ⑶ 社会ルールとのかかわり期の社会的価値 6) この期の代表的な活動である「知的財産」は私益や共益の色彩が強い。「標準化」は産業内の投資効率化やルール化による優位性の追求を狙うため本来「共益」である。他方「基準化」は規制レベルの具体的な調整なので「公益」の範疇と考えられる。 基準化や標準化は高い専門性により競合的であるが、長期的には成果が拡散して「排除不可能性」を持つため「準公共財」である。公益目的事業の「公正自由な経済活動」「一般消費者の利益擁護・増進」「事故・災害の防止」に相当し、持続的な活動は必須である。 昨今、ルールづくりの段階から地域社会の安全性に絡む案件が増え、持続的な監視・技術改良に至るきめ細かな改善活動を包含する傾向が強い。地域社会や不特定多数の利益を意識しており、そこに「公益性」を認めることができる。 自動車に限らず利便性の高いグローバル製品であるなら、「安全性」と「地球環境保全」の領域で各国の代表が集まって、基準や規格の共通化を活発に進めている。グローバルなルール整備は「重複投資の回避」や「技術移転の促進」といった効果をもたらすので、産官学の連携による「国益」追求と見なすこともできる 7) 。 ⑷ 新技術の社会受容性の向上期 「新技術の社会受容性の向上」とは、新しい技術が市民社会に認められ地域社会に定着して「頑強な知識」 8) となることと定義される。この時期の代表的な「認証」や関連した評価試験等は、市場に新技術が製品として流通する過程で、市場監視を通じて技術改良を積み重ね、市民生活に根付かせる長期的な活動である。 認証や関連の評価試験等は地域社会や消費者への貢献を目的としていることから「純粋公共財」である。公益目的事業の中で「公正自由な経済活動」「一般消費者の利益擁護・増進」「地域社会の健全な発展」等に属している。新技術の普及とともに地域社会や不特定多数への関与が大きくなると「公益性」はさらに増大する。他方、地域社会や不特定多数への関与が大きくなる分、資金回収の課題が増えてくる。 図表 1 参照。 図表 1 非営利研究組織の社会的価値活動の検証結果 出所:筆者作成 Ⅲ 持続的な社会的価値の供給 1 重要性を増す持続的な取り組み 新技術が「社会的に頑強な知識」を目指すうえで、制定したルールをいつでも見直せる柔軟な制度の構築が必要である。「新技術の社会受容性の向上期」において、中立・公正な第三者が監視・警告、必要に応じての排除、技術改良の繰り返しという地道な活動を継続して、初めて制度の柔軟な見直しが可能になるはずである。 こうした第三者としての持続的な社会的価値活動を実現する要件は、「社会的信頼性の確立」と「確実な資金回収」である。どちらが欠けても社会的価値の持続的な供給を担保することはできない。 2 持続性を支える必要十分条件 ⑴ 社会的信頼性の確立 持続的な社会的価値の供給を実現する一つ目の条件は「社会的信頼性」である。この小論では、社会的信頼性は日常の活動を通じてステークホルダーや地域社会から信頼に足る(trustworthy)と認められることを指す。周囲から信頼を得ているからこそ社会的価値を提供できる。非営利研究組織の社会的信頼性とは、研究組織の提供するデータが適切な科学的手法で収集・分析されており、有用であるとして地域社会が積極的に活用する状況と言い換えることができる 9) 。 さらにそうした社会的信頼性を一歩進めて、社会的利害から中立で、客観的なデータの提供を通じて社会的公正の実現に寄与する役割を見出すことができる 10) 。 ⑵ 確実な資金回収 持続的な社会的価値の供給を実現する二つ目の条件は確実な「資金回収」である。非営利研究組織の事業活動の主軸は、科学的な新知識の実用化(新技術)を目指した研究開発である。投下資金の回収は、企業ならば新製品の生産・販売であり、非営利研究組織の場合は新技術の開発から製品化に至る「研究開発受託」や安全性や性能測定の「試験受託」によって行われる。 社会的価値に関わるコストは上記の「研究開発受託」や「試験受託」を通して回収されるのだが、実際にはすべての資金回収が滞りなく進むわけではない。資金回収に明暗の出た典型的な 3 事例を紹介する。 ① 「自動隊列運転」と予防安全ブレーキの性能評価 2007年経済産業省の「次世代自動車・燃料イニシアティブ」を受けて、JARIは2008年に NEDO「エネルギーITS推進事業 11) 」を受託した。トラック 4 台による時速80km、車間距離4 mの「自動運転隊列走行」を実現して、自動運転技術の可能性を示し、現在に至る自動運転技術の開発に先鞭をつけた。 自動運転隊列走行で得られた成果の一部は、「自動車事故対策機構(NASVA)」から受託した「予防安全ブレーキの性能評価試験」に活用されている。その評価結果は「自動車アセスメント」 12) として公表されているので、消費者(市民)は安全評価結果から自動車各社の提供する予防安全ブレーキの性能を知り、それを消費行動に反映することができる。製品の安全性の監視と技術改良に寄与するだけでなく、試験受託という形で資金回収され、持続的な活動につながっている。 ② 脱炭素・水素社会の構築を目指した事業 13) と車載水素タンクの規格 1999年の「ミレニアムプロジェクト」を受けて、2000年にNEDO委託による「車両搭載燃料電池の安全性・信頼性の評価手法の開発」に取り組み、成果は水素燃料の「燃費試験法」や車両搭載水素タンク等の「国際規格」として発行した。開発には巨大な設備が必要となり、「水素・燃料電池自動車の安全評価試験設備(HySEF: Hydrogen and Fuel Cell Vehicle Safety Evaluation Facilities)」を建設した。 成果は現在に至る水素技術の研究開発に活用されている。資金回収という点では、巨大な償却負担とランニングコストを賄うだけの受託試験・研究にはならず、市場監視に至らなかった。後続の小規模製品用の試験評価施設との競合も痛手となった。 ③ 電動車両用普通充電器の認証 14) JARIの認証センターが2012年から普及途上にある電動車両用普通充電器の「製品認証」を開始した。それに対応して、安全性・互換性の検証を目的として、規格の制定から試験機器の設計・製造を行い、スキームオーナーとして市場の監視、規格を満たさない製品への警告・排除、技術改良の提言等を狙って課金システムを導入したが、一部を除いて機能しなかった。 ⑶ 資金回収を左右する要因 上記 3 事例とも本質的に同じ「安全性」という社会的価値を提供していたのであるが、資金回収に大きな差異が生じた。その要因を整理すると以下の通りである。 第一に組織内部のコスト認識がある。初期投資の償却負担、ランニングコスト、長期の市場監視費用等、コスト意識の欠如が挙げられる。持続的供給に必要な資金回収の意識が薄く、適切なビジネススキームを検討しなかった。 第二にステークホルダー側の認識不足が挙げられる。非営利研究組織がコスト回収に適切なスキームを開発しても、対価を支払う側の十分な理解を得られずに、不十分な対価にとどまるケースである。その背景には計測の難しい社会的価値の積上げ額と世間相場とのギャップという現実問題が存在する。 最後に「監視の有効性」が挙げられる。通常、市場監視の有効性は監視役である第三者(この場合は非営利研究組織)の社会的な位置づけ(正統性)に依存し、罰則や市場からの排除といった「強制力」であると考えられる 15) 。 しかし「強制力」という点で、予防安全ブレーキの「アセスメント」、水素の「国際規格」、車載充電器の「製品認証」の三者に大きな違いはない。 市場や地域社会との係りにおいて、この 3 事例は「社会的信頼性」という点で同等であり、情報の市場や地域社会への提供という点で大きな差異があった。国際規格や製品認証が事業者を対象にした情報提供であるのに対して、「アセスメント」は一般消費者や市民社会に向けて評価結果が継続的かつ分かりやすく提供されている(非営利研究組織自体である必要はない)点が挙げられる。 Ⅳ まとめ 1 持続的な社会的価値を実現するために 当初の問題意識は「非営利研究組織は社会的価値に対して認識不足ではないか」であった。日常の事業活動から社会的価値の洗い出しを行った。検証手法として①「公共財」であるか否か、②「供給の持続性」の有無、③「共益」と「公益」との分別、の 3 ステップを試みた。 その結果、研究開発事業の中で多様な社会的価値(とくに公益)を生みだしていることを確認した。とくに「社会とのかかわり期」や「新技術の社会受容性の向上期」における「基準化」・ 「標準化」・「認証」等は地域社会の安全性や「頑強な知識化」に役立っている。また共益活動であっても、地域社会との長期の関わりの中で公益性を増すことを観察した。 次に、社会的価値の「持続性」を実現する要件として①「社会的な信頼性」と②「確実な資金回収」の 2 点を確認した。「社会的な信頼性」とは、非営利研究組織に対する地域社会の信頼感であり、中立・公正な社会インフラとしての非営利組織の役割を意味する。他方、「確実な資金回収」については、典型的な 3 事例から、資金回収を支える鍵として「監視」と「強制力」だけでなく、地域社会・消費者への積極的な「情報発信」が有効だという点も確認できた。 2 新たな課題 非営利組織の本来の役割は、安心と信頼に満ちた社会を実現することである。非営利研究組織は日本の「研究開発」の一端を担う役割を持つ。「共益」の追求だけでなく「公益」への配慮を強く意識する必要がある。 次に、社会的価値の持続的供給を支える「社会的信頼」と「確実な資金回収」という 2 要件の大切さについて、非営利研究組織とステークホルダーは共有しなければならない。 特に持続性の鍵となる「資金回収」は、非営利研究組織自らの「共益」と「公益」との分別、公益部分の測定、地域社会への情報提供等、幅広い取り組みが必須である。 将来的に「新技術の社会受容性の向上期」における非営利研究組織の潜在力をさらに生かす施策の検討は有効であろう。 [注] 1) JARIの正味財産増減計算書に記載される当期経常増減額(特定資産評価損益等を含む)は2011年度△614百万円、2012年度△39百万円、2013年度△363百万円、2017年度14百万円、2018年度△161百万円と赤字分の緩やかな縮小傾向を見せていた。 2) 社会的価値の定義は馬場英朗『非営利組織ソーシャル・アカウンティング』P111「図表6 - 3 社会的価値計算書の構造」を援用している。追加分の社会的価値は同書P113にある⑴会員・顧客への直接的便益、⑵会員・ 顧客への間接的便益、⑶会員・顧客以外の地域社会への便益に分けられる。この小論では、収益の大半を占める研究開発事業を採り上げ、そこに包含される社会的価値について、会員・顧客への直接的便益と間接的便益の合計を「共益」、会員顧客以外の地域社会への便益を「公益」とした。 3) 実際の会計計算は「公益法人会計基準」に定める「公益目的事業」と「収益事業」という分類と完全に一致しているわけではない。 4) 社会的価値の検証 3 ステップとして、第一に通常の事業活動で供給している財・サービスが「公共財」であるか否かを確認する。一般的な定義は「非競合性」「排除不可能性」の 2条件を満たす財を「純粋公共財」、片方を満たす財を「準公共財」としている。いずれかを満たしていれば「準公共財」として、社会的価値をもたらすと判断してよいはずである。 第二に「供給の持続性」の有無の検証である。公益法人 3 法は非営利組織の要件として 「供給の持続性」を強調している。認定法による23業種に相当するか否か、中立・公正で あるか、成果を生みだすための設備・人材・ 資金、採算性・資金の回収程度、を把握する。 第三に「共益」と「公益」を分別する。非営利研究組織の多くが産業の要請で設立され た経緯を持つ。活動の主体は共益目的であり、自ずと共益と公益が混在する。共益との区別という作業を通して不特定多数向けの公益部分を浮き彫りにできれば、その公益部分の負 担についてステークホルダーとの議論の俎上に載せ、さらに地域社会への継続的な情報提 供につなげることができる。 5) 吉川弘之・内藤 耕『「産業科学技術」の哲学』、東京大学出版会、2005年 3 月、P69、P76、P112、P116。技術と社会との相互関係という視点から、ものつくりの新しい研究方法論として「第一種基礎研究」、「第二種基礎研究」、「製品化研究」を提示した。研究プロセスの中心に第二種基礎研究を置いて、経済や経営、法律、文化、芸術、倫理といった非技術的分野の知見、つまり社会のニーズや価値を探る双方向的な態度である。 6) 知的財産・基準化・標準化・認証等の活動について当時ベンチマークしていた「産業技術総合研究所」「電力中央研究所」「鉄道総合研究所」等ではいずれも積極的に実施している(公式ウエブサイト)。 7) 国際交渉の場においては、説得力あるデータの提示が最大の武器になる。科学的な測定手法による客観性・信頼性という面で強い説得力を持つからであり、中立性と信頼性を持つ非営利研究組織の活躍する場である。 8) 藤垣裕子、『専門知と公共性』東京大学出版会、2005年 4 月、P101、P146~147、P212~215。新技術が「社会的に頑強な知識」ではなく「作られつつある科学」に基づいている場合(つまりその信頼性が不確実であるとき)、公共における意思決定は、幅広いステークホルダーの参画のもとで、社会的合理性を優先すべきであり、かつ科学的合理性と社会的合理性の両方を満たす境界線を確保することが担保されなくてはならない……そうして決定した法制度や基準の施行後、いつでも見直しのできる“柔軟な” 仕組みの構築が望ましい……可変的な意思決定システム、設定した基準の柔軟な変更、それに伴う責任境界の再検討などがそれにあたる、としている。 9) 馬場英朗『非営利組織のソーシャル・アカウンティング』、株式会社日本評論社、2013年10月、P113。非営利組織の活動を把握する要件として「社会有用性」、「市民参加性」、「代替不能性」を挙げている。その中で「代替不能性」は「社会的価値」を提供する役割を政府や企業ではなく、一義的に非営利組織が担うことを示唆している。 10) エリノア・オストロム『コモンズのガバナンス』、2022年12月、P106、P117~118。「長期に亘って持続的な共的資源をめぐる制度から導かれる設計原理」の中で、長期にわたって持続的な共的資源において占有者は、 “自律的に”「監視」から「紛争解決メカニズム」までの活動をこなす、としている。 11) 一般財団法人日本自動車研究所『創立50周年 記念誌協創』、2020年 3 月、P59。 12) 独立行政法人自動車事故対策機構(National Agency for Automotive Safety and Victims’ Aid)が実施する自動車の安全性能を衝突安全や予防安全の評価。 13) 一般財団法人日本自動車研究所『創立50周年 記念誌協創』、2020年 3 月、P57。 14) 一般財団法人日本自動車研究所『創立50周年 記念誌協創』、2020年 3 月、P77~78。 15) エリノア・オストロム『コモンズのガバナンス』P106~119によれば、「持続的な共的資源をめぐる制度から導かれる設計原理」の「監視」「段階的な制裁」「紛争解決メカニズム」 の 3 つの原理から、非営利研究組織の「監視役」としての役割を導き出すことができる。 [参考文献] 一般財団法人自動車研究所『創立50周年記念誌 協創』、2020年 3 月。 板垣淳一・佐野博之『コアテキスト公共経済学』、 新世社、2013年 1 月。 宇沢弘文『自動車の社会的費用』、岩波書店、 1974年 8 月。 エリノア・オストロム『コモンズのガバナンス』、 晃洋書房、2022年12月。 桂木隆夫『公共哲学とはなんだろう』、勁草書房、 2006年 3 月。 ジェイン・ジェイコブズ『アメリカ大都市の死と生』、鹿島出版会、2010年 4 月。 (公社)非営利法人研究学会『非営利用語辞典』、 全国公益法人協会、2022年 3 月。 馬場英朗『非営利組織のソーシャル・アカウン ティング』、日本評論社、2013年10月。 藤垣裕子『専門知と公共性』、東京大学出版会、 2005年 4 月。 堀田和宏『非営利組織の理論と今日的課題』、 公益情報サービス、2012年 3 月。 吉川弘之・内藤耕『「産業科学技術」の哲学』、 東京大学出版会、2005年 3 月。 論稿提出:令和 6 年12月20日 加筆修正:令和 7 年 5 月21日
- ≪査読付研究ノート≫自治体外郭団体におけるゆらぎとは何か―事例分析による仮説生成―
PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 九州共立大学教授(前公益財団法人倉敷市スポーツ振興協会総務企画課長) 吉永光利 キーワード: 自治体外郭団体 ゆらぎ 秩序 組織体制 自律性 行政改革大綱 要 旨: 本稿は、「自治体外郭団体におけるゆらぎとは何か」という命題に対して、ゆらぎ概念に関する諸議論を踏まえて、事例分析を通じて、その仮説を生成するものである。 自治体外郭団体は、国等による行政施策に対応した運営を行っており、やや受動的かつ閉鎖的な側面があるように思われる。しかし、昨今の国等による指定管理者制度の導入や公益法人制度の見直しなどによって、自律的な運営を求められているところがある。 そこで、本稿では、自治体外郭団体を対象に、自律的な組織変容(自己組織化)の起点であるゆらぎに着目し、その一般化を図るため、将来の研究に繋がる仮説を生成するものである。なお、この生成においては、 6 事例の考察を行い、 8 つの仮説を提示している。 構 成: Ⅰ はじめに Ⅱ 問題関心、方法 Ⅲ ゆらぎ概念に関する諸議論の整理 Ⅳ 事例分析 Ⅴ 仮説の提示 Ⅵ おわりに Abstract This paper generates a hypothesis for the proposition “What is fluctuation in municipality-affiliated organizations?” through case analysis based on various discussions on the concept of fluctuations. Municipality-affiliated organizations operate in response to administrative policies and systems established by the national government, etc., and they seem to have a somewhat passive and closed aspect. However, recent efforts such as the introduction of the designated manager system by the national government and reviews of the public interest corporation system have created a demand for more autonomous management. In this paper, therefore, we focus on fluctuations, which are the starting point of autonomous organizational change (self-organization), in municipality-affiliated organizations to generate a hypothesis capable of leading to future research to generalize this concept. ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ はじめに 本稿は、「自治体外郭団体(municipality-affiliated organizations)におけるゆらぎ(fluctuations)とは何か」という命題に対して、事例分析を通じて、その仮説を生成 1) するものである。 自治体外郭団体は、国等から人的・経済的な支援を継続的に受けているなどの特性から、行政施策の影響を受けることが多く、運営面では、やや受動的かつ閉鎖的な側面があると思われ る。 しかし、それは、すべてではなく、国等による自律的な運営への要請(指定管理者制度や公益法人制度の見直し)に応えながら、継続的に事業を行うなかでは、対照の側面が見られる。そのような能動的な側面に着目して、自治体外郭団体の組織変容に関わるゆらぎの一般化を図る、その研究過程における仮説を生成(提示)することが、本稿のねらいである。 本稿におけるゆらぎは、社会科学における自己組織化(self-organization)という組織の変容現象の起点(兆し)を意味している。これは、今田[2005]が指摘する自己組織性(self-organity)の特性の一つである「ゆらぎを秩序の源泉とみなす(今田[2005]、27-30頁)」に依拠している。同様の視覚から、本稿に先立ち、2 つの自治体外郭団体を事例とした運営実態の考察を行っている(吉永[2024])。 この研究におけるゆらぎ事象では、団体ごとの背景や調査時の状況、あるいは応対者の主観的な意識の異同などにより、異なる事象が発見されている。ただし、それぞれが当該組織の実状を表していることを考慮すれば、例えば、設立の経緯や現状等によりゆらぎ事象を区別・整理すれば、その発生要因や傾向をつかめるのではないか、このような疑問が本稿の契機となっている。 Ⅱ 問題関心、方法 1 問題関心 外郭団体を取り巻く環境は、平成中期以降、多様に変化しており、その多くは、平成12年12月に閣議決定された行政改革大綱 2) (以下「大綱」と記す。)に関連するものである。大綱では、行政システムの改革推進の要点として、①新たな時代の要請への対応、②国民の主体性と自己責任の尊重という 2 つの観点に重きを置いており、 7 つの章立てから成っている。このうち、「Ⅰ 行政の組織・制度の抜本改革」と「Ⅱ 地方分権の推進」が自治体外郭団体に関連する内容である。策定の翌年には、行政委託型公益法人を対象とした改革の視点と課題を提示している。このなかで、国は、①官主導による設立、②当初の目的達成、時代変化による意義喪失等、 ③委託先選定基準の不明確さ、④補助金の不適切使用、⑤不要な事務等の創設、⑥公務員の天下り、このような国民からの批判を受け止めている。さらに、これらの批判を踏まえて、改革の基本理念と改革の視点を提示しており、それらをまとめたものが、 図表 1 である。 この改革には、例えば、指定管理者制度 3) への移行や公益法人制度の見直しがある。平成16 年施行の指定管理者制度では、すべてではないが、自治体外郭団体が市場競争下に置かれることになり、その結果、事業の縮小、あるいは廃止となった事例が見られる。この制度下にある団体においては、組織存続のため、従来から蓄積してきたノウハウを活かした独自性の発揮が 求められている。また、平成20年に改正された 公益法人制度 4) の趣旨では、公益法人を社会経済システムに積極的に組み込み、自律性の発揮を求めている 5) 。これらの状況から、一部では 「官のシステム」としての役割を終えたところがあるように思われる。その一方で、両制度に共通して、運営面では、やや自由度が高まっていると考えられる。 ここで、筆者は、自治体外郭団体の実務者であり、自組織のみならず、他団体との交流を通じて、上述のような諸施策に対する苦労や悩みを耳にしてきた。それは、将来的に諸制度に対応した自律的、能動的な運営を行っていくのか、それとも従来どおり、官のシステムの一部として、他律的、受動的な運営に徹していくのか、そのような問題である。制度上の矛盾や社会的な批判はともかくとして、例えば、設立の経緯を踏まえれば、国等の意向(寄付者たる自治体、あるいは社団としての意志)に沿った対応は、自然であると思われる。このことに関連して、国等では、引き続き管理下に置き、活用したいとの思惑があると考えられる。また、外郭団体側では、国等の意向に従っておれば、存続が維持される、あるいは経済的支援を受けられる、という「親方日の丸」と風刺されるような他律的、旧態依然とした考えが存在することも考えられる。 このような状況が考えられるなか、そこで働く人々の意識に着目すると、諸施策が求める変革志向と従来からの保守志向との間 6) で揺らいでいるところがあると思われる。ただし、そのような個人の意識は、組織に蓄積された情報の質や量(経験値)の影響を受けると考えられる。しかし、その影響による個人の意識は、組織の変容に関わっていくため、結局、相互に連環し ている 7) と考えられる。いずれにしても、人々の意識や行動が日々揺れ動き(一定せず)、組織も変化し続ける状況を考慮すると、十把一絡げにゆらぎを限定的、単純化して捉えるとリアリティからかけ離れると考えられる。 以上のように、組織を構成する個人によるゆらぎは多様に考えられるが、自治体外郭団体にどのようなゆらぎが生起し、組織が変容(自己組織化)しているのか。このような疑問に対して、団体ごとの設立経緯や現状等を踏まえて、ある程度ゆらぎの特性(仮説)を明らかにすることができるのではないか、このような問題関心である。武者[1980]の言葉( 7 頁)を借りれば、自治体外郭団体にとっての「ゆらぎの骨」を明らかにすることが、本稿を含めた最終的な研究目的である。 図表 1 行政委託型公益法人改革の基本理念と改革の視点 出所:大綱を参照し、筆者作成 2 研究の方法 ⑴ 方法の検討 科学全般において、理論の整合性の高さが人々を説得するための手段になっていると思われる。しかし、とくに、社会科学のような概念を取り扱う分野においては、理論が実践に介入するとき、そのあいまいさや現実離れした内容によって、腑に落ちない思いを抱くことがある 8) 。それは、抽象性の高い理論と具体である実践との架橋(結合)が十分になされていないことに起因すると思われる。社会科学におけるゆらぎに関する議論がやや停滞傾向にあるのも、このような結合の不十分さが一因になっていると考えられる。 また、現在の科学は、統計的な分析志向であり、現象の因果関係を明らかにするという観念が一般的になっている 9) 。そのため、客観的・ 定量的に取り扱うことが困難な科学においては、挑戦的な試みの弊害になっている 10) と思われる。このような観念を否定する意図はないが、本稿は「科学は問題から始まる」ことを前提(今田[1986]、18頁)として、Weick[2000]の指摘を参考に、実践的な解釈(意味付け)を加えながら、事例分析 11) という定性的な方法により、自治体外郭団体におけるゆらぎの仮説生成を試行する。 ⑵ 分析対象、分析方法 本稿の分析対象は、自治体外郭団体におけるゆらぎである。ここで、外郭団体の定義は、そこで働く「ヒト」の意識や行動に着目していることから、吉永[2024]と同様に「国等と協働して政策実現のための事業を行い、かつ国等の現職、あるいは退職者が常勤役員等に就任している団体」とする。ゆらぎに関しては、次節で検討する。 次に、分析方法では、上述の「 1 問題関心 」 に関連して、各団体の設立経緯や現状等を踏まえて、どのような(個人による)ゆらぎが発生し、また、それを組織(秩序)が許容、あるいはそれに関わっている(影響を与えている)のか、そのような連関的な組織現象を考慮した分析を試みる。具体的には、ゆらぎ概念の概念的枠組み(conceptual framework)を検討したうえで、事例分析を通じて、ゆらぎに関する発見事象を整理し、その仮説を生成する。 Ⅲ ゆらぎ概念に関する諸議論の整理 経営学におけるゆらぎは、組織の動的変容の代名詞として、1970年頃から多く用いられている。その一方で、ゆらぎという言葉を用いれば、組織が動的(dynamic)に変容するという錯覚や誤解があるとの指摘がある 12) 。また、ゆらぎという概念は、自然科学に原典があるが、社会科学における理論構築のため、一方向的にメタファー(metaphor:隠喩)化されていると思われる。そうしたなか、自然科学から社会科学に応用しようとする議論がある。 本節では、このような議論(武者[1980]、武者他 1 [1991])のレビューを行い、社会科学における野中[1985]、今田[2005]の議論を交えながら、ゆらぎに関する概念の枠組みを検討していく。なお、野中[1985]と今田[2005]の議論は、後述の「Ⅳ 事例分析」で事例に選定している2020年に実施したインタビュー調査(以下「2020年調査」と記す。)に関連する議論である。 1 武者[1980]の議論 武者[1980]は、「人間の心が日々動いていると同時に体は老いていく」、このような「もの」が変化していく姿を「ゆらぎ」として、多様な角度から考察することをねらいとしている( 6 頁)。そのなかで、次の指摘がある。 「模範人間ばかりで構成されている社会というものを考えてみると、およそ面白くもおかしくもないに違いない。(中略)「ゆらぎ」 は「あそび」でもある。(中略)好ましい方向にゆらいでいる人間を積極的に援助する態 勢がなければ、社会の進歩発展は期待できな い。「ゆらぎ」というものは、盲人の杖のようなもので、「触手」なのである」 上述の指摘は、野中[1985]によるゆらぎの定義(134頁)や今田[2005]による自己組織性の 4 特性(28-34頁)と共通する部分がある。さらに、次の指摘がある(224頁) 「どのような「ゆらぎ人間 13) 」の存在を許すかは、その社会の判断に掛かっている。ゆ らぎ人間の存在を幅広く許容する社会では個性の分布する範囲が広いから、犯罪の発生率 も、その凶悪振りも極端かも知れないが、また才能豊かな個性もおおらかに芽をふいて、 傑出した人物が育つ素地があるので、やりがいのある社会であるに違いない。善悪両方向 へのゆらぎのなかから、どの部分を「適者」として強調するかによって、その社会の進化 する方向がきまるわけで、どういう方向に選択原理を機能させるかがその社会の持つ特異 性をきめることになる。その前提条件としては、「個性のゆらぎ」をまず許容することが 必要である。社会の「自然選択の原理」は、その社会の持つ「価値観」である」 上述の指摘は、野中[1985]による個人の自律性(143-144頁)と今田[2005]による創造的な個人(30-32頁)に関する指摘と共通するところがある。さらに、社会が何を「適者」にするかという社会の「価値観」に対する指摘は、ゆらぎが組織にどのような変容をもたらせたのか、という事後的な評価に関連すると考えられる。 2 武者他 1 [1991]の議論 武者他 1 [1991]は、ゆらぎには、確定的な事象と確率的な事象が混在していると指摘している。このうち、確率的な事象では、時間を逆にたどっても偶然と必然を区別する要素はなく、原因が多くなれば、それらがからみ合っているため、区別できないと指摘している(1- 2 頁)。また、結果論として整理すれば、因果的関係性は明らかになるが、現実には、結果は事後的に発生するため、どこまでの時系列で切るか、という初期条件の問題が発生すると指摘している( 6 頁)。それは、成果指標や計画の達成(結果)をどのように規定するか、という実践的な問題にも関連している。そのほかにも、以下のような指摘がある。 ⑴ 経験(知識量)に依存する予測値 例えば、(多数の変数の存在により)正確な初期条件を定義しきれない場合があるが、これは、自分都合(知識不足)による問題であると指摘している。ここで、組織体における変数は、構成する「ヒト」であり、その属性や数によって、変容の結果が異なると考えられる。さらに、予測が知識の量に影響を受けるとの指摘があるが、このことは、当該組織の経験に依存すると考えられる。 ⑵ ランダムのなかの法則性 予測不能性には、初期条件の違いが時間の経過とともに広がっていく場合と、初期条件やそのズレの積として不確定性が大きくなる場合の 2 つがあると指摘している。ただし、不確定な存在としての個人(非線形)も集団化すれば、規則性(線形)があらわれるため、ランダムのなかに法則性があると指摘している(10-13頁)。このことから、相関のないゆらぎは現実にはありえない、ということになる(13頁)。 ⑶ 予測(モデル)と現実とのズレ 過去の変化からの学習による予測(行為)が モデルであり、そのモデルと現実とのズレがゆらぎであると指摘している(16頁)。そのモデルは、上述のとおり、組織の経験に依存しており、ズレには、当該組織における新規性や創発性の起点である個人による発想やアイデアといった事象があると考えられる。そのため、組織の経験(貯蔵情報)によりゆらぎの性質は異なり、それを取り込む組織の受容性がなければ、発生確率は低減すると考えられる。 ⑷ 「あそび」による誘発 「決定を行う」行為は、自由度を切り捨てることであり、不確定性の広がりを止める関係性があると指摘している(33-35頁)。それは、武者[1980]が指摘する「あそび」のある組織体において、決定までのプロセスにおいて、どのようにゆらぎを発生させるか、という問題に関連する。例えば、強権的な管理志向、あるいは存在意義が低下している組織では、一定の秩序ある組織と比して、あそびが少なく、組織の変容可能性が低減すると考えられる。 3 まとめ 武者[1980]は、個人が組織を変容させていく、そして、組織が個人を積極的に援助する、このように指摘しており、野中[1985]、今田[2005]と共通する視覚にあると考えられる。そのため、2020年調査で両氏の指摘を援用し、設定している①ゆらぎ(緊張感、危機感、多様性、不安定性)、②秩序(規則、予算)、③組織体制(職場の雰囲気、個人の尊重)の測定次元には、ある程度妥当性があると思われる。ただし、武者[1980]が指摘する「あそび」、今田[2005] が指摘するゆらぎの定義 14) を考慮すれば、上述した創発的なゆらぎや組織の受容性に関する新たな視点(下位次元)を加えて、対象を拡張していくことが考えられる。 次に、武者他 1 [1991]からは、初期条件の指摘に関連して、ゆらぎの発生は、情報として切り取った時点(例えば、インタビュー時)における組織の状況に起因している。このことを踏まえて、ゆらぎの発生要因として、①組織の経験に依存している、②他の要因(秩序・組織体制)と何らかの相関がある、③モデルと現実とのズレから生じる、④あそびを許容する組織体制による、これら 4 点を考慮したデータ抽出を行う。また、本稿が自治体外郭団体に対象を限定していることから、例えば、法的な要請では共通する部分が多いほか、時間軸においても、過去か未来か(時系列)の違いはあるにしても、経験可能性としての共通部分があると思われる。その一方で、初期条件(結果の規定)に関連して、事前に組織成果(会員・利用者数等)に規定しておくことが考えられるが、各データ収集時の経験則や背景が異なる事情を考慮すれば、特定の組織成果に絞っての因果的なゆらぎの考察は、限定的な議論になる恐れがある。そのため、事例ごとに事象を抽出していくことが適当であると考えられる。 以上のことから、本稿では、初期条件と経験等を考慮しながら、2020年調査における野中[1985]によるゆらぎの定義 15) に新たな視点(下位次元)を加えることとし、それらをまとめたものが、 図表 2 である。これにより、2020年調査と比して、探索対象を広げたデータ抽出を行う。 図表 2 ゆらぎ概念の下位次元(視点) 出所:筆者作成 Ⅳ 事例分析 本節では、2020年調査のなかから、 6 つの事例を選定し、各事例の調査概要を提示した後、 前節で特定したゆらぎに関する発見事象を整理(要約)し、考察を行う。 1 事例の選定 本稿で取り扱う事例は、2020年調査における15事例 16) のうち、本稿における外郭団体の定義に該当する 6 団体を選定している。選定の理由は、調査対象に自治体外郭団体が含まれており、かつゆらぎに関するデータを集中的、豊富に収集していることによる。 2 調査概要 各事例における2020年調査時の法人概要と調査概要をまとめたものが、 図表 3 である。 図表 3 のとおり、法人類型別では、公益社団法人が 3 団体(A社団・B社団・C社団)、公益財団法人が 3 団体(D財団・E財団・F財団)である。事業種別では、高齢者就業斡旋(シルバー人材センター:A社団・B社団・C社団)、公園管理(指定管理者:D財団)、助成(教育活動:E財団)、高齢者余暇活動(老人クラブ:F財団)の各団体がある。 法人概要に関しては、とりわけ 図表 3 内の 「主な現況」欄の状況から、成果指標(会員数の増加)の達成に向けて自律的に運営している団体(A社団・B社団)、理事長の強いリーダーシップにより運営している団体(C社団)、自治体からの厳しい指導監督を受けている団体(D財団)、自治体と密接に連携した運営を行っている団体(E財団)、自治体からの人的・経済的な支援が著しく低減している団体(F財団)があり、多様である。 同様に、調査概要に関して、2020年調査は、 すべて対象法人の事務所へ筆者が 1 名で赴き、 質問紙( 図表 2 内の下線部を除く項目を中心に)を手許に置き、インタビューを行っている 17) 。そ れぞれ応対者の職名や属性が異なっている一方で、多様な情報を収集しており、一つの見方として、多面的に自治体外郭団体の特性を捉えていると考えられる。 なお、吉永[2024]では、A社団とB社団の事例を取り扱っているが、本稿では、 図表 2 に基づく新たな視点を加えて、より詳細かつ濃密な情報を抽出している。 図表 3 2020年調査の概要 出所:筆者作成 図表 3 (続き) 2020年調査の概要 出所:筆者作成 3 発見事象 図表 3 内の「法人概要」を踏まえて、2020 年調査の各事例におけるゆらぎ概念に関連する発見事象をまとめたものが、 図表 4 である 。 図表 4 発見事象 出所:筆者作成 図表 4 (続き) 発見事象 出所:筆者作成 4 事象の整理 上述の「 3 発見事象 」を基に、各事例の現況( 図表 3 内)を考慮しつつ、 図表 4 のゆらぎの発見事象の特徴から共通項目を設定・整理したものが、 図表 5 である。なお、 図表 5 内に記載の丸数字は、 図表 4 の各欄に記載の丸数字に対応している。 大きくは、 5 つの項目(現状への疑問、運営上のあいまいさ、経営資源の不足、外部からの監視、外部からの期待)に区分することができる。全体に共通して、「 3 .経営資源(とくに財源と人材)の不足」を指摘していることが分かる。これは、財政基盤の弱い非営利組織の特性 18) に関連すると考えられる。さらに、「 4 .外部から の監視」を意識しており、これは、公益法人制度改革に関連して、自治体外郭団体に対する国民からの目(偏見)に起因していると考えられ る。その一方で、 図表 3 における「 2 .主な現況」欄の内容から、革新的と思われる団体(A 社団・B社団・C社団)では、「 1 .現状への疑問」を組織変容の兆しとして、内発させていることが分かる。その一方で、現状維持、あるいは低迷期にある保守的な団体(D財団・E財団・F財団)では、ほとんどないことが分かる。これは、外圧的な要因が影響していると考えられる。さらに、自治体との連携志向が強く、かつ少人数の 団体(E財団)においては、意思決定を自治体に委ねる受動的な運営であり、ゆらぎが発生しにくい状況にあると考えられる。 図表 5 項目ごとの事象整理 出所:筆者作成 5 考察 図表 5 を踏まえて、次のように考察することができる。 「 1 .現状への疑問」は、既存秩序と比して、多様なズレに対する認識である。そのため、自治体代行者としての自覚、各種内部規定の整備状況、従業員間の共通理解といった当該組織の認識の程度により、ゆらぎの発生頻度が異なると考えられる。「 2 .運営上のあいまいさ」は、程度はともかくとして、いずれの団体(組織)にも存在すると思われる。ただし、外部からの関与が高まれば、顕著に表れる傾向にある(D財団)と考えられる。「 3 .経営資源の不足」は、安定した運営を妨げる(不均衡)要因であり、そのような意味において、組織の存続(有機体としての生命維持)を図るため、断続的にゆらぎを発生させていると考えられる。さらに、「 4 .外部からの監視」「 5 .外部からの期待」のように、外部(自治体や地域住民)からの評価に対する意識がゆらぎとなっている。これは、大綱で指摘のあった国民からの批判に関連している。また、 2 つに区分した対照的(動的・静的) な事例から、行政からの関与が強くなると、運営上のゆとり(あそび)がなくなり、自主性・ 自律性が損なわれ、結果として、ゆらぎが発生しにくい状況になると考えられる。 図表 3 と 図表 4 の内容から、自治体外郭団体は、コンプライアンス意識が高く、既存秩序を優先する指向があると考えられる。ただし、それは、既存秩序が正しいとする硬直的な思考でもあり、ゆらぎを発生させる頻度が低くなる傾向にあると思われる。その一方で、別の見方として、既存秩序から逸脱しない運営に重点が置かれていることから、自己言及的に秩序の是非を問うゆらぎを発生させていると考えられる。つまり、既存秩序には、ゆらぎの発生要因と抑制要因にはたらく二面性がある、ということである。また、 図表 3 における同地域の外郭団体の不正による行政指導(D財団)、あるいは当初の目的が達成されつつあるなどの停滞期・衰退期に直面している団体(F財団)にとっては、秩序の維持が困難となり、そのような状態では、行政(他者)からの関与が強くなる傾向にある。それは、自治体の秩序(官のシステム)に取り込まれることを意味しており、そのことによって、自主性や自律性が損なわれ、自己の秩序が崩れていくと考えられる。 このように、ゆらぎと秩序の状況と組織の現状(成長期・衰退期)の 2 つの要因との間に相関性があると考えられる。また、秩序が維持できない状況では、ゆらぎの発生機会が低減し、硬直的になると思われる。そして、そのような状況では、職員を尊重する余裕(ゆとり)はなく、人間関係を良好に維持することが困難(コミュニケーションの減少)となり、結果として、 ゆらぎの発生を抑制する要因になると考えられる。 Ⅴ 仮説の提示 「Ⅳ- 5 考察」に基づき、将来の実証分析で検討する仮説を以下のように設定する。 1 経営資源 非営利法人の特性として、経営資源(とくに財源と人材)が不足しているとの観点から、以下の 2 つの仮説を設定した。 仮説①:従業員が少ない組織ほど、ゆらぎの発生頻度が少ない。 仮説②:財源の不足感は、断続的なゆらぎの発生要因となる。 2 外部評価 大綱による外郭団体への批判、事例にあった自治体からの関与の状況から、以下の 2 つの仮説を設定した。 仮説③:外部(自治体や地域住民)からの厳しい評価は、ゆらぎの発生頻度を高める。 仮説④:行政からの指導監督等の関与が強くなれば、ゆらぎの発生頻度は低下する。 3 秩序 ゆらぎと秩序の関連性から、以下の 2 つの仮説を設定した。 仮説⑤:自治体による人的な関与が強い団体は、ゆらぎの発生頻度が低い。 仮説⑥:自ら秩序化が進行している団体は、自己言及的なゆらぎの発生頻度が高い。 4 個の創発性 ゆらぎと組織体制の関連性から、以下の 2 つの仮説を設定した。 仮説⑦:拘束的かつ徹底した従業員の管理は、ゆらぎの発生を抑制する。 仮説⑧:コミュニケーションが図られている体制では、ゆらぎの発生頻度が高い。 以上、 8 つの仮説を設定するほか、仮説検証にあたり、①応対者の職位や属性、②団体の背景(変化)、③直面している状況、④設立目的の達成度合い(成長期・停滞期・衰退期など)をあわせて調査する。 Ⅵ おわりに 本稿は、自治体外郭団体におけるゆらぎの一般化を図る、その研究過程における仮説の生成を試行した。この試行にあたっては、自治体外郭団体で働く人々の意識や行動に関する他に例の少ないデータを提示しており、今後の進展に貢献できたように思われる。その一方で、自治体外郭団体が他の組織と比して、類似性がなく、すべてにおいて特殊というわけではない。例えば、企業等組織においても、子会社や下請けという組織間の関係性があるように、受動的な立場にある組織が存在する。また、コミュニティ機関として、地域と密着した運営を行っている非営利組織があり、そのような共通する視点から、本稿をヒントに応用的な考察が可能になると思われる。 しかし、課題も多くある。2020年調査では、野中[1985]によるゆらぎの定義を用いて、概念操作による測定次元の設定を行っている。その経緯から、ゆらぎ事象の限定的なデータ収集となっていることは否めない。また、事象を整理するための各項目の設定に関しても、異なる切り口での整理が可能であると思われ、検討の余地が残されている。 最後に、本稿の含意を述べる。各調査から感じられたことであるが、国等による諸施策によって、外郭団体の自律性が求められているなか、自ら変容することができない、あるいは既存の秩序に従わざるを得ない、といった思い込みのもと運営を行っている組織があるように思われた。それは、既成概念に囚われ、規則が優先される、あるいは失敗を避ける、このような保守的、消極的な態様を自らで作り出している、という疑問である。そうではなく、組織には、その一部であれ、自ら変容する能力(自己組織化能 19) )があり、構成員それぞれによる自己言及的な意識や行動が求められるのではないだろうか。 また、従来、自治体外郭団体の秩序は、首長を含めた自治体職員側の意向を反映したものであった。しかし、年月の経過とともに、(在籍年数の長い)プロパー職員側にシフトしている部分があるように思われる。そのため、定期的な自治体職員の出向等が組織変容をもたらすゆらぎになる場合がある。つまり、組織にとってのゆらぎは、「ヒト(職員)」の属性に関わりはなく、現状に満足せず、多様な変化を読み取る個の力である。そして、ゆらぎを引き出せる機会の創出、またそれを許容する組織のあり方、このようなマネジメントが求められていると思われる。 [謝辞] 本稿執筆にあたり、本学会報告における吉田忠彦先生・吉田初恵先生・東郷 寛先生ほか諸先生方からの建設的なご指摘、 2 名の匿名査読者による貴重なコメント、そして、筆者を励まし続けてくれる元同僚の冨澤 諭氏に対して、心より感謝申し上げたい。 [注] 1) 仮説検証とは対照的に、収集したデータを解析するなかで新たな理論や仮説を構築する研 究である。例えば、小熊[2022]の指摘がある。 2) https://www.gyoukaku.go.jp/about/taiko.html 、令和 6 年12月21日アクセス。 3) 小泉内閣時(平成15年)に「官から民へ」「小さな政府」を合言葉に進められた施策である。 4) 公益法人の根拠法が1898(明治31)年の施行以来、約110年ぶりに改正され、従来からの主務官庁による公益法人の設立許可、および指導監督等の裁量的な事務が廃止された。 5) 内閣府[2019a、2019b]を参照のこと。 6) 例えば、吉永[2023]が指摘している自己組織性の類型の見方(表 1 )がある(113頁)。 7) 例えば、吉永[2023]によるオートポイエーシス論の指摘を参照のこと(118-119頁)。 8) 例えば、伊藤[1993]の指摘を参照のこと(82-84頁)。 9) 千葉[1984]は、社会科学の研究方法は、細分化主義、統計的分析手法、これらを重視することが 1 つのスタイルになっていると指摘している(68-70頁)。 10) 柴谷[1977]は、科学には、定量化しないと客観的に扱えないという一般的な信念があるため、複雑な対象や非線形の系の例では、科学的解析の材料となりにくく、それへの理解がなおざりになっていると指摘している(243 頁)。そのうえで、非線形過程を数学的ではなく、言語的解析を通じて、直感的・定性的・ 実践的に理解する系統的方法論としての唯物弁証法についての弱点も含めて言及している (255-256頁)。 11) Yin[1994]を参考にしている(38-45頁)。 12) 例えば、庭本[1994]の指摘がある(38頁)。 13) 武者[1980]は、良い意味でも悪い意味でも標準人間とは異種の存在としている(224頁)。 14) 「システムの均衡状態からのズレ、その延長として既存の枠組みからのズレ」である(19頁)。 15) 「組織内に緊張、危機感、変異、混沌などを内発させ、組織の構成単位の選択の多様性、迷い、あいまい性、遊び、不規則な変化(ラ ンダムネス)、不安定性などを内発させる現象」 である(134頁)。 16) 2020年調査のデータの大部分は、吉永[2021]に収録している。 17) 調査先には、事前に了承を得て、すべてICレコーダーで録音を行い、文字起こしの内容については、2 度の確認をしていただいている。 18) 例えば、田尾他 1 名[2009]による指摘がある(31-32頁)。 19) 例えば、高橋[2021]による指摘がある(90頁) [参考文献] 伊藤公雄[1993]「書評 吉田民人著「主体性と所有構造の理論(東京大学出版会)」、『ソシ オロジ』第38巻 2 号、79-84頁。 今田高俊[1986]『自己組織性』、創文社。 今田高俊[2005]『自己組織性と社会』、東京大学出版会。 小熊英二[2022]『基礎からわかる論文の書き方』、講談社現代新書。 柴谷篤弘[1977]『あなたにとって科学とは何か』、みすず書房。 田尾雅夫他 1 名[2009]『非営利組織論』、有斐閣。 高橋宏誠[2021]『組織開発の理論化と実証研究―自己組織化能の解放―』、勁草書房。 千葉康則[1984]「Ⅱ 直感と科学」、林知己夫 他 1 名[1984]、『あいまいさを科学する』、 講談社、55-96頁。 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- ≪査読付論文≫公益財団法人・公的機関の博物館の資産と「評価」
PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 国立民族学博物館名誉教授 出口正之 西南学院大学教授 工藤栄一郎 キーワード: 文化遺産 CACROS法 フッサール現象学 負債可能性 公正価値 真贋の誤謬可能性 ディアクセッション 比較可能性 要 旨: 文化遺産は未来への承継のために保存すべきものというグローバルな了解と比較可能性に資する会計情報を公表すべきという会計に関するグローバルな了解が博物館の資産において交錯する。両者がどのような関係にあるかについて、CACROS法を含むフィールド調査によって、文化遺産としての博物館の収蔵品は「将来の収益を生むもの」としての存在ではなく、「将来の支出」につながる負債可能性のあるものや、売却を規制されている資産もあり、企業会計をそのまま適用できないことが明らかになった。本研究において保存性収蔵品と売却可能性収蔵品を識別しそれぞれに適合的な会計表記や無限大資産などの概念の創出を提案する。 構 成: Ⅰ 本研究の目的 Ⅱ CACROS法 Ⅲ 財務報告の概念フレームワークと文化遺産の会計的認識 Ⅳ CACROS調査で明らかになった博物館収蔵品の会計的評価の課題 Ⅴ 結論 Abstract It is generally agreed that cultural heritage should be preserved for future generations and that accounting information should be disclosed to enable comparison. These two ideas intersect in the context of museum assets. Field research applying the CACROS method revealed that museum collections, as cultural heritage, do not exist as “assets generating future revenue,” but rather may represent potential liabilities leading to “future expenditures,” or that they may be assets whose sale is regulated. As such, corporate accounting standards cannot be applied directly. This study proposes the identification of preservation-oriented collections and saleable collections, and suggests the development of appropriate accounting treatments for each, as well as the creation of concepts such as “infinite assets.” ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ 本研究の目的 「文化遺産」(ここでは博物館で収蔵される文化財という意味において使用する)は「人類共通の遺産」であり未来においても保存すべきものであるというグローバルな合意が形成されてきている(Meskell 2015)。こうした考えにおいて、歴史的建造物を含む様々な文化遺産が博物館で保管されている。これはこうした文化遺産がある時点で存在している人類にだけにではなく将来の世代にも共有されるべきものとしての「保存の価値」を有しているというグローバルな了解であるといえる。 他方で、文化遺産を博物館などの組織として保存・維持するには何らかの会計処理が必要となる。現代では、説明責任として、その会計情報の有用性と正当性が常に重視されることは言うまでもない。 会計のグローバル化が進むにつれ、組織は外部のステークホルダーに対して「一般目的の財務報告」を提供することが求められ、組織間でパフォーマンスの「効率性」と「有効性」を測るために「比較可能性」を求める論理とそれに基づく会計基準等の設定が広まっている(日本公認会計士協会 2019 IFR 4 NPO 2023、IPSASB 2014)。この考え方は、利益を追求する企業のための会計から誕生したものであり、あらゆる資産は、将来の収益を生むものとして考えられ、そのための「活用の価値」が内包され、その大きさを測定することが求められているといってよい。ここでの「活用の価値」とは当該資産について利益を創出するために効率的に活用すべきものか売却を前提に換金可能なものと捉えるかのいずれかの前提に基づく価値評価である。売却もしないし活用もしないで保存だけをするという前提は成り立っていないといえる。注意すべきは、営利企業のために開発された会計基準が、多様な組織目的を有する非営利組織においてもその影響を及ぼしていることである。公的な博物館のための会計基準であっても例外ではない。さらに、会計基準は、営利/非営利を問わず、国際的に標準化される傾向にある。 このように、文化遺産は博物館に保存・保管された瞬間から、会計のグローバル化の対象にもなる。 つまり、文化遺産を巡っては、「保存の価値」と「活用の価値」に関するグローバルな潮流が交錯していることになる。文化遺産を何らかの形で「評価」しなければいけないときに、それは会計評価だけを意味するものではない。二つの価値観からなされる「評価」が一致していればもちろん良いのであるが、両者の価値がどのような関係にあるのかを含め、本研究は、文化遺産が博物館の所有となったときの会計情報の時系列的変遷を、フッサール現象学を取り入れた〈標本・会計交差調査法(Collection/Accounting Crossing Survey: CACROS)〉というオリジナ ルのフィールド調査の手法で明らかにすることを目的とする。 Ⅱ CACROS法 CACROS法は本研究のために生み出されたオリジナルの研究手法である。次の二つの特徴を有する。 フィールドワークを基本とする方法論である。第一の特徴は、フッサール現象学の影響を受けた方法論であるという点である。現在、最先端科学の分野では、フッサール現象学の手法を再解釈して経験科学に適用する「経験的現象学的方法(Empirical Phenomenological Method, EPM)」が提唱され、その理論的基盤を述べている(Mortari et al. 2023)。現象学的方法が占める重要性を強調し、あらゆる人間・社会科学分野で、経験の理解や信頼性の高い分析のため現象学が再活用され始めてきている、学問のブレークスルーを生み出すうえで有力な方法論と言える。フッサール現象学の「事象そのものへ」(Zu den Sachen selbst)という立ち位置は、先入観や理論的前提を「一旦括弧に入れ」(これを「エポケー」という)て、意識に直接現れる経験や現象そのものをありのままに記述しようとする態度である。あらゆる学問が過去からの積み上げによって成り立っており、思考方法がおのずとその延長線上のバイアスに制約されているから、この手法によってそれを一旦解き放つ ことで学問のブレークスルーが起きやすいと考えられている(Mortari et al. 2023)。すでに法学においては、日本でも、法の本質直観の分析に現象学の可能性が論じられている(宮田 2024)。 非営利会計については、企業会計の考え方を前提にしたその延長上で語られているが、 CACROS法とは、企業会計の考え方を一旦括弧に入れた「エポケー」を使った方法論である。 CACROS法の第二の特徴はフィールドワークの手法にある。フィールドワークは研究者が実際に現地へ赴き、観察、調査、インタビューなどを行い、生のデータや情報を収集する研究手法である。人類学をはじめ多くの学問で採用されている。例えば、人類学でのフィールドワークは、フィールドに入って「ラポール」と呼ばれる信頼関係を築き、実施されるために、原則として一人で行われる。他方で、自然科学のフィールドワークは、相手方は自然であり、多面的な調査を必要とすることが多く、複数名で実施されることが多い。 CACROS法は文系の フィールドワークでありながら、博物館学者と会計学者が複数人で博物館に同時に入り込む学際的なフィールドワークである。公益財団法人や公的機関の博物館は、会計上のことについては極めてセンシティブであり、実施に当たっては「ラポール」が必要である。 非営利組織の会計については、さまざまな議論が行われている(Crawford et al. 2018、McConville & Cordery 2018、Breen et al. 2018)。しかし、基本的なスタンスは企業会計を前提として思考 の外延的な拡大方法が採用されている。組織に は資金のフローと財産のストックがあり、その点は企業であっても非営利組織であっても同じであるから、組織の目的やミッションを問わずにその基礎を営利企業のための会計に置くことは問題ないという考え方である。他方で、営利企業の会計と非営利の会計、例えば公益法人の会計とは根本的に考え方が異なるので、異なるものであって当然であるという考え方から出発する立場もある(出口・藤井[2019]、番場[1978]、 番場・新井[1986])。 CACROS法とは、非営利組織 1) である博物館の収蔵庫の現場をフィールドとし、博物館学者と会計学者がフィールドワークを行い、収蔵されている文化遺産の「保存の価値」と「活用の価値」を考えようとするものである 2) 。 Ⅲ 財務報告の概念フレームワークと文化遺産の会計的認識 次に、このような特徴を持つCACROS法を使用し、既存の会計上の概念フレームワークを概観した後、博物館の「資産」の捉え方を検討する。 会計上の資産とは、財務報告書である貸借対照表に「資産」として計上される項目のことを言う。どのようなものを「資産」として計上するかについては、「概念フレームワーク」に示された要件を満たすことが求められる。「概念フレームワーク」は会計の基礎となる考え方の前提や概念を体系化したもので、会計基準等の基盤を提供するものであり、これにもとづいて個別の会計基準は設定される。したがって、「概念フレームワーク」は会計基準の憲法のようなものにあたるという解釈がされることも多い。 「概念フレームワーク」に基づいた会計基準設定の手法は、1980年代のアメリカの財務会計基準委員会(Financial Accounting Standards Board)から始まったが、その後、世界的に一般化している。国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board: IASB)は、その前身である国際会計基準委員会(International Accounting Standards Committee)のときの1989 年に最初の「財務報告に関する概念フレームワーク」を公表し、その後、現在の組織となってから2010年に、そして2018年に改訂版を公表している。日本においても、企業会計基準委員会(ASBJ)によって「財務会計の概念フレームワーク(討議資料)」が2006年に公表されている。 注意すべきは、会計基準設定の基礎として位置づけられる概念フレームワークが、営利企業以外の組織のための会計基準等の設定にも影響を与えていることである。たとえば、公的組織のための財務報告基準を策定する機関である国際公会計基準審議会(International Public Sector Accounting Standards Board: IPSASB)は、2014 年にその概念フレームワークを公表した。IPSASBの概念フレームワークから演繹される会計基準は、公立の博物館が収蔵する文化遺産などの会計的認識について議論を引き起こしている(Ferri, et al. 2021 Carnegie, et al. 2022, Carnegie and Kudo 2023)。 本稿での主題である文化遺産の会計評価の制度的基礎を確認するため、まずは、営利企業の財務報告のために作成されたIASBの概念フレームワークと、IPSASBによる公的組織の財務報告のための概念フレームワークそれぞれにおいて規定されている資産概念について見ていくこととする。 まず、営利企業のための会計基準の設定主体であるIASBの概念フレームワークにおいて、 資産は次のように定義されている。 過去の事象の結果として企業が支配している現在の経済的資源 a present economic resource controlled by the entity as a result of past events ここにおける経済的資源とは経済的便益を生み出す潜在能力を有する権利を意味するとされている。 経済的便益を生み出す潜在能力を有する「権利」とは、具体的には、現金や財またはサービスを受け取る権利、経済的資源を他者と有利な条件で交換する権利、それに、特定の不確実な将来事象が生じた場合に経済的資源を他者が移転する義務から便益を得る権利など、「他者の義務に対応する権利」と、有形固定資産または棚卸資産などの物理的実体に対する権利や知的財産を使用する権利などの「他者の義務に対応しない権利」からなる。 また、経済的便益を生み出す「潜在能力」については、それが存在するためには、当該資源が経済的便益を生み出すことが確実である必要はなく、可能性が高いことさえ必要ないと言う。必要なのは、権利がすでに存在していて、少なくとも 1 つの状況において、それが他のすべての者に利用可能な経済的便益を超える経済的便益を企業のために生み出すであろうということであるとされる。仮に、経済的便益を生み出す蓋然性が低くても、権利は経済的資源の定義を満たす可能性があり、したがって資産となる可能性があると言う。 これら資産の定義を満たした場合、貸借対照表に計上される際には何らかの貨幣的評価がなされる。このように、貨幣的に数量化するプロセスを測定といい、IASB概念フレームワークは次のような資産にとっての測定基礎をあげている。 歴史的原価とは、すくなくとも部分的にではあるが、取引価格から計算された金額のことである。したがって取引以後の価値の変動は、減損などを除いて反映されることはない( 表 1 )。なお、市場取引以外の取引で取得した資産に関しては、当初認識時に現在価値がみなし原価として使用されることがある。現在価値とは、測定日の条件を反映した金額である。このため、前回の測定日以降の様々な条件の変更を反映することとなる。資産にかかる現在価値には、公正価値、使用価値、それに現在原価がある。まず、公正価値とは、測定日における市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却する際に受け取る価格である。一般に時価という場合、その多くはこの公正価値を意味する。次に、使用価値とは、資産の使用及び最終的な処分から見込まれるキャッシュ・フロー(あるいは他の経済的資源)の現在価値である。最後に、現在原価とは、測定日において同種の資産を取得するのに要する原価(取引コストを含む)のことで、「再調達原価」に近似するものである。 次に、政府組織など公的部門の会計基準設定主体である国際公会計基準審議会(IPSASB)の「概念フレームワーク」(2023年改訂)における資産の定義は以下のようになっている。 過去の事象の結果として公的組織が支配している現在の資源 a resource presently controlled by the entity as a result of past events 一見してわかるように、IPSASBの概念フレームワークにおける資産の定義は、IASBの 資産の定義とほぼ同一である。異なるのは、 IASBが「経済的資源(economic resource)」としているのに対して、IPSASBはたんに「資源 (resource)」としており「経済的(economic)」 という文言がない。ただし、資源については、「サービス提供能力もしくは経済的便益(economic benefits)を生み出す能力のいずれかに対する権利、またはその両方に対する権利」であると、ここで「経済的」という形容詞でその実質を規定している。つまり、資源とは本質的に経済的な性格を有するものであり、サービス提供能力を伴った権利もまた資源であると理解しているからである。 また、「権利」と「サービス提供能力もしくは経済的便益」について、サブセクションを設けてそれぞれの意味内容を説明するなど、 IASB概念フレームワークにおける資産の定義 とかなり近似したものとなっている。 資産の測定について、IPSASBの概念フレームワークは次のように規定している。まず、測定は、その時点によって「当初測定(initial measurement)」と「事後測定(subsequent measurement)」の 2 つに区分される。当初測定は、原則として取引価格で測定し、取引価格が入手できない場合などには例外的に「みなし原価(deemed cost)」を使用するとしている。貸借対照表は決算日において作成されるので、資産の会計的評価は、当然ながら、事後測定となる。測定について、IPSASB概念フレームワークは IASBに比べると、より精密に規定している。すなわち、事後測定について、以下のような「測定モデル⇨測定基礎⇨測定技法」の 3 階層からなる「事後測定のフレームワーク」を新たに定めている。 資産についての測定モデルは「歴史的原価モデル」と「現在価値モデル」に大別されて定義されている( 表 2 )。まず、歴史的原価は、「資産の取得、建設または開発時に、その取得、建設、または開発のために支払われた対価に取引コストを加算したもの」とされる。「現在価値 モデル」は、資産に適用される測定基礎として、「現在操業価値(Current Operating Value)」と「公正価値(Fair Value)」に識別される。現在操業価値とは、「測定日における資産の残存サービス提供能力に対して主体が支払うであろう金額」とされ、公正価値は「測定日における市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るであろう価格」を意味する。 IASBの概念フレームワークには存在しない「現在操業価値」は、IPSASBが取り組む文化遺産に対する会計的測定をめぐる議論の到達点であるが、2024年末現在において、なおその概念の適用に関する議論は継続中であると言う。 このように、博物館が収蔵する文化遺産に強い影響を与える可能性のあるIPSASBの概念フ レームワークにおける資産概念、つまり資産の認識と測定は、営利企業の財務報告のための基準の基礎であるIASBの概念フレームワークと極めて近似していることがわかった。 それでは、現行の日本における博物館等の収蔵品つまり文化遺産の会計的認識と測定はどのような制度に従って運用されているかを見ていこう。 現在の日本において博物館を設置する主体は 多様である。具体的には、東京国立博物館・京 都国立博物館・奈良国立博物館等から構成される国立文化財機構や国立科学博物館は独立行政法人、国立大学が運営する博物館は国立大学法人、私立大学等によるものは学校法人、それに公益法人や宗教法人、また、地方自治体によって運営されるものなどである。これら多様な主体にはそれぞれに独自の会計基準等が設定されていることがほとんどである。したがって、博物館の収蔵品等を会計的に認識するためにはこれら会計基準等に従う必要がある。 これらの会計基準等は、文化財などを含む博物館の収蔵品会計的認識と測定のプロセスについて、そのほとんどにおいて、それぞれの会計基準のなかで規定されている「資産」の概念から出発している。つまり、財務報告の媒体である貸借対照表に計上されるにあたって資産としてどのような要件を備えるべきかに照らして、それらに合致するものは、ある意味で、無批判に資産計上される手続きとなっているのである ( 表 3 )。公益法人、独立行政法人、地方自治体などは、いうまでもなく、組織運営のためにさまざまな資産を保有している。しかしながら、それらが運営する博物館などにおいて収蔵される文化財等は、その他の資産と同一視することが適当であるかについては議論の余地があるかもしれない。 表 1 歴史的原価と現在価値 出所:IASB 2018, pars. 6.4-6.22に基づき筆者 作成 表 2 測定モデル・測定基礎・測定技法 出所:IPSASB 2023, pars.7.25-7.64に基づき筆者作成 表 3 各会計基準と資産の定義と文化財の評価 出所:筆者作成 Ⅳ CACROS調査で明らかになった博物館収蔵品の会計的評価の課題 1 資産性と負債可能性 博物館は、一般的には展示室と収蔵庫から構成される。例えば、小規模博物館において収蔵庫を有しないものもある。他方で、博物館C( 表 4 参照)のように、展示品が約 1 万2000点にすぎないのに対して、収蔵される全資料は34万 5 千点にもなり、展示率(展示品数÷全収蔵品数× 100)は、わずかに3.5%にしかすぎず、展示が目的というよりも、巨大な倉庫としての機能が大きいと言える博物館なのである。 博物館Cに対するCACROS調査の結果からすると、次のような観点が浮かび上がった。第一に、博物館の収蔵品を資産として会計的に認識・測定する意味は何かという点である。企業の資産とは将来収益を生み出すための経済的資源として企業は支配している。それに対して、博物館の膨大な収蔵品の多くからは、将来的な収益ではなく、保存・管理のための支出が確実に予想される。収蔵品によっては、温度や湿度管理が必要である。また、収蔵品に付着した害虫や微生物を駆除するために、定期的に、化学物質、低酸素状態、あるいは二酸化炭素をつかう「燻蒸」作業を行う必要がある。また、博物館Cは、書籍も所有しているが、酸性紙の書籍の劣化を抑えることも重要な課題となっている。 また、博物館Cではないが、美術品も長い時間をかけると色が褪せてしまい、名画にとっては保存の価値を失わない形での修復作業が必要であり、これにも膨大な支出が将来発生することになる。 こうした博物館の収蔵品の特質から考えれば、例えば、Mautz(1981; 1988)によって、人類にとっての宝物は「維持のために将来の支出を要する」としてすでに指摘済みであるように、将来の収益を生み出す資産というよりは、将来の支出が確実に見込まれる負債としての側面の方がはるかに強い。これをここでは「文化遺産の負債可能性」と呼ぶことにしたい。 表 4 本研究における訪問博物館の備忘価格 出所:筆者作成 2 取得価格と公正価値及び真贋の誤謬可能性 博物館には、個人や企業が収集した品をまとまって寄贈することがある。その場合に、現行の平成20年公益法人会計基準では、「資産の貸借対照表価額は、原則として、当該資産の取得価額を基礎として計上しなければならない。交換、受贈等によって取得した資産の取得価額は、その取得時における公正な評価額とする」となっている。 言い換えれば、コレクションの寄贈は「受贈」であるから、「公正な評価」をしなければならないが、博物館が購入したわけではないものの、寄付者が購入したもので購入価格が分かっているものについては、当該購入価格が付与されることが一般的である。 しかし、本研究調査で明らかになったことは、博物館F( 表 4 参照)において、コレクションをしていた寄付者が数多くの贋作を売りつけられていたことが判明した。当該寄付者が収集した段階では、専門家の関与がなかったり、間違いを防ぐためのプロセスがとられていなかったりしていたこともあり、かなりの美術品が業者の言いなりで贋作を高価格で購入しているケースがあった。こうした場合の「価格」とはいったい何なのかといった問題が存在する。博物館Fでは専門家からなる委員会を設置して、収蔵品の再評価をしている。 このような真贋の誤謬可能性について、どのように考えるのかという視点が出てきた。 3 情報遅滞可能性 たとえば、歴史的遺物が発見され博物館に寄贈されると、それは博物館の所有物となる。その時点で、会計上の考え方では、収蔵品にその時点での価値が付与されなければならない。しかし、収蔵品には学術的に意味のある名称が付与される必要がある。さらに、発見された年代や場所を特定し、学術的な情報を含めると、名称を含めた学術情報の付与には数か月から数年かかることもある。こうした情報のない収蔵品には、本質的に価値がない。つまり、博物館の収蔵品が博物館の所有物となった瞬間から意味を持たせようとしてもかなりの期間の「暫定的な期間」が存在する。これを「グレーゾーン期間」と呼ぶことにしよう。そうすると、実際に会計情報が付与されるまでの「グレーゾーン期間」を会計学的にどう考えるのかといった問題も生じる。このことはすべての寄贈品について言えることであり、情報遅滞可能性ということができる。本研究調査から明らかになったことは、購入したものも含めれば、価格情報が付加される方が時間的に早く、学術情報が付加されるのは最後の段階であるが、モノによっては名称そのものが最後に付加されるため、完璧な会計情報として計上されるのは、博物館が当該収蔵品を取得後、数年を有することもある。博物館Cでは、近年においては、寄贈者が税制優遇を受けるための寄贈額の決定を外部の委員による専門家委員会で行っているというが、過去のものについてはそこまで対応が取れていない。 また、特定のコレクションについては会計上の目的外で資産の評価が求められる場合がある。例えば、他の博物館に作品を貸し出す際の保険金額の算出などである。しかし、これらは特定の目的のために使用されており、博物館は文化遺産の価値を測ることの一般的な目的ではなく、特定の目的のためにのみ必要な状況が誕生している。そして、これらの価格が帳簿価格と一致するとは限らない。言い換えれば、このような特殊目的価値は、「保存の価値」でもなく「会計価値」でもない。 4 不可欠特定財産とディアクセッション 博物館の収蔵品は社会から受託しているだけであって、博物館の所有物ではないという考え方が博物館学にはあって、だからその保管・取り扱いには細心の注意(法的には「善管注意義務」となるだろう)が必要であるという考え方である。しかし、実態としては収蔵品を博物館が所有しているために、いわゆる「ディアクセッショ ン(deaccession)」(収蔵品処分)が行われている。「ディアクセッション」については、倫理的に避けるべきだという考え方がある。「ディアクセッション」が規制されている場合と、全く自由な場合とがある。この点からも博物館の収蔵品は少なくとも「保存性収蔵品」と「売却可能性収蔵品」の二種類が存在することが明らかである。これらは会計にどのような影響があるかという問題も浮かび上がってくる。 日本においては、公益法人の博物館には処分に制限のかかる「不可欠特定財産」 3) という概念がある。これは、公益目的事業を行うために不可欠な特定の財産で、その旨ならびにその維持および処分の制限について、必要な事項を定款で定めている財産のことである。具体的には美術館における美術品などがある。 以上のことを勘案すると、博物館には、保存することが期待されている収蔵品(保存性収蔵品)とディアクセッションの対象となりうる収蔵品(売却可能性収蔵品)が混在していることがわかる。 そこで、債券に満期保有目的の債券と、それ以外の債券の取り扱いを変えているように、博物館の収蔵品についても、ディアクセッションの対象に完全に自由となる収蔵品がありえるのか、仮にありえた場合には、「公正な評価額」による資産評価は会計的に必要とされるだろうが、そもそもディアクセッションの対象にはなりえない収蔵品については、「公正な評価額」による資産評価をしなければならないという論理は出てこないであろうし、保存に関わる将来の費用が明確に想定されている場合には、そもそも「資産」なのか「負債」なのかという、Mautz的課題が浮かび上がってくることが明らかになった。 5 備忘価格の跳梁 本研究調査で明らかになったことは調査対象博物館は贋作の価格表示を掲載していた博物館Fを除き、寄贈された収蔵品に対して全ての博物館は「備忘価格」を用いていることである。すべてを備忘価格にしているわけではないにしろ、「備忘価格」を使わざるを得ない。備忘価格は、もともと、実質的に経済的価値を失った資産に対して付されたものである。具体的には、減価償却処理を終えたけれども実在し続けている資産を帳簿の上でも存在させ管理するための便宜的な手続きや、ハイパーインフレによって価値が甚だしく下落した有価証券などに対して適用されたものある。 本来このような状況で使用された備忘価格であるが、例えば、「統一的な基準による地方公会計マニュアル」においては、「遺跡から大量に出土した物等、資産価値の把握が困難な場合に、地方公共団体の判断により備忘価額 1 円とすることも考えられます」と、会計的評価が不能な場合に備忘価格を付すことを容認する会計基準等もある。本調査からわかることは、「公正な評価額」で全てを評価できている博物館は一つもないということである。実はこの点で「比較可能性」という考え方はすでに維持できなくなっている。 文化遺産に備忘価格による評価を多用せざるを得ない現実は、それが非償却性資産であるからだという理由から適切だと言いがたいだけでなく、そもそも、文化遺産を会計的に認識すべきか、すなわち、貨幣的評価をするべきかという議論にも通じる論点である(Carnegie and Kudo 2023)。 6 無限大資産 また、現実を直視した時に、博物館には、「比較してはならない資産」がある。 世界の宗教は様々であり、それぞれに神がおり、それぞれに崇高なものである。この崇高なものに関する御物に対して、「Aという神の御物が100という価値で、Bという神の御物が120」というような価値を付けることは、宗教戦争を誘発しかねない。 すでにオーストラリアでは似たような現象が生じている(Ferri, et al. 2021)。 このような資産は、評価が不可能だからという理由で価格設定ができないということではない。神のものであり将来売却の可能性もないのであれば、そもそも価格を付すべきではない。評価をすることが比較可能性に基づくものであれば、まさにフッサール現象学的に言えば、比較するという事象そのこと自体を見た時に、比較してはならないことに容易に気が付くであろう。その評価禁止性に基づき、会計的測定をしてはならないものであると考える。それでもあえて財務諸表に掲載し、何らかの価格を表記するとするなら、「無限大資産」(Infinity Assets」)という呼称で、会計的測定を回避することが必要である。 無限大資産については、固定資産台帳や財産目録には「∞」で表記することを提案したい。 Ⅴ 結論 世界的に保存しなければいけない文化遺産を博物館が所有するときに、現象学とフィールドワークを組み合わせたCACROS法によって再検討すると、企業会計というバイアスのかかった論考とは異なる上記の様々な観点が浮かび上がってきた。公益法人会計基準の「交換、受贈等によって取得した資産の取得価額は、その取得時における公正な評価額とする」という点はこうした論考を経ることなく、定められた結果、現場においては、全く遵守されておらず、遵守させることも不可能に近い。遵守させるには、「公正な評価額」の定義を企業会計と異なるものとするか、会計基準そのものを書き換える必要がある。博物館にとって、債券が満期保有目的債券か否かという以上に、保存用資産なのか売価可能な資産なのかという点を区分することの方が極めて重大である。企業会計の考え方を安易に持ち込むことは「ビジネスセントリズム」(出口・藤井 2021)になりかねず、博物館の機能、目的にそって、フッサール現象学の「事象そのものへ」という立ち位置に立ち返って、公益法人会計基準等やIPSASBの再検討を加えることが必要と考えられる 4) 。 [謝辞] 本研究は 科研費基盤研究(B)23K22019の助成を受けて実施した。また、本研究は、尾上選哉(日本大学・会計学)、五月女賢司(大阪国際大学・博物館学)、藤井秀樹(金沢学院大学・会計学)、栗原祐司(国立科学博物館)各氏にも有益な助言を頂戴した。ここに謝意を表したい。 [注] 1) 本稿で「非営利組織」というときは、企業会計との対比を考えているので、国公立の博物館も含めて言う。非営利法人で博物館を所有するのはほとんどが公益財団法人であるの で、タイトルでは公益財団法人と公的機関の博物館としている。 2) CACROS調査の実施にあたっては博物館側の協力が必要であり、収蔵庫を含む研究者が見たい箇所を全て見せてもらえるフィールドワークを「完全な形でのCACROS調査」と呼ぶことにする。また、「ラポール」のもと 研究者の望むものをほとんど見せてもらえた 場合を「本研究調査」として区別している。「完全な形でCACROS調査」が可能だったのは 1 博物館のみである。CACROSには強く賛同いただけるものの、収蔵庫を見せたり、公開資料以外の会計情報を提示させたりすることには多くの博物館の協力は得られなかった。そこで本稿では、「完全なCACROS調査」、「本研究調査」と呼び、両調査のCACROS法によって本報告を実施した。 3) 不可欠特定財産とは、法人の目的、事業と密接不可分な関係にあり、当該法人が保有、使用することに意義がある特定の財産をさす。 例えば、一定の目的の下に収集、展示され、再収集が困難な美術館の美術品、歴史的文化的価値があり、再生不可能な建造物等が該当する。公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年法律第49号)第5条 19号 4) 現在、検討されているIFR 4 NPOによる国際非営利会計基準(the International Non-Profit Accounting Standard(INPAS))についても同様のことが指摘できる。 [参考文献] 出口正之・藤井秀樹編[2021]『会計学と人類学のトランスフォーマティブ研究』、清水文堂書房。 日本公認会計士協会[2019]「非営利組織における財務報告の検討〜財務報告の基礎概念・ モデル会計基準の提案〜」、 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- ≪査読付論文≫離島航空におけるソーシャルキャピタルの経済評価
PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 高崎経済大学教授 小熊 仁 キーワード: 離島航空 ソーシャルキャピタル 仮想評価法(Contingent Value Method: CVM) 支払い意思額(Willingness to pay:WTP) ランダム効用モデル 生存分析モデル 要 旨: 本論文では、航空サービスにより創出されるソーシャルキャピタル(Social Capital:以下SCと呼ぶ)の経済価値を計測するため、那覇~与論線を対象にCVMに基づき評価を行った。その結果、同路線では少なくとも年間約200~250億円のSCが生み出されており、このうちブリッジング型のSCは全体のおよそ70%、残る30%はボンディング型のSCによって占められていることがわかった。また、これらの価値には航空サービスの利用回数や職業の有無など様々な個人属性や個々のSC変数が反映されており、航空サービスが地域間交流や社会活動への参加をはじめ地域に多様な機会を創出していることが明らかになった。 構 成: Ⅰ はじめに Ⅱ 分析の枠組みと分析対象路線の概要 Ⅲ アンケート調査の内容と分析方法 Ⅳ 分析結果と考察 Ⅴ まとめと分析課題 Abstract This study evaluated the monetary value of Social Capital(SC)stemming from air service on the Naha-Yoron route based on the Contingent Value Method. Results revealed that the Naha-Yoron route generated SC of at least 20 to 25 billion yen annually. Of this amount, bridging SC accounted for approximately 70% of the total, and the remaining 30% comprised bonding SC. Moreover, these values reflect various personal attributes, such as the frequency of air travel and employment status, as well as individual SC variables. This study also clarified that air travel creates a variety of opportunities in the community, including inter-communal exchange and participation in social activities. ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ はじめに 1 本論文の問題意識 人口減少や慢性的な労働力不足により、離島航空は厳しい経営を余儀なくされている。しかし、離島航空は離島の社会生活基盤を確立する上で必要不可欠な手段であることから、サービスの衰退は日常生活や離島の社会経済全般に大きな影響をもたらす。したがって、このような離島航空の便益を評価するにあたっては、移動時間の短縮や旅行費用の減少といった直接的な便益ばかりではなく、生活利便性の向上や交流圏の拡大など地域社会に与える多様な便益を含めながらこれを把握していく必要がある。 ソーシャルキャピタル(Social Capital:以下SCと呼ぶ)とは人々の協調活動を活発にすることにより、社会の効率性を高める信頼・規範・ネットワークを意味し(Putnam(2000))、犯罪抑制、 防災、健康増進、経済成長をはじめ地域社会に様々な便益を及ぼす。そして、このような人と人との関係によって生み出される便益は交通サービスとも密接に関わっており(宇都宮(2019))、例えば、Bradbury(2006)は、交通サービスが人々に移動機会を提供し、人的交流や社会活動への参加を創出するための媒体として機能すると指摘している。 また、Kamruzzaman, et al.(2014)は、交通サービスが地域社会にモビリティの向上と交流機会の増加を生み出し、地域における交流ネットワークの強化に貢献するとしている。 Schwanen, et al.(2015)は、交通サービスを通した人的交流や社会活動への参加がSCの蓄積につながり、これによって社会的包摂(Socialinclusion)の実現や地域の活力向上といった便益が創出されると述べている。 このように、交通サービスは人的交流や社会活動への参加の機会を提供し、SCの醸成に寄与する。とりわけ、離島航空のように地域間交流や各種社会活動への参加に欠かせないサービスにおいては、サービスの存在そのものがSC形成の基盤となり、QOLの増進や生活満足度の改善をはじめ広範な便益を創成する可能性がある 1) 。 2 先行研究の整理と本論文の目的 従来、交通サービスとSCの関係をめぐっては、交通空白地域における公共交通サービス開設・再生にかかる住民の支援意識とSCの関連について検証した谷内ら(2009)、都道府県別のマクロデータを利用し、公共交通の利用とSCの関係を明らかにした宇都宮(2016、2019)、豪・ビクトリア州のバスサービス整備に伴う住民の主観的幸福感とSCとの関連を分析したStanley, et al.(2019)、コロンビア・ボゴタ市における次世代都市交通システムの開設が住民の移動手段の選択やSCの醸成に与える効果を考察したGuzman, et al.(2023)らの研究がある。 その一方で、離島航空については長崎~小値賀・上五島線運航休止後の空港の利活用策を考察した松本(2007)、航空会社に対するヒアリングに基づきその現状と経営改善に向けた対策を提起した福田(2010)、那覇~徳之島線の運航休止要因と航空会社の経営改善策を提案した宗田(2014)、熊本~天草線・長崎~五島福江線を対象に需要特性や需要喚起策を検討した後藤ら(2021)などの研究が存在する。しかし、前者は交通サービスの運用や再生に対する住民の意識とSCとの関連性に着目した研究が多く、交通サービスによってどの程度のSCが生み出されているのかについてはあまり検証が行われていない。また、後者はヒアリングや事例調査等を通しサービス維持の方向性や経営改善策を提案した研究が中心であり、SCとの関係性にかかる検討やその定量的把握はほとんど試みられていない。 このことから、本論文では離島航空を対象に交通サービスにより創出されるSCの定量的評価を行う。具体的には、那覇~与論線を対象に仮想評価法(Contingent Value Method:以下CVMと呼ぶ)に基づくアンケートを試み、ランダム効用モデルと生存分析モデルという2 つの分析モデルをもとに航空サービスが創出するSCの経済価値を推計することが目標である。 なお、本論文と同様の枠組みを利用し鉄道駅開設に伴う経済価値とその価値構成を評価した研究として小熊(2021)、沖縄離島における航空サービスの経済価値と価値構成を評価した研究として小熊・西藤・引頭・福田(2023)などがある。だが、小熊(2021)や小熊・西藤・引頭・福田(2023)は鉄道駅や航空サービスの存在が利用者や住民に及ぼす存在効果の計測に主眼を置いた研究であり、航空サービスによって創出されるSCの経済価値を評価したものではない。 さらに、複数のモデルを用いた価値の推計は試行されておらず、異なる視点と分析手法をもとにSCの経済価値を明らかにする本論文とは目的が異なる。 Ⅱ 分析の枠組みと分析対象路線の概要 1 分析の枠組み SCのような無形、かつ非市場財としての特性を有する資本の経済価値を定量的に評価することは困難である。しかし、Cordes, et al.(2003)、Powdthavee(2007)、Huang & Helliwell(2010)、 Colombo & Stanca(2014)、Orlowski & Wicker(2015)などは、環境経済評価や公共事業評価においてしばしば用いられるヘドニック法やCVM等を利用しその経済価値を計測している。例えば、Cordes, et al.(2003)は米国・ネブラスカ州ニルバーナ地域の1,569世帯を対象にCVMを用いて、居所からの「引っ越し(Move)」に伴う人的交流・社会活動の機会損失に対する受入補償額(Willingness to accept:以下WTAと呼ぶ)を質問し、ランダム効用モデルに基づきSCの経済価値を推定している。