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≪研究ノート≫国立大学における全学同窓会の運営のあり方― 部局同窓会との調整と同窓生の関心の獲得を中心に ― / 高田英一(九州大学准教授)

更新日:6月11日

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九州大学准教授 高田英一


キーワード:

同窓会 国立大学 大学経営 公益活動


要 旨:

 国立大学の全学同窓会には、2つの課題がある。第1は、部局同窓会との二重構造であ る。全学同窓会は、設立の時点で、部局同窓会を内部に取り込んだが、部局同窓会の独自 性を維持する必要がある。第2は、同窓生の関心の低さである。現在、社会的にボランティ ア活動に対する関心が高い。このため、全学同窓会は、従来の共益志向のサービスでなく、 公益志向のサービスによって、同窓生の関心を確保するよう努めるべきである。このこと は、国立大学に対する社会の理解の獲得と財政基盤の強化につながる。


構 成:

I  はじめに

II 先行研究の確認

III 研究の枠組み

Ⅳ アンケート結果から見る全学同窓会の現状と課題

Ⅴ 課題「部局同窓会との調整」の課題について

Ⅵ 課題「卒業生の同窓会への関心の低さ」について

Ⅶ 課題「財政的な基盤の乏しさ」について

Ⅷ おわりに  


Abstract

 There are 2 problems in the alumni association of national universities. The 1st problem is a double structure with department alumni associations. Because the alumni associations put department alumni associations in the interior at the time of establishment. Therefore the alumni associations have to maintain originality of department alumni associations. The 2nd problem is low of the interest of the alumni. We have the great interest to volunteer activities at present. So, the alumni associations should try to secure the interest of the alumni by public interests-oriented service, not conventional public benefit-oriented service. This way enables to strengthen social understanding and financial base to national universities.

 

Ⅰ はじめに

 現在、経済・社会状況の激しい変化に対応するために、社会から国立大学に対して厳しい改革が求められている。各国立大学では、この要求に応えるために、教育改革や研究活動の活性化等に努めているものの、他方で、法人化以後の運営費交付金の削減等、その運営環境は厳しさを増している。

 このような状況において、各国立大学では、大学外の支援の獲得のため、全学単位の同窓会 (以下、「全学同窓会」)との連携・協力を進めているが、その運営の実態は明らかでない。このため、本研究では、国立大学における全学同窓会の実態と課題を実証的に明らかにするとともに、運営のあり方を検討することを目的とする。

 なお、大学の同窓会には、全学同窓会と部局等の単位の同窓会がある。後者は、一般に小規模で活動の方向も様々であるため、現在、大学側から支援者として期待されているのは、主に前者である。このため、本稿では、全学同窓会を調査対象とした。


Ⅱ 先行研究の確認

 わが国の大学の同窓会に関する先行研究としては、まず、同窓会全体の動向に関しては、天野(2000)が意義、役割、創生期から現在までの歴史的経緯を分析しているが、法人化以後の状況には「法人化を迫られる国立大学の間にも、全学同窓会を結成しようという動きが広がっている」との指摘に留まっている。また、本間 (2014)は、自らの職務経験を基に、同窓会の組織化のあり方を述べている。

 また、個別大学の事例研究では、国立大学については、法人化前に関しては、石(2000)、 秋山(2007)、吉田(1990)、山崎(2000)等がある。法人化以後に関しては、腰越・池田(2006)、朴・瀬口(2009)、中島(2010)、酒井(2014)等がある。

 さらに、私立大学については、奥島(1990)、 磯崎(1990)、長島(2000)等多数あり、同窓会の運営に関する貴重な知見が得られる。なお、同窓会自体ではないが、その主要な関心事である寄付金募集に関する先行研究として、仲西他 (2013)もある。

 さらに、近年になって、国立大学全体における同窓会の状況に関する研究が実施されている。 高田(2011、2012)は、国公私立大学の同窓会の規約を対象とした調査を実施し、設立動向等を分析している。また、大川他(2012)は、同窓会ではないが、国立大学による「卒業生サー ビス」に関する現状と課題を分析している。

 なお、喜多村(1990)、山田(2008)、江原 (2009)、石田他(2011)、鳥居(2013)など米国の同窓会の研究から得られた知見を基にわが国の同窓会のあり方を論ずる研究がある。また、黄(2007)は、社会学的見地から、名門高校の同窓会を対象に社会資本としての作用・結束力を調査・分析している。  

