top of page

≪査読付論文≫非営利組織はアドホクラシーか? / 西村友幸 (釧路公立大学教授)

PDFファイル版はこちら

※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。

 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。


釧路公立大学教授 西村友幸


キーワード:

非営利組織 アドホクラシー ミンツバーグの類型学       

ビュロクラシー アソシエーション


要 旨:

 本稿は、田尾・吉田[2009]によって提案された「非営利組織はアドホクラシーである」 という命題の正否の検討を目的とする。

 アドホクラシーを5つの組織形態の一類型として扱ったMintzberg[1979]の所論の詳細 な分析にもとづくと、非営利組織はアドホクラシーに限定されるのではなく、他の形態と りわけ「単純構造」あるいは潜在的な6番目の形態である「ミショナリー」にも近似する ことが議論される。  

 本稿はさらに、Mintzbergの理論はあらゆる種類の組織を網羅した全体的類型学ではな く、仕事組織(すなわち広い意味でのビュロクラシー)に照準をしぼった中範囲類型学であるた め、ワーカーではなくボランティアからなる非営利組織には適していないことを主張する。  

 結論として、非営利組織はアドホクラシーではなくアソシエーションである。


構 成:

I  はじめに

II 組織形態とその1つとしてのアドホクラシー

III 推論と反駁

Ⅳ 非営利の組織形態の検討

Ⅴ Mintzbergの類型学の検討

Ⅵ 結び 


Abstract

 This paper aims to examine the proposition that “nonprofit organizations are adhocracies” suggested by Tao and Yoshida [2009]. Based on in-depth analysis of Mintzberg [1979] who treats the adhocracy as one type of five structural configurations of organizations, it is argued that nonprofits are not restricted to the adhocracy but also in proximity to the other configurations, especially to “simple structure” or to the latent sixth configuration “missionary.” This paper further asserts that Mintzbergʼs theory is not a grand typology which encompasses all kinds of organizations but a midrange typology which limits its scope to work organizations (i.e., bureaucracies in a broad sense), so it is ill-suited for nonprofits composed of volunteers (not workers). In conclusion, nonprofits are not adhocracies but associations.

※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。

 

Ⅰ はじめに

 田尾・吉田[2009]による非営利組織論の教科書に、「非営利組織はアドホクラシーである」 という旨の記述がある(85-87頁)1)。アドホク ラシーは未来学者のToffler[1970]によって提唱された概念であり、「特別にこのことについての」という形容詞の“アドホック(ad hoc) ” に 「政治・ 社会組織」を意味する“クラシー ” (-cracy)という名詞連結形を結びつけた合成語である(平野[1990]、211頁)2)。それは、田尾・ 吉田[2009]がRobbins[1990]を引用しながら述べているとおり「柔軟に対応できる、した がって暫定的なシステム」であり、「整備されたシステム」としてのビュロクラシー(官僚制)3) に対置される。  

 別稿で田尾[1998]は、NPOやNGOなどのボランタリー組織は、組織といいながら、組織として十分な要件を備えているとはいいがたいと述べる。しかし同時に、来るべき超高齢社会におけるボランタリー組織の重要性を勘案すれば、組織論の分析対象から除外されるべきではないと忠告する。こうした問題意識が基盤となって、「非営利組織はアドホクラシーである」 という上記の見解が生まれたと考えられる。およそ組織らしからぬ、あるいは少なくともビュロクラシーからは程遠い組織としての非営利ボランタリー組織に対する理解を深めるのに、「非営利組織はアドホクラシーである」という 田尾・吉田[2009]の命題は参照点として注目に値する。本稿の目的は、この重要な命題の妥当性を検討することである。  

 本稿の構成は以下のとおりである。Ⅱ節では、 アドホクラシーを組織形態の一類型と認識して本格的に分析したMintzberg[1979]4)を概説する。「非営利組織はアドホクラシーである」と いう田尾・吉田[2009]の命題の正否は、まずⅢ節で論理学的に、 続くⅣ節でMintzberg [1979]の所論に即してより詳細に分析される。Ⅴ節では、田尾・吉田[2009]の命題ではなく、 Mintzberg[1979]の所論のほうを精査し、彼の組織類型学が非営利組織を理解するパワーを欠くことを指摘する。Ⅵ節では、結論および今後の課題に言及する。


Ⅱ 組織形態とその1つとしてのアドホクラシー

1 5つの組織形態

 「組織はどのようにして自身を構造化しているのか」を主題とするMintzberg[1979]の著書5)には、本人も指摘しているとおり5という数字が繰り返し登場する。すなわち、

・ 組織における調整メカニズムには5つのタイプがある6)(第1章)。

図1に示すとおり、組織は5つの基本パーツから構成されている(第2章)。ただし、別稿でMintzberg[1981]が断り書きしているように、すべての組織がパーツ全部を必要としているわけではない。組織の中にはこれらの一部しかない単純な構造のものもあるし、す べてのパーツをかなり複雑に組み合わせているものもある。

・ 分権化、すなわち意思決定の権力を多くの個人へと分散することは、垂直方向と水平方向になされる。これら2次元の組み合わせから、分権化の5つのタイプが導出される(第11章)。

 Mintzberg[1979]の考えでは、5という数字の頻出は偶然ではなく、調整メカニズム、基本パーツ、そして分権化といった要素の間には 一対一の対応関係が存在する7)。かくして、組織の構造的形態8)は、単純構造、機械的ビュロクラシー、プロフェッショナル・ビュロクラシー、事業部制、そしてアドホクラシーの5つに類型化される(表1参照)。


図1 組織の5つの基本パーツ

出所:Mintzberg [1979], p.20.


図2 アドホクラシー

注 )図中の点線は、アドホクラシーの業務の中核がしばしば切り取られることを意味している。

出所:Mintzberg [1979], p.443.


表1 5つの組織形態

出所:Mintzberg [1979], p.301.


