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  • ≪査読付論文≫オーケストラ団体における活動財源の構造と予測可能性に関する実証分析 / 武田紀仁(日本大学大学院博士後期課程、税理士)

    PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 日本大学大学院博士後期課程、税理士  武田紀仁 キーワード: 文化芸術活動の主体となる非営利組織 収入源の多様性 財務上の脆弱性 収入源の予測可能性 財務持続性 要 旨: 文化芸術活動の主体となる非営利組織体が獲得する収入源の種類、性質、及び収入源の集 中度の指標が組織の存続見通し(短期的又は中長期的持続性)に及ぼす影響を調べるため、オーケストラ団体のサンプルを用いて、団体の属性に基づき分類したデータの時系列分析、及び 収入源の構成と持続性についての回帰分析の二つの方法により分析を行った。その結果、収入源の種類や集中度に加えて、設立経緯などの団体の属性と収入源の予測可能性の関連性を考慮して分析を行うことが有用であることがわかった。 文化芸術活動の主体となる非営利組織体の特徴の一つとして、文化芸術活動に由来する収入のみではその活動を維持することができず、存続のために寄付や助成金等の社会的支援に頼らざるを得ない点があげられる。このような組織ではその属性により収入構造に差異が存在し、属性と関連性のある予測可能性が高い収入源に対して依存度が高いことがデータから確認された。 構 成: I  はじめに II 先行研究の整理・非営利文化芸術団体に着目する意義 III 仮説の設定と分析対象 IV リサーチデザイン Ⅴ サンプルの選択 Ⅵ 分析結果 Ⅶ おわりに Abstract In order to examine the effects of type, nature, and revenue concentration index of income sources acquired by non-profit organizations engaged in cultural and artistic activities on their survival prospects(short-term, medium-term or long-term sustainability), an analysis was conducted using a sample of orchestral organizations. Two methods of analysis were employed. The first was a time series analysis of the data classified by attributes of the organizations, and the second was a regression analysis of the composition and sustainability of the sources of income. The results show the usefulness of analysis that takes into consideration the relationship between the predictability of income sources and the attributes of the organization, attributes such as establishment history, in addition to the type and revenue concentration index of income sources. One characteristic of non-profit organizations engaged in cultural and artistic activities is their inability to sustain activities based solely on income from cultural and artistic activities, and their need to rely on social support such as donations and grants for their survival. The data confirmed that the income structure of such organizations differs according to their attributes, and that they are highly dependent on income sources that are related to their attributes and show a high degree of predictability. ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ はじめに オーケストラやオペラなどの文化芸術活動の主体となる非営利組織体(以下、「非営利文化芸術団体」という。)は、現代社会において重要な役割を果たしているが、財務上の脆弱性がその能力や存在を危うくしている。Baumol and Bowen[1966]やBrooks[2000]によれば、これらの団体は他の非営利組織体と比較して特に脆弱で、絶えず慢性的な財政赤字にさらされており、基金の取り崩しや出演者等に対する支払いの減額を要請することで凌いでいる状況にある。