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≪査読付研究ノート≫民事再生手続による学校法人再建の可能性

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高知大学教授 岩崎保道


キーワード:

民事再生手続 学校法人 私立学校 教育事業 経営破綻 再建


要 旨:

 本稿は、民事再生手続による学校法人の再建状況を明らかにするとともに、今後の学校法人の円滑な再建処理に寄与する考察を行うものである。その検討方法として、学校法人の経営破綻の影響や先行研究を整理したうえで、学校法人の再建に当たり重要な要件(再建の可能性を高める条件)を提示した。

 改正私立学校法(2020年度)において、破綻処理に関わる円滑化が図られることを踏まえ、本稿の検討結果が実務的に活用されることを期待する。


構 成:

Ⅰ はじめに

Ⅱ 学校法人の経営破綻の影響

Ⅲ 民事再生手続の状況

Ⅳ 先行研究の紹介

Ⅴ 所轄庁等による政策的対応

Ⅵ 民事再生手続を申請した学校法人の状況

Ⅶ 民事再生手続による学校法人再建の要件

Ⅷ おわりに


Abstract

 This paper clarifies the situation of reconstruction of schools based on civil rehabilitation proceedings and has discussions that would contribute to the smooth reconstruction of schools. For studying it, the author first summarized the effects of financial failure of schools and previous studies, and then suggested important requirements for reconstructing schools (conditions that would increase the possibility of reconstruction). Considering that the process for failed schools will be streamlined in accordance with the amended Private School Act (fiscal 2020), the author hopes that the results of this study will be utilized in practical cases.


※ 本研究ノートは学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。

Ⅰ はじめに

 本稿は、民事再生手続による学校法人の再建状況を明らかにするとともに、今後の学校法人の円滑な再建に寄与する考察を行うものである1)。その検討方法として、学校法人の経営破綻の影響や先行研究を整理したうえで、学校法人の民事再生事例を分析することを通じて、再建にあたり重要な要件(再建の可能性を高める条件)を提示した。

 近年、少子化や学校新設による供給過多により学校の廃止やM&A2)が相次いでいる。2014~2018年度の間、廃止された私立大学は11校に及ぶ。特に、地方の事例が多い。

 本稿は、その中で民事再生に注目した。同手続は、経済的に窮境にある債務者の収益や財産を維持又は向上させつつ、負債を圧縮するなどして債務者の経済的な再建を図る倒産手続である。事業者の場合、債務者の事業再生を目的として、地方裁判所が管轄となって、債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整する手続きが行われる。

 なお、債務を整理し再建を図る私的整理がある。これは、信用不安及び風評被害を最小限に抑えることができるが、債権者間の調整が容易でないことや、公平性・透明性の担保がなく反社会勢力が介入するリスクが伴う。この点、民事再生は信用不安など、ある程度の影響はあるが、裁判所の管轄下で公正な手続きが行われる。再建を図る学校法人にとって裁判所の後見的な監督の下、公正且つ計画的に事業再建を図ることが適切と考える。

 教育事業を営む学校法人は公共性があるため、経営破綻時に学生生徒などの特別に配慮すべき利害関係者がいる。そのため、社会的利益の観点より、教育事業の継続が望まれる。

 以上を背景に、学校法人の民事再生事例を研究対象として、再建にあたり重要な要件をⅦに整理した。それが、今後の学校法人の再建に寄与する検討結果になることを期待する。


Ⅱ 学校法人の経営破綻の影響

1 学校法人における経営破綻の要因

 学校法人が経営破綻に至る要因は財政的問題によるものが大きい。学校法人の収入は、設置学校における学生生徒納付金の割合が高い。従って、この収入が減少すると収支バランスが崩れてしまい、事業体として成り立たなくなる恐れが生じる。管理経費の圧縮など、支出を抑える努力はある程度までできる。しかし、学校教育の事業継続には学校設置基準及び学校法人会計基準といった規定があり、在校生が減ったからといって教員数を基準以下に減らしたり、基本財産を自由に処分できない定めがある。そのため、学校法人の支出は人件費など固定費的な要素が多く、容易に削減できない仕組みになっている。


