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- ≪査読付研究ノート≫地方自治体における工数管理手法を通じたマネジメントの実践―準備から初年度実施まで―
PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 株式会社日本総合研究所シニアマネジャー・法政大学兼任講師 山田敦弘 キーワード: 地方自治体 工数管理 プロジェクトマネジメント 業務効率化 業務改善 定数管理 要 旨: 地方自治体においては、業務の多様化や職員数の定数管理の適正化など、少ない職員数で多くの業務に対応しなければならない状況にある。その対応策として、A市では業務実施における職員の工数管理を行い、その分散を可視化することで業務改善へ繋げる試行的取組としてプロジェクトマネジメントの手法として確立されているPMBOKの一部である工数管理を実施した。本研究では、その準備から初年度実施にかかる一連の取組を対象として研究・分析を行った。その結果として、「組織全体として、業務負荷の集中・分散状況が可視化できるようになった」、「残業により負荷がかかっている職員を察知することができるようになった」、さらには、「職員が時間を意識して仕事に従事するようになった」ことなどの成果を得ることができた。その一方で、「工数の入力の精度が高くない職員がいる」、「どの業務として入力するべきかわかりにくい」そして「工数入力の手間が職員の負担となっている」ことなどの課題がわかった。工数管理データは、業務の状況及び職員の動きなどが可視化されるため、業務と組織をマネジメントするという視点から有効なツールとなることが推察された。一方で、マネジメントのツールとして活用されないならば、単なる負担となることが懸念された。どのようなマネジメントでどのような課題を解決していくのかについて、事前に定義した上で取り組むことが重要であると考えられた。 構 成: Ⅰ はじめに―課題認識― Ⅱ 研究の対象と方法 Ⅲ 成果と課題の分析 Ⅳ ディスカッション Ⅴ おわりに Abstract Local governments are faced with the need to handle a multitude of tasks with a small number of staff due to the diversification of tasks and staff optimization. As a countermeasure, City A implemented man-hour management, which is part of PMBOK, a project-management methodology established as a trial initiative to improve operations by managing employee man-hours for tasks and visualizing the distribution of man-hours. In this study, we analyzed a series of initiatives, from preparation to implementation, in the first year. Results revealed that the organization as a whole was able to visualize the concentration and distribution of work load, that the organization was able to identify staff burdened by overtime work, and that staff became more conscious of time while working. On the other hand, we found that some staff members did not log man-hours accurately, that it was difficult to understand which tasks should be logged, and that the effort of logging manhours was a burden on staff. Results suggested that man-hour management data is an effective tool from the perspective of managing tasks and organizations as it enables the visualization of the status of tasks and the activity of staff. On the other hand, there is a concern that man-hour management would simply become a burden if it is not used as a management tool. It is important to define the type of management and the issues that would be resolved before proceeding. ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ はじめに―課題認識― 本稿では、工数管理を通じたマネジメントの実践の有効性を検証するために、地方自治体の業務遂行における人手不足にかかる課題について明らかにしたうえで、そのための対策を提示し、具体的な進め方として工数管理を試行しようとする理由と手順、そしてその成果と課題についてディスカッションをしていく。 本稿におけるマネジメントとは、地方自治体の課・係を 1 つのチームとして成果を得るためのプロジェクトマネジメントを想定している。言い換えると、複数の職員が連携・分担を行いながら、チームとしてプロジェクトの成果を上げていくことである。ここで言う成果とは、業務を達成するためにプロジェクトを実施することで得られる結果であり、地方自治体においては、 新規事業創設などの企画もあれば、課税・徴収業務などの定型業務もあり多岐に渡っている。 本稿では、下記に述べる様々な課題を解決しながら成果を得るために、実践して行くべきプロジェクトマネジメントを研究対象としている。 1 地方自治体の業務遂行における人手不足にかかる課題 近年、地域住民のライフスタイルの多様化や国や都道府県からの業務の権限移譲、加えて、官民連携や地域活性化などの推進に至るまで、過去にはあまり求められなかった範囲にまで地方自治体(本研究では主に市町村)の業務が拡大されている。パソコンや情報システムなどの普及により、データ処理を伴う業務などについては効率化が図られてきたことを加味しても、現状としては人手不足となっている。蜂屋(2021) は、地方公務員の数的充足度について、地方公務員一人当たり人口、地方公務員一人当たり実質歳出額、給与月額に対する時間外勤務手当の比率の 3 つの指標について1994年以降のデータを経年的に比較している。その中では、2010年代には、自然災害が各地で相次いだことに加え、高齢化等に伴う給付対象者の増加や子供・子育て対策の充実などにより、社会保障分野を中心に地方自治体の担う業務量が、人口減少のトレ ンドとは逆に、次第に多くなってきている可能性があり、人的不足感が高まりつつあると指摘している。また、総務省の「地方公務員の退職状況等調査」によると、一般行政職30歳未満の離職者は、2013年に1,564人であったものが、 2022年には4,244人まで増加している。これは 9 年間で2.7倍に増加したことを示しており、このようなトレンドは、将来的な人手不足にも 影響することが推察される。 さらに、首都圏を除く、ほとんどの地方自治体では、人口減少に直面しており、その結果として税収の減少やそれに合わせた職員数の抑制を定数管理の適正化という名目で取り組んでおり、実質的により少ない職員数での業務対応が求められている。 合わせて認識しておくべきこととしては、職員数を減らし業務量を増やすことで、メリットとデメリットの両方の影響があるということである。田中(2010)は、自治体の歳出において職員の人件費は 3 割近くと多くの比重を占めており、しかも人件費は固定費であることから、収支構造を改善するためには定員を縮減することが効果的であると述べている。また、その影響として石川(2021)によると、地方自治体の職員の人手不足と業務量の増加は、内部統制の脆弱化を招く事象の 1 つであるとされており、業務の引継にかかるリスクを顕在化していることが指摘されている。 2 地方自治体の業務遂行にあたっての人手不足への対策 このような人手不足への対策としては、「必要十分な人員確保」と「組織全体の業務処理能力の向上」と「アウトソーシングの活用」の 3 つの視点の対策があると考えられる。 必要十分な人員確保としては、昨今の職員数の定員管理の適正化の動きを考慮すると新しく雇用するよりも職員の退職を減らす方が理にかなっていると考える。退職理由と関係性が強いデータとして長期病休者数がある。一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会の令和 6 年度「地方公務員健康状況等の現況の概要」によると、長期病休者の中で突出して多いのは「精神及び行動の障害」であり、平成25年度に1,219.3人/10万人であったものが、10年後の令和 5 年度には、2,286.4人/10万人と1.9倍の増加であった。その背景には、役所に対する迷惑行為や悪質クレームなどのカスタマーハラスメントがある。若い職員がこのような状況に長期間にわたって晒され、上司や同僚などが良く把握をせずケアをされないことは、退職理由の主要因の 1 つとなっていることが推察される。 続いて、組織全体の業務処理能力の向上については、多くの営利組織では働きに応じた給与体系や評価の仕組みが確立されており、働きによっては容易に給与を増減されたり昇進や降格・ 退職に追い込まれることがあり、ほとんどの社員がしっかりとした戦力となっており、組織全体の業務処理能力を最大化している。しかしながら、地方自治体では、そのような給与体系や評価の仕組みや勤務実態を可視化する手段はなく、働きが悪くても減給や退職にならずに、職場に残り続けることもできる。その結果として、良く働く職員への負荷が重くなっており、組織全体のパフォーマンスの低下の 1 つの要因にもなっている。地方自治体において、組織全体の業務処理能力の向上を図るためには、一定のレベルで 1 人あたりの仕事量の平準化をしながらパフォーマンスを向上させることが望まれる。 最後に、アウトソーシングの活用は、人手不足には役立つ可能性が高いが、そのためのコストが予算増へ直結しており、むやみにアウトソーシングを増やすことは財政悪化に直結する。アウトソーシングを進めるにあたっても、より効果的な業務に絞ってアウトソーシングを活用する必要があるが、そもそもどの業務を対象にするべきか判断するための材料(データなど)がなく、結果としてアウトソーシングの活用に踏み切れていないケースも少なくない。 3 人手不足の対策として工数管理手法を選んだ理由 上記に示したカスタマーハラスメントによるメンタル病休の回避、 1 人あたりの仕事量の平準化をしながらパフォーマンスを向上させること、アウトソーシングを活用するべき業務の選定などを進める必要があるが、そのためには業務実態を定量的に把握する必要がある。また、把握した結果を分析しタイムリーに適切な対策を講じるマネジメントが重要であると考える。そのための技法としては、プロジェクトマネジメントの知識体系として世界的に普及・確立しているPMBOK(Project Management Body of Knowledge)の管理手法を活用できると考えている。 PMBOKは、1987年にアメリカの非営利団体PMI (Project Management Institute)がガイドラインを発表したプロジェクトマネジメントに関するノウハウや手法を体系立ててまとめたものであり、実施管理を組織横断的に行うことによって業務実施の全体最適化を推進することができることから、現在ではプロジェクトマネジメント手法の世界標準となっている。PMBOKの中でもプロジェクト管理手法の 1 つである工数管理は、業務実施状況の全体が可視化できるため、マネジメントを行う上での有効な手法となる。職員個人が工数入力を行うため、その手間や正確性などの問題もあるものの、長年、多くの民間企業にて実践されており、地方自治体においても同様の成果をもたらすものと考えている。工数管理の実施にて期待される主な効果は以下の通りである。 【一般的な工数管理へ期待される効果】 ① 適正な組織内リソースの配置・組織体制の構築 ② 業務進捗の把握 ③ 業務上のボトルネックの把握 ④ 業務改善効果の測定 ⑤ 外部リソース活用を判断するための情報取得 ⑥ コストの把握とその意識向上 工数管理は、業務推進状況の可視化を通して業務改善策を講じる手法であり、期待される効果についても比較的理解がしやすく、頻出する課題へ対応できる。落(2010)は、大学の技術センターにおいて、工数管理を用いて業務内容の整理と工数分析を行い、負荷分散・支援展開に関する業務課題などを把握し、解決のための方針決定に用いている。また、工数管理は、製造業などの業務プロセスが決まっている業種で活用されることが多いが、行政業務は、業務プロセスが確立されているものが多く、そのため十分に活用できると考えている。 一方で、地方自治体においては、勤怠管理はされているものの、工数管理まではほとんどされていない。自治体向けの人事管理パッケージシステムにおいても、工数管理の機能を実装したものはあまり見かけない。地方自治体において、工数管理が普及していない理由を、以下のように推察する。 【地方自治体において工数管理が普及していない理由】 ① 地方自治体の業務は公務であり、採算性に関わらず実施しなければならないものも あり、コスト改善につなげにくい。 ② 人事異動が短期間に行われるため、業務に熟達し、業務改善を行うまでに至らない。 ③ マネジメントの概念や手法が自治体運営の中で定着していない。 まず、採算性にかかわらず実施しなければならない公務とは、災害対応や住民生活の中で、決して止めることができない福祉や環境に関する業務などがある。いくら担当業務が多忙であっても災害時の避難所の設営や給水などは必須の対応である。そこに採算性の概念はあまりない。また、人事異動が短期間に行われることは、職員の経験を豊かにするが、その一方で業務実施が熟達する前に、次の部署へ移動してしまうことが多いため、業務改善にまで至りにくい。そのため、業務を可視化しても解決する方法を確立することが容易ではないことから、これまでほとんど取り組まれて来なかったのではないかと推察する。 しかしながら、地方自治体が置かれている環境は厳しく、少ない人数で多くの仕事をこなさなければならない状況に迫られており、この難問を乗り越えるには、工数管理の手法を用いて状況を把握し、できる範囲で適切な解決方法を取るという行為を積み重ねていくことが重要であると考えている。 本研究では、工数管理を試行した地方自治体において、実施準備から実施開始をした初年度までの取組を対象に、その成果及び直面した課題などについて分析をする。 Ⅱ 研究の対象と方法 1 地方自治体の業務における主な課題 地方自治体の業務における一般的な課題は以下の通りである。これらの課題は、地方自治体が本取組を着手するきっかけとなった。 ⑴ 業務多様化と職員数抑制 地域住民のライフスタイルの多様化や国や都道府県からの権限移譲、加えて、地域活性化などの新しい課題にまで業務範囲が拡大されており、その一方で、人口減少に合わせた職員数の抑制などの対応が求められている。 ⑵ 業務負荷の適性分散 少ない人数で多様な業務に取り組むため、職員が個人単位で担当する業務も多く、業務負荷の状態が把握しにくくなっている。また、季節性の業務も多く、特定の期間に特定の職員に負荷が集中していることもあり、職員の健康への影響も懸念される。 ⑶ 管理者の役割 地方自治体の部長や課長などの管理者は、業務遂行においては責任者と位置付けられているが、組織も含めて全体を管理調整する「マネジメント」について、その役割が明確にされていないことが多い。 ⑷ 個人適性の多様性 職員個人によって、得意な分野や業務が異なる。地方自治体の場合、人事異動が頻繁にあり、個人の適性に合っていない分野や業務を担当することもある。その場合は、そのことを早期に把握できれば、分担の見直しや周りのサポートで改善できる可能性がある。 ⑸ クレーマー対応 近年、深刻な問題となっているのは、クレーマーへの対応である。