「理念の制度」としての財務三基準の有機的連関性の中の収支相償論

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国立民族学博物館教授 出口正之


キーワード:

公益法人制度改革 収支相償 財務三基準 特定費用準備資金 クリープ現象


要 旨:

 公益認定法第5条6号及び14条に示された規制を示す法令用語である「収支相償」は、公益目的事業比率規制(同5条8号)及び遊休財産規制(同5条9号)とともに、数値によって表現される「財務三基準」のひとつである。これらは1つの規制の数値を変更すれば、他の規制の数値すべてが変化する関係にある「相互に有機的な連関」を持ちながら、公益法人の収入を確実に公益目的事業に支出させることで立法趣旨である民間の公益の増進に資するように設計してある。設計時には特定費用準備資金及び資産取得資金という2つの調整項目を作り出し、現実的に運用可能な「最大限の緩和」を行った。しかし、財務三基準についてそれぞれ別個に解釈の変更が繰り返され、現在では、法改正がされていないにもかかわらず、実質的な規制強化となる「クリープ現象」が生まれてしまっている。


構 成:

Ⅰ はじめに

Ⅱ 誤解されたガイドライン

Ⅲ フロー規制をストック規制に転換させる特定費用準備資金と資産取得資金

Ⅳ 特定費用準備資金を巡る民間の「クリープ現象」


Abstract

 “RENEC”known as the flow-base regulation, which is a legal term indicating the regulation set forth in Article 5 (vi) and Article 14 of Public Interest Authorization Act(AAPI). It is one of the "three financial regulations", which have systematic relationship each other.

 These are, holistically, to ensure that revenues of public interest corporations shall be spent on for public interest, and designed to contribute to the public benefits by the private sector, which is the legislative objective. At the time of design, two adjustment items are prepared, and regulations are carried out as the "maximum mitigation" that can be operated realistically. However, the change in interpretation of each regulation of the three has been repeated separately, and at present, the "creep phenomenon", which means to strengthen the substantive regulatory powers, can be found, without any revises of the act.

Ⅰ はじめに

 公益法人制度改革とそれに続く税制改革は、我が国の制度改革の歴史においても、極めて特異な地位を占めたものといえる。それは、理論に基づきあるべき制度として改革が実現したからである。例えば、公益法人制度改革の方向性を決定付けた閣議決定「公益法人制度の抜本的改革に関する基本方針」は、以下のように謳われている。

 「我が国においては、個人の価値観が多様化し、社会のニーズが多岐にわたってきている。しかし、画一的対応が重視される行政部門、収益を上げることが前提となる民間営利部門だけでは様々なニーズに十分に対応することがより困難な状況になっている。

 これに対し、民間非営利部門はこのような制約が少なく、柔軟かつ機動的な活動を展開することが可能であるために、行政部門や民間営利部門では満たすことのできない社会のニーズに対応する多様なサービスを提供することができる。その結果として民間非営利活動は、社会に活力や安定をもたらすと考えられ、その促進は、21世紀の我が国の社会を活力に満ちた社会として維持していく上で極めて重要である。」(閣議決定[2003]下線部引用者)

 さらに、これに続く税制の基本を打ち立てた「新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方」には以下のように謳われている。


   「この「基本的考え方」は、昨年6月の「わが国経済社会の構造変化の『実像』について」において指摘した「民間が担う公共」の重要性を踏まえ、この諸課題に関して今後の改革の基本的方向性を提示するものである。「あるべき税制」の一環として、「新たな非営利法人制度」とこれに関連する税制を整合的に再設計し、寄附金税制の抜本的改革を含め、「民間が担う公共」を支える税制の構築を目指そうとするものに他ならない。これはまた、歳入歳出両面における財政構造改革の取組みと併せて、わが国の経済社会システムの再構築に欠くことのできない取組みでもあるといえよう。」
   (政府税制調査会 基礎問題小委員会 非営利法人課税ワーキング・グループ[2005]下線部引用者)

