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≪統一論題報告≫専門職・士業団体による公益的活動と非営利法人の振興と支援 ~弁護士及び弁護士会の取組みを事例として

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弁護士 三木秀夫


キーワード:

弁護士 弁護士会 公益活動 NPO支援 プロボノ


要 旨:

 弁護士は、弁護士法で「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」とされるように、プロフェッションとしての公共的な使命があるとされ、日本弁護士連合会においても、弁護士職務基本規程によって「弁護士は、その使命にふさわしい公益活動に参加し、実践するように努める。」と定めている。その背景には、伝統的なプロボノという、職業上持っている知識やスキルを用いて、公共の利益のために無料奉仕ないし低廉な費用もしくは無償で行う公益活動を行うべきであるという理念があるほか、戦後に弁護士会が獲得した「弁護士自治」が、国民からの信頼を基礎においているとの考えが、弁護士会は社会のための貢献活動を積極的に取り組むべきものとして意識されている。弁護士、弁護士による公益活動は、近時、さらにその必要性を増してきている。今後、このことが非営利法人の振興と支援のためにどのように役割を担っていくかが今後の課題である。


構 成:

I  はじめに

II NPO等の非営利組織への関与の経緯

III 弁護士会の活動とプロボノについて

IV 大阪弁護士会としての公益的活動

Ⅴ 弁護士会における公益活動の義務化

VI 大阪弁護士会でのNPO支援等の新しい動き


Abstract

 Lawyers are said to have a public mission as their profession, as the Law for Lawyers states, “Their mission is to protect fundamental human rights and realize social justice.” The Japan Federation of Bar Associations also states that lawyers have a public mission as their profession. The Basic Rules for Lawyer Duties stipulate that “Lawyers shall endeavor to participate in and practice public interest activities that are appropriate to their mission.” The background to this is the traditional idea of pro bono, which is the idea that professionals should use their specialized knowledge and skills to carry out public interest activities free of cost or at low cost for the public good. In addition, the idea that the “autonomy of lawyers” acquired by bar associations after the war is based on public trust has led bar associations to be conscious of the need to actively engage in activities that contribute to society. Lawyers and their public interest activities have become even more necessary in recent years. The future challenge is how this will play a role in the promotion and support of nonprofit corporations.



Ⅰ はじめに

 2023年 9 月16日(土) と17日(日) に、 大阪商業大学で開催された第27回非営利法人研究学会の全国大会では、統一論題として「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」が設定され、社会の中で非営利法人(非営利組織)をいっそう振興し、幅広く支援する政策や活動、制度や 仕組みのあり方について、研究報告や討論会が行なわれた。筆者は、初日に登壇し、本稿と同じ表題のもとでの報告を行い、その後に開かれた統一論題討論にも討論者として登壇した。本稿は、その際の報告内容をもとに記述したものである1)

 そこでは、統一論題の初谷勇座長からの示唆を受け、弁護士という職業によるプロボノという立ち位置から非営利法人への問題関心がどのように生じ、変化していったかについて振り返ってみた。さらに、登壇時に筆者が大阪弁護士会会長であったことから、弁護士会という団体が非営利法人に対してどのような関与をしてきたかについて、主に大阪弁護士会としての取組みを紹介し、法律家が果たすべき「支援」の方向性を整理し、再考しながら、今後の動向なども可能な限り触れるようにした。

 本稿は、そのときの報告をベースに若干の加筆をしたものである。そういう意味で、筆者のこれまでの活動を俯瞰するようなものであり、これを通じて、法律専門家という個人による支援の姿やその変遷、中間支援組織や士業団体など組織による支援の姿やその変遷が、今後の支援の在り方や方向性の構築に少しでも参考になればと思う次第である。


II NPO等の非営利組織への関与の経緯

1 はじめに

 筆者による弁護士及び弁護士会としての取組みを紹介するにあたっては、筆者のこの問題に関わった経緯などを述べるところから入りたい。弁護士会内での会員弁護士としての歩みと、弁護士会以外での活動の歩みに分けて紹介する。