また、労働生産性の向上が構造的に望めないといった産業特性がある点も指摘されている。 本稿では、このような非営利文化芸術団体のうち日本のオーケストラ団体に焦点を当て、非営利文化芸術団体が獲得する活動財源の種類や性質等が組織の存続見通しに及ぼす影響について、公開されている財務情報等に基づき分析を行った。 Ⅱ 先行研究の整理・非営利文化芸術団体に着目する意義 非営利組織体が財務上の脆弱性の問題に直面した場合、目標を達成してサービスを提供し続けることが困難になる可能性がある。そのため、非営利組織体の存在意義にも関わる共通の問題として、Tuckman and Chang[1991]により提唱された4つの指標を嚆矢として様々な検証が行われてきた1)。先行研究では、単一の収入源への依存を避け、収入源を多様化させることで、財務状況を安定させ、財政危機や資金供給の中断のリスクを減らすことができると主張されてきた。 また、Hansmann[1980]は、非営利組織体を主として事業活動に由来する料金に依存している場合(商業型)と、寄付に依存している場合(寄付型)の2つのタイプに分類した。その後の研究では、この2つのタイプの非営利組織体は非常に異なる状況で活動していることが Froelich[1999]等により論じられている。 さらに、収入源の種類や性質に基づいた予測可能性についても研究が蓄積されている。例えば、行政からの補助金は安定性が高いが資金使途の制限があり、民間からの支援は組織の正当性を最もよく表す財源であるが、不安定で活動や運営に対して資金提供者からの影響を強く受ける等の問題がある(Froelich[1999])。また、 助成金収入は支給期間中において高い予測可能性がある一方、支給期間外において不確実性がある。活動収入は変動するが予測可能であり、 非営利組織体のコントロール下にある(Kingston and Bolton[2004])。 特に、非営利文化芸術団体に焦点を当てることは、Hager[2000]が非営利文化芸術団体と他の非営利組織体の失敗の違いを指摘すること により正当化されている。さらに、先行研究における批判の一つは、Tuchman and Changモデルの4つの指標は財務上の脆弱性を予測することができないというものであったが、Hager [2001]は当該指標の非営利文化芸術団体への適用可能性を検証し、その結果、その予測能力 はセクターにより異なることを明らかにした。 また、Tuchman and Changモデルの4つの指標のうち、収入源の集中度と管理費比率の2つの変数の有用性が、Tevel et al.[2015]によるイスラエルの舞台芸術に関する非営利組織体の検証の中で示されている。加えて、純資産が安定性や持続性を分析する際の無視できない指標として示されている2)。 他方、従来、日本では文化芸術活動に対する公的支援や文化政策のあり方に関する議論が中心であり、非営利文化芸術団体の活動財源に関する研究は限定的であった3)。特に、収入源の種類や性質が非営利文化芸術団体の存続見通し (短期的持続性や中長期的持続性)に影響するかどうかを検討した研究は、管見するに見当たら なかった。 この点、日本芸能実演家団体協議会[2016] の調査によれば、このような研究が少ない理由として、⑴小規模な任意団体が多いことや、⑵ 法人格が多様で営利と非営利の両方があり、⑶ ほとんど情報開示がされていなかったためとの指摘がなされている。また同調査では、オーケ ストラ団体を設立・発足の経緯や運営・支援の状況等から4つの属性に分類し(図表1)、団体の属性ごとの傾向を把握することの重要性も指摘されている。その理由は、オーケストラ団体の属性により収入源の構造の内容に相違がみられることに加え、地域性をはじめとした個々の環境の相違もあるためである。 以上のことから、非営利組織体が獲得する活動財源と非営利組織体の存続見通しとの関係性について、文化芸術活動の主体となる日本の非 営利組織体に焦点を当てて分析を行うことには意義があると考える。その際、先行研究に基づけば、団体の属性を考慮して分析を行うことが重要であろう。 図表1 オーケストラ団体の属性分類 Ⅲ 仮説の設定と分析対象 そこで本稿では、先行研究に基づいて以下のような仮説を設定し、非営利文化芸術団体の獲得する収入源の種類や性質が、団体の存続見通し(短期的持続性・中長期的持続性)にどのように影響するかを検証することを目的とする。加えて、団体属性による収入源の差異の存在を明らかにし、それが団体の存続見通しに及ぼす影響についても分析を行う。 仮説①:非営利文化芸術団体の収入源の構造や傾向は、収入源の種類や性質だけでなく、団体の属性に起因する要素による影響がある。 仮説②:非営利文化芸術団体は財務上の脆弱性を低下させ、持続性を高めるために収入源を多様化させる傾向がある。 本稿では、非営利文化芸術団体のうち、オーケストラ団体を分析対象として取り上げる。また、非営利文化芸術団体の法人格は公益社団・ 財団法人、一般社団・財団法人、NPO法人等と様々であるが、公益法人を分析の対象として設定した。その理由は、⑴後述する「日本のプロフェッショナル・オーケストラ年鑑」に記載 の正会員・準会員オーケストラのデータを分析に活用することができるため、⑵公益法人以外の団体では本稿における分析に必要な情報の開示がされていないものが多いためである。 Ⅳ リサーチデザイン 仮説の検証には、オーケストラ団体の属性に基づき分類されたデータの分析(分析①)と、オーケストラ団体のパネルデータを用いた回帰分析(分析②)の2つの方法を用いた。 分析①では、日本芸能実演家団体協議会 [2016]において示された4つの属性分類方法 (図表1)に倣ってデータの分類を行い、当該データの傾向分析と時系列分析を行った。  