これに対し、Powdthavee(2007)やHuang & Helliwell(2010)などは、主観的幸福感は所得やSCによって反映されるという「ヘドニック仮説」を応用しながら、前者を被説明変数、後者を説明変数とする幸福度関数を推計し、これをもとにSCの経済価値を推計している。 宇都宮(2019)によると、SCは人的交流や社会活動への参加等をはじめ地域社会の構造、住民構成、教育など幅広い要素から創出される。このため、ヘドニック法による計測では分析に含まれない多くの外生変数による「見せかけの相関」が生じ、推計結果にバイアスが発生する可能性がある。他方、CVMも質問の設定や支払い手段の提示方法などにより様々なバイアスが生じ、推計精度が低下するという問題が存在する。 ただし、シナリオに工夫を加え、バイアスを除去していけばある程度信頼性の高い結果を導出することが可能である。このことから、本論文ではCVMを利用し離島航空がもたらすSCの経済価値を評価し、SCの性質別ごとの評価構造の違いについて明らかにしていく。 2 分析対象路線の概要 与論島は沖縄本島北部の辺戸岬から北東28kmの距離に位置する人口5,115人(2024年10月現在)の島であり、鹿児島県最南端の離島である。周囲には北東70kmに沖永良部島、さらにその30km先には徳之島が位置し、その地理的近接性から沖縄本島の文化が色濃く残る島である。島の交流圏は奄美群島よりも沖縄本島との結びつきが強く、買い物・通院の日常用務から進学・就職等に至るまで沖縄本島への依存が高い。また、同島は沖縄本島からの離島観光地としても人気を誇っており、夏季、ならびに秋季・冬季のイベント開催時には県内外から多数の観光客が訪れる。 本論文において分析対象とする那覇~与論線は南西航空(現:日本トランスオーシャン航空)初の県外路線として1978年 8 月から運航が始まり、1997年 4 月以降は琉球エアーコミューターが毎日 1 往復運航を行っている(夏季は 2 往復に増便:所要時間40分)。さらに、2022年 7 月からは日本エアコミューターが「奄美群島アイランドホッピングルート」の 1 つとして奄美~与論~那覇~奄美路線を開設し、現在は 1 日1.5往復(夏季は2.5往復)の運航がある。2023年度の利用者数は 4 万6,710人であり、平均ロードファクター(座席利用率)は81.0%にも上る。その一方で、同路線は航行距離231kmの短距離路線であり、空港滑走路長の関係上、小型機のみの就航に限られることから、輸送効率が低いという制約がある。このことから、国による租税公課の減免や鹿児島県奄美地域離島航空路線協議会による「地域公共交通確保維持改善事業」など様々な支援制度を活用しながらサービスが維持されている。 なお、与論島と沖縄本島の間には那覇~与論線以外にもマリックスライン、マルエーフェリーのフェリー会社 2 社による那覇~本部~与 論~沖永良部~徳之島~鹿児島航路がある(毎日 1 往復運航:那覇~与論所要時間 3 時間)。しかし、所要時間の問題からフェリーによる往来は 26.4%に止まっており、一般的な移動は航空サービスによって賄われている 2) Ⅲ アンケート調査の内容と分析方法 1 アンケート調査の概要 本論文では、離島航空がもたらすSCの経済価値を計測するため、与論空港の利用者に対しCVMに基づくアンケートを行った。アンケー トは2023年 9 月 6 日(水)~9月8日(金)の 3 日間にわたって実施し 3) 、与論空港ターミナルビルにおいて質問票と返信用封筒が入った封筒を直接配布し、後日郵送回収するという手続きをとった。アンケートの調査項目には①那覇~与論線の片道 1 便増便実現に対する支払意思額(Willingness to pay: 以 下WTPと 呼ぶ) 4) 、 ② WTPに占めるSCの構成要素、③個人属性、④航空サービスの年間利用回数、⑤SCの蓄積状況、⑥地域愛着の程度、⑦暮らし向きの水準にかかる質問が含まれており、 3 日間合計で500部配布した( 表 1 )。 このうち、①那覇~与論線の片道 1 便増便実現に対するWTPとはサービスの仮想的な環境変化に対し効用水準を得るためのWTPをあらわし、那覇~与論線がもたらす経済価値を推計するための質問である。本論文では 図 1 の通り那覇~与論線が現状の 1 日1.5往復から 2 往復に増便されるという仮想シナリオを設定し、これを実現するために既存の運賃に対しどの程度上乗せして支払う意思があるかを尋ねる「追加負担方式」によって 1 便・ 1 人あたりの経済価値を把握することにした 5) 。 その一方で、WTPの回答にあたっては、戦略バイアスや仮想バイアスの少ない二段階二項選択方式を採用し 6) 、提示された初回提示額(T)について賛同すると回答した場合にはもう 1 段階高い金額(TU)を提示し、賛同しないと回答した場合には初回提示額よりも 1 段階低い金額(TL)を示した。提示金額は【パターン①】500円(T)-1,000円(TU)-250円(TL)、【パター ン②】1,000円(T)-1,500円(TU)-500円(TL)、 【パターン③】1,500円(T)-2,000円(TU)-1,000 円(TL)の 3 つのパターンを用意し、各パターンをランダムに均等配布し質問を試みた。 続いて、②WTPに占めるSCの構成要素に関する質問では、提示金額に対しYY(TとTU両方に賛同)、YN(Tのみ賛同)、NY(TLのみ賛同)と回答した被験者に対しWTPに占めるSC構成要素の割合について全体が100%となるよう質問を行った。ここではStanley, et al.(2019)や宇都宮(2016)などに従い、SCをボンディング型とブリッジング型に区別し 7) 、SCの構成要素を計測するための代理変数として 図 2 に示す質問を作成した 8) 。 また、SCの構成要素と各種便益の重複計上を避けるため、利便性の向上やその他の効果にかかる回答欄も追加した。調査の結果、アンケートの回収部数は139部であり(回収率27.8%)、このうちSCの経済価値を把握する上で有効なサンプルは137部であった。 表 1 アンケートの概要 出所:筆者作成 図 1 WTPの質問 出所:筆者作成 図 2 SCの構成要素に関する質問 出所:筆者作成 2 分析方法 二段階二項選択方式によって得たWTPを用い、財・サービスの経済価値を推計する方法は、累積分布関数に対数ロジスティック分布を仮定したランダム効用モデルとワイブル分布を仮定した生存分析モデル、対数正規分布を仮定した支払い意思額関数モデルの 3 つがある。本論文では経済理論との整合性が高く、既往研究でも頻繁に利用されるランダム効用モデルと、柔軟でモデルの当てはまりが良いとされる生存分析モデルの 2 つのモデルを用いて推計を行った。推計にあたっては、まずアンケート調査によって得た回答結果のうち、WTPに対して影響を与える要因として、個人属性とSC属性を抽出した。前者は、男性ダミー、年齢、1 か月あた り航空サービス利用回数、職業ダミー、島外利用者ダミー、地域への愛着ダミー、暮らし向きダミーの 7 つの変数である。 後者は、古川・橋本(2010)を参考に、8 項目・ 5 件法により質問したSCの蓄積状況に対する回答結果から因子分析を行い(主因子法・バリマックス回転)、これによって抽出された 3 つの因子を「信頼」・「規範」・「ネットワーク」とした( 表2 )。そして、これらの 3 つの因子についてサンプル別に導出された因子得点をSC属性としてそれぞれ分析に加えた。これらの属性を加えた理由は、Jones, et al.(2015)らによって指摘されているように、SCの経済価値は被験者がもともと有するSCの蓄積状況と密接に関係し、WTPの程度を左右する可能性があるからである。 続いて、以上の要因を説明変数とし、下記のランダム効用モデルと生存分析モデルによりWTPを推計した。 Tは提示金額、xは属性ベクトル、βとσは係数、αは定数項である。推計にあたっては最尤法を用い、p値が有意にならず、データの信頼性に欠ける説明変数を削除しながらAIC(赤池情報量規準)が最小となるモデルを利用しWTPの平均値と中央値を推計した。 ところで、有効回答サンプルのなかには「抵抗回答」と「温情効果」に該当するサンプルが含まれている。前者は対象財・サービスに対し価値を認めているにもかかわらず、支払い手段やシナリオの内容に納得できない等の理由で回答を拒否したサンプルを指す。後者は、対象財・サービスへの支払い行為そのものに対する満足感・義務感を理由としてWTPを表明したサンプルをあらわす。これらはいずれもWTPの過大(過小)評価をまねくことから、分析対象から除外し分析を試みる必要がある。本論文では、はじめに抵抗回答に該当するサンプルとして「質問の仮定が受け入れられないから」と回答した 3 サンプルを抵抗回答とみなし、これを除外して分析を行った。 次に、温情効果にあたるサンプルはWTPを表明した理由として「支払うことに満足感がある」「支払わなければならない義務感がある」と回答した52サンプルが該当する。これらのサンプルは、航空サービスに対する支援意識や島への帰属意識など様々な要素からWTPの表明に至ったサンプルであり、サービスに対する純粋な評価を示したものではないため、分析対象に含めない方が望ましい。しかし、本論文の目的は航空サービスにより創出されるSCの経済価値を評価することにあり、航空サービスその ものに対する経済価値を推計することが目標ではない。また、SCという財の特性上、こうした共感やコミットメントを含めて評価を行わないと、かえって過小評価に結び付くおそれもある。このことから、本論文では、温情効果を含めた134サンプルとこれを除いた82サンプルのWTPを同時推計し評価を行うことにした。 表 3 は基本統計量を示したものである ⑴ ランダム効用モデル ⑵ 生存分析モデル 表 2 SCの蓄積状況に関する質問と因子分析の結果 出所:筆者作成 表 3 基本統計量 出所:筆者作成 Ⅳ 分析結果と考察 1 分析結果 表 4 と 表 5 はAIC最小モデルに基づくWTPの推計結果を示したものである。温情効果を含む場合も除外した場合もランダム効用モデルと生存分析モデルとの間に差はさほど生じていない。しかし、モデルの適合度については後者の方がやや良好な結果をあらわしている。 はじめに、温情効果を含むサンプルで分析した結果では、ランダム効用モデルで 1 便・ 1 人あたり平均1,422円(中央値2,046円)、生存分析モデルで1,421円(中央値2,000円)のWTPが導出された。他方、温情効果を除いたサンプルでは、ランダム効用モデルで 1 便・ 1人あたり平均 1,182円(中央値1,447円)、生存分析モデルで1,212 円(中央値1,404円)のWTPが計測された。 次いで、これらの値を利用しアンケートで回答があったSC要素の構成比の平均を乗じ、 1 便・1 人あたりに含まれるSC要素の経済価値を評価した。その結果、温情効果を含むサンプルではランダム効用モデルで831.9円(中央値1,196.9円)、生存分析モデルで831.3円(中央値 1,170.0円)の価値が推計された。これに対し、温情効果を除いたサンプルでは、ランダム効用モデルで646.9円(中央値791.9円)、生存分析モデルで663.2円(中央値768.3円)となった。SC要素の構成比をみると、いずれのモデル・サンプルにおいてもネットワーク(ブリッジング型)が全体の約60%を占め、ネットワーク(ボンディング型)は30%、規範(ブリッジング型)は10%強となった。このことは、那覇~与論線が島内外の知人・親族との交流を推進するのみならず、様々な人的交流や社会参加を促す手段として機能していることを示唆している。 最後に、被験者のWTPに影響を与える要因を明らかにするために、AIC(赤池情報量規準)が最小になるよう、個人属性変数とSC属性変数を選択し分析を行った。その結果、温情効果を含むサンプルでは両モデルともに 1 か月あたり航空サービス利用回数、職業ダミー、島外利用者ダミー、因子得点(ネットワーク)、温情効果を除くサンプルでは両モデルで職業ダミー、生存分析モデルにおいては年齢が有意水準を満たしていることがわかった。ただし、後者のサンプルは前者に比べ標本数が小さく、推計精度が低下している可能性があることから、ここでは前者の解釈のみを示すことにする。 はじめに、 1 か月あたり航空サービス利用回数はランダム効用モデルでは 5 %有意水準、生存分析モデルでは10%有意水準で係数が負の値をあらわした。那覇~与論線の運航頻度は 1 日 1.5往復に限られており、1 便あたりの平均搭乗率も80.0%(2023年度)に上る。このため、予約時には既に満席となっている場合が多く、利用に制限を受ける場合が多い。このような利用機会の制約と増便を求める意向がWTPの表明につながったと判断される。 続いて、島外利用者ダミーは、両モデルともに10%有意水準で係数が正の値をあらわした。(一社)ヨロン島観光協会に対するヒアリング調査によれば、2023年度における与論島の観光客数は6.4万人に上り、航空による来訪者の47.3%は那覇~与論便を利用している。その一方で、サービスの運航頻度は少なく平均搭乗率も高いため、増便による来訪機会の増大を望む声が強い。こうした意識が評価に反映されたものと推察される 9) 。 次に、職業ダミーはランダム効用モデルにおいては 5 %有意水準、生存分析モデルにおいては 1 %有意水準で係数が正の値を示した。これはJones, et al.(2015)らの先行研究において指摘されているように、WTPの多寡は所得の程度に左右され、これを多く得る有職者ほど高いWTPを表明しやすいことを裏付けるものである。また、因子得点(ネットワーク)は両モデルにおいて10%有意水準で係数が正の値を示した。島内外の様々な人的交流や社会参加を志向する被験者ほどWTPを表明している可能性があり、航空サービスが移動手段としてのみならず、これらを実現する上で必要不可欠な役割を果たしていることの証左であると考えられる。 表 4 分析結果(温情効果を含む) (注)*:p<0.10、**:p<0.05、***:p<0.01 出所:筆者作成 表 5 分析結果(温情効果を除く) (注)*:p<0.10、**:p<0.05、***:p<0.01 出所:筆者作成 2 考察 ここまで見てきたように、那覇~与論線が 1 便・ 1 人あたりのSC創成にもたらす経済価値は、温情効果を含む場合で831.3~1,170.0円、含まない場合で646.9~791.9円に上ることが明らかになった。そして、このうちボンディング型は温情効果を含む場合で251.5~362.1円、含まない場合で203.1~248.6円、ブリッジング型については温情効果を含む場合で579.8~834.8 円、含まない場合で443.8~543.8円であることが判明した。 その一方で、これらの価値には航空サービスの利用回数をはじめとする個人属性やSC要素など様々な要因が反映されており、航空サービスが地域間交流や社会活動への参加を含め地域に多様な便益を生み出す役割を担っていることもわかった。仮に、これらの平均値・中央値を代表値とし、那覇~与論線の年間平均利用者数と年間運航回数を乗じると、温情効果を含む場合で約247~356億円(うちボンディング型75~108億円、ブリッジング型172~248億円)、含まない場合で192~235億円(うちボンディング型60~74億円、ブリッジング型132~161億円)となり、少なくとも年間およそ200~250億円前後のSCが那覇~与論線によって創出されていることになる( 表 6 )。 離島航空をめぐる経営は厳しく、今後も人口の減少や少子高齢化がいっそう進展することから、国や地方自治体等の支援なしに運航を維持することは困難である。航空サービスを取りやめ、フェリーで代替させるべきとの見解も存在するが、航空サービスはフェリーと異なり、迅速、かつ安定的な移動を確保できる手段であることから、地域社会の人的交流や社会活動への参加を推進する上で欠かせないものである。 本論文では、CVMを適用することにより離島航空が創出するSCの定量的評価を試み、直 接的な便益のみでは測ることができない特有の効果について計測を試行した。もっとも、SCにはその結びつきの強さから排他性をもたらし、その一方で、外的志向の高さゆえに人間関係の希薄さを生み出すという問題がある。しかし、両者が均等に蓄積されることにより地域社会に多種多様な便益を生み出す可能性がある。 このようななか、那覇~与論線はブリッジング型を中心としたSCの創成に貢献しており、導出された経済価値は利用者の交流ネットワークの価値をあらわすと同時に航空サービスの社会的貢献度を示しているとも言い換えられる。このことから、国や地方自治体はこれらを参考に引き続き航空サービスに対する支援のあり方について検証していくとともに、地域においても今一度航空サービスの価値について問い直す必要がある。 なお、本論文において提示した経済価値は温情効果を含む場合と除外した場合でやや評価に相違がみられる。また、平均値と中央値のいずれを採用するかによっても評価結果に差が生じる。いずれの視点から評価を行うべきかに関しては議論が分かれるところであり、今後の検討課題としたい。 表 6 那覇~与論線がSC創出にもたらす総経済価値 出所:筆者作成 Ⅴ まとめと分析課題 本論文では、那覇~与論線を対象にCVMによるアンケート調査を行い、離島航空がもたらすSCの経済価値を計測した。これにより、那覇~与論線は年間約200~250億円前後のSCを創出し、地域社会に様々な便益をもたらす可能性があることがわかった。 最後に、本論文の分析課題について述べる。第 1 に、信頼により創出される便益の計測である。本論文ではこれを規範・ネットワークの形成に基づき創出される便益とみなし、推計の対象に含めなかった。しかし、離島航空を含め交通サービスは他者との移動を伴うため、利用時の人的交流等を通し利用者相互間の信頼やこれによる何らかの便益が生じていることは否定できない。 第 2 に、温情効果の取り扱いである。本論文ではSCという財そのもの特性から、この効果を含めた場合と除外した場合の 2 つについて評価を試みた。温情効果が評価に与える影響は決して少なくはなく、いずれによって評価すべきかについては検討の余地がある。 第 3 に、与論島住民を対象とした調査である。那覇~与論線はサービス利用者のみならず、その潜在的利用者としての住民のSC形成にも寄与している可能性がある。第 4 に、有効サンプル数の確保である。本論文では離島という利用者が限られた環境のなかでアンケートを行ったため、やや限定的な範囲内での推計に止まった。以上については今後の分析課題としたい。 [注] 1) (公社)非営利法人研究学会(2022)によると、SCは水平的ネットワークとしての①ボンディング型(Bonding Social Capital)と②ブリッジング型(Bridging Social Capital)、垂直的ネットワークとしての③リンキング型(Linking Social Capital)に区別され、その構成要素として①では地縁団体やサークル、同窓会、②ではNPOや市民活動団体等のネットワーク、③では中間支援組織などが取り上げられている。本論文はこれらの組織活動から創出されるSCを直接評価するものではなく、むしろ交通サービスを通しこのような活動への参加機会を提供することによって、どの程度のSCが間接的に生み出されるのかを検証するものである。したがって、本論文は本学会の研究対象とされる非営利法人等の活動参加に向けた媒体として交通サービスがどの程度の役割を果たすのかについて、とくにSCに着目しながら評価するものである旨、あらかじめ断っておきたい。 2) (一社)ヨロン島観光協会に対するヒアリング調査資料による。このほか、与論空港には日本エアコミューターによる鹿児島~与論線が 1 日 1 往復運航されている(所要時間 1 時間30分)。 3) 国土交通省「航空輸送統計調査」によれば、2023年度における那覇~与論線の月別利用者数は2,459( 2 月)~5,255人( 8 月)と月ごとに大きく異なる。とくに、 5 ~10月の海水浴シーズンと11月の与論マラソン開催時には県内外から多くの観光客が訪問するため、アンケートの時期によっては被験者がこれらに偏り、推計結果にバイアスが生じる可能性がある。実際のところ、本論文によるアンケート調査においても被験者の74.8%が島外居住者によって占められており、これが分析結果に与える影響は大きい。しかし、(一社)ヨロ ン島観光協会に対するヒアリング調査によると、与論空港利用者の島外居住者と島民の構 成比は年間を通し概ね本論文と同一とのことであり、推計にあたってこうした選択バイア スは発生していないものと考えられる。 4) CVMに基づき対象財・サービスの経済評価を試みる際の質問方法は対象財・サービスの 環境が悪化した場合、元の効用を得るために 必要なWTAを尋ねる方法と対象財・サービ スの環境が改善した場合、その効用を得るためのWTPを尋ねる方法の 2 つがある。しかし、WTAは被験者の抵抗や「戦略バイアス(意図的に過大(過小)なWTPを表明しWTPに歪み が生じる)」をまねく可能性が高いため、本論文では那覇~与論線片道 1 便増便という仮想的な環境変化に対しどの程度のWTPを有するのかについて尋ねることにした。 5) このほか、WTPの質問方式には①税金方式、 ②寄附金方式、③負担金方式、④私的財方式 などがある。しかし、税金方式と負担金方式は被験者の心理的抵抗が強く、有効回答の減少につながるおそれがある。また、寄附金方式や私的財方式は寄附の対象や代替財を明確に設定しないと回答結果にバイアスが発生する可能性がある。本論文で採用する追加負担 方式も被験者ごとに航空運賃が異なる理由から、WTPの過大(過小)評価が生じるリスク が存在する。ただし、琉球エアーコミューターや日本エアコミューターを含む日本航空グ ループの運賃は予約日時や空席状況によって異なるものの、割引率は通常 5 %以内に止め られており、被験者の航空運賃に大きな差異はないものと考えられる。このことから、本 論文では被験者の心理的抵抗や回答結果のバイアスが少ない追加負担方式を採用し、被験 者のWTPを把握することにした。 6) WTPの回答にあたっては、二段階二項選択方式以外にも被験者に自由にWTPを記入し てもらう「自由回答方式」や複数の選択肢のなかから自由に金額を選択してもらう「支払 いカード方式」などがある。しかし、これらの方法では戦略バイアスや「仮想バイアス(実際に表明したWTPを支払う必要がないことからWTPを過大表明しWTPに歪みが生じる)」を生起させ得る可能性が高くなることから、本論文では二段階二項選択方式により、被験者のWTPを把握している。 7) ボンディング型SCとは、島内・島外に住む家族、親戚、友人など同質的な組織や人々との結びつきを意味し、ブリッジング型SCは島内・島外の見知らぬ人等との異質的な結びつきをあらわす。SCはこのような同質性と多様性という 2 つの側面を持ち、これらは区別しながら議論することが多いことから、本論文でも両者を分けてそれぞれの経済価値を把握することにした。 8) ここではSCを構成する信頼、規範、ネットワークという 3 つの要素のうち、信頼についてはボンディング型もブリッジング型ともに航空サービスによって直接創出されるものではなく、サービスの存在により規範やネットワークが醸成された結果として生み出される ものであることから、評価対象から除くことにした。また、規範(ボンディング型)は自治会や町内会など地縁的な活動への参加等を背景に創出されるが、これらに対し航空サービ スが貢献するケースは想定しにくい。さらに、お祭りやイベント、ボランティア、サークルへの参加は組織内におけるボンディング型の規範形成を促す可能性があるが、これらは航 空サービスよりもむしろサービスの提供による結果として生み出されるため評価の対象か ら除いている。 9) なお、航空サービスの利用回数が相対的に少ない島外利用者の意向が 1 か月あたり航空利用回数に影響を及ぼし、多重共線性の問題を引き起こしている可能性があることから、両者の相関係数を導出したところ、r=-0.02 となり両者の相関は確認されなかった。また、 ここで用いた全ての変数についてVIFを推計したところ、いずれもVIF<10となり多重共線性の問題は生じていないことがわかった。 [参考文献] Bradbury, A.(2006), “Transport, mobility and 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- ≪査読付論文≫Webサイトによる情報開示が文化芸術団体の寄付金収入に与える影響
PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 税理士、東北工業大学准教授 武田紀仁 キーワード: 寄付 文化芸術団体 Web開示 財務情報 非財務情報 要 旨: 文化芸術活動の主体となる非営利組織体(文化芸術団体)は、現代社会において重要な役割を果たしているが、財務上の脆弱性がその存在を危うくしている。先行研究では、単一の収入源への依存を避け、収入源を多様化させることで、財政危機や資金供給の中断のリスクを減らすことができると主張されてきた。本稿では、収入源のうち文化芸術団体が獲得する寄付金収入額とWebサイトを利用した情報開示の関係性について、寄付者の意思決定に影響を与える財務的要因に関する分析枠組みに基づき実証的に分析を行なった。分析の結果、寄付金収入額とWebサイトによる情報開示との間には正の関連性がある一方で、文化芸術団体ではその正の影響が緩和されていることがわかった。文化芸術団体に対する寄付等の間接的支援を推進するためには、安定性などに関する財務情報を提供するほかに、寄付者が意思決定するための追加的情報を提供する必要性がある。 構 成: Ⅰ はじめに Ⅱ 先行研究等の整理と仮説の設定 Ⅲ リサーチ・デザイン Ⅳ 分析結果及び考察 Ⅴ 結論と課題 Abstract Nonprofit cultural and artistic organizations, which play a central role in fostering cultural and artistic activities, are essential in contemporary society; however, they often face financial vulnerabilities that threaten sustainability. Previous studies have suggested that reducing reliance on a single income source and diversifying revenue streams can help mitigate the risks of financial crises and funding disruptions. This paper focuses on the relationship between income through donations received by cultural and artistic organizations and their online information disclosure practices. An empirical analysis was conducted using an analytical framework focused on financial factors influencing donor decision-making. Findings revealed a positive relationship between income through donations and the degree of information disclosure made on organizational websites. However, the positive effect was moderated within the specific context of cultural and artistic organizations. To encourage indirect support of cultural and artistic organizations, such as donations, it is recommended that in addition to disclosing financial data regarding stability, additional information be made available to facilitate donor decision-making processes. ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ はじめに 文化芸術活動の主体となる非営利組織体(以下、「文化芸術団体」といい、本稿では公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律別表第 2 号「文化及び芸術の振興を目的とする事業」に該当する法人を主たる分析対象とする。)は、現代社会において重要な役割を果たしているが、財務上の脆弱性がその存在を危うくしている。先行研究では、単一の収入源への依存を避け、収入源を多様化させることで、財務状況を安定させ、財政危機や資金供給の中断のリスクを減らすことができると主張されてきた。 また、多様化する収入源のうち民間による寄付行為に関しては、社会的価値観の多様化やデジタル技術の進展等が、文化芸術団体が市民とつながる方法に影響を与えている。従来の募金や振込等からふるさと納税やクラウドファンディング等の新たな寄付の形態が増え、市民に対するWebサイト等を利用した情報開示が重要性を増している。この点に鑑みれば、Webサイト等による情報開示が民間寄付に与える影響や有用性を評価することに意義があるだろう。 以上の問題意識のもと、本稿は、日本の文化芸術団体を分析の対象とし、Webサイトによる情報開示と寄付金収入額との関連性について実証的に分析を行った。 Ⅱ 先行研究等の整理と仮説の設定 1 文化芸術団体と民間寄付金をとりまく現状 非営利組織体の主要な活動財源又は財務的基盤として、一般的に、政府補助金又は民間寄付金等の反対給付を伴わない収入と自助努力により獲得した事業収入等が挙げられる。諸外国では、1980年代以降、政府の財政赤字による補助金の減少を理由として、文化芸術団体においても 民間寄付金に代表される税制を活用した間接的支援が多く取り入れられるようになった(Schuster [1999][2006])。 日本では、国家予算に占める文化予算の割合 は約0.1%程度であり、諸外国と比較して低い 水準にある( 図表 1 、 図表 2 )。一方、近年の民間寄付金の総額は増加傾向にあり( 図表 3 )、文化芸術団体が獲得する寄付金収入額の平均値の推移をみても、増加傾向にあることがみてとれる( 図表11 )。 この点、文化庁の調査によれば、文化芸術振興のための寄付について、「したことはないが今後はしてみたい」と回答する寄付に関心のある層(潜在的な寄付者)が調査数の20.9%を占めている(文化庁[2022a])。また、新型コロナウ イルス感染症の影響を契機として、文化芸術団体の社会的価値等を税制優遇措置とともに訴求することにより民間寄付金を募る動き等も活発化しており、文化芸術団体における民間資金を通じた財政面の支援は改めて注目されている。 他方、寄付金を受け入れる側に着目すれば、内閣府の調査によると、調査対象となった非営利組織体の45.6%が定期的な寄付金収入が必要と回答している(内閣府[2020])。その主な理由は、「公益目的事業費用に充てるため」「法人の管理費用に充てるため」である。また、定期的な寄付金収入が必要であると回答した非営利組織体における、寄付金収入獲得のための具体的な手段は、「ホームページへの掲載」 が68.3%と最も多く、次いで「ダイレクトメール」 が37.0%であった(内閣府[2020])。 このように、文化芸術団体を含む非営利組織体が組織の活動を継続するうえで多様な財源が求められるなか、民間による寄付行為は、非営利組織体の存在に不可欠なものである。また、 寄付金を受け入れる非営利組織体にとって、市民に対するWebサイトを利用した情報開示は、 寄付金の獲得のための重要な手段として認識されている。 図表 1 文化予算と寄付額(諸外国との比較) 出所:文化庁[2011]90頁・文化庁[2022b]12~13頁を参照して筆者作成 図表 2 文化予算額の推移 出所:文化庁[2017]・文化庁[2022a]を参照して筆者作成 図表 3 個人寄付推計総額・個人会費推計総額・金銭寄付者率の推移 出所:日本ファンドレイジング協会編[2021]27頁を参照して筆者作成 2 先行研究の整理 文化や芸術が経済や財政の問題として議論されるようになったのは1960年代以降である。Baumol and Bowen[1966]やBrooks[2000a]によれば、文化領域の非営利組織体は、他の領域の非営利組織体と比較して特に脆弱で、絶えず慢性的な財政赤字にさらされており、基金の取り崩しや出演者等に対する支払いの減額を要請することで凌いでいる状況にある。また、労働生産性の向上が構造的に望めないといった産業特性がある点も指摘されている。 非営利組織体が財務上の脆弱性の問題に直面した場合、目標を達成してサービスを提供し続けることが困難になる可能性がある。そのため、非営利組織体の存在意義にも関わる共通の問題として、Tuckman and Chang[1991]により提唱された 4 つの指標を嚆矢として様々な検証が行われてきた。文化芸術領域に焦点をあてた先行研究においても、単一の収入源への依存を避け、収入源を多様化させることで、財務状況を安定させ、財政危機や資金供給の中断のリスクを減らすことができると主張されてきた(Hager[2001]等)。 また、先行研究の中には、寄付者が寄付の意思決定プロセスにおいて、財務情報を重視するかどうか検証しているものがある(Hyndman [1990][1991]、Gordon and Khumawala[1999]、 Parsons[2007]等)。たとえば、Parsons[2003] は、寄付者が寄付の意思決定において最も重視するのは、非営利組織体における運営の効率性と財政的な安定性であると述べている。Weisbrod and Dominguez[1986]は、寄付者が入手可能な情報量が寄付に影響を与えることを実証している。オーストラリアにおいて慈善団体として登録される保証有限会社(CLG:companies limited by guarantee)を対象とした研究では、 会員が年次報告書における財務及び非財務情報の開示を奨励し、それが慈善団体の将来の寄付や補助金収入に影響を与えることが指摘されている(Johansson et al.[2022])。 近年では、非営利・Web開示・シグナリングの組み合わせが注目されており、効率性・有効性・信用性・説明責任といった特性についての洞察を提供できるとされている(Lee and Joseph[2013]、Blouin and Lee[2015]等)。法律で定められている以上の情報開示はシグナリングデバイスとして利用でき(Lev and Penman[1990]、 Ross[1979]等)、また、情報開示は市民に信頼を与え、非営利組織体と潜在的寄付者との間の情報の非対称性を低減し、よりタイムリーで適切な情報によって意思決定を改善できる(Parsons[2003][2007]、Saxton and Guo[2011]等)。 しかし、財務情報と寄付の関係を検証した先行研究は多くみられるが、Web開示と寄付の関係を検証した研究は限られている。たとえば、Gandia[2011]は、スペインの非営利組織体を調査し、Web開示と寄付金収入額の間に正の関係を見出した。Saxton et al.[2014]による米国を対象とした分析でも同様の相関があることがわかった。Blouin et al.[2018]は、米国の非営利組織体の情報開示の実態を調査し、自発的なWeb開示がTrussel and Parsons[2008]が示した安定性等の変数とは独立して、寄付と強い相関があることを見出した。Rossi et al.[2020]は、オンラインの財務報告書を通じて提供される情報の深度(詳細度)が、寄付者の感受性や寄付意欲に影響を与える可能性があると指摘した。 また、Saxton and Guo[2011]によるWebサイトを対象とした研究を契機として、非営利組織体が様々なソーシャルメディアを通じてどのようにアカウンタビリティを実現しているかについて調査した研究がある(Lu and Fan[2016]Belluci and Manetti[2017]、Young[2017]、Amelia and Dewi[2021]等)。 日本においても、財務情報と非営利組織体の収入源に関する先行研究等が存在するが(石田[2008]、馬場ほか[2013]、尾上・古市[2014]、高橋ほか[2017]等)、Web開示と寄付の関係性に ついて検証した研究や文化芸術団体に焦点をあてた研究は、管見する限り見当たらなかった。 3 仮説設定 Web開示と寄付の関係性について検証するため、以下の 2 つの仮説を設定する。 仮説H 1 :非営利組織体が開示する財務情報は、非営利組織体が獲得する寄付金収入額と何らかの関連性を有している。 仮説H 2 :文化芸術団体におけるWebサイトによる情報開示の有無は、文化芸術団体が獲得する寄付金収入額と関連性を有している。 Webサイトで開示される情報には、財務情報と非財務情報の両方が含まれる。そのため、 Web開示と寄付金収入額との関連性を検証する際に、財務情報と寄付金収入額との関連性についても確認する必要があると考えられる。 この点、財務情報と寄付金収入額との関連性について、日本の先行研究では、2013年又は2014年のデータを用いて分析を行っているものがあるが、後述するように2013年又は2014年のデータは移行法人や欠損データが多いため、分析結果の頑健性について疑問がある。また、寄付金収入額については、社会的又は経済的状況による影響も予想されるため、複数年のデータを用いた検証が有用であると考えられる。 そのため本稿では、欠損データ等が少ない近年のデータを複数年度用いて、まず仮説H 1 について検証を行ったうえで、次に仮説H 2 について検証を行う。なお、本稿における主要な関心は、仮説H 2 におけるWeb開示の有無と寄付金収入額の関連性についての検証であるため、仮説H 1 の検証については、財務情報と寄付金収入額との関連性の確認にとどめている。 Ⅲ リサーチ・デザイン 1 Trussel and Parsons[2008]モデル Trussel and Parsons[2008]は、非営利組織体において寄付者の意思決定に影響を与えている財務的要因の分析枠組みについて明らかにした。Trussel and Parsons[2008]は、寄付者の意思決定に関する先行研究から抽出した様々な説明変数を用いて因子分析を行った結果、説明変数が 4 つの要素で構成されていることを示した。4 つ の構成要素とは、組織におけるプログラムへの資源配分の効率性(efficiency)、組織の財務的安定性(stability)、寄付者が入手可能な情報量(information)、組織の評判(reputation)である( 図表 4 )。 第一に、効率性(efficiency)は、非営利組織体が利用可能な資源を組織のミッションに向ける度合いである。先行研究では、非営利組織体のミッションの達成を支援するため、寄付者の主な関心事はプログラムに充てられる経費の割合にある(Parsons[2003])と主張されてきた。 第二に、安定性(stability)は、非営利組織体が経営資源の減少に直面した場合に事業を継続できる能力である。寄付者は、非営利組織体が効率的に機能していることを知ることに加えて、その組織が将来も運営を継続できるかどうかを知りたがっている(Parsons[2003])。 第三に、入手可能な情報量(infomation)について、寄付者は、寄付を行うための適切な情報があれば、非営利組織体に寄付を行う可能性があることが示唆されている(Hansmann[1980]、 Gordon et al.[1999])。財務報告書等により、寄付がミッション達成のために適切に使用されていることを保証することができる。また、非営利組織体が組織とその運営に関する情報を提供することで、潜在的な寄付者に対して広告と同様の働きをする。寄付者が入手可能な情報量を直接測定することは困難であるが、いくつかの代理変数が提案されている(Trussel and Parsons[2008])。 第四に、寄付者は非営利組織体のアウトプットを評価することが困難であるため、組織の評判(reputation)に部分的に依存する必要がある。組織の評判(reputation)の代理変数としては、 組織の活動年数等がある。 非営利組織体の透明性と財務情報の開示は、非営利組織体がステークホルダーに対して信頼性を示すことを可能にし、それゆえに社会における正統性(legitimacy)の基盤であると考えられているが(Saxton et al.[2012])、透明性と財務情報の開示だけでは信頼を促すには十分ではない。信頼性の決定要因に透明性と評判が含まれていること(Furneaux and Wymer[2015])、非営利組織体の信頼性にアカウンタビリティと透明性が影響していること(Farwell et al.[2019]、Wymer et al.[2021])が指摘されている。この点、Ghoorah et al.[2021]は、財務情報の開示と非営利組織体の評判に対する寄付者の認識との間に有意な関連性があること、及び非営利組織の評判に対する寄付者の認識と非営利組織体の信頼性の間に有意な関連性があることを示しており、非営利組織体の情報開示が、評判ひいては信頼性の認知に与える影響を介して、寄付者の非営利組織体に対する寄付意欲を高めることを指摘している。 図表 4 寄付者の意思決定に影響を与える非営利組織体の財務的要因 出所:Trussel and Parsons[2008]を参照して筆者作成 2 実証モデル Trussel and Parsons[2008]が提供したフレームワークに依拠し、五百竹[2017]、高橋ほか[2017]等の先行研究を参考として、仮説を検証するための実証モデル(回帰式)を設定する(式 1 )。被説明変数及び説明変数は、 図表 5 で示すように定義する。 なお、会計年度(t)の被説明変数に対応する説明変数及びコントロール変数は、InfoとPurposeを除き前会計年度(t-1)の数値を使用している。これは、寄付者は進行期の財務情報を入手することができず、進行期の前会計年度の財務情報に基づいて寄付の意思決定をしていると考えられるためである。 被説明変数Donは、非営利組織体の寄付金収入額である。非営利組織体の事業規模が寄付金収入額に与える影響を調整するため、公益目的事業費で除して標準化を行っている。分析対象のサンプルが寄付金収入額ゼロ円(Don= 0 )である非営利組織体を多く含むデータであり 1) 、 Donが下限値のある打ち切りデータである点を考慮して、本稿ではトービットモデルによる推定を行う。 説明変数は、Trussel and Parsons[2008]が提供したフレームワークに基づく、効率性、安定性、入手可能な情報、及び評判に関する説明変数である。 Efficiencyは、効率性に関する指標であり、非営利組織体が利用可能な資源を組織のミッ ションに向ける度合いとして、公益目的事業比率を用いている。効率性の指標が高い非営利組織体ほど、より多くの寄付金を集めやすいという先行研究(Weisbrod and Dominguez[1986]、Trussel and Parsons[2008])に基づくならば、係数β1は正の数値が予想される。 NetassetsとDebitratioは、安定性に関する説明変数である。Netassetsは、正味財産残高を公益目的事業費で除したものであり、算出された数値は仮に非営利組織体の収入がまったくなかった場合における現状の公益目的事業を維持可能な年数を意味する。Netassetsは自己資本の充実度を示しており、先行研究においては、自己資本の充実度を肯定的に捉える見解(Trussel and Greenlee[2004])と、非営利組織体がプログラムに使用すべき財源を過剰留保しているとして否定的に捉える見解(Mardus[2004])がある。そのため、係数β2の予測値は不明である。Debitratioは、総資産残高に占める負債残高の比率であり、継続企業における安定性の指標に類似する指標(Parsons[2003])である。Debi︲ tratioは、高いほど財務的な安定性を欠くことになるため、寄付者が財務的に安定している非営利組織体を肯定的に捉えるならば、係数β3は負の数値が予想される。 Infoは入手可能な情報に関する指標であり、寄付者が受け取る情報量の代理変数として、非営利組織体がWebサイトで財務情報の開示を行っているなら「 1 」、行っていないなら「 0 」の値をとるダミー変数を用いた。Webサイトによる開示が寄付者の意思決定プロセスにおいて有用性があるという先行研究に依拠すれば、係数β4は統計的に有意に正の値を示すと考えられる。 Kaihiは評判に関する指標であり、会費収入額を公益目的事業費で除した数値を用いてい る。この点、非営利組織体が受け取った寄付金以外の収入源を公表した場合、寄付者はいくつかの反応を示す可能性がある。たとえば、公的補助金等の増加により、寄付者は寄付の必要性が低くなったと認識し、自らの寄付を差し控える可能性がある(Payne[1998])。逆に、政府等による非営利組織体の承認として、組織の信頼性を高めるシグナルとなるかもしれない(Okten and Weisbrod[2000])。サービスや医療等の領域におけるいくつかの先行研究ではクラウディング・アウト効果を見出している(Schiff[1990]、 Payne[1998]、Brooks[2000b]、Hungerman[2005] 等)が、実証的な結論には至っていない。