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≪統一論題報告≫NPO法人会計基準の考え方と2017年12月改正の方向性 / 江田 寛(公認会計士)

更新日:2022年12月14日

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公認会計士 江田 寛


キーワード:

シーズNPOアカウンタビリティ研究会 特定非営利活動法人の会計の手引き(旧手引き) 国民生活審議会総合企画部会報告 NPO法人会計基準協議会 一般目的の財務報告基準 制度の成熟度 組織の規模と会計基準の関係 重要性の原則の本質 ボランティアへの対応 明確化研究会報告書 フィスカル・コンプライアンス 未収寄付金の計上 ファンドレイジング費用


要 旨:

 1998.12施行の特活法上のNPO法人は、公益法人会計基準を焼き直した旧手引きとアカウンタビリティ研究会の公開草案として提示された簡便法をベースとしたため情報公開による市民のモニタリングもままならない状況にあった。国民生活審議会総合企画部会はこの事実を指摘し会計基準の必要性を提言する。我が国の主要なNPO法人から構成されるNPO法人会計基準協議会は2010年7月に市民のモニタリングを意識した革新的な会計基準を公表し国民生活審議会の問題提起に一定の答えを出した。この会計基準はその後さらに議論を重ね2017年12月、現実が制度をリードする寄付慣行への適応及び経済的特質を確保するための更なるフィスカル・コンプライアンスの強化に取り組んだ改正基準を公表した。また検討課題としてファンド・レイジング費用に言及し民間非営利組織会計の経常費用の区分問題に一石を投じている


構 成:

はじめに

Ⅰ NPO法人会計基準以前の状況

Ⅱ 2010年7月「NPO法人会計基準」の策定・公表

Ⅲ 特定非営利活動法人の会計の明確化に関する研究会報告書

Ⅳ NPO法人会計基準の改正

終わりに


Abstract

 Since the Specified Non-Profit Juridical Person under the special action law implemented in December 1998 was based on the simplified method provided as the old guide that revamped the public interest corporation accounting standards and the exposure draft of the accountability study group, citizen monitoring by information disclosure also remains difficult. The National Life Council General Planning Committee points out this fact and recommends the need for accounting standards. Specified Non-Profit Juridical Person accounting standards council composed of major Specified Non-Profit Juridical Person in Japan announced innovative accounting standard in mind of citizen monitoring in July 2010 and gave a certain answer to the problem raising of National Life Council. This accounting standard was subsequently discussed further in December 2017 and published a revised standard in which the reality worked to strengthen adaptation to institutional leading practices and to further strengthen fiscal compliance to ensure economic characteristics. In addition, it mentions fund raising expenses as an examination subject and creates a stir in the division problem of ordinary expenses in private non-profit organization accounting.

 

はじめに

 特定非営利活動促進法は1998年12月施行であり、2018年で20年となる。非営利法人研究学会は第22回全国大会の統一論題を「NPO法施行20年~その回顧と展望~」とし、本稿では、統一論題を会計面から検討している。NPO法人は、既に50,000法人を超え、社会の中で重要な役割を担っているが、その大半は小規模法人であり、会計的側面から言えば規模の問題と社会的役割をどう調整するかが重要なテーマとなっている。本稿では、前半にNPO法人会計基準以前の状況について言及し、NPO法人会計基準の策定の必要性に繋げてみた。また、同基準が提示した重要なテーマについて言及した後、策定以後の状況について課題を含めて検討している。 


Ⅰ NPO法人会計基準以前の状況

⑴ シーズ=市民活動を支える制度をつくる会「NPOアカウンタビリティ研究会」による公開草案

 NPO法人会計基準以前の状況の中で、最も重要なものはシーズアカ研による公開草案であろう。同公開草案は以下のスケジュールで公表された。

 ① 1998.3.17 

  ・公開草案第1号

   NPO法人等の会計報告の責任

  ・公開草案第2号

   NPO法人等の財務諸表の体系

 ② 1998.9.25

  ・公開草案第3号

   NPO法人等の財務諸表の作成基準と様式

 公開草案は財務諸表として2つの類型「標準型」と「簡易型」を提示している。

 【標準型】

 ・貸借対照表・活動計算書・収支計算書(キャッシュ・フロー計算書)から構成される

 ・純資産は無拘束/一時拘束/永久拘束に区分される。FASB(#116、#117)をベースに日本のNPO法人の現状を踏まえてカスタマイズしたもの。

 ・収支計算書(キャッシュ・フロー計算書)は「Ⅰ事業・管理活動による収支」/「Ⅱ資金運用活動による収支」及び「Ⅲ資金調達活動による収支」に3区分する様式3と「本来活動の部」及び「非本来活動の部」に2区分する様式4が提案された。なお両者ともに直接法を前提としている。

