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「理念の制度」としての財務三基準の有機的連関性の中の収支相償論

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国立民族学博物館教授 出口正之


キーワード:

公益法人制度改革 収支相償 財務三基準 特定費用準備資金 クリープ現象


要 旨:

 公益認定法第5条6号及び14条に示された規制を示す法令用語である「収支相償」は、公益目的事業比率規制(同5条8号)及び遊休財産規制(同5条9号)とともに、数値によって表現される「財務三基準」のひとつである。これらは1つの規制の数値を変更すれば、他の規制の数値すべてが変化する関係にある「相互に有機的な連関」を持ちながら、公益法人の収入を確実に公益目的事業に支出させることで立法趣旨である民間の公益の増進に資するように設計してある。設計時には特定費用準備資金及び資産取得資金という2つの調整項目を作り出し、現実的に運用可能な「最大限の緩和」を行った。しかし、財務三基準についてそれぞれ別個に解釈の変更が繰り返され、現在では、法改正がされていないにもかかわらず、実質的な規制強化となる「クリープ現象」が生まれてしまっている。


構 成:

Ⅰ はじめに

Ⅱ 誤解されたガイドライン

Ⅲ フロー規制をストック規制に転換させる特定費用準備資金と資産取得資金

Ⅳ 特定費用準備資金を巡る民間の「クリープ現象」


Abstract

 “RENEC”known as the flow-base regulation, which is a legal term indicating the regulation set forth in Article 5 (vi) and Article 14 of Public Interest Authorization Act(AAPI). It is one of the "three financial regulations", which have systematic relationship each other.

 These are, holistically, to ensure that revenues of public interest corporations shall be spent on for public interest, and designed to contribute to the public benefits by the private sector, which is the legislative objective. At the time of design, two adjustment items are prepared, and regulations are carried out as the "maximum mitigation" that can be operated realistically. However, the change in interpretation of each regulation of the three has been repeated separately, and at present, the "creep phenomenon", which means to strengthen the substantive regulatory powers, can be found, without any revises of the act.

Ⅰ はじめに

 公益法人制度改革とそれに続く税制改革は、我が国の制度改革の歴史においても、極めて特異な地位を占めたものといえる。それは、理論に基づきあるべき制度として改革が実現したからである。例えば、公益法人制度改革の方向性を決定付けた閣議決定「公益法人制度の抜本的改革に関する基本方針」は、以下のように謳われている。

 「我が国においては、個人の価値観が多様化し、社会のニーズが多岐にわたってきている。しかし、画一的対応が重視される行政部門、収益を上げることが前提となる民間営利部門だけでは様々なニーズに十分に対応することがより困難な状況になっている。

 これに対し、民間非営利部門はこのような制約が少なく、柔軟かつ機動的な活動を展開することが可能であるために、行政部門や民間営利部門では満たすことのできない社会のニーズに対応する多様なサービスを提供することができる。その結果として民間非営利活動は、社会に活力や安定をもたらすと考えられ、その促進は、21世紀の我が国の社会を活力に満ちた社会として維持していく上で極めて重要である。」(閣議決定[2003]下線部引用者)

 さらに、これに続く税制の基本を打ち立てた「新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方」には以下のように謳われている。


   「この「基本的考え方」は、昨年6月の「わが国経済社会の構造変化の『実像』について」において指摘した「民間が担う公共」の重要性を踏まえ、この諸課題に関して今後の改革の基本的方向性を提示するものである。「あるべき税制」の一環として、「新たな非営利法人制度」とこれに関連する税制を整合的に再設計し、寄附金税制の抜本的改革を含め、「民間が担う公共」を支える税制の構築を目指そうとするものに他ならない。これはまた、歳入歳出両面における財政構造改革の取組みと併せて、わが国の経済社会システムの再構築に欠くことのできない取組みでもあるといえよう。」
   (政府税制調査会 基礎問題小委員会 非営利法人課税ワーキング・グループ[2005]下線部引用者)

 政府税制調査会では、従来、不公平税制の是正として公益法人課税については課税強化の論調であった1)。この論調を180度変えたのは、公益法人の活動が社会から圧倒的な信頼を得たからではない2)。逆に、世論の俎上に上がったのは、むしろ公益法人の諸問題の方である。ところが、悪徳公益法人を懲らしめる税制として立案されたのではなく、あくまで「あるべき税制」を総合的に再設計して、「民間が担う公共」を支える税制の構築を目指そうとしたものであって、「歳入歳出両面における財政構造改革の取組みと併せて、わが国の経済社会システムの再構築に欠くことのできない取組み」という点に重点がおかれていたのである。

 税制が一般に政治的力学の中で決定されることが多い中で、「理念の税制」として公益法人制度税制改革は誕生した。言い換えれば、公益法人関係者等の要望の結果として誕生したわけではない。政府税制調査会石弘光会長はこの点を公益法人などの関係者の「予想外」という用語でその点を表現した3)。また、小島廣光は同調査会の報告書がターニング・ポイントになったことを例証している(小島[2014])。公益法人関係者の要望の結果として生まれた制度では無く、21世紀社会を見据えた「理念の制度」として誕生したという点は、公益法人制度改革の諸規制や今後の制度運営を考える上での重要な羅針盤である4)

 「民間が担う公共」を支える制度の総仕上げが、平成20(2008)年の『公益認定等に関する運用について(公益認定等ガイドライン)』(以下「ガイドライン」という)の策定とそれと並行して行われた平成20年度税制改正である5)。したがって、ガイドラインは「『内外の社会経済情勢の変化に伴い、民間の団体が自発的に行う公益を目的とする事業の実施が公益の増進のために重要となっていることにかんがみ』、当委員会の運営によって、『公益を増進し活力ある社会の実現に資する』という考え方を全員で共有し、意識してこれを目指すものとする」(内閣府公益認定