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≪査読付論文≫非営利法人課税の本質 / 藤井 誠 (日本大学准教授)

更新日:6月11日

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日本大学准教授 藤井 誠


キーワード:

非営利法人 法人税 法人擬制説 課税根拠 実効税率 みなし寄附金


要 旨:

 法人税法上、非営利法人は、基本的には公益法人として扱われる。公益法人は収益事業 から生ずる所得のみが課税対象とされるが、これを特典と捉えるべきか否かについて、明 確な結論は出ていない。本論文において、社団法人と財団法人に焦点を当て、非営利法人 に対する課税の本質を理論的観点から明らかにする。非営利法人は多種多様な形態が存在 するが、その特徴は所有主がいないという点にある。わが国において、法人税は所得税の 前取りという性質があるため、この観点からは法人税を課す理由はない。現行制度におい て、非営利法人課税の論拠とされているのは営利法人とのイコール・フッティングである。 法人税は転嫁されないタイプの税であるため、毎期の所得に課税する必然性はない。着目 すべきは、資本蓄積についてである。そして、実効税率相当のみなし寄附金を認めること により、法人税の課税を行うことなく、イコール・フッティングは達成される。


構 成:

I  問題の所在

II 非営利法人の課税関係

III みなし寄附金

Ⅳ 日米の非営利法人課税制度比較

Ⅴ 法人概念の観点からの検討

Ⅵ ありうべき課税体系

Ⅶ 結論 


Abstract

 In Corporate Tax Law, non-profit organizations are basically treated as public benefit corporations. Only the net income generated from the commercial business is taxable for public benefit corporations. We have not obtained a clear conclusion about whether this fact is the benefit of tax. I will focus on corporate judicial person and incorporated foundation, and clarify the nature of the tax on non-profit organization from a theoretical point of view. Various forms of non-profit corporation exist. Features for it is that there is no owner. Corporate tax is thought to be the withholding of income tax. From this point of view, there is no reason to impose a corporate income tax for the non-profit organization. In the current system, the ground of the tax for non-profit corporation is equal footing with profit corporation. Since the corporation tax will not be passed on, should not be taxed for each period of income. We should focus on the capital accumulation. If we accept the deduction of donations corresponding to the effective tax rate, equal footing will be achieved without taxing.


※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。

 

Ⅰ 問題の所在

 公益法人制度改革により、旧民法第34条に規定されていた社団法人および財団法人が廃止され、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」により、一般社団法人および一般財団法人が、準則主義によって設立可能となった。さらに、これらは公益認定を受けることにより、 公益社団法人および公益財団法人となることができる。  

 法人税は、法人の所得に対して課税することを謳っているが、営利を目的としない法人にあっては、原則として収益事業のみを課税対象としている。これを営利法人との比較におい て、非営利法人における課税上の特典と捉え、両者の間に横たわる課税の公平をいかにして図るかという問題は古くから議論されてきている ところである1)

 その一方、非営利法人は営利を目的としていない以上、各々のミッションを遂行するうえでの資金需要をいかに賄うかという問題を常に抱えている。そのため、非営利事業を行うためには、営利事業を行うということが少なくない。したがって、営利事業活動による非営利法人の持続性は往々にして非営利事業活動継続の前提となり、これと非営利法人における営利法人との課税の公平を根拠とする収益事業課税とは、トレード・オフの関係にあると考えられる。  

 非営利法人については、法人税法における規定は存在しているものの、その課税について は、必ずしも理論的に明確な根拠が示されているわけではない。その原因は、非営利法人に関する法人所得課税の文脈における範囲および性質が明らかになっていないことにあるものと考えられる。この点を踏まえ、本論文においては、非営利法人に係る所得課税の本質を明らかにすることを目的としたい。なお、非営利法人には多種多様な形態が存在するため、近年大規模な法整備が行われた社団法人および財団法人に焦点を当てて検討を行うこととする。


Ⅱ 非営利法人の課税関係

 一般社団法人および一般財団法人は、特例を除けば普通法人として取り扱われ、法人の申請により公益認定を受けた公益社団法人および公益財団法人は、公益法人等として取り扱われる (法法2六)。また、従来、税法上の公益法人等には、専ら公益目的の法人以外にも、会員のためにサービスを提供する非営利の社団法人や財団法人も存在していたことに鑑み(武田[2011] 12頁)、公益認定を受けていない一般社団法人 および一般財団法人のうち、つぎの要件を満たす法人として、「非営利型」という類型を設け、 法人税法上は非営利型法人も公益法人等として取り扱われる(法法2六)。

 ① 非営利性の徹底(法法2九の2イ)     

  事業による利益を得ること又は得た利益を分配することを目的としない法人であり、

  事業を運営するための組織が適正であるものとして政令(法令3①)で定めるも

  の。 

 ② 共益的活動目的(法法2九の2ロ)     

  会員から受け入れる会費により、会員に共通する利益を図るために事業を行う法人 で

  あって、事業を運営するための組織が適正であるものとして政令(法令3②)で定め

  るもの。

 非営利性の徹底された法人においては、形式的にも実質的にも剰余金の分配が行われないことはもとより、残余財産の最終的な帰属先が国や他の公益法人等に限定されることから、利益を稼得する活動を行うとは限らないという理由により、収益事業を行う場合に限り課税を行うこととされている(成道[2011]106頁)。  

