
第28回大会記
2024年10月 5 日~ 6 日 明治大学
統一論題 「公益法人改革の方向性―非営利組織や社会への影響―」
1 はじめに
(公社)非営利法人研究学会第28回全国大会が、2024(令和 6 )年10月 5 日(土)・ 6 日(日)の両日、明治大学駿河台キャンパスのリバティータワーを会場として開催され、活発な議論が行われた。
本大会では、公益法人の大改革が進められている現下の状況に鑑み、統一論題を「公益法人改革の方向性―非営利組織や社会への影響―」と設定した。まず特別講演で改革の全体像について報告いただいた後、改革の柱である①「財務規律の柔軟化・明確化」、②「行政手続きの簡素化・合理化」、 ③「自律的ガバナンスの充実・透明性向上」のうち12については統一論題で学術的な面から掘り下げ、2については実務的な面から企画ワークショップで取り上げて議論を深めた。また、自由論題報告(11件)、特別委員会報告( 1 件)、分野別研究会報告( 1 件)、スタディ・グループ報告(2 件)が行われ、充実したプログラムとなった。
なお、大会前日の10月 4 日(金)に常任理事会と理事会が、 5 日(土)には社員総会が開催された。
2 特別公演(10/ 5 )
「令和 5 年度公益法人の会計に関する諸課題の検討状況について」の行間から読み解く、令和 7 年公益法人会計基準改正の方向性」
高山昌茂氏(公認会計士、協和監査法人代表社員)
内閣府「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」の座長代理を務める高山氏から、まず、同会議のそれまでの活動についての説明がなされた後、令和 5 年度公益法人の会計に関する諸課題に関する検討状況の解説があった。続いて、「貸借対照表関係(特定資産の取り扱いについて)」、「活動計算書関係[財源区分別内訳表表示、振替処理(負債もしくは内部取引)、 6 号財産に区分される果実について]」、「有価証券評価損益の取り扱い」の 3 つの論点からの説明の後、令和 7 年度公益法人会計基準改正の方向性が示唆された。
3 統一論題報告・討論(10/ 5 )
【報告】
(1) 解題
座長:金子良太氏(早稲田大学)
公益法人改革は、税、会計、ガバナンスに大きな影響を与え、改革が関係者にとって使いやすい制度であることはもちろんであるが、税制優遇等を不当に利用しようとする動きやガバナンスの課題を抱えているという問題意識が示され、下記の報告が行われた。
(2) 「公益法人改革と法人税非課税の考察」
苅米 裕氏(税理士)
公益法人改革に関して、基本的考え方や財務三基準等からの説明の後、改革と法人税非課税に関する論点整理・考察が行われた。
(3) 「公益法人改革における財務規律と情報開示」
兵頭和花子氏(大阪経済大学)
公益法人改革を受け、財務規律を順守していることを示すと同時に信頼性の高まる情報開示(説明責任の履行につながる情報開示)について、公益法人の会計に関する研究会の提案についての考察を踏まえた報告がなされた。
(4) 「公益法人改革とガバナンス」
溜箭将之氏(東京大学)
公益法人改革とガバナンスに関する背景等の説明、事例紹介が行われた後、ガバナンス手法の機能向上、ステークホルダーの意見・利益の反映、リソースの調達とガバナンスへの配分などについて報告がなされた。
【討論】
上記の報告を踏まえ、ガバナンスに関連してガバナンス・コードの実効性や理事会・評議員会等の役割に対する質問、会計に関連して中小規模法人の定義や指定・一般の区分表示に関する質問、税に関連して課税理論と立法論それぞれについて、原則課税・非課税のいずれであるかなどの質問があり、終了時間まで活発な質疑が行われ、討論が終了した。
4 自由論題報告
⑴ 1 日目(10/ 5 )第 1 会場
司会:鷹野宏行氏(武蔵野大学)
①「医療機関におけるホスピタリティ・マネジメントの概念化と意義―関係性のマネジメントの観点から―」
山下智佳氏(明治大学)
患者は医療サービスの意思決定過程における当事者であり、主体的にその過程に関与するべき存在であるにも関わらず、医療サービスの生産、提供過程においては医療提供者と患者の関係には問題があるとされてきた。そこで、関係性改善のマネジメントに資する概念としてホスピタリティに注目し、トライアド・モデルを使用して両者の関係性改善のための事例検討を行った。これに対して、トライアド・モデルの「ホスト」と、「ゲスト」である患者との間の関係性はどうなるのか等の質問が出された。
