≪査読付研究ノート≫自治体外郭団体におけるゆらぎとは何か―事例分析による仮説生成―
- 非営利法人研究学会事務局
- 3月5日
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九州共立大学教授(前公益財団法人倉敷市スポーツ振興協会総務企画課長) 吉永光利
キーワード:
自治体外郭団体 ゆらぎ 秩序 組織体制 自律性 行政改革大綱
要 旨:
本稿は、「自治体外郭団体におけるゆらぎとは何か」という命題に対して、ゆらぎ概念に関する諸議論を踏まえて、事例分析を通じて、その仮説を生成するものである。
自治体外郭団体は、国等による行政施策に対応した運営を行っており、やや受動的かつ閉鎖的な側面があるように思われる。しかし、昨今の国等による指定管理者制度の導入や公益法人制度の見直しなどによって、自律的な運営を求められているところがある。
そこで、本稿では、自治体外郭団体を対象に、自律的な組織変容(自己組織化)の起点であるゆらぎに着目し、その一般化を図るため、将来の研究に繋がる仮説を生成するものである。なお、この生成においては、 6 事例の考察を行い、 8 つの仮説を提示している。
構 成:
Ⅰ はじめに
Ⅱ 問題関心、方法
Ⅲ ゆらぎ概念に関する諸議論の整理
Ⅳ 事例分析
Ⅴ 仮説の提示
Ⅵ おわりに
Abstract
This paper generates a hypothesis for the proposition “What is fluctuation in municipality-affiliated organizations?” through case analysis based on various discussions on the concept of fluctuations. Municipality-affiliated organizations operate in response to administrative policies and systems established by the national government, etc., and they seem to have a somewhat passive and closed aspect. However, recent efforts such as the introduction of the designated manager system by the national government and reviews of the public interest corporation system have created a demand for more autonomous management. In this paper, therefore, we focus on fluctuations, which are the starting point of autonomous organizational change (self-organization), in municipality-affiliated organizations to generate a hypothesis capable of leading to future research to generalize this concept.
※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。
Ⅰ はじめに
本稿は、「自治体外郭団体(municipality-affiliated organizations)におけるゆらぎ(fluctuations)とは何か」という命題に対して、事例分析を通じて、その仮説を生成1)するものである。
自治体外郭団体は、国等から人的・経済的な支援を継続的に受けているなどの特性から、行政施策の影響を受けることが多く、運営面では、やや受動的かつ閉鎖的な側面があると思われ る。