 一方、共益的活動目的法人は、会員からの会費が専らその会員を対象とした共益的事業に費消されることが想定されるものであり、会費の収入と支出とのタイムラグによる余剰が生じることが不可避的であるが、それは一時的なものであるため、課税に馴染まないとの理由により、やはり収益事業を行う場合に限り課税を行うこととされている(税制調査会[2005]5頁)。  

 公益法人等は、法人税法施行令第5条等において特掲される34業種の収益事業を行う場合に限り法人税の納税義務を負い(法法4①)、収益事業から生じた所得以外の所得に対しては法人税が課されない(法法7)。しかし、公益社団法 人および公益財団法人にあっては、その行う事 業が特掲収益事業に該当した場合であっても公益目的事業に該当すれば課税の対象外とされている(法令5②)。なお、この収益事業の範囲については、営利法人との競合関係にある事業を特掲するという考え方に基づいて定められている(渡辺[1994]8頁)。公益社団法人および公益財団法人が行う公益目的事業は、収益事業として掲げられる34業種に該当する場合であっても、その種類を問わず収益事業から除外されることとされていることについては、公益法人認定法の収支相償基準が適用されることにより、収支差額が制度上生じる余地がないためであると説明される(武田[2011]20頁)。ここでは、 公益目的事業に該当するか否かで判断されてり、実質主義による識別が行われているとされ る(成道[2011]126-127頁)。  

 非営利型社団・財団法人についても、公益社団・財団法人と同様に収益事業から生ずる所得が課税対象とされている。しかし、ここでは特掲収益事業に該当するか否かが判断基準とされており、形式主義による識別が行われていることが指摘される(成道[2011]126-127頁)。  

 公益および非営利型社団・財団法人以外の一般社団法人および一般財団法人については、所得の発生源泉となる事業の性質は何ら考慮されず、すべての所得が課税対象となる。そのため、これらの法人は、一般には非営利法人と称されつつも、税法上は営利法人と変わりないことになる。


Ⅲ みなし寄附金

 公益法人等が収益事業に属する資産のうちから収益事業以外の事業のために支出した金額 は、収益事業に係る寄附金の額として、限度額までの損金算入が認められており(法法37⑤)、これはみなし寄附金と称される。

 みなし寄附金制度の前提として、公益法人等に対しては、「収益事業から生ずる所得に関する経理と収益事業以外の事業から生ずる所得に関する経理とを区分して行わなければならない」として、区分経理を求めている(法令6)。これは、収益事業と非収益事業をそれぞれ独立した法人のごとく取り扱うものであり、みなし寄附金は、収益事業から非収益事業への寄附があったものと捉えるものである(武田[2011] 38頁)。ただし、非営利型社団・財団法人と公益および非営利型ではない一般社団・財団法人にみなし寄附金の適用はないこととされている。  

 従来、公益法人等は、収益事業を行った場合に、その収益事業から生じた所得に対して課税されるものの、収益事業に属する資産を収益事業以外の事業に帰属させたときには、収益事業から生じた所得の20%を限度として損金算入することを認めていた。これは、公益法人等は収益事業を行った場合でも、営利法人のように利益を株主に分配することはないためであるとされる(武田[2011]5頁)。  

 現行規定において、公益社団法人および公益財団法人に対しては、「収益事業に属する資産のうちから収益事業以外の事業で公益に関する事業として政令で定める事業に該当するもののために支出した金額を寄附金の額とみなす」としている(法法37⑤、法令73の2、法規22の5)。すなわち、公益目的事業に該当しない特掲収益事業から生じた所得の全額がみなし寄附金として損金算入の対象となるのである。その一方で、公益目的事業以外の事業への支出があった場合にはみなし寄附金の対象から除外される。

 しかし、収益事業の所得が非課税であるという見解は厳密には正確性を欠く。なぜならば、 全額のみなし寄附金適用には本来の公益目的事業に使用するという条件が付されており、収益事業への再投資が認められていないためである。収益事業から生じた所得をほとんどタイムラグなく、本来の公益目的事業に使用しなければならないという条件は、資金の効率的な使用に対する弊害となりうることを指摘しておきたい。そのため、収益事業から生じた所得であっても、再投資された後にみなし寄附金を認めるという方策を採用することを検討すべきであろう。

 なお、非営利型の社団・財団法人については、区分経理が要求されるものの、みなし寄附 金の制度が認められないこととなった。また、公益および非営利型以外の一般社団・財団法人については、すべての所得が課税対象となるために、みなし寄附金を考慮する余地はない。

 このように、公益および非営利型以外の一般社団・財団法人は、法人税法上普通法人として取り扱われるため、収益事業か非収益事業かにかかわらず、法人単位による課税が行われることになる。そのため、収益事業と非収益事業との間での損益通算が可能となるために、公益および非営利型以外の一般社団・財団法人の方が、非営利型社団・財団法人よりも相対的に軽 課される事態が想定されるという問題点が指摘されている(武田[2007]32頁、尾上[2011]42- 46頁)。


