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  • ≪査読付論文≫地方創生における地域資源の戦略的活用とその成功要因 ―広島安芸高田神楽のケーススタディ― / 今枝千樹(愛知産業大学准教授)・ 藤井秀樹(京都大学大学院教授)

    PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 愛知産業大学准教授 今枝千樹 京都大学大学院教授 藤井秀樹 キーワード: 安芸高田神楽 情報の非対称性 地域資源 地方創生 シグナリング 要 旨: 地方創生の起爆剤となりうる地域資源を開発するには、資源の戦略的な重点配分が不可欠であり、そのためには地域資源の提供者と支援者との間の情報の非対称を可能な限り緩和する必要がある。かかる問題意識にもとづいて広島安芸高田神楽のケーススタディを行い、以下の知見を得た。第1は、事情に精通したマルチプレイヤーが情報の非対称性の緩和に大きく貢献し、支援の傾斜配分を可能にしていることである。第2は、地域資源として活用可能な神楽団の選抜にあたり、競演大会での優勝実績がシグナリングとして機能していることである。第3は、神楽の5年間(2011~2014年)の経済効果は22.3億円で名目のリターンが22倍以上に達することに示されるように、神楽が地域資源として実質的に機能していることである。しかし、事情に精通した特定のマルチプレイヤーへの依存は地域資源の強みでもあるが同時に弱みでもあり、持続可能な取組みとするには人材の育成が今後の大きな課題となろう。 構 成: Ⅰ はじめに-問題設定- Ⅱ 研究の基礎理論 Ⅲ 研究方法の位置づけ Ⅳ ヒアリング調査の結果 Ⅴ 調査結果の解釈 Ⅵ おわりに Abstract We could make use of regional cultural resources as an accelerator of local revitalization through strategic allocation of economic supports. To make it possible, we need to reduce information asymmetry between creators of cultural resources and their supporters as much as possible. From this view point, we conducted a case study of the Hiroshima Aki-Takata Kagura (sacred music and dance). The main findings of our study are as follows. First, well-informed multiplayers in the field greatly contribute to mitigation of information asymmetry and enables strategic allocation of economic supports to high-skilled troupes. Secondly, in selecting those troupes that could perform as regional resources, their track records in the Kagura competitions play a role of “signaling” in economics sense. Third, Kagura's effect for five years (2011-2014) on the local economy was estimated at about ¥2.23 billion, and it turned out to be a nominal return of more than 22 times, that proves the Kagura actually functions as a regional resource. However, the dependence on the specific informed multiplayers would be strength and weakness at the same time in their activities, and training of their successors should be a key to sustainable good performance in the future. ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ はじめに -問題設定- 近年、地域の伝統芸能や文化芸術(以下、本稿では「地域資源」と総称する1))が新たな注目を集めるようになった。地方創生政策(ローカル・アベノミクス2))の始動を受けて、地域資源を「地方創生の起爆剤」(内閣官房[2014])と位置づける視点や、「文化芸術資源で未来をつくる」(文化庁[2015])といった視点から、地域資源の可能性(potential)が見直され始めたことが、その背景となっている。 地方創生の成否の重要な鍵となるのは、訪問人口・定住人口の増加である。地方創生の物的基盤となりうる経済的資源は基本的には、人に付随して移動するからである。したがって、地域資源を「地方創生の起爆剤」にするための取組みは、人を惹きつける魅力的なコンテンツとして地域資源を戦略的に活用するということに帰着する。このような視点は、地域資源をもっぱら保護・保存の対象とみる従来のそれとは異質のものといえよう。 このような新しい取組みを成功に導く要因は何であろうか。地域資源開発の先進的事例のケーススタディを通じて、この問いにわれわれなりの回答を示すのが、本稿の目的である。 Ⅱ 研究の基礎理論 地域資源の運営団体は一般に、商業ベースでの活動が困難である。したがって、各団体は、有形・無形の支援を外部から得ながら、その活動を維持している。すなわち、その意味で、地域資源の運営活動は、民間非営利活動としての性質を帯びている。このことを踏まえ、以下では本稿における研究の基礎理論を提示することにしたい。 民間非営利活動に対する支援のあり方を、経済学の観点から定式化した通説的な議論として、Hansmann[1980]の「契約の失敗」論がある。その論点を要約すれば以下のようになる3)。 公共サービス4)の主な特徴は、サービスコストの負担者とサービスの需要者が異なる点にある。このために、コスト負担者(支援者)の所得移転(支援金が支援者の意思通りに使用されること)の期待確率はつねに100%を下回る。サービスの取引契約のこうした欠陥(契約の失敗)は、コスト負担者の潜在的な予算集合を縮小させるので、彼らが経済合理的に行動する限り、サービスの縮小均衡的な減少が生じることになる。しかし、サービスの提供を、非分配制約(nondistribution constraint)を課された非営利組織に委ねるならば、サービス提供主体内部での支援金の利己的分配という事態は回避できるので、その限りにおいてコスト負担者たちは所得移転について一定の保証を得ることになる。 以上から理解されるように、Hansmann[1980]の「契約の失敗」論は、非営利組織における非分配制約の意義を、契約理論(エージェンシー理論)の観点から敷衍したものとなっている。本稿では、非営利組織と支援者の間に存在する情報の非対称性(支援金が支援者の意思通りに使用される期待確率の決定要因。以下、たんに「情報の非対称性」という)が、支援者による支援のあり方を左右するという点に着目したい5)。なお、以下で支援という場合、それは広い意味での支援を意味し、活動の場や機会を提供するなどの非金銭的な側面支援の他、出演料等の対価性を帯びた資金の支払いも含むものとする。 地域資源を魅力的なコンテンツとして戦略的に活用するためには、支援を傾斜配分することが避けて通れない。支援のための潜在的予算集合に一定の限界が存在する以上、それは当然のことといえよう。支援を傾斜配分するには、情報の非対称性を可能な限り小さくする必要がある。情報の非対称性が小さければ、どの非営利活動に傾斜配分するべきかを事前に識別することが容易になるからである。逆に情報の非対称性が大きい場合、支援は画一的(広く浅く)にならざるをえない6)。 保護・保存を目的とした行政的支援は多くの場合、そのような状況下でなされる。以上の議論を整理すると、図表1のようになる。 図表1 情報の非対称性と支援のパターン (筆者作成) 以上を要するに、地域資源の質を差し当たりの与件としたうえで7)、支援のあり方に焦点を当てた場合、地域資源を魅力的なコンテンツとして戦略的に活用することの成否は主として、情報の非対称性をいかに緩和できるかにかかっているということができるのである。本稿では、このような理論的視点から、ケーススタディを行っていくことにする。 Ⅲ 研究方法の位置づけ 本研究では、ケーススタディという研究方法を採用する。この節では、当該研究方法の学術的な位置づけを明らかにしておきたい。 ケーススタディは、文字通り個別事例の研究であるために、その知見については普遍化が難しい。反証にもとづいて一般法則に接近するという論理実証主義の厳格な立場からすれば、それは疑似科学的方法とみなされる可能性もある。しかし、澤邉他[2008](3頁)によれば、ケーススタディは、以下のような事象を研究調査する際に有用とされる。 ① 定量化できない様々な変数を包含した複雑で動学的な事象 ② 稀にしか生じないような多数の活動から構成された事象 ③ コンテキストとの相互作用から重要な影響を受ける事象 つまり、事例の個別具体性とそのコンテキストを重視する点にケーススタディの主要な特徴があるのであって、突出した(先進的)ケースを研究対象に選ぶことで、「平均化されると埋もれて見えなくなってしまうような重要な問題を抽出し、問題意識を喚起すること」(澤邉他[2008]、5頁)が可能となる点に、ケーススタディの固有の利点があるとされるのである。総じて、既存の概念や理論からの演繹によって観察予測を描くことが困難な社会事象の研究において、かかる研究方法はとりわけ有用といえる。 ちなみに、ケーススタディに依拠した研究は、国内外の管理会計の領域では今日さかんに行われている(澤邉他[2008])。また研究方法としてのケーススタディは、民俗学や人類学等の領域で採用される参与観察とも、問題意識の点で共通性が高いといえる。 以上のような学術的位置づけを有するケーススタディは、地域資源を「地方創生の起爆剤」として戦略的に活用するうえでの成功要因を明らかにするという本研究の目的に適合的な研究方法となる8)。かかる研究方法上の観点と判断にもとづき、次節以下では地域資源開発の先進的事例におけるヒアリング調査を通して、本研究に係る作業を進めていきたい。 Ⅳ ヒアリング調査の結果 この節では、ヒアリング調査の結果を、主要な論点ごとに整理して報告する。ヒアリング調査のための訪問先は、桑田天使神楽団である。広島安芸高田神楽9)(以下、「神楽」という)は島根県出雲流神楽に起源を持つ伝統的な地域芸能であり、安芸高田市では、神楽を活用した地域活性化の取組みが早くから、行政を巻き込む形で実施されてきた。桑田天使神楽団は、同市内に22ある神楽団の1つである。 1 訪問先のプロファイル 図表2は、訪問先である桑田天使神楽団のプロファイルをまとめたものである。正確な設立年は不明であるが、同神楽団に関する文政2年(1812年)の記録が残っており、したがって、少なくともそれ以前に設立されたものと考えられる。調査時点(2019年3月1日)の団員数は22人である。 主たる活動目的は、神楽の演舞である。公演は月3回(年40回弱)を目途としているが、年60回を超えたこともある。桑田八幡神社で毎秋(9月最終日曜日又は10月第1日曜日)、同神楽団が奉納する「桑田神楽の神降し」は、1954年に広島県無形民俗文化財の指定を受けている。 図表2 訪問先のプロファイル (筆者作成) 2 事情に精通したマルチプレイヤーの存在 ヒアリング回答者の1人である松田祐生氏は同神楽団副団長であるが、同団の演舞者でもあり、また団運営者としても活動している。他方、松田氏の本職は、安芸高田市商工観光課観光振興係長である。市内22団体で構成される安芸高田市神楽協議会の事務局が市の商工観光課に置かれており、実質的には松田氏がその実務を担当している。松田氏は、神楽団の活動に従事するのはプライベートな時間に限定し、演舞に係る報酬は一切受領しないなど公私の線引きには不断に留意しつつ、かつまた利益相反の問題にも目配りしながら、地域資源としての安芸高田神楽の長期的発展を見すえたマルチプレイヤーとして活動している。その結果、神楽に関する様々な情報が、松田氏に集中することになる。 3 地域資源として活用可能な神楽団の選抜 安芸高田市には神楽団が既述のように22あるが、地域資源として活用可能な団は限られている。同市が県外公演としてとくに力を入れている東京公演は2019年に9回目を迎えるが、同公演で演舞できるのは、一定レベル以上の技量をもつ5~6団体ほどである。近所の神社で舞っているだけの団体では難しいとされる。県内各地や島根県もあわせて年20数回の競演大会があるが、そこで優勝実績がある団体の中から東京公演の出演団体を選抜している。 桑田天使神楽団は、そうした競技大会で何回か優勝しているので、選抜の有力候補となる。選抜される神楽団は、八岐大蛇を8匹出せるとか(そのためには最低でも13人の団員が必要とされる)、年間30~40回の公演をやっているところになる。公演実績が多いと経済的にも豊かになり、自ずと団員も増えるというように、よい循環になる。 競演大会などでの実績や演舞の評判が口コミで広がり、神楽団への公演依頼や神楽の知名度向上に繋がっている。それを裏づけるトピックとして、NHK番組での中継・放映、パリ・コレ(Paris Collection)での招待演舞、雑誌での記事掲載等をあげることができる(図表3参照)。 図表3 広島安芸高田神楽の知名度向上を示すトピック (安芸高田市[2019]) 4 湯治村の開村と定期公演 東京公演と並んで、神楽を活用した地域活性化の取組みとして注目されるのが、神楽門前湯治村の整備と同村における神楽公演の定期開催である。 神楽門前湯治村は、神楽専用施設(後述参照)、温泉、宿泊施設を併設した湯治村である。旧美土里町が1998年に開村した湯治村を、2004年の市町村合併時に同町から安芸高田市が引き継いで、開業した。現在は、第3セクターの株式会社神楽門前湯治村10)が指定管理者として同村の管理運営に当たっている。 神楽門前湯治村には、全国では他に例のない2千人収容の神楽専用ドーム「神楽ドーム」及び100人収容の神楽小劇場「かむくら座」が併設されている。神楽ドームでは、日本各地で神楽を継承する高校生が集い、日ごろの練習の成果を発表する「神楽甲子園」(主催は広島県、安芸高田市、同市教育委員会等)をはじめ、種々の神楽大会が開催されている。2018年に開催された第7回神楽甲子園には16校が参加し、2日間で約3千人が来場した。同村では、こうした取組みと並行して、神楽ドーム及びかむくら座を会場として、年間150日(金曜夜、土曜夜、日曜昼)の神楽定期公演が開催されている。 神楽定期公演では、市内22の全神楽団に順番で演舞の依頼がなされる。つまり、実績のある神楽団を選抜して当該各神楽団に演舞の機会を優先配分する東京公演とは異なり、神楽定期公演では全神楽団に演舞の機会がほぼ均等に与えられることになるのである。こうした取組みは、支援の傾斜配分を補完し、支援のあり方を全体としてバランスの取れたものとする効果を結果としてもたらす。換言すれば、安芸高田市では、地域資源の戦略的活用と並行して、地域資源の保護・保存に繋がる支援もなされているのである。ちなみに、神楽門前湯治村の運営・管理に充てられている同市の予算は、年間約750万円とされている。 5 神楽の地域資源としての経済効果 安芸高田市が神楽の経済効果を推計している。推計の対象とされた神楽団は同市において地域資源として活用された神楽団であり、桑田天使神楽団以外の神楽団も含まれている。それによると、2011年から2014年までの5年間の効果額は約22.3億円であった。同期間に同市が神楽関連の取組みに支出(投資)したトータルの金額は約1億円であったので、名目で22倍以上の経済効果(リターン)を得た計算になる。投資額をはるかに超えるリターンをもたらしたという意味で、神楽は文字通り「経済的資源」としての機能を果たしてきたといえる。ただし、そのリターンは、資源の保有者である神楽団の所得にならないことから、経済学でいう外部性(externality)11)を構成するものとなっている。神楽の外部性は、様々な形で地域住民の所得となり、地域社会に還元されてきたのである。こうした外部性の還元が地方創生の経済的基盤を形成することになる。 安芸高田市の推計の明細を整理すると、以下の通りである(図表4参照)。多くの仮定や見積りを交えた推計値ではあるが、明確な反証が存在しない限り、当該推計値を安芸高田市が得た神楽の経済価値の目安と見なすことができるであろう。 図表4 広島安芸高田神楽の経済効果の推計額 (安芸高田市[2019]) ●定住者の増加とその経済効果 2011年から2014年までの5年間に、68人が神楽団に入団した。そのうち、定住者が32人である。定住者のうち、他所から移住してきた団員が6人、神楽をしていなかったならば間違いなく安芸高田市外に転出したであろう団員が26人である。1人当たり家計所得309万円にリーサス12)地域経済循環率72.5%を乗じ、その5年分として3.6億円を、地域経済循環額として計算している。また、交付税相当額は、1人当たり交付額20.2万円に定住者32名を乗じ、その5年分として0.3億円と計算している。 ●観光客数の増加とその経済効果 2010年に約125万人だった観光客数は、2015年には約170万人に増加した。5年間の累計では、中部以東からの観光客が約9万人、その他県外からの観光客が約88万人、それぞれ増加している。それによる5年間の地域経済波及額は、96.8万人に1人当たり観光消費額1,321円を乗じて、12.8億円と推計している。 ●プロモーションによるPR効果 NHK「鶴瓶の家族に乾杯」(2011年)、NHK「ひるブラ」(2013年)などでの放映、新聞等での掲載(中国新聞をはじめとする新聞、神楽甲子園出場校の地元紙、各種雑誌等)による広告換算額を、5.6億円(テレビ4.6億円、新聞等1.0億円)と推計している。 以上に見るような地域資源の経済効果の推計報告は、アメリカにおいて非営利組織の業績評価報告として開発された「サービス提供の努力と成果に関する報告」(Service Efforts and Accomplishments Report,SEA報告)と共通した性質を有するものと評することができる。ちなみに、SEA報告とは、サービス提供に費やされた努力とそれによって達成された成果を、物量情報やナラティブ情報も交えて包括的に報告することを目的としたものである13)。 Ⅴ 調査結果の解釈 この節では、本調査から得られた主要な知見とその含意を明らかにしていきたい。 第1は、事情に精通したマルチプレイヤーが、情報の非対称性の緩和に大きく貢献し、支援の傾斜配分を可能にしていることである。松田氏がそうしたマルチプレイヤーの代表的存在となっている。既述のように、松田氏は、安芸高田市商工観光課に勤務する傍ら、安芸高田市神楽協議会の事務局員を務め、さらに桑田天使神楽団の活動にも副団長及び演舞者として参加している。情報の仲介者として、松田氏は理想的な存在となっている。 第2は、地域資源として活用可能な神楽団の選抜に当たって、競演大会での優勝実績が重視されていることである。具体的には、競演大会で優勝した実績のある神楽団が、東京公演の出演団体として選抜されている。このことは、優勝実績が、神楽団の技量に関するシグナリング(signaling)14)の機能を果たしていることを示している。松田氏らが持つ私的情報は、こうした実績情報と相互補完的に利用されている。情報のこうした利用は、情報の非対称性の緩和が支援の傾斜配分につながる典型的な具体例を提供している。 第3は、神楽が地域資源として、実質的に機能していることである。Ⅳ節5で報告したように、 神楽の5年間(2011~2014年)の経済効果は22.3億円であり、名目のリターンは22倍以上に達する。それは、画一的な(広く浅くの)支援であれば達成できなかった成果といえるであろう。地域の伝統芸能や文化芸術に対する支援というと、保護・保存を想起する向きが現在なお根強い。もちろんそのような支援の必要性は依然として存在し、安芸高田市でもそうした性質を持つ支援がげんに一部でなされているが(たとえば神楽門前湯治村の定期公演では全神楽団に演舞の機会が等しく与えられている)、地域資源を「地方創生の起爆剤」として活用するという文脈においては、支援の傾斜配分が避けて通れない課題となるのである。 その意味で、安芸高田市の支援窓口が、生涯学習課(文化財係)ではなく、商工観光課であることは興味深い。一般論としていえば、前者においては限られた予算が文化財の保護・保存関連の施策に画一的に広く浅く配分されるのに対して、後者においては相対的に潤沢な予算が地域資源の活用に係る施策に戦略的に傾斜配分される傾向がある15)。 しかし、今後に向けた課題も散見される。就中重要と思われるのは、地域資源としての神楽の活用を持続可能な取組みとするには、事情に精通した後継者の育成が避けて通れない課題になるということである。現時点では、松田氏(及びその周辺の少数の関係者)が、地域資源としての神楽を支えるマルチプレイヤーとして、理想的な活動を行っている。それは同神楽の強みであるが、弱みにもなりうる。なぜならば、松田氏らと同等レベルのマルチプレイヤーとして活動する能力と技量を備えた後継者を系統的に育成できなければ、現在のような取組みの維持・発展は期待できないからである。特定少数に依存した理想は不安定であり、それを支える人材が枯渇したときに霧消する。この点は、広島安芸高田神楽が抱える課題の性質を示すものとして特に強調しておきたい。 Ⅵ おわりに 以上によって、先進的事例のケーススタディを通じて、地域資源を「地方創生の起爆剤」として活用する新しい取組みを成功に導く要因を明らかにするという本稿の目的は、おおむね達成されたと思われる。 一言でいえば、その不可欠の成功要因は、地域資源の事情に精通したマルチプレイヤーの存在である。そうしたマルチプレイヤーが情報の非対称性を緩和する情報仲介者として活動しており、そのことが支援の効率的な傾斜配分を可能にしている。そしてその結果、地域資源の活用を通じた経済効果の創出に成功している。そうであればこそ、次世代のマルチプレイヤーを演じうる人材の系統的な育成が、地域資源開発の維持・発展を図るうえで焦眉の課題となるのである。 ただし、本稿で得た知見と解釈はあくまでも、Ⅱ節で提示した基礎理論にもとづくケーススタディの結果を示すものである。