 【簡易型】

  単式簿記を前提とし、現預金出納帳から作成される収支計算書と棚卸による財産目録から構成される。

 シーズアカ研の公開草案で注目すべき点は、FASBが1993年6月に公表した#116及び#117をわずか5年後の1998年の段階で公開草案のベースとした点である。「公益法人会計基準」は2004年にFASBの考え方を大幅に採用した平成16年基準を公表しているが、その6年も前に公開草案が公表された点は注目されなければならない。しかしこの公開草案の標準型はほとんど採用されることはなかった。この事実は2つの重要な問題を浮き彫りにする。1つはデファクト・スタンダードとしての会計基準は、対象たる組織の成熟度を考慮しなければならないという点にある。1998年12月まで、特活法上のNPO法人は存在していない。そのような段階で、我が国で初めて議論されたFASBの考え方を採用しようとすることには無理がある。他の1つは、2つの基準が提示されたら、どうしても簡便な方法を採用することが多い点にある。仮に多くの法人が簡易型を採用したことが、後述する2007年6月に公表された、国民生活審議会総合企画部会報告「特定非営利活動法人制度の見直しに向けて」の中に記載された状況を生み出したとしたら、それはNPO法人の社会的評価にマイナスに働いたであろうことを自覚する必要がある。なお、シーズアカ研のメンバーは以下の通りである。

<NPOアカウンタビリティ研究会のメンバー>

 コーディネーター:松原 明(シーズ事務局長)

 専門家委員:國部克彦(神戸大学)、水口 剛(高崎経済大学)、濱口博史(弁護士)、畑尾和成(税理士)、高塚直子(会計士補)

 オブザーバー委員:黒田かをり(アジア財団)、高田幸詩朗(笹川平和財団)、石丸敏子(日本国際ボランティアセンター)、片野光庸(アムネスティ・インターナショナル日本支部)、逢坂浩二(国際交流基金)、北村久美子(日本青年会議所)


⑵ 特定非営利活動法人の会計の手引き(旧手引き)

 制度開始当時のNPO法人の会計に影響を与えたものに、当時の所轄庁である経済企画庁国民生活局が1999年6月に公表した「特定非営利活動法人の会計の手引き」(以下「旧手引き」という。)がある。旧手引きは以下のような構成になっている。

 ① 計画に関する書類としての収支予算書

 ② 実績に関する書類としての計算書類すなわち収支計算書、貸借対照表及び財産目録

 旧手引きの計算書類は昭和60年公益法人会計基準を意識して複式簿記を前提として作成されている。収支計算書は昭和60年基準の収支計算書とストック式正味財産増減計算書を1つにまとめたもので「資金収支の部」と「正味財産増減の部」から構成される。事業費を構成する減価償却費等の非資金的費用は正味財産増減の部に一括して表示したため、NPO法人の目的たる事業のコストを直接把握することは出来ない。また、フロー情報を2区分としたため、いわゆる「1取引2仕訳」が必要な複雑な内容となっていた。なお、研究会メンバーは以下の通りである。

<研究会メンバー>

 会田一雄(座長:慶応義塾大学)、亀岡保夫(公認会計士)、五十嵐邦彦(公認会計士)、宮内眞木子(税理士)、安藤雄太(東京ボランティア・市民活動センター)


⑶ 2005年12月 NPOアカウンタビリティ研究会「NPO法人の外部報告に関する基本的考え方」

 シーズアカ研は、1998年の公開草案公表後、長期的視点に立って、NPO法人の会計・税務・事業報告を再検討するためのたたき台として2005年12月「NPO法人の外部報告に関する基本的考え方」を公表した。「基本的考え方」はFASBとはいくつかの点で異なる提案をしている。

