≪統一論題報告≫公益法人改革と法人税非課税の考察―収支相償原則に整合する公益目的事業非課税と収益事業課税の検討
- 非営利法人研究学会事務局
- 3月5日
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税理士・千葉商科大学大学院会計ファイナンス研究科客員教授 苅米 裕
キーワード:
収支相償原則 公益目的事業非課税 収益事業課税 シャウプ勧告
公益法人制度 公益法人課税
要 旨:
改正公益認定法による収支相償原則等の見直しは、公益法人が社会的課題の変化等に対応し、公益的活動の活性化に取り組んでいくための体制整備を行ったものである。また、公益法人税制は、税制上の便宜を引き続き図ったものといえる。
公益法人課税は、公益法人制度と整合することにより、官と民の役割分担の架橋になると考える。そして、本稿の目的は、公益目的事業非課税から収益事業課税の本質を明らかにして、本来あるべき機能的な課税方式を検討することである。
公益法人課税は、所得の源泉から財産の費消に対する課税方式へ転換することにより、公益法人制度の理念に整合する。この課税方式は、本来の機能的な公益法人課税を実現する上においても有効である。そして、公益認定の基準を欠如したことによる制裁規定は、公益活動による適正な財産の費消を牽引する効果を有している。その結果、租税回避の濫用に対する抑止効果があると考える。
構 成:
Ⅰ はじめに
Ⅱ 公益法人改革による収支相償原則等の見直しと公益目的事業非課税の考察
Ⅲ 収益事業課税の見直しの機運と継続している実態の把握
Ⅳ 公益法人非課税から収益事業課税への転換
Ⅴ 公益法人制度と整合する公益法人課税の考察
Ⅵ おわりに
Abstract
Revision of the principle of balancing income and expenditures under the revised Public Interest Corporations Recognition Act has resulted in a system that enables public interest corporations to respond to changes in social issues and work to revitalize their public interest activities. Furthermore, the tax system for public interest corporations can be said to continue to provide tax relief. We believe that taxation of public interest corporations consistent with the public interest corporation system would serve as a bridge to clarify the division of roles between the public and private sectors. The purpose of this paper was to clarify the essence of taxation of profit-making businesses from the perspective of the tax-exempt status of charitable businesses, and to consider a functional taxation system that should be in place. Taxing public interest corporations would be consistent with the principles of the public interest corporation system by shifting the taxation method from one based on the source of income to one based on the consumption of assets. Furthermore, sanctions imposed for failing to meet standards for public interest recognition have the effect of encouraging the appropriate consumption of assets through public interest activities. As a result, we believe that this would serve as a deterrent to tax avoidance.