 政府税制調査会では、従来、不公平税制の是正として公益法人課税については課税強化の論調であった1)。この論調を180度変えたのは、公益法人の活動が社会から圧倒的な信頼を得たからではない2)。逆に、世論の俎上に上がったのは、むしろ公益法人の諸問題の方である。ところが、悪徳公益法人を懲らしめる税制として立案されたのではなく、あくまで「あるべき税制」を総合的に再設計して、「民間が担う公共」を支える税制の構築を目指そうとしたものであって、「歳入歳出両面における財政構造改革の取組みと併せて、わが国の経済社会システムの再構築に欠くことのできない取組み」という点に重点がおかれていたのである。

 税制が一般に政治的力学の中で決定されることが多い中で、「理念の税制」として公益法人制度税制改革は誕生した。言い換えれば、公益法人関係者等の要望の結果として誕生したわけではない。政府税制調査会石弘光会長はこの点を公益法人などの関係者の「予想外」という用語でその点を表現した3)。また、小島廣光は同調査会の報告書がターニング・ポイントになったことを例証している(小島[2014])。公益法人関係者の要望の結果として生まれた制度では無く、21世紀社会を見据えた「理念の制度」として誕生したという点は、公益法人制度改革の諸規制や今後の制度運営を考える上での重要な羅針盤である4)

 「民間が担う公共」を支える制度の総仕上げが、平成20(2008)年の『公益認定等に関する運用について(公益認定等ガイドライン)』(以下「ガイドライン」という)の策定とそれと並行して行われた平成20年度税制改正である5)。したがって、ガイドラインは「『内外の社会経済情勢の変化に伴い、民間の団体が自発的に行う公益を目的とする事業の実施が公益の増進のために重要となっていることにかんがみ』、当委員会の運営によって、『公益を増進し活力ある社会の実現に資する』という考え方を全員で共有し、意識してこれを目指すものとする」(内閣府公益認定等委員会[2007])という基本方針によって作成されたものである。

 本稿の主題である「収支相償」とは、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年6月2日法律第49号)(以下「認定法」という。)第5条6号及び14条に示された規制を示す法令用語である。また、公益目的事業比率規制(同5条8号)及び遊休財産規制(同5条9号)とともに、数値によって表現される財務上の三規制を構成する。これは一般に「財務三基準」と呼ばれている。さらに財務三基準は同法第30条第2項に規定する公益目的取得財産残額の算定とともに、相互に有機的な連関を保って作成された。「相互に有機的な連関」というのは、1つの規制を動かせば、他の規制の数値すべてが変化する関係にあるということである。公益認定等委員会第3回委員会の公表資料である図1はそのことを示す初期設定時の一番大事な制度設計図である。


図1 内閣府令が関係する財務関係の主な認定基準

出所:内閣府公益認定等委員会第3回参考資料


 したがって、財務三基準は、相互に独立した規制として捉えることはできないし、そのように設計されていない。この規制の有機的連関性をここでは「公益認定法上の財務規制の有機的連関原則」(以下「有機的連関原則」という。)と呼んでおこう。有機的連関原則は認定法第1条における「公益法人による当該事業の適正な実施を確保するための措置等」を構成することで、「公益の増進及び活力ある社会の実現に資することを目的」としている。すなわち、有機的連関基本原則は認定法第18条に規定する「公益目的事業財産」が公益の増進のために使用されることを担保するためのものである。法人側にたてば、財務三基準とは「公益目的事業財産」を公益の増進のために使用することを社会へ約束することであり、どれかの基準に抵触しそうなときは、有機的連関原則によっていずれも公益の増進に即してしっかりと当該財産を適切に使用していくことによってその回復を図ることができる。3つの規制があるように表現されているが、設計図の趣旨は有機的連関性に基づく「ホメオスタシス」(状況を一定の状態に保ちつづけようとするフィードバック機能を持った調整機能)として機能させているといってよいだろう。

 ところが、改革の進行とともに、財務三規制は、相互に独立して議論されてしまい、その方向性を失い、とりわけ、収支相償については評判がとてつもなく悪くなってしまった。例えば、公益法人協会の太田は「この罪深きもの―収支相償」(太田達男[2014])として、強く弾劾している。また、「このような形でしか収支相償要件を考えられなかった立案担当者の能力を疑います。もっと知恵を出せと言いたかったです。私たちのような一般人や一般法人が制度の全体像を知り、問題点を認識できないうちに現行制度が出来て運用が始まってしまったのはとても残念です」(2015年02月24日公益認定ウォッチャーブログへの匿名のコメント)といった声まで上がっている。