前提とする基礎理論が異なる場合、本稿とは異なる知見と解釈がもたらされる可能性がある。そのことを最後に指摘し本稿のむすびとしたい。 [謝辞] 本稿の執筆に当たり、源田佳史先生(公認会計士)、小林麻理先生(早稲田大学教授)、佐久間義浩先生(東北学院大学教授)、森美智代先生(熊本県立大学教授)から有益なコメントを頂戴した。記して謝意を表したい。ただし、ありうべき誤謬等は筆者の責に帰するものである。本稿は、平成28~31年度科学研究費補助金基盤研究(C)(課題番号16K03985)による研究成果の一部である。 [注] 1)地域の伝統芸能の総称として「地域資源」(regional resource)という用語を用いるのは、日本地域資源開発経営学会(http://rrdsj.net/regulations_of_a_society.html)での議論及び用語法によるものである。経営学の観点から地域資源を「開発」の対象とみる同学会の研究動向から、本稿は多くの示唆を得ている。 2)「ローカル・アベノミクス」とは、第2次安倍晋三内閣がデフレからの脱却を目指して掲げた経済政策(アベノミクス)の1つである「成長戦略」の第2弾の政策をいう。2014年6月24日に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)の中で、「ローカル・アベノミクス」という用語が用いられている(内閣府[2014])。 自民党[2014]によれば、日本の経済構造は、世界で戦う大企業が中心の「グローバル経済圏」と地域に密着した中小企業が中心の「ローカル経済圏」の2つから成り立っており、当初のアベノミクスはグローバル経済圏に焦点を当て、そこでの活況がローカル経済圏に波及する効果を期待するものであったとされる。しかし、生産拠点の海外移転などの影響もあり、アベノミクス効果が中小企業に十分に浸透しなかったことから、成長戦略の第2弾として、ローカル経済圏を直接のターゲットに設定し、地域経済の好循環を目指す新成長戦略(ローカル・アベノミクス)が据えられたとされる。 ローカル・アベノミクスによる地域経済の好循環の鍵となるのは、各地域独自の魅力を持つ「地域資源」(農林水産品、観光資源、技術、伝統・文化など)の持続的な発展と当該資源を再生産する仕組みの構築とされている(自民党[2014])。 3)Hansmann[1980]の所説については、松元[2014]において詳細な紹介がなされている。非営利組織におけるエージェンシー問題については、Steinberg[2010]も参照されたい。 4)Hansmann[1980]では、「公共財」(public good)という用語が使用されているが、それは経済学での一般的な用語法とはやや異なる。用語上の無用の混乱を避けるために、ここでは「公共サービス」という用語に置き換えている。 5)以下の議論は、情報の経済学を確立したとされるAkerlof[1970]の議論を援用したものである。情報の経済学の基本的論理構成や学術的意義については、須田[2000];藤井[2017]を参照されたい。 6)Akerlof[1970]の議論に従えば、このような場合、エージェント(支援対象となる非営利団体)が提供する財の平均的な質を反映した単一価格(支援額)を、プリンシパル(支援者)は支払うことになる。 7)本稿の検討課題には、検討対象となる地域資源が一定の質を備えていることが含意されている。換言すれば、一定の質を備えた地域資源を戦略的に活用するための条件を経済学的視点から考察することが、本稿の主目的をなしている。わが国においては、一定の質を備えた地域資源は各地域に少なからず存在するものの、その戦略的活用の成功例が現在なお非常に限られていることが、かかる問題意識の社会的背景をなしている。 8)澤邉他[2008]の議論を援用すれば、安芸高田神楽は「パラダイム的ケース」として特徴づけることができるであろう。パラダイム的ケースの研究は、「新しい理論の価値を実例を通じて説得的に伝えようとする場合に有用である」(澤邉他[2008]、11頁)とされる。 9)安芸高田市では、神楽のプロモーションにおいて、「ひろしま安芸高田神楽」というブランド名が用いられている。この点については、松田[2016]を参照されたい。つまり、「ひろしま安芸高田神楽」はブランド名であり、「広島安芸高田神楽」は一般名詞である。本稿でも、両者をこのように区別したうえで、使用している。 10)安芸高田市が同社株式の100%を所有しているが、同市では同社は第3セクターとして位置づけられている。 11)経済学において、外部性とは、ある経済主体の行動が他の経済主体の効用関数や生産関数に物的変数として直接入ることをいう(伊東編[2004]、94頁)。たとえば、ある地域に鉄道が建設されると、沿線の利便性が飛躍的に高まり、地価が上昇する。与件に変化がなければ、その便益は鉄道会社の所得とはならず、沿線事業者(不動産業者など)の所得となる。 12)リーサスとは、地方創生の様々な取組みを情報面から支援するために、経済産業省と内閣官房(まち・ひと・しごと創生本部事務局)が2015年4月より提供を開始した地域経済分析システム(Regional Economy (and) Society Analyzing System:RESAS)をいう。詳細については、内閣官房[2019];RESAS[2019]を参照されたい。 13)SEA報告の詳細については、今枝[2003]を参照されたい。 14)情報の経済学において、シグナリングとは、私的情報を自発的に開示することによって自分の提供する財が良質であることを買い手に知ってもらうことをいう(Watts, R.L. and J.L. Zimmerman[1986], pp.165-166;藤井[2017]、28頁)。 15)岐阜県の東濃地方には、伝統的な地域芸能である地歌舞伎の保存会が多数存在しており、安芸高田市と非常に類似した形で、地歌舞伎を活用した地域活性化の取組みがなされている。地歌舞伎保存会と行政(岐阜県や中津川市)の間で、種々の支援活動を行う「岐阜自慢ジカブキプロジェクト」(任意団体)に対し、我々は2016年11月14日にインタビューを行った。 同プロジェクト会長の市川氏によれば、地歌舞伎は中津川市にとって重要な地域資源として位置づけられており、潤沢な予算が配分されているが、このような状況は、2014年に中津川市における地歌舞伎関連の窓口が、文化振興課から観光課に移ったことが、ターニングポイントになっているという。文化行政においては、公演の出場機会を保存会に均等に与えるといった「平等性」を重視するとともに、活動を維持できそうにない(活動実績のない)保存会を手当てしようとするが、観光行政となるとこれとは対照的に、海外公演などについて、活動実績のある保存会に依頼し、出演機会を与えるという形でかかる保存会を支援する。窓口の移行は、予算の配分を一変し、中津川市における地歌舞伎の位置づけにおける一番大きな転換点となったという。以上については、今枝・藤井[2020]を参照されたい。 [参考文献] Akerlof,G. A.[1970] “The Market for ‘Lemons’ : Quality Uncertainty and the Market Mechanism,” The Quarterly Journal of Economics, Vol.84, No.3, pp.488-500, 幸村千佳良・井上桃子訳[1995]『ある理論経済学者のお話の本』、ハーベスト社。 Hansmann,H.B.[1980] “The Role of Nonprofit Enterprise,” The Yale Law Journal, Vol.89,No.5, pp.835-901. 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  • ≪論文≫公益法人の拡充のために公益法人税制が果たすべき機能の考察 / 苅米 裕(税理士)

    PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 税理士 苅米 裕 キーワード: 財務三基準 収益事業課税 非営利型法人 所得の源泉と財産の費消活動 法人税の課税ベース 課税の繰延べ措置 寄附金の全額損金算入 要 旨: 新公益法人制度は、民間非営利活動に対して、「機動的な対応が構造的に難しい政府部門や、採算性が求められる民間営利部門では十分に対応できない活動領域を担っていくことが期待され(てい)る」。本制度改革から10年が経過し、現下の急激な一般社団・財団法人の増加は、単に民間非営利活動が推進されていると評価できるものではない。公益法人税制による非営利活動の推進のため、①公益法人等の法人税の課税ベース自体を再考するべきか、②非営利型法人の収益事業課税により生じた非課税所得の余剰財源に対する課税を検討するべきか、及び、③公益法人の事業運営に寄与する公益法人税制を拡充するべきであるか等、各々の事業体の機能を考慮した課税制度の設計を検討する必要がある。本稿は、急増している一般社団・財団法人を顧慮し、公益法人への移行を促進するため、法人税制の面から考察をしたものである。 構 成: Ⅰ はじめに ―制度改革から10年経過・新制度により公益法人税制が引き寄せたもの― Ⅱ 公益法人制度の理念と公益法人等に対する法人税制との連携 Ⅲ 公益法人等の法人税制再構築の検討 Ⅳ おわりに Abstract The amended public-interest corporation system expects that non-profit organizations (NPOs) will serve the areas that are structurally hard to handle promptly by political sectors and the areas that are hard to handle by profit making sectors. Ten years have passed since the reform of this system, and despite the rapid increase of incorporated associations and foundations, we feel progress in the promotion of NPOs has been insufficient. It is necessary to develop a taxation system that takes into account the functions of each type of organization. This study was conducted to examine the following points from the perspective of the corporate taxation system to promote the transition of incorporated associations and foundations to public-interest corporations and their non-profit activities: (1) The need to reconsider corporate tax bases for public-interest corporations, etc.; (2) The need to impose tax on financial surplus derived from non-taxable income produced by profit-making business taxation for individual NPOs; (3) The need to expand the public-interest corporation taxation system to contribute to the public-interest corporation business operations; and so forth. Ⅰ はじめに ―制度改革から10年経過・新制度により公益法人税制が引き寄せたもの― 新たな公益法人制度は、民間非営利活動1)について、「自己実現を図る機会を提供するものであり、これを促進することは、少子高齢社会を迎えている我が国の社会を活性化する観点からも有意義であ(ること)、また、…機動的な対応が構造的に難しい政府部門や、採算性が求められる民間営利部門では十分に対応できない活動領域を担っていくことが期待される2)」として、そのビジョンを具体化するため「公益的活動の健全な発展を促進し、一層活力ある社会の実現を図る2)」ことを課題に掲げるものであった。本制度改革は、10年が経過した今日において、非営利活動の促進としての機能を果たし、課題の解決に寄与したと実感できているだろうか。 新公益法人制度のスタートは、平成25年11月30日の移行期間満了時において、旧公益法人(特例民法法人)24,317法人が、公益社団・財団法人への移行認定9,054法人(37%)に対して、一般社団・財団法人への移行認可11,682法人(48%)及び解散・合併等をした3,581法人(15%)3)となり、公益法人(公益認定法2三)が制度改革前の旧公益法人に比して大幅に減少することとなった。そして、現下の法人数は、公益社団・財団法人が9,714法人(13%)、一般社団・財団法人が67,188法人(87%)となっている4)。新公益法人制度を起点に法人数が3倍に拡大したことは、公益目的事業5)を行うことを主たる目的とする公益法人が、制度改革前に存していた公益法人数の40%にも満たない状況であることに象徴され、一般社団・財団法人が55,506法人増加し約5.7倍以上に膨れ上がっている実情からすれば、単に政府が期待をしていた民間非営利活動が推進されていると評価できるものではない。 この急激な一般社団・財団法人の増加要因は、公益法人制度改革により、法人が行う事業の公益性にかかわらず、登記により容易に法人を設立することが可能となったことに基因するものであろう。特に一般社団法人等6)に対して問題視していたことは、株式等のような出資持分がないことを利用し、個人が所有する財産を移転させ、理事や社員を同族関係者で占めることにより当該財産を間接的に支配し、所有の実態を変えずに半永久的に相続税の課税対象にならない効果を得るためのスキームに活用されることである7)。そのほかに考えられる一般社団・財団法人の増加要因としては、法人税法上の非営利型法人8)に対する法人税の収益事業課税9)に象徴される公益法人等の優遇税制の適用により、内部留保を確保することが目的であろう。このようなビジョンを持つ一般社団・財団法人の発現は、公益法人制度の理念を揺るがす公益法人税制の綻びを表象するものといえ、非営利活動の促進を阻害することにもなりかねない。 本稿は、公益法人として非営利活動を実施することが期待される一般社団・財団法人に対して、公益認定の推進と公益目的事業の拡大に資するため、税制面における施策を思案し、提言することを目的とするものである。 Ⅱ 公益法人制度の理念と公益法人等に対する法人税制との連携 公益法人の運営において、公益認定の基準のうち財務三基準10)の充足は、事業運営上監視を求められる重要なテーマとなっている。しかし、その側面には、法人税の課税制度として、①収支相償要件により実質的に利益が生ずることを想定していない公益目的事業を非課税(法令5②)とし、②当該公益目的事業の費消財源となる公益目的事業財産の確保を担う公益目的事業以外の事業を収益事業課税の対象にし、かつ、③収支相償要件に平仄を合わせるよう法人税法上の収益事業に属する資産のうちから公益目的事業のために支出した金額を寄附金とみなして損金の額に算入する(みなし寄附金)等の優遇措置が講じられている(法法37⑤、法令73①三イ、73の2)。 これらのうち上記②を収益事業課税の対象としたのは、公益法人が、遊休財産額の保有制限要件により、法人税法における収益事業以外の事業により非課税とされた余剰を含めて、事業規模の制御及び財産の費消活動に意識を注ぎながら非営利活動を実施していること、また、公益目的事業比率要件により、収益事業等の事業規模の制御を強いられながら公益目的事業財産の確保を追求していることに対する配慮であると考えられる。これらの新公益法人税制は、公益法人の財務三基準により制度の財務理念を具体化したことから、事業運営に対する監視が課題として浮上し、公益認定法に基づく手続規定との摩擦を誘引している反面、「旧公益法人税制に比して、公益法人の公益活動の奨励・増進の趣旨により適合したものとなっている。11)」。 他方、一般社団・財団法人のうち移行法人(整備法123①)は、公益目的支出計画(整備法119①)に基づく収入の発生を期待しない実施事業等(整備法119②)により、公益目的財産額(整備法14)をゼロにする費消活動を課せられている。この公益目的支出計画の遂行は、公益法人の公益目的事業の運営理念と同視できるものであるから、非営利型法人を収益事業課税の対象としていることについて、公益目的支出計画完了後の事業継続のための補完的機能と非営利活動の促進を担う法人格としての期待が込められているといえよう。しかし、移行法人以外の非営利型法人は、移行法人と同様に収益事業課税の対象としているところ、収益事業以外の事業による所得が非課税とされ、その後の財産の費消が法人の自由な運営に委ねられていることから、非課税所得に係る余剰財源について、何の事業に費消されているのか、あるいは内部留保として蓄積しているのか、不透明な状況になっている。また、この状況を放置することは、収益事業以外の事業について、仮に営利法人の事業と競合していないことを非課税とする理由(イコール・フッティング論)であるとしても、非課税所得の財源が当該競合していない事業で費消していることが明確でなければ、営利法人と課税ベースの差を設ける収益事業課税の本旨を逸脱することになろう。 一般社団・財団法人が急増しているにもかかわらず、公益法人への移行が微増となっているのは、財務三基準の制約下にある公益法人の公益活動の奨励・増進を図る公益法人税制の思考が、自己統治に委ねられている非営利型法人の優遇措置として投影されたことにより、両者の税制上の不均衡を露呈したことも大きな要因であろう。本来民間非営利活動の実施団体には、公益法人制度の理念を後押しすることを主眼とし、各々の事業体の機能に基づく課税根拠と政府部門や民間営利部門では対応しきれない活動領域を遂行する上でのインセンティブ効果を併せ持つ公益法人税制の構築が求められる。 Ⅲ 公益法人等の法人税制再構築の検討 公益法人税制による非営利活動の推進のため、①公益法人等の法人税の課税ベース自体を再考するべきか、②非営利型法人(移行法人等を除く12)。)の収益事業課税により生じた非課税所得の余剰財源に対する課税を検討するべきか、及び、③公益法人の事業運営に寄与する公益法人税制を拡充するべきであるか等、各々の事業体の機能を考慮した課税制度の設計を検討する。 1 公益法人等の法人税の課税ベースの再考 公益法人制度の理念は、公益法人の収支相償要件及び移行法人の公益目的支出計画に表れているとおり、財産の費消活動による非営利活動のコントロールが求められている。そうすると、公益法人等の法人税は、当該理念を考慮せずに現行の収益事業課税に採用されている所得の源泉に基づいて課税するか否かを判断すべきか、あるいは、当該理念を尊重し非営利活動による財産の費消活動を捉えて課税ベースを認識すべきか、検討要素として浮上することになろう。 この点について、藤谷武史氏の提案する公益法人等に対する法人税制は、「非営利法人の全所得を課税所得に含めた上で、促進すべき使途(公益活動支出)を即時償却扱いとする課税方法がある(これは、特定の投資活動を促進するための租税特別措置と同じ仕組みである。)。13)」とし、非営利活動促進のため「技術的修正としては、公益活動支出が現実になされたときに過去に支払った税額を上限に還付を行う仕組みが考えられる。…これが税務行政上不可能であれば、合理的な期間内での支出計画の承認に基づく非課税の積立金制度を設けることも可能である。13)」と論じられ、収益事業課税の思考にある所得の源泉による課税判定から財産の使途に着目した非課税制度へ改変するものである。また、同氏の提案には、財産の費消をコミットすべく、当時から特定費用準備資金(公益認定法規則18)及び資産取得資金(公益認定法規則22③三)の活用を提案しているところについて、先見性が感じられる。さらに、本課税方式について「財政が逼迫する法人が収益事業所得を公益活動の内部補助に用いている場合には課税されず、公益活動を行わず内部留保だけを増大させる法人には課税がなされることになり、現行制度よりも実際上妥当な結果を導く。13)」とし、本稿の問題意識に通じるところがある。しかし、本課税方式の提案は、「公益活動支出に着目して非課税とすること」、及び「内部留保を増大させる法人に課税される効果があること」から、目に留まるものであるが、そもそも外部経済をもたらす非営利法人に対して営利法人と同様の全所得課税方式にすることを前提としていることから、非営利法人に対する課税根拠を欠き、骨子の部分において受け入れることができない。 他方、米国では、非営利法人について、本来の事業と実質的な関連性のない事業から生じた収益を課税の対象とする「非関連事業所得課税」が採用されている(米国内国歳入法典[IRC]§511-513、515)。ところで、米国の非営利法人に対する課税方式は、非関連事業所得課税が採用されるまでの間、非課税とすべきか否かの判断基準について、非営利法人の獲得した収益の源泉ではなく、収益により獲得した財産の使途を基準としていた歴史がある。しかし、本歴史は、非課税の判断について財産の使途を基準としていたことにより、租税回避に利用されるとともに、営利法人との競合が生じたことから、1950年の税制改正において、現行の非関連事業所得課税に改正されたという経緯がある14)。そうすると、我が国の収益事業課税は、1950年以降継続して採用されていること、同時期において米国が非関連事業所得課税に改正した背景を考慮すべきであり、また、非営利法人課税ワーキング・グループ15)の審議を経た後も存続していることを勘案すると、公益法人制度の理念を尊重し財産の費消活動を課税ベースとすることについて、消極的にならざるを得ない。 2 収益事業課税により生じた非課税所得の余剰財源に対する課税の考察 移行法人等以外の非営利型法人は、自己統治による非営利活動の中で収益事業課税の対象となり、収益事業以外の事業による所得が非課税と判断された場合、その後の非課税となった財産の費消活動や内部留保の状態について、基本的に租税行政庁からの監視領域とはならない。このような環境下では、公益法人が収支相償要件や遊休財産額の保有制限要件の下で収益事業課税の適用を受けていることに対して、自由な非営利活動という魅力から脱却する意識などは芽生えず、むしろ公益法人の移行認定を目指す意識をついばんでいると考えられる。 