≪統一論題報告≫日本のNPOおよび中間支援組織の言語論的転回の視点
- 非営利法人研究学会事務局
- 3月29日
- 読了時間: 25分
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近畿大学教授 吉田忠彦
キーワード:
NPO 中間支援組織 サポートセンター 言語論的転回 法人制度
要 旨:
日本のNPOおよび中間支援組織について、その実態と言葉との関係を言語学における言語論的転回の視点から分析する。日本のNPOおよび中間支援組織は、模範とした欧米の非営利組織やその支援組織とは異なる独自のカテゴリーを形成している。その経緯を整理しながら、特に「中間支援組織」という言葉の共時態と通時態との分析を行い、中間支援組織の今後の動態について展望する。
構 成:
I はじめに
II 日本における「NPO」
III 日本における「中間支援組織」
IV 言語論的転回
Ⅴ 公益法人の分化と新しい法人の誕生
VI 共時態と通時態
VII 「中間支援組織」の普及と拡大
VIII 課題と今後の方向性
Abstract
The relationship between the reality and the terms NPO and “Chukan-shien Soshiki” (intermediate support organization) in Japan will be analyzed from the perspective of the linguistic turn in linguistics. Japanese NPOs and “Chukan-shien Soshiki” form a unique category that differs from the nonprofit organizations and their support organizations in Europe and the United States that serve as models for them. While organizing the history of this process, we will analyze the synchronic and diachronic forms of the term “Chukan-shien Soshiki,” in particular, and survey the future dynamics of “Chukan-shien Soshiki.”
Ⅰ はじめに
日本において、「NPO」や「中間支援組織」という言葉が普及した経緯を見ると、それらの実態からその言葉が作り出されたというよりは、むしろ「NPO」や「中間支援組織」という言葉が先に現れ、その言葉が実態としての「NPO」や「中間支援組織」を導いてきたと見なすほうが妥当である。もちろん、実態として「NPO」や「中間支援組織」に該当する組織も存在していたが、それらを指して「NPO」や「中間支援組織」という言葉が作り出されたのではなく、ある種の理想、目指すべき姿として「NPO」や「中間支援組織」が語られ、それを実現する組織が新たに作られたり、既存の「NPO」や「中間支援組織」に近い組織も、その新しい理想に近づくように努力がなされた。
事物と言語との関係の視点の転回は、言語学をルーツにして歴史学などにおいても言語論的転回として注目されている。こうした視点を「NPO」や「中間支援組織」について適用することの意味は、日本における「NPO」という言葉の特殊性をひも解く重要な視点となること。そして、最近の「中間支援組織」という言葉の一般化によって、NPOや市民活動の分野において重視されていた「中間支援組織」の役割の焦点ボケが生じていることへの警鐘となることである。
日本において、いつの間にか特殊なものになってしまった「NPO」、逆に漠然としたものになってしまった「中間支援組織」という言葉や概念は、このまま制度化が進むと、本来それらに求められていたことを見失わせる危険性がある。
今後の方向性としては、専門分化と、他方での市民セクター形成の両方の方向が求められるだろう。
II 日本における「NPO」