 設定者の立場から言えば、最近の内閣府公益認定等委員会公益法人の会計に関する研究会(以下「会計研究会」という。)の研究報告書([2015]、[2016]、[2017])には、理解に苦しむ点が多々ある。

 ガイドライン上は大規模法人、中規模法人、小規模法人の3区分がすでにあるにもかかわらず、小規模法人対策を目指したうえで、規模別に線が引けないとしたり(会計研究会[2015]p.6)、「収支相償の剰余金解消計画」というガイドライン上の「剰余金」の定義と全く整合が取れていないものを持ち出したり(会計研究会[2015]p.13)と枚挙にいとまがない6)

 民間の公益法人の活動は自由権を保証する憲法下での活動である。財産権の保障も憲法上の大きな権利である。規制には、単に法律に明記してあるということもさることながら、規制をするだけの相応の公共の福祉上の要請言い換えれば正当性が背後になければならない(林[1975])。上記閣議決定の「柔軟かつ機動的な活動を展開」が期待された改革の方向性から見ても、収支相償についてはおよそ正当性が見出せないような「複数年度においてもなお収支相償を満たさない場合には、法人にとっても認定法違反の問題を免れ得ないから、当該期間内における収支均衡は確実なものである必要がある」(会計研究会[2015]p.13)というような方向性を有するガイドラインはつくることはあり得ない(図1も公益目的事業は収入が支出を上回る図となっている)。

 さらに「公益法人は、税制優遇を受けて公益目的に資する事業を行う社会的存在であることから、公益法人制度においては、公益目的事業に係る収入と公益目的事業に要する費用の均衡及び遊休財産の保有制限等の財務に関する規律が設けられている」(会計研究会[2017]p.8)といった、政府税制調査会や公益認定等委員会委員を歴任した人間からは、とうてい理解不能な公的文書が存在し始めている。制度設計時にはこのようなロジックも筆者は聞いたことがない。後述するが法律上の「収支相償」と「収支均衡」ないし「収入と費用の均衡」とは全く異なる概念である。収支を均衡せよというときに、林が主張する規制の正当性はどこにあるのか、どのように理論に基づくのか?世に普遍的な真理があるとすれば、赤字を避ける理論は構築できても2年連続で収支を不均衡にしてはならないという正当性は決して出てこないだろう。さらに、税制上の優遇と「収入と費用の均衡」とが連動するのだろうか。収入と費用が均衡すれば、法人税はそもそもゼロであり、それを以て税制上の「優遇」ということ自体論理的に矛盾している。

 この点は、「柔軟かつ機動的な活動を展開」を期待して「理念の制度」に基づく「常識的な制度」を作り上げたと認識している者の一人として世間の誤解を解く必要があるし、仮に、「おかしな制度を作った者の一人」として指弾されるならば、堂々と反論させていただく必要があるだろう。

 そこで、本稿は設定者の一人として、設定時に戻って税制上の観点も加味しながら「収支相償」の意義を考えたい。


Ⅱ 誤解されたガイドライン

 認定法第5条6号については、「その行う公益目的事業について、当該公益目的事業に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額を超えないと見込まれるものであること」となっている。この点については、次の5点が指摘されていた(内閣府公益認定等委員会第19回資料2及び議事録参照)。

 「①収支7)が均衡しているかどうかをどのような単位で判断するのか、②その場合の適正な費用8)の範囲をどう捉えるか、③同じく収入9)の範囲をどう捉えるか、④収入が実施に要する適正な費用を償う額を超えないという意味をどう考えるか、⑤公益目的事業に付随する事業や関連する事業がある場合の事業の範囲をどう考えるかについて具体的な取扱いを整理する必要がある。」

 上記のように、収支相償で比較するのは、法令上の用語としての「収入」と「適正な費用」であり、公益目的事業費の会計上の用語の「収益」と「費用」ではない。したがって、収支相償を論じるときに「黒字・赤字」の表現は適切ではないし、ガイドラインでは一度も使用されていない。