ところで、IRC第4942条は、本来非営利法人が目的としている公益活動及び関連事業により稼得した所得を非営利活動に分配することを要請するもので、不適切な内部留保の蓄積を解消する趣旨により、未分配となった所得を規制税として課税することとしている(以下「未分配所得課税」という。)。この未分配所得課税は、事業型私立財団(IRC4942(j)⑶)に該当しないプライベート・ファウンデーション(IRC509(a))について適用されるものであるところ、その課税年度の翌課税年度開始の日において有する①の分配可能額が②の適格分配額を超える場合における、その超える部分の金額(以下「未分配所得」という。)に対して、30%の税率により課税するものである(IRC§4942(a))。さらに、未分配所得課税の適用を受けた非営利法人について、当該課税年度後の年度において未分配所得の残額があるときは、当該各課税期間終了の日の残額に相当する未分配所得に対して、100%の税率により追加税を課税することとしている(IRC§4942(b))。 ① 分配可能額:本来目的の公益活動16)や関連事業の遂行に直接使用しない純資産の価額(総資産の価額から、負債の額及び本来目的のために使用している資産の価額から対応負債を控除した額を、控除して得た額)に5%を乗じた額(IRC§4942(d)(e))。 ② 適格分配額:公益活動のための支出(IRC§4942(g)⑴(A))、公益活動のために使用する資産の取得支出(IRC§4942(g)⑴(B))及び米国内国歳入庁長官の承認を受けた5年以内の公益活動プロジェクトのための積立金(IRC§4942(g)⑵)。 移行法人等以外の非営利型法人の収益事業課税は、非課税所得による余剰財源の使途及び内部留保の状況について、非営利性を喪失しない限り、課税問題に派生することはない。そこで、公益法人の財務三基準のような監視機能を持たない法人には、未分配所得課税に準じた規制税を導入することにより、非営利活動への財産の費消を促し、公益法人との税制上の格差を与えるべきであろう。 ただし、未分配所得課税は、事業型私立財団に該当しないプライベート・ファウンデーションに対する規制税であることからすると、安易に導入を促進することでは反発も大きなものとなり得る。そうすると、移行法人等以外の非営利型法人の収益事業課税は、我が国独自の課税方式を提案する必要があるところ、収益事業以外の事業の所得金額が一過性の余剰であることの検証ができないことを考慮し、公益法人との制度上の格差を是正するため、収益事業課税の課税ベースを維持し、かつ、収益事業以外の事業の所得金額を発生事業年度において非課税とするのではなく、翌事業年度以降に当該所得金額を繰り越し、収益事業以外の事業によって余剰財産の費消を要請することにより、事実上課税の繰延措置に転換するべきであろう。 3 公益法人の事業運営に寄与する公益法人税制の拡充 公益法人は、公益目的事業実施のための財源確保を収益事業等に依拠しており、公益目的事業の拡大志向と公益目的事業比率要件とが対立する構図となる。この状況が深刻な公益法人にとっては、寄附金収入が重要な財源となるところ、第三者である個人・法人からの非営利活動への理解と資金提供が不可欠であり、我が国の寄附文化の浸透が強く望まれている。 しかし、現行の法人税の寄附金税制は、法人が公益法人に寄附金を支出した場合において、仮に公益法人が特定公益増進法人に該当しても、全額損金の額に算入されることにはならない。たとえば、期末資本金1億円の普通法人は、所得金額(1億円)の10%(1千万円)を公益法人に寄附を支出した場合、損金算入限度額(4百万円)を超える部分の金額(6百万円)が損金不算入となり、法人税等の実効税率を37%とすると約2百万円の課税を受けることになるから、キャッシュアウト約1千2百万円が生ずることになる。これを租税行政庁の側から見ると、損金算入限度額4百万円に対する法人税等の実効税率37%に相当する約150万円の租税が減額されたことになる。民間非営利法人に対して、「機動的な対応が構造的に難しい政府部門や、採算性が求められる民間営利部門では十分に対応できない活動領域を担っていくことが期待される2)」旨のスローガンを掲げていることからすれば、公益法人税制として、民間営利部門の資金提供(1千万円)と租税(2百万円)に対して、マイナスの租税(2百万円)を追加する、言わば間接的な補助金の交付体制を構築することが本旨とはいえないだろうか。つまり、本来は、民間営利部門が寄附金に対する租税(2百万円)を納付し、政府部門が民間非営利部門に補助金(2百万円)を交付するところ、寄附金を全額損金算入することで、一気に目的を達することが可能となろう。 ところで、非営利法人課税ワーキング・グループの審議では、「寄附金税制の見直しの基本的方向」について、要旨、次のような指摘がされていた。「少子高齢化が進展して社会の多様化が進む中、より一層厚みのある社会システムを構築していくという側面からも、『民間が担う公共』の領域の役割が重要であって、それを支える公益的な非営利法人による民間非営利活動に国民が積極的に参加するための社会インフラ整備という視点に立ち、欧米並みに寄附文化を育てていくという観点から、税制面として、公益目的の寄附金に係る優遇税制をより充実すべきではないかという考え方もあろうかと思います。17)」旨の寄附金に対する優遇税制を拡充する発言がなされていた。しかし、この意見に対して、「個人も、法人も、寄附文化を育てていかなければなりません。ただ、法人の損金算入の問題は、これまで拡充することに対して異論はなかったのですが、最近疑問が湧いてきました。それは、寄附を含めた企業の社会的責任というのがビジネスに直結する流れになってきているからです。つまり、社会的責任を果たすということがビジネスに有利になるのだという考え方がマーケットの中で既に醸成してきているということです。それが企業価値になってきていることからすると、損金算入を拡大するよりも、納税をしながら寄附金を拠出した方が企業価値は上がるという見方もできないわけではありません。したがって、あまり野放図に寄附金の損金算入を拡大するのは如何なものでしょうか。17)」旨の反論も述べられていた。 本来寄附金は、広告宣伝費とは異なり、反対給付を求めず対価関係のない支出であるところ、法人の業務に関連のある公益法人に対して拠出することがあっても、ビジネスに直結するという考え方には抵抗がある。企業の社会的責任は、近年のオープンイノベーションに象徴されるとおり、雇用の創出、産学連携、企業の共同開発等にまで発展する経済社会に対するディベロップメントであろう。その潮流に派生する寄附金は、企業価値を高める効果が無いとまでいわずとも、後押しが無ければ鈍化する傾向にあり、根源のテーマとして寄附文化の成長を急務とする。それに呼応するかのように、非営利法人課税ワーキング・グループは、議論の大要として「公益目的の寄附金に係る損金算入枠については、近年、企業の社会的責任や社会貢献が強く求められるようになってきており、寄附金税制の充実の必要性の観点から、これを拡充する方向で見直すべきである。18)」旨、取りまとめられている。 そこで、公益法人には、現行の公益法人に対する寄附金について損金算入限度額を規定しているところ、非営利活動の健全な発展を促進するため、公益目的事業に使途が特定されている寄附金を全額損金の額に算入することにより、民間営利部門からの資金提供と政府部門の補助金に準ずるマイナスの租税を先導させ、民間非営利部門の活動領域を支援する財源機能を構築する必要があろう。ただし、寄附金の優遇税制による拡充措置は、当然、租税回避の手段に濫用されるようなことがあってはならない。そのため、当該寄附金は、公益法人が実施する公益目的事業に使途が特定されていることを顕在化する必要があるから、指定正味財産として財務管理を行い、受け入れた寄附財産に対する公益法人の責任と義務の履行を財務諸表に対する注記等を通じて明確にすることが求められる。 Ⅳ おわりに 本稿は、急増している一般社団・財団法人を顧慮し、公益法人への移行を促進するため、法人税制の面から検討をしたものである。これによると、①収益事業課税の法人税の課税ベースを踏襲しながら、②移行法人等以外の非営利型法人の収益事業課税により生じた非課税所得を課税の繰延べ措置に改変すること、また、③公益法人に対する公益目的事業に使途を特定する寄附金は全額損金算入とする措置を講ずべきこと、であると着地するに至った(図表参照)。 本提案は、公益法人に対して公益法人制度の牽制が希薄な一般社団・財団法人との税制優遇措置の格差を是正し、公益法人の財源調達機能を充実させることにより、一般社団・財団法人の公益認定の道筋を照らすことが目的である。そして、本稿は、多くの一般社団・財団法人が公益法人に移行することを期待するものであり、「公益的活動の健全な発展を促進し、一層活力ある社会の実現を図る」ことに尽力されることを望むものである。 図表1-1 公益法人等に対する法人税制の再構築の検討 (筆者作成) 図表1-2 公益法人等に対する法人税制の再構築の検討 (筆者作成) [注] 1)民間非営利活動は、民間営利活動以外の活動であり、民間が行う公益的活動の全般を意味するものとして本稿では使用する。 2)「報告書 平成16年11月19日公益法人制度改革に関する有識者会議」3-4頁。http://www.gyoukaku.go.jp/jimukyoku/koueki-bappon/yushiki/h161119houkoku.pdf(2019年12月19日最終閲覧、カッコ内筆者加筆) 3)公益法人制度改革における移行期間の満了について(速報)。平成25年12月10日。https://www.koeki-info.go.jp/pictis_portal/other/pdf/20131210_ikousinsei_sokuho.pdf(2019年12月19日最終閲覧) 4)各々の法人件数は、国税庁ホームページにおいて、「社会保障・税番号制度・法人番号公表サイト」から2019年12月19日に筆者が抽出したものである。 5)公益目的事業は、学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表に掲げる23種類の事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものと規定している(公益認定法2四)。 6)一般社団法人等とは、一般社団法人又は一般財団法人をいい、また、特定一般社団法人等とは、一般社団法人等であって、①被相続人の相続開始の直前における当該被相続人に係る同族理事の数の理事の総数のうちに占める割合が2分の1を超えること、②被相続人の相続の開始前5年以内において当該被相続人に係る同族理事の数の理事の総数のうちに占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であることの①又は②の要件のうち、いずれかを満たすものをいう(相法66の2②一、三)。 7)このような相続税負担の回避は、平成30年度税制改正において、特定一般社団法人等の理事の死亡に際し、その時点における法人の純資産額を基礎に計算した金額について、みなし遺贈財産として課税対象とすることになったことから、今後同様の節税スキームに対して抑止効果があると考えられている(相法66の2)。 8)法人税法施行令第3条《非営利型法人》は、一般社団・財団人のうち収益事業課税の適用対象となる法人を法人税法独自に「非営利型法人」と定義付け、また、①非営利徹底型法人と、②共益型法人の二形態に分類し、各々対象となる法人の要件を規定している。 9)法人税法に規定する収益事業とは、販売業、製造業その他の政令で定める34の特掲事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいう(法法2十三、法令5)。また、内国法人である公益法人等(非営利型法人を含む。)の各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得以外の所得については、各事業年度の所得に対する法人税を課さない旨規定している(法法7、以下「収益事業課税」という。)。 10)公益認定法第5条《公益認定の基準》は、第6号が「その行う公益目的事業について、当該公益目的事業に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額を超えないと見込まれるものであること(以下「収支相償要件」という。)」、第8号が「その事業活動を行うに当たり、公益目的事業比率が100分の50以上となると見込まれるものであること(以下「公益目的事業比率要件」という。)」、第9号が「その事業活動を行うに当たり、遊休財産額が年間の公益目的事業に係る事業費の額を超えないと見込まれるものであること(以下「遊休財産額の保有制限要件」という。)」と規定している(これらの公益認定の基準を「財務三基準」という。)。 11)金子宏『租税法 第23版』(弘文堂、2019)、450-454頁。 12)余剰財源に対する課税の検討は、移行法人について、公益目的支出計画による事業運営が公益法人の理念と同視できること、また、非営利型法人のうち共益型法人について、会員から徴収した会費を共益的な活動に費消することを前提としていることから除外すべきと考える。 13)藤谷武史「非営利公益法人の所得課税-機能的分析の試み」ジュリスト1265号、128-129頁(有斐閣、2004.4)。 14)石村耕治『日米の公益法人課税法の構造』(成文堂、1992.11)、「財務省代表は、多くの免税団体が『免税活動とまったく無関係な事業に従事し、免税の意味を逸脱してしまっている』実情を指摘した(Hearings on Revenue Revision Before the House Committee on Ways and Means,77th Cong.,2d Sess.89(1942))。1943年歳入法(Revenue Act of 1943)の制定の際に作成された下院報告書(H.R.Rep.No.871,78th Cong.,1d Sess.24(1943))中で、多くの免税団体が課税を受ける企業にとり直接の競争相手となっていること。そして、このような傾向は徐々に拡大しており、事実上、免税の特典が脱税ないしは節税のための抜け穴と化していることを強調している。」、260-277頁参考。 15)2005年4月15日税制調査会に設置された、基礎問題小委員会及び非営利法人課税ワーキング・グループ合同会議(以下「非営利法人課税ワーキング・グループ」という。)は、新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制のあり方についての検討を開始し、以後6回にわたり審議を行った。 16)公益活動とは、専ら宗教、慈善、学術、公共の安全、文学、教育、国際アマチュアスポーツの促進、子供又は動物に対する虐待の防止活動をいう(IRC170(c)⑵(B))。 17)第34回基礎問題小委員会・第2回非営利法人課税ワーキング・グループ合同会議議事録に基づき、筆者がその内容を要約したものである。 18)非営利法人課税ワーキング・グループ「新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方」平成17年6月。https://www.cao.go.jp/zei-cho/history/ 1996-2009/etc/2005/pdf/170617.pdf(2019年12月31日最終閲覧) (論稿提出:令和2年1月3日)

  • ≪論文≫会計からみる公益法人制度改革の課題と可能性 / 尾上選哉(日本大学教授)

    PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 日本大学教授 尾上選哉 キーワード: 公益法人制度改革 受託責任会計 法人主体理論 財産目録 決算公告制度 規模別会計基準 要 旨: 本稿は、会計の観点から、公益法人制度改革の趣旨に照らして新公益法人制度が有効な社会システムとして機能しているかについて、現状を検討することを通じて改善すべき課題を明らかにするとともに、会計が今後の公益法人制度の発展にどのように寄与し得るかを論じるものである。 具体的には、①公益法人会計の特異性、②受託責任遂行状況の開示、③情報開示制度、④Proportionality Principlesに基づく規模別会計基準の設定、という観点から、4つの課題を抽出し、各々の課題に対する私案を提示している。そして、それらの課題を克服することが「民による公益」の増進、公益法人制度の更なる発展につながるのではないかと考えられる。 構 成: Ⅰ はじめに Ⅱ 新公益法人制度の現状 Ⅲ 公益法人会計の課題と可能性 Ⅳ 「民による公益」の増進に向けて(まとめ) Abstract In Japan, a major reform of the legal framework of Public Interest Corporations (PICs) took place to promote sound development of non-governmental/not-for-profit activities in December 2008, and more than 10 years have passed since then. This article aims to assess the PICs status quo of whether the new system is functioning as an effective social system from the accounting perspective, and to identify issues or challenges to improve for the development of the PICs system. Specifically, four issues were identified from the viewpoints of ⑴ the peculiarity of accounting for the PICs, ⑵ disclosure of the status of fulfillment of stewardship responsibilities, ⑶ the disclosure system of PICs, and ⑷ setting of accounting standards by size based on the proportionality principles. Solutions for each four issues are offered. Overcoming the issues will lead to the sound promotion of “public interests”, and further development of the PICs system. Ⅰ はじめに 本稿の目的は、2008(平成20)年12月1日に施行された公益法人制度改革関連三法により新公益法人制度がスタートし、2018(平成30)年で10年の節目を迎えたことに鑑み、会計の観点から、公益法人制度改革の趣旨に照らして新公益法人制度が有効な社会システムとして機能しているかについて、現状を検討することを通じて改善すべき課題を明らかにするとともに、会計が今後の公益法人制度の発展にどのように寄与し得るかを論じるものである。 なお、本稿のタイトルをみると公益法人会計基準が想起されるが、本稿は公益法人制度改革に基づく新公益法人制度を検討対象としていることから、公益社団法人および公益財団法人(以下、「公益法人」という。)のみならず、一般社団法人および一般財団法人(以下、「一般法人」という。)に係る会計をも検討の対象として含んでいる。 Ⅱ 新公益法人制度の現状 1 公益法人制度改革 1896(明治29)年の民法制定と共にスタートした公益法人制度は、2008(平成20)年の公益法人制度改革に至るまでの110年以上にわたって、日本における民間非営利部門の活動の中心的な役割を担ってきた。公益法人の設立は、改正前民法第34条において主務官庁による「許可主義」によるとされていた。また設立後、公益法人は主務官庁による指導監督を受けることとされていた。このような主務官庁の設立における「許可」は、法律などに基づくことなく、主務官庁の自由裁量によるものであったことから、主務官庁ごとにその判断が行われる結果、設立許可の基準が異なる、統一性・整合性を欠くという問題が生じていた。この問題は、主務官庁に自由裁量が与えられている、つまり「監督官庁のまったく自由な判断による」(星野[1998]94頁)ことの当然の帰結であった。 また、改正前民法第34条が「祭祀、宗教、慈善、学術、技芸其他公益ニ関スル社団又ハ財団ニシテ営利ヲ目的トセサルモノハ主務官庁ノ許可ヲ得テ之ヲ法人ト為スコトヲ得」(傍点筆者加筆)と規定していたことから、公益法人として設立が認められるのは「非営利かつ公益目的」の社団ないしは財団であり、「非営利、公益を目的としない」社団ないしは財団(いわゆる、共益団体)には法人格を取得する術が存在していなかったのである。しかしながら、実際には、主務官庁の裁量によって、共益目的の組織が公益法人として許可される例は少なくなく、問題視されていた(小山[2009]120頁)。 このような状況を鑑み、多様化する個人の価値観や社会のニーズに対応するために、公益法人制度改革は、「民間非営利部門の活動の健全な発展を促進し民による公益の増進に寄与するとともに、主務官庁の裁量権に基づく許可の不明瞭性等の従来の公益法人制度の問題点を解決すること」(内閣府[2008]3頁)を目的として実施された。 公益法人制度改革により、非営利目的のいずれの組織は、公益目的であるか否かを問わず、一定の要件を満たせば、登記手続きのみ(準則主義)で一般法人を設立し、法人格を取得することが可能となったのである。主務官庁の裁量権に基づく許可主義の廃止である。新公益法人制度の下では、非営利かつ共益目的の組織も登記手続きによって、容易に法人格を取得することができるようになったのである。 また、新公益法人制度に「公益認定」という新しい制度が導入された。旧公益法人制度では、主務官庁が自由裁量によって法人の公益性を認定し、許可を付与していたが、公益性認定と法人格の取得が切り離されたのである。公益認定制度は、一般法人のうち、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下、「公益法人認定法」という。)の定める一定の基準を満たしていると認められた法人は、内閣総理大臣ないしは都道府県知事の公益認定を受けて公益法人となることができる制度である。一定の基準を充足しているか否かの判断は、民間有識者から構成される国の公益認定等委員会ないしは都道府県の合議制の機関(以下、国および都道府県の機関をまとめて「公益認定等委員会」という。)が行うこととなっている。法令および公益認定等委員会の公表するガイドラインに基づいて、公益認定等委員会が公益性の判断を行い、その判断に基づき内閣総理大臣ないしは都道府県知事が認定を行うこととなっている。