したがって、係数β5の予測値は不明である。 日本の非営利組織体に特有の要因が寄付金収入額に及ぼす影響を制御するため、先行研究に依拠して、Trussel and Parsons[2008]モデルにいくつかのコントロール変数を追加した。 Idleは遊休財産額を公益目的事業費で除した指標である。遊休財産額は、公益目的事業又は収益事業その他の業務若しくは活動のために現に使用されておらず、かつ、引き続きこれらのために使用されることが見込まれない財産の合計額であり、実質的には目的や使途の定めがないまま保有している財産の額である。また、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下、「公益認定法」という。)第 5 条 9 号では、遊休財産を公益目的事業の実施に係る費用の 1 年分を超えて保有してはならないと規定されている。したがって、寄付者は過剰な資金留保に否定的であると考えられ、係数β6は負の数値が予想される。 Purposeは、公益目的事業の種類をコントロールするための種類別ダミー変数であり、公 益目的事業23業種に該当するならそれぞれ「 1 」 の値をとる。分析対象のサンプルには公益目的事業第23号に該当する法人がなかったため、Purpose 1 ~22の22個の変数を実証モデルに追加した。 (式 1 )実証モデル 図表 5 変数の定義 出所:筆者作成 3 サンプル選択、記述統計量および相関係数 分析に用いるデータは、内閣府掲載のWebサイトである公益法人informationから入手した。データの入手期間は、分析時点(2024年 8 月)で分析に必要な財務データの入手が可能である 2013年度から2022年度までの10年間としたが、このうち2013年度及び2014年度は移行法人や欠損データが多いため、分析の対象外とした。結果として、分析対象期間は2015年度から2022年度までの 8 年間となり、データ総数は合計76,416 件であった(データの内訳については 図表 6 参照)。 式 1 を推定するためのサンプルは、以下の条件をすべて満たす非営利組織体から構成される。① 3 月決算法人である 2) 、②公益目的事業 比率が100%を超えない法人である 3) 、③決算月数が12カ月である。回帰分析を行ううえで正確性を期するため、欠損値をもつサンプルを除外した。さらに、説明変数及びコントロール変数それぞれについて、絶対値が標準偏差の 5 倍を超えるサンプルを外れ値として除外した。 これらのスクリーニング要件を課した結果、分析に用いるサンプル数は 8 年間で67,680サンプルとなった(データの内訳については 図表 6 を 参照)。 図表 7 には変数の記述統計量を、 図表 8 には相関マトリックスを示している 4) 。 ここで、 図表 8 からいくつかの変数間に高い相関が観察されており、推定において多重共線性の問題が懸念される。各推定においてVIF(Variance Inflation Factor)を算出したところ、 一般に多重共線性が懸念される水準である10を下回っていた。したがって、多重共線性が重大な問題にならないと考えられるため、これらの 変数を同時に含めて推定を行っている。 図表 6 主分析に用いたデータの内訳 出所:筆者作成 図表 7 記述統計量 出所:筆者作成 図表 8 相関マトリックス 出所:筆者作成 Ⅳ 分析結果及び考察 1 トービットモデルによる実証結果及び Web開示率の状況 式 1 を用いて回帰分析を行った推定結果を 図表 9 のPanel_Aに、 式 1にダミー変数Purpose 2 (公益目的事業第 2 号「文化及び芸術の振興を目的とする事業」に該当する場合は「 1 」、それ以外の場合は「 0 」をとる種類別ダミー変数)とInfo又はKaihiの交差項(Purpose 2 *Info、Purpose 2 *Kaihi)を追加して回帰分析を行った推定結果を 図表 9 のPanel_Bに示す。 なお、2015年度から2022年度のそれぞれの推定結果において、概ね同様の傾向が観察された。その意味では、推定結果の頑健性はある程度確保されたと考えられる。 また、推定にあたり事前分析として、Webサイトによる情報開示の状況について時系列分析を行った結果を 図表10 に示す。この結果から、Webサイトによる情報開示の状況は毎年 向上しており、データ総数の85.4%~91.1%がWebサイトを通じて情報開示を行っていることがわかる。加えて、文化芸術団体はWebサイトを通じた情報開示率が全体と比較して高いことがみてとれる。 図表 9 推定結果 出所:筆者作成 図表10 Webサイトによる開示率 出所:筆者作成 2 寄付金収入額と財務情報との関係性 以下、図表 9 Panel_Aの分析結果を用いて仮説H 1 の検証を行う。 まず、Efficiencyの推定結果は、2015年度を除き統計的に有意な結果とはならず、効率性に関する指標と寄付金収入額の関係性は観察されなかった。また、2015年度の推計結果におけるEfficiencyの係数β1の符号は、予想に反して負であった。 次に、安定性の指標について、DebitratioとNetassetsは異なる結果となった。すべての分析対象期間においてDebitratioは統計的に負の有意値が得られた一方で、Netassetsは2017年度と2020年度を除き統計的に有意な結果とならなかった。 これらの結果から、次のような解釈が可能であろう。すなわち、寄付金収入額と財務情報の間には何らかの関係性があり、寄付者が寄付を行うにあたり非営利組織体の安定性に関する財務情報を意思決定に用いている可能性がある。 他方、Idleの推定結果はまちまちであり、2015年度、2016年度、2019年度及び2020年度の 4 年間の分析対象期間は統計的に正に有意な結果となった一方で、2017年、2018年、2021年及び2022年の 4 年間の分析対象期間は統計的に有意な結果とならなかった。したがって、寄付金収入額と遊休財産額の関係性について、結論づけることは困難である。しかし、Idleについて統計的な有意値が得られた場合の係数β6の符号が正であることから、遊休財産について過剰な留保とならない限り、寄付者は一定程度肯定的に捉えていると推察される。 評判に関する指標であるKaihiは、すべての分析対象期間において、統計的に負の有意値が得られた。この結果は、寄付金以外の収入額(会費)に関する情報が、寄付金収入額をクラウディング・アウトする可能性を示唆するものである。 このように、仮説H 1の検証を通じて、財務情報と寄付金収入額との間には何らかの関係性があり、寄付者が寄付を行うにあたり非営利組織体の安定性に関する財務情報を意思決定に用いている可能性があることが確認できた。しかし、これらの結果の解釈については、以下の理由から結論づけることは困難である。資金調達費等の内容、組織の特徴及び状況、事業の種類及び運営状況、又はその他の可能性を考慮した追加的検証をふまえた判断が必要であり、今後の課題として残されている。 まず、効率性に関する指標について、高橋ほか[2017]等によれば、資金調達費の影響が指摘されている 5) 。一方、資金調達費やマーケティング費に関連する項目は、非営利組織体の財務情報開示において一般的な定義がなく曖昧であるため、効率性が誤って報告される可能性があることも指摘されている(Krishnan et al.[2006]、 Gregory and Howard[2009]、Ghoorah[2018])。 資金調達費の金額は公表されていないため、本稿では資金調達費に関する分析を行っていない。効率性に関する指標については、資金調達費等の内容及び金額をふまえた追加的検証が必要である。 次に、Trussel and Parsons[2008]が提供したフレームワークに依拠し、米国を対象とした分析を行ったBlouin et al.[2018]は、効率性に関する指標と寄付金収入額との間に正の関連性があることを報告しているが、加えて各組織の特徴又は状況の影響についても指摘している。すなわち、効率性が高い組織は、従業員数や資産が少なく、若い組織である傾向があり、資金調達に多くのコストを費やしているが寄付をより効率的に獲得することでコストとのバランスをとっている可能性がある等を述べている。 さらに、Blouin et al.[2018]は、負債に関連する指標と寄付金収入額の間に関連性があることを報告しているが、効率性に関する指標と同様に、各組織の特徴又は状況の影響についても指摘している。すなわち、長年にわたって活動している組織は、すでに定着した運営を行っており、従業員数が多く、資産やレバレッジが大きい組織である傾向があり、すでに十分な資金があるため寄付による資金調達が優先されない可能性がある等を述べている。効率性及び安定性に関する指標については、組織の特徴又は状況をふまえた追加的検証が必要である。 また、評判に関する指標について、寄付金以外の収入額によるクラウディング・アウト効果は、文化芸術領域の非営利組織体において、文化芸術の種類や団体の運営状況に大きな違いがあることが指摘されており、文化芸術領域の非営利組織体が受け取った寄付金以外の財源を公表した場合の寄付者の反応に関しては、さまざまな実証結果が得られている(Borgonovi[2006]、 Brooks[1999][2000b][2000c]、Hughes and Luksetich[1999]等)。これらの先行研究が指摘するように、文化芸術団体におけるクラウディン グ・アウトについての一般化は難しく、文化芸術の種類や運営状況等を考慮に入れて、個別に 検証する必要がある。 3 寄付金収入額とWeb開示との関係性 以下、 図表 9 Panel_A及びPanel_Bの推定結果を用いて仮説H 2 の検証を行う。まず、Panel_Aの推定結果によれば、すべての分析対象期間において、Infoは統計的に正の有意値が得られた。この結果は、Webサイトによる情報開示が、財務情報とは独立して、寄付の意思決定プロセスにおいて有用性があることを示唆している。 一方、Panel_BにおけるInfoとPurpose 2 の交差項の推定結果によれば、文化芸術団体においては、Webサイトによる情報開示が寄付金収入額に与える正の影響が、文化芸術団体以外の非営利組織体と比較して緩和される傾向があることが観察された(2016年度と2017年度を除く)。この結果は、安定性等の財務情報を所与としても、文化芸術団体において、寄付者が寄付を行うための十分な情報をWebサイトで提供できていない可能性を示唆している。なぜなら、Webサイトでは財務情報と非財務情報の両方が開示される可能性があるが、このうち法定開示事項としての報告される情報については、文化芸術団体とそれ以外の非営利組織体とでは、形式的な情報内容に大きな差異がないと考えられるためである。前述のように、データ総数の 85.4%~91.1%がWebサイトを通じて情報開示を行っている状況や、内閣府の調査(内閣府 [2020])において、非営利組織体が寄付金獲得のために「ホームページへの掲載」を主要な手段として挙げていることに鑑みれば、文化芸術団体が寄付金収入を獲得するためには、財務情報や事業報告等の法定開示事項を開示するだけでなく、寄付者が寄付の意思決定を行ううえで有用な情報について、Webサイトを通じて追加的に提供する必要性が惹起される。 なお、この結果の原因について、文化芸術団体が獲得する寄付金収入額の水準が文化芸術団体以外の非営利組織体に比べて低い可能性が考えられる。この点、寄付金収入額及びDonの平均値の推移( 図表11 )によれば、文化芸術団体が獲得する寄付金収入額の水準は、文化芸術団体以外の非営利組織体を上回っていることがみてとれる。そのため、この結果について、寄付金収入額の水準を原因とすることは困難である 6) 。 また、この結果の原因について、文化芸術団体におけるクラウディング・アウト効果が、文化芸術団体以外の非営利組織体と比較して大きい可能性が考えられる。この点、KaihiとPurpose 2 の交差項に関する推計結果は、統計的に有意な水準になかった。この結果は、文化芸術団体と文化芸術団体以外の 2 つのグループにおける寄付金収入額と会費収入額の関係性に差がないことを意味している。したがって、この結果について、文化芸術団体におけるクラウディング・アウト効果を原因とすることは困難である。 図表11 寄付金収入額及び被説明変数の推移 出所:筆者作成 Ⅴ 結論と課題 本稿では、非営利組織体が直面する財政危機等の問題に伴い、多様化する収入源のうち、文化芸術団体が獲得する寄付金収入額とWebサイトによる情報開示との関係性について、先行研究に基づき実証的に分析を行なった。本稿における検討から得られるインプリケーションは、次の 2 点である。 第一に、寄付金収入額と財務情報との間には何らかの関係性があることが確認できた。寄付者は寄付を行うにあたって、非営利組織体の安定性に関する財務情報を意思決定に用いている可能性がある。財務情報と寄付金収入額との関係性の解釈については、資金調達費等の内容、 組織の特徴及び状況、事業の種類及び運営状況、又は他の可能性を考慮した追加的検証をふまえた判断が必要である。 第二に、安定性に関する財務情報を所与としても、Webサイトによる情報開示と寄付金収入額の間に正の関係性を有することが確認できた。一方、文化芸術団体においては、Webサイトによる情報開示が寄付金収入額に与える正の影響が、文化芸術団体以外の団体と比較して緩和される傾向があることがわかった。文化芸術団体が寄付金を獲得するためには、財務情報を開示するだけでなく、寄付者が寄付の意思決定を行ううえで有用な情報について、Webサイトを通じて追加的に提供する必要性が惹起される。 この点、日本では、非営利組織体が開示する情報について、税の優遇を得るための法人格の維持や所轄庁(監督機関)への報告という目的が重視され、これにより説明責任の確保や透明性の担保の目的が達成されてきた。しかし、規定遵守のための報告が情報開示の第一目的になってしまうと、財政状態や事業状況を外部報告する目的が相対的に軽視される問題が生じうる(金子[2022])。 また、寄付者は、活動内容や成果等の非財務情報に対して関心を持っており(Hyndman [1990])、精緻な財務情報を提供しなければならないと考える作成者側と、簡潔な財務情報を期待する寄付者側の間に情報ニーズのギャップが生じていること(Hyndman[1991])が指摘されている。NPO法人を対象とした馬場ほか[2014]においても、寄付やボランティア、勤務、サービス利用といったNPO法人との関わりがある利害関係者は、事業費と管理費の区別を求めず、ボランティア評価費用の計上も期待しない等、より簡易な会計処理方法を許容する可能性が指摘されている。 加えて、寄付者が寄付に際して重視する情報は、団体の活動目的や方針、活動実績や成果、来年度の目標や予算であり(馬場ほか[2013])、団体の活動に対する共感や社会的貢献度から寄付の意思決定をする寄付者が多い(日本ファンドレイジング協会編[2021])。 さらに、Dickert et al.[2011]は、寄付を行うという意思決定(第 1 段階)と、その後の寄付金額の決定(第 2 段階)では異なるメカニズムが支配しており、第 1 段階では感情的な自己に関わる感情が、第 2 段階では共感的な他者に関わる感情が影響を及ぼすと指摘している。 これらの点に鑑みれば、非営利組織体が組織の活動を維持するため多様な財源を確保するうえで、非営利組織体が開示する情報の利用可能性又は理解可能性を高めるための検討が重要であるといえる。 第一に、文化芸術団体においては、文化芸術に対する民間支援の合理性(Throsby[2010])を踏まえたうえで、財務情報に加えて、資金使途に関する情報、団体の活動目的や社会的価値等のミッションに関する情報、又は管理している文化遺産の文化的価値(Throsby[2010])に関する情報等、団体に対する共感を高めるとともに、財務情報を補足・補完する情報について、Webサイトを通じて追加的に提供することが重要であると考えられる。その際、これらの非財務情報を、Webサイトで開示される財務情報や事業報告とどのように有機的に連携させるか等が問題となろう。 第二に、Rossi et al.[2020]は、単に財務情報を提供するよりも、数値、説明、又は比較可能な情報といった情報内容を充実させることが寄付の獲得に貢献することを指摘している。Webサイトで提供される情報の深度(詳細度)についても問題となろう。 第三に、非営利組織体は、Webサイト以外にも、募金活動、ソーシャルメディア、助成金提供者等に向けた紙媒体等による情報提供など、さまざまなチャネルを通じて情報を発信している可能性がある。ソーシャルメディア等を通じて、非営利組織体がどのようにアカウンタビリティを実現しているのかについて、質的分析を含めた調査及び検討が必要であろう。 非営利組織体は中小規模組織が多く、情報開示に投下できる資源が限られている。追加的な情報を提供するとしても、上述のように、開示する情報の内容、情報の充実度、又は情報の発信チャネル等が問題となると考えられる。これらの検討は、今後の課題として残されている。 [注] 1) たとえば、2022年度の分析サンプルでは、寄付金収入額ゼロ円(Don= 0 )の法人は、8,661法人中4,405法人であった。 2) 税制改正又は経済状況等の影響により法人間の財務データに差異が生じないように、 3 月決算法人のみを分析対象としている。なお、3 月決算法人とそれ以外の法人とは統計的に必ずしも同質とはいえないため、本分析における分析サンプルには、厳密な意味での代表 性はない点を申し添えておきたい。 3) 入手したデータの中には、100%を超える公益目的事業比率が記載されているサンプルが存在したため、当該サンプルは外れ値として除外した。 4) 記述統計量及び相関マトリックスについては、紙面の都合上、入手したデータのなかで も直近のデータである2022年度及び2021年度のみを掲載した。また、多重共線性について も、すべての分析対象期間についてVIFの算出による検証を行い、多重共線性が重大な問題にならないことを確認している。 5) 高橋ほか[2017]によれば、効率性に関する説明変数の係数の符号が負となる理由につき、資金調達費の影響が可能性の一つとして指摘されている。 6) なお、図表11の2022年度において、非常に高い寄付金収入額及び被説明変数Donの数値 (平均値)を観察することができるが、これは文化芸術団体以外のいくつかの団体で、臨 時的に多額の寄付金収入が生じていたことに起因するものである。外れ値処理をした後に 恣意的なサンプル除外を行うとバイアスが介入するおそれがあるため、本稿ではこれを含 めたまま分析を行っている。 [参考文献] Amelia, S.R., 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- ≪査読付論文≫「地域レベルの市民活動」の顕出と振興:「特定非営利活動」(特定非営利活動促進法 別表第20号)の設定および運用を事例として
PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 大阪商業大学教授 初谷 勇 関東学院大学地域創生実践研究所客員研究員 藤澤浩子 キーワード: 地域レベルの市民活動 特定非営利活動 特定非営利活動促進法別表第20号 条例設定 認証事務 地方自治体の自律性 要 旨: 1998年、民法の特別法として制定された特定非営利活動促進法で、公益法人との「棲み分け」のため、特定非営利活動は12項目が限定列挙され、その後、2002年に 5 項目、2011年に 3 項目が追加され、現在、第 1 ~20号の20項目となっている。2006年の公益法人制度改革により、一般法人法と特定非営利活動促進法が並立関係となり、特定非営利活動は例示列挙化したと考えられる。 2011年に追加された第20号は、「前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動」である。第20号は、都道府県等が条例制定により、地域課題の解決に資する独自の特定非営利活動を提示し、市民の選択に委ねることができる。 第20号を活動に選択して認証された特定非営利活動法人数はまだ少数ながら、全国的に漸増している。都道府県等が、区域内の地域課題を明示し、それに取り組む「地域レベルの市民活動団体」を顕出させ振興する視点を持って、第20号をNPO政策のツールとしてさらに活用することが期待される 構 成: Ⅰ 問題関心 Ⅱ 「市民活動」概念の形成および普及過 程と「特定非営利活動」の定位 Ⅲ 「特定非営利活動」の拡充 Ⅳ 「特定非営利活動」の条例設定(NPO 法別表第20号)の意義と状況 Ⅴ 考察 Abstract In 1998, the Act on Promotion of Specified Non-Profit Activities, enacted as a special law under the Civil Code, limited the enumeration of specified non-profit activities to 12 items in order to segregate them from public interest corporations. Five specified non-profit activities were then added in 2002 and three activities were added in 2011. There are currently 20 activities, from No. 1 to 20. With the 2006 reform of the public interest corporation system, the Act on General Incorporated Associations and General Incorporated Foundations and the Act on Promotion of Specified Non-Profit Activities became parallel, and specified non-profit activities are enumerated as examples. Item 20, which was added in 2011, defines activities specified by Ordinance of the prefecture or designated city as equivalent to the activities set forth in the preceding items. No. 20 allows prefectures and designated cities to present their own specified non-profit activities that help address local issues through the enactment of ordinances, and to leave it to the citizens to choose their own activities. Although the number of corporations engaging in specified non-profit activities that have been certified by selecting No. 20 as their activities remains small, the number is gradually increasing nationwide. It is expected that prefectures and designated cities, etc., will further utilize No. 20 as a tool for NPO policy with the goal of clearly indicating local issues within the area, and revealing and promoting local-level civic activity organizations that address those issues. ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ 問題関心 1998年特定非営利活動促進法(以下「NPO法」という)制定当初12項目が限定列挙されていた特定非営利活動は、2002年法改正で 5 項目(現・ 第14~18号。以下各号の「第」を省略)、2011年改正で 3 項目( 4 、 5 号及び20号)が追加され、現在 1 ~20号の20項目が列挙されている。この間認証された特定非営利活動法人(以下「NPO法人」という)が「主たる目的」として選択し定款に記載した項目の推移を見ると、項目(号)によって増減の傾向に大きな相違がある。 20項目のうち末尾の20号は、「前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動」であるが、同号に基づくNPO法人数は少数ながら漸増しており、増加傾向にある活動分野の一つとして注目される。 NPO法が一般法としての民法の特別法として制定された当初、公益法人と「棲み分け」のために採られた「特定非営利活動」の限定列挙 1) は、2006年民法改正及び公益法人制度改革関連三法制定によって一般法人法とNPO法がともに非営利法人の個別根拠法として並立する関係となったことから、もはや限定の必要がなくなり、例示列挙化していると考えられる。 公益法人制度改革後の2011年法改正により追加された20号は、そうした例示の一つとして、 都道府県・指定都市にとって、自律的に「準ずる活動」を定めることを通じて独自の特定非営利活動を提示して利用者の選択に委ね、NPO政策(非営利法人政策) 2) を創出し展開するツールとなりうる存在である。 筆者らは、認証NPO法人総数が2014年以降漸減傾向にある中で、NPO法人の「新たな展 開を促す、あるいは推進する方法、手段(政策、事業等)」を検討してきたが、その一つとして「特定非営利活動」をその発足の背景に立ち返り、市民活動の観点から再定位して活用を促進・ 推進することが有効ではないかと考えている 3) 。 NPO法人は、設立認証申請に当たり「主たる目的」とする特定非営利活動を法別表から選択して定款に記載する必要がある。いかなる活動を特定非営利活動として法定するかは、活動分野選択に影響を与える法政策でもある。20号の追加趣旨に立ち返り、その活用を検討することは、NPO法人の新展開を考える鍵ともなろう。 そこで本論では、都道府県と指定都市による20号に基づく「条例設定」および同号による認証の運用状況を調査検討のうえ、「条例設定」の意義と課題について考察し、課題への対応方策について提言を試みることとしたい。 なお、NPO法人制度には、パブリック・サポート・テストの各基準のうち「条例個別指定」 制度がある 4) 。本論では、これと区別するため、20号にいう「前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める」ことを「条例設定」と称するものとする。 Ⅱ 「市民活動」概念の形成および普及過程と「特定非営利活動」の定位 1 「市民活動」概念の形成及び普及過程 わが国において「市民活動」概念はどのように形成され普及してきたか。 「市民活動」に言及、論及する先行研究を学際的、時系列的に追跡し整理を試みた藤澤 [2011]は、「先行的研究の成果から、60年代後半から70年代前半の住民運動の最盛期、政治・ 行政への参加や気運の高まりとともに革新自治体が数を増していく中で、地域主義や地方分権が唱えられ、80年代初頭には、地域/地方における自治の担い手として、市民活動団体が注目されるようになった」とする[藤澤2011:28]。 そして、「市民活動」概念が、学術的に確定した定義が共有されている状況とは言い難いことから、「地域における自然保護分野の市民活動」の「長期継続要因」を研究するにあたり、山岡義典の示した概念上の位置づけ等を整理し、「わが国における地域レベルの市民活動とその担い手組織、市民活動団体の現状を概観」するというアプローチを採っている[同上:31]。 その上で、「地域レベル」の「市民活動」とそれを行う組織をどのようにとらえるか、という理念的な問いと、その活動が、どのような組織によって、どのように展開されてきたのか、という具体的な問いに関する探究を行っている[同上:13]。そこでは、「市民活 動」を「民間で持続的に行われる非営利目的の組織的活動」ととらえ、「市民活動を行う団体」 を「市民活動団体」といい、「法人格の有無および法人種別を問わない民間の非営利組織」を指すとしている。また、人間の日常的な生活圏域を「地域」ととらえる観点から、「地域レベル」 を、「一つの市区町村内から複数の県にまたがる範囲」ととらえている[同上:13-14]。 以下、本論でも、「地域レベルの市民活動」の概念を同様にとらえて援用する 2 「特定非営利活動」と「市民活動」の関係 NPO法は、「第 1 章 総則」で目的規定と定義規定を置いている。まず、第 1 条(目的)において「ボランティア活動をはじめとする市民 が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進し、もって公益の増進に寄与することを目的とする」とし、「特定非営利活動」は、「市民が行う自由な社会貢献活動」と同視され、「ボランティア活動」を包含するものと定めている。ここにいう「市民が行う自由な社会貢献活動」は、前掲の「市民活動」 概念に近似し、ほぼ「市民活動」と同視することができる。 次いで、第 2 条(定義)において「特定非営利活動」は「別表に掲げる活動に該当する活動」であることが求められ、かつ「不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的とするもの」とされている。つまり、①別表に列挙された「活動」リストへの該当性と②「公益目的」の充足という二重の限定、画定がなされている。 以上より、「特定非営利活動」は、従来形成され普及してきた「市民活動」概念を継承、体現しつつも、①と②の限定により市民活動から一定範囲の活動を抽出したものと理解される。 3 民間非営利セクターにおける「地域レベル の市民活動団体」の定位 図表 1 は、NPO法制定当初、「市民活動」の観点から、特定非営利活動と、旧公益法人制度の公益法人(社団法人・財団法人)の事業活動との関係を図解している[藤澤2010:33、図 1 - 1 ]。同図は、「山岡(2005:59)の『民間非営利セクターを構成する三層の組織類型の概念図』をもとに、市民活動団体および地域レベルで活動する市民活動団体の概念を付加したものである。同図は、地域レベルの市民活動団体が、主に市町村内もしくは都道府県域程度の広がりで活動する比較的小規模の団体で、組織形態は通常、任意団体あるいはNPO法人であることが多いが、その他の非営利・公益法人や財団法人・社団法人の場合もある、ということを示している」[藤澤2010:32-33]。 NPO法制定以降、都道府県・指定都市では、任意団体、NPO法人、公益法人を対象として多様なNPO政策を展開してきた。「地域レベルの市民活動」は、これら大規模自治体にとっても、そのNPO政策やPPP(Public Private Partnership)の対象として常に関心が寄せられてきた。 図表 2 は、現状における地域レベルの市民活動団体の概念図(2024年現在)を示している。 図表 1 地域レベルの市民活動団体の概念図(NPO法制定 当初) 出所:藤澤[2011:33] 図表 2 地域レベルの市民活動団体の概念図(2024年 現在) 出所:図表 1 を改訂し筆者作成 Ⅲ 「特定非営利活動」の拡充 次に、特定非営利活動が20項目となった2012年以降の活動分野(号数)別(以下「分野別」という)法人数の増減を見る。 図表 3 は内閣府NPOホームページで公表されている分野別法人数推移表の公表開始時点 (2012年 6 月末)及び最新時点(2024年 3 月末) の両時点の法人総数(A・C)に占める分野別法人数の割合(B・D)(%)、及び両時点間の分野別法人件数の増減(C-A)と割合の増減(D-B)(%pt)を示す。全国の認証法人数は、 12年間で4,195件 増加しているが、 2018年 3 月末の51,866件をピークに、その後現在まで微減傾向で推移している。分野別にみると、各分野とも件数の減少は見られない。しかし、法人総数に占める割合でみると、7 号、11号、 18号、14号が各々減少している(号の 順は減少割合の大きい順)。20号が法人 数に占める割合は法人数の 1 %に満たない。 次に、 図表4 は、分野別のNPO法人数の推移(2012-2024)を示す。 さらに、 図表5 は、所轄庁別のNPO法人数の推移を⑴から⑸の傾向別に分類したものである。2012年から 2024年の間に、⑴⑵⑶で認証法人数が増加し、⑷⑸で減少している。⑴の13都道府県 3 指定都市では、概ね右肩上がりに増加している。 ⑴の右肩上がりの増加傾向のカテゴリーに、後述する20号を条例設定している三重、鳥取の 2 県が含まれている点、20号認証法人数上位12県中10県が⑴から⑶に含まれている点は興味深い。 図表 3 分野別NPO法人数 推移(2012-24) 分野別法人数推移表の開始時点(2012/ 6 /30)と最新時点(2024/ 3 /31)の法人総数及び分野別件 数と割合一覧(全国) 出所:筆者作成 図表 4 分野別NPO法人数推移の傾向(2012-24 ) 出所:筆者作成 図表 5 所轄庁別NPO法人数推移(2012-24)の傾向 注)〇番号は第20号認証法人数順位 出所:筆者作成 Ⅳ 「特定非営利活動」の条例設定 (NPO法別表第20号)の意義と状況 1 20号に基づく条例設定の意義 前掲のように、民法改正及び公益法人制度改革関連三法制定により、NPO法と一般社団・財団法人法は、それぞれNPO法人と一般社団・ 財団法人の個別根拠法として並立する関係となった。その結果、2011年改正で追加された 4 、 5号及び20号を含め、現在の特定非営利活動20項目は、認証時に公益法人の公益目的事業との棲み分けを特に考慮する必要がない。 20号は、19号までに掲げる活動に「準ずる活動」として都道府県又は指定都市の条例で定める活動とされている。ここにいう「準ずる」とは、 1 ~19号がおのおのどのような活動を意味するかという立法趣旨の普及や各号の特定非営利活動の適用、運用の結果、一般に一定共有されている意味内容を基準として、それにならい、それに見合った「上乗せ」(例えば既存の分野を複数たばねるようなテーマを顕出)や「横出し」(例えば既存の分野には無いテーマを顕出)の取扱いをすることと考えられる( 図表 6 参照)。 例えば、 1 号「保健、医療又は福祉の増進を図る活動」は、法制定当初の条文解説では「この号は、衆議院での修正で、医療活動が含まれることを明確にするため、『医療』の文言が加えられました。人々の健康の保持、生活衛生や障害者等の保健等の向上などに資する活動を示すものです」とされていた[橘、正木1998: 56]。20号を適用することにより、都道府県及び指定都市は、地域特性も考慮に入れつつ 1 号の意味内容を基準としてそれにならい、それに見合った取扱いをするものとして、既存の「保 健、医療又は福祉」の概念の分化や範疇の伸縮に対応した「準ずる活動」を上乗せ・横出しにより自由に設定できる。 本論のⅡの 2 で述べたように、「特定非営利活動」は、従来形成され普及してきた「市民活動」概念を継承、体現していると考えられるが、①別表に列挙された活動への該当性と、②「公益目的」の充足という画定によって「市民活動」の中から一定範囲を抽出した活動といえる。しかし、20号は、従来どおり②「公益目的」の充足性を求めつつ、①列挙された活動への該当性の点で、所轄庁に活動設定の自律性を「準ずる活動」という条件の下に認めたものといえる。 特定非営利活動は、当初、限定列挙であるとともに、列挙されている活動しか選択できないという制限列挙でもあった。本来、市民活動は新たな社会課題が浮上すれば、その解決のために活動も新たなものが生まれるという性格のものであるから、活動のリストは例示列挙で概括列挙であるほうが、社会環境や情勢の変化に適応しやすいはずである(例えば「その他」条項を設けるなど)。しかし、NPO法は、公益法人との棲み分けの要請から別表を限定列挙かつ制限列挙の活動リストとしてスタートした。 2011年改正で、20号が追加されたのは、1 ~ 19号を例示列挙あるいは概括列挙ととらえうる余地を都道府県と指定都市に認めたものともいえる。都道府県や指定都市にとっては、NPO法人の認証権限に加え、認証対象となりうるNPO法人が「主たる目的」とすべき「特定非営利活動」を自律的に独自設定するという自治体立法政策上の裁量を付与されたわけである。 20号が追加されて10年を経たが、この間、都道府県や指定都市は、この新たな権限をどのように理解し、活用してきたといえるだろうか。 図表 6 特定非営利活動第20号の「準ずる活動」(イメージ図) 出所:筆者作成 2 20号に基づく条例設定の状況 20号に基づく条例設定の運用状況について、ま ず、全国の所轄庁別の20号法人数を見る( 図表 7 )。 20号法人総数は都道府県:375、指定都市: 11、合計:386である(2024年 7 月29日現在)。 図表 7 では、順位Aとして20号法人数順位を示した。上位10位(法人数10件以上)は、①三重県:133、②福島県:35、③鳥取県:24、④ 岩手県:21、⑤滋賀県:19、⑥宮城県:15、⑥ 和歌山県:15、⑦大阪府:13、⑧大分県:12、 ⑨栃木県11、⑩島根県:10となっている。 このうち、条例設定を行っている団体(以下 「条例設定団体」という)は①三重県と③鳥取県の 2 県のみで、合わせて157法人ある。 条例設定を行っていない団体(以下「条例未 設定団体」という)のうち20号法人数が多い②福島県、④岩手県、⑤滋賀県、⑥宮城県、⑥和歌山県について、各県の特定非営利活動促進法施行条例と「特定非営利活動法人 設立・管理運営の手引き」等を見ると、「第20号の活動について、条例では定めていません」等の注記が福島・岩手・宮城の 3 県で確認できた 5) 。 以上より、現在のところ、都道府県や指定都市が、20号に基づき特定非営利活動を独自に条例設定する権限を積極的に活用しているとは言い難い。一方、条例未設定団体である所轄庁(三重・鳥取両県以外)において、認証された20号法人が合計229(386-157)ある。この認証状況はどのような事情によるものだろうか。 そこで、上記の20号法人数の多い都道府県等 の認証実務担当者に、[ 1 ]条例設定の検討の有無とその理由、[ 2 ]20号に係る認証事務の 運用状況等を2024年 9 月架電聴取した(回答は 口頭・文書含む)。 回答の得られた11団体 6) への聴取結果を見ると、まず、[ 1 ]条例未設定団体で、2011年改正による20号の追加以降、条例設定に向けた検討を行った事実(記録)は確認できなかった。 1 県から「平成23年のNPO法改正により、これまで以上に広範な分野が活動分野として認められたことから、条例による新たな活動分野の設定については、これまでの運用状況を勘案し、追加の必要が無かったものと考えます」(宮城県)と顧みる回答があった。 次に、[ 2 ]認証事務における20号の運用状況を見ると、条例設定団体(三重・鳥取両県)では、20号に基づく独自の特定非営利活動の存在を選択肢として検討するよう注意喚起している。一方、条例未設定団体の場合、申請者が20号を選択しようとしているときに、⒜許容する例( 2 団体)と、⒝20号に基づく「準ずる活動」の条例設定が無いことを示し、(b-1)20号を選 択しないよう(又は 1 ~19号から選択するよう)、あるいは(b-2)定款に記載した20号を削除し修正するよう、注意喚起する例( 4団体)、⒞黙過、 不干渉( 2 団体)、⒟不明( 1 団体)に分かれる。 なお、条例未設定団体の中には、NPO法人の設立・運営に係る手引き等で上記の⒝未設定や(b-1)の不選択を示唆する例がある(後掲・注 5 ) 参照)。 図表 7 特定非営利活動第20号による所轄庁別認証法人数(2024年 7 月29日 現在) 出所:筆者作成 3 20号の運用状況:上位 3 県の場合 都道府県と指定都市において、20号の活用の有無を分ける政策的思考や運用上の差異は何に由来するのだろうか。本論では、条例設定を行い20号法人数が多い①三重県及び③鳥取県、条例設定を行っていないが20号法人数が多い②福島県の 3 県について、担当課に対し設定に係る経緯と考え方、運用状況について架電調査した結果に拠りつつ検討する。 ⑴ 三重県 [1] 条例設定の理由 三重県は、2011年改正NPO法を受けて、2012年条例第31号として三重県特定非営利活動 促進法施行条例を一部改正し、第27条で次のよ うに定めた。 「(法別表各号に掲げる活動に準ずる活動) 第二十七条 法別表第二十号の条例で定める活動は、次に掲げる活動とする。 一 地域防災活動 二 障がい者の自立と共生社会(障がいのある人とない人が、相互に人格と個性を尊重 し合い、それぞれの違いを認め合いながら共に生きる社会をいう。)の実現を図る活動 三 多文化共生社会(国籍、民族等の異なる人々が、互いの文化的違いを認め合い、対等な関係の下で地域社会の構成員として安心して共に生きる社会をいう。)づくりの推進を図る活動 追加〔平成二四年条例三一号〕」 条例制定に先立つ平成24年第 1 回定例会の生活文化環境森林常任委員会(2012年 3 月 8 日)の説明資料によれば、「改正理由」は、「特定非営利活動促進法の一部改正に鑑み、認定特定非営利活動法人制度の創設等に関し、規程を整備します」とし、「改正内容」として「⑴認証制度(法人格の付与)関係規定の改正/NPO法人の認証制度の見直しとして、手続きの簡素化・柔軟化、及び法人の信頼性向上のための措置が講じられたことに対応するため、次の規定等を整備します。/①県が独自に定める特定非営利活動/・ 地域防災活動/・障がい者の自立と共生社会の実現を図る活動/・多文化共生社会づくりの推進を図る活動(②以下略)」としている 7) 。 同委員会では条例設定について直接の質疑はないが、同日の予算決算常任委員会生活文化環境森林分科会では「三重県災害ボランティア支援及び特定非営利活動促進基金条例案」が審議されており、同基金の最終目的は、NPOが参画することにより災害に強いまちづくりをしていこうとするところにあるとしている点 8) が、独自設定された「・地域防災活動」と通底するものとして注目される。 [2] 20号に係る認証事務の運用状況 同県のNPO法人設立事務の手引きでは、設立認証申請添付書類として掲げた定款例の第 4条(特定非営利活動の種類)で、「別表第 1 ~19 号に掲げる活動」及び「別表第20号に規定する条例で定める活動として施行条例第27条各号の活動」から各々活動を選択・記載し、「活動が別表の複数の項目にまたがる場合」を例示している 9) 。 条例第27条に掲げる 3 つの活動を、 1 ~19号の活動に紐付けたり読み込む解釈を採らずに特掲し、並べて選択対象としたことは、次のような意義があると考えられる。 まず、近年、県内の地域で多く取り上げられている課題や、今後県民の取組みを期待する活動を訴求することになる。つまり、これらの活動を選択するNPO法人が県内に増えてほしいという意向を表明したものと解することができる。 また、例えば「共生社会」のように、最近の国・自治体の政策上頻出するようになっていながら実は多義的で不確定的な概念について、当該自治体における意味を明示し、その実現を目指す活動を振興し促進支援することを可能とする。「障がい者の自立と共生社会の実現を図る活動」と「多文化共生社会づくりの推進を図る活動」を別々に規定したことは、同じく共生概念であっても、異なる経緯や意味合いの概念を区別し、それぞれ独立して解決すべき重要課題であることを明示したものといえる。この規定がない場合、「共生社会」の実現や整備に係る取り組みは、既存の活動分野と所管部課に振り分けられ、概念の多義性が顕示、顕出され難くなる。 ⑵ 鳥取県 [1] 条例設定の理由 鳥取県では、2013(平成25)年条例第 9 号として鳥取県特定非営利活動促進法施行条例の一部改正により第 1 条の 2 で次のように定めた。 「(特定非営利活動に含まれる活動) 第 1 条の 2 法別表第20号の条例で定める活動は、鳥取県の地域ならではの資源及び人材を活かし、地域の活力及び魅力を創造する活動とする。(平25条例 9 ・追加)」 これを受けて、県民向けのNPO法人制度に係るガイドブックでは、別表に「⑳鳥取県の地域の活力・魅力創造」と活動の略称を掲載している。 また、県のウェブサイトでは、「法別表第20号に定める活動分野について」と題し、20号について、「鳥取県では、『鳥取県の地域ならではの資源および人材を活かし、地域の活力及び魅力を創造する活動』と定め、地域固有の事情に応じた柔軟な法人運営の促進を図ることにしました」と制定趣旨を述べている。 [2] 20号に係る認証事務の運用状況 県のウェブサイトでは、続けて、「認証を受けるための活動分野を選択し、定款で規定することができます」と案内し、「・すでに認証を受けている県内NPO法人がこの活動分野を定款で規定する(追加する)ためには、定款変更の認証を受ける必要があります」とも付言して いる。 鳥取県の場合、この条例設定の前から、知事の主導のもと全県的に推進されていた「鳥取力創造運動」があり、20号の独自設定も、NPO法の一部改正の時機をとらえて鳥取県オリジナルの分野を加え、県のNPO政策の分野で鳥取力創造の理念を具現化したものといえる 10) ⑶ 福島県 [1] 条例設定の検討の有無とその理由 福島県では、福島県特定非営利活動促進法施行条例において「準ずる活動」を定めていない。過去に条例設定について検討がなされたこともない。