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第23回大会記

〈2019年9 月15〜16日 久留米大学〉

統一論題 公益法人制度改革10周年―公益法人の可能性と課題を探る―

齋藤真哉 横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授

 令和元年9 月15日(日)より16日(月)の日程で、非営利法人研究学会第23回全国大会が、久留米大学(御井キャンパス・本館)において行われた。 
 大会1 日目に、「公益法人制度改革10周年―公益法人の可能性と課題を探る―」を統一論題とする研究報告及びディスカッションが行われた。当該論題は、「民による公益の増進」を目的として、公益法人制度改革関連三法が平成20年12月に施行されてから10年が経過したことを機に、その制度改革の目的が達成されているのか、制度上の今後の課題は何かという問題意識に基づいて、さらには公益法人が果たす社会的役割に対する今後の展望についても検討すべきとの趣旨から設定されたものであり、制度と会計、税務の各観点から公益法人制度を見直すことを内容とした。
 登壇した3 名の報告者とテーマは、①出口正之氏(国立民族学博物館)「税制優遇のルビンの壺:価値的多様性と手段的多様性の奨励」、②尾上選哉氏(大原大学院大学)「会計からみる公益法人制度改革の課題と可能性」、③苅米裕氏(苅米裕税理士事務所)「公益法人の拡充のために公益法人税制が果たすべき機能の考察」であった。なおコーディネーター(座長)は、齋藤真哉(横浜国立大学)が務めた。

統一論題報告

第1 報告
「税制優遇のルビンの壺:価値的多様性と手段的多様性の奨励」(出口正之・国立民族学博物館)
 出口氏は、公益法人制度の改革における公益法人制度改革関連三法の立法趣旨が、「民間による公益の増進」にあったことを再確認し、そこでの重要な要素として「多様性」と「機動性」があったと整理された。そして民間における公益を増進するためには、行政の関与が最小限に止められる必要があるとの認識が示された。そして、その例として研究助成の場合を取り上げて、もし研究助成を民間に任せるとしても行政が統一された基準等により制約を掛けるならば、民間においても事務費等が掛かるため、たとえば日本学術振興会だけが研究助成を決定した方が効率的であることを説明された。そこで民間の公益法人の行為等を税制優遇等により規制することは、かえってパレート最適を妨げることが考えられるとの見解が示された。ルビンの壺とは、背景に黒地を用いて白地で壺を描いた図であり、白地に注目すれば壺に見え、黒地に注目すれば向かい合った2 人の顔に見えるというものである。官のロジックになじまない領域にそれを持ち込んでいることを、「ルビンの壺現象」と呼び、そもそも多様性のある民間に税制優遇を根拠としてそうした多様性を消し去るような官の介入があることが、本来の立法趣旨である「民間による公益の増進」を阻害する結果を導いているという問題点が指摘された。

第2 報告
「会計からみる公益法人制度改革の課題と可能性」(尾上選哉・大原大学院大学)

 尾上氏は、会計の観点から、公益法人制度改革の趣旨に照らして、改革後の制度が有効な社会的システムとして機能しているのか、改善すべき課題は何か、今後の公益法人制度の発展に会計がどのように寄与しうるのかについて論じられた。改革後の制度の有効性については、制度改革により公益認定された法人の数よりも、一般法人の数の増加が著しい(後者が前者の約100倍)現状を踏まえて、制度改革が公益の増進に直結したのかについては疑問があるとの含意が示された。そして公益法人制度を支える柱としての会計について、公益法人に適した会計基準・会計制度になっているのかについて、課題が提示された。すなわち、1 つには、持分権者不在の公益法人(非営利法人)に対して、資本主理論に立脚する企業会計の理論と手法を導入していること、今1 つには、資源提供者に対する受託責任に関する会計情報の量・質の低下である。それらの課題に対して、公益法人の会計を法人主体理論に立脚して構築すること、またそうした理論に基づいた貸借対照表の表示方法の組換えや財産目録の活用、規模別の会計基準の適用が提唱された。さらに、一般法人の情報開示の検討や一般法人に適用される会計基準が必要であるとの見解が示された。そうすることで、情報開示と法人自治が推進され、一般法人をも含めた民による公益の増進が期待できると主張された。

 

第3 報告
「公益法人の拡充のために公益法人税制が果たすべき機能の考察」(苅米裕・苅米裕税理士事務所)

