≪統一論題解題≫ 非営利法人(非営利組織)の振興と支援
- 非営利法人研究学会事務局
- 2024年11月1日
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大阪商業大学教授 初谷 勇
キーワード:
非営利法人 非営利組織 振興 支援 振興法 支援法
要 旨:
戦後日本で制定された「振興法」、「支援法」の名称をみると、特定の1政策領域、2文化的構築物、3産業、4地理的空間、5組織・法人類型、6構成員の属性などが、振興や支援の対象として掲げられている。これらのうち、「中小企業」や「小規模事業者」などを掲げる法律は、営利法人を直接の対象としている。非営利法人については、法人ごとの個別の根拠法はあるが、振興法や支援法の名称に直接登場することはなかった。
非営利法人の振興や支援は、1市民や専門家などの「個人」、2自治体、企業、中間支援 組織、士業団体などの「組織」、3個別の「政策」や「制度」によって行われてきた。 今後、非営利法人の振興、支援は、営利法人の振興、支援とバランスをとりながら進める必要がある。①市民個人の認知度向上や意識啓発、②官民組織の支援事業の刷新や創造、③非営利法人を直接目的とする振興法や支援法の制定などの検討と、それらの法律に基づく政策や制度の充実が要請される。
構 成:
I はじめに
II 振興と支援の法と非営利法人政策
III 統一論題:三つの観点
IV 統一論題:報告及び討論
Ⅴ おわりに
Abstract
When examining the names of the “Promotion Laws” and “Support Laws” enacted in postwar Japan, we see that specific(1)policy areas,(2)cultural constructs,(3)industries,(4)geographical spaces,(5)types of organizations and corporations, and(6)attributes of constituent members have been listed as targets for promotion and support. Of these, the laws that list “small- and medium-sized businesses” and “small businesses” target for-profit corporations directly. As for non-profit corporations, although there are separate-basis laws for each corporation, they are not reflected in the names of the Promotion and Support Laws.
Promotion and support of non-profit corporations have been provided by(1)“individuals” such as citizens and experts;(2)“organizations” such as local governments, corporations, intermediary support organizations, and professional associations; and(3)individual “policies” and “systems.”
In the future, the promotion and support of non-profit corporations must be balanced with the promotion and support of for-profit corporations. Consideration should be given to(1)raising awareness and educating citizens and other individuals;(2)renewal and creation of support programs by public and private organizations; and(3)enactment of Promotion and Support Laws that are aimed directly at non-profit corporations; further, enhancement of policies and systems based on these laws is requested.
Ⅰ はじめに
1945年クリミアでのヤルタ会談に端を開き世界を分断してきた東西冷戦が、1989年地中海のマルタ会談で終結を宣言された。やがて1990年代半ばには世界的な民間非営利組織の台頭が指摘され、その存在意義や機能をめぐる活発な論議が促されるようになった。各国の内政面で民間非営利セクターへの役割期待も高まり、法制・税制の整備など新たな「制度化」の動きと同セクターを振興し支援する政策が伸展した。
90年代にはわが国でも国際的な民間非営利セクター研究に共振する動きが始まった。「NPO」という用語の移入から間もない時期に発生した阪神・淡路大震災の復興対応を契機として、市民活動団体の持続的な非営利活動や公益活動を制度的に担保し促進するための立法運動が高まった。1998年の制定から四半世紀を越え、特定非営利活動促進法(NPO法)に基づく特定非営利活動法人(NPO法人)の増加と活動の広がりの中で、「NPO」という用語は人口に膾炙し、国・自治体の政策や民間企業の社会貢献事業などでも一般用語として常用されるようになった。
2000年代以降数次のNPO法改正をはじめ、公益法人、社会福祉法人、学校法人、宗教法人など多岐にわたる法人類型に波及、連動した制度改革を通じ、NPOを構成する非営利法人(非営利組織)は、時代の要請に応える事業や活動の器・装置として役割を発揮し、国民生活の向上に資する存在となることが目指されてきた。2024年、経済政策の観点から強く推奨、推進されて実現した「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」の一部改正と「公益信託に関する法律」の制定も、そうした流れに連なる積極的な動きといえる。
2020年から3年におよんだ新型コロナウィルスへの緊急対応は収束したものの、2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、冷戦発端の舞台でもあったクリミアを、ロシアによる併合(2014年)以来再び戦争に隣り合わせ、双方を支援する各国の足元に不穏な影を伸ばしている。
