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≪査読付論文≫ 自治体外郭団体の運営実態に関する考察 ―自己組織性の視角による事例分析に基づいて―

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公益財団法人倉敷市スポーツ振興協会総務企画課長 吉永光利


キーワード:

外郭団体 自己組織性 ゆらぎ 自己化 自己増殖


要 旨:

 本稿は、自治体外郭団体が国等による多様な行政施策に対応しながら、どのような運営を行っているのか、自己組織性の視角から、その実態を考察するものである。

 外郭団体とは、一般的に国等が設立時に出資等を行っている、あるいは人的・経済的な支援を継続的に行い、運営に関与している団体のことである。その特性から、組織の存続可否も含めて、国等が行う施策の影響を受けることが多い。

 そのような管理下にあり、活動に制約がある一方で、自律的な運営を行い、一定の成果を収めている事例が見られる。そこで、本稿では、そのような事例分析を通じて、自治体外郭団体がどのような運営を行っているのか、とくに、運営の主体となる人(職員)の意識や行動に焦点をあてて、その実態を考察するものである。


構 成:

I  はじめに

II 分析対象と方法

III 調査の設計と結果

IV 考察

Ⅴ おわりに


Abstract

 This paper examines how a municipality-affiliated organization actually operates while responding to various administrative measures taken by the national government, etc., from the perspective of self-organity. An affiliated organization is generally an organization in which the government invests at the time of establishment, or to which the government continuously provides human and economic support, and is involved in its operation. Due to its characteristics, it is often affected by measures taken by the national government, including whether or not the organization can survive. While municipality-affiliated organizations are under such control and have restrictions on their activities, there are cases in which they operate autonomously and achieved certain results. Therefore, this paper examines the actual situation of a municipality-affiliated organization through the analysis of such cases, focusing on the awareness and behavior of the people(staff), who are the main actors in the operation.


※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。



Ⅰ はじめに

 従来から、「役人の天下り先」、「官民のもたれあい」といった社会的な批判(例えば、吉田[2017]、16-17頁)のある外郭団体(an affiliated association, an extra departmental body:高寄[1991]、3頁)であるが、これまで、国等による見直しのなかで、団体の存在意義や存続の必要性に関する是非に関して、多くの議論が行われている (内閣府[2001][2002])。その一方で、実際に、外郭団体がどのような運営を行っているのか、そこで働く人々の意識や行動に着目した研究は、それほど多くないように思われる。

 ここで、外郭団体は、国や自治体から人的・ 経済的な関与を継続的に受けており、行政施策の代行者という役割がある(蛯子[2009]、6頁)。そのため、活動に公的な制約があり、裁量のはたらきにくいところがあると思われる。また、国、あるいは都道府県、市区町村のいずれか、あるいは複数からの関与が考えられ、管轄ごとの施策(縦割り行政)に対応するため、事業分野が多岐に亘っており、複雑な様相を呈している。

 そのような状況ではあるが、例えば、国の管理下にあり、市区町村にまで展開し、類似する事業を行っている外郭団体間の活動状況を比較すると、各々の事情は異なるにしても、その成果1) (例えば、会員・利用者数の増加)に顕著な差異のある事例が見られる。このような事例に関心を寄せると、どのように自律的、あるいは独創的な運営を行っているのだろうか、という疑問が生じてくる。それは、内発的な要因として、団体自らの意志決定により(能動的に)運営しているのか、その反対に、外発的な要因として、国等の意向に沿って(受動的に)対応しているのか、実態のはっきりしないところがある。

 そこで、本稿では、自己組織性(self-organity)という概念(装置)を使って、自治体外郭団体(amunicipality-affiliated organization)がどのような運営を行っているのか、時間の経過とともにどのように変容しているのか、そこで働く人々の意識や行動に焦点をあてて、その実態を考察するものである。実践的に言えば、団体の抱える多様な問題に対して、外部から指示されて行うのではなく、自らの課題として、どのように内発的に対応しているのか、このような問題関心である。

 以上の問題関心に基づく本研究の課題は、自己組織性の視角から、自治体で活動する外郭団体の運営実態を考察することである。


II 分析対象と方法

1 外郭団体

(1)定義

 本研究の分析対象は、自治体外郭団体の自己組織性である。ここでは、外郭団体に関する諸議論を概観し、本稿における外郭団体の定義を提示する。

 まず、高寄[1991]は、形式的な定義として、地方自治法第199条に準拠し、一般的には、土地・住宅・道路の三公社と25%以上の出資法人との規定で、概ねの外郭団体が包含されると指摘している(58頁)。その一方で、形式的に限定することに対する批判として、首長(自治体)が外郭団体の行政・政治・経営上の責任を負うことから、実質的支配・業務・機能関係から定義する意義を指摘している(61頁)。

 朝日監査法人[2000]は、地域政策研究会 [1997]による地方公社の定義(1頁)を参照したうえで、高寄[1991]と同様に、地方自治法第199条を根拠として、「25%以上出資法人」を外郭団体と定義している。そのなかで、種類や成り立ちの多様性を踏まえて、設立根拠となる法律により区分ができると指摘している(2- 3頁)。

 蛯子[2009]は、「地方自治体及び地方自治体が過半を出資する団体が出資・出捐する法人」と定義している。そして、外郭団体の法人形態を「公益法人(旧特例民法法人)」「会社法法人」「地方三公社」「地方独立行政法人」と区別し、朝日監査法人[2000]と同様に、根拠法に焦点をあてている(2頁)。 次に、都道府県別人口数の上位3位(東京都・ 神奈川県・大阪府)による外郭団体の定義を概観する。各定義を簡略にまとめたものが、図表1である。