2 弁護士・弁護士会での主な活動歴

 筆者が大阪弁護士会に弁護士として登録したのが1984年で、しばらく勤務弁護士として活動し、1991年に自己の法律事務所を設立した。弁護士としての業務は、民事事件・商事事件・家事事件・刑事事件等広範囲にわたるもので、登録直後に到来したバブル経済崩壊以降は、企業倒産処理に多く関わり、監督官庁からの解散命令で解散に至った信用組合の清算人として裁判所から選任され地域金融機関の破たん処理スキームに加わった活動もしていた。こうした本業以外に、弁護士会での委員会活動にも積極的に参加した。主なものとしては、消費者保護、阪神大震災問題対策、弁護士倫理、日本司法支援センター対策、災害復興支援、ADR推進、広報、研修センター運営、弁護士業務改革などであった。阪神大震災問題対策委員会委員として取り組んだ際には、後述するNPO法制定運動に参画する際の一つの足掛かりとなった。

 2010年に大阪弁護士会副会長となり、その後に日本弁護士連合会での理事、常務理事を経て、2023年に大阪弁護士会会長(日本弁護士連合会副会長兼務)となった。

 大阪弁護士会は、日本に52ある地域弁護士会 の一つであり(基本的に各府県に1つだが、東京都に3つ、北海道には札幌、函館、旭川、釧路の4つがある。)、大阪府内の法律事務所に所属する弁護士5,031名が所属している(2024年2月1日 現在)。大阪弁護士会の会長は、日本弁護士連合会副会長を兼務するのが慣例で、筆者も本書執筆時点で、両方の兼務をしている。

3 弁護士会以外での非営利組織と関わる活動 (大阪NPOセンター設立まで)2)

 これまで、筆者が非営利組織に関わった始まりは、弁護士会での消費者保護の活動であり、多くの消費者保護の市民団体との連携を行ってきた。その後、1989年から社団法人大阪青年会議所(大阪JC)の活動に加わり、その中で、まちづくり団体や国際交流団体とも様々な関わりを持つようになった。その中で、ある国際NGOの社団法人格取得申請に助言者として関わった際に、民間の市民団体が社団法人格を取得する際の法的根拠であった民法上の公益法人制度に触れることとなり、主務官庁による許可制がそうした団体の大きな壁となっている現実に直面した。そのような中で、大阪JCの理事として、市民活動団体の共通問題に取り組むことを宣言し、関西のいろいろな分野の市民活動団体にヒヤリングをしていった。その中で、法人格問題が同様の立場に置かれた団体の大きな関心事であることを再認識した。その直後に発生した1995年1月の阪神淡路大震災では、すぐに全国のJCの組織的な被災者支援活動に参加し、各地から送られてくる救援物資の集積・配送などのボランティア活動を行った。

 そうした活動を行いながら、被災地で活動する様々な市民団体とのつながりも持つことができた。そのとき、マスコミによってボランティア元年との見出しで市民団体の活躍に光が当てられ、それがいろんな経過でいわゆるNPO法の制定へという社会機運に発展していった。この経過は、既に広く知られた事象であるのでここでは詳細を省くとして、筆者もその流れに沿ってこの運動に関わっていくこととなった。

 そうした活動をするなかで、1995年に大阪JCでまとめた提言書の中で、市民活動団体の 基盤整備のための制度改革の必要性を訴えるとともに、そうした団体への支援を継続的に行うための地域でのNPO支援センターを起ち上げる構想などを盛り込んだ。

4 大阪NPOセンター設立と「NPOたすけ隊」

 1995年の阪神淡路大震災への被災者支援を契機に立ち上がった大阪弁護士会の阪神大震災問題対策協議会に参加し、災害起因の法的紛争の分析や相談対応などを行う一方で、弁護士会としても当時動き出していたいわゆる「NPO法」の制定問題にも取り組んだ。それと並行して、1996年11月に設立に向けての準備が重ねられた大阪NPOセンターの設立総会が開かれその役員に就任した(その翌日に日本NPOセンターも設立された)。

 大阪NPOセンターは 、「 民 ・ 産 ・ 官 ・ 学 がより有効に連携できるような活動を積極的に展開し、各NPOが自らの諸機能を発展させながら自立、成長するための支援等を強力に推進すること」をめざしたものであった(同センター設立趣旨より)。その後、ここを基盤にNPO法案の成立に向けた市民の動きに呼応して、研究会やフォーラムなどを行うなどの活動を行っていった。