 苅米氏は、制度改革により「公益的活動の健全な発展を促進し、一層活力ある社会の実現を図る」という課題の解決に寄与できたのかという問題意識に基づいて、税制の観点から制度改革後の税制について検討を加えられた。まず改革以降の法人税の課税を、公益認定された法人及び一般法人の両方について概括的に説明された。すなわち、税法上は、公益法人等と非営利型法人、普通法人との分類により、収益事業課税か全所得課税か、また公益目的事業に対する非課税措置、みなし寄附金制度等について整理された。その上で、財産相続に関わる節税スキームとして一般社団法人等が利用されているとの指摘をされた。具体的には、相続財産を一般法人に移転させることで、その所有権は喪失するものの、自ら又は子供が理事に就任することで、実質的な支配を継続することができるという内容である。特に非営利型の場合、寄附金収入は非課税となる点も確認された。こうしたスキームに対して一定の場合に相続税が課されることが紹介された。加えて、税制とも関わる公益認定の財務三基準や公益目的支出計画について言及された。それらを踏まえて、公益法人等に対しては全所得課税を前提として公益活動支出を即時償却扱いとする方法や、非営利型法人に対して公益活動等に使用しない純資産の一部に追加課税する方法等を取り上げて検討がなされた。

 各研究報告に続いて行われたディスカッションにおいては、公益法人をめぐる諸課題、具体的には公益認定のあり方、監督やガバナンス(自律性)、情報開示、税制優遇に関して、活発な質疑応答が行われた。

特別企画
 日本公認会計士協会「非営利組織における財務報告の検討〜財務報告の基礎概念・モデル会計基準の提案〜」に関する報告及びパネルディスカッションは、会田一雄(慶應義塾大学)をコーディネーターとして実施された。
 まず、松前江里子氏(日本公認会計士協会)により、環境変化に応じて非営利セクター全体に共通の会計枠組の必要性を背景に、非営利組織における財務報告の基礎概念とモデル会計基準について、プロジェクトの活動経過を踏まえて、報告がなされた。続いてパネルディスカッションに入り、藤井秀樹氏(京都大学)より今回のプロジェクトの社会的意義及び組織特性から導出されたモデル会計基準の特質について、また、日野修造氏(中村学園大学)より純資産の区分とフロー財務表の表示形式に焦点を向け、米国FASと比較しながらモデル会計基準により作成される情報内容が論じられた。さらに、会場からの質問に対して、報告者及びパネリストからの回答及び討論が活発に展開され、今後の非営利セクター内での会計基準統合化の途を展望し、本報告を総括した(文責:会田一雄)。

自由論題報告
自由論題報告第1 会場
第1 報告
「副(福)業の可能性を拓く―福祉職の人材基盤強化にむけた中間支援組織の挑戦」(平尾剛之・きょうとNPOセンター、吉田忠彦・近畿大学)
  65歳以上の人口の割合が全人口の21%を占めている社会、いわゆる「超高齢社会」を先進国の中で最初に日本が迎えている。生産労働人口が減少し、これまでの「当たり前」では対応できない、また多様な働き方が求められている現状において、中間支援組織であるきょうとNPOセンターは公益財団法人トヨタ財団の助成を得て、福祉現場での副業によるキャリア形成を推進するための福業推進プロジェクトを形成し、福祉職への就労機会の創出や社会支援基盤の強化にむけた取組みに挑戦している(文責:吉田忠彦)。

 

第2 報告
「非営利組織におけるコア・スタッフの育成と確保のための人的資源管理施策―中間支援組織を事例として」 (東郷寛、團泰雄・近畿大学)

 日本の支援型NPOの多くは経営基盤が不安定であるために、コア・スタッフのリテンションが困難であるという課題を抱えているが、ミッションを具現化するための経営課題にうまく対処するためにはコア・スタッフのリテンションやそれに伴う人的資源管理(HRM)施策の整備が不可欠である。従来のNPOにおけるHRMに関する研究ではこの点が十分に論じられていない。
 そこで、本研究ではHRMの視点から、3 つの支援型NPOの事例分析をもとに、支援型NPOが社会的価値を生み出すための条件に関する以下の仮説を導出した。①共通の経営環境下にある組織間でも、社会的価値創造を支える戦略的行為能力に差が見られる、②コア・スタッフの確保と育成面での違いが、戦略的行為能力の違いを生み出している、③組織の成長とHRMの仕組み化の程度がコア・スタッフのリテンションの程度とスタッフの組織内キャリア形成の促進の程度を規定する、④組織内の知識と情報の循環が活性化するとスタッフのエンゲージメントが高まり、スタッフの成長ひいてはコア・スタッフのリテンションに影響を与える。
 また、事例分析からはコア・スタッフの役割の重要性やエンゲージメントを高める施策の重要性が明らかとなり、今後はコア・スタッフの育成施策が能力向上や組織成果につながるメカニズムの特定などが課題となることを示した(文責:東郷寛)。

