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≪論文≫会計からみる公益法人制度改革の課題と可能性

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日本大学教授 尾上選哉


キーワード:

公益法人制度改革 受託責任会計 法人主体理論 財産目録 決算公告制度 規模別会計基準


要 旨:

 本稿は、会計の観点から、公益法人制度改革の趣旨に照らして新公益法人制度が有効な社会システムとして機能しているかについて、現状を検討することを通じて改善すべき課題を明らかにするとともに、会計が今後の公益法人制度の発展にどのように寄与し得るかを論じるものである。

 具体的には、①公益法人会計の特異性、②受託責任遂行状況の開示、③情報開示制度、④Proportionality Principlesに基づく規模別会計基準の設定、という観点から、4つの課題を抽出し、各々の課題に対する私案を提示している。そして、それらの課題を克服することが「民による公益」の増進、公益法人制度の更なる発展につながるのではないかと考えられる。


構 成:

Ⅰ はじめに

Ⅱ 新公益法人制度の現状

Ⅲ 公益法人会計の課題と可能性

Ⅳ 「民による公益」の増進に向けて(まとめ)


Abstract

 In Japan, a major reform of the legal framework of Public Interest Corporations (PICs) took place to promote sound development of non-governmental/not-for-profit activities in December 2008, and more than 10 years have passed since then. This article aims to assess the PICs status quo of whether the new system is functioning as an effective social system from the accounting perspective, and to identify issues or challenges to improve for the development of the PICs system.

 Specifically, four issues were identified from the viewpoints of ⑴ the peculiarity of accounting for the PICs, ⑵ disclosure of the status of fulfillment of stewardship responsibilities, ⑶ the disclosure system of PICs, and ⑷ setting of accounting standards by size based on the proportionality principles. Solutions for each four issues are offered. Overcoming the issues will lead to the sound promotion of “public interests”, and further development of the PICs system.

Ⅰ はじめに

 本稿の目的は、2008(平成20)年12月1日に施行された公益法人制度改革関連三法により新公益法人制度がスタートし、2018(平成30)年で10年の節目を迎えたことに鑑み、会計の観点から、公益法人制度改革の趣旨に照らして新公益法人制度が有効な社会システムとして機能しているかについて、現状を検討することを通じて改善すべき課題を明らかにするとともに、会計が今後の公益法人制度の発展にどのように寄与し得るかを論じるものである。

 なお、本稿のタイトルをみると公益法人会計基準が想起されるが、本稿は公益法人制度改革に基づく新公益法人制度を検討対象としていることから、公益社団法人および公益財団法人(以下、「公益法人」という。)のみならず、一般社団法人および一般財団法人(以下、「一般法人」という。)に係る会計をも検討の対象として含んでいる。


Ⅱ 新公益法人制度の現状

1 公益法人制度改革

 1896(明治29)年の民法制定と共にスタートした公益法人制度は、2008(平成20)年の公益法人制度改革に至るまでの110年以上にわたって、日本における民間非営利部門の活動の中心的な役割を担ってきた。公益法人の設立は、改正前民法第34条において主務官庁による「許可主義」によるとされていた。また設立後、公益法人は主務官庁による指導監督を受けることとされていた。このような主務官庁の設立における「許可」は、法律などに基づくことなく、主務官庁の自由裁量によるものであったことから、主務官庁ごとにその判断が行われる結果、設立許可の基準が異なる、統一性・整合性を欠くという問題が生じていた。この問題は、主務官庁に自由裁量が与えられている、つまり「監督官庁のまったく自由な判断による」(星野[1998]94頁)ことの当然の帰結であった。

 また、改正前民法第34条が「祭祀、宗教、慈善、学術、技芸其他公益ニ関スル社団又ハ財団ニシテ営利ヲ目的トセサルモノハ主務官庁ノ許可ヲ得テ之ヲ法人ト為スコトヲ得」(傍点筆者加筆)と規定していたことから、公益法人として設立が認められるのは「非営利かつ公益目的」の社団ないしは財団であり、「非営利、公益を目的としない」社団ないしは財団(いわゆる、共益団体)には法人格を取得する術が存在していなかったのである。しかしながら、実際には、主務官庁の裁量によって、共益目的の組織が公益法人として許可される例は少なくなく、問題視されていた(小山[2009]120頁)。

