
学会賞・学術奨励賞・学術奨励賞特賞の審査結果
(第1回~第10回)
第10回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告
平成23年9月14日
非営利法人研究学会
審査委員長:石崎忠司
非営利法人研究学会学会賞審査委員会は、第10回学会賞、学術奨励賞、学術奨励賞特賞の候補作を慎重に選考審議した結果、今次は下記の論文を学術奨励賞に値するものと認め、選定しましたので、ここに報告いたします。
1. 学会賞
該当作なし
2. 学術奨励賞
佐久間義浩「非営利組織における内部統制の現状―自治体病院におけるアンケート調査による分析―」
【受賞理由】
本論文は,全国の自治体病院を対象にアンケート調査を実施し,内部統制の構築・運用の実態を明らかにするとともに,調査データの統計分析を通じて自治体病院における内部統制の導入要因の検証を試みたものである。本論文における調査・分析の結果,回答した病院の6割弱がすでに内部統制を導入していること,そして内部統制の導入要因としては病院の規模が相対的に強く作用していることが,明らかにされている。
今日,患者のニーズに対応したきめ細かい医療サービスの提供が今まで以上に強く求められる一方で,自治体病院をはじめとした医療機関の財政問題が深刻化している。しかし,これまで医療機関の管理運営においては「経営」や「ガバナンス」といった視点からのアプローチがなされることは極めて稀であり,そうした事情が,医療機関における情報開示制度の未成熟性と相俟って,社会科学分野での研究の進展を阻む要因となってきた。本論文は,こうした制約を持つ未開拓分野の研究に真正面から取り組んだものであり,学界に大きな一石を投じる好著に仕上がっている。本論文は,医療機関の経営分析を手掛ける後続の研究が必ず踏まえなくてはならない先行研究になるであろう。これが本論文の第1の功績である。
また,本論文では,実態の解明に際して周到な実証研究の手続きがとられており,研究の貢献と課題が明確に提示されている。こうした本格的な実証研究論文が本学会誌に掲載されたのは本論文が最初であり,その意味で本論文は,非営利組織研究の新しい分野を切り拓いたものと位置づけることができる。本学会のとりわけ若手会員の今後の研究を活性化する貴重な先行事例となるであろう。これが本論文の第2の功績である。
本論文では,医療機関が抱える固有の経営問題への言及がなく,また実証分析を通じて得られた知見も常識の域を出ないなどの問題点もあるが,それらは,著者の今後の研究課題を示すものであって,本論文の学術的価値をいささかも損なうものではない。以上の理由から,本論文は,学術奨励賞授賞に相応しい著作であると,審査委員会は全会一致で認めた。
3. 学術奨励賞特賞
該当作なし
第9回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告
平成22年9月25日
非営利法人研究学会
審査委員長:石崎忠司
非営利法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第9回学会賞(平成21年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)、学術奨励賞(平成21年度全国大会における報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文及び刊行著書)及び学術奨励賞特賞(平成21年度全国大会における報告
に基づく実務者の論文及び刊行著書)の候補作を慎重に選考審議した結果についてここに報告いたします。
1. 学会賞
該当作なし
2. 学術奨励賞
該当作なし
3. 学術奨励賞特賞
江田 寛(公認会計士)「NPO会計基準を民間で作成することの意義」(平成21年度非営利法人研究学会全国大会統一論題報告、於・名古屋大学,『非営利法人研究学会誌』Vol.12所収)
【論文の概要と授賞理由】
1998年に特定非営利活動促進法(NPO法)が施行されて,10年余が経過した。その間,NPO法人は質量の両面にわたって飛躍的な発展を遂げ,今やわが国の経済社会にとって無くてはならない存在となった。ところがその会計制度については,NPO法に若干の関連規定があるのみで,計算書類作成のための包括的な基準は現在に至るまで存在しない。
こうした不正常な状態を改めるとともに,NPO法人の今後のさらなる発展の制度的基盤を整備するべく,NPO法人の支援団体等が中心となって2009年3月にNPO法人会計基準の策定作業を開始した。著者は,その策定主体であるNPO法人会計基準策定委員会の委員長を務めた。本稿は,そうした立場にあった著者の視点から,NPO法人会計基準策定作業の経緯と意義を取りまとめたものである。
本稿の主たる貢献は,以下の2点にある。第1は,「NPO会計基準を民間で作成することの意義」を,当事者の観点から明らかにしていることである。他の非営利法人会計基準の事例が示すように,行政主導の基準設定は,行政目的を優先した作業となりがちである。その弊害として,基準が法人の活動実態から乖離したものになる傾向があり,またそのことから,資源提供者や国民に対する説明責任(アカウンタビリティ)の視点が弱くなるという問題も,派生することになる。著者によれば,これらの弊害を回避しながらその会計制度を整備拡充することが,NPO法人の今後の発展にとっては避けて通れない課題の1つとなるのである。
第2は,NPO-GAAPの形成に向けた独自の洞察を行うとともに,その具体的な実践経験を報告していることである。民間主導で基準設定を行った場合,上掲のような弊害を回避することが可能となる一方で,基準の法制度的な強制力はまったく期待できないという難問が新たに生じることになる。そのような状況下で,新しく策定する基準がNPO-GAAP(一般に認められたNPO会計原則)となるためには,当該基準は,「少なくともNPO法人の過半数が自主的に採用してくれるものでなければならない」(江田論文12頁)。その可能性を担保するのは,「この会計基準が,市民参加型のオープンなプロセスで作られたという事実」(同20頁)であると,著者はいう。