 「収入」の意義
  「⑴費用について損益計算書上の経常費用を基礎とすることに対応し、収入について損益計算書の経常収益の部における公益目的事業収益を基礎とする。
  ⑵具体的には、公益目的事業の活動に係る対価収入のほか、その公益目的事業に充てるために受ける寄附金、補助金など、当該公益目的事業を行うことにより取得する全ての収益を対象とする。
  ⑶収益事業等の収益から公益目的事業財産に繰入れる分(法第18条第4号等)の扱いについては、更に検討する。」(第19回公益認定等委員会資料2及び議事録)

 ここで重要なのは、⑶の部分である。

 税制上の大きな変化として、従来は収益事業等からの繰入については、法人が非収益事業部門と収益事業部門と2つの法人を擬制的に存立させて、収益事業部門からの「みなし寄附金」として税法上取り扱っていた。みなし寄附金の収益事業部門における損金算入枠(限度枠)を定め、上限としていたのである。この限度は制度改革前は30パーセントであった。それに対して「理念の税制」では、そもそも収益事業等の収益は公益目的事業を行うものであるから、繰入を任意から強制へと切り替えられ(認定法第18条4号)、その強制繰入れの比率は50パーセントと定められた(公益認定法施行規則第24条)。

 そこで、収支相償についてガイドラインは、当初「収益事業等の利益額の50%を繰入れる場合」と「収益事業等の利益額を50%を超えて繰入れる場合」について記載していた10)。両者の繰入額を合わせて「みなし寄附金」と呼ぶことがあるが、前者は認定法に基づく法令上の義務であり、後者は任意であることから、ここではより正確を期すために、50%繰入を「みなし税金」、その額を「みなし税額」と呼ぶことにする。また、50%を超える部分の繰入れを「みなし寄附金」、その額を「みなし寄附額」と呼ぶことにする11)

 税法上の収益事業等から公益事業への繰入れは損金算入を前提とし、前述の通り制度改革前は収益事業の利益の30%までであった。したがって、税法上の損金算入の限度額は事実上なくすと、収益事業で利益を出して、それを公益目的事業に繰入れ、公益目的事業財産として貯め込むと、税制上の公平性を欠くことになる12)。そこで繰入の損金算入の額の制限として、以下のように定めている(法人税法施行令第73条第1項3号イ、同73条第2項)。

 「【みなし寄附金がない場合】
  その事業年度の所得の金額の100分の50に相当する金額
 【みなし寄附金がある場合】
  ②の金額が①の金額を超えるときは、②の金額
 ① その事業年度の所得の金額の100分の50に相当する金額
 ② 公益目的事業の実施のために必要な金額(その金額がみなし寄附金を超える場合には、そのみなし寄附金額に相当する金額。以下「公益法人特別限度額」といいます。)
  両者を比較して②を算入限度額としている。」(国税庁[2012]p.37

 このことを認定法上の繰入れの上限額として定めたのが認定法第5条6号と同第14条であり、第14条はそのことを明確に示している。「当該公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得てはならない」である。したがって、収支相償の計算式は、繰入額の「みなし寄附額」の上限額をλとすると、λを算出するためのものであると考えるとわかりやすい。そこで、収支相償規定にとっては、収益事業等からの繰入額が50パーセントの「みなし税金」の範囲の法人なのか、それを超える繰り入れを行う「みなし寄附」の法人なのかが決定的に重要となる13)

 図2は、そのことを示したものである。実際には特定費用準備資金への積立て及び取崩しがあるのでもう少し複雑だが、簡略版を使用しながら収支相償規制が公益法人特別限度額λの計算のためにあることをこの図を使って説明しよう。