新公益法人制度における公益認定等委員会は、英国(イギリスおよびウェールズ)におけるチャリティ委員会(the Charity Commission)をモデルとして導入された、公益性に関する専門的知見を有する合議制の第三者機関である。「内閣総理大臣の知見を補完し、実態に即した適切な判断を行い、かつ、各省庁の意向に左右されることなく適切に裁量を行使することにより、内閣総理大臣が行う公益認定、監督処分等の客観性、透明性を確保し、この認定制度に対する信頼性を確保しようとする」(新公益法人制度研究会[2006]225頁)ものであると考えられている。 2 公益法人制度改革による法人類型 新公益法人制度の下では、上述のように、一般法人(一般社団法人および一般財団法人)を準則主義により設立することが可能となり、一般法人のうち、公益認定等委員会により公益認定を受けることにより、公益法人(公益社団法人および公益財団法人)になることができるようになっている。新公益法人制度は、旧公益法人制度における「公益目的」ではなく、「非営利目的」を法人設立の基準としたため、一般法人は営利を目的としない(非営利)、①公益(public benefit)を目的とする法人と、②共益(mutual benefit)を目的とする法人が共存している。公益法人は営利を目的とせず、かつ公益を目的とする法人となっている。新公益法人制度においては2つの法人類型が存在することから、「2階建て」と呼ばれることがある1)(図表1参照)。 図表1 新公益法人制度の法人類型 (内閣府[2019]3頁をもとに筆者作成) 新公益法人制度の現状把握の1つとして法人数をみると、図表2の通りである。新制度の施行日において、旧公益法人制度による公益法人(旧公益法人ないしは特例民法法人)の数は24,317法人であった(内閣府[2009b]11頁)。特例民法法人から新公益法人制度への移行期間が2013(平成25)年11月30日に終了したが、特例民法法人の内、8,998法人(37.0%)が新制度における公益法人に移行認定申請を行い、11,664法人(48.0%)が一般法人に移行認可申請を行った。なお、解散・合併等の法人数は3,650法人(15.0%)であった(内閣府[2014]85頁)。2019年12月27日現在、公益財団法人5,409、公益社団法人4,174、合計9,583の公益法人が活動しており2)、新公益法人制度において新しく設立された法人数は585法人であり、旧公益法人(特例民法法人)から公益認定を経て公益法人となった法人数は8,998法人である。一般法人の数は一般財団法人7,493、一般社団法人59,854、合計67,347となっている(図表2参照)3)。 図表2 法人数の変化 (筆者作成) 公益法人制度改革を通じて、民間非営利部門の中核を担う公益法人の数は24,317法人から76,930法人(一般法人および公益法人の合計数)へと52,613法人増加している。公益法人は移行認定の8,998法人から9,583法人へと585法人増加し、一般法人は移行認可11,664法人から67,347法人へと55,683法人増加している。法人数の変化から、一般法人の増加、中でも一般社団法人の増加が顕著となっている。 3 一般法人・公益法人の会計 ⑴ 会計の役割および会計規定 会計を「情報の利用者が情報に精通して判断や意思決定を行うことができるように、経済的情報を識別し、測定し、伝達するプロセス」(AAA[1966]p.1)であると捉えると、会計に期待される一般的な役割を次のようにまとめることができる。 ・ ‌財産管理・運用に役立つ ・ ‌予算および決算の作成に役立つ ・ ‌財務状況(財政状態)および活動実績(経営成績)の明らかにするのに役立つ ・ ‌寄付者などの資源提供者に対する受託責任遂行状況の開示に役立つ ・ ‌外部の利害関係者の意思決定に役立つ情報の開示に役立つ 新公益法人制度上の一般法人および公益法人の会計については、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(以下、「一般法人法」という。)および公益法人認定法に規定が置かれている。 【一般法人に係る主な会計規定】 ・ ‌一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従う(一般法人法第119条) ・ ‌正確な会計帳簿の作成および会計帳簿等の保存(同第120条) ・ ‌計算書類等(貸借対照表、損益計算書、事業報告、附属明細書)の作成および保存(同第123条) ・ ‌貸借対照表ないしは貸借対照表の要旨の公告(同第128条) ・ ‌計算書類等の備置きおよび閲覧等(同第129条) 【公益法人に係る主な会計規定および会計の役割(一般法人に係る規定に加えて)】 ・ ‌公益法人認定法上の様々な計数(公益目的事業比率、遊休財産額、公益目的事業財産額等)の提供 ・ ‌公益法人の認定時および認定後の継続的なチェック ・ ‌事業計画書等、事業報告等(計算書類等を含む)の行政庁への提出、事務所への備置きおよび閲覧等 ⑵ 一般法人および公益法人の会計 一般法人法第119条(および第199条)は、「…会計は、その行う事業に応じて、一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従うものとする」と規定し、一般法人の準拠すべき会計の原則を定めている。 一般法人は、会計の原則およびしん酌規定「一般に公正妥当と認められる会計の基準その他の会計の慣行をしん酌しなければならない」(一般法人法施行規則第21条、下線筆者加筆)に基づいて会計を行う必要があるが、特に適用が義務付けられている会計基準はない。ただし、一般法人の行う公益事業や共益事業を鑑みると、2008(平成20)年の公益法人会計基準(以下、「2008年改正基準」という。)の他に、1985(昭和60)年の公益法人会計基準、2004(平成16)年の公益法人会計基準(以下、「2004年改正基準」という。)、公益法人会計基準以外の非営利法人会計基準(学校法人会計基準など)の適用が考えられる。また、一般法人が収益事業を実施する場合には、企業会計基準の適用も考えられる。 公益法人も一般法人と同様に、会計の原則およびしん酌規定「一般に公正妥当と認められる公益法人の会計の基準その他の公益法人の会計の慣行をしん酌しなければならない」(一般法人法施行規則第21条、下線筆者加筆)に基づいて会計を行うことになるが、法律などによって特に適用が義務付けられている会計基準は存在していない。公益法人の会計に適用が考えられる会計基準は一般法人と同じである。 内閣府が公表するFAQによると、一般法人および公益法人は、「利潤の獲得と分配を目的とする法人であることを踏まえ、通常は、公益法人会計基準を企業会計基準より優先して適用するものとなる」と指針を示している(内閣府[2019c]問VI-4-①)4)。 4 公益法人会計基準 公益法人会計基準は、1977(昭和52)年に公益法人監督事務連絡協議会申合せとして制定され、数次の改正を経て現在に至っている。公益法人会計基準は、制定当初、主務官庁の指導監督基準としての役割を担っており、その意味で、一般目的というより、むしろ特定目的の財務諸表作成のためのガイドラインであった。公益法人会計の目的は、理事者の会計責任を明らかにするという受託者会計(stewardship accounting)であり、収支予算に基づく収支決算が重要視され、収支計算書を中心とする財務諸表の体系となっていた。 しかし、2004(平成16)年の改正により、公益法人会計基準の方向転換が行われ、①事業活動の透明性を向上させ、財に対する受託責任を明確にすることを通じて、国民に対して理解しやすい会計情報の提供、②公益法人の事業の効率性を評価・分析しうる会計情報の提供、③保有債券等の時価情報、関連当事者間取引等の情報開示を通じて、公益法人の財務内容の透明性の向上を図るという、会計情報の一般目的外部報告化、つまり不特定多数に対する情報提供を目指したものとなった。このような転換を推し進めるために、2004年改正基準は積極的に企業会計の理論と手法を導入し、企業会計と同様な意思決定有用性に基づく会計へシフトした。 現行の公益法人会計基準は、公益法人制度改革に合わせて、2008(平成20)年に公益法人の行政庁である内閣府公益認定等委員会により公表されたものであるが、2004年改正基準を基本的に踏襲しつつ、公益認定の判断を可能とする会計情報作成の必要性から、公益認定等に資するように微調整がなされたものとなっている(齋藤[2019a]43頁)。 2004年改正基準から2008年改正基準の主要な改正点は、齋藤[2019a]によれば、①会計基準の体系、②財務諸表からの財産目録の除外、③附属明細書や基金に関する規定、④会計区分ごとの情報表示、の4点である(43頁)。ここでは、①会計基準の体系の改正についてのみ確認をしておくことにする(②については後述)。会計基準の体系については、会計基準本体と運用指針の区分に意味をもたせている点である(同上)。会計基準本体は、「公益認定の判断」という特定目的から距離を置き、2004年改正基準が目指した財務報告の一般目的性(不特定多数に対する情報開示の方向性)を堅持しつつも、運用指針は公益認定の判断に資するという特定目的に配慮したものとなっているのである。 上述したように、2008年改正基準は公益法人においてはもちろんのこと、一般法人においても企業会計基準に優先して適用されるべきであると考えられる会計基準である(内閣府[2019c]問VI-4-①)。 Ⅲ 公益法人会計の課題と可能性 Ⅱの新公益法人制度の現状を踏まえて、Ⅲでは現状の公益法人会計が抱える課題を明らかにするとともに、課題に対する私案を提示することとする。 1 公益法人会計の特異性 現行の公益法人会計基準に代表される公益法人会計は、公益法人と営利企業の間には利益分配という点を除けば、両者の活動には経済的な差異はないという前提に立ち、同一の経済事象には同一の会計処理方法を適用すべきであるとの考えから、積極的に企業会計の理論と手法が導入されている。この考え方は、米国における非営利組織会計の前提となっている(FASB[1980]para.1)。 しかしながら、営利を目的とする企業と公益法人の存在目的は相違する。企業は事業活動を通して利益を獲得し、その利益を出資者(資本主)に分配することを、企業活動の究極的な目的としている。他方、非営利を目的とする公益法人の究極的目的は利益獲得以外のミッション(使命)の達成にあり、そのミッションの達成を目指す過程において剰余金が発生することはありうるものの、その剰余金はミッション達成のために再投資される。つまり企業のように出資者に利益(剰余金)の分配は予定されておらず、そもそも出資者のような持分権者は公益法人には存在していないのである。この相違から、次の課題を指摘することができる。 課題1:  持分権者の存在しない公益法人に、資本主理論に立脚する企業会計の理論と手法を導入している 資本主理論とは、資本主(出資者)の立場で会計を行うべきとする考え方であり、企業を出資者あるいは出資者の集合体として捉える考え方である。この考え方に基づけば、貸借対照表における資産は出資者にとってプラスの財産を、負債はマイナスの財産を意味し、資産と負債の差額である純資産は出資者にとっての正味の財産(資本主の富の大きさ)を表す。そして、一会計期間の損益計算は、資本主の富の増減として説明される。 課題1により生起する問題点は、一般社団法人および公益社団法人に認められている資金調達の手段である「基金」(一般法人法第131条)の会計上の取扱いである。法人にとって、基金は法的には返還義務を負うものであるが、公益法人会計基準上、正味財産の部に計上することとなっている(公益法人会計基準注解・注5)。これは、基金制度が「剰余金の分配を目的としないという一般社団法人の基本的性格を維持しつつ、その活動の原資となる資金を調達し、その財産的基礎の維持を図るための制度」(新公益法人制度研究会編[2006]91頁)であり、一般法人法上、他の債権に対して劣後する(一般法人法第145条)ことに鑑みて、株式会社における資本金に似た位置づけを行っていると考えられる。しかしながら、他の債権に対して劣後するものの、企業会計においては、返済義務の存在が明確であることから負債に該当するとの考え方もある。 また、正味財産の区分をどうするかの問題もある。現行の公益法人会計基準は2004年改正基準以降、正味財産の区分を資源提供者の使途の有無により「一般」と「指定」の2区分にしているが、米国で以前採用されていたような「永久拘束」「一時拘束」および「非拘束」という3区分もある。 このような問題に対して、次のような対応をすることにより、その解決が可能であると考えられる。 課題1への対応:  持分権者の存在しない公益法人には、企業会計でいう企業主体理論(法人主体理論)に立脚する会計理論を構築し、会計手法等を検討する 企業主体理論とは、企業をその所有者である資本主から独立した存在として捉え、企業そのものが会計主体であるとして会計を行うべきとする考え方であり、公益法人の文脈では法人主体理論ということができよう。この考え方に基づけば、貸借対照表の借方(資産)は資金の具現・運用形態を、貸方は資金の調達源泉を表す。貸方は返済義務の有無により、負債と純資産(正味財産)に区分されるが、資本主理論における負債と純資産の区分のような重要性はなく、資金の調達源泉という観点からすると負債と純資産(正味財産)は同質ということになり、次のように貸借対照表を表示することができよう(齋藤[2016]270頁)(図表3参照)。 図表3 法人主体理論による貸借対照表(イメージ) (筆者作成) 貸方について、返済義務の有無、使途拘束の有無に基づいて記載し、あえて負債と正味財産の区分をしないことにより、基金が負債ないしは正味財産に該当するかの議論を回避することもできる。また、情報提供を重視するのであれば、情報利用者の意思決定の有用性に基づいて2区分ないしは3区分すればよいし、また理事者による積立てなどの内部者による使途拘束についても外部資源提供者の使途拘束なしに区分した上で、明らかにすることも可能であろう。 2 受託責任遂行状況の開示 公的機関の行政活動等に対する国民の知る権利や情報開示(ディスクロージャー)の重要性が認識されるようになり、公益法人などの非営利法人においても同様に、情報開示の重要性や必要性が議論されてきた。会計の領域においては、上述したように2004年改正基準が社会への情報開示(public disclosure)という社会的要請に応えるために、寄付者などの資源提供者だけでなく、国民(様々なステークホルダー)に対する会計情報の提供を目的とした、会計情報の一般目的外部報告を志向するものとなった。会計情報の一般目的化とは不特定多数に対する情報提供を意味し、情報の受け手であるステークホルダーがその情報に基づいて、何らかの意思決定(例えば、その公益法人に寄付を行うか否か)を行うことが想定されている。 課題2:  資源提供者に対する受託責任に関する会計情報の量・質の低下が生じている 会計情報の一般目的化は、財務諸表において開示される会計情報の一般化を意味することから、従来の財務諸表において開示されていた受託者の責任(受託責任)に係る情報の重要性は相対的に低下することとなる。例えば、2004年改正基準において、収支予算書および収支計算書は財務諸表の範囲外となり、内部管理項目とされている。また財産目録における記載内容が貸借対照表のそれとほとんど変わらないようになってきている。すなわち、財産目録の貸借対照表化である。 このような問題に対して、次のような対応をすることにより、その解決に向けての一歩となると考えられる。 課題2への対応①:  法人主体理論に基づいた貸借対照表の組換えにより、資産(借方)と資金調達源泉(貸方)のカップリングを通じて、受託責任に関する会計情報の可視化を図る 上述の法人主体理論に基づいた貸借対照表を前提として、資産の使用・利用について使途制限の有無に基づいて、貸借対照表を区分し、借方側の資産と貸方側の資金調達源泉をカップリングすることにより、資産の使用・利用状況に関する情報を提供することを通じて、資源提供者の提供した資産がどのような状態になっているかを可視化することが可能となる(図表4参照)。 図表4 資産と資金調達源泉のカップリング(イメージ) (筆者作成) 課題2への対応②:   財産目録の財務情報としてではなく、非財務情報としての重要性を認識する 財産目録の財務情報としての重要性は、営利法人(会社)・非営利法人を問わず、時代の流れと共に低下してきたといえる(安藤[2017])。1949(昭和24)年に制定された「企業会計原則」に財産目録が含まれなかったことを契機として、1974(昭和49)年の商法改正において商人が作成すべき商業帳簿の規定から財産目録は削除され、商業帳簿の1つとして重要な地位を占めていた財産目録の作成は、現在、不要となっている。公益法人の会計においても、2004年改正基準における財務諸表の範囲に財産目録は含まれるものの、その内容は貸借対照表記載の資産および負債の明細表という位置付けであり、資産および負債の差額として正味財産を計算する様式(様式4)となっていた。 そこで、財産目録を「非財務情報の伝達手段」として位置付け、寄付者等に対する受託責任に係る説明という役割を担う書類として活用するのである(齋藤[2019b]1頁)。例えば、寄付者等がその使途を指定して財産を出捐した場合、貸借対照表の正味財産(純資産)の部において使途制約のある寄付等の名目額が区分表示され明らかとなるが、その財産が自らの指定通りに保有・利用されているか否かは分からない。財産目録に、個々の財産の使用目的や状況、場所や物量等を明らかにする内容を含めることにより、寄付者等に対する受託責任に係る説明(説明責任)を果たすことが可能となるのである(同上)。 3 情報開示制度 公益法人に対する情報開示(計算書類等の備置き・閲覧等、公告、行政庁への事業報告等の提出など)は、公益法人認定法の規定や行政庁の立入検査や報告徴収という監督により一定程度担保されており、法人の事業運営の透明性の確保や説明責任の履行は実施されているといえる5)。 しかしながら、一般法人に対する情報開示(計算書類等の備置き・閲覧等、公告)は、法人頼みの状況である。つまり、一般法人法は情報開示に対する規定を備えているが、法人が実際に情報開示を行っているか否かを確認する監督機関は存在していないのが現状である。 課題3:  一般法人に対する情報開示の規定が有名無実化しており、法人情報の開示が進展せず、ガバナンス(法人自治)が機能しない可能性が存在する 一般法人は準則主義により登記に基づいて設立することが可能であり、監督機関が存在していない。これは、民間非営利部門の一般法人が多様なサービスを社会の必要に応じて提供できるようにするためであり、行政機関ではなく、サービスの受領者である社会がモニタリング(監視)し、より良い社会を創造することを目指していると考えられる。一般法人が法律の趣旨を踏まえて、情報開示が進展すれば問題は生じないが、すべての一般法人がそうではない。また、法人税法上の区分である「非営利型」の一般法人においては、原則非課税という税制上の特別な措置が講じられていることを鑑みると、一般法人に関する情報開示に対する実効性のある規定が必要であろう。 このような問題に対して、次のような対応をすることが考えられる。 課題3への対応:  一般法人に対する情報開示規制のあり方を検討すると同時に、決算公告制度の遵守を義務付ける 一般法人法は、すべての一般法人に対して決算公告制度を設けている(一般法人法第128条および第331条)。そこで、この規定の遵守を義務付けることが考えられる。会社法においても、決算公告制度は存在する。しかし、すべての会社がこの制度を遵守していないのは周知のことであるが、一般法人は上述したように、法人税法上、「非営利型」の一般法人となることにより、収益事業を実施しない限り、非課税という税制上の特別な措置が講じられている。つまり、一般法人はどのような事業活動を行っているかという情報開示をすることなく、法人税の非課税措置が講じられうるのである。一般法人の多くは、適正なガバナンスの下で事業活動を行っていると思われるが、情報開示が進展しない状況においては、その判断もできないといわざるを得ない。 決算公告制度は、公告の方法として、①官報、②日刊新聞紙、③電子公告、④事務所の公衆に見やすい場所への掲示、を定めている。また公告の内容は、公告方法が①や②の場合には貸借対照表の要旨を、③および④の場合には貸借対照表とされている6)。なお、公告を怠った場合や不正な公告を行った場合には、100万円以下の過料が課されることとなっている(一般法人法第342条1項2号)。 4 Proportionality Principlesに基づく規模別会計基準の設定 公益法人のみならず一般法人においても、上述したように、適用が義務付けられた会計基準は存在しないが、公益法人会計基準に準拠した会計がすべての法人に推奨されている。現行の公益法人会計基準は、法人の規模等に応じた複数の会計基準を定めていない。内閣府公益認定等委員会の「公益法人の会計に関する研究会」は、公益法人の会計を検討するに当たって、小規模法人の負担軽減策等について議論を行っているが、小規模法人を定義することは困難であると結論付け、すべての公益法人は原則的な処理を行うべきであるとしている(内閣府[2015]6-7頁)。 しかしながら、小規模法人等からは行政庁への定期提出書類の作成や行政庁への対応が過大な負担になっており(例えば、内閣府[2015]1-2頁、内閣府[2019a]49頁)、小規模法人等に対する会計基準(企業会計における「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」のような中小企業向けの会計基準)の作成への要望が存在するのも事実であり、日本公認会計士協会が2019年7月に公表した「非営利組織における財務報告の検討」においても、原則的な会計処理を定めた会計基準とは別に、小規模法人向けに簡便な取扱いを具体的に定めた会計基準の設定が望ましいとしている(日本公認会計士協会[2019]10頁)。 課題4:  一般法人・公益法人の会計における規模別会計基準の導入の是非を検討する 現行の公益法人会計基準である2008年改正基準は、上述のように、運用指針は「公益認定の判断」という特定目的に資するように作成されている。会計基準本体は一般目的性を維持していると理解すると、公益法人のみならず、一般法人もが使いやすい公益法人会計基準の検討がなされて当然であり、小規模な法人が大多数であることを鑑みれば、規模別会計基準の導入の是非を再度検討しても良いのではないだろうか。現行の発生主義に基づく会計を基本としつつも、現金主義などの簡便な会計処理を取り入れた会計基準の検討である。 課題4への対応:  先行事例、例えばニュージーランドにおける規模別会計基準の事例を検討することから始める 一般法人や公益法人の会計が、発生主義でなければならない絶対的な根拠はない。法人の事業活動の効率性や経済性を測定するために、現金主義ではなく、発生主義に基づいて法人の事業活動のコストを財やサービスの消費に基づいて計算する方法が採用されているにすぎない。