≪統一論題解題≫公益法人改革の方向性―税制、会計、ガバナンスの相互関連性に着目して―
- 非営利法人研究学会事務局
- 3月5日
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早稲田大学商学学術院教授 金子良太
キーワード:
公益法人改革 収支相償原則 会計基準 ガバナンス 財務規律 情報開示
要 旨:
公益法人改革は、公益活動の透明性と効率性を高めることを目指す包括的な取り組みであり、税制、会計、ガバナンスが相互機能して実効性を有するものである。本稿では、税制面での非課税措置の妥当性と財務規律の適切性、会計基準における受託責任の履行、そしてガバナンス強化に向けた課題を取り上げる。税制では、公益目的事業と収益事業の区分や説明責任の明確化が重要な課題である。会計では、情報開示の充実や財務規律の維持が求められ、ガバナンス面では、理事会・評議員会の透明性確保が公益法人の信頼性向上に直結する。これらの要素が相互に影響し合う中で、公益法人の持続可能な発展と社会的信頼の向上を実現するための方策を論じる。
構 成:
I はじめに
II 公益法人改革と税制
III 会計面の改革
IV ガバナンス面の改革
V 税制、会計、ガバナンスの相互関連性と今後の展望
Abstract
The reform of public interest corporations aims to enhance the transparency and efficiency of public interest activities by addressing the interconnections among taxation, accounting, and governance. This paper focuses on challenges such as the appropriateness of tax-exempt measures and financial discipline in taxation, the fulfillment of fiduciary responsibilities and information disclosure in accounting, and the strengthening of transparency in governance. In taxation it is important to clearly distinguish between public interest and revenue-generating activities, while accounting emphasizes the importance of maintaining financial discipline and improving disclosure practices. Governance requires enhancement of the transparency of boards and councils, which directly impacts organizational trust. This study was conducted to identify measures that would promote sustainable development and improve societal trust in public interest corporations.
※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。
Ⅰ はじめに
公益法人制度は、2022年 9 月に設置された「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」等により改革の方向が検討された。 2023年6月に最終報告書が取りまとめられ、2024年 5 月に関連法案が成立し、2025年 4 月から新しい公益法人制度が始まっている。公益法人は、民間公益を担う主体として大きな潜在力を有しているが、現行制度の財務規律や手続の下では、その潜在力を発揮しにくいとの声もあり、①財務規律等を見直し、法人の経営判断で社会的課題への機動的な取組を可能にするとともに、②法人自らの透明性向上やガバナンス充実に向けた取組を促し、国民からの信頼・支援を得やすくすることにより、より使いやすい制度へと見直しを行い、民間公益の活性化を図ることが意図されている。
この改革は、税制、会計、ガバナンスの 3 つの側面に大きな影響を与える包括的な取り組みである。本稿では、統一論題における税制、会計、ガバナンスに関する 3 報告を踏まえて、これらの側面における主要な論点と課題、そしてそれらの相互関連性について考察する。大会当日の議論は、統一論題設定の背景や論点を示す座長による報告を筆頭に、 3 名の報告者による個別の研究報告、同日に議論が行われた。本稿は、座長である筆者が 3 報告のうち特に重要と思われる点を敷衍し、包括的に論じるものである。なお、以下は座長としてまとめたものであり、各報告者の意図を十分にくみ取れていない点があるとすれば、座長である筆者の責任である。また、本報告は2024年10月 5 日に行われ、その後の公表物(10月に公布の認定法の改正施行令、同法改正施行規則等ならびに12月に公表された公益法人会計基準及び運用指針)の内容を前提としていないことにも留意されたい。
II 公益法人改革と税制
第一報告は、「公益法人改革と法人税非課税 の考察」と題して、苅米裕氏(税理士)が行った。
1 公益法人における非課税措置の起源と継続
公益法人における非課税措置の起源は、江戸時代の感恩講にまで遡ることができる。この長い歴史を持つ非課税措置は、現代の公益法人制度においても重要な位置を占めている。公益法人に対する税制優遇の根幹である公益目的事業の非課税措置は、改革後も継続される。各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得以外の所得については、法人税を課さない(法人税法 6 条、法人税法施行令 5 条 1 項)。また、法人税法上の収益事業に該当する事業であっても、公益目的事業と認定されている場合には法人税が課税されない(法人税法施行令 5 条 2 項 1 号)。この原則非課税措置の継続は、公益法人の活動を支援し、社会的課題の解決を促進する上で重要な役割を果たす。一方で、公益目的事業の範囲の明確化や、収益事業との区分の適切な管理が課題となる。