 ① NPO法人の取引を贈与取引(資本的取引を含む)と損益取引、交換取引に区分して捉えたこと。

 ② 贈与取引において「出捐」というNPO法人が拠出する贈与を重視したこと。

 ③ 拘束のある寄付金等の受贈を正味財産とせず、預り寄付金として一種の前受収益と捉えたこと。

 前述したとおり公益法人会計基準は2004年にFASBの考え方を大幅に採用した平成16年基準を公表している。アカ研は1998年にFASBを日本のNPO法人を対象としてカスタマイズした公開草案を公表したが、公開草案や平成16年改正公益法人会計基準と異なる方向を「基本的考え方」の中で明示した。しかし、この方向は民間非営利組織の会計に影響を与えることはなかったように思われる。なお、研究会の委員は以下の通りである。

<NPOアカウンタビリティ研究会の委員等>

 赤塚和俊(公認会計士)、江田 寛(公認会計士)、黒田かをり(CSOネットワーク共同事業責任者)、國部克彦(神戸大学)、杉田洋一(難民を助ける会)、兵頭和花子(兵庫県立大学)、松原 明(シーズ事務局長)、水口 剛(高崎経済大学)


⑷ 2007年6月国民生活審議会総合企画部会報告「特定非営利活動法人制度の見直しに向けて」

 NPO法人会計基準の策定の直接のきっかけとなったのが、2007年6月に国民生活審議会から総合企画部会報告として公表された「特定非営利活動法人制度の見直しに向けて」である。同報告書「2法人の業務運営のあり方⑷会計基準及び計算書類のあり方」の中で「NPO法人の会計基準がないことから、計算書類が正確に作成されていなかったり、記載内容に不備が見られたり、会計処理がまちまちでNPO法人間の比較が難しい」などの問題点が指摘され、会計基準の策定の必要性について言及している。さらに同報告は、NPO法人会計基準の策定主体について、「所轄庁が会計基準を策定すると、NPO法人に対して必要以上の指導的効果を及ぼすおそれがあるため、会計基準は民間の自主的な取組に任せるべきである」との考え方を示した。NPO法人会計基準は同報告書のこの考え方を実現するべく、全国79のNPO法人等が、NPO法人会計基準協議会を組織し、民間の自主的な取組としてスタートしたのである。

 なお、同報告書「NPO法人制度検討委員会」のメンバーは以下の通りである。

<国民生活審議会総合企画部会NPO法人制度検討委員会>

 委員長:雨宮孝子(明治学院大学)

 委 員:会田一雄(慶應義塾大学)、石川敏行(中央大学)、影山美佐子(前千葉県環境生活部NPO活動推進課長)、川崎あや(横浜市市民活動センター)、早瀬 昇(大阪ボランティア協会)、升田 純(中央大学)、山岡義典(日本NPOセンター)、山野目章夫(早稲田大学)


Ⅱ 2010年7月「NPO法人会計基準」の策定・公表

 NPO法人会計基準協議会は、24名の実務家、研究者及び実務担当者から構成される策定委員会を組織し、2009年3月にNPO法人会計基準の策定をスタートさせた。「NPO法人会計基準」は1年4か月の策定作業を経て、2010年7月にNPO法人会計基準協議会から公表された。

⑴ 基本的考え方

 NPO法人会計基準は、「総合企画部会報告」が指摘した事項をどのように克服するかについて検討した結果、財務諸表作成に当たり作成者である法人側の都合を極力少なくすること、及び財務諸表利用者の視点を確保することが重要と考え、「基本的考え方」として以下の2点を明示した。

 ① 市民にとって分かりやすい会計報告であること。このために、会計基準策定にあたり、会計報告の作成者の視点以上に、会計報告の利用者の視点を重視する。

 ② 社会の信頼にこたえる会計報告であること。

 策定に当たり意識したもう1つの論点は民間非営利組織における一般目的の財務報告基準である。旧手引きは所轄庁の利用に重点が置かれており一般目的の財務報告基準とは言い難いものであった。「NPO法人会計基準」は、法人から公表された財務諸表以外に判断基準を持たないステークホルダーにフォーカスした一般目的の財務報告基準を強く意識している。この論点を具体化するため、策定委員会における議論は、1978年5月に公表された、アンソニーレポート「非営利法人の財務情報利用者が必要とする情報について」で提示された以下の項目を議論の重要な枠組みとしている。

