第15回大会記
2011.9.14-15 熊本県立大学
統一論題 地域の公共サービスと非営利活動―医療・福祉・介護の理論と実際―
公認会計士 清水貴之
非営利法人研究学会の第15回大会は、2011年9月14日(水)・15日(木)の両日にかけて、熊本県立大学を会場に開催し(大会委員長:森美智代氏)、会員を含め100名を超える参加者が集った。また、前日9月13日には常任理事会及び理事会が開催された。
大会1日目には、冒頭に総会が開催された。大会委員長、会長からの挨拶の後、新入会員の報告や学会誌の刊行など、昨年度の事業報告が行われ、学術奨励賞等の審査結果の発表と表彰が行われた。総会終了後、引き続いて本大会の統一論題「地域の公共サービスと非営利活動―医療・福祉・介護の理論と実際―」に基づき基調講演が行われ、その後統一論題に関する報告及びパネルディスカッションが行われた。パネルディスカッション終了後、会場を熊本テルサに移して懇親会が開催された。
【統一論題報告・討論】
大会1日目午後の統一論題は、藤井秀樹氏(京都大学)を座長として行われた。同論題に係る基調講演は、林田直志氏(熊本県健康福祉部長)が「熊本県における保健・医療・福祉政策と非営利活動」について行った。全国有数の長寿県である熊本県では、従前から福祉及び医療に力を入れてきていること、そして当該分野における非営利法人の重要性がますます増大していることなどについて、報告が行われた。
統一論題報告では、以下の3名の報告者から報告が行われた。
吉田初恵氏(関西福祉科学大学)は、「2012年の介護保険制度改正をめぐる諸課題」について報告した。来年4月に迫る介護保険制度
の改正の内容と当該改正の抱える課題として、地域包括ケアシステムにおける地域住民や行政、NPO等によるネットワーク構築の重要性、新たなサービスの開始に伴う恒久的な財源の確保の必要性等について問題提起を行った。
寺崎修司氏(熊本赤十字病院神経内科部長・医療連携室長)は、「熊本の脳卒中の地域医療連携ネットワークと地域連携パス」について報告した。長期に及ぶ脳卒中の診療の全てを単独の施設で行うことが不可能であるため複数機関の医療連携の必要性が増大していることや、そのような状況に対応するために1995年に設立された熊本県におけるネットワーク(K-STREAM)の活動等が報告された。
小林麻理氏(早稲田大学)は、「地域連携を促進する行政の役割転換と最適公共サービスの創出」について報告した。従来の行政主導型の公共サービスを見直し、地域に存在する多様なアクターの協働により、地域の中でいかに最適な公共サービスを提供していくか、そのガバナンスのあり方と行政の役割転換の
必要性について、医療・介護制度改革を題材として論じられた。
報告の終了後、休憩を挟んで討論が行われた。討論においては、医療・福祉・介護の分野を中心に、今後の公共サービスの提供のあり方と、その中に占める非営利法人の役割の重要性について活発な議論が行われた。
【自由論題報告】
大会2日目には、午前中に自由論題に関する報告が実施された。また、午後からは特別講演が行われるとともに、東日本・西日本両研究部会から各部会の研究内容が紹介された。午前中は、3会場に分かれて9つのテーマで
自由論題報告が行われた。各会場の報告者及び論題は以下のとおりである。
第1会場[司会:齋藤真哉氏(横浜国立大学)]
⑴今枝千樹氏(愛知産業大学)「非営利法人組織の財務報告」、⑵馬場英朗氏(愛知学泉大学)・中嶋貴子氏(大阪大学大学院)「非営利組織の成長と収入の安定性―NPO法人
のパネル・データ分析から―」、⑶五百竹宏明氏(県立広島大学)・毛利愛美氏(県立広島大学)「NPO法人の会計情報と資金調達に関
する実証分析」
第2会場[司会:川野祐二氏(下関市立大学)]
⑴河谷はるみ氏(九州看護福祉大学)「社会福祉サービスの質の保障と第三者評価事業
―外部評価の意義と眼界―」、⑵日向浩幸氏(中央大学大学院)「自治体病院の経営革新」、⑶佐久間義浩氏(富士大学)「自治体病院におけるリスクマネジメント―アンケート調査を中心として―」
第3会場[司会:明石照久氏(熊本県立大学)]
⑴土把勲嗣氏(九州大学大学院法学部研究院専門研究員)「公共事業と政治参加―熊本県の川辺川ダム開発の事例報告―」、⑵澤田道夫氏(熊本県立大学)「新しい公共と地域のガバナンス」、⑶初谷勇氏(大阪商業大学)「地方議会改革とNPO」
【特別講演】
午後からは、江田寛氏(公認会計士・NPO法人会計基準策定委員会委員長)による、「新しいNPO法人会計基準への期待」と題した特
別講演が行われた。NPO法人に対する社会からの信頼について、東日本大震災において様々なNPO法人が被災地で活動しているにもかかわらず、支援者からの義捐金の大半は日本赤十字社等に集中しているという現状を通して、NPO法人がいまだ十分に信頼が得られていないことについて説明がなされた。そして、新たなNPO法人会計基準の策定・公表について、この会計基準が普及することでNPO法人に対する社会の信頼の醸成への貢献が期待されること、真の信頼を獲得するためには会計基準のみならず会計報告の適正性が確保されなければならないことを強調した。
【研究部会報告】
特別講演終了後、小島廣光氏(札幌学院大学)が司会となり、研究部会報告が行われた。東日本研究部会[部会長:岡村勝義氏(神奈川大学)]からは、「日本及び諸外国における非営利法人制度に関する研究―制度史・制度設計・広告制度・税制度等を中心にして―」というテーマについて、西日本研究部会[部会長:藤井秀樹氏(京都大学)]からは「非営利法人におけるアカウンタビリティ指向の業績評価とガバナンスの包括的フレームワーク」というテーマについて、それぞれ研究の進捗状況が報告がされた。
最後に、会長及び大会委員長からの閉会挨拶が行われ、盛況のうちに閉幕した。