 1998年3月に特定非営利活動促進法(以下、通称的に使われる「NPO法」といい、同法によって設立された法人を「NPO法人」という。)が成立したのを受けて、筆者は、今後は市民団体が法の施行に合わせて法人化の検討が始まることを見込んで、大阪NPOセンターの中に「NPO法律・ 会計・税務支援事業(愛称:NPOたすけ隊)」の 起ち上げを行った。この事業は、弁護士・公認会計士・税理士・司法書士・行政書士・社会保険労務士・中小企業診断士などの専門資格者をはじめ、それを目指している者も含めて、NPO支援に少しでも関心と意欲、能力を有する者に参加を呼びかけ、勉強会をしつつ相談や支援を行っていくものであった。

 当初の相談は、NPO法人の設立準備がほとんどで、法施行後は相談件数も増大し、基礎知識セミナーなども度々開催した。相談内容も、法人格取得の入り口論から設立申請支援に移っていき、さらにその後は、会計や税務、さらには労務問題にも広がっていき、法律上の問題も、運営上のトラブルや契約問題、知的財産権問題まで、徐々に専門的かつ幅の広い問題になっていった。大阪弁護士会でも、阪神大震災問題対策協議会のメンバーを中心に、1998年5月に解説書としての『NPOとボランティアの実務~法律会計税務』を出版した(新日本法規出版)。

5 さまざまなNPO法人への参画

 NPOたすけ隊の活動を通じて、約200を超える団体の特定非営利活動法人化を支援したほ か、筆者自身も、弁護士や学者並びに消費者相談員などをメンバーとする特定非営利活動法人消費者ネット関西に立ち上げ役員として関わりを持ったほか、特定非営利活動法人介護保険市民オンブズマン機構大阪という、ボランティアオンブズマンを養成し介護施設に派遣するNPOの立ち上げにも関わった(現在は代表理事)。それ以外にも、子どもの権利や高齢者障害者問題、まちづくりなどのNPOにも役員として関わるほか、特定非営利活動法人関西国際交流団体協議会などの国際交流団体系の活動にも深く関わるようになった(現在は理事長)。

6 公益法人等への関与

 こういった活動をする中で、おりから進められていた公益法人制度改革は、非営利組織への関与をする中では大きな関心事項であった。非営利組織の支援相談の際にも、法人格選択の有力な選択枝となることから、その改革論議を注視し、研究を進める中で、全国公益法人協会の相談員ともなり、さらに非営利法人研究学会にも加入し、今日に至っている。


III 弁護士会の活動とプロボノについて

1 弁護士・弁護士会による公益的活動

 弁護士法には、次のような定めが置かれている。

第1条(弁護士の使命)

弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。

2 弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。

第31条1項(弁護士会の目的)

弁護士会は、弁護士及び弁護士法人の使命及び職務にかんがみ、その品位を保持し、弁護士及び弁護士法人の事務の改善進歩を図るため、弁護士及び弁護士法人の指導、 連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とする。

 この第1条は、表題のとおり、弁護士の使命を明記したものである。これは弁護士にはプロ フェッション(profession)としての公共的な使命があることを明らかにしたものという見解がある3)

 また、日本弁護士連合会は、弁護士がその使命を自覚し、自らの行動を規律する社会的責任を負うために、弁護士の職務に関する倫理と行為規範を明らかにした「弁護士職務基本規程」を定めているが、その第8条で「公益活動の実践」として、「弁護士は、その使命にふさわしい公益活動に参加し、実践するように努める。」 としている。

 ちなみに、司法書士会や税理士会、公認会計士などの他の専門職団体においても、会員による社会貢献活動への積極的関与を推進している。

2 「弁護士自治」という特質

 弁護士会が他の専門士業団体と大きく異なっている点として、弁護士自治がある。弁護士が、その使命である人権擁護と社会正義を実現するためには、国・政府などいかなる権力にも服することなく自由独立であり、反対の意見・活動を行うことで圧力を受けることがあってはならない。例えば、政府の施策によって日本国憲法で保障された生存権を侵害された人を救済するために、代理人となって国や自治体を相手に訴訟をする場合に、被告となる国から指導監督を受けるようなことがあっては、真の基本的人権の擁護を実現することは不可能である。このために、弁護士・弁護士会は法務省等の監督は受けず、裁判所、検察庁からも独立し、弁護士への懲戒は所属弁護士会が行うものとしている。これが弁護士自治といわれるものである。そのために、弁護士は弁護士会の監督に服させる必要があるため、弁護士はいずれかの弁護士会に加入しないと活動できないこととなっている (強制加入制)。