冷戦後に台頭した非営利法人(非営利組織)は、今や政府、民間企業と鼎立して存在する意義や、政府、企業、国民との関係性の中で期待される役割と実際に果たし得る機能との整合が改めて強く問われている。それは、わが国においても例外ではない。
NPO法施行から25年、公益法人制度改革関連三法施行から15年の節目にあたる2023年、(公社)非営利法人研究学会の第27回全国大会を開催するにあたり、統一論題を「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」とした。上記のような時代背景と内外の環境変化の下、民間非営利セクターを構成する非営利法人(非営利組織)が、何のために、誰によって、いかに振興され支援されることが求められているのか、また、非営利法人(非営利組織)は振興や支援の客体であるだけではなく、当事者、主体として何に注力すべきなのかを、みずからもまた非営利法人で ある学会の構成員として再考してみることとした。
Ⅱ 振興と支援の法と非営利法人政策
1 「振興法」と「支援法」
(1) 「振興」と「支援」
「振興」は「物事が盛んになるようにすること。また、ふるいたつこと。振起」、「支援」は「活 動を容易にするためささえ助けること。援助」 をいう1)。
わが国では明治以来、政府による殖産興業政策や自然災害、戦災からの復旧復興政策などさまざまな政策領域において、「振興」や「支援」という語が、政府組織(国、地方公共団体)を主体とし、民間組織(企業、地縁団体等)や国民・住民、あるいは社会的な課題を抱えた地理的空間や属性を持つ人々を、ふるいたたせ、ささえ助ける政策や行政作用を表す政策用語として頻用されてきた。
(2) 「振興法」と「支援法」
「振興」や「支援」は、法令用語としても多用され普及、定着している。日本法令索引で「振興」または「支援」を検索語とすると、改正法令や廃止法令を除き現行法令(法律)として、「振興法」は26件、「支援法」は22件を見出せる。近年「、振興法」から改正される例が見られる「基本法」2)まで視野に入れると、58件に上る(表1参照)。
これらが、何(X)を振興し支援することを目的とした法律であるか、法律の名称に着目し、目的条項も補足的に参照して分類を試みた。
まず、「振興法」・「支援法」の両方を通じて、Xは、特定の「①政策領域や施策区分」「②文化的構築物」「③産業、産物」「④地理的空間」などに加え、「⑤組織・法人類型」などに分け ることができる。また、「支援法」のみを見ると、①~⑤のうち②、④に該当するものはなく、代わって⑥(支援の)「対象者(集団)の属性」を掲げる支援法が大きな割合を占めている。
次に、法律制定順にXを具体的に見ていくと、戦後の社会経済情勢の推移と各々の時代に、「振興」や「支援」を通じてその解決が目指された社会課題の推移が浮かび上がってくる。
第一に、「振興法」の場合を見る。
特定の「①政策領域・政策区分」としては、占領期を経て独立を回復した当時には「理科教育」「青年学級」「高等学校定時制教育・通信教育」(以上1953年)「へき地教育」(1954)、次いで高度経済成長期には「スポーツ」(1961)、低成長・安定成長期には「生涯学習」(1990)「国際観光」 (1997)、最近では「在外教育施設教育」(2022)など教育・生涯学習に係るものが多数並ぶ。「②文化的構築物」としては、「アイヌ文化」 (1997)「文字・ 活字文化」(2005)、「③ 産業、産物」としては、「酪農・肉用牛生産」(1954)「養蜂」(1955)「生活衛生関係営業」(1957)「航空機工業」(1958)「養鶏」(1960)「中小小売商業」 (1973)「お茶」(2011)「養豚農業」・「花き」・「内水面漁業」(2014)「真珠」(2016)が続き、産業構造の変化もうかがえる。
「④地理的空間」の振興法は、概ね15~20年ごとに「離島」(1953)「山村」(1965)「半島」(1985)「原子力発電施設等立地地域」(2000)「棚田地域」 (2019)などの立法例がある。
本論とも関わりが深い「⑤組織・法人類型」としては、「下請中小企業」(1970)「地方大学」(2018)の振興法がある。
第二に、「支援法」の場合を見る。
特定の「①政策領域・政策区分」としては、「総合法律支援」(2004)「アイヌ施策」(2019)、「③産業、産物」としては、「農業競争力強化」 (2017)「防衛省調達装備品等開発・生産基盤/防衛産業」が挙げられる。
本論と関わる「⑤組織・法人類型」としては、 「中小企業」(1963)「小規模事業者」(1993)「中小企業経営革新」(1999)「国際平和共同対処事態に際しての諸外国の軍隊」(2015)の「支援法」が制定されている。
支援法ではそのほか「⑥対象者の属性」の該当例が多数に上る。1990年代には「中国残留邦人」(1994)「被災者生活再建」(1998)、2000年代に入ると「ホームレス」・「拉致被害者」(2002) 「母子家庭の母の就業」(2003)「発達障害者」 (2004)「障害者」(2005)、2010年代には「特定求職者」(2011)「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等」・「子ども・ 子育て」(2012)「生活困窮者」(2013)「大学等修学者」(2019)、2020年代に入り「医療的ケア児及びその家族」(2021)「困難な問題を抱える女性」(2022)などの支援法がある。
本論の問題関心からは、振興法・支援法を通じて「⑤組織・法人類型」であるXが注目されるが、「振興法」の場合の「地方大学」や、「支援法」の場合の「諸外国の軍隊」といった例を除き、その多くが中小企業や小規模事業者に関する振興法や支援法で占められていることが分かる。これらの法律の立法趣旨をみると、当初から営利法人を主たる対象として想定し制定されてきたものであることがうかがえる。
表1 基本法・振興法・支援法と営利法人・非営利法人関係法


(注) ①法律名に付記した * 印は通称を使用。 ②斜体は廃止法令。 ③「営利法人関係」・「非営利法人関係」の列に、関係する基本法・振興法・支援法を再掲し、法人類型の個別根拠法等を掲載。
出所:筆者作成
2 振興法・支援法と非営利法人(非営利組織)
(1) 振興法・支援法との「縁遠さ」
戦後、多くの振興法・支援法が立法されてきたが、その名称や目的に振興・支援の対象(客体)として登場する法人は営利法人(営利組織) に偏っており、非営利法人(非営利組織)はほとんど見当たらない。振興法・支援法との「縁遠さ」は何に由来するのか。前掲のXの種類1 ~6を手掛かりに考えてみる。