Ⅳ 日米の非営利法人課税制度比較

1 アメリカの非営利法人課税

 アメリカ内国歳入法(Internal Revenue Code、 以下IRC)Subchapter F§501から§530までは、 免税団体2)(exempt organization) の課税関係について規定している。そして、§501⒞に おいて、⑴~⚮までの免税団体が列挙されている3)。IRC§501⒞に記載されている団体には、慈善目的団体だけでなく(Lieber[2004] p.182)、様々な共益目的団体も含まれている。 各州において非営利法人としての承認を受けた法人4)は、つぎの2つの免税条件(exemption requirements)を満たし、内国歳入庁の承認を受けることにより、免税措置の適用を受けることが可能となる(§501⒞⑶)。

 ①  利益(earnings)がいかなる個人持分主や個人(any private shareholder or   

  individual) にも帰属(inure)しないこと  

 ②  立法(legislation)に影響を及ぼしたり、 政治家候補(political candidates)に賛成

  または反対のいかなるキャンペーン活動を行うような組織ではないこと

 アメリカでは伝統的に、非営利団体が収益を終局的には免税団体に振り向ける限りにおい て、非課税での収益活動を行うことが許容されるという考え方がある(Lieber[2004]p.181)。そのため、主として利益(profit)追求のための事業活動(trade or business)を行う団体は、免税措置を享受することは認められない(§502⒜)。 また、§501⒞に該当する免税法人の非関連事業(unrelated business)から生じる所得は、通常の税率により課税に服する(IRC§501⒝)、 IRC§511)。  

 非関連事業とは、①非関連事業が継続していること(Reg. §1.513-1⒞)、②本来の事業との実質的関連性がないこと(Reg. §1.513-1 ⒟)を内容とする。非関連事業所得課税適用の主たる目的は、免税組織の非関連事業活動と営利法人の課税事業とに同じ税率を適用することによる不公正な競争の源(source of unfair competition)を取り除くことにある(Reg. §1.513 -1⒝)。これについては、非関連事業が本来の事業を歪める原因となりうることから、これ に対する抑止効果を狙ったとの解説もなされて いる(成道[2005]276頁)。  

 IRCにおいても課税所得と免税所得を把握する必要があるため、区分経理が求められる(成道[2005]276頁)。例えば、ある施設が免税活動 (exempt activities)と非関連事業活動(unrelated trade or business activities) の両方で使用されている場合に、減価償却費等は合理的な基準 (reasonable basis)により配分され(allocated)なければならないとして区分経理を求めている(Reg §1.522⒜-1⒞)。さらに、非関連事業活動と本来の事業活動との損益通算が認められていないという特徴も見られる(成道[2005]277頁)。

2 日本の非営利法人課税との比較

 アメリカでは、非営利団体の法人格取得は、これに係る連邦法が存在しないことから、州法の権限のもとに行われる(Lieber[2004]p.175)。連邦税に関しては、非営利団体といえどもこの時点では課税団体ということになるが、IRCの承認を受けることにより非課税団体となる。ただし、非関連事業活動から生ずる所得については課税される。一方、わが国では、準則主義により社団・財団法人の設立は極めて容易である。ただし、公益認定を取得するためには、内閣府の公益認定等委員会または都道府県の公益 認定等委員会による認定が必要となる。そして、公益認定を取得していない社団・財団法人であっても、法人税法の非営利型要件を充足することにより、自動的に非課税法人となる。  

 非課税法人について、アメリカでは非関連事業所得、日本では収益事業所得はともに課税対象となる。ここで、IRCは非関連事業の定義をしているのみであるが、日本では34業種が特掲されているという違いがある。しかし、非関連 事業課税が行われる根拠は、わが国の公益社団・財団等において収益事業課税がなされることと同様、営利法人との課税の公平である。このような関連事業あるいは非収益事業に係る税優遇措置は、公益性、非営利性等との均衡のもとに是認されるものであると指摘される(藤井[2003]4-5頁)。

 このように、アメリカの非営利法人課税とわが国のそれは、類似点が多い。その一方で、つぎのような大きな相違点も存在する。IRCの法人税率は、超過累進税率を採用しており(IRC §11)、法人実在説に立脚しているとされる(伊藤[2013]358頁)。そのため、個人所得税における法人所得税との二重課税を調整する規定は設けられていない5)。  

 理論上、累進税率の採用は法人段階の課税と株主段階の課税における二重課税の調整を不可能にするものではないが、著しく複雑になるうえに、当該税率は法人それ自体の担税力を把握することと軌を一にするものである。これに対し、わが国の法人税法においては、比例税率が採用されており、法人の担税力ではなく、株主との二重課税調整を重視しているという点で法人擬制説と整合的である。

 このように、アメリカと日本の非営利法人課税は、法人概念という根幹部分に相違があるにもかかわらず、①まず課税法人として設立され、②つぎに認定を受けることにより非課税法人となり、③収益事業または非関連事業を行うことによりその限りにおいて課税の取扱いをうけるという基本構造は同一である。ただし、課税要件を限定的に列挙しているか、包括的に規定するかの相違は大きい。IRCにおいて、免税 (exempt)という表現が用いられるのは、営利法人と非営利法人とを問わず、法人実在説によれば原則として全ての所得に課税するという思考が根底にあり、日本における思考とは根本的に異なる(図表1参照)。


