≪査読付研究ノート≫地方自治体における工数管理手法を通じたマネジメントの実践―準備から初年度実施まで―
- 非営利法人研究学会事務局
- 3月5日
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株式会社日本総合研究所シニアマネジャー・法政大学兼任講師 山田敦弘
キーワード:
地方自治体 工数管理 プロジェクトマネジメント 業務効率化 業務改善 定数管理
要 旨:
地方自治体においては、業務の多様化や職員数の定数管理の適正化など、少ない職員数で多くの業務に対応しなければならない状況にある。その対応策として、A市では業務実施における職員の工数管理を行い、その分散を可視化することで業務改善へ繋げる試行的取組としてプロジェクトマネジメントの手法として確立されているPMBOKの一部である工数管理を実施した。本研究では、その準備から初年度実施にかかる一連の取組を対象として研究・分析を行った。その結果として、「組織全体として、業務負荷の集中・分散状況が可視化できるようになった」、「残業により負荷がかかっている職員を察知することができるようになった」、さらには、「職員が時間を意識して仕事に従事するようになった」ことなどの成果を得ることができた。その一方で、「工数の入力の精度が高くない職員がいる」、「どの業務として入力するべきかわかりにくい」そして「工数入力の手間が職員の負担となっている」ことなどの課題がわかった。工数管理データは、業務の状況及び職員の動きなどが可視化されるため、業務と組織をマネジメントするという視点から有効なツールとなることが推察された。一方で、マネジメントのツールとして活用されないならば、単なる負担となることが懸念された。どのようなマネジメントでどのような課題を解決していくのかについて、事前に定義した上で取り組むことが重要であると考えられた。
構 成:
Ⅰ はじめに―課題認識―
Ⅱ 研究の対象と方法
Ⅲ 成果と課題の分析
Ⅳ ディスカッション
Ⅴ おわりに
Abstract
Local governments are faced with the need to handle a multitude of tasks with a small number of staff due to the diversification of tasks and staff optimization. As a countermeasure, City A implemented man-hour management, which is part of PMBOK, a project-management methodology established as a trial initiative to improve operations by managing employee man-hours for tasks and visualizing the distribution of man-hours. In this study, we analyzed a series of initiatives, from preparation to implementation, in the first year. Results revealed that the organization as a whole was able to visualize the concentration and distribution of work load, that the organization was able to identify staff burdened by overtime work, and that staff became more conscious of time while working. On the other hand, we found that some staff members did not log man-hours accurately, that it was difficult to understand which tasks should be logged, and that the effort of logging manhours was a burden on staff. Results suggested that man-hour management data is an effective tool from the perspective of managing tasks and organizations as it enables the visualization of the status of tasks and the activity of staff. On the other hand, there is a concern that man-hour management would simply become a burden if it is not used as a management tool. It is important to define the type of management and the issues that would be resolved before proceeding.