(a) 政策の優先度
営利法人には国民の多くが就労しており、その経済活動は日本経済を支える存在である。活動の伸展により雇用機会の拡充や政府の税収も期待されるなど振興・支援の対象とする積極的意義が感得されやすい3)。
一方、非営利法人は、就労、雇用の場としては発展途上にあり、非営利活動からは大きな収益の稼得や政府の税収増は期待し難い。非営利法人は、政府を補完するエージェントとして、また協働・共創のパートナーとして公益目的の事業や公共サービス提供を共に担う存在となることで、その効率化や有効化に寄与しうるものと期待され、漸次、限定的ながら税制上の優遇措置の対象とされてきた。
非営利法人(非営利組織)の振興や支援は、従来、独自に振興法や支援法を制定してまで積 極的に行わなければならない大きな要請のある X、つまり特定の「①政策領域や施策区分」として認識されてこなかった、あるいは仮に認識されていたとしても優先度の低いものと見なされ、立法化への気運の醸成や支持の調達に至らなかったと考えられる。
戦後、非営利法人(非営利組織)の振興・支援が、立法的な解決を要する重要な政策課題と された例としては、私立学校法(1949年)に基づき学校法人、社会福祉事業法(1951年)に基づき社会福祉法人を特別法法人として創設した例があげられる。戦災で荒廃した国土を前にして払底した政府財政の下、民間の力も得て学校・大学教育や社会福祉事業を再興するため、憲法第89条後段の新たな解釈により「公の支配」に属する非営利法人類型を設け、政府による監督や統制を担保した上での立法措置であった。それ以降では、NPO法に基づくNPO法人が特別法法人として挙げられる。これらの立法例は特定の法人類型について個別に定めた法律にとどまり、多様な非営利法人(非営利組織)を広く対象として捉えた上での「振興法」や「支援法」の名称・形式をとるものではなかった。
(b) 文化、産業としての定位
1980年代に日本企業が目覚ましい躍進を遂げた要因について欧米の研究者らが探求した研究成果は、今日の企業文化論や組織文化論につながっている4)。営利組織である企業の研究が端緒とはいえ、「企業文化」は「組織構成員の間で共有された一連の価値体系であり、また、それに関連した組織構成員の間でみられる共通の行動様式のこと」と定義されている5)。
こうした定義は「組織」の営利・非営利を区別したり制約を課していないことから、企業文化論は営利企業の研究から興ったとしても、営利組織のみを対象にする必要はなく非営利組織にも援用し展開することができると考えられる。日本の非営利法人(非営利組織)が躍進を遂げる要因となる「非営利法人(非営利組織) 文化」の解明も期待されるところである。
同じ80年代に林、山岡[1984]は、欧米人とは異なる日本人の価値観や社会認識を前提として、民間助成財団の日本的なあり方、日本的な方法を考察している6)。こうした先駆的な研究例はあるものの、従来、非営利法人(非営利組織) 自体を「文化的構築物」と捉えてその振興や支援を考える視点は希薄であったと考えられる。
また、近代化の過程から戦後の経済成長期に至るまで、官が連携する「民」といえば、まず民間企業が想定されてきた。 一例として、日本標準産業分類における「産業」の定義には、営利事業と非営利事業がともに含まれるものの、民間企業による営利事業に着目した分類が優勢な状況にあり、非営利法人の業種分類に適用する上で必ずしも利便性が高いものとなっていない7)。
(c) 組織・法人類型としての独立性
「会社」は、江戸時代にオランダ語の元の2つの用語の訳語である「会」と「社」を繋げた和製漢語とされる8)。日本の「会社」は19世紀末の新民法・新商法において立法的に法人格を与えられ、日本の「法人法定主義」は、人的会社も資本会社と同じように法人化し、その法人化のために人的会社の「社団化」が行われた9)。 新会社法は、会社の規範的な定義(改正前商法第52条)を削除して「社団」性を削除し10)、 会社の形態は株式会社と持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)の4種類とされ、広く普及している。
一方、非営利法人は、改正前民法に基づく旧公益法人は主務官庁の許可主義の下に置かれ、特に行政補完型法人はいわば政府セクターの外延部ともみなされてきた。そのため準則主義の営利法人のように、政府の関与を受けない独立した経済主体として、政府から一定の距離をおいてその設立を振興し活動を支援するという発想は乏しかったと考えられる。
この四半世紀の間、NPO法や一般法人法のように、部分的に主務官庁制が廃止された分野横断的な法人類型が生まれた。一方で縦割りの主務官庁制下の非営利法人も多数存続しており、営利法人に比べはるかに多種多様な組織・法人類型が並存し、分類基準も複雑なものとなっている。そのため、非営利法人全体を営利法人の「会社」概念のように包括する範疇概念がなく、一体的に振興・支援の対象として捉えることも、また、明確に体系化された法人「類型」として分けることも、ともに難しかったと考えられる。
(d) 対象者の属性
前掲の支援法の場合に見られる「⑥(支援)対象者(集団)の属性」のように、非営利法人(非 営利組織)の構成員に共通する属性を見出すことが困難であることも理由の一つに挙げることができる。
営利法人の場合、「中小企業」や「下請中小企業」11)など、企業規模や取引形態を基準に範疇化された法人群を、振興・支援の目的(「⑤組織・法人類型」)とした例が見られるのに対して、非営利法人の場合は、同様に「中小 NPO」や「下請け中小NPO」などを範疇化して振興・支援の対象に設定することは希薄だった。NPOと行政との事業委託(契約)関係については、自律性とアカウンタビリティのバランスを保つ必要性と可能性を巡って悲観論と楽観論の激しい対立がある。悲観論者からはNPOによる行政サービスの下請け化が自律性やミッション達成を損なうものとして批判の対象とされることもあり、NPOと政府・行政との適切な関係性の構築が常に論争点となってきた12)。
また、非営利法人は民間公益の実現が目的であり、公益性のある活動の画定や認定が法人の設立目的によって異なることも、共通の「属性」をもつ振興・支援の対象者を設定し難くさせている。あえて属性を限定することは、公益ではなく共益や私益とみなされることにもつながり、積極的に振興・支援する論理を構成しにくかったことも考えられる。
(2) 振興・支援に向けての示唆
上記のような理由が一定程度当たっているとすれば、非営利法人(非営利組織)の振興・支 援を図るには、これらの理由を克服する方向を検討してみることも有益ではないかと考えられる。以下、前掲の(a)から(d)に対応させて述べる。
