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≪論文≫非営利組織におけるクラウドファンディングやファンドレイジング費の会計的課題

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國學院大學教授 金子良太


キーワード:

ファンドレイジング費 クラウドファンディング ミッション FASB


要 旨:

 本稿では、非営利組織において寄付による資金調達、とりわけクラウドファンディングが 活発となる中で、ファンドレイジング費の会計的課題を検討し、わが国の非営利組織会計基 準への示唆を示す。非営利組織に特有のファンドレイジング費の会計的課題は、いまだ未解 決であるというのが本稿の問題意識である。  米国では長年にわたって、ファンドレイジング費はプログラム費用や管理費とは区分され てきた。これに対してわが国では、ファンドレイジング費を事業費や管理費とは別に区分計 上せず、多くは事業費に含められてきた。  クラウドファンディングは資金調達の一手段であって従来の寄付と共通する点が多いが、 支払手数料等の取扱いをめぐっては会計上の課題をより浮かび上がらせる。クラウドファン ディングを利用する寄付者の情報ニーズに着目し、プロジェクトごとの報告の必要性やクラ ウドファンディングのウェブサイト運営企業の情報開示の必要性を提示する。


構 成:

I  はじめに

II ファンドレイジングとクラウドファンディングの意義

III クラウドファンディングの会計とファンドレイジング費

IV クラウドファンディングの隆盛に伴う会計上の課題

Ⅴ まとめと展望


Abstract

 I will discuss accounting for crowdfunding fundraising expenses. This paper examines accounting issues associatedwith fundraising costs and provides suggestions for non-profit accounting standards in Japan as fundraising throughdonations, especially crowdfunding, becomes popular with non-profit organizations.  

 Focusing on the information needs of funders who use crowdfunding, I will present issues such as the necessity ofreporting for each project and the necessity of information disclosure by companies operating crowdfunding websites.


Ⅰ はじめに

 本稿の問題意識は、非営利組織において寄付による資金調達、とりわけクラウドファンディング(以下「CF」)が活発となる中で、ファンドレイジング費の会計的課題を検討し、これまでの議論をレビューし、わが国の非営利会計基準設定への示唆を示すことにある。寄付等を得る手段は個別訪問、街頭での呼びかけ、イベント開催時での寄付の呼びかけ、CFなど多様であるが、近年盛んとなっているCFがファンドレイジング費を巡る課題をより可視化している。また、CFによる資金提供者の情報ニーズに着目する。  

 CFとは、インターネット等を通じて、不特定多数から資金を調達する手段である。購入型 (特定の商品の対価として)・投資型(特定の事業 に対する投資として)・寄付型(特定の事業に対する寄付として)に大別される。営利企業でも非営利組織でも行われるが、非営利組織では、とりわけ社会的意義の高いプロジェクトに対して寄付をする寄付型CFが重要である。  

 本稿は、次の通り構成される。第2章では、 CFの意義を示し、それらの特徴を述べる。第3章では、CFの会計処理について、ファンドレイジング費に着目して述べる。第4章では、 CFの進展に伴う会計上の課題を明示する。第5章では、これまでの議論をまとめ、今後の展望を示す。

 

Ⅱ ファンドレイジングとクラウドファンディングの意義

1 寄付型CFの概要

 非営利組織において、寄付は非常に重要なファンドレイジングの手段であることは言うま でもない。寄付を集めるには多くの方法があるが、近年はCFが注目されている。  

 寄付型CFの代表的な例を図表1に示すと、次の通りとなる。  

 寄付型CFにおいては、非営利組織のウェブサイトで行うこともあれば、外部のCFサイト を使用することも多い。特に、中小規模組織においては自身の知名度が低くウェブサイトへの訪問が少ないこと、またCFに対するノウハウが限定的なこともあって、専門のCFサイトを利用することが多い。