2 アドホクラシー

 5つの組織形態のうちアドホクラシーについての詳説は、Mintzberg[1979]の第21章でなされている。アドホクラシーは次のように定義される(p.432)。  

 さまざまな分野から選び出された専門家たちを結集した円滑に機能するアドホックなプロ  ジェクト・チーム  

 図1図2とを見比べればわかるように、アドホクラシーはラインとスタッフ9)の間の区分があいまいで、またライン・マネジャーが監督というよりも仲間としてふるまうため、「組織のパーツが混成した無定形の塊」(p.442)に映る。「単純構造と機械的ビュロクラシーが昨日の構造、そしてプロフェッショナル・ビュロクラシーと事業部制が今日の構造だとするならば、 アドホクラシーは明らかに明日の構造である」 (p.459)。アドホクラシーという組織形態は、20 世紀後半に生まれた新しい産業――航空宇宙、 電子、シンクタンク、研究、広告、映画製作、 石油化学――に見られる。その構造は柔軟、自己再生的で有機的であり、古典的な管理原則か らは5つの組織形態の中で最も疎遠である。 「複雑な悪構造問題を解決するのにアドホクラシーほど適した構造はない」(p.463)。Mintzberg [1979]は、Hedberg et al.[1976]を借用し、アドホクラシーを「パレス」(宮廷)ではなく「テント」にたとえることでイメージを伝えようと努めている。  

 Mintzberg[1979]は、アドホクラシーを論じた第21章の末尾に5つの組織形態の諸特性を一覧化した表を添付する。そして、“A Concluding Pentagon”と題した最終(第22)章で、自己の理論の利用に関する以下のような留意点を提示する。

  • ①  組織は5つの各パートによって5つの異なる方向に引っ張られる。多くの組織がこれら5つの張力すべてを経験するのだが、 それぞれの条件下で優勢な張力というものがある。結果として、ある組織は5種類の形態のうちのどれかに近づく。  

  • ②  5つの組織形態はどれも理念型あるいは純粋型であり、各形態は基本的な種類の組織構造、および組織が置かれた状況を記述したものである。  

  • ③  (したがって)5つの組織形態は、構造上のハイブリッドを記述するための基礎として扱われる。  

  • ④  5つの組織形態はまた、いかに、そしてなぜ組織はある構造から別の構造へと変移を遂げるかを理解するための基礎としても用いられる。

Ⅲ 推論と反駁

1 推論

 Mintzberg[1979]の著書の索引には“nonprofit” という語は載っていない。また、アドホクラシーを集中的に論じた第21章にもこの語はいっさい見当たらない。同章のかすかな例外は、非商業的 (noncommercial)組織としてのユニセフに対してスカンジナビア経営研究所が行った組織構造についての提案が、(Mintzbergの用語法では)事業部制とアドホクラシーのハイブリッドへの改革と見なしうるという叙述である(pp.452-453)。つまり、Mintzberg[1979]自身は「非営利組織はアドホクラシーである」と言及しているわけではないのである。

 しかし、Mintzbergが直接言及していないからといって、「非営利組織はアドホクラシーである」という命題が偽であるということにはならない。先述のとおり、Mintzbergはアドホクラシーを「さまざまな分野から選び出された専門家たちを結集した円滑に機能するアドホックなプロジェクト・チーム」と定義している。彼の定義を前提1として、以下のような三段論法を展開することが可能である。

 前提1  アドホクラシーは専門家たちを結集している。  

 前提2  非営利組織は専門家たちを結集している。  

 結論   ゆえに、非営利組織はアドホクラシーである。

 以上の推論は正しいだろうか。形式的には正しいといえるだろう。しかし、容易に認識できるとおり、前提2の内容は真とはいえないため、 得られた結論すなわち「非営利組織はアドホク ラシーである」もまた真ではないと考えるほうが適切である。前提2が真でないことは、田尾・吉田[2009]が述べているとおりである。「非営利組織を立ち上げるということは、ボラ ンティアを集め、彼らを人的資源として原則的に無給で有効活用することである」(32頁)。原則として、非営利組織は専門家たち(experts) ではなくボランティアを結集した組織なのであり、アドホクラシーのようにサポート・スタッフが組織の中心パートとなる(表1参照)可能性は低いといってよい。

 もっとも、田尾・吉田[2009]が解説しているように、組織の規模が大きくなるほど、オフィスにいて支援活動をするスタッフ機能は、 持ち回りや片手間仕事ではなく専任者によって執行されるようになる10)。その場合には、サポート・スタッフが中心パートとしてふるまうようになるかもしれない。だが、大規模化とその帰結としての専任スタッフの雇用は、非営利組織にとってはビュロクラシー化の進展に他ならない(田尾・吉田[2009]、194頁)。「柔軟に対 応できる、したがって暫定的なシステム」としてのアドホクラシーは「整備されたシステム」 としてのビュロクラシーと対置されるのであるから、非営利組織が大規模化によってサポート・スタッフ中心的なアドホクラシーとその対 極のビュロクラシーとに同時接近するという因果は根本的な矛盾を意味する。

2 反駁

 「非営利組織はアドホクラシーである」という命題の三段論法による否定は、同じ手法による反駁を呼び起こすかもしれない。先述のとおり、Robbins[1990]を引用するかたちで、田尾・吉田[2009]はアドホクラシーを「柔軟に対応できる、したがって暫定的なシステム」と定義している11)。彼らの定義を前提1として、 以下のような三段論法を展開することが可能である。

 前提1  アドホクラシーは柔軟に対応できる、したがって暫定的なシステムである。  

 前提2  非営利組織は柔軟に対応できる、したがって暫定的なシステムである。  

 結論   ゆえに、非営利組織はアドホクラシーである。

 ある理論的言明に対する批判は修正案や代案をともなうべきであり、また多角的に行われる必要がある(Whetten[1989])。「非営利組織がア ドホクラシーではないとするならば、一体どんな組織形態なのか」という疑問は当然に惹起されるであろう。加えて、Mintzberg[1979]の 5つの組織形態は、あらゆる理論と同様、濃厚 で複雑な現実から抽象したものであり、ある程度の単純化と非現実性を不可避的に帯びている。彼がいうように、「些末な組織を除くすべての組織の実際の構造は計り知れないほど複雑であり、机上のこれら5つの形態のどれよりもはるかに複雑なのである」(p.468)。理論と現実の間のギャップの取り扱いには細心の注意が必要である。上述のとおり、Mintzberg[1979]は自己の理論を利用する際の留意点を4点あげている。次節ではこのうち②~④をピックアップし て検討を加える。便宜上、彼が列挙した順番とは逆に、すなわち④→③→②の順に考察していくことにする。


Ⅳ 非営利の組織形態の検討

1 構造的変移:看過されたもの

 Mintzberg[1979]は、5つの構造的形態(単純構造、機械的ビュロクラシー、プロフェッショナル・ビュロクラシー、事業部制、アドホクラシー) それぞれについて論じた第17~21章の各章で、ある形態が別の形態へと変化する可能性を示唆している。たとえば、組織の加齢と成長によって単純構造から機械的ビュロクラシーへの変化が見込まれる。総括となる第22章で、Mintzberg [1979]は構造的変移の2大パターンを提示している。1つはたった今述べたように、単純構造に近似したものとして生誕した組織が、加齢と成長によって機械的ビュロクラシーへと変移し、さらに成長して事業部制へと向かうパターンである。もう1つは、アドホクラシーとして生誕した組織が、加齢とともに保守化して機械的あるいはプロフェッショナル・ビュロクラシーへと変移するパターンである。