※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。
Ⅰ はじめに―課題認識―
本稿では、工数管理を通じたマネジメントの実践の有効性を検証するために、地方自治体の業務遂行における人手不足にかかる課題について明らかにしたうえで、そのための対策を提示し、具体的な進め方として工数管理を試行しようとする理由と手順、そしてその成果と課題についてディスカッションをしていく。
本稿におけるマネジメントとは、地方自治体の課・係を 1 つのチームとして成果を得るためのプロジェクトマネジメントを想定している。言い換えると、複数の職員が連携・分担を行いながら、チームとしてプロジェクトの成果を上げていくことである。ここで言う成果とは、業務を達成するためにプロジェクトを実施することで得られる結果であり、地方自治体においては、 新規事業創設などの企画もあれば、課税・徴収業務などの定型業務もあり多岐に渡っている。 本稿では、下記に述べる様々な課題を解決しながら成果を得るために、実践して行くべきプロジェクトマネジメントを研究対象としている。
1 地方自治体の業務遂行における人手不足にかかる課題
近年、地域住民のライフスタイルの多様化や国や都道府県からの業務の権限移譲、加えて、官民連携や地域活性化などの推進に至るまで、過去にはあまり求められなかった範囲にまで地方自治体(本研究では主に市町村)の業務が拡大されている。パソコンや情報システムなどの普及により、データ処理を伴う業務などについては効率化が図られてきたことを加味しても、現状としては人手不足となっている。蜂屋(2021) は、地方公務員の数的充足度について、地方公務員一人当たり人口、地方公務員一人当たり実質歳出額、給与月額に対する時間外勤務手当の比率の 3 つの指標について1994年以降のデータを経年的に比較している。その中では、2010年代には、自然災害が各地で相次いだことに加え、高齢化等に伴う給付対象者の増加や子供・子育て対策の充実などにより、社会保障分野を中心に地方自治体の担う業務量が、人口減少のトレ ンドとは逆に、次第に多くなってきている可能性があり、人的不足感が高まりつつあると指摘している。また、総務省の「地方公務員の退職状況等調査」によると、一般行政職30歳未満の離職者は、2013年に1,564人であったものが、 2022年には4,244人まで増加している。これは 9 年間で2.7倍に増加したことを示しており、このようなトレンドは、将来的な人手不足にも 影響することが推察される。
さらに、首都圏を除く、ほとんどの地方自治体では、人口減少に直面しており、その結果として税収の減少やそれに合わせた職員数の抑制を定数管理の適正化という名目で取り組んでおり、実質的により少ない職員数での業務対応が求められている。
合わせて認識しておくべきこととしては、職員数を減らし業務量を増やすことで、メリットとデメリットの両方の影響があるということである。田中(2010)は、自治体の歳出において職員の人件費は 3 割近くと多くの比重を占めており、しかも人件費は固定費であることから、収支構造を改善するためには定員を縮減することが効果的であると述べている。また、その影響として石川(2021)によると、地方自治体の職員の人手不足と業務量の増加は、内部統制の脆弱化を招く事象の 1 つであるとされており、業務の引継にかかるリスクを顕在化していることが指摘されている。
2 地方自治体の業務遂行にあたっての人手不足への対策
このような人手不足への対策としては、「必要十分な人員確保」と「組織全体の業務処理能力の向上」と「アウトソーシングの活用」の 3 つの視点の対策があると考えられる。 必要十分な人員確保としては、昨今の職員数の定員管理の適正化の動きを考慮すると新しく雇用するよりも職員の退職を減らす方が理にかなっていると考える。退職理由と関係性が強いデータとして長期病休者数がある。一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会の令和 6 年度「地方公務員健康状況等の現況の概要」によると、長期病休者の中で突出して多いのは「精神及び行動の障害」であり、平成25年度に1,219.3人/10万人であったものが、10年後の令和 5 年度には、2,286.4人/10万人と1.9倍の増加であった。その背景には、役所に対する迷惑行為や悪質クレームなどのカスタマーハラスメントがある。若い職員がこのような状況に長期間にわたって晒され、上司や同僚などが良く把握をせずケアをされないことは、退職理由の主要因の 1 つとなっていることが推察される。