(a)’ 政策の優先度の向上
非営利法人(非営利組織)を振興・支援することを、特定の「①政策領域や施策区分」とし て顕在化し、その優先度を高め、立法化に向けた支持を広く調達することが重要である。
筆者は、NPO法制定前から、「NPO政策」は公共政策の一つであると主張し、基底的NPO政策と派生的NPO政策を種別してきた。基底的NPO政策は、NPOや民間非営利セクターそのものを公共的問題としその存立、成長、発展を図る公共政策であり、派生的NPO政策は、何らかの公共的価値の実現を目的とする基底的政策の手段としてNPOの参画を求めたり、NPOの活用を図る公共政策である13)。
非営利法人(非営利組織)の振興・支援は、直接的には前者の基底的NPO政策と重なるが、非営利法人(非営利組織)を活用する派生的NPO政策も非営利法人に活動資源が循環しその存在を社会的に訴求しうることから、間接的な振興・支援につながるといえる。
⒝’ 文化や産業としての再定位
非営利法人(非営利組織)を、「②文化的構築物」として捉え、非営利法人を支える理念や文化を振興し、それらを体現する非営利法人を振興・支援することに結びつける必要がある。政府セクターや民間営利セクターとは区別される非営利法人(非営利組織)の存在意義論で取り上げられる理念や志向すべき概念の例としては、「社会貢献」「フィランソロピー」「市民的公益の追求」などがある。問題は、これらの概念や思想そのものが社会的な支持を集め、尊重されるべき「文化的構築物」となりうるか否かである。
また、営利法人と比肩しうる「③産業」を構成する組織群として非営利法人を再定位し、営利法人と同様に事業体として振興・支援する必要性を強く訴求することが考えられる。
この点に関しては、2012年の中小企業政策審議会 “ちいさな企業” 未来部会の取りまとめにおいて、NPO法人は中小企業政策上重要な役割を果たしており、その政策上の位置付けを検討する重要性が指摘され、現行基本法における中小企業に関する団体に係る規定において、当該団体にNPO法人が含まれることを確認することが適切であるとされた。
その後、2014年に中小企業庁は「NPOなど新たな事業・雇用の担い手に関する研究会」を設け、従来のように中小企業への支援者としての位置づけからNPO法人を中小企業政策の対象とするのではなく、事業型NPO法人についてその主体そのものとして正面から中小企業政策上の位置づけを改めて検討するに至っている14) 。
2024年の公益認定法改正も、政権の掲げる「新しい資本主義の実現」の担い手として、非営利法人(非営利組織)の事業性や社会課題解決力への期待を強く前面に立てての改革であるといえるだろう。
(c)’・(d)’ 対象とする区分や属性の画定
非営利法人(非営利組織)一般では対象Xとして包括的に過ぎ、イメージが拡散するようであれば、特定の定義(法人設立根拠法の限定列挙など) や基準(規模の大小や社会・経済的立場(例えば従属的で劣位にあるなど))を限ったうえで、該当するものを振興・支援の対象として画定する方策も考えられる。
NPO法制定以来、全国の自治体に拡がった協働政策は当初、協働のパートナーとして、制度化された既成の旧公益法人や特別法法人ではなく、市民活動につとめるボランティア団体や新興のNPO法人に特化した協働・連携施策が多数展開された15)。
構成員の「属性」をある程度特定でき、共益性や私益性に傾斜せずに公益性が認められるような非営利法人(非営利組織)、例えば喫緊の社会的課題に関わる当事者団体などを対象として振興・支援することも一つの方向性として考えられる。
III 統一論題:三つの観点
上記のように、営利・非営利の両セクターに属する民間法人(民間組織)の振興と支援を歴 史的にも俯瞰した上で、「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」を統一論題として掲げた。 非営利法人(非営利組織)の一層の充実と伸展を支える振興策や支援活動等について現状を把握、評価し、解決の急がれる課題と取り組むべき方策等を明らかにするのが直接的な企図・ 趣旨である。
この統一論題を議論する観点としては、「個人」「組織」「政策・制度」の三つを置き、それらの相互関係にも目配りしたいと考えた。すなわち、「国民、市民や専門家など個人」や「民間企業、中間支援組織、士業団体など組織や団体」など振興・支援の「主体」と、振興・支援の「方法・手段」として実施・活用される「(国・地方自治体の)政策、制度」という3側面とそれらの側面相互の関係性も踏まえつつ、理論と実践をつなぐ議論を目指した。 この観点を図解すると図1のとおりである。
図1 統一論題:三つの観点

出所:筆者作成
IV 統一論題:報告及び討論
大会当日の議論は、統一論題設定の背景、動機、論点を示唆する司会者による「解題」を皮切りに、3名の報告者による個別の「研究報告」、次いで時間をおいて同日に「討論」が行われた。「討論」では、討論者を兼ねる座長(筆者)から、3報告に対してコメントと質問がなされ、各報告者から回答、コメントが返された。フロアか ら寄せられた質問にも、指名を受けた報告者から応答がなされた。
以下本稿では、筆者の観点から、各報告について(1)報告要旨(1問題関心、2アプローチ、3報告者の考察)と、(2)統一論題の三つの観点から見た各報告の意義に分けて紹介したうえで、筆者の(3)「討論」の要点を掲げる。
1 第一報告
(1) 報告要旨
第一報告は、「専門職・士業団体による公益的活動と非営利法人の振興と支援~弁護士及び弁護士会の取組みを事例として」と題して、三木秀夫氏(弁護士)が行った。冒頭、三木氏が弁護士、プロボノとして早期から培った非営利法人(非営利組織)への持続的な関心と、さまざまな非営利法人への多角的な関与の経験が紹介された。
(a) 問題関心
報告の問題関心は、個別題が示すとおり「専門職・士業団体の制度的な位置づけとその公益的活動とは何か。それらの公益的活動には、非営利法人の振興と支援に当たるものがあるのか」という点である16)。
(b) アプローチ
アプローチとしては、関係法制、弁護士会の内部規範の意味と解釈・運用、弁護士会と所属弁護士の関係を巡る争点についての裁判例を示しつつ、統一論題について正面から論じるものであった。
(c) 報告者の考察
報告では、1個々の弁護士個人の自主的自発的な公益的活動による振興と支援、2弁護士の強制加入に基づく単位弁護士会やそれらの連合会という組織による振興と支援、3弁護士や弁護士会の運動や提言から生まれたり、それらが深く関与して推進、整備されている政策や制度による振興と支援、という三つの局面とそれらの相互関係が論じられた。
(2) 統一論題の観点から見た意義
第一報告は、前掲の統一論題の観点からは、図2上段の図のように図解できる。