 このような構造的変移の可能性は田尾・吉田 [2009]も了解するところである。彼らは次のように述べている(下線は本稿の筆者が付記)。

 〔非営利組織は〕ミッションを重視する限りでは、アドホクラシーの構造を採用し、 ビュロクラシーを主軸とする管理形態からは、第一線のボランティアやスタッフ、さらには、管理者や経営者さえも距離をおこうと考える。しかし、ミッションの変容、あるいは、利他主義などの素朴かつ規範的な意義が後退したり、委託などの仕事が増えて円滑な稼働システムを構築しなければならなくなれば、機械的組織から事業部制組織まで発達し、もはや企業とは変わらない構造、マネジメントのシステムを備えるようになるのは必然の経緯である。専門的な技能を有した人が多くいると、プロフェッショナル・ビュロクラシーになる。この場合は、ビュロクラシーによるマネジメントを下敷きにしながら、分権的意思決定や上方コミュニケーションを重視する構造を構築する(8586頁)。

 上記の文に引かれた下線は4本しかなく、Mintzberg[1979]が提示したもう1つの組織 類型である「単純構造」やその類義語は見当たらない12)。単純構造とは、Mintzberg[1979]によれば、ワンマンの戦略尖と有機的な業務の中核とによって構成されたものであり(図3参照)、行動はほとんど公式化されておらず、計画、訓練、リエゾン装置は活用されない。「ほとんど の組織は形成期に単純構造を経験する。多くの小組織は、しかしながら、この時期を過ぎても単純構造のままである」(p.308)。  

 以上の記述が、「非営利組織はアドホクラシーよりもむしろ単純構造に近いのではない か」という判断につながったとしても不思議は ない。実際、田尾・吉田[2009]は同書の別の箇所で、起業段階の非営利組織を「アントレプルナーたちがその独特の個性を活かして活動をはじめる。組織は、まだ整っているとはいえず小規模である」(36頁)と分析しており、これはとりもなおさず単純構造の特徴と見なしうる13)


図3 単純構造

出所: Mintzberg [1979], p.307


2 ハイブリッド

 Mintzberg[1979]は、5つの形態は組織が利用できる5つの相互排他的な構造ではなく、 複雑な現実世界の構造を理解し構築するための統合的な準拠枠すなわち理論であることを強調する。つまり、2つ以上の形態の特徴を兼ね備えたハイブリッド構造が現実には存在するので ある。ハイブリッドの存在は理論を否定してしまうのだろうか。Mintzbergはそうならないという。重要なことは理論が現実と適合しているかではなく、現実を理解するのに理論が役立つかである。ハイブリッドも含め、実際の多様な 構造を記述するのに役立つかぎり、理論は依然として有効なのである。  

 既述のとおり、Mintzberg[1979]はパレス対テントというメタファー(Hedberg et al. [1976])を借用し、アドホクラシーを後者のテントにたとえている。一方、Anheier[2000] は同じメタファーを非営利組織の分析に直接用いて次のように議論する。テント組織は創造性、 即時性、イニシアチブに力点を置き、たとえば 市民活動グループ、市民発議、障害者の自助グループ、地域の非営利劇場などによって代表される。対照的に、パレス組織は権限、明確さ、果断に力点を置き、たとえば大規模な非営利のサービス提供者、シンクタンク、財団などによって代表される。大規模な非営利組織がパレス的であるというAnheier[2000]の見立ては、「非営利組織はアドホクラシーである」という命題の部分否定である。Anheier[2000]はさらに、ほとんどの非営利組織は純粋なパレスでもテントでもなく、その両方である場合が多いと述べる。つまり、非営利組織の多様な構成部分のどれかがテント的で、他の構成部分はパレスに似ているというのである。Mintzberg[1979] によれば、このように組織内の異なるパーツに異なる形態を用いた組織構造もハイブリッドの 一種である。

 Mintzberg[1979]の5つの形態論を非営利組織の実証研究に用いたのがShannahan[2000] である。カナダの地方トレイル協会(provincial and territorial trail association)10社に対する質問票調査から、彼は以下の結果を得た。①10社中8社はアドホクラシーの構造特性に関して高いスコアを示した。②しかし、アドホクラシーに近似すると見なせるのは8社中1社にすぎなかった。それ以外の7社はハイブリッドであった。7社中1社は構造変化の過渡期にあると解釈することもできた。③最も一般的なハイブ リッドはアドホクラシーとプロフェッショナル・ビュロクラシーの間のハイブリッドであった(7社中4社)。④アドホクラシーの構造特性が低スコアの2社は、他の組織形態のどれかに近似しているとも、また他の形態同士のハイブリッドであるともいえなかった。要するに、この2社はMintzbergのモデルに適合しなかった。

3 理念型:5つから6つへ

 Mintzberg[1979]の考えでは、大多数の組織は5つの形態のうちの1つに多かれ少なかれ近似した構造を設計する。どの構造も特定の理論的形態に完全に適合するわけではない。5つの組織形態はあくまでも、現実世界から抽象された理念型あるいは純粋型である。実際の構造は5つの形態のうちのどれかに近接していたり、上記2で述べたように複数の形態のハイブリッドであったりする。つまり、現実世界における組織は、5種類ある基本形態の変異やハイブリッドととらえられるのである。

 組織形態が5つという発想の背後には、表1に示したとおり、組織における調整メカニズムは5つ、基本パーツも5つ、分権化のタイプも5つという数的な一致がある。だがMintzberg [1979]は、同書の最後部で、(変異やハイブリッ ドではなく)6番目の構造的形態の候補に言及している。それは、「ミショナリー」と命名され、このタイプの組織では社会化(socialization) という調整メカニズムが用いられ、組織の中心パーツは戦略尖でも業務の中核でも中間ラインでもなく、またテクノストラクチャーでもサポート・スタッフでもなく、目に見えない「イデオロギー」である。

 もし、設問が「非営利組織は5つの組織形態 のどれに近似しているか」から「6つの組織形態のどれに近似しているか」へ置き換えられるとするならば、ミショナリーという回答はアドホクラシーという回答を大きく上回るに違いない。なぜならば、非営利組織は田尾・吉田 [2009]も指摘しているようにミッションを重視する傾向があり、また「ミショナリーな目標とカリスマ的リーダーシップが共存している」 (Mintzberg[1979]、p.480)というミショナリー組織の条件を満たしていると考えられるからである。