 上述のように、外郭団体の定義は、従来、地方自治法第199条の規定を準用し、出資等経済的な関与の部分に焦点をあてていることが一般的であった。いわゆる、国等の組織(官のシステム)の一部という捉え方である。ところが、自治体による定義を見ても明らかなように、外郭団体という概念の捉え方が多様化し、呼称もその規定も変化し、一義的な意味ではなくなってきている。これは、従来の行政による支配的・管理的な運営からの変容を意味していると考えられる。いずれにしても、議論が一定せず、拡散しているところがあるが、本稿では、外郭団体で働く人々の意識や行動に焦点をあてていることから、経済的な部分を強調せず、仮に「国等と協働して政策実現のための事業を行い、かつ国等の現職、あるいは退職者が常勤役員等に就任している団体」と定義しておく。


図表1 都府県による外郭団体の定義等

出所:各自治体のホームページ(2023年5月8日アクセス)を参考に筆者作成


(2) 自治体外郭団体の運営状況

 ここでは、高寄[1991]を手がかりに、自治体外郭団体の運営状況を概観する。

 自治体外郭団体の運営では、自治体からの出向者(現職・退職者)と直接雇用しているプロパー (固有)職員による体制が多く見られる。そうしたなか、高寄[1991]は、自治体の人事ローテーションとして、出向者が経営管理層を占めることにより、プロパー職員の経営マインドを損なっていると指摘している(228頁)。これは、適材適所の配置を行う以前に、外郭団体の人事権が働いていないことを意味している(244頁)。 そして、このような重要な人事が自治体事情で処理されているところがある(269頁)ことから、高寄[1991]は、外郭団体の人事施策に関して、第1に、自治体退職者が天下るとしても人事を固定化せず、適材適所を図ること(270頁)、第2に、自治体出向者とプロパー職員との同部門への混合方式を避けること(273-275頁)、第3に、長期にわたって運営を支えるプロパー職員の人材確保と養成を行うこと、これら3点を指摘している。なお、これらの指摘は、プロパー職員の人事の展望を開く必要性を言及しているのだが、その一方で、任せきりにすることが最適ではないと指摘している(276頁)。

 次に、自治体側の思惑では、高寄[1991]は、経営戦略の手段・機会として、外郭団体を活用していく政策認識に欠けていると指摘している。それは、首長以下幹部も含めて、その経営につき関心度が低く、便宜的に利用する知恵は働かせても、政策的に活用する志向性が薄いからである(256頁)。そのため、外郭団体が事業活動で独自性を発揮し、新しい事業分野を開拓することによって、自治体支配の精神的・財政的しがらみから脱皮し、実質的な独立性を構築していく可能性を指摘している(246頁)。ここで、本稿では、自治体出向者が運営のマイナス要因になるとの否定的な見方ではなく、出向等を前提としたうえで、どのように自律的な運営を行っているか、という視点である。

 ところで、高寄[1991]の研究からすでに30年以上経過しているが、上山[2018]においても、プロパー職員の人事の展望に関する同様の指摘があり、それほど進展していないように思われる。しかし、自治体支配からの脱却策としての独自性の発揮、あるいは新事業領域の開拓 (高寄[1991]、246頁)といった他であまり例のない事例8) (海外での事業化、縦割り行政の垣根を超えた事業化)が見られる。このことから、活動に制約があり、閉鎖的と思われる外郭団体において、「ヒト」の属性にかかわらず、そこで働く役職員が起点となって、すべてではないが、自律的な運営へと転換している状況があるのではないか、という疑問が生じてくる。これは、本研究の契機にも関連している。

(3) 事例の選定

 探索的ではあるが、本研究の課題に基づき、 2020年に実施したインタビュー調査9) (以下「前調査」と記す。)のレビューを行った(吉永[2021])。ただし、前調査対象先15団体のうちの8団体は、民間等の出資団体であったため、残りの7団体を対象に進めた。そのレビューでは、強権的リーダーによる支配的な団体、同地域団体の不祥事により行政指導が強まっている団体、著しく小規模(常勤1~2名)の団体、存続が危ぶまれている(大幅な人員・予算削減)団体など、それぞれに背景や状況が異なっていた。

 ここで、本研究の契機は、上述の問題関心に基づくものであるが、例えば、組織の成果が高い(顕著な)団体の方が自己組織性(自律的・自己決定的な性質)の特性を捉えやすいと考えられる。さらに、ランダムに抽出した事例よりも、類似する事業を行う団体(類似団体)間で条件を揃えた方が成果の程度を比較しやすいと思われる。ただし、ここで留意しておきたいことは、自己組織性を発揮すれば成果が得られる、そのような因果的関係性には必ずしもない、ということである。そのほか、筆者の実務経験に関連して、研究に不可欠な要素である客観性を考慮し、以下の4点を選定理由としている。

① 因果的結びつきを考慮し、一定の成果(従属変数)を収めている団体(成長・達成度)

②意思決定を他に委ねず、自己決定的な運営を行っている団体(自主・自律性)

③同一目標(計画)に沿った活動を行っている全国組織の団体(成果の相対性)

④筆者の実務経験(スポーツ系)を考慮し、他分野の団体(客観性、偏見の除去)

 以上の理由から、レビューを行った7事例のうち、自治体(市区町村)で活動するシルバー 人材センター(以下「センター」と記す。)の2団体(A社団・B社団)を選定した。

(4) シルバー人材センター組織の概況

 公益社団法人全国シルバー人材センター事業協会(https://zsjc.or.jp/about/about_02.html 、2023年7月7日アクセス、以下「全シ協」と記す。)によれば、センターは、国等の高齢社会対策を支える組織として、概ね市区町村単位に設置されており、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)の規定に基づいた事業を行っている。現在は、高年齢者を会員とした社団であることを原則とし、かつ都道府県知事の認定を受けた公益法人として活動している(厚生労働省所管)。そして、各都道府県単位に、シルバー人材センター連合会(以下「連合会」と記す。)が設置されており、全シ協、連合会、センターが一体となり、広いネットワークを活かした事業を展開している。