Ⅰ はじめに
令和 4 年(2022年) 6 月 7 日に内閣は、新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画の下、民間にとっての利便性向上の観点から、財団・社団等の既存の法人形態の改革を検討する旨の方針を打ち出した。この方針を受け、同年 9 月22日に内閣府特命担当大臣は、公益法人制度の有識者で構成される「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議1)」を発足した。新しい有識者会議の成果である最終報告は、令和 6 年(2024年)に定められた改正公益認定法、同法施行令及び同法施行規則の大規模な改正の基礎となっている2)。
最終報告では、公益目的事業3)の資金をできる限り効果的に活用するため、財務規律の柔軟化・明確化を主張している。この財務規律の課題としては、まず公益目的事業から生ずる収入の不安定かつ不確実性を考慮して、当該年度の剰余額又は欠損額に係る年度間の資金調整が必要であると考えられていた。また、臨時・偶発的に生じた年度剰余額は、将来の災害等不測の事態における公益目的事業の運営資金の確保に備えることが求められていた。当該課題は、改正公益認定法において、収支相償原則4)及び使途不特定財産額(旧遊休財産)の保有の制限5)に 関する見直しにより大躍進を遂げている。
一方、最終報告が公開された後、公益認定法その他関係法令等の改正の機運が高まり、意識は公益法人課税の改正に向けられていた。特に気になる動向は、公益目的事業非課税(法人税 法施行令 5 条 2 項 1 号)の継続有無、非収益事業所得等の非課税(法人税法 6 条、同法施行令 5 条 1 項、以下「収益事業課税」という。)に係る課税対象事業の範囲の見直しであった。その動向は、改正公益認定法が成立する前、令和 5 年12月22 日に閣議決定された令和 6 年度税制改正の大綱に記載され、早々に明らかにされている。それは、改正公益認定法が成立することを前提にして「収支相償原則の見直し等の公益法人制度改革が行われた後も、公益社団法人及び公益財団法人に講じられている措置を引き続き認めることとする」というものである。収支相償原則等の財務規律の見直しは、公益法人が社会的課題の変化等に対応し、公益的活動の活性化に取り組んでいくための体制整備を行ったものであ る。そして、税制上の便宜を引き続き図ったものといえる。
公益法人課税は、公益法人制度と整合することにより、官と民の役割分担の架橋になると考える。そして、本稿の目的は、公益目的事業非課税から収益事業課税の本質を明らかにして、本来あるべき機能的な課税方式を検討する。
Ⅱ 公益法人改革による収支相償原則等の見直しと公益目的事業非課税の考察
収支相償原則を定めた趣旨は、「公益目的事業の遂行に当たっては、動員可能な資源を最大限に活用し、無償または低廉な対価を設定することなどにより受益者の範囲を可能な限り拡大することが求められる。そのため公益目的事業を行うに当たり、当該公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得てはならないこと(実費弁償)を認定基準として設けることとした6)」と説明されている。しかし、現実に受益者の範囲を拡大するには、年度剰余額による資金の確保を目指す真逆の運営方針となり、公益目的事業の実施に要する適正な費用と収入との均衡を図る意識が希薄になる。一方、収支不足に陥る場合には、収支均衡をさておき寄附等による資金集めに翻弄され、健全な事業運営の遂行が危ぶまれる。公益法人は、公益目的事業の質の向上が求められるゆえに、安定的な財務体制の確保が重要な要素となる。
1 収支相償原則の見直しの概要と効果
改正公益認定法では、収支相償原則の規律が、公益目的事業に係る収入をその実施に要する適正な費用に充てることにより、 5 年間で収支の均衡が図られるようにしなければならない。つまり、その事業年度に生じた年度剰余額は、翌事業年度以降 5 年間の各事業年度の年度欠損額と相殺することにより、残存剰余額が解消されれば(剰余額がゼロになれば)収支均衡が図られたとするものである。また、その事業年度に生じた年度剰余額は、当該事業年度の開始の日前 4 年以内に開始した事業年度に係る過年度残存欠損額を控除することができる(収支相償原則 の見直しは、図表 1 )。