多少のクレームは、どの職場でも発生しており、許容することも必要であるが、特に理不尽な要求をする「ハードクレーマー」などは、対応する職員に多大な心理的負荷をかけてしまうため、対策を講じる必要がある。 2 工数管理へ期待する効果 今回、対象の地方自治体が工数管理を実施することになった理由は、前述した一般的な業務の課題がある中、個人への業務負担を軽減し、より効率的に業務が進められるような効果を得るためである(図表 1 )。 この中でも、業務負担の平準化、過重労働検知、職員配置の最適化は、少ない職員数で多くの業務に対応するためには、必要不可欠であり、大きな期待が寄せられている。 図表 1 工数管理に期待する効果 出所:筆者作成 3 研究方法 ⑴ 研究対象 工数管理の取組を実施したA市は、人口 3 万人弱で職員数300人弱の地方都市である。人口減少が続いている中で行財政改革の一環として、工数管理に取り組んだ。本取組は、2020年度より、総務部門が中心となり、全職員を対象として試行的に実施している。なお、地方自治体名を公開しないことを前提に、研究協力をいただいていることをご理解いただきたい。 ⑵ 実施手法 ① 入力様式 実施に当たっては、まず入力様式となるエクセルの専用様式(以下、専用様式)を作成した( 図表 2 )。専用様式は、年間カレンダー(列)と業務(行)が設定された職員毎のシートで構成されており、係ごとに 1 ファイルとした。業務(行) は、業務分掌表に記載された業務を大項目として設定し、その中の詳細な業務を小項目として設定した。加えて、自己学習や研修など、業務分掌にない項目を全庁の共通項目として選択できるように設定した。 また、初年度の取組であるため、過年度データはなかったものの、参考までに、年度当初の時点での年間の予定工数も入力し、参考値とした。 ② 工数入力〜確認〜フィードバックの流れ 職員は、毎日または週に 1 回程度、担当業務や共通事項(自己学習や勤務登録など業務分掌以外の仕事)について、実際に費やした時間を 1 時間単位で入力する。入力した情報は、係ごと(エクセル 1 ファイル)に集約され、各課内の全ての係ファイルは、課長の元に集約される。課長は、その内容を月次で確認し、状況の把握や対策の実施を行う。課内の全ての係ファイルと講じたアクションを取りまとめたレポートを総務部門に提出する。総務部門は、それらを確認し、必要に応じて個別に内容照会を行う。また、毎月開催されている全庁の管理者会議にて、状況を共有する( 図表 3 )。 図表 2 入力様式 出所:A市資料に基づき筆者作成 図表 3 工数入力〜確認〜フィードバックの流れ 出所:A市資料に基づき筆者作成 Ⅲ 成果と課題の分析 1 初年度実施により得られた成果 開始初年度末に 1 年間の取組を振り返るために、各部署の管理者にアンケート調査を実施した。その結果をまとめた初年度の成果は次の通りである。なお、これらの成果は、アンケートに記されていた内容から抽出しており、すべてが全員一致の回答をしたものではない。 【初年度の成果】 ① 組織全体として、業務負荷の集中・分散状況が可視化できるようになった。 ② 残業によって負荷がかかっている職員を察知することができるようになった。 ③ 効率化、アウトソーシングするべき業務が推察できるようになった。 ④ クレーム対応によって時間的負荷がかかっている職員を察知することができるようになった。 ⑤ 職員の共通事項(自己学習や勤務登録など業務分掌以外の仕事)に関する時間の使い方の概観がわかるようになった。 ⑥ 職員が時間を意識して仕事に従事するようになった。 初年度ということで、まだ工数入力作業に慣れていない職員もおり、精度においては向上の余地が多分にあるが、概観として工数分布が掴めるようになった。初年度の最も大きな成果としては、業務と工数分布の状況が個人単位及び組織全体で可視化することができるようになったことである。この結果として、これまで感覚的にこの業務に負荷がかかっているのではないかと感じていたものが可視化され、定量的に示されることになった。また、これまで業務に負荷がかかっていると感じていなかったにもかかわらず、工数を費やしている業務を見つけることができた。このような業務については、管理者と担当者がその状況について状況確認をすることにより、コミュニケーションを取るきっかけとなった。また、負荷の高い業務については、アウトソーシングを選択肢に含めた業務効率化を検討するべき業務として、当たりをつけることができるようになった。 また、本取組において重要視されている「職員を守る」という点においては、負荷検知として活用することで、担当者個人と業務を特定することができることから、人員管理において十分に役立つことが実感できた。特に、クレーマー対応に長時間を費やしているケースを見つけることができるため、早めの対応が可能となった。 今年度の成果としては表れていないが、次年度以降も継続実施することで、成果が期待できる事項としては、以下の通りである。 【次年度以降に期待される成果】 ① 同じ係で年度間の工数比較をすることで、生産性に関する検証を行うことができる。 ② 業務負荷がピークの際に、どの係に人員協力を依頼するべきなのか、目安をつける ことができるようになる。 ③ 次年度の業務スケジュール(負荷とそのタイミング)が分かるようになる 初年度の工数管理データは、当該年度の特殊事情なども一部反映されており、傾向は示しているものの標準値を示しているものとは言い切れない。数年度に渡って継続することで、標準値を知ることができ、信頼できるデータとして活用することができる。信頼できる工数管理データとなれば、生産性の検証や業務負荷やそ のピークの予知と対策に役立てることができる。 2 初年度実施により判明した課題 「 1 .初年度実施により得られた成果」と同じアンケート調査において、抽出した初年度の課題は次の通りである。 【初年度の課題】 ① 初年度の取組ということもあり、工数の入力の精度が高くない職員がいる。 ② 工数管理の入力は個別に個票管理されているため、兼務の場合の時間把握方法の正 確性が担保されていない。 ③ 「その他」など汎用性のある項目に計上された工数の内容が不明である。 ④ 工数入力の手間が職員の負担となっている。 ⑤ 業務単位となると広範となり費やした工数が却ってわかりにくいため、より詳細で ある事務単位で工数を付けることができた方が良い。(どの業務として入力するべきかわ かりにくい) 初年度の取組につき、工数入力に慣れていない職員がいることは前述したが、仕組みとしての課題も明らかとなった。まず、ひとつは、兼務をしている職員については、全ての業務を積み上げて検証できる仕組みがない。個別に実施することは可能であるが、手作業となり、仕組みとして備わっていない。調査時では、兼務はあまり多くはないが、今後、兼務が増えた場合は検証方法の確立が必要となる。二つ目は、共通項目として「その他」という項目があるが、この内容が今回の工数管理の仕組みでは把握することができない。「その他」を無くせば良いとの意見もあったが、結局、個人の解釈によって違う項目として入力されてしまうため、根本的な解決策にはならない。「その他」の工数割合が顕著となった場合、その内容を調査し、新しい項目を設定する必要がある。 この他に、使った時間によっては、どの業務として入力するべきかわかりにくいとの声が あった。その解決策として、本取組で工数を付ける単位となっている業務の粒度をもっと詳細にする方が却って正確に入力しやすいなどの意見もあり、今後の検討が必要であることが明らかとなった。 Ⅳ ディスカッション 全職員を対象とした工数管理の取組は、多くの職員の工数入力という多大な作業の上に成り立つものであり、職員の理解と見返りとなる相応の効果が期待される。また、入力した工数管理データをチェックする管理者の負荷も大きく、管理者自身の業務内容を再整理して、日常業務に取り込む必要がある。 今回、工数管理を試行的に実施した結果、個人、部署、組織全体の 3 つのレベルでそれぞれ成果がみられた。個人レベルでは、自分の工数を見返して自分の働き方を振り返ることができるようになった。その振り返りにより、時間の費やし方について自ら改善したり、同僚や上席者に改善方法の相談や支援を迷わずに問いかけたりすることで、過負担のない日常業務に近づけることができる。また、部署レベルでは、管理者が月次で部署内の職員の工数入力状況を把握することで、困っていることや過負担がないか、直接当人に問いかけることができるようになった。そのような対応により、業務課題や特定職員への過負担について、早期に対処を開始することができる。さらに、組織全体レベルとしては、働き方改革や人事異動などにおいて、現場の課題や工数のトレンドを見ることができるようになった。その情報を活用すれば、業務や組織の全体最適化を目指すことができる。これを実現することは容易なことではないが、可視化することで実施可能なことから改善に取り組むことができる。 工数管理データは、業務の状況把握及び職員の動きなどが可視化されるため、業務と組織をマネジメントするという視点(プロジェクトマネジメントの視点)から、かなり有効なツールとなる。マネジメントを実践する役割を担う者が、工数管理データを見ながら業務進捗と組織の活動状況を把握することで、必要不可欠なマネジメントの判断をタイムリーに実施することができるため、結果として冒頭で提起した「必要十分な人員確保」と「組織全体の業務処理能力の向上」と「アウトソーシングの活用」を推進することができる。 ただ、もし、当該組織にマネジメントが存在しなかったり、マネジメントのツールとして活用されないならば、単なる負担となってしまう。そのため、どのようなマネジメントでどのような課題を解決していくのかについて、しっかり定義した上で工数管理へ取り組むことが重要で あると考えられた。 Ⅴ おわりに 本研究の題材では、業務と工数と職員の関係性から課題を可視化するための工数管理に取り組んだが、地方自治体の課題はそれだけにとどまらない。浦田(2022)によると、多くの自治体職員は所属部署が 2 、 3 年で異動になることが多く、引継ぎ書など書面のみの場合もあり、対面での引継ぎ時間は少ない。また、体系的な仕事の進め方の学びの場もほとんどない状況であるとの記述にもある通り、十分なノウハウがない中でまさに「走りながら学ぶ」という面も多い。そのような状況では、最適な工数の使い方に至ることはかなり難しく、根本的な改革の必要がある。 工数管理は、それ単体だけでどんな課題も解決できる万能の手法ではなく、課題に応じて、その他の業務改善手法と組み合わせて実施することが効果的である。例えば、業務や組織体制や担当者の決裁範囲を根本的に見直すBPR(Business Process Re-engineering)、窓口業務や事務処理を外部に委託するBPO(Business Process Outsourcing)、定型業務をソフトウェアに自動的に処理をさせるRPA(Robotic Process Automation)をはじめとし、情報化・クラウド、官民連携など業務改善に繋がる様々な取組があり、それらと結び付けて実施することが肝要である。 また、中山(2019)が地方自治体としてRPAに取り組んでおり、その中で業務範囲を限定してスモールスタートを原則にトライアル・アンド・エラー(試行錯誤)で推進することを推奨している。今回は最初から全職員を対象としたが、部署ごとにスモールスタートで着手し改善していくような推進方法も有効であると考えている。 前述した工数管理や業務改善を段階的に実施したり、それらを組み合わせたりすることで、業務実施の個別最適化と全体最適化を合わせて推進することができると考えている。このような取組が地方自治体におけるマネジメントを確立させると考えており、引き続き研究を続けて行きたい。 [参考文献] 有馬昌宏ほか[2016]「自治体のBPRへの取組の現状と課題」、『経営情報学会全国研究発表大会要旨集 2016年秋季全国研究発表大会』、 369-372頁、一般社団法人 経営情報学会。 石井信明[2016]「サービス業務の動的スケジューリング問題」、『神奈川大学工学研究所 所報第39号』、 9 -14頁。 石川恵子[2021]「地方自治体の内部統制の現状と課題―パブリック・ガバナンスの充実強化に向けて―」、『非営利法人研究学会誌 VOL.23』。 稲継裕昭[2024]「(コラム・論説)地方自治体の担い手不足―若者の公務員離れ」、全国町村会HP。 一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会、「令 和 6 年地方公務員健康状況等の現況の概要 (令和 5 年度の状況)」。 浦田有佳里[2023]「自治体職員の働き方とプロジェクトマネジメントの適用―プロジェクト・プログラム・ポートフォリオマネジメン トによる事業遂行」、『プロジェクトマネジメント研究報告 3 巻 1 号』、46-50頁。 浦田有佳里[2022]「自治体におけるプロジェクトマネジメントの適用と課題―行政職員の業務とマネジメント―」、『プロジェクトマネジメント研究報告 2 巻 1 号』、 7 -11頁。 落祥弘[2010]「業務概要と工数管理」、『広島大学技術センター報告集=Hiroshima University Technical Center annual report, 第 7 号』、43-46頁。 佐藤厚[2005]「経営組織の変化と業績管理・人事管理~電機メーカーの事例」、(Doctoral dissertation, Doshisha University)。 総務省[2023]「地方公務員の退職状況等調査」。 田中啓[2010]「日本の自治体の行政改革、自治体国際化協会・政策研究大学院大学、分野別自治制度及びその運用に関する説明資料 No.18」。 田村隆善[2008]「工場管理におけるサービス業務とその見える化に関する一考察」、『日本経営診断学会論集』、 8 、32-38頁。 永松陽明ほか[2011]「業務プロセスのベストプラクティス表現方法立案とライブラリ構 築」、『一般社団法人プロジェクトマネジメン ト学会誌13巻 1 号』。 中山健太[2019]「 RPAを活用した業務改革」、『国際文化研修』全国市町村国際文化研修所編、27⑴、18-21頁。 蜂屋勝弘[2021]「地方公務員は足りているか─地方自治体の人手不足の現状把握と課題─」、 『Japan Research Institute review 2021 Vol.4、No.88』。 広兼修[2010]『新版プロジェクトマネジメン ト標準PMBOK入門』、株式会社 オーム社。 広兼修[2022]『プロジェクトマネジメント標準PMBOK入門―PMBOK第 7 版対応版』、株式 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- ≪査読付研究ノート≫非営利研究組織の社会的価値向上について―(一財)日本自動車研究所の取り組みを事例にして―
PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 (公社)非営利法人研究学会理事 半田 茂 キーワード: 非営利研究組織 社会的価値 共益と公益の分別 社会的な信頼性 確実な資金回収 新技術の社会受容性の向上 要 旨: (一財)日本自動車研究所の経験を踏まえて、非営利研究組織のもたらす社会的価値の検証を試みた。研究活動事業を「基礎研究・技術開発期」「社会ルールとのかかわり期」「新技術の社会受容性の向上期」に分けると、すべての期で代表的な研究活動事業は社会的価値を生みだしている。持続的な社会的価値の供給を実現する要件は、非営利研究組織の「社会的な信頼性」と「確実な資金回収」である。資金回収の成功事例と不成功事例を分析した結果、要因として、非営利研究組織内部の認識不足、ステークホルダーの理解不足、回収に有効な地域社会への情報提供が挙げられる。将来に向けて「新技術の社会受容性の向上期」における非営利研究組織の潜在力を生かす施策が望まれる。 構 成: Ⅰ はじめに Ⅱ 非営利研究組織のもたらす社会的価値 Ⅲ 持続的な社会的価値の供給 Ⅳ まとめ Abstract Drawing from my experience with the Japan Automobile Research Institute, this paper explores the social value created by non-profit research organizations. Research activities are divided into three stages: “Basic Research and Technology Development,” “Engagement with Social Rules,” and “Enhancement of Social Acceptance of New Technologies.” In each stage, key research activities demonstrated the generation of social value. This paper highlights the need for “social credibility” and “reliable fund recovery” to ensure the sustainable delivery of social value. Analyzing three cases of fund recovery, this paper identifies a lack of awareness within internal organizations, lack of stakeholder understanding, and the importance of providing useful information to the community. Finally, the paper discusses the importance of leveraging the potential of non-profit research organizations in the “Enhancement of Social Acceptance of New Technologies” stage. ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ はじめに (一財)日本自動車研究所(Japan Automotive Research Institute略称JARI)は日本の自動車業界が1969年に設立した自動車技術の総合研究所である。 筆者は2012年から2020年まで代表理事・専務理事として、「非営利性の徹底した一般財団」への移行(2012年 4 月)及びその後の経営安定化 1) に取り組んだ。 その過程でJARIの生み出す社会的価値 2) に「共益」と「公益」が混在することに気づいた。JARI組織内部及びステークホルダーを含めて、共益と公益を明確に分別し、それぞれの性格に適した経営を行えば、社会的価値の持続的供給が実現できるのではないか、という問題意識を持った。筆者は問題意識の整理と解明に取り組み、研究成果を中間報告として2024年10月に非営利法人研究学会の全国大会にて発表した。この小論は発表内容をベースに、非営利研究組織の生み出す社会的価値を「共益」と「公益」に分別し、その「持続的な供給」について考察したものである。 Ⅱ 非営利研究組織のもたらす社会的価値 1 (一財)日本自動車研究所の取り組み ⑴ 歴史から見た社会的価値とのかかわり JARIの原点は1961年に自動車業界が設立した高速周回路(当時茨城県矢田部)である。1969年に技術研究の強化を目指して「財団法人日本自動車研究所」へ改組された。 1970~80年代にはモータリゼーションに伴う社会課題が発生した。その解決に取り組む過程で、主たる研究領域は自動車技術規制に関連の強い「安全」や「エネルギー(排出物質を含む)」等に収斂された。本来の自動車技術の研究開発に加えて、この分野の基準化や国際的な「基準調和」、「標準化」が主要な事業となった。 2000年代には高速周回路等設備の移転や2012 年の「非営利性の徹底した一般財団」への移行を経て、研究領域は「地球温暖化対応」と「自動運転」が加わり、現在に至っている。 ⑵ 社会的価値との関連で見られる特徴 非営利研究組織としての性格は、その歴史から読み取れるように、日本自動車産業の「共益」を担う研究組織であった。設立時、欧米の技術へのキャッチアップを目的としていた。 次に、自動車という耐久消費財の性格(利便性、危険性、化石エネルギ―依存)を反映して安全・排出物質・燃費等の測定やデータの収集・解析等に強みを発揮し、新技術の研究開発、各種基準化、基準調和、標準化等の取り組みにおいて「共通基盤」を提供している。 ⑶ 自動車技術の共通基盤 2020年時点で職員数は400人程度(研究職140 人、設備機器を扱う技術職150人)、安全・エネルギー等の領域の高い専門知識を有し、計測手法の開発からデータの取得・蓄積・分析、産業横断的な調整、公的資金の獲得、公的プロジェクトの複雑な手続き対応をこなす。研究職・技術職ともに人材育成には長期間を要する。 活動規模は収益100億円程度、その内訳は試験・研究受託 9 割弱(自動車工業会等 3 割弱、官公庁 3 割、一般受託 3 割)、高速周回路の貸出 1 割強、寄付金ゼロである。 ⑷ 社会的価値への取り組み 主要な活動の柱である衝突安全・予防安全等の「安全性」向上、並びに排出物質・燃費の測定・分析等の「地球温暖化対応」はともに地域社会・不特定多数に向けた「公益」を内在している。共通基盤としての活動は「共益」目的である。 他方、「公益法人認定法」の公益目的事業と認める23業種の中ではJARIは「学術・科学技 術振興」に該当している。この点は「公益性」を裏付けている 3) 。 2 非営利研究組織の社会的価値活動への取り組み ⑴ 研究開発事業と社会的価値 非営利研究組織の主な事業は「研究開発」である。研究開発事業を社会的価値との関連で捉えると研究開発活動のサイクルはほぼ 3 期に分けることができる。新知識習得の「基礎研究」から新技術を開発する「研究開発プロジェクト」までを「基礎研究・技術開発期」、特許等の「知的財産化」から「基準化・標準化」に至るまでを「社会ルールとのかかわり期」、「市場監視」「技術改良」から「社会定着」に至るまでを「新技術の社会受容性の向上期」と便宜的に位置付ける。 各期における代表的な事業活動の社会的価値について検証した。その結果は、非営利研究組織は、法的形態・規模・資金力・産業・事業サイクル等に差異はあるが、概して社会的価値を生みだしている 4) 。以下は各期の代表的な事業活動と社会的価値の特徴である。 ⑵ 基礎研究・技術開発期の社会的価値 この期の代表的な活動は、「新技術の研究開発マネジメント」である。新しい経済価値を生み出す本源的な活動であるため「共益的」である。地球温暖化対応等の公益的色彩の強いプロジェクトであっても、ボトムラインは共益の範疇にある。 専門性が高く競合的であるが、その成果の拡散という点で長期的に「排除不可能性」を持ち、「準公共財」と位置付けられる。公益目的事業の中では「学術・科学技術振興」に相当しており、総体として共益と公益の双方を包含している。 研究開発プロジェクトは昨今巨大化・複雑化している。過大な開発負担のリスク回避、産業を超える技術協力、国際的な技術開発競争の激化等の事情により、公的資金の投入も頻繁である。そのため共通基盤として総合的なマネジメントが期待されている。新技術開発の初期段階から非技術的な分野の知見、社会のニーズや価値を探る双方向的な態度 5) にとどまらない。従来型のプロジェクト管理から社会とのかかわりを深め、新技術の社会定着を視野に入れた長期的・包括的な取り組みである。 ⑶ 社会ルールとのかかわり期の社会的価値 6) この期の代表的な活動である「知的財産」は私益や共益の色彩が強い。「標準化」は産業内の投資効率化やルール化による優位性の追求を狙うため本来「共益」である。他方「基準化」は規制レベルの具体的な調整なので「公益」の範疇と考えられる。 基準化や標準化は高い専門性により競合的であるが、長期的には成果が拡散して「排除不可能性」を持つため「準公共財」である。公益目的事業の「公正自由な経済活動」「一般消費者の利益擁護・増進」「事故・災害の防止」に相当し、持続的な活動は必須である。 昨今、ルールづくりの段階から地域社会の安全性に絡む案件が増え、持続的な監視・技術改良に至るきめ細かな改善活動を包含する傾向が強い。地域社会や不特定多数の利益を意識しており、そこに「公益性」を認めることができる。 自動車に限らず利便性の高いグローバル製品であるなら、「安全性」と「地球環境保全」の領域で各国の代表が集まって、基準や規格の共通化を活発に進めている。グローバルなルール整備は「重複投資の回避」や「技術移転の促進」といった効果をもたらすので、産官学の連携による「国益」追求と見なすこともできる 7) 。 ⑷ 新技術の社会受容性の向上期 「新技術の社会受容性の向上」とは、新しい技術が市民社会に認められ地域社会に定着して「頑強な知識」 8) となることと定義される。この時期の代表的な「認証」や関連した評価試験等は、市場に新技術が製品として流通する過程で、市場監視を通じて技術改良を積み重ね、市民生活に根付かせる長期的な活動である。 認証や関連の評価試験等は地域社会や消費者への貢献を目的としていることから「純粋公共財」である。公益目的事業の中で「公正自由な経済活動」「一般消費者の利益擁護・増進」「地域社会の健全な発展」等に属している。新技術の普及とともに地域社会や不特定多数への関与が大きくなると「公益性」はさらに増大する。他方、地域社会や不特定多数への関与が大きくなる分、資金回収の課題が増えてくる。 図表 1 参照。 図表 1 非営利研究組織の社会的価値活動の検証結果 出所:筆者作成 Ⅲ 持続的な社会的価値の供給 1 重要性を増す持続的な取り組み 新技術が「社会的に頑強な知識」を目指すうえで、制定したルールをいつでも見直せる柔軟な制度の構築が必要である。「新技術の社会受容性の向上期」において、中立・公正な第三者が監視・警告、必要に応じての排除、技術改良の繰り返しという地道な活動を継続して、初めて制度の柔軟な見直しが可能になるはずである。 こうした第三者としての持続的な社会的価値活動を実現する要件は、「社会的信頼性の確立」と「確実な資金回収」である。どちらが欠けても社会的価値の持続的な供給を担保することはできない。 2 持続性を支える必要十分条件 ⑴ 社会的信頼性の確立 持続的な社会的価値の供給を実現する一つ目の条件は「社会的信頼性」である。この小論では、社会的信頼性は日常の活動を通じてステークホルダーや地域社会から信頼に足る(trustworthy)と認められることを指す。周囲から信頼を得ているからこそ社会的価値を提供できる。非営利研究組織の社会的信頼性とは、研究組織の提供するデータが適切な科学的手法で収集・分析されており、有用であるとして地域社会が積極的に活用する状況と言い換えることができる 9) 。 さらにそうした社会的信頼性を一歩進めて、社会的利害から中立で、客観的なデータの提供を通じて社会的公正の実現に寄与する役割を見出すことができる 10) 。 ⑵ 確実な資金回収 持続的な社会的価値の供給を実現する二つ目の条件は確実な「資金回収」である。非営利研究組織の事業活動の主軸は、科学的な新知識の実用化(新技術)を目指した研究開発である。投下資金の回収は、企業ならば新製品の生産・販売であり、非営利研究組織の場合は新技術の開発から製品化に至る「研究開発受託」や安全性や性能測定の「試験受託」によって行われる。 社会的価値に関わるコストは上記の「研究開発受託」や「試験受託」を通して回収されるのだが、実際にはすべての資金回収が滞りなく進むわけではない。資金回収に明暗の出た典型的な 3 事例を紹介する。 ① 「自動隊列運転」と予防安全ブレーキの性能評価 2007年経済産業省の「次世代自動車・燃料イニシアティブ」を受けて、JARIは2008年に NEDO「エネルギーITS推進事業 11) 」を受託した。トラック 4 台による時速80km、車間距離4 mの「自動運転隊列走行」を実現して、自動運転技術の可能性を示し、現在に至る自動運転技術の開発に先鞭をつけた。 自動運転隊列走行で得られた成果の一部は、「自動車事故対策機構(NASVA)」から受託した「予防安全ブレーキの性能評価試験」に活用されている。その評価結果は「自動車アセスメント」 12) として公表されているので、消費者(市民)は安全評価結果から自動車各社の提供する予防安全ブレーキの性能を知り、それを消費行動に反映することができる。製品の安全性の監視と技術改良に寄与するだけでなく、試験受託という形で資金回収され、持続的な活動につながっている。 ② 脱炭素・水素社会の構築を目指した事業 13) と車載水素タンクの規格 1999年の「ミレニアムプロジェクト」を受けて、2000年にNEDO委託による「車両搭載燃料電池の安全性・信頼性の評価手法の開発」に取り組み、成果は水素燃料の「燃費試験法」や車両搭載水素タンク等の「国際規格」として発行した。開発には巨大な設備が必要となり、「水素・燃料電池自動車の安全評価試験設備(HySEF: Hydrogen and Fuel Cell Vehicle Safety Evaluation Facilities)」を建設した。 成果は現在に至る水素技術の研究開発に活用されている。資金回収という点では、巨大な償却負担とランニングコストを賄うだけの受託試験・研究にはならず、市場監視に至らなかった。後続の小規模製品用の試験評価施設との競合も痛手となった。 ③ 電動車両用普通充電器の認証 14) JARIの認証センターが2012年から普及途上にある電動車両用普通充電器の「製品認証」を開始した。それに対応して、安全性・互換性の検証を目的として、規格の制定から試験機器の設計・製造を行い、スキームオーナーとして市場の監視、規格を満たさない製品への警告・排除、技術改良の提言等を狙って課金システムを導入したが、一部を除いて機能しなかった。 ⑶ 資金回収を左右する要因 上記 3 事例とも本質的に同じ「安全性」という社会的価値を提供していたのであるが、資金回収に大きな差異が生じた。その要因を整理すると以下の通りである。 第一に組織内部のコスト認識がある。初期投資の償却負担、ランニングコスト、長期の市場監視費用等、コスト意識の欠如が挙げられる。持続的供給に必要な資金回収の意識が薄く、適切なビジネススキームを検討しなかった。 第二にステークホルダー側の認識不足が挙げられる。非営利研究組織がコスト回収に適切なスキームを開発しても、対価を支払う側の十分な理解を得られずに、不十分な対価にとどまるケースである。その背景には計測の難しい社会的価値の積上げ額と世間相場とのギャップという現実問題が存在する。 最後に「監視の有効性」が挙げられる。通常、市場監視の有効性は監視役である第三者(この場合は非営利研究組織)の社会的な位置づけ(正統性)に依存し、罰則や市場からの排除といった「強制力」であると考えられる 15) 。 しかし「強制力」という点で、予防安全ブレーキの「アセスメント」、水素の「国際規格」、車載充電器の「製品認証」の三者に大きな違いはない。 市場や地域社会との係りにおいて、この 3 事例は「社会的信頼性」という点で同等であり、情報の市場や地域社会への提供という点で大きな差異があった。国際規格や製品認証が事業者を対象にした情報提供であるのに対して、「アセスメント」は一般消費者や市民社会に向けて評価結果が継続的かつ分かりやすく提供されている(非営利研究組織自体である必要はない)点が挙げられる。 Ⅳ まとめ 1 持続的な社会的価値を実現するために 当初の問題意識は「非営利研究組織は社会的価値に対して認識不足ではないか」であった。日常の事業活動から社会的価値の洗い出しを行った。検証手法として①「公共財」であるか否か、②「供給の持続性」の有無、③「共益」と「公益」との分別、の 3 ステップを試みた。 その結果、研究開発事業の中で多様な社会的価値(とくに公益)を生みだしていることを確認した。とくに「社会とのかかわり期」や「新技術の社会受容性の向上期」における「基準化」・ 「標準化」・「認証」等は地域社会の安全性や「頑強な知識化」に役立っている。また共益活動であっても、地域社会との長期の関わりの中で公益性を増すことを観察した。 次に、社会的価値の「持続性」を実現する要件として①「社会的な信頼性」と②「確実な資金回収」の 2 点を確認した。「社会的な信頼性」とは、非営利研究組織に対する地域社会の信頼感であり、中立・公正な社会インフラとしての非営利組織の役割を意味する。他方、「確実な資金回収」については、典型的な 3 事例から、資金回収を支える鍵として「監視」と「強制力」だけでなく、地域社会・消費者への積極的な「情報発信」が有効だという点も確認できた。 2 新たな課題 非営利組織の本来の役割は、安心と信頼に満ちた社会を実現することである。非営利研究組織は日本の「研究開発」の一端を担う役割を持つ。「共益」の追求だけでなく「公益」への配慮を強く意識する必要がある。 次に、社会的価値の持続的供給を支える「社会的信頼」と「確実な資金回収」という 2 要件の大切さについて、非営利研究組織とステークホルダーは共有しなければならない。 特に持続性の鍵となる「資金回収」は、非営利研究組織自らの「共益」と「公益」との分別、公益部分の測定、地域社会への情報提供等、幅広い取り組みが必須である。 将来的に「新技術の社会受容性の向上期」における非営利研究組織の潜在力をさらに生かす施策の検討は有効であろう。 [注] 1) JARIの正味財産増減計算書に記載される当期経常増減額(特定資産評価損益等を含む)は2011年度△614百万円、2012年度△39百万円、2013年度△363百万円、2017年度14百万円、2018年度△161百万円と赤字分の緩やかな縮小傾向を見せていた。 2) 社会的価値の定義は馬場英朗『非営利組織ソーシャル・アカウンティング』P111「図表6 - 3 社会的価値計算書の構造」を援用している。追加分の社会的価値は同書P113にある⑴会員・顧客への直接的便益、⑵会員・ 顧客への間接的便益、⑶会員・顧客以外の地域社会への便益に分けられる。この小論では、収益の大半を占める研究開発事業を採り上げ、そこに包含される社会的価値について、会員・顧客への直接的便益と間接的便益の合計を「共益」、会員顧客以外の地域社会への便益を「公益」とした。 3) 実際の会計計算は「公益法人会計基準」に定める「公益目的事業」と「収益事業」という分類と完全に一致しているわけではない。 4) 社会的価値の検証 3 ステップとして、第一に通常の事業活動で供給している財・サービスが「公共財」であるか否かを確認する。一般的な定義は「非競合性」「排除不可能性」の 2条件を満たす財を「純粋公共財」、片方を満たす財を「準公共財」としている。いずれかを満たしていれば「準公共財」として、社会的価値をもたらすと判断してよいはずである。 第二に「供給の持続性」の有無の検証である。公益法人 3 法は非営利組織の要件として 「供給の持続性」を強調している。認定法による23業種に相当するか否か、中立・公正で あるか、成果を生みだすための設備・人材・ 資金、採算性・資金の回収程度、を把握する。 第三に「共益」と「公益」を分別する。非営利研究組織の多くが産業の要請で設立され た経緯を持つ。活動の主体は共益目的であり、自ずと共益と公益が混在する。共益との区別という作業を通して不特定多数向けの公益部分を浮き彫りにできれば、その公益部分の負 担についてステークホルダーとの議論の俎上に載せ、さらに地域社会への継続的な情報提 供につなげることができる。 5) 吉川弘之・内藤 耕『「産業科学技術」の哲学』、東京大学出版会、2005年 3 月、P69、P76、P112、P116。技術と社会との相互関係という視点から、ものつくりの新しい研究方法論として「第一種基礎研究」、「第二種基礎研究」、「製品化研究」を提示した。研究プロセスの中心に第二種基礎研究を置いて、経済や経営、法律、文化、芸術、倫理といった非技術的分野の知見、つまり社会のニーズや価値を探る双方向的な態度である。 6) 知的財産・基準化・標準化・認証等の活動について当時ベンチマークしていた「産業技術総合研究所」「電力中央研究所」「鉄道総合研究所」等ではいずれも積極的に実施している(公式ウエブサイト)。 7) 国際交渉の場においては、説得力あるデータの提示が最大の武器になる。科学的な測定手法による客観性・信頼性という面で強い説得力を持つからであり、中立性と信頼性を持つ非営利研究組織の活躍する場である。 8) 藤垣裕子、『専門知と公共性』東京大学出版会、2005年 4 月、P101、P146~147、P212~215。新技術が「社会的に頑強な知識」ではなく「作られつつある科学」に基づいている場合(つまりその信頼性が不確実であるとき)、公共における意思決定は、幅広いステークホルダーの参画のもとで、社会的合理性を優先すべきであり、かつ科学的合理性と社会的合理性の両方を満たす境界線を確保することが担保されなくてはならない……そうして決定した法制度や基準の施行後、いつでも見直しのできる“柔軟な” 仕組みの構築が望ましい……可変的な意思決定システム、設定した基準の柔軟な変更、それに伴う責任境界の再検討などがそれにあたる、としている。 9) 馬場英朗『非営利組織のソーシャル・アカウンティング』、株式会社日本評論社、2013年10月、P113。非営利組織の活動を把握する要件として「社会有用性」、「市民参加性」、「代替不能性」を挙げている。その中で「代替不能性」は「社会的価値」を提供する役割を政府や企業ではなく、一義的に非営利組織が担うことを示唆している。 10) エリノア・オストロム『コモンズのガバナンス』、2022年12月、P106、P117~118。「長期に亘って持続的な共的資源をめぐる制度から導かれる設計原理」の中で、長期にわたって持続的な共的資源において占有者は、 “自律的に”「監視」から「紛争解決メカニズム」までの活動をこなす、としている。 11) 一般財団法人日本自動車研究所『創立50周年 記念誌協創』、2020年 3 月、P59。 12) 独立行政法人自動車事故対策機構(National Agency for Automotive Safety and Victims’ Aid)が実施する自動車の安全性能を衝突安全や予防安全の評価。 13) 一般財団法人日本自動車研究所『創立50周年 記念誌協創』、2020年 3 月、P57。 14) 一般財団法人日本自動車研究所『創立50周年 記念誌協創』、2020年 3 月、P77~78。 15) エリノア・オストロム『コモンズのガバナンス』P106~119によれば、「持続的な共的資源をめぐる制度から導かれる設計原理」の「監視」「段階的な制裁」「紛争解決メカニズム」 の 3 つの原理から、非営利研究組織の「監視役」としての役割を導き出すことができる。 [参考文献] 一般財団法人自動車研究所『創立50周年記念誌 協創』、2020年 3 月。 板垣淳一・佐野博之『コアテキスト公共経済学』、 新世社、2013年 1 月。 宇沢弘文『自動車の社会的費用』、岩波書店、 1974年 8 月。 エリノア・オストロム『コモンズのガバナンス』、 晃洋書房、2022年12月。 桂木隆夫『公共哲学とはなんだろう』、勁草書房、 2006年 3 月。 ジェイン・ジェイコブズ『アメリカ大都市の死と生』、鹿島出版会、2010年 4 月。 (公社)非営利法人研究学会『非営利用語辞典』、 全国公益法人協会、2022年 3 月。 馬場英朗『非営利組織のソーシャル・アカウン ティング』、日本評論社、2013年10月。 藤垣裕子『専門知と公共性』、東京大学出版会、 2005年 4 月。 堀田和宏『非営利組織の理論と今日的課題』、 公益情報サービス、2012年 3 月。 吉川弘之・内藤耕『「産業科学技術」の哲学』、 東京大学出版会、2005年 3 月。 論稿提出:令和 6 年12月20日 加筆修正:令和 7 年 5 月21日
- ≪査読付研究ノート≫自治体外郭団体におけるゆらぎとは何か―事例分析による仮説生成―
PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 九州共立大学教授(前公益財団法人倉敷市スポーツ振興協会総務企画課長) 吉永光利 キーワード: 自治体外郭団体 ゆらぎ 秩序 組織体制 自律性 行政改革大綱 要 旨: 本稿は、「自治体外郭団体におけるゆらぎとは何か」という命題に対して、ゆらぎ概念に関する諸議論を踏まえて、事例分析を通じて、その仮説を生成するものである。 自治体外郭団体は、国等による行政施策に対応した運営を行っており、やや受動的かつ閉鎖的な側面があるように思われる。しかし、昨今の国等による指定管理者制度の導入や公益法人制度の見直しなどによって、自律的な運営を求められているところがある。 そこで、本稿では、自治体外郭団体を対象に、自律的な組織変容(自己組織化)の起点であるゆらぎに着目し、その一般化を図るため、将来の研究に繋がる仮説を生成するものである。なお、この生成においては、 6 事例の考察を行い、 8 つの仮説を提示している。 構 成: Ⅰ はじめに Ⅱ 問題関心、方法 Ⅲ ゆらぎ概念に関する諸議論の整理 Ⅳ 事例分析 Ⅴ 仮説の提示 Ⅵ おわりに Abstract This paper generates a hypothesis for the proposition “What is fluctuation in municipality-affiliated organizations?” through case analysis based on various discussions on the concept of fluctuations. Municipality-affiliated organizations operate in response to administrative policies and systems established by the national government, etc., and they seem to have a somewhat passive and closed aspect. However, recent efforts such as the introduction of the designated manager system by the national government and reviews of the public interest corporation system have created a demand for more autonomous management. In this paper, therefore, we focus on fluctuations, which are the starting point of autonomous organizational change (self-organization), in municipality-affiliated organizations to generate a hypothesis capable of leading to future research to generalize this concept. ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ はじめに 本稿は、「自治体外郭団体(municipality-affiliated organizations)におけるゆらぎ(fluctuations)とは何か」という命題に対して、事例分析を通じて、その仮説を生成 1) するものである。 自治体外郭団体は、国等から人的・経済的な支援を継続的に受けているなどの特性から、行政施策の影響を受けることが多く、運営面では、やや受動的かつ閉鎖的な側面があると思われ る。 しかし、それは、すべてではなく、国等による自律的な運営への要請(指定管理者制度や公益法人制度の見直し)に応えながら、継続的に事業を行うなかでは、対照の側面が見られる。そのような能動的な側面に着目して、自治体外郭団体の組織変容に関わるゆらぎの一般化を図る、その研究過程における仮説を生成(提示)することが、本稿のねらいである。 本稿におけるゆらぎは、社会科学における自己組織化(self-organization)という組織の変容現象の起点(兆し)を意味している。これは、今田[2005]が指摘する自己組織性(self-organity)の特性の一つである「ゆらぎを秩序の源泉とみなす(今田[2005]、27-30頁)」に依拠している。同様の視覚から、本稿に先立ち、2 つの自治体外郭団体を事例とした運営実態の考察を行っている(吉永[2024])。 この研究におけるゆらぎ事象では、団体ごとの背景や調査時の状況、あるいは応対者の主観的な意識の異同などにより、異なる事象が発見されている。ただし、それぞれが当該組織の実状を表していることを考慮すれば、例えば、設立の経緯や現状等によりゆらぎ事象を区別・整理すれば、その発生要因や傾向をつかめるのではないか、このような疑問が本稿の契機となっている。 Ⅱ 問題関心、方法 1 問題関心 外郭団体を取り巻く環境は、平成中期以降、多様に変化しており、その多くは、平成12年12月に閣議決定された行政改革大綱 2) (以下「大綱」と記す。)に関連するものである。大綱では、行政システムの改革推進の要点として、①新たな時代の要請への対応、②国民の主体性と自己責任の尊重という 2 つの観点に重きを置いており、 7 つの章立てから成っている。このうち、「Ⅰ 行政の組織・制度の抜本改革」と「Ⅱ 地方分権の推進」が自治体外郭団体に関連する内容である。策定の翌年には、行政委託型公益法人を対象とした改革の視点と課題を提示している。このなかで、国は、①官主導による設立、②当初の目的達成、時代変化による意義喪失等、 ③委託先選定基準の不明確さ、④補助金の不適切使用、⑤不要な事務等の創設、⑥公務員の天下り、このような国民からの批判を受け止めている。さらに、これらの批判を踏まえて、改革の基本理念と改革の視点を提示しており、それらをまとめたものが、 図表 1 である。 この改革には、例えば、指定管理者制度 3) への移行や公益法人制度の見直しがある。平成16 年施行の指定管理者制度では、すべてではないが、自治体外郭団体が市場競争下に置かれることになり、その結果、事業の縮小、あるいは廃止となった事例が見られる。この制度下にある団体においては、組織存続のため、従来から蓄積してきたノウハウを活かした独自性の発揮が 求められている。また、平成20年に改正された 公益法人制度 4) の趣旨では、公益法人を社会経済システムに積極的に組み込み、自律性の発揮を求めている 5) 。これらの状況から、一部では 「官のシステム」としての役割を終えたところがあるように思われる。その一方で、両制度に共通して、運営面では、やや自由度が高まっていると考えられる。 ここで、筆者は、自治体外郭団体の実務者であり、自組織のみならず、他団体との交流を通じて、上述のような諸施策に対する苦労や悩みを耳にしてきた。それは、将来的に諸制度に対応した自律的、能動的な運営を行っていくのか、それとも従来どおり、官のシステムの一部として、他律的、受動的な運営に徹していくのか、そのような問題である。制度上の矛盾や社会的な批判はともかくとして、例えば、設立の経緯を踏まえれば、国等の意向(寄付者たる自治体、あるいは社団としての意志)に沿った対応は、自然であると思われる。このことに関連して、国等では、引き続き管理下に置き、活用したいとの思惑があると考えられる。また、外郭団体側では、国等の意向に従っておれば、存続が維持される、あるいは経済的支援を受けられる、という「親方日の丸」と風刺されるような他律的、旧態依然とした考えが存在することも考えられる。 このような状況が考えられるなか、そこで働く人々の意識に着目すると、諸施策が求める変革志向と従来からの保守志向との間 6) で揺らいでいるところがあると思われる。ただし、そのような個人の意識は、組織に蓄積された情報の質や量(経験値)の影響を受けると考えられる。しかし、その影響による個人の意識は、組織の変容に関わっていくため、結局、相互に連環し ている 7) と考えられる。いずれにしても、人々の意識や行動が日々揺れ動き(一定せず)、組織も変化し続ける状況を考慮すると、十把一絡げにゆらぎを限定的、単純化して捉えるとリアリティからかけ離れると考えられる。 以上のように、組織を構成する個人によるゆらぎは多様に考えられるが、自治体外郭団体にどのようなゆらぎが生起し、組織が変容(自己組織化)しているのか。このような疑問に対して、団体ごとの設立経緯や現状等を踏まえて、ある程度ゆらぎの特性(仮説)を明らかにすることができるのではないか、このような問題関心である。武者[1980]の言葉( 7 頁)を借りれば、自治体外郭団体にとっての「ゆらぎの骨」を明らかにすることが、本稿を含めた最終的な研究目的である。 図表 1 行政委託型公益法人改革の基本理念と改革の視点 出所:大綱を参照し、筆者作成 2 研究の方法 ⑴ 方法の検討 科学全般において、理論の整合性の高さが人々を説得するための手段になっていると思われる。しかし、とくに、社会科学のような概念を取り扱う分野においては、理論が実践に介入するとき、そのあいまいさや現実離れした内容によって、腑に落ちない思いを抱くことがある 8) 。それは、抽象性の高い理論と具体である実践との架橋(結合)が十分になされていないことに起因すると思われる。社会科学におけるゆらぎに関する議論がやや停滞傾向にあるのも、このような結合の不十分さが一因になっていると考えられる。 また、現在の科学は、統計的な分析志向であり、現象の因果関係を明らかにするという観念が一般的になっている 9) 。そのため、客観的・ 定量的に取り扱うことが困難な科学においては、挑戦的な試みの弊害になっている 10) と思われる。このような観念を否定する意図はないが、本稿は「科学は問題から始まる」ことを前提(今田[1986]、18頁)として、Weick[2000]の指摘を参考に、実践的な解釈(意味付け)を加えながら、事例分析 11) という定性的な方法により、自治体外郭団体におけるゆらぎの仮説生成を試行する。 ⑵ 分析対象、分析方法 本稿の分析対象は、自治体外郭団体におけるゆらぎである。