続いて、組織全体の業務処理能力の向上については、多くの営利組織では働きに応じた給与体系や評価の仕組みが確立されており、働きによっては容易に給与を増減されたり昇進や降格・ 退職に追い込まれることがあり、ほとんどの社員がしっかりとした戦力となっており、組織全体の業務処理能力を最大化している。しかしながら、地方自治体では、そのような給与体系や評価の仕組みや勤務実態を可視化する手段はなく、働きが悪くても減給や退職にならずに、職場に残り続けることもできる。その結果として、良く働く職員への負荷が重くなっており、組織全体のパフォーマンスの低下の 1 つの要因にもなっている。地方自治体において、組織全体の業務処理能力の向上を図るためには、一定のレベルで 1 人あたりの仕事量の平準化をしながらパフォーマンスを向上させることが望まれる。
最後に、アウトソーシングの活用は、人手不足には役立つ可能性が高いが、そのためのコストが予算増へ直結しており、むやみにアウトソーシングを増やすことは財政悪化に直結する。アウトソーシングを進めるにあたっても、より効果的な業務に絞ってアウトソーシングを活用する必要があるが、そもそもどの業務を対象にするべきか判断するための材料(データなど)がなく、結果としてアウトソーシングの活用に踏み切れていないケースも少なくない。
3 人手不足の対策として工数管理手法を選んだ理由
上記に示したカスタマーハラスメントによるメンタル病休の回避、 1 人あたりの仕事量の平準化をしながらパフォーマンスを向上させること、アウトソーシングを活用するべき業務の選定などを進める必要があるが、そのためには業務実態を定量的に把握する必要がある。また、把握した結果を分析しタイムリーに適切な対策を講じるマネジメントが重要であると考える。そのための技法としては、プロジェクトマネジメントの知識体系として世界的に普及・確立しているPMBOK(Project Management Body of Knowledge)の管理手法を活用できると考えている。 PMBOKは、1987年にアメリカの非営利団体PMI (Project Management Institute)がガイドラインを発表したプロジェクトマネジメントに関するノウハウや手法を体系立ててまとめたものであり、実施管理を組織横断的に行うことによって業務実施の全体最適化を推進することができることから、現在ではプロジェクトマネジメント手法の世界標準となっている。PMBOKの中でもプロジェクト管理手法の 1 つである工数管理は、業務実施状況の全体が可視化できるため、マネジメントを行う上での有効な手法となる。職員個人が工数入力を行うため、その手間や正確性などの問題もあるものの、長年、多くの民間企業にて実践されており、地方自治体においても同様の成果をもたらすものと考えている。工数管理の実施にて期待される主な効果は以下の通りである。
【一般的な工数管理へ期待される効果】
① 適正な組織内リソースの配置・組織体制の構築 ② 業務進捗の把握 ③ 業務上のボトルネックの把握 ④ 業務改善効果の測定 ⑤ 外部リソース活用を判断するための情報取得 ⑥ コストの把握とその意識向上 |
工数管理は、業務推進状況の可視化を通して業務改善策を講じる手法であり、期待される効果についても比較的理解がしやすく、頻出する課題へ対応できる。落(2010)は、大学の技術センターにおいて、工数管理を用いて業務内容の整理と工数分析を行い、負荷分散・支援展開に関する業務課題などを把握し、解決のための方針決定に用いている。また、工数管理は、製造業などの業務プロセスが決まっている業種で活用されることが多いが、行政業務は、業務プロセスが確立されているものが多く、そのため十分に活用できると考えている。
一方で、地方自治体においては、勤怠管理はされているものの、工数管理まではほとんどされていない。自治体向けの人事管理パッケージシステムにおいても、工数管理の機能を実装したものはあまり見かけない。地方自治体において、工数管理が普及していない理由を、以下のように推察する。
【地方自治体において工数管理が普及していない理由】
① 地方自治体の業務は公務であり、採算性に関わらず実施しなければならないものも あり、コスト改善につなげにくい。② 人事異動が短期間に行われるため、業務に熟達し、業務改善を行うまでに至らない。③ マネジメントの概念や手法が自治体運営の中で定着していない。 |