図2 公益法人特別限度額と収支相償

注 図が複雑になるので特定費用準備資金への積立て取崩しはゼロとして作図した。

出所 筆者作成


 収益事業等の利益を法人会計の収益事業等の管理費相当分などを加味して損金を計算し、収入から益金を計算する。収益事業等の会計の収益から課税対象額を計算し、その50%を計算し(「みなし税額」)、収支相償上の公益目的事業収入に繰入れなければならない(「みなし税金」)。この時、繰入によって、収入のほうが多ければ、みなし寄附額の上限額はゼロになる。収入のほうが少なければ、その差額(図の白い部分=λ)が、収益事業等からの繰入れ限度額となる。このように従来、税法上の損益算入額という形の上限が、収支相償規制によって認定法によって事実上の上限が設けられたのである14)。したがって、前述の通り当初より収支相償の第2段階については、【収益事業等の利益額の50%を繰入れる場合】と、【収益事業等の50%超えを繰入れる場合】の2種類だけに関心が存在していた。上記の通り、確かに収支相償規制は税法との関係が重要であるが、それは公益目的事業に対する税制ではなく、収益事業等に対する法人税との関係である。もっともガイドラインの策定は、平成20年度税制改正に先立って決定しているため、上記の関係については、公益認定等委員会議事録には記載されていない。理詰めの法制度と理詰めの税制改正の必然の結果として、上記のように規制を合理的に説明することによって、認定法と税法の意図をつなぐことが可能となる。


Ⅲ フロー規制をストック規制に転換させる特定費用準備

 資金と資産取得資金

 次に収支相償上の「適正な費用」を考えてみよう。

  「2.「適正な費用を償う額」の意義
  ⑴公益法人認定法上の費用概念は、公益目的事業比率の計算等において損益計算書の経常費用を基礎としていることにならい、損益計算書の経常費用の部における公益目的事業費を基礎とする。
  ⑵適正な費用には、当該公益目的事業に係る特定費用準備資金への繰入額(規則第18条)を含める。
  ⑶謝金、礼金、人件費等で不相当に高い支出がなされる場合には、適正な費用とは認められないものとして扱う。」(第19回公益認定等委員会資料2及び議事録)

 公益法人は、余剰資産を「特定費用準備資金」15)として、資産をロックすれば、「適正な費用」としてカウントすることができる仕組みとしている。したがって、遊休財産規制とともに、収支相償規制は、公益目的事業収入について、将来に亘って「公益目的事業」に使用することを法律面で強固に拘束させているものである。上記の考え方にたてば、フロー規制としての実質的意味合いは収益事業を行っていた法人に限られることになる。そこでそれを担保するために創出されたのが「特定費用準備資金」である。

 ここで「特定費用準備資金」とは以下のように定められている。

 認定規則第18条3第1項に規定する特定費用準備資金は、次に掲げる要件のすべてを満たすものでなければならない。

 一 当該資金の目的である活動を行うことが見込まれること。

 二 他の資金と明確に区分して管理されていること。

 三 当該資金の目的である支出に充てる場合を除くほか、取り崩すことができないものであること又は当該場合以外の取崩しについて特別の手続が定められていること。

 四 積立限度額が合理的に算定されていること。

 五 第3号の定め並びに積立限度額及びその算定の根拠について法第21条の規定の例により備置き及び閲覧等の措置が講じられていること。

 さらに、この点についてガイドラインでは3号の解釈だけ示し、4号の「合理的」の解釈は示していない。行政手続法(平成5年法律第88号)第5条では、申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準(以下「審査基準」という。)を定めることとされている。ガイドラインはこの「審査基準」に相当する。したがって、ガイドラインに示していない上記の3号の解釈は、法人に委ねられていると考えるのが妥当であるが、監督の段階で4号の「合理的」を根拠に、制度の心臓部である「特定費用準備資金」の特徴を消し去ってしまっている16)

 また、「資金について、止むことを得ざる理由に基づくことなく複数回、計画が変更され、実質的に同一の資金が残存し続けるような場合は、『正当な理由がないのに当該資金の目的である活動を行わない事実があった場合』(同第4項第3号)に該当し、資金は取崩しとなる」となっている。「止むことを得ざる理由に基づくことなく複数回」ということであるから、理由の如何を問わない場合については、「1回だけは変更を行うことができる」(公益認定等委員会議事録)としており、やむを得ない理由であれば何回でも変更可能であるという反対解釈を含意している。理由無く変更した場合も「取崩し」になるだけである。したがって、事実上、フロー規制としての側面を消し去り、ストック規制としての実質的意味を持たせているのである。