 CFサイトの利用にあたっては、手数料が生 じることが一般的である。手数料はサイトによっても、またサイト運営会社の提供するサービス内容によっても異なる。単に集金やウェブ サイトへの掲載を代行するだけのものから、 CFの企画や広報にいたるコンサルティングまで多岐にわたる。なお、代表的なCFサイトにおいては、寄付額から差し引かれる手数料は寄付額の10%以上にのぼり、このほか寄付額にかかわらず一定の手数料が徴収されることもある。手数料の内訳は様々であるが、CFサイトの利用手数料やクレジットカード等の決済手数料が課されることが一般的である。このほか、一定の手数料を利用者(寄付者)側に課すサイトもある。サービスの内容が様々であり、手数料は安いほどよいというわけではないが、手数 料部分については非営利組織が使用できない資源となり、寄付者の観点からは手数料に配慮が必要である。


図表1 寄付型クラウドファンディング


2 寄付型CFのメリットとデメリット

 本稿で検討する寄付型CFについては、従来の伝統的な街頭募金や戸別訪問、電話やダイレクトメール(DM)での寄付の呼びかけと比較した場合にメリットとデメリットとがある。寄付型CFのメリットをあげると、次の点がある。  

 第一に、熱心な支持者を有する宗教組織、全国的に知名度の高い組織でなくても、事業や ミッションに対する「共感」を手掛かりにした資源調達が可能となり、組織の収益源泉を確保できる。これまでの寄付では、人的・地域的な結びつき等が不可欠で、そうでない組織は一般的には寄付を集めるのが難しかった。CFでは、 知名度の高くない組織でもプロジェクトへの共感等を手掛かりに、大規模な資金調達が可能となった事例がみられる。

 第二に、これまでも組織とかかわりを持たなかった層(地域・年代)からの寄付が期待できる。 人的・地域的なつながりを重視した寄付は、どうしても高年齢層に偏りがちになる。若年層は、インターネットの利用時間は多く、社会的な貢献に対する意識も高い傾向にあり、寄付型CFは有効な手段となりうる。  

 第三に、戸別訪問・街頭での呼びかけやDM等に依存するよりも、ファンドレイジング費を安くできる可能性がある。街頭での呼びかけ等は人件費、交通費等が多くかかるし、DMには配送コストがかかるので、寄付型CFは送料や人件費を抑え、受取寄付金に対するファンドレイジング費の比率を下げることができる可能性がある。  

 いっぽう、寄付型CFにはデメリットも挙げられる。  

 第一に、寄付型CFのほとんどは非営利組織が行う特定のプロジェクトに対する寄付となるため、組織の財政基盤を確立するような資金調達や、プロジェクトを限定しない形での資金調達は難しい。また、特定のプロジェクト以外への資金の使用が認められず、組織の自由な意思決定により資源を利用することができないことが多い。  

 第二に、寄付型CFでは人々からの共感が得やすいプロジェクトに寄付が集まる結果、非営利組織がそれらのプロジェクトの遂行で手一杯となり、ミッションを達成するために本来すべきプロジェクトが優先されない傾向が生じることがある。非営利組織の活動は多岐にわたるが、どうしても人々の関心のひきやすい分野とそうでない分野とがあり、CFを通じてプロジェクトは多くの人々の共感を得て資金を集めやすいプロジェクトになってしまう。このことは、寄付型CFが中長期的な組織ミッションの達成につながらない可能性を示している。  

 第三に、CFにかかるファンドレイジング費が高くつく可能性がある。CFのメリットとし てファンドレイジング費が安くなる可能性については前述したが、むしろ高くなる可能性もある。その理由として、CFサイトを運営する企業から課される手数料率が必ずしも低くないことがあげられる。また、CFでは多くのプロジェクトの中からサイト訪問者が寄付先を選ぶこととなり、自身のプロジェクトを目立たせることが不可欠となる。人々の興味をひく取り組みに追加的な費用がかかったり、寄付者に対して返礼品等を準備する事例もある。この結果、CFサイトを通じたファンドレイジングの総合的な費用が高くなる可能性がある。  以上の通り、寄付型CFにはメリットとデメリットとがあるが、これらを前提としたうえで、次章では会計に焦点を絞って議論を進めていく。