2 学校法人の経営破綻の影響

 学校教育の継続には、ヒト(役員や教職員)、モノ(施設設備)、カネ(運転資金)などの経営資源を保持し、円滑に運営しなければならない。それが安定した法人経営の要件であり、公共性を持つ学校事業を維持する基盤となる。

 しかし、法人経営が破綻すると、法人に対する社会的信用性の毀損や教育の質保証への不安など、教育現場に大きな混乱が生じるおそれがある。特に、在校生に対しては、特別な配慮が求められ、所轄庁(文部科学省又は都道府県)の指導・助言を受けながら、速やかに対策を講じる必要がある。


Ⅲ 民事再生手続の状況

 学校法人の経営破綻とは、資金が枯渇して教職員への給与や管理経費などの支払不能又は債務超過に陥る状態をいう。その場合の事業継続の方法の1つに民事再生手続がある。

 民事再生手続の動向について、2000~2015年の民事再生手続件数(個人企業を除く)は7,341件である(図表1)。手続中の廃止件数(破産に移行分を含む)は平均23.3%あった。これは、民事再生法の間口は広いが、債務を弁済しながら事業を継続する法人は決済条件や資金調達、営業面で厳しい制約があり、再建は容易でないためである。また、2016年8月末時点で事業継続が未確認の法人(消滅法人)は5,205法人あり、全体の7割を占めた。一方、事業を継続する法人(生存法人)は2,136法人であり、申請法人の29.1%にとどまる。

 2009年度の民事再生手続数は前年度に比べて大幅に減少した(対前年度比-43.3%)。これは、中小企業金融円滑化法施行の影響と考えられる3)。同法に関わる制度の適用を受けたため、経営破綻に至らず事業を継続している法人がいるものと推察される。


図表1 民事再生手続の推移

(東京商工リサーチ[2017]、2-3頁)



Ⅳ 先行研究の紹介

 学校法人の経営状況に関する先行研究をいくつかあげよう。学校法人を取り巻く厳しい経営環境を分析したものや、経営破綻に陥った場合の処理について考察されたものがある。

 私立学校再編・再建研究会編[2011]は、学校法人の民事再生手続の有効性として「学校の維持、存続が可能」「債務の免除割合を柔軟に決めれる」「手続が迅速」「学生の在学契約上の権利が保護できる」などをあげた(私立学校再編・再建研究会編[2011] 76-79頁)。

 荒木[2013]は、競争力のない学校法人は淘汰され、再編・再生案件の増加を予想したうえで、破綻処理の1つに民事再生をあげたが、「法的整理の場合には手続を申請したことが公表されてしまうため、学校のイメージダウンの問題が生じる」との留意点を述べた(荒木[2013])。

 木村[2017]は、大学倒産は政府の展望なき政策の結果と指摘し、文系主体の私立大学がまず危機に陥ると警鐘を鳴らしたうえで「地方では18歳がさらにいなくなる。小規模私立大学が次々と倒産する悪夢が刻々と近づいている」と述べた(木村[2017]17-20頁)。

 このように、私立大学の危機回避策や再建手法として民事再生をあげたものがあった。


Ⅴ 所轄庁等による政策的対応

 文部科学省及び私学団体において、2000年代当初より学校法人の経営危機に備えた対策が講じられており、以下のような経営破綻した場合の処理方法などが検討された。

 日本私立大学連盟[2002]は破綻した学校法人の法的処理策として民事再生をあげ、「支払余力がまだあるうちに民事再生手続を活用すれば、合併や事業譲渡により他の学校法人の傘下で再建の途を探ることも、より容易になる」と述べた(日本私立大学連盟[2002] 25頁)。

 日本私立学校振興・共済事業団[2007]は自力再生が極めて困難となった状態の処理方法の1つに民事再生をあげ、「民事再生となった場合には、いかに適切なスポンサーを選定するのかが課題となる」と指摘した(日本私立学校振興・共済事業団[2007] 20頁)。

 文部科学省[2017]は経営困難校の対応を検討した。その結果、「学校法人の経営破綻に際しては、学生の修学の継続をどのように保障するかが最も重要」とした上で、破綻処理策として民事再生手続をあげた(文部科学省[2017] )。