 以上の通り、制度設計時には、「黒字を出してはいけない」という意味は事実上存在せず、ただ、収益事業等からの繰入の制限のみフロー規制として意味を持たせているのである。この点については「最大限弾力化」(第29回議事録)しているのであって、委員の一人としては「ここまで柔軟化ができるのか」と思った次第である。したがって、制度設計時以上の弾力化は必要ないと考えられるし、技術的に不可能であろう。当時の委員の一人としてその点について自信を持って保証するものである。

 収支相償における意図せざる解釈の揺らぎとしての「クリープ現象」については、「短期調整金」が突如として消えたこと等についてかつて詳述したことがあるが(出口[2016b])、それ以降も次々と誕生していっている。

 例えば、会計研究会報告では「収支相償の剰余金の解消理由としては、当期の公益目的保有財産の取得や特定費用準備資金の積立てがガイドラインに掲げられている」(会計研究会[2015]p.6)と明確な事実誤認が指摘できる。すでに見たように「特定費用準備資金」の積立は、「適正な費用」の中に入り、「収支相償の剰余金」の中にはない。

 この点も議事録に明確に記載されている。

  「(事務局)『適正な費用を償う額』の意義です。公益法人認定法人上の費用概念はいろいろなところで用いられておりますが、公益目的事業比率の計算等においては基本的には損益計算書の経常費用を基礎としていることにならい、ここにおきましても損益計算書の経常費用の部における公益目的事業費を基礎としたいということです。
  ただし、公益目的事業比率や遊休財産額の規制等におきまして、その費用については当該公益目的事業に係る特定費用準備資金、これは将来の特定の活動の実施に充てるために特別に法人において管理して積み立てた資金は費用額に繰り入れるという調整項目を設けていますが、その調整項目として繰り入れた額も適正な費用に含めたいと思います。」(第19回議事録。下線部引用者)

 つまり、特定費用準備資金は調整項目であって、調整項目が入ることを前提とした制度設計となっている。

 「(第1段階では)収入が費用を上回る場合には、当該事業に係る特定費用準備資金への積立て額として整理する。」

 つまり、ガイドラインでは、特定費用準備資金への積立て額(以下「特費積立額」という。)は決して「例外的な措置」ではなく、単なる「調整項目」であって、剰余金の解消手段ではない。

したがって、剰余金の取扱いについてはガイドラインには以下の通り、特定費用準備資金は入っていない。

  「⑷剰余金の扱いその他
  ①ある事業年度において剰余が生じる場合において、公益目的保有財産に係る資産取得、改良に充てるための資金に繰入れたり、当期の公益目的保有財産の取得に充てたりする場合には、本基準は満たされているものとして扱う。このような状況にない場合は、翌年度に事業の拡大等により同額程度の損失となるようにする」(ガイドラインpp.67)。

 特定費用準備資金が「適正な費用」に入り、その上で収支相償が図られるとする当初の設計と、特定費用準備資金を例外的な措置として剰余金の解消手段として使用されるとする最近の会計研究会の基本スタンスとは、収支相償の原則を考えるうえで非常に大きな相違となっている。同研究会の報告を受けた後に追加されたFAQ問V-2-6では「収支相償は公益目的事業に関わる収入と公益目的事業に要する費用とを比較する」とし、「適正な費用」を「費用」に変換し、定義すら変わってしまう「クリープ現象」が起きているのである。

 その結果、「公益法人は、税制優遇を受けて公益目的に資する事業を行う社会的存在であることから、公益法人制度においては、公益目的事業に係る収入と公益目的事業に要する費用の均衡及び遊休財産の保有制限等の財務に関する規律が設けられている」(会計研究会[2017])といった説明がなされ、「公益目的事業に関する損益はゼロないし赤字が原則」という理解が蔓延していっている。

 そうすると、たとえば「平成28年版公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告」17)では、公益目的事業比率を満たしていない法人数は30、遊休財産規制を超えている法人数は282であるのに対して、現時点での定義における収支相償プラスの法人数は2,731となっている。これは平成28年12月1日時点での公益法人数9,458法人の実に29パーセントに相当する18)。これでは制度としてすでに破綻していることを意味しているといえよう。