 

第3 報告
「NPO支援をめぐる施設、組織、政策―アクターネットワーク・セオリーの視点から」(吉田忠彦・近畿大学)

 わが国のNPO支援をめぐる施設、組織、政策の相互作用について、ラトゥールらによって推進されるアクターネットワーク・セオリーの視点から分析することを目的として、神奈川県によって1996年に設立された「かながわ県民活動サポートセンター」の設立プロセスと「かながわボランタリー活動推進基金21」の設置プロセスをケースとして取り上げた。
 センターも基金も、当時の知事の強いリーダーシップによって導かれたが、それだけでは実現しなかった。その背景となる要素があった。神奈川県では米軍基地があることで住民運動が盛んであったし、神奈川県や横浜市では長年にわたって革新自治体が強く、行政と市民活動とはある程度の相互依存関係もあった。さらに、その長年にわたる革新自治体によって行政の財政事情が悪化しており、それが元大蔵官僚であった知事を生むことになった。またもう1 つ大きな点は、横浜駅から徒歩数分という利便性の高い所に県の行財政改革の対象となる県民センターという箱モノがあったことである。日本の社会全体の流れにおいても、阪神・淡路大震災が発生し、ボランティア革命と呼ばれるような動きがあり、NPO法成立に向けてのさまざまな場所での活動が活発化していた。これらの諸要素が相互作用していたのである。決してワンマンな知事の意向や力だけでセンターや基金はできたわけではなく、基本の計画でさえその後にも市民団体との間で交渉が続けられ、変化していったのである(文責:吉田忠彦)。

 

自由論題報告第2 会場
第1 報告
「地方創生と公民協働のまちづくり」(澤田道夫・熊本県立大学)

 「地方創生」の取り組みについては、2015年に地方版総合戦略が策定されて以降、全国でさまざまな取り組みが展開されている。しかし、そもそも「地方創生」が始まったきっかけについてはあまり知られていない。地方創生の取り組みが始まったのは日本創成会議が2014年に発表したレポート(いわゆる増田レポート)からである。同レポートにおいて、今後の人口減少社会の中で市区町村の半数に当たる896の自治体が「消滅可能性都市」という指摘を受け、全国にショックが広がった。これに対処するために国が始めたのが「地方創生」である。 ではなぜ「消滅可能性都市」なのか。同レポートでは若年女性が2010年から2040年までの30年間に50%以上減少する自治体を消滅可能性都市と呼んだ。若年女性が域外に流出してしまうことが次世代の人口を減少させ、地域の持続可能性を低下させる。すなわち、地方創生の鍵を握るのは若い世代の雇用・出産・子育て等に関する支援ということになる。しかし多くの市町村ではこの事実を理解しないまま、既存の地域振興策のマイナーチェンジに終始しているのが実態であろう。 この点において、本学会が研究対象とする非営利法人は、若年女性の活躍の場となるケースも多く、地方創生にとって重要な役割を果たしている。今後自治体が地方創生の取り組みを進めるに当たり、非営利法人との協働が必要であろう(文責:澤田道夫)。

 

第2 報告
「民間非営利活動と地域資源活用に関する経済学的考察―広島安芸高田神楽の事例研究―」
(今枝千樹・愛知産業大学、藤井秀樹・京都大学)
 地方創生につながる地域資源を開発するには、資源の戦略的な重点配分が不可欠であり、そのためには地域資源の提供者と支援者の間の情報の非対称を緩和する必要がある。かかる問題意識から広島安芸高田神楽のケーススタディを行い、以下の知見を得た。第1 に、事情に精通したマルチプレイヤーが情報の非対称性の緩和に大きく貢献し、支援の傾斜配分を可能にしていることである。第2 に、地域資源として活用可能な神楽団の選抜にあたり、競演大会での優勝実績がシグナリングとして機能していることである。第3 に、神楽が地域資源として実質的に機能していることである。第4 に、持続可能な取組みとするには人材の育成が大きな鍵になることである(文責:今枝千樹)。