 以上で見たように、多様な観点からの先行研究があるが、管見の限り、国立大学における全学同窓会の運営の実態と課題を実証的に把握したうえで、その運営のあり方を検討する先行研究はほとんど見当たらなかった。


Ⅲ 研究の枠組み

 以上の状況を踏まえ、本研究では、国立大学の同窓会担当理事に対してアンケート調査を実施し、全学同窓会の現状と課題を把握した上で、検討するという手法を取った。全学同窓会は、 「会員の資格を部局等の組織単位に限定しておらず、全学の同窓生等で構成された同窓会」と定義した。

 アンケート調査は、全国立大学の同窓会担当理事に対して、平成24年7月から8月の間に実施した。回答は、86国立大学法人中51からあった(回収率59.3%)。


Ⅳ アンケート結果から見る全学同窓会の現状と課題

1 全学同窓会との連携・協力に対する認識

 まず、全学同窓会との連携・協力の必要性は、大部分の大学(95.1%)が肯定している(表1)。 以下では、この認識を前提に検討を進める。

2 全学同窓会との連携・協力の課題(表2

 全学同窓会との連携・協力における課題は、 まず、全体では、第1は「卒業生の同窓会への関心の低さ」(60.0%)である。この点は、同窓会の運営における根本的な課題である。第2以下は「卒業生の追跡の困難さ」(52.5%)、「財政的な基盤の乏しさ」(45.0%)、「教職員の同窓会への関心の低さ」(45.0%)、「既存の部局等の同窓会との調整」(37.5%)、「同窓会が部局等のまとまりが強い国立大学の卒業生で構成されていること」(32.5%)等が続く。これらの課題も、他の先行研究でも指摘されており、同窓会の運営に関する共通の課題と思われる。  

 次に、全学同窓会の設立年を法人化前と法人化以後で分けると、法人化以後設立の全学同窓会では、第1は「財政的な基盤の乏しさ」(65.0%) に変わる。第2以下は「既存の部局等の同窓会との調整」(55.0%)、「同窓会が部局等のまとまりが強い国立大学の卒業生で構成されているこ と」(55.0%)と続き、全体で第1であった「卒業生の同窓会への関心の低さ」(50.0%)は第4、 「卒業生の追跡の困難さ」(40.0%)は第5であっ た。  

 以上で見た5つの課題のうち、「卒業生の同窓会への関心の低さ」と「教職員の同窓会への関心の低さ」を除いた4つの課題は、順位は異なるが、全体に共通する課題であり、また、今日的な課題でもあると考えられる。このため、 以下では、「卒業生の同窓会への関心の低さ」、 「財政的な基盤の乏しさ」、「既存の部局等の同窓会との調整」、「同窓会が部局等のまとまりが強い国立大学の卒業生で構成されていること」 の4つの課題について、その現状と課題を検討する。

 なお、「既存の部局等の同窓会との調整」、 「同窓会が部局等のまとまりが強い国立大学の卒業生で構成されていること」は、「部局同窓会との調整」と位置づけて、まとめて検討することとする。

 また、これらの課題は、必ずしも並列的な関係にはない。すなわち、「卒業生の同窓会への関心の低さ」は、「部局同窓会の調整」という課題の結果、また、「財政的な基盤の乏しさ」 は、他の2つの課題の結果として生じている可能性がある。このため、以下では、課題を「部局同窓会との調整」、「卒業生の同窓会への関心 の低さ」、「財政的な基盤の乏しさ」の順で検討する。


表1 全学同窓会との連携・協力の必要性

出所:筆者作成


表2 連携・協力を推進する上での課題

注:設立年不明1(総合大学)、複数回答

出所:筆者作成


Ⅴ 課題「部局同窓会との調整」の課題について

1 アンケート結果から見る全学同窓会の設立の状況

 まず、全学同窓会の状況については、アンケート結果から、法人化以後、全学同窓会は、 大きく増加していることが明らかになった。すなわち、法人化前は、単科大学の全学同窓会が大多数であり、総合大学の全学同窓会は少数であった。特に、総合大学は、法人化前は、天野 (2000)が指摘するように、「それぞれにことなる起源と歴史をもつ学校が統合されて発足した新制国立大学の哀しさは、大学全体としての同窓会組織をもちえないところにあった。新制大学としての発足から半世紀余をへた今も、同窓会が、学部単位の壁をこえることができずにいる国立大学が、ほとんどとみてよい」という状況であった。しかし、法人化以後は、この状況が変化し、総合大学における全学同窓会が増加している(表3)。