まず、採算性にかかわらず実施しなければならない公務とは、災害対応や住民生活の中で、決して止めることができない福祉や環境に関する業務などがある。いくら担当業務が多忙であっても災害時の避難所の設営や給水などは必須の対応である。そこに採算性の概念はあまりない。また、人事異動が短期間に行われることは、職員の経験を豊かにするが、その一方で業務実施が熟達する前に、次の部署へ移動してしまうことが多いため、業務改善にまで至りにくい。そのため、業務を可視化しても解決する方法を確立することが容易ではないことから、これまでほとんど取り組まれて来なかったのではないかと推察する。
しかしながら、地方自治体が置かれている環境は厳しく、少ない人数で多くの仕事をこなさなければならない状況に迫られており、この難問を乗り越えるには、工数管理の手法を用いて状況を把握し、できる範囲で適切な解決方法を取るという行為を積み重ねていくことが重要であると考えている。
本研究では、工数管理を試行した地方自治体において、実施準備から実施開始をした初年度までの取組を対象に、その成果及び直面した課題などについて分析をする。
Ⅱ 研究の対象と方法
1 地方自治体の業務における主な課題
地方自治体の業務における一般的な課題は以下の通りである。これらの課題は、地方自治体が本取組を着手するきっかけとなった。
⑴ 業務多様化と職員数抑制
地域住民のライフスタイルの多様化や国や都道府県からの権限移譲、加えて、地域活性化などの新しい課題にまで業務範囲が拡大されており、その一方で、人口減少に合わせた職員数の抑制などの対応が求められている。
⑵ 業務負荷の適性分散
少ない人数で多様な業務に取り組むため、職員が個人単位で担当する業務も多く、業務負荷の状態が把握しにくくなっている。また、季節性の業務も多く、特定の期間に特定の職員に負荷が集中していることもあり、職員の健康への影響も懸念される。
⑶ 管理者の役割
地方自治体の部長や課長などの管理者は、業務遂行においては責任者と位置付けられているが、組織も含めて全体を管理調整する「マネジメント」について、その役割が明確にされていないことが多い。
⑷ 個人適性の多様性
職員個人によって、得意な分野や業務が異なる。地方自治体の場合、人事異動が頻繁にあり、個人の適性に合っていない分野や業務を担当することもある。その場合は、そのことを早期に把握できれば、分担の見直しや周りのサポートで改善できる可能性がある。
⑸ クレーマー対応
近年、深刻な問題となっているのは、クレーマーへの対応である。多少のクレームは、どの職場でも発生しており、許容することも必要であるが、特に理不尽な要求をする「ハードクレーマー」などは、対応する職員に多大な心理的負荷をかけてしまうため、対策を講じる必要がある。
2 工数管理へ期待する効果
今回、対象の地方自治体が工数管理を実施することになった理由は、前述した一般的な業務の課題がある中、個人への業務負担を軽減し、より効率的に業務が進められるような効果を得るためである(図表 1 )。
この中でも、業務負担の平準化、過重労働検知、職員配置の最適化は、少ない職員数で多くの業務に対応するためには、必要不可欠であり、大きな期待が寄せられている。
図表 1 工数管理に期待する効果

出所:筆者作成
3 研究方法
⑴ 研究対象
工数管理の取組を実施したA市は、人口 3 万人弱で職員数300人弱の地方都市である。人口減少が続いている中で行財政改革の一環として、工数管理に取り組んだ。本取組は、2020年度より、総務部門が中心となり、全職員を対象として試行的に実施している。なお、地方自治体名を公開しないことを前提に、研究協力をいただいていることをご理解いただきたい。
⑵ 実施手法
① 入力様式
実施に当たっては、まず入力様式となるエクセルの専用様式(以下、専用様式)を作成した(図表 2 )。専用様式は、年間カレンダー(列)と業務(行)が設定された職員毎のシートで構成されており、係ごとに 1 ファイルとした。業務(行) は、業務分掌表に記載された業務を大項目として設定し、その中の詳細な業務を小項目として設定した。加えて、自己学習や研修など、業務分掌にない項目を全庁の共通項目として選択できるように設定した。
また、初年度の取組であるため、過年度データはなかったものの、参考までに、年度当初の時点での年間の予定工数も入力し、参考値とした。
② 工数入力〜確認〜フィードバックの流れ
職員は、毎日または週に 1 回程度、担当業務や共通事項(自己学習や勤務登録など業務分掌以外の仕事)について、実際に費やした時間を 1 時間単位で入力する。入力した情報は、係ごと(エクセル 1 ファイル)に集約され、各課内の全ての係ファイルは、課長の元に集約される。課長は、その内容を月次で確認し、状況の把握や対策の実施を行う。課内の全ての係ファイルと講じたアクションを取りまとめたレポートを総務部門に提出する。総務部門は、それらを確認し、必要に応じて個別に内容照会を行う。また、毎月開催されている全庁の管理者会議にて、状況を共有する(図表 3 )。