4 まとめ

 Mintzberg[1979]によれば、象徴的な意味において5つの構造的形態はペンタゴン(五角形)を形成しており、各形態はペンタゴンのノードのどれかに鎮座している。現実の組織がノードと完全に一致することはない。なぜならばノードは現実から抽象された理念型だからである。そうではなく、現実の組織は多かれ少なかれ特定のノードの近傍に位置することになる。 「非営利組織はアドホクラシーか?」という問いは、非営利組織はペンタゴン上でアドホクラシーのノードの近くに集成しているだろうかという問いに翻訳される。1~3の議論をふまえると、非営利組織は広範囲に分布していると考えられる。いくつかの非営利組織は単純構造のノードに近接し、またシンクタンクや財団といった大規模な非営利はテント(アドホクラ シー)ではなくむしろパレス(ビュロクラシー) に分類される。さらに、ノードが1つ増えたヘキサゴン(六角形)上でとらえると、一定数の非営利はその新たなノードであるミショナリーのほうにより近似すると予想される。よって、非営利組織がアドホクラシー一極に集中しているとは想定しがたい。

 先ほど、「非営利組織がアドホクラシーでないとするならば、一体どんな組織形態なのか」 という疑問が起こると述べた。この質問に対しては、次のように答えるしかない。「非営利組織は単純構造かもしれないしビュロクラシー (機械的もしくはプロフェッショナル)かもしれない。あるいは第6の形態であるミショナリーかもしれない。総合病院や総合大学といった非営利組織は事業部制と見なすことができるだろう。 結局、非営利組織はどのような形態でもありうる」。


Ⅴ Mintzbergの類型学の検討

1 理論の有用性

 以上のようなあやふやな結論が導かれてしまうのは、1つにはもちろん現実世界が多様性と複雑性を帯びているからである。しかし、別の理由も考えられる。Mintzberg[1979]が主張するとおり、最も有用な理論とは、E = MC2 のように、言葉にすればシンプルだが応用に供されたときにはパワフルなものである(p.469)。どれほどパワフルであるかは、理論がどれほど現実を反映するかにかかっている。

 もし、実際の非営利組織が非常に広範囲に分布しており、その範囲が理論的ペンタゴンやヘキサゴンの枠をはみ出ていたらどうなるだろうか。この場合は当然、Mintzberg[1979]の理論は非営利組織という対象を記述し説明する十分なパワーを欠くことになる。単に、抽象化された理論と生の現実の間に若干のずれがある、というだけの話ではなくなるのである。非営利組織の分析にとって、Mintzbergの理論が本当にパワフルなのかどうかは検討するに値する。それは、彼の理論の有用性や妥当性を吟味するだけでなく、非営利組織の理解をいっそう深化させる目的にとっても重要である。

2 組織の類型学

 類似性にもとづいて事物をグループ化する手続を一般に「分類」(classification)と呼ぶ。分類が概念的であれば「類型学」(typology)、経験的であれば「分類学」(taxonomy)と呼び分けることが多い(Bailey[1994])。Mintzberg[1979]に よる組織分類は、経験的に導出されたものではなく概念的に構築されたものであり、したがって類型学に該当する。

 組織の類型学は数多く存在し、それぞれの類型学は組織を分類するのに用いる基準が異なっている。これは1つには、組織の概念についてのコンセンサスが欠如している14)ためである (Mills and Margulies[1980])。

 Meyer et al.[1993]は、Mintzberg[1979]の 類型学を、エレガンスとシンプルさを保持した類型学の逸品と評している。だが、Mintzberg自身が強調するように、有用な理論はシンプルであると同時にパワフルでなければならない。 彼は、5つの構造的形態を先行研究(たとえば Perrow[1970]や後述のPugh et al.[1969])と比較することで、自己の類型学がより網羅的であることを示唆している15)。そもそもMintzberg[1979] は、自著があらゆる種類の組織に関するものであると序文で宣言しているのである(pp.ⅵ-ⅶ)。にもかかわらず、彼の類型学は非営利組織の実態を描写するパワーが不足していることを指摘しないわけにはいかない。

 「非営利組織」の概念が適用される範囲すなわち外延は、「非営利」という限定が加わった分だけ「組織」の外延よりもせまくなってしかるべきである。Mintzberg[1979]があらゆる種類の組織の分類を試みたのであれば、構築された彼の類型学が「非営利組織」を十分に網羅できないはずがない。こういった疑問はもっともである。Mills and Margulies[1980]の議論がこの疑問の解消に役立つ。彼らによれば、組織の類型学は潜在的な包括性にしたがって2つのグループに大別できる。全体的類型学と中範囲類型学である。全体的(grand)類型学は、 あらゆる組織を包含しようとする普遍主義的なアプローチであり、Blau and Scott[1962]や Etzioni[1961]が代表格である。これに対して、中範囲(midrange)という言葉は「すべての事物や事象ではなく限られた事象や事物に関わる」という意味で用いられる社会科学の用語である(渡部[1980])が、組織の中範囲類型学はMills and Margulies[1980]にしたがえばもっと特定的である。すなわち、中範囲類型学は組織の母集団すべてではなく、その部分としての仕事組織に焦点を合わせたものなのである。例として、Woodward[1965]やThompson[1967 / 2003]、Pugh et al.[1969]などがあげられている。

 仕事(work)組織とは何か。Mills and Margulies [1980]はこの概念を定義していないが、彼らが中範囲類型学として例示したPugh et al.[1969] においては明確である。彼らのいわゆる「アス トン研究」16)が調査対象とした仕事組織の顕著な特徴は、組織のメンバーが皆、雇用されていることである(Pugh et al.[1963]、p.299)。Mills and Margulies[1980]が仕事組織との対比で非仕事(nonwork)組織と呼ぶものの正体も、やはりアストン研究からうかがい知ることができる。同研究の調査対象は上記のとおり仕事組織に限定され、「ボランタリー組織は除外された」 のである(Pugh et al.[1968]、p.67)。  

 1980年に発表されたMills and Marguliesの論文は、その前年発行のMintzberg[1979]の引用が間に合わず、彼の類型学が全体的レベルなのかそれとも中範囲レベルなのかを判断する根拠をあたえない。しかし、Mintzbergの所論が仕事組織に限定された中範囲類型学であることを示唆する文献がいくつかある。たとえば、 Doty and Glick[1994] は、Mintzberg[1979] の著書は組織構造の全体的理論ではなく、組織有効性の予測に焦点を合わせた全体的理論を開発したと述べている。つまりMintzbergは、組織形態の5つの理念型のどれか1つに近似する組織ほどより有効的であり、反対に理念型から乖離する組織ほどより有効的ではないという仮説を立てたのである17)

