top of page

学会賞・学術奨励賞の審査結果

第7回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告

平成20 年9月4日
非営利法人研究学会
審査委員長:大矢知浩司

 非営利法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第7回学会賞(平成19年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)及び学術奨励賞(平成19年度全国大会の報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文及び刊行著書)の候補作を慎重に審議した結果、学会賞に該当する論文又は著作物はなく、学術奨励賞に下記の著作を選定しましたので、ここにご報告いたします。


1. 学会賞
該当者なし
2. 学術奨励賞
池田享誉(青森公立大学)『非営利組織会計概念形成論』(A5判、185頁、森山書店、2007年7月)
【受賞作の特徴と受賞理由】
 本書は、わが国会計学界に多大なインパクトを与えたアメリカの「FASB概念フレームワーク」(以下「SFAC」という。)のうち、特に非営利会計の概念フレームワークに焦点を当て、・「FASBの非営利会計概念フレームワークの成立過程を方法論かつ歴史的に吟味し、FASBの非営利会計諸概念の成立過程を検討すること」及び・営利会計と非営利会計の「統合的概念フレームワーク」の適否を評価し、検討することの2点にその目的があるとしている。この研究テーマを解明するに当たって、論者はSFACの方法論的基礎である「意思決定有用性アプローチ」と「資産・負債視角」を前提として、内在的批判を試みているのが特徴である。
 第1のテーマでは、ASOBATをはじめ、AAA第一次フリーマン委員会報告書(第2章)、第二次・第三次フリーマン委員会報告書(第3章)及びアンソニー報告書(第4章)の内容を詳細に分析し、各報告書間における矛盾を摘出するとともに継承された部分を明確化し、非営利会計概念フレームワーク(第5章)を導き出している。
 第2のテーマに関しては、SFAC第4号はアンソニー報告書の提起した「財務資源源泉アプローチ」を継承し、Bタイプ非営利組織のみをノンビジネス組織とし、営利企業と独立採算型組織(Aタイプ)とを共通の適用対象とした結果、「統合的概念フレームワーク」が生まれる一因となったと指摘している。しかし、これはSFAC第4号と第6号との間に矛盾が生ずる一因ともなっている。
 SFAC第4号・第6号を内在的に批判し、分析検討した結果、論者は次のような問題点があると結論づけている。すなわち、
・ 営利・非営利統合的概念フレームワークを採用した結果、非営利会計に固有の諸要素を主要情報として要求していないので、非営利会計の概念フレームワークとして不十分である。
・ SFAC第6号は、㈰非営利組織に固有の財務諸表構成要素を1つも追加しなかったため、非営利組織の業績情報を提供するものとなっていない、㈪資産を将来のキャッシュ・フローと結びつく「将来の経済的便益」と定義しているが、非営利組織の資産は必ずしも将来のキャッシュ・フローをもたらすものではない、㈫収益を営利・非営利に共通の財務諸表構成要素としたが、非営利組織の収益はサービスの提供の成果ではなく、純資産の源泉情報を表すものである、㈬非営利会計に固有の部分として新たに追加されたのは拘束情報のみに過ぎない。
・ SFAC第4号では、「効率性と有効性」に対する情報ニーズを認識しながら、「サービス提供成果」情報の提供は軽視されている。

 わが国ではこれまでSFACに関する論文が多数見受けられたが、本書ほど精緻にかつ批判的に分析された論文は少ない。
以上から、分析視点、問題意識の明確性、内在的批判による矛盾点の摘出、論理展開の精緻化等を総合的に評価し、学術奨励賞にふさわしい論考として選定することに審査委員の一致した見解を得た。
 

bottom of page