策定委員会の「論点報告」に収録された9項目の論点の第1番目に「小規模法人に対する配慮」が掲げられていることは,一見すると奇異に映るかもしれないが,こうした論点整理が,上掲のような趣旨にもとづいて組織された「市民参加型のオープンなプロセス」における関係者の激論をふまえたものであることを理解すれば,そこには極めて重要な意味合いが込められていることが看取されるのである。すなわち,このような「配慮」が,民間の力でNPO-GAAPを形成するうえで,欠かせない課題だったのである。そしてまた,このような「配慮」のもとで初めて,複式簿記の採用を前提とした画期的なNPO法人会計基準を策定することが可能となったのである。
策定委員会が策定した会計基準(2010年7月公表)は,わが国のNPO法人制度史上初めて成立した包括的なNPO法人会計基準となる。策定委員会は,その作業を民間の力で完遂したのである。本論文の学術的意義は上述の通りであるが,それに加えて,策定委員会のそうした基準設定活動を指導した著者の実務者としての功績は,独自の社会的貢献を示すものであり,特段の評価に値する。それは,わが国のNPO法人制度史に残る偉業といってよいであろう。
以上の理由から,本論文は,非営利法人の制度又は実務に携わる実務者を対象にその業績を顕彰することを趣旨として本年度から創設された学術奨励賞特賞授賞に相応しい著作であると,審査委員会は全会一致で認めた。
第8回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告
平成21年9月26日
非営利法人研究学会
審査委員長:大矢知浩司
非営利法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第8回学会賞(平成20年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)及び学術奨励賞(平成20年度全国大会における報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文及び刊行著書)の候補作を慎重に選考審議した結果、今次は残念ながら学術奨励賞に該当する論文はなく、下記の論文を学会賞に値するものと認め選定しましたので、ここに報告いたします。
1. 学会賞
伊藤研一(摂南大学)・道明義弘(奈良大学〔名誉教授〕)「大統領府創設の“ねらい”ー行政組織の効率測定と予算配分:サイモンとバーナードー」(平成20年度非営利法人研究学会全国大会報告、於・日本大学、『非営利法人研究学会誌』VOL.11所収)
【受賞論文の特徴と受賞理由】
本稿は、先に第10回全国大会統一論題で報告され、その報告をベースに纏められた論考「アメリカ行政府の構造改革ー組織論はF. D. ローズベルトを助けたか?ー」(『非営利法人研究学会誌』VOL.9所収)で論じられた1939年のローズベルト米大統領による行政府の構造改革についての概括的な説明をさらに押し進め、行政府の効率測定と予算配分問題を、詳細かつ出来るだけ具体的に明らかにしようとするものである。この課題は、伊藤の初期サイモン研究において、サイモンの研究課題が社会的な背景の下において実行されており、1930年代の社会的経済的な状況の解明が必須であることを明らかにしてきているが、サイモンにおける理論形成の背景を社会的な全体状況の下で解明し、サイモン理論の創造・形成の過程を、社会的な行動との関係の下で明らかにしようとする試みは、この伊藤の試みを除けば、ほとんどなされたことがないと思われる。このような試みを通じて、理論が時代の子であることを伊藤は具体的に明らかにするとともに、時代の変遷において、理論がどのように位置づけられるかを解明できるという。この初期サイモンを研究する過程の一環として、先の論稿と本稿がある。
効率測定については、ローズベルト大統領の構造改革以前には、1916年に連邦政府は、後に予算局に吸収されることになる効率局を設置して、行政府の効率測定を実行しようとしている。本稿では、効率局による年次の報告書を手掛かりに、効率局の行動を要約し、その行動が予算局にどのように結びつき、予算局においては、どのような行動が期待されていたのかを明らかにしようとしている。1933年に予算局に吸収された効率局については、わが国ではこれまで注目されることがなく、したがって、その行動が紹介されることはなかったが、現在、わが国の行政において重要な課題とされている行政の縦割り問題を解決し、行政における効率を高めるためには、改めてこの効率局の行動を見直す必要があろうと論者は言う。
効率局においては、人事における効率評定システムの作成と評価の実行、各省の業務遂行についての調査と効率化、業務の重複についての調査、統計資料の作成と管理という職務を実行していたが、効率局を予算局に吸収した理由の1つは、予算配分にこの効率局において蓄積したノウハウを利用しようとすることにある。効率局の行動を予算局との関係の下において明らかにしたのは、本稿が最初であろう。
大恐慌を経て、アメリカの時代的な要請であった効率問題の解決は、また、このような時代背景の下において生み出されてきているサイモン理論に大きな影響を与えており、サイモン理論の理論的な基礎は一貫して「効率」にあると、伊藤・道明は喝破している。時代と切り結ぶことによって、サイモンは、時代の中から、その要請に応えるべく彼の理論を構成していることが明らかになっている。連邦政府における構造改革は、効率問題を通じて、サイモンの理論と結びついている。サイモンにとって、連邦政府の構造改革に辣腕を振るったブラウンロー委員会の構成メンバーであるメリアムはシカゴ大学の恩師であり、また、ギューリックとは効率研究を通じて、リドレーを介して知悉の関係にある。後日、サイモンは、ギューリックに対して、構造改革の理論的基礎が伝統理論であるとして激しい論難を浴びせたが、この論難がサイモンの効率測定研究の成果に基づくことを、伊藤・道明は明らかにしようとするものであった。