日本の社会一般において「NPO」という場合、それはNPO法人と略称される特定非営利活動法人を指している。新聞やテレビなどのマスメディアにおいても、日常的にNPO法人という略称が用いられ、そしてそれが「NPO」自体として理解されている。もちろん、それが略称にすぎず、NPOとはNonprofit Organizationの頭字語であり、民間非営利組織全般を指すことを理解している者も少なくないが、そうした者 どうしで会話する場合でも、「NPO」は特定非営利活動法人を指していることが多い。
日本における「NPO」が民間非営利組織全体ではなく、その中の特定非営利活動法人を指しているという指摘は、それと対比される他の民間非営利組織や法人が存在するということを意味している。つまり、日本においては「NPO」と通称される特定非営利活動法人と、「一般法人」と通称される一般社団法人・一般財団法人、そして社会福祉法人、学校法人、宗教法人などがそれぞれ別々のものとして存在するのである。
このように民間非営利組織がそれぞれ別々のものとして並列して認識されているのは、一つには、歴史的な経緯から、結果的にそれぞれの法人制度の根拠法が異なり、所管する行政機関も異なるためである。しかし、そうした法人制度の違いを前提として民間の非営利組織全体を括る言葉として民間非営利組織と称するはずが、日本においては、さまざまな民間非営利組織とは別のものとして「NPO」というものが存在するという入り組んだ状況となっている。それは、「NPO」という言葉に、それまでの諸民間非営利組織とはまた別の非営利組織を生み出そうという意図が、最初から組み込まれた経緯があったからである。
特定非営利活動促進法が成立する過程については、すでにいくつかの優れた研究がある1)。 また、議員立法となったその立法過程の歴史的意義が認められ、関連諸資料が国立公文書館に収められている2)。その歴史的意義については、今後さらに研究が深められると思われるが、現在のところ先行研究が指摘しているのは、「立法運動」と表現される多様な関係者による立法への関与、とりわけ多くの市民活動団体が関わったこと。そして、その法の趣旨が、市民が主体的に社会課題に関わるための法人制度を目指したことであろう。
これは逆に捉えれば、特定非営利活動促進法は既存の民間非営利法人制度の批判から出発し、そこにおいて課題とされたことがらを克服する仕組みを盛り込んだ法制度であったということである。
市民活動団体がもっとも端的に批判した既存の民間非営利法人制度の問題点は、公益法人にしろ、社会福祉法人にしろ、それらの法人格取得のハードルが非常に高かったことである。そこに主務官庁制があり、その行政側の裁量による公益性判断でふるい分けされる点や、法人成り後にもその主務官庁に指導監督される点など、それらは市民が主体的に活動するという、これから目指すべき市民社会にはおよそそぐわない法人制度であるという批判だった。NPO法の立法運動のハブのひとつとして活動したシーズ・市民活動を支える制度をつくる会の事務局長だった松原明は、粘り強く国会議員たちの部屋を回る一方で、さまざまな分野の市民活動団体が連帯することを呼びかけていた。その際に、多様な分野の市民活動団体がNPO法成立に目を向けるようにするために、市民活動団体がなかなか法人格を取れずに苦労していることに対する「被害者の会」として、利害を共有させることを企てたという3)。もちろん、松原ひとりがこれを企て、多様な団体をまとめたわけではないが、さまざまな分野の市民活動団体に緊急集会を呼びかけ、その当時日本NPOセンターの事務局長だった山岡義典や、大阪ボランティア協会の事務局長だった早瀬昇らと全国を回ったことでその趣旨はかなり浸透したと思われる。 要するに、日本における「NPO」は、それまでの公益法人を中心とした民間非営利法人制度への批判から出発し、それらとはまた別の民間非営利法人制度、あるいは新しい市民社会組織を支える制度となることを期待して掲げられた理想の姿だったのである。
III 日本における「中間支援組織」
日本における「NPO」が、既存の民間非営 利組織とは違った、市民による自発的な活動の 受け皿となる制度となることを期待して掲げら れた理想の姿だったのと同様に、「中間支援組織」もまたそうした理想としての「NPO」を 支援する「NPO」として、実態に先行してそ の理想ないしは言葉が普及した。