しかし、それは、すべてではなく、国等による自律的な運営への要請(指定管理者制度や公益法人制度の見直し)に応えながら、継続的に事業を行うなかでは、対照の側面が見られる。そのような能動的な側面に着目して、自治体外郭団体の組織変容に関わるゆらぎの一般化を図る、その研究過程における仮説を生成(提示)することが、本稿のねらいである。
本稿におけるゆらぎは、社会科学における自己組織化(self-organization)という組織の変容現象の起点(兆し)を意味している。これは、今田[2005]が指摘する自己組織性(self-organity)の特性の一つである「ゆらぎを秩序の源泉とみなす(今田[2005]、27-30頁)」に依拠している。同様の視覚から、本稿に先立ち、2 つの自治体外郭団体を事例とした運営実態の考察を行っている(吉永[2024])。
この研究におけるゆらぎ事象では、団体ごとの背景や調査時の状況、あるいは応対者の主観的な意識の異同などにより、異なる事象が発見されている。ただし、それぞれが当該組織の実状を表していることを考慮すれば、例えば、設立の経緯や現状等によりゆらぎ事象を区別・整理すれば、その発生要因や傾向をつかめるのではないか、このような疑問が本稿の契機となっている。
Ⅱ 問題関心、方法
1 問題関心
外郭団体を取り巻く環境は、平成中期以降、多様に変化しており、その多くは、平成12年12月に閣議決定された行政改革大綱2)(以下「大綱」と記す。)に関連するものである。大綱では、行政システムの改革推進の要点として、①新たな時代の要請への対応、②国民の主体性と自己責任の尊重という 2 つの観点に重きを置いており、 7 つの章立てから成っている。このうち、「Ⅰ 行政の組織・制度の抜本改革」と「Ⅱ 地方分権の推進」が自治体外郭団体に関連する内容である。策定の翌年には、行政委託型公益法人を対象とした改革の視点と課題を提示している。このなかで、国は、①官主導による設立、②当初の目的達成、時代変化による意義喪失等、 ③委託先選定基準の不明確さ、④補助金の不適切使用、⑤不要な事務等の創設、⑥公務員の天下り、このような国民からの批判を受け止めている。さらに、これらの批判を踏まえて、改革の基本理念と改革の視点を提示しており、それらをまとめたものが、図表 1 である。
この改革には、例えば、指定管理者制度3)への移行や公益法人制度の見直しがある。平成16 年施行の指定管理者制度では、すべてではないが、自治体外郭団体が市場競争下に置かれることになり、その結果、事業の縮小、あるいは廃止となった事例が見られる。この制度下にある団体においては、組織存続のため、従来から蓄積してきたノウハウを活かした独自性の発揮が 求められている。また、平成20年に改正された 公益法人制度4)の趣旨では、公益法人を社会経済システムに積極的に組み込み、自律性の発揮を求めている5)。これらの状況から、一部では 「官のシステム」としての役割を終えたところがあるように思われる。その一方で、両制度に共通して、運営面では、やや自由度が高まっていると考えられる。
ここで、筆者は、自治体外郭団体の実務者であり、自組織のみならず、他団体との交流を通じて、上述のような諸施策に対する苦労や悩みを耳にしてきた。それは、将来的に諸制度に対応した自律的、能動的な運営を行っていくのか、それとも従来どおり、官のシステムの一部として、他律的、受動的な運営に徹していくのか、そのような問題である。制度上の矛盾や社会的な批判はともかくとして、例えば、設立の経緯を踏まえれば、国等の意向(寄付者たる自治体、あるいは社団としての意志)に沿った対応は、自然であると思われる。このことに関連して、国等では、引き続き管理下に置き、活用したいとの思惑があると考えられる。また、外郭団体側では、国等の意向に従っておれば、存続が維持される、あるいは経済的支援を受けられる、という「親方日の丸」と風刺されるような他律的、旧態依然とした考えが存在することも考えられる。