 Mintzberg[1979]自身の見解を確認してみよう。彼は、重要な先行研究の一端としてアストン研究を頻繁に引用している18)が、彼の類型学がどれほど包括的であるかについての理解は別のテーマを扱った箇所から得られる。上述のとおり、彼の著書の第11章は分権化、すなわち意思決定の権力を多くの個人へと分散することについての記述に当てられている。分権化は垂直方向と水平方向の2方向になされる。マネジャーから非マネジャーへの権力のシフトを意味する水平的分権化に関連して、Mintzberg [1979]は次のような問いを発している。

 水平的分権化は、権力が地位や知識ではなくメンバーシップにもとづくときに完成する。全員が意思決定に平等に参加する。この組織は民主主義的である。    
 そういった組織は存在するのだろうか。完全に民主主義的な組織は、すべての問題を投 票に相当するもので解決しようとする。メンバーの選択を迅速化するためにマネジャーが 選任されるだろうが、マネジャーはそれを行う特別な影響力を持たない。全員が平等なの だ。あるボランティア組織――イスラエルのキブツや会員制クラブ――はこの理想に近寄るが、その他の組織はどうだろうか(p.202)。

 さまざまな角度からこの問題を検討した上で、 Mintzberg[1979]は「われわれの非ボランティア(nonvolunteer)組織では、民主主義ではなく、能力主義でがまんするしかない」(p.208)と結論づける。彼は、序文の宣言(pp.ⅵ-ⅶ)とは 裏腹に、ボランティア組織を考察の対象から外しているのである。

 これも既述のとおり、Mintzberg[1979]は 最終章で6番目の形態「ミショナリー」の存在を示唆している。後年、組織内外の権力に関する著作でMintzberg[1983b]はミショナリー (および「政治アリーナ」)を明示的に取り上げている。同書によれば、ミショナリーはEtzioni [1961]の「規範的組織」というタイプにほぼ一致する。Etzioniの組織分類(強制的組織、功利的組織、規範的組織)は全体的類型学の代表格であり(Mills and Margulies[1980])、Mintzbergはミショナリーを追加することで包括性に関する彼我のギャップを幾分埋めたといえなくもない。しかしそれでもなお、Mintzbergの類型学は全体的ではなく中範囲なのである。その論拠は、さらに後年のMintzbergの著作に見出すことができる。

 彼(Mintzberg[1989])が述懐するところでは、 Mintzberg[1979]において単なる暗示にとどまっていたミショナリーを、権力に関する作品 (Mintzberg[1983b])の執筆中に6番目の組織形態として彼は発見することになった。ただし、それはあくまでも組織社会学の文献の中にであった。しかし、日本人がイデオロギー(とい う調整メカニズム)を用いて組織を経営する方法を自分たちに示してくれてからというものは、ミショナリーという概念は社会学の教室から経営の重役室へと進出したというのである。

 以上のように、ミショナリーが追加されたとはいえ、Mintzbergの知的関心は依然として仕事組織に向けられていたことがわかる(もっとも、彼自身はこうした境界条件を認識していなかったように見受けられる)。仕事組織に考察の対象を限定したMintzbergの中範囲類型学を用いて、非仕事組織すなわちボランタリー組織を語ることには無理がある。

3 ビュロクラシーに対置されるものは何か

 アストン研究は、「メンバーが皆、雇用されている組織」としての仕事組織へのインタ ビュー調査に従事した。彼ら(アストン・グルー プ)はこの調査を通じて、「ビュロクラシーは一枚岩ではなく、組織はかなりいろいろな様式においてビュロクラティックである」と述べている(Pugh et al.[1969]、p.125)。仕事組織は多かれ少なかれビュロクラシーであると解釈する彼らは異端かといえば、決してそんなことはない。高名 な 組織社会学者 たち(Broom et al. [1981])の見解では、ビュロクラシーとは組織目標に専念させるために人々を雇う組織のことである。アストン・グループの調査対象となったさまざまな仕事組織は、「定義によって」 ビュロクラシーなのである。

 田尾・吉田[2009]がRobbins[1990]に倣ってビュロクラシーと対置させたアドホクラシーは、Mintzberg[1979]により「さまざまな分野から選び出された専門家たちを結集した円滑に機能するアドホックなプロジェクト・チーム」 (p.432)と定義された。その「専門家たち」が組織に雇用されていると仮定するならば(そしてこの仮定はまったく根拠のないものではないはずだが)、当該組織はまぎれもなくビュロクラシーなのである。たしかに、「整備されたシステム」 としての(機械的)ビュロクラシーと「柔軟に対応できる、したがって暫定的なシステム」としてのアドホクラシーは大きく異なって見える。しかし、これら2つの一見対極的な組織は「雇用されたメンバーからなるシステム」という共通基盤を有している。この基盤こそがビュロクラシーを他の組織類型から区別する顕著な特徴である。

 では、ビュロクラシー以外の「他の組織類型」とは何であり、またどういった特徴を持っ ているのか。この点についてもビュロクラシーの場合と同様、Broom et al.[1981]の教科書が助けになる。彼らによれば、ビュロクラシーと対比される第2の組織タイプは「ボランタリー・アソシエーション」であり、共通の利害を求めるために一緒に集まった人々によって形成される。これはまさしく、アストン研究が調査対象から除外したタイプの組織である。


Ⅵ 結び

 本稿は、田尾・吉田[2009]の教科書85-87 頁の記述から「非営利組織はアドホクラシーである」という命題を抽出し、これの真偽を考察 してきた。命題は真とはいえなかった。だが、考察をふまえて本稿がこれから示す結論は、実は田尾・吉田[2009]に書かれていることの再生にすぎない。彼らが第2章で議論しているとおり、また田尾が別の文献においても繰り返し強調するとおり(田尾[1997][1998][2004a] [2004b])、非営利組織は当初はボランタリーなアソシエーションとして生成し19)、やがてビュ ロクラシーを採用していく。ただし、田尾・吉田[2009]にとってビュロクラシーは「整備されたシステム」(86頁)を意味するのに対し、本稿はそれを「雇用されたメンバーからなるシ ステム」とより広義にとらえている。とはいえ、「非営利組織は本来的にはビュロクラシーではない」と考えている点で、田尾・吉田[2009] と本稿とは意見の一致を見ている。そして、両者の間には「非営利組織はアソシエーションである」という共通認識が存在するのである。