この「中間支援組織」も、実態としてそれに近いものもすでに存在していたが、そもそも既存の民間非営利組織とは違う市民社会組織としての「NPO」自体が新しい法によってこれから生み出されるという中で、それを望ましい方向に進ませるために、いわばその舵取りとしての役割が期待されて生まれた。典型的には、新しい「NPO」のナショナルセンターと目された日本NPOセンターは、NPO法の立法運動の中心的存在でもあった山岡義典、早瀬昇、そして日本ネットワーカーズ会議の渡辺元や久住剛らが中心となって、その立法運動と並行して設立準備が進められ、NPO法の成立(1998年3月)より1年4カ月ほど先に設立されている(1996年11月)。つまり、まだ実際の「NPO」は生まれていない段階で、それを支援するための全国的な支援組織が生まれたのである。これは、非営利セクターにおける諸組織が一定の数と規模に達した段階で、それらの組織が抱える課題の解決を支援するために諸組織がネットワーク化して設立された欧米のサポートセンターとは順序的に逆となっている。日本NPOセンターや各地域の主要な「中間支援組織」は、すでに存在する多くのNPOを支援するために生まれたのではなく、まだこれから生まれてくる「NPO」を、事前に思い描かれた理想の姿に近づくように導くことをミッションとしていたのである。
IV 言語論的転回
ソシュールの言語学にはじまるとされる言語論的転回(Linguistic Turn)は、言語学や哲学のみならず、歴史学や社会学などにも大きな影響をおよぼしている。ソシュールは、あるものを指し示す音としての言語であるシニフィアンと、指し示される意味や実態であるシニフィエとの関係は、あくまでも恣意的なものに過ぎないと指摘した。さらにソシュールは、事物はもともとつながった状態にあり、それが後に何らかの視点によって区分され、その区分によってある新たな事物が創造されるという視点を提示した。意味や実態が音としての言語を規定したり生み出すのではなく、むしろ音としての言語が意味や実態を規定したり生み出すというものである。
この言葉と事物との関係を逆転させた視点は、言語論的転回としてさまざまな分野で注目されるようになった。たとえば、イギリスの歴史家ステッドマン・ジョーンズは、1983年に刊行された『階級という言語』において、「労働者階級や労働書階級の政治史を書き直すためには、因果連鎖の逆の側から始められるべきであろう」4) とし、マルクス主義的階級論や「社会的なるもの」による決定論を批判し、民衆文化と政治との関係やチャーティズムを、語りや著述したものから分析することを試みた。つまり、「階級」というものを、それが初めから存在するものとして論じたり、それと社会との関係を分析するのではなく、もともと同じ平面的に、分け隔てなく、つながった状態にあったさまざまな民衆の文化、政治、運動などを改めて分析し、そこから階級を捉えなおそうとしたのである。
前節で見たように、「NPO」や「中間支援組織」もまた、はじめから存在していたのではなく、人びとの多様な活動があり、「NPO」、「中間支援組織」という言葉が持ち込まれることで、人びとの多様な活動の中の一部が「NPO」、「中間支援組織」として区分され、実際に存在するものとしての「NPO」、「中間支援組織」 が生み出されるのである。
V 公益法人の分化と新しい法人の誕生
ここで日本における非営利法人制度の歴史を振り返ってみたい。人びとの営利を主目的としない活動や、そのために形成される団体それ自体は、ほとんど人類の歴史とともに生まれたと言ってよいだろう。しかし、日本の法人制度に限れば、その歴史はそれほど古くない。日本で民間の団体に法人格が与えられるようになったのは、明治29年(1896年)に制定された民法によってである。その民法の第34条に次のようにされている。「学術、技芸、慈善、祭祀、宗教其他公益ニ関スル社団又ハ財団ニシテ営利ヲ目的トセサルモノハ官庁ノ許可ヲ得テ之ヲ法人ト為スコトヲ得」
この第34条によって、公益に関する民間の営利を目的としない団体のすべてに法人となる道が拓かれたのである。そこでは主務官庁の許可を得ることが条件となっているだけである。より細かにいえば、その内の祭祀、宗教については、民法施行法(明治31年法律第11号)28条の「民法中法人ニ関スル規定ハ当分ノ内神社、寺院、祠宇及ヒ仏堂ニハ之ヲ適用セス」によって宗教団体への法人格の付与は民法とは別の特別法によるものとされ、昭和14年(1939年)の宗教団体法まで宗教団体には法人格が与えられなかった。しかし、概念的には、まず日本の非営利法人制度の開始においては、公益に関する営利を目的としないものは、すべてこの公益法人のカテゴリーに含まれたのである。