 このような状況を鑑み、多様化する個人の価値観や社会のニーズに対応するために、公益法人制度改革は、「民間非営利部門の活動の健全な発展を促進し民による公益の増進に寄与するとともに、主務官庁の裁量権に基づく許可の不明瞭性等の従来の公益法人制度の問題点を解決すること」(内閣府[2008]3頁)を目的として実施された。

 公益法人制度改革により、非営利目的のいずれの組織は、公益目的であるか否かを問わず、一定の要件を満たせば、登記手続きのみ(準則主義)で一般法人を設立し、法人格を取得することが可能となったのである。主務官庁の裁量権に基づく許可主義の廃止である。新公益法人制度の下では、非営利かつ共益目的の組織も登記手続きによって、容易に法人格を取得することができるようになったのである。

 また、新公益法人制度に「公益認定」という新しい制度が導入された。旧公益法人制度では、主務官庁が自由裁量によって法人の公益性を認定し、許可を付与していたが、公益性認定と法人格の取得が切り離されたのである。公益認定制度は、一般法人のうち、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下、「公益法人認定法」という。)の定める一定の基準を満たしていると認められた法人は、内閣総理大臣ないしは都道府県知事の公益認定を受けて公益法人となることができる制度である。一定の基準を充足しているか否かの判断は、民間有識者から構成される国の公益認定等委員会ないしは都道府県の合議制の機関(以下、国および都道府県の機関をまとめて「公益認定等委員会」という。)が行うこととなっている。法令および公益認定等委員会の公表するガイドラインに基づいて、公益認定等委員会が公益性の判断を行い、その判断に基づき内閣総理大臣ないしは都道府県知事が認定を行うこととなっている。新公益法人制度における公益認定等委員会は、英国(イギリスおよびウェールズ)におけるチャリティ委員会(the Charity Commission)をモデルとして導入された、公益性に関する専門的知見を有する合議制の第三者機関である。「内閣総理大臣の知見を補完し、実態に即した適切な判断を行い、かつ、各省庁の意向に左右されることなく適切に裁量を行使することにより、内閣総理大臣が行う公益認定、監督処分等の客観性、透明性を確保し、この認定制度に対する信頼性を確保しようとする」(新公益法人制度研究会[2006]225頁)ものであると考えられている。


2 公益法人制度改革による法人類型

 新公益法人制度の下では、上述のように、一般法人(一般社団法人および一般財団法人)を準則主義により設立することが可能となり、一般法人のうち、公益認定等委員会により公益認定を受けることにより、公益法人(公益社団法人および公益財団法人)になることができるようになっている。新公益法人制度は、旧公益法人制度における「公益目的」ではなく、「非営利目的」を法人設立の基準としたため、一般法人は営利を目的としない(非営利)、①公益(public benefit)を目的とする法人と、②共益(mutual benefit)を目的とする法人が共存している。公益法人は営利を目的とせず、かつ公益を目的とする法人となっている。新公益法人制度においては2つの法人類型が存在することから、「2階建て」と呼ばれることがある1)図表1参照)。


図表1 新公益法人制度の法人類型

                 (内閣府[2019]3頁をもとに筆者作成)


 新公益法人制度の現状把握の1つとして法人数をみると、図表2の通りである。新制度の施行日において、旧公益法人制度による公益法人(旧公益法人ないしは特例民法法人)の数は24,317法人であった(内閣府[2009b]11頁)。特例民法法人から新公益法人制度への移行期間が2013(平成25)年11月30日に終了したが、特例民法法人の内、8,998法人(37.0%)が新制度における公益法人に移行認定申請を行い、11,664法人(48.0%)が一般法人に移行認可申請を行った。なお、解散・合併等の法人数は3,650法人(15.0%)であった(内閣府[2014]85頁)。2019年12月27日現在、公益財団法人5,409、公益社団法人4,174、合計9,583の公益法人が活動しており2)、新公益法人制度において新しく設立された法人数は585法人であり、旧公益法人(特例民法法人)から公益認定を経て公益法人となった法人数は8,998法人である。一般法人の数は一般財団法人7,493、一般社団法人59,854、合計67,347となっている(図表2参照)3)