 事業推進に係る計画では、全シ協が2018年3月に「第2次会員100万人達成計画(以下「100万人計画」と記す。)」を策定しており、このなかで、会員拡大を最重点課題としている10)。この拡大では、①女性会員の拡大、②企業退職(予定)者層への働きかけの強化、③退会抑制、④新生活様式に対応した多様な就業機会の開拓、⑤80歳超でも活躍できる就業環境の整備、これらを重点目標としている。なお、全国の会員加入者数をまとめたものが、図表2である。

 図表2のとおり、前調査時(2020年)における会員加入者数は、69万8,419人であり、それ以降、減少傾向にある。また、都道府県別の詳細は記載していないが、本稿で事例とする2団体が所在する県も減少しており、100万人計画策定時の2018年から2021年(両年を比較)にかけては、3.11%減少している11)。そうしたなか、A社団では13.53%、B社団では19.75%増加しており、県下上位2位を占め、その成果は顕著なものである。


図表2 シルバー人材センターの全国会員加入者数

出所:全シ協公開情報を基に筆者作成



2 分析の方法

 本研究は、自治体外郭団体が「どのように」、あるいは「どのような」運営を行って(組織が変容して)いるのか、という実態解明を試行している。そのため、分析方法では、事例分析による定性的な方法が妥当である12)とし、採用している。そして、本稿では、自己組織性の視角から、以下の理論的定義に基づき、吉永[2023] の議論を踏まえて、後述の2つの視点に限定した分析を行う。

(1) 自己組織性の定義

 自己組織性とは、平易に言えば、ランダム (random) から秩序(order or rules) へと自ら組み上がる性質の総称(都甲他[1999]、6頁) であり、自然科学にその原典がある。この概念は、1970年代以降、社会科学の分野で多く応用されている(庭 本[1994]) が、本稿では、「システムが環境との相互作用を営みつつ、みずからの手でみずからの構造をつくり変える性質を総称する概念(今田[2005]、1頁)」と定義する。この定義のなかで、「環境との相互作用」とは、オープン・システム(open system)を示唆しており、これは、有機体的組織観であると考えられる。次に「みずからの構造をつくり変える」とは、自己の範囲を規定し、その規定した自己のなかで自らが変容していく、つまり、有機体の特徴である開放系のなかに特殊的な閉鎖性を内含している、このような見方である13)

 この定義における自己組織性は、基本的には、生命システムを一般化した概念(吉田[1989]、255-256頁)であり、有機体的組織観に立った非線形的・動態的な自己決定論である。そして、その特徴は、組織の変容過程のはじまり(ゆらぎ(fluctuation)の生起)となる兆しを重視しているところにある(今田[2005]、125-127頁)。

(2) 本稿における2つの視点

 本稿における自己組織化(self-organization)は、 ゆらぎ14)を変容の起点として、時間の経過とともに秩序化(形成・安定)するというメカニズム(mechanism)である。このフローを図示したものが、図表3である。

 図表3のように、組織内に発生したゆらぎ(個人による疑問や緊張など)15)に起因して、自己言及(self-reference)を通じて、どのように秩序化していくのかを選択(selection)し、秩序化していく、このようなフローである。ただし、ここでの秩序化は、組織が静的な状態に向かい、その構造が硬直化していくことを意味している。そのため、とくに、活動に制約の多い組織においては、硬直状態(マンネリ化)に陥りやすいことが考えられ、これを打破するためには、断続的にゆらぎ(貯蔵情報:既存秩序への疑問)を内発させていくことが有効になると考えられる。これは、現状に満足せず、改善意識をもって自省的な運営を行っている組織に見られる特徴であると思われる。

 ここで、今田[2005]は、シナジェティック (synergetic)な自己組織性の4つの特性を指摘している(28-34頁)。具体的には、第1特性が「ゆらぎを秩序の源泉とみなす」、第2特性が「創造的個の営み(self-discipline)を優先する」、第3特性が「混沌(unconventionality)を排除しない」、第4特性が「制御中枢(control-center)を認めない」である。そして、吉永[2023]は、これら4つの特性を踏まえて、5つの論点を指摘している(122-124頁)。本稿では、狭義的ではあるが、そのなかから、以下の「ゆらぎと組織」、「自己化」の2つの論点に絞り、集中的な考察を行う。


図表3 自己組織化のフロー

出所:吉永[2023]、124頁


① ゆらぎと組織

 「ゆらぎと組織」は、上述の今田[2005]による自己組織性の第1特性に関連するものであ る16)。これは、社会学の命題である「個人と社会」の関係性にも関連している(吉田[1995]、31-32頁)。本稿におけるゆらぎ、すなわち、組織を変容させる起点は、個人(構成員)であり、これは、同様に第2特性に関連している。反対の見方として、例えば、社会や組織の施策によって、組織が変容していくことが考えられるが、その場合においても、それを個人が自らの問題 として捉え、内発的に組織を変容させていく、このようなものの見方である。

 次に、同様に第3特性は、第1特性の「創造的個の営み」を推進するため、構成員による組織への働きかけをノイズ(noise)とみなすのではなく、積極的に取り込む組織のあり方を指摘している。同様に第4特性は、特定の人間による支配的な運営に対する批判を意味している。これは、職位にかかわらず、ゆらぎがどのように組織の変容にかかわり、それを受容する体制が組織に備わっているか、という視点である。つまり、ここでの「ゆらぎと組織」とは、個人を起点に組織とどのように相互作用しながら、組織の変容、あるいは事業の推進を図っていくか、このような双方向的・相互作用的な視点である。