Ⅲ クラウドファンディングの会計とファンドレイジング費

1 寄付型CFの会計

 ここでは、非営利組織がCFにより寄付を受け入れた時点の会計処理を示す。CFによって 受け入れた寄付は、受取寄付金として処理され、各種の手数料を差し引いて非営利組織に入金されることとなる。この仕訳を示せば、次のとおりである。

(借)現 金 預 金 ×× (貸)受取寄付金 ××    

支払手数料 ××


 借方の支払手数料と貸方の受取寄付金については、収益・費用のどの区分に記載されるのであろうか。  

 最初に、貸方の受取寄付金について検討する。寄付型CFの多くは特定のプロジェクトに対する寄付となり、わが国の公益法人会計基準に基づくと、当該受取寄付金は寄付者による使途の指定のある指定正味財産の増加となろう。もっとも、寄付型CFにおける使途の指定の方法には多様性があり、使途の指定の範囲が組織の活動分野全般にわたるなど幅広く、資金の使用において組織の裁量の余地が大きいものの場合には、一般正味財産の増加とすることも考えられる。また少額の寄付もあるので、金額的重要性の観点からそれらを一般正味財産の増加として処理することも考えられる。  

 次に、借方の支払手数料の費用区分について検討する。費用の分類として、わが国の公益法人会計基準やNPO法人会計基準では、費用を事業費と管理費とに大別している。ファンドレイジングにより生じる費用の区分を考える上では、ファンドレイジング活動の目的や費用の性質について検討する必要がある。次節で、これらの費用の区分について詳細に検討する。

2 ファンドレイジング費を他の費用と区分する必要性

 ファンドレイジングにかかる費用は、ファンドレイジング費と称される。ファンドレイジング費につき詳細に規定する米国FASBのASC (Accounting Standards Codification)958-720-45-7では、ファンドレイジング費を、寄付を集めるための活動から生じる費用としている。ちなみに企業会計では、ファンドレイジング費という区分は存在せず、非営利組織会計に特有のものとなる。  

 寄付を集めるための活動の性質について検討する。寄付を集めるための活動は、それ自体が 非営利組織のミッションを達成するための事業ではない。たとえば、難民の支援活動を行う団体において、支援活動を行うための寄付の募集は、難民支援にかかるミッション達成に直接かかわるものではない。ミッションを達成するための活動費用とそのための資源の調達にかかる費用とを区分することで、組織の活動内容や成果をミッションとの関連でより適切にとらえることができるであろう。そう考えれば、ファンドレイジング費は事業活動に伴って発生する事業費とは区分することで組織の活動内容をより適切に理解することができる。  

 次に、収益の表示と対比したファンドレイジング費の表示について検討する。非営利組織の収益は、事業収益等の(企業でも行われる)交換取引から得られる部分と、非営利組織独自の取引である寄付等の収益を区分表示する。非営利組織の収益源泉を明確に表示することは重要である。寄付を獲得するためには、各種広報や様々なイベントの開催など様々な費用がかかる。事業収益と寄付等の収益とが区分表示されているのと同じように、費用についても事業にかかった事業費と寄付を獲得するために生じたファンドレイジング費とを区分することで、非営利組織の事業の性質がより明確になる。また、受取寄付金とファンドレイジング費が示されることで、受取寄付金に対するファンドレイジング費の比率も明確になる。とりわけ寄付に活動資金の多くを依存する組織にとって、寄付の獲得が活動の発展や組織の存続にとって重要である。資源を提供する寄付者にとっては、寄付の使途だけではなくファンドレイジング費にも高い関心を有する。また、組織は寄付を集めるために様々な手段をとるが、これに伴ってファン ドレイジング費用も多額となることがある。金 額的重要性の観点からも、区分開示の必要性が認められよう。  