図表2 法人数の変化

(筆者作成)


 公益法人制度改革を通じて、民間非営利部門の中核を担う公益法人の数は24,317法人から76,930法人(一般法人および公益法人の合計数)へと52,613法人増加している。公益法人は移行認定の8,998法人から9,583法人へと585法人増加し、一般法人は移行認可11,664法人から67,347法人へと55,683法人増加している。法人数の変化から、一般法人の増加、中でも一般社団法人の増加が顕著となっている。


3 一般法人・公益法人の会計

⑴ 会計の役割および会計規定

 会計を「情報の利用者が情報に精通して判断や意思決定を行うことができるように、経済的情報を識別し、測定し、伝達するプロセス」(AAA[1966]p.1)であると捉えると、会計に期待される一般的な役割を次のようにまとめることができる。

 ・ ‌財産管理・運用に役立つ

 ・ ‌予算および決算の作成に役立つ

 ・ ‌財務状況(財政状態)および活動実績(経営成績)の明らかにするのに役立つ

 ・ ‌寄付者などの資源提供者に対する受託責任遂行状況の開示に役立つ

 ・ ‌外部の利害関係者の意思決定に役立つ情報の開示に役立つ

 新公益法人制度上の一般法人および公益法人の会計については、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(以下、「一般法人法」という。)および公益法人認定法に規定が置かれている。

【一般法人に係る主な会計規定】

 ・ ‌一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従う(一般法人法第119条)

 ・ ‌正確な会計帳簿の作成および会計帳簿等の保存(同第120条)

 ・ ‌計算書類等(貸借対照表、損益計算書、事業報告、附属明細書)の作成および保存(同第123条)

 ・ ‌貸借対照表ないしは貸借対照表の要旨の公告(同第128条)

 ・ ‌計算書類等の備置きおよび閲覧等(同第129条)

【公益法人に係る主な会計規定および会計の役割(一般法人に係る規定に加えて)】

 ・ ‌公益法人認定法上の様々な計数(公益目的事業比率、遊休財産額、公益目的事業財産額等)の提供

 ・ ‌公益法人の認定時および認定後の継続的なチェック

 ・ ‌事業計画書等、事業報告等(計算書類等を含む)の行政庁への提出、事務所への備置きおよび閲覧等

⑵ 一般法人および公益法人の会計

 一般法人法第119条(および第199条)は、「…会計は、その行う事業に応じて、一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従うものとする」と規定し、一般法人の準拠すべき会計の原則を定めている。

 一般法人は、会計の原則およびしん酌規定「一般に公正妥当と認められる会計の基準その他の会計の慣行をしん酌しなければならない」(一般法人法施行規則第21条、下線筆者加筆)に基づいて会計を行う必要があるが、特に適用が義務付けられている会計基準はない。ただし、一般法人の行う公益事業や共益事業を鑑みると、2008(平成20)年の公益法人会計基準(以下、「2008年改正基準」という。)の他に、1985(昭和60)年の公益法人会計基準、2004(平成16)年の公益法人会計基準(以下、「2004年改正基準」という。)、公益法人会計基準以外の非営利法人会計基準(学校法人会計基準など)の適用が考えられる。また、一般法人が収益事業を実施する場合には、企業会計基準の適用も考えられる。

 公益法人も一般法人と同様に、会計の原則およびしん酌規定「一般に公正妥当と認められる公益法人の会計の基準その他の公益法人の会計の慣行をしん酌しなければならない」(一般法人法施行規則第21条、下線筆者加筆)に基づいて会計を行うことになるが、法律などによって特に適用が義務付けられている会計基準は存在していない。公益法人の会計に適用が考えられる会計基準は一般法人と同じである。