第一に、1「個人」としての弁護士による非営利法人(非営利組織)の振興や支援は、個人 の自主的・自発的なものと、弁護士会の構成員として遵守すべき規範に基づくものがある(プロボノの概念は両者にまたがる)。
②「組織」としての弁護士会の活動には、「直接的な非営利法人(非営利組織)の振興と支援」はない。しかし、弁護士会の多種多様な公益的活動の中で、非営利法人との連携・協働は非常に多く、その意味では、間接的に非営利法人の振興や支援に寄与すると見られる活動は多数に上る。
③「政策・制度」による振興や支援としては、犯罪被害者等支援制度や日本司法支援センター (法テラス)など制度化された支援と連携・協働する犯罪被害者等支援センターなど非営利法人が全都道府県にあり、非営利法人の振興や支援に寄与するものと考えられる17)。
第二に、④今後の方向性としては、非営利組織など市民活動団体への多様な支援を業務として行っている多くの「中間支援組織」と弁護士会とが連携する方策を開拓していくことにより、中間支援組織の先につながっている非営利法人(非営利組織)の振興や支援を増すことになるのではないかと提言された。
なお、本大会報告後、報告者(三木氏)が大阪弁護士会会長在任中に手掛けた組織改革が2024年度に入り実現し、同会の中小企業支援センターの支援対象をNPO法人等にも拡げて改称するとともに委員会組織に昇格させ、「中小企業・NPO法人等支援センター運営委員会」として7月1日に発足している。中小企業とNPO法人等を併せて支援対象とする委員会組織は全国の弁護士会では初めての取組みという18)。
(3) 討論
第一報告に対する「討論」は主に次の2点である。
(a) 士業団体における公益志向性の受動(義務付け)と能動(自発性)
報告者も強調されたように、士業団体の中でも弁護士会の公益志向性は、他の士業団体の根拠法の目的規定と比べても大いに異なる強い側面をもっている。組織規範にある「社会正義の実現」にも公益志向性重視の姿勢が表れている。同業者団体としての共益性を持ちつつ、強制加入による会員統制もあって、強い公益志向性を帯びた団体であると考えられる。
すると、こうした組織の構成員である個人(弁護士)には、弁護士会会員として「義務づけられた公益志向性」と「自発的な公益志向性」の二面性が見て取れるが、非営利法人(非営利組織) の振興・支援を、組織としての公益志向性、個人にとっての公益志向性とどのように絡めて促進しようとしているのか。
(b) 次世代への継承
弁護士会の世代構成を考えたとき、「非営利法人(非営利組織)の振興・支援」は、次世代の若い弁護士らにミッションとして継承されるだろうか。あるいは継承するための手立てをどのように講じているだろうか。
2 第二報告
(1) 報告要旨
第二報告は、「非営利法人の振興に寄与する『中間支援』とは何か―NPO そして中間支援組織の言語論的転回の視点―」と題して、吉田忠彦氏(近畿大学)が行った。冒頭、報告者が経営学、組織論の研究者として、非営利法人(非営利組織)への問題意識を抱いた経緯と、研究対象としてきた「中間支援組織」の系譜、現状の紹介がなされた。
(a) 問題関心
報告の問題関心は、個別題に示すとおり「非営利法人の振興に寄与する『中間支援』とは何か」という点である。報告では、研究の目的を「・非営利法人の振興に寄与する『中間支援』とは何かを論究する」および「・『NPO』、『中間支援組織』」を、言語と活動との関係から分析する」とした。
(b) アプローチ
報告者による中間支援組織に係る国内調査の結果を引用しながら、わが国で非営利法人(非営利組織)の「中間支援組織」と見なされる組織の系譜と発展の経緯が整理された。
次いで、「中間支援組織」という用語とその意味を分析するアプローチとして、「人文学における言語論的転回の視点を導入」するとして、ソシュールの提示した概念、術語を援用した説明が行われた。
(c) 報告者の考察
第一に、中間支援組織は、その呼称によって時系列的に三つの時期に分かれるとした。当該組織が出現(設立)した時期において、①[それらの組織が]まだNPO、中間支援組織と呼ばれていない時代、②「サポートセンター」「インターミディアリー」と呼ばれた時代、③「中間支援組織」という呼び方[呼ばれ方]が普及した時代の3期であるという19)。
次に、中間支援組織の設立を4パターンに分け、各パターンに該当する具体的事例(設立年) が紹介された。すなわち、[1]「情報センターなどとして立上り、後で中間支援組織と呼ばれる」(アリスセンター:1988年)、[2]「市民活動分野の先行団体が後発団体を支援するようになった」(日本NPOセ ン タ ー:1996年)、[3]「はじめから『中間支援組織』として設立」(大阪 NPOセンター:1996年)、[4]「市民活動支援施設を運営するために設立」(地域型中間支援組織: NPO法成立に向けた運動と連動して設立)20)。
第二に、中間支援組織という用語とその意味を分析するアプローチとして、「・人文学における言語論的転回の視点を導入」するとし、ソシュールの提示した概念、術語を援用して説明している。
ソシュールのラング(共通の言語規則)とパロール(言語行為)の区別21)は、ラングが「中間支援組織の共通認識」、パロールが「個々の中間支援組織への言及」に相当するという。シニフィアン(音しての言語)とシニフィエ(意味としての言語)の恣意的な結びつけは、シニフィアン (「中間支援組織」という音)とシニフィエ(意味としての中間支援組織)の結びつけが恣意的であることに対応するものととらえている22)。
第一に 、 ② 「 N P O 」、「 中間支援組織」 を言語と活動との関係から分析すると、
・「NPO」、「中間支援組織」の実体があったので言語が生まれたのではない 。「 NPO」「中間支援組織」という言語ができたので、それに合うように既存団体が変化したり、新しい団体や事業が生まれた。
・「中間支援(組織)」という言語の普及・一般化によって、市民活動や運動の固有の目的や必要な支援が埋没化するリスクが生まれる(「言語論的転回の視点」による考察)。
第二に、1非営利法人の振興に寄与する「中間支援」とは何かについて、「今後の方向性」として、一つには「・『NPO』、『中間支援組織』という言語の解体の必要性が知覚される(実体と言語との脱連結、再連結)」とし、二つには「・ 団体と支援事業の『専門化・分化化』と『統合化・連結化』との2方向への進化」という2点が挙げられた23)。
(2) 統一論題の観点から見た意義
第二報告は、前掲の統一論題の観点からは、図2中段の図のように図解できる。
統一論題との関わりでいえば、上記の結論は、第一に、①「個人」としての振興・支援や、③「制度・政策」による振興・支援に直接言及するものではない24)。②「組織」による振興、支援に焦点を当てた考察である。