 ・Financial Viability

 ・Fiscal Compliance

 ・Management Performance 

 ・Cost of Service provided


⑵ 制度の成熟度に対する対応

 策定委員会の議論の1つに、公表当時もっとも革新的な、アカ研公開草案「標準型」がNPO法人に採用されなかった事実をどのように理解するのかという点があった。アカ研標準型の公表はNPO法施行前の1998年9月であり、12月以後認証されるNPO法人が「標準型」を受け入れることができるほど成熟していなかった点は明白である。この点を考慮し、策定委員会は、基準策定に当たり、対象である組織の成熟度を踏まえることが重要との考えに至っている。また、アカ研公開草案は「標準型」及び「簡易型」の二者選択方式を採用しているが、二者選択方式を採用するとどうしても安易な方を採用しがちであること、デファクト・スタンダードとしての基準では、一旦安易な方法を採用すると自主的に厳格な方法への変更はハードルが高いという事実が存在することが認識の土台となっている。


⑶ 財務諸表の体系の整備

 旧手引きでは、計算書類は貸借対照表、収支計算書及び財産目録とされていた。NPO法人会計基準は、財務諸表は活動計算書と貸借対照表とした。財産目録は財務諸表の体系からは除外している。


⑷ 事業規模の相違による会計基準の考慮

 NPO法人の実態を見ると、そのほとんどが中小零細組織であり、一部に規模の大きな国際的な組織が存在する。これらの規模の相違についてどのように対応したら、社会の信頼にこたえる会計報告になるかは極めて重要な論点である。この問題の解決方法の1つに、アカ研公開草案と同様「標準型」と「簡易型」を作成する方法が考えられる。しかしこの方法では以下の問題点が存在する。

ア 一定ラインを境に、拠るべき会計基準が変わることから比較性の確保に関する問題がある。

イ 標準型と簡易型を提示するとNPO法人会計基準がデファクト・スタンダードである限り安易な方法を選択する傾向がある。仮に、法人の成熟度から簡易型を選択した法人であっても、一旦選択すると標準型への変更はハードルが高い。この事実が「総合企画部会報告」が指摘した状況をもたらしたとしたら、NPO法人にとって極めて大きな社会的損失である。

 以上の議論を踏まえ、NPO法人会計基準は、事業規模の相違による対応を2つの基準を用意するのではなく、重要性の原則を踏まえて1つの基準で対応することにした。

 重要性の原則は、一般的には、標準的な処理を厳格な手続きとし、重要性が低い場合に簡易な処理を認めるという考え方である。これは対象とする組織の構成によって導き出されたものであり、対象とする組織の大半が標準以上のサイズで構成され、一部に小規模事業者が存在する場合を前提としている。その結果、標準的処理は厳格なものとなり、重要性がない場合に限り簡便な処理を容認する。NPO法人は、小規模事業者が圧倒的に多いという特徴を有している。そこで、標準的な処理は中小事業者を前提として組織の成熟度に見合った処理を採用し、事業規模の大きい法人については「市民にとって分かりやすい会計報告」の視点から、より厳格な手続きを積極的に適用するという考え方を採用した。そして、中小事業者を対象とする標準的な処理については、概ね5年先のあるべき姿を想定して枠組みを構築している。つまり、成熟度が要求する水準として、概ね5年先のレベルを提示することによって市民に分かりやすい会計報告の質の向上を確保しようとしているのである。


⑸ 支援の事実と事業コストの把握

 NPO法人会計基準策定時は、金銭及び物品の寄付の受入れのみ慣行が存在していた。しかしながら、NPO法人にとってボランティアの受入れとボランティア以外のサービスの受入れは既に重要な事項となっており、これを会計にどのように反映するかは、組織に対する支援の事実ばかりでなく提供したサービスのコスト(Cost of Service provided)の視点についても重要な影響を与える。この点を踏まえて、策定委員会は「施設受入評価益と施設等評価費用」及び「ボランティア受入評価益とボランティア受入費用」の計上を決断した。ただし、この計上は我が国において初めての会計処理であることから、会計慣行が成熟するまでは任意規定としている。なお、公益法人会計基準が導入した寄付者による使途制約については、NPO法人の場合には、行政機関等からの補助金等が少ない事及び制度の成熟度を考慮し、フロー情報を区分するという複雑な会計処理を回避するため、標準的には財務諸表の注記項目とした。もちろん、重要性が高い場合には、当然のこととして活動計算書を区分し会計情報の有用性を確保することにしている。