 本稿はこうしてようやく妥当な結論にたどり着いたものの、この結論をゴールとしてではなくさらなる調査の入口と見なすほうが健全と思われる。科学的探究の最も重要な第一歩は、調査されるべき事物や事象の分類である(Carper and Snizek[1980])。アソシエーションとしての非営利組織を理解するためには、適切な分類体系を開発する必要がある。仕事組織を標本とする調査を実施したアストン・グループは、ビュロクラシーにはただ1つのタイプしかないという考え方は有意義ではなく、ビュロクラシーは異なった状況で異なった形態をなすという立場をとる(Pugh et al.[1969])。アソシエーションについても同じことがいえるはずである。アストン・グループや(本稿の議論で明らかになったとおり)Mintzberg[1979]がビュロクラシーの中範囲類型学を構築したことに倣い、今やアソシエーションの中範囲類型学が構築されなければならない。

 そうした類型学の構築に際しては、アソシエーションは仕事組織とは質的に著しく異なるという意見(Knoke and Prensky[1984]、菅原[2006]) を尊重すべきである。アソシエーションは独特の部類を形成している(Hall[1987])からこそ新たな類型学が必要とされるのである。1つの有望な概念枠組が、アストン・グループの末裔たちによる労働組合研究から生まれている (Child et al.[1973])。彼らは、アソシエーションとしての労働組合が、目標遂行に関わる「管理的システム」と目標形成に関わる「代表制的システム」の二重システムによって特徴づけられると論じている。「管理的システム」は、ビュロクラシー研究が焦点を合わせてきた組織の構成部分である。言い換えれば、「代表制的システム」はビュロクラシー研究ではほとんど考慮されてこなかった構成部分ということになる。二重システムという観点がアソシエーションの分析に必要とされることは、われわれの先入観を覆す次のような仮説を喚起する。すなわち、「アソシエーションは同等の規模のビュロクラ シーと比べて構造的に複雑である20)」。この仮説は、結果的に支持されるにせよ棄却されるにせよ、われわれの認識の進歩に大きな貢献を果たすと期待される。

 初学者が読むかもしれない教科書の執筆者は、ときとして内容の厳密さよりも幅広さとわかりやすさを優先せねばならない。レフェリーの1人から指摘を受けたとおり、「非営利組織はアドホクラシーである」という田尾・吉田[2009] の記述も教育的見地からのやむなき簡略化の一例であるかもしれない。そうであれば、専門家向けの文献を動員してこの記述を論難しようとする行為は重大なルール違反と受けとめられる恐れもある。

 しかしながら、「非営利組織はアドホクラシーか?」という疑問から得られた知見は決して些末なものではないと思われる。終わりに鑑み、 田尾・吉田の両氏に謝意を表したい。


[注]

1) 田尾・吉田[2009]、ⅳ頁の著者紹介によれば、「非営利組織はアドホクラシーである」 という旨の記述がある第4章第1節の執筆担当者は田尾である。

2) Adhocracyを直訳すると「臨時審議機構」 になる(Cameron and Quinn[2006]、訳書63頁)。また、中国語圏では「特別結構」 という対応語が用いられているようである(ウェブ検索で確認)。本稿では田尾・吉田[2009]をはじめとする多くの日本語文献に倣い、「アドホクラシー」 というカタカナ表記を採用する。

3) 本稿では田尾・吉田[2009]を引用する関係で、彼らに倣い「官僚制」ではなく「ビュロクラシー」というカタカナ表記を優先的に採用する。こういった用語法に関して、田尾 [2004b]は、「ビュロクラシーは官僚制と訳されることが多いが、官僚の組織というより も、管理のための仕掛けという意味を本来有している。官僚制という言葉は、ネガティブ なイメージで語られることが多いので、学問的に価値中立の意味合いをもたせて、以下で は、この言葉〔ビュロクラシー:筆者付記〕 を用いて、合理的に運用されている組織、あ るいはシステムを含意させる」(22頁)と記している。同様の見解は野中[1974]も参照。

4) 田尾・吉田[2009]が立論のために参照している文献はMintzberg[1983a]である。しかし、同書の読者への覚え書きにMintzbergが明記しているとおり、同書はMintzberg [1979]の実務家向けの縮約版である(齋藤 [2009])。本稿は、情報量がより豊富で“A Synthesis of the Research”という副題をともなったMintzberg[1979]のほうを参照する。

5) 正確には、Mintzberg[1979]が同書を執筆した理由は、組織がどのようにして戦略を形 成するのかに関心を持ったこと、そしてそのためにはまず組織がどのようにして自己を構 造化するのかを学ぶ必要があると考えたからである。(p.ⅺ)。中野[1982]による同書へ の書評も参照。

6) 調整メカニズムに関する類型論は、組織の構造化あるいはデザイン問題の出発点である。 榊原[2013]、113-116頁を参照。

7) これに関してMintzberg[1979]は次のような注釈をつけている。「信憑性を水増しする 危険を承知の上で、私は、この見事な対応関係が捏造されたものではないことを指摘した い。5つの構造的形態を決めた後ではじめて、5つの調整メカニズムおよび組織の5つの パーツとの対応関係に私は驚いたのである。 ただし、5つの形態に沿うかたちで、第11章 の分権化の類型論に(それがより論理的なもの となるよう)若干の修正がなされた」(p.301)。

8) ここで「形態」と訳されている英単語は “configuration”である。コンフィギュレー ションとは、組織の各部分、要素の相対的な配置のことで、ドイツ語のゲシュタルト (Gestalt)に当たる言葉である(坂井[2013]、 43頁)。

9) いうまでもなく、スタッフ部門に相当するのがテクノクラシーとサポート・スタッフである。Mintzberg[1979]、p.33を参照。

10) 非営利組織の規模とスタッフ雇用の間の定量分析については、西村[2005]、[2009]を参照。

11) Robbins[1990]はもちろんMintzberg[1979] の所論に依拠している。Robbinsは著書の第Ⅲ部に“Organizational Design”というタイトルを付け、まず第10章でMintzberg[1979] に即して組織の5つの基本パーツ、そして5つの構造的形態を解説する。第11章はもっぱらビュロクラシーの議論に、続く第12章はもっぱらアドホクラシーの議論に用いられている。アドホクラシーは、「多様なプロフェッショナル・スキルを持ったほとんど初対面の人々(relative strangers)からなる集団によって解決されるべき問題の周囲に組織された、 急速に変化し、適応的で、たいていは暫定的なシステム」と定義されている(Robbins [1990]、p.354)。

12) 田尾・吉田[2009]からの引用文の中の「機械的組織」は、Mintzberg[1979]の用語法では「機械的ビュロクラシー」に相当すると 見なされた。

13) 田尾・吉田[2009]による非営利組織のライ フサイクル・モデルは、起業、集合化、形式化、成熟、衰退の5段階からなる。一方、 Hasenfeld and Schmid[1989]のモデルは、設立、発展、成熟、確立、衰退、崩壊の6段階からなる。田尾・吉田[2009]と同様に、 Hasenfeld and Schmid[1989]は、設立期の非営利組織の構造が単純構造に近似すると想定している。彼らのユニークなところはアドホクラシーに対する見解である。彼らのモデルでは、アドホクラシーは成熟期の次の確立期に現出する組織構造である。Hasenfeld and Schmid[1989]および小島[1996]を参照。