 文部科学省[2019]は学校法人のガバナンスの改善や経営強化などの方策を提言し、民事再生手続を含む学校法人における破綻処理手続の明確化を求めた。具体的には、「私学の自主性」を尊重しつつも、自主再建が困難な場合、学生生徒の学びの保障の観点から、民事再生手続等における申立ての円滑化の必要性が述べられた(文部科学省[2019] 20頁)。

 以上、破綻に瀕した学校法人が再建を図る法的処理として、民事再生手続があげられた。その理由として、学生生徒など特別に配慮すべき利害関係者がいることや、社会的混乱をできるだけ回避するため、基本的に事業継続が望ましい、という意図があると推察される。


Ⅵ 民事再生手続を申請した学校法人の状況

1 民事再生手続を申請した学校法人の推移

 学校法人の民事再生手続を学校種別に見ると、幼稚園法人5件、専門学校法人6件、高等学校法人4件、短期大学法人2件、大学法人4件である(図表2)。2004~2006年度に集中しており、負債額は2006年度の559億円が突出している。


図表2 学校法人の民事再生手続の推移

(私立学校再編・再建研究会編[2011]、76-79頁。帝国データバンク[2016, 2020])


2 学校法人における民事再生手続の破綻要因や再建の状況

 以下に、学校法人の民事再生手続の破綻要因や手続き終結後の状況を整理した(図表3)。


図表3 学校法人の民事再生手続一覧

(帝国データバンク[2016]、東京商工リサーチ[2017]、大阪府、宮城県、広島県、東京都)


 第1に、破綻要因の1つに、生徒・学生など在校生の減少があげられる。入学生の減少は、学生生徒納付金収入の減少に直結し、学校財政の悪化につながる重大な問題となる。

 第2に、ほとんどの事例において、民事再生申請後も教育事業が継続されている。教育を保障し、教育現場の混乱を抑えるためにも経営破綻後の教育事業の継続は不可欠である。

 第3に、スポンサーの存在が事業再生に大きな役割を果たしている。その支援目的は、一部のマスコミで公表されたものはあるが、多くは不明である。

 手続終結後の状況を分類した(図表4)。パターン1【自力再建型】は、外部機関の支援を得ず自力で再建を図る。経営破綻の事実は公表されるので、社会的信用の毀損は生じるが、教育事業は継続される。パターン2【外部機関支援型】は、外部機関(学校法人や企業)の支援(資金面など)を得て再建を図る。不採算部門(学校の一部)が閉校することがある。

 パターン3【経営権委譲型】は、利害関係のない外部機関(学校法人や企業)の支援(資金等)を得て再建を図る。不採算部門(学校の一部)が閉校することがある。

 パターン4【事業譲渡型】は、設置校が他の法人に変更され、破綻法人は支援法人に合併されるなど解散する。不採算部門(学校の一部)が閉校することがある。

 パターン5【事業終結型】は、学校法人の解散手続がとられ、学校は廃止される。

 どのパターンになるかは、再生債務者の再建に向けた行動、破綻要因、負債額、債権者の意向、残余財産、さらには設置学校の定員充足率など、様々な状況が絡んでくるだろう。

 なお、学校法人の民事再生手続終結後の消滅法人は延べ36.8%(7件)、生存法人は63.2%(12件)だった。教育事業の継続割合は94.7%(18件)だった。


図表4 学校法人における民事再生手続終結後のパターン

(筆者作成)


Ⅶ 民事再生手続による学校法人再建の要件

 民事再生手続件数について、全体(図表1)と学校法人(図表2)を見ると、類似点と異なる点がある。類似点は、民事再生法施行後の約5年間は両者とも申請件数が多かったが、減少傾向に転じたことである。

 異なる点は、民事再生手続終結後の生存法人の割合について、全体が29.1%、学校法人が63.2%と格差が生じていたことである。民事再生による学校法人再建の可能性は高いが、次の要件(再建可能性を高める条件)が伴うと考える。