図表1 非営利法人課税の日米比較

出所:筆者作成


Ⅴ 法人概念の観点からの検討

1 法人概念と非営利法人課税の論拠

 法人実在説とは、法人は出資者たる株主とは 別個独立の存在であり、それ自体法人として権利能力を持つばかりではなく、課税上も独立した納税主体を構成するものとする考え方である。この立場によれば、法人と株主の二重課税は問題とならないことになる。一方、法人擬制説とは、法人を出資者たる株主の集合体とみる考え方である。したがって、法人に対する課税は、法人の所得の株主への分配が遅れることから、個人所得税を法人段階で便宜上課するものであるとし、法人税は所得税の源泉課税的な意味を有するものであると解する。そのため、法人税における二重課税はもちろんのこと、法人税と所得税のそれをも回避するための調整が不可欠となる。

 わが国の法人税は、基本的には法人擬制説の立場に立つものと考えて差し支えないだろう。 実定法上も法人間配当における受取配当の益金不算入制度(法法24)や個人株主への配当における配当控除制度(所法92)がこの思考を具現化しているものといえる。さらに、法人税率が原則として定率であることもこの法人擬制説に適うものといえるだろう。法人それ自体に担税力を見出すのであれば、所得税と同様に超過累進税率が適用されるべきであるからである。また、法人税率が定率であることは、配当後の二重課税調整が容易になることにも資する。一方、アメリカの内国歳入法においては、法人税は超過累進税率による課税が行われているため、法人実在説の考え方に基づくといえ、個人事業形態との課税の公平や中立性は考慮されない。  

 非営利法人課税について、わが国の法人税法においては、基本的には収益事業から生じた所得のみ課税するという考え方がとられる。これに対し、アメリカの内国歳入法においては本来の事業と関連性のない所得には課税するという考え方がとられ、そこには営利法人との課税の公平あるいは中立性という共通の思考が根底にある。この点については、準則主義がとられることにより非営利法人の事業活動に制約がないため、営利法人と同種同等の事業を行いうることを根拠として、営利法人と非営利法人という法人形態の選択における中立性を担保する観点、さらには、非営利法人を利用した租税回避 防止の観点から、収益事業課税を行うものであるとされる(水野[2006]25頁、税制調査会[2005] 4-5頁)。

 法人実在説によれば、株主との関係は考慮外に置かれることになるため、法人税は所得税からは離れた独立した税であるとの理解に至る。そして、法人段階における所得に課税を行うことこそが、非営利法人と営利法人との課税の公平に資することになる。この場合、税率は、法人の能力に応じて累進税率が採用されることになる。「法人税は、事業の目的や利益分配の有無にかかわらず、収益及び費用の私法上の実質的な帰属主体である事業体がその納税義務者とされるものであり、この点は営利法人も非営利法人も同様である」という見解(水野[2006]23頁) は法人実在説に依拠した考え方に他ならない。

 一方、法人擬制説の立場によれば、株主との関係を考慮する必要があり、したがって法人税は所得税の前取りとしての性格を付与される。 この場合、非営利法人に対する課税を行うべきではないが、仮にこれを実行するとするならば、そこには法人実在説の考え方が混在することになる。すなわち、営利法人は法人擬制説、 非営利法人は法人実在説という異なる思考を基礎とする同一の税目が存在する奇異な事態になる。当然、前者には比例税率6)が、後者には累進税率が適合する。普通法人においては株主に対する利益分配が行われるのに対し、公益法人等においては組織の所有者が存在せず、利益分配も行われる余地がないことから、法人税課税を行うことは不合理であるとの指摘(武田[2011] 14頁)は、法人擬制説に基づいたものである(図表2参照)。


図表2 法人概念と課税体系の関係

出所:筆者作成


2 浮かび上がる問題点

 物事の公平性を検討する場合、比較対象における相互の同質性が前提となることは改めていうまでもない。公益法人等の収益事業から生ずる所得と普通法人の収益事業から生ずる所得に法人税課税を行うことが公平であるという主張は、法人実在説を前提としたものである。なぜなら、法人擬制説によれば、営利法人における法人税額は所得税清算が行われる前の仮計算額に過ぎないのであるから、これと最終確定額である非営利法人における法人税額との公平を議論する意味はない。一方、公益法人等の場合に は、法人段階の課税は後にいかなる調整も実施されない。これはいかにも不公平である。さらに、法人実在説によれば、法人段階において生ずる所得への課税に公平性を見出すのであるから、非営利法人に対する課税を収益事業に限定する必要性はないことになる。この考え方は、今日の法人の所得概念が純資産増加説によって発生源泉は問わないという理論とも整合する。

 このように、法人段階における公平性は、法人実在説を前提とする場合にしか成立しないうえ、ここからは収益事業に限定する理由も不明確なままである。現行の法人税の課税体系は、 原則として比例税率を採用していること、配当控除制度により所得税との二重課税調整が不完全ながらも手当てされていることから、原則として法人擬制説に基づくものと理解されるべきものである。しかし、現実の法人税制は、法人擬制説にのみ立脚するのではなく、法人が独立した納税主体であると捉える法人実在説の考え方に重点が置かれているため、非営利法人に対 する非課税措置に反対する見解もある(知原 [2004]179頁)。わが国やアメリカはもとより、いずれかの立場に徹した制度をとっている国は極めて少なく、現実の制度は、両者を折衷した制度をとっているとの指摘(田中[1990]483 -484頁)にもあるように、多かれ少なかれ法人実在説と法人擬制説が反映されているのは否定しがたい事実である。そのため、法人実在説と法人擬制説との対比による検討からは、制度上の決定的な差異を見出すことは不可能であるということが明らかとなる。