②「離島航空におけるソーシャルキャピタルの経済評価」
小熊 仁氏(高崎経済大学)
離島航空がもたらす様々な社会的便益の中でソーシャルキャピタル(SC)に着目し、その経済価値とこれをもたらす環境的要因について評価することを目的としてアンケート調査を行った。その結果、離島航空が相当額のSC創出に貢献しているが、排他性や人間関係の希薄性を生み出すといった問題があることが判明した。こういった航空サービスに対する支援の在り方や航空サービスの価値について地域全体で見直す必要があるとされた。これに対して、アンケート対象者の範囲などについての質疑が行われた。
③「財務情報のWeb開示が文化芸術団体の獲得する寄付金収入に与える影響」
武田紀仁氏(日本大学)
文化芸術団体が獲得する寄付金について、Webサイトによる情報開示と寄付金収入の関係について、財務情報が寄付の意思決定に与える影響に関するフレームワーク(先行研究)に基づき実証的に分析を行った。その結果、寄付金収入とWebサイトによる情報開示の間には正の関連性がある一方で、文化芸術団体においてはその正の影響が緩和されており、寄付者の意思決定のために財務情報に加えて追加的な情報を提供する必要性が示唆された。これに対して、追加的情報の内容等に関する質疑が行われた。
⑵ 1 日目(10/ 5 )第 2 会場
司会:日野修造氏(熊本学園大学)
①「非営利研究組織の社会価値向上について」
半田 茂氏(非営利法人研究学会)
研究組織自体が自己の生み出す社会価値を十分に意識せず、それがサンクコストにつながるという問題意識の下、問題意識の整理、解明に取り組んだ。報告では、新技術の社会受容性向上活動についての事例が示され、それらに共通する特徴が示された。これについて、非営利組織としての社会的通念の捉え方、非営利法人の代替不可能性についての見解、研究所が保有する厖大なテーマの捉え方等に関する質疑・意見交換が行われた。
②「「地域レベルの市民活動」の顕出と振興:「特定非営利活動」(特定非営利活動促進法別表第20号) の設定および運用を事例として」
初谷 勇氏(大阪商業大学)、藤澤浩子氏(関東学院大学地域創生実践研究所)
わが国における「市民活動」の概念および普及について整理し、NPO法が定める「特定非営利活動」と「市民活動」の関係を確認するとともに、民間非営利セクターにおける「地域レベルの市民活動団体」の定位について検討した。そして、条例による「特定非営利活動」の独自設定の意義を確認し、事例分析が説明された。これらから、第20号に基づく条例設定の意義と課題、課題への対応の方策について述べられた。
⑶ 2 日目(10/ 6 )第 1 会場
司会:大原昌明氏(北星学園大学)
①「非営利組織における金融商品投資規制と会計報告」
李 焱氏(駒澤大学)
非営利組織においては、金融商品への投資についてどこまで認められるべきか、そして、その投資活動がどのように会計報告に反映されるべきかという点について、非営利組織が金融商品を保有する場合の会計情報のあり方をリスクテイキングの観点から検討した。その結果、非営利組織では投資行動に対するガバナンスが十分に機能しないことから、投資行動の規律方法として、事前情報開示の追加が有効であるとされた。これに対して、事前情報開示が事業計画や予算の開示とどう関係するのか等の質問が出された。
②「地方自治体における工数管理手法を通じたマネジメントの実践―第一報:準備から初年度実施まで―」
山田敦弘氏(株式会社日本総合研究所)
地方自治体の業務負担は増加しており、職員の人手不足と業務量の増加は内部統制の脆弱化を招く事象の 1 つであるとされている。そこで、民間企業では多くの実績がある「工数管理」の手法を活用し、この状況へ対応することを試みた。その結果、全職員を対象にした工数管理の取組には、職員の理解と見返りとなる効果を生むことが期待されること、業務と組織のマネジメントの視点から有効なツールとなることが判明した。そして、どのようなマネジメントを実施していくのか明確に定義して取り組むことの必要性も述べられた。
③「公益財団法人の資産と公正市場価値(Fair Market Value)」
出口正之氏(国立民族学博物館)、工藤栄一郎氏(西南学院大学)