それから約半世紀が過ぎた昭和24年(1949年) に、私立学校法が制定され、学校法人がこの公益法人のカテゴリーから区分され、続いて昭和26年(1951年)に社会福祉事業法によって社会福祉法人が区分されていった。宗教については、昭和14年(1939年)の宗教団体、昭和20年(1945年)の宗教法人令を経て昭和26年(1951年)に宗教法人法となった。それからさらに時が流れ、平成7年(1995年)に更生保護事業法によって更生保護法人が、平成10年(1998年)に特定非営利活動促進法によって特定非営利活動法人 (NPO法人)が、平成13年(2001年)に中間法人法によって中間法人が区分され、生まれたのである。そして、平成20年(2008年)には公益法人の制度改革が行われ、一般法人(一般社団法人、一般財団法人)と新しい公益法人(公益社団法人、公益財団法人)が生まれ、旧の公益法人(社団法人、財団法人)と中間法人は姿を消した。もちろん、これらの法人がいきなり姿を消したわけではなく、いったん特例民法法人という暫定的な法人となった上で、移行認可によって一般法人に、もしくは移行認定を経て公益法人に移行した。
こうした日本の非営利法人制度の変遷を見ても、それらの法人の実態があった上でその名前にふさわしい法人格が生まれたのではなく、もともと区分などなく、ただ民間の団体として存在していたものを、後に何らかの概念や言葉で区分することによって新しい法人として生み出されたと見るほうが妥当であることが分かる。
しばしば宗教、教育、福祉、その他の公益的活動の分野で、その中のいくつかを複合的に行う団体が存在するのも、そうした団体が特定の分野の活動から徐々に多角化していったというよりも、もともと分野の区分けなく、人びとから求められる活動を行っていたのである。そこに新しい法人制度ができたことによって、そうした団体の内部で新しい法人が設立(あるいは分化)されたり、その法人制度により適合した新たな団体が立ち上げられたりする。あるいは、その分野の事業を行ってきた既存の団体においても、新しい法人制度に適合するように組織の機関や事業の形式などが調整されていったのである。
図1は、この日本の民間団体の法人制度の変化を示したものである。最初は1つの平面に何の区別もなく、法人というものも存在していなかった。たださまざまな団体が存在していただけである(I)。それが「法人」という言葉や概念が持ち込まれたことによって線引きがなされ、その中に法人が生まれた(II)。さらに、その法人の中に営利を目的としない公益法人という言葉と概念が持ち込まれ、法人が営利法人と公益法人とに区分された(III)。さらに公益に関する民間団体の中で、学校、宗教、福祉などの分野別の区分が持ち込まれ、それぞれの法人格となったのである(IV)。
図1 民間団体の通時的変化

出所:筆者作成
VI 共時態と通時態
このように、日本の非営利法人制度が、もともと区分なく存在していた民間公益型の団体の間に差異を作り出すことによって分化していったものであったことを考えると、「公益法人」という言葉で指し示されるものも、時代によって異なることがわかる。
ソシュールは、言葉を分析する場合に、その言葉が時の流れの中で変化してきた様子を通時態とし、一方その言葉がそれぞれの時代の中でどのような意味内容を持っていたかを共時態とした。そして、まずそれぞれの時代の共時態を分析することから始めるべきであるとしている。なぜならば、その言葉の意味は、その時代の他の要素との相互関係の中で位置づけられるために、その共時的体系を分析しないままにその言葉の通時的変化を見ても、不十分な分析になるか、見誤ってしまうかもしれないからである。
日本の公益法人制度の変化を例にすれば、単純に「公益法人」の通時的変化を見ても、それは「公益法人」という法人格の名称は同じであっても、そこに含まれる分野は、時代によって変わっており、また関連する要素も異なるのである。