 思うに、非営利法人の課税問題を検討するには、2つの問題が異なる次元において錯綜しているのである。すなわち、非営利法人に課税すべきか否かという問題と収益事業に課税するか否かという問題である。  

 第一の問題については、法人擬制説か法人実在説かという議論が関連するのであり、いずれの説が理論的に正しいかは別として、法人税課税の体系に矛盾なく収まることが重要である。この段階では、収益事業か非収益事業かといった事業の内容や性質は問題とならないのである。

 そして、第二の問題、すなわち、非営利法人の行う収益事業から生ずる所得に限定することの是非については、営利法人との競合性が問題となる。しかし、本質的に異なる法人を同じに扱う必然性はない。


Ⅵ ありうべき課税体系

1  公益認定を受けておらず非営利型でもない 一般社団・財団法人

 公益認定を受けておらず非営利型でない一般社団・財団法人は、既述のように、社員総会または評議員会の決議により、社員または設立者、さらには特定の者に剰余金を分配することが可能とされており、実質的に剰余金を残余財産の分配という形で、個人に分配することができるため、普通法人との課税の公平が担保されなければならない(尾上[2011]41頁)。そのため、すべての所得が課税対象とされることには合理性がある7)

 この点について、尾上[2011]は、持分権者のいない社団・財団法人につき普通法人と同じようにすべての所得を課税対象とするという取扱いは、法人擬制説との整合性を欠くものであり、結果的に残余財産が個人に分配された場合には、その時点で課税すればよいとの見解を示している。ここには、当該一般社団・財団法人と同様の経済実態にある普通法人との間の課税の公平性を重視するのか、あるいは、法人擬制説を重視するのかというジレンマがある。

 通常、法人擬制説において、出資者と剰余金の受取人は同一であることが想定されているものと思われる。しかし、社団・財団法人にあっては、出資者と剰余金の受取人は必ずしも同じではないという特性がある。すなわち、法人擬制説における集合体の源を狭義に捉えれば持分権者となるが、広義に捉えれば受益者ということになるのであり、後者の立場に立った場合には、前述のジレンマは解消することになる8)。 したがって、剰余金分配後の所得税までを含めても、公益認定を受けておらず非営利型でもない一般社団法人・財団法人と普通法人とは同様の経済実態にあるといえ、法人実在説か法人擬制説のいずれの説に基づくかにかかわらず、その全所得を課税対象とすることには合理性が見出される。

2 非営利型の一般社団・財団法人

 非営利型一般社団・財団法人は、非営利性の徹底された法人と共益的活動法人とを区分して検討することが必要である。

 ① 非営利性が徹底された法人     

  非営利性が徹底された法人は、公益財団・社団法人と共通する点があり、これらの検討

  と併せて後述する。  

 ② 共益的活動目的法人     

   共益的活動目的法人は、会員からの会費が専らその会員を対象とした共益的事業に費

  消されることが想定されるものである。 当該法人は、収益事業から生じた所得につい

  て、形式的には利益分配を行わないのであるが、法人において生じた所得は実質的に会

  員が共同で事業活動を行うことにより稼得した所得であると考えることができる。その

  ため、この所得は全額を会員に帰属させ、所得税を課税するべきものである。そのうえ

  で、所得税課税済みの残額を会員が会費として法人に支出したものと理解すれば、法人

  段階で収益事業から生ずる所得に課される法人税は会員個人における所得税が源泉徴収

  されたものであり、一方の会費収入は会員において所得税が課税済みなのであるからこ

  れに改めて法人税を課す必要はないということになる。換言すれば、ここでいう源泉所

  得税は所得税の前取りとしての通常の法人税とは性格が異なり、会員に分配されたとみ

  なして課税すべき所得税が一律源泉分離課税されたものである。     

   共益的活動目的法人においては、個人で共益事業を行うよりも、共益的活動による

  恩恵を享受できる人々が一体となって収益事業を行う方が効率的であるから、収益事

  業を行うことについては、課税上何ら問題のない経済行為といえよう。このような解

  釈によれば、会費収入は会員段階において所得税を課税すべきものであるため、法人

  段階での課税の対象と解すべきではない。

3 公益社団・財団法人

 公益社団・財団法人については、普通法人との課税の公平、すなわち競合性が問題となることは繰り返し指摘されているところである。一方で、公益社団法人および公益財団法人について、公益目的事業支出という条件つきながら、収益事業から生ずる所得を実質的に非課税とする措置は、収益事業課税の根拠を営利法人との競争性に見出すという従前の説明だけでは不足することの証左であるとの指摘(武田[2011] 17頁)もなされている。