本稿においては、ブラウンロー委員会の提案のうち予算局に関する部分を取り上げ、1939年の構造改革における変革をGovernment Manualの組織図を示すことによって詳細に跡づけるとともに、担当官の氏名を明らかにすることで、その中にサイモンの知己が任命されていることを見出している。予算局が大統領府に移管されるとともに、その権限は大きく変化し、予算配分と情報管理という枢要な職能を果たすようになる。そこにサイモンは知人を有していたし、また、他の政府機関にも知己を持っている。このように、当時のサイモンは、政府の中心的な機関に属する人物との関係を有しており、彼の理論形成には、当時の時代的な全体状況が色濃く反映しているという。
ブラウンロー委員会の提案において示されている予算局の大統領府への移管と、その職能の拡大は、そのまま1939年の構造改革において実行されていることが明らかにされている。ブラウンロー委員会における予算局に関する提案と、ローズベルト大統領の議会への提案Reorganization Plan No.1 of 1939 とは、軌を一にするものであり、大統領は、委員会の提案どおりに予算局を大統領府へ移管し、予算局の職能を拡大するという提案を行っていることが分かる。経営管理の腕として、大統領は予算局の行動には極めて重要な役割を期待した。これは、ギューリックの考え方を具体化したものであり、伝統的な経営理論の成果の1つとみなすことができる。そこでの理論的なバックボーンは、管理原則論であり、管理過程論であった。
このギューリックの理論に対して、激しい論難を浴びせたサイモンの考え方の基礎には、彼自身の効率研究成果が横たわっている。本稿においては、その論難へ至る研究成果、効率測定問題の研究過程を詳細に追跡しており、リドレーとの共同研究において、リドレーの有効性を重視しつつも、サイモンは独自に効率重視の考え方を提示し、共同研究をリードしたことを明らかにしている。サイモンは、効率測定を操作可能なものとして提示することが必要と考えており、そのフレームワークを案出しようとしている。このようにして生み出された効率の考え方が、生涯を通じて、サイモンの研究成果における通奏低音となっているというのが、伊藤・道明の見解である。
ローズベルト大統領は、大恐慌を克服し、民主主義を守り抜くために必要な要件として、効率を掲げているが、この考え方は、ギューリックにもサイモンにも共通したものであった。しかし、ギューリックには、操作可能な形での効率概念のフレームワークが欠けていたのに対して、サイモンにおいては、不完全ではあるが、操作可能な形で、そのフレームワークを提示できたという自負が見られるとともに、時代の要請に応えるという充足感が溢れている。同時代のバーナードも、時代とともに歩み、有効性と効率性を組み合わせた評価フレームワークを提示している。
本稿では、ローズベルト大統領がニュー・ディール政策を実行し、効率を求めて、連邦行政府の構造改革を断行する時代にあって、サイモンの初期研究においても、効率問題が主要な関心事であり、時代と切り結びつつ、サイモンは自分の考え方をまとめていっていることを、構造改革に関する文献とサイモン・リドレーが著している文献とに基づきつつ詳細に明らかにしている。時代の動きを描きつつ、それにシンクロする形で、サイモンという研究者の自らの理論形成の過程を明らかにしており、両者に共通するキーワードとして、効率という概念を見出しているところに、本稿の特徴が見られる。
以上から、問題指摘の独創性、文献渉猟、論述展開の緻密さ、効率性と予算との関係を明確にした現代的意義づけ等、極めて優れた大作であり、審査委員会は一致して、学会賞にふさわしい論文に選定した。
2. 学術奨励賞
該当者なし
第7回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告
平成20 年9月4日
非営利法人研究学会
審査委員長:大矢知浩司
非営利法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第7回学会賞(平成19年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)及び学術奨励賞(平成19年度全国大会の報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文及び刊行著書)の候補作を慎重に審議した結果、学会賞に該当する論文又は著作物はなく、学術奨励賞に下記の著作を選定しましたので、ここにご報告いたします。
1. 学会賞
該当者なし
2. 学術奨励賞
池田享誉(青森公立大学)『非営利組織会計概念形成論』(A5判、185頁、森山書店、2007年7月)
【受賞作の特徴と受賞理由】
本書は、わが国会計学界に多大なインパクトを与えたアメリカの「FASB概念フレームワーク」(以下「SFAC」という。)のうち、特に非営利会計の概念フレームワークに焦点を当て、・「FASBの非営利会計概念フレームワークの成立過程を方法論かつ歴史的に吟味し、FASBの非営利会計諸概念の成立過程を検討すること」及び・営利会計と非営利会計の「統合的概念フレームワーク」の適否を評価し、検討することの2点にその目的があるとしている。この研究テーマを解明するに当たって、論者はSFACの方法論的基礎である「意思決定有用性アプローチ」と「資産・負債視角」を前提として、内在的批判を試みているのが特徴である。
第1のテーマでは、ASOBATをはじめ、AAA第一次フリーマン委員会報告書(第2章)、第二次・第三次フリーマン委員会報告書(第3章)及びアンソニー報告書(第4章)の内容を詳細に分析し、各報告書間における矛盾を摘出するとともに継承された部分を明確化し、非営利会計概念フレームワーク(第5章)を導き出している。