このような状況が考えられるなか、そこで働く人々の意識に着目すると、諸施策が求める変革志向と従来からの保守志向との間6)で揺らいでいるところがあると思われる。ただし、そのような個人の意識は、組織に蓄積された情報の質や量(経験値)の影響を受けると考えられる。しかし、その影響による個人の意識は、組織の変容に関わっていくため、結局、相互に連環し ている7)と考えられる。いずれにしても、人々の意識や行動が日々揺れ動き(一定せず)、組織も変化し続ける状況を考慮すると、十把一絡げにゆらぎを限定的、単純化して捉えるとリアリティからかけ離れると考えられる。
以上のように、組織を構成する個人によるゆらぎは多様に考えられるが、自治体外郭団体にどのようなゆらぎが生起し、組織が変容(自己組織化)しているのか。このような疑問に対して、団体ごとの設立経緯や現状等を踏まえて、ある程度ゆらぎの特性(仮説)を明らかにすることができるのではないか、このような問題関心である。武者[1980]の言葉( 7 頁)を借りれば、自治体外郭団体にとっての「ゆらぎの骨」を明らかにすることが、本稿を含めた最終的な研究目的である。
図表 1 行政委託型公益法人改革の基本理念と改革の視点

出所:大綱を参照し、筆者作成
2 研究の方法
⑴ 方法の検討
科学全般において、理論の整合性の高さが人々を説得するための手段になっていると思われる。しかし、とくに、社会科学のような概念を取り扱う分野においては、理論が実践に介入するとき、そのあいまいさや現実離れした内容によって、腑に落ちない思いを抱くことがある8)。それは、抽象性の高い理論と具体である実践との架橋(結合)が十分になされていないことに起因すると思われる。社会科学におけるゆらぎに関する議論がやや停滞傾向にあるのも、このような結合の不十分さが一因になっていると考えられる。
また、現在の科学は、統計的な分析志向であり、現象の因果関係を明らかにするという観念が一般的になっている9)。そのため、客観的・ 定量的に取り扱うことが困難な科学においては、挑戦的な試みの弊害になっている10)と思われる。このような観念を否定する意図はないが、本稿は「科学は問題から始まる」ことを前提(今田[1986]、18頁)として、Weick[2000]の指摘を参考に、実践的な解釈(意味付け)を加えながら、事例分析11)という定性的な方法により、自治体外郭団体におけるゆらぎの仮説生成を試行する。
⑵ 分析対象、分析方法
本稿の分析対象は、自治体外郭団体におけるゆらぎである。ここで、外郭団体の定義は、そこで働く「ヒト」の意識や行動に着目していることから、吉永[2024]と同様に「国等と協働して政策実現のための事業を行い、かつ国等の現職、あるいは退職者が常勤役員等に就任している団体」とする。ゆらぎに関しては、次節で検討する。
次に、分析方法では、上述の「 1 問題関心」 に関連して、各団体の設立経緯や現状等を踏まえて、どのような(個人による)ゆらぎが発生し、また、それを組織(秩序)が許容、あるいはそれに関わっている(影響を与えている)のか、そのような連関的な組織現象を考慮した分析を試みる。具体的には、ゆらぎ概念の概念的枠組み(conceptual framework)を検討したうえで、事例分析を通じて、ゆらぎに関する発見事象を整理し、その仮説を生成する。
Ⅲ ゆらぎ概念に関する諸議論の整理
経営学におけるゆらぎは、組織の動的変容の代名詞として、1970年頃から多く用いられている。その一方で、ゆらぎという言葉を用いれば、組織が動的(dynamic)に変容するという錯覚や誤解があるとの指摘がある12)。また、ゆらぎという概念は、自然科学に原典があるが、社会科学における理論構築のため、一方向的にメタファー(metaphor:隠喩)化されていると思われる。そうしたなか、自然科学から社会科学に応用しようとする議論がある。
本節では、このような議論(武者[1980]、武者他 1 [1991])のレビューを行い、社会科学における野中[1985]、今田[2005]の議論を交えながら、ゆらぎに関する概念の枠組みを検討していく。なお、野中[1985]と今田[2005]の議論は、後述の「Ⅳ 事例分析」で事例に選定している2020年に実施したインタビュー調査(以下「2020年調査」と記す。)に関連する議論である。
1 武者[1980]の議論