 この弁護士自治は、第二次世界大戦後に、民主主義と基本的人権の尊重を理念とする日本国憲法が制定され、民主主義と基本的人権を維持するためにはなくてはならないものであるとして、現行弁護士法で初めて導入されたものである4)

 こうした弁護士自治は、弁護士という職業は国民から付託されたものであって、市民・国民の信頼を獲得してこそ維持されていくことから、弁護士、弁護士会は、社会のための貢献活動を積極的に取り組むべき活動として意識されている。

3 プロボノ(Pro bono)と専門職

 プロボノ(Pro bono)の語はラテン語の(pro bonopublico)の略で、その意味は、「公衆の善のために(for the public good)」である。近時においては、社会人がその職業による専門性に基づく知識や経験などを生かして行うボランティアを指す言葉としても用いられるようになり、非営利用語辞典によると、「社会人がその職業による専門性に基づく知識や経験などを生かして行うボランティアを指す。また、それを行う社会人をいう。」としている。例えば、プロボノ活動を推進している特定非営利活動法人サービスグラントでは、プロボノを「社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルや経験を活かして取り組む社会貢献活動」と広く定義し5)、 ビジネスパーソンなどがその有するスキルを生かした社会貢献活動を推進し、新しい動きとして注目を集めている。

 ただ、もともとのプロボノ(pro bono)の語は、「自らの職能を利用して、無償または低額によって行う公共的活動。弁護士が行う無料の法律相談など。」(大辞林第4版)とされているように、宗教家・医師・法律家など一定の職責をもつ各分野の専門家が、職業上持っている知識やスキルを用いて、公共の利益のために無料奉仕ないし低廉な費用もしくは無償で行う事業あるいは公益活動を指していた。そこには、貧困層への無料法律相談、無料弁護活動などが含まれる。昔から、弁護士による無償による弁護活動、訴訟活動、社会変革活動が自主的に行われてきた (例として、えん罪再審弁護、公害訴訟、犯罪被害者支援、貧困層への法的支援活動など。)。

 かつて、資力の乏しい人にも裁判を受ける権利を実質的に保障するため、日本弁護士連合会が会員からの資金援助を受けるなどして、裁判費用の立て替えと担当弁護士の斡旋を行っていた財団法人法律扶助協会があった。民事法律扶助とは、経済的理由等によって資力が乏しい者が、民事事件で法的トラブルにあった場合に弁護士などの法律専門家を依頼する費用を給付したり立て替えたりする制度のことをいう。これなども弁護士・弁護士会によるプロボノ活動の一環からスタートしたものである。しかし、同財団は資金不足による窮状もあり、これは本来は国が行うべき事業であるとして、立法化の運動を行った結果、2000年に「民事法律扶助法」が制定され、法律扶助協会による運営体制が整備され、さらにこれが2004年の「総合法律支援法」制定につながり、民事法律扶助事業は、国によって設置された日本司法支援センター(通称「法テラス」)に移管された。日本における民事法律扶助制度は、日本弁護士連合会が中心になって設立した法律扶助協会が実施していたが、2006年10月2日から司法制度改革によって、日本国政府が設立した日本司法支援センターが、その業務を引き継ぎ実施されている。

 これによって救済される者が拡大したが、なお法テラスの法律扶助や国選弁護制度の枠から外れ対象となっていない部分もある。刑事被疑者弁護(被疑者として逮捕された国選対象外事案の弁護活動)、少年保護事件付添(未成年者が鑑別所に入れられたことからの弁護活動)、犯罪被害者援助、難民認定援助、外国人援助、子どもへの援助、高齢者障害者ホームレス等への援助など、これら9分野がそれであり、これらについて、日本弁護士連合会は会員から特別会費を徴収した財源を用いて、弁護士費用等の援助を法テラスに委託して行っている(法テラスへの「委託援助事業」という。)。 これ以外に、大阪弁護士会が独自の財源で法テラス大阪支部に委託して行っているものもある。これらも本来は国費で賄うべきであるということから、将来的には「国費化」するように国に対しても申し入れているところであるが、これも弁護士全員で費用を負担しているという意味でのプロボノの一つであると言える。

4 弁護士会の活動についての「相反する2つの見解」

 このように、弁護士会は、各弁護士による公益的な活動にとどまらず、弁護士会としても様々な社会的な課題に関して活動をしているところではあるが、このことに関して弁護士の間において、以下の二つの考え方が対立している6)

