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≪論文≫成果の可視化と非営利活動のミッション―PFS・SIB・休眠預金等活用・社会的投資などの視点から―

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関西大学教授  馬場英朗


キーワード:

成果連動型民間委託契約 インパクト評価 EBPM イノベーション 

インパクト・ウォッシング 利害関係者価値


要 旨:

 近年、成果連動型民間委託契約や休眠預金等活用など、社会的インパクト評価等による成 果の可視化を前提とする財源が増えている。成果を可視化することは資金提供者へのアカウ ンタビリティとして重要であるが、安易な成果が強調されるとミッションが歪められ、非営 利が果たすべき社会変革への意識が損なわれるという批判もある。特に、委託や助成では成 果を達成するプロセスを仮定して成果指標を設定することが求められており、目先の成果に 囚われてしまう危険性もあるが、株主利益から利害関係者利益へというSDGsの流れのなか で社会的投資が広がりつつあり、非営利活動においても資金提供者利益から利害関係者利益 へと意思決定の基盤をゲーム・チェンジさせる契機とも考えられる。PFS等による成果の可 視化を適切に機能させるために、多様な意見やノウハウを取り入れながら合理性のある成果 指標などを設定するための合意形成の仕組みが期待される。


構 成:

I  はじめに

II 成果連動型民間委託契約における成果の可視化

III 休眠預金等活用における成果の可視化

IV 成果の可視化がミッションに与える影響

Ⅴ 社会的投資市場の推進とミッション

Ⅵ 今後の展望と課題


Abstract

 Financial resources for nonprofits based on performance visualization by social impact measurement have increased. These include Pay for Success contracts and utilization of funds related to dormant deposits. Performance visualization is important for accountability to funders, but there has been criticism that emphasizing easy results distorts the mission of the nonprofit and undermines awareness of social change. In particular, performance-based commissions and subsidies are often required to set performance indicators based on the assumption of processes to reach the intended results; therefore, the risk of obsession with short-term results might exist. However, in the trend of SDGs, social investment is spreading, and this can be considered an opportunity for a change in the orientation of decision-making for nonprofit activities from the funder’s interest to the stakeholder’s interest. In order to rationalize performance visualization, a consensus-building scheme should be established to synthesize diverse opinions and know-how


 

Ⅰ はじめに

 非営利組織の財源は従来から、人々からの支援としての寄付や、自律した財源としての事業収益が注目されてきたが、財務情報のみでは活動の成果が伝わりにくく、財源を拡大することが容易ではないというジレンマがあった。それに対して、近年では成果を重視する助成や委託、あるいはストーリーによって共感を得るクラウドファンディングなど、非営利活動が生み出した成果を可視化することによって、支払いを受ける根拠とみなす成果指向にもとづいた財源が拡大している。  

 ただし、非営利活動が生み出す成果を過度に単純化することは、非営利のビジネス化を招くという批判もある。EBPM(証拠にもとづく政策立案)などの世界的な広がりをみると、成果の可視化に取り組むことは不可避とも考えられるが、その一方では多様性や地域性を尊重すべきという揺り戻しも生じている。また、現場団体のなかにも、成果の可視化に対して積極的に取り組む団体と、成果は簡単に説明できるものではないと考える慎重な団体とに二極化している状況も見受けられる。  

 成果の可視化に取り組むべきかどうかは、資金提供者などの期待も考慮しながら、個々の団体が判断することではあるが、成果の可視化を性急に求めるような圧力が常態化すると、非営利活動のミッションが歪められるという警戒感も根強く存在する。その一方で、わが国の非営利セクターでは成果の可視化とミッションとの関係性について、十分に議論が深められていないままに様々な実践が導入されている。  

 そこで本研究では、成果連動型民間委託契約やその一類型であるソーシャル・インパクト・ ボンド、あるいは休眠預金等活用に導入されている社会的インパクト評価などを概観することにより、成果指向型のプログラムに積極的に取り組む団体と、懐疑的な団体による主張を整理するとともに、成果の可視化が非営利活動のミッションにどのような影響を与えているかを考察する。さらには、政府が推し進めようとしている社会的投資市場の育成などの動向も踏まえて、投融資における成果とミッションのあり方についても検討を加える。