 また、寄付者がファンドレイジング費に関心を有するのには、次のような理由もある。ファンドレイジング費が増加すると、寄付金額を一定とすれば、その分事業に投下される費用が減少する。寄付者は、提供した資源のより多くが事業に費やされることを望むだろう。一方非営利組織にとっては、ファンドレイジング費を上回る資源の流入がもたらされる限り、多くのファンドレイジング費がかかっても寄付を集め る動機がある。多くの資源の獲得を目指す非営利組織と、寄付を事業に使用することを望む寄付者の利害は必ずしも一致しない。このような 状況の下で寄付者は、組織が寄付者の期待通りに行動するよう、ファンドレイジング費を監視する必要がある。この目的からは、ファンドレ イジング費を他の費用と区分することが必要である。  

 以上より、寄付者に対しての情報提供を重視する観点から、ファンドレイジング活動の特質や重要性を考慮して寄付を集めるためのファンドレイジング費を他の費用と区分する必要性を示した。

 もっとも、前述した通りわが国においては ファンドレイジング費を事業費・管理費いずれかに区分することとなっている。寄付型CFの手数料は、特定のプロジェクトと関連付ける寄付によって生じるものであるため、事業費の内訳区分として表示されることが多い。例えば国境なき医師団日本の活動計算書においても、ファンドレイジングにかかる費用は「募金活動費」として他とは区分表示されているものの、事業費の区分に含められている。また、他の多くの組織ではファンドレイジング費を単独で区分表示していない。次節では、ファンドレイジング費の区分計上を行う際の障害となるジョイ ント・コストについて検討する。

3 ジョイント・コストのファンドレイジング費への配分

 ファンドレイジング費用は、形態別にみれば人件費・家賃・広告宣伝費・支払手数料など多様な形態を有している。また、あるイベントの一環として合わせて寄付の募集が行われることも多く、ファンドレイジングの活動と本来の事業活動との線引きが明確でないことも多い。事務所では様々な目的の活動で、家賃・光熱費・ 通信費等が発生する。また1人の職員が事業、ファンドレイジング、各種の管理業務を担当することもある。このため、目的別の費用区分を行うに当たっては、複数の目的にかかわって発生する事業費や人件費、家賃等のジョイント・ コストを事業費、管理費、ファンドレイジング 費等に区分する必要が生じる。  

 このようなジョイント・コストの配分について、FASBの公表するASC 958-720-45-2Aでは、プログラムや他の支援活動の実施や監督にかかる費用は、それぞれの費用区分に適切に配分することを求めている。たとえば、ITにかかる費用は一般管理(経理や人事等)、ファンドレイジングやプログラム活動にも便益をもたらしている。それゆえ、費用は直接便益を受ける機能へ配分される。区分を適切に行うためには、ジョ イント・コストの適切な配分基準を確立することが不可欠となる。

 米国公認会計士協会(AICPA)は、1998年11月にStatement of Position(SOP)98-2「ファンドレイジングを行う非営利組織、政府系組織の活動費用の会計」を公表した。特にジョイント・ コストの配分の基準を明確にすることがSOP98-2の趣旨である。非営利組織の活動のうち特定の要件を満たしたものをプログラムまたは一般管理費用とし、それ以外をファンドレイジング費とする。本報告書の適用対象は民間非営利組織だけではなく、(州・地方政府の会計基準を規定する)GASBの公表する会計基準を適用する政府系組織も含まれ、組織形態を問わずファンドレイジング費の配分について規定する ものとなっている。

 SOP98-2公表前の実務では、ジョイント・コストは、事業費に多くを配分する実務が一般的であった。この結果、ファンドレイジング費に実態より少ない費用しか配分されない懸念があった。SOP98-2では、事業及び一般管理に配分できる費用を列挙したうえで、それ以外はファンドレイジング費とすることで、より多くの金額が適切にファンドレイジング費に配分されることが意図されている。