ここで、外郭団体の定義は、そこで働く「ヒト」の意識や行動に着目していることから、吉永[2024]と同様に「国等と協働して政策実現のための事業を行い、かつ国等の現職、あるいは退職者が常勤役員等に就任している団体」とする。ゆらぎに関しては、次節で検討する。 次に、分析方法では、上述の「 1 問題関心 」 に関連して、各団体の設立経緯や現状等を踏まえて、どのような(個人による)ゆらぎが発生し、また、それを組織(秩序)が許容、あるいはそれに関わっている(影響を与えている)のか、そのような連関的な組織現象を考慮した分析を試みる。具体的には、ゆらぎ概念の概念的枠組み(conceptual framework)を検討したうえで、事例分析を通じて、ゆらぎに関する発見事象を整理し、その仮説を生成する。 Ⅲ ゆらぎ概念に関する諸議論の整理 経営学におけるゆらぎは、組織の動的変容の代名詞として、1970年頃から多く用いられている。その一方で、ゆらぎという言葉を用いれば、組織が動的(dynamic)に変容するという錯覚や誤解があるとの指摘がある 12) 。また、ゆらぎという概念は、自然科学に原典があるが、社会科学における理論構築のため、一方向的にメタファー(metaphor:隠喩)化されていると思われる。そうしたなか、自然科学から社会科学に応用しようとする議論がある。 本節では、このような議論(武者[1980]、武者他 1 [1991])のレビューを行い、社会科学における野中[1985]、今田[2005]の議論を交えながら、ゆらぎに関する概念の枠組みを検討していく。なお、野中[1985]と今田[2005]の議論は、後述の「Ⅳ 事例分析」で事例に選定している2020年に実施したインタビュー調査(以下「2020年調査」と記す。)に関連する議論である。 1 武者[1980]の議論 武者[1980]は、「人間の心が日々動いていると同時に体は老いていく」、このような「もの」が変化していく姿を「ゆらぎ」として、多様な角度から考察することをねらいとしている( 6 頁)。そのなかで、次の指摘がある。 「模範人間ばかりで構成されている社会というものを考えてみると、およそ面白くもおかしくもないに違いない。(中略)「ゆらぎ」 は「あそび」でもある。(中略)好ましい方向にゆらいでいる人間を積極的に援助する態 勢がなければ、社会の進歩発展は期待できな い。「ゆらぎ」というものは、盲人の杖のようなもので、「触手」なのである」 上述の指摘は、野中[1985]によるゆらぎの定義(134頁)や今田[2005]による自己組織性の 4 特性(28-34頁)と共通する部分がある。さらに、次の指摘がある(224頁) 「どのような「ゆらぎ人間 13) 」の存在を許すかは、その社会の判断に掛かっている。ゆ らぎ人間の存在を幅広く許容する社会では個性の分布する範囲が広いから、犯罪の発生率 も、その凶悪振りも極端かも知れないが、また才能豊かな個性もおおらかに芽をふいて、 傑出した人物が育つ素地があるので、やりがいのある社会であるに違いない。善悪両方向 へのゆらぎのなかから、どの部分を「適者」として強調するかによって、その社会の進化 する方向がきまるわけで、どういう方向に選択原理を機能させるかがその社会の持つ特異 性をきめることになる。その前提条件としては、「個性のゆらぎ」をまず許容することが 必要である。社会の「自然選択の原理」は、その社会の持つ「価値観」である」 上述の指摘は、野中[1985]による個人の自律性(143-144頁)と今田[2005]による創造的な個人(30-32頁)に関する指摘と共通するところがある。さらに、社会が何を「適者」にするかという社会の「価値観」に対する指摘は、ゆらぎが組織にどのような変容をもたらせたのか、という事後的な評価に関連すると考えられる。 2 武者他 1 [1991]の議論 武者他 1 [1991]は、ゆらぎには、確定的な事象と確率的な事象が混在していると指摘している。このうち、確率的な事象では、時間を逆にたどっても偶然と必然を区別する要素はなく、原因が多くなれば、それらがからみ合っているため、区別できないと指摘している(1- 2 頁)。また、結果論として整理すれば、因果的関係性は明らかになるが、現実には、結果は事後的に発生するため、どこまでの時系列で切るか、という初期条件の問題が発生すると指摘している( 6 頁)。それは、成果指標や計画の達成(結果)をどのように規定するか、という実践的な問題にも関連している。そのほかにも、以下のような指摘がある。 ⑴ 経験(知識量)に依存する予測値 例えば、(多数の変数の存在により)正確な初期条件を定義しきれない場合があるが、これは、自分都合(知識不足)による問題であると指摘している。ここで、組織体における変数は、構成する「ヒト」であり、その属性や数によって、変容の結果が異なると考えられる。さらに、予測が知識の量に影響を受けるとの指摘があるが、このことは、当該組織の経験に依存すると考えられる。 ⑵ ランダムのなかの法則性 予測不能性には、初期条件の違いが時間の経過とともに広がっていく場合と、初期条件やそのズレの積として不確定性が大きくなる場合の 2 つがあると指摘している。ただし、不確定な存在としての個人(非線形)も集団化すれば、規則性(線形)があらわれるため、ランダムのなかに法則性があると指摘している(10-13頁)。このことから、相関のないゆらぎは現実にはありえない、ということになる(13頁)。 ⑶ 予測(モデル)と現実とのズレ 過去の変化からの学習による予測(行為)が モデルであり、そのモデルと現実とのズレがゆらぎであると指摘している(16頁)。そのモデルは、上述のとおり、組織の経験に依存しており、ズレには、当該組織における新規性や創発性の起点である個人による発想やアイデアといった事象があると考えられる。そのため、組織の経験(貯蔵情報)によりゆらぎの性質は異なり、それを取り込む組織の受容性がなければ、発生確率は低減すると考えられる。 ⑷ 「あそび」による誘発 「決定を行う」行為は、自由度を切り捨てることであり、不確定性の広がりを止める関係性があると指摘している(33-35頁)。それは、武者[1980]が指摘する「あそび」のある組織体において、決定までのプロセスにおいて、どのようにゆらぎを発生させるか、という問題に関連する。例えば、強権的な管理志向、あるいは存在意義が低下している組織では、一定の秩序ある組織と比して、あそびが少なく、組織の変容可能性が低減すると考えられる。 3 まとめ 武者[1980]は、個人が組織を変容させていく、そして、組織が個人を積極的に援助する、このように指摘しており、野中[1985]、今田[2005]と共通する視覚にあると考えられる。そのため、2020年調査で両氏の指摘を援用し、設定している①ゆらぎ(緊張感、危機感、多様性、不安定性)、②秩序(規則、予算)、③組織体制(職場の雰囲気、個人の尊重)の測定次元には、ある程度妥当性があると思われる。ただし、武者[1980]が指摘する「あそび」、今田[2005] が指摘するゆらぎの定義 14) を考慮すれば、上述した創発的なゆらぎや組織の受容性に関する新たな視点(下位次元)を加えて、対象を拡張していくことが考えられる。 次に、武者他 1 [1991]からは、初期条件の指摘に関連して、ゆらぎの発生は、情報として切り取った時点(例えば、インタビュー時)における組織の状況に起因している。このことを踏まえて、ゆらぎの発生要因として、①組織の経験に依存している、②他の要因(秩序・組織体制)と何らかの相関がある、③モデルと現実とのズレから生じる、④あそびを許容する組織体制による、これら 4 点を考慮したデータ抽出を行う。また、本稿が自治体外郭団体に対象を限定していることから、例えば、法的な要請では共通する部分が多いほか、時間軸においても、過去か未来か(時系列)の違いはあるにしても、経験可能性としての共通部分があると思われる。その一方で、初期条件(結果の規定)に関連して、事前に組織成果(会員・利用者数等)に規定しておくことが考えられるが、各データ収集時の経験則や背景が異なる事情を考慮すれば、特定の組織成果に絞っての因果的なゆらぎの考察は、限定的な議論になる恐れがある。そのため、事例ごとに事象を抽出していくことが適当であると考えられる。 以上のことから、本稿では、初期条件と経験等を考慮しながら、2020年調査における野中[1985]によるゆらぎの定義 15) に新たな視点(下位次元)を加えることとし、それらをまとめたものが、 図表 2 である。これにより、2020年調査と比して、探索対象を広げたデータ抽出を行う。 図表 2 ゆらぎ概念の下位次元(視点) 出所:筆者作成 Ⅳ 事例分析 本節では、2020年調査のなかから、 6 つの事例を選定し、各事例の調査概要を提示した後、 前節で特定したゆらぎに関する発見事象を整理(要約)し、考察を行う。 1 事例の選定 本稿で取り扱う事例は、2020年調査における15事例 16) のうち、本稿における外郭団体の定義に該当する 6 団体を選定している。選定の理由は、調査対象に自治体外郭団体が含まれており、かつゆらぎに関するデータを集中的、豊富に収集していることによる。 2 調査概要 各事例における2020年調査時の法人概要と調査概要をまとめたものが、 図表 3 である。 図表 3 のとおり、法人類型別では、公益社団法人が 3 団体(A社団・B社団・C社団)、公益財団法人が 3 団体(D財団・E財団・F財団)である。事業種別では、高齢者就業斡旋(シルバー人材センター:A社団・B社団・C社団)、公園管理(指定管理者:D財団)、助成(教育活動:E財団)、高齢者余暇活動(老人クラブ:F財団)の各団体がある。 法人概要に関しては、とりわけ 図表 3 内の 「主な現況」欄の状況から、成果指標(会員数の増加)の達成に向けて自律的に運営している団体(A社団・B社団)、理事長の強いリーダーシップにより運営している団体(C社団)、自治体からの厳しい指導監督を受けている団体(D財団)、自治体と密接に連携した運営を行っている団体(E財団)、自治体からの人的・経済的な支援が著しく低減している団体(F財団)があり、多様である。 同様に、調査概要に関して、2020年調査は、 すべて対象法人の事務所へ筆者が 1 名で赴き、 質問紙( 図表 2 内の下線部を除く項目を中心に)を手許に置き、インタビューを行っている 17) 。そ れぞれ応対者の職名や属性が異なっている一方で、多様な情報を収集しており、一つの見方として、多面的に自治体外郭団体の特性を捉えていると考えられる。 なお、吉永[2024]では、A社団とB社団の事例を取り扱っているが、本稿では、 図表 2 に基づく新たな視点を加えて、より詳細かつ濃密な情報を抽出している。 図表 3 2020年調査の概要 出所:筆者作成 図表 3 (続き) 2020年調査の概要 出所:筆者作成 3 発見事象 図表 3 内の「法人概要」を踏まえて、2020 年調査の各事例におけるゆらぎ概念に関連する発見事象をまとめたものが、 図表 4 である 。 図表 4 発見事象 出所:筆者作成 図表 4 (続き) 発見事象 出所:筆者作成 4 事象の整理 上述の「 3 発見事象 」を基に、各事例の現況( 図表 3 内)を考慮しつつ、 図表 4 のゆらぎの発見事象の特徴から共通項目を設定・整理したものが、 図表 5 である。なお、 図表 5 内に記載の丸数字は、 図表 4 の各欄に記載の丸数字に対応している。 大きくは、 5 つの項目(現状への疑問、運営上のあいまいさ、経営資源の不足、外部からの監視、外部からの期待)に区分することができる。全体に共通して、「 3 .経営資源(とくに財源と人材)の不足」を指摘していることが分かる。これは、財政基盤の弱い非営利組織の特性 18) に関連すると考えられる。さらに、「 4 .外部から の監視」を意識しており、これは、公益法人制度改革に関連して、自治体外郭団体に対する国民からの目(偏見)に起因していると考えられ る。その一方で、 図表 3 における「 2 .主な現況」欄の内容から、革新的と思われる団体(A 社団・B社団・C社団)では、「 1 .現状への疑問」を組織変容の兆しとして、内発させていることが分かる。その一方で、現状維持、あるいは低迷期にある保守的な団体(D財団・E財団・F財団)では、ほとんどないことが分かる。これは、外圧的な要因が影響していると考えられる。さらに、自治体との連携志向が強く、かつ少人数の 団体(E財団)においては、意思決定を自治体に委ねる受動的な運営であり、ゆらぎが発生しにくい状況にあると考えられる。 図表 5 項目ごとの事象整理 出所:筆者作成 5 考察 図表 5 を踏まえて、次のように考察することができる。 「 1 .現状への疑問」は、既存秩序と比して、多様なズレに対する認識である。そのため、自治体代行者としての自覚、各種内部規定の整備状況、従業員間の共通理解といった当該組織の認識の程度により、ゆらぎの発生頻度が異なると考えられる。「 2 .運営上のあいまいさ」は、程度はともかくとして、いずれの団体(組織)にも存在すると思われる。ただし、外部からの関与が高まれば、顕著に表れる傾向にある(D財団)と考えられる。「 3 .経営資源の不足」は、安定した運営を妨げる(不均衡)要因であり、そのような意味において、組織の存続(有機体としての生命維持)を図るため、断続的にゆらぎを発生させていると考えられる。さらに、「 4 .外部からの監視」「 5 .外部からの期待」のように、外部(自治体や地域住民)からの評価に対する意識がゆらぎとなっている。これは、大綱で指摘のあった国民からの批判に関連している。また、 2 つに区分した対照的(動的・静的) な事例から、行政からの関与が強くなると、運営上のゆとり(あそび)がなくなり、自主性・ 自律性が損なわれ、結果として、ゆらぎが発生しにくい状況になると考えられる。 図表 3 と 図表 4 の内容から、自治体外郭団体は、コンプライアンス意識が高く、既存秩序を優先する指向があると考えられる。ただし、それは、既存秩序が正しいとする硬直的な思考でもあり、ゆらぎを発生させる頻度が低くなる傾向にあると思われる。その一方で、別の見方として、既存秩序から逸脱しない運営に重点が置かれていることから、自己言及的に秩序の是非を問うゆらぎを発生させていると考えられる。つまり、既存秩序には、ゆらぎの発生要因と抑制要因にはたらく二面性がある、ということである。また、 図表 3 における同地域の外郭団体の不正による行政指導(D財団)、あるいは当初の目的が達成されつつあるなどの停滞期・衰退期に直面している団体(F財団)にとっては、秩序の維持が困難となり、そのような状態では、行政(他者)からの関与が強くなる傾向にある。それは、自治体の秩序(官のシステム)に取り込まれることを意味しており、そのことによって、自主性や自律性が損なわれ、自己の秩序が崩れていくと考えられる。 このように、ゆらぎと秩序の状況と組織の現状(成長期・衰退期)の 2 つの要因との間に相関性があると考えられる。また、秩序が維持できない状況では、ゆらぎの発生機会が低減し、硬直的になると思われる。そして、そのような状況では、職員を尊重する余裕(ゆとり)はなく、人間関係を良好に維持することが困難(コミュニケーションの減少)となり、結果として、 ゆらぎの発生を抑制する要因になると考えられる。 Ⅴ 仮説の提示 「Ⅳ- 5 考察」に基づき、将来の実証分析で検討する仮説を以下のように設定する。 1 経営資源 非営利法人の特性として、経営資源(とくに財源と人材)が不足しているとの観点から、以下の 2 つの仮説を設定した。 仮説①:従業員が少ない組織ほど、ゆらぎの発生頻度が少ない。 仮説②:財源の不足感は、断続的なゆらぎの発生要因となる。 2 外部評価 大綱による外郭団体への批判、事例にあった自治体からの関与の状況から、以下の 2 つの仮説を設定した。 仮説③:外部(自治体や地域住民)からの厳しい評価は、ゆらぎの発生頻度を高める。 仮説④:行政からの指導監督等の関与が強くなれば、ゆらぎの発生頻度は低下する。 3 秩序 ゆらぎと秩序の関連性から、以下の 2 つの仮説を設定した。 仮説⑤:自治体による人的な関与が強い団体は、ゆらぎの発生頻度が低い。 仮説⑥:自ら秩序化が進行している団体は、自己言及的なゆらぎの発生頻度が高い。 4 個の創発性 ゆらぎと組織体制の関連性から、以下の 2 つの仮説を設定した。 仮説⑦:拘束的かつ徹底した従業員の管理は、ゆらぎの発生を抑制する。 仮説⑧:コミュニケーションが図られている体制では、ゆらぎの発生頻度が高い。 以上、 8 つの仮説を設定するほか、仮説検証にあたり、①応対者の職位や属性、②団体の背景(変化)、③直面している状況、④設立目的の達成度合い(成長期・停滞期・衰退期など)をあわせて調査する。 Ⅵ おわりに 本稿は、自治体外郭団体におけるゆらぎの一般化を図る、その研究過程における仮説の生成を試行した。この試行にあたっては、自治体外郭団体で働く人々の意識や行動に関する他に例の少ないデータを提示しており、今後の進展に貢献できたように思われる。