② 自己化

 「自己化」とは、文字どおりには、自己と化していくことであり、他者を自己に取り込む、あるいは自組織の運営に巻き込んでいく(自己増殖)、という意味が含まれる(例えば、上田 [1996]、中野[1996]を参照)。ただし、この場合、自己の組織をどのように規定するか、という問題が生じてくる。外郭団体であれば、事務局のみを組織と規定するのか、役員も含めるのか、あるいは社団であれば会員をも含めるのか、このような運営上の意識にも関わってくる。その一方で、例えば、自治体が外郭団体を取り込もうとすること(自治体の自己組織化)に対して、自己を保つという意味において、他者からの同一化に抗うことも自己化における特徴的な組織行動であると考えられる。

 次に、自己の範囲を拡大していく、という視点がある。これは、活動(事業)に規制のかか りやすい外郭団体にとっては、どのように事業を拡大させていくか、という問題がある。その反対に、既存事業においては、どのように縮小・廃止していくか、という視点も同様にあり、組織の自由度や自己決定的な運営に起因すると考えられる。

 以上のことから、本稿では、第1に、「ゆらぎと組織」の関連性に着目しつつ、どのように外部環境と相互作用しながら、内発的に組織を変容させているのか、第2に、組織変容(結果) としての「自己化」の視点から、自己の組織をどのように規定し、自らの存在意義を外部に示せているのか、このような考察を行う。換言すれば、「ゆらぎ」と「組織」との関連性17) (独立変数)に起因して、その組織が外部環境と相互作用しながら、どのように「自己化」(従属変数) を図っているか、このような視点である。

(3) 概念の操作

 上述の自己組織性の理論的定義、および2つの視点を踏まえて、本稿における鍵概念を「ゆらぎ」「組織」「自己化」の3つに特定している18)。そして、これらの概念に解釈を加え、実践的な視点(調査の着目点)としてまとめたも のが、図表4である。


図表4 自己組織性における鍵概念と実践的な視点

出所:筆者作成



III 調査の設計と結果

1 調査の設計

 本研究で必要なデータを追加で収集するため、2事例を調査対象として、前調査に引き続 き、インタビュー調査(以下「本調査」と記す。) を行っている。なお、前調査と本調査のインタビュー内容(管理職対象)が、各事例の組織現象の説明を示せているかの信頼性を確認するため、一般職を対象にアンケート調査(以下「意識調査」と記す。)を行い、データ(回答内容)の妥当性を検証している(詳しくは、Vの後に掲載の「補論」を参照のこと)。

 本調査の目的は、「ヒト」の組織への関わりが、運営にどのような影響を及ぼしているのかを自己組織性の視角から因果的に探索することである。そのため、前調査(3年前)の状況に加えて、さらに、過去の状況をヒアリングし、どのような人的要因により現況に至っているのか、という着眼で調査している。調査の概要は、図表5のとおりである。

 本調査は、半構造化面接19)を行っており、具体的な質問項目は、本調査の目的、および自己 組織性の視点(図表4)を踏まえて、図表6のとおり設定している。なお、応対者へは、文書化した質問項目を実施日前(2023年7月10日付) に、Eメールで通知している。


図表5 本調査の概要

出所:筆者作成


図表6 本調査における質問項目

出所:筆者作成



2 A社団の調査結果

(1) 前調査の概要

 A社団の活動する地域は、2005年に9町村が 合併しており、センターもこれを機に統合している。ただし、概ね旧町村エリアに本所と支所 機能を備えているが、合併前のそれぞれのやり 方が統一できていないという問題を抱えてい る。この問題に対して、全シ協が掲げる100万 人計画に基づき、センター独自の計画を策定し ている(目標の数値化)。そして、目標値を役職 員に広く周知・共有することで、意識のばらつ きが解消方向に向かっていると指摘している。 換言すれば、共通目標を通じて、本所と支所間 の横断的な連携(機能)と、会員・役員・事務 局といった縦断的な関係性(構造)が強まって いると考えられる。また、常務理事は、職員の 個性や能力、経験を尊重し、在籍の人材を活か すことに考慮しつつ、定期的な会議等による情 報共有(コミュニケーション)の機会を設けている。

 行政との関係性では、仕事の依頼に対して承諾、その反対に拒否している様子等から、従属的な関係ではなく、自己を保持している状況にあると思われる。また、組織の認知度を高め、存在意義を示すため、マスコミ等を活用した積極的な情報発信を行っている。

(2) 本調査の概要

 2020年度から3年間にわたり、常務理事が中心となって、国の「きらりシルバー応援事業」に参画していた。参画の目的には、会員拡大・仕事の増加・事務の統一化の3つを掲げており、一定の成果を収めている。とくに、市からの仕事の増加が顕著であり、このことについて、これまでの活動実績による信頼性の高まりの表れであると指摘している。ただし、事務の統一化では、職員間では図られつつあるが、会員のやり方では、未だ地域性が残っており、旧来の秩序が優先されている状況がある。

 また、運営面における法的な要請に関しては、全シ協や連合会からの指導・助言に受動的に対応する一方で、事業の本質的かつ実務的な部分に集中した運営を行っている。行政庁との関わりでは、法令等の遵守状況を確認する程度で、運営に関与されるような指導は受けていないと指摘している。なお、情報収集の一環として、県下の地域ブロックを超えて、B社団をはじめとするセンター(他ブロック)との意見交換会 に精力的に参加しており、積極的な交流を行っている。