県民向けの「特定非営利活動法人の設立・ 管理運営の手引き」でもその旨説明されている。 [2] 20号に係る認証事務の運用状況 条例設定していない同県ではあるが、20号法人は35件ある。認証実務において、20号を選択した申請に対し修正を求めたり不選択を促すようなことはしていない。将来、20号に基づく「準ずる活動」の条例設定に備え、あらかじめ活動分野に含めて申請しているものと受けとめ、申請者の意向を容認している。 Ⅴ 考察 1 20号に基づく条例設定の意義 以上より、20号に基づく条例設定は、自治体や市民活動団体、市民にとって、次のような意義があることが見出される。 ⑴ 地域ならではの課題の解決に取り組む市民活動団体を「顕出」 第一に、当該地域ならではの地域課題あるいは一般的な社会課題であっても地域性に配慮した解決が求められる課題について、その解決に資する活動を「準ずる活動」として独自に設定することにより、それらの課題解決に取り組む市民活動団体を「顕出」させることができる。 例として鳥取県による「地域固有の事情に応じた柔軟な法人運営の促進」を図るための条例設定などは、地域資源の再発見や利活用による市民活動を促すことにも通じるものといえる。 ⑵ 地域ならではの課題の解決に取り組む市民活動団体・法人への関心の喚起(「振興」) 第二に、条例の制定・改正過程で、当該課題や課題解決への取組み、ひいては市民活動団体の設立やNPO法人の認証申請に対して県民・ 市民の関心を喚起することが可能となる。 条例の制定・改正過程で、県民・市民が独自設定すべき「準ずる活動」について意見や提言を述べる機会を設けるならば、県民・市民の参加や活動を開始し継続するモチベーションも高まることが期待できる 11) 。 ⑶ NPO法別表の既存の特定非営利活動を見直し、上書き・追加修正する「問題提起」 第三に、別表第 1 ~19号の既存の特定非営利活動を、国際環境や国内の社会経済環境の変化に対応させて見直し、上書きや追加、修正することを問題提起する契機となる。 このように、条例設定には有為の市民活動団体の①顕出、②振興、さらに③既存の特定非営利活動の見直し、問題提起といった積極的意義が見出される。都道府県・指定都市が、ある政 策分野、政策課題に対する積極的な意思を表明 し訴求するツールとなる。また、ある都道府県・ 指定都市が独自に設定した活動が、他の自治体 の支持を得て波及すれば、既存の特定非営利活動の見直しの契機ともなりうる。 都道府県・指定都市では、この30年近く自律的に数多のNPO政策を展開しており現在も進行中である。神奈川県や宮城県など特色ある中間支援組織の設立や支援施設の開設、支援基金の設置、協働事業のモデル化など個性的な政策創造や政策革新で全国自治体のNPO政策をけん引してきた事例も少なくない。 自治体にとって、区域内の「地域レベルの市民活動団体」は、県民・市民による県政・市政への参画をはじめ公共サービス提供の協働や共創の連携主体として貴重な組織資源である。その存在や活動の伸展を顕出し振興することは自治体政策推進、地域住民による地域自治促進 の両方の観点からも大いに要請される。 2 20号に基づく条例設定の課題 一方、各団体に対する調査も踏まえると、条例設定には次のような課題が見て取れる。 ⑴ 広がらない条例設定 第一に、条例設定が都道府県・指定都市間で広がっていない。20号に基づく条例は、「法定事務条例(執行条例)」 12) と考えられるが、都道府県・指定都市が条例設定に消極的な原因は何か。 考えられる理由の一つ目に、設立認証事務(以下「認証事務」という)の位置づけや自治体立法である条例に対する理解の問題がある。 NPO法制定当初、NPO法人の認証事務は「団体委任事務」だった[橘・正木1998:96]。1999年地方分権改革一括法により機関委任事務及び団体委任事務は廃止され、法定受託事務及び自治事務に再編されたことから、認証事務も自治事務となった。本論で検討している「条例設定」はすぐれて自治力、自律性を発揮しうる テーマであるが、自治事務としての認識が未だ浅いのではないか。 二つ目に、条例設定主体となる所轄庁の組織的な問題がある。NPO法制定当初、同法の所管は経済企画庁だったが、2000年の中央省庁再編を経て内閣府に移管された。地方では当初都道府県、のち指定都市が所轄庁に追加されたが、各自治体内での所管部局は市民活動支援を担当する県民生活・市民生活部門が今も多数を占めている。今回の架電調査でも聴取されたが、県民生活等を一政策分野と意識している場合、分野横断的あるいは分野超越的な視野をもって「準ずる活動」の条例設定を全庁的に発起提案する動機には至らない憾みがある。 また、認証権限については、条例による事務処理特例制度(地方自治法第252条の17の 2 )の活用により、全国的に都道府県から管内基礎自治体への権限移譲が進んでおり移譲先の市町村にも違いがある。「管内全市町村に認証権限を移譲しており、県では認証実務の現況を了知していない」との感想も聴かれた。県では市民活動の顕出・振興や独自のNPO政策を開発する政策法務的な視点を持ち続ける当事者意識が後退している可能性がある。 三つ目に、認証事務への取組み方の問題がある。今回の調査に対する回答でも聴かれたところであるが、認証に際して、特定非営利活動を 1 ~19号の所与の法定リストとしてとらえる限り、申請法人の事業内容を各号の活動と照合してあてはめや読み込みをすれば事が足り、ことさら20号で独自の条例設定をする必要性を感じないことが考えられる。 四つ目に、当事者意識の後退とも関連しようが、市民活動に関する理解や認識の不足がありうる。そもそも必要に応じて生じるという市民活動本来の特性には、新たな分野や範疇化の萌芽として顕出、振興の対象とされる必然性が内包されている。しかし、そうした理解がなければ、条例設定の必要性も認識し難い。 ⑵ 条例設定に先行する20号認証 第二に、条例設定を行っていない都道府県・ 指定都市で、20号法人が漸増し活動している点をどのように考えるべきか。これらの認証法人は主たる活動に20号のみ選択しているわけではなく、他の号と併せて20号を挙げて認証されている。この点に関しては、認証における行政指導、都道府県・指定都市とのPPPに向けた関連づけ等が問題となろう。 所轄庁は認証主義を前提としつつ、前掲のとおり法人に対して申請の形式面で行政指導を行っている。合規性を確認する認証権限下とはいえ、20号を選択しないという不作為(あるいは選択を削除させるという作為)を求める指導が、20号の趣旨に照らしたとき果たして必要か、その要否を含め望ましい取り扱いの方向性を所轄庁には改めて示唆する必要がある。 3 20号に基づく条例設定の課題への対応 条例設定に上記 2 のような課題があることを踏まえ、今後、20号について、都道府県・指定都市はいかに運用し、市民活動団体はいかに活用していくことが望ましいだろうか。 ⑴ 都道府県・指定都市に期待される対応 第一に、都道府県・指定都市においては、一つ目には、自治事務である認証事務の前提として、20号による特定非営利活動の条例設定の積極的な意義について理解を深めることが求められる。 二つ目には、みずからの管内にどのような地域課題があるのか、その解決に現に取組みあるいは志す「地域レベルの市民活動団体」と分野横断的あるいは分野超越的な視野に立った定期的なコミュニケーションの機会をもつことを推奨する。管内の市民活動団体やNPO法人の活動分野への選好や志向等を把握し、既存の活動分野の分化や伸縮を踏まえた新たな分野設定の可能性を検討する政策的思考が期待される。 なお、市民活動団体やNPO法人への支援業務をNPO支援センターなど中間支援組織に委 託している自治体も少なくないが、任せきりにならないよう委託者として情報共有に努める必要がある。所管課が、そうした業務の中から「準ずる活動」として条例設定すべき分野を探索し発起提案することは、地域(組織)力の培養にもつながるものとして、首長や議会が奨励し積極的な評価をすることも支えとなる。 都道府県が認証事務を市町村に権限移譲している場合は、移譲先市町村の認証事務担当課とのコミュニケーションを密にして、広域自治体としてのNPO政策の当事者意識を保持する必要がある。 ⑵ 市民活動団体に期待される対応 第二に、市民活動団体においては、一つ目には、市民活動団体やNPO法人が、20号が他の活動分野と複合化して活動を展開し事業化を図るうえで探索や提案の契機となることを認識することを期待したい。条例未設定団体においても、むしろ設立認証申請時あるいは認証更新時に、将来設定されうる活動分野でのPPPを期して20号を先行して選択している旨を表明し条例設定を要請する能動性も期待される。 二つ目には、条例設定に向けた自治体立法過程が行政主導で終始するのではなく、市民はもとより地域レベルの市民活動団体からの提案を得て、それを活かしながら適切に設定されるような制度設計を要請し、実際に参加することが必要である。 以上、前節 2 で示した課題⑴・⑵の実態を精査し、本節 3 で示した期待される対応⑴・⑵の 可能性を探索するため、所轄庁・認証法人双方に対する悉皆調査の企画実施を他日に期すこととしたい。 20号に基づく条例設定は、地方分権時代に、自治体とNPO法人の連携・協働による取組みが期待される新たな地域課題(NPO法人から見れば活動分野)を設定したり、それらの課題解決を目指すPPPの刷新や拡充に向けた一つのツールとなる。 都道府県、指定都市をはじめ権限移譲を受けている基礎的自治体には、「地域レベルの市民 活動団体」を顕出させ振興する視点と、地域課題への鋭敏な認識や問題提起の視点を持って、自律的な政策裁量を発揮することが期待される。 [注] 1) 衆議院法制局でNPO法立法実務を担当した橘幸信らは、法制定当初の12項目について、「この12項目は、『民法の特別法』としてのいわゆる『棲み分け』の要件ですから、単な る例示ではなくあくまでも限定列挙であり、特定非営利活動法人の主たる目的は、この12 項目のいずれか(複数に該当しても構いません) に該当しなければなりません。」とする。[橘、 正木1998:55] 2) 筆者らは、本学会のNPO法人研究会(2021.9.- 2023.9.)の委員として、共通論題「NPO法人 の特長と新たな展開の可能性」のもとに共同研究を行い、2023年度全国大会分野別研究会報告で最終報告後、「最終報告書」を学会ウェブサイトで公開した((公社)非営利法人研究学会NPO法人研究会[2024])。NPO法人の「新 たな展開を促す、あるいは推進する方法、手段(政策、事業等)」として、「⑴『特定非営利活動』を活用」する可能性を検討した中で、「②第20号の有効活用」について考察してい る[同2024:90-92]。本論は、筆者らが、こ の最終報告内容を踏まえてさらに調査検討を加えた結果を報告するとともに、自治体の NPO政策について問題提起を行うものである。 3) NPO政策の意味、種類、分析枠組み等について、初谷[2001:第 1 章]、同[2012:序章]。 4) 「条例個別指定」とは、認定NPO法人としての認定申請書の提出前日までに、事務所のある都道府県又は市区町村の条例により、個人住民税の寄附金税額控除の対象となる法人として個別に指定を受けていることを求める基準であり、認定申請書の提出前日までに条例 の効力が生じている必要がある(内閣府ウェ ブサイト参照)。 5) 5 県の手引き等における20号に係る記載は次のとおり。②福島県[2017: 4 ]:「(※)福島県では、第20号の活動について条例では定めていません。19の活動分野から該当する活動を定款に記載してください。」/④岩手県 [2024: 2 ]:「(ト)前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動 ※上記(ト)については、 岩手県では条例で定めていないので、定款に記載は不要です。」/⑥宮城県[2023: 2 ]: 「※⒇の活動は、現在宮城県では定めていません(令和 5 年 4 月 1 日時点)。」/⑤滋賀県 [2023]及び⑥和歌山県[2024]では、特定非営利活動の説明、定款例、Q&A等において、 20号の活動を条例で定めていないことにはふれていない。 6) 10位までのうち①三重県、②福島県、③鳥取県、④岩手県、⑤滋賀県、⑥宮城県、⑥和歌山県、⑨栃木県(及び同県の権限移譲先のうち認証法人数最多の宇都宮市)、11位以下から東 京都、神奈川県、岐阜県の計12団体の所管課の本調査へのご回答にお礼申し上げる。 7) 同委員会説明資料、 1 頁。 8) 同委員会会議録、生活・文化部 人権・社会参画・国際分野総括室長の答弁参照。 9) 三重県環境生活部 ダイバーシティ社会推進課NPO班[2023:21]。 10) 鳥取県未来づくり推進局鳥取力創造課は、以前の協働連携推進課の後継組織として2010年 度に設置。「鳥取力創造運動(市民活動支援)」 等を所管。初谷[2017:第 6 章 鳥取方式] 参照。 また、2013年 3 月 1 日:平成25年 2 月定例会(第 3 号)における浜田妙子議員の代表質問とそれに対する平井伸治知事の答弁参照。 知事は、NPOについて「ニュー・パブリック・ オーガニゼーション、新しい公共を担う組織」と称したら元気が出るのではないかとの 山岡義典の言葉を引いて、行政と民、NPOとのパートナーシップ、新しい関係性づくり が必要と述べた上で、地域レベルの市民活動団体について次のように言及している。/「鳥取県内でもユニークな活動が生まれてきていますし、大切だと思われることが出てきてい ると思います。一つ一つの団体は地域で活動しておられますからびっくりするような大き なことができるわけではないわけでありますが、その地域にとって絶対に必要なこと、大 切なことを小回りをきかせて自分たちの発想で一番最適な形でされている面があろうかと思います。…(中略)…/鳥取力とは何なのかということは、私はその地域の資源と人間 との掛け算で生まれる力だというふうに考えています。」―本論で取り上げた「地域レベルの市民活動」の価値と振興を首長が説く例として注目される。 11) 立法への市民参加について、山岡[2007]参照。 12) 法定事務条例については、磯崎[2023:第10 章(221-243)]参照。自治体の事務のうち法律に基づいて処理する「法定事務」について制定する条例を法定事務条例という。法定事務条例は、法律の委任・授権に基づいて制定する「委任条例」と、法律の委任・授権に基づかず、執行権を有する自治体が法定事務を執行するために必要と認める事項について制定する「執行条例」に分けられる。なお、分権改革の下での条例を巡る論点について北村[2024]、地域の実情に応じた課題解決のための立法分権を説く磯崎[2021]参照 [参考文献] 磯崎初仁[2021]『立法分権のすすめ―地域の実情に即した課題解決へ』、ぎょうせい。 磯崎初仁[2023]『地方分権と条例―開発規制からコロナ対策まで』、第一法規。 北村喜宣[2024]『分権改革と条例』弘文堂。 橘幸信、正木寛也[1998]『やさしいNPO法の解説』、礼文出版。 初谷勇[2001]『NPO政策の理論と展開』、大阪大学出版会。 初谷勇[2012]『公共マネジメントとNPO政策』、 ぎょうせい。 初谷勇[2017]『地域ブランド政策論:地域冠政策方式による都市の魅力創造』、日本評論社。 (公社) 非営利法人研究学会NPO法人研究会 [2024]「NPO法人研究会(2021.9.-2023.9.)最 終報告書」、(公社)非営利法人研究学会。 藤澤浩子[2007]「「市民活動」概念形成過程に関する一考察:「三浦半島自然保護の会」 1950~1970年代の活動史から」、『法政大学大学院紀要』、第59巻、143-167頁。 藤澤浩子[2010]「自然環境保全分野における市民活動とその長期継続要因」、『ノンプロ フィット・レビュー』、10⑴、37-48頁。 藤澤浩子[2011]『自然保護分野の市民活動の研究』、芙蓉書房出版。 山岡義典編著、田代正美、久住剛、早瀬昇、片山正夫著[2005]『NPO基礎講座 新版』、 ぎょうせい。 山岡義典[2007]「第 5 章 特定非営利活動法人と公益法人制度改革関連 3 法の立法過程― 特に立法への市民参加の視点から―」、 小島 武司編著[2007]『日本法制の改革:立法と実務の最前線』、中央大学出版部、549-608頁。 [ウェブサイト] (2024年 9 月12日閲覧) 岩手県[2024]「特定非営利活動法人制度の手引き」(令和 6 年 3 月)。 滋賀県総合企画部県民活動生活課県民活動・協働推進室[2022]「特定非営利活動法人の設 立および管理・運営の手引き」(令和 4 年 4 月)。 鳥取県輝く鳥取創造本部とっとり暮らし推進局協働参画課[2024]「特定非営利活動法人の 手引き」(令和 6 年 4 月改訂)。 福島県企画調整部文化スポーツ局文化振興課編[2017]「特定非営利活動法人の設立・管理 運営の手引き」(平成29年 4 月)。 三重県議会[2012]「平成24年 3 月 8 日生活文化環境森林常任委員会 予算決算常任委員会 生活文化環境森林分科会 会議録」。 三重県環境生活部 ダイバーシティ社会推進課NPO班[2023]「特定非営利活動法人事務の 手引き―法人設立編―」(令和 5 年 1 月)。 宮城県環境生活部共同参画社会推進課NPO・ 協働社会推進班[2023]「NPO法人ガイドブッ ク 法人設立申請版」(令和 5 年 4 月)。 和歌山県[2024]「特定非営利活動法人の設立及び管理・運営の手引き」(令和 6 年 4 月)。 論稿提出:令和 6 年12月27日 加筆修正:令和 7 年 5 月26日
- ≪統一論題報告≫公益法人改革と法人税非課税の考察―収支相償原則に整合する公益目的事業非課税と収益事業課税の検討
PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 税理士・千葉商科大学大学院会計ファイナンス研究科客員教授 苅米 裕 キーワード: 収支相償原則 公益目的事業非課税 収益事業課税 シャウプ勧告 公益法人制度 公益法人課税 要 旨: 改正公益認定法による収支相償原則等の見直しは、公益法人が社会的課題の変化等に対応し、公益的活動の活性化に取り組んでいくための体制整備を行ったものである。また、公益法人税制は、税制上の便宜を引き続き図ったものといえる。 公益法人課税は、公益法人制度と整合することにより、官と民の役割分担の架橋になると考える。そして、本稿の目的は、公益目的事業非課税から収益事業課税の本質を明らかにして、本来あるべき機能的な課税方式を検討することである。 公益法人課税は、所得の源泉から財産の費消に対する課税方式へ転換することにより、公益法人制度の理念に整合する。この課税方式は、本来の機能的な公益法人課税を実現する上においても有効である。そして、公益認定の基準を欠如したことによる制裁規定は、公益活動による適正な財産の費消を牽引する効果を有している。その結果、租税回避の濫用に対する抑止効果があると考える。 構 成: Ⅰ はじめに Ⅱ 公益法人改革による収支相償原則等の見直しと公益目的事業非課税の考察 Ⅲ 収益事業課税の見直しの機運と継続している実態の把握 Ⅳ 公益法人非課税から収益事業課税への転換 Ⅴ 公益法人制度と整合する公益法人課税の考察 Ⅵ おわりに Abstract Revision of the principle of balancing income and expenditures under the revised Public Interest Corporations Recognition Act has resulted in a system that enables public interest corporations to respond to changes in social issues and work to revitalize their public interest activities. Furthermore, the tax system for public interest corporations can be said to continue to provide tax relief. We believe that taxation of public interest corporations consistent with the public interest corporation system would serve as a bridge to clarify the division of roles between the public and private sectors. The purpose of this paper was to clarify the essence of taxation of profit-making businesses from the perspective of the tax-exempt status of charitable businesses, and to consider a functional taxation system that should be in place. Taxing public interest corporations would be consistent with the principles of the public interest corporation system by shifting the taxation method from one based on the source of income to one based on the consumption of assets. Furthermore, sanctions imposed for failing to meet standards for public interest recognition have the effect of encouraging the appropriate consumption of assets through public interest activities. As a result, we believe that this would serve as a deterrent to tax avoidance. Ⅰ はじめに 令和 4 年(2022年) 6 月 7 日に内閣は、新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画の下、民間にとっての利便性向上の観点から、財団・社団等の既存の法人形態の改革を検討する旨の方針を打ち出した。この方針を受け、同年 9 月22日に内閣府特命担当大臣は、公益法人制度の有識者で構成される「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議 1) 」を発足した。新しい有識者会議の成果である最終報告は、令和 6 年(2024年)に定められた改正公益認定法、同法施行令及び同法施行規則の大規模な改正の基礎となっている 2) 。 最終報告では、公益目的事業 3) の資金をできる限り効果的に活用するため、財務規律の柔軟化・明確化を主張している。この財務規律の課題としては、まず公益目的事業から生ずる収入の不安定かつ不確実性を考慮して、当該年度の剰余額又は欠損額に係る年度間の資金調整が必要であると考えられていた。また、臨時・偶発的に生じた年度剰余額は、将来の災害等不測の事態における公益目的事業の運営資金の確保に備えることが求められていた。当該課題は、改正公益認定法において、収支相償原則 4) 及び使途不特定財産額(旧遊休財産)の保有の制限 5) に 関する見直しにより大躍進を遂げている。 一方、最終報告が公開された後、公益認定法その他関係法令等の改正の機運が高まり、意識は公益法人課税の改正に向けられていた。特に気になる動向は、公益目的事業非課税(法人税 法施行令 5 条 2 項 1 号)の継続有無、非収益事業所得等の非課税(法人税法 6 条、同法施行令 5 条 1 項、以下「収益事業課税」という。)に係る課税対象事業の範囲の見直しであった。その動向は、改正公益認定法が成立する前、令和 5 年12月22 日に閣議決定された令和 6 年度税制改正の大綱に記載され、早々に明らかにされている。それは、改正公益認定法が成立することを前提にして「収支相償原則の見直し等の公益法人制度改革が行われた後も、公益社団法人及び公益財団法人に講じられている措置を引き続き認めることとする」というものである。収支相償原則等の財務規律の見直しは、公益法人が社会的課題の変化等に対応し、公益的活動の活性化に取り組んでいくための体制整備を行ったものであ る。そして、税制上の便宜を引き続き図ったものといえる。 公益法人課税は、公益法人制度と整合することにより、官と民の役割分担の架橋になると考える。そして、本稿の目的は、公益目的事業非課税から収益事業課税の本質を明らかにして、本来あるべき機能的な課税方式を検討する。 Ⅱ 公益法人改革による収支相償原則等の見直しと公益目的事業非課税の考察 収支相償原則を定めた趣旨は、「公益目的事業の遂行に当たっては、動員可能な資源を最大限に活用し、無償または低廉な対価を設定することなどにより受益者の範囲を可能な限り拡大することが求められる。そのため公益目的事業を行うに当たり、当該公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得てはならないこと(実費弁償)を認定基準として設けることとした 6) 」と説明されている。しかし、現実に受益者の範囲を拡大するには、年度剰余額による資金の確保を目指す真逆の運営方針となり、公益目的事業の実施に要する適正な費用と収入との均衡を図る意識が希薄になる。一方、収支不足に陥る場合には、収支均衡をさておき寄附等による資金集めに翻弄され、健全な事業運営の遂行が危ぶまれる。公益法人は、公益目的事業の質の向上が求められるゆえに、安定的な財務体制の確保が重要な要素となる。 1 収支相償原則の見直しの概要と効果 改正公益認定法では、収支相償原則の規律が、公益目的事業に係る収入をその実施に要する適正な費用に充てることにより、 5 年間で収支の均衡が図られるようにしなければならない。つまり、その事業年度に生じた年度剰余額は、翌事業年度以降 5 年間の各事業年度の年度欠損額と相殺することにより、残存剰余額が解消されれば(剰余額がゼロになれば)収支均衡が図られたとするものである。また、その事業年度に生じた年度剰余額は、当該事業年度の開始の日前 4 年以内に開始した事業年度に係る過年度残存欠損額を控除することができる(収支相償原則 の見直しは、 図表 1 )。 さらに、公益目的事業の実施に要する適正な費用には、公益目的事業を充実させるため将来において必要となる資金(以下「公益充実資金」という。)が含まれることとされている(公益認定法施行規則23条)。公益充実資金は、複数の目的のために一つの資金として管理をすることが許容され、積立限度額の範囲内で積立目的を変更することが可能である等、特定費用準備資金と資産取得資金の取扱いを包含しつつ、より使い勝手の良い資金のストック機能を有するものとなっている。なお、特定費用準備資金と資産取得資金は、従前と同様に収益事業等や法人の運営に係る活用が可能であり、公益目的事業比率(公益認定法 5 条 8 号)及び使途不特定財産の保有の制限規定の算定に使用される。 収支相償原則の見直しは、年度剰余額が生じる傾向にある公益法人について、イノベーティブな公益目的事業を創出する機会を提供され、社会的課題に向き合う事業体制を整備したと考えることができる。また、資金不足に窮する公益法人にとって、不安定かつ不確実な公益目的事業の実施は、過年度残存欠損額の補填機能として、その後の事業年度の年度剰余額に係る繰越控除による年度間の収支均衡が措置されたことには大きな意義がある。持続可能な公益目的事業の運営体制の構築は、安定資金の確保が不可欠であり、年度欠損額の発生に伴うフォロー機能として大いに期待することができる。 他方、使途不特定財産額の保有の制限は、公益目的事業継続予備財産 7) を使途不特定財産額の算定から控除する旨改正されている(公益認定法16条 2 項)。災害等不測の事態に備える公益目的事業の運営資金の確保は、近年の環境問題等を鑑みると避けられないことである。持続的な公益目的事業の遂行に対して、資金を備える体制の規律を明示したことは、公益法人の役割が重視されている象徴である。 図表 1 【公益目的事業の中期的収支均衡の概要】 出所:筆者作成 2 収支相償原則の見直しに伴う公益目的事業非課税の考察 公益法人の収益事業課税は、公益目的事業に該当するものが収益事業(法人税法独自の概念 8) ) の範囲から除外されている。これにより、公益法人は、公益目的事業が非課税になるという取扱いである。この公益目的事業非課税は、改正公益認定法等による収支相償原則の見直しを受けても、なお継続されることとなっている。 公益目的事業非課税の趣旨は、公益目的事業による収支差額が一時的には生ずる事業年度があるとしても、恒常的には生じ得ない収支構造であることが制度上確保されていることから、収益事業の範囲から除外するというものである 9) 。当該趣旨は、収支相償原則による実費弁償の仕組みを尊重し、複数年度間にまたがる収支均衡に対して便宜を図ったものと考える。この度の収支相償原則の見直しは、公益目的事業に係る年度剰余額の 5 年間における収支均衡を求めていることに対して、法人税に係る更正の期間制限(原則 5 年間、国税通則法70条)と整合している。他方、当該年度剰余額は、過年度残存欠損額の 4 年間の繰越を認めている。しかし、更正の期間制限及び欠損金の繰越控除(法人税法57条)は、前期以前10年間の欠損金が対象で ある。公益法人課税は、公益法人に対する税制上の便宜を図ることが求められても、公益法人制度との完全なる連携を目指しているものではない。そうとはいえ、法人税の各事業年度の所得金額は、特別な規定を除けば、繰り越して課税をする規定が存していない。収支相償原則の見直しがトータル10年間の対応措置であることは、欠損金の繰越期間の効果と結果的に接合し、帳簿書類や計算書類その他の検証資料の原則的な保存期間により、収支均衡の監視期間としても整合する。 なお、公益目的事業継続予備財産は、使途不特定財産額の算定上控除することとされている。この規定の思考は、公益目的事業の実施に要する適正な費用として、収支相償原則に組み込むことが検討できないのだろうか。つまり、災害等の不測の事態及び突発的な事象が生じた場合に備えることは、公益目的事業による新たな復興事業が求められる。当該復興事業の財源の備えは、公益充実資金の範囲に含めることができるのではないかということである。しかし、公益充実資金は、ストック財源の費消期間を定めることで、収支相償原則が求める中期的収支均衡を充足することが確実視されるものである。また、公益目的事業非課税は、収支相償原則による蓋然性のある実費弁償の効果を尊重した便宜的対応であると考えられる。そのため、不測の事態に備える財源ストックという目的は、その趣旨に反することになる。このような観点から、災害等の不測の事態に対する備えは、公益目的事業継続予備財産としての財源ストックに留まり、収支相償原則の趣旨に合致できない。したがって、公益充実資金は、災害復興事 業の実施が具体化していないところで、公益目的事業の実施に要する適正な費用に含めることは困難である。 Ⅲ 収益事業課税の見直しの機運と継続している実態の把握 公益目的事業非課税は、仮に収益事業に該当する事業であっても、収益事業の範囲から除外していることから、収益事業課税の上に成り立つ優遇措置の位置付けといえる。そうすると、収益事業課税の動向によっては、公益目的事業非課税が普遍的な規定であるとは言い切れないということになる。 それでは、収益事業課税のこれまでの審議経過について、内閣府の税制調査会の答申を遡ってみる。平成 8 年11月に税制調査会は、法人税の課税ベースに関する検討項目として、公益法人等の課税対象所得の範囲が掲げられ、その意見が述べられている。その後、平成12年 7 月にわが国税制の現状と課題として、また、平成14 年 6 月及び同年11月にあるべき税制の構築に向けて、公益法人等の収益事業課税に対する意見を申し述べている。その要旨は、「現在収益事業とされていない事業であっても民間企業と競合するものについては、これを随時収益事業の範囲に追加していくことが適当である。しかし、そうした対応に限界があるとすれば、公益法人等が対価を得て行う事業については、原則として課税対象とし、一定の要件に該当する事業は課税しないこととするといった見直しなどを行うことも考えられる。いずれにしても、公益法人課税についての見直しを行う場合には、まず、その実態を十分把握する必要がある」というものである。 現行公益法人制度は、旧民法34条に規定されていた旧公益法人制度を抜本的に改革し、平成20年(2008年)12月 1 日から施行している。当該抜本的改革に向けて、内閣府の税制調査会は、平成17年(2005年)に設置された「非営利法人課税ワーキング・グループ」の審議において、上述した税制調査会の答申を基礎にして、特に収益事業課税について大きく取り上げている。現行の公益法人課税は、当該答申の痕跡が何事もなかったかのように、収益事業課税が継続されている事実のみが認識される。今後も税制改革や公益法人制度改革の節目では、収益事業課税が俎上に上がることを念頭に置く必要がある。そして、民間主導によるあるべき課税方式の検討は、内閣府の審議会に先行して整理をすべき必要があると考える。そのため、まずは公益法人非課税の起源から収益事業課税までの変遷をたどり、現行公益法人制度に整合させる課税方式を検討する必要がある。 Ⅳ 公益法人非課税から収益事業課税への転換 1 旧公益法人制度の創設前と創設以後の非課税措置の成り立ち 旧公益法人制度の創設前では、私的公益団体「感恩講」の公益活動の記録が残されている。那波三郎右衛門祐生ほか71名の町人は、藩に献金を行った。藩は、その献金を財源にして、知行高を購入した後に感恩講に出捐をした。感恩講は、知行高を貧困救済活動の公益活動のための財産として、祐生らが効率的に活用したのである。感恩講が誕生した当時の租税制度は、物成りと言われ年貢による米納地租が中心であった 10) 。 天保 4 年(1833年)、秋田では「巳年のけかち」と称された大凶作となり、この大凶作が翌年(1834年)も続き、秋田藩領全域で餓死・疫病による死者が 5 万余人に達したといわれている。このような秋田藩史上最大の飢饉において、感恩講の備荒貯蓄用の穀物により、秋田藩町奉行支配下の市街地に永住する貧民は「死者ゼロ」という優れた功績を残すこととなった 11) 。天保 6 年(1835年)、藩は感恩講が行った貧困救済活動を讃えて、「感恩講知行高千石ヲ限リ割合無 シ」とすることを決めている 12) 。言わば、感恩講は、私的公益団体の慈善活動に対する非課税の起源といえる。 明治31年(1898年)民法施行に伴い、同年(1898 年) 7 月から旧公益法人制度が施行された。公益法人課税は、翌年(1899年)法律第17号所得税法の全文改正により、所得税を非課税とする範囲に含めている 13) 。非課税の創設については、明治31年(1898年)12月13日に開催された第13 回帝国議会衆議院所得税法改正に係る審査特別委員会での質疑応答の記録が残されている。政府委員の若槻礼次郎の答弁は、「營利ヲ目的トセサル法人ト伝ヒマスノハ、今日民法ノ總則ニアリマス、……所得税モ矢張リ、サウ云フヤウナ慈善トカ教育トカ商業トカ云フ目的デ立テ居ル法人ダケニハ、課ケナイ方ガ宜シイト云フノデ、營利ヲ目的トセザル法人ノ所得ハ、課税ノ範囲外ニ置キマシタ」というものであった 14) 。 政府は、教育や慈善の目的である公益法人について、所得税を課税しない方が良いという回答 を行っているが、非課税とする根拠について何ら触れてはいない。旧公益法人制度の施行直後の下では、財団法人又は社団法人としての公益活動が始まったところである。この時期では、慈善や教育その他の活動を行ってきた私的公益団体の実績から、それまで非課税として取扱ってきたことを単に踏襲したと考えるのが自然である。 2 公益法人を非課税とした学説からの考察 公益法人を非課税にした理由は、諸説論じられているところであるが、判然としているものはない。非課税の理由の要旨は、①政府の行うべき活動等を肩代わりしているため、②非課税は公益活動に対する対価である、③配当を受ける持分株主が存在しないため、④大きな外部経済をもたらす民間公益活動は課税すべき理由を見出すことはできない、⑤有力なのは補助金理論による説明、すなわち非営利についての優遇措置は間接的な助成金(租税支出)であるとする説、⑥剰余金の配分禁止に対する補償説等々である 15) 。これらの学説は、各々を捉えると説得的ではあるが、租税法や財政学の考え方を混合しつつも、非課税とする確定的な理由を示すことは困難であると考える。筆者は、石村[1992]の「当初の公益法人等に対する非課税措置は、特別の根拠に基づいてとられたというよりも、 むしろ、議会は、この種の団体は課税されるべきではないといった単純な発想に基づいていたのではないか思われる」という指摘に目が留まる。上述の感恩講の慈善活動を初め、私的公益団体の功績を尊重した非課税措置は、公益法人格を付与した後においても、引き続き税制上の便宜を図っているということであれば理解できることである。 3 シャウプ勧告の真意と異なる収益事業課税の導入 公益法人は、昭和25年(1950年)の税制改正前までの間、非課税の規定が継続して措置されていた。大きな転換が生じたのは、シャウプ使節団日本税制報告書 16) に公益法人に対する課税の考え方等が記載されたことに端を発している。シャウプ勧告は、「多くの非課税法人が収益を目的とする活動に従事し、一般法人並びに個人と直接競争している……もし利益が生じなかったとしたならば、または非課税法人がその利益を全て分配していたならば、非課税法人の収益事業は、さして重要な問題とはならない。」 と記載されている。シャウプ勧告は、非課税法人が行う一般法人や個人と同様の事業(収益事業)は利益が生じていない又は利益を公益活動の財源として費消していれば重要な問題ではないとしている。つまり、シャウプ勧告は、公益法人が公益活動の財源確保のために収益事業を行うことを否定しているのではなく、収益事業から生じた利益の費消の実態を問題視して、非課税にする意味がないとしているのである。公益法人課税の論点は、収益事業による利益の費消活動が公益目的の財源としていない公益法人に対して、課税方式の見直しの必要性を唱えているのである 17) 。 ところが、我が国は、このシャウプ勧告の真意を公益法人の課税方式として取り込まず、昭和25年(1950年)法律第69号の法人税法の改正により公益法人に対する収益事業課税 18) が導入されている。この法人税法の改正から 5 年経過後の昭和30年(1955年)大蔵省主税局調査課は、昭和25年税制改正による公益法人等に対する課税方式の転換について、説明文を公表している。その内容は、要旨「個々の公益法人の事業内容により、その事業が非常に公共性が強いときはたとえ収益事業を行つても課税せず、また公共性に乏しいときはその事業の全部に対し課税するという方法も考えられた。しかしすべての公益法人についてその事業を精査し、公共性の強弱を判定することは事実上不可能に近いので、改正税法においてはすべての公益法人を一律に課税法人とし、その収益事業から生ずる所得に対してのみ法人税を課税することとし(た) 19) 」 と説示している。 収益事業課税は、シャウプ勧告前の昭和20年 (1945年)において、収益事業を営む宗教法人及び労働組合について、収益事業から生ずる所得に対して法人税を課す旨規定をしていた(宗教法人令第16条、労働組合法第11条)。すなわち、収益事業課税の淵源は、昭和20年(1945年)の課税方式の転換から見出すことができる。昭和 25年(1950年)税制改正により収益事業課税を公益法人等の全体に拡大したのは、戦後の混乱期及び財政が逼迫している中での効率的な国家財源の確保が背景にあると考えられるが、その理由は定かではない。しかし、収益事業課税への転換により、収益事業の範囲をめぐる租税行政庁と納税者との判断の相違は、現在にも続く課題として残ることとなる。 Ⅴ 公益法人制度と整合する公益法人課税の考察 公益法人制度は、中期的収支均衡及び使途不特定財産規制に基づき、公益目的事業による資金の費消を求めた規律となっている。一方、収益事業課税は、収益事業以外の事業について、非課税所得による余剰資金の費消管理を公益法人等の意思に委ねている。これは、上記Ⅳ 3 で検討したシャウプ勧告により「非課税法人の収益事業は、……その活動を更に拡張するか又は饗宴のために消費されていること」を問題視していたことの解決が図られているとはいえない。 兼平[2005]は、「公益法人等が原則非課税となっているのは、歴史的にみると、法人理論や所得概念による理論的帰結というより、公益目的ゆえに非課税という側面が強い。……ゆくゆくは使途に着目した課税方式へと……見直すべきではなかろうか 20) 」と論じている。公益法人課税は、兼平[2005]の表現を借用すると「所得概念による理論的帰結」に拘泥するべきではなく、現行公益法人制度の理念を課税方式に接合する「使途に着目した課税方式」へ見直すべきとするものである。これは、本稿のあるべき課税方式に直接結合する意見であり、現代の公益法人制度に接合する課税方式として検討する必要がある。 1 所得概念からの考察 所得の構成には、「処分型」(disposition)と「発生型」(accrual type)の二つの所得概念に類型される。 処分型の所得概念は、「納税者の各年度の利得のうち、効用ないし満足の源泉である財貨やサービスの購入に充てられる部分のみを所得と観念し、貯積(貯蓄・投資)に向けられる部分は所得の範囲から除外する。したがって、この構成の下においては、一般的にいえば、各年度の所得とは、消費の総額にほかならない 21) 」。 公益法人に焦点を当てた場合、消費の総額を財産の費消に置換えて所得と観念するのであれば、公益法人の費用を所得として捉えた後、公益目的事業の実施に要する適正な費用を非課税とする手法も一考である。公益目的事業の実施効果は、不特定多数の者に物やサービスを提供することにより、受益者が得る心理的満足を非課税の趣旨とする考えに立つことができる。また、公益法人課税は、しばしば金融所得の課税の有無が議論となるが、消費支出を所得と観念するのであれば論点から外すことも可能である。しかし、処分型が一般に受け入れられないのは、主に貯蓄を所得から除外して消費支出部分に課税することが、税の公平に反するという理由からである。つまり、処分型の所得概念は、消費支出に着眼することにより、不必要な内部留保の増幅等による租税回避の温床になると考えられているのである。その一方で、公益法人は、公益目的事業に係る適正な費用に該当するか否かについて、公益認定の基準に係る財務規律及び申告納税義務に係る租税行政庁の確認により、二重の牽制を受ける運営化に置くことができる。いずれの視点であっても、処分型は、賛否両論となり容易に帰結するものではない。 一方、発生型の所得概念は、「所得とは一定期間の間に納税者に生ずる経済的利得(gain) であると観念されている 22) 」。発生型は、取得型の所得と呼ばれ、税の公平を尊重する場合、 所得概念を包括的に課税の対象とすることから支持をする見解が多い。発生型の所得概念に立脚する場合には、税制調査会の答申に記載された「原則として課税対象とし、一定の要件に該当する事業は課税しないこととする」という意見に通ずることになる。 公益法人課税は、兼平[2005]が論じられているとおり、所得概念による理論的帰結というより、公益活動の歴史的背景と公益法人制度の抜本的改革などの背景を踏まえるべきである。社会的課題の解決に寄与するためには、公益目的事業を推進する必要があり、税制からの支援によるあるべき課税方式を再考すべきといえる。 2 みなし寄附金制度による効果 みなし寄附金制度の趣旨について、武田[1997] は「公益法人等がその本来の目的事業のほかに営利的な事業を行なうのは、その本来の目的事業を行うに要する資金を得るための一手段であり、収益事業により獲得した利益を本来の目的事業に使用することは当然あり得ることである。しかしながら、その投下する資金については、収益事業会計(収益事業等会計)と収益事業会計以外の会計(公益目的事業会計)を区別して考えるとき、それ自体としては収益事業の負担すべき損金とはならず、いわば利益処分としての性格を有するものである。しかし、公益法人課税の本旨を考慮し、これをみなし寄付金として損金算入することを認めたのである 23) 」と説示し ている。 しかし、法人税の収益事業と公益法人の運営上認識される収益事業は、必ずしも一致するものではない( 図表 2 )。みなし寄附金の対象は、収益事業等会計から公益目的事業財産へ転換させる金額の認識との間に差額が生じ、公益目的事業の財源としては間接的な支援となる。 みなし寄附金は、収益事業課税の上に成り立つものであることから、収益事業以外の事業の利益が公益目的事業財産として公益目的事業に費消される効果を考慮できていない。また、収益事業以外の事業の利益は、全てが公益目的事業財産に組み込まれているとは限らず、収益事業の拡大財源等に使用することも考えられる。公益法人制度に係る収支相償原則と公益法人税制の連携は、一定の配慮を認識して割り切ることもできる。その一方では、公益法人制度改革により、双方が接合する機能的な課税方式を検討すべき体制が整ったという見方もできる。みなし寄附金制度によるアプローチからも、兼平[2005]が提言するとおり、使途に着目した課税方式へと見直すべき課題が浮上している。 図表 2 【公益法人制度と法人税法のみなし寄附金との関係】 (注 1 )みなし寄附金:収益事業に属する資産のうちから公益目的事業に該当するもののために支 出した金額を寄附金の額とみなし損金の額に算入する。 (注 2 )非課税後の残余利益(公益目的事業財産以外=原則として利益の50%)の使途は法人の自 由となる。 