① 消極説

 弁護士会は、弁護士に対する指導、連絡及び監督に関する事務に限って目的となし得るものであり、指導、連絡及び監督も、弁護士の「品位保持」と「弁護士の事務の改善進歩」に関する事項に限定されるとする考え方。消極説は、会費の減額要求と連動したり、弁護士会の活動への内部反発の際に語られる論理として用いられたりしている。

② 積極説(多数説)

 弁護士法1条に定める使命は個々の弁護士の職務活動によってのみでは達成することが困難であり、弁護士の総力を結集して初めて達成が可能であるから、弁護士会は個々の弁護士の職務に必要な助言を与えると共に、より困難・重要な問題については、弁護士会が独自に積極的な活動をなし得るものとする考え方。この説のほうが弁護士間での多数の意見となっている。弁護士自治は、国民から付託されたもので、市民・国民の信頼を獲得してこそ、弁護士自治は維持され強固になっていくことから、さまざまな社会貢献活動は、弁護士会が積極的に取り組むべき活動とされている。

5 弁護士会による活動に関する裁判例

 前述の相反する2つの見解を反映して、弁護士会が行った社会的な活動に対して、これに反対する会員から弁護士会を被告として提起された訴訟がある。その代表的な裁判例として以下のものがある。これら判決は、弁護士会の目的を広く解釈して、独自に積極的な活動をなし得るものとする積極説に立ったものであると言える。

① 日本弁護士連合会総会決議無効確認判決(平成4年1月30日東京地方裁判所判決)7)

【事案】これは、日本弁護士連合会の総会において、政府が制定しようとしていたスパイ防止法案に反対する旨の決議が採択されたことに関して、このような決議をすることに反対する会員から、決議は弁護士会の目的の範囲を逸脱して無効であるとして決議無効の確認と、同法案反対運動の差止を求めた訴訟である。裁判所は以下のように述べて、無効確認請求は却下し、運動差止請求は棄却した。

【裁判所の判決要旨】

「本件法律案の国会提出に反対するという団体としての一定の意見を表明する決議がされたからといって、当然に会員個々人がすべて右意見を遵守し、これと異なる意見を表明し活動することができなくなるという趣旨ないし効力までを有すると解することはできないというべきであるし、(中略)これまで本件総会決議を遵守しないことを理由として会員に対し懲戒が問擬されたこともなかったこと、被告は、本件訴訟において、本件総会決議は会員個人の活動や意見を拘束するものではない旨を述べていること、また、平成2年3月2日改正された弁護士倫理の規定には、会員の遵守すべき対象として「決議」が掲げられていないことが認められるのであって、懲戒のおそれをいう原告らの右主張は失当である。」

「被告は、国内の弁護士全員を強制加入させている社体(法人)であって、このような多数の構成員から成る団体においては、団体内部の意思決定機関において、多数決により団体の運営ないし活動方針が決定されているのであって、団体の行っている運動に顕現されている意見か会員個人の意見と必ずしも一致していないことは周知のことである。したがって、被告が被告の名において本件法律案に反対の意見を表明し対外的・対内的に活動を行うことが、取りも直さず会員である原告ら個人個人も同法律案に反対していることを意味するとは、必ずしも一般に考えられてはおらず、原告らがその意に反する思想、信条を開示させられていることにはならないというべきである。」

② 死刑廃止総会決議無効確認訴訟(令和4年5月13日大阪高等裁判所判決)8)

【事案】これは、京都弁護士会が総会において、死刑廃止を求めた決議を採択したことに関して、これに反対する会員から、そのような決議は弁護士会という法人の目的の範囲を逸脱して無効であるとして無効確認を求めた訴訟である。裁判所は以下のように述べて決議は有効であるとした。

【裁判所の判決要旨】「弁護士法は、その1条1項において、弁護士の使命は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することと定め、同条2項において、弁護士は、前項の使命に基づき、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならないと定めているところである。これら弁護士法の諸規定を併せて読めば、被控訴人日弁連及び被控訴人京弁(注:京都弁護士会のことをいう。以下同じ)は、その構成員である弁護士の使命(基本的人権の擁護及び社会正義の実現)の達成を図るため、現行の法律制度についてその改善に向けた意見を表明し、それに沿った活動をすることも、一定の範囲で許容されている(目的の範囲に含まれる) と解することができる。