3 B社団の調査結果

(1) 前調査の概要

 B社団では、採用した職員が短期間のうちに、複数人が連続して退職した経緯を踏まえて、コミュニケーションを重視した運営を行っている。これは、人間関係のもつれ(不調和な職員の存在)に起因する職員の連続退職が運営に不安定な状況をもたらし、それに対応する形で、職員間のコミュニケーションの頻度を高め、秩序形成を図っていると考えられる。ただし、その展開は、事務局内にとどまらず、理事や会員へも広げており、全体的な協調に努めている。その一方で、類似団体による過去の不祥事を例に、特定の者が仕事を囲い込まない体制の必要性を指摘している。さらに、市との関係性では、副市長がB社団の理事であり、その発言から一定の評価を受けていると認識している。

 また、多様な事業を展開していくなかで、会員を巻き込んだ事業を行う一方で、その属性にかかわらず、特定の者に頼らない運営を意識している。これは、今田[2005]による自己組織性の第4特性である「制御中枢を認めない」運営に関連すると考えられる。さらに、限られた財源や人材のなかで、どこまで事業を推進できるか、という自己言及的な運営を行っている。そのほか、県内外を問わず、先進的な取り組みを行っている他センターとの関係を構築し、情報交換・収集を積極的に行っている。

(2) 本調査の概要

 一昨年前から雇用が安定に向かっており、その要因の一つとして、職場の雰囲気が改善されたことを指摘している。この改善と新たな事業化では、1人の若手職員による影響が大きいと指摘している。運営体制では、民間出身の代表理事、自治体出身の常務理事、プロパー職員の役職員がそれぞれの経験による得意を発揮し、考えに相容れない部分がありながらも、バランスの図られた事業が展開されている。また、会員拡大や退会抑止という共通目的を日頃から職員が共有し、相互の理解も高まり、提案の出しやすい雰囲気に変容している。これは、視察研修等による人材育成の成果であるとも考えられる。

 全シ協と連合会との情報伝達では、全シ協による方針が連合会経由で各センターに流され、逆に、各センターから全シ協へ報告される情報が集約・拡張され、再びフィードバックされる仕組みが確立している。ただし、昨今のインボイス等の新法対応では、的確な情報が得られないことへの不安を募らせている。また、市から新しい事業提案を求められるなどの期待を感じられない不満がある一方で、仕事の依頼は増加している。なお、両事例から「センターの魅力度21)」の向上追求により多くの効用が得られるとの指摘があった。

4 まとめ

 各調査結果では、それぞれに背景や問題意識が異なるため、応対者が指摘する事象内容に相違する部分があった。しかし、応対者の主観的な意識や現象の捉え方に相違があることは想定されることであり、それを否定、あるいは定式化しようとすると、実態の説明を不十分なものにすると考えられる。応対者に自由度を与えて、半構造化面接としているのも、このような想定によるものである。その結果、とくに、「ゆらぎ」の事象に関しては、相違した部分が顕著に表れている。その一方で、「組織」と「自己化」の事象では、共通する部分が多く表れている。主な内容は、次のとおりである。

(1) ゆらぎ

 「ゆらぎ」関連の事象では、A社団は、新たな秩序形成を推進するための「事業計画」を、B社団は、新たに事業化するための「ヒト」の多様性に着目している。このような相違の要因の一つとして、応対者の職位や属性(図表5)による主観的な意識の違いがあると考えられる。具体的には、A社団の応対者(自治体退職者) は、職員の個性に対する言及はそれほど多くなく、団体の旧来の秩序(地域性)や閉鎖的な活動(不十分な情報受発信)を問題とした俯瞰的な見方を行っている。その一方で、B社団(プロパー職員)は、前調査当時、職員が連続退職している状況などもあり、雇用管理(人的資源管理的考察)を中心とした近視眼的な見方を行っている。このようなミクロ・マクロの対照的な視点により、ゆらぎに関する事象内容が異なっていると考えられる。

(2) 組織

 「組織」関連の事象では、両事例で共通する部分が確認された。例えば、コミュニケーション機会の創出、外部組織との交流や積極的な情報収集の推奨といった個人(職員)を支援する組織の体制に関する指摘がある。これは、今田 [2005]の指摘(自己組織性の第3特性)に関連するものであり、ゆらぎの発生しやすい状況をつくり出していると考えられる。とくに、B社団では、連続退職に歯止めがかかり、職員が個性を発揮している状況から、個人に対する組織の受容体制が整備され、安定方向に向かっていると考えられる。

(3) 自己化

 「自己化」関連の事象では、上述の「組織」と同様に、両事例で共通する部分が確認された。その要因の一つとしては、全シ協が掲げる最重点課題(会員の拡大)が両事例の共通課題であることに起因していると考えられる。その反対に、相違する部分に関しては、その内容からゆらぎ事象(独自の取り組み)への対応といった因果的な関連のある事象であると思われる。また、自治体との信頼関係を意識した運営を行っている一方で、依頼に対する受託の状況から、主従の関係性にはなく、独自性を発揮した運営を行っていると考えられる。 以上のように、データに特徴的な部分と共通する部分のそれぞれが存在しているが、いずれも組織の実態を明示しているものであり、以下では、得られたデータに基づき、考察を行う。


IV 考察

 A社団では、常務理事のリーダーシップがゆらぎとなり、事業を推進しているが、B社団では、役職員に多様な個性があるなかで、それぞれの得意を活かし、バランスを図った運営を行っている。また、両事例とも、職場の雰囲気や人間関係に重きを置き、情報の流れやすい状況を創り出している。さらに、共通して、内部のみならず、外部との交流を通じて、積極的に情報収集を行っている。自治体との関係性も良好であり、外郭団体特有の人事的な問題(出向者とプロパー職員との対立)が表面化している状況はなかった。