第2のテーマに関しては、SFAC第4号はアンソニー報告書の提起した「財務資源源泉アプローチ」を継承し、Bタイプ非営利組織のみをノンビジネス組織とし、営利企業と独立採算型組織(Aタイプ)とを共通の適用対象とした結果、「統合的概念フレームワーク」が生まれる一因となったと指摘している。しかし、これはSFAC第4号と第6号との間に矛盾が生ずる一因ともなっている。
SFAC第4号・第6号を内在的に批判し、分析検討した結果、論者は次のような問題点があると結論づけている。すなわち、
・ 営利・非営利統合的概念フレームワークを採用した結果、非営利会計に固有の諸要素を主要情報として要求していないので、非営利会計の概念フレームワークとして不十分である。
・ SFAC第6号は、㈰非営利組織に固有の財務諸表構成要素を1つも追加しなかったため、非営利組織の業績情報を提供するものとなっていない、㈪資産を将来のキャッシュ・フローと結びつく「将来の経済的便益」と定義しているが、非営利組織の資産は必ずしも将来のキャッシュ・フローをもたらすものではない、㈫収益を営利・非営利に共通の財務諸表構成要素としたが、非営利組織の収益はサービスの提供の成果ではなく、純資産の源泉情報を表すものである、㈬非営利会計に固有の部分として新たに追加されたのは拘束情報のみに過ぎない。
・ SFAC第4号では、「効率性と有効性」に対する情報ニーズを認識しながら、「サービス提供成果」情報の提供は軽視されている。
わが国ではこれまでSFACに関する論文が多数見受けられたが、本書ほど精緻にかつ批判的に分析された論文は少ない。
以上から、分析視点、問題意識の明確性、内在的批判による矛盾点の摘出、論理展開の精緻化等を総合的に評価し、学術奨励賞にふさわしい論考として選定することに審査委員の一致した見解を得た。
第6回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告
平成19年9月8日
非営利法人研究学会
審査委員長:大矢知浩司
非営利法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第6回学会賞(平成18年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)及び学術奨励賞(平成18年度全国大会の報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文)の候補作を慎重に選考審議した結果についてここに報告いたします。
1. 学会賞
該当作なし
2. 学術奨励賞
該当作なし
第5回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告
平成18年9月1日
非営利法人研究学会
審査委員長:松葉邦敏
非営利法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第5回学会賞(平成17年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)及び学術奨励賞(平成17年度全国大会の報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文)の候補作を慎重に審議した結果、今次は学術奨励賞に該当する論文はなく、下記の論文を学会賞に値するものとして認め選定しましたので、ここに報告いたします。
1. 学会賞
藤井秀樹(京都大学大学院教授)「非営利組織の制度進化と新しい役割」(平成17年度非営利法人研究学会第9回全国大会統一論題報告、於・神奈川大学、『非営利法人研究学会誌』VOL.8所収)
【受賞論文の論旨と特徴】
今回の行政改革の一環としての公益法人制度改革は、市場原理主導型の制度設計を指向したもので、具体的には、交換関係の概して高くないサービスを市場原理に依拠しつつ提供する非営利組織を育成することがその主眼となっているが、その方向は新しい制度進化と新しい役割を期待できるものとして肯定することができる。その際に、これを肯定する論拠として、比較制度分析の分析・論理の方法を用いることによって、制度変更の経済合理性は、制度的補完性と資源の効率的配分の観点から評価されるとする立場から、今回の公益法人制度改革は、制度的補完性および資源の効率的配分の点で経済合理性に適ったものとなっており、したがって、その限りでそれは、現行制度の現実的かつ合理的な改革スキームであるとする。
ただ、このような制度改革には、改めて1)ドラッカーの主張するような成果重視型マネジメントの視点を非営利法人と公益性の判断主体が共有すること、つまり、顧客満足の追求という点では市場指向的であるが、提供するサービスの交換関係は概して高くないという点では「倫理的」であるメネジメントの姿勢である。非営利法人と公益性の判断主体が、このような成果重視型マネジメントの視点を共有することによって、市場原理と公益性を整合的に融合させる1つの有力な可能性を得ることができると考えられる。2)非営利法人の事業領域で競争的環境を創出・整備すること、つまり非営利法人のモラル・ハザードの可能性を減ずることが、寄付や補助金も含めた資源の効率的配分を実現するうえで欠かせない問題として残るが、この問題の解決を図るためには、価格支配者の排除(市場の不完全性の解消)と、情報の非対称性の解消(市場の不完備性の解消)が必要となる。特に非営利法人においては後者の解消が当面の現実的な課題であり、制度的な施策としては、新公益法人会計基準(2004年)の適用と当該基準に基づくディスクロージャーをすべての非営利法人(ここでは、社団・財団の公益法人)において徹底させること、情報も含めた活動資源をサービス需要者、支援者、寄付者、他の非営利法人やNPO等に仲介する「中間支援組織」の普及・発展を官民一体となって促進することである。
【 受賞の理由】