非営利法人(非営利組織)の振興と支援を担う組織の呼称として「中間支援組織」という言語(用語)が普及・一般化した現在、その普及・一般化した用語の「実体」として一般に理解されているものが、実は必ずしも実際の市民活動や運動の固有の目的や必要な支援に即したものになっていないのではないかと指摘している25)。
その上で、呼称(「言語」)に制約され硬直化した「実体」ではなく、実際の振興や支援の要請に応えられるように、「実体」と「言語」との脱連結、再連結を説く。今後の組織のあり方の方向性として、団体(中間支援組織)と支援事業の「専門化・分化化」と「統合化・連結化」の2方向への進化を示している26)。
図2 統一論題の三つの観点からみた3報告

出所:筆者作成
(3) 討論
第二報告に対する筆者の討論は、主に次の2点である。
(a) 中間支援組織論への「言語論的転回」概念の援用、あてはめの説得性
報告者は、ある組織群を説明するために「中間支援組織」という言語を用いたのではなく、「中間支援組織」という言語によってある組織群(非営利組織を支援する機関)のことが理解できると説明する。では現在、私たちは一般に、「中間支援組織」という言語を「非営利組織を支援する機関」と等しいものとして理解しているといえるだろうか。報告者の論であれば、かりに「中間支援組織」という言語ではない「N組織」という名称を用いれば、違う組織群が掬い取られることになるが、中間支援組織論に言語論的転回を援用しあてはめる意味や意義はどこにあるのか27)。
(b) 言語論的「再転回」の方向性
第二に、報告者の述べるように、本来、中身があってそれを表す表現であるべきところ、表現が先で中身が後付けになっていることを「転回」と解するのであれば、報告者の意図は、「さらに一転回させて、中身に即した表現、名称が必要である」という主張に結びつけようとしていることになるのか。仮にそうであるならば、今の「中身」を表す「表現」をどのように考えるのか。そして、そのように考えることは、報告資料14.考察3の「方向性」でいえば、「統合・ 連結の方向性」になるのだろうか。報告者は一方で「分化の方向性」も挙げている。分化の方向性を探った場合、「中身」と「表現」が分離、乖離している現状を容認することになるのではないか。
報告資料13.考察2の、特に2の視点(シニフィアンの埋没化?)から、14.考察3の「方向性」に示される①シニフィアンの解体と、②シニフィアンとシニフィエの分化あるいは統合・ 連結がどのように導かれるかという点は、現存する多くの中間支援組織の今後の進路の選択を考える上で示唆を与えることになると思われるが、報告者自身はどのように考えるのか。
3 第三報告
(1) 報告要旨
第三報告は、「非営利法人の官民協働理論の応用としての『フィランソロピー首都』創造に向けた取り組み」と題し、出口正之氏(国立民族学博物館)が報告された。冒頭、非営利研究者として、文化人類学的な視点から会計問題に関心を伸展させてきた報告者の、非営利セクターの振興と支援に関するこれまでの取組みが紹介された。
(a) 問題関心
報告者の問題関心は、「アンソロ・ビジョン」 (Anthro Vision:人類学的思考)で非営利法人制度を再検討することにある。
(b) アプローチ
報告者の自治体政策への参与の経験について、時系列に事実経過と活動成果を紹介した上で、報告者が実践の理論的支柱として援用した枠組みに照らして、当該参与経験・実践内容が分析された。
具体的には大阪府・市の政策に6年間にわたり参与し、その「副首都ビジョン」(2017年)で副首都の4機能の1つに挙げられた「民都」の具現化を図り、非営利セクター全体の民間組織を目指す「『民都・大阪』フィランソロピー会議」を発足させて運営してきた経験とその活動成果が報告された。次いで、この「民都・大阪」 フィランソロピー会議の運営の羅針盤として、Brysonらの論文で示された「セクター間協働」 の成功の要素に係る「22の提案」を参照したことを述べ、当該枠組みを適用・援用した局面の解説と、その成果を「5.小さな勝利(δVδV)」 と評価した上で、今後の展望が語られた。
(c) 報告者の考察
考察の中では、上記の「セクター間協働」の理論を適用して有意義(処方として有益)であった点を、「22の提案」と対照させながら詳説された。
(2) 統一論題の観点から見た意義
第三報告は、前掲の統一論題の観点からは、 図2下段の図のように図解できる。
第一に、①「個人」による振興・支援としては、報告の前史として、報告者が企業財団に在籍しつつフィランソロピー税制についてのアドボカシー(政策提言)に携わったことや、大学に転じた後、神奈川地域のNPO活動に携わったほか、税制調査会委員、公益認定等委員会委員などを歴任し、非営利法人(非営利組織)の振興・支援の制度化、改革に参画したことが一つの範例として受け止められる。
②「組織」による振興・支援としては、民間非営利セクターの横断的組織を提言し、ときの自治体政権の主要政策に位置づけて「民都・大阪フィランソロピー会議」を具現化した。こうした協働体組織の運営について、理論的支柱とした論考の内容と往還しながら実践が展開されたことが理解される。
③「制度・政策」による振興・支援としては、「フィランソロピー」という概念を中心に据えて「フィランソロピー首都」という新たな都市政策を構想し、その具現化を図る活動に、自治体として公式に着手するに至ったことが注目される。
(3) 討論
第三報告に対する筆者の討論は次の点である。
(a) 「セクター間協働」と「セクター内協働」
第一に、報告者が実践の理論的支柱として参照した理論は、3セクターにわたる多元的な主体の協働体を形成する上での成功要因、処方箋を説く内容であった。一方、報告された実践事例である「民都・大阪フィランソロピー会議」は、3セクター間を横断する協働組織ではなく、非営利セクター内で縦割りになっている法人類型を横断する非営利法人(非営利組織)の結集組織としてスタートした。理論的支柱とした「セクター間協働」の理論との関係からは、「セクター内協働」組織についてどのように考えるべきか。
(b) 非営利法人(非営利組織)の振興・支援に向けた示唆、教訓
第二に、「民都・大阪フィランソロピー会議」は、非営利法人(非営利組織)が結集した組織でありつつ、政策主体として、制度・政策を創造していく存在を企図したものでもあったことがうかがえる。「フィランソロピー」という概念を前面に立てて、非営利法人(非営利組織)を振興・支援する政策を創出し、制度化を図る社会的な実験でもあったといえる。