⑹ Fiscal Complianceの確保

 NPO法人は、行政とは異なる視点で事業を実施することにより、効率的に経済的特性を発揮する。この点について、総合企画部会報告書は「法人の活動は、広範な情報公開制度に基づき市民自身が監視することによって、その健全な発展が期待されており、所轄庁の監督はあくまで最終的な是正手段として規定されている」と記載している。(同報告書3法人の認証・監督のあり方⑴基本的考え方)つまりNPO法人と行政には一定の距離感が必要となるのである。この距離感の存在は、組織の自浄作用等のフィスカル・コンプライアンスの視点をより強く求めることになる。何故なら、一旦NPO法人側に問題が起こると所轄庁の監督は拡大され、距離感が確保されず経済的特性から導き出された役割の阻害要因になるからである。役員報酬の取扱いと関連当事者間取引の注記はこの視点から導き出されたものである。

 なお、NPO法人会計基準の策定委員、オブザーバー及び専門委員は以下の通りである。

<NPO法人会計基準策定委員会の委員等>

 委 員 長:江田 寛(公認会計士)

 副委員長:水口 剛(高崎経済大学)、脇坂誠也(税理士)

 委  員:井上小太郎(住友生命)、岩永清滋(公認会計士)、梅村敏幸(中央労働金庫)、遠藤寿子(東京コミュニティパワーバンク)、岡村勝義(神奈川大学)、加藤俊也(公認会計士)、金田晃一(武田薬品工業)、川島弘之(西武信用金庫)、黒田かをり(CSOネットワーク共同事業責任者)、國部克彦(神戸大学)、杉田洋一(難民を助ける会)、瀧谷和隆(税理士)、茶野順子(笹川平和財団)、辻村祥造(税理士)、中村元彦(公認会計士)、早坂 毅(税理士)、原 稔(税理士)、藤井秀樹(京都大学)、松原 明(シーズ)水谷 綾(大阪ボランティア協会)、渡辺 元(トヨタ財団)

 オブザーバー:内閣府及び47都道府県

 専門委員:42名の研究者、専門家及び実務家


Ⅲ 特定非営利活動法人の会計の明確化に関する研究会報

 告書

 2010年7月「NPO法人会計基準」が策定・公表され、さらに2011年6月「改正NPO法」が成立し、2012年4月から新制度が施行されることから、内閣府は2011年11月「特定非営利活動法人の会計の明確化に関する研究会報告書」を公表した。研究会報告書の意義について以下の記載がある。

 『「NPO法人会計基準」は、特活法人の望ましい会計基準であると考える。…(中略)…しかしながら、報告書(NPO法人会計基準協議会の報告書、具体的には「NPO法人会計基準を」を指す)においては、改正特活法により作成が必要になる活動予算書並びに認定及び仮認定についての言及がないこと、「NPO法人会計基準」に会計処理を変更した場合の移行措置など特活法人や所轄庁にとっての関心事項についての言及がないことを踏まえれば、新しい手引きでこれらを明らかにすることが「NPO法人会計基準」の利用を促すことにつながるものと考える』(同報告書Ⅰ-3「NPO法人会計基準」との関係)

 なお、委員は以下の通りである。

<特定非営利法人の会計の明確化に関する研究会の委員>

 座  長:川村義則(早稲田大学)

 座長代理:梶川 融(公認会計士)

 委  員:会田一雄(慶應義塾大学)、金子良太(国学院大学)、小長谷藤兵衛(税理士)、小林新二(静岡市生活文化局)、瀧谷和隆(税理士)、中尾さゆり(ボランタリーネイバーズ)、中村元彦(公認会計士)、松原 明(シーズ)、渡邊勝美(東京都生活文化局)


Ⅳ NPO法人会計基準の改正

 NPO法人会計基準は、2012年1月に明確化研究会報告書との整合性を取るために若干の改正を行っている。改正の1つに「リースの取扱い」がある。明確化研究会委員の中で「リース会計基準」と異なる取扱いについての議論が生じたためである。リースの取扱いは、「事業規模の相違による会計基準の取扱い」の典型的な1つであったが、改正を行っても具体的な内容は異ならないと判断したことからやむなく改正に至ったものである。