第3 報告
「中山間地域を支える非営利法人の地域おこし活動―その意義と活動構造を中心に―」
(井寺美穂・熊本県立大学)
 本報告は、耕作放棄地の増加や地域づくりの衰退など多くの課題を抱える中山間地域のひとつである熊本県山鹿市の岳間地域において、地域おこし活動を積極的に展開する特定非営利活動法人(NPO法人)-岳間ほっとネット-の活動事例を分析対象としながら、地域における法人活動の意義やその活動構造について考察を試みるものである。地域担当職員制度の効果により、きめ細やかな行政メニューが提供され、積極的な活動展開が行われているという仮説のもと、研究を展開している。
 結論としては、①活動の中心である少人数のブレーンが役割分担をしながら、地域内外の他団体とのパイプ役を果たし、団体間連携が図られていること、②「当事者志向」の地域担当職員が「地域係」という担当業務を担いながら地域支援を行うことにより、NPO法人の積極的な活動展開につながっていることを明らかにしている(文責:井寺美穂)。

 

自由論題報告第3 会場
第1 報告
「子ども食堂におけるドメインの定義」(菅原浩信・北海学園大学)

 本報告は、子ども食堂において、どのようなドメインの定義がなされているのかを明らかにすることを目的としている。具体的には、新潟県内の6 つの子ども食堂を分析対象として採り上げ、当該子ども食堂の運営団体の代表者等に対する聴取調査を実施し、その結果についての分析及び考察を試みている(文責:菅原浩信)。

 

第2 報告
「NPO法人の認定制度からみえてきた問題点について―支援団体からの聞き取りを通じて―」(川村基・四国大学)

 本報告は、わが国において、NPO法人の数に比して認定NPO法人の数が少ない理由を、支援団体への聞き取り調査から明らかにすることを目的としている。認定NPO法人が少ない理由として、①認定制度の問題点と②NPO法人のマネジメントの2 つが指摘された(文責:川村基)。

 

第3 報告
「災害とソーシャル・キャピタルに関する一考察」(黒木誉之・長崎県立大学)

 本報告は、熊本地震の熊本県益城町と東日本大震災の宮城県南三陸町の現地調査の結果から、被災者による取り組みをソーシャル・キャピタルの視点から分析したものである。分析の結果、次の3 点が明らかにされた。①平時期には祭りなどが重要である。②災害期にはサードプレイスが必要である。③復旧期以降には緩やかなネットワークを形成するサードプレイスが必要である(文責:黒木誉之)。

 

自由論題報告第4 会場
第1 報告
「18世紀の懐徳堂から考察する資本維持」(水谷文宣・関東学院大学)

 現代日本における高橋(2003)は資本維持のためにも減価償却は根拠がないとする。アメリカにおいてはSFAC No.6が資本維持は必要と唱えている。日本の実務家からあるかもしれない反応は、日本ではどうか、実務ではどうかというものである。研究手法としては、アーカイバル・メソッドを採用した。懐徳堂は18世紀に大阪で設立された私立学校であり、武士ではなく町人が経営していた。大阪大学総合図書館の懐徳堂文庫に大量の史料が保管されている。本報告では現存する最古の『懐徳堂義金簿』を活用した。1781年に前書きが書かれている。
 修繕が必要となり懐徳堂は存続の危機となった。学校において建物はサービス提供能力に直結する。収入が支出を超過していることが実体資本維持の達成を示す。イギリスの複会計システムと相性が良いのは取替法であり、『懐徳堂義金簿』には取替という言葉が登場していた。ただし当時の日本は鎖国中であった。古典的にはシュミットが物価変動を考慮した実体資本維持を提唱していた。齋藤(2016)はシュミットとは異なる実体資本維持を提唱している。懐徳堂は齋藤(2016)の言う実体資本維持はしていたと言える。学校法人会計基準には基本金概念があり資本維持の発想がある。残された課題は、シュミットの実体資本維持が懐徳堂でも現代会計でも採られていない理由は何かということである(文責:水谷文宣)。

 

第2 報告
「非営利法人会計における公正価値情報の有用性の考察」(宮本幸平・神戸学院大学)