 もっとも、被控訴人日弁連及び被控訴人京弁がいわゆる強制加入団体であり、その法人としての活動も会員である弁護士の負担する会費に依存していることからすると、上記意見表明や活動も無制限に認められるということはできず、意見表明や活動によって会員弁護士が特定の思想、信条、宗教、政治的な主義・主張を強制されることは許されないと解される。

 これを本件についてみると、確かに、死刑制度の存置・廃止という論点は、思想や宗教といったものと一定程度の関連があることは否定できない。しかしながら、最終的には、一定の重大な犯罪を犯したと国家が認定した者に対し、その生命を剥奪するという重大な刑事罰を与えることが許されるのかという法律制度の問題として、国民の代表によって構成される国会が制度の存置・廃止を判断する、あるいは、憲法36条の禁止する残虐な刑罰に当たるのかを最高裁判所が判断するという意味で、まさに社会秩序の維持及び法律制度の改善といった弁護士法の予定している弁護士としての活動そのものに関わる論点であるということができる。また、被控訴人日弁連及び被控訴人京弁が多数の弁護士を構成員とする団体である以上、犯罪の加害者、被害者といった様々な立場の人々の権利・利益実現のために活動を行う弁護士が混在することは当然に予定されていることからすると、仮に死刑制度の存置・廃止という論点について、法人としての特定の立場からの意見表明がなされたとしても、それが各構成員の思想・信条等を拘束するものではないことは明らかであり、また、一般国民が弁護士であればその意見表明に賛同しているととらえるわけでもない。そうすると、この点について死刑制度の存置・廃止の積極・消極いずれの立場であっても、被控訴人日弁連及び被控訴人京弁としての意見表明を行うことがそれぞれの法人としての目的の範囲を超える違憲・違法なものであるということはできない。」



IV 大阪弁護士会としての公益的活動

 大阪弁護士会は、会員の登録などの業務や会員の不祥事に対する綱紀懲戒などの業務、さらに会員のための福利厚生の活動を行うほか、さまざまな公益的活動を行っている。それらは約120の各種委員会・対策本部・ワーキンググループ等での活動となるが、その中から代表的な活動をいくつか紹介する。この中には目的を同じくする市民活動団体との連携も多数含まれている。

(1) 人権擁護活動

・人権救済(人権侵害申告への調査

・警告処置等対応)

・消費者保護の活動

・新型コロナをめぐる差別などへの相談、救済、提言等、中小事業者・労働者支援

・意思に沿わない精神医療保護入院からの解放活動

・生活困窮者、ホームレス等に対する支援活動

・在留外国人相談、難民保護、国際人権問題、出入国管理法改定反対運動

・両性の平等、LGBTQの問題

・民事介入暴力問題、特殊詐欺被害救済、犯罪被害者支援

・高齢者・障害者問題、子どもの権利支援、各種虐待対応

・DV、ハラスメント対策等 ・環境保全、廃棄物問題、エネルギー問題等

・災害被災者への支援 ・人権活動をする団体への人権賞の授与

(2) 刑事弁護問題への活動

・当番弁護士活動、人質司法問題、被疑者被告人の人権保護の活動

・えん罪再審弁護、再審法改正運動、死刑制度廃止を含む刑罰制度改革

・障害者刑事弁護改善問題、更生保護支援(寄り添い弁護実践)

・外国人等の要通訳被疑者弁護など


V 弁護士会における公益活動の義務化

 弁護士法第1条を持ち出すまでもなく、今日、個々の弁護士のみならず、弁護士会も社会に広く貢献することが求められてきている。アメリカ法曹協会(American Bar Association、ABA) では、年間50時間以上のプロボノ活動を行うことが推奨されている。日本においても多くの弁護士が様々なプロボノ活動、公益活動に従事し社会に貢献している。しかしそうした活動に全く従事しようとしない会員も増えてきたことから、これを会則等で義務化する動きが生じてきた。2000年に、第一東京弁護士会が「公益活動」を行うことを会員の義務と定めた9)。その義務範囲は、「国選弁護」「当番弁護」「法律扶助」 等の比較的狭い範囲であったが、その後に範囲を広げ、社会的に有益な活動をしている団体への法的支援や、犯罪被害者、障害者の権利擁護活動などの「プロボノ活動」(無償又は無償に準ずる低額な報酬で行う法律事務の提供)も公益活動と位置付けた。この動きは、他の弁護士会にも拡大し、東京弁護士会では2004年に導入された10)。大阪弁護士会においても、2007年に公益 活動への参加義務規定を設けた。ただし、大阪弁護士会では、弁護士会主催の法律相談担当、自治体等から弁護士会が受託した法律相談担当、国選弁護、刑事当番、法テラスの法律相談、法律扶助事件の受任、弁護士会の委員会活動、その他一定の活動(日本弁護士連合会や大阪弁護士会役員、調停委員等)に限っていて、第一東京弁護士会が導入したいわゆる「プロボノ活動」にまでは広げられていない。今後、この義務化範囲の拡大、特にプロボノ活動一般にも広げるべきかについては議論されるべきとも考えており、今後の課題である。


