学会賞・学術奨励賞の審査結果

第15回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告

平成28年9月17日
非営利法人研究学会
審査委員長:堀田和宏


 非営利法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第15回学会賞(平成27年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)、学術奨励賞(平成27年度全国大会における報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文及び刊行著書)及び学術奨励賞特賞(平成27年度全国大会における報告
に基づく実務者の論文及び刊行著書)の候補作を慎重に選考審議した結果についてここに報告いたします。


1. 学会賞
  李 庸吉(龍谷大学)『医療紛争の法的分析と解決システム―韓国法からの示唆―』(晃洋書房)

【概要及び受賞理由】

 本書は、医療紛争の「予防」と「解決」をキーワードに医療における民事責任とそれに伴う賠償システムに関連する日韓比較研究の成果をまとめたものである。特に医師の説明義務、過失と因果関係の証明責任、紛争解決プロセスの中での鑑定のあり方と医療ADR(Alternative Dispute Resolution)における被害救済に焦点を当て、その制度的枠組みにつき韓国法と日本法を比較しつつ論じている。
 具体的には、日韓における医師の説明義務法理の生成と確立過程並びにその適用状況をフォローし、紛争解決の場面においてどのように機能的役割を果たしているか、またアドホックな紛争解決に尽きず、そのフィードバックによる反射的効果はどうなのかを確認し、説明義務では解決できな
い部分を、裁判外紛争解決システムでは、どのように対処が可能なのかも併せて考察すべく、これらを共通の枠組みで検討することを試みているところに斬新性がある。
 まず第1章での予備的考察において、説明義務をこのような視点から捉えることの意味を明らかにし、次いで、検討の素材を韓国医事法と紛争解決システムに求めた関係で、まず社会状況の把握とその違いによって考慮すべき要素を確認するため、第2章において歴史的視点も交えて韓国医療並びに韓国における医療紛争の実情を紹介し、その動向と問題状況を整理し検討を行っている。第3章では、日韓における医師の説明義務法理形成過程をフォローしながら、各々の特徴並びに共通項を炙り出せるよう努め、説明義務の規範構造とそこから導き出せる機能の新たな局面を提示し、第4章では、韓国においてもホットイシューであり、かつ、新たな医療紛争調停法制定論議において紛糾を極めた過失と損害との間の因果関係の証明問題につき、韓国の判例・学説を紹介し、その特徴的なロジックにつき詳細な分析と日本との比較を交えた考察を試みている。さらに第5 章では、韓国における旧来の制度と対比しつつ2011年3 月、23年間の紆余曲折の末、ようやく日の目を見ることになったとされる新たな紛争解決制度の導入過程と新法施行後の歩みをフォローしている。最後に第6章ではこれらの整理と帰結から医療紛争が他の一般事件と違うところは、医学・医療専門家の行為の中で発生する関係上、一般責任法上の法理による解決は自ずと限界がある点、そこには情報の非対称性による格差といった構造上の問題が横たわっており、説明義務はこれをある程度解消する機能を有するのは間違いないが、場合によっては、裁判手続きによるよりも第三者機関によるADRによる方が実効的な効果が得られることが期待できる点を説く。その場合、専門性と公正性、さらに独立性(第三者性)がいかに担保されるかがポイントで、その点、韓国は、日本にはまだないスタイルの制度を出帆させたが、日本からすれば立法の研究としての意義は大きく、今後を展望する上でも互いのフィードバックが継続されることが望まれるとする。
 このようにわが国より一歩先んじた韓国の取組みを含む著者の研究は、日本の政策にとっても大いに参考となり、社会状況の過去と現在、理論と実践、そして日本と韓国を架橋し、国を問わず直面する医療紛争の解決と予防への取組みにつき新たな視点を提示するものであり、本書は日韓双方
の理論と実務に大いに寄与するものと思われ、今後さらなる発展が期待される。


2. 学術奨励賞
  佐藤 恵(千葉経済大学)「非営利組織会計の純資産区分に関する試論―財務的弾力性の観点から―」(『非営利法人研究学会誌』Vol.18収録)
【概要及び受賞理由】
 平成28年度の「学術奨励賞」は、佐藤恵氏の「非営利組織会計の純資産区分に関する試論―財務的弾力性の観点から―」を選考対象とした。本論文は、『非営利法人研究学会誌』Vol.18において厳格なレフェリー制度を経て掲載されている。
 本論文は、非営利組織の会計基準の統一化に向けた主要論点のひとつとして、これまで議論されてきた純資産の区分に関する問題に主題を限定し、特に財務的弾力性の概念に着目している。先行研究ならびに純資産の区分に係る制度の到達点と最近の動向を踏まえてこれを丁寧に考察しており、実証的・経験的な内容ではなく、あくまでも思考実験としながら、ストック情報の在り方を見据えた表示区分に係る一定の結論を導き出している点は高く評価することができる。すなわち、本論文は、「純資産情報のみならず資産情報を参照することで一時拘束区分と自己拘束区分を画すること」、および「純資産の区分と資産の区分を対応させることで、永久拘束・一時拘束・自己拘束・非拘束が表示でき、さらに自己拘束を二区分することで、財務的弾力性の範囲と程度をより忠実に反映する」と論じている。
 法人形態ごとに異なる資産の区分に係る当該表示方法の適用可能性(許容範囲)や、当該研究のひとつの展開としてフロー情報を用いた財務的弾力性の評価等、今後の検討課題を著者は明示しているが、本論文では非営利組織会計が財務的弾力性の適正表示を第一義とすることを前提として、
文献研究に基づいて論理的に議論が積み重ねられており、また純資産と資産情報を連係して捉えた純資産の区分に係る結論についても一貫した議論の下で有益な示唆を与えている。従前からある論点に対してストック情報にのみ焦点を当てたものではあるが、先行研究を財務的弾力性の観点から
改めて捉え直し、議論を整理している点は、研究に対する姿勢だけでなく、本学会において共有されるべき研究成果として評価しうるところである。
 本論文は、上述のように非営利組織会計の第一義の目的が財務的弾力性の適正表示にあるとの仮定に基づいており、当該仮定の妥当性自体の検討がなされておらず、読者に委ねられている等の問題も指摘しうるところだが、非営利法人研究学会学会誌に掲載するにあたり、複数のレフェリーの
意見を真摯に受け止め、これを丁寧に反映させた結果、論旨や表現がより明快になった過程を承知していることも申し添えたい。

 

3. 学術奨励賞特賞
  該当作なし

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