表3 全学同窓会の設立数(法人化前・法人化以後)

注:設立年不明1(総合大学)

出所:筆者作成


2 全学同窓会の設立の主導

 次に、全学同窓会の設立の主導は、同窓生から、国立大学へ変化している(表4)。  

 全体を見ると、最も多いのは、「大学」主導 727(65.9%)であり、その次に、「同窓生」主導20(48.8 %)、「部局等の同窓会」 主導19 (46.3%)が続く。

 ただし、同窓会の設立時点を法人化前と法人 化以後で分けて見ると、法人化前設立の同窓会 では最も多かった「同窓生」主導(85.0%)は、 法人化以後設立の同窓会では大きく減少している(15.0%)。これとは対照的に、「大学」主導は、 法人化前設立の35.0%から、法人化以後設立の 100.0%と大きく増加している。 この点、国立総合大学の全学同窓会の設立経緯に関する山崎(2000)の指摘や、「法人化を迫られる国立大学の間にも、全学同窓会を結成しようという動きが広がっている」という天野(2000)の指摘を踏まえると、法人化という大きな変化に対応するために、国立大学の主導によって全学同窓会の設立が増加した状況が窺える。


表4 全学同窓会の設立の主導

注:設立年不明1(総合大学)、複数回答

出所:筆者作成


3 全学同窓会の会員

 また、全学同窓会の会員の資格も、卒業生個人より、部局同窓会等が増加している(表5)。  

 全体を見ると、「卒業生」(63.4%)が最も多く、 次に多いのが、「部局等の同窓会の会員」(31.7%)、 「部局等の同窓会組織」(31.7%)であった。

 ただし、設立時点を法人化前と法人化以後で分けて見ると、法人化以後設立の同窓会では、「卒業生」は、90.0%から40.0%に大きく減少した一方で、「部局等の同窓会の会員」、「部局等の同窓会組織」は大きく増加している。  

 以上からは、多くの場合、法人化以後設立の全学同窓会は、既存の同窓会を組織単位で会員として取り込み、設立されたことが窺える。この理由としては、部局同窓会との調整を全学同窓会の設立の際の課題とする山崎(2000)の指摘及び前記の天野(2000)の指摘を踏まえると、既存の部局等の同窓会の活用、その反発の防止と思われる。


表5 同窓会の会員となる資格

注:設立年不明1(総合大学)、複数回答

出所:筆者作成


4 全学同窓会の構造上の課題

 以上の全学同窓会の設立時期,設立の主導、 会員の状況からは、法人化以後設立の全学同窓会における部局同窓会を内部に含む「二重構造」という構造的な課題が窺える(高田2011、 大川他2012同旨)。 すなわち、法人化前には、全学同窓会よりも、部局ごとの卒業生(同窓生)が設立した部局単位の同窓会が多数存在していた(図1)。これに対して、法人化以後設立の全学同窓会の大部分は、部局等の同窓会を取り込んだ形で設立された(図2)。但し、取り込まれた部局同窓会は、 全学同窓会より活動実績があり、また、卒業生 個人も、全学よりも部局に帰属意識が高い。この点を全学同窓会から見ると、既存の部局同窓会を取り込むことで、これまで外部にあった 「部局の壁」(天野2000)を、同窓会内部に取り込んだ「二重構造」という課題が生じていることとなる。この課題は、部局の力が強く、全学的なガバナンスの強化に苦心している「それぞれにことなる起源と歴史をもつ学校が統合されて発足した新制国立大学」(天野2000)自身の課題と共通する課題と言える。


図1 国立大学における同窓会の設立(法人化前)

出所:筆者作成


図2 国立大学における同窓会の設立(法人化以後)

出所:筆者作成


5 課題の対応策について

 以下では、同窓生(卒業生)個人と部局同窓会における全学同窓会に関するメリット・デメリットを整理した(表6)。以下、同窓生(卒業生)個人と部局同窓会のそれぞれへの配慮の観点から検討する。