論者は、特に「公企業会計をはじめ非営利組織会計」研究について、既に確固たる位置を占めるものであるが、あえて経済学的手法—比較制度分析等—を用いて、公益法人制度改革に対して制度変更の経済合理性を問うという問題に直接挑戦したことがともかく賞賛されるべきである。 以上の論旨と理由から、本論文は問題の視角、問題の分析、問題の解決について的確であることはもちろん、経済学的手法を用いて斬新であり、それぞれの間の整合性が認められるので、高く評価することができる。さらに、問題把握の独創性、論述展開の克明性はもとより優れており、理論化過程から生まれた具体的な制度改革への示唆などにおいても、極めて示唆に富む内容を持ち、本学会の学会賞にふさわしい論文として選定することに審査委員の一致した見解を得た。
2. 学術奨励賞
該当論文なし
第4回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告
平成17年9月10日
非営利法人研究学会
審査委員長:松葉邦敏
公益法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第4回学会賞(平成16年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)及び学術奨励賞(平成16年度全国大会の報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文)の候補作を慎重に審議した結果、今次は学会賞に該当する論文又は刊行著書はなく、下記の論文を学術奨励賞に値するものと認め選定しましたので、ここに報告いたします。
1. 学会賞
該当作なし
2. 学術奨励賞
吉田初恵(関西福祉科学大学助教授)「介護保険制度改革に向けての論点—介護サービスの特質と介護サービス市場からの一考察—」(平成16年度公益法人研究学会全国大会自由論題報告、於・九州産業大学、『非営利法人研究学会誌』VOL.7所収)
【受賞作の特徴と受賞理由】
論者の一貫した研究対象は「公的介護保険制度」の創設前後から、この制度の基本的かつ実践的な問題点を指摘して、そのあるべき、かつ具体的な改善策を提言することであった。今回の受賞対象となった本論文は、後に付言するように、このための一連のスペキュトラム(spectrum)の1つである。
本論文に限れば、その内容はおよそ次のとおりである。
今日の介護保険制度の見直し論は、介護サービスの利用量が膨張することによる財源の破綻をどのようにするかを中心に議論されている。すなわち、予防給付を盛り込むなどの施策による介護給付額の抑制と、施設サービスに対するホテルコストの徴収などの施策による保険料収入の増加を図る見直しである。しかしながら、この介護保険制度の見直しは、負担を増やし給付を抑制する施策による財政の均衡だけで終るべきではない。したがって、本論文はまず、現在検討中の「改革案」の方向と内容は、年金改革と同じような「負担増の中での給付削減」にすぎない。この「改革案」のままであれば、サービス受給者の福祉ではなくて、行政主導の改悪の方向であるとする。
次に、介護サービスの基本的な特質は、サービスの不確実性とサービスの質の測定不能性にある。したがって、たとえ組織の効率性が劣っているとしても、従来は政府関連機関や非営利組織が市場優位を占めざるを得なかった。このような営利企業が参入しない特殊な市場(契約の失敗)において、「公的介護保険制度」が制度化され、併せて営利企業に相当程度の自由参入を認める「規制緩和政策」が採られたために、営利企業の参入が認められた結果「供給者誘発需要」を惹き起し、このことが給付額増大の元凶である可能性があるとする。そこで、むしろ介護サービスの特性を踏まえて、(主としてサービス受給者に不利となる)特性を克服する「制度の改革」こそを検討すべきであると論じている。
最後に、したがって、介護保険制度の見直しは「負担増の給付削減」の弥縫策に求めるのではなくて、問題の根源にある「供給者誘発需要」の抑制策として監督・規制の強化を検討すべきであると主張する。
以上の諸点から、論者は具体的な総合政策として、次のように提言している。 1.給付については、改革の方向は、(イ)量より質を評価し、質の保全を保証する給付体系を構築すること、(ロ)質の確保を遵守する「事業者」を事前に選別する制度を作ること、(ハ)施設やサービスの選択は利用者の介護サービスに求める質量のレベル、所得格差、家庭の状況等極めて多様であるので、利用者の裁量を多く認めるように規制を緩和することである。
2.負担については、改革の方向は、(イ)世代間の公平性を高めること、(ロ)低所得者や障害者の救済施策を国のレベルで行うことである。
要するに、規制緩和による自由選択制度の原則論を是正して、むしろ規制・指導・監督を強化する部分と利用者の選択に委ねる部分を区別して適用し、経営形態の特徴を生かした公的・準公的機関、非営利組織、営利企業の間の「棲み分け」を積極的に導入する方向と内容に改めることを主張しているのである。
以上から、本論文は問題の視角、問題の分析、問題の解決について的確かつ斬新であり、それぞれの間の整合性が認められるので、高く評価することができる。論者は既に内外の一定の評価を受けているものであるが、さらに向後の研鑽を期待して学術奨励賞を授与するに適当である、とする審査委員会の一致した見解を得た。
最後に付言すべきことは、ここに至るまでの諸論考には見るべきものがあり、特に『非営利法人』誌上で3回にわたり連載された長論文「介護サービスを供給する経営諸形態の共存—営利企業と非営利組織の棲み分けについて—」(No.710〜712、全国公益法人協会)が評価されることである。論者は、保険制度の導入に伴う規制緩和政策が従来の公的・準公的な機関による事業経営から民間事業の参入を奨励するシステムが定着したが、介護サービスという特殊なサービス事業において、果して社会的に有効に機能するのかどうかに焦点を当ててきた。公的・準公的(いわゆる非営利)セクターそして私的セクターの三者が共存できるかどうか、共存するとすれば、それはどのような共存のあり方なのかである。少なくともわが国ではこの種の研究は初めての試みであって、既に高い評価を得ている。このような一連の諸論考を含めて、今回全体として評価を行ったことを附記しておく。何故なら、特に学術奨励賞においては、問題意識が明確であり、その中で研究活動が連続体をなしていることにおいて業績が評価されるものと考えられるからである。