さらに、公益目的事業の実施に要する適正な費用には、公益目的事業を充実させるため将来において必要となる資金(以下「公益充実資金」という。)が含まれることとされている(公益認定法施行規則23条)。公益充実資金は、複数の目的のために一つの資金として管理をすることが許容され、積立限度額の範囲内で積立目的を変更することが可能である等、特定費用準備資金と資産取得資金の取扱いを包含しつつ、より使い勝手の良い資金のストック機能を有するものとなっている。なお、特定費用準備資金と資産取得資金は、従前と同様に収益事業等や法人の運営に係る活用が可能であり、公益目的事業比率(公益認定法 5 条 8 号)及び使途不特定財産の保有の制限規定の算定に使用される。
収支相償原則の見直しは、年度剰余額が生じる傾向にある公益法人について、イノベーティブな公益目的事業を創出する機会を提供され、社会的課題に向き合う事業体制を整備したと考えることができる。また、資金不足に窮する公益法人にとって、不安定かつ不確実な公益目的事業の実施は、過年度残存欠損額の補填機能として、その後の事業年度の年度剰余額に係る繰越控除による年度間の収支均衡が措置されたことには大きな意義がある。持続可能な公益目的事業の運営体制の構築は、安定資金の確保が不可欠であり、年度欠損額の発生に伴うフォロー機能として大いに期待することができる。
他方、使途不特定財産額の保有の制限は、公益目的事業継続予備財産7)を使途不特定財産額の算定から控除する旨改正されている(公益認定法16条 2 項)。災害等不測の事態に備える公益目的事業の運営資金の確保は、近年の環境問題等を鑑みると避けられないことである。持続的な公益目的事業の遂行に対して、資金を備える体制の規律を明示したことは、公益法人の役割が重視されている象徴である。
図表 1 【公益目的事業の中期的収支均衡の概要】

出所:筆者作成
2 収支相償原則の見直しに伴う公益目的事業非課税の考察
公益法人の収益事業課税は、公益目的事業に該当するものが収益事業(法人税法独自の概念8)) の範囲から除外されている。これにより、公益法人は、公益目的事業が非課税になるという取扱いである。この公益目的事業非課税は、改正公益認定法等による収支相償原則の見直しを受けても、なお継続されることとなっている。
公益目的事業非課税の趣旨は、公益目的事業による収支差額が一時的には生ずる事業年度があるとしても、恒常的には生じ得ない収支構造であることが制度上確保されていることから、収益事業の範囲から除外するというものである9)。当該趣旨は、収支相償原則による実費弁償の仕組みを尊重し、複数年度間にまたがる収支均衡に対して便宜を図ったものと考える。この度の収支相償原則の見直しは、公益目的事業に係る年度剰余額の 5 年間における収支均衡を求めていることに対して、法人税に係る更正の期間制限(原則 5 年間、国税通則法70条)と整合している。他方、当該年度剰余額は、過年度残存欠損額の 4 年間の繰越を認めている。しかし、更正の期間制限及び欠損金の繰越控除(法人税法57条)は、前期以前10年間の欠損金が対象で ある。公益法人課税は、公益法人に対する税制上の便宜を図ることが求められても、公益法人制度との完全なる連携を目指しているものではない。そうとはいえ、法人税の各事業年度の所得金額は、特別な規定を除けば、繰り越して課税をする規定が存していない。収支相償原則の見直しがトータル10年間の対応措置であることは、欠損金の繰越期間の効果と結果的に接合し、帳簿書類や計算書類その他の検証資料の原則的な保存期間により、収支均衡の監視期間としても整合する。
なお、公益目的事業継続予備財産は、使途不特定財産額の算定上控除することとされている。この規定の思考は、公益目的事業の実施に要する適正な費用として、収支相償原則に組み込むことが検討できないのだろうか。つまり、災害等の不測の事態及び突発的な事象が生じた場合に備えることは、公益目的事業による新たな復興事業が求められる。当該復興事業の財源の備えは、公益充実資金の範囲に含めることができるのではないかということである。しかし、公益充実資金は、ストック財源の費消期間を定めることで、収支相償原則が求める中期的収支均衡を充足することが確実視されるものである。また、公益目的事業非課税は、収支相償原則による蓋然性のある実費弁償の効果を尊重した便宜的対応であると考えられる。そのため、不測の事態に備える財源ストックという目的は、その趣旨に反することになる。このような観点から、災害等の不測の事態に対する備えは、公益目的事業継続予備財産としての財源ストックに留まり、収支相償原則の趣旨に合致できない。したがって、公益充実資金は、災害復興事 業の実施が具体化していないところで、公益目的事業の実施に要する適正な費用に含めることは困難である。
Ⅲ 収益事業課税の見直しの機運と継続している実態の把握
公益目的事業非課税は、仮に収益事業に該当する事業であっても、収益事業の範囲から除外していることから、収益事業課税の上に成り立つ優遇措置の位置付けといえる。そうすると、収益事業課税の動向によっては、公益目的事業非課税が普遍的な規定であるとは言い切れないということになる。