 本格的な改正は当初予定した改正期間である5年が経過したことから、必要性が議論されNPO法人会計基準委員会の手によって2017年12月に公表された。

 ① フィスカル・コンプライアンスの視点

   役員報酬に関する取扱いは、2010年基準では役員が事業に従事した場合には事業費、管理業務に従事した場合には管理費としていたが、現実には以下の理由から役員報酬という勘定料日を使用せず給料として処理する取扱いがなされていた。

  ㋑ NPO法第2条第2項1-ロ「役員のうち報酬を受ける者の数が、役員総数の3分の1以下であること」という規定を受けて、役員が他の使用人と同じ条件で業務をした場合には、給料手当で処理するという慣行が存在していること。

  ㋺ 指定管理業務において、役員報酬という勘定科目が使えない場合があること。

    役員報酬の一部を給料手当で処理すると、当該金額が社員総会の枠外となり、その結果、役員に対する支払いが本人以外にはわからないという状況が生まれる可能性がある。この部分について、基本的に2010年基準の考え方は変えないものの、上記等の理由から給料手当として計上する場合には、関連当事者間取引の注記の対象とすることとした。

 ② 寄付金等に係る現金主義からの離脱

   2010年基準では、寄付金等の認識は現金基準によっていたが、2017年改正では確実に入金されることが明らかになった場合に「未収寄付金」の計上を認めることとしQ&Aを充実した。

  Q13-1 確実に入金されることが明らかになった場合とは

  Q13-2 クレジットカードによる寄付

  Q13-3 仲介団体経由の寄付

  Q13-4 寄付に対する返礼品

  Q13-5 現物寄付

  Q13-6&13-7 換金型の現物寄付

  Q13-8 遺贈寄付

 なお「2017年12月改正」で積み残した部分にファンド・レイジング費用の問題がある。

 NPO法人の経済的特性を前提とするなら、活動計算書の中で以下の部分は極めて重要な論点となる。

・支援の事実

・事業コストの把握

・支援の獲得活動

・寄付者による使途の制約と受託責任

 上記のうち、支援の事実については2010年策定公表時にボランティア等のサービスの受入れと事業コストへの算入についての基準を整備し、2017年改正では支援の認識基準を整備した。寄付者による使途の制約と受託責任については、その必要性に関して策定公表時と状況の変化はないと判断している。残された論点は「支援の獲得活動」と「事業コストの純化」にある。支援獲得活動(ファンド・レイジング)は経済的特性から導かれる本質的な活動であり、独立掲記の必要性が極めて高い。またファンド・レイジングに係る費用を独立掲記しない場合には、結果として事業費や管理費に含まれることになる。事業費がCost of Service providedであるならばファンド・レイジング費用などのその他の要素が含まれることは重大な問題を内包している。経常費用は事業費、ファンド・レイジング費及びガバナンスのための管理費に区分されることで経済的特性と整合的な費目区分となる。会計基準委員会では、ファンド・レイジング費の重要性について概ね認識は一致していた。しかし、適用の時期について時期尚早とする意見が多かったことから次回検討項目となったものである。なお、会計基準委員会の委員は以下の通りである。

<2017年12月改正に係るNPO法人会計基準委員会の委員>

 委員長:江田 寛(公認会計士)

 副委員長:岩永清滋(公認会計士)

 委  員:大谷義幸(税理士)、岡村勝義(神奈川大学)、田中 皓(助成財団センター)、橋本俊也(税理士)、早瀬 昇(日本NPOセンター)、藤井秀樹(京都大学)、南山達郎(ぱれっと)


終わりに

 第22回全国大会の統一論題「NPO法施行20年~その回顧と展望~」に関して会計面から「NPO法人会計基準の考え方と2017年12月改正の方向性」とのタイトルで検討した。NPO法人は1995年の阪神・淡路大震災における市民活動をベースに超党派の議員立法によって誕生した法人である。我が国における民間非営利組織は行政機関との関係を前提に設立されていることを考えるとNPO法人は極めてピュアな存在であると言える。市民とNPO法人を繋ぐ架け橋としてのNPO法人会計基準が市民自身の手でよりブラッシュアップされ、社会的評価の確立に貢献してほしいと思っている。非営利法人研究学会の研究者及び実務家のサポートを強く期待する。なお、本稿における意見に係る部分は私見であることを申し添えておく。

 

(論稿提出:平成30年12月3日)






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