第3回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告
平成16年9月4日
非営利法人研究学会
審査委員長:松葉邦敏
公益法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第3回学会賞(平成15年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)及び学術奨励賞(平成15年度全国大会の報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文)の候補作を慎重に審議した結果、残念ながら学術奨励賞に該当する論文はなく、下記の刊行著書を学会賞に選定しましたので、ここに報告いたします。
1. 学会賞
小島廣光(北海道大学)『政策形成とNPO法−問題,政策,そして政治』(A5判、276頁、有斐閣、2003年11月)
【受賞論文の内容と受賞理由】
本書は、その必要性はほとんど一般に理解されていたNPO法が、阪神・淡路大震災を契機として、短時日に「なぜ」しかも「どのようにして」政策形成・立法化されたのかを解明することが著者の直接の動機となり、これを明らかにすることがその目的となったものである。
したがって、その内容は、分析方法としての「改訂・政策の窓モデル」を用いながら(第2章)、NPOの政策形成・立法過程に関わる参加者が輻輳し、それぞれが利害と思惑を異にする中で、どのような過程を踏んで立法化が進捗したか、詳細かつ丹念に事実関係を跡づけ、分析・解明している(第3章から第5章)。さらに、この分析・解明は単に事実を分析・解明しそれを説明するにとどまらず、このNPO法成立過程を評価し、かつ問題点を指摘して将来のあるべき市民立法への提言まで展開している(第6章)。
著者は非営利組織研究の第一線にあるとはいえ、少なくとも経営学の学徒として、異質の政治の世界における政策形成・立法過程の問題に直接挑戦したことはまず賞賛されるべきである。しかも、従来の分析方法(例えば、政策の窓モデル)よりさらに組織的知識創造モデルの視点を取り入れた独自の「改訂・政策の窓モデル」の方法に基づいて立法過程を視ている点が注目される。特に著者が本書において注力した方法である。さらに、方法論において斬新であるばかりでなく、多数の膨大なデータを駆使して政策形成の分析・解明を行い、理論と実証の双方に裏付けられた理論化を試みた点で高く評価される。そのうえで、具体的なNPOの政策形成過程を民法施行(1898年)から阪神・淡路大震災の発生前(1994年)までを1期として、その後のNPO法(優遇税制立法を含む)成立(2001年)までの短期間(6年間)を細かく分けて全6期にわたる詳細な年代記を記述したうえで、独自の方法論によってそれぞれの期間の特質を見事に摘出している。最後に、これは重要な点であるが、本書が立法過程において十分に評価される点と今後の何らかの立法において留意すべき点、さらには市民立法への提言をしていることである。今日すでに、政治と行政、それらと既存の団体と一般市民団体の間に繰り広げられている「公益法人改革」の問題の諸側面を考察し、問題の在処を探る場合に多くの示唆を与えてくれる。
以上から、問題把握の独創性、論述展開の克明性、理論化過程から生まれた具体的な提言などにおいて、極めて優れた著作であり、本学会の学会賞にふさわしい論考として選定することに審査委員の一致した見解を得た。
2. 学術奨励賞
該当論文なし
第2回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告
平成15年10月11日
非営利法人研究学会
審査委員長:守永誠治
公益法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第2回学会賞(平成14年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)及び学術奨励賞(平成14年度全国大会の報告に基づく大学院生並びに若手研究者の論文)の候補作を慎重に審議した結果、今回は学会賞に該当する論文または刊行著書はなく、学術奨励賞として次の2つの論文を選定しましたので、ここに報告いたします。
1. 学会賞
該当者なし
2. 学術奨励賞
今枝千樹(京都大学大学院経済学研究科博士後期課程)「非営利組織の業績評価と会計情報拡張の必要性—SEA報告の適用をめぐる議論とその先駆的実施例の検討—」(平成14年度公益法人研究学会全国大会自由論題報告、於・京都大学、『公益法人研究学会誌』VOL.5掲載)
【受賞論文の内容と受賞理由】
非営利組織における業績評価の問題は、社会的関心の極めて高いトピックでありながら、そのリサーチが困難であるとする観点から、わが国ではこれまでに必ずしも十分な成果をみることができなかった。このような研究環境の中で、本論文は、アメリカでの議論と経験から生み出された成果を手掛かりとしながら、この問題に取り組もうとする意気込みがみられる。この点を最初に評価できる。
非営利組織は、その固有の使命の達成を目的として活動し、資源提供者はその使命の遂行に対する関心に基づいて非営利組織に資源を提供している。したがって、非営利組織の業績は基本的には、その使命をどのように達成したかというその達成度によって評価する必要がある。ところが、非営利組織の設立・運営に関する経験が最も豊富に蓄積されたアメリカにおいてさえ、現行の会計基準では、財務的業績情報の提供を要求するにとどまっている点に留意する必要がある。本論文は、幅広い関連文献の詳細な検討を通じて以上の問題点を明らかにすると同時に、非営利組織会計の制度的整備を図るためには、非営利組織における使命の達成度の評価に役立つ情報を含める方向で会計情報を拡張する必要があることを主張するに至っている。