Ⅳ 特定費用準備資金を巡る民間の「クリープ現象」

 特定費用準備資金については、官民混在して誤解が広がった。

 ガイドラインは「止むことを得ざる理由に基づくことなく複数回」という二重否定文であるのに対して、民間レベルで、特定費用準備資金を「やむ得ない理由の外は取崩すことができない」という内部規定をつくることが行きわたってしまい、特定費用準備資金が当初の調整項目として考えられていたにもかかわらず普及していない。

 他方で、「特定費用準備資金において将来的に発生する赤字の補てんについては、制限をしていないところです。単年度の収支で黒字が発生した場合に、将来の赤字が見込まれる場合には、これに備えて、資金を積み立てる(特定費用準備資金)や将来の公益目的事業に使用するための財産の取得なども可能」(パブリックコメントに対する内閣府回答)(平成27年)「最大限柔軟化」を超えるメッセージが発出された結果、この点も混乱が起きている。もともと移行法人用に作られた、ストックとしての資産を特定費用準備資金として整理する方法を「単年度の収支で黒字が発生した場合に」というフローにまで、拡大した結果、わざわざ「将来の赤字が見込まれる場合には、これに備える資金」が可能としたことから、認定法規則との整合性が完全にとれなくなり、急遽「将来の収支変動に備えて資金を積み立てることができるよう、要件の明確化等(考え方の整理、具体的な適用事例の明記等)ができないか。』を検討課題としている」(平成28年会計研究会)と、二重三重に法人側へ混乱するメッセージを送ってしまった。

 しかし、検討した結果は、当然のことながら、以下のような報告書が出されている。

  「将来の収支の変動に備えて法人が積み立てる資金(基金)を特定費用準備資金として保有することについては、将来の支出の確実性を担保する観点から、従前と同様に、過去の実績や事業環境の見通しを踏まえて、活動見込みや限度額の見積もりが可能であるなどの要件を充たす限りで、有効に活用されるべきである。この際に、どのような条件等が整えば当該要件に合致するかについて統一的なメルクマールを設定することは困難であり、具体的な事例を提示して参考に資することが有効であると考えられる。加えて、このような特定費用準備資金を新たに定義し直し、その具体的要件を定めることについても、同様に困難である。
  このため、これらの点については、事例の蓄積・提示に努めることとするとともに、後述する遊休財産に係る問題と併せ、特定費用準備資金のあり方として検討を深めることとした」(平成29年度会計研究会報告)。

 ストックに対する移行時の特定費用準備資金とフローに関わる特定費用準備資金についての混乱がこのようなメッセージを送ることになってしまったものと考えられる19)

 それではパブリックコメントのメッセージは一体何だったのだろうか。

 そもそも制度設計時においてはすべての特定費用準備資金及び資産取得資金は将来の赤字に補助的に(止むことを得ざる理由に基づくことなく複数回)対応できるように設定されているのであって、わざわざ「将来の赤字そのもの」のために設置できるようには作っていないし、その必要もないのである。将来の赤字の時に取り崩せないような規制をつくることは公益法人制度改革が柔軟で機動性を持った公益活動を期待する理念の改革であることを理解すればありえないことである。メッセージの混乱が、公益法人に余計な動揺を与えていると言わねばなるまい20)


V 結論

 財務三基準は、収支相償が満たせなくても、遊休財産規制が満たせなくても、公益目的事業比率が満たせなくても、結局は「公益のために適切に使用してください」という監督につながるのであり、どれかを潜脱するような会計をすれば、三基準のどこかで綻びが出るのがこの制度であって、どの基準に抵触するのかはそれほど重要ではない。三基準はすべて輔車相依る関係にある。どこか1つの基準を規制強化すれば、別の部分を緩和しなければ法人が耐えられなくなってしまう。それにもかかわらず、「収支相償」単体として途中から規制の強化と緩和を繰り返した結果、制度そのものがおかしくなってしまって、法人側に無用の混乱を与えてしまった。この有機的な関連をシステム論的に把握できていないことから、非常に不可思議なアンモナイト的な進化を遂げ、結局、単純で常識的な制度を複雑でわかりにくい制度に変えてしまった。