 内閣府が公表するFAQによると、一般法人および公益法人は、「利潤の獲得と分配を目的とする法人であることを踏まえ、通常は、公益法人会計基準を企業会計基準より優先して適用するものとなる」と指針を示している(内閣府[2019c]問VI-4-①)4)


4 公益法人会計基準

 公益法人会計基準は、1977(昭和52)年に公益法人監督事務連絡協議会申合せとして制定され、数次の改正を経て現在に至っている。公益法人会計基準は、制定当初、主務官庁の指導監督基準としての役割を担っており、その意味で、一般目的というより、むしろ特定目的の財務諸表作成のためのガイドラインであった。公益法人会計の目的は、理事者の会計責任を明らかにするという受託者会計(stewardship accounting)であり、収支予算に基づく収支決算が重要視され、収支計算書を中心とする財務諸表の体系となっていた。

 しかし、2004(平成16)年の改正により、公益法人会計基準の方向転換が行われ、①事業活動の透明性を向上させ、財に対する受託責任を明確にすることを通じて、国民に対して理解しやすい会計情報の提供、②公益法人の事業の効率性を評価・分析しうる会計情報の提供、③保有債券等の時価情報、関連当事者間取引等の情報開示を通じて、公益法人の財務内容の透明性の向上を図るという、会計情報の一般目的外部報告化、つまり不特定多数に対する情報提供を目指したものとなった。このような転換を推し進めるために、2004年改正基準は積極的に企業会計の理論と手法を導入し、企業会計と同様な意思決定有用性に基づく会計へシフトした。

 現行の公益法人会計基準は、公益法人制度改革に合わせて、2008(平成20)年に公益法人の行政庁である内閣府公益認定等委員会により公表されたものであるが、2004年改正基準を基本的に踏襲しつつ、公益認定の判断を可能とする会計情報作成の必要性から、公益認定等に資するように微調整がなされたものとなっている(齋藤[2019a]43頁)。

 2004年改正基準から2008年改正基準の主要な改正点は、齋藤[2019a]によれば、①会計基準の体系、②財務諸表からの財産目録の除外、③附属明細書や基金に関する規定、④会計区分ごとの情報表示、の4点である(43頁)。ここでは、①会計基準の体系の改正についてのみ確認をしておくことにする(②については後述)。会計基準の体系については、会計基準本体と運用指針の区分に意味をもたせている点である(同上)。会計基準本体は、「公益認定の判断」という特定目的から距離を置き、2004年改正基準が目指した財務報告の一般目的性(不特定多数に対する情報開示の方向性)を堅持しつつも、運用指針は公益認定の判断に資するという特定目的に配慮したものとなっているのである。

 上述したように、2008年改正基準は公益法人においてはもちろんのこと、一般法人においても企業会計基準に優先して適用されるべきであると考えられる会計基準である(内閣府[2019c]問VI-4-①)。


Ⅲ 公益法人会計の課題と可能性

 Ⅱの新公益法人制度の現状を踏まえて、Ⅲでは現状の公益法人会計が抱える課題を明らかにするとともに、課題に対する私案を提示することとする。


1 公益法人会計の特異性

 現行の公益法人会計基準に代表される公益法人会計は、公益法人と営利企業の間には利益分配という点を除けば、両者の活動には経済的な差異はないという前提に立ち、同一の経済事象には同一の会計処理方法を適用すべきであるとの考えから、積極的に企業会計の理論と手法が導入されている。この考え方は、米国における非営利組織会計の前提となっている(FASB[1980]para.1)。

 しかしながら、営利を目的とする企業と公益法人の存在目的は相違する。企業は事業活動を通して利益を獲得し、その利益を出資者(資本主)に分配することを、企業活動の究極的な目的としている。他方、非営利を目的とする公益法人の究極的目的は利益獲得以外のミッション(使命)の達成にあり、そのミッションの達成を目指す過程において剰余金が発生することはありうるものの、その剰余金はミッション達成のために再投資される。つまり企業のように出資者に利益(剰余金)の分配は予定されておらず、そもそも出資者のような持分権者は公益法人には存在していないのである。この相違から、次の課題を指摘することができる。