それでは、収益事業課税のこれまでの審議経過について、内閣府の税制調査会の答申を遡ってみる。平成 8 年11月に税制調査会は、法人税の課税ベースに関する検討項目として、公益法人等の課税対象所得の範囲が掲げられ、その意見が述べられている。その後、平成12年 7 月にわが国税制の現状と課題として、また、平成14 年 6 月及び同年11月にあるべき税制の構築に向けて、公益法人等の収益事業課税に対する意見を申し述べている。その要旨は、「現在収益事業とされていない事業であっても民間企業と競合するものについては、これを随時収益事業の範囲に追加していくことが適当である。しかし、そうした対応に限界があるとすれば、公益法人等が対価を得て行う事業については、原則として課税対象とし、一定の要件に該当する事業は課税しないこととするといった見直しなどを行うことも考えられる。いずれにしても、公益法人課税についての見直しを行う場合には、まず、その実態を十分把握する必要がある」というものである。
現行公益法人制度は、旧民法34条に規定されていた旧公益法人制度を抜本的に改革し、平成20年(2008年)12月 1 日から施行している。当該抜本的改革に向けて、内閣府の税制調査会は、平成17年(2005年)に設置された「非営利法人課税ワーキング・グループ」の審議において、上述した税制調査会の答申を基礎にして、特に収益事業課税について大きく取り上げている。現行の公益法人課税は、当該答申の痕跡が何事もなかったかのように、収益事業課税が継続されている事実のみが認識される。今後も税制改革や公益法人制度改革の節目では、収益事業課税が俎上に上がることを念頭に置く必要がある。そして、民間主導によるあるべき課税方式の検討は、内閣府の審議会に先行して整理をすべき必要があると考える。そのため、まずは公益法人非課税の起源から収益事業課税までの変遷をたどり、現行公益法人制度に整合させる課税方式を検討する必要がある。
Ⅳ 公益法人非課税から収益事業課税への転換
1 旧公益法人制度の創設前と創設以後の非課税措置の成り立ち
旧公益法人制度の創設前では、私的公益団体「感恩講」の公益活動の記録が残されている。那波三郎右衛門祐生ほか71名の町人は、藩に献金を行った。藩は、その献金を財源にして、知行高を購入した後に感恩講に出捐をした。感恩講は、知行高を貧困救済活動の公益活動のための財産として、祐生らが効率的に活用したのである。感恩講が誕生した当時の租税制度は、物成りと言われ年貢による米納地租が中心であった10)。
天保 4 年(1833年)、秋田では「巳年のけかち」と称された大凶作となり、この大凶作が翌年(1834年)も続き、秋田藩領全域で餓死・疫病による死者が 5 万余人に達したといわれている。このような秋田藩史上最大の飢饉において、感恩講の備荒貯蓄用の穀物により、秋田藩町奉行支配下の市街地に永住する貧民は「死者ゼロ」という優れた功績を残すこととなった11)。天保 6 年(1835年)、藩は感恩講が行った貧困救済活動を讃えて、「感恩講知行高千石ヲ限リ割合無 シ」とすることを決めている12)。言わば、感恩講は、私的公益団体の慈善活動に対する非課税の起源といえる。
明治31年(1898年)民法施行に伴い、同年(1898 年) 7 月から旧公益法人制度が施行された。公益法人課税は、翌年(1899年)法律第17号所得税法の全文改正により、所得税を非課税とする範囲に含めている13)。非課税の創設については、明治31年(1898年)12月13日に開催された第13 回帝国議会衆議院所得税法改正に係る審査特別委員会での質疑応答の記録が残されている。政府委員の若槻礼次郎の答弁は、「營利ヲ目的トセサル法人ト伝ヒマスノハ、今日民法ノ總則ニアリマス、……所得税モ矢張リ、サウ云フヤウナ慈善トカ教育トカ商業トカ云フ目的デ立テ居ル法人ダケニハ、課ケナイ方ガ宜シイト云フノデ、營利ヲ目的トセザル法人ノ所得ハ、課税ノ範囲外ニ置キマシタ」というものであった14)。 政府は、教育や慈善の目的である公益法人について、所得税を課税しない方が良いという回答 を行っているが、非課税とする根拠について何ら触れてはいない。旧公益法人制度の施行直後の下では、財団法人又は社団法人としての公益活動が始まったところである。この時期では、慈善や教育その他の活動を行ってきた私的公益団体の実績から、それまで非課税として取扱ってきたことを単に踏襲したと考えるのが自然である。
2 公益法人を非課税とした学説からの考察