⑴ 同窓生(卒業生)個人に対する配慮

 ① 参加の動機づけの低さについて     

  同窓生個人に対しては、まず、部局同窓会に加えて、全学同窓会に対する参加の動機づ

  けの形成が課題である。この点は、課題「卒業生の同窓会への関心の低さ」と共通する

  点が多いため、以下のⅥで詳述する。  

 ② 会費等の二重負担の可能性     

  同窓会費や参加は、同窓生にとって負担となる。全学同窓会としては、後述するよう

  に、財政支援のみを目的として統制を強めるのではなく、部局同窓会独自の活動に配慮

  して、同窓生の関心を醸成できるまでは、最低限の同窓会費にとどめる等の負担軽減の

  工夫を図る必要がある。

⑵ 部局同窓会に対する配慮

① 部局同窓会独自の活動に対する配慮     

  部局同窓会は、全学同窓会に比して、長い歴史と求心力を有している。このため、全学

 同窓会としては、部局同窓会を通じて、同窓生の関心を確保することが合理的である。

  このため、全学同窓会としては、部局同窓会独自の活動に配慮する必要がある。部局同

 窓会の独自性を踏まえず、同窓会への全学としての統制が強化された場合、同窓生の部局

 同窓会に対する関心は低下しかねず、このことは、全学同窓会にとっても損失となる。   このためには、まず、全学同窓会・部局同窓会の活動領域の区分の明確化が重要であ

 る。以下の図3には、両者の活動の基本的な活動領域を専門・一般、将来・過去によって

 示した。一般的には、部局同窓会は、専門分野や過去の教育経験に基づいた活動に関与す

 るのに対して、全学同窓会は、広く一般的な分野で、同窓生の将来にわたる活動に関与す

 ると思われる。実際には、個別の全学同窓会・部局同窓会の状況によって具体的な活動領

 域は異なるが、両者の活動領域の区分を明確にすることが、部局同窓会の独自性の配慮の

 点から、重要である。

  その上で、全学同窓会・部局同窓会が別個独立に活動するのではなく、全学同窓会が

 部局同窓会の活動を阻害しないよう配慮しつつ、調整を担うことが考えられよう。   

  他方で、部局同窓会も、独自の存在意義の再構築に自ら取り組むべきである。例えば、

 部局同窓会として、専門家集団としての位置付けの強化を図ると同時に、全学同窓会を通

 じた「異業種交流」の促進を行う等が考えられる。

② 会員・財政基盤を吸収される可能性     

  全学同窓会の設立の際に会員として取り込まれた部局同窓会の観点から見ると、「小さ

 い同窓会には大きな組織に飲み込まれてしまうのではないかという危惧もある。 また、

 大きな同窓会からすれば、これまで に築いてきた資産の持ち出しになるという心配もあ

 る」との山崎(2000)の指摘がある。     

  このため、全学同窓会としては、部局同窓会に対して、インセンティブを付与する必要

 がある。例えば、運用面での人的、物的な支援(人材、事務所の提供)や、多様な分野・

 構成員を含む全学単位での交流等のメリットを示すことが考えられる。また、部局同

 窓会の抱える「同窓生の追跡が困難」という課題に対して、大学からの生涯メールの付与

 や全学的なSNSの構築と活用を通じてのデータ収集など、組織的なデータ収集という支援

 が考えられる。


表6 全学同窓会のメリット、デメリット

出所:筆者作成


図3 全学同窓会と部局同窓会の活動領域

出所:筆者作成


Ⅵ 課題「卒業生の同窓会への関心の低さ」について

1 現状と課題

⑴ 国立大学に対する関心の現状と課題

 同窓会への関心の醸成のためには、多くの先行研究では、大学に対する関心の醸成が重要と指摘されている。

 しかし、国立大学においては、全学レベルでの関心の醸成は困難である。私立大学の場合は 「建学の精神」等を帰属意識の形成の核とすることができるが、国立大学の場合は、その教育・研究の目的・目標は明確でない。法人化以後、6年ごとに中期目標・中期計画を策定するとともに、昨年来、国立大学改革の観点から、「ミッション再定義」等も実施されているが、 いずれも当該制度や取組内での取り扱いに留まり、同窓生の帰属意識の形成の核には至っていない。