文化財は、博物館という文脈において、保存価値と会計価値という2 つの異なるベクトルのグローバル化と交差している。本研究は、文化財が博物館の所有物となったときの会計情報の時系列的変遷を〈標本・会計調査考査法(CACROS)〉というオリジナルのフィールド調査の手法で明らかにする。その結果、博物館には、保存性収蔵品と売却可能性収蔵品があり、後者には公正価値による資産評価が必要であり、前者には保存に関わる費用が明確な場合には資産か負債かという課題が浮かび上がる等と述べられた。
⑷ 2 日目(10/ 6 )第 2 会場
司会:藤井 誠氏(日本大学)
①「非営利組織における人的資源管理アーキテクチャの移行メカニズム」
東郷 寛氏(近畿大学)、團 泰雄氏(近畿大学)
支援型NPOの事例分析を通じて、HR施策の束であるHRMアーキテクチャの移行メカニズムに係る命題の導出を試みることを目的とし、HRMアーキテクチャの変化する経路をモデルに組み込んで、ケース分析を行った。研究の結果、HRMアーキテクチャの詳細な特定、支援型NPOにおけるHRMアーキテクチャの移行経路に関す命題の導出が行われた。さらに、その移行が組織の持続可能性に影響を受けやすく、新規事業を開拓できるコア人材がどの程度確保できているかに依存するという点が示された。
②「地域産業再生の事業とシステム:佐賀県有田焼産地をケースとして」
吉田忠彦氏(近畿大学)、山田雄久氏(近畿大学)
伝統産業や地場産業など衰退している地域産業再生のためにどのような事業システムが必要かを分析することを目的として、報告者が長期にわたり佐賀県の有田焼産地で行っている調査を踏まえた分析を行った。有田におけるこれまでの経緯や各主体の役割などを分析した上で、事業者を中心とした事業システムだけでなく、また特定の産業だけではない「地域産業システム」というより拡張した概念の提示を行った。
③「自治体外郭団体におけるゆらぎとは何か―事例分析による仮説生成―」
吉永光利氏(公益財団法人倉敷市スポーツ振興協会)
報告者の実務経験、自治体外郭団体を取り巻く状況を踏まえ、自己組織性の鍵概念(揺らぎ、秩序、組織体制)について 6 つの団体に対する質問調査による仮説生成型の研究の結果報告が行われた。これにより、自治体外郭団体で働く人々の意識・行動についての一定の状況把握がなされた。また、今次調査によりゆらぎの確率的、確定的な事象に区分する思考の整理はある程度行えたものの、どのように実践的に還元するのか等といった今後の課題も示された。
5 分野別研究会報告(最終報告)(10/ 5 )
「公益・一般法人等における寄付をめぐる多角的検討」
座長・司会:尾上選哉氏(日本大学)
報告:尾上選哉氏(日本大学)、櫛部幸子氏(大阪学院大学)、中嶋貴子氏(大阪商業大学)
座長の尾上氏より、本研究は寄付について多角的な視点から検討した結果の最終報告であると述べられた後、櫛部氏からは、使途制限のある寄付を純資産に計上するか否かにより寄付者への情報に影響が生じるかという点について、純資産の表示の違いのみならず、資産の部の表示区分の有無、貸方と借方の連携の有無により影響が生じることが報告された。
中嶋氏からは、非営利組織への資金供給についての近年の変化の潮流と主要な動向について、民間助成、休眠預金、企業財団の動向とデータ分析から、今後における資金獲得競争に対応する経営基盤・資金調達力、人財育成の必要性、および資金供給の継続性・持続性についての変化可能性を見据えておく必要性について報告された。
6 特別委員会報告(中間報告)(10/ 6 )
「大学の経営とガバナンス」
座長・司会:柴 健次氏(関西大学)
報告:柴 健次氏(関西大学)、工藤栄一郎氏(西南学院大学)、青木志帆氏(東京大学)、
竹中 徹氏(京都文教大学)、亀岡保夫氏(公認会計士)、小林麻理氏(早稲田大学)
まず、座長の柴氏より本研究の目的として、大学のミッション(教育と研究)とマネジメント(経営とガバナンス)を交差させ、マネジメント軸に重点を置いて整理、検討することであると述べられたのち、さらに柴氏より「大学の経営とガバナンス」、そして工藤氏より「私立大学の制度形成と規制の変遷」、青木氏より「東京大学が目指す財務経営の高度化と課題」、竹中氏から「私立大学をめぐる環境変化と対応課題」、亀岡氏から「私立学校法改正に伴う学校法人会計基準と会計監査の動向」、小林氏から「管理会計思考による大学経営」が報告された。