図2は公益法人の通時的な分化を示したものである。左から右に向かって時系列的に公益法人を中心にそれが分化していく様子を示しているが、同じく「公益法人」という名で示される対象の団体は、IからIVへの時系列の各段階で異なるのである。たとえば、Iの段階では民間の公益的団体のさまざまな分野のものが含まれ るのに対して(図3)、IVの段階では学校、宗教、福祉などは別の法人制度にシフトしており「、公益法人」はそれら以外のものとなっている(図4)。つまり、Iの段階での「公益法人」は、公法人や民間営利法人との区別の中で位置づけられるだけであるのに対して、IVにおいてはさらに学校法人、宗教法人、社会福祉法人等との区別の中で位置づけられるのである。この両者を同じ「公益法人」として論じることが妥当ではないことは明らかである。
図2 公益法人の通時態

出所:筆者作成
図3 公益法人の共時態I

出所:筆者作成
図4 公益法人の共時態IV

出所:筆者作成
VII 「中間支援組織」の普及と拡大
中間支援組織という名称がどのような経緯で登場したのかは必ずしも明らかではないが、文献サーベイの限りでは、平山洋介による一連のアメリカのCDCの紹介5)、そしてそれを受けての林泰義ら財団法人ハウジングアンドコミュニティ財団による現地調査などが発端と思われる(財団法人ハウジングアンドコミュニティ財団〔1997〕)。平山らはアメリカのコミュニティ・ベースト・ハウジングやそれを支えるノンプロフィット・オーガニゼーション、そしてその具体例としてのコミュニティ開発法人(CDC: Community Development Corporation)、さらにそれを支えるインターミディアリーなどを紹介した。このインターミディアリーが、日本語化され「中間支援組織」となったと思われる。
たとえば、平山によるCDC等の紹介を参考にアメリカで現地調査を行った林泰義ら財団法人ハウジングアンドコミュニティ財団による『NPO教書』(1997年)においては、基本的には「インターミディアリー」とカタカナ表記されているが、「仲介組織」、「中間組織」と表記されている箇所も見られる。そして、インターミディアリーの活動として次の諸点をあげている6)。
① CDCの住宅供給やまちづくりに対する直接的な資金支援
② CDCが資金を調達できるよう、資金をパッケージ化するなど、民間セクターとの文字通り「仲介」役を果たす
③行政の政策や補助金に関する情報の提供
④ CDCの経営などの技術支援
⑤ CDCの運営のためのトレーニング
⑥ 組織間のネットワーク化
⑦ アドボカシー、すなわちCDCの活動を広げ、支えるための合衆国議会、自治体などへの働きかけ
CDCに関わるインターミディアリーは、CDCに対して主に行政や企業などの資金を仲介することをメインの活動としている。しかし、それに付随する諸活動も行っていたために、上記のような諸点の活動が紹介された。そのことがインターミディアリーという組織がNPOに対して支援全般を行うものという理解を生み、さらにそれが「中間支援組織」というように日本語化されたと思われる。
「中間支援組織」という言葉が普及する少し前は、市民活動団体に対して支援活動をおこなう組織や施設は「サポートセンター」と呼ばれることが多かった。たとえば、日本の地域の中間支援組織の先駆となった奈良、仙台、広島、神戸などの関係者が集まっていた市民活動地域支援システム研究会では、1995年から3年間にわたって調査研究をおこない、その成果を『ザ・ボランティア―神戸からの経過報告』、『日本の市民活動とサポートセンター』、『日本のサポー トセンター設立・活動プログラム・活動の実際』としてまとめている7)。この研究会からその後の中間支援組織のモデルとなるコミュニティ・サポートセンター神戸、せんだい・みやぎNPOセンター、ひろしまNPOセンターなどが立ち上げられたが、それらは報告書のタイトルのとおり「サポートセンター」だったのである。
このように市民活動団体に対して支援活動を おこなう組織を表す言葉は、「サポートセンター」から「中間支援組織」へと変わっていったが、近年ではその言葉の適用範囲が分野的に広がりはじめている。たとえば、内閣府地方創生推進室では令和2年度から「関係人口創出・ 拡大のための中間支援組織の提案型モデル事業」を募集し、採択された事業に対して補助金を与えているが、令和5年度に採択された8つの中間支援組織の内訳は、NPO法人が3団体、株式会社が3団体、協同組合が1団体、一般社団が1団体となっており、法人格としてはNPO法人に限らないばかりか、必ずしも市民活動やNPO法人を支援する団体とは限らないものも対象となっている8)。