武者[1980]は、「人間の心が日々動いていると同時に体は老いていく」、このような「もの」が変化していく姿を「ゆらぎ」として、多様な角度から考察することをねらいとしている( 6 頁)。そのなかで、次の指摘がある。
「模範人間ばかりで構成されている社会というものを考えてみると、およそ面白くもおかしくもないに違いない。(中略)「ゆらぎ」 は「あそび」でもある。(中略)好ましい方向にゆらいでいる人間を積極的に援助する態 勢がなければ、社会の進歩発展は期待できな い。「ゆらぎ」というものは、盲人の杖のようなもので、「触手」なのである」
上述の指摘は、野中[1985]によるゆらぎの定義(134頁)や今田[2005]による自己組織性の 4 特性(28-34頁)と共通する部分がある。さらに、次の指摘がある(224頁)
「どのような「ゆらぎ人間13)」の存在を許すかは、その社会の判断に掛かっている。ゆ らぎ人間の存在を幅広く許容する社会では個性の分布する範囲が広いから、犯罪の発生率 も、その凶悪振りも極端かも知れないが、また才能豊かな個性もおおらかに芽をふいて、 傑出した人物が育つ素地があるので、やりがいのある社会であるに違いない。善悪両方向 へのゆらぎのなかから、どの部分を「適者」として強調するかによって、その社会の進化 する方向がきまるわけで、どういう方向に選択原理を機能させるかがその社会の持つ特異 性をきめることになる。その前提条件としては、「個性のゆらぎ」をまず許容することが 必要である。社会の「自然選択の原理」は、その社会の持つ「価値観」である」
上述の指摘は、野中[1985]による個人の自律性(143-144頁)と今田[2005]による創造的な個人(30-32頁)に関する指摘と共通するところがある。さらに、社会が何を「適者」にするかという社会の「価値観」に対する指摘は、ゆらぎが組織にどのような変容をもたらせたのか、という事後的な評価に関連すると考えられる。
2 武者他 1 [1991]の議論
武者他 1 [1991]は、ゆらぎには、確定的な事象と確率的な事象が混在していると指摘している。このうち、確率的な事象では、時間を逆にたどっても偶然と必然を区別する要素はなく、原因が多くなれば、それらがからみ合っているため、区別できないと指摘している(1- 2 頁)。また、結果論として整理すれば、因果的関係性は明らかになるが、現実には、結果は事後的に発生するため、どこまでの時系列で切るか、という初期条件の問題が発生すると指摘している( 6 頁)。それは、成果指標や計画の達成(結果)をどのように規定するか、という実践的な問題にも関連している。そのほかにも、以下のような指摘がある。
⑴ 経験(知識量)に依存する予測値
例えば、(多数の変数の存在により)正確な初期条件を定義しきれない場合があるが、これは、自分都合(知識不足)による問題であると指摘している。ここで、組織体における変数は、構成する「ヒト」であり、その属性や数によって、変容の結果が異なると考えられる。さらに、予測が知識の量に影響を受けるとの指摘があるが、このことは、当該組織の経験に依存すると考えられる。
⑵ ランダムのなかの法則性
予測不能性には、初期条件の違いが時間の経過とともに広がっていく場合と、初期条件やそのズレの積として不確定性が大きくなる場合の 2 つがあると指摘している。ただし、不確定な存在としての個人(非線形)も集団化すれば、規則性(線形)があらわれるため、ランダムのなかに法則性があると指摘している(10-13頁)。このことから、相関のないゆらぎは現実にはありえない、ということになる(13頁)。
⑶ 予測(モデル)と現実とのズレ
過去の変化からの学習による予測(行為)が モデルであり、そのモデルと現実とのズレがゆらぎであると指摘している(16頁)。そのモデルは、上述のとおり、組織の経験に依存しており、ズレには、当該組織における新規性や創発性の起点である個人による発想やアイデアといった事象があると考えられる。そのため、組織の経験(貯蔵情報)によりゆらぎの性質は異なり、それを取り込む組織の受容性がなければ、発生確率は低減すると考えられる。
⑷ 「あそび」による誘発