例えば、ニュージーランドでは、年間事業費用の規模別に4区分(tier)し、年間3,000万NZドル(21.6億円)以上のTier1に属する組織には国際公会計基準に準じた会計基準が適用され、年間12.5万NZドル(900万円)以下のTier4の組織には現金主義に基づく会計が適用されることとなっている(金子[2016]56頁)。ニュージーランドにおける規模別会計基準の適用によって、ニュージーランドにおけるチャリティの事業活動がどのように改善されたか、また制度としてどのように運用されているかを検討することは、日本における規模別会計基準の導入の是非を検討する上で不可欠であると考えられる。 Ⅳ 「民による公益」の増進に向けて(まとめ) 公益法人制度改革の根幹は、民間非営利部門の活性化であり、民間が担う公益(民による公益)の促進であることから、本稿では公益法人のみならず、一般法人も含めた「民による公益」の増進のために、会計に関わる現状を考察し、改善すべき課題を抽出し、それらの課題に対する私案を提示してきた。 公益法人の会計についてまとめると、会計に係る制度的枠組みを担保する仕組みは、公益法人認定法により一定程度担保されていることが明らかとなったが、制度や運用における更なる改善が望まれる。 一般法人の会計については、会計に係る制度的枠組みを担保する仕組みは、法人頼みの状況であり、不十分であるといわざるをえない。従来の公益法人の移行認可した一般法人11,664法人から、55,683法人増加して現在の一般法人は67,347法人となっている。そして、その中でも一般社団法人の増加数が突出していることを確認したが、行政庁の監督を受けず、また一般法人法等の法令の遵守において、一般法人の役員の動機付けは弱いという批判(長畑[2014]240-241頁)もあることを考えると、「民による公益」を目指した一般法人制度が「無法地帯」となりうる可能性も潜んでいる。このような状況を作り出さないためにも、一般法人に対する法制度の充実が望まれる。特に、法人税法上の非営利型の一般法人に対する一定の規制(規律付け)は喫緊の課題である。 [謝辞] 本稿は、JSPS科研費JP17H06191の助成を受けたものである。 [注] 1)法人税法上、新公益法人制度における一般法人および公益法人は、①公益法人、②非営利型の一般法人、③非営利型以外の一般法人の3つに区分(3類型)されている。法人制度上の「2階建て」に対して、「3階建て」と呼ばれることがある。なお、各区分において異なる法人税法上の取扱いとなっている。 2)なお、公益法人の正式な数については、公益認定等委員会が毎年、公表している「公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告」(https://www.koeki-info.go.jp/outline/koueki_toukei_n4.html)に記載されている。本稿の執筆時点においての最新版は2019(令和元)年版であり、2018(平成30)年12月1日現在の法人数(9,493法人)の記載であるため、「公益法人等の検索」(https://www.koeki-info.go.jp/pictis-info/csa0001!show#prepage2)を用いて全国の公益社団法人および公益財団法人を検索し、その合計をもって、本稿記載の公益法人数としている(2019[令和元]年12月27日時点)。 3)一般法人の数は「国税庁法人番号公表サイト」(https://www.houjin-bangou.nta.go.jp)における一般社団法人および一般財団法人として登録されている法人の数(2019[令和元]年12月27日時点)である。なお、登記記録の閉鎖等が生じた法人は含めていない。 4)旧公益法人からの移行法人の適用する会計基準について、FAQは2008年改正基準が運用上、法令等により必要とされる事項に対応しているため、法人の会計処理の利便に資するとしている(内閣府[2019c]問VI-4-①)。 5)公益法人の情報開示は、行政庁によるインターネットを利用した閲覧請求制度もあるが、ホームページ上で予め、利用者情報、閲覧を希望する法人名、閲覧書類、閲覧予定日等を登録する必要があり、その閲覧予定日から10日間しか閲覧できないシステムとなっている。公益法人の情報開示を進める上では、上場企業等のデータベースであるEDINET(金融庁)や英国チャリティ委員会の登録チャリティ情報のデータベースのようなインターネット上での自由な検索可能なデータベースの構築も課題としてあげることができよう(尾上[2018]1頁)。 6)最終事業年度における貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である法人(大規模法人)は、貸借対照表および損益計算書が公告の内容とされている(一般法人法第2条2-3項、第128条1項)。 [参考文献] 安藤英義[2017]「会計帳簿と財産目録−会計の原点とその現状−」『専修商学論集』第105号、1-17頁。 石坂信一郎[2017]「ニュージーランドにおける会計基準の適用区分の整理」『営利・非営利組織の財務報告モデルの研究』(国際会計研究学会研究グループ最終報告書)、223-247頁。 太田達男[2019]「公益法人制度改革の成果と課題」『税研』Vol.35、No.2、32-39頁。 岡村勝義[2019]「新公益法人制度10年の現状と課題」『公益・一般法人』No.979(2019.1.1)、1頁。 尾上選哉[2016]「公益法人会計基準の基本的枠組みとその展望−平成27年度内閣府会計報告を受けて-」『公益・一般法人』No.927(2016.10.15)、56-61頁。 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内閣府[2018]「平成29年公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告」https://www.koeki-info.go.jp/outline/pdf/2017_01_houkoku.PDF 内閣府[2019a]「新公益法人制度10年を迎えての振り返り」https://www.koeki-info.go.jp/pictis-info/poa0003!show#prepage2 内閣府[2019b]「平成30年公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告」https://www.koeki-info.go.jp/outline/pdf/2018_01_houkoku.pdf 内閣府[2019c]「公益法人制度等に関するよくある質問(FAQ)【令和元年9月版】」https://www.koeki-info.go.jp/faq.html 長畑周史[2014]「非営利法人のガバナンスの問題点についての試論」『横浜市立大学論叢社会科学系列』Vol.65、No.1・2・3、235-247頁。 日本公認会計士協会[2019]「非営利組織における財務報告の検討」https://jicpa.or.jp/specialized_field/20190731iub.html 番場嘉一郎監修[1982]『改訂 詳説公益法人会計-理論と実務−』、公益法人協会。 星野英一[1998]『民法のすすめ』、岩波書店。 American Accounting Association(AAA)[1966] A Statement of Basic Accounting Theory. (飯野利夫訳『アメリカ会計学会・基礎的会計理論』国元書房、1969年) Financial Accounting Standards Board (FASB) [1980] Statement of Financial Accounting Concepts No.4. Objectives of Financial Reporting by Nonbusiness Organizations. Norwalk, CT: FASB. (論稿提出:令和2年1月8日)

  • ≪論文≫公益法人税制優遇のルビンの壺現象:価値的多様性と手段的多様性への干渉 / 出口正之 (国立民族学博物館教授)

    PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 国立民族学博物館教授 出口正之 キーワード: 公益法人制度改革 公益法人税制 理念の改革 理念的積極論 価値的多様性 手段的多様性 ルビンの壺現象 要 旨: 本稿は公益法人税制が課税強化から促進税制への180度転換となったことに関する政策的意図を辿り、理論的な裏付けを行ったものである。パレート効率性の観点から税制優遇の根拠を議論し、単に不祥事を無くすという理念的消極論からは、税制の転換は不可能だったことを明らかにした。したがって、税制改正のカギを握るのは、公益法人としての行政や企業にはない特性の発揮、すなわち、「価値的多様性」と「手段的多様性」の重要性を指摘した。 そのうえで、「箸の上げ下ろしの指導」をやめると言っていた行政庁の監督が、税制上の優遇を口実にすることで、過剰に正当化され、却って公益法人の自由で柔軟な活動を奪っている状況を明らかにして、それを「ルビンの壺現象」と命名して警鐘を発した。 構 成: Ⅰ はじめに Ⅱ 「理念の改革」としての改革の立法趣旨 Ⅲ 旧主務官庁制度の問題点 Ⅳ 寄附金控除制度の理論と税制調査会 Ⅴ 立法趣旨の取違えと「爪楊枝の上げ下ろしの指導」への変化 Ⅵ 結論としての「ルビンの壺現象」 Abstract This paper illustrates a theoretical proof of the policy intention regarding the 180-degree transition of the public interest corporation tax system from the strengthening to the promotion. From the viewpoint of Pareto efficiency, the reason for tax incentive was discussed, and it was clarified that the tax system could not be changed from the idealistic negative theory of simply eliminating scandals. Therefore, it was pointed out that the key to the tax reform is to exert the characteristics that the public interest corporations can have “value diversity” and “instrumental diversity” both of which neither the public sector nor business sector can have . The superintendent of the administrative agency, who had said that it would stop giving over instructions like “raising and lowering chopsticks”, was overly justified by pretending to be tax incentives, and instead took away the free and flexible activities by public interest corporations. This paper clarified the situation and called it the “Rubin's vase phenomenon” and issued a warning. Ⅰ はじめに 公益法人制度改革から10年を経て、政府文書には公益法人に対する行政庁の監督には「税制優遇を受けているのだから」という枕詞が増加し始めてきている1)。改革初期にはこのような「枕詞」は、存在しなかった。 もともと主務官庁の「箸の上げ下ろし」を止めると言って、不明瞭な指導監督の改善をめざしてスタートした公益法人制度改革であった。改正前民法時代は、「指導監督基準」は存在していたものの、公益法人に関することは法律上、わずかに56条しか存在していなかった。改革では、法律の条数だけで868条に増えたばかりではなく、政令、府令、さらに新公益法人会計基準、ガイドラインなどでルールを明確化し、ルールの範囲内では、法人活動を法人自治(ガバナンス)に委ね、情報公開を促進させることとなった(出口[2018])。 しかしながら、「税制優遇を受けているのだから」という口実により、ルールにない事項に行政庁が堂々と口出すようになっている2)。 本稿では、立法趣旨の起点を再考し、税制改正180度転換の理論的背景を考察することによって、「税制優遇を受けているのだから」という行政庁の指導監督の正当化がどのような効果をもたらせるのかを考えてみたい。 Ⅱ 「理念の改革」としての改革の立法趣旨 平成13(2001)年1月から平成15(2003)年7月まで、当時の内閣官房行政改革推進事務局行政委託型公益法人等改革推進室(以下「公益法人室」という。)の初代室長であった小山裕は、立法趣旨について以下のように述べている。 「改革の目的を『民間非営利活動を促進する経済・社会システムの確立』に置き、公益法人制度改革は、この目的に沿うべく進めるべきとしたのである。この考えは、平成15年6月の閣議決定『公益法人制度の抜本的改革に関する基本方針』にも貫かれている。時として、『民間非営利活動の推進』という目的は後から出てきたものの如き論調も目にするが、当初からの揺るがぬ考えである。」(小山[2009]p.129。下線部筆者加筆)。 これは立法趣旨の主眼が「民間非営利活動を促進する経済・社会システムの確立」という理念すなわち「理念的積極論」に立脚したものであることを強調するとともに、その取違いに注意を喚起した極めて重要な一文である。この注意喚起は改革10年を経て、もう一度関係者全員が噛みしめるべきものである。 というのも「公益法人制度改革は、公益法人室において産声を上げた。」(小山[2009]p.116)のであり、その当の公益法人室長の言葉だからである。それまでの日本の非営利法人制度は、基本法たる民法については変更することができないことを前提に、特別法として法人別の法律ができあがっていた。公益法人制度改革直前にできあがった特定非営利活動促進法も、民法を改正せずに特別法として成立している。民法改正を伴う公益法人の制度改革は「実現不可能とすら言われた」3)のであり、民法の改正を考える人は、まさに覚悟を決めた無謀な挑戦「ドン・キホーテ」に擬せられてしかるべきだった(小山[2009]p.116)。 この小山の主張は、平成15(2003)年6月の閣議決定『公益法人制度の抜本的改革に関する基本方針』をはじめ、いくつもの公文書でその主張の正しさが確認可能である。 平成13(2001)年7月の「公益法人制度についての問題意識 ― 抜本的改革に向けて ― 」(行政改革推進事務局)においてでは、「今後の公益法人の果たすべき役割や在るべき姿を見据え、現在の制度の抜本的な改革に向け、真剣な検討が求められている。」と公益法人制度改革の必要性を主張している。また、諸問題として挙げているのは、「『公益』の範囲、『公益性』の判断」、「公益法人の設立許可」、「主務官庁の指導監督」、「公益法人の機関・組織、ガバナンス・規律のあり方、監査等」、「公益法人のディスクロージャー」、「公益法人に対する税制」、「公益法人から中間法人・営利法人への移行」である。特に、「主務官庁の指導監督」については、「指導監督により法人の健全な運営を確保するといった考え方に限界はないか。」と述べるなど、明確に指導監督の問題意識を有していた。 さらに、平成14(2002)年の閣議決定では次のように述べられている。 「最近の社会・経済情勢の進展を踏まえ、民間非営利活動を社会・経済システムの中で積極的に位置付けるとともに、公益法人(民法第34条の規定により設立された法人)について指摘される諸問題に適切に対処する観点から、公益法人制度について、関連制度(NPO、中間法人、公益信託、税制等)を含め抜本的かつ体系的な見直しを行う。」(閣議決定[2002]公益法人制度の抜本的改革に向けた取組みについて)。 また、閣議決定直後の事務局でまとめられた平成14(2002)年4月の「公益法人制度の抜本的改革の視点と課題」については、少々長いが改革の趣旨について引用しておこう。 1 改革の目的  ⑴ 民間非営利活動を促進する経済・社会システムの確立   我が国においては、個人の価値観が多様化し、社会のニーズが多岐にわたってきている。また、地域を基盤としたコミュニティは、大都市への人口集中等により、その役割が低下しつつある。その一方で、阪神・淡路大震災等を契機に、民間非営利活動に対する関心が高まり、個人の意識の上で、自ら社会の構築に参加し、自発的に活動していこうとの傾向が強くなっている。   国民に対して様々なサービスを提供する主体は、行政部門、営利部門、非営利部門の3つに大別することができる。このうち、行政部門の活動は法律・予算に基づくことが条件となっており、公平・公正を重んじるため、画一的なものとなりがちであり、機動的な対応は難しい面がある。また、営利部門の活動は収益をあげることが前提となるため、採算の見込みがない分野に対応することは基本的にない。すなわち、行政部門、営利部門だけでは様々なニーズに対応することがより困難な状況になっている。   非営利部門は、行政部門や営利部門が持つこのような制約が少ないため、一定の分野については、柔軟かつ機動的な活動を展開することが可能である。   このような特性を持つ非営利部門は、多様なサービスを提供し、行政部門や営利部門では満たすことのできない社会のニーズを満たし、その結果として社会に安定や活力をもたらす。   したがって、個人の価値観の多様化、政府の役割の限界等が指摘される現在、民間非営利活動を促進していくことは、21世紀の我が国社会を活力に満ちた社会として維持していく上で非常に重要である。   国際的にみても、特に先進各国においては、環境問題への取組みにみられるように、NGOをはじめとした民間非営利活動と行政との連携が不可欠なものとなっている。   民間非営利活動の促進は、「官民の役割分担」「機動的な公共サービスの実現」「国民の主体性、自己責任の尊重」といった観点から「小さな政府」の実現にも資するものである。(行政改革本部[2002]下線部筆者加筆) ここでは、第1に改革の起点が、「阪神・淡路大震災等を契機に、民間非営利活動に対する関心が高まり」という点が挙げられている。つまり、社会が民間非営利活動の有用性を認めたことが改革の起点であって、公益法人の不祥事を契機としたものでないことは明確に述べられている。その結果として、行政部門、営利部門とは異なるものとしての第3の部門として「民間非営利活動」の意義が繰り返し述べられているのである。 この点は小山が主張した平成15(2003)年の閣議決定には、「我が国においては、個人の価値観が多様化し、社会のニーズが多岐にわたってきている。しかし、画一的対応が重視される行政部門、収益を上げることが前提となる民間営利部門だけでは様々なニーズに十分に対応することがより困難な状況になっている。 これに対し、民間非営利部門はこのような制約が少なく、柔軟かつ機動的な活動を展開することが可能であるために、行政部門や民間営利部門では満たすことのできない社会のニーズに対応する多様なサービスを提供することができる。その結果として民間非営利活動は、社会に活力や安定をもたらすと考えられ、その促進は、21世紀の我が国の社会を活力に満ちた社会として維持していく上で極めて重要である。」(閣議決定[2003]下線部筆者加筆)と同様の趣旨が述べられているのである。 このような議論は、我が国でも1980年代から林雄二郎らの「サードセクター論」をはじめとして何度となく主張されてきていた(林雄二郎・山岡義典[1993]、橋本徹他[1986]、出口正之[1993]、本間正明[1993])。しかしながら、実際の公益法人の活動の中で社会的に認知はされていなかったといってよい。これらが社会に現実のものとして映ったのは、阪神・淡路大震災後の法人格に依拠しない抽象的な民間非営利活動であった。逆に、阪神・淡路大震災以降は社会にとって民間公益活動の重要性が認識されるようになり、論調としての「サードセクター論」は主張する必要もなくなっていたのである。 つまり、公益法人制度改革は、既存の公益法人が運動を起こしてなされた現実の公益法人を元にした現実的な改革ではなく、行政が発端となって抽象的なサードセクターとしての理想を追い求めた「理念の改革」なのである。 Ⅲ 旧主務官庁制度の問題点 さらに小山は改革前の旧主務官庁制度の問題点を、以下のように認識していた。 「民法上監督権限はあるのであるから、公益法人側に何か問題が生じた場合は、権限を行使しなければならない。特に、どこかの法人が不祥事でも起こすと、監督はどうなっている、との大合唱が起きる。そして、そこでとられるのが最も安易な対処法、すなわち行為規制の強化である。つまり、法人の箸の上げ下ろしまでとやかく言うということになり、第2の問題点、何のために監督するのかということにつながっていく。」(小山[2009]p.122)。 さらに「不祥事→規制強化→不祥事→規制強化の繰り返しが何をもたらすかといえば、自由な法人活動の萎縮である。自律的な市民社会においては、民間における公共的活動を助長していくのは行政の大きな責務であるはずだが、ここにはそういった配慮はない。むしろ逆に作用する。」(小山[2009]pp.123-124)。 以上のように述べ、「起点」を不祥事と認識することは、「逆に作用することになる」とはっきり認識していた。 上記小山論文中に「後から出てきたもののごとき論調」とあるのは、改革の目的が公益法人に対する規制強化が第一義的な目的であって、その後、民間側の盛り返しがあって、第2の目的として『民間の公益の増進』が出てきたのだという見方である。小山はこの観点の例示として、わざわざ公益法人協会[2007]を挙げている。 そこでは公益法人制度改革は、以下のように180度ストーリーが変わっている。 「行政改革の一環として公益法人が内包する諸問題(天下り、不要不急の補助金給付、不公正取引、営利競合など)を解決するために公益法人制度改革を取り上げる動き(平成8年7月与党行政改革プロジェクトチームの提言)と平成12年理事長が逮捕された中小企業経営者福祉重業団(いわゆるKSD事件)など公益法人の乱脈経営を糺す目的で制度改革を取り上げようという動きでした。このように、当初の発端は現行の制度を将来の発展を目指して“より良いものにする”というプラス思考の積極的な姿勢というよりは、一連の不祥事の撲滅や天下りの弊害の除去というネガティブ思考の消極的な姿勢から始まりました。