Ⅱ 成果連動型民間委託契約における 成果の可視化

 成果連動型民間委託契約(Pay for Success: PFS)とは、「解決を目指す行政課題、事業目標に対応した成果指標をアウトカムとして設定し、地方公共団体等が当該行政課題の解決のためにその事業を民間事業者に委託等した際に支払う額等が、当該成果指標値の改善状況に連動する事業方式」(内閣府[2021]2頁)である。  

 もともとイギリスではPbR(Payment by Results)という仕組みがあり、官民あるいは営利・ 非営利を問わず、より良いサービスを提供できる主体が公共サービスを担うべきという考え方のもと(HM Government[2011]p.9)、民間事業者が生み出した財政削減額の範囲内で、当該事業に対して報酬を支払うことができるという公共調達スキームが導入されていた。そして、 PbRの一類型として、民間投資家から調達した資金を用いて公共サービスを実施し、一定水準の成果が達成されると行政から元利金が支払われるというソーシャル・インパクト・ボンド (SIB)が、2010年にイギリスで初めて導入されて世界各国へと広がった1)。その後、アメリカではSIBを含めて、成果に応じて報酬が支払われる公共調達のことをPFSと称するようになり、日本でも2021年に内閣府がPFSの共通的ガイドラインを公表している。

 PFSと従来型の委託事業を比較すると、図表1に示したような相違点がある。従来型の委託事業では、事前に定められた仕様に従って事業を実施することが求められており、そのために必要なコスト等が見積もられて、成果にかかわらず定額の支払いが行われる。それに対して、 PFSでは事業目標とそれに対応した成果指標が設けられているが、成果を達成するためにどのようなアプローチを選択するかは民間事業者に委ねられており、そのために必要となるコスト等を事前に見積もることが難しい。そこで、コスト等ではなく成果にもとづいて支払いを行うことにより、民間事業者の創意工夫やイノベーショ ンを誘発し、社会課題を解決するための新しいアプローチを生み出すことが企図されている。  

 海外ではPFSは、短期受刑者の再犯防止やホームレス支援、問題を抱える若者への教育あ るいは就労支援、児童保護や養子縁組、医療福祉や健康増進など、幅広い分野に活用されている。それに対して、日本ではパイロット事業の段階であり、内閣府による2020年度から3年間のアクションプランでは医療・健康、介護、再犯防止が重点分野とされてきたことから、図表2に示すように医薬・介護に係る事業にPFSが集中している2)。また、短期あるいは単年度の事業も多く、予算規模も小さいことから、事業目標の代理となる合理的な成果指標を設定し、検証に必要なデータを十分に集めることが難しいという課題もある。  

 したがって、PFSに関するこれらの課題を考慮すると、本来的に目標とすべき成果指標が適切に設定されず、定量的あるいは定性的な評価を行うために形式的な指標が設定されるリスクは常に存在する。国際的にみても、公共サービスの成果を測定するインパクト評価の手法はいまだ定まっていないため、成果指向に対する関心が高まり、新しく参入する事業者が増えるにつれて、実態のともなわない成果が強調される インパクト・ウォッシングの危険性が高まるという指摘がなされている(OECD[2019]p.236)3)。  

 さらには、首長あるいは行政職員のなかにおいても、PFSが低コストでより高い成果をあげる成果主義として認識されている場合がある4)。 しかしながら、PFSを単なる成果報酬と混同するならば、失敗を恐れるあまり成果が達成されたと見せかける形だけの成果指標が設定されるなど、従来から指摘されてきたいわゆる「行政 の無謬性」を脱却できない恐れが生じる。成果指向に対して慎重な姿勢をとっている団体は、このように形骸化した評価が横行することにより、非営利活動のミッションがないがしろにされるリスクを危惧しているものと考えられる。


図表1 成果連動型民間委託契約(PFS)と従来型委託


図表2 日本における成果連動型民間委託契約(PFS)事業






Ⅲ 休眠預金等活用における成果の可視化

 2018年に「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」(休眠預金等活用法)が施行され、10年以上取引がない休眠預金を原資として、2019年度から社会課題の解決や民間公益活動に対する助成が行わ れている。図表3に示すように、休眠預金等は預金保険機構に移管された後、指定活用団体が各地の資金分配団体に助成を行い、さらに資金分配団体から民間公益活動を実施する実行団体へと助成が行われる5)

 休眠預金等活用は、国民の預金等を原資としていることから、そのプロセスの透明性や適正性を確保し、社会的な成果を明らかにして国民の信頼性を担保するために、社会的インパクト評価を実施することが定められている6)。そして、成果をしっかりと説明することにより、従来型の助成のように人件費や設備関係といった事業資金について、事前に使途を決めて拘束するのではなく、現場団体がなるべく柔軟に活用できるようにすることが企図されてる。  

 社会的インパクト評価を実施する際には、事前に達成すべき成果を明示したうえで、イン プットからアウトプット、さらにはアウトカムに至る情報を体系的に収集し、ロジック・モデル等にもとづいて相互に接続することが求められている(内閣府[2018]27頁)。図表4は内閣府のパイロット調査によって、若年無業者の就労支援事業に係るロジック・モデルと社会的インパクトが端的に図式化されたものであるが、 就労に課題を抱える若者に対して相談やインターンシップ、中間的就労などのプログラムを 実施することにより(インプット⇒アウトプット)、外出機会が増えて引きこもりが解消し、 自己肯定感が向上し(初期的アウトカム)、就職活動をスタートして就労が決定し(中間的アウトカム)、企業や地域社会の担い手になる(長期的アウトカム)というロジックにもとづいて、 成果指標を設定して変化の流れとその社会的価値を測定している。  

 社会的インパクト評価は、「単に就労を何人達成したか」という最終成果のみを重視する成果主義ではなく、事業目標に応じた成果指標を設定し、長期的なアウトカムだけではなく、初期的あるいは中間的なアウトカムも丁寧に測定することが意図されている。したがって、社会的インパクト評価は必ずしも非営利活動のミッションを損なうものではなく、むしろミッションから成果への流れを一般にもわかりやすく説明することをねらいとしている。  ただし、休眠預金等活用における社会的インパクト評価はパイロット事業として実施されている段階であり、予算規模が小さい、実施期間が短い、必要なデータ(エビデンス)が得られないなどの技術的課題も多く残されている。そのため、成果を測定しやすい分野あるいは対象者に事業が偏るのではないか、アウトカムではなくアウトプットの測定にとどまっているのではないか、といった疑念を非営利セクターや一般社会から向けられることもある状況となっており、評価の妥当性に対する多方面からの検証が待たれるところである7)


図表3 休眠預金等活用の流れ


図表4 ロジック・モデルと社会的インパクト



Ⅳ 成果の可視化がミッションに与え る影響

 いわゆる成果主義は最終成果に着目し、それに応じて成果報酬が支払われるのに対して、 PFSや休眠預金等活用では事業目標から最終成果に至るまでのロジックを想定し、途中段階での成果指標を設定することにより、最終成果の前段階にある初期的あるいは中間的な成果に対しても支払いを行ったり、事業が生み出した成果と認めたりすることを可能にしている。したがって、その際に実施される社会的インパクト評価等が適切に機能していれば、成果指向によるこれらのスキームがミッションに悪影響を与えることはなく、むしろ多様な成果を社会に対して丁寧にアピールすることにつながると考えられる。

 しかしながら、実際には「適正な成果指標やその評価方法、支払条件の設定、契約手続についての情報等が少ない」(内閣府[2020]3頁) ことから、成果を変化として測定し、社会に生み出された中長期的な影響を見える化するという、本来的な意味での社会的インパクト評価が実施できているプログラムはまだ限られている。そのため、不十分な評価方法を採用することによってインパクト・ウォッシングが引き起こされたり、データや能力の不足によって評価の形骸化が生じたりする恐れがある。  

 もしこのように不適切な評価が広がれば、安直で見栄えのよい成果が強調されて、非営利活動のミッションが歪められる危険性がある。そのため、諸外国では評価の専門スキルを有するインパクト・オフィサー等を雇用あるいは契約し、評価対象の事業とは独立した立場から成果を検証させたり、外部評価機関を導入したりするといった工夫もなされている。

 しかしながら、将来的に極端な成果指向が進むと、小規模な活動や地域における地道な活動、当事者性が強い活動が排除されたり、「より困難な状況下にある、成果を『見せにくい』当事者が放置される」(現場視点で休眠預金を考える会 [2018]3頁)といった状況が起こったりする懸念も考えられる8)。この点について、休眠預金等活用は助成であることから、子どもや若者への支援、就労や社会的孤立の解消、地域活性化など、比較的に幅広い分野が採択されているのに対して、公共調達であるPFSでは成果に応じた支払いを検証するために、より厳密なインパクト評価が求められることから、現状では医療・介護に集中しており、適用分野や対象者を拡大することが今後の課題となっている。  

 イギリスでは、ニュー・パブリック・マネジ メント(NPM)のもとで公共サービス市場の民間開放が進んだ結果、全国的・国際的な大企業あるいは大規模NPOが事業を占有し、地域の社会的企業やチャリティ団体を排除しているという批判が起こった。そのため、2013年に公共 サービス(社会的価値)法が施行され、さらに 2018年からはこの法令のもとで政府の公共調達に社会的価値評価を導入するように求めることにより、経済性だけではない多様な価値を公共調達に反映させ、非営利活動のミッションについても尊重するように配慮がなされている9)



Ⅴ 社会的投資市場の推進とミッション

 政府は「骨太の方針2022」(内閣府[2022]) において、「新しい資本主義が目指す民間の力を活用した社会課題解決に向けた取組や多様性に富んだ包摂社会の実現、一極集中から多極化した社会をつくり地域を活性化する改革の方向性を示す」(同1頁)として、「従来の『リスク』、『リターン』に加えて『インパクト』を測定し、『課題解決』を資本主義におけるもう一つの評価尺度としていく必要がある」(同12頁)と述べている。そして、ソーシャル・セクターの発展を支援するために、社会的インパクト投資資金を呼び込むことを提言しており、その方策としてSIBや休眠預金等活用が位置づけられている。  

 日本ではPFSのうちでも、外部の民間資金を導入するSIBについてはあまり導入が進んでおらず、また休眠預金等の活用は助成のみが行われており、欧米諸国と比べて社会的投資市場がまだ形成できていない状況にある。そのため、政府は「休眠預金等活用法施行5年後の見直しに際し、これまでの取組について評価を行い、出資や貸付けの在り方、手法等の検討を進め、 本年度中に結論を得る」(同12頁)という方針を示し、休眠預金等を社会的投資市場の育成に向けた呼び水とすることを期待している。  

 それに対して、海外ではインパクト投資を含めた社会的投資市場が拡大しているが、必ずしも上述したような社会的インパクト評価を前提としているわけではない。イギリスでは社会的投資市場を推進するために休眠預金等が投融資に活用されているが、資金が有効に活用されたことを丁寧に説明するように求められる助成とは異なり、資金の返還を受けられる投融資では (社会的なものを含む)リターンが成果指標となる。ただし、このような社会的リターンの追求が広まることに対して、「社会課題」に対する取り組みは進展するとしても、非営利組織が本来もっていた「社会変革」への意識が薄れるのではないかという懸念が実践家などからも表明されている10)。しかしながら、欧州を中心とした社会的投資の広がりはSDGsの文脈のなかで、株主利益あるいは資金提供者利益から利害関係者利益へと意思決定の前提を転換させるゲーム・チェンジとしての側面を有しており、正しい理解が広がれば非営利活動のミッションを社会に浸透させる契機となる可能性もあると思料する11)


Ⅵ 今後の展望と課題

 過去に筆者がPFSや休眠預金等活用、あるいは社会的インパクト投資に取り組む国内外の団体にヒアリングしたところでは、これらの事業によって非営利活動のミッションが損なわれたという話はほとんど聞かれず、むしろ成果指向の考え方が組織内外におけるミッションの浸透に寄与している、という意見が多く聞かれた。  

 したがって、成果の可視化はミッションを必ずしも棄損するものではないが、成果指向に肯定的な団体と否定的な団体との間で、ミッションの捉え方やレベル感に違いがあるようにも感じられる。すなわち、目の前にある社会課題の解決にひとつひとつ取り組むことがミッションの実現につながるという考え方と、より大きな視点で社会変革を意識しながら事業に取り組まないとミッションを見失ってしまうという考え方である。特に、事業目標(ターゲット)の上位に位置する政策目的(ゴール)を忘れないようにしなければ、目先の成果に囚われて成果指標を達成すればよいという意識に陥りがちになるため、常に上位にあるミッションへと立ち返りながら事業を遂行することが重要になると考えられる。  

 また、わが国では制度面やコスト面から実現が難しいところであるが、馬場[2020]において指摘したように、イギリスでは競争的対話 (competitive dialogue)などの制度を用いて、行政および複数の事業者、受益者、地域住民など、幅広い利害関係者が参加して、PFS事業のスキームや評価方法を事前に議論し、入札仕様に 反映するという仕組みがとられているケースがある。日本では事業形成に先立ち、想定される事業者などに内々でヒアリング等が行われることも多いが、多様な意見やノウハウを取り入れながら合理性のある成果指標を設定するためには、参加機会が公平に与えられた透明性のある合意形成の仕組みも必要になると考えられる12)


(付記)本稿は非営利法人研究学会第26回全国大会の統一論題報告に加筆修正したものである。本稿はJSPS科研費22K01804による研究成果の一部である。


[注]

1)イギリスやアメリカにおけるSIBの導入経緯や仕組みについては、塚本・金子[2016]に詳しく説明されている。

2)このアクションプランでは、「重点3分野でのPFS事業を実施した地方公共団体等の数」 がPFS普及促進のメルクマールとされており (内閣府[2020]7頁)、図表2に示した37件のPFS事業うち29件(78.4%)が医療・健康、介護、再犯防止の分野によって占められている。

3)インパクト・ウォッシングとは、成果を過大に見せたり、本来目的とするインパクトがないのに成果が出たと見せかけたりすることであり、例えば、成果の出やすい対象者を抽出 すること(cream-skimming)、都合のよい成果を強調すること(cherry-picking)、成果が出たと誤認させる報告を行うこと(gaming of results)などが懸念されている(OECD[2019] p.88)。

4)PSFは本来、イノベーションや創意工夫を誘発することにより、社会課題の新しい解決方法を探ることがねらいとなるが、日本経済新聞[ウェブサイト]にも「事業の成果に応じ て行政側が報酬を払う」ことにより、「地方自治体の限られた財源の中で、行政サービス の質を維持・向上させる手法として近年注目されている」と紹介されるなど、効率化やコ スト削減を目指す従来型委託の延長線上で捉えられる傾向が根強くある。ただし、内閣府 [2019]2頁によれば、実際にPFSに取り組む地方自治体ではPFS導入のねらいを「行政 コストの削減が見込まれる」(50.0%)や「より高い成果の創出が期待される」(55.9%)だけでなく、「社会的課題を解決する新たな手法を把握・実証できる」(55.9%)と回答しており、現場レベルではPFSの趣旨がある程度は浸透している。

5)休眠預金等として移管された後も財産権が消滅するわけではなく、預貯金者は取引を行っていた金融機関で残高を引き出すことが可能である。休眠預金等活用およびその社会的イ ンパクト評価の仕組みについては、馬場ほか [2022]を参照されたい。

6)内閣府[2016]2頁によれば、社会的インパ クトとは「短期、長期の変化を含め、当該事業や活動の結果として生じた社会的、環境的なアウトカム」であり、それらのアウトカムを「変化」として定量的・定性的に測定することが社会的インパクト評価になる。

7)休眠預金等活用における社会的インパクト評価は自己評価を基礎とするが、実行団体が 行った評価を資金分配団体が、資金分配団体が行った評価を指定活用団体が、それぞれ点 検・検証する役割を担っている。また、諸外国ではGovernment Outcomes Lab(オックス フォード大学) やGovernment Performance Lab(ハーバード大学)など、大学等の研究機関が評価の事例収集や検証に大きく貢献している。

8)アメリカではEBPMのもとで「データ万能主義に陥り、数字がないと政策が作れないというジレンマが生じている」(NIKKEI STYLE [ウェブサイト])という指摘もあり、厳密な成果指標を求めすぎると、データを取りやすい事業や対象者にPFSが集中するということ が起こりうる。

9)原田[2019]55-56頁によれば、バーミンガム市における社会的価値評価の例として、地元雇用、地元からの購入、コミュニティのパートナー、よき雇用主、環境と持続可能性、倫理的調達、社会イノベーションの促進という7項目が設けられており、価格40%・品質 45%・社会的価値15%といったウェイト付けで入札が行われている。

10)例えば、大久保[2018]7頁では、「今、事業型NPOは事業の開発や収益の拡大などが注目され、『見える化』する数字での成果を出してはいるものの、ではその課題を改善す るための市民による社会変革への活動をしているのかといえば、その視点がない団体が結 構多いのではないか、と日頃の団体支援を通じて感じています」と指摘されている。

11)利害関係者利益を財務諸表に取り込む試みとして、ハーバードビジネススクールが提唱するインパクト加重会計が関心を集めつつある。インパクト加重会計では、製品(数量・ 期間・アクセス・質・選択性・環境・リサイクル)、 雇用(賃金・キャリア・機会・健康・多様性・ロケーション)、環境(水・排出物)に関する正と負のインパクトが一定のフレームワークにもとづいて金銭換算されている(Impact Economy Foundation[2022])。

12)現状における取り組みとしては、内閣府が官民連携プラットフォームのワーキング・グループを設置し、特定テーマや特定地域におけるPFS活用に向けた意見交換や勉強会を開 催している。例えば、富山市などでは行政と民間事業者がオープンに参加できる場を設け て、PFSに適した事業内容や評価方法について意見を交わしている。



[参考文献]

馬場英朗[2020]「コレクティブ・インパクトを推進する公共調達手法としての競争的対 話」、『公共経営とアカウンタビリティ』、第 1巻第1号、12-23頁。

馬場英朗・青木孝弘・今野純太郎[2022]「休眠預金等の投融資への活用に関する考察―社会的投資ホールセール銀行の役割と社会的インパクト評価」、『関西大学商学論集』、第67 巻第2号、17-30頁。

現場視点で休眠預金を考える会[2018]「休眠預金等に係る資金の活用に関する意見」。

原田晃樹[2019]「公共調達・契約における社会的価値評価―社会的インパクト評価の実際とサード・セクターの持続可能性の視点から」、『自治総研』、通巻493号、35-71頁。

HM Government[2011]“Open Public Services White Paper”.

Impact Economy Foundation[2022]“Impact-Weighted Accounts Framework (Public consultation version)”.

内閣府[2016]「社会的インパクト評価の推進に向けて―社会的課題解決に向けた社会的インパクト評価の基本的概念と今後の対応策について」、社会的インパクト評価検討ワーキ ング・グループ。

内閣府[2017]「社会的インパクト評価の実践による人材育成・組織運営力強化調査 最終 報告書〈別冊2〉認定特定非営利活動法人Switch インパクトレポート」、認定NPO法人 Switch。

内閣府[2018]「休眠預金等交付金に係る資金の活用に関する基本方針」、内閣総理大臣決定、平成30年3月30日。

内閣府[2019]「成果連動型民間委託契約に係るアンケート調査の結果について」、政策統括官(経済社会システム担当)内閣官房 日本経 済再生総合事務局、平成31年4月25日。

内閣府[2020]「成果連動型民間委託契約方式の推進に関するアクションプラン」成果連動型民間委託契約方式の推進に関する関係府省庁連絡会議決定、令和2年3月27日。

内閣府[2021]「成果連動型民間委託契約方式 (PFS:Pay For Success)共通的ガイドライン」、 成果連動型事業推進室。

内閣府[2022]「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ―課題解決を成長 のエンジンに変え、持続可能な経済を実現」、 閣議決定、令和4年6月7日。

内閣府[ウェブサイト]「成果連動型民間委託契約方式(PFS:Pay For Success)ポータルサイト」、https://www8.cao.go.jp/pfs/pfstoha.html(2022/10/10)。

日本経済新聞[ウェブサイト]「松江市、『成果連動型の民間委託』の導入研究へ覚書(2022年 7月22日)」、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC2173E0R20C22A7000000 (2022/10/14)。

NIKKEI STYLE[ウェブサイト]「鎌倉市37歳教育長UCLAで知ったデータ重視の落とし穴(2022年 1月31日)」、https://style.nikkei.com/article/DGXZQOLM18AKA0Y2A110C2000000 (2022/10/14)。

OECD[2019]“Social Impact Investment 2019: the Impact Imperative for Sustainable Development”.

大久保朝江[2018]「この20年で市民意識は醸成してきたのか」、『月刊杜の伝言板ゆるる』、 vol.250、6-7頁。

塚本一郎・金子郁容編著[2016]『ソーシャルインパクト・ボンドとは何か―ファイナンスによる社会イノベーションの可能性』、ミネルヴァ書房。


(論稿提出:令和4年10月15日)






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