「決定を行う」行為は、自由度を切り捨てることであり、不確定性の広がりを止める関係性があると指摘している(33-35頁)。それは、武者[1980]が指摘する「あそび」のある組織体において、決定までのプロセスにおいて、どのようにゆらぎを発生させるか、という問題に関連する。例えば、強権的な管理志向、あるいは存在意義が低下している組織では、一定の秩序ある組織と比して、あそびが少なく、組織の変容可能性が低減すると考えられる。
3 まとめ
武者[1980]は、個人が組織を変容させていく、そして、組織が個人を積極的に援助する、このように指摘しており、野中[1985]、今田[2005]と共通する視覚にあると考えられる。そのため、2020年調査で両氏の指摘を援用し、設定している①ゆらぎ(緊張感、危機感、多様性、不安定性)、②秩序(規則、予算)、③組織体制(職場の雰囲気、個人の尊重)の測定次元には、ある程度妥当性があると思われる。ただし、武者[1980]が指摘する「あそび」、今田[2005] が指摘するゆらぎの定義14)を考慮すれば、上述した創発的なゆらぎや組織の受容性に関する新たな視点(下位次元)を加えて、対象を拡張していくことが考えられる。
次に、武者他 1 [1991]からは、初期条件の指摘に関連して、ゆらぎの発生は、情報として切り取った時点(例えば、インタビュー時)における組織の状況に起因している。このことを踏まえて、ゆらぎの発生要因として、①組織の経験に依存している、②他の要因(秩序・組織体制)と何らかの相関がある、③モデルと現実とのズレから生じる、④あそびを許容する組織体制による、これら 4 点を考慮したデータ抽出を行う。また、本稿が自治体外郭団体に対象を限定していることから、例えば、法的な要請では共通する部分が多いほか、時間軸においても、過去か未来か(時系列)の違いはあるにしても、経験可能性としての共通部分があると思われる。その一方で、初期条件(結果の規定)に関連して、事前に組織成果(会員・利用者数等)に規定しておくことが考えられるが、各データ収集時の経験則や背景が異なる事情を考慮すれば、特定の組織成果に絞っての因果的なゆらぎの考察は、限定的な議論になる恐れがある。そのため、事例ごとに事象を抽出していくことが適当であると考えられる。
以上のことから、本稿では、初期条件と経験等を考慮しながら、2020年調査における野中[1985]によるゆらぎの定義15)に新たな視点(下位次元)を加えることとし、それらをまとめたものが、図表 2 である。これにより、2020年調査と比して、探索対象を広げたデータ抽出を行う。
図表 2 ゆらぎ概念の下位次元(視点)

出所:筆者作成
Ⅳ 事例分析
本節では、2020年調査のなかから、 6 つの事例を選定し、各事例の調査概要を提示した後、 前節で特定したゆらぎに関する発見事象を整理(要約)し、考察を行う。
1 事例の選定
本稿で取り扱う事例は、2020年調査における15事例16)のうち、本稿における外郭団体の定義に該当する 6 団体を選定している。選定の理由は、調査対象に自治体外郭団体が含まれており、かつゆらぎに関するデータを集中的、豊富に収集していることによる。
2 調査概要
各事例における2020年調査時の法人概要と調査概要をまとめたものが、図表 3 である。図表 3 のとおり、法人類型別では、公益社団法人が 3 団体(A社団・B社団・C社団)、公益財団法人が 3 団体(D財団・E財団・F財団)である。事業種別では、高齢者就業斡旋(シルバー人材センター:A社団・B社団・C社団)、公園管理(指定管理者:D財団)、助成(教育活動:E財団)、高齢者余暇活動(老人クラブ:F財団)の各団体がある。
法人概要に関しては、とりわけ図表 3 内の 「主な現況」欄の状況から、成果指標(会員数の増加)の達成に向けて自律的に運営している団体(A社団・B社団)、理事長の強いリーダーシップにより運営している団体(C社団)、自治体からの厳しい指導監督を受けている団体(D財団)、自治体と密接に連携した運営を行っている団体(E財団)、自治体からの人的・経済的な支援が著しく低減している団体(F財団)があり、多様である。