また、内閣府の防災担当では、防災時の被災者支援を行う団体のコーディネートを行うものを「防災中間支援組織」と名づけ、官民連携に よる被災者支援の体制の整備を進めている9)。
文部科学省の管轄においても、平成7年度から整備が進められてきた総合型地域スポーツクラブについて、それらの登録、認証制度を運用したり、研修会などの支援を行う全国協議会が、自らを中間支援組織として位置づけている10)。
さらに、日本でも導入が試みられているソーシャル・インパクトボンド(SIB)においても、その受け皿になる公益財団などの法人格を持つ市民ファンドを中間支援組織と位置づけている11)。
このように、法人格においても、活動領域においても、さらには事業内容においても、かなり多様なものが「中間支援組織」とよばれるようになっており、「NPOを支援するNPO」という従来の中間支援組織の位置づけでは収まらない状態になっている。
VIII 課題と今後の方向性
最後に、言語論的転回の視点から中間支援組織の課題と今後の方向性について展望したい。まず、本稿において確認したように、「中間支援組織」とよばれるものは、日本で「NPO」 が現れる中で連動して現れ、急速に増加して いったが、それらは「サポートセンター」と呼ばれていた。つまり、言葉としては異なるものが、実質としては同じものであったのである。したがって、「中間支援組織」の分析のためには、「サポートセンター」の共時態の分析も併せての通時態分析が必要である。
他方で、「中間支援組織」という言葉で表される団体やその活動の広がりが進んでいる状況を踏まると、同じく「中間支援組織」という言葉が使われていても、それをこれまでの「中間支援組織」と同じものとして扱うのは注意が必要である。この時代の「中間支援組織」の共時態の分析を踏まえないと、これまでとはかなり性質の異なった団体に対して、従来の視点や規範を当てはめてしまうようなことが起こる危険性がある。逆に、より広範な分野に広がった「中間支援組織」という言葉では、これまでの市民活動や運動の固有のスピリッツ、目的、さらには必要な事業が、より一般的なものの中に埋没化する危険性がある。
こうした危険性については、事業を実践する団体の中ですでに認識されつつあるが、制度にしても、言葉にしても、それに関わる多くの人びとの認識の中で構築されていくものであるために、今後しばらくは混乱が続くかもしれない。その中で、「NPO」や「中間支援組織」という言語の解体の必要性が知覚されながら、言葉と事態とが再連結されていくことが予測される。それはより具体的には、団体と事業の専門化・分化が進み、その中で新しい言葉が生み出されたり、言葉の再定義が行われるという流れと、その一方での「民間非営利」あるいは「ソーシャル」というような広い言葉によって統合化・連結化が進むという流れである。
中間支援組織の法人格や事業は既にかなり多様化しており、ソーシャル・インパクト・ボン ドなどに見られるようにスキームも複雑化しているので、こうした状況に対応するために、中間支援組織の専門化や分化は自然に進んでいくだろう。
一方で、中間支援組織の専門化や分化が進む ほど統合化・連結化の必要性が増す。地域活性 化、まちづくり、福祉、教育等、そこで求めら れる活動は多様であり、かつ相互に結びついて いるからである。専門化・分化されればされる ほど、それらをまとめて全体としての有効性を 高める能力、工夫、そしてそれらを安定化させ る制度が必要となるのである。
中間支援組織の統合化・連結化は、各分野あるいはセクター規模でのアドボカシーのためにも重要である。NPOや中間支援組織が単体で社会に向けて課題をイシュー化させたり、政策提言を行うのには無理がある。多くの関係する組織が焦点となっている課題にコミットし、連結して、社会や政府などに向けたアドボカシー活動に関わる必要がある。