その一方で、自治体外郭団体が他の組織と比して、類似性がなく、すべてにおいて特殊というわけではない。例えば、企業等組織においても、子会社や下請けという組織間の関係性があるように、受動的な立場にある組織が存在する。また、コミュニティ機関として、地域と密着した運営を行っている非営利組織があり、そのような共通する視点から、本稿をヒントに応用的な考察が可能になると思われる。 しかし、課題も多くある。2020年調査では、野中[1985]によるゆらぎの定義を用いて、概念操作による測定次元の設定を行っている。その経緯から、ゆらぎ事象の限定的なデータ収集となっていることは否めない。また、事象を整理するための各項目の設定に関しても、異なる切り口での整理が可能であると思われ、検討の余地が残されている。 最後に、本稿の含意を述べる。各調査から感じられたことであるが、国等による諸施策によって、外郭団体の自律性が求められているなか、自ら変容することができない、あるいは既存の秩序に従わざるを得ない、といった思い込みのもと運営を行っている組織があるように思われた。それは、既成概念に囚われ、規則が優先される、あるいは失敗を避ける、このような保守的、消極的な態様を自らで作り出している、という疑問である。そうではなく、組織には、その一部であれ、自ら変容する能力(自己組織化能 19) )があり、構成員それぞれによる自己言及的な意識や行動が求められるのではないだろうか。 また、従来、自治体外郭団体の秩序は、首長を含めた自治体職員側の意向を反映したものであった。しかし、年月の経過とともに、(在籍年数の長い)プロパー職員側にシフトしている部分があるように思われる。そのため、定期的な自治体職員の出向等が組織変容をもたらすゆらぎになる場合がある。つまり、組織にとってのゆらぎは、「ヒト(職員)」の属性に関わりはなく、現状に満足せず、多様な変化を読み取る個の力である。そして、ゆらぎを引き出せる機会の創出、またそれを許容する組織のあり方、このようなマネジメントが求められていると思われる。 [謝辞] 本稿執筆にあたり、本学会報告における吉田忠彦先生・吉田初恵先生・東郷 寛先生ほか諸先生方からの建設的なご指摘、 2 名の匿名査読者による貴重なコメント、そして、筆者を励まし続けてくれる元同僚の冨澤 諭氏に対して、心より感謝申し上げたい。 [注] 1) 仮説検証とは対照的に、収集したデータを解析するなかで新たな理論や仮説を構築する研 究である。例えば、小熊[2022]の指摘がある。 2) https://www.gyoukaku.go.jp/about/taiko.html 、令和 6 年12月21日アクセス。 3) 小泉内閣時(平成15年)に「官から民へ」「小さな政府」を合言葉に進められた施策である。 4) 公益法人の根拠法が1898(明治31)年の施行以来、約110年ぶりに改正され、従来からの主務官庁による公益法人の設立許可、および指導監督等の裁量的な事務が廃止された。 5) 内閣府[2019a、2019b]を参照のこと。 6) 例えば、吉永[2023]が指摘している自己組織性の類型の見方(表 1 )がある(113頁)。 7) 例えば、吉永[2023]によるオートポイエーシス論の指摘を参照のこと(118-119頁)。 8) 例えば、伊藤[1993]の指摘を参照のこと(82-84頁)。 9) 千葉[1984]は、社会科学の研究方法は、細分化主義、統計的分析手法、これらを重視することが 1 つのスタイルになっていると指摘している(68-70頁)。 10) 柴谷[1977]は、科学には、定量化しないと客観的に扱えないという一般的な信念があるため、複雑な対象や非線形の系の例では、科学的解析の材料となりにくく、それへの理解がなおざりになっていると指摘している(243 頁)。そのうえで、非線形過程を数学的ではなく、言語的解析を通じて、直感的・定性的・ 実践的に理解する系統的方法論としての唯物弁証法についての弱点も含めて言及している (255-256頁)。 11) Yin[1994]を参考にしている(38-45頁)。 12) 例えば、庭本[1994]の指摘がある(38頁)。 13) 武者[1980]は、良い意味でも悪い意味でも標準人間とは異種の存在としている(224頁)。 14) 「システムの均衡状態からのズレ、その延長として既存の枠組みからのズレ」である(19頁)。 15) 「組織内に緊張、危機感、変異、混沌などを内発させ、組織の構成単位の選択の多様性、迷い、あいまい性、遊び、不規則な変化(ラ ンダムネス)、不安定性などを内発させる現象」 である(134頁)。 16) 2020年調査のデータの大部分は、吉永[2021]に収録している。 17) 調査先には、事前に了承を得て、すべてICレコーダーで録音を行い、文字起こしの内容については、2 度の確認をしていただいている。 18) 例えば、田尾他 1 名[2009]による指摘がある(31-32頁)。 19) 例えば、高橋[2021]による指摘がある(90頁) [参考文献] 伊藤公雄[1993]「書評 吉田民人著「主体性と所有構造の理論(東京大学出版会)」、『ソシ オロジ』第38巻 2 号、79-84頁。 今田高俊[1986]『自己組織性』、創文社。 今田高俊[2005]『自己組織性と社会』、東京大学出版会。 小熊英二[2022]『基礎からわかる論文の書き方』、講談社現代新書。 柴谷篤弘[1977]『あなたにとって科学とは何か』、みすず書房。 田尾雅夫他 1 名[2009]『非営利組織論』、有斐閣。 高橋宏誠[2021]『組織開発の理論化と実証研究―自己組織化能の解放―』、勁草書房。 千葉康則[1984]「Ⅱ 直感と科学」、林知己夫 他 1 名[1984]、『あいまいさを科学する』、 講談社、55-96頁。 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- 第11回学会賞・学術奨励賞 | 公益社団法人 非営利法人研究学会
学会賞・学術奨励賞の審査結果 第11回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告 平成24年8月25日 非営利法人研究学会 審査委員長:堀田和宏 非営利法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第11回学会賞(平成23年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)、学術奨励賞(平成23年度全国大会における報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文及び刊行著書)及び学術奨励賞特賞(平成23年度全国大会における報告 に基づく実務者の論文及び刊行著書)の候補作を慎重に選考審議した結果についてここに報告いたします。 1. 学会賞 該当作なし 2. 学術奨励賞 該当作なし 3. 学術奨励賞特賞 該当作なし
- 第27回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会
第27回大会記 2023年9月16日~17日 大阪商業大学 統一論題 「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」 1 はじめに 公益社団法人非営利法人研究学会第27回全国大会が、2023(令和5)年9月16日(土)・17日(日) の両日、大阪商業大学(大阪府東大阪市)のユニバーシティホール蒼天、4号館2階・3階等を会場として開催された。 2023年5月に新型コロナウィルス感染症も5類感染症に移行したことから、本大会もすべてのプログラムを対面で実施した。幸い両日とも好天に恵まれ、全国から90名を超える多数の会員・非会員の出席をいただいた。 本大会では、統一論題を「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」と設定し、社会の中で非営利法人(非営利組織)をいっそう振興し、幅広く支援する政策や活動、制度や仕組みのあり方について、研究報告や討論会を行うこととした。 大会中は統一論題報告、自由論題報告、四つの分野別研究会と一つのスタディグループによる研究報告が行われた。また、本大会独自の企画ワークショップや企画セッションでは、非営利法人による公益的活動の持続的発展や柔軟な展開に資する法制や税制、支援のあり方について、理論と実務の両面から議論を深めることができた。 大会前日の9月15日(金)に常任理事会と理事会、16日(土)に社員総会と新理事会が開催された。 2 統一論題 報告及び討論 かつて東西冷戦の終結を背景として、世界的な民間非営利セクターの台頭が論じられた。爾来四半世紀余りを経て、わが国でも非営利法人(非営利組織は、社会や地域の充実・発展に不可欠な 主体として大いに普及、定着してきた。一方、公益法人制度をはじめさまざまな法人類型にわたり不断に改革が重ねられている。 ロシアによるウクライナ侵攻など国内外における政治・経済・社会の激変の下、政府、民間企業と鼎立する非営利法人(非営利組織)は、改めてその存在意義や果たし得る役割、機能を強く問われている。 そこで、本大会では、前掲のとおり、統一論題を「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」と設定し、3名の会員による「報告」、座長の進行の下「討論」を行った。 2.1 統一論題報告 (16日、13:00-14:45) (1) 解題(統一論題趣旨説明) [司会]初谷 勇 氏(大阪商業大学) 導入として、統一論題を「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」と設定した趣旨説明と本論題に込めた問題関心、次いで3名の報告者の紹介ならびに報告を依頼した趣旨など「解題」がなされた。 統一論題報告では、非営利法人(非営利組織)の一層の充実と伸展を支える振興策や支援活動等 について、現状を把握、評価し、解決の急がれる課題について、取り組むべき方策等も含めて論ずるものとした。特に、「国民、市民や専門家など個人」、「民間企業、中間支援団体、士業団体など組織や団体」、「国・地方自治体の政策、制度」の各々による振興と支援という3つの側面と、それらの側面相互の関連性も踏まえつつ、理論と実践をつなぐ活発な議論を目指すものとした。 次いで、各報告者から以下の研究報告がなされた。 (2) 第1報告 「専門職・士業団体による公益的活動と非営利法人の振興と支援:弁護士及び弁護士会の取り組みを事例として」 三木秀夫 氏(弁護士) 本報告では、まず、三木氏が弁護士、プロボノとして早期から培われた非営利法人(非営利組織)への持続的な関心と、さまざまな非営利法人への多角的な関与の経験が紹介された。 その上で、「専門職・士業団体の制度的な位置づけと、その公益的活動とは何か。それらの公益的活動には、非営利法人の振興と支援に当たるものがあるのか」という問題関心の下に、①個々の弁護士個人による自発的な公益的活動、②単位弁護士会やそれらの連合会という組織の活動、③弁護士や弁護士会の運動や提言に基づき、あるいは契機として推進、整備されている政策や制度、という3つの局面から見た非営利法人(非営利組織)の振興と支援について論じられた。 (3) 第2報告 「非営利法人の振興に寄与する『中間支援』とは何か:NPOそして中間支援組織の言語論的転回の視点」 吉田忠彦 氏(近畿大学) 本報告では、まず経営学、組織論の研究者として、吉田氏が非営利法人(非営利組織)への問題意識を抱いた経緯と、多年にわたり研究対象としてきた「中間支援組織」の系譜、現状の紹介がなされた。 その上で、「非営利法人の振興に寄与する『中間支援』とは何かを論究」し、「『NPO』、『中間支援組織』を、言語と活動との関係から分析する」ことを研究目的とし、その考察のために、わが国で非営利法人(非営利組織)の「中間支援組織」と見なされる組織の系譜と発展の経緯、それらの組織の設立パターンを整理された。 次いで、「NPO」、「中間支援組織」という言語と、実際の組織やその活動の実体との結びつきに「ゆれ」があるとし、「中間支援組織」という用語とその意味を分析するアプローチとして、「人文学における言語論的転回の視点を導入」して説明された。 (4) 第3報告 「非営利法人の官民協働理論の応用としての『フィランソロピー首都』創造に向けた取り組み」 出口正之 氏(国立民族学博物館) 本報告では、まず、非営利研究者として、文化人類学的な視点から会計問題に関心を伸展させてきた出口氏の、非営利セクターの振興と支援に関するこれまでの取り組みが紹介された。 その上で、「アンソロビジョン(人類学的思考)で非営利法人制度を再検討」するため、大阪府・ 市の政策に参与し、その「副首都ビジョン」(2017年)で副首都の4機能の1つに挙げられた「民都」の具現化を図り、非営利セクター全体の民間組織を目指す「『民都・大阪』フィランソロピー会議」 を発足させて運営してきた経験とその活動成果について報告された。 次いで、この「民都・大阪」フィランソロピー会議の運営の羅針盤として、Bryson、Crosby、Stoneらの論文で示された「セクター間協働」の成功の要素に係る「22の提案」を参照したことが紹介され、実際に適用・援用した結果を評価された。 2.2 統一論題討論 (16日、17:15-18:15) 統一論題「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」について上記の3報告を受けて、同日後刻 に、統一論題の討論が行われた。 討論者を兼ねる座長(初谷 勇 氏)から、3報告に対してコメントと質問がなされ、三木秀夫 氏、 吉田忠彦 氏、出口正之 氏の各パネリストから回答やコメントが返され、活発な討論が行われた。フロアから寄せられた質問にも、指名を受けたパネリストから応答がなされた。 3 自由論題報告 今大会は、2022年12月に改正された新たな学会諸規程に基づき運営したところであるが、自由論題報告についても、地域部会での報告、推薦を得て応募する方法に加え、大会準備委員会に直接申し込み応募する方法が整えられたことから、2023年6月末の締切までに、両方法の選択により計7名の会員の応募があった。 7月初旬に準備委員会を開催し、応募原稿の形式・内容を確認の上、全ての応募を採択し、大会で報告をいただいた。後掲のスタディグループ中間報告と合わせて、大会両日とも同時に4会場に分かれ、おのおの個別に司会者を立て、平行して以下の自由論題報告がなされた。各会場では、報告に対して真摯な質疑応答が交わされた。 3.1 自由論題報告① (16日、16:20-17:00) (1) 第1報告 (16日、1-1) [司会]馬場英朗 氏(関西大学) 「公益法人に要求される収支相償の考察 ― 特定費用準備資金と地方財政法等に係る積立基金の比較 ―」 苅米 裕 氏(税理士) 本報告では、公益認定基準の一つである収支相償に対する問題意識から、「年度間の財源調整等の規定が、地方公共団体には前年度までの歳入欠陥を埋めるための財源、及び災害等により生じた経費又は減収の財源として、財政調整基金の積立による対応が図られているが、公益法人には過去の正味財産の減少額を充当すること、また、災害等の不確実な事象に対するその対応措置が存していない」ことに着目し、「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告で当該対応の欠落をフォローする公益充実資金(仮称)の措置を求める旨の記載がなされていることを評価し、「地方公共団体の財政運営に類似する環境下を参考とする対応」を期待するとされた。 (2) 第2報告 (16日、1-2) [司会]中嶋貴子 氏(大阪商業大学) 「自治体外郭団体の運営実態に関する研究 ― 自己組織性の視角による考察に基づいて―」 吉永光利 氏((公財)倉敷市スポーツ振興協会) 本報告は、「自治体外郭団体が国等による多様な行政施策に対応しながら、どのような運営を行っているのか、自己組織性の視角から、その実態を考察するものである」。 外郭団体は、「その特性から、組織の存続可否も含めて、国等が行う施策の影響を受けることが多い」が、「従来の国等による支配的・管理的な運営から脱却し、自律性をもった運営へと転換している事例が見られる」。そこで、本報告では、「自治体外郭団体の運営がどのように変わっているのか、とくに、変容の起点となる人(職員)の意識や行動に焦点を当てて、運営の実態を考察」している。 ⑶ 第3報告 (16日、①-3) [司会]吉田初恵 氏(天理大学) 「戦中期自伝からみる企業家フィランソロピストの篤志観形成史 ― 石橋正二郎と水明荘夜話」 川野祐二 氏(下関市立大学) 本報告では、「日本を代表する非営利法人の多くが、日本を代表する企業家たちによって創設され、また支援されてきた」こと、また、「時代を象徴する社会貢献事業は、企業を率いた『企業家』によって実行に移された」との認識の下、「ブリジストンの創業者にして、石橋財団や九州医学専門学校 などを創設、芸術と教育の社会事業家でもあった石橋正二郎をとりあげ」ている。