 報告では、非営利法人会計において、近年新たに導入された公正価値会計の情報が有用となるかにつき、経済学の分析ツールである「比較制度分析」を援用して分析を行った。
 まず、非営利法人会計の「基本目的」(objectives)につき、非営利法人会計概念書に基づいて整理された。非営利法人会計の「基本目的」(objectives)に関して、FASB概念書第4 号によれば、資源提供者その他の情報利用者が、用役を提供し続ける組織体の能力を評価するのに役立つこととされる。このようなFASBの規定につき、非営利法人会計の概念として措定すべき重要なものが、財務的に保持していかなければならない能力である「財務的生存力」であることが説明された。
 次に、非営利法人会計において公正価値評価を導入することの、会計理論的問題点が明らかにされた。保有する金融商品や有形固定資産が公正価値で評価されることになれば、未実現損益が認識されて、財務的生存力の査定に影響を及ぼす可能性がある。公益法人会計/貸借対照表に対し、不確実性及び非客観性が実現利益と比べて強い公正価値評価額が誘導されれば、社会福祉法人会計や学校法人会計よりも、財務生存力を査定する能力の点で劣ることになることが指摘された。
 さらに、「比較制度分析」による、非営利法人における、公正価値会計導入の要因分析が行われた。公正価値会計情報を適正に表示して資金提供を受け続けている「非営利法人」の期待将来利得の割引価値をV a、現在資金提供を受けていない「非営利法人」の期待将来利得の割引価値をViuと(i =h、C )とすると、次の式が導出される。

 

 

 そしてこれをもとに、非営利法人が、公正価値会計情報を表示しないインセンティブを持たない、以下の条件式が導出された。

 式より、αと3 つの小カッコの中がいずれも正であるため、WはπC及びπhの値に依存している。ここでπCの値が低いときは、損失非表示を行ったことによる再契約率が低いことを示す。そして、πCの値が低い場合には、「非営利法人」が将来に得られたはずの利得を失う確率( 1 -πC)が高くなり、この場合に「非営利法人」の利得Wが小さくなる。したがって、非営利法人が公正価値会計情報を適正に表示すれば利得が増加することが、本ゲーム・モデルから導出される式によって明らかになると結論付けた(文責:宮本幸平)。

 

第3 報告
「英国の小規模チャリティと会計」(上原優子・立命館アジア太平洋大学)

 わが国の非営利・公益法人の中で、小規模なものは多い。これらの法人では組織的体力が弱いために、十分な管理体制や適切な財務諸表の作成が困難な状況にあるものが存在する。NPO法人も公益法人も、そもそもの法人の趣旨から考えれば、社会に貢献する組織が数多く成長し、活性化することが望まれている。
 英国のチャリティも同様に、小規模な組織は多いが、その組織規模の負担を考慮した制度が存在する。財務諸表の作成に関しては、一定規模以下のチャリティには、現金主義での財務諸表の作成が認められている。専門性を必要とする会計について、負担を感じている組織も多いことが予想されるわが国の小規模法人の状況を考えると、英国のように段階的な会計処理を検討することには意義があると考える(文責:上原優子)。

NPO法人研究部会ワークショップ「現場の声に耳を傾ける」
 NPO法人研究部会報告というタイトルではあるが、せっかく地方で実施する大会なので大会実行委員会から「ご当地企画」として現場の声を実際に聞きたいという要望があり、異例の形のセッションとなった。
 大会委員長の伊佐淳氏から上記の意図が述べられた後、公益財団法人佐賀未来創造基金専務理事吉村興太郎氏から、設立の経緯、公益法人への道、現在の広範なプログラムの説明がなされた。その後、事業拡大のために行政庁を佐賀県から内閣府へ変更しようとしたところ、佐賀県認定なのに熊本地震でボランティアを派遣したことを責められるなどして結局諦めた経緯が語られた。次に、認定NPO法人ピースウィンズジャパンをはじめ非営利組織での経験豊富である、宮原信孝氏が一般財団法人を立ち上げたばかりの筑後川コミュニティ財団の設立の経緯を報告した。久留米には市民団体が約400近くあり、寄付をしてもよいという人もいるが、鍵は税控除だと言われているので何としても公益を目指したいと決意が語られた。 次に、ファシリテーターの出口から、行政は細かな対応に流れるからこそ有識者による第三者機関が制度として入っているのであって、有識者といわれる人たちの能力が、制度が求める以下の場合の時についてはそれを指摘する責任がアカデミックコミュニティには存在すると締めくくった(文責:出口正之)。

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