  前調査から3年という短期間のうちに、両事例とも、行政からの仕事の依頼が増加している。このことについて、A社団は、これまで築いてきた信頼の表れ、B社団は、一部不満があるものの運営に対する一定の理解を得ている主旨を指摘している。そして、両事例に共通して、運営における裁量的な部分に対する自治体からの指導等はなく、法的な準拠状況の確認に留まっている。これらのことから、自治体側が団体運営に対して関心がないということではなく、組織の成果を踏まえて、自律性を尊重し、独自性を認めていると考えられる。さらに、全シ協等との関係性においても、支配的・従属的ではなく、それぞれに役割が存在し、対等な関係にあると考えられる。

 以上のことから、図表4で提示した自己組織性の鍵概念に関連する事象をまとめると、図表7のようになる。

 図表7を踏まえて、自己組織性における2つの視点による考察を提示する。まず、本研究の第1の視点(ゆらぎと組織) に関する考察では、第1に、ゆらぎの起点となる職員(要素)の多様性が組織の変容に影響を与えている、ということである。A社団では、常務理事が起点となり、組織の変容(新たな秩序形成)を促しているが、特定の人間によるゆらぎの発生は、短期的には有効であっても、中 長期的には自己組織化が停滞していくと考えられる22)。これは、今田[2005]の自己組織性の第4特性(制御中枢を認めない)の指摘による。B社団では、経歴の異なる役職員による意識の違いがゆらぎとなり、変容の起点になっている。そして、職員間の関係性が良好で情報伝達が円滑となり、変容機会が増えていると考えられる。なお、職員の異動が限られ、組織が硬直化傾向にある外郭団体においては、組織を動的に活性化する意味において、自治体出向者の定期的な交代は、リスク要因に転じることもあるが、有 効であると考えられる。

 第2に、外部と相互作用する意味において、積極的に情報を取り入れている、ということである。情報とは、あるところからないところに伝わる性質がある(例えば、吉田[1990][1995] の指摘)が、本事例では、上位団体から下位団体へ、その反対に、下位団体から地域的・局所的な情報を上位団体に報告するといった相互伝達の仕組みがあった。また、事例では、他団体(外部)から意欲的に情報収集を行い、とくに、B社団では、先進的な取り組みを行っている団体との関係を構築し、多くの職員に視察・研修機会を与えることで、意識の変化(ゆらぎの発生)を促進させ、組織が変容する機会を創り出していた。

 次に、本研究の第2の視点(自己化)に関する考察では、第1に、自己の組織に多様な(他者的)要素を取り込み、協調的な運営を行っている、ということである。事例では、会員との 良好な関係性を重視しており、とくに、退会抑制という観点から、会員満足度を高めるための施策を積極的に実行している。それには、公益追及、あるいは事業拡大のために会員の拡大が必要であり、その拡大のために会員満足度を高める、というロジック(logic)がある。これは、両事例から指摘のあった「センターの魅力を高める」という意味において、自己増殖的に組織を拡大させる組織現象であると考えられる。

 第2に、自らの役割を明確にすることで自己を保持している、ということである。両事例では、法的な要請への対応を上部組織に委ね、裁量的な部分に注力している状況が確認された。つまり、それぞれが役割を認識(自己の範囲を規定)し、責任を果たすことで、結果として、全体の効率化を図っている。また、仕事の依頼数の増加によって、自治体との関係性が従属的になることはなく、自己を保持した運営を行っている。換言すれば、自治体への経済的な依存度が高まれば、自治体側の自己組織化に取り込まれることが考えられるが、そのような状況にはない、ということである。


図表7 自己組織性の鍵概念に関連する発見事象

出所:筆者作成



V おわりに

 本研究は、自己組織性理論に依拠し、自治体外郭団体を対象に組織現象の考察を行っており、実証的な研究を通じて、理論検証へも貢献できた部分があるように思われる。さらに、事例研究という集中的なデータ収集を行うなかで、多くの因果的要因としてのデータを得られたように思われる。しかし、研究の課題に立ち返れば、事例を用いた限定的な方法であったため、外郭団体全体の様相を明示しているとは言えず、あくまで部分的な議論に留まっている。また、事例から十分にデータを抽出できているとは言えず、引き続きの考察が必要である。そのほかにも多くの課題があるが、ここでは、自己組織化のメカニズムに関連して、時間軸に関する課題を提示する。例えば、高寄[1991]は、外郭団体を「形態・性格別」に分類しており、このうち「性格別」に分類したものが、図表8である。

 図表8は、あくまで分類の一例であるが、外郭団体の概念を捉えるために、多くの次元による類型が開発されている。しかし、本事例でも明らかになったように、時間の経過とともに外部からの評価や事業の内容が変わっていく。そのため、同一組織であっても、結局のところ、一時的な状態(分類)を示しているに過ぎないのである。そのように考えると外郭団体の再定義もそうであるが、類型化することの意味を問い直し、時間軸を考慮した新たな次元開発が意義深いものになってくると思われる。

 さいごに、本研究の含意を述べる。本稿では、筆者(外郭団体実務者)の事業分野とは異なる事例を取り上げたわけであるが、そこで働く人々の悩みや問題意識、また、実務的経験による偏見やマンネリ化の状況などには、それほど大差がないように思われた。これは、本稿で紹介できなかった他の5事例からも感じられたことである。自治体外郭団体は、少なからず自治体の様子を伺いながら、運営を行っていると思われる。本事例で紹介したように、自律的・能動的な運営により、成果が得られている団体がある一方で、それとは対照的に、自治体による指導監督の下、確実かつ受動的な運営に徹し、連携重視で成果を収めている団体があると考えられる。本稿では、それら対照の是非についての議論には至らないまでも、そこで働く人々が自組織の現状を認識し、将来の運営を考えるきっかけになれば幸いである。 ところで、自治体の評価を意識するあまり、会員や利用者を軽視しているような状況はないだろうか。少なくとも、本事例では、そのような様子は確認できなかった。共通する特徴では、積極的に情報を取り入れ、地域の実状にあわせて事業化し、着実に実行する、それら一つひとつの取り組みが成果に結実している。それは、独創的な施策というのではなく、共有する目標の達成に向けて、社会を巻き込みながら、自己組織を成長させていく、このようなことを徹底した結果であり、いずれの団体も試行可能であると思われる。