VI 大阪弁護士会でのNPO支援等の新しい動き

 大阪弁護士会では、これまで各種委員会の活動の中で、消費者保護、困窮者やホームレス等支援、外国人、難民、犯罪被害者、高齢者・障害者、子ども、DVハラスメント対策、環境問題、災害被災者支援その他さまざまな分野で市民活動団体と連携してきた。その流れはこれからも変わりはないが、新しい動きを紹介したい。

 大阪弁護士会では、従来から、市民向けの法律相談に対応する法律相談センターの中に、中小企業支援センターを設置し、中小企業対象の法律相談事業や中小企業支援を行う他の支援機関との連携などを行ってきた。このたび、この中小企業支援センターを改組して、新たにNPO法人等の非営利組織への支援も目的に加え、中小企業・NPO法人等支援センターとしてスタートさせることとした。

 近年、いわゆるコミュニティ・ビジネス(地域が抱える諸課題について、地域資源を活かしながらビジネス的な手法で取り組む事業のこと)が活性化しており、地域の人材やノウハウ、施設、資金を活用することにより、地域における新たな 創業や雇用の創出、働きがい、生きがいを生み出し、地域コミュティの活性化に寄与するものと期待されている。これらのコミュニティ・ビ ジネスについて大阪弁護士会が関与し、支援をすることは有意義なことである。ここでの支援対象としては、NPO法人に限らず、公益・一般社団財団法人、労働者協同組合、合同会社 (LLC)、有限責任事業組合(LLP)等も含めていく予定である。弁護士が基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする以上、営利事業者のみならず、非営利組織を含む各種団体についても支援を行うこととしたものである。そこの活動においては、いわゆる「中間支援組織」との連携が非常に重要であると考えている。具体的には、各中間支援組織との相互連携協議を通じて、共同での講演活動やイベントを 実施したり、中間支援組織から支援を受けてい るNPO法人からの法律問題について、中間支援組織を通じた法律相談対応等の支援ができるような体制を組めればと考えている。NPO等の支援を前面に掲げた委員会の設置は全国の弁護士会としては初めての試みであり、今後の展開は未定の部分が多いが、一つの取組み例として紹介する次第である。


[注]

1)第27回全国大会統一論題「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」においては、以下の 3報告が行われた。①「専門職・士業団体に よる公益的活動と非営利法人の振興と支援: 弁護士及び弁護士会の取組みを事例として」(筆者)、②「非営利法人の振興に寄与する『中間支援』とは何か:NPOそして中間支援組 織の言語論的転回の視点」(吉田忠彦氏)、③「非営利法人の官民協働理論の応用としての 『フィランソロピー首都』創造に向けた取り組み」(出口正之氏)。