7 スタディ・グループ報告(10/ 6 )
⑴ 「中小企業等協同組合のガバナンスに関わる研究~情報開示による社会的モニタリングを含んで~」
座長・司会・報告:境 裕治氏(第一勧業信用組合)
座長の境氏より、本スタディ・グループによる研究が、「中小企業等共同組合」に着目して、持分権者による法人内でのガバナンスについて検討を行うものであることが述べられた。次に、中間報告として、「中小企業等共同組合に係るガバナンスの問題点と今後の検討課題」が報告された。 ここでは、中小企業等共同組合には市場によるガバナンスが存在しないため、組織の機関によるガバナンス強化の必要性があるが、現在の組織内におけるガバナンス強化の動きが十分であるかが課題であること、また、税制上の優遇措置が取られている点から、社会的モニタリングの必要性があり、情報開示の必要性が課題であることが指摘された。
⑵ 「非営利組織の持続可能性と連携:ソーシャル・サービスの連携推進の発展可能性をめぐる多角的検討」
座長・司会:國見真理子氏(田園調布学園大学)
報告:國見真理子氏(田園調布学園大学)、榎本芳人氏(文京学院大学・厚生労働省)
まず、これまでの中間報告の内容(非営利組織の連携可能性と日本の制度、米国の制度、米国のヘルスケア事業体の会計)を踏まえ、本最終報告では社会福祉連携推進法人、地域医療連携推進法人の意義や訪問調査の報告をするとされた。訪問結果を踏まえたうえで、連携推進法人のメリットや課題を明らかにし、特に地方部においては、人口減少や高齢化、労働人口の減少を踏まえ組織間連携は不可欠な状況であることが報告された。
8 企画ワークショップ(10/ 6 )
「公益法人における行政手続きの簡素化・合理化の方向性とその影響」
司会:古庄 修氏(青山学院大学、神奈川県公益認定等審議会会長)
本テーマに関する古庄氏による解題の後、高角氏から特別報告がなされた。それを受けて西村氏、 茂木氏、脇坂氏の 3 人のパネリストと高角氏との質疑が行われた。
【特別報告】
「2024年公益法人制度改革における行政手続の簡素化・合理化」
高角健志氏(内閣府公益認定等委員会事務局長・公益法人行政担当室長)
まず、これまでの公益法人制度の変遷、公益法人の現状を踏まえて今次の公益認定法改正の概要について行政手続きの簡素化・合理化を中心に説明がなされた。特に変更手続きの見直しの考え方「届出」への変更事項、提出・公表書類の見直しなどについて、申請書記載事項の標準化のイメージ図なども用いて具体的でわかりやすい説明がなされた。
【質疑】
高角氏に対して、西村拓哉氏(元京都府公益認定審議会事務局・公認会計士)からは認定申請を受ける審議会事務局の立場から、茂木夏子氏(公益財団法人生協総合研究所(総務、経理、機関運営担))からは申請を行う公益法人の立場から、脇坂誠也氏(脇坂税務会計事務所所長、認定NPO法人NPO会計税務専門家ネットワーク理事長、税理士)からは申請の際の支援を行う立場から、それぞれ経験に基づく具体的な質疑が活発に行われた。
9 謝辞
今大会の準備は、2023年12月に開催した 1 回目の打合せ会からスタートいたしました。開催校は明治大学ですが、準備委員会は専門領域、所属等が異なる会員 5 名で組織し、力を合わせて進めてまいりました。開催までの間、方向性等についての常任理事会でのご助言、自由論題報告に関する東西両部会長のご支援などを頂きましたことに感謝いたします。当日は上記のような多彩なプログラムが展開され、司会者、講演者、報告者、そしてご参集の皆様のご協力により充実した報告と活発な議論が展開され、また、CPD研修にも対応することができたことをありがたく思っております。
100人以上の方々にご参加いただき、大過なく運営することができましたこと、関係の皆様に重ねて心より感謝申し上げます。なお、開催・運営にあたっての不都合がございましたら、それは実行委員長の不手際によるものですので、この場をお借りいたしましてお詫びいたします。最後になりますが、全国公益法人協会の桑波田様、薗田様はじめ皆様に懇切なご支援を頂き、また同協会より多大な協賛をいただきましたことに御礼申し上げます。
2024年11月20日
(公社)非営利法人研究学会第28回全国大会準備委員会
準備委員長 石津 寿惠 (明治大学)
委員 石田万由里 (玉川大学)
金子 友裕 (東洋大学)
金子 良太(早稲田大学)
依田 俊伸 (東洋大学)
