学会賞・学術奨励賞の審査結果
第5回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告
平成18年9月1日
非営利法人研究学会
審査委員長:松葉邦敏
非営利法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第5回学会賞(平成17年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)及び学術奨励賞(平成17年度全国大会の報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文)の候補作を慎重に審議した結果、今次は学術奨励賞に該当する論文はなく、下記の論文を学会賞に値するものとして認め選定しましたので、ここに報告いたします。
1. 学会賞
藤井秀樹(京都大学大学院教授)「非営利組織の制度進化と新しい役割」(平成17年度非営利法人研究学会第9回全国大会統一論題報告、於・神奈川大学、『非営利法人研究学会誌』VOL.8所収)
【受賞論文の論旨と特徴】
今回の行政改革の一環としての公益法人制度改革は、市場原理主導型の制度設計を指向したもので、具体的には、交換関係の概して高くないサービスを市場原理に依拠しつつ提供する非営利組織を育成することがその主眼となっているが、その方向は新しい制度進化と新しい役割を期待できるものとして肯定することができる。その際に、これを肯定する論拠として、比較制度分析の分析・論理の方法を用いることによって、制度変更の経済合理性は、制度的補完性と資源の効率的配分の観点から評価されるとする立場から、今回の公益法人制度改革は、制度的補完性および資源の効率的配分の点で経済合理性に適ったものとなっており、したがって、その限りでそれは、現行制度の現実的かつ合理的な改革スキームであるとする。
ただ、このような制度改革には、改めて1)ドラッカーの主張するような成果重視型マネジメントの視点を非営利法人と公益性の判断主体が共有すること、つまり、顧客満足の追求という点では市場指向的であるが、提供するサービスの交換関係は概して高くないという点では「倫理的」であるメネジメントの姿勢である。非営利法人と公益性の判断主体が、このような成果重視型マネジメントの視点を共有することによって、市場原理と公益性を整合的に融合させる1つの有力な可能性を得ることができると考えられる。2)非営利法人の事業領域で競争的環境を創出・整備すること、つまり非営利法人のモラル・ハザードの可能性を減ずることが、寄付や補助金も含めた資源の効率的配分を実現するうえで欠かせない問題として残るが、この問題の解決を図るためには、価格支配者の排除(市場の不完全性の解消)と、情報の非対称性の解消(市場の不完備性の解消)が必要となる。特に非営利法人においては後者の解消が当面の現実的な課題であり、制度的な施策としては、新公益法人会計基準(2004年)の適用と当該基準に基づくディスクロージャーをすべての非営利法人(ここでは、社団・財団の公益法人)において徹底させること、情報も含めた活動資源をサービス需要者、支援者、寄付者、他の非営利法人やNPO等に仲介する「中間支援組織」の普及・発展を官民一体となって促進することである。
【 受賞の理由】
論者は、特に「公企業会計をはじめ非営利組織会計」研究について、既に確固たる位置を占めるものであるが、あえて経済学的手法—比較制度分析等—を用いて、公益法人制度改革に対して制度変更の経済合理性を問うという問題に直接挑戦したことがともかく賞賛されるべきである。 以上の論旨と理由から、本論文は問題の視角、問題の分析、問題の解決について的確であることはもちろん、経済学的手法を用いて斬新であり、それぞれの間の整合性が認められるので、高く評価することができる。さらに、問題把握の独創性、論述展開の克明性はもとより優れており、理論化過程から生まれた具体的な制度改革への示唆などにおいても、極めて示唆に富む内容を持ち、本学会の学会賞にふさわしい論文として選定することに審査委員の一致した見解を得た。
2. 学術奨励賞
該当論文なし