図表 2 入力様式

出所:A市資料に基づき筆者作成
図表 3 工数入力〜確認〜フィードバックの流れ

出所:A市資料に基づき筆者作成
Ⅲ 成果と課題の分析
1 初年度実施により得られた成果
開始初年度末に 1 年間の取組を振り返るために、各部署の管理者にアンケート調査を実施した。その結果をまとめた初年度の成果は次の通りである。なお、これらの成果は、アンケートに記されていた内容から抽出しており、すべてが全員一致の回答をしたものではない。
【初年度の成果】
① 組織全体として、業務負荷の集中・分散状況が可視化できるようになった。② 残業によって負荷がかかっている職員を察知することができるようになった。③ 効率化、アウトソーシングするべき業務が推察できるようになった。④ クレーム対応によって時間的負荷がかかっている職員を察知することができるようになった。⑤ 職員の共通事項(自己学習や勤務登録など業務分掌以外の仕事)に関する時間の使い方の概観がわかるようになった。⑥ 職員が時間を意識して仕事に従事するようになった。 |
初年度ということで、まだ工数入力作業に慣れていない職員もおり、精度においては向上の余地が多分にあるが、概観として工数分布が掴めるようになった。初年度の最も大きな成果としては、業務と工数分布の状況が個人単位及び組織全体で可視化することができるようになったことである。この結果として、これまで感覚的にこの業務に負荷がかかっているのではないかと感じていたものが可視化され、定量的に示されることになった。また、これまで業務に負荷がかかっていると感じていなかったにもかかわらず、工数を費やしている業務を見つけることができた。このような業務については、管理者と担当者がその状況について状況確認をすることにより、コミュニケーションを取るきっかけとなった。また、負荷の高い業務については、アウトソーシングを選択肢に含めた業務効率化を検討するべき業務として、当たりをつけることができるようになった。
また、本取組において重要視されている「職員を守る」という点においては、負荷検知として活用することで、担当者個人と業務を特定することができることから、人員管理において十分に役立つことが実感できた。特に、クレーマー対応に長時間を費やしているケースを見つけることができるため、早めの対応が可能となった。
今年度の成果としては表れていないが、次年度以降も継続実施することで、成果が期待できる事項としては、以下の通りである。
【次年度以降に期待される成果】
① 同じ係で年度間の工数比較をすることで、生産性に関する検証を行うことができる。② 業務負荷がピークの際に、どの係に人員協力を依頼するべきなのか、目安をつける ことができるようになる。③ 次年度の業務スケジュール(負荷とそのタイミング)が分かるようになる |
初年度の工数管理データは、当該年度の特殊事情なども一部反映されており、傾向は示しているものの標準値を示しているものとは言い切れない。数年度に渡って継続することで、標準値を知ることができ、信頼できるデータとして活用することができる。信頼できる工数管理データとなれば、生産性の検証や業務負荷やそ のピークの予知と対策に役立てることができる。
2 初年度実施により判明した課題
「 1 .初年度実施により得られた成果」と同じアンケート調査において、抽出した初年度の課題は次の通りである。
【初年度の課題】
① 初年度の取組ということもあり、工数の入力の精度が高くない職員がいる。② 工数管理の入力は個別に個票管理されているため、兼務の場合の時間把握方法の正 確性が担保されていない。③ 「その他」など汎用性のある項目に計上された工数の内容が不明である。④ 工数入力の手間が職員の負担となっている。⑤ 業務単位となると広範となり費やした工数が却ってわかりにくいため、より詳細で ある事務単位で工数を付けることができた方が良い。(どの業務として入力するべきかわ かりにくい) |
初年度の取組につき、工数入力に慣れていない職員がいることは前述したが、仕組みとしての課題も明らかとなった。まず、ひとつは、兼務をしている職員については、全ての業務を積み上げて検証できる仕組みがない。個別に実施することは可能であるが、手作業となり、仕組みとして備わっていない。調査時では、兼務はあまり多くはないが、今後、兼務が増えた場合は検証方法の確立が必要となる。二つ目は、共通項目として「その他」という項目があるが、この内容が今回の工数管理の仕組みでは把握することができない。「その他」を無くせば良いとの意見もあったが、結局、個人の解釈によって違う項目として入力されてしまうため、根本的な解決策にはならない。「その他」の工数割合が顕著となった場合、その内容を調査し、新しい項目を設定する必要がある。