 両者を単年度で見た場合、営利法人との競合性は問題とならない。なぜなら、法人税は消費税等と異なり、転嫁の予定されていない性質の税目であるため、営利法人との価格競争力を考慮する必要のないものと考えられるためである。実例をあげると、国家資格取得講座を展開する株式会社と公益法人である学校法人との間に、価格差はないに等しい。これは、法人税の転嫁9)がない証左であり、そこには市場原理が働いているのである。状況により法人税の転嫁が起きているとしても、これは市場の競争原理が機能していないからに他ならないのであり、市場の不完全性を前提とした課税方法は回避されるべきである。

 しばしば非営利法人が営利法人に比して廉価な物品を販売することにより、非営利法人との間において不公平が生じるという指摘がなされる。現行の非営利法人に対する収益事業課税もこの解釈に基づいているが、法人税の転嫁がなされない以上、法人税を課したとしても、非営利法人が行う廉価販売には影響はなく、法人税の有する所得税の前取りという本来の性質を曲げて、非営利法人の行う収益事業活動の販売価格と調整する機能を具備させることはできないのである。

 問題の本質は、非課税による資本蓄積が営利法人に比して公益法人の方が多いことによる競争の不公平性にある。法人税法や租税特別措置法において、中小法人等を対象とした一定額までの軽減税率をはじめとする各種の恩典が設けられているのは、大法人に比べて競争力が劣るためである。公平を論ずるべきは、法人税課税がその後の事業活動に不公平をもたらす可能性についてであることが明らかである。昭和29年の一般法人に対する積立金課税の廃止は、日本企業の国際競争力の低下要因となっていたことが理由であり、この事実からも本章における検討の視点の有効性が確認できよう。  

 以上の理解のもと、つぎの数値例を用いて、 問題の検討を進めていく。

〔設例〕当初元入額:1,000,000、収益(非公益) 事業の資本利益率:20%、実効税率:35%

① ケース1(図表3)    

 まず、公益社団・財団法人について、収益 事業から生じた所得が非課税とされ、その全 額が収益事業に再投資される場合を考える。    

 C0:当初純資産額、Cn:n期末純資産、r: 資本利益率、t:実効税率とすると、n期末に おける純資産額はつぎの算式により表される。   

 Cn=(1+r)n C0=1.2 n C0

② ケース2(図表4)    

 つぎに、すべての所得に対して課税される普通法人について、ケース1と同様の場合の 各数値を示す。    

 このケースにおいて、n期末における純資産額はつぎの算式により表される。   

 Cn={1+r(1-t)}n C0=1.13 n C0    

 ①と②を比較すると、公益法人は非収益事業について課税対象外となるため、普通法人 と比べると常に純資産額が多いことが示される。

③ ケース3(図表5)    

 しかし、課税事業から得た所得の全額を非課税事業に支出し、みなし寄附金の適用があ る場合には、つぎのようになる。    

 このケースにおいて、この公益法人のn期末における収益事業に対応する純資産額はつ ぎの算式により表される。   

 Cn=C0    

 3年間で獲得できる所得は600,000となり、営利法人のそれよりも少なくなる。獲得した利益の全額について収益事業への再投資が不可能となるので、課税事業における資本の蓄積はなされない。すなわち、100%のみなし寄附金を認めたとしても、収益事業課税によるダメージと相殺するには十分ではないということである。なお、この値は、普通法人において全額配当した場合と同じであるが、全額配当されるならそもそも法人税の必要はないことになる。

④ ケース4(図表6

 つづいて、課税事業から得た所得の50%を非課税事業に支出し、みなし寄附金の適用がある場合には、つぎのようになる。

 このケースにおいて、n期末における純資産額はつぎの算式により表される。

 Cn={1+0.5(1-t)} r n C0=1.065 n C0


図表3 公益法人(非課税・全額再投資)の場合


図表4 普通法人(課税・全額再投資)の場合


図表5 公益法人(課税・非課税事業に100%支出、みなし寄附金適用あり)の場合


図表6 公益法人(課税・非課税事業に50%支出、みなし寄附金適用あり)の場合


 ケース4は、ケース2に比べ、純資産の増加という点において、さらに不利な扱いとなることがわかる。このように、公益法人において実効税率を営利法人と同じとした場合、公益目的事業支出を行うことにより、その分だけ(正確には営利法人の配当額を超える部分の金額相当)、元本の目減りが起きる。また、公益法人において収益事業課税を行う場合であっても、所得金額のうち法人税率を超える金額を公益目的支出とした場合には、その超過分だけやはり元本の目減りが起きることになる。

 現行規定において、公益社団・財団法人については、課税事業から生ずる所得金額の50%が損金算入限度額とされている(法令73①イ)。これについては、公益社団・財団法人の収益事業に係る収益の50%は公益目的事業に支出することが規定されており(公益法人認定法18④、公益 法人認定法規則24)、当該規定と平仄をとっての措置であると説明される(石坂[2012]46頁)。さらに、公益目的事業支出の全額が特例としてみなし寄附金として認められる(法令73の2①、 法規22の6)のは、公益認定基準に定められている収益は公益目的事業の実施に要する適正な費用を超えてはならないとする収支相償により、公益目的事業において収支不足が生じること、そして、これを補填するべく収益事業が行われることが想定されていることに配慮したものであると説明される(石坂[2012]46頁)。