しかしながら、その後公益法人関係者、研究者、マスコミなど多くの民間有識者の関心と発言が高まり、市民による非営利の公益活動の発展を促すという、より前向きな目的が政府においても確認されるに至りました。」(公益法人協会[2007]p.9)4)。 驚くことに、起点は平成8(1996)年の指導監督基準の策定にわざわざ置き、「乱脈経営を正す目的で制度改革を取り上げようとした。」と全く小山の主張と異なるストーリーを展開した。小山がわざわざ論文の形で「起点の違い。立法趣旨の違い」を主張したのは、自らの業績を主張したいがためではなかろう。「不祥事」を起点にしてきた規制強化に意味がなかったことを認めることで、抜本的に改革しなければならないと考えていた小山の主張が、曲解されることを恐れたからに他ならない。そして、その杞憂は残念ながら現実のものとなりつつある。 Ⅳ 寄附金控除制度の理論と税制調査会 1 税制の理論の整理 次に税理論との関係を整理したい。立法趣旨が行政部門、営利部門の二元論を越えて、第三のセクターとしての民間非営利部門の特質に着目したことはすでに述べた。それでは税との関係から民間非営利部門の存在意義を考えていこう。 理論的には、「市場の失敗」が存在しなければ、政府部門の出現は必要なくなる。あらゆることは、市場原理に任せておいた方が効率的になる。しかしながら、現実には「市場の失敗」が存在するので、政府部門が必要となってくる(=厚生経済学の第1基本定理が成り立たない=市場だけではパレート最適とならない状態)。(橋本他[1986]、山田[1993])。 市場が失敗する理由として、公共財の存在、情報の非対称性、外部性の存在(負の外部性、正の外部性)、独占などが挙げられている。市場が失敗するために、税によって必要な供給がなされる。そうすると、「市場の失敗」だけでは、民間非営利部門の必要性は生まれない。長らく民間非営利部門の重要性が認識されてこなかったのは、市場と政府の存在で多くの問題は解決可能だと考えられてきたからである。しかしながら、政府の活動にも「政府の失敗」が存在し、やはり、パレート最適の状態にはならないことが明らかになってきた。そこで非営利活動が登場する。このような理論は1970年代からWeisbrodをはじめ盛んに提唱されていた。我が国にパレート最適性と公益法人の税制の関係が議論されたのは、橋本徹他(1986)が最初である。さらに山田太門(1993)、本間正明(1993)で公共財の理論と非営利法人の関係が議論されている。また、齋藤(2014)は市場の失敗、政府の失敗論から公益認定について論じている。 ここで、「政府の失敗」や「政府への批判」とは、次のようなものが挙げられている。 ① レント(超過利潤)・シーキング仮説:関連する企業が利益集団として官僚に働きかけ政府支出の過大を招く5)。 ② ミディアム・ボーター仮説:公共選択理論の中で、民主主義による投票では中位投票者の選択が選ばれることから、少数者のニーズは無視される。 ③ 官僚制に伴う硬直性仮説:決められたやり方を、毎日ラバースタンプを押し続けることになる。 ④ ハーベイロードの前提:市場の失敗を修正するにしても、その最適解を政府が知っているというあり得ない前提のもとになされている。 そこで、ようやく民間非営利の概念が出てくるわけであるが、「政府の失敗」は民間非営利の存在意義を語ることはできても、それによってパレート改善がなされるという保証はないことである6)。 こうしたことを前提に、それでも、民間非営利活動の有用性を主張しうる理論は、公共財の中には、多様性に基づく社会では供給されない状態が存在するという多様性仮説である。多様な社会の民間非営利部門では、供給されない財を需要する「ハイデマンダー」が存在し、しばしばハイデマンダー自身が供給側に廻るとするハイデマンダー仮説等が存在する。こうした理論を検証しながら、税制上の優遇措置との関係を考えていきたい。 税制上の優遇措置を巡っては、寄附金に対する控除制度の量的側面から効率性を実証する手法が、Feldsteinをはじめとして積極的に実施されている(Feldstein[1975]、Feldstein&Taylor[1976])。この手法は所得税との関係で「寄附の価格」を想定し、寄附金控除の度合いが大きければ、実質的な寄附負担額が下がる。したがって、寄附の価格弾性値に着目し、価格弾性値の絶対値が1より大きくなる場合、言い換えれば、寄附金控除制度による税収の減少分よりも寄附金の増加分が多くなる場合は、「効率的」として実証分析をする方法である(跡田他[2002])。 Peloza&Steelは、40年間における69もの実証研究の結果を分析することで、「価格弾性値の推定方法については必ずしも合意がなされていない。」ものの、実証分析の結果としては「寄附金の所得税控除が財政上効率的であり、1ドルの寄附費用の控除により、1ドル以上が民間慈善活動を通じて慈善団体に寄附されることを示唆している。」(Peloza&Steel[2005]p.28)と結論付けている。 2 政府税調の考え方 価格弾性値の実証研究は量的側面に限られる。主として米国で行われているために、寄附金控除対象範囲の拡大時の質的変化の実証研究は存在しない。例えば、国の機関である独立行政法人にだけ寄附金控除制度を導入するのと、民間公益法人にも拡大するのとの相違も実証はされていない。 なぜ、立法趣旨の起点にこだわるのかというと、この点に大きな影響を与えるからである。 政府税制調査会(以下「税調」という。)では、長らく公益法人に対する課税強化の論調に支配されていた。寄附金控除が制限されていたことについては、そもそも民間公益団体への寄附金控除を拡大することへの社会的コンセンサスが得られていなかったことの方が大きい。国が税金として公共財の原資を集めて使うことの方が、わざわざ民間に税の優遇を与えて税収を減らしてまで、たとえ税収減を上回る民間への寄附があったとしても、税調としてはその意義を認めていなかったことにある。例えば、21世紀の税制の基本を定めた税調の報告書「わが国税制の現状と課題 ― 21世紀に向けた国民の参加と選択 ― 」(平成12[2000]年)は課税強化に終始していた。当時の税制上の措置については「その法的位置付けなどに着目して、課税の対象とされていないものがあります。しかし、課税の公平・中立の観点からは収益事業課税の原則に則ることが適当であり、この制度については、一般法人の営む事業との競合の実態などを踏まえ、そのあり方について検討していくことが必要ではないかとの意見があります。」(税調[2000]p.187)。他方で、公益法人等の中でNPO法人だけは特掲され、「NPO法人は、非営利活動の担い手の一つとして、21世紀に向け活力のある経済社会を構築していく上で今後その役割を果たしていくことが期待されています。」と「期待」が述べられていたこととは対照的であった。 これが促進税制へと180度転換させる契機を与えたのが、平成16(2004)年の「わが国経済社会の構造変化の『実像』について~『量』から『質』へ、そして『標準』から『多様』へ~」(以下「実像把握」という。)である。この中で、「社会の多様化が著しい中、様々な社会の問題に柔軟に対応していくためには、『政府が担う公共』はもとより『民間が担う公共』に個人が主体的に参加していくことが求められている。」(税調[2004]p.11)と述べられている。この報告書は税調の方向性を大きく変える決定的な報告書となった。ここでのポイントは、「多様化」であり、民間による柔軟な対応という「公共」の質的変化なのである。何よりも大事な点は「民間が担う公共」に対する社会の一定の理解が得られたことが大前提なのである。税調の報告書では明示的に「阪神・淡路大震災後の民間非営利団体の活動」とまでは既述されてはいないが、もともと税調で民間非営利活動が重視されていたわけではないからこそ、本報告書がそのことを明示的に記載し、その重要性を主張したことが税調にとっては決定的に大きかった。税調も「理念の改革」に乗って「理念的積極論」に基づいて税制改革の方向性を180度転換したのである。言い換えると、単に公益法人が不祥事をなくして「良いことをしているのだから」という理由だけでは、実は促進税制の論理は出てこないのである。 3 質的差が存在しない場合 非営利の経済理論としては、効用関数のパレート最適性の観点から市場の失敗、政府の失敗を元に非営利セクターの存在意義を理論づけた(Weisbrod[1977]、Rose-Akerman[1986]、他多数)ものが定説となっており、その中でも多様性が強調されている(例えばHannsman[1986])。 ここで研究者としてはなじみの深い「研究助成」を例として、経済学理論に基づいて考えてみよう。研究費の供給を市場だけに任せた場合には、基礎研究は万人に利益をもたらせるいわゆる非排除性(費用を負担していない人に対してその恩恵を排除できないという性質)を有する公共財となる。したがって、商品化には直接結びつかない基礎研究にはフリーライダーが生じるため、市場では研究費を最適な量まで供給しないであろう(いわゆる「市場の失敗」の状況)。そこで、「市場の失敗」に対応する形で政府が日本学術振興会(独立行政法人)に資金を提供し、必要な研究に助成することになる。その場合、日本学術振興会の研究助成は、税金原資であることから、「政府の失敗」の1例である中位者投票定理(Duncan[1948])に制約される。中位者投票定理は公共選択理論で広く認められた「政府の失敗」の重要な考え方で、多数決投票における均衡モデル及び定理の1つである。中位投票者にとっての最適点が社会的に選択され、他の多くの選択肢が失われる。そして、多様な社会であればあるほど失われる選択肢も多くなる。 言い換えれば、パレート最適の状態にはなっていないのである。 今、このような状況の中で、仮に日本学術振興会と多数の民間公益法人の研究助成が存在したとする。このとき「手続き及び内容が質的に同じ」だと仮定しよう。さらに、研究助成機関に対して寄附したいという寄附者が存在し、その寄附者は寄附金控除対象団体だけに寄附をするとする。また、寄附金の総額は一定だと仮定しよう。 この時に、 ① 日本学術振興会だけに税制上の寄附金控除の優遇措置を独占させた場合 ② 日本学術振興会に加えて、多数の民間公益法人にも税制上の寄附金控除の優遇措置を付与した場合 以上2つの場合を考えてみる。 そうすると日本学術振興会だけに寄附金控除を付与した場合には、日本学術振興会の予算が寄附金によって増えるだけであるから、研究者の申請書を書く全体の作業量は変化せずに単に助成該当者の1件当たりの金額が増加するか、その人数の増加に伴い採択率が上昇することになる。したがって、いずれも社会的効用関数はパレート改善される。 これに対して民間公益法人にも寄附金控除を与えた場合には、研究者は各法人に申請書を送付せねばならず、そのことによって助成されない申請書が社会的に増加する。したがって、その点において、社会的効用関数は①に比して低下する。 また、それぞれの法人で選考の費用及び管理費が発生するため、寄附金のうち研究助成金として使用される分は減少するから、社会的効用関数は同じく①に比して悪化する(表1参照)。 表1 税制優遇の集中と分散時におけるパレート効率性の変化(質に差がない場合) (筆者作成) また、研究助成の結果も両者には質的な差がない以上、税制優遇を民間法人に与えた場合、①と比較した場合、パレート効率性は一方的に悪化するだけであり、税制優遇のロジックが出てこないのである。 つまり、仮に公益法人の不祥事がなかったとしても、社会的効用関数のパレート効率性は一方的に低下するだけであるから、寄附金控除制度は意味がないという主張が導かれる。この主張はかなり強固なものであり、税制の優遇措置を与える上でかなり大きな壁であった。 平成12(2000)年の税調の報告書に全く公益法人の税制優遇のことが出されないのは、背景には上記のような考え方が浸透していたものと考えられる。 表2 税制優遇の集中と分散時におけるパレート効率性の変化(質に差がある場合) (筆者作成) 4 質的側面に注目した場合:多様性が担保される場合 次に、日本学術振興会と多数の民間公益法人の研究助成の「手続き及び内容が質的に異なる」場合を考えてみよう。この場合は、表2で挙げた項目は先と同様に一方的に効用関数が悪化する状態になっている。しかしながら、手続き及び内容の質的な差がある以上、日本学術振興会だけに税制上優遇措置を与えた場合に比べると、必ず結果が大きく異なってくる。 日本学術振興会だけに税制上の優遇措置がある場合には、中位者投票定理の呪縛からは逃れられない7)。他方で、民間公益法人であれば、法令の制約8)以外の価値的多様性を自由にできることで、従来にない分野の研究助成など中位者投票定理の呪縛からも自由になり、その場合のパレート効率性は改善される。 さらに、税の公平性によって徴収された税原資から導かれる政府の公平性から自由になれる。公平に行おうとすれば、「全体」を決めなければならない。その枠に入る者と入らない者とを無意識に区分してしまう。例えば、「被災者に対して公平に」とすれば、「被災者に入る者と入らない者」を区分せざるを得ないのである。研究助成に関して言えば、予め「研究者」には、科学研究費番号が割り当てられ、この番号を取得していない研究者はどんなに優秀な研究者であっても、そもそも「公平性」の枠の外に置かれることになる。社会が多様な場合にはこうした限界的なところにいる人の層が厚くなるが、これも民間寄附金ならば公平に徴収されたものではないから、公平性の呪縛から解放させることができる9)。したがって、例えば、「○○県出身者だけに対する研究助成」など一見公平性を歪ませるような形の研究助成も可能となる(価値的多様性)。また、研究助成の決定方法も自由である。内閣府公益認定等委員会が策定したチェックポイントでは、公募した場合に限り、論理必然的に公正であることをチェック(チェックするだけで要件ではない)することになっているが、日本学術振興会では採用できないであろう「公募ではないVoluntary=恣意的な方法」も幅広く認めている(手段的多様性)。 長い間、税調で公益法人に対する促進税制が採用されなかったのは、単に公益法人に不祥事が続いていたということだけではなく、そもそも論として公益法人の活動に税の優遇に相当する事業内容が認知されていなかったからである。ところが「実像把握」において、多様性と柔軟性に力点が置かれたことによって、「民間の担う公共」の重要性が税調全体として認識された。その結果、「理念」としての促進税制が成立したのである。研究助成の例でいえば、公益法人がそれぞれの価値観で助成プログラムを作り上げることが、社会の多様化に対応し、また、手続き上の柔軟性(手続きの多様性)があって初めて、日本学術振興会だけに税制優遇がある状態よりも、パレート効率性が改善されることになるのである。そうした「民が担う公共」が誕生しうることを背景として、公益法人への促進税制へと180度の舵が取られたのであり、税調の平成20(2008)年税制改正答申に「民間公益セクター」の用語が盛り込まれたことは、そのことを象徴的に物語っている。つまり、「理念の改革」の立法趣旨を受け、税制も「理念的積極論」として税制改革を実施したのである。 Ⅴ 立法趣旨の取違えと「爪楊枝の上げ下ろしの指導」への変化 しかしながら、公益法人制度改革から10年がたって、小山が廃絶したかった「行為規制」が最近では逆に顕著に行われるようになった10)。内閣府文書に近年では必ず「税制優遇を受けているのだから」と税制優遇を与件として、監督等が行われていることが示されている。すなわち「税制優遇を受けているのだから」ということで、裁量性が徐々に拡大していっている11)。立法趣旨からいえば、税制上の優遇の適格性を担保する部分についてはすべて法令に落としているのであり、内閣府の監督の基本方針も 「今回の公益法人制度改革により①監督についても主務官庁による裁量的なものから法令で明確に定められた要件に基づくものに改められたこと、(中略)国の監督機関(行政庁たる内閣総理大臣及び法律で内閣総理大臣の権限を委任された公益認定等委員会)は、次のような考え方で新公益法人(新制度の公益社団法人及び公益財団法人をいう。以下同じ。)の監督に臨むことを基本とする。 ⑴法令で明確に定められた要件に基づく監督を行うことを原則とする。(以下略)」 と法令にすべて落としていることを前提にし、質的な内容にまでは踏み込まないようにされている。しかし、最近の案件では、価値的多様性を否認する不認定案件12)には「公平ではない」「通常のやり方と異なる」ことを堂々と理由として「手段的多様性」を否認して不認定とした事例13)も出てきている。その結果、日本の公益法人は種別ごとに、手法がほとんど同じような形になり、「手段的多様性」に著しく欠けてしまっている。 Ⅵ 結論としての「ルビンの壺現象」 「民間が担う公共」の多様な対応を期待して税制上優遇したのにも関わらず、税制上優遇したことを理由にその多様性を縛っているのである。このことが何故生じるかについて、ゲシュタルト心理学の認知の考え方を引いてみよう。少なくとも行政庁の認識の中に立法趣旨という形態(ゲシュタルト性)の反転が生じているという仮説である。ゲシュタルト心理学は言うまでもなく認知心理学に革命的な変化をもたらせた考え方で、要素還元主義における部分の総和としての形態が必ずしも正確には予測できないのである。そのことを示す上で「図」と「地」を考える。我々が認知をするにあたって、「図と地」の分化(segregation)が生じることで初めて「図」とされる。この考え方はその他の認知言語学をはじめとする認識論にも応用可能である。とりわけ、ドメインと考えられる「図」に対する認識が反転を起こし、「図と地」の反転が生じているのである。ゲシュタルト心理学のエドガー・ルビンは1つの形として認識される知覚システムにおいては、そのまとまりは「図」として、その背景は「地」として認識され、「図」が認識されている間は、「地」は分離して認識されていないことを示した(北原[2000]、山梨[2006])。 図1はルビンによる有名な「ルビンの壺」である14)。白い部分の壺を「図」として認識している間は、黒い部分は「地」として背景に隠れている。ところが、黒い部分を「図」として認識してしまうと2つの「顔」が浮かび上がり、壺の部分は「地」として背景に隠れ、見えなくなってしまう(ゲシュタルト性の反転)。 図1 ルビンの壺と「ルビンの壺現象」 (北原[2000]をもとに筆者一部修正) これを公益法人税制に当てはめてみると以下の通りになるだろう。「政府や企業ではできない多様で柔軟な活動」に着目して、税制優遇という「カップ」(=壺)を与えているという絵が、「税制優遇を受けているのだから」という理由で公益認定等委員会と行政庁の2つの顔が公益法人を厳しく監視している絵に変わってしまっているのである。「税制優遇を受けているのだから」という大義を旗印に堂々と「価値的多様性」と「手段的多様性」を縛る「行為規制」を行うことが疑問なく行われるようになってしまっている。特に指導・監督を行う場合には法令を明示すればよいものを、わざわざ「税制優遇を受けているのだから」という枕詞を使用することで、裁量権を「無意識に」拡大することを正当化する危険性が出てきてしまう。 ここで、官のロジックになじまない領域に、「官のロジック」が持ち込まれることを「ルビンの壺現象」と呼ぶことにしよう。「ルビンの壺現象」から抜け出すことが難しいのは、ゲシュタルト心理学においては、図と地の反転が起こる時には、地は地としてしか見えないので、その部分は認識から消えてしまうからである。つまり、「税制優遇を受けているのだから」と言い続けている間は、「手段的多様性」をないがしろにしていることに全く気付くことができないからである。 官の世界では、事前に十分に検討されたかどうかはよく分からないまま、例えば、外部講師の報酬規程などが事前に存在し、講師を呼ぶときの柔軟性に事欠いてしまう。そこで、民間公益セクターであれば、そのような場合柔軟に対応できるはずということが前提となっている。例えば、ノーベル賞級の方をどうしても呼ぶ必要が生じたり、あるいは未成年者を講師として呼ぶ必要性が生じて同時に保護者を呼んだり、視覚障がい者を支援者とともに招いたり、あるいは、車いすの方の対応だとか、介助犬の対応だとか様々な多様なニーズにも柔軟に対応できるように「民間非営利セクター」が税制上優遇されているのである。法人内部で判断すべき個別事項に対して、例えば「内部管理統制」に関わる「講師報酬規程」を行政庁が事前に「作成しろ」と指導したりすることは、立法趣旨からも税制の観点からも正当性が出てこない。仮に、特別の利益供与(認定法第5条第3号、第4号)の観点で問題になるとしても、それは規程の存在とは中立的な事項であり、規程の存在という外形判断だけで特別の利益供与の判断が行われるのであれば、そもそも委員会としての民間有識者の判断を仰ぐ理由も出てこないのである。 また、国が敗訴した一般財団法人日本尊厳死協会に対する不認定処分の取消しについての訴訟では、国の主張は「内閣総理大臣により認定され、税法上の優遇措置という恩典を受けることを得る別格の法人であるとの社会的認知を獲得するとともに、事実上一般社会から高い信頼が得られるなどの効果を期待し得る。」と税法上の優遇を強調していた。これに対して東京高等裁判所は「認定法に基づいて行政庁が行う公益認定は、申請事業が公益目的事業、すなわち『不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものである』と当該行政庁が認定したことを意味し、その限度において当該申請事業が積極的評価を受け、公益認定を受けた法人が認定法及びその関連法令に基づく税制上その他の面における優遇措置を受けるものではあっても、当該行政庁が上記のとおり自発的に行われる当該申請事業が前提としている問題認識やその解決策として提示する方針ないし方法に逐一同意しているとか、当該行政庁が当該申請事業を行うに当たって当該法人が特に重視する要素を同程度に重視しているとかいったことまで意味するものではない。」(東京高裁判決9頁)と明確に、認定の結果としての税法上の優遇であることを明らかにした。換言すれば、税制上の優遇のために公益認定しているのではなく、政府でもない企業でもない民間公益活動の増進のために公益認定している事業が、それを促進するために税制上優遇されているだけであるという基本線を再確認している。 例えば、ある公益認定申請において「表彰に係る選考が公正に行われる前提として、各審査員が公正な選考を行うことを担保するために、 明確な選考基準が設定され、各審査員が当該核基準を理解していることが必要となる。通常、 表彰事業を行う公益社団法人又は公益財団法人は、表彰事業のための選考基準を理事会等の法人機関で決定し、適正な事業運営を担保している。」(内閣府[2018])ということを理由とし、申請法人がその形態をとっていないということで不認定にされているが、「明確な選考基準が設定され、各審査員が当該核基準を理解していることが必要」であることなどは、法令のどこにも出てこないばかりか、この部分はまさに「手段的多様性」を完全に否定している。