政府機関は、その活動環境において交換関係(exchange relationship)を欠き、単一の利益指標で業績が測定できないなど、非営利組織と極めて類似した特徴を持つ。アメリカにおいては、そうした特徴を持つ政府機関の業績評価に役立つ情報を提供する手段としてSEA報告を導入することが政府会計基準審議会(GASB)によって提唱されている。本論文では、SEA報告の特徴を、GASB概念書を手掛かりとしながら明らかにしたうえで、非営利組織における会計情報拡張の具体策としてSEA報告の非営利組織への適用を提案し、当該提案の必要性と可能性を、アメリカの非営利組織におけるSEA報告の先駆的実施例の紹介と検討を交えつつ、論証を試みている。
本論文は、非営利組織における業績評価という取扱い難い問題を、関連文献と一次資料の丹念な分析・検討に基づいて論じたものであり、その論理構成と論旨は極めて明快である。本論文が、非営利組織研究における業績評価の問題点の集約と、今後の方向に道を備える貢献は、大であると言える。今後の成果を期待するに十分なものである。ただ、現段階では、アメリカにおける議論と経験に関する検討に、やや難無しとは言えない側面も散見されるが、さりとて本論文の学術的価値を損なうほどのものでもない。むしろ、本論文は、非営利組織の業績評価に対する問題の着眼点とそれに対するアプローチから判断して、学術奨励賞に値するに十分なものであるとの審査委員の一致した見解を得た。
以上の点から、本論文を学術奨励賞に選定した。
3. 学術奨励賞
江頭幸代(広島商船高等専門学校)「環境コストと撤去コスト—ダムのライフサイクル・コスティングを中心として—」(平成14年度公益法人研究学会全国大会自由論題報告、於・京都大学、『公益法人研究学会誌』VOL.5掲載)
【受賞論文の内容と受賞理由】
ライフサイクル・コスティングは、アメリカ国防総省による軍需品の購入コスト・運用コスト全体の最少化要請に対応するところから生まれた原価管理手法であり、近年では日本の防衛庁や国土交通省でも導入されている。トップレベルの営利組織では、開発・設計、調達・生産・物流、リサイクル・撤退といった製品ライフサイクルの中で、製品ライフサイクル・コストの把握と計算が実施されている。文献データベースを検索すれば、膨大な文献がみられるところである。しかし、寡聞ではあるが工学関係の文献も含めて、明確な定義に基づき一定の体系のもとにライフサイクル・コスティングを展開している研究は、比較的少ないようである。また、ライフサイクル・コストに含めるべきコストの範囲も明確ではない。
本論文の第1の特徴は、ライフサイクル・コスティングを製品一生涯のコストの見積計算であり、管理手法であると定義し、2つの製品ないしは事業のライフサイクルを明確に区分して展開していることである。すなわちとしては、ユーザーにおける製品(ないしは事業)の開発から生産ないしは販売、その後製品を市場から撤退させてサービスを終了する時点までのライフサイクルであり、としては、製品の販売からユーザーの手に移り、ユーザーが製品を廃棄するに至るライフサイクルである。この2つのライフサイクルを明確に区分することにより、使用コスト・維持コスト・撤退ないしは破棄コスト・環境コスト等の位置づけが異なってくる。ライフサイクルを2つに区分することは、本論文のすぐれた着想として評価できる。
本論文の第2の特徴は、のライフサイクルを前提にライフサイクル・コストの範囲、特に撤去コスト・環境コストを明確にしていることである。本論文の取り上げるダムの事例は、日本一の氾濫川を制御する国土交通省直轄鶴田ダムと日本初の撤去が決った熊本県営荒瀬ダム(50年の水利権期限切れ)である。鶴田ダムの事例から後背地完全緑化、湖水循環、ダム周辺観光地化、河口海水溯上による取水口付替等広範囲なコストを示している。また熊本県営荒瀬ダムからは、泥土撤去、コンクリート処理地、ダム撤去による環境変化対応コスト等を示している。 ライフサイクル・コスティングの本来の目的からしても、環境コスト・撤去または撤退コストを企画設計段階で考慮してコスト計算に組み込むべきであり、取り上げた事例は的確であると言えよう。従来のライフサイクル・コスティングに関する文献では、ライフサイクル・コスティングの概略ないしはそれによる管理方法の説明に終始し、データ作成のプロセスないしは具体的なコストの例示が少ない。できる限り事例を収集・検討して、そのコストの範囲を明確にし、その発生確率の研究に歩を進めなければならない段階にきている。ただ、本論文の範囲外ではあるが、企画設計段階でダムのコスト・ベネフィットを考慮するとして、その現在価値を計算するとき、50年ないしは100年といったタイムスパンでは、物価変動率と過去の平均利子率を利用できないのではないかと審査委員は判断した。著者の今後の研究に期待したい。
いずれにしても、2つのライフサイクルを区別してライフサイクル・コストの範囲を環境コスト・撤去ないしは撤退コストにまで拡大したライフサイクル・コスティングを展開する本論文は、研究の体系化、問題の着眼点、現代的意義(たとえば海外事業、撤退をあまり考慮しない体質を持つ非営利組織への適用)からみて学術奨励賞に十分値するとの審査委員の一致した見解を得た。
以上の点から本論文を学術奨励賞に選定した。
第1回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告
平成14年7月27日
非営利法人研究学会
審査委員長:守永誠治
公益法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、学会賞(平成13年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)及び学術奨励賞(平成13年度全国大会の報告に基づく大学院生並びに若手研究者の論文)の候補作品を慎重に審議した結果、つぎの2点の論文を受賞論文として選定しましたので、ここに報告いたします。なお、著書については学会賞に該当するものはありませんでした。