課題1
 持分権者の存在しない公益法人に、資本主理論に立脚する企業会計の理論と手法を導入している

 資本主理論とは、資本主(出資者)の立場で会計を行うべきとする考え方であり、企業を出資者あるいは出資者の集合体として捉える考え方である。この考え方に基づけば、貸借対照表における資産は出資者にとってプラスの財産を、負債はマイナスの財産を意味し、資産と負債の差額である純資産は出資者にとっての正味の財産(資本主の富の大きさ)を表す。そして、一会計期間の損益計算は、資本主の富の増減として説明される。

 課題1により生起する問題点は、一般社団法人および公益社団法人に認められている資金調達の手段である「基金」(一般法人法第131条)の会計上の取扱いである。法人にとって、基金は法的には返還義務を負うものであるが、公益法人会計基準上、正味財産の部に計上することとなっている(公益法人会計基準注解・注5)。これは、基金制度が「剰余金の分配を目的としないという一般社団法人の基本的性格を維持しつつ、その活動の原資となる資金を調達し、その財産的基礎の維持を図るための制度」(新公益法人制度研究会編[2006]91頁)であり、一般法人法上、他の債権に対して劣後する(一般法人法第145条)ことに鑑みて、株式会社における資本金に似た位置づけを行っていると考えられる。しかしながら、他の債権に対して劣後するものの、企業会計においては、返済義務の存在が明確であることから負債に該当するとの考え方もある。

 また、正味財産の区分をどうするかの問題もある。現行の公益法人会計基準は2004年改正基準以降、正味財産の区分を資源提供者の使途の有無により「一般」と「指定」の2区分にしているが、米国で以前採用されていたような「永久拘束」「一時拘束」および「非拘束」という3区分もある。

 このような問題に対して、次のような対応をすることにより、その解決が可能であると考えられる。

課題1への対応:
 持分権者の存在しない公益法人には、企業会計でいう企業主体理論(法人主体理論)に立脚する会計理論を構築し、会計手法等を検討する

 企業主体理論とは、企業をその所有者である資本主から独立した存在として捉え、企業そのものが会計主体であるとして会計を行うべきとする考え方であり、公益法人の文脈では法人主体理論ということができよう。この考え方に基づけば、貸借対照表の借方(資産)は資金の具現・運用形態を、貸方は資金の調達源泉を表す。貸方は返済義務の有無により、負債と純資産(正味財産)に区分されるが、資本主理論における負債と純資産の区分のような重要性はなく、資金の調達源泉という観点からすると負債と純資産(正味財産)は同質ということになり、次のように貸借対照表を表示することができよう(齋藤[2016]270頁)(図表3参照)。


図表3 法人主体理論による貸借対照表(イメージ)

(筆者作成)


 貸方について、返済義務の有無、使途拘束の有無に基づいて記載し、あえて負債と正味財産の区分をしないことにより、基金が負債ないしは正味財産に該当するかの議論を回避することもできる。また、情報提供を重視するのであれば、情報利用者の意思決定の有用性に基づいて2区分ないしは3区分すればよいし、また理事者による積立てなどの内部者による使途拘束についても外部資源提供者の使途拘束なしに区分した上で、明らかにすることも可能であろう。


2 受託責任遂行状況の開示

 公的機関の行政活動等に対する国民の知る権利や情報開示(ディスクロージャー)の重要性が認識されるようになり、公益法人などの非営利法人においても同様に、情報開示の重要性や必要性が議論されてきた。会計の領域においては、上述したように2004年改正基準が社会への情報開示(public disclosure)という社会的要請に応えるために、寄付者などの資源提供者だけでなく、国民(様々なステークホルダー)に対する会計情報の提供を目的とした、会計情報の一般目的外部報告を志向するものとなった。会計情報の一般目的化とは不特定多数に対する情報提供を意味し、情報の受け手であるステークホルダーがその情報に基づいて、何らかの意思決定(例えば、その公益法人に寄付を行うか否か)を行うことが想定されている。