むしろ多様な「明確な選考基準がつくれない分野」の存在を前提とし、「明確な選考基準がつくれないから」政府ではできないのであり、それゆえに民間公益分野が必要とされたという立法趣旨をないがしろにしている。 なお、「税制上の優遇」と対応するのは行政庁の「爪楊枝の上げ下ろし」の監督ではなく、公益認定法第30条の「公益認定の取消し等に伴う贈与」の規定である。この部分は実は1箇月の短い期間で「公益目的取得財産残額」を定款に定めた法人に寄附しなければならないが、1箇月を超えた場合には、国や都道府県への寄附の契約が成立したこととみなされる。このことは税優遇に伴う税収減を上回る額が国又は都道府県へ寄附されることを意味している。このような「事後チェック」性と税制優遇とがバランスを取っているのであり、税制優遇から過剰な「行為規制」に関する監督は決して正当化されないのである。 最後にもう一度、閣議決定の立法趣旨を再掲して締めくくりたい。 「我が国においては、個人の価値観が多様化し、社会のニーズが多岐にわたってきている。しかし、画一的対応が重視される行政部門、収益を上げることが前提となる民間営利部門だけでは様々なニーズに十分に対応することがより困難な状況になっている。 これに対し、民間非営利部門はこのような制約が少なく、柔軟かつ機動的な活動を展開することが可能であるために、行政部門や民間営利部門では満たすことのできない社会のニーズに対応する多様なサービスを提供することができる。」(閣議決定[2003])。 [謝辞] 本稿は、2019年9月久留米大学において行われた公益社団法人非営利法人研究学会全国大会統一論題「公益法人制度改革10周年 ― 公益法人の可能性と課題を探る ― 」で発表したものに加筆したものである。学会関係者に深く感謝したい。また、科研費挑戦的研究(開拓)17H06191の成果の一環である。 [注] 1)この用語が内閣府の公式文書に現れたのは、公益社団法人日本ゴルフ協会への勧告(2014年4月1日)であり、公益認定法の完全施行から6年も経ってからである。以後繰返し使用されるようになった。 2)例えば、(出口[2018])を参照。 3)小山は公益法人の抜本的改革が非常に困難だった理由として、以下を挙げている。「一つは、公益法人制度の所管が不明確なことである。民法に根拠を持つから法務省の所管かと思うが、公益法人の設立許可・業務の監督は主務官庁に委ねられており、法務省の権限は及ばない。公益法人に対する指導監督についての取りまとめは総務省の所管だが、こことて主務官庁の行う指導監督に対する指示権等の権限を持つわけではない。法人制度そのものを改革するといっても、どこがやるかという決め手が難しいのだ。 また、もう一つ考えられるのは、民法改正作業の困難さである。当然、法制審議会の審議を経ることになるが、斯界の権威の集まる審議会の審議は精緻にして慎重なこと(言い換えれば、なかなか進まないということである。)で知られていた。 そもそも、官にとって実に都合のよい制度(公益法人は「行政の道具」と考えている向きもある。)である公益法人を官から取り上げる(許可主義から準則主義に変える。)などということを、官自ら考えたりはしないのが普通であろう。」(小山[2009]p.125)。 4)この点を意識してか、小山は以下のように述べている。「我々の改革の意図については、行政改革を担当する部署であったが故か、様々な見当外れの批判(改革の動機が、民間非営利活動の促進や行政の関与の最小限化ではなく、天下り法人の規制、税優遇の見直しなどの行財政政改革やNPOに対する規制を意図したものである等)にさらされた。しかし、実際は、「官」にたった発想では全くなかったのである。」(小山[2009]p.216)。 5)休眠預金活用について、休眠預金に依存しないように盛んに「出口戦略」が主張されている。その中で、政府支出の新設をもって「出口戦略」とする見方もあるが、それは明らかにレント・シーキングに過ぎない。 6)サラモンは「市場の失敗」「政府の失敗」で非営利活動の存在意義が説明できたとしても同様に「ボランタリーの失敗」を指摘している(Salamon[1987])。 7)現に、日本学術振興会では寄附者の意向に伴う研究分野や手続きの指定の寄附は受け付けていない(令和元年7月29日確認)。 8)例えば、公益認定法第5条第3号第4号の特別の利益供与など。 9)ガイドラインには「公平」という用語は1度も出てこない。 10)出口はこれを改革前と比べて「爪楊枝の上げ下ろし」という表現を使用している。 11)不認定、認定取消し、勧告等公益法人の悪い例については事例が蓄積されるので、時間軸に対して、行政のパターナリズムが拡大傾向に向かうことは予想されていた(出口[2015])。 12)一般財団法人日本尊厳死協会の不認定処分がその典型であり、東京高裁は「重視すべきでない考慮要素を重視するなど、考慮した事情に対する評価が明らかに合理性を欠いている」として、内閣府の不認定処分を違法とした(東京高裁判決文令和元年10月30日)。 13)例えば、2018年7月27日一般社団法人日本そうじ協会の申請に対する不認定理由。 14)「ルビンの壺」は、心理学者エドガー・ルビン作成による図。黒地に白い壺が描かれたと見れば、壺に見えるが、白地に黒い絵が描かれたと見れば、2つの顔が向かい合っているように見える図である。図と地の反転が起こるので両者は決して同時には見えない。 [参考文献] 跡田直澄・前川聡子・末村祐子・大野謙一[2002]「非営利セクターと寄付税制」『フィナンシャルレビュー』第65号、pp.74-92。 公益法人協会[2009]『新公益法人制度はやわかり』、財団法人公益法人協会。 北原靖子[2000]「『ルビンの壷』の反転効果に関する考察」『金沢美術工芸大学紀要』44、pp.43-51。 閣議決定[2002]「公益法人制度の抜本的改革に向けた取組みについて」https://www.gyoukaku.go.jp/jimukyoku/koueki-bappon/torikumi/index.html(2019年11月30日アクセス) 閣議決定[2003]「公益法人制度の抜本的改革に関する基本方針」https://www.gyoukaku.go.jp/jimukyoku/koueki-bappon/kihon_housin/index.html(2019年11月30日アクセス) 行政改革推進事務局2001年7月の「公益法人制度についての問題意識 ― 抜本的改革に向けて ―」https://www.gyoukaku.go.jp/jimukyoku/koueki/gutaika/mondai.pdf(2019年11月30日アクセス) 行政改革推進事務局[2002]「公益法人制度の抜本的改革の視点と課題」https://www.gyoukaku.go.jp/siryou/yusiki/siten-honbun.pdf(2019年11月30日アクセス) 小山裕[2009]「公益法人制度改革前史・序章:改革はこう始まった」『嘉悦大学研究論集』51⑶、pp.115-131。 齋藤真哉[2014]「非営利法人制度の現状と課題(特集 非営利法人における制度・会計・税制の改革を総括する)」『非営利法人研究学会誌』16、pp.23-34。 税制調査会[2000]「わが国税制の現状と課題 ― 21世紀に向けた国民の参加と選択 ― 」 税制調査会基礎問題小委員会・非営利法人課税ワーキング・グループ[2005]「新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方」 出口正之[1993]『フィランソロピー:企業と人の社会貢献』、丸善。 出口正之[2015]「主務官庁制度のパターナリズムは解消されたのか」岡本仁宏編著『市民社会セクターの可能性:110年ぶりの大改革の成果と課題』、関西学院大学出版会、pp.79-106。 出口正之[2018]「東京都認定等審議会 『議事要旨』 公開に見る審議の実像」『公益・一般法人』962、全国公益法人協会、pp.41-46。 出口正之[2018]『公益認定の基準と実務』、全国公益法人協会。 内閣総理大臣決定[2018]「休眠預金等交付金に係る資金の活用に関する基本方針」https://www5.cao.go.jp/kyumin_yokin/kihonhoshin/kihonhoshin_1.pdf(2019年11月30日アクセス) 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  • ≪査読付論文≫公益認定取消しと公益認定制度についての再検討 / 古市雄一朗 (大原大学院大学准教授)

    PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 大原大学院大学准教授  古市雄一朗 キーワード: 公益認定 認定取消し 公益性の意義 公益法人と一般法人 最適資源配分 要 旨: 公益認定の取消しは、言わば公益認定と表裏一体の関係にあり公益認定の取消しについ ての現状を整理し、その意義について検討する事で公益認定の意義やそれをチェックする 機関の果たす役割や一般法人を含めた法人制度全体について検討を行った。公益法人から 一般法人への移行についての制度を再検討する事で行政の資源配分の立場からより効率的 に公益法人の活動を推進させる事ができる可能性を指摘した。 構 成: I  はじめに II 公益認定の取消しと公益認定基準 III 公益認定取消しの事例 IV 公益認定等委員会の果たす役割と法人区分の意義について Ⅴ むすびにかえて Abstract This paper discusses that the authorization system of the public interest corporations and annual checking of their qualification will promote the efficient resource allocation for the public benefit ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ はじめに 平成20年12月の公益法人制度改革による新制度移行後、公益認定を受けた法人の公益認定が取消される事例が複数発生している。現行の制度では、一般財団法人および一般社団法人(以下、一般法人)のうち、公益認定等委員会により公益認定を受けた法人が公益財団法人および公益社団法人(以下、公益法人)として認定される事になる。 公益認定を受けた公益法人には、税制上の優遇措置に加え、各種の運営上のメリットがある。 公益認定等委員会は、公益認定のみならず、その後の指導監督を行い公益認定を受けた法人としてふさわしくないと判断した場合には、法人に与えた公益認定の取消しの判断を下す事ができる。すなわち、公益認定等委員会は、公益法人を外部からチェックすることで公益法人の活動の公益性を担保し、公益活動を行うのにふさわしい組織としての資質を継続して保つうえで重要な役割を果たしていると言える。 公益認定の取消しは、言わば公益認定と表裏一体の関係にあり公益認定の取消しについての現状を整理し、その意義について検討する事で公益認定の意義やそれをチェックする機関の果たす役割、一般法人を含めた法人制度全体について検討課題を探索することができると言える。 本稿においては、公益社団法人および公益財団法人の認定等に関する法律(以下、認定法) 第29条第1項に規定される必要的取消し事由および同第2項に規定される任意的取消し事由に基づいて公益認定等委員会により公益認定取消しの判断がなされた事例を検討の対象とする。なお、法人が自ら認定取消しの申請を行った場合については、公益認定等委員会から重大な指導・勧告が行われず、法人の自主的な判断により認定取消しが行われたと考えられる場合には、本稿における検討の対象外とする1)。 まず次節において、公益認定が取消される制度上の背景とそれに関連して公益認定基準において公益法人に求められる条件について整理を行う。Ⅲにおいて、実際の公益認定の取消しが 行われた事例について検討を行う。続くⅣにおいて、公益法人に対するチェック機能の意義と一般法人を含めた制度全体の在り方について検討を行う。 Ⅱ 公益認定の取消しと公益認定基準 従来、旧民法34条を根拠とするいわゆる旧公益法人制度では、主務官庁に大きな権限が与えられ公益性の判断が裁量的に行われており、なおかつ法人格の認可と公益性の有無についてセットで判断されていた。平成20年の制度改革以降の新制度においては、公益性の判断基準がルールベースで明確にされ、公益性の有無と法人格の有無の判断も分離されるようになった。 また、公益性の判断を行うのも主務官庁から内閣府の審議会である公益認定等委員会または、都道府県の場合にはそれぞれの条例に基づいて 設けられる公益認定等審議会に代わり2)、主務官庁の規制の在り方は、裁量による事前規制からルールベースの事後チェックに重きがおかれるようになった。公益認定が行われた後、公益認定の取消しが行われる事由は以下の2つである。 ⑴ 必要的取消し事由(認定法第29条第1項) 次のいずれかに該当した場合には、公益認定は、必ず取消されなければならない。 ① 欠格事由に該当するに至ったとき3) ②  偽りその他不正の手段により公益認定、変更認定等を受けたとき ③  正当な理由無く行政庁の命令に従わないとき ④  法人から公益認定取消しの申請があったとき ⑵ 任意的取消し事由(認定法第29条第2項) 次のいずれかに該当した場合には、行政機関が公益認定を取消す事ができる。 ①  公益認定基準(認定法5条第1号から第18号)のいずれかに適合しなくなったとき   ②  認定法第14条から第26条の規定を遵守していないとき4) ③  上記のほか、法令又は法令に基づく行政機関の処分に違反したとき 任意的取消し事由については、直ちに認定取消しということではなく、まずは、法人に対して是正を求め、必要に応じ、勧告・命令という手順を踏むため実際に行政機関の処分に違反した事を理由として認定取消しが行われる場合には、必要的取消し事由の⑶を根拠に取消しが行われると考えられる(内閣府[2013]10頁)。 上記の2つの取消し事由を比べるならば、必要的取消し事由は、基本的に重大な法令違反等による取消しであるのに対して、任意的取消し事由は、公益法人が公益認定基準を満たさなくなった場合、すなわち認定法の目的に掲げられている法人の活動が公益の増進および活力ある社会の実現に資することができなくなったと判断された場合に行われるものであると言える。 認定法における公益認定の基準が示されている認定法第5条第1号から第18号の内容を整理すると以下の通りである。 第1号  公益事業を行う事を主たる事業目的とすること。 第2号  公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎、技術的能力があること。 第3号  法人の社員、評議員、理事等の関係者に特別の利益を提供しないこと。 第4号  株式会社等への寄附等を行わないこと。 第5号 投機的な取引を行わないこと。 第6号  公益目的事業の収入がその事業に必要な適正な費用を超えないこと(収支相償)。 第7号  収益事業等が公益目的事業の実施に影響を与えないこと。 第8号  公益目的事業比率が50%以上であること(公益目的事業比率)。 第9号  遊休財産額が一定額を超えないこと (遊休財産保有制限)。 第10号  理事の関係者の理事または監事の構成比に関する制限。 第11号  他の同一団体の関係者が理事または監事に占める構成比に関する制限。 第12号  一定の規模以上の場合の会計監査人の設置。 第13号  役員の報酬等の支給基準を定めること。 第14号  社団法人において社員の資格について不当な扱いをしないこと。 第15号  他の団体の意思決定に関与する株式等の財産の保有禁止。 第16号  公益目的事業に不可欠な特定財産に関して定款で定めること。 第17号  公益認定取消し時に公益目的取得財産残高の贈与に関する取決めを定款で定めること。 第18号  清算時の残余財産の贈与に関する取決めを定款に定めること。 すなわち、重大な法令違反を行った法人が公益認定を取消されるのは、当然として重大な違反を犯していないとしても基準に照らして、公益性を有しなくなった法人は、公益認定が取消される可能性を認定法は示している。 上記の公益認定の基準について先行研究ではその内容をいくつかのグループに区分し分類を行ってきた。 江田[2012]13-19頁では、①事業の公益性の確保、②適正な運営管理の確保および③財務に関する基準の3つに区分する検討を行っている。 すなわち①「事業の公益性の確保のための基準」として1号、2号、5号、7号を挙げてお り、公益を目的とする事業を適性に実施し得る法人に該当するか否かを判断する尺度であるとしている。また②「適正な運営管理の確保」にあてはまる基準として3号、4号、10号、11号、12号、13号、14号、15号、16号、17号、18号を挙げており、これらの内容は、公益目的事業の実施を主たる目的とする法人のガバナンスに係る部分を再構築したもので具体的には一般法人に要求されているガバナンスの基準に、より厳しいガバナンスの基準が付加しているものであるとしており、公益目的事業を適性に実施できる法人の判断基準であるとしている。 ③の財務に関する基準として、6 号、8 号、9号を挙げており、これらのいわゆる財務三基準については、税制上の優遇を与える制約についての抽出基準であるとしている。 (齋藤[2009]41-44頁)では、①公益目的事業関連、②経理・情報開示関連、③自己統制関連、④その他(精算時等)の4 グループに分類している。 ①の公益目的事業関連については、公益性に直接関わる基準として1号、2号、4号、6 号、8号、9号、15号が主に当てはまり実施事業に関して不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与する事が求められ、収支相償を求めて営利競合を避ける事や公序良俗に反する事業を禁止する内容であるとしている。②の経理・情報開示関連については、2号および12号が当てはまり、 許可主義から準則主義への移行に伴い、社会全体によるモニタリング、委託された財産に関する報告義務についての内容が盛り込まれており、それは、組織が社会的に必要とされているか否かについての評価を導くとしている。③の自己統制関連については、 3号、10号、11号、13号、14号が該当し、組織の自律性が求められる事との関連で社会的必要性を否定される事のないような組織管理が求められるために必要な基準であるとしている。 また、岡村[2015a]266-269頁では、1号 から18号を1号を核としそれを補完ないし補足する関係を持つ基準の集合としての①「公益目 的事業の確保」のための基準に分類されるグループと公益目的事業法人の組織特性に関する基準の集合である②「公益目的事業法人の組織特性」の2つのグループに分類している。 すなわち①公益目的事業の確保のための基準として1号を核に2号、3号、4号、5号、6号、7号、8号、9号、10号、11号、13号、15 号、16号がそれを補完する関係にあり、②公益目的事業法人の特性に関する基準として12号、 14号、17号、18号が公益目的事業法人としての組織の特性として求められるとしている。岡村もまた6号基準の収支相償は、税優遇の適合基準であることを指摘している。 岡村[2015a]でも示されているように公益認定基準の分類に見る整理の仕方は論者によって異なっており基準間の関連についての理解が定まっていないと言える(岡村[2015a]267頁)。 本稿においては、公益認定の取消しを議論の出発点としており、任意的取消し事由として認定基準を満たさなくなった場合には、法人が公益事業を行う主体としてふさわしくないと判断され公益認定が取消されるという観点から分類を行う。そのような観点に立つならば、公益認定基準の中身は①法人の主たる事業が公益目的事業であるかの判断基準である1号、6号、7号、8号、9号、15号と②法人が公益目的事業を行う上で備えているべき資質を有しているかの判断基準である2号、3号、4号、5号、10号、11号、12号、13号、14号、16号、17号、18号の 2つのグループに分けられると言える。すなわち、公益法人が公益認定を取消される場合としては、重大な違反をした場合に加え、法人が名目的にも実質的にも公益目的を主たる事業としなくなった場合と公益事業を行うための技術や能力、ガバナンス体制を維持できなくなった時に認定が取消されると言える。先行研究および本稿における認定基準の分類をまとめると 図表1の通りである。 本稿における分類は法人の目的が公益事業であるか否かの判定基準と組織が有しているべき特性に関する判断基準の2つに注目し分類を 行っている点は岡村[2015a]に近い。しかしながら本稿においては、組織が行う主たる活動が公益目的事業ならば、1号はもちろん当然の結果として収支相償は達せられ(6号)、公益目的事業に影響を与えるほどに収益事業に比重がおかれる事も無く(7号)、公益目的事業比率や、遊休財産の保有額が一定の水準を超える事も無く(8号、9号)収益の獲得を主目的とする株式会社をコントロールするための株式の保有等は行わない(15号)と考えられるため、上記を1つの区分とした。 一方で、公益目的事業を行い公益を推進しそれに伴う恩恵を享受する組織は、それを遂行するのに必要な経理的基礎を有し(2号)、公益とは真逆の私益目的や特定利害関係者への利益提供につながる事業を行わず(3号、4号)、公益目的の推進を損なうリスクを伴う事業を行う事も無いと考えられる(5号)。また、適切なガバナンスを損ない特定の者に対する利益提供につながる可能性のある運営体制を構築しないはずである(10号、11号、13号、14号)。さらに、 アカウンタビリティの担保のために必要に応じて会計監査人を設置してチェック機能を働かせ (12号)、公益目的事業を達成するのに必要な財産を適切に運用できる経理を行う(16号)。そして、非営利性と矛盾する残余財産の分配を可能にするような定款を設ける事は無いと言える (17号、18号)。 上記の公益認定基準の区分を踏まえて、議論を整理するならば、公益認定が取消される原因としては、 タイプA: 必要的取消し事由の内容に当たる各種法令、規則の重大な違反による認 定取消し タイプB: 任意的取消し事由のうち主たる事業が公益目的と判断されなくなった事 により公益認定基準を満たさなくなった事による認定取消し タイプC: 任意的取消し事由のうち法人が公益目的事業を推進するのに必要な資質 を失った事により公益認定基準を満たさなくなった事による認定取消し の3つが少なくとも考えられると言える。 次項においては、実際の公益認定取消しの事例について上記タイプA~タイプCの、どの取消しのパターンに当てはまるかという視点を中心に実際の公益認定の取消しの事例について検討を行う。 図表1 公益認定基準の分類 Ⅲ 公益認定取消しの事例 本項においては、平成20年の新制度移行後に公益認定の取消しが行われた主な事例を挙げ、 取消しの原因についての分類を行う。また、取消しにいたる理由や経緯については、行政庁から公表された資料を基に整理を行う。