1. 学会賞
堀田和宏(近畿大学)「非営利事業の社会的機能と責任」(平成13年度公益法人研究学会全国大会統一論題報告、於・中央大学、『公益法人研究学会誌』VOL.4掲載)
【受賞論文の内容と受賞理由】
もともと、非営利事業の責任は、それぞれのもつミッションを持続的に遂行するということにあり、このミッションに信頼を寄せて集まる寄付者、政府・地方自治体、購入者、利用者、ボランティアなどの利害関係者の信頼と期待に応えることである。そのために、非営利事業に求められている社会経済的機能とその責任を明らかにし、その結果、どこに解決すべき問題があるかを明らかにしようとする。本論文の出発点がここにある。
非営利事業の社会経済的機能とその責任について、つぎの4つのカテゴリーが示されている。つまり、非営利組織特有の寄付行為者とミッションに対する受託責任、サービス測定・評価に弱いクライアントの信頼に応える責任、準公共財のサービス供給に対するいわゆる社会公共的責任、組織自体の継続性確保のための組織維持責任がこれである。これが、期待と信頼になるのであるが、このような期待と信頼に反して、意外とも思われるマイナスの機能、つまりモラルハザードをもつ可能性が出てくることを指摘している。非営利事業なるがゆえに生ずるモラルハザードを分析し、信頼性のゆえに、この種のモラルハザードを防ぐ手だて—公共の規制、利害関係者の統治力や競争促進制度—が十分に整備されていないため、この中で自己生産的な経営が制度化されていると指摘する。
このような問題を克服するために、まず第1に、外部からの「統治力」を補強することが急務であり、第2にこの「統治力」を保証するための経営者側の「アカウンタビリティ」を拡大・深化させるべきであると考えている。第1の点は、本論文の強調するNPOガバナンスのあり方を再構築する方向である。また、第2の点は、「今日のアカウンタビリティは、多様な利害関係者がそれぞれなりの経営への統治力を確保できるように、経営の透明性と公正性を証明する責任」としてこれを展開、つまり拡大・深化する必要があることを力説する。
本論文は、非営利事業に求められる社会経済的機能とその責任を明らかにし、非営利事業なるがゆえに生ずるモラルハザードを取り上げ、これを克服するためにNPOガバナンスの再構築とそれを可能にするアカウンタビリティを拡大・深化させる必要性を明らかにしようとしている点に特徴がみられ、問題の着眼点、分析方法と検討内容、提言など論文の展開を通じて卓越した非営利事業研究に対する姿勢を窺うことができる。このような研究は、受賞者の長年にわたる研究生活の中から生み出されたものであって、一朝一夕にして成し遂げられるものでないことは何人も認めるところである。同時に、この研究が非営利事業研究の今後の発展に寄与するところ大であるとの審査委員の一致した見解を得た。 以上の点から本論文を学会賞として選定した。
2. 学術奨励賞
梅津亮子(九州産業大学大学院博士後期課程)「看護サービスの活動レベルの原価標準設定」(平成13年度公益法人研究学会全国大会自由論題報告、於・中央大学、『公益法人研究学会誌』VOL.4掲載)
【受賞論文の内容と受賞理由】
本論文は、無形サービス活動の効率性(efficiency)と有効性(effectiveness)の測定・評価という枠組みの中で、これまで独自の研究領域として認識されていない看護サービスを対象とした原価計算モデルの開発を試みたものである。
論者が取り上げる原価計算モデルは、活動レベルの標準と患者レベルの標準から看護サービスを捉えることにあるが、本論文は、原価計算モデルの基礎的な部分を構成する看護サービスの活動レベルでの原価標準設定を中心に論述したものである。
原価計算を一般化できるような測定尺度とするためには、異なる環境のもとでの利用が難しい実際原価ではなく、標準原価が望ましいと考えている。看護サービスの測定・評価体系の中で標準を設けるということは、看護サービスとりわけ看護活動を測定可能なように具現化することを意味する。それ故に、本論文では、看護活動という単位によって原価標準を実証的に測定することを試みている。
そのため膨大な看護サービス関係及び活動基準原価計算関係の文献を渉猟した上で、看護サービス活動を115活動に分類して「看護活動標準調査表」を作成し、国立N病院の協力を求め全6病棟でデータを実際に収集している(本論文では呼吸器病棟の事例を提示している)。調査事項は、病棟ごとの患者1人に対して1つの看護活動を1回行う場合の保険点数、材料品目と費用、活動プロセス、作業時間等である。作業時間については、各活動を準備・説明・実施・後片付けに分けて測定している。この区分はクリティカル・パス分析に資するためという。また、説明を特に独立させているのは、この作業がInformed Consentと患者の満足を高める重要な作業と考えているからである。
本論文では、看護サービスを看護活動という具体的な行動に細分化することによって、その活動の現場における原価を把握し、看護必要度分類別の患者1人当たり原価とを統合することで、看護サービスについての原価標準の計算が可能であることを明らかにし、また、その結果はモデルの妥当性と可能性を示すものとなっている点に、これまでの研究にない貢献が見られるところである。特に、看護サービスに関する原価計算は、これまで十分に論じられることがなく、また、ここで示された方法は、他の無形サービスの分析においても利用可能である点にも注目すべきであろう。「看護サービスの効率性と有効性の測定・評価」という、いわば長編小説の構成部分を短編論文という形にしているため多少の難点も指摘できるであろうが、その研究体系・オリジナリティ・文献渉猟の確かさ・その努力からみて学術奨励賞に十分値するとの審査委員の一致した見解を得た。
以上の点から学術奨励賞に本論文を選定した。