同様に、調査概要に関して、2020年調査は、 すべて対象法人の事務所へ筆者が 1 名で赴き、 質問紙(図表 2 内の下線部を除く項目を中心に)を手許に置き、インタビューを行っている17)。そ れぞれ応対者の職名や属性が異なっている一方で、多様な情報を収集しており、一つの見方として、多面的に自治体外郭団体の特性を捉えていると考えられる。
なお、吉永[2024]では、A社団とB社団の事例を取り扱っているが、本稿では、図表 2 に基づく新たな視点を加えて、より詳細かつ濃密な情報を抽出している。
図表 3 2020年調査の概要

出所:筆者作成
図表 3 (続き) 2020年調査の概要

出所:筆者作成
3 発見事象
図表 4 発見事象

出所:筆者作成
図表 4 (続き) 発見事象

出所:筆者作成
4 事象の整理
上述の「 3 発見事象」を基に、各事例の現況(図表 3 内)を考慮しつつ、図表 4 のゆらぎの発見事象の特徴から共通項目を設定・整理したものが、図表 5 である。なお、図表 5 内に記載の丸数字は、図表 4 の各欄に記載の丸数字に対応している。
大きくは、 5 つの項目(現状への疑問、運営上のあいまいさ、経営資源の不足、外部からの監視、外部からの期待)に区分することができる。全体に共通して、「 3 .経営資源(とくに財源と人材)の不足」を指摘していることが分かる。これは、財政基盤の弱い非営利組織の特性18)に関連すると考えられる。さらに、「 4 .外部から の監視」を意識しており、これは、公益法人制度改革に関連して、自治体外郭団体に対する国民からの目(偏見)に起因していると考えられ る。その一方で、図表 3 における「 2 .主な現況」欄の内容から、革新的と思われる団体(A 社団・B社団・C社団)では、「 1 .現状への疑問」を組織変容の兆しとして、内発させていることが分かる。その一方で、現状維持、あるいは低迷期にある保守的な団体(D財団・E財団・F財団)では、ほとんどないことが分かる。これは、外圧的な要因が影響していると考えられる。さらに、自治体との連携志向が強く、かつ少人数の 団体(E財団)においては、意思決定を自治体に委ねる受動的な運営であり、ゆらぎが発生しにくい状況にあると考えられる。
図表 5 項目ごとの事象整理

出所:筆者作成
5 考察
図表 5 を踏まえて、次のように考察することができる。
「 1 .現状への疑問」は、既存秩序と比して、多様なズレに対する認識である。そのため、自治体代行者としての自覚、各種内部規定の整備状況、従業員間の共通理解といった当該組織の認識の程度により、ゆらぎの発生頻度が異なると考えられる。「 2 .運営上のあいまいさ」は、程度はともかくとして、いずれの団体(組織)にも存在すると思われる。ただし、外部からの関与が高まれば、顕著に表れる傾向にある(D財団)と考えられる。「 3 .経営資源の不足」は、安定した運営を妨げる(不均衡)要因であり、そのような意味において、組織の存続(有機体としての生命維持)を図るため、断続的にゆらぎを発生させていると考えられる。さらに、「 4 .外部からの監視」「 5 .外部からの期待」のように、外部(自治体や地域住民)からの評価に対する意識がゆらぎとなっている。これは、大綱で指摘のあった国民からの批判に関連している。また、 2 つに区分した対照的(動的・静的) な事例から、行政からの関与が強くなると、運営上のゆとり(あそび)がなくなり、自主性・ 自律性が損なわれ、結果として、ゆらぎが発生しにくい状況になると考えられる。 図表 3 と図表 4 の内容から、自治体外郭団体は、コンプライアンス意識が高く、既存秩序を優先する指向があると考えられる。ただし、それは、既存秩序が正しいとする硬直的な思考でもあり、ゆらぎを発生させる頻度が低くなる傾向にあると思われる。その一方で、別の見方として、既存秩序から逸脱しない運営に重点が置かれていることから、自己言及的に秩序の是非を問うゆらぎを発生させていると考えられる。つまり、既存秩序には、ゆらぎの発生要因と抑制要因にはたらく二面性がある、ということである。また、図表 3 における同地域の外郭団体の不正による行政指導(D財団)、あるいは当初の目的が達成されつつあるなどの停滞期・衰退期に直面している団体(F財団)にとっては、秩序の維持が困難となり、そのような状態では、行政(他者)からの関与が強くなる傾向にある。それは、自治体の秩序(官のシステム)に取り込まれることを意味しており、そのことによって、自主性や自律性が損なわれ、自己の秩序が崩れていくと考えられる。