⑵ 同窓会に対する関心の現状と課題

 現時点では、全学同窓会よりも、部局同窓会に対する関心の方が高い。学生生活を通じて教育経験を共有するとともに、卒業後も、多くの場合、同分野の職業経験を共有するからである。

⑶ 対策の基本方針

 全学同窓会としては、上記⑴⑵の課題の解決は容易ではないことをはっきりと認識する必要がある。その上で、筆者としては、従来の部局同窓会の活動とは異なる同窓会活動を行うことで、全学同窓会としての独自のメリットを強調する方向を提案したい。また、その際には、上記の「二重構造」を踏まえて、部局同窓会に対抗するのではなく、双方の強み・弱み(表7) を考慮して、Win-Winの関係を築くことを提案したい。以下、具体的に検討する。


表7 全学同窓会・部局同窓会の強み、弱み

出所:筆者作成


2 国立大学に対する関心の醸成

 全学同窓会に対する関心につながる可能性のある国立大学に対する関心としては、帰属意識、危機感等がある。以下、個別に検討する。

 まず、国立大学に対する帰属意識である。帰属意識の醸成のためには、在学中からの教育・ 研究活動の充実を通じて、満足度の向上を図る必要がある。この取組は、いわば大学本来の活動であり、ある意味、当然の取組みである。本間(2014)、仲西他(2013)等の多くの先行研究でも、同様の指摘がなされているが、現在では、さらに進んで、学生調査の結果から、「在学時 の取組み」によって支援意欲や関心項目に差が見られることを踏まえて、「在学時の取組み」 と同分野への寄付金の依頼を行っている立命館大学の取組み(仲西他2013)等もある。しかし、これまでの多くの国立大学は、研究志向が強く、教育活動の充実には消極的であったため、この取組みは、これから取り組んでいくべき課題と言えよう。  

 次に、国立大学に関する危機意識である。危機意識の例としては、数少ない活動実績のある国立大学の全学同窓会である一橋大学の「如水会」が挙げられる。この同窓会の結成のきっかけは、旧帝国大学への統合問題という危機であった。しかし、これまでの多くの国立大学は、存続そのものが危機に瀕することがほとんどなかったため、危機意識の共有は容易ではない。  

 上記の2つの取組みに代表される国立大学に対する関心の醸成は不可欠ではあるが、成果には中長期的な期間が必要となる。このため、これらの取組みと並行して、他の方策も検討する必要がある。

 ちなみに、現在、国立大学は、大規模な再編・統合や民営化の可能性も示唆される「外 圧」の中で、これまでになく積極的に教育活動の充実に取り組んでいる。この状況は、皮肉ではあるが、帰属意識や危機意識の醸成の契機となる可能性もあろう。

3 全学同窓会に対する関心の醸成

 国立大学ではなく、直接に全学同窓会自体に対する関心を醸成することも方策として考えられる。その方策として、全学同窓会から同窓生に対して多様なサービスが提供されている。以下、サービスを大きく同窓生自身に向けた共益 志向のサービスと社会に向けた公益志向のサービスに分けて検討する。なお、両サービスは両立しうるものであり、同一の全学同窓会が両サービスを提供することも可能であることは言うまでもない。

⑴ 共益志向のサービスについて

 現在、同窓会からは、様々なサービスが卒業生サービスとして提供されているが、その多くは、同窓生自身に向けた共益志向のサービスである。米国に関する先行研究では、例えば、ホームカミングデー、カード、優待制度、研修会・講習会、ツアー、イベント参加等がある。 また、我が国の大学でも、ホームカミングデー、カード、優待制度、研修会・講習会、イベント参加等が提供されており、先行研究でも、その充実が叫ばれている(大川他2012等)ところである。

 さらに、アンケート結果でも、全学同窓会の設立理由は、法人化以後設立の同窓会では、 「社会向け」の理由が減少しているのに対して、「大学向け」の理由は増加している。いわば、法人化前設立の全学同窓会は、共益性とともに、ある程度の公益性も有していたのに対して、法人化以後設立の同窓会では、法人化という危機に直面した国立大学への支援を最優先として、公益性を弱め、共益性を強化していると言えよう。