公益法人を非課税にした理由は、諸説論じられているところであるが、判然としているものはない。非課税の理由の要旨は、①政府の行うべき活動等を肩代わりしているため、②非課税は公益活動に対する対価である、③配当を受ける持分株主が存在しないため、④大きな外部経済をもたらす民間公益活動は課税すべき理由を見出すことはできない、⑤有力なのは補助金理論による説明、すなわち非営利についての優遇措置は間接的な助成金(租税支出)であるとする説、⑥剰余金の配分禁止に対する補償説等々である15)。これらの学説は、各々を捉えると説得的ではあるが、租税法や財政学の考え方を混合しつつも、非課税とする確定的な理由を示すことは困難であると考える。筆者は、石村[1992]の「当初の公益法人等に対する非課税措置は、特別の根拠に基づいてとられたというよりも、 むしろ、議会は、この種の団体は課税されるべきではないといった単純な発想に基づいていたのではないか思われる」という指摘に目が留まる。上述の感恩講の慈善活動を初め、私的公益団体の功績を尊重した非課税措置は、公益法人格を付与した後においても、引き続き税制上の便宜を図っているということであれば理解できることである。
3 シャウプ勧告の真意と異なる収益事業課税の導入
公益法人は、昭和25年(1950年)の税制改正前までの間、非課税の規定が継続して措置されていた。大きな転換が生じたのは、シャウプ使節団日本税制報告書16)に公益法人に対する課税の考え方等が記載されたことに端を発している。シャウプ勧告は、「多くの非課税法人が収益を目的とする活動に従事し、一般法人並びに個人と直接競争している……もし利益が生じなかったとしたならば、または非課税法人がその利益を全て分配していたならば、非課税法人の収益事業は、さして重要な問題とはならない。」 と記載されている。シャウプ勧告は、非課税法人が行う一般法人や個人と同様の事業(収益事業)は利益が生じていない又は利益を公益活動の財源として費消していれば重要な問題ではないとしている。つまり、シャウプ勧告は、公益法人が公益活動の財源確保のために収益事業を行うことを否定しているのではなく、収益事業から生じた利益の費消の実態を問題視して、非課税にする意味がないとしているのである。公益法人課税の論点は、収益事業による利益の費消活動が公益目的の財源としていない公益法人に対して、課税方式の見直しの必要性を唱えているのである17)。
ところが、我が国は、このシャウプ勧告の真意を公益法人の課税方式として取り込まず、昭和25年(1950年)法律第69号の法人税法の改正により公益法人に対する収益事業課税18)が導入されている。この法人税法の改正から 5 年経過後の昭和30年(1955年)大蔵省主税局調査課は、昭和25年税制改正による公益法人等に対する課税方式の転換について、説明文を公表している。その内容は、要旨「個々の公益法人の事業内容により、その事業が非常に公共性が強いときはたとえ収益事業を行つても課税せず、また公共性に乏しいときはその事業の全部に対し課税するという方法も考えられた。しかしすべての公益法人についてその事業を精査し、公共性の強弱を判定することは事実上不可能に近いので、改正税法においてはすべての公益法人を一律に課税法人とし、その収益事業から生ずる所得に対してのみ法人税を課税することとし(た)19)」 と説示している。
収益事業課税は、シャウプ勧告前の昭和20年 (1945年)において、収益事業を営む宗教法人及び労働組合について、収益事業から生ずる所得に対して法人税を課す旨規定をしていた(宗教法人令第16条、労働組合法第11条)。すなわち、収益事業課税の淵源は、昭和20年(1945年)の課税方式の転換から見出すことができる。昭和 25年(1950年)税制改正により収益事業課税を公益法人等の全体に拡大したのは、戦後の混乱期及び財政が逼迫している中での効率的な国家財源の確保が背景にあると考えられるが、その理由は定かではない。しかし、収益事業課税への転換により、収益事業の範囲をめぐる租税行政庁と納税者との判断の相違は、現在にも続く課題として残ることとなる。
Ⅴ 公益法人制度と整合する公益法人課税の考察
公益法人制度は、中期的収支均衡及び使途不特定財産規制に基づき、公益目的事業による資金の費消を求めた規律となっている。一方、収益事業課税は、収益事業以外の事業について、非課税所得による余剰資金の費消管理を公益法人等の意思に委ねている。これは、上記Ⅳ 3 で検討したシャウプ勧告により「非課税法人の収益事業は、……その活動を更に拡張するか又は饗宴のために消費されていること」を問題視していたことの解決が図られているとはいえない。
兼平[2005]は、「公益法人等が原則非課税となっているのは、歴史的にみると、法人理論や所得概念による理論的帰結というより、公益目的ゆえに非課税という側面が強い。……ゆくゆくは使途に着目した課税方式へと……見直すべきではなかろうか20)」と論じている。公益法人課税は、兼平[2005]の表現を借用すると「所得概念による理論的帰結」に拘泥するべきではなく、現行公益法人制度の理念を課税方式に接合する「使途に着目した課税方式」へ見直すべきとするものである。これは、本稿のあるべき課税方式に直接結合する意見であり、現代の公益法人制度に接合する課税方式として検討する必要がある。