課題2
 資源提供者に対する受託責任に関する会計情報の量・質の低下が生じている

 会計情報の一般目的化は、財務諸表において開示される会計情報の一般化を意味することから、従来の財務諸表において開示されていた受託者の責任(受託責任)に係る情報の重要性は相対的に低下することとなる。例えば、2004年改正基準において、収支予算書および収支計算書は財務諸表の範囲外となり、内部管理項目とされている。また財産目録における記載内容が貸借対照表のそれとほとんど変わらないようになってきている。すなわち、財産目録の貸借対照表化である。

 このような問題に対して、次のような対応をすることにより、その解決に向けての一歩となると考えられる。

課題2への対応①:
 法人主体理論に基づいた貸借対照表の組換えにより、資産(借方)と資金調達源泉(貸方)のカップリングを通じて、受託責任に関する会計情報の可視化を図る

 上述の法人主体理論に基づいた貸借対照表を前提として、資産の使用・利用について使途制限の有無に基づいて、貸借対照表を区分し、借方側の資産と貸方側の資金調達源泉をカップリングすることにより、資産の使用・利用状況に関する情報を提供することを通じて、資源提供者の提供した資産がどのような状態になっているかを可視化することが可能となる(図表4参照)。


図表4 資産と資金調達源泉のカップリング(イメージ)

(筆者作成)


 課題2への対応②:
  財産目録の財務情報としてではなく、非財務情報としての重要性を認識する

 財産目録の財務情報としての重要性は、営利法人(会社)・非営利法人を問わず、時代の流れと共に低下してきたといえる(安藤[2017])。1949(昭和24)年に制定された「企業会計原則」に財産目録が含まれなかったことを契機として、1974(昭和49)年の商法改正において商人が作成すべき商業帳簿の規定から財産目録は削除され、商業帳簿の1つとして重要な地位を占めていた財産目録の作成は、現在、不要となっている。公益法人の会計においても、2004年改正基準における財務諸表の範囲に財産目録は含まれるものの、その内容は貸借対照表記載の資産および負債の明細表という位置付けであり、資産および負債の差額として正味財産を計算する様式(様式4)となっていた。

 そこで、財産目録を「非財務情報の伝達手段」として位置付け、寄付者等に対する受託責任に係る説明という役割を担う書類として活用するのである(齋藤[2019b]1頁)。例えば、寄付者等がその使途を指定して財産を出捐した場合、貸借対照表の正味財産(純資産)の部において使途制約のある寄付等の名目額が区分表示され明らかとなるが、その財産が自らの指定通りに保有・利用されているか否かは分からない。財産目録に、個々の財産の使用目的や状況、場所や物量等を明らかにする内容を含めることにより、寄付者等に対する受託責任に係る説明(説明責任)を果たすことが可能となるのである(同上)。


3 情報開示制度

 公益法人に対する情報開示(計算書類等の備置き・閲覧等、公告、行政庁への事業報告等の提出など)は、公益法人認定法の規定や行政庁の立入検査や報告徴収という監督により一定程度担保されており、法人の事業運営の透明性の確保や説明責任の履行は実施されているといえる5)

 しかしながら、一般法人に対する情報開示(計算書類等の備置き・閲覧等、公告)は、法人頼みの状況である。つまり、一般法人法は情報開示に対する規定を備えているが、法人が実際に情報開示を行っているか否かを確認する監督機関は存在していないのが現状である。

課題3
 一般法人に対する情報開示の規定が有名無実化しており、法人情報の開示が進展せず、ガバナンス(法人自治)が機能しない可能性が存在する

 一般法人は準則主義により登記に基づいて設立することが可能であり、監督機関が存在していない。これは、民間非営利部門の一般法人が多様なサービスを社会の必要に応じて提供できるようにするためであり、行政機関ではなく、サービスの受領者である社会がモニタリング(監視)し、より良い社会を創造することを目指していると考えられる。一般法人が法律の趣旨を踏まえて、情報開示が進展すれば問題は生じないが、すべての一般法人がそうではない。また、法人税法上の区分である「非営利型」の一般法人においては、原則非課税という税制上の特別な措置が講じられていることを鑑みると、一般法人に関する情報開示に対する実効性のある規定が必要であろう。