①スポンサー付…図表3において事業継続を実現した20件の中で、多くがスポンサー付(12件)だった。第三者による社会的な信用が生じて再建可能性が高まったと言える。 ②在校生が定員充足率の50%以上…私立大学の場合、定員充足率が50%以下の学部等は、経常費補助金(一般補助)が原則不交付になる。在校生の減少による授業料収入の減収に加えて、補助金カットとなると、再建に向けて大きな障害となる。そのため、「在校生が定員充足率の50%以上」は再建可能性に影響を及ぼす分岐点と言える。 ③やる気のある人材…倒産状態に陥った事業体は、従業員が散逸して急速に体力が脆弱化することが少なくない。学校法人再建のためには、学校設置基準で定められる教員数を満たし、学園再建に向けて働く意欲を持った人材の確保が不可欠である。 ④債権者の賛成…民事再生の特徴は債務圧縮であり、それで資金繰りの負担が抑えられ再建の可能性が高まる。したがって、債権者集会での債権者の賛成割合が再生計画の認否を左右する。これは、全ての民事再生手続において言える重要な要件である。 ⑤リーダーシップの発揮…図表3で示した破綻要因には、経営者に起因するもの(経営の失敗や放漫経営など)が多かった(14/21件)。リスタートは厳しい局面になるだろうが、それを打破する経営者としてのリーダーシップや経営手腕が求められる。


Ⅷ おわりに

 上述の通り、民事再生手続終結後の学校法人の生存割合(63.2%)や、多くの学校法人が事業を継続していることから(94.7%)、民事再生手続による学校法人再建の可能性は高いと言える。また、学校法人の民事再生手続による再建の要件(①~⑤)は、教育事業の特徴的な条件が含まれていた。これは、今後の学校法人の再建に寄与する検討結果と考える。

 少子化や激しい学生獲得競争等を背景として、学校法人を取り巻く経営環境はさらに厳しくなる。経営陣は明確なビジョンを掲げて経営改革や教育改善を強く推進しなければならない。改正私立学校法(2020年度)では、役員の責任の明確化や破綻処理手続の円滑化(解散命令による解散時の所轄庁による清算人選任)などが盛り込まれた。

 学校法人制度の改革が進められ、経営維持が困難と判断された場合、公的機関が示した処理策により円滑に行われることが望ましい。教育現場の混乱を避けるためにも早期に決断すべきである。

 今後の課題として、学校法人の経営破綻の防止や学校再建のために、上述の改正私立学校法が「実務上、どう活用されたか」「利害関係者(学生生徒を含む)への影響や効果」「破綻処理手続において所轄庁の権限を強化したことの意義」などを考察する必要がある。


[注]

1)学校法人再建の対応策として、「学校の整理・縮小」「合併」も考えられる(岩崎保道[2014]「学校法人における倒産事件の課題整理」『非営利法人研究学会誌』Vol.16、130頁)。

2)M&Aの手法として、合併、理事の交代、新学部設置による経営参加などがある(佐藤真太郎[2016]「学校法人の再編・再建型M&A」『MARR』262、76頁)。

3)中小企業金融円滑化法は、資金繰りの緩和により経営改善への時間的猶予を与える。


[参考文献]

荒木昇[2013]「FAS Group Newsletter」37、KPMG FASグループ。

岩崎保道[2014]「学校法人における倒産事件の課題整理」『非営利法人研究学会誌』16。

木村誠[2017]『大学大倒産時代』朝日新聞出版。

佐藤真太郎[2016]「学校法人の再編・再建型M&A」『MARR』262。

私立学校再編・再建研究会編[2011]『学校の再編と再建』商事法務。

東京商工リサーチ[2017]「「民事再生法」適用企業の追跡調査(2000年度-2015年度)」。

帝国データバンク[2016]「特別企画:教育関連業者の倒産動向調査」。

帝国データバンク[2020]「TSR速報」。

日本私立学校振興・共済事業団[2007]「私立学校の経営革新と経営困難への対応」。

日本私立大学連盟[2002]「学校法人の経営困難回避策とクライシス・マネジメント」。

文部科学省[2017]「私立大学等の振興に関する検討会議議論のまとめ」。

文部科学省[2019]「学校法人制度の改善方策について」。

論稿提出:令和元年 9 月24日

加筆修正:令和 2 年 7 月10日





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