このように、ゆらぎと秩序の状況と組織の現状(成長期・衰退期)の 2 つの要因との間に相関性があると考えられる。また、秩序が維持できない状況では、ゆらぎの発生機会が低減し、硬直的になると思われる。そして、そのような状況では、職員を尊重する余裕(ゆとり)はなく、人間関係を良好に維持することが困難(コミュニケーションの減少)となり、結果として、 ゆらぎの発生を抑制する要因になると考えられる。
Ⅴ 仮説の提示
「Ⅳ- 5 考察」に基づき、将来の実証分析で検討する仮説を以下のように設定する。
1 経営資源
非営利法人の特性として、経営資源(とくに財源と人材)が不足しているとの観点から、以下の 2 つの仮説を設定した。
仮説①:従業員が少ない組織ほど、ゆらぎの発生頻度が少ない。
仮説②:財源の不足感は、断続的なゆらぎの発生要因となる。
2 外部評価
大綱による外郭団体への批判、事例にあった自治体からの関与の状況から、以下の 2 つの仮説を設定した。
仮説③:外部(自治体や地域住民)からの厳しい評価は、ゆらぎの発生頻度を高める。 仮説④:行政からの指導監督等の関与が強くなれば、ゆらぎの発生頻度は低下する。
3 秩序
ゆらぎと秩序の関連性から、以下の 2 つの仮説を設定した。
仮説⑤:自治体による人的な関与が強い団体は、ゆらぎの発生頻度が低い。
仮説⑥:自ら秩序化が進行している団体は、自己言及的なゆらぎの発生頻度が高い。
4 個の創発性
ゆらぎと組織体制の関連性から、以下の 2 つの仮説を設定した。
仮説⑦:拘束的かつ徹底した従業員の管理は、ゆらぎの発生を抑制する。
仮説⑧:コミュニケーションが図られている体制では、ゆらぎの発生頻度が高い。
以上、 8 つの仮説を設定するほか、仮説検証にあたり、①応対者の職位や属性、②団体の背景(変化)、③直面している状況、④設立目的の達成度合い(成長期・停滞期・衰退期など)をあわせて調査する。
Ⅵ おわりに
本稿は、自治体外郭団体におけるゆらぎの一般化を図る、その研究過程における仮説の生成を試行した。この試行にあたっては、自治体外郭団体で働く人々の意識や行動に関する他に例の少ないデータを提示しており、今後の進展に貢献できたように思われる。その一方で、自治体外郭団体が他の組織と比して、類似性がなく、すべてにおいて特殊というわけではない。例えば、企業等組織においても、子会社や下請けという組織間の関係性があるように、受動的な立場にある組織が存在する。また、コミュニティ機関として、地域と密着した運営を行っている非営利組織があり、そのような共通する視点から、本稿をヒントに応用的な考察が可能になると思われる。
しかし、課題も多くある。2020年調査では、野中[1985]によるゆらぎの定義を用いて、概念操作による測定次元の設定を行っている。その経緯から、ゆらぎ事象の限定的なデータ収集となっていることは否めない。また、事象を整理するための各項目の設定に関しても、異なる切り口での整理が可能であると思われ、検討の余地が残されている。
最後に、本稿の含意を述べる。各調査から感じられたことであるが、国等による諸施策によって、外郭団体の自律性が求められているなか、自ら変容することができない、あるいは既存の秩序に従わざるを得ない、といった思い込みのもと運営を行っている組織があるように思われた。それは、既成概念に囚われ、規則が優先される、あるいは失敗を避ける、このような保守的、消極的な態様を自らで作り出している、という疑問である。そうではなく、組織には、その一部であれ、自ら変容する能力(自己組織化能19))があり、構成員それぞれによる自己言及的な意識や行動が求められるのではないだろうか。