なお、法人の名称等は、当時のものである。 事例① 公益社団法人全日本テコンドー協会 日付:平成26年7月1日 取消し理由: 取消しの判断が行われる前に当該法人は2度の勧告を受けている。1度目の勧告は、平成25年12月に行われ一般法人法第48条で規定されている社員の議決権についての規定に違反し、賞罰規定において社員の資格停止処分を受けた社員に対して議決権の行使を認めない規定が問題になった。すなわち社員総会における議決権の行使に関する一般法人法違反が指摘された。 2度目の勧告は平成26年4月に行われ、法人の作成する帳簿外の資金の流れが存在し、代表理事が助成金を自ら集金し、それを自己又は自己の関連会社の名義で寄付し、寄付金控除等を受けているなど、代表理事個人の財布と法人の会計区分がされておらず、公益法人に求められる経理的基礎が備わっていないという指摘が行われた。 上記の勧告の内容である、議決権の制限についての一般法人法違反と経理的基礎の改善措置が完了する前に平成26年5月15日に法人側から公益認定の取消し申請が行われ、公益認定の取消しが行われた。 前節で整理した取消し理由の分類としては、 議決権の不当な制約についての一般法人法違反については、タイプA(規則の重大な違反による認定取消し)にあてはまり、経理的基礎の不足については、タイプC(公益事業を行うのに必要な資質を有さなくなった事による認定取消し)が当てはまると言える。 事例② 公益財団法人平等院(千葉県) 日付:平成27年10月5日 取消し理由: 当該法人は、公益目的事業として「社会的弱者のための霊園の建設及び経営」を定め、公益目的事業以外の事業は行わないものとして公益認定を受けていた。その後、平成26年6月17日には、事業計画、事業報告等の書類が提出されず、報告徴収が実際された。平成27年8 月3日 には、公益目的事業である社会的弱者のための霊園の建設および経営の実施状況について、 サービスの利用者が社会的弱者であることについて審査を実施する際に用いる審査基準および審査結果について記録した書類等の提出を求める報告徴収を実施した。これらの経緯を経て平成27年8月26日には、公益目的事業の実施状況および経理的基礎の確認を行うための立入検査が実施された。 千葉県公益認定等審議会は、墓地の造営に際して特定の業者による独占販売を認めていた点や、公益目的事業である社会的弱者のための霊園建設において、社会的弱者か否かによる審査を行っていなかったこと、および適切な経理処理を行わず経理的基礎を欠いている点を問題視していた。そして、「営利事業者である石材店に独占販売権を与えることで多額の資金提供を受けることを企図していたにもかかわらず(中略)虚偽の内容の書面を提出するなどによりその事実を隠蔽し社会的弱者の存在に仮託して事業内容を偽った」として認定法第29条第1項第2号(虚偽の申請による必要的取消し)に該当するとして公益認定取消しの判断が行われた(千葉県公益認定等審議会[2015])。 この事例における取消し理由は、虚偽の内容による公益認定申請と、申請内容とかけ離れた事業の実施という事でタイプA(規則の重大な違反による認定取消し)が当てはまると言える。 事例③ 公益財団法人日本ライフ協会 日付:平成28年3月19日 取消し理由: 当該法人は、公益目的事業として高齢者のための「みまもり家族事業」を実施していた。この事業は、一人暮らしの高齢者に対する身元保証や万一の時の支援事業を行うものであるが支援事業については利用者からの預託金を原資として実施する事になっていた。その事業を公益目的事業として実施する前提として、利用者からの預託金は、弁護士等が管理する三者契約となっていたが実際には、法人が直接預託金を管理する二者契約による管理が行われるようになり資金の流用も行われるようになった。この点について平成28年1月15日には、二者契約の預託金を早急に確保するための回復計画の策定を行うよう勧告が行われた。その後、当該法人は 平成28年2月1日に大阪地方裁判所に対して民事再生手続きの申し立てを行うに至った。二者契約により集めた預託金は、法人により目的外の事業に流用され勧告後には預託金の不足額は5億円近くにのぼり、約5,000万円の債務超過に陥っていた。 公益認定等委員会は、民事再生手続きにより、 債務の肩代わりをするスポンサーが現れるか債務の減免等を受けなければ事業を継続できないような公益法人については、明確な財政基盤があるとは言えず、公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎を有しているとは、認められないため公益認定基準を満たさなくなったとして公益認定の取消しの判断を行った。取消し理由の分類としては、タイプC(公益事業を行うのに必要な資質を有さなくなった事による認定取消し)が当てはまると言えるが、そもそも預託金を二者契約により管理するのは、公益認定の前提を無視した公益目的事業内容の不正な変更でありタイプA(規則の重大な違反による認定取消し)にも当てはまると言える。 事例④ 公益社団法人日本ポニーベースボール協会 日付:平成28年3月19日 取消し理由: 当該法人は、平成23年に「ポニーベースボー ルのルールに従って、青少年に正しい野球を普及し、かつ、その発展をはかり、野球を通じて、 日本および海外における会員相互の親善を深め、 スポーツマンシップと国際センスを持った健全な社会人の育成を目的とする」(法人HPより) として公益認定を受けたが、平成26年までの4ヵ年にわたり社団法人であるにもかかわらず、 社員総会を一度も開催していなかった。しかしながら、行政庁に対して社員総会を行っている旨の虚偽の報告を行っていた。また、開催されていない社員総会議事録および理事会議事録を偽造していた。さらに当該法人の代表理事が特定の理事の退任届けを偽造し、役員の変更について不正な登記を行っていた。 言うまでも無く一般法人法で社団法人に求められている社員総会を開催しないことは、一般法人法第36条に違反しており、認定法第29条第2項(任意的取消し事由)第3号の「法令に違反した時」に該当する。また、社員総会議事録の偽造や退任届けの偽造は、刑法第159条における私文書偽造や同157条における公正証書原本不実記載に抵触する行為である。 取消し理由の分類としては、多くの要素が関連しているがもっとも重大な問題は、各種法令違反を恒常的に繰り返していた点にあり、タイプA(規則の重大な違反による認定取消し)に当てはまると言える。 事例⑤ 公益財団法人香焼遠見霊園(長崎県) 日付:平成28年3月29日 取消し理由: 長崎市税の滞納により認定法第29条第1項による欠格事由に該当することになり、必要的取消し事由として公益認定が取消される事となった。取消し理由の分類としては、タイプA(規則の重大な違反による認定取消し)に当てはまると言える。 事例⑥ 公益財団法人日本生涯学習協議会 日付:平成28年7月22日 取消し理由: 当該法人は、公益目的事業として生涯学習講座の審査、監修および指導により健全な生涯学習の普及発展に寄与する事業を挙げていたが行政庁は、平成28年6月3日に勧告を行い公益目的事業を行うのに必要な技術的能力を早急に確立し、法令を遵守し、適切な法人運営を確立するための措置を講ずる事を求めていた。 具体的には法人が設置した監修講座の中に科学的な見地からその内容を検証する必要があるにもかかわらず、それが行われていない事や講座の内容について公益認定を受けた際の申請書に記載された方法によらず形式的又は簡易な審査によって監修講座と認めていた点が指定されている。また、資格講座の募集の過程で「内閣府」の名称を強調し、あたかも国が直接認定に関与した資格等であるかのごとく誤認させるような表示を行っていた。 上記の内容が勧告されていたにもかかわらず、 その改善が認められる前に当該法人から公益認定取消しの申請が行われ、公益認定が取消されるに至った。公益認定の取消しのタイプとしては、勧告においても指摘されているように、公益目的事業を行うのに必要な技術的能力を有していなかったという点でタイプC(公益事業を行うのに必要な資質を有さなくなった事による認定取消し)が当てはまると言える。 これまでの公益認定取消しの主な事例をまとめると図表2のようになる。 本節で見てきたように公益認定の取消し理由は、主に重大な法令違反に起因するタイプAもしくは、公益目的事業を適性に行う組織としての資質を有していない事によるタイプCによるものである。公益認定を受けてからの期間等を考えるならばタイプAまたはタイプCに分類されて、処分が行われている事例では、法人により不適切な運営が意図的に行われている可能性が高く、それを完全に防止するのは困難である。 逆に言えば公益認定の取消しという影響の大きい対応は、極めて悪質な事例に限られて適用されており本稿において取消し理由のタイプBとして分類している任意的取消し事由のうち主たる事業が公益目的と判断されなくなった事による認定取消しに当てはまる事例が無い事からも分かるように、現行の公益認定の取消しに関する制度は、公益認定の活動を過度に制限するものとはなっていないと言える。 次節においては、公益認定を行う監督機関の果たす役割と一般法人を含めた制度全体を考えた時に公益認定が取消され、公益法人から一般法人への移行が行われる意義について検討を行う。 図表2「公益認定取消しの主な事例」2016年9月末現在 Ⅳ  公益認定等委員会の果たす役割と法人区分の意義について 旧公益法人制度における法人設立の根拠法である旧民法34条では、「学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益に関する社団又は財団であって、営利を目的としないものは、主務官庁の許可を得て、法人とすることができる。」と 定められており旧公益法人は営利を目的としない非営利性と公益性の 2 つの要件を兼ね備えている必要があった。非営利性の判断基準については、持分権者の存在の有無を中心としてその概念についての合意形成が得られていたと考え られるが、公益性の判断基準についてはその限 りではなかったと言える。そのことが、監督官庁の裁量の影響を大きく受ける許可主義による法人の設立につながったと考えられる。 社会一般の不特定多数の利益を指す公益性について、非営利法人が備えているべき公益について考えるならば、範囲を絞った形で公益の概念の整理が必要であると思われる。 例えば、齋藤[2014]29頁では、「公益法人に求められる公益は、営利法人にも政府にも出来ない領域であり、非営利法人の社会的意義は市場の失敗と政府の失敗の交叉する領域で活動することにある。」と非営利法人に求められている公益性を定義している。すなわち、利益の獲得を目的とする一般企業に任せるならば、利益を獲得する事が出来ないため社会に対して提供されなくなる事業で、なおかつ社会に必要な事業であるが政府が行うよりも民間の非営利法人に任せたほうがより効率的に事業が行うことが出来る事業を行うことに公益法人はその存在意義を見出すことが出来ると言える。このような観点に立つならば、公益法人が享受する税金の優遇措置をはじめとする各種恩典は公益法人が政府に代わり必要なサービスを提供している事により得られる特権であると言える。社会全体で見るならば、政府が資源を直接投入して事業を行うよりも、公益法人が事業を行うことでより効率的な仕方で必要なサービスを提供することができると考えられる。 上記の理解に立つならば、公益法人が公益目的事業を継続して行っているかをチェックするためのコストについても、それを法人にのみ負わせるのではなく社会全体で負担していくという考えが必要になると思われる。公益法人の活動を推進していくために法人の自律性を促す事は重要であるが例えば、規模を問わず会計監査人を設置する事を義務付けたり、常勤の職員をある程度の人数常駐させなければ対応できないようなガバナンス構造を公益法人に求めると法人が負担するコストが過大になり、本来社会が必要としている公益のサービスを提供する機会が限られる事になる。むしろ、公益認定を行う機関による指導監督が充分に行えるように必要な資源を投入する事で公益性が担保される仕組みが考えられる。その事により生じるコストは、 社会が公益法人から提供されるサービスを受益する対価と見なすことができると言える。 公益法人が提供する公益サービスの意義を、 企業に任せると提供されず、政府に任せると効率的に提供する事が難しくなる領域のサービスと捉えるならば、法人が提供するサービスが公益目的であるか否かの判断には、行政の判断が大きな役割を果たす事になる。行政が、サービスの提供の必要性を認識しながらもより効率的なサービスの提供方法があると考えた場合に、公益認定を行い公益法人にそのサービスを担うことを期待するためである5)。このように考えるならば、ある時点では公益目的になると判断 されていた事業が外部環境の変化により公益性 を失う事は充分に考えられる。例えば、過疎地域で地域住民のためのバス事業が公益認定されたとしてその後、その地域が急速に発展し民間企業がサービスを提供しても充分に利益が獲得できるような外部環境の変化があれば、企業がその市場に参入してくる事になり、市場の失敗は解消されることになる。そのような場合には、それまでバス事業を行っていた公益法人の活動はすでにその役割を終えたことになり、各種恩典の形でその法人に資源を提供する事は、不合理な資源配分になる。そのような場合には、行政の側がその法人の公益認定を取消し、一般法人として活動を継続させるという判断が合理的 であると言える6)。すなわち、前節における認定取消し分類のタイプB(主たる事業が公益目的と判断されなくなった事による認定取消し)に当てはまる認定取消しが行われることになる事が考えられる。公益認定とタイプBのような取消しが柔軟に組み合わされれば、行政は常に効率的な資源配分を求めて意思決定を行う事が可能になると言える。 しかしながら、現行の制度においては、公益法人から一般法人への移行はある種のハードラ ンディグになっている。具体的には、公益認定が取消されたときには、一般法人への移行(認定法第29条第5項、第6項)、公益目的取得財産残額の贈与(認定法第30条)、欠格事由への該当 (第6条第1号イ、第2号)により法人は5年間新たな認定を受けられなくなるといった影響を受けることになる。 現行の制度では、公益法人から一般法人への移行は、実質的には一種のパニッシュメントとしての側面を有していると解さざるを得ない。 例えば欠格事由への該当は、その事を端的に表していると言える。また、公益目的取得財産残額の贈与にしても例えば、新規に法人を設立し公益認定を受けて公益目的事業を行った法人が公益認定の取消しを受けた場合には、その時点での公益目的取得財産残額の贈与を行わなければならないが、その中身は事業開始時(公益認 定を受けた時点)に公益保有目的財産に定めた部分(言わば公益活動の原資に当たる部分)とその後の活動を通して獲得された部分(言わば果実に相当する部分)から構成されており、原則としてそれらすべてを他の公益法人又は、国に贈与しなければならない。公益活動を行うことで 内部に累積した果実部分だけでなく事業開始時の原資部分までもが贈与の対象となる事は、一度公益認定を受けてその後取消しを受けた場合には、公益認定を受ける時点での財政状態よりも不利な状態で一般法人へ移行する事を意味す ると言えるのではないか。 公益認定を受けることで一種の恩典とそれに伴う義務を法人が負うと考えた場合に、法人がその義務を果たせなくなった時には、恩典を失うのは、当然としても恩典を受ける前の状態よりも不利な財政状態にする事は検討の余地があると思われる。とりわけ、公益認定と一般法人への移行を柔軟に運用し、認定取消しを行うことを考えるならば一般法人への移行のあり方についてはさらなる検討を行う必要があると言える。 Ⅴ むすびにかえて 本稿においては、公益認定の取消しの事例についての考察と共に公益認定基準の内容について検討を行うことで、行政が公益認定を行うことの意義について検討を行った。現状においては、公益認定が取消される事例の多くは、タイプA(重大な違反による認定取消し)またはタイプC(公益目的事業を推進するのに必要な資質を失った事による認定取消し)の取消しであり、言わばその処分は当然のものといえるものばかりであった。むしろ、本稿におけるタイプB(事業が公益目的と判断されなくなった事による認定取消し)を理由とする処分が行われていないことから現行のチェック機能は法人の活動を過度に制約するものになっておらず、法人が公益活動 を推進する事を目指すうえで一定の効果を挙げていると考えられる。 行政が法人の公益認定に強い影響を与えている状況は、行政が市場の失敗と政府の失敗の交叉する領域の問題に対して非営利法人を用いて効率的に対応する手段であると解するならば、そのチェックにかかるコストや公益活動を推進するために公益法人に与えられる恩典を与える事に伴うコストは、社会が適切なサービスを受益するためのコストであると言える点を指摘した。 上記の議論を前提にするならば公益法人から一般法人への移行の在り方についてさらなる検討の余地を有していると言える。一般法人への移行においては、実質的にパニッシュメントにあたる要素が伴うが、現状に見られるタイプA やタイプCに該当するような悪質な事例への対応としては、それは理解できるとしても、外部環境の変化により法人の活動が公益性を失った場合に一般法人への移行を行う場合には、パニッシュメントの要素は与えられるべきではないと言えるが、現行の制度においては、その区分は行われていない点を指摘した。外部環境の変化により公益事業が行えなくなった法人に公益認定による恩典を与え資源を投下する事は不合理な資源配分であると言える。一般法人と公益法人の行き来をスムーズにすることで社会が必要とする公益サービスがタイムリーに提供される事が期待できる。なお、非営利組織のそもそもの存在理由は、自らが定めたミッションの達成であるがそのミッションにおいて広く多数の者に貢献する事を目的とする事と現行制度で認められる公益性が同一でないとしても、その事が各組織のミッションとして社会への貢献を掲げる事を否定する訳ではないのは、自明であり本稿における公益性判断に関する議論はあくまで行政の有限な資源を現行制度を前提とした上でより有効に用い、その結果公益活動が推進される事を期待してのものである。 ※  本研究は、科研費「租税支出効果のディスクロージャーおよび評価・分析のための会計学的研究」 [課題番号:26380640]による研究成果の一部です。 [注] 1) 公益認定等委員会から指導・監督が行われた後にその問題点の改善が認められる前に自ら公益認定の取消し申請を行ったような事例が存在するが、そのような場合は、実質的に公 益認定の取消しを受けたと考える事ができるため、公益認定の取消しを受けた事例として検討の対象とする。 2) 本稿においては、特に必要がある場合を除き公益認定を行う機関について公益認定等委員会と表現し論を進める事とする。 3) 欠格事由の例としては、以下のような点が挙げられる。 ・ 理事、監事、評議員のうちに禁固刑以上の刑に処せられた者(認定法等関連法規違反の場合には、罰金刑以上)がいる場合 ・ 定款や事業計画書の内容が法令や法令に基づく行政機関の処分に違反している ・ 事業を行うに当たり法令上必要な行政機関の許認可等を受ける事ができない。 ・国税、地方税の滞納処分が執行されている ・暴力団員等が事業活動を支配している 4) 認定法の第 2 節「公益法人の事業活動等」に当たる部分であり、公益法人が事業を行う上で遵守すべき内容に当たる 5) 本稿においては、現行制度において公益法人に対して一般法人と比べて多くの公的資源が投下されている現状を所与として検討を行っており、その理由を行政サービスの補完とい う部分に求めて検討を行っている。言うまでもなくこの事は民間が公益活動を行うことの 主体性を否定するものではない。 6) 実際にこのバス事業を続けて市場にとどまった場合には、充分な利益が創出される事から、公益認定基準の 1 つである収支相償基準が満たされない事になり、その状態が続くならば、公益認定が取消される事になると考えられる。 [参考文献] 江田寛[2012]「公益認定制度における「財務三基準」の意義」『公益・一般法人』 No.826、全国公益法人協会、13-19頁。 江田寛[2016]「公益NEWS拡大鏡 ライフ協会、認定取消へ」『公益・一般法人』 No.912、全国公益法人協会、26-29頁。 岡村勝義[2015a]「一般社団・財団法人の公益認定基準の意味 ―公益性判断基準と収支相償基準を中心として―」『商経論叢』 第50巻第2号、265-279頁。 岡村勝義[2015b]「一般社団・財団法人の公益認定基準の検討」『非営利法人研究学会 誌』 VOL.17、1-23頁。 熊谷則一[2014]「全日本テコンドー協会に対する是正勧告についての解説」『公益・ 一般法人』 No.861、全国公益法人協会、 20-25頁。 公益・一般法人編集部[2015]「公益法人NEWS 勧告への対応待たずして公益認定取消し処分」『公益・一般法人』 No.904、 全国公益法人協会、4-12頁。 公益・一般法人編集部[2016a]「公益法人NEWS 日本ライフ協会、公益認定取消し へ」『公益・一般法人』 No912、全国公益法人協会、16-24頁。 公益・一般法人編集部[2016b]「公益法人NEWS 議事録偽造で公益認定取消しへ」 『公益・一般法人』 No.913、全国公益法人協会、 6 -11頁。 公益・一般法人編集部[2016c]「公益法人NEWS 公益認定の返上、全国で相次ぐ」 『公益・一般法人』 No.916、全国公益法人協会、9頁。 公益・一般法人編集部[2016d]「公益法人NEWS 市税滞納で初の認定取消へ」『公益・一般法人』 No917、全国公益法人協会、9 頁。 齋藤真哉[2009]「非営利組織の公益性評価 ―公益認定の基準を踏まえて― 」『非営利法人研究学会誌』 VOL.11、36-47頁。 齋藤真哉[2014]「非営利法人制度の現状と課題」『非営利法人研究学会誌』 VOL.16、 23-34頁。 出口正之[2014]「全日本テコンドー協会の認定取消申請の経緯とチャレンジ・グラン トについて」『公益・一般法人』 No.870、 全国公益法人協会、15-34頁。 千葉県公益認定等審議会[2015]「勧告書 政法第1768号」 内閣府[2013]「移行後の法人の業務運営と監督について」 内閣府[2016]「公益財団法人日本生涯学習協議会に対する公益認定取消しについて」 星さとる[2013a]「初の是正勧告の内容と認定取消要件をめぐる新展開〔上〕― ガバナンス・内部統制と認定取消しのリンケージ― 」『公益・一般法人』 No.854、全国公益法人協会、33-44頁。 星さとる[2013b]「初の是正勧告の内容と認定取消要件をめぐる新展開〔下〕― ガバナンス・内部統制と認定取消しのリンケージ ― 」『公益・一般法人』 No.855、全国公益法人協会、31-41頁。 (論稿提出:平成28年11月30日) (加筆修正:平成29年 3 月31日)

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