この他に、使った時間によっては、どの業務として入力するべきかわかりにくいとの声が あった。その解決策として、本取組で工数を付ける単位となっている業務の粒度をもっと詳細にする方が却って正確に入力しやすいなどの意見もあり、今後の検討が必要であることが明らかとなった。
Ⅳ ディスカッション
全職員を対象とした工数管理の取組は、多くの職員の工数入力という多大な作業の上に成り立つものであり、職員の理解と見返りとなる相応の効果が期待される。また、入力した工数管理データをチェックする管理者の負荷も大きく、管理者自身の業務内容を再整理して、日常業務に取り込む必要がある。
今回、工数管理を試行的に実施した結果、個人、部署、組織全体の 3 つのレベルでそれぞれ成果がみられた。個人レベルでは、自分の工数を見返して自分の働き方を振り返ることができるようになった。その振り返りにより、時間の費やし方について自ら改善したり、同僚や上席者に改善方法の相談や支援を迷わずに問いかけたりすることで、過負担のない日常業務に近づけることができる。また、部署レベルでは、管理者が月次で部署内の職員の工数入力状況を把握することで、困っていることや過負担がないか、直接当人に問いかけることができるようになった。そのような対応により、業務課題や特定職員への過負担について、早期に対処を開始することができる。さらに、組織全体レベルとしては、働き方改革や人事異動などにおいて、現場の課題や工数のトレンドを見ることができるようになった。その情報を活用すれば、業務や組織の全体最適化を目指すことができる。これを実現することは容易なことではないが、可視化することで実施可能なことから改善に取り組むことができる。
工数管理データは、業務の状況把握及び職員の動きなどが可視化されるため、業務と組織をマネジメントするという視点(プロジェクトマネジメントの視点)から、かなり有効なツールとなる。マネジメントを実践する役割を担う者が、工数管理データを見ながら業務進捗と組織の活動状況を把握することで、必要不可欠なマネジメントの判断をタイムリーに実施することができるため、結果として冒頭で提起した「必要十分な人員確保」と「組織全体の業務処理能力の向上」と「アウトソーシングの活用」を推進することができる。
ただ、もし、当該組織にマネジメントが存在しなかったり、マネジメントのツールとして活用されないならば、単なる負担となってしまう。そのため、どのようなマネジメントでどのような課題を解決していくのかについて、しっかり定義した上で工数管理へ取り組むことが重要で あると考えられた。
Ⅴ おわりに
本研究の題材では、業務と工数と職員の関係性から課題を可視化するための工数管理に取り組んだが、地方自治体の課題はそれだけにとどまらない。浦田(2022)によると、多くの自治体職員は所属部署が 2 、 3 年で異動になることが多く、引継ぎ書など書面のみの場合もあり、対面での引継ぎ時間は少ない。また、体系的な仕事の進め方の学びの場もほとんどない状況であるとの記述にもある通り、十分なノウハウがない中でまさに「走りながら学ぶ」という面も多い。そのような状況では、最適な工数の使い方に至ることはかなり難しく、根本的な改革の必要がある。
工数管理は、それ単体だけでどんな課題も解決できる万能の手法ではなく、課題に応じて、その他の業務改善手法と組み合わせて実施することが効果的である。例えば、業務や組織体制や担当者の決裁範囲を根本的に見直すBPR(Business Process Re-engineering)、窓口業務や事務処理を外部に委託するBPO(Business Process Outsourcing)、定型業務をソフトウェアに自動的に処理をさせるRPA(Robotic Process Automation)をはじめとし、情報化・クラウド、官民連携など業務改善に繋がる様々な取組があり、それらと結び付けて実施することが肝要である。
また、中山(2019)が地方自治体としてRPAに取り組んでおり、その中で業務範囲を限定してスモールスタートを原則にトライアル・アンド・エラー(試行錯誤)で推進することを推奨している。今回は最初から全職員を対象としたが、部署ごとにスモールスタートで着手し改善していくような推進方法も有効であると考えている。
前述した工数管理や業務改善を段階的に実施したり、それらを組み合わせたりすることで、業務実施の個別最適化と全体最適化を合わせて推進することができると考えている。このような取組が地方自治体におけるマネジメントを確立させると考えており、引き続き研究を続けて行きたい。



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