図表8 外郭団体の性格別分類

出所:高寄[1991]、71頁を参考に筆者が加筆修正


補論 意識調査の概況

 意識調査の目的は、各事例の管理職と一般職との意識の差異を検証することである。具体的には、一般職対象のアンケート調査を実施し、2019年調査のデータ(管理職データ)との相関性と平均値の差異から検証する。以下は、調査分析の概況である。

(1) 対象と方法

 調査の対象は、各調査先(事例)に所属する一般職(課長級より下位)である。

 調査の方法は、「質問(兼)回答票(10問70項目(5尺度)、記述1問)23)」を両センター事務局 に持参し、対象者15名に配布していただいている(無記名方式)。また、回収方法は、郵送で返信(筆者の職場あて)していただく方法を採用している。

(2) 実施概要

 ①実施期間:2023年 7 月18・19日(持参日) ~8月1日(返送の締切)

 ②回答数:11件(回収率:73.3%)

(3) 分析の方法

 2019年調査による「管理職データ」と意識調査による「一般職データ」の平均値との相関関係(係数)を事例ごとに求める(n=70)。次に、確認した相関関係を別のアプローチで確認するための検定を行う。

(4) 分析の結果

 両事例の管理職と一般職の各データの相関関係を求めたものが、図表9である。

 図表9による相関係数の結果、両事例とも管理職と一般職との関係には正の相関がある。さらに、P値が有意水準(0.05)を下回っており、帰無仮説は棄却され、相関係数は統計的に有意である。 次に、別の方法として、平均値の差異が統計的に有意であるかを検証するため、「分散が等しくないと仮定した2標本による平均値の差の検定」を行った結果が、図表10である。

 図表10のとおり、P値が有意水準(0.05)を下回っており、相関がないという帰無仮説は棄却され、相関係数は統計的に有意である。したがって、本論における前調査と本調査のデータは、組織の状況を説明できていると解され、これを前提に進めている。



図表9 管理職と一般職のデータによる無相関検定

出所:筆者作成



図表10 分散が等しくないと仮定した2標本による平均値の差の検定の結果

出所:筆者作成


[謝辞]

 本稿執筆にあたり、本学会報告を通じて、吉田忠彦先生をはじめとする諸先生方から建設的なご指摘をいただいた。また、2名の匿名査読者にも有益なコメントをいただいたこと、記して感謝申し上げたい。もう1人、80歳を迎えた母利子、いつも応援ありがとう。


[注]

1)本研究に先立ち、非営利組織の自己組織性に関するアンケート調査(主に中国地方の公益法人を調査対象(回収数119)、以下「2019年調査」 と記す。) を 行っている(吉永他 1[2020]、 吉永[2021])。そのなかで、組織の成果(質問項目25)に関する質問を行っているが、「2.サービスや施設の利用者(会員)数が増加すること(平均値3.96/5尺度)」の項目が上位3位であり、外郭団体を含む公益法人が会員や利用者数を定量的な成果指標の一つに位置づけていることが分かる。

2)都と協働して事業等を執行・提案し、都と政策実現に向け連携するなど、都政との関連性が高く、全庁的に指導監督を行う必要がある団体。

3)主体的に都と事業協力を行う団体のうち、資本金等の出資等を受けている団体(①継続的 な都財政かつ都派遣職員の受入、②都財政からの受入割合が50%以上、③全社員に占める都派遣職員割合が5%以上、④都関係者が常勤役員に就任のいずれか)。

4)県の出資等比率が25%以上、かつ出資等比率が最も大きい法人や県行政と密接な関係を有する法人など、県が主体的に指導する必要があるものとして県が認める法人。

5)県主導第三セクター以外の第三セクター。

6)第三セクターのうち、県から財政的・人的支援等を受けることなく事業を展開することが可能な状態であるなど、県から自立したとして、県が認める法人。

7)(1)府が資本金等の2分の1以上を出資等する法人、(2)府が資本金等の4分の1以上、2分の1未満を出資等し、かつ府の出資割合が最も大きい法人のうち、①府職員、または退職者が常勤役員に就任する法人、②府からの補助金、委託料など、財政的支援による収入が経常収益等の概ね2分の1以上の法人、ほか2項目のいずれかの基準に該当する団体、(3) 府の実質的な出資等の割合が2分の1以上、または4分の1以上2分の1未満の法人であり、かつ(2)2の基準に該当する団体、(4)(1)~ (3)以外の法人で、府が損失補償を行っている 団体。

8)例えば、日本経済新聞[2022a][2022b]によれば、株式会社北九州ウォーターサービスは、全国に先駆けて水道事業をカンボジアで展開しており、また、一般社団法人金沢市観光協会(金沢文化スポーツコミッション部門)は、文化・スポーツ・観光という縦割り行政の垣根を超えた事業を行い、市に経済的効果をもたらせている。

9)前調査は、2019年調査の回答結果の確認と調査対象である公益法人の自己組織性の程度を定性的に分析するために行った半構造化面接(前川[2017]の指摘を参照)である。このデー タの大部分は、吉永[2021]に収納されている。