 以上の検討により、公益社団・財団法人課税の本質は収益事業に課税し非収益事業を非課税とするかという点にあるのではなく、収益事業から生じた所得を再投資できないことと紐付きとすることによって、競合性問題を解決しているものと理解できる。そして、50%という基準はむしろ過剰規制であり、法人税実効税率相当額を再投資不能とするべきである。

 この方法において、n期末における純資産額はつぎの算式により表される(図表7参照)。

 Cn={1+r(1-t)}n C0=1.13 n C0

 これにより、公益社団・財団法人と普通法人との公平性は担保されることになる。公益法人等の収益事業に対する課税が行われるのは、一般法人および個人との直接的な競争状態における課税の中立性であるとされている(Shoup Mission[1949]p.116、成道[2011]101頁)。これを受けて、かねてより、公益法人等の収益事業に係る法人税率は軽減税率が適用されていたの だが、現行規定においては普通法人と同率であり、これをもって課税の不公平が解消されたとされる(石坂[2012]46頁)。しかし、実効税率相当額の課税事業から非課税事業への支出が行われていることを条件に、法人税課税を実施しないことが適当であるとの結論が導かれる。もちろん、この検討の視点には、法人概念は無言である。

 なお、非営利性が徹底された法人に対しても、この論法は適合する。ここでは、公益目的 事業か否かという事業の性質は関係ないためである。したがって、収益事業に課税したうえ に、みなし寄附金を認めないという取扱いは過剰な制限といえるのである。


図表7 ありうべき公益法人課税


Ⅶ 結論

 これまでの検討により、非営利性の徹底された社団・財団法人は公益社団・財団法人と同様の課税関係となり、これらの法人については、実効税率相当額の課税事業から非課税事業への支出を行うことを強制し、当該支出についてみなし寄附金を認めたうえで、課税を行わない規定を措置することが最適解との結論を導出することができる。このとき、実効税率相当額が公益目的事業または非収益事業に支出されていない場合、実効税率相当額に達するまでの金額に100%の税率による課税がなされる必要がある。そして、共益的活動目的法人における会費収入は、本来会員段階において所得税を課税すべきであり、法人段階での課税の対象ではない。なお、公益認定を受けておらず非営利型にも該当しない一般社団法人・財団法人は普通法人と同様、その全所得が課税対象となる(図表8参照)。

 立法論の問題として、ある一定の範囲を課税対象とすることを想定する場合、課税を原則として、限定列挙により非課税の範囲を定める方が、逆の場合に比べて法的安定性が高いことは容易に想像がつく。そのため、法人所得課税の理論に照らせば、非営利法人に対する課税は原則としてなされるべきものではないが、法的安定性に資するため、これを課税対象とすることを原則と位置づけることは十分に説得的である。

 かりに、理論的には非営利法人には課税すべきではないが、一定の営利事業に限って課税することが相当であるという結論に達したとする。このとき、立法段階において、原則として課税し、一定の事業に関しては非課税とするとしても何ら矛盾は生じない。すなわち、租税理論としての課税の原則と、立法論としての課税の原則は異なるということである。後者の原則は、理論的な原理原則を意味するものではなく、基本方針を示すに過ぎないのであり、要は最小のコストで法的安定性のある条文を作成することが主眼とされる。

 公益社団・財団法人においては、収益事業から生ずる所得の少なくとも50%は公益目的事業に支出されることが義務づけられているのであり、再投資可能な金額は最大でも50%である。この条件が存在する以上、そして、実効税率がこの50%という値を下回っている限りにおいて、公益社団・財団法人が普通法人より有利になることはない。すなわち、現行規定は本論文の検討対象である法人所得課税という面においては、法人実在説と法人擬制説のいずれの立場によるかにかかわらず10)優遇措置とは位置づけられない。

 一般に非営利法人の課税問題は、法人実在説と法人擬制説のいずれの立場を支持するかの議論に集約されることになるのだが、現実の法人税法が基本的には法人擬制説に立脚したものであるものの、一部に法人実在説に基づく歪みが存在していることから、水掛け論の域を出ていないようである。

 本論文においては、この点について、再投資可能額、すなわち期末純資産額に焦点をあてて検討を行うことにより、現行規定が公益法人に何らの優遇性もなく、むしろ不利な取扱いとなっていることを指摘した。したがって、公益法人等におけるすべての事業から生ずる所得に法人税を課税する根拠は存在しないのであり、 原則課税か非課税かという問題も当然のことながら雲散霧消する。

 以上の検討から得られた知見により、現行規定は理論的矛盾を内包していることが明らかとなる。なお、シャウプ勧告において指摘された、非課税法人の利益が事業活動を拡張するほかは餐宴のために消費されているという問題点 (Shoup Mission[1949]p.116)については、本来の事業への支出が適切に行われていることを非課税の要件とすることにより対応すべきものと思われる。


図表8 ありうべき課税体系


[注]

1) 非営利法人の所得課税問題は、1899(明治32) 年に第一種所得税が創設された当時に遡ることができる。当時の所得税法第5条第4号は、 営利を目的としない法人の所得には課税しないことを規定していた。当該問題の歴史的経緯については、武田[2011]5-11頁が詳しい。