2 財務規律の確保と柔軟化
公益法人の財務規律として重要な「財務三基準」が、見直されることとなった。具体的には、 中期的な収支均衡(収支相償原則)、公益目的事業比率、使途不特定財産(遊休財産)の規制である。これらの基準は、公益目的事業を適正に 実施しているかを検証する役割を果たすとともに、公益事業活動を行うための基盤を示す重要な指標となっている。
特に、収支相償原則の見直しが重要な論点となっている。収支相償原則については、従来の単年度での収支均衡から、中期的期間( 5 年間)での収支均衡へと変更される。これにより、法人はより長期的な視点で事業計画を立てることが可能になる。一方で、中期的収支均衡の判断基準や、赤字が続いた場合の対応など、具体的な運用方法が課題となる。
また、財産規制の見直しも併せて行われ、遊休財産規制については、現行の公益目的事業費の 1 年分を超える財産の保有制限に代えて「公益目的事業継続予備財産」の保有が可能になる。 また、「遊休財産」も「使途不特定財産」に改められる。これにより、法人は予測不可能な事態に備えてより柔軟に資金を確保できるようになる。予備財産の適切な規模や使用基準の設定が課題となる。
さらに、将来の公益目的事業の発展・拡充のために、より柔軟な資金積立が可能になる「公益充実資金」が創設されている。従来の特定費用準備資金・資産取得資金は、各事業別・資産別に資金を積立管理されていたが、公益充実資金は複数目的のための一つの資金として管理され、公益目的事業間での資金融通が可能で、将来の新規事業に備えた積立も可能である。公益充実資金の創設は、公益法人の財務基盤の強化につながる可能性がある一方で、制度の適切な運用と監督が求められる。特に、公益充実資金の使途や積立限度額の設定などについて、詳細な検討が必要となる。
3 公益法人の原則課税論と原則非課税論
公益法人改革を考えるうえでは、そもそも公益法人は非課税なのか否か、という問題から避けて通れない。苅米氏は、原則課税論と原則非課税論とを次のように図表化して説明された (表1)。
原則課税の立場に立つ場合には、所得が生じた場合には一旦課税をして、公益活動等に財産を費消した段階で還付する。原則非課税の立場に立つ場合には、所得が生じた時点では非課税とし、公益活動等に費消しなかった段階で精算課税を行うこととなる。詳細な内容や各論の是非についてはここでは触れないが、いずれの立場かによって制度設計等も大きく変わってくる。
表1

出所:非営利法人研究学会第28回全国大会「公益法人改革と法人税非課税の考察」2024年10月、苅米裕
4 公益法人改革における税制面の見直しと課題
公益法人改革における税制面の見直しは、公益法人の透明性、説明責任、効率性を高めることを目指している。原則非課税の継続のもとでより厳格な財務規律とガバナンスが求められる一方で、公益活動の柔軟性と持続可能性を確保するための改革が進められている。収支相償原則の見直しや公益充実資金の創設は、公益法人の長期的な視点での事業運営を可能にする一方で、適切な運用と監督が課題となる。最後に課題として、共益事業(会費収入等)、対価性のないもの(寄附金収入)等の課税上の整備が挙げられ、本報告が締めくくられた。
III 会計面の改革
第 2 報告は、「公益法人会計における財務規律と情報開示」と題して、兵頭和花子氏(大阪経済大学)が行った。
1 財務三基準の見直し
財務三基準の見直しは、公益法人の財務管理の柔軟化を図る一方で、それに代わる適切な財務規律の維持という課題を提起している。これらは前述した税制面だけではなく、会計面にも大いに関連する課題である。
2 「公益」のための説明責任(アカウンタビリティ)
公益法人における説明責任は、委託・受託関係から生じる受託責任に基づく説明責任が重視される。公益法人は寄付に多くを依存するが、 寄付者による資源の使途指定がある場合、その意図に従った資源の使用に対する証明として説明責任の履行が必要となる。
ちなみに英国チャリティでは、ファンド会計 (fund accounting)が採用されており、使途指定のある資源と使途指定のない資源を区別して管理することが要請されている。英国チャリティ委員会は、財務報告における説明責任や透明性を重視しており、年次報告書やファンド会計、各種の財務書類などを通じて説明責任の履行と透明性の提供を目的としている。
3 公益法人会計基準の改正
日本においては、公益法人の会計に関する研究会は、新制度に整合する会計基準の検討を行い、2024年 5 月に報告書を公表した。活動計算書への変更点としては、一般正味財産(一般純資産)と指定正味財産(指定純資産)の区分表示を本表では行わず、純資産全体の増減を経常活動・その他活動に区分すること、振替処理を見直すこと、内訳表等を注記へ移行することなどが挙げられる。
会計研究会による活動計算書についての懸念事項として、公益目的事業における経常収益と経常費用からの収支相償が本表では計算できないこと、指定正味財産と一般正味財産の区分が本表にないことによる受託責任財産の明示・説明責任の履行への影響が報告の中で指摘され、本表上で財務規律を示す試案も示された。それぞれの会計区分で収益と費用を対応させる試案において、効率的な活動ができたかを把握可能となる。この他、会計基準の改正にあたっては、 他の非営利組織(例:NPO法人)との整合性を考慮し、情報提供者・情報利用者双方の負担軽減を図ることが望ましいとの考えが示され、本報告が締めくくられた。
Ⅳ ガバナンス面の改革
第三報告は、「公益法人改革とガバナンス」と題して、溜箭将之氏(東京大学)より報告が行われた。



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