10)公益社団法人全国シルバー人材センター事業協会の令和5年度事業計画(2023年3月)を参照(https://zsjc.or.jp/kyokai/acv_pdf?id=32、 2023年7月7日アクセス。)。

11)県連合会から、研究目的という条件で、Eメール(2023年6月29日受信)により情報提供していただいており、本稿への記載は最低限に留めている。

12)Yin[1994] は、「どのように」の問題は、 単なる頻度や発生率よりも経時的な追跡が必 要な操作的結びつきを扱い、説明的であるため、事例研究が望ましいと指摘している(1、 7-13頁)。

13)本稿における自己組織性は、開放性と閉鎖性、有機体観と精密機械観(坂下[2009]、83-94頁) といった従来から経営学で議論されているような二項対立する概念のいずれかからアプローチするというものの見方(組織観)ではなく、それら対立概念が両立することを前提とした視角である(今田[1986]、10-12頁)。

14)今田[2005]によれば、システムの均衡状態からのズレである(19頁)。

15)吉永[2023]は、吉田[1990]を踏まえて、 ①既存秩序を変容させるゆらぎ(貯蔵情報)と、 ②新たな創造を促すゆらぎ(変異情報)の2つがあることを指摘している。換言すれば、 ①組織の静的な(static)状態に疑問を呈する形で推進を促す要因と、②組織の創発的な活動を推進する要因の2種のゆらぎである。

16)今田[2005]は、シナジェティックな自己組織性の4つの特性のうち、第1特性を最大特性と指摘している(28-30頁)。

17)例えば、今田[2005]による指摘がある(6- 9頁)。

18)ここでは、Yin[1994]が指摘(45-53頁)する「構成概念妥当性(construct validity)」 を考慮しており、証拠源は、吉永[2023]の研究に依拠している。

19)両応対者には、研究目的での利用許可と紙面での内容確認をしていただいている。

20)両事例とも、公益法人制度改革に関する影響はそれほどなかったと述べている。

21)ここでの「センターの魅力度」とは、全シ協発行の「令和5年度事業計画(注記10を参照)」 における「1 会員の拡大」の取り組みとしての「(3)魅力あるセンターづくり(6頁)」 に関連するものであり、シルバー人材センター全体の共通目標である。

22)「特定の人間による」ゆらぎは、今田[2005] が指摘する自己組織性の第4特性(制御中枢 を認めない)に反するものである。とりわけ、A社団の事例では、常務理事のリーダーシッ プ(ゆらぎ)への依存が常態化すれば、実務上の組織トップであることにも関連して、制御中枢機能が強まっていくと考えられる。

23)意識調査の質問項目70の設定は、2019年調査の全10設問、質問項目141のうち、5尺度点数で各設問の上位と下位の各3~4位の項目に絞って作成している。


[参考文献]

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今田高俊[1986]『自己組織性―社会理論の復活―』、創文社。

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前川あさ美[2017]「第13章 面接法―個別性と関係性から追求する人間の心―」、高野陽 太郎・岡隆編[2017]『心理学研究法―心を見つめる科学のまなざし(補訂版)』、有斐閣 アルマ、257-283頁。

吉田忠彦[2017]「非営利法人制度をめぐる諸活動とそのロジック」『非営利法人研究学会 誌』第19号、13-22頁。

吉田民人[1989]「情報・資源・自己組織性 ―創造性研究のための一つの視角―」、野中郁次郎・恩田彰・久野誠之・大坪檀・梅澤正・井原哲夫・田中真砂子・吉田民人[1989]『創

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東京大学出版会。

吉田民人[1995]「第I部 システム・情報・自己組織性―知の情報論的転回―」、吉田民人他1名編著[1995]『自己組織性とはなにか―21世紀の学問論にむけて―』、ミネルヴァ 書房、22-87頁。

吉永光利他1[2020]「非営利組織の自己組織 性に関するアンケート調査の報告」、岡山大 学経済学会雑誌、29-50頁。

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Yin, R.K.[1994]、Case Study Research:De- sign and Methods,Second Edition、Sage Publications Inc.(近藤公彦訳[2011]『新装版 ケース・スタディの方法[第2版]』、千倉書房。)


[ウェブ資料等]

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大阪府「大阪府の指定出資法人:https://www. pref.osaka.lg.jp/gyokaku/hojin/index.html 」 (2023年5月8日アクセス)。

神奈川県総務局組織人材部行政管理課「神奈川県第三セクター白書(令和4年度):https://www.pref.kanagawa.jp/documents/28220/r4sansekuhakusho-1.pdf 」 (2023年5月8日アクセス)。

東京都「都が関与すべき団体の考え方について:https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2019/03/29/documents/39_01.pdf 」(2023年5月8日アクセス)。

内閣府官房行革推進事務局[2001]「行政委託型公益法人等改革の視点と課題」の公表につ いて:https://www.gyoukaku.go.jp/jimukyoku/koueki/siten_kadai/siten_kadai.pdf 」(2021

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内閣府官房行革推進事務局[2002]「公益法人制度の抜本的改革に向けて(論点整理)」の概 要:https://www.gyoukaku.go.jp/jimukyoku/koueki-bappon/ronten/gaiyou.pdf 」(2021 年6月17日アクセス)。

日経経済新聞[2022a]「北九州市外郭団体、カンボジアで水道事業に参画」2022年3月25日 発刊、地方経済面(九州)13頁。

日 本 経 済 新 聞[2022b]「スポーツ・ 文化大会最多金沢市、今年度55件誘致」2022年8月 2日発刊、地方経済面(北陸)8頁。

論稿提出:令和5年12月19日

加筆修正:令和6年5月23日

 

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