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第19回大会記

2015.9.16-17 神戸大学

統一論題 非営利組織会計と営利組織会計との相互関係―会計基準の統一化を目指して

兵庫県立大学 兵頭和花子

 非営利法人研究学会第19回大会は、本年9月16日(水)から9月17日(木)の日程で神戸大学(大会準備委員長:中野常男氏〔神戸大学〕)を会場に開催された。会員を含め約80名の参加者が集まった。なお、前日の9月15日(火)には、常任理事会及び理事会が開催された。

 

大会第1日目
 大会1日目には会員総会が開催され、大会準備委員長及び会長である堀田和宏氏(近畿大学)からの挨拶の後、事務局より会務の報告(新入会員の審査結果、学会誌Vol.16及びVol.17の刊行、地域部会〔北海道、関東、中部、関西、九州〕の活動、委託研究〔公益法人会計研究委員会、新公益法人制度普及啓発委員会〕の中間報告、投稿論文申合せの変更、第20回大会と主催校の選定及び実行委員長の選任、第14回学会賞・学術奨励賞・学術奨励賞特賞の審査結果など)が行われた。
 その後、平成26年度収支決算の承認、本会の法人化の定款案及び規定案の承認、平成28年度事業計画及び収支予算案承認の件、理事等の任期満了に伴う改選等について審議が行われ、新たに選任された理事等による理事会も開催し、堀田会長が再任された。

記念講演 佐々木弘 氏
 新理事会終了後、佐々木弘氏(神戸大学名誉教授)の記念講演が中野氏の司会によって行われた。佐々木氏の非営利組織に対する関心から社会全体のメリット、自他を考える思考があった。公営企業、公益企業、協同組合の分野を研究され、所有や資本の観点から非営利組織の特徴を述べられた。また、公益企業における料金の決定・規制、病院の経営、博物館などの経営についても触れられた。そして、経営学がこれまで営利性を中心として述べられていることから、営利性とは異なった、社会性や倫理性などもっと多様な観点から企業の評価や研究が行われるべきであると述べられた。
統一論題 藤井秀樹 氏
 そして引き続き、統一論題「非営利組織会計と営利組織会計との相互関係―会計基準の統一化を目指して―」の報告(司会:藤井秀樹氏〔京都大学〕)が行われた。非営利組織の現状について財政的制約の中、民間の非営利組織の役割、非営利組織会計の構築、非営利組織会計の統一化、業績評価などの点から問題点や現状について述べられた。


統一論題報告
第1報告 竹中徹 氏

 第1報告として竹中徹氏(石巻専修大学)による「財務諸表の構成要素を巡る相互関係―貸借対照表の現代的変容の視点から―」についての報告が行われた。その他の包括利益と企業会計における貸借対照表の現代的変容として企業会計における財務諸表の構成要素と計算構造、企業会計における資産負債アプローチの背景について述べられ、さらに拘束性に基づく純資産区分とフロー計算の多元化として、非営利組織会計における財務諸表の構成要素と計算構造、拘束性に基づく純資産とフロー計算の区分について述べられた。
第2報告 髙山昌茂 氏
 第2報告として髙山昌茂氏(公認会計士)による「非営利組織会計と営利組織会計との相互関係―『 非営利組織の財務報告の在り方に関する論点整理』論点9. 連結情報の開示についての考察」についての報告が行われた。非営利組織で作成する連結財務諸表に着目し、営利組織会計において連結財務諸表が必要とされる理由を明らかにされた。その後、非支配株主持分に対する疑義や関連当事者の注記の重要性について述べられ、非営利会計基準設定のアプローチについて述べられ、独立行政法人会計基準における連結情報、持分法適用の必要性と実価法適用の可能性について示された。
第3報告 宮本幸平 氏
 第3報告として宮本幸平氏(神戸学院大学)による「非営利組織と営利組織の財務諸表表示基準統一の可能性考察」についての報告が行われた。フロー計算書における表示の統一化考察の前提としての現状を把握するために、公益法人会計方式、学校法人・社会福祉法人会計方式、国際会計基準方式に分析され、統一化に向けた提案が示された。とくに企業会計との統一化を指向した財務諸表・表示基準(案)の策定を目途に演繹的推論(実践的推論)による結論の導出を図られた。
統一論題報告・論点整理
 その後司会の藤井秀樹氏より、第1報告の竹中氏は、①非営利組織会計と営利組織会計の共通性、②非営利組織会計と営利組織会計の統一化の可能性、第2報告の髙山氏は、①連結財務諸表を作成した場合の問題点、②相互連携を考慮した場合の提案、第3報告の宮本氏は、①フロー計算書における表示の統一化を考える前提としての現状把握、②統一化に向けた提案、として報告の論点整理が行われた。統一論題報告・論点整理終了後、神戸大学アカデミア館にて懇親会が行われた。


大会第2日目
 大会2日目は午前中に自由論題報告が行われた。自由論題は3つの会場に分かれ計9本の報告が行われた。各会場の報告者及び論題は以下のとおりである。
第1会場
報 告① 川﨑紘宗氏(高松大学)/司会:安井一浩氏(神戸学院大学)
「McKinseyによるBudgetary Control(1922)生成の背景―標準の概念と政府の予算制度―」
報告② 佐藤 恵氏(千葉経済大学)/司会:尾上選哉氏(大原大学院大学)
「非営利組織会計における収入構造の表示」
報告③ 兵頭和花子氏(兵庫県立大学)/司会:石津寿恵氏(明治大学)
「非営利組織における会計制度構築の要因と可能性」
第2会場
報告① 永島公孝氏(税理士)/司会:橋本俊也氏(税理士)
「法人税の収益事業課税に関する裁判例をふまえて」
報告② 岩崎保通氏(高知大学)/司会:小島廣光氏(椙山女子大学)
「高知県におけるNPO法人の成果と課題 ― NPO法人を対象としたアンケート調査分析―」
報告③ 出口正之氏(国立民族学博物館)/司会:江田 寛氏(公認会計士)
「“クリープ現象”としての収支相償論」
第3会場
報告① 井寺美穂氏(熊本県立大学)/司会:明石照久氏(熊本県立大学)
「地方政府における職員の専門性とその限界」
報告② 髙屋雅彦氏(近畿大学)/司会:吉田初恵氏(関西福祉科学大学)
「一般病院と精神科病院における階層性と法人に関して―医療技術、専門医制度、法制度の進化との関連 ― 」
報告③ 渡辺 亨氏(熊本市都市政策研究所)/司会:伊佐 淳氏(久留米大学)
「協働に関する概念的試論 ― 熊本都市圏における官民協働事業を事例として―」


 自由論題終了後に統一論題の討議が藤井秀樹氏(京都大学)を座長として、以下のような点について行われた。①純資産の拘束性について3区分あるいは2区分の内容、②非営利組織研究における会計の貢献、③海外基準への言及、④非営利組織が連結財務諸表を作成する問題点、⑤非営利組織に持分法を適用する点、⑥寄付文化・寄付社会を前提とした場合の非営利組織の会計・表示の統一あるいは、非営利組織個別の財務諸表の意義について、⑦資源の効率的配分についての決定は市場であるのか政府であるのかなど、非営利組織会計について活発な議論が行われた。

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