 法人会計にまでフロー規制として法人会計黒字を問題視したことが、収支相償問題を初期の整合のとれた制度から逸脱させて形にしてしまっている[出口2016b]。さらに、「指定正味財産」の指定を極端に厳しくしたりすることによって(会計研究会[2016])、大きく揺らぎが生じている。有機的な関係を考慮しない財務三基準等の規制の強化と緩和を繰り返すことによって規制の強化と緩和が交互に訪れ、制度そのものが大混乱に陥っている。とりわけ、特定費用準備資金の公益認定法規則第18条3号の「積立限度額が合理的に算定されていること。」の「合理的」の部分を行政庁側が裁量に基づき管理していることで、法人運営にも多大な影響を与えているものと考えられる。

 収支相償のメッセージは「黒字を出してはいけません」ではなく、他の財務三基準と関連しながら「公益目的事業財産を公益目的事業のために適正に使ってください」という立法趣旨と寸分も違わぬものなのである。

(本研究及び発表については国立民族学博物館M311291618、日本学術振興会17H06191の支援を得た)。


[注]

1)例えば、「公益法人等の収益事業課税や公益法人等及び協同組合等に係る軽減税率のあり方についても見直しを行う。」(政府税制調査会[2002])

2)この点は阪神・淡路大震災後、世論の後押しから、法人制度、税制まで整備された特定非営利活動法人の制度とは大きく異なる。

3)政府税制調査会の石弘光会長は以下のように述べている。「実際のNPOあるいはNGO、あるいは財団関係の方からはいろいろご意見をいただきました。非常に口はばったい言い方をすれば、好評というか、それはそれだけ税制面で優遇を、あるいは特別な配慮をしてもらえるということは、おそらく予想外だったのかもしれません。そういう形で今回できたことにつきましては、税調並びに各方面からも一応の評価ができたのではないかと考えております。」(政府税制調査会会長会見録[2005])言い換えれば、公益法人税制は関係団体の陳情の結果として実現したものではない。

4)他方でNPO法人に関する税制改革はシーズをはじめとする関係団体のアドボカシー活動の結果であるということが定説となっている(小島廣光・平本健太[2017])。

5)筆者はガイドラインについては内閣府公益認定等委員会委員として、税制改正については政府税制調査会特別委員として直接関与した。

6)たとえば出口[2016a]では、規模別3区分の問題やIFRSに近づける会計研究会の方向に批判を加えている。また、3区分問題については岡本[2017]が大阪府の委員の立場から話題としている。

7)「損益」ではない点が重要である。

8)「適正な費用」に法律上の定義を与えようとしており、収支相償上の「収支」とは会計上の用語ではなく、法律上の用語であることを明確にしている。

9)「収入」に法律上の定義を与えようとしており、収支相償上の「収支」とは会計上の用語ではなく、法律上の用語であることをここでも明確にしている。

10)ガイドラインのパブリックコメント募集時には、収益事業を行わない法人については第2段階の記載がそもそも存在していなかった。

11)国税庁の説明書は上記分類についてしっかりと分けて書いている。

 「【みなし寄附金がない場合】

  その事業年度の所得の金額の100分の50に相当する金額

 【みなし寄附金がある場合】

  ②の金額が①の金額を超えるときは、②の金額」(国税庁[2012]p.13)

12)収益事業等に対する営利法人とのイコール・フッティングの問題はこのように制度上想定されているが、そもそも公益目的事業と営利法人とのイコール・フッティングは制度上想定されていない(法人税法第7条、法人税法施行令第5条第2項第1号)。

13)この点を公益法人会計基準上、連動させたのが「他会計振替額」であり、これは「内訳表に表示した収益事業等からの振替額」として公益法人会計基準運用指針において定義されていた。しかし、これも会計研究会[2017]が、この点を十分に説明することなく定義を変更している。

14)説明の簡略化のために特定費用準備資金の積立額と取崩額は省いている。

15)「資産取得資金」もほぼ同様の取扱であるが、「資産取得資金」は、「適正な費用」の外でカウントされる。

16)会計研究会[2017]p.8「特定費用準備資金については、将来の特定の活動の実施のために特別に支出する費用のために保有する資金であり、対象となる活動の内容及び時期が具体的に見込まれ、積立限度額が合理的に算定されること等が必要