第24回大会記

2020.9.25-26 日本大学

統一論題 非営利組織のガバナンス問題―現状と課題―

 2020年(令和2 年) 9 月26日(土)から27日(日)の日程で、非営利法人研究学会第24回全国大会が日本大学を主催校として開催された。統一論題は「非営利組織のガバナンス問題―現状と課題―」であった。
 本年度の全国大会は、日本国内においても新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者が増加し、その終息について大変不透明な状況下にあって、熟慮に熟慮を重ねた結果、対面開催を断念し、本学会においては初めての試みとして、オンデマンド配信とライブ配信を組み合わせたオンライン大会として実施することになった。また、本大会は2 日間のプログラムを編成し、25日の常任理事会および理事会に続き、26日に会員総会、統一論題報告および討論をはじめとするすべての研究報告等を集約した。
 特に、本年度は、コロナ禍にあってその尊い使命を果たされている公益社団法人日本看護協会常任理事の鎌田久美子氏にご講演をお願いした。 

 なお、本大会においては、本学会に所属する日本大学の会員が、学部の垣根を越えて「オール日大」として大会準備委員会に名を連ね、大会運営に係る役割を果たしたことも併せて記しておきたい。
 本大会の概要は以下のとおりである。

統一論題報告(Zoomによるリモート開催・LIVE)

趣旨
 日本の上場企業によるコーポレート・ガバナンス改革の進展を背景として、最近では非営利組織においても「ガバナンス」の問題が取り上げられるようになった。そこでは、非営利組織の不正や不祥事、あるいは不適切な運営の実態を踏まえて、制度的な枠組みの中で非営利組織のガバナンスの在り方を規制する動きも強まっており、さらに「非営利組織版ガバナンス・コード」の設定も議論され始めている。
 統一論題においては、吉見 宏氏(北海道大学)に座長をお願いした。特に公益法人、社会福祉法人におけるガバナンスをめぐる問題についてその現状を分析するとともに、ひとつの座標軸として地方自治体における議論にも視野を広げることにより、非営利組織と営利組織あるいは地方自治体との共通点と異同点を浮き彫りにし、非営利組織独自のガバナンス問題の論点と課題について其々の観点から考察し、質疑応答が行われた。

 


第1 報告

「地方自治体の内部統制の現状と課題―パブリック・ガバナンスの充実強化に向けて―」( 石川恵子氏・日本大学)


  本報告は、地方自治体の内部統制の現状と課題を取り上げ、パブリック・ガバナンスの充実強化に向けた展望について議論することを目的とした。本報告においては、その出発点として地方自治体における人手不足が内部統制に及ぼす影響を考察した。次に、小規模な市町村で顕在化した職場環境内におけるガバナンス上の課題を抽出したうえで、2020年4 月より施行された内部統制の整備・運用について、その制度化に至る議論の整理と事例の紹介が行われた。

 

第2 報告

「公益法人におけるガバナンスの現状と課題」( 岡村勝義氏・神奈川大学)


 本報告は、新公益法人制度がその施行から10年を迎えたことを機に、公益法人のガバナンスをめぐる様々な指摘や関心の高まりに着目し、とりわけ公益法人においてガバナンスの機能不全を引き起こしている3 つの要因、すなわち①公益法人制度それ自体に内在する要因、②公益法人制度の使い手たる法人側の要因、および③公益法人制度に対する社会(国民)の側の要因を明示した。また、ガバナンス機能の改善・強化に向けた諸要因に対するアプローチについて具体的な検討が行われた。

第3 報告

「社会福祉法人のガバナンスの現状と課題」( 吉田初恵氏・関西福祉科学大学)

 本報告は、社会福祉法人の実態と法人経営に共通する諸問題を整理するとともに、公益法人制度改革を参考にした社会福祉法人制度改革のポイントを説明したうえで、ガバナンス強化の必要性が主張された。すなわち、①評議員会・理事会、②情報公開、③法人規模の各観点から社会福祉法人のガバナンスの課題を指摘するとともに、行政指導・監査の強化およびガバナンス・コードの策定や公益を担保するためのマルチステークホルダーとの対話・協働等の新たなガバナンスの方向性が示された。

