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学会賞・学術奨励賞の審査結果

第13回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告

平成26年9月10日
非営利法人研究学会
審査委員長:堀田和宏

 

 非営利法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第13回学会賞(平成25年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)、学術奨励賞(平成25年度全国大会における報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文及び刊行著書)及び学術奨励賞特賞(平成25年度全国大会における報告
に基づく実務者の論文及び刊行著書)の候補作を慎重に選考審議した結果についてここに報告いたします。


1. 学会賞
 該当作なし


2. 学術奨励賞
  後藤 祐一『戦略的協働の経営』(白桃書房、2013年4月刊)
【概要及び受賞理】
 平成25年度「学術奨励賞」は、後藤祐一氏の著書『戦略的協働の経営』が選考されました。本書は、2013年4月に白桃書房から刊行されています。この著書の第3章の事例研究は、『非営利法人研究学会誌』第11巻に収録されている同氏の単著論文「戦略的協働を通じた車粉問題の解決プロセス」にもとづいて執筆されています。
 本書は、NPO、政府、企業という異なるセクターに属する3つの主体の協働によって、困難な社会的課題の解決に成功した2つの先駆的事例を詳細に分析することによって、戦略的協働が形成・実現・展開されるプロセスの解明を試みたものです。
 以下、本書の内容を簡単に紹介します。序章では、本研究の背景と目的が説明されています。
 第1章では、はじめに、戦略的協働とは、「異なるセクターに属する主体が協調し、個々の主体だけでは解決が困難な社会的課題の解決に向けて活動するプロセス」であると定義されています。次に、先行研究の検討が行われ、戦略的協働を分析するための枠組である「協働の窓モデル」が説
明されています。「協働の窓モデル」は、著者が参加した非営利法人研究学会・東日本研究部会によって提示された分析モデルです。このモデルは、協働が形成・実現・展開されていくプロセスを経時的・動態的に記述・分析することを可能とする概念枠組です。
 この「協働の窓モデル」にもとづき、第2章では、ツール・ド・北海道における戦略的協働の事例研究が、第3章では、車粉問題の解決における戦略的協働の事例研究がそれぞれ試みられています。具体的には、まず、2つの事例が4期に区分され、それぞれの事例が記述されています。次に、年代記分析が適用され、2つの戦略的協働が「なぜ」また「どのように」して形成・実現・展開されたかが分析されています。
 第4章では、第2章で行われたツール・ド・北海道における戦略的協働の事例研究の分析結果と、第3章で行われた車粉問題の解決における戦略的協働の事例研究の分析結果にもとづいて、2つの戦略的協働の共通点が明らかにされ、10の仮説命題が導出されています。

 終章では、本研究の要約、研究の意義および今後の課題が示されています。
 本研究の第1に評価すべき点は、戦略的協働という複雑な社会的現象が「なぜ」また「どのように」して形成・実現・展開されるのかを実証的に解明しようとした点です。近年、「協働」を分析対象とする研究が少しずつ試みられるようになってきました。
 しかし、既存の研究は、事例や制度を単に紹介したものがほとんどであり、戦略的協働という現象の実態は必ずしも十分に解明されてきませんでした。
 第2に評価すべき点は、「協働の窓モデル」が、戦略的協働の一連のプロセスを分析する上で極めて有用な枠組であることを示した点です。本研究では、「協働の窓モデル」にもとづく2つの事例研究を試みることにより、戦略的協働に関する10の仮説命題が導出されています。
 第3に評価すべき点は、第2の点とも関連しますが、社会的課題の解決を目的とした戦略的協働を行う際の具体的指針を提示している点です。すなわち、本研究によって導出された戦略的協働の実現可能性に関する8つの仮説命題は、それぞれ実践的意義を有しています。
 しかし、本研究にも問題点がない訳ではありません。
 第1に、本研究で分析された2つの事例の記述は、コンパクトに要領よくまとめられてはいますが、他方で2事例を併せても約50ページに過ぎません。事実に関するもう少し詳細かつ具体的な情報が提供されていれば、内容により深みがでたのではなかろうかという点です。
 第2に、これは少数事例を対象とする定性的研究の宿命ではありますが、本研究から導出された仮説命題は、2つの事例研究から導出されたものに過ぎず、命題の一般化可能性については弱みが残る点です。したがって今後、本書で提示されている仮説的命題は、より多くの戦略的協働を対象
とした事例研究、あるいは定量的な研究を通じて検証される必要があるでしょう。
 以上のように、本書は、著者自らが参加した共同研究の成果にもとづいて、著者自らが選択した2つの戦略的協働の形成・実現・展開の一連のプロセスを実証的に解明した先駆的で手堅い研究成果であるといえます。
 したがって、審査委員会は、全員一致で、本書が「学術奨励賞」を受賞するに値するものと決定いたしました。

 

3. 学術奨励賞特賞
 該当作なし

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