14) 「組織とは何か」という問いに対する回答は多岐にわたる。中條[1998]、金井[1999] を参照。なお、Mintzberg[1979]は第3章で、組織のとらえ方を①公式権限のシステム、② 調節された活動のシステム、③非公式コミュニケーションのシステム、④仕事の集まり(constellation)のシステム、⑤アドホックな意思決定プロセスのシステム、の5つに整理している。

15) Mintzberg[1979]は、「Perrow[1970]は4つの構造を描写し、それらはわれわれのもの 〔5つの類型:筆者付記〕のうちの4つとおおよそ対応する」(p.300)としか言及していない。2つのモデルの間の対応関係はもっと厳密に吟味される必要がある。Pugh et al.[1969]に対するMintzbergの評価とその問題点に関しては、以降の注18を参照。

16)アストン研究の組織分類は経験的に導出されたものであるため、類型学(typology)よりも分類学(taxonomy)のラベルを貼るほうが適切である。アストン研究の詳細は、岸田 [1987]、幸田[2013]、榊原[1979]を参照。

17) 別稿におけるDoty et al.[1993]の説明によれば、理念型に近似する組織ほど有効性が高くなるのは、組織の多様な構成要素間に内部一貫性すなわち適合が生じているからである。なお、Doty et al.[1993]の経験的調査では、Mintzberg[1979]の5つの理念型に近似する組織ほどより有効的であるという仮説は支持されなかった。理論予測は外れたものの、このことは組織形態の5つの理念型というアイデアそのものを否定するわけではな い。Doty et al.[1993]は以下のように弁明する。類型学と理論は同一ではない。組織有効性が理念型への近似の関数であるという予測は理論である。一方、類型学は現象を記述するのに用いられるデバイスである。類型学としては、Mintzbergの著作は5つの(潜在的に有効な)組織形態を識別する豊潤な記述用具を提供しているのである。さらに、Doty et al.[1993]はMintzbergの理論予測が外れた原因を、彼らの調査に含まれていた組織サンプルの雑多性に帰している。彼らは、より同質的なサンプルを用いた後続研究においてMintzbergの理論が確証されることを期待している。後続研究の進捗状況については、 Short et al.[2008]を参照。

18) Mintzberg[1979]の考えでは、彼の5つの組織形態のうち、単純構造はアストン研究 (Pugh et al.[1969])における「暗黙に構造化された(implicitly structured)」という類型に、機械的ビュロクラシーは「完全(full)ビュロクラシー」という類型にほぼ等しい。しかし、 残る3つの形態(プロフェッショナル・ビュロクラシー、事業部制、アドホクラシー)とアストン研究との照合は手つかずのままである。さ らに悪いことに、 Mintzberg[1979]は、 Pugh et al.[1969]が自己の5つの形態のうちの2つを描写していると論じている (p.300)。これはミスリーディングであり、 Mintzberg[1979]の分類のほうがより徹底的であるかのような印象を与えてしまう。 Pugh et al.[1969]を一瞥すれば明らかなように、彼らは上記の「暗黙に構造化された」 と「完全ビュロクラシー」を含む計7つの組織類型を提示している。アストン研究と Mintzberg[1979]の類型学の間の対応関係もやはりもっと厳密に吟味される必要がある。

19) 田尾・吉田[2009]によれば、「組織」とは目標達成を図るための、個人の意図を超えたシステムを具備したものである(49頁)。立 ち上げの段階では、「非営利組織とはいうが、その多くは組織、つまりオーガニゼーションに相当するしくみを備えていない。厳密には、まだ集団というべきものが多い」(34頁)。彼らの組織概念は狭義で、ビュロクラシーのみを含みアソシエーションを排除している傾向がある。一方、本稿は、組織概念にはビュロクラシーとアソシエーションの両方が含まれるという広義の見方を採用する。

20)この仮説は、Anheier[2000]によって提唱された「非営利組織複雑性の法則(the law of non-profit complexity)」からヒントを得た。


[参考文献]

Anheier, H. K. [2000], “Managing NonProfit Organisations: Toward a New Approach,” Civil Society Working Paper 1, Centre for Civil Society, London School of Economics.  

Bailey, K. D. [1994], Typologies and Taxonomies: An Introduction to Classification Techniques, Thousand Oaks, CA: Sage.  

Blau, P. M. and W. R. Scott [1962], Formal Organizations: A Comparative Approach, San Francisco, CA: Chandler.(橋本真・ 野崎治男訳『組織の理論と現実(上)―フォー マル・オーガニゼーションの比較分析』、 ミネルヴァ書房、1966年)。  

Broom, L., P. Selznick and D. H. Broom [1981], Sociology: A Text with Adapted Readings (7th ed.), New York: Harper & Row.(今田高俊監訳『社会学』、ハーベスト社、1987年)。  

Cameron, K. S. and R. E. Quinn [2006], Diagnosing and Changing Organizational Culture: Based on the Competing Values Framework (Rev. ed.), San Francisco, CA: Jossey-Bass.(中島豊監訳『組織文化を変える―「競合価値観フレームワーク」技法』、 ファーストプレス、2009年)。  

Carper, W. B. and W. E. Snizek [1980], “The Nature and Types of Organizational Taxonomies: An Overview,” Academy of Management Review, 5⑴, pp.65-75.  

Child, J., R. Loveridge and M. Warner [1973], “Towards an Organizational Study of Trade Unions,” Sociology, 7⑴, pp.71-91.  中條秀治[1998]『組織の概念』、文眞堂。  

Doty, D. H., W. H. Glick and G. P. Huber [1993], “Fit, Equifinality, and Organizational Effectiveness: A Test of Two Configurational Theories,” Academy of Management Journal, 36⑹, pp.1196-1250.  

Doty, D. H. and W. H. Glick [1994], “Typologies as a Unique Form of Theory Building: Toward Improved Understanding and Modeling,” Academy of Management Review, 19⑵, pp.230-251.  

Etzioni, A. [1961], A Comparative Analysis of Complex Organizations: On Power, Involvement, and Their Correlates, New York: The Free Press of Glencoe.(綿貫譲 治監訳『組織の社会学的分析』、培風館、1966 年)。  

Hall, R. H. [1987], Organizations: Structures, Processes, and Outcomes (4th ed.), Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall.  

Hasenfeld, Y. and H. Schmid [1989], “The Life Cycle of Human Service Organizations: An Administrative Perspective,” Administration in Social Work, 13(3・4), pp.243- 269.  