 このような問題に対して、次のような対応をすることが考えられる。

課題3への対応:
 一般法人に対する情報開示規制のあり方を検討すると同時に、決算公告制度の遵守を義務付ける

 一般法人法は、すべての一般法人に対して決算公告制度を設けている(一般法人法第128条および第331条)。そこで、この規定の遵守を義務付けることが考えられる。会社法においても、決算公告制度は存在する。しかし、すべての会社がこの制度を遵守していないのは周知のことであるが、一般法人は上述したように、法人税法上、「非営利型」の一般法人となることにより、収益事業を実施しない限り、非課税という税制上の特別な措置が講じられている。つまり、一般法人はどのような事業活動を行っているかという情報開示をすることなく、法人税の非課税措置が講じられうるのである。一般法人の多くは、適正なガバナンスの下で事業活動を行っていると思われるが、情報開示が進展しない状況においては、その判断もできないといわざるを得ない。

 決算公告制度は、公告の方法として、①官報、②日刊新聞紙、③電子公告、④事務所の公衆に見やすい場所への掲示、を定めている。また公告の内容は、公告方法が①や②の場合には貸借対照表の要旨を、③および④の場合には貸借対照表とされている6)。なお、公告を怠った場合や不正な公告を行った場合には、100万円以下の過料が課されることとなっている(一般法人法第342条1項2号)。


4 Proportionality Principlesに基づく規模別会計基準の設定

 公益法人のみならず一般法人においても、上述したように、適用が義務付けられた会計基準は存在しないが、公益法人会計基準に準拠した会計がすべての法人に推奨されている。現行の公益法人会計基準は、法人の規模等に応じた複数の会計基準を定めていない。内閣府公益認定等委員会の「公益法人の会計に関する研究会」は、公益法人の会計を検討するに当たって、小規模法人の負担軽減策等について議論を行っているが、小規模法人を定義することは困難であると結論付け、すべての公益法人は原則的な処理を行うべきであるとしている(内閣府[2015]6-7頁)。

 しかしながら、小規模法人等からは行政庁への定期提出書類の作成や行政庁への対応が過大な負担になっており(例えば、内閣府[2015]1-2頁、内閣府[2019a]49頁)、小規模法人等に対する会計基準(企業会計における「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」のような中小企業向けの会計基準)の作成への要望が存在するのも事実であり、日本公認会計士協会が2019年7月に公表した「非営利組織における財務報告の検討」においても、原則的な会計処理を定めた会計基準とは別に、小規模法人向けに簡便な取扱いを具体的に定めた会計基準の設定が望ましいとしている(日本公認会計士協会[2019]10頁)。

課題4
 一般法人・公益法人の会計における規模別会計基準の導入の是非を検討する

 現行の公益法人会計基準である2008年改正基準は、上述のように、運用指針は「公益認定の判断」という特定目的に資するように作成されている。会計基準本体は一般目的性を維持していると理解すると、公益法人のみならず、一般法人もが使いやすい公益法人会計基準の検討がなされて当然であり、小規模な法人が大多数であることを鑑みれば、規模別会計基準の導入の是非を再度検討しても良いのではないだろうか。現行の発生主義に基づく会計を基本としつつも、現金主義などの簡便な会計処理を取り入れた会計基準の検討である。

課題4への対応:
 先行事例、例えばニュージーランドにおける規模別会計基準の事例を検討することから始める

 一般法人や公益法人の会計が、発生主義でなければならない絶対的な根拠はない。法人の事業活動の効率性や経済性を測定するために、現金主義ではなく、発生主義に基づいて法人の事業活動のコストを財やサービスの消費に基づいて計算する方法が採用されているにすぎない。例えば、ニュージーランドでは、年間事業費用の規模別に4区分(tier)し、年間3,000万NZドル(21.6億円)以上のTier1に属する組織には国際公会計基準に準じた会計基準が適用され、年間12.5万NZドル(900万円)以下のTier4の組織には現金主義に基づく会計が適用されることとなっている(金子[2016]56頁)。ニュージーランドにおける規模別会計基準の適用によって、ニュージーランドにおけるチャリティの事業活動がどのように改善されたか、また制度としてどのように運用されているかを検討することは、日本における規模別会計基準の導入の是非を検討する上で不可欠であると考えられる。