1944(昭和19)年11月という「戦中期に記された石橋正二郎初の自伝『水明荘夜話』に注目し、戦中期およびその前後における彼の篤志観の一端を歴史的に考察」された。 3.2 自由論題報告② (17日、16:20-17:00) ⑴ 第4報告 (17日、②-1) [司会]馬場英朗 氏(関西大学) 「決算書から見るNPO法人会計の問題点 ― 北海道をケースとして ―」 大原昌明 氏(北星学園大学) 本報告では、「適正な決算書を作成することは、法人のミッションを遂行するための会費収入や寄付金収入を安定的に受け取るための大前提」としたうえで、「NPO法人の決算書作成実務に存在する問題点を、実態調査(北海道内のNPO法人の全数調査)を通して抽出し、その問題点を解決するための方策を考察する検討資料」を提示している。決算書作成にかかわる問題点として、⑴会計基準準拠か否か、⑵計算構造周知の不徹底さ、⑶すべてがゼロ法人、⑷区分表示と項目の適否の4点、また、情報開示の現状に関する問題点として、3割程度の法人が事業報告書等を所轄庁に未提出であることを指摘し、これらの問題点を解決し、信頼性を高め、比較可能性を担保するためにも、会計基準準拠の決算書作成をなお一層啓発すべきと提言されている。 ⑵ 第5報告 (17日、②-2) [司会]中嶋貴子 氏(大阪商業大学) 「地方自治体が推進する要保護児童を対象とした就農プロジェクト~きつきプロジェトの事例~」 山田敦弘 氏(日本総合研究所) 本報告では、近年「人口減少などに起因する様々な課題を抱える地方自治体において」、「福祉を推進することで地域再生も合わせて推進することができれば、理想的な取組みである」との問題意識の下に、報告者も深くかかわった大分県杵築市における「きつきプロジェクト」(大分県内の九つの児童養護施設の入所児童を対象に、杵築市の農家及び農業法人で1日~数日の就農体験をしてもらう事業)の事例研究を行っている。「福祉の推進」と「地域再生」の連携の可能性、直面する課題、解決ポイントなどについて、主に地方自治体の立場に立って分析した成果が発表された。 ⑶ 第6報告 (17日、②-3) [司会]森美智子 氏(熊本県立大学) 「我が国の非営利組織会計統一化の必要性 ― 病院及び社会福祉法人会計の相違点に焦点を当てて ―」 谷光 透 氏(川崎医療福祉大学) 本報告では、「医療法人であっても社会福祉事業を行うことができるため、社会福祉事業を主たる事業としている社会福祉法人と事業が重複しており、それぞれ会計基準が異なるために事業の横断的理解が困難」な現状にあるとの問題意識の下、「⑴病院会計準則、医療法及び社会福祉法の目的」 と「⑵それらの目的に沿った情報開示制度の現状」の視点から、非営利組織会計統一の必要性について検討がなされた。 ⑷ 第7報告 (17日、②-4) [司会]藤澤浩子 氏(法政大学) 「地域担当職員制度の真価」 井寺美穂 氏(熊本県立大学) 本報告では、「人口減少時代の地域経営/自治体経営のためには、地域と行政の対話や協働を促し、双方が知恵を出し合いながら、効率的に問題へ対処していく必要があり」、「地域問題に対応可能な地域の自治力を向上・維持するためには、自治力を補完する仕組みの構築が必要である」との問題認識の下に、仕組みの「一つである地域担当職員制度」を取り上げている。 多くの自治体に注目されながらも、浸透していない同制度の「問題点を考察しながら、その有用性に注目し、地域への適応可能性について検討」している。熊本市、長洲町など熊本県内4市町における同制度運用状況の調査結果も踏まえ、地域担当職員制度の機能と逆機能を挙げ、それらの逆機能を解消し、有用性を高めるよう、「自治体組織全体による総合的な仕組みづくりに関わるような制度設計」の必要性を説かれた。 4 分野別研究会報告(17日、9:30~12:10) 分野別研究会報告は、大会2日目の17日午前に、四つの研究会の報告を連続して実施した。分野別研究会は2年間の活動期間とされており、「公益・一般法人研究会」は初年度をおえての中間報告、 「NPO法人研究会」、「医療・福祉系法人研究会」、「大学等学校法人研究会」の3者は2年度目をおえての最終報告であった。 なお、2022年12月の学会諸規程の改正により、現行の分野別研究会は、各々その最終報告をもって終了するものとされ、新たに特別委員会が設置されることとなった(その後、今大会時の理事会で二つの特別委員会の設置が承認されている)。 4.1 分野別研究会報告⑴ (17日、9:30~10:10) 「公益・一般法人研究会」 (中間報告) [座長]尾上選哉 氏(日本大学) [司会]櫛部幸子 氏(大阪学院大学) 公益・一般法人研究会では、「寄付という経済事象に関わる種々の現状や課題を明らかにするとともに、課題に対する解決策をも可能な限り模索し提示することを目的として」、「寄付について、会計・法律・税務・経営という多角的な視点から考察・検討を行うもの」とされている。 今回の中間報告では、全5章からなる中間報告書が提出され、座長の尾上選哉氏の司会により、 「研究報告の章立て」(予定)のうち、「第1章 寄付にかかる会計のあり方」(尾上選哉氏)、「第3章 寄付の使途拘束をめぐる慣行と法的問題―公益法人の自律性と説明責任を踏まえたリスクマネジメント―」(久保秀雄氏)、「第4章 寄付にかかる税務」(上松公雄氏)の3報告が行われた。 なお、次年度全国大会での最終報告では第2章、第5章を中心に報告を行い、最終報告書を作成、配布の予定とされた。 ①「寄付にかかるスチュワードシップ会計」 尾上選哉 氏(日本大学) 本報告では、「非営利組織における寄付の受領の重要性という観点から、自発的な反対給付を伴わない寄付を受領し、その寄付を主な資金源として活動する非営利組織において、どのような会計を行うことが、非営利組織のミッション(使命)継続につながるかを考察・検討された。 ②「寄付の使途拘束をめぐる慣行と法的問題 ― 公益法人の自律性と説明責任を踏まえたリスクマネジメント―」 久保秀雄 氏(京都産業大学) 本報告では、「使途に制限が課された使途拘束のある寄付に関して、受領者が何らかの事情でその制限に従うことができなくなった場合、受領者はどのように対処するのが望ましいのか」との問題関心の下、寄付の使途拘束をめぐる慣行と法的問題を検討している。公益法人を主な対象に、若干の事例に関する探索的調査から、寄付者の意思を受領者(受贈者)がいわば拡大解釈して使途の変更を行い、寄付の有効活用が図られている現状を把握し、そうした対処のリスクを法的問題と寄付の促進に対するブレーキという観点から指摘した上で、有効な対策の提案を試みられた。 ③「寄付に係る税務」 上松公雄 氏(大原大学院大学) 本報告では、「誰が、どのような資産を、どのような機会、経緯、理由によって、どのような非営利法人に寄附をした場合に、どのような租税法規及び税務上の取扱いが適用されるのかについて整理すること」を目的として、まず課税上の原則的取扱い、寄付の実施形態を述べ、拠出者が個人である場合の租税負担軽減または非課税の特例等と、租税回避防止規定が検討された。 4.2 分野別研究会報告 ⑵(10:10~10:50) 「NPO法人研究会」 (最終報告) [座長]初谷 勇 氏(大阪商業大学) [司会]澤田道夫 氏(熊本県立大学) 「共通論題:NPO法人制度の特長と新たな展開の可能性」 NPO法人研究会では「NPO法人制度の特長と新たな展開の可能性」を共通論題として設定し、 各委員による個別論題の研究報告やゲストによる報告など議論を重ねてきたことが示され、今回は、最終報告として、委員の澤田道夫氏の司会により、4委員から次の4報告がなされた。 ①「非営利法人の体系とNPO法人」 初谷 勇 氏(大阪商業大学) 本報告では、非営利法人の体系化のとらえ方(枠組み)と、NPO法人の位置づけや意義について、系統分類学や文化系統学の先行研究も踏まえて「系統」と「分類」の観点から整理した上で、まず「系統」問題として、一般法人法の一般法化とそのなかでのNPO法のあり方やNPO法人の方針選択について、また「分類」問題として、非営利法人の類型(形態)分類、事業分類等における分類基準について論じられた。 ②「町内会・自治会基盤の非営利組織法人化の意義と課題:横浜市内18区地区センター指定管理者 調査から」 藤澤浩子 氏(法政大学) 本報告では、横浜市において、従来、施設管理目的の地縁系団体であった「区民利用施設協会」 を前身とする法人が、18区の地区センター等複数の住民利用施設の指定管理者となっていることに着目し、「地縁系組織の法人化」のケーススタディとして、その法人形態、組織体制、組織化の沿革、業務内容・組織運営等について精査した結果に基づき考察を加えられた。 ③「地域コミュニティの持続可能性とNPO法人制度」 澤田道夫 氏(熊本県立大学) 本報告では、「NPO法人等の活用による自治会等の法人化が、地縁組織の活性化を可能とするのではないか」との問題意識に基づき、きらりよしじまネットワーク(山形県)、東陽まちづくり協議会子育て支援ネットワーク(熊本県)、坪井川遊水池の会(同左)の三つのNPO法人の事例調査も踏まえ、地縁組織の法人化に求められる当事者の意識とNPO法人の強みについて論じられた。 ④「コロナ禍がNPO法人の財務に与えた影響」 中尾さゆり 氏((特活)ボランタリーネイバーズ) コロナ禍は、NPO法人の活動に大きな影響を与えた。人が集まり交流する活動ができず存続の危機に直面した団体がある一方で、困難を抱える人々への支援活動が拡大し、新たな寄付金や助成金を獲得し、活動を広げた団体もある。 本報告では、2020年度分・2021年度分として名古屋市に提出されたNPO法人の財務諸表を分析し、コロナ禍がNPO法人の財政状態に与えた影響を調査するとともに、各法人の事業報告書から各種施策の活用状況等を把握した。これらの調査結果を通じて、コロナ禍におけるNPO法人の財務基盤の状況を踏まえた支援について検討、考察がなされた。 4.3 分野別研究会報告⑶ (17日、10:50~11:30) 「医療福祉系法人研究会」 (最終報告) [座長]・[司会]鷹野宏行 氏(武蔵野大学) 医療福祉系法人研究会では、今回、最終報告として、委員3名の報告がなされた。 ①「労働者協同組合会計基準のあり方~会計基準の設定主体論の見地から~」 鷹野宏行 氏(武蔵野大学) 「平成18年、各種協同組合法の改正により、本法ないし施行規則に公正なる会計慣行へのいわゆる『しん酌規定』が明文化された」。「令和4年10月に労働者協同組合法が施行され、同法第75条には、『組合の会計は、一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従うものとする』とし、いわゆるしん酌規定が明文化されている」。 本報告では、「労働者協同組合法の施行により、労協における会計基準も議論のそ上にのせるべき」であり、「株式会社とは似て非なる協同組合における独自の制度を企業会計との比較において検討することも、それなりに意義があると思われる」との問題意識から、協同組合セクターの中の農業協同組合、中小企業等協同組合、生活協同組合の各系統の協同組合における会計基準について、その有無、名称、設定主体を比較し、労働者協同組合会計基準の設定の必要性、設定主体、内容等の論点を指摘された。 ②「社会福祉法人の大規模化・協働化の政策課題と方向性」 千葉正展 氏(独立行政法人福祉医療機構) 中小・零細な事業者が多いとされる社会福祉法人について、国の審議会等で、医療・介護・福祉の効率化の観点から規模の拡大・協働化を求める意見が度々示されている。一方、社会福祉法人の規模の議論では、法人の有する施設数に係る「1法人1施設の解消」と、一つ一つの施設の規模(=定員数)に係る「施設の規模拡大」の二つの側面の混同も見受けられる。社会福祉法人の事業の性格(労働集約型産業に類する事業)や、社会福祉施設に定められている各種の最低基準の存在などが、規模の経済性の制約要因となっている可能性もある。 本報告は、こうした問題意識の下、「社会福祉法人の規模の経済性について、社会福祉法人の財務諸表電子開示システムのデータを用いて分析し、現下進められている社会福祉法人の事業展開を誘導する政策についての方向性・あり方を検討」し、「拠点規模を拡大しつつ、そこで提供されるサービスについては、個別ケア、地域密着ケアが提供されることを目指すのが有効ではないか」とされた。 ③「労働者協同組合の設立動向 ~ 労協ながのへのインタビューをふまえて ~」 佐藤正隆 氏(武蔵野大学) 本報告では、「長野県で第1号の労働者協同組合の法人格の取得団体」である労協ながのに対するインタビュー調査を通じて、法人格取得の動機や意思決定、「出資」・「労働」・「経営」の三点における根本的な考え方や運営状況、同組合の今後の課題等を明らかにし、労働者協同組合の設立動向について説かれた。 4.4 分野別研究会報告 ⑷(17日、11:30~12:10) 「大学等学校法人研究会」 (最終報告) [座長]・[司会]柴 健次 氏(関西大学) 今期の大学等学校法人研究会は、前期研究会の主題(「大学のガバナンスとアカウンタビリティ」)を引き継ぎつつ、さらに「経営体としての大学に求められること」を主題(研究テーマ)に掲げ、本報告時に全11章からなる最終報告書を提出された。 本報告では、同研究会の最終報告として、座長の柴健次氏の司会の下、次の2報告が行われた。 ①「経営体としての大学に求められること」 柴 健次 氏(関西大学) 本報告では、柴健次氏が、座長として研究会の主題:「経営体としての大学に求められること」につき研究を推進するため提示された「図解」に基づき、研究会で行われた各委員等の個別報告(最終報告書の各章に収録)を俯瞰し、それらの主題との関わり、位置づけを明らかにしつつ、各々の要旨を説かれた。 同図解は、「大学の経営」を中心に据えて、上方に経営を統制する「ガバナンス」を置き、下方に経営の結果の報告につながる「会計やその他の報告(特に統合報告)」を置く縦のライン、左方に「研究」を置き、右方に「教育」を置く横のラインを想定している。同研究会では縦のラインと横のラインを総合的に考えて、「経営体としての大学」を追求している例として東京大学を研究の中心に据えたことから、座長より、委員である青木志帆氏の「実践事例:『公共を担う経営体』としての東京大学の取組」の要点も紹介、解説された。 ②「世界大学ランキングとその問題点」 工藤栄一郎 氏(西南学院大学) 本報告では、わが国において、従来「事前規制型コントロール」として機能していた大学設置基準から、大綱化以降、自己点検・評価に基づく認証評価制度が「事後確認型コントロール」として質保証が図られていること、他方、高等教育の市場(教員学生)のグローバル化を背景として「市場型大学評価」として世界大学ランキングが登場したことを踏まえ、ランキングの特性(評価主体、評価方法)、3大世界大学ランキング、評価指標の仕組み(メソドロジー)、ランキングがもたらすさまざまな問題について論じられた。 5 スタディグループ報告(中間報告)(16日、11:00-11:50) スタディグループは、昨年度活動期間の1年延長が承認され、2回目の中間報告がなされた。 「非営利組織の持続可能性と連携:ソーシャル・サービスの連携推進の発展可能性をめぐる多角的検討」 [座長]・[司会]國見真理子 氏(田園調布学園大学) ①「今期のSG研究活動に関するご報告」 國見真理子 氏(田園調布学園大学)、榎本芳人 氏(厚生労働省) 「医療や福祉等の分野では、ソーシャル・サービス提供の持続可能性の面から『連携推進法人』 を発足させる動きがある。」 本報告では、まず座長の國見氏から、「これらの連携推進がどのような内容でどのように展開されているのかという特徴や現況の把握、現状ではどのようなメリットやデメリットがあるかについて検討」し、同制度の今後の展開について考察された。 次いで、榎本氏から、スタディグループによる連携推進法人の訪問調査の結果として、社会福祉法人(京都府、滋賀県)、社会福祉連携推進法人(和歌山県)、地域医療連携推進法人(滋賀県)の4事例が報告された。 ②「ソーシャル・サービスの連携推進の海外事例:米国のIntegrated Healthcare Networkを中心に」 尾上選哉 氏(日本大学) 本報告では、2017年に地域医療連携推進法人が創設された背景を確認した上で、同法人創設の際に参考とされた米国のIntegrated Healthcare Network(IHN)の経緯や、「医療の質向上とコスト抑制をも追求する」「医療事業体」としての特徴を考察し、その形態別の構成員のあり方や意思決定の一元化など今後の検討課題を提示された。 ③「米国の非営利組織会計におけるヘルスケア事業体の位置づけ」 金子良太 氏(國學院大學) 本報告では、「日本の連携推進法人制度を検討するにあたり、より広域連携や医療組織の大規模化が進んでいる米国の事例を参照することは有用」との認識の下、FASBが統一的に設定する非営利組織会計の中で特有の規定が置かれるヘルスケア事業体について検討し、その特徴等が考察された。 