特別講演会(オンデマンド配信)

「公益社団法人 日本看護協会の使命とコロナ禍における取り組み」( 鎌田久美子氏・日本看護協会)


 特別講演会として、これまで人々の人間としての尊厳を維持し、健康な生活の実現に貢献されてきた公益社団法人日本看護協会の鎌田久美子氏をお招きした。日本看護協会の基本理念と基本戦略、および看護の将来ビジョン等についてご説明頂いたうえで、新型コロナウイルス感染症に関する現下の取り組みと成果について、看護職員の確保、現場支援、国への要望等について詳細かつ具体的に解説していただいた。「新しい生活様式」の広がりに向けて看護職の働きを支える公益法人としての同協会の使命と役割について学ぶ貴重な機会となった(なお、同協会のご理解を賜り、学会終了後も一定期間、本学会ホームページにおいてオンデマンド配信による視聴をお認めいただいたことに厚く御礼を申し上げたい)。

委託研究報告(Zoomによるリモート開催・LIVE)


「「一般社団・財団法人が公益法人会計基準を適用する場合の諸課題とその解決策の検討」について」

( 髙山昌茂氏・公認会計士/一般法人会計研究委員会)


 本研究報告は、委託研究として組織された「一般法人への公益法人会計基準の適用に関する研究委員会」の研究報告である。旧特例民法法人ではない一般法人や公益目的支出計画を終了した一般法人が公益法人会計基準を適用する場合に如何なる問題が存在するかを洗い出し、どのような改善策を講じることが可能かを調査・研究することを目的として設置された。当該研究報告は、本研究委員会を代表して髙山昌茂氏が行った。 
 当日は、本研究委員会における議論の経緯について概説するとともに、まったく新しい「一般法人」会計基準を策定するのではなく、公益法人会計基準を補完する会計基準を策定する観点から、20年基準のマイナーチェンジ版を目指し、日本公認会計士協会が公表した「モデル会計基準」との主な差異を踏まえた各論点に係る検討の結果が示され、その後質疑が行われた。

自由論題報告(報告:オンデマンド配信 質疑応答:Zoomによるリモート開催・LIVE)

第1 報告
「非営利組織における租税回避行動に関する実証分析」( 黒木 淳氏・横浜市立大学、夏吉裕貴氏・横浜市立大学大学院)


 本報告は、16,487の公益法人を対象として、租税回避行動を目的とした費用配分の実態および費用配分に対するガバナンスの影響について調査することを目的とするものである。検証の結果、日本の一部の公益法人において収益事業を通じた租税回避行動が行われているが、米国に比べてその規模が小さいこと、また非常勤理事、寄付者、規制によるモニタリングが租税回避行動を抑制していると考えられること等を見出している。
 

第2 報告
「孤立死の量的・質的分析と二地域における孤立死対策への取り組み比較」( 小川寛子氏・京都産業大学大学院)


 本報告は、急速な高齢化の進展のなかで、社会的孤立や孤立死が大きな社会的問題となっていることを背景として、孤立状況で発見された自宅独居死亡者(孤立死相当)について、量的・質的な検討を行うものである。孤立死に係る高リスク要因を特定するとともに、孤立死対策に取り組んでいる複数の地域を取り上げ、対策に至る状況や内容を調査した。その結果を踏まえて、各地域における取り組みに共通する点や相違点を比較・整理している。


第3 報告
「コミュニティ病院を所有する米国非営利組織の財務諸表に関する一考察―メイヨークリニックを題材として―」
( 谷光 透氏・川崎医療福祉大学)


 本報告は、日本の非営利組織会計が影響を受けている米国における非営利組織の新会計基準の経緯を確認したうえで、特にコミュニティ病院を所有する米国のメイヨークリニックを取り上げ、その連結財務諸表における開示内容を検討した。かかる考察を基礎として、日本の非営利組織に共通する会計枠組みへの示唆を得るとともに、病院を所有する日本の非営利組織特有の情報開示の在り方を考察することを意図した。

第4 報告
「NPO法人による交通空白地有償運送の効率性評価」
( 小熊 仁氏・高崎経済大学)