2) わが国においては、①課税対象から除外されたものについて最初から納税義務が成立しないという意味での非課税という用語と、②一 定の法定要件の充足を前提として、申告等の手続により課税対象から除外された場合に、いったん成立した納税義務を事業に消滅させ るという意味での免税という用語が区別して使用されているが、アメリカ内国歳入法の tax exemptionは、非課税ならびに免税およびその中間形態に属する措置(行政庁の事前承認を前提とする非課税の取扱い)を包摂した意味で用いられているとされる(石村[1995] 294-295頁)。

3) IRC§501⒞に規定されているのは、つぎの 29団体である。なお、このほか、§401⒜の 適格年金が非課税組織に該当する。  

①公共法人、②免税資格保有団体、③宗教、 慈善、教育等の活動を行う団体、④市民団体 等、⑤労働・農業・園芸団体、⑥企業団体・商工会議所、⑦親睦団体、⑧友愛団体、⑨任 意従業員共済団体、⑩宿泊施設利用型友愛団体、⑪地方教職員退職基金、⑫地方共済生命 保険団体、⑬共同霊園法人、⑭州認可信用組合・相互信用組合、⑮小規模保険会社・組 合、⑯農業融資組織、⑰失業補償給付基金、 ⑱従業員年金基金、⑲退役軍人団体、⑳法律 相談団体、㉑炭灰塵症給付基金、㉒年金基金、㉓1880年以前に設立された軍人団体、㉔ ERISA法4049条信託、㉕年金持株会社、㉖ 医療看護団体、㉗労働者災害補償団体、㉘国立鉄道退職投資信託、㉙CO-OP健康保険発行団体

4) IRC§501⒞⑶に規定される宗教・慈善・教育活動団体のうち、§509⒜の⑴~⑷のいず れかの要件を満たすと、パブリックチャリ ティ(Public Charity)となり、それ以外は民間財団(Private Foundation)として区別される。この区別は、寄附金に関する課税上の取扱いの場面において顕著な相違となって現れるが、本論文における検討範囲を逸脱する論点であるため、言及しない。なお、この論点については、今枝[2003]が詳しい。

5) 法人株主においては、株式保有割合に基づく受取配当等の益金不算入制度(Dividends Received Deduction : DRD)が規定されている (IRC§241-246)。ただし、当該規定は法人課税における二重課税のみを対象としているのであり、個人株主は対象とされない。

6) 営利法人についても累進税率を適用し、配当が行われたときに、株主において二重課税調整を行うことも計算技術的には可能ではあるが、いたずら複雑なものとなることは間違い ない。もっとも、現行制度もこの二重課税調整は意図的に不完全なものとしていることに 鑑みれば、二重課税の徹底に固執する必要はないのかもしれない。

7) この点について、株式会社を設立するほうが合理的であり、非営利型ではない法人を設立する意味はないとの指摘がある(村山[2011] 4頁)。

8) 持分権者と受益者が別である場合において、 例えば100の元本について120の分配があったとき、個人側で120が所得になるのか、20が所得になるのかは興味深いところである。こ のとき、所得は120ということになるだろう。すなわち、出資者は100を法人に寄附し、残 余財産の受取人は120の所得を得たと考えるのが妥当であろう。そして、100はいったん出資者に返却され、それが受取人に贈与されたと考え、20は法人から受取人への贈与だと捉えるのである。 しかし、資金提供者が残余財産を受け取った場合には、個人間の贈与は起こらないために、20のみが課税されることになる。いずれにせよ、株主間での所得移転については、これをいかように律するかは所得税における問題であり、法人税が関与する必然性はない。

9) 法人税は転嫁しないというのが古典的学説であったが、最近では転嫁を肯定する学説が有力になりつつあるという見解がある(金子[2014]282-283頁)。しかし、かりに法人 税の一部が転嫁するとしても、株主に帰着する部分があるのであれば、その限りにおいて 二重課税調整は必要であり、法人擬制説の否定にまでは繋がらない。また、多くの実証研 究において、法人税の転嫁は0~100%超まで様々な結果が示されており、特に、独占市場において転嫁の傾向は強まるとされている(西野[1998]160頁)。思うに、税の存在を 前提とすれば、可能な限りこれを転嫁しようとの思惑が働くのは、利潤の極大化を考えれ ば、合理的なことである。株主が本来自分の負担すべき税を他人に転嫁することを企むこ とは自然なことであり、実証研究を行うまでもないことである。さらに、課税される法人 と課税されない法人が同時に存在を考えた場合、非課税法人には転嫁の必要がないのであ り、競争市場を前提とすれば、課税される法人が税の転嫁をすることは考えられない。い ずれにせよ、結果的に税の転嫁が発生することと、制度設計において転嫁を予定するかという問題は、別次元の話である。転嫁の検出は、それを意図していない制度との間におい て、市場原理が一定程度機能していないことを示しているに他ならないからであり、税体 系を現実の市場に合わせて歪める必然性はな い。

10) 法人実在説と法人擬制説との関連において現行制度を理解するのであれば、基本的には営利法人課税は法人擬制説に、非営利法人課税は法人実在説に基づいており、法人税課税の 体系の中に、異なる思考が混在している歪みが生じていることを理解すべきであるとの指 摘がある(齋藤[2005]268頁)。


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(論稿提出:平成26年11月28日)

(加筆修正:平成27年3月23日)

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