1 所得概念からの考察
所得の構成には、「処分型」(disposition)と「発生型」(accrual type)の二つの所得概念に類型される。
処分型の所得概念は、「納税者の各年度の利得のうち、効用ないし満足の源泉である財貨やサービスの購入に充てられる部分のみを所得と観念し、貯積(貯蓄・投資)に向けられる部分は所得の範囲から除外する。したがって、この構成の下においては、一般的にいえば、各年度の所得とは、消費の総額にほかならない21)」。 公益法人に焦点を当てた場合、消費の総額を財産の費消に置換えて所得と観念するのであれば、公益法人の費用を所得として捉えた後、公益目的事業の実施に要する適正な費用を非課税とする手法も一考である。公益目的事業の実施効果は、不特定多数の者に物やサービスを提供することにより、受益者が得る心理的満足を非課税の趣旨とする考えに立つことができる。また、公益法人課税は、しばしば金融所得の課税の有無が議論となるが、消費支出を所得と観念するのであれば論点から外すことも可能である。しかし、処分型が一般に受け入れられないのは、主に貯蓄を所得から除外して消費支出部分に課税することが、税の公平に反するという理由からである。つまり、処分型の所得概念は、消費支出に着眼することにより、不必要な内部留保の増幅等による租税回避の温床になると考えられているのである。その一方で、公益法人は、公益目的事業に係る適正な費用に該当するか否かについて、公益認定の基準に係る財務規律及び申告納税義務に係る租税行政庁の確認により、二重の牽制を受ける運営化に置くことができる。いずれの視点であっても、処分型は、賛否両論となり容易に帰結するものではない。
一方、発生型の所得概念は、「所得とは一定期間の間に納税者に生ずる経済的利得(gain) であると観念されている22)」。発生型は、取得型の所得と呼ばれ、税の公平を尊重する場合、 所得概念を包括的に課税の対象とすることから支持をする見解が多い。発生型の所得概念に立脚する場合には、税制調査会の答申に記載された「原則として課税対象とし、一定の要件に該当する事業は課税しないこととする」という意見に通ずることになる。
公益法人課税は、兼平[2005]が論じられているとおり、所得概念による理論的帰結というより、公益活動の歴史的背景と公益法人制度の抜本的改革などの背景を踏まえるべきである。社会的課題の解決に寄与するためには、公益目的事業を推進する必要があり、税制からの支援によるあるべき課税方式を再考すべきといえる。
2 みなし寄附金制度による効果
みなし寄附金制度の趣旨について、武田[1997] は「公益法人等がその本来の目的事業のほかに営利的な事業を行なうのは、その本来の目的事業を行うに要する資金を得るための一手段であり、収益事業により獲得した利益を本来の目的事業に使用することは当然あり得ることである。しかしながら、その投下する資金については、収益事業会計(収益事業等会計)と収益事業会計以外の会計(公益目的事業会計)を区別して考えるとき、それ自体としては収益事業の負担すべき損金とはならず、いわば利益処分としての性格を有するものである。しかし、公益法人課税の本旨を考慮し、これをみなし寄付金として損金算入することを認めたのである23)」と説示し ている。
しかし、法人税の収益事業と公益法人の運営上認識される収益事業は、必ずしも一致するものではない(図表 2 )。みなし寄附金の対象は、収益事業等会計から公益目的事業財産へ転換させる金額の認識との間に差額が生じ、公益目的事業の財源としては間接的な支援となる。
みなし寄附金は、収益事業課税の上に成り立つものであることから、収益事業以外の事業の利益が公益目的事業財産として公益目的事業に費消される効果を考慮できていない。また、収益事業以外の事業の利益は、全てが公益目的事業財産に組み込まれているとは限らず、収益事業の拡大財源等に使用することも考えられる。公益法人制度に係る収支相償原則と公益法人税制の連携は、一定の配慮を認識して割り切ることもできる。その一方では、公益法人制度改革により、双方が接合する機能的な課税方式を検討すべき体制が整ったという見方もできる。みなし寄附金制度によるアプローチからも、兼平[2005]が提言するとおり、使途に着目した課税方式へと見直すべき課題が浮上している。
図表 2 【公益法人制度と法人税法のみなし寄附金との関係】




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