Hedberg, B. L. T., P. C. Nystrom and W. H. Starbuck [1976], “Camping on Seesaws: Prescriptions for a Self-Designing Organization,” Administrative Science Quarterly, 21⑴, pp.41-65.  

平野勇夫[1990]「訳者あとがき」、ロバート・H・ウォーターマンJr.『アドホクラシー―変革への挑戦』TBSブリタニカ、 211-214頁。  

金井壽宏[1999]『経営組織』、日本経済新聞社。  

岸田民樹[1987]「イギリスにおける経営思想の展開」、矢島基臣代表『現代の経営思 想』、春秋社、145-199頁。  

Knoke, D. and D. Prensky [1984], “What Relevance Do Organization Theories Have for Voluntary Associations?” Social Science Quarterly, 65⑴, pp.3-20.  

小島廣光[1996]「非営利組織のマネジメン ト研究」、『経済学研究(北海道大学)』、第 46巻第3号、8-57頁。  

幸田浩文[2013]『米英マネジメント史の探究』、学文社。  

Meyer, A. D., A. S. Tsui and C. R. Hinings [1993], “Configurational Approaches to Organizational Analysis,” Academy of Management Journal, 36⑹, pp.1175-1195.  

Mills, P. K. and N. Margulies [1980], “Toward a Core Typology of Service Organizations,” Academy of Management Review, 5⑵, pp.255-265.  

Mintzberg, H. [1979], The Structuring of Organizations: A Synthesis of the Research, Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall.  

Mintzberg, H. [1981], “Organization Design: Fashion or Fit ? ” Harvard Business Review, 59⑴, pp.103-116.(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部編訳「組織設計: 流行を追うか、適合性を選ぶか」、『H.ミンツバー グ経営論』、ダイヤモンド社、255-304頁、2007年)。  

Mintzberg, H. [ 1983a], Structure in Fives: Designing Effective Organizations, Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall.  

Mintzberg, H. [1983b], Power in and around Organizations, Englewood Cliffs,NJ: Prentice-Hall.  

Mintzberg, H. [1989], Mintzberg on Management, New York: The Free Press.(北野利信訳『人間感覚のマネジメント』、 ダイヤモンド社、1991年)。  

中野 工[1982]「書評 The Structuring of Organizations: A Synthesis of the Research / Henry Mintzberg 著」、『織科学』、第16巻第2号、70-72頁。  

西村友幸[2005]「アソシエーションの中の官僚制―厚生労働省所管の社団法人におけ る職員数の規定因」、『非営利法人研究学会誌』、VOL.7、125-136頁。  

西村友幸[2009]「非営利組織の理事と職員 ―会員数増減の効果」、『経済学研究(北海 道大学)』、第59巻第3号、85-94頁。  

野中郁次郎[1974]『組織と市場―組織の環境適合理論』、千倉書房。  

Perrow, C. [1970], Organizational Analysis: A Sociological View, Belmont, CA: Wadsworth.  

Pugh, D. S., D. J. Hickson and C. R. Hinings [1969], “An Empirical Taxonomy of Structures of Work Organizations,” Administrative Science Quarterly, 14⑴, pp.115-126.  

Pugh, D. S., D. J. Hickson and C. R. Hinings, K. M. Macdonald, C. Turner and T. Lipton [1963], “A Conceptual Scheme for Organizational Analysis,” Administrative Science Quarterly, 8⑶, pp.289-315.  

Pugh, D. S., D. J. Hickson and C. R. Hinings and C. Turner [1968], “Dimensions of Organization Structure,” Administrative Science Quarterly, 13⑴, pp.65-105.  

Robbins, S. P. [1990], Organization Theory: Structure, Design, and Application ( 3 rd ed.), Englewood Cliffs, NJ: Prentice- Hall.  

齋藤直機[2009]「経営戦略と組織分析― H.ミンツバーグの組織布置論に即して」、『北海道情報大学紀要』、第21巻第1号、1 -12頁。  

坂井素思[2013]「信頼性と集団のリーダー シップ―社会における一般信頼と個別信 頼」、『放送大学研究年報』、第31号、37-46 頁。  

榊原清則[1979]「アストン研究の批判的検 討」『一橋大学研究年報 商学研究』、第21 号、51-84頁。  

榊原清則[2013]『経営学入門[上]』(第2 版)、日本経済新聞出版社。  

Shannahan, K. [2000], “Analyzing the Organizational Structures of Provincial and Territorial Trail Associations,” Master Thesis, The University of New Brunswick (Canada).  

Short, J. C., G T. Payne and D. J. Ketchen [2008], “Research on Organizational Configurations: Past Accomplishments and Future Challenges,” Journal of Management, 34⑹, pp.1053-1079.  

菅原浩信[2006]「アソシエーション型組織が構築・維持すべき組織間関係―放送ボラ ンティア組織とコミュニティ放送局のパー トナーシップを事例として」、『日本経営診 断学会論集』、第6巻、119-130頁。  

田尾雅夫[1997]「ボランタリー組織の経営管理」、『組織科学』、第31巻第2号、20-28 頁。  

田尾雅夫[1998]「ボランタリー組織は組織か?」、『組織科学』、第32巻第1号、66-75 頁。  

田尾雅夫[2004a]「組織化―ラインとスタッフ」、田尾雅夫・川野祐二編著『ボラン ティア・NPOの組織論―非営利の経営を考える』、学陽書房、92-104頁。  

田尾雅夫[2004b]『実践NPOマネジメント』、 ミネルヴァ書房。  

田尾雅夫・吉田忠彦[2009]『非営利組織論』、 有斐閣。  

Thompson, J. D. [1967 / 2003], Organizations in Action: Social Science Bases of Administrative Theory, New Brunswick, NJ: Transaction Publishers.(大月博司・廣 田俊郎訳『行為する組織―組織と管理の理論に ついての社会科学的基盤』、同文舘出版、2012年)。  

Toffler, A. [1970], Future Shock, New York: Random House.(徳山二郎訳『未来の 衝撃』、実業之日本社、1971年)。  

渡部直樹[1980]「中範囲理論に対する科学論的省察」、『三田商学研究』、第23巻第5 号、33-51頁。

Whetten, D. A. [1989], “What Constitutes a Theoretical Contribution ? ” Academy of Management Review, 14(4), pp.490-495.  

Woodward , J . [1965] , Industrial Organization: Theory and Practice, London: Oxford University Press.(矢島鈞次・中村壽雄訳『新しい企業組織―原点回帰の経営学』、日本能率協会、1970年)。

(論稿提出:平成26年11月28日)

(加筆修正:平成27年3月27日)



bottom of page