出所:筆者作成 3 所得の源泉から財産の費消に対する課税方式 収益事業課税は、「社会的に有用な非営利活動を行うことを主たる目的とする公益法人等が行う活動に対して税制上の便宜を提供するものである 24) 」旨の法令解釈が示されている。公益法人制度に係る税制上の便宜は、公益活動のための財産の費消活動の実態を捉える必要があり、使途の制約もなく収益事業以外の事業による所得を非課税とすれば、無税による財産移転や内部留保のために税制優遇を与えることにもなりかねない。また、営利法人と公益法人とのイコール・フッティングの問題は、公益法人に対して財産の費消を捉えた課税制度を設計することにより、法人組織運営の根本的な違いを課税方式に取り込み、明確に区分することで達することが可能である。 藤谷[2004]は、収益事業課税について、「公益活動促進の手段としては間接的であ(り)、所得の源泉ではなく使途に着目した制度設計の方が合理的である 25) 」と論じている。また、課税方式として、「非営利法人の全所得を課税所得に含めた上で、促進すべき使途(公益活動支出)を即時償却扱いとする課税方式がある 26) 」旨の提言をしている。この提言は、税法の特例である租税特別措置に係る準備金の繰入れ等と類似する手法となり、課税方式の一つの試案といえる。また、改正公益認定法は、公益充実資金を措置していることに鑑み、会計上費用処理をすることにより、その目的の効果を得ることができる。しかし、公益充実資金の予定している将来発生する費用は、当該事業年度の負担に属する金額が存しないことから、引当金の計上基準 を満たすことができない(一般法人法施行規則24 条 2 項 1 号)。また、公益法人に全所得課税を前提にする課税方式は、公益活動により非課税としてきた慈善事業などを根底から覆すことになり、現下の社会的課題の解決に向けた公益法人の役割の増大を考慮すると大きな反発を受けると考える。 公益法人を非課税とする税制上の便宜は、公益活動により財産を費消することで成り立つものである。所得の源泉から財産の費消に対する課税方式への転換は、収益事業課税により、収益事業以外の事業による所得が非課税となって無税による利益移転や収益事業の拡大財源に活用することを回避する効果を得ることが可能となる。 Ⅵ おわりに 公益法人課税は、所得の源泉から財産の費消に対する課税方式へ転換することにより、公益法人制度の理念に整合する。この課税方式は、本来の機能的な課税を実現する上においても有効である。そして、公益認定の基準を欠如したことによる制裁規定は、公益活動による適正な財産の費消を牽引する効果を有している。その結果、租税回避の濫用に対する抑止効果があると考える。 一方、租税回避の濫用の抑止効果は、公益法人制度のみでは十分ではないという指摘を受けると考えられる。そうすると、財産の費消に対する課税方式は、各事業年度の所得の金額を算定して申告をさせて所得の費消活動の経過も申告義務を課する必要が生ずる。また、財源の費消期限は、更正の期間制限の 5 年(国税通則法 第70条)とすることになる。 租税回避の濫用の余地は、申告義務により全てが払拭されると評価できないとする意見も考えられることから、その対応措置の検討が今後の課題となる 27) 。 [注] 1) 新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議(以下「新しい有識者会議」という。) は、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)の下において、「新しい資本主義のグランドデ ザイン及び実行計画」(令和 4 年 6 月 7 日閣議決定)及び「経済財政運営と改革の基本方針 2022」(令和 4 年 6 月 7 日閣議決定)に基づき、民間にとっての利便性向上の観点から、公益法人制度の見直しに必要な検討を行っている。 2) 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の一部を改正する法律(令和 6 年 5 月22日法律第29号。以下「改正公益認定法」という。)を受け、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」(令和 6 年政令第322 号)、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行令の一部を改正する政令」(令和 6 年政令第323号)、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行規則の一部を改正する内閣府令」(令和 6 年内閣府令第87号)等が定められ、10月30日に公布されている。 3) 公益目的事業は、学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表に掲げる23種類の事業で あって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものと規定している(公益認定法 2 条 4 号)。 4) 改正公益認定法14条《公益目的事業の収入及び費用》は「公益法人は、その公益目的事業を行うに当たっては、内閣府令で定めるところにより、当該公益目的事業に係る収入をその実施に要する適正な費用(公益充実資金として一定の方法により積み立てる資金を含む。)に充てることにより、内閣府令で定める期間において、その収支の均衡が図られるようにしなければならない」旨規定している。この内閣府令で定める期間は「 5 年間」とされ、過去に発生した赤字も考慮することになる(改正公益認定法施行規則15条~21条)。また、同法 5 条 6 号《収支相償要件》は「その行う公益目的事業について、第14条の規定による収支の均衡が図られるものであると見込まれるものであること」と規定している。 5) 改正公益認定法16条《使途不特定財産額の保有の制限》は「公益法人の毎事業年度の末日における使途不特定財産額は、当該公益法人が公益目的事業を翌事業年度においても行うために必要な額として、当該事業年度前の事業年度において行った公益目的事業の実施に 要した費用の額(カッコ書省略)を基礎として内閣府令で定めるところにより算定した額 を超えてはならない」旨規定している。 6) 新公益法人制度研究会『一問一答 公益法人関連三法』商事法務(2006)204頁。 7) 公益目的事業継続予備財産は、公益目的事業財産のうち、災害その他の予見し難い事由が発生した場合においても公益目的事業を継続的に行うために必要な限度において保有する必要があるものとして、保有する理由及びその額その他一定の事項を公表しなければならない。 8) 法人税法の収益事業とは、販売業、製造業その他全34の特掲事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいう(法人税法 2 条13号)。 一方、公益認定法では、公益目的事業以外の事業を収益事業等と規定(公益認定法 5 条 7 号)している。実質的には、収益事業等から相互扶助事業(共益事業)を除いた事業を収益事業と整理をしている。 9) 財務省「平成20年度税制改正の解説 法人税 法の改正」( https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11122457/www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2008/explanation/pdf/P245-P351.pdf 、2024 年12月29日最終閲覧)、283-285頁。 10) 江戸時代では、大名が家臣に土地を与え、農民に米穀の生産をさせていた。当時は、知行地における生産高(知行高)が権力による主従関係を表象していたといえる。また、知行地から得た生産物には、農民からその収穫量に応じ(石高)地租として年貢を納めることを求め、その割合は江戸時代中期以降、収穫高の 5 割を年貢として領主に納め、残りの 5 割を農民の所得としていた(五公五民)。 11) 池田敬正[1988]「史料紹介『感恩講慣例義解』 解説」、『社会事業史研究第16号』、101-103頁、 感恩講[1902]『感恩講慣例義解』参考。 12) 田中實[1980]『公益法人と公益信託』勁草書房27-56頁、感恩講[1921]『感恩講誌』 国会図書館デジタルコレクション 8 - 9 頁 ( https://dl.ndl.go.jp/pid/1185483 、2024年12月29 日最終閲覧)参考。 13) 所得税法第 5 条は、所得税を非課税とするものとして、第 4 号に「営利ヲ目的トセサル法 人ノ所得」、同条第 5 号に「営利ノ事業ニ属セサル一時ノ所得」が規定されている。 14) 第十三回帝国議会明治31年(1898年)12月13 日審査特別委員会速記録(第 1 号 3 - 4 頁)筆者一部抜粋。 15) 藤谷武史[2004]「非営利公益団体課税の機能的分析⑴」、『国家学会雑誌117号』、1032- 1035頁、石村耕治[1992]『日本の公益法人課税法の構造』成文堂、84-93頁、前田高志 [1986]『公益法人の活動と税制―日本とアメリカの財団・社団』清文社、39-40頁、占 部裕典[2007]「公益法人税制の動向―その理論的背景と体系的位置づけの検討―」有斐閣、11-15頁を参考にして筆者が掲げたものである。 16) シャウプ使節団日本税制報告書は、我が国における恒久的な租税制度を立案することを主要な目的として連合国最高司令官に提出し、昭和24年(1949年) 8 月に公表したものである(以下「シャウプ勧告」という。)。 17) シャウプ使節団日本税制報告書・第 1 編第 6 章B節《非課税規定の排除》( http://www.rsl.waikei.jp/shoup/shoup06.html#section6B 、2024年 12月29日最終閲覧)。 18) 収益事業課税とは、公益法人を一律に課税法人とし、その収益事業から生ずる所得に対してのみ法人税を課税する方式をいう。なお、収益事業課税方式の採用時は、収益事業の範囲について、昭和15年(1940年)に営業税の課税対象とした29事業(営業税法第 2 条)を昭和25年(1950年)の法人税法改正に伴う収益事業の範囲として採用している(法人税法施行規則第 1 条の 2 )。 19) 大蔵省主税局調査課[1955]「所得税・法人税制度史草稿」、266-277頁。 20) 兼平裕子[2005]「非営利法人制度改革とNPO法人・宗教法人」『税法学553号』、67- 68頁。 21) 金子宏[1995]『所得概念の研究』有斐閣、13-16頁。 22) 金子[1995]・前掲注21)。 23) 武田昌輔[1997]『詳解公益法人課税』全国公益法人協会、256-260頁。カッコ書筆者加 筆。 24) 福岡地判平成31年 3 月 6 日「税務訴訟資料第269号-25(順号13248)」法令解釈の一部を抜 粋。 25) 藤谷武史[2004]「非営利公益法人の所得課税―機能的分析の試み」、『ジュリスト1265 号』、128-129頁カッコ書筆者加筆。 26) 藤谷[2004]・前掲注25)。 27) 本稿は、拙稿『CUC Policy Studies Review No.54』「公益法人に対する課税方式の研究」 千葉商科大学(2025.3)を参考にしている。 (論稿提出:2025年 1 月 1 日)
- ≪統一論題報告≫公益法人制度改革における財務規律と情報開示
PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 大阪経済大学教授 兵頭和花子 キーワード: 公益法人制度改革 財務規律 情報開示 アカウンタビリティ 正味財産 増減計算書 活動計算書 要 旨: 2022年 9 月に現行の公益法人制度について民間にとって利便性向上の観点からその在り方を見直すことになり、新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議が開催された。その中で公益法人は自らの経営判断と説明責任(アカウンタビリティ)において資金を活用できるようにすることと述べられている。具体的な内容の一つとして財務規律の柔軟化・明確化が挙げられている。そこで、本稿では今回の公益法人制度改革を受け、財務規律を遵守していることを示すと同時にアカウンタビリティの履行につながる情報開示について提案を行っている。 具体的には正味財産増減計算書(活動計算書)の本表で公益⽬的事業会計、収益事業等会計、法⼈会計に区分し、さらにそれぞれ一般正味財産と指定正味財産に区分している。このような区分を行うことによって本表上で当年度の収支相償や公益目的事業比率を示すと同時にアカウンタビリティの履行や活動の効率性も示すことが可能となると考える。 構 成: Ⅰ はじめに Ⅱ 公益法人制度改革 Ⅲ 公益法人の情報開示―アカウンタビリティの履行― Ⅳ 公益法人の会計に関する研究会に対する検討 Ⅴ 正味財産増減計算書(活動計算書)案 Ⅵ おわりに Abstract The Public Interest Corporations(PICs)system underwent review in September 2022, with the goal of making financial rules clearer and more flexible. The rationale for this was to enable the use of funds based on independent management judgment and accountability. This article examines the disclosure of information under this reform designed to demonstrate compliance with financial discipline and lead to the fulfillment of accountability. Specifically, the Statement of Changes in Net Assets(Statement of Financial Activities)of PICs is divided into three categories, namely, accounts for activities by PICs for the public interest, accounts for profit-making businesses, and accounts for corporations; and these are further divided into general and designated net assets, respectively. By making these classifications, it is possible to show the current year’s income and expenditure balance and the ratio of public utilities in the statement as well as the performance of accountability and the efficiency of activities. Ⅰ はじめに 現行の公益法人制度について、2022年 9 月に民間にとって利便性向上の観点からその在り方を見直すことになり、制度の改革や運用改善の方向性について検討を行うこととなった。そのために新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議(以下、有識者会議とする)の開催が決定した 1) 。この有識者会議は2022年に「中間報告」を公表し、2023年には「最終報告」を公表した。「最終報告」では公益法人を民間非営利部門が公的活動を通して社会的価値の果たす役割と位置づけ、国民からの指示や理解を得る枠組みの整備の必要性を述べている(有識者会議[2023a] 1 - 3 頁)。その具体的な内容の一つとして公益法人の財務規律 2) の見直しを挙げている。 この財務規律は、公益目的事業を行うことを目的とした一般社団法人や一般財団法人が公益法人として認定されるための基準の一つである。具体的には「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下、公益認定法とする)第 5 条「公益認定の基準」の中で規定されているが、このような財務規律が制度上確保されていることが公益目的事業の非課税等といった税制優遇措置の前提ともなっている(有識者会議[2023a] 3 頁、注 1 )。この度の公益法 人制度の改革でこの財務規律が柔軟化・明確化された。有識者会議[2023a]によれば、その理由は自らの経営判断と説明責任(アカウンタビリティ)において資金を活用できるようにすることであるとしている(有識者会議[2023a] 3 頁)。そこで、本稿では今回の制度改革を受け、財務規律を遵守していることを示すと同時にそのことがアカウンタビリティの履行につながる情報開示について検討したい。 本稿の構成は次のとおりである。第Ⅱ章では公益法人制度改革の取り組みについて取り上げその背景を整理したうえで、公益認定法の財務規律について、先行研究を取り上げ本稿での検討課題を明らかにする。第Ⅲ章では公益法人のアカウンタビリティについて定義しておきたい。そして、第Ⅳ章では公益法人の会計に対する取り組みについて、内閣府の公益法人の会計に関する研究会(以下、公益法人会計研究会とする)の取り組みを取り上げる。第Ⅴ章では公益法人に求められる公益認定とアカウンタビリティのための情報開示について正味財産増減計算書(活動計算書)の私案を示している。第Ⅵ章おわりにでは本稿のまとめと限界について述べている。 Ⅱ 公益法人制度改革 1 2006年公益法人制度改革と財務規律 2006年(平成18年)の制度改革によって、公益法人制度では主務官庁制が廃止され、登記のみで一般法人の設立が可能になるなど、法人としての設立が容易になった。また公益目的の定義・認定基準が法定化され、情報公開の義務付けとなった(雨宮[2019]72頁)。その一方で、雨宮[2019]によれば「収支相償や遊休財産規制などが厳しく、その立てつけの悪さが民間公益活動を委縮させている」(雨宮[2019]74頁)としている。また、助成財団センター[2019] のアンケート調査では「とりわけアンケート調査の結果においてもっとも指摘が多く、或いは合理性を欠くとみられた項目がいわゆる『財務3基準』のうちの公益目的事業収入制限(いわ ゆる収支相償)である」(助成財団センター[2019] 12頁)とし、さらに「『財務 3 基準』のうちの遊休財産額保有制限についても、公益事業の拡大や長期的な景気変動への備えとしては現状では不十分」(助成財団センター[2019]12頁)である、「財務 3 基準のうち、いわゆる収支相償や遊休財産額保有制限については、事前の規制に よる抑止効果によって財団の事業活動や財務戦略にマイナスであるとの指摘が圧倒的に多かった」(助成財団センター[2019]34頁)としている。 この財務規律については、久保・出口[2021] や馬場[2017]でも取り上げられている。久保・ 出口[2021]では「財務三基準というシステム を包含する上位システム(全体集合)は公益法人の認定制度になると把握できる」(久保・出口 [2021]25頁)として、財務規律と公益認定の制度との関連について述べている。公益認定法によれば「公益目的事業に係る収入が適正な費用 を超えないと見込まれること」(公益認定法第 5 条 6 号)、「公益法人は、その公益目的事業を行うにあたり、当該公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得てはならない」(公益認定法第14条)としており、公益認 定と財務規律が関連していることが理解できる。 馬場[2017]によれば、公益法人の組織運営を対象として検討し、その中で「公益認定基準が満たされているかどうかを数値的に測定するために財務 3 基準が導入されたが、その結果として公益法人は管理費の財源や、将来のリスク及び投資に備えるための内部留保を確保することが困難になっている」(馬場[2017] 1 頁)としている。一方で、久保・出口[2021]では、「財務三基準は単に財務という観点からまとめられただけの相互に何の関係もない断片化された要素の集合などではなく、同型化されているうえに相互に結びついて一体化しており、一定の秩序を有すシステムとして成り立っていると認識できる」(久保・出口[2021]29頁)としている。さらに、同[2021]では、「財務の中でとりわけ公益目的事業に支出する費用に着目して、公益法人という組織が組織目標である公益増進への貢献に必要なリソースを問題なく配分しているかどうか、つまり公益法人としてふさわしいかどうかを判別する働きを備えている」 (久保・出口[2021]29頁)と述べている。ただし、 同[2021]では「そのような働きを看過して収支相償単独で緩和策を取ろうとすることで混迷を生じさせている」(久保・出口[2021]23頁) とし、財務規律について一定の評価を与えながらもその問題点も指摘している。 このように財務規律について公益法人の柔軟な活動を阻害する点が指摘されている一方で、公益認定法の中で規定されていることからその遵守が求められていることが理解できる。今回の制度改正では、この財務規律について緩和されることが決定した。 2 2024年公益法人制度改革と財務規律の柔軟化・明確化 今回の公益法人制度改革では公益認定の基準を始め現行の公益法人制度の在り方を見直すこととなった。制度改革については有識者会議を中心にみていくこととする 3) 。有識者会議 [2023b]によれば、財務規律の公益目的事業比率、収支相償、遊休財産規制のうち収支相償と遊休財産規制について見直しが行われている。収支相償については、これを満たすためには単年度の収支で赤字を出さなければならないという誤解があったとして、今回の改革で単年度の収支差額ではなく、中長期的な収支均衡を図ることが法令上明確にされ、また過去の赤字も通算して判定されることになった(有識者会 議[2023b]資料 3 )。また遊休財産(使途不特定 財産)については、現行の公益目的事業費 1 年相当分という上限額を超過した保有については柔軟化することになり、「上限額」の算定方法については、予見可能性の向上や短期変動の影響の緩和という観点から見直しを行うこととなった(有識者会議[2023a] 4 - 5 頁)。 有識者会議[2023a]によれば、財務規律の柔軟化によって「法人の経営判断で必要な財産を確保し、不測の事態に対応できる安定した法人運営を可能にする」(有識者会議[2023a] 4 頁) が、その一方で「法人自身が財務状況等を透明化し国民への説明責任を果たす」(有識者会議 [2023a] 4 頁)ことが必要となったとしている。 すなわち、公益法人が公益活動を行っていくうえで、その活動に柔軟性をもたせ国民からの信頼に足る法人となるために財務規律等の見直しとともに公益法人のアカウンタビリティが果たせるような情報開示を行いその活動の透明性を図る必要があるとして制度の改革が行われると理解できる。 そこで本稿では今回の改革を踏まえ財務規律を遵守しながらもアカウンタビリティの履行となる情報開示について、とくに正味財産増減計算書(活動計算書)を取り上げ検討したい。本稿を執筆時点では当該計算書の名称は正味財産 増減計算書であったが、2025年 4 月から活動計算書へと変更予定である。このため2025年 4 月 以前の当該計算書は正味財産増減計算書とし、 同年 4 月以降の当該計算書を示す場合は正味財 産増減計算書(活動計算書)とする。 Ⅲ 公益法人の情報開示―アカウンタビリティの履行― アカウンタビリティは資源(権限)の委託者に対して資源(権限)の受託者が活動を行った結果について報告を行う責任である。公益法人の主たる資源の委託者は寄付者等であり、受託者は公益法人である。このとき寄付者等は公益法人の公益のための活動を行うという活動目的(ミッション)に共感して資源の委託を行う。そして、公益法人ではその受託した資源をサービス受益者のために費消する。すなわち、公益法人では、寄付者(他者)から資源が提供され、サービス受益者(他者)のために公益活動を行うことからそのアカウンタビリティの履行は重要であるといえる。そして寄付者等は寄付を行う場合に使途の指定を行う場合がある。このため寄付者等の意思に従って資源を使用したことを示すために、使途指定が行われている資源と使途指定が行われていない資源とを区別することはアカウンタビリティの履行の一つであるといえる。 日本公認会計士協会[2008]によれば、公益法人の純資産について「法人に帰属する部分については、寄附者等の経済的資源提供者の意思を反映した区分を行うことが必要であり、管理者の受託責任を解明することとなる」(日本公認計士協会[2008]6 頁)としている 4) 。また、「非営利法人会計としての基本的な考え方として、寄附者等(経済的資源提供者)の意思を反映した区分を行うことが必要であるといえる」(日本 公認会計士協会[2008] 7 頁)として純資産に対して使途指定の区分を行う必要性に触れている。日本公認会計士協会[2008]では、寄付等は寄付者等の持分を離れ、法人に帰属するものではあるが、無条件に帰属するのではなく寄付者の意思が反映されることが必要でありそれを開示することが重要である(日本公認会計士協会 [2008] 8 頁)としている。 また、イギリスの非営利組織(チャリティ)の会計では使途指定のある資源を受領した場合はそれを区別して表示することを求めている 5) 。 チャリティの会計ではチャリティの指導・監督機関であるチャリティ委員会(Charity Commission)が存在し、その実務指針である「会計実務勧告書(Statement of Recommended Practice: 以下、 SORPとする)」がある。 このSORPは、イギリスの財務報告評議会(Financial Reporting Council):以下、FRCとする) が取り組んでいない特定の産業、セクターあるいは領域における特定の要件や従事する取引について、会計基準および法規制の要件を補完する役割を担っている。2019年に、チャリティ委員会がFRS102SORP 6) を公表している。このFRS102SORPは国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards)の影響を受けたものであり、資源の使途指定についても述べられている。資源の使途指定の有無に基づいて区分を行うことは寄付者や資源提供者、財務的支援者、その他の利害関係者に高度なレベルのアカウンタビリティと透明性を提供することを目的としている(FRS102SORP, para. 6 )と述べており、資源の使途指定に基づいて区分し情報開示を行うことは、アカウンタビリティの履行や透 明性のためのものであると認識しているといえる。換言すれば、アカウンタビリティの履行のためには資源の使途指定についての情報開示が必要といえる。 Ⅳ 公益法人の会計に関する研究会に対する検討 公益法人の会計について、これまでは内閣府の公益認定等委員会[2015]によって、「認定基準の中に財務に係る基準が置かれ、当該基準の判断の元となる数値を算定するため、会計基準が必要」(公益認定等委員会[2015] 7 頁)として、内閣官房行政改革推進本部事務局に「新たな公益法人等の会計処理に関する研究会」が設けられ、内閣府公益認定等委員会で2018年(平成20年)に会計基準が設定された経緯がある。 そして、今回の制度改革に整合するための会計について検討することが、内閣府の公益認定等委員会の公益法人会計研究会で行われた。その報告書として「令和 5 年度公益法人の会計に関する諸課題の検討状況について」が2024年(令和 6 年) 5 月に公表されている。当該報告書で、 財務規律(収支相償原則及び遊休財産規制)が柔軟化・明確化されるのに伴う情報開示について、従来以上にステークホルダーに対するアカウンタビリティを果たすことが重要となるとし、そのために財務諸表における情報開示を充実していく必要がある(公益法人会計研究会[2024]3 頁) としている。 具体的には①「指定正味財産」と「一般正味財産」の区分、②貸借対照表における資産の区分(基本財産、特定資産)、③「正味財産増減計算書」の名称・記載事項を活動計算書へ変更、④貸借対照表内訳表及び正味財産増減計算書内訳表の位置づけ、表示方法、⑤財産目録に記載すべき情報、⑥公益認定法に基づく財務規律への適合性を判断するための情報の開示、⑦公益法人の取引等における透明性の確保に関する情報の開示の 7 点を挙げている。また、情報開示の拡充が求められる中で、多様なステークホルダーに理解し易い財務情報の提供ということで「本表は簡素でわかりやすく、詳細情報は注記等で」(公益法人会計研究会[2024] 2 頁)としている。 この変更点の中で、正味財産増減計算書(活動計算書)における主な変更点は上記の①、③、 ④、⑥である。その中で①と⑥を取り上げる。ここでは一般正味財産増減と指定正味財産増減の区分表示は本表では行わず、財源区分別の内訳表を注記するとしている(公益法人会計研究会[2024]12頁)。公益法人全体の「純資産の増減内容(損益状況)」のみ表示されており、非常に簡素化されたといえる。しかしその一方で、公益目的事業における経常収益と経常費用からの収支相償が本表では計算できないため、収支相償を満たすかが不明である。収支相償は上述したように公益認定と関連していることから本表で示すべき内容と考える。また指定正味財産と一般正味財産の区分が本表にないため、受託責任財産の明示やアカウンタビリティが履行できるかといった問題点も存在している。この指定正味財産と一般正味財産の区分については注記情報となっているが、注記情報が過大となりすぎる懸念も存在しているといえる。そこで次に正味財産増減計算書(活動計算書)の私案を示してみたい。 Ⅴ 正味財産増減計算書(活動計算書) 案 今回、有識者会議[2023b]では「わかりやすい財務情報開示」の中で、区分経理(公益⽬的事業会計、収益事業等会計、法⼈会計)を行うこと、別表についてはできる限り廃止(内訳表等で代替)すること、公益目的取得財産残額についても概念・定義も含めて再整理することを提案している(有識者会議[2023b]資料 3 )。そのため、本稿ではこれらの点を考慮しつつ寄付者の使途指定の区分を採用し、公益法人における公益性の担保に係る財務規律を満たすとともにアカウンタビリティの履行を踏まえた正味財産増減計算書(活動計算書)を提案したい( 表 1 )。 表 1 では、公益⽬的事業会計、収益事業等会計、法⼈会計に区分している。さらに公益目的事業会計と収益事業等会計をそれぞれ一般正味財産と指定正味財産に区分している。必要であれば法人会計にも同様の区分が可能である。また、経常収益と経常費用を対比させることによって当年度の収支相償を満たしているかどうかを示すことができる( 表 1 の①と②)。公益目的事業比率については経常費用の合計を分母とし、公益目的事業の経常費用を分子として捉えることができるので計算が可能となる( 表 1 の ②と③)。他会計振替額の欄では例えば収益事業等会計からの利益額の繰り入れも把握できる。このように、 表 1 の正味財産増減計算書(活動計算書)では本表上で当年度の収支相償や公益目的事業比率を示すことができる。ただし、詳細について、あるいは複数年度を示す場合は注記情報等が必要である。 また、一般正味財産と指定正味財産に区分したことによって、本表上で公益法人が活動に自由に使用できる資源(一般正味財産)と寄付者等が指定した活動の資源(指定正味財産)が把握できる。とくに指定正味財産の資源については公益法人が負っている寄付者等からの受託責任に対して、その説明責任(アカウンタビリティ)の履行を示しているといえる。 さらに、公益目的事業会計、収益事業等会計、法人会計でそれぞれ収益と費用を対応させることが可能であるため、公益目的事業における効率性、収益事業等での効率性などそれぞれの活動が効率的であったかどうかについても把握できる。 また、これまでの正味財産増減計算書の様式を基にしていること、事業費・管理費の形態別区分を採用したことによって、情報提供者(会計担当者)にとって作成が容易であり、情報利用者(ステークホルダー)にとって理解が容易である。さらに注記情報を減らすことも可能となる。 表 1 正味財産増減計算書(活動計算書)案 出典:筆者作成 Ⅵ おわりに 本稿では今回の公益法人の制度改革を受け、財務規律の柔軟化・明確化された場合の情報開示に焦点を当てて検討を行った。とくにアカウンタビリティに着目し、日本公認会計士協会やイギリスのチャリティ会計を踏まえ、使途指定の有無の必要性を述べ、それを採用した正味財産増減計算書(活動計算書)を提案した。 当該計算書では、アカウンタビリティの履行とともに、効率性の把握や情報提供者の作成が容易あるいは情報利用者の理解が容易になる点も長所となる。ただし、注記等については過度にならない点に配慮しながら、本表である正味財産増減計算書(活動計算書)を補足するためには必要であると考える。 本稿の限界としては貸借対照表との連携についての検討を行っていない。また公益法人制度改革については本稿執筆時点では実施されておらず、現段階での私案となる。 (付記)本稿は、非営利法人研究学会第28回全国大会統一論題報告に加筆修正したものである。 [注] 1) 有識者会議の開催について、内閣府の特命担当大臣の決定通知によれば、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和 4 年 6 月 7 日閣議決定)及び「経済財政運営と改革の基本方針2022」(令和 4 年 6 月 7 日閣議決定)に基づいて行う旨が記されている。 2) 有識者会議[2023a]では財務規律について「収支相償原則(フロー面)や遊休財産規制(ストック面)などである」(有識者会議[2023a] 3 頁、 注1)としている。この財務規律は「財務 3 原則」(雨宮[2019])や「財務 3 基準」(助成財団センター[2019])と呼ばれる場合もある。助成財団センター[2019]によれば、財務 3 基準とは、「財務上の主要な公益認定要件で、公益目的事業収入制限(いわゆる収支相償)、公益目的事業比率、遊休財産額保有制限のことをいう」(助成財団センター[2019] 5 頁、付表3)としている。また、久保・出口[2021] では「財務三基準」とし、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年法律第49号)に定められた 3 つの公益認定の基準のことを指す」(久保・出口[2021] 25頁)としている。本稿では 有識者会議[2023a]に合わせて財務規律としているが、引用はこの限りではない。 3) 制度改革の詳細については有識者会議 [2023a];[2023b]を参照されたい。 4) 日本公認会計士協会[2008]では非営利法人を対象として検討を行っている。ここでいう 非営利法人には公益法人も含まれていることから本稿では公益法人として取り上げてい る。ただし、引用はこの限りではない。 5) イギリスのチャリティ会計についての詳細は兵頭[2019]を参照されたい。 6) FRS102SORPとは、FRCが公表した「財務報告基準(Financial Reporting Standards」の 1 つである第102号「英国およびアイルランド共和国に適用可能な財務報告」(以下、FRS102とする) を取り入れたSORPである。 [参考文献] 新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議[2022]「中間報告」、 https://www.koeki-info.go.jp/content/20221226_houkoku.pdf (2024年 6 月26日アクセス)。 新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議[2023a]「最終報告」 https://www.koeki-info.go.jp/regulation/pdf/20230602_houkoku.pdf (2024年 6 月26日アクセス)。 新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議[2023b]第 9 回 「資料 3 主要論点ごとの制度改正の具体的な方向性」 https://www.koeki-info.go.jp/content/20230417_05shiryo.pdf (2024年 6 月 5 日アクセス)。 雨宮孝子[2019]「公益法人制度改革10周年と今後の法人改革のあるべき姿」『学術の動向』 https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/24/5/24_5_71/_pdf/-char/ja (2024年11月29日アク セス)。 尾上選哉[2020]「会計からみる公益法人制度改革の課題と可能性」『非営利法人研究学会誌』Vol.22、15-26頁。 久保秀雄・出口正之[2021]「公益法人の財務三基準に関するシステム論的理解: 認定制 度の趣旨と収支相償の解釈」『非営利法人研 究学会誌』Vol.23、23-34頁。 公益認定等委員会 公益法人の会計に関する研究会[2022]「令和 3 年度 公益法人の会計に関する諸課題の検討課題について」 https://www.koeki-info.go.jp/content/2021_research_report.pdf (2024年 6 月30日アクセス)。 公益認定等委員会 公益法人の会計に関する研究会[2024]「令和 5 年度 公益法人の会計に関する諸課題の検討状況について」、 https://www.koeki-info.go.jp/pictis-info/poa0003!show#prepage2 (2024年 6 月30日アクセス)。 助成財団センター[2019]「公益法人制度改革10周年特別プロジェクト調査報告書 公益法人制度改革が助成財団に及ぼした影響と今後の課題」 https://www.jfc.or.jp/wp-content/uploads/2022/05/10PT_report.pdf (2024年11月 29日アクセス)。 日本公認会計士協会[2008]「非営利法人委員会 研究資料第 3 号 非営利法人会計の現状と展望」 https://jicpa.or.jp/specialized_field/publication/files/2-13-3-2-20080902.pdf (2024年 12月26日アクセス)。 日本公認会計士協会[2013]「非営利法人委員会研究報告第25号 非営利組織の会計枠組み構築に向けて」 https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/2-13-25-2a-20130702.pdf (2024年12月26日 アクセス)。 馬場英朗[2017]「公益法人会計基準の実務的課題―公益認定基準と健全な組織運営をめ ぐって―」『関西大学商学論集』第62巻第 1 号、 1 -12頁。 兵頭和花子[2019]『非営利組織における情報開示―英国チャリティ会計からの示唆―』中央経済社。 Charity Commission for England and Wales [2019]“Charities SORP (FRS 102)”, second ed., https://assets.publishing.service.gov.uk/media/5e6102c286650c513b442f14/charitiessorp-frs102-2019a.pdf (2024年12月 1 日アクセス). (論稿提出:令和 7 年 1 月 5 日)
- ≪統一論題解題≫公益法人改革の方向性―税制、会計、ガバナンスの相互関連性に着目して―
PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 早稲田大学商学学術院教授 金子良太 キーワード: 公益法人改革 収支相償原則 会計基準 ガバナンス 財務規律 情報開示 要 旨: 公益法人改革は、公益活動の透明性と効率性を高めることを目指す包括的な取り組みであり、税制、会計、ガバナンスが相互機能して実効性を有するものである。本稿では、税制面での非課税措置の妥当性と財務規律の適切性、会計基準における受託責任の履行、そしてガバナンス強化に向けた課題を取り上げる。税制では、公益目的事業と収益事業の区分や説明責任の明確化が重要な課題である。会計では、情報開示の充実や財務規律の維持が求められ、ガバナンス面では、理事会・評議員会の透明性確保が公益法人の信頼性向上に直結する。これらの要素が相互に影響し合う中で、公益法人の持続可能な発展と社会的信頼の向上を実現するための方策を論じる。 構 成: I はじめに II 公益法人改革と税制 III 会計面の改革 IV ガバナンス面の改革 V 税制、会計、ガバナンスの相互関連性と今後の展望 Abstract The reform of public interest corporations aims to enhance the transparency and efficiency of public interest activities by addressing the interconnections among taxation, accounting, and governance. This paper focuses on challenges such as the appropriateness of tax-exempt measures and financial discipline in taxation, the fulfillment of fiduciary responsibilities and information disclosure in accounting, and the strengthening of transparency in governance. In taxation it is important to clearly distinguish between public interest and revenue-generating activities, while accounting emphasizes the importance of maintaining financial discipline and improving disclosure practices. Governance requires enhancement of the transparency of boards and councils, which directly impacts organizational trust. This study was conducted to identify measures that would promote sustainable development and improve societal trust in public interest corporations. ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ はじめに 公益法人制度は、2022年 9 月に設置された「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」等により改革の方向が検討された。 2023年6月に最終報告書が取りまとめられ、2024年 5 月に関連法案が成立し、2025年 4 月から新しい公益法人制度が始まっている。公益法人は、民間公益を担う主体として大きな潜在力を有しているが、現行制度の財務規律や手続の下では、その潜在力を発揮しにくいとの声もあり、①財務規律等を見直し、法人の経営判断で社会的課題への機動的な取組を可能にするとともに、②法人自らの透明性向上やガバナンス充実に向けた取組を促し、国民からの信頼・支援を得やすくすることにより、より使いやすい制度へと見直しを行い、民間公益の活性化を図ることが意図されている。 この改革は、税制、会計、ガバナンスの 3 つの側面に大きな影響を与える包括的な取り組みである。本稿では、統一論題における税制、会計、ガバナンスに関する 3 報告を踏まえて、これらの側面における主要な論点と課題、そしてそれらの相互関連性について考察する。大会当日の議論は、統一論題設定の背景や論点を示す座長による報告を筆頭に、 3 名の報告者による個別の研究報告、同日に議論が行われた。本稿は、座長である筆者が 3 報告のうち特に重要と思われる点を敷衍し、包括的に論じるものである。なお、以下は座長としてまとめたものであり、各報告者の意図を十分にくみ取れていない点があるとすれば、座長である筆者の責任である。また、本報告は2024年10月 5 日に行われ、その後の公表物(10月に公布の認定法の改正施行令、同法改正施行規則等ならびに12月に公表された公益法人会計基準及び運用指針)の内容を前提としていないことにも留意されたい。 II 公益法人改革と税制 第一報告は、「公益法人改革と法人税非課税 の考察」と題して、苅米裕氏(税理士)が行った。 1 公益法人における非課税措置の起源と継続 公益法人における非課税措置の起源は、江戸時代の感恩講にまで遡ることができる。この長い歴史を持つ非課税措置は、現代の公益法人制度においても重要な位置を占めている。公益法人に対する税制優遇の根幹である公益目的事業の非課税措置は、改革後も継続される。各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得以外の所得については、法人税を課さない(法人税法 6 条、法人税法施行令 5 条 1 項)。また、法人税法上の収益事業に該当する事業であっても、公益目的事業と認定されている場合には法人税が課税されない(法人税法施行令 5 条 2 項 1 号)。この原則非課税措置の継続は、公益法人の活動を支援し、社会的課題の解決を促進する上で重要な役割を果たす。一方で、公益目的事業の範囲の明確化や、収益事業との区分の適切な管理が課題となる。 2 財務規律の確保と柔軟化 公益法人の財務規律として重要な「財務三基準」が、見直されることとなった。具体的には、 中期的な収支均衡(収支相償原則)、公益目的事業比率、使途不特定財産(遊休財産)の規制である。これらの基準は、公益目的事業を適正に 実施しているかを検証する役割を果たすとともに、公益事業活動を行うための基盤を示す重要な指標となっている。 特に、収支相償原則の見直しが重要な論点となっている。収支相償原則については、従来の単年度での収支均衡から、中期的期間( 5 年間)での収支均衡へと変更される。これにより、法人はより長期的な視点で事業計画を立てることが可能になる。一方で、中期的収支均衡の判断基準や、赤字が続いた場合の対応など、具体的な運用方法が課題となる。 また、財産規制の見直しも併せて行われ、遊休財産規制については、現行の公益目的事業費の 1 年分を超える財産の保有制限に代えて「公益目的事業継続予備財産」の保有が可能になる。 また、「遊休財産」も「使途不特定財産」に改められる。これにより、法人は予測不可能な事態に備えてより柔軟に資金を確保できるようになる。予備財産の適切な規模や使用基準の設定が課題となる。 さらに、将来の公益目的事業の発展・拡充のために、より柔軟な資金積立が可能になる「公益充実資金」が創設されている。従来の特定費用準備資金・資産取得資金は、各事業別・資産別に資金を積立管理されていたが、公益充実資金は複数目的のための一つの資金として管理され、公益目的事業間での資金融通が可能で、将来の新規事業に備えた積立も可能である。公益充実資金の創設は、公益法人の財務基盤の強化につながる可能性がある一方で、制度の適切な運用と監督が求められる。特に、公益充実資金の使途や積立限度額の設定などについて、詳細な検討が必要となる。 3 公益法人の原則課税論と原則非課税論 公益法人改革を考えるうえでは、そもそも公益法人は非課税なのか否か、という問題から避けて通れない。苅米氏は、原則課税論と原則非課税論とを次のように図表化して説明された (表1) 。 原則課税の立場に立つ場合には、所得が生じた場合には一旦課税をして、公益活動等に財産を費消した段階で還付する。原則非課税の立場に立つ場合には、所得が生じた時点では非課税とし、公益活動等に費消しなかった段階で精算課税を行うこととなる。詳細な内容や各論の是非についてはここでは触れないが、いずれの立場かによって制度設計等も大きく変わってくる。 表1 出所:非営利法人研究学会第28回全国大会「公益法人改革と法人税非課税の考察」2024年10月、苅米裕 4 公益法人改革における税制面の見直しと課題 公益法人改革における税制面の見直しは、公益法人の透明性、説明責任、効率性を高めることを目指している。原則非課税の継続のもとでより厳格な財務規律とガバナンスが求められる一方で、公益活動の柔軟性と持続可能性を確保するための改革が進められている。収支相償原則の見直しや公益充実資金の創設は、公益法人の長期的な視点での事業運営を可能にする一方で、適切な運用と監督が課題となる。最後に課題として、共益事業(会費収入等)、対価性のないもの(寄附金収入)等の課税上の整備が挙げられ、本報告が締めくくられた。 III 会計面の改革 第 2 報告は、「公益法人会計における財務規律と情報開示」と題して、兵頭和花子氏(大阪経済大学)が行った。 1 財務三基準の見直し 財務三基準の見直しは、公益法人の財務管理の柔軟化を図る一方で、それに代わる適切な財務規律の維持という課題を提起している。これらは前述した税制面だけではなく、会計面にも大いに関連する課題である。 2 「公益」のための説明責任(アカウンタビリティ) 公益法人における説明責任は、委託・受託関係から生じる受託責任に基づく説明責任が重視される。公益法人は寄付に多くを依存するが、 寄付者による資源の使途指定がある場合、その意図に従った資源の使用に対する証明として説明責任の履行が必要となる。 ちなみに英国チャリティでは、ファンド会計 (fund accounting)が採用されており、使途指定のある資源と使途指定のない資源を区別して管理することが要請されている。英国チャリティ委員会は、財務報告における説明責任や透明性を重視しており、年次報告書やファンド会計、各種の財務書類などを通じて説明責任の履行と透明性の提供を目的としている。 3 公益法人会計基準の改正 日本においては、公益法人の会計に関する研究会は、新制度に整合する会計基準の検討を行い、2024年 5 月に報告書を公表した。活動計算書への変更点としては、一般正味財産(一般純資産)と指定正味財産(指定純資産)の区分表示を本表では行わず、純資産全体の増減を経常活動・その他活動に区分すること、振替処理を見直すこと、内訳表等を注記へ移行することなどが挙げられる。 会計研究会による活動計算書についての懸念事項として、公益目的事業における経常収益と経常費用からの収支相償が本表では計算できないこと、指定正味財産と一般正味財産の区分が本表にないことによる受託責任財産の明示・説明責任の履行への影響が報告の中で指摘され、本表上で財務規律を示す試案も示された。それぞれの会計区分で収益と費用を対応させる試案において、効率的な活動ができたかを把握可能となる。この他、会計基準の改正にあたっては、 他の非営利組織(例:NPO法人)との整合性を考慮し、情報提供者・情報利用者双方の負担軽減を図ることが望ましいとの考えが示され、本報告が締めくくられた。 Ⅳ ガバナンス面の改革 第三報告は、「公益法人改革とガバナンス」と題して、溜箭将之氏(東京大学)より報告が行われた 。 1 ガバナンス・コードの導入と活用 ガバナンス・コードの導入と活用が重要な論点となっている。公益法人、大学、スポーツ団体等でのガバナンス・コード策定が進められている。ガバナンス・コードの導入は、公益法人の自主的な組織運営の改善を促す効果が期待される一方で、形式的な遵守に陥らないよう、実効性のある運用が課題となる。 2 第三者委員会の活用 不祥事対応や組織改革のための、第三者委員会の設置と活用が推奨されている。これにより、客観的な視点からの問題分析と改善策の提案が可能となる。第三者委員会の活用は、公益法人の透明性と信頼性を高める効果が期待される一方で、委員会や委員会の各委員の独立性確保や、報告書における提言の実効性担保が課題となる。 3 ステークホルダーの参加促進と課題 幅広いステークホルダーの意見や利益の反映、情報公開の促進と公開情報の活用方法の検討が重要視されている。ステークホルダーの参加促進は、公益法人の社会的責任を強化し、多様な視点を取り入れる効果が期待される一方で、利害関係の調整や意思決定の効率性維持が課題となる。第一に、公益法人では、ステークホルダーの広さゆえに、法人の運営の適正性や成果を評価する当事者が確保できないことがある。第二に、教育やスポーツ大会といった法人事業の専門性をもつ人材がいても、彼(女)らが私益ではなく法人の目的と公益のために行為することを確保するためのガバナンスに係る専門的人材と資源が不足していることがある。第三に、法制度が理事会と評議員会を分離し、外部理事の選任を義務付け、評議員による訴えの提起を認めても、これらが常に機能するとは限らないことがある。ステークホルダーの参加を促進していくことが今後期待される。 4 内部統制の強化 理事会、評議員会、監事等の機能強化、公益通報制度の信頼回復などが求められている。これにより、組織内部のチェック機能が強化され、不正や問題の早期発見・対応が可能となる。内部統制の強化は、公益法人の組織運営の健全性を高める効果が期待される一方で、過度な統制による柔軟性の喪失を避けることが課題となる。 5 ガバナンス改革の課題 資金源の多様化(補助金、事業収入、寄付)や中長期的経営戦略の策定など、リソース調達と活用の最適化も重要な課題となっている。特に、財政基盤の強化と規程整備・コンプライアンスの関係、資金調達手法の多様化(企業財団、公益信託、クラウドファンディングなど)、専門人材の確保などが注目されている。公益法人の持続可能性を高める効果が期待される一方で、それらの調達に係るリターンとコストとのバランス 維持が課題となる。 以上のほか、非営利組織における不祥事事例などが具体的に紹介され、本報告が締めくくられた。 Ⅴ 税制、会計、ガバナンスの相互関連性と今後の展望 公益法人改革における税制、会計、ガバナンスの各側面は、相互に密接に関連している。最後に、税制、会計、ガバナンスの相互関連性について座長の立場から述べたい。 1 税制と会計の関連性 公益法人が引き続き税制優遇を得ていくに値する団体として社会に認められていくためには、信頼性の高い情報の作成・開示が不可欠である。また、会計上の区分経理も税務上の収益事業判定等と整合性を有することが求められる。公益目的事業比率は、税制優遇を受けるための重要な基準であり、その算定には適切な会計処理が不可欠である。中長期的な収支均衡の確認においては、活動計算書での表示方法と公益認定上の判断基準の調整が必要となる。また、貸借対照表上における公益法人制度で規定された様々な財産の区分表示も求められる。たとえば、使途不特定財産等の管理においては、会計上の表示と税務上の規制との整合性が求められる。これらは、公益法人の非営利性を担保するものであり、税制優遇の根拠となる。 一方で、会計の第一目的は公益法人の財政状態や事業成績を多様なステークホルダーに向けて適切に表示することであることには留意しなければならない。会計が公益認定法制や税制に配慮することは必要であるが、それらに配慮するあまり会計情報の作成負担が過大となったり、公益法人の財政状態や事業成績の実態を明確に示すことを妨げることがあってはならない。税制を支えるうえで会計は不可欠なものであるが、会計の本来の目的を達成することと税制の考慮とのバランスをどう確保していくかが課題となる。 2 会計とガバナンスの関連性 情報開示の充実において、会計情報の適切な開示は、ガバナンスの透明性向上に直結する。もっとも、ガバナンスに関する各種情報は、財務諸表本表だけで開示しえるものではない。関連当事者との取引の開示をはじめとする注記の充実は、ステークホルダーに対する法人のガバナンスに関する説明責任の履行を支援する。ガバナンスは法人自ら確立すべきものであるが、その開示やステークホルダーによる監視により、より実効性を持ち、また多くのステークホルダーの理解を得られることにつながる。 前述した理事会、評議員会や監事の機能強化において、会計情報の適切な理解とその活用は、効果的な監督の一助となる。外部理事、監事、評議員は公益法人について得られる情報が限られる分、より適切な会計情報の提供やそれを通じた法人の活動に関する十分な理解が不可欠となる。 3 ガバナンスと税制の関連性 適切なガバナンス体制の構築と運用は、公益法人の社会的信頼性の確保、公益法人格の維持、そして税制優遇の継続にもつながる。収益事業の適正管理において、また理事等との不公正な取引の防止においては、ガバナンス強化によりその実効性が担保され、税務上の問題の発生を予防することが期待される。寄付促進への影響において、ガバナンスの向上は公益法人の社会的信頼性を高め、結果として寄付の増加につながる可能性がある。これは、寄付税制の有効活用にもつながる。 4 結論と課題 公益法人改革における税制、会計、ガバナンスの見直しは、公益法人の透明性、説明責任、効率性を高めることを目指している。税制優遇の継続、より厳格な財務規律とガバナンスが求められる一方で、公益活動の柔軟性と持続可能性を確保するための改革が進められている。これらの改革は相互に関連しており、一体的に推進されることで初めてその効果を最大化することができる。例えば、適切な会計処理と情報開示は、税制優遇の正当性を裏付けるとともに、ガバナンスの透明性向上にも寄与する。同様に、強固なガバナンス体制は、適切な会計につながり税優遇の根拠となり、公益法人の社会的信頼性を高める。 今後の課題としては、改革が税制、会計、ガバナンスの整合性を保ちつつ進められることが重要である。たとえば財務三基準の見直しは、公益法人の法制や税制にかかわるだけではなく、公益法人が単年度の収支ばかりにとらわれずより中長期的な運営を重視し、財産の使い道をより明確にする適切な運営を促すガバナンスの向上も求めているといえよう。これらの実効性を確保する意味でも、会計情報の開示が重要となる。このように、税制、会計、ガバナンスは 1 つのテーマの中でも密接に関連している。 制度の運用にあたっては、法人の多くが中小規模組織であることを前提として、中小規模法人に対する会計・税務・ガバナンスの専門知識の提供など、中小規模法人に対する支援体制の整備が求められよう。また、NPO法人や社会福祉法人など他の非営利組織との会計基準の統一を考慮し、情報提供者の負担軽減や情報利用者の理解可能性の向上を図ることも重要である。 公益法人の活動を支援しつつ、適切な規律を確保するという改革の基本理念を踏まえ、今回の制度改革が適切に運用されるよう、また今後の時代の変化やニーズに対応して今後も継続的な検討と改善が必要であろう。法、税制や会計制度の変更は決して一度で完成するものではない。これらの課題に対応することで、公益法人制度の更なる発展が期待される。 (謝辞)本論文は、JSPS研究助成事業基盤研究(c)24K05180による研究成果の一部である。 [日本語文献] 新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議[2023]「最終報告」。 池田敬正[1988]「感恩講慣例義解」『社会事業史研究』16号、 1 -15頁。 石村耕治[1990]「公益法人非課税の根拠」公益法人公益信託税制研究会編『フィランソロピー税制の基本的課題』公益法人協会、23-42頁。 石村耕治[1992]『日本の公益法人課税法の構造』 成文堂。 石村耕治・岡本仁宏・小林立明・溜箭将之・中島智人・濱口博史・白石喜春[2015]『英国チャリティ その変容と日本への示唆』弘文堂。 石村耕治[2017]『アメリカ連邦所得課税法の展開』財経詳報社。 岩田陽子[2004]「アメリカのNPO税制」『レファレンス』644号、82-103頁。 占部裕典[2007]「公益法人税制の動向―その理論的背景と体系的位置づけの検討―」『非営利法人と税制租税法研究第35号』有斐閣、 3 -31頁。 尾上選哉[2012]「公益法人税制における一般社団法人課税に係る一考察」『税研』164号、 76-82頁。 尾上選哉[2022]『非営利法人の税務論点』中央経済社。 岡村勝義[2015]「一般社団・財団法人の公益認定基準の意味―公益性判断基準と収支相償基準を中心として」『商経論叢』第50巻第 2 号、 1 -20頁。 岡本仁宏[2015]『市民社会セクターの可能性:110年ぶりの大改革の成果と課題』関西学院大学出版会。 兼平裕子[2005]「非営利法人制度改革とNPO法人・宗教法人」『税法学』553号、3 -22頁。 金子宏[2021]『租税法』第24版 弘文堂。 金子良太[2025]「非営利組織会計をめぐる課題とは」『企業会計』第77巻第 1 、124-125頁。 久保秀雄・出口正之[2021]「公益法人の財務三基準に関するシステム論的理解:認定制度 の趣旨と収支相償の解釈」『非営利法人研究学会誌』23号、23-34頁。 公益法人協会[2020]『「公益法人ガバナンス・ コード」の解説』。 酒井克彦[2015]『クロースアップ課税要件事実論』第 4 版 財経詳報社。 スポーツ競技団体のコンプライアンス強化委員会[2021]「スポーツ・インテグリティ推進事業におけるスポーツ団体のガバナンス強化の推進:報告書」。 田中實[1980]『公益法人と公益信託』勁草書房。 溜箭将之[2022]「公益団体のガバナンスと成長――日米比較からの問題提起(上)(下)」『法律時報』94巻 2 号92-96頁、 3 号83-87頁。 知原信良[2003]「公益法人の現状と課税問題について」『国際税制研究』10号、61-75頁。 知原信良[2004]「非営利組織の課税問題」『ジュリスト』1261号、42-50頁。 出口正之[2014]「収益事業課税試論―イコール・フッティング論を巡って―」『公益・一般法人』 871号、 4 -13頁。 出口正之[2018]「『理念の制度』としての財務三基準の有機的連関性の中の収支相償論」『非営利法人研究学会誌』20号、 1 -14頁。 内閣府公益認定等委員会[2024]「公益法人会計基準」。 日本私立大学連盟[2024]『私立大学ガバナンス・コード』第 2 版。 橋本徹・古田精司・本間正明編[1986]『公益法人の活動と税制―日本とアメリカの財団・ 社団』清文社。 馬場英朗[2017]「公益法人会計基準の実務的課題─公益認定基準と健全な組織運営をめ ぐって─」『関西大学商学論集』第62巻第 1 号、 1 -12頁。 兵頭和花子[2019]『非営利組織における情報開示―英国チャリティ会計からの示唆―』中央経済社。 藤谷武史[2004]「非営利公益法人の所得課税―機能的分析の試み」『ジュリスト』1265号、 234-241頁。 藤谷武史[2004]「非営利公益団体課税の機能的分析⑴」『国家学会雑誌』117号、1 -66頁。 藤谷武史[2005]「非営利公益団体課税の機能的分析⑵~⑷」『国家学会雑誌』118号、 1 - 78頁、79-156頁、157-234頁。 前田高志[1986]『公益法人の活動と税制―日本とアメリカの財団・社団』清文社。 水野忠恒[2006]「非営利法人への課税」『JTRI税研』125号、 1 -40頁。 水野忠恒[2008]「公益法人課税の焦点と実務」『JTRI税研』141号、 1 -40頁。 [英語文献] Charity Commission[2019]Charities SORP (FRS102)2nd ed. Gibson, O.[2016]“Questions over Tokyo 2020 Olympic bid are spreading far and wide”, The Guardian, May 21. Jennings, A.[1996]The new lords of the rings: Olympic corruption and how to buy gold medals. Pianca, A. and Dawes, G.[2018]Charity Ac︲ counts a Practical Guide to the Charities SORP(FRS102), 5th ed., LexisNexis. (論稿提出:令和 7 年 1 月11日)
- ≪査読付論文≫地方自治体が推進する要保護児童を対象とした就農プロジェクトの可能性―きつきプロジェクトを事例に―
PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 株式会社日本総合研究所シニアマネジャー・法政大学兼任講師 山田敦弘 キーワード: 農福連携 官民連携 要保護児童 就農 地方自治体 要 旨: 本研究では、児童養護の要保護児童を対象とした就農支援を企画立案・実施する中で、地方自治体とNPOと農業者との連携、自治体内でのプロジェクト推進、事業継続への取組みなどのプロセスを通じて、顕著になる課題やその解決策を明らかにした。特に地方自治体にとって成功要因となるポイントを整理している。そのポイントとしては、「誰もが理解できる明瞭な課題の設定と、社会的に受け入れられる解決手法の明示」、「立場毎との目標の設定と役割分担の明確化」、「関係者間での一致したゴールの設定とそこに辿り着くためのロードマップの設定」があげられた。障がい者を対象とした農福連携の研究はすでに先行するものが多々あるが、児童養護の対象となる児童にかかる農福連携の研究は、まだまだ少なく、今後の事業継続及び事業拡大を目指して研究を続けたい。 構 成: I はじめに―問題設定― II 分析対象と方法 III 事例の分析:事例事業概要、自治体における課題 IV ディスカッション V まとめ Abstract In the course of planning and implementing support to help children in need of foster care to become farmers, this study identifies issues and solutions that are prominent in the process of collaboration between local governments, NPOs, and farmers, in project promotion within local governments, and in efforts to continue the project. Specifically, this report identifies key success factors for local governments. The key points of the project were “setting clear issues that everyone can understand and clarifying socially acceptable solution methods,” “setting goals for each position and clarifying the division of roles,” and “setting goals that are consistent among all parties involved and establishing a roadmap for achievement.” While there are many leading studies on agricultural and welfare cooperation for the disabled, there are few studies on agricultural and welfare cooperation for children who are in need of foster care. We would like to continue our research with the aim of continuing and expanding our project in the future. ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ はじめに―問題設定― 近年、地方自治体は様々な課題を抱えている。特に、東京圏以外の地方が抱える課題としては、 総務省[2019]では、①労働力不足、②経営者の後継者不足、③働く場所・働き方の多様性の低下、④地方経済・社会の持続可能性の低下の4点を示している。若者が地方に居住し就業することは、これら4つ全てを解消する可能性があり期待されているが、現時点では首都圏等の大都市への移住の流れは止まっていない。 一方で、福祉分野においては高齢社会における課題に加えて、厚生労働省[2023]によると、「個人や世帯が抱えるリスクは多様化し、複合化した課題や制度の狭間に落ち込んでしまっている課題が表面化している」と指摘している。ここで示唆されている課題は、虐待を受けている子どもを始めとする要保護児童(児童福祉法第6条の3第8項にて「保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童」を要保護児童と規定)、引きこもり、ヤングケアラーなどの問題を踏まえた困難に直面する若者の課題でもある。 要保護児童数は、平成23年の46,463人から10年後の令和3年には41,773人と若干の減少傾向にはあるが、4万人を上回っており、依然として深刻な社会課題である。この課題に対してそれらの児童の就労は、社会的孤立を解消し、経済的自立や安定も実現できることから、有効な解決策の1つとなっている。 ただし、就労には個人の好みや適正もあり、就労を進めるには就労先の選択肢を幅広く設けることや、失敗(離職)してもやり直しができる状況をどれだけ作り出せるかが課題となっている。 福祉を推進することで地域再生など、地方が抱える課題解決も合わせて推進することができれば、理想的な取組みである。吉田[2019]によると農村地域での人口減少・高齢化の進展を受けて、農業労働力の不足、農地の引き受け手の不足等の問題が深刻化しており、そうした課題への対応として、農業サイドからも農福連携への期待が高まっている。 本研究においては、地方の要保護児童をサポートし、就労に導くことで、社会的孤立を解消し、かつ地域の事業者の経営継続や経済活性化を図ることを目指し、その可能性、直面する課題、成功要因などについて、主に地方自治体の立場に立って分析をする。 II 分析対象と方法 1 大分県杵築市の背景と課題 大分県杵築市は、大分県の北東部、国東半島の南部に位置しており、市の総面積280.06平方キロメートルの中には、東南部に別府湾に面した海岸線、北部には自然豊かな山間地を形成している。中心地は、旧杵築藩の城下町付近で、「坂のある城下町」として知られており、人口集積地域もある。その一方で、主に北部では過疎地域として指定されている地域がある。 本市の人口28,687人(2020年3月末同市基本台帳)となっており、他の地方市と同様に、人口減少、高齢化、生産人口の減少という問題を抱えている。顕著なのは生産年齢人口の減少であり、中でも農業の就業者数の減少は深刻な状況にある。2005年の国勢調査(総務省統計局)によると、杵築市では生産年齢のうち就農者は2,873人いたが、わずか10年後の2015年にはそのおよそ3分の2の1,900人へと大幅に減少している。この統計には含まれない老年人口(65歳以上)の就農者が引き続き営農をして支えているが、後期高齢者の増加や老年人口自体が2020年から減少に転じると推計されることもあり、若い就農者が必要不可欠となっている。 2 大分県内の要保護児童の卒園後の離職率が 高い背景と課題 大分県には9つの児童養護施設がある。同県にて活動するNPO法人おおいた子ども支援ネットが独自に調べたところ、卒園後の児童の75%が就職するものの、1年以内の離職率が34%にも上るという就業問題が存在していた。これは、高卒者全体の1年以内離職率(21%) と比べ高い水準であった。 この原因は、大きく2つあると考えられている。1つは、卒園児童の多くは家族などの保証人がいないため、賃貸住宅を借りることが難しく、就業先として寮が付属している職場などを選ばざるを得ないなど、必ずしも本人が希望する職業に就職できないことが実情となっている。もう一つは、卒園児童は、これまで食事など生活に必要なことが全て提供される施設環境で育ってきたため、独力で生活ができるには、周りのケアや慣れるまでの時間が必要なケースが多いことである。しかし、職場では、一般家庭で育った者と同じ扱いをされるため、環境への独力での対応の難しさなどもあり、どうしても短期での離職率が高くなってしまう。雇用者側にもこの状況について理解があり、一定のサポートがあることが望まれる。 一度離職してしまうと、後ろで支えてくれる家族がいないことから貧困に陥ることも少なくないため、若くして生活保護の受給者となってしまったり、場合によっては反社会的な世界に足を踏み入れてしまったりする。そして、そのような状況に一度陥ると、抜け出すことが容易ではなくなる。そのため、離職しても再度チャレンジができる環境の整備が必要である。 3 分析方法 本研究においては、大分県杵築市にて実施されている要保護児童の就農プロジェクト「きつきプロジェクト」の事例を通じて分析を実施した。本事例では、プロジェクト企画・準備の段階からの創設及びその後の継続への取組みまでの過程を自治体職員の立場から観察した。各課程における課題を解決策と整理整理することで、官民連携による農福連携の可能性を地方自治体の視点から分析する。 III 事例の分析:事例事業概要、自治体における課題 1 本事例事業の概要 要保護児童などサポートが必要な若者に対する支援を実施する団体として、2014年に設立された「NPO法人おおいた子ども支援ネット」(以下「子ども支援ネット」)がある。子ども支援ネットは、卒園児童のアフターケアなどの事業を行っており、日々離職をした卒園後の児童の課題に直面していたが、支援の限界を感じることも多く、新しい解決策の必要性を感じていた。そこで、その解決策について相談を持ち込んだのは大分県杵築市であった。杵築市内には児童養護施設はなく、子ども支援ネットの基盤も他の自治体にあったが、杵築市長は元県庁の福祉部長であったという経歴があり、そのつてをたどって杵築市に相談に来たのであった。子ども支援ネットは、日々の直面する課題から、次のような仮説を立てていた。 児童養護施設の卒園児童の中には、施設が紹介できる工場作業や営業などの特定の仕事では適性が合わず、自然を相手に行う農業のような仕事の方が適している児童がいるのではないか 1) 。 卒園後に工場作業や営業などの仕事に就いて適性が合わず離職したとしても、就農体験しておくことで、農業関連の仕事でやり直しを図ることができるのではないか。 一方、杵築市においても、地域課題の解決策となる可能性を感じていた。それは以下の通りであった。 人数は例え僅かであっても、20歳前後の若者が地域で働いてくれることは、高齢化が進んだ地域にとっては、かけがえのないことである。 地域の高齢者は、児童や若者に寛容であることから、うまく接し、若者の良いところを時間をかけて伸ばすことができるのではないか。 福祉と農業という2つの異なる性質の課題にかかる取組みではあるが、これら2つの課題を連携させれば2つとも解決できる可能性があり、少なくとも同じ方向に向かっていくことで解決策は見えてくると考えられた。このことを杵築市と子ども支援ネットの両者が認識できたことから、要保護児童の就農プロジェクト「きつきプロジェクト」のアイデアを具体化する検討が2016年に始まった。そして杵築市にとっても子ども支援ネットにとっても一致した目標をすぐに持つことができた。それは、「市内で就農者となり新しい生活を築くこと」であった。その目標に向けて事業内容は検討された。 県内の児童養護施設の入所児童を対象に、杵築市の農家及び農業法人にて1日~数日の就農体験をしてもらう事業を立ち上げた。県内9つの児童養護施設を対象に参加説明会を開催した。児童には漠然と農業に興味を持つ者も少なからずいて、初年度から、児童養護施設の中学生や高校生など20~30人程度が参加してくれた。ただし、ほとんどの児童は、農業を職業の選択肢と考えるどころか、体験さえもしたことがなかった。 本事業では、できるだけリアルに近い就農体験をしてもらうために、実際の農業と同様に、午前6時から作業を開始した。酪農では、餌やりや子牛の世話などのメニューに加えて、牛糞掃除など、過酷なメニューにも取り組んだ。就農体験の実習先には、高齢者がいることも多く、褒めたり、会話をしたりしながらゆったりと作業を教え進めた。多くの児童は、普段は見せない真剣な態度で取組み、また長時間それを継続できた。参加児童の普段見せない真剣な態度は、児童養護施設の職員を驚かせた。「また、行きたい」と継続して毎年参加する児童が出始め、中には就農してくれるのではないかと期待できる子も現れるようになった。高校生の中には、「真剣に農業をやりたい」と農業大学校に進学したり、また、中学生の中には、高校進学時に農業科に進学する児童も出てきた。 初年度の事業を無事に実施し、その取組みを杵築市のケーブルテレビで放送した。「なぜ、県がやるべき問題解決を市でやらなければならないのか」という苦情が来るのではないかと心配していたが、実際には「久々にいい事業をやった」とお褒めの連絡を何本も頂くなど、予想以上の反響を得ることができた。それは、市民や市議だけでなく、農業者にも響き、次年度から研修の候補先が3箇所から14箇所に増えた。また、中には、雇ってもよいと申し出てくれる農業法人もいた。更に、事業の成果をビデオ化及び冊子化して企業へ報告したことでその理解度が高まり、継続的に協力を得ることができるようになった。 そして、市内の農業法人に就職する初めての児童が出たのは2020年の春のことであった。その児童は、中学から本事業に参加していた。最終目標としていた待望の成果が得られるまでに、本事業を開始して5年の歳月を要したが、毎年興味を持って参加してくれる次期候補者が既に何人かおり、事業の展望は明るい。本事業は、8年を経過した今も継続している。 【事業概要】 出所:日本総研シンポジウム「国に依存できない時代の地域・雇用・社会保障」市長説明資料(2018年2月、杵築市作成) 2 地方自治体での取組みにおける課題 (1) 市役所組織の縦割りの打破 本事業が対象とする分野は、地方再生、児童福祉、新規就農と複数に渡っており、当時の市役所組織では、企画部門、福祉部門、農業部門がそれぞれ別々に所管をしていた。まず、それらすべての課において、本事業へ取り組む目的と役割を取組開始時に明確にすることができたため、事業へ共同で参画する方針を固めることができた。 企画部門:目的は地域再生、役割は全体調整及び予算確保 福祉部門:目的は児童福祉の推進、役割は子どもネットや児童養護施設との調整 農業部門:目的は新規就農者の確保、役割は就農体験の場の創出や農業者との連携調整 また、上記の通り、異なる複数の目的が掲げられており、その方向性があいまいになる可能性があったため、何年目に何をしてどんな成果を目指すのかについて、ロードマップを作成した。このロードマップには、市役所の目的だけではなく、子ども支援ネットの目的も組み込んだものとして作成をしたため、本事業関係者間で全員の共通認識とすることができた。そのロードマップに沿って5年間の取組みを推進することができた。 (2) 予算の確保(税金投入の是非) 杵築市役所には本事業の予算化に関する課題があった。市域に児童養護施設のない杵築市が、県内9つ全ての児童養護施設から児童を農業研修に受け入れることの是非についてである。市内に若手の就農者を確保するという事業であるとはいえ、「市民でもない児童に、市民から頂いた税金を費やしてよいものか」という問題点 であった。市役所での予算化は、議会で承認を 得ることができるかという点にあり、政治決着 による打開の可能性もあるが、それでは成果が出るまで継続的に予算化ができるかわからない。市民からの税金をできるだけ使わず予算化することができれば、それが理想的であった。 タイミングよく、この時期に企業版ふるさと納税制度が創設された。この制度をうまく使えば、我々の課題解決の取組みに賛同してくれる企業から資金を集めることが可能となり、市民からの税金に頼る必要はなくなる。ただ、企業版ふるさと納税から事業費を確保するためには、申請時に事業の詳細のほか、少なくとも1社以上の確約できる寄付企業を記載する必要があった。当時、企業版ふるさと納税は創設されたばかりの制度で、企業での認知度もかなり低く、内閣府へ提出する書類に実名を載せてくれる企業が短期間で見つかるか難題であった。そこで、杵築市長自らが担当者と共に企業回りを行い、それぞれの経営者へ直接会い、事業への協力を訴えた。最初の訪問先で解決するべき課題と事業内容を経営者に説明したところ、「そのような課題が放置されて良い訳がない。うちは協力します。」と即答いただき、弾みがついた。その後も同様に市長が4社を回り、最終的には5社中4社から同意を頂くことができた。その後、この取組みは、内閣府の優良4事例の一つに取り上げられ、日本経済新聞全国版の1面記事広告として主要企業名とともに掲載された。このことは、協力いただいた企業にとって予想外のメリットとなった。 IV ディスカッション 1 考察①:組織連携を進める取組み 市役所をはじめとし、NPO、農業者などそれぞれ立場も役割も違う者たちが、1つの事業で連携することは容易ではない。特に、福祉、農業など、それぞれ専門性の高い分野に渡る連携となると尚更である。これらの組織連携の課題を超えるためには、以下のような視点の取組みが重要であると考えられる。 「誰もが理解できる明瞭な課題の設定と、社会的に受け入れられる解決手法の明示」が大変重要である。農福連携は、通常の農業や福祉以上に、多くの関係者の協力が必要となる。分野の垣根を越えて連携するために、誰もが課題と解決策を理解できることが重要である。この点への配慮ができていれば、共感を得ながら関係者と連携していくことができる。また、要保護児童の就業の観点からも多職種連携による社会のサポートが重要であり、同様に課題と解決策の理解が重要である 2) 。 市役所が関わる場合、庁内で組織を超えて目標となる一致したゴールを共有しコミュニケーションと役割分担をしていくことが必要である。普段から、特に管理職間で情報や意見交換をする習慣をつくれば、組織を超えることは難しいものではなくなってくる。 全て役所内で完結しようとするのではなく、餅は餅屋であり、適切な専門性や機能を持つ民間企業やNPOなどと官民連携をしっかりと進めることが重要である。 2 考察②:持続可能な仕組みとすること 地方自治体の取組みは、ビジネス取引よりも関係者が多く課題が複雑であるため、その成果を得るまでに時間がかかる。言い換えると、成果を手にする前に、次の投資を求められることになる。特に、医療や福祉分野の取組みついては、その傾向が強い。地方自治体において、持続可能な仕組みとするためには、以下の重要な要因が考えられる。 関係者全員が合意・納得できる1つのロードマップを作成し、共通認識とする。このロードマップがあれば、関係者毎に目的や役割が 異なっても、将来の成果に向けて同じベクトルを持って迷わず進んで行くことができる。 「明らかな社会的課題の解決は予想以上の共感を得る」ことを最大限に生かすことである。解決しようとしている社会的課題について、ステークホルダーにしっかりと伝えて理解してもらうこと、また、その解決のプロセス自体も理解してもらうことで、直接的そして間接的に、組織的そして個人的に取組みをサポートしてもらうことができる。 3 考察③:要保護児童の意向を最優先した取組みとすること 地方自治体の取組みは、職員や費用が動けば、議会説明の対象となり、その成果について説明することとなる。ただ、本取組みは、要保護児童の将来にかかる取組みであるため、より良い選択肢の提示については主催者側の努力で実現が可能であるが、それを選ぶのは要保護児童であり、その意向を最優先にすることが前提となる。見込める部分と見込めない(見込むべきでない)部分が本取組みで共存しており、それらを分けて検討する必要がある。 協力者、住民、議会などステークホルダーに、要保護児童の意向が最優先であることを、事業実施前に理解してもらう。 最終的なゴールを就農できた人数ではなく、関係人口など長い目で見て相互に有益な関係作りなど、緩やかなものとしていく。 児童養護施設卒園者の移住・自立に向けた就農チャレンジロードマップ 出所:日本総研シンポジウム「国に依存できない時代の地域・雇用・社会保障」市長説明資料(2018 年2月、杵築市作成) V まとめ 本研究では、地方自治体などの組織体としての動きを中心に分析を実施した。しかし、本研究が対象としているような新しい事業では、関係者個人の動きも大きく影響すると考えている。今枝・藤井[2022]は、地域資源を「地方創生の起爆剤」として活用する新しい取組みを成功に導く要因を研究しており、その成功要因としてマルチプレイヤーの存在をあげている。実は、市役所にも、実家が農家であり、地域の農業者、農業法人、地縁組織など様々なネットワークと繋がっているマルチプレイヤーも少なくない。そのようなマルチプレイヤーが関わることで、成功の可能性を高めることができるのではないかと推察される。 児童養護施設の退所児童については、平成16年の児童福祉法改正で、各施設の業務に退所者の相談支援を規定し、アフターケア事業を推進 しており、施設単位や広域単位で実施している。また、赤間ら[2021]の調査においても、アフターケアを行なった者については、約半数が入所当時の担当職員となっており、入所施設が重要な役割を担っている。その一方で、施設の職員は、入所児童の支援など業務が多忙であり、卒園児童に対するケアに多くの時間を費やすことは容易ではない。そのため入所施設やその担当職員に多忙な中でも就農支援の内容を知ってもらい、就労の選択肢として退所児童へ提示してもらえるように、信頼できる連携先となっていくことが重要である。 障がい者の農福連携においては、既にいくつかの先行研究がある。吉田[2019]によると、 障がい者が農作業へ従事することが増えている。しかし、それらのほとんどは、障がい者への農作業委託を限定された期間に実施することであり、就農にまでは至っていない。一方で、要保護児童の就農については、まだ研究文献が少なく、手探りで実施しなければならない状況にある。本研究対象となっているきつきプロジェクトでは、要保護児童の就農を目指しており、本事例の分析を通じて成功要因を明らかにし情報発信を行うことで、本事業の拡大・継続、そしてより対象者の多い学校教育や社会教育における同様の取組みの拡大に資するため、本研究を継続したい。 [注] 1) 厚生労働省[2022]児童養護施設の年長児童の将来の希望(職業)では、中学3年生以上の児童養護施設の児童に、将来の希望職業を聞いているが、「先生・保育士・看護師等」11.3%、「工場に勤める」5.3%と比べると少ないが、「大工・建築業」3.5%、「農業・漁業・ 林業・酪農等」2.5%、「運転手・船乗り・パイロット等」1.5%と農業への希望が一定割合はあることがわかる。 2) 要保護児童支援の観点から見ると、矢野 [2021]は対象児童を中心に「関わり合いの糸(ネットワーク)」を張り巡らせることが望ましいとしている。また、その中で出てくる「壁」がいわゆる「多職種連携」「多機関連携」であり、その壁はサポート側つまり社会側にあるとしている。 [参考文献] 総務省[2019]「地域・地方の現状と課題」、4頁。 厚生労働省[2023]『厚生労働白書』、58頁。 厚生労働省[2022]「児童養護施設入所児童等調査の概要」、23頁。 赤間健一・稲富憲朗[2021]「児童養護施設における退所児童の自立の現状と課題―小規模 データを参考に―」。 佐久間美智雄[2021]「山形県における児童養護施設等の退所者支援に関する考察」『東北文教大学・東北文教大学短期大学部紀要』、5: 81-102頁。 片山寛信[2018]「児童養護施設のアフターケアのあり方: 当事者の語りからの一考察」『札 幌大学女子短期大学部紀要』66: 7-30頁。 大村海太[2017]「児童養護施設退所者への自立支援の歴史に関する一考察(2)――1990年代 後半から現在までの政策に焦点をあてて――」『駒沢女子短期大学研究紀要』、50: 43-53頁。 久保原大[2016]「児童養護施設退所者の人的ネットワーク形成: 児童養護施設退所者の追 跡調査より」『社会学論考」、37: 1-28頁。 樋川隆[2015]「社会的養護事例の研究」『山梨学院短期大学研究紀要』、70-81頁。 矢野茂生[2021]「子どもたちの明るい未来を紡ぐために─特定非営利活動法人おおいた子ども支援ネットの取り組み」『世界の児童と母性 第90号』公益財団法人 資生堂子ども財団、35-38頁。 吉田行郷[2019]「農業分野での労働力不足下における農福連携の取り組みの現状と展望」 『農業市場研究第28巻3号(通巻111号)』筑波書房、13頁。 認定NPO法人ブリッジフォースマイル「全国児童養護施設退所者トラッキング調査2021」。 今枝千樹・藤井秀樹[2022]「地方創生における地域資源の戦略的活用とその成功要因―広島安芸高田神楽のケーススタディー」『公益社団法人非営利法人研究学会』VOL.22、53頁。 堀田和宏[2017]『非営利組織理事会の運営~その向上を求めて~』全国公益法人協会。 相澤仁ほか[2022]『おおいたの子ども家庭福祉~子育て満足度日本一をめざして~』明石 書店。 鈴木秀洋[2019]『子を、親を、児童虐待から救う』公職研。 山田敦弘[2020]「【人口減少時代の地域経営4】複数の課題を解決する農福連携」『地方 行政』時事通信社。 山田敦弘ほか[2016]『未来につなげる地方創生~23の小さな自治体の戦略づくりから学ぶ ~』(第2部 民間派遣者が決裁権限を持つということ)日経BPマーケティング。 論稿提出:令和5年12月20日 加筆修正:令和6年5月14日
- ≪査読付論文≫ 自治体外郭団体の運営実態に関する考察 ―自己組織性の視角による事例分析に基づいて―
PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 公益財団法人倉敷市スポーツ振興協会総務企画課長 吉永光利 キーワード: 外郭団体 自己組織性 ゆらぎ 自己化 自己増殖 要 旨: 本稿は、自治体外郭団体が国等による多様な行政施策に対応しながら、どのような運営を行っているのか、自己組織性の視角から、その実態を考察するものである。 外郭団体とは、一般的に国等が設立時に出資等を行っている、あるいは人的・経済的な支援を継続的に行い、運営に関与している団体のことである。その特性から、組織の存続可否も含めて、国等が行う施策の影響を受けることが多い。 そのような管理下にあり、活動に制約がある一方で、自律的な運営を行い、一定の成果を収めている事例が見られる。そこで、本稿では、そのような事例分析を通じて、自治体外郭団体がどのような運営を行っているのか、とくに、運営の主体となる人(職員)の意識や行動に焦点をあてて、その実態を考察するものである。 構 成: I はじめに II 分析対象と方法 III 調査の設計と結果 IV 考察 Ⅴ おわりに Abstract This paper examines how a municipality-affiliated organization actually operates while responding to various administrative measures taken by the national government, etc., from the perspective of self-organity. An affiliated organization is generally an organization in which the government invests at the time of establishment, or to which the government continuously provides human and economic support, and is involved in its operation. Due to its characteristics, it is often affected by measures taken by the national government, including whether or not the organization can survive. While municipality-affiliated organizations are under such control and have restrictions on their activities, there are cases in which they operate autonomously and achieved certain results. Therefore, this paper examines the actual situation of a municipality-affiliated organization through the analysis of such cases, focusing on the awareness and behavior of the people(staff), who are the main actors in the operation. ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ はじめに 従来から、「役人の天下り先」、「官民のもたれあい」といった社会的な批判(例えば、吉田[2017]、16-17頁)のある外郭団体(an affiliated association, an extra departmental body:高寄[1991]、3頁)であるが、これまで、国等による見直しのなかで、団体の存在意義や存続の必要性に関する是非に関して、多くの議論が行われている (内閣府[2001][2002])。その一方で、実際に、外郭団体がどのような運営を行っているのか、そこで働く人々の意識や行動に着目した研究は、それほど多くないように思われる。 ここで、外郭団体は、国や自治体から人的・ 経済的な関与を継続的に受けており、行政施策の代行者という役割がある(蛯子[2009]、6頁)。そのため、活動に公的な制約があり、裁量のはたらきにくいところがあると思われる。また、国、あるいは都道府県、市区町村のいずれか、あるいは複数からの関与が考えられ、管轄ごとの施策(縦割り行政)に対応するため、事業分野が多岐に亘っており、複雑な様相を呈している。 そのような状況ではあるが、例えば、国の管理下にあり、市区町村にまで展開し、類似する事業を行っている外郭団体間の活動状況を比較すると、各々の事情は異なるにしても、その成果 1) (例えば、会員・利用者数の増加)に顕著な差異のある事例が見られる。このような事例に関心を寄せると、どのように自律的、あるいは独創的な運営を行っているのだろうか、という疑問が生じてくる。それは、内発的な要因として、団体自らの意志決定により(能動的に)運営しているのか、その反対に、外発的な要因として、国等の意向に沿って(受動的に)対応しているのか、実態のはっきりしないところがある。 そこで、本稿では、自己組織性(self-organity)という概念(装置)を使って、自治体外郭団体(amunicipality-affiliated organization)がどのような運営を行っているのか、時間の経過とともにどのように変容しているのか、そこで働く人々の意識や行動に焦点をあてて、その実態を考察するものである。実践的に言えば、団体の抱える多様な問題に対して、外部から指示されて行うのではなく、自らの課題として、どのように内発的に対応しているのか、このような問題関心である。 以上の問題関心に基づく本研究の課題は、自己組織性の視角から、自治体で活動する外郭団体の運営実態を考察することである。 II 分析対象と方法 1 外郭団体 (1)定義 本研究の分析対象は、自治体外郭団体の自己組織性である。ここでは、外郭団体に関する諸議論を概観し、本稿における外郭団体の定義を提示する。 まず、高寄[1991]は、形式的な定義として、地方自治法第199条に準拠し、一般的には、土地・住宅・道路の三公社と25%以上の出資法人との規定で、概ねの外郭団体が包含されると指摘している(58頁)。その一方で、形式的に限定することに対する批判として、首長(自治体)が外郭団体の行政・政治・経営上の責任を負うことから、実質的支配・業務・機能関係から定義する意義を指摘している(61頁)。 朝日監査法人[2000]は、地域政策研究会 [1997]による地方公社の定義(1頁)を参照したうえで、高寄[1991]と同様に、地方自治法第199条を根拠として、「25%以上出資法人」を外郭団体と定義している。そのなかで、種類や成り立ちの多様性を踏まえて、設立根拠となる法律により区分ができると指摘している(2- 3頁)。 蛯子[2009]は、「地方自治体及び地方自治体が過半を出資する団体が出資・出捐する法人」と定義している。そして、外郭団体の法人形態を「公益法人(旧特例民法法人)」「会社法法人」「地方三公社」「地方独立行政法人」と区別し、朝日監査法人[2000]と同様に、根拠法に焦点をあてている(2頁)。 次に、都道府県別人口数の上位3位(東京都・ 神奈川県・大阪府)による外郭団体の定義を概観する。各定義を簡略にまとめたものが、 図表1 である。 上述のように、外郭団体の定義は、従来、地方自治法第199条の規定を準用し、出資等経済的な関与の部分に焦点をあてていることが一般的であった。いわゆる、国等の組織(官のシステム)の一部という捉え方である。ところが、自治体による定義を見ても明らかなように、外郭団体という概念の捉え方が多様化し、呼称もその規定も変化し、一義的な意味ではなくなってきている。これは、従来の行政による支配的・管理的な運営からの変容を意味していると考えられる。いずれにしても、議論が一定せず、拡散しているところがあるが、本稿では、外郭団体で働く人々の意識や行動に焦点をあてていることから、経済的な部分を強調せず、仮に「国等と協働して政策実現のための事業を行い、かつ国等の現職、あるいは退職者が常勤役員等に就任している団体」と定義しておく。 図表1 都府県による外郭団体の定義等 出所:各自治体のホームページ(2023年5月8日アクセス)を参考に筆者作成 (2) 自治体外郭団体の運営状況 ここでは、高寄[1991]を手がかりに、自治体外郭団体の運営状況を概観する。 自治体外郭団体の運営では、自治体からの出向者(現職・退職者)と直接雇用しているプロパー (固有)職員による体制が多く見られる。そうしたなか、高寄[1991]は、自治体の人事ローテーションとして、出向者が経営管理層を占めることにより、プロパー職員の経営マインドを損なっていると指摘している(228頁)。これは、適材適所の配置を行う以前に、外郭団体の人事権が働いていないことを意味している(244頁)。 そして、このような重要な人事が自治体事情で処理されているところがある(269頁)ことから、高寄[1991]は、外郭団体の人事施策に関して、第1に、自治体退職者が天下るとしても人事を固定化せず、適材適所を図ること(270頁)、第2に、自治体出向者とプロパー職員との同部門への混合方式を避けること(273-275頁)、第3に、長期にわたって運営を支えるプロパー職員の人材確保と養成を行うこと、これら3点を指摘している。なお、これらの指摘は、プロパー職員の人事の展望を開く必要性を言及しているのだが、その一方で、任せきりにすることが最適ではないと指摘している(276頁)。 次に、自治体側の思惑では、高寄[1991]は、経営戦略の手段・機会として、外郭団体を活用していく政策認識に欠けていると指摘している。それは、首長以下幹部も含めて、その経営につき関心度が低く、便宜的に利用する知恵は働かせても、政策的に活用する志向性が薄いからである(256頁)。そのため、外郭団体が事業活動で独自性を発揮し、新しい事業分野を開拓することによって、自治体支配の精神的・財政的しがらみから脱皮し、実質的な独立性を構築していく可能性を指摘している(246頁)。ここで、本稿では、自治体出向者が運営のマイナス要因になるとの否定的な見方ではなく、出向等を前提としたうえで、どのように自律的な運営を行っているか、という視点である。 ところで、高寄[1991]の研究からすでに30年以上経過しているが、上山[2018]においても、プロパー職員の人事の展望に関する同様の指摘があり、それほど進展していないように思われる。しかし、自治体支配からの脱却策としての独自性の発揮、あるいは新事業領域の開拓 (高寄[1991]、246頁)といった他であまり例のない事例 8) (海外での事業化、縦割り行政の垣根を超えた事業化)が見られる。このことから、活動に制約があり、閉鎖的と思われる外郭団体において、「ヒト」の属性にかかわらず、そこで働く役職員が起点となって、すべてではないが、自律的な運営へと転換している状況があるのではないか、という疑問が生じてくる。これは、本研究の契機にも関連している。 (3) 事例の選定 探索的ではあるが、本研究の課題に基づき、 2020年に実施したインタビュー調査 9) (以下「前調査」と記す。)のレビューを行った(吉永[2021])。ただし、前調査対象先15団体のうちの8団体は、民間等の出資団体であったため、残りの7団体を対象に進めた。そのレビューでは、強権的リーダーによる支配的な団体、同地域団体の不祥事により行政指導が強まっている団体、著しく小規模(常勤1~2名)の団体、存続が危ぶまれている(大幅な人員・予算削減)団体など、それぞれに背景や状況が異なっていた。 ここで、本研究の契機は、上述の問題関心に基づくものであるが、例えば、組織の成果が高い(顕著な)団体の方が自己組織性(自律的・自己決定的な性質)の特性を捉えやすいと考えられる。さらに、ランダムに抽出した事例よりも、類似する事業を行う団体(類似団体)間で条件を揃えた方が成果の程度を比較しやすいと思われる。ただし、ここで留意しておきたいことは、自己組織性を発揮すれば成果が得られる、そのような因果的関係性には必ずしもない、ということである。そのほか、筆者の実務経験に関連して、研究に不可欠な要素である客観性を考慮し、以下の4点を選定理由としている。 ① 因果的結びつきを考慮し、一定の成果(従属変数)を収めている団体(成長・達成度) ②意思決定を他に委ねず、自己決定的な運営を行っている団体(自主・自律性) ③同一目標(計画)に沿った活動を行っている全国組織の団体(成果の相対性) ④筆者の実務経験(スポーツ系)を考慮し、他分野の団体(客観性、偏見の除去) 以上の理由から、レビューを行った7事例のうち、自治体(市区町村)で活動するシルバー 人材センター(以下「センター」と記す。)の2団体(A社団・B社団)を選定した。 (4) シルバー人材センター組織の概況 公益社団法人全国シルバー人材センター事業協会( https://zsjc.or.jp/about/about_02.html 、2023年7月7日アクセス、以下「全シ協」と記す。)によれば、センターは、国等の高齢社会対策を支える組織として、概ね市区町村単位に設置されており、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)の規定に基づいた事業を行っている。現在は、高年齢者を会員とした社団であることを原則とし、かつ都道府県知事の認定を受けた公益法人として活動している(厚生労働省所管)。そして、各都道府県単位に、シルバー人材センター連合会(以下「連合会」と記す。)が設置されており、全シ協、連合会、センターが一体となり、広いネットワークを活かした事業を展開している。 事業推進に係る計画では、全シ協が2018年3月に「第2次会員100万人達成計画(以下「100万人計画」と記す。)」を策定しており、このなかで、会員拡大を最重点課題としている 10) 。この拡大では、①女性会員の拡大、②企業退職(予定)者層への働きかけの強化、③退会抑制、④新生活様式に対応した多様な就業機会の開拓、⑤80歳超でも活躍できる就業環境の整備、これらを重点目標としている。なお、全国の会員加入者数をまとめたものが、 図表2 である。 図表2 のとおり、前調査時(2020年)における会員加入者数は、69万8,419人であり、それ以降、減少傾向にある。また、都道府県別の詳細は記載していないが、本稿で事例とする2団体が所在する県も減少しており、100万人計画策定時の2018年から2021年(両年を比較)にかけては、3.11%減少している 11) 。そうしたなか、A社団では13.53%、B社団では19.75%増加しており、県下上位2位を占め、その成果は顕著なものである。 図表2 シルバー人材センターの全国会員加入者数 出所:全シ協公開情報を基に筆者作成 2 分析の方法 本研究は、自治体外郭団体が「どのように」、あるいは「どのような」運営を行って(組織が変容して)いるのか、という実態解明を試行している。そのため、分析方法では、事例分析による定性的な方法が妥当である 12) とし、採用している。そして、本稿では、自己組織性の視角から、以下の理論的定義に基づき、吉永[2023] の議論を踏まえて、後述の2つの視点に限定した分析を行う。 (1) 自己組織性の定義 自己組織性とは、平易に言えば、ランダム (random) から秩序(order or rules) へと自ら組み上がる性質の総称(都甲他[1999]、6頁) であり、自然科学にその原典がある。この概念は、1970年代以降、社会科学の分野で多く応用されている(庭 本[1994]) が、本稿では、「システムが環境との相互作用を営みつつ、みずからの手でみずからの構造をつくり変える性質を総称する概念(今田[2005]、1頁)」と定義する。この定義のなかで、「環境との相互作用」とは、オープン・システム(open system)を示唆しており、これは、有機体的組織観であると考えられる。次に「みずからの構造をつくり変える」とは、自己の範囲を規定し、その規定した自己のなかで自らが変容していく、つまり、有機体の特徴である開放系のなかに特殊的な閉鎖性を内含している、このような見方である 13) 。 この定義における自己組織性は、基本的には、生命システムを一般化した概念(吉田[1989]、255-256頁)であり、有機体的組織観に立った非線形的・動態的な自己決定論である。そして、その特徴は、組織の変容過程のはじまり(ゆらぎ(fluctuation)の生起)となる兆しを重視しているところにある(今田[2005]、125-127頁)。 (2) 本稿における2つの視点 本稿における自己組織化(self-organization)は、 ゆらぎ 14) を変容の起点として、時間の経過とともに秩序化(形成・安定)するというメカニズム(mechanism)である。このフローを図示したものが、 図表3 である。 図表3 のように、組織内に発生したゆらぎ(個人による疑問や緊張など) 15) に起因して、自己言及(self-reference)を通じて、どのように秩序化していくのかを選択(selection)し、秩序化していく、このようなフローである。ただし、ここでの秩序化は、組織が静的な状態に向かい、その構造が硬直化していくことを意味している。そのため、とくに、活動に制約の多い組織においては、硬直状態(マンネリ化)に陥りやすいことが考えられ、これを打破するためには、断続的にゆらぎ(貯蔵情報:既存秩序への疑問)を内発させていくことが有効になると考えられる。これは、現状に満足せず、改善意識をもって自省的な運営を行っている組織に見られる特徴であると思われる。 ここで、今田[2005]は、シナジェティック (synergetic)な自己組織性の4つの特性を指摘している(28-34頁)。具体的には、第1特性が「ゆらぎを秩序の源泉とみなす」、第2特性が「創造的個の営み(self-discipline)を優先する」、第3特性が「混沌(unconventionality)を排除しない」、第4特性が「制御中枢(control-center)を認めない」である。そして、吉永[2023]は、これら4つの特性を踏まえて、5つの論点を指摘している(122-124頁)。本稿では、狭義的ではあるが、そのなかから、以下の「ゆらぎと組織」、「自己化」の2つの論点に絞り、集中的な考察を行う。 図表3 自己組織化のフロー 出所:吉永[2023]、124頁 ① ゆらぎと組織 「ゆらぎと組織」は、上述の今田[2005]による自己組織性の第1特性に関連するものであ る 16) 。これは、社会学の命題である「個人と社会」の関係性にも関連している(吉田[1995]、31-32頁)。本稿におけるゆらぎ、すなわち、組織を変容させる起点は、個人(構成員)であり、これは、同様に第2特性に関連している。反対の見方として、例えば、社会や組織の施策によって、組織が変容していくことが考えられるが、その場合においても、それを個人が自らの問題 として捉え、内発的に組織を変容させていく、このようなものの見方である。 次に、同様に第3特性は、第1特性の「創造的個の営み」を推進するため、構成員による組織への働きかけをノイズ(noise)とみなすのではなく、積極的に取り込む組織のあり方を指摘している。同様に第4特性は、特定の人間による支配的な運営に対する批判を意味している。これは、職位にかかわらず、ゆらぎがどのように組織の変容にかかわり、それを受容する体制が組織に備わっているか、という視点である。つまり、ここでの「ゆらぎと組織」とは、個人を起点に組織とどのように相互作用しながら、組織の変容、あるいは事業の推進を図っていくか、このような双方向的・相互作用的な視点である。 ② 自己化 「自己化」とは、文字どおりには、自己と化していくことであり、他者を自己に取り込む、あるいは自組織の運営に巻き込んでいく(自己増殖)、という意味が含まれる(例えば、上田 [1996]、中野[1996]を参照)。ただし、この場合、自己の組織をどのように規定するか、という問題が生じてくる。外郭団体であれば、事務局のみを組織と規定するのか、役員も含めるのか、あるいは社団であれば会員をも含めるのか、このような運営上の意識にも関わってくる。その一方で、例えば、自治体が外郭団体を取り込もうとすること(自治体の自己組織化)に対して、自己を保つという意味において、他者からの同一化に抗うことも自己化における特徴的な組織行動であると考えられる。 次に、自己の範囲を拡大していく、という視点がある。これは、活動(事業)に規制のかか りやすい外郭団体にとっては、どのように事業を拡大させていくか、という問題がある。その反対に、既存事業においては、どのように縮小・廃止していくか、という視点も同様にあり、組織の自由度や自己決定的な運営に起因すると考えられる。 以上のことから、本稿では、第1に、「ゆらぎと組織」の関連性に着目しつつ、どのように外部環境と相互作用しながら、内発的に組織を変容させているのか、第2に、組織変容(結果) としての「自己化」の視点から、自己の組織をどのように規定し、自らの存在意義を外部に示せているのか、このような考察を行う。換言すれば、「ゆらぎ」と「組織」との関連性 17) (独立変数)に起因して、その組織が外部環境と相互作用しながら、どのように「自己化」(従属変数) を図っているか、このような視点である。 (3) 概念の操作 上述の自己組織性の理論的定義、および2つの視点を踏まえて、本稿における鍵概念を「ゆらぎ」「組織」「自己化」の3つに特定している 18) 。そして、これらの概念に解釈を加え、実践的な視点(調査の着目点)としてまとめたも のが、 図表4 である。 図表4 自己組織性における鍵概念と実践的な視点 出所:筆者作成 III 調査の設計と結果 1 調査の設計 本研究で必要なデータを追加で収集するため、2事例を調査対象として、前調査に引き続 き、インタビュー調査(以下「本調査」と記す。) を行っている。なお、前調査と本調査のインタビュー内容(管理職対象)が、各事例の組織現象の説明を示せているかの信頼性を確認するため、一般職を対象にアンケート調査(以下「意識調査」と記す。)を行い、データ(回答内容)の妥当性を検証している(詳しくは、Vの後に掲載の「補論」を参照のこと)。 本調査の目的は、「ヒト」の組織への関わりが、運営にどのような影響を及ぼしているのかを自己組織性の視角から因果的に探索することである。そのため、前調査(3年前)の状況に加えて、さらに、過去の状況をヒアリングし、どのような人的要因により現況に至っているのか、という着眼で調査している。調査の概要は、 図表5 のとおりである。 本調査は、半構造化面接 19) を行っており、具体的な質問項目は、本調査の目的、および自己 組織性の視点( 図表4 )を踏まえて、 図表6 のとおり設定している。なお、応対者へは、文書化した質問項目を実施日前(2023年7月10日付) に、Eメールで通知している。 図表5 本調査の概要 出所:筆者作成 図表6 本調査における質問項目 出所:筆者作成 2 A社団の調査結果 (1) 前調査の概要 A社団の活動する地域は、2005年に9町村が 合併しており、センターもこれを機に統合している。ただし、概ね旧町村エリアに本所と支所 機能を備えているが、合併前のそれぞれのやり 方が統一できていないという問題を抱えてい る。この問題に対して、全シ協が掲げる100万 人計画に基づき、センター独自の計画を策定し ている(目標の数値化)。そして、目標値を役職 員に広く周知・共有することで、意識のばらつ きが解消方向に向かっていると指摘している。 換言すれば、共通目標を通じて、本所と支所間 の横断的な連携(機能)と、会員・役員・事務 局といった縦断的な関係性(構造)が強まって いると考えられる。また、常務理事は、職員の 個性や能力、経験を尊重し、在籍の人材を活か すことに考慮しつつ、定期的な会議等による情 報共有(コミュニケーション)の機会を設けている。 行政との関係性では、仕事の依頼に対して承諾、その反対に拒否している様子等から、従属的な関係ではなく、自己を保持している状況にあると思われる。また、組織の認知度を高め、存在意義を示すため、マスコミ等を活用した積極的な情報発信を行っている。 (2) 本調査の概要 2020年度から3年間にわたり、常務理事が中心となって、国の「きらりシルバー応援事業」に参画していた。参画の目的には、会員拡大・仕事の増加・事務の統一化の3つを掲げており、一定の成果を収めている。とくに、市からの仕事の増加が顕著であり、このことについて、これまでの活動実績による信頼性の高まりの表れであると指摘している。ただし、事務の統一化では、職員間では図られつつあるが、会員のやり方では、未だ地域性が残っており、旧来の秩序が優先されている状況がある。 また、運営面における法的な要請に関しては、全シ協や連合会からの指導・助言に受動的に対応する一方で、事業の本質的かつ実務的な部分に集中した運営を行っている。行政庁との関わりでは、法令等の遵守状況を確認する程度で、運営に関与されるような指導は受けていないと指摘している。なお、情報収集の一環として、県下の地域ブロックを超えて、B社団をはじめとするセンター(他ブロック)との意見交換会 に精力的に参加しており、積極的な交流を行っている。 3 B社団の調査結果 (1) 前調査の概要 B社団では、採用した職員が短期間のうちに、複数人が連続して退職した経緯を踏まえて、コミュニケーションを重視した運営を行っている。これは、人間関係のもつれ(不調和な職員の存在)に起因する職員の連続退職が運営に不安定な状況をもたらし、それに対応する形で、職員間のコミュニケーションの頻度を高め、秩序形成を図っていると考えられる。ただし、その展開は、事務局内にとどまらず、理事や会員へも広げており、全体的な協調に努めている。その一方で、類似団体による過去の不祥事を例に、特定の者が仕事を囲い込まない体制の必要性を指摘している。さらに、市との関係性では、副市長がB社団の理事であり、その発言から一定の評価を受けていると認識している。 また、多様な事業を展開していくなかで、会員を巻き込んだ事業を行う一方で、その属性にかかわらず、特定の者に頼らない運営を意識している。これは、今田[2005]による自己組織性の第4特性である「制御中枢を認めない」運営に関連すると考えられる。さらに、限られた財源や人材のなかで、どこまで事業を推進できるか、という自己言及的な運営を行っている。そのほか、県内外を問わず、先進的な取り組みを行っている他センターとの関係を構築し、情報交換・収集を積極的に行っている。 (2) 本調査の概要 一昨年前から雇用が安定に向かっており、その要因の一つとして、職場の雰囲気が改善されたことを指摘している。この改善と新たな事業化では、1人の若手職員による影響が大きいと指摘している。運営体制では、民間出身の代表理事、自治体出身の常務理事、プロパー職員の役職員がそれぞれの経験による得意を発揮し、考えに相容れない部分がありながらも、バランスの図られた事業が展開されている。また、会員拡大や退会抑止という共通目的を日頃から職員が共有し、相互の理解も高まり、提案の出しやすい雰囲気に変容している。これは、視察研修等による人材育成の成果であるとも考えられる。 全シ協と連合会との情報伝達では、全シ協による方針が連合会経由で各センターに流され、逆に、各センターから全シ協へ報告される情報が集約・拡張され、再びフィードバックされる仕組みが確立している。ただし、昨今のインボイス等の新法対応では、的確な情報が得られないことへの不安を募らせている。また、市から新しい事業提案を求められるなどの期待を感じられない不満がある一方で、仕事の依頼は増加している。なお、両事例から「センターの魅力度 21) 」の向上追求により多くの効用が得られるとの指摘があった。 4 まとめ 各調査結果では、それぞれに背景や問題意識が異なるため、応対者が指摘する事象内容に相違する部分があった。しかし、応対者の主観的な意識や現象の捉え方に相違があることは想定されることであり、それを否定、あるいは定式化しようとすると、実態の説明を不十分なものにすると考えられる。応対者に自由度を与えて、半構造化面接としているのも、このような想定によるものである。その結果、とくに、「ゆらぎ」の事象に関しては、相違した部分が顕著に表れている。その一方で、「組織」と「自己化」の事象では、共通する部分が多く表れている。主な内容は、次のとおりである。 (1) ゆらぎ 「ゆらぎ」関連の事象では、A社団は、新たな秩序形成を推進するための「事業計画」を、B社団は、新たに事業化するための「ヒト」の多様性に着目している。このような相違の要因の一つとして、応対者の職位や属性( 図表5 )による主観的な意識の違いがあると考えられる。具体的には、A社団の応対者(自治体退職者) は、職員の個性に対する言及はそれほど多くなく、団体の旧来の秩序(地域性)や閉鎖的な活動(不十分な情報受発信)を問題とした俯瞰的な見方を行っている。その一方で、B社団(プロパー職員)は、前調査当時、職員が連続退職している状況などもあり、雇用管理(人的資源管理的考察)を中心とした近視眼的な見方を行っている。このようなミクロ・マクロの対照的な視点により、ゆらぎに関する事象内容が異なっていると考えられる。 (2) 組織 「組織」関連の事象では、両事例で共通する部分が確認された。例えば、コミュニケーション機会の創出、外部組織との交流や積極的な情報収集の推奨といった個人(職員)を支援する組織の体制に関する指摘がある。これは、今田 [2005]の指摘(自己組織性の第3特性)に関連するものであり、ゆらぎの発生しやすい状況をつくり出していると考えられる。とくに、B社団では、連続退職に歯止めがかかり、職員が個性を発揮している状況から、個人に対する組織の受容体制が整備され、安定方向に向かっていると考えられる。 (3) 自己化 「自己化」関連の事象では、上述の「組織」と同様に、両事例で共通する部分が確認された。その要因の一つとしては、全シ協が掲げる最重点課題(会員の拡大)が両事例の共通課題であることに起因していると考えられる。その反対に、相違する部分に関しては、その内容からゆらぎ事象(独自の取り組み)への対応といった因果的な関連のある事象であると思われる。また、自治体との信頼関係を意識した運営を行っている一方で、依頼に対する受託の状況から、主従の関係性にはなく、独自性を発揮した運営を行っていると考えられる。 以上のように、データに特徴的な部分と共通する部分のそれぞれが存在しているが、いずれも組織の実態を明示しているものであり、以下では、得られたデータに基づき、考察を行う。 IV 考察 A社団では、常務理事のリーダーシップがゆらぎとなり、事業を推進しているが、B社団では、役職員に多様な個性があるなかで、それぞれの得意を活かし、バランスを図った運営を行っている。また、両事例とも、職場の雰囲気や人間関係に重きを置き、情報の流れやすい状況を創り出している。さらに、共通して、内部のみならず、外部との交流を通じて、積極的に情報収集を行っている。自治体との関係性も良好であり、外郭団体特有の人事的な問題(出向者とプロパー職員との対立)が表面化している状況はなかった。 前調査から3年という短期間のうちに、両事例とも、行政からの仕事の依頼が増加している。このことについて、A社団は、これまで築いてきた信頼の表れ、B社団は、一部不満があるものの運営に対する一定の理解を得ている主旨を指摘している。そして、両事例に共通して、運営における裁量的な部分に対する自治体からの指導等はなく、法的な準拠状況の確認に留まっている。これらのことから、自治体側が団体運営に対して関心がないということではなく、組織の成果を踏まえて、自律性を尊重し、独自性を認めていると考えられる。さらに、全シ協等との関係性においても、支配的・従属的ではなく、それぞれに役割が存在し、対等な関係にあると考えられる。 以上のことから、 図表4 で提示した自己組織性の鍵概念に関連する事象をまとめると、 図表7 のようになる。 図表7 を踏まえて、自己組織性における2つの視点による考察を提示する。まず、本研究の第1の視点(ゆらぎと組織) に関する考察では、第1に、ゆらぎの起点となる職員(要素)の多様性が組織の変容に影響を与えている、ということである。A社団では、常務理事が起点となり、組織の変容(新たな秩序形成)を促しているが、特定の人間によるゆらぎの発生は、短期的には有効であっても、中 長期的には自己組織化が停滞していくと考えられる 22) 。これは、今田[2005]の自己組織性の第4特性(制御中枢を認めない)の指摘による。B社団では、経歴の異なる役職員による意識の違いがゆらぎとなり、変容の起点になっている。そして、職員間の関係性が良好で情報伝達が円滑となり、変容機会が増えていると考えられる。なお、職員の異動が限られ、組織が硬直化傾向にある外郭団体においては、組織を動的に活性化する意味において、自治体出向者の定期的な交代は、リスク要因に転じることもあるが、有 効であると考えられる。 第2に、外部と相互作用する意味において、積極的に情報を取り入れている、ということである。情報とは、あるところからないところに伝わる性質がある(例えば、吉田[1990][1995] の指摘)が、本事例では、上位団体から下位団体へ、その反対に、下位団体から地域的・局所的な情報を上位団体に報告するといった相互伝達の仕組みがあった。また、事例では、他団体(外部)から意欲的に情報収集を行い、とくに、B社団では、先進的な取り組みを行っている団体との関係を構築し、多くの職員に視察・研修機会を与えることで、意識の変化(ゆらぎの発生)を促進させ、組織が変容する機会を創り出していた。 次に、本研究の第2の視点(自己化)に関する考察では、第1に、自己の組織に多様な(他者的)要素を取り込み、協調的な運営を行っている、ということである。事例では、会員との 良好な関係性を重視しており、とくに、退会抑制という観点から、会員満足度を高めるための施策を積極的に実行している。それには、公益追及、あるいは事業拡大のために会員の拡大が必要であり、その拡大のために会員満足度を高める、というロジック(logic)がある。これは、両事例から指摘のあった「センターの魅力を高める」という意味において、自己増殖的に組織を拡大させる組織現象であると考えられる。 第2に、自らの役割を明確にすることで自己を保持している、ということである。両事例では、法的な要請への対応を上部組織に委ね、裁量的な部分に注力している状況が確認された。つまり、それぞれが役割を認識(自己の範囲を規定)し、責任を果たすことで、結果として、全体の効率化を図っている。また、仕事の依頼数の増加によって、自治体との関係性が従属的になることはなく、自己を保持した運営を行っている。換言すれば、自治体への経済的な依存度が高まれば、自治体側の自己組織化に取り込まれることが考えられるが、そのような状況にはない、ということである。 図表7 自己組織性の鍵概念に関連する発見事象 出所:筆者作成 V おわりに 本研究は、自己組織性理論に依拠し、自治体外郭団体を対象に組織現象の考察を行っており、実証的な研究を通じて、理論検証へも貢献できた部分があるように思われる。さらに、事例研究という集中的なデータ収集を行うなかで、多くの因果的要因としてのデータを得られたように思われる。しかし、研究の課題に立ち返れば、事例を用いた限定的な方法であったため、外郭団体全体の様相を明示しているとは言えず、あくまで部分的な議論に留まっている。また、事例から十分にデータを抽出できているとは言えず、引き続きの考察が必要である。そのほかにも多くの課題があるが、ここでは、自己組織化のメカニズムに関連して、時間軸に関する課題を提示する。例えば、高寄[1991]は、外郭団体を「形態・性格別」に分類しており、このうち「性格別」に分類したものが、 図表8 である。 図表8 は、あくまで分類の一例であるが、外郭団体の概念を捉えるために、多くの次元による類型が開発されている。しかし、本事例でも明らかになったように、時間の経過とともに外部からの評価や事業の内容が変わっていく。そのため、同一組織であっても、結局のところ、一時的な状態(分類)を示しているに過ぎないのである。そのように考えると外郭団体の再定義もそうであるが、類型化することの意味を問い直し、時間軸を考慮した新たな次元開発が意義深いものになってくると思われる。 さいごに、本研究の含意を述べる。本稿では、筆者(外郭団体実務者)の事業分野とは異なる事例を取り上げたわけであるが、そこで働く人々の悩みや問題意識、また、実務的経験による偏見やマンネリ化の状況などには、それほど大差がないように思われた。これは、本稿で紹介できなかった他の5事例からも感じられたことである。自治体外郭団体は、少なからず自治体の様子を伺いながら、運営を行っていると思われる。本事例で紹介したように、自律的・能動的な運営により、成果が得られている団体がある一方で、それとは対照的に、自治体による指導監督の下、確実かつ受動的な運営に徹し、連携重視で成果を収めている団体があると考えられる。本稿では、それら対照の是非についての議論には至らないまでも、そこで働く人々が自組織の現状を認識し、将来の運営を考えるきっかけになれば幸いである。 ところで、自治体の評価を意識するあまり、会員や利用者を軽視しているような状況はないだろうか。少なくとも、本事例では、そのような様子は確認できなかった。共通する特徴では、積極的に情報を取り入れ、地域の実状にあわせて事業化し、着実に実行する、それら一つひとつの取り組みが成果に結実している。それは、独創的な施策というのではなく、共有する目標の達成に向けて、社会を巻き込みながら、自己組織を成長させていく、このようなことを徹底した結果であり、いずれの団体も試行可能であると思われる。 図表8 外郭団体の性格別分類 出所:高寄[1991]、71頁を参考に筆者が加筆修正 補論 意識調査の概況 意識調査の目的は、各事例の管理職と一般職との意識の差異を検証することである。具体的には、一般職対象のアンケート調査を実施し、2019年調査のデータ(管理職データ)との相関性と平均値の差異から検証する。以下は、調査分析の概況である。 (1) 対象と方法 調査の対象は、各調査先(事例)に所属する一般職(課長級より下位)である。 調査の方法は、「質問(兼)回答票(10問70項目(5尺度)、記述1問)23)」を両センター事務局 に持参し、対象者15名に配布していただいている(無記名方式)。また、回収方法は、郵送で返信(筆者の職場あて)していただく方法を採用している。 (2) 実施概要 ①実施期間:2023年 7 月18・19日(持参日) ~8月1日(返送の締切) ②回答数:11件(回収率:73.3%) (3) 分析の方法 2019年調査による「管理職データ」と意識調査による「一般職データ」の平均値との相関関係(係数)を事例ごとに求める(n=70)。次に、確認した相関関係を別のアプローチで確認するための検定を行う。 (4) 分析の結果 両事例の管理職と一般職の各データの相関関係を求めたものが、 図表9 である。 図表9 による相関係数の結果、両事例とも管理職と一般職との関係には正の相関がある。さらに、P値が有意水準(0.05)を下回っており、帰無仮説は棄却され、相関係数は統計的に有意である。 次に、別の方法として、平均値の差異が統計的に有意であるかを検証するため、「分散が等しくないと仮定した2標本による平均値の差の検定」を行った結果が、 図表10 である。 図表10 のとおり、P値が有意水準(0.05)を下回っており、相関がないという帰無仮説は棄却され、相関係数は統計的に有意である。したがって、本論における前調査と本調査のデータは、組織の状況を説明できていると解され、これを前提に進めている。 図表9 管理職と一般職のデータによる無相関検定 出所:筆者作成 図表10 分散が等しくないと仮定した2標本による平均値の差の検定の結果 出所:筆者作成 [謝辞] 本稿執筆にあたり、本学会報告を通じて、吉田忠彦先生をはじめとする諸先生方から建設的なご指摘をいただいた。また、2名の匿名査読者にも有益なコメントをいただいたこと、記して感謝申し上げたい。もう1人、80歳を迎えた母利子、いつも応援ありがとう。 [注] 1) 本研究に先立ち、非営利組織の自己組織性に関するアンケート調査(主に中国地方の公益法人を調査対象(回収数119)、以下「2019年調査」 と記す。) を 行っている(吉永他 1[2020]、 吉永[2021])。そのなかで、組織の成果(質問項目25)に関する質問を行っているが、「2.サービスや施設の利用者(会員)数が増加すること(平均値3.96/5尺度)」の項目が上位3位であり、外郭団体を含む公益法人が会員や利用者数を定量的な成果指標の一つに位置づけていることが分かる。 2) 都と協働して事業等を執行・提案し、都と政策実現に向け連携するなど、都政との関連性が高く、全庁的に指導監督を行う必要がある団体。 3) 主体的に都と事業協力を行う団体のうち、資本金等の出資等を受けている団体(①継続的 な都財政かつ都派遣職員の受入、②都財政からの受入割合が50%以上、③全社員に占める都派遣職員割合が5%以上、④都関係者が常勤役員に就任のいずれか)。 4) 県の出資等比率が25%以上、かつ出資等比率が最も大きい法人や県行政と密接な関係を有する法人など、県が主体的に指導する必要があるものとして県が認める法人。 5) 県主導第三セクター以外の第三セクター。 6) 第三セクターのうち、県から財政的・人的支援等を受けることなく事業を展開することが可能な状態であるなど、県から自立したとして、県が認める法人。 7) (1)府が資本金等の2分の1以上を出資等する法人、(2)府が資本金等の4分の1以上、2分の1未満を出資等し、かつ府の出資割合が最も大きい法人のうち、①府職員、または退職者が常勤役員に就任する法人、②府からの補助金、委託料など、財政的支援による収入が経常収益等の概ね2分の1以上の法人、ほか2項目のいずれかの基準に該当する団体、(3) 府の実質的な出資等の割合が2分の1以上、または4分の1以上2分の1未満の法人であり、かつ(2)2の基準に該当する団体、(4)(1)~ (3)以外の法人で、府が損失補償を行っている 団体。 8) 例えば、日本経済新聞[2022a][2022b]によれば、株式会社北九州ウォーターサービスは、全国に先駆けて水道事業をカンボジアで展開しており、また、一般社団法人金沢市観光協会(金沢文化スポーツコミッション部門)は、文化・スポーツ・観光という縦割り行政の垣根を超えた事業を行い、市に経済的効果をもたらせている。 9) 前調査は、2019年調査の回答結果の確認と調査対象である公益法人の自己組織性の程度を定性的に分析するために行った半構造化面接(前川[2017]の指摘を参照)である。このデー タの大部分は、吉永[2021]に収納されている。 10) 公益社団法人全国シルバー人材センター事業協会の令和5年度事業計画(2023年3月)を参照( https://zsjc.or.jp/kyokai/acv_pdf?id=32、 2023年7月7日アクセス。)。 11) 県連合会から、研究目的という条件で、Eメール(2023年6月29日受信)により情報提供していただいており、本稿への記載は最低限に留めている。 12) Yin[1994] は、「どのように」の問題は、 単なる頻度や発生率よりも経時的な追跡が必 要な操作的結びつきを扱い、説明的であるため、事例研究が望ましいと指摘している(1、 7-13頁)。 13) 本稿における自己組織性は、開放性と閉鎖性、有機体観と精密機械観(坂下[2009]、83-94頁) といった従来から経営学で議論されているような二項対立する概念のいずれかからアプローチするというものの見方(組織観)ではなく、それら対立概念が両立することを前提とした視角である(今田[1986]、10-12頁)。 14) 今田[2005]によれば、システムの均衡状態からのズレである(19頁)。 15) 吉永[2023]は、吉田[1990]を踏まえて、 ①既存秩序を変容させるゆらぎ(貯蔵情報)と、 ②新たな創造を促すゆらぎ(変異情報)の2つがあることを指摘している。換言すれば、 ①組織の静的な(static)状態に疑問を呈する形で推進を促す要因と、②組織の創発的な活動を推進する要因の2種のゆらぎである。 16) 今田[2005]は、シナジェティックな自己組織性の4つの特性のうち、第1特性を最大特性と指摘している(28-30頁)。 17) 例えば、今田[2005]による指摘がある(6- 9頁)。 18) ここでは、Yin[1994]が指摘(45-53頁)する「構成概念妥当性(construct validity)」 を考慮しており、証拠源は、吉永[2023]の研究に依拠している。 19) 両応対者には、研究目的での利用許可と紙面での内容確認をしていただいている。 20) 両事例とも、公益法人制度改革に関する影響はそれほどなかったと述べている。 21) ここでの「センターの魅力度」とは、全シ協発行の「令和5年度事業計画(注記10を参照)」 における「1 会員の拡大」の取り組みとしての「(3)魅力あるセンターづくり(6頁)」 に関連するものであり、シルバー人材センター全体の共通目標である。 22) 「特定の人間による」ゆらぎは、今田[2005] が指摘する自己組織性の第4特性(制御中枢 を認めない)に反するものである。とりわけ、A社団の事例では、常務理事のリーダーシッ プ(ゆらぎ)への依存が常態化すれば、実務上の組織トップであることにも関連して、制御中枢機能が強まっていくと考えられる。 23) 意識調査の質問項目70の設定は、2019年調査の全10設問、質問項目141のうち、5尺度点数で各設問の上位と下位の各3~4位の項目に絞って作成している。 [参考文献] 朝日監査法人パブリックセクター部編[2000] 『自治体の外郭団体再建への処方箋』、ぎょ うせい。 今田高俊[1986]『自己組織性―社会理論の復活―』、創文社。 今田高俊[2005]『自己組織性と社会』、東京大学出版会。 上田哲男[1996]「生命体―粘菌に見る自己組織―」、北森俊行他1編[1996]『自己組織化 の科学』、オーム社、21-32頁。 蛯子准吏[2009]『外郭団体・公営企業の改革(自治体経営改革シリーズ)』、ぎょうせい。 坂下昭宣[2009]『経営学の招待(第3版)』、白桃書房。 高寄昇三[1991]『外郭団体の経営』、学陽書房。地域政策研究会編[1997]『最新地方公社総覧(平成2年版)』、ぎょうせい。 都甲潔他2[1999]『自己組織化とは何か―生物の形やリズムが生まれる原理を探る―』、 講談社。 中野馨[1996]「人工物における自己組織」、北森俊行他1編[1996]『自己組織化の科学』、 オーム社、51-71頁。 庭本佳和[1994]「現代の組織理論と自己組織パラダイム」、『組織科学』Vol.28 No.2、37-48頁。 前川あさ美[2017]「第13章 面接法―個別性と関係性から追求する人間の心―」、高野陽 太郎・岡隆編[2017]『心理学研究法―心を見つめる科学のまなざし(補訂版)』、有斐閣 アルマ、257-283頁。 吉田忠彦[2017]「非営利法人制度をめぐる諸活動とそのロジック」『非営利法人研究学会 誌』第19号、13-22頁。 吉田民人[1989]「情報・資源・自己組織性 ―創造性研究のための一つの視角―」、野中郁次郎・恩田彰・久野誠之・大坪檀・梅澤正・井原哲夫・田中真砂子・吉田民人[1989]『創 造する組織の研究』、講談社、239-275頁。 吉田民人[1990]『情報と自己組織性の理論』、 東京大学出版会。 吉田民人[1995]「第I部 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