また、従来、自治体外郭団体の秩序は、首長を含めた自治体職員側の意向を反映したものであった。しかし、年月の経過とともに、(在籍年数の長い)プロパー職員側にシフトしている部分があるように思われる。そのため、定期的な自治体職員の出向等が組織変容をもたらすゆらぎになる場合がある。つまり、組織にとってのゆらぎは、「ヒト(職員)」の属性に関わりはなく、現状に満足せず、多様な変化を読み取る個の力である。そして、ゆらぎを引き出せる機会の創出、またそれを許容する組織のあり方、このようなマネジメントが求められていると思われる。
[謝辞]
本稿執筆にあたり、本学会報告における吉田忠彦先生・吉田初恵先生・東郷 寛先生ほか諸先生方からの建設的なご指摘、 2 名の匿名査読者による貴重なコメント、そして、筆者を励まし続けてくれる元同僚の冨澤 諭氏に対して、心より感謝申し上げたい。
[注]
1)仮説検証とは対照的に、収集したデータを解析するなかで新たな理論や仮説を構築する研 究である。例えば、小熊[2022]の指摘がある。
2)https://www.gyoukaku.go.jp/about/taiko.html 、令和 6 年12月21日アクセス。
3)小泉内閣時(平成15年)に「官から民へ」「小さな政府」を合言葉に進められた施策である。
4)公益法人の根拠法が1898(明治31)年の施行以来、約110年ぶりに改正され、従来からの主務官庁による公益法人の設立許可、および指導監督等の裁量的な事務が廃止された。
5)内閣府[2019a、2019b]を参照のこと。
6)例えば、吉永[2023]が指摘している自己組織性の類型の見方(表 1 )がある(113頁)。
7)例えば、吉永[2023]によるオートポイエーシス論の指摘を参照のこと(118-119頁)。
8)例えば、伊藤[1993]の指摘を参照のこと(82-84頁)。
9)千葉[1984]は、社会科学の研究方法は、細分化主義、統計的分析手法、これらを重視することが 1 つのスタイルになっていると指摘している(68-70頁)。
10)柴谷[1977]は、科学には、定量化しないと客観的に扱えないという一般的な信念があるため、複雑な対象や非線形の系の例では、科学的解析の材料となりにくく、それへの理解がなおざりになっていると指摘している(243 頁)。そのうえで、非線形過程を数学的ではなく、言語的解析を通じて、直感的・定性的・ 実践的に理解する系統的方法論としての唯物弁証法についての弱点も含めて言及している (255-256頁)。
11)Yin[1994]を参考にしている(38-45頁)。
12)例えば、庭本[1994]の指摘がある(38頁)。
13)武者[1980]は、良い意味でも悪い意味でも標準人間とは異種の存在としている(224頁)。
14)「システムの均衡状態からのズレ、その延長として既存の枠組みからのズレ」である(19頁)。
15)「組織内に緊張、危機感、変異、混沌などを内発させ、組織の構成単位の選択の多様性、迷い、あいまい性、遊び、不規則な変化(ラ ンダムネス)、不安定性などを内発させる現象」 である(134頁)。
16)2020年調査のデータの大部分は、吉永[2021]に収録している。
17)調査先には、事前に了承を得て、すべてICレコーダーで録音を行い、文字起こしの内容については、2 度の確認をしていただいている。
18)例えば、田尾他 1 名[2009]による指摘がある(31-32頁)。
19)例えば、高橋[2021]による指摘がある(90頁)
[参考文献]
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[ウェブ資料等]
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内閣府官房行革推進事務局[2002]「「公益法人制度の抜本的改革に向けて(論点整理)」の概要: https://www.gyoukaku.go.jp/jimukyoku/koueki-bappon/ronten/gaiyou.pdf 」、内閣府官房行革推進事務局。2024年12月21日アクセス。
論稿提出:令和 6 年12月26日
加筆修正:令和 7 年 5 月15日



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