6 企画ワークショップ(17日、13:00-14:50) 大会準備委員会による企画ワークショップとして、「NPO法人の事業承継の特性を探る~中小企 業の事業承継との比較から」が開催された。 「NPO法人の事業承継の特性を探る~中小企業の事業承継との比較から」 [司会]中尾さゆり 氏(NPO法人ボランタリーネイバーズ、税理士) パネリスト:下園美保子 氏(NPO法人アダージョちくさ)、長瀬充寛 氏(税理士法人TAG経営)、 早坂 毅 氏(税理士) (趣旨) 「NPO法成立から25年近くが経過し、NPO法人においても事業承継・世代交代が組織運営の課題として浮上しており、すでに事業承継を済ませている法人もある。 政策サイドの高い問題意識や法制度の整備により、中小企業の事業承継に関する学術的な議論は一定の蓄積がある。一方、非営利法人、特にNPO法人については、体系的に研究の蓄積がされている状況に至ってはいないように見受けられる。 本ワークショップでは、「中小企業の事業承継と非営利法人(NPO法人)の事業承継の相違点から、非営利組織の事業承継の特性を探り、事業承継についての論点整理を行う」ことを趣旨とする。中小企業の事業承継との比較、NPO法人の特性を考慮しながら、今後NPO法人をはじめと する非営利組織の事業承継に関する論点を探索するものとする。」 本ワークショップでは、司会者の中尾さゆり 氏によりテーマの解題がなされた後、「NPO法人の事業承継」を当事者として実践したり、経営や税務等の相談・助言実績を重ねているパネリスト3名による以下の報告がなされ、次いで、パネリスト間のフリーディスカッション、フロアからの質疑、議論が活発に行われた。 ①「中小企業の事業承継の現状 ~ 非営利法人の事業承継との比較のために~」 長瀬充寛 氏(税理士法人TAG経営) 本報告では、中小企業の事業承継の現状(経営者の高齢化と事業承継実施企業と非実施企業の二極化)、事業承継時の悩み・相談例(親族の内外で区分)、事業承継の全体像、事業承継の実務で遭遇する落とし穴、事業承継計画のポイントなどの解説を通じて、非営利法人の事業承継と比較検討する上での視点、論点を示された。 ②「NPO法人事業承継実践事例」 下園美保子 氏(NPO法人アダージョちくさ) 本報告では、精神障害者に対する障害者福祉制度、就労継続支援B型の動向を述べた上で、その1つであるNPO法人アダージョちくさ(名古屋市)の事業承継を当事者(承継者)として実践した体験に基づき、就任時の課題とその解決のために行った改革、その結果を紹介し、「小規模かつ時代変遷に沿った事業承継に必要なこと」を4点集約された。 ③「NPO法人等非営利組織の事業承継事例とその特徴」 早坂 毅 氏(税理士) 本報告では、報告者が実務上携わった事業承継・世代交代の多数の事例について、代表者の属性や理事・事業内容の変更などに着目して一定の「類型」を区分し、各類型に該当する6事例について、その概要とそこから見て取れる非営利組織の事業承継の問題点や論点を指摘された。 7 企画セッション(17日、15:00-16:10) 大会準備委員会による企画セッションを、次の開催趣旨に基づき開催した。 「非営利法人による公益活動の振興に資する公益認定法改正とは~ 会計・ガバナンスの観点から」 [司会]松前江里子氏(日本公認会計士協会) [特別報告]北川 修氏(内閣府) [パネリスト]北川 修氏、齋藤真哉氏(横浜国立大学)、 大原昌明氏(北星学園大学)、石津寿惠氏(明治大学) (趣旨) 新しい時代に即応した公益法人制度の改革が進められている。 2023年6月、「新しい公益法人制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告が公表され、政府では「社会的課題を解決する経済社会システムの構築」の一環として、「社会的課題を解決する NPO・公益法人等への支援」の下、「公益法人の改革」(公益認定法の改正)を掲げ(「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」)、推進中である。2024年には改正法案の国会提出、2025年には新(改正)公益法人制度の施行が目指されている。 本学会は、これまで民間非営利活動の拡大に合わせ「公益法人研究学会」から「非営利法人研究学会」に改称し、公益認定を受けて公益社団法人として活動を続けている。非営利法人研究の推進や研究成果の公表とともに、「非営利法人に関する啓発」を重要な事業の一つとする。 そこで、本大会の機会に学会外にも門戸を開き(注:CPD、税理士会研修に申請等)、学術的・ 実務的観点から関心の高い公益法人制度改革の潮流について、理解と考察を深める機会を設けることとする。 制度改革の実務に当たる内閣府の公益法人行政担当室長から制度見直しの方向性と進捗状況について特別報告をいただき、会員の内に専門とする会員も多い会計とガバナンスの観点から、改革の課題と論点について考察する。 本セッションでは、会計・ガバナンスの観点から、今後の法改正や政策推進上、特に重要と考えられる課題や論点に焦点を絞って行うが、一般・公益法人にとどまらず、広く非営利法人を視野に入れた示唆や触発も期待するところである。参加者、聴き手である会員・非会員(CPD・税 理士会研修受講者)の理論・実務両面からの関心にも配慮するものとしたい。」 本セッションでは、松前江里子 氏(公認会計士)の司会の下、まず、北川 修 氏(内閣府)による「特別報告」が行われた。その後、北川 氏、齋藤真哉 氏(横浜国立大学)、大原昌明 氏(北星学 園大学)、石津寿惠 氏(明治大学)をパネリストとしてフリーディスカッションが行われた。 ⑴ 特別報告 「非営利法人による公益活動の振興に資する公益認定法改正とは ~ 会計・ガバナンスの観点から」 北川 修 氏(内閣府) 北川修 氏(内閣府大臣官房公益法人行政担当室長/内閣府公益認定等委員会事務局事務局長)の特別報告では、まず、公益法人制度改革について、2006年改革と今回検討中の改革の対比がなされた。 今回の改革は、「『収支相償』等の規制に対する批判(一方で、不祥事に鑑みた広義公益法人のガバナンス強化論)」を政治的・社会的背景とし、「新資本主義実現会議における経済界からの問題提起」を直接的な契機として、「社会的課題解決に資する民間の公益的活動の活性化」を制度改革目的としている。政策的な位置づけは、「新しい資本主義実現(経済成長戦略)」であり、改革の基幹コンセプトは、「法人活動の自由度拡大」と「(広義の)ガバナンスの充実」である。経済財政政策担当大臣の下、内閣府大臣官房公益法人行政担当室が担当部局となり、検討の場として「新しい公益法人制度の在り方に関する有識者会議」が設けられた。 次いで、今回検討中の改革について、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和 4年6月7日閣議決定)以降、上記「有識者会議」の開催(令和4年10月~令和5年5月)及び最終報告(令和5年6月)、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」及び「経済財政運営と改革の基本方針2023」(ともに令和5年6月16日閣議決定)などでの検討状況や主要論点の解説、今後の政策展開の見通し、将来に向けて残された課題などについて述べられた。 ⑵ パネルディスカッション パネリスト:北川 修 氏(内閣府)、齋藤真哉 氏(横浜国立大学)、大原昌明 氏(北星学園大学)、 石津寿惠 氏(明治大学) パネルディスカッションでは、北川 修 氏、齋藤真哉 氏、大原昌明 氏、石津寿惠 氏の4名のパネリストにより、北川氏の「特別報告」を受けて、今回の改革の意義や政策的な位置付け、基幹コンセプト2点の具体的な意味の問い直しをはじめ、主要論点の中でも、特に「収支相償原則の見直し」、「遊休財産規制の見直し」、「わかりやすい財務情報の開示」、「法人機関ガバナンスの充実」などについてディスカッションが行われた。 会計とガバナンスに関わる理論的な観点はもとより、各パネリストの公益認定等に係る各都道府県合議制機関での実務経験も踏まえた視点から、率直かつ活発な意見が交わされるとともに、フロアからの質問に北川氏がきめ細かく応答、説明されるなど、今回の制度改革について認識を深めるとともに、本学会としても改めて学術的に検討を加える貴重な契機、機会となった。 8 謝辞 第27回大会は、9月17日(日)17:30に終了した。 今大会は、大阪商業大学が開催校であるが、大会準備委員会は、専門領域、活動分野、所属等を異にする会員5名で構成した。 準備委員会は、2022年末の学会諸規程の改正を踏まえ、大会開催概要の編成に本格的に着手した。1月の常任理事会で統一論題案の承認を得るとともに、新たに選任された東西両地域部会長とも調整のうえ、自由論題報告の募集・審査手続の細目と日程案を詰め、自由論題報告募集要領の方向性についても了承を得た。 大会プログラムでは、統一論題報告・討論はもとより、自由論題報告の募集・審査、分野別研究会・スタディグループ報告の報告者と内容の確定、企画ワークショップ及び企画セッションの企画・準備等において、報告者、司会者をはじめ各研究会等の座長・委員、登壇者の皆様のご理解ご協力により、改正規程に則った運営を行なうことができた。 自由論題報告については、応募ルートが拡充、複線化した結果、地域部会報告を経ての応募が4件、準備委員会への直接応募が3件となり、新たな仕組みも会員に円滑に活用していただけたようである。また、東西両地域部会長には、応募期限(6月末)までにおのおの複数回の部会を開催するなど研究報告機会の設定にご協力いただけた。 なお、準備委員会で決定し常任理事会に報告して公開した当初のプログラムから、大会当日までに生じた報告者や司会者の変更等については、それぞれ事前に各座長およびご本人から速やかに届出をいただき、大会前に変更の旨を参加者に告知することができた。本大会記もすべて実施結果に基づくことを申し添えたい。 大会における報告者、パネリスト、司会者(討論者)、各報告へのご出席者をはじめ、企画プログラム登壇者のご所属機関(内閣府等)、当日の運営をご支援いただいた学会事務局(全国公益法人協会)、さらに本大会をそれぞれCPD(継続的専門能力開発)、認定研修会に採択いただいた日本公認会計士協会ならびに近畿税理士会などすべての関係者に厚く御礼申し上げます。 最後に、大会の会場準備・運営にご配慮いただいた開催校の関係者及び学生スタッフの皆さんに感謝申し上げます。 2024年3月31日 (公社)非営利法人研究学会第27回全国大会準備委員会 準備委員長 初谷 勇(大阪商業大学) 委員 中嶋貴子(大阪商業大学) 櫛部幸子(大阪学院大学) 馬場英朗(関西大学) 中尾さゆり((特活)ボランタリーネイバーズ)
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第10回大会記 2006.9.1-2 北海道大学 統一論題 非営利法人制度改革の動向と問題点─現実と理念の架橋を求めて─ 関東学院大学 古庄 修 2006年9月1日と2日の両日、非営利法人研究学会第10回全国大会が、北海道大学(準備委員長:小島廣光氏)において開催された。1日目は、会員総会に引き続き、大矢知浩司氏(九州産業大学)の司会により、本大会の統一論題「非営利法人制度改革の動向と問題点—現実と理念の架橋を求めて—」の報告と討論が行われた。 統一論題の報告者ならびに報告テーマは、⑴中藤 泉氏(内閣審議官 行政改革推進本部事務局次長)「公益法人制度の抜本改革について」、⑵出口正之氏(国立民俗学博物館、国際NPO・NGO学会会長、政府税制調査会特別委員)「租税法定主義とネット・サイズ理論—非営利法人制度改革における現実と理念の架橋の重要性—」、⑶道明義弘氏(奈良大学)・伊藤研一氏(摂南大学)「組織論はF.D.ローズベルトを助けたか?」、⑷東海林邦彦氏(日本大学)「民事法的視点から見た(2006年)非営利法人法制改革」であった。 本大会における報告の概要 各氏の統一論題の報告要旨および質疑の内容は以下のとおりである。 ⑴ 中藤 泉氏の報告要旨 公益法人制度改革に直接携われた中藤氏は、今般の制度改革が「官が決める公益活動」から「民が決める公益活動」への転換を図るものであり、法人設立等に係る従前の主務官庁制・許可主義を廃止した新制度の特徴および新制度への移行措置等について分かりやすく説明された。氏は、新制度の周知徹底、政省令や内閣府令の制定、公益性の認定に係る第三者機関の設置、税制上の措置等を今後の制度上の課題として示された。また、法人自治の確立、寄附文化を醸成する説明責任の履行と積極的な情報公開等が各法人に求められることを強調された。 ⑵ 出口正之氏の報告要旨 出口氏は、公益法人改革関連3法において積極的位置づけが謳われている「民間が担う公共(公益)」の本質を㈰非営利性の議論、㈪民間性の議論および㈫公益性の議論に求めて詳述し、主として税制上の問題を検討された。氏は、「新しい公共」の担い手として非営利・非政府セクターの重要性を強調するとともに、公共財の供給に係る「租税歳入論」と「寄附による投票」および租税回避をめぐる「メッシュ・サイズ理論(ネット・サイズ理論)」等について独自の議論を展開して、非営利セクターの常識にあった制度設計の必要を主張された。 ⑶ 道明義弘氏・伊藤研一氏の報告要旨 道明氏ならびに伊藤氏は、米国のニューディール政策が実行される中で、行政機能が拡大した結果、行政コストが増加しコントロール問題が生じてきたことを契機として、節約と効率が大きな課題となったことを膨大かつ詳細な資料によって実証された。両氏は、1930年代当時の米国が抱えた問題は、今日のわが国の非営利組織が直面している問題と軌を一にするとの認識を共有するものであり、本報告では、特にブラウンロー委員会の構成と提言について論及し、行政組織改革に伝統的な管理原則論が理論的支柱として援用されたこと、また予算機能と効率の関係等について研究の方向を示唆された。 (4) 東海林邦彦氏の報告要旨 東海林氏は、今般の非営利法人法制改革は、民間非営利組織に対する行政的規制・官益的乱用等の旧来の悪弊の是正および民間非営利組織の内部的ないし外部的ガバナンス体制の整備の点で評価されるとする一方で、幾つかの問題点ないし課題が残されているとして、特に民事法的視点から9つの論点を示された。氏は、いわゆる「一階部分」と「二階部分」からなる新法の基本構造、「一階部分」が公益的団体と共益的団体とを区別しないこと、「一階部分」における一般社団法人と一般財団法人の二元的類型等について、批判的な議論を展開された。 報告後の討論では、公益法人制度改革後、特例民法法人となる現行公益法人の公益社団・財団法人または一般社団・財団法人の移行あるいは解散・営利転換等の予想される動向について、公益性の認定に係る問題について、公益法人をめぐるガバナンス問題について、公益法人制度と税制をめぐる問題について、わが国が直面している問題に対する米国の政府組織改革のインプリケーションについて、効率性と有効性の概念規定および当該概念の非営利組織に対する適用をめぐる問題等々について、活発な質疑が行われた。 大会2日目には、午前中に9名の会員による自由論題報告が3会場に分かれて行われほか、午後にはYOSAKOIソーラン祭り組織委員会専務理事の長谷川 岳氏による特別講演「YOSAKOIソーラン祭り—街づくりNPOの経営学—」が行われた。また、これに続いて、原田満範氏(松山大学)の司会により、東日本研究部会(主査:小島廣光氏)「NPO、政府、企業間の戦略的協働」および特別研究部会(主査:石崎忠司氏(中央大学))「公益法人の財源(贈与・遺贈等)に関する多角的検討」の各報告と討議が行われた。 新制度の施行に向けた節目の年に2日間にわたり、緑多き広大なキャンパスの中で晴れやかな初秋の風を感じながら、本大会は多数の参加者(106名)を得て盛会のうちに幕を閉じた。 新制度の施行に向けた節目の年に 翻って、本大会は学会創立から10回目を数え、しかも新しい公益法人制度が成立した大きな節目の年に開催された大会でもあった。まさに時宜を得た統一論題報告をはじめ、充実した大会プログラムをご準備頂いた小島大会準備委員長ほか大会関係者の方々に心から御礼を申し上げたい。 なお、大会初日の会員総会において、創立以来今日までの学会の運営に係る功労を称えて、(株)全国非営利法人協会(理事長 深町辰次郎氏)に対して、学会から感謝状と記念品の贈呈が行われた。また、現会長の松葉邦敏氏(成蹊大学名誉教授)が本大会をもって辞意を表明されたことを受けて、理事会の議を経て、大矢知浩司氏が次期会長に選出された。 付記:本大会会員総会において、藤井秀樹氏(京都大学)が学会賞を受賞された。受賞論文は「非営利組織の制度進化と新しい役割」(『非営利法人研究学会誌』第8号、2006年)である。