 本報告は、交通空白地有償運送が地域住民の交通手段として継続的な役割を担うためには、これに携わる非営利組織がいかに効率的なサービスを提供できるかが重要になるとの観点から、内閣府NPOホームページから得られた30件のNPO法人を対象に、包括分析法(DEA)に基づいて交通空白地有償運送のサービス供給に関する効率性の評価を行った。実際に非効率が生じているとの分析結果から、金銭的支援や人的支援の必要性や近接する団体間の連携・統合等を指摘している。  

 

第5 報告
「公益法人の財務三基準のシステム論的理解」( 久保秀雄氏・京都産業大学、出口正之氏・国立民族学博物館)

 

 本報告は、公益法人制度における収支相償について、ガイドライン策定時にはなかった批判が年を追うごとに大きくなっているとの認識に基づいて、収支相償を含めた財務三基準をシステム論的に捉え直し、公益法人をめぐる規制と制度の趣旨である公益の増進との関係について考察するものである。システムである財務三基準を要素還元主義的に緩和しようとして規制強化が生じているとの解釈について議論を展開するとともに、システム論の見地から実証を要する課題が示されている。


第6 報告
「相違説に基づく非営利会計の本質と国際的非営利会計基準の議論」( 出口正之氏・国立民族学博物館)


 本報告は、非営利法人会計を考えるにあたって起点となる二つの立場として、非営利法人会計と企業会計を同一である点を原則として考察する「同一説」と、両者の相違点を原則として考察する「相違説」を掲げるとともに、どちらにデフォルトを置くかによって非営利法人会計における議論の方法が変わることを論じている。また、今般の「国際非営利会計基準」(IFR4NPO)」の公表の経緯と意義について相違説を支持しつつ、その評価を行った。


第7 報告
「中間支援組織が主体となるマルチステークホルダー型実践的課題解決の取組み―福(副)業の可能性を探る―」
( 平尾剛之氏・特定非営利活動法人きょうとNPOセンター、吉田忠彦氏・近畿大学)
 

 本報告は、中間支援組織である特定非営利活動法人きょうとNPOセンターによる副業支援の取り組みについて説明が行われた。すなわち、公益財団法人トヨタ財団の「そだてる助成」を受けて、中間支援組織であるNPO法人が主体となってマルチステークホルダー型で構成している「副業推進プロジェクト」を通じてその研究成果がまとめられた経緯、その中で副業支援において相談機能、研修機能および広報機能等を果たす中間支援組織の意義が示された。

補足 本大会のリモート開催に至る経緯について


 第24回全国大会の開催にあたり、準備委員会は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスクを想定した準備を進めていたが、大学事務局の指示により、感染拡大防止の観点から、大学キャンパス内の施設を会場として使用することができなくなった。
 これを受けて、準備委員会は学外の施設を借用し、会場を設営するための検討を重ねたが、当時においてCOVID-19の終息はまったく不透明であり、しかも感染者が増加傾向にある中で、会場内においていわゆる「3 密回避」を徹底したとしても、会場までの会員の移動や、会場内での感染リスクを完全に排除することは不可能であるとの結論に至った。
 また、大学内においては対面授業に代わりオンライン授業が行われており、学生との接触も厳しく制限されていたため、大会運営のために学生を動員し、会場に配置すること自体、大きな非難を受けるであろうこと等、熟慮に熟慮を重ねた結果、本学会の常任理事会との議論を重ねる中で、齋藤会長をはじめとする常任理事の理解とご支援を受けて、「完全リモート」での開催を決断した。
 今回初めての試みとなったオンデマンド配信とライブ配信を組み合わせたオンライン大会にもかかわらず、多数の自由論題報告者と参加者を得たことに対しては、ここに改めて御礼を申し上げたい。
 また、オンライン大会の運営に係るマニュアル等が一切なかった中で、すべての技術的な問題を解決し、大きな問題もなく予定のプログラムを最後まで進行できたのは、ひとえに大会準備委員であった日本大学経済学部の尾上選哉氏ならびに日本大学商学部の藤井 誠氏のおかげである。大会記に覚えて感謝の意を表したい。