2)三木秀夫「弁護士としてお役に立てれば~私のプロボノ活動」(まちづくりとと市民参加IV 市民社会へ―個人はどうあるべきか)82頁。

3)髙中正彦『弁護士法概説第5版』21頁。

4)弁護士自治に関し、1978年5月27日に日本弁護士連合会の第29回定期総会において決議された「弁護士自治の維持に関する宣言」の中で、以下のように記載がされている。「ここに至るまで100年を越えるわが国弁護士制度の歴史には人権擁護の使命を果たし、弁護士自治の獲得を目ざすための先人達の苦難の歩みが深く刻み込まれています。明治から戦前の暗黒時代までの間、わが国における人権の歴史は、正に抑圧の歴史であり、先人達による人権擁護活動も時に消長があり挫折を余儀なくされました。時代の流れ全体がそうであっただけではなく、弁護士自治が認められなかった状況の下では法廷における刑事弁護の活動がしばしば懲戒の対象にされてきたのです。例えば、証拠調べを強く求めたり、裁判所の措置を批判したり、やむなく裁判官の忌避を申立てることなどが検事長による懲戒申立ての理由とされたのであります。これでは 国民の人権を擁護し、公正な裁判を実現させるための弁護活動を十分に尽くすことができなかったのも当然であります。このような歴史を二度とくり返すことは絶対に許されません。その故にこそ、戦後、民主主義と基本的人権の尊重を理念とする日本国憲法の下においては、現行弁護士法による弁護士自治の確立が必要とされたのであります。しかし、この現行弁護士法の成立は、容易なことではありませんでした。(中略)こうして現行弁護士法は、弁護士会側の各方面に対する道理を尽した粘り強い説得活動によって昭和24年5月30日にようやく成立し、6月10日交付、9月1日施行となったのであります。私達は、弁護士自治が、一体何のために必要であったのか、それはどのように確立されたのかを明確にするためにも改めてこの経過を振り返り、かみしめる必要があります。もともと弁護士という職業的、専門的な資格と特権は、国民の権利擁護と社会正義実現のために認められたもので、弁護士自治の確立もそのことに根ざして国民から付託されたものであります。 弁護士自治は、国民の支持がない限り確立ができないのであります。従って、弁護士としての資格と特権がそれを持つ者のために認められたものであるとか、弁護士自治を狭い職業的利益に基づくものであるのだと考えることは、根本的に間違っています。もし、その ように考えますとするならば、私達は、限りのない堕落の道を歩むことになります。つま り、弁護士と弁護士会の諸活動は、常に国民の正当な批判に耐えうるものであり、広く国 民の支持を受けることのできるものでなければなりません。」

6)日本弁護士連合会調査室編著「条解弁護士法第4版」。

7)判例時報1430号108頁。

8)LLI/DB 判例秘書登載。

10)東京弁護士会LIBRA Vol.4 No.5「公益活動―もう始めていますか?― 」。 https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2004_05/2004_05_02.pdf


[参考文献]

三木秀夫[2002]「弁護士としてお役に立てれば~私のプロボノ活動」(まちづくりと市民参加IV 市民社会へ―個人はどうあるべきか)財団法人まちづくり市民財団。

公益社団法人非営利法人研究学会編[2022]「非営利用語辞典」。

大辞林第4版[2019]三省堂。

髙中正彦[2020]「弁護士法概説第5版」三省堂。

髙中正彦[2001]「弁護士法人制度解説」三省堂。

日本弁護士連合会調査室編著[2007]「条解弁護士法第4版」全弁協叢書、弘文堂。

黒川弘務・坂田吉郎[2002]「わかりやすい弁護士法人制度」有斐閣リブレ、有斐閣 。

福原忠男[1990]「弁護士法」特別法コンメンタール、第一法規出版。

日本弁護士連合会[2022]「弁護士白書 2022年版」。

三木秀夫ほか[2009]「NPO法人の設立と運営Q&A」第4版、清文社。

大阪NPOセンター[2000]「NPO法人まるごと運営マニュアル」。

大阪NPOセンター[1998]「NPO法人まるごと設立マニュアル」。

中村陽一[1999]日本NPOセンター「日本のNPO・2000」日本評論社。

NPOボランティア研究会[1998]「NPOとボランティアの実務」新日本法規。

大阪NPOセンター[2006]「大阪NPOセンター10年史」。

大阪NPOセ ン タ ー[2016]「Osaka NPO Cen- ter 20th Anniversary」。

消費者ネット関西[2000]「消費者の挑戦~新しい消費者ネットワークの可能性」。

認定NPO法人 サービスグラント https://www.servicegrant.or.jp/

法律扶助協会[2002]「日本の法律扶助 50年の歴史と課題」。

法律扶助協会[1975]「法律扶助制度概観 その実態と将来」。

法律扶助協会[1982]「法律扶助の歴史と展望」。

法律扶助協会[2007]「市民と司法 総合法律支援の意義と課題」。

日本司法支援センター(法 テ ラ ス)[2019]「法テラス白書 平成30年度版」。

日本司法支援センター(法 テ ラ ス)[2012]「総合法律支援論叢」。

判例秘書「L04730036 東京地方裁判所判決/平成元年(ワ)第4758号」。

判例秘書「L07720210 大阪高等裁判所判決/令和3年(ネ)第2057号」。

大阪弁護士会 https://www.osakaben.or.jp/

東京弁護士会[2004]「公益活動―もう始めていますか?―」(LIBRA Vol.4 No.5)。

(論稿提出:令和6年2月24日)










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