 SOP98-2では大別して目的、対象、内容の3つの基準を示した(pars.8-11)。プログラム活動の目的はミッションの達成に直接つながるもので、寄付者(または潜在的な寄付者)ではなくサービスの受益者を対象とし、対象者や受益の内容が明確であることが必要である。ジョイント・ コストは、これらに合致する場合には事業費とすることができるが、そうでない場合、管理費またはファンドレイジング費となる。そのうえで、ジョイント・コストについては、コストが発生したイベントの類型、コストの配分方法を 示す表や記述、1期間の総額や各項目への配分割合、コストの配分方法に関する補足情報等の開示が求められる(par.18)。このような開示を通じたファンドレイジング費の開示の適正化 が意図されていたが、実際の意図通りに開示されたのか、次節で述べる。

4 ファンドレイジング費を適切に計上・開示することの難しさ

 非営利組織には、ファンドレイジング費を低く見せようとする動機がある。ファンドレイジング費が高いことは、寄付者の寄付の動機を弱めたり、理事者に対する批判を生む可能性があるからである。このことを実証した米国の先行研究もある。たとえば、Jones and Roberts [2006]、Krishnan et al.[2006]、Keating et al.[2008]は、非営利組織がジョイント・コス トをファンドレイジング費ではなく事業費に配分する傾向があることを実証した。また、 Keating et al.[2008]では、調査サンプルの12%は事業費に過大にジョイント・コストを配分していると結論付けた。Tinkelman[2006] では、実態は異なる場合があるにもかかわらずファンドレイジング費は毎年安定的に推移していることから、費用を一定に保つ組織の行動を示す証拠を示している。  

 このように、ファンドレイジング費は区分開示が望ましいものの、ジョイント・コストの配分の難しさや非営利組織におけるファンドレイジング費を少なく開示したい動機からその配分に恣意性が介入し、現実には区分開示を通じた適切な情報提供が難しいという問題点がある。このことは、ファンドレイジング費の区分開示を行う障害となっている。これまでの議論を前提としたうえで、次節では寄付型CFにおけるファンドレイジング費の特徴について考察する。


Ⅳ クラウドファンディングの隆盛に伴う会計上の課題

1 寄付型CFにおけるファンドレイジング費の特徴

 寄付型CFにおいて発生するファンドレイジング費の主なものとしては、前述した通りCFサイト運営業者への支払手数料があげられる。 この手数料は、他の目的をあわせ持つジョイント・コストではなく、CFサイトにおける寄付に対して直接生じるファンドレイジング費である。寄付型CFの手数料については、ファンドレイジング費であることが明確であり、費用配分をめぐる恣意性の介入する余地も少ない。このことは、寄付型CFにおいてはファンドレイ ジング費の計上が相対的に容易であることを意味する。 CFが盛んになることは、ファンドレイジング費の区分開示の必要性を再認識させる。寄付型CFの隆盛をきっかけに、CFを包含したファ ンドレイジング活動全体にかかる会計基準等の整備が求められる。

2 寄付型CFの支援者の情報ニーズ

 非営利組織会計において、寄付等を通じた資源提供者は財務報告の重要な利用者として位置づけられる。寄付型CFを通じた資源提供者は、他の寄付者と情報ニーズが異なる点はないのだろうか。  

 寄付型CFは、特定の事業に対して、目標額を示して資金を募集することが一般的である。このような事業に共感して寄付する支援者は、自らが寄付した特定の事業に対する興味関心をより多く有する。しかし、組織や事業に対する情報入手の手段は、地域的、人的つながりがない分、限定的となる。多くの寄付型CFの支援者は小口の支援者であるので、組織に対して個別に資金の使途報告を求められる立場にない。現在の非営利組織会計では、一般目的財務報告では原則として組織全体の情報開示が求められ、寄付の使途に関する報告は限定的である。寄付型CFの寄付者に対して、CFによる寄付の使途を示す実績報告は一部で行われているものの、その様式や内容も統一されているものではなく、活動実績報告は活動内容の報告がメインで金額の開示は限定的である。現行の一般目的財務報告において開示される情報が、寄付型CFの寄付者の情報ニーズと合致するか、検証していく必要がある。