Ⅳ 「民による公益」の増進に向けて(まとめ)

 公益法人制度改革の根幹は、民間非営利部門の活性化であり、民間が担う公益(民による公益)の促進であることから、本稿では公益法人のみならず、一般法人も含めた「民による公益」の増進のために、会計に関わる現状を考察し、改善すべき課題を抽出し、それらの課題に対する私案を提示してきた。

 公益法人の会計についてまとめると、会計に係る制度的枠組みを担保する仕組みは、公益法人認定法により一定程度担保されていることが明らかとなったが、制度や運用における更なる改善が望まれる。

 一般法人の会計については、会計に係る制度的枠組みを担保する仕組みは、法人頼みの状況であり、不十分であるといわざるをえない。従来の公益法人の移行認可した一般法人11,664法人から、55,683法人増加して現在の一般法人は67,347法人となっている。そして、その中でも一般社団法人の増加数が突出していることを確認したが、行政庁の監督を受けず、また一般法人法等の法令の遵守において、一般法人の役員の動機付けは弱いという批判(長畑[2014]240-241頁)もあることを考えると、「民による公益」を目指した一般法人制度が「無法地帯」となりうる可能性も潜んでいる。このような状況を作り出さないためにも、一般法人に対する法制度の充実が望まれる。特に、法人税法上の非営利型の一般法人に対する一定の規制(規律付け)は喫緊の課題である。



[謝辞]

 本稿は、JSPS科研費JP17H06191の助成を受けたものである。


[注]

1)法人税法上、新公益法人制度における一般法人および公益法人は、①公益法人、②非営利型の一般法人、③非営利型以外の一般法人の3つに区分(3類型)されている。法人制度上の「2階建て」に対して、「3階建て」と呼ばれることがある。なお、各区分において異なる法人税法上の取扱いとなっている。

2)なお、公益法人の正式な数については、公益認定等委員会が毎年、公表している「公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告」(https://www.koeki-info.go.jp/outline/koueki_toukei_n4.html)に記載されている。本稿の執筆時点においての最新版は2019(令和元)年版であり、2018(平成30)年12月1日現在の法人数(9,493法人)の記載であるため、「公益法人等の検索」(https://www.koeki-info.go.jp/pictis-info/csa0001!show#prepage2)を用いて全国の公益社団法人および公益財団法人を検索し、その合計をもって、本稿記載の公益法人数としている(2019[令和元]年12月27日時点)。

3)一般法人の数は「国税庁法人番号公表サイト」(https://www.houjin-bangou.nta.go.jp)における一般社団法人および一般財団法人として登録されている法人の数(2019[令和元]年12月27日時点)である。なお、登記記録の閉鎖等が生じた法人は含めていない。

4)旧公益法人からの移行法人の適用する会計基準について、FAQは2008年改正基準が運用上、法令等により必要とされる事項に対応しているため、法人の会計処理の利便に資するとしている(内閣府[2019c]問VI-4-①)。

5)公益法人の情報開示は、行政庁によるインターネットを利用した閲覧請求制度もあるが、ホームページ上で予め、利用者情報、閲覧を希望する法人名、閲覧書類、閲覧予定日等を登録する必要があり、その閲覧予定日から10日間しか閲覧できないシステムとなっている。公益法人の情報開示を進める上では、上場企業等のデータベースであるEDINET(金融庁)や英国チャリティ委員会の登録チャリティ情報のデータベースのようなインターネット上での自由な検索可能なデータベースの構築も課題としてあげることができよう(尾上[2018]1頁)。

6)最終事業年度における貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である法人(大規模法人)は、貸借対照表および損益計算書が公告の内容とされている(一般法人法第2条2-3項、第128条1項)。

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(飯野利夫訳『アメリカ会計学会・基礎的会計理論』国元書房、1969年)

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(論稿提出:令和2年1月8日)




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