報告者や関係者が傾注した努力は大きなものであったと思われるが、報告者がこの実践を通じて、今後、非営利法人(非営利組織)の振興・支援について、同様のセクター間協働やセクター内協働に取り組む後続者、追走者に対して、特に示唆や教訓として伝えたいことは何か。
V おわりに
以上、統一論題報告について、論題を着想した背景、非営利法人(非営利組織)への新たな時代的要請や役割期待について述べた上で、振興と支援に係る政策や法律の現状を整理し、それらを手掛かりとして、非営利法人(非営利組織) の振興と支援のための方向性や方策を検討した。①政策の優先度の向上、②文化や産業としての再定位、③振興・支援の対象とする区分や属性の確定が課題である。
次に、統一論題報告における三つの報告の要点と、統一論題との関わりを検討した。
非営利法人の振興や支援は、①市民や専門家などの「個人」、②自治体、企業、中間支援組織、士業団体などの「組織」、③個別の「政策」や「制度」によって行われてきた。これら三つの観点から見ると、第一報告は、「個人」と「組織」 による振興・支援策、特に当該組織(弁護士会) 構成員の属性(弁護士)に着目した報告であった。第二報告は、振興・支援を担う「組織」(中間支援組織)の呼称と実体について考察する報告であった。第三報告は、「組織」(「『民都・大阪』フィランソロピー会議」)と「政策・制度」(「副首都」構想、「フィランソロピー首都」構想)の関わりに着目した報告であった。
前掲2(2)(b)’の「文化や産業としての再定位」 という方向性に照らすならば、第一報告は中小企業に比肩する(事業型の)NPO法人等への支援に関心を寄せ、第三報告は、フィランソロピーという文化的概念を目標設定に活用した取組みを報告するものであったといえる。
さらに、筆者による各報告に対する討論の要旨を掲げた。大会では、討論や会場からの質問に対して、各報告者から各々回答が述べられた。本稿では紙数の関係で回答の詳細にふれることはできないが、それらの子細は、各報告者が本誌に寄稿された論考に示されているものと思われる。
今後、非営利法人(非営利組織)の振興・支援は、営利法人(営利組織)の振興・支援とバランスをとりながら進められる必要があると考える。①市民個人の認知度向上や意識啓発、②官民組織の支援事業の刷新や創造、③非営利法人を直接目的とする振興法や支援法の制定などの検討と、それらの法律に基づく政策や制度の充実が要請される。
本学会において、非営利法人(非営利組織)の振興と支援について、立体的かつ持続的な議 論が今後とも深められることを期待したい。
最後に、全国大会において、統一論題報告・討論でご登壇いただいた皆様と、ご質問をいただいた出席会員の皆様に厚く御礼申し上げます。
[注]
1)『精選版日本国語大辞典』小学館、2006年。
2)従来のX振興法について、目的とするX概念の意味内容を見直し拡張したうえでX基本法に改称する例が見られる。1964年東京オリンピック開催前に制定されたスポーツ振興法が2011年全面改正され、スポーツに係る施策を国家戦略として位置づけるスポーツ基本法が制定された。また、2001年に制定された文化芸術振興基本法が、2017年法改正により題名が文化芸術基本法に改められた。
3)中小企業庁[2020]は、中小企業政策の変遷を概観する中で、中小企業基本法制定(1963 年)当時においては、「中小企業とは『過小過多(企業規模が小さく、企業数が多すぎる)』 であり、『一律でかわいそうな存在』として認識されていた。また、中小企業で働く労働者は社会的弱者であり、こうした者に対して社会的な施策を講ずるべきとのスタンスで政策が講じられてきた。」(III-2)とし、振興・ 支援を必要とする中小企業の状況が一般に共有され、政策の支柱ともなっていたことにふれている。 同基本法と同じ1963年に制定された中小企
業支援法(制定時名称:中小企業指導法)は、第1条で「この法律は、国、都道府県及び独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業支援事業を計画的かつ効率的に推進するとともに、中小企業の経営の診断等の業務に従事する者の登録の制度及び中小企業の経営資源の確保を支援する事業に関する情報の提供等を行う者の認定の制度を設けること等により、中小企業の経営資源の確保を支援し、もつて中小企業の振興に寄与することを目的とする。」と定め、第2条第1項で「中小企業者」、第2項で「経営資源」の定義規定を置いている。
4)横尾[2005]、59頁。
5)横尾[2004]、31頁。
6)林、山岡[1984]、第一部、第三部参照。
7)2022年に全国を対象に一般法人の組織運営に関する実態調査を実施した中で、一般法人の事業について日本標準産業分類を用いた業種分類を行った結果について、公益財団法人日本非営利組織評価センター[2023]、121- 129頁参照。調査対象法人の業種は、大分類の「R サービス業(他に分類されないもの)」、とりわけその中分類の1つである「93:政治・ 経済・文化団体」に集中した。中分類93は、同分類の総説で「この中分類には、経済団体、労働団体、学術文化団体、政治団体などの他に分類されない非営利団体が含まれる」とし、小分類として、これら経済団体から政治団体以外の「939 他に分類されない非営利団体」 を設け、細分類9399に多様な非営利事業が例示されている。中分類・小分類自体が「他に分類されない」という残余概念による包括的なものであるため、同分類では、非営利法人の事業分類が、実態を踏まえた体系的なレベルに至っていないように思われる。非営利セクターに相応しい業種分類の検討の必要性は高い。初谷[2023]、24-25頁。
8)高田[2021]、279頁。
9)同上、281頁。
10)同上、239-241頁。
11)例えば、下請中小企業振興法(1970年)第2条第1項の「中小企業者」、同条第4項の「下請事業者」の定義を参照。
12)この点に係る問題の構造と議論の内容については、後[2009]、「第5章 NPO-行政関係
の戦略論的考察」(93-157頁)に詳しい。
13)初谷[2001]、「第1章 NPO政策 1.1.2 NPO政策の定義」(92-94頁)、 初谷[2012]、「序章公共マネジメントとNPO政策 2 鼎立するNPO政策―NPO政策論の構図と枠組み」(12-18頁)。
14)中小企業庁[2014]、1-4頁。
15)初谷[2012]、「第5章 ローカル・ガバナンス(地域共治)と自治体NPO政策」。東京都杉 並区の地域共治とNPO政策を事例として取り上げている。
16)弁護士及び弁護士団体の歴史については、大野編[1970]、特にその第1章(大野)を復刊した大野著、日弁連法務研究財団編[2013] も参照。