⑵ 公益志向のサービスについて

 いうまでもなく同窓会は共益団体である。このため、構成員である同窓生に対するサービスという共益志向のサービスの重要性は否定できない。しかし、これだけでは、全学同窓会の設立の根本的にある国立大学の課題の解決にはつながらない。

 すなわち、全学同窓会の設立の理由は、国立大学の財政基盤の不足に対する支援であるが、この課題の根本には、国立大学に対する社会からの理解と支援の不足という状況がある。しかるに、国立大学は、社会・国民の支援により成立している公益団体である。とするならば、同窓会とはいえ、目先の経営危機に捉われて、国立大学と同窓生に向けた共益志向のサービスのみに注力することは、広がりに限界があるだけでなく、社会からの国立大学に対する理解をさらに失わせる可能性がある。この点、現在、一部の私立大学の同窓会では、排他的なエリート集団としての性格を強化している点に注目が集まっているが、国立大学の全学同窓会で同様の取組を行った場合、社会からの反感を生み、根本的な原因をさらに深刻化させる可能性もあろう。

 このため、筆者としては、国立大学における全学同窓会のサービスとして、公益志向のサービスの再強化を指摘したい。以下、国立大学と関係者ごとにメリットを検討する。

 ① 同窓生に対するメリット

   公益志向のサービスとは、社会に対する啓発活動、ボランティア活動である。このよ

  うな活動を、全学同窓会が自ら実施するだけでなく、同窓生に対して参加の機会を提供

  することは、同窓生に対するメリットが大きいと思われる。     

   すなわち、現在、社会における非営利活動への関心が高まっている。また、大学生に

  関しても、私立大学の学生を対象とした調査ではあるが、ボランティア活動に対する学

  生の関心、参加とも増加傾向にあるという調査結果がある(日本私立大学連盟学生委員

  会2011)。     

   このような状況を踏まえると、同窓生にとっては、従来提供されてきた共益志向のサ

  ービスよりも、公益活動への参加の機会 の提供というサービスの方が、新しい全学同

  窓会に対する新しい関心を醸成する可能 性がある。     

   さらに、ボランティア活動ニーズに関する先行研究において、高学歴ほど知識提供型

  ボランティア活動に対するニーズが高いという指摘(中原2007)を踏まえると、国立

  大学のバックアップのもとで、専門分野における高度な知見、社会的信用等を活かした

  形での社会貢献の機会の提供というサービスは、同窓生にとっては、大きなメリットに

  なると思われる。この点は、既に多数存在するNPOとの差別化の要因となろう。

 ② 社会に対するメリット     

   社会にとっては、全学同窓会が公益性を強化して、社会人である卒業生のボランティ

  ア活動の媒介を行い、社会貢献活動を促進することは、大きなメリットである。このこ

  とは、国立大学の存在意義に対する社会の理解を促すことになろう。

 ③ 大学に対するメリット     

   全学同窓会の活動における公益性の再強化は、全学同窓会の大きな課題「財政基盤

  の乏しさ」の課題の根本にある国立大学の財政危機に対する方策となる。     

   すなわち、国立大学の財政危機の根本原因は、社会・国民の国立大学の存在意義に対

  する理解と支援の不足である。同窓生の同窓会を介したボランティア活動の増加は、国

  立大学の教育成果の社会に対するアピールとなる。特に、社会で活躍する人材による直

  接の活動は効果が大きいであろう。このことは、社会の理解の獲得、ひいては、 財政

  基盤の不足という根本原因の対策ともなろう。


Ⅶ 課題「財政的な基盤の乏しさ」について

1 課題に対する取組の状況

⑴ 全学同窓会の設立の理由

 アンケート結果には、全学同窓会の設立の理由に、「財政的な基盤の乏しさ」という課題の大きさが表れている(表8)。

 すなわち、設立の理由は、全体では、第1が 「同窓生の親睦の促進」(87.5%)であり、第2が「大学の社会貢献への支援」(37.5%)、第3が「大学への財政的な支援」(35.0%)、「大学の教育改善への支援」(35.0%)となった。

 これに対して、法人化以後では、第1が「同窓生の親睦の促進」(80.0%)は変わらないが、「大学への財政的な支援」(45.0%)が第2となった。この点、第1の「同窓生の親睦の促進」、第3の「大学の教育改善への支援」(35.0%)、 第4の「大学の社会貢献への支援」(30.0%)のいずれも割合が小さくなっているのに対して、「大学への財政的な支援」のみ割合が大きくなっている。