3 寄付型CFサイトにおける情報開示の必要性

 寄付型CFにおいては、非営利組織ではなく寄付を仲介する役割を果たすウェブサイトの運営業者の情報開示も重要である。寄付金から手数料が差し引かれて非営利組織に送金されることを考えれば、寄付者が直接ウェブサイト運営業者に手数料を支払うわけではないにしても、寄付者であるサイト利用者に対して手数料を明確に開示していくことが求められよう。手数料が明示されているウェブサイトも存在するものの、すべてで統一的に開示されているわけではない。手数料等の開示を通じて、寄付者が手数料を考慮したウェブサイトの選択を行うことで、業者間の競争、ひいては手数料の低下が促されることは、非営利組織が受領する資源の増加にもつながる。

 また、CFを行う非営利組織の会計情報、これまで当該組織が行ったCFの実績報告等がCF を行う際に重要な情報となる。一部の組織においてはこれらの情報をCFサイト上で公開しているものの、その開示内容は様々であり、必ずしもCFを行う際に開示が求められているわけではない。これらの情報開示により、非営利組織が行う事業だけではなく、組織の財政状態や運営状況、これまでのCFの実績を考慮した寄付先の選択が可能になる。

 寄付型CFは時間軸が短く、また少額の寄付においては組織の財務情報に関するニーズは必ずしも高くない。一方で、非営利組織が今後継続的に支援を受けていくためには、非営利組織と支援者の間の関係構築は不可欠で、適切な情報開示が望まれる。CFにおける非営利組織間の競争が、「共感」を求めることはもちろん会計報告や成果報告が重視される形で進展すれば、より効率的な資金の流れが促進されるので はないか。


Ⅴ まとめと展望

 本稿では、最初に寄付型CFの特徴、メリットとデメリットについて説明した。続いて、非営利組織における寄付型CFの受入時の会計処理と、ファンドレイジング費の意義と区分について述べた。次に、ファンドレイジング費をめぐる問題点や先行研究を示し、ファンドレイジング費の区分の理論と実態の乖離を示した。そのうえで、寄付型CFの支払手数料は直接費で、事業費や管理費とは区分して示すことが容易でありファンドレイジング費として区計上すべきであることを主張した。最後に、寄付型CFの利用者のニーズに着目し、現行会計基準の求める組織全体の財務報告を超えた、CFのウェブサイトを運営する企業における手数料等の開示、またCFにおける非営利組織自身の情報開示の必要性を示した。  

 わが国では寄付を受け入れている非営利組織は限定的で、また特定の寄付者へ依存することも多く、寄付を募集することでかかるファンドレイジング費自体になじみが薄い。もっとも、今後、CFを行う団体の増加も予想される。寄付文化の醸成という意味でも、非営利組織における各種の情報開示はもちろん、それを支える 基盤となるようなCFサイトにおける各種の情報開示やファンドレイジング費の明確化が必要である。CFに関する手数料の開示、ファンドレイジング費の明確化等がわが国の寄付文化の醸成、ひいては非営利組織の発展につながることを願い、本稿を締めくくりたい。


(付記)本稿は、非営利法人研究学会第26回全国大会統一論題報告に加筆修正したもる。科学研究費補助金基盤研究(C)課題番号 19K02021による研究成果の一部である。


[参考文献]

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金子良太[2017]「ファンドレイジングと会計 上の区分開示をめぐる動向:米国の事例を中 心に」『公益・一般法人』第938号、54-67頁。

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Keating E.K., Parsons L.M., and .Roberts A.A. [2008], Misreporting fundraising: How do nonprofit organizations account for telemarketing campaigns? The Accounting Review, 83⑵, pp.417-446.

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(論稿提出:令和4年12月20日)








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