17)本大会報告後、2024年4月、総合法律支援法が改正され、法テラスの業務として犯罪被害者等支援弁護士制度が導入された。
18)大阪弁護士会のウェブサイトによれば、同運営委員会は「中 小 企 業・NPO法人等支援 センターを運営し、『ひまわりほっとダイヤル』 をはじめとする中小企業・NPO法人等に対する支援並びに支援に関する調査、研究、広報、連絡協議を行って」いる。「大阪弁護士会について 委員会紹介」(https://www.osakaben.or.jp/01-aboutus/committee/index.php) 参照。
19)提示された3期は概括的な区分で、何年から何年までといった具体的な期間については言及していない。このことは、中間支援組織とされる組織は、設立時期がこれら3期のいず れであるかによって、設立時の呼称が異なるだけでなく、一つひとつの組織に着目すれ ば、その組織が存続して1~3のうち3期、あるいは2期、1期を経る過程で、その呼称が移り変わった例もありうることを示唆する指摘であるといえる。
20)この4パターンのうち、[1]は上記の3期(1 ~3)の区分に照らせば、1の時期に設立されたものといえ、[2]・[3]は2の時期以降に設立されたものと見られる。[4]は、3の時期に設立されたものが想定されているのであろう。以上を小括し、報告者は、「『NPO』、『中間支援組織』という言語と、実際の組織やその活動とは必ずしも一体のものではない。(実体と言語との結びつきに『ゆれ』 がある)」とする。
21)ラングは「ある言語の話者が集団的に共有していると考えられる言語的知識」、パロール は「ある言語の話者が産み出す具体的な文章 や話の総体」をいう(風間他[2004]、2-4頁、 ソシュー ル[1972]、27頁、 西田編[1986]、 8 - 9頁)。言語記号のシニフィアン(能記、記号表現)とシニフィエ(所記、記号内容)は、「語の音形」と「語の意味」を言い換えたものとみなされる(風間他[2004]、4-6頁。ソシュール[1972]、95-97頁)。前者を「表現するもの」、後者を「表現されるもの」とし、「neko」と「猫」を例示するものとして西田編[1986]、 10-12頁。
22)報告の問題関心、研究の目的は、①非営利法人の振興に寄与する「中間支援」とは何かを考察し、②「NPO」と「中間支援組織」を言語と活動との関係から分析することであった。結論としては、この目的2についての回答から目的1の回答を導く順で報告がなされたといえる。
23)この「方向性」の1点目にいう「『中間支援組織』という言語の解体」とは、そのままでは分かりにくいが、報告者がこの3年間にわたり発表してきた別稿(吉田[2023]:アリス センターのケースを取り上げて論じた「中間支援組織の解体」)を参照すると、そこで展開し た議論の延長線上にある見解であることがうかがい知れる。2点目は、中間支援組織という団体が「実体」としてどのような機能や事業を担っていくべきかという方向性を示唆するものといえる。
24)報告者の別論考では、「中間支援組織」は、 「個人の乗り物」であり「制度・ロジックの乗物」としての意義が強調されており、個人は組織を通過したり、制度・ロジックは組織に注入・導入されるものとされている(吉田 [2023]、209-213頁)。
25)この点は、報告者が、別の論考で、「『インターミディアリー』なり『中間支援組織』という用語がより広い領域と意味をもって普及することによって、その中に市民活動を支援することをミッションとする組織が埋没し、その本来の意図や意義が希薄化してしまう恐れがあることである。汎用的な『中間支援組織』として、そこで標準的とされる事業をやることしか意識しない市民活動支援組織が増え、さらにこれらの組織が市民活動の意義についてより自覚的な組織を駆逐してしまう恐れもある。」(同上、206頁)として、「中間支援組織」という用語が広い領域と意味をもって普及し汎用化することに懸念を示している点に通じる。
26)この点は、広範な領域や意味に膨らんだ「中間支援組織」という実体を腑分けして、市民活動支援に特化し、先祖返りする部分を専ら担う「専門化」を求めているようにも受け止められる。しかし、もう一方の「統合化・連結化」は何をどうすることなのか。民間非営利セクターを代表するような組織が想定されているのか否か、また、それがなぜ進化なのか、説明がない点憾みが残る。
27)ソシュールによれば、言語は記号の体系として捉えられ、言語記号の二つの要素である 「音」と「意味」の関係はきわめて恣意的なものであるとされる。二つの要素の結合を記 号として認めて慣用することで、はじめて記号の使い手を拘束する力を持ってくる。生活 の変化に伴い音と意味はいずれも変化することから、言語記号を形成している音声と意味 のずれが生じるという。例えば「サカナ」ということばは元々「酒の菜」を意味し、いろ いろな食材を含んでいたが、「酒の菜」というと、「魚」が多かったことから、やがて「サカナ」が「魚」を表す言語となったとされる (風間 ほ か[2004]、184-185頁)。 この例を援 用して考えるならば、「中間支援組織」ということばは元々いろいろな組織を含むものと して音と意味が結合していたところ、非営利法人(非営利組織)が顕在化するにつれ、「中間支援組織」に含まれる組織の中に「非営利法人(非営利組織)の支援機関」が多くなった。 その結果「中間支援組織」といえば「非営利法人の支援機関」のことであると結合して理解されるようになったという説明がありうる。しかし、実際には今日、中間支援組織は依然として、あるいはますます多様な組織を含むものとなっている。例えば、営利組織を支援する「認定支援機関」制度も、2012(平 成24)年8月、中小企業経営力強化支援法(現在の中小企業等経営強化法)が施行され、経営 革新機関等を認定する制度として普及し今日に至っており、認定支援機関には士業をはじめ金融機関や商工会議所など様々な組織が含まれる。
つまり、音の「中間支援組織」は、かつても今も、意味において「非営利組織の支援機 関」と等しいものとして収れんしてはいない。
[参考文献]
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・中小企業庁[2014]「NPOなど新たな事業・ 雇用の担い手に関する研究会中間論点整理」
・中小企業庁編[2020]『中小企業白書・小規模企業白書 2020年 版 (下) 地域で価値を生み出す小規模事業者』
・公益財団法人日本非営利組織評価センター [2023]「一般社団法人及び一般財団法人の組織運営に関する実態調査」報告書
(論稿提出:令和6年7月12日)
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