⑵ 連携・協力の現状

 次に、実際の連携・協力の状況については、 アンケート結果の財政支援等を含む「組織運営分野」を見ると、「大学への助成」は、法人化以後設立の同窓会ではむしろ減少している。これに対して、「ホームカミングデーの開催」が特に多く、法人化以後に唯一増加している(表9)。

 この背景としては、日本の大学では、米国の大学の状況を踏まえて寄付金戦略の重要性が叫ばれて久しいにも関わらず、現時点では、その取組みが進捗していない。この状況を踏まえて、法人化以後設立の同窓会では、設立後間もない現時点においては、寄付金等は前面に出さず、 まずは、活動体制が十分に整っていない全学同窓会でも比較的取り組みやすい「同窓生等の交流の促進」を通じて協力関係を形成することに努めている段階にある、と推測される。

 この点に関して、米国の同窓会と寄付金募集に関する先行研究である石田他(2011)は、米国の大学では、同窓会を通じた寄付募集の目的は資金集めではなく、まず、同窓生等の大学を取り巻く人々との強い関係性を築くことが大切であり、次に、大学のミッションへの共感を得、大学へのボランティア等の協力が生まれ、最後に、結果として寄付に結び付くと考えられている、と指摘している。この点は、寄付文化の乏しい日本においても、強く留意すべき点であり、 コミュニケーションを図ることを優先している方向は基本的に妥当と考えられる。

 ちなみに、近年、創立100周年などの節目を迎えているいくつかの国立大学では、大規模に寄付金を募集して、記念の建築物などを建設し、寄付者の名を示す等の取組みを行っている事例が見られる。多くの場合、一定の成果を上げているようであるが、今後も引き続き運営環境の悪化が予想される状況を踏まえると、単発の取組みとすべきではない。同窓生等の交流促進等の取組み等、継続的・恒常的な寄付戦略を構築すべきである。


表8 全学同窓会の設立の理由

注:設立年不明1(総合大学)、複数回答

出所:筆者作成


表9 組織・運営に関する「連携」の状況

注:設立年不明1(総合大学)、複数回答

出所:筆者作成


Ⅷ おわりに

 以上、本稿では、国立大学における全学同窓会の運営の課題とその解決方策について検討した。

 元来、同窓会とは、卒業生等によって自発的に形成された団体だが、現在の国立大学の全学同窓会は、法人化という危機に対応するため、国立大学主導によって、部局同窓会を取り込んで結成された団体である。このため、全学同窓会の運営に当たっては、従来の同窓会や同窓生に対する配慮が求められる。

 加えて、「母体」である国立大学の性格も踏まえて、国立大学への支援という「共益」活動 にとどまらず、「公益」組織である国立大学の支援組織に相応しい「公益」活動の再強化も期待される。

 なお、本稿では、国立大学の同窓会担当理事を対象とするアンケート調査を取り上げた。今後は、同時期に実施した全学同窓会を対象とするアンケート調査の分析を行うとともに、両者を比較検討することを通じて、全学同窓会の運営に関する課題をより明らかにしたい。また、 本稿は、アンケート調査の結果を基としたため、概括的な内容にとどまり、同窓会担当理事の同窓会に対する予算・業務計画等に関する具体的な関係の把握は十分に出来なかった。今後は、ヒアリング調査等を通じて、より具体的な関係を調査したい。

 以上に加えて、大学によっては、同窓会は、地域別、職域別、卒業年次別など、様々な枠組みでも設立されている。特に、地方国立大学の場合は、地域的な枠組みが強いと思われる。これらさまざまな枠組みで設立された同窓会と全学同窓会の関係のあり方の検討も今後の課題である。

 今後、上記の研究を進めることを通じて、国立大学、全学同窓会、部局同窓会、同窓生個人、 さらには、社会、国民にとってWin-Winの全学同窓会の運営のあり方を明らかにしていきたい。  

 最後に、示唆に富む有益なご意見を頂いた査読者の皆様に心よりお礼申し上げる。


[参考文献]

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(論稿提出:平成26年11月28日)

(加筆修正:平成27年3月13日)

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