しかし、専門化や分化は比較的容易であるのに対して、統合化・連結化はそれを意図的に推進する主体が必要であり、参加する諸団体の統合化・連結化への理解がないと難しい。専門化や分化は、それぞれの組織の中で、さらにその中で細分化された専門性や活動ごとに進むため、組織が分裂したり、新しい組織が立ち上がる頻度は自然に多くなる。また、特定の組織で一定の経験や専門的能力を積んだ者が、自分の裁量で活動できる新しい部門や組織を興そうとするため、専門化・分化した新しい部門や組織が増えていく。しかし、そうして分裂が進んだ多様な専門性やそれに基づく価値観、ロジックを持つことになった多数の組織は、自然には統合したり、連結したりすることはない。複数の組織が共通の利害を意識するような何らかの出来事や、それをイシュー化するような意図的な努力が必要となるのである。
日本において、日本なりの「NPO」が登場して30年近い年月が経つ中で、NPO法人が急 増する一方で公益法人改革が起こり、それによって一般法人(一般社団法人・一般財団法人)がNPO法人を上回る数となり、社会福祉法人 にも改革が起こり、学校法人や宗教法人についても改革が議論されている。民間非営利の世界は、法人制度というレベルでも専門化・分化が進んだのである。そして、その一方で意図的に取り組まれるべき統合化・連結化は、やはり立ち遅れているといわねばならない。
[謝辞]
本研究はJSPS科研費21K01665、22K01739、 23K01540、23K01575、24K05045の助成を受けたものである。
[注]
1)初谷勇[2001]、 谷勝宏[2003]、 小島廣光 [2003]、原田[2020]
2)これに関する経緯や関連するイベントなどについて、NPO法人まちぽっとが「NPO法(特 定非営利活動促進法)制定10年の記録」というサイトを設けている。 https://npolaw-archive.jp/ 2024年2月15日確認。
3)松原明インタビュー、2008年1月23日、於: シーズ事務所。
4)ステッドマン・ジョーンズ〔1983〕邦訳書 〔2010〕、23ページ。
5)平山〔1991〕、平山・松林〔1991〕、平山・松林〔1992〕他。
6)財団法人ハウジングアンドコミュニティ財団〔1997〕、43ページ。
7)市民活動地域支援システム研究会〔1998〕「、は じめに」。
8)内閣府ホームページ、内閣府総合サイト「地方創生」令和5年度「中間支援組織の提案型 モデル事業」について https://www.chisou.go.jp/sousei/about/kankei/r05_teian_model.html 2024年2月15日確認
9)内閣府ホーム、防災ボランティア関係情報「災害中間支援組織について」 https://www.bousai.go.jp/kyoiku/bousai-vol/voad.html
2024年2月15日確認
10)日本スポーツ協会総合型地域スポーツクラブ全国協議会ホームページ、「令和元年度総会レポート」 https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data/kurabuikusei/SC/r1sc_soukai.pdf 2024年2月15日確認
11)経済産業省商務・サービスグループヘルスケア産業課「新しい官民連携の仕組み:ソー シャル・インパクト・ボンド(SIB)の概要」 プレゼンテーション資料 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/socialimpactbond.pdf 2024年2月12日確認
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平山洋介・松林一裕「アメリカのコミュニティ・ベースト・ハウジング:#2 CDCsの プロジェクト」日本建築学会学術講演梗概集。 F、都市計画、建築経済・住宅問題、建築歴史・ 意匠(1991)、801-802、1991年8月。
平山洋介・松林一裕「アメリカのコミュニティ・ベースト・ハウジング:#3 新しい住宅法と非営利セクターの役割」日本建築学会学術講演梗概集。F、都市計画、建築経済・住宅問題、建築歴史・意匠(1992)、815- 816、1992年8月。
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(論稿提出:令和6年2月16日)
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