分析②では、日本のNPO法人の収入源の構成と財源多様性に関する先行研究である馬場ほか[2010]に倣い、短期的持続性・中長期的持続性と収入源の構成の関係性について回帰分析を行った。推定モデルは以下の⑴式と⑵式を用いた。被説明変数及び説明変数は図表2で示すように定義する。 LN_EXit=α0+α1SUB_Nit+α2CONCENit+α3X_Rit +α4OTHERS_Rit+α5MUSICIANS_ Nit+α6OFFICERS_Nit+α(CONCEN 7 it *REGIONit)+ϵit …⑴ NAit=β0+β1SUB_Nit+β2CONCENit+β3X_Rit +β4OTHERS_Rit+β5MUSICIANS_Nit+ β6OFFICERS_Nit+β(CONCEN 7 it* REGIONit)+μit …⑵ 短期的持続性とは、組織が継続的な活動を遂行する能力を、中長期的持続性とは、正味財産を蓄積し、将来的な組織の存続を確保する能力を指す。⑴式では短期的持続性の代理変数として経常費用の対数(LN_EXit)を、⑵式では中 長期的持続性の代理変数として正味財産・収入 比率(NAit)を被説明変数に用いた。 さらに、活動財源の使途の拘束性の観点からも分析を行うため、⑵式の正味財産・収入比率 (NAit)を正味財産全体(NA_ALLit)、資金提供者からの使途の拘束性のない一般正味財産 (NA_NRit)、使途の拘束性のある指定正味財産 (NA_Rit)に分けて分析を行った。 ⑴式及び⑵式の説明変数(X_Rit)については、 オーケストラ団体の主たる活動である演奏活動に由来する収入比率(ORCHESTRA_Rit)と社会的支援による収入比率(SOCIAL_Rit)に分けて分析を行った。さらに、社会的支援による収入比率については、会費や個人からの寄付金・ 募金等の民間支援(PRIVATE_Rit)、文化庁の基金等の政府の公的支援(ARTFUNDS_Rit)、助成金等の地方自治体の公的支援(LOCAL_Rit)、 民間助成団体の支援(PFUNDS_Rit)に分けて分析を行った。 収入源の集中度(CONCENit)は、各収入を経常収益で除して2乗した値の合計であり、 ハーフィンダール・ハーシュマン指数を用いて算出する。先行研究に基づく場合、推定モデルによる分析結果において、当該係数の符号は負となることが予想される4)。 Ⅴ サンプルの選択 分析①に用いるデータは、内閣府による「公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報 告」のデータ、日本オーケストラ連盟による「日本のプロフェッショナル・オーケストラ年鑑」 に記載の正会員・準会員オーケストラのデータ、 及び各オーケストラ団体がWEBサイト等で公開している財務諸表を参照して集計したものである。8年間分で193データ(データの内訳については図表7を参照)となった。 分析②に用いるデータは、回帰分析を行ううえで正確性を期するため、分析①に用いるデータから、欠損値をもつサンプル、年の途中で一般社団法人やNPO法人等から公益法人になった団体のサンプル、及び地方一体型に該当する団体のサンプルを除外した5)。これらのスクリーニング要件を課した結果、分析②の推定に 用いるサンプルは8年間分で134データ(データの内訳については図表7を参照)となった。図表2には分析に用いる変数の記述統計量を、図表3には相関マトリックスを示している6)。 図表2 変数の定義と記述統計量 図表3 相関マトリックス Ⅵ 分析結果 1 団体の属性と収入構成の関係性 分析①の結果を用いて仮説①の検証を行う。 分析①の結果を図表4と図表5に示す。図表4は属性分類ごとの収入源の構成割合と収入源の 集中度の集計結果である。図表5は各収入源の金額の平均値の傾向(a1・a2)と各収入源の属性分類ごとのボラティリティ(属性分類ごとの各収入金額の標準偏差)の8年間の推移である(b ~f)。 まず、各収入源の平均値の傾向に着目すると、 演奏収入や社会的支援収入は、全体として減少傾向にあることが得られた(図表5(a1))。また、 社会的支援収入のうち民間支援や地方自治体からの支援も全体としてゆるやかな減少傾向にあ る(図表5(a2))。 次に、属性ごとの収入源の構成割合に着目すると、団体の属性によって、構成割合の高い特定の財源が存在することが得られた(図表4)。 自主型は演奏収入が年間収入の73.2%を占めているが、社会的支援の割合は年間収入の21.0% にとどまっている。自主型以外の属性では、社会的支援の割合が年間収入の49.4~63.7%を占めている。そのうち地方型は地方自治体からの支援が年間収入の32.1%を占めており、特定型では民間支援が年間収入に占める割合は24.3%、助成団体からの支援が年間収入に占める割合は15.5%と高い値を示している。 この団体属性と特定の財源の関係性についての分析は先行研究でも示されており、本稿においても先行研究と異なる年のデータを用いて再確認することができた。さらに本稿では、以下のように、収入源の集中度の指標及び各収入源の属性分類ごとのボラティリティにも着目して分析を行った。 各収入源の属性分類ごとのボラティリティに着目すると、演奏収入や民間支援は団体属性による差が大きく、また変動が大きい傾向にあることが得られた(図表5⒝⒞)。政府や地方自治体からの支援は地方一体型を除いて安定的な傾向があるが(図表5⒟⒠)、政府からの支援が年間収入に占める割合は3.8~8.0%にとどまっている(図表4)。助成団体からの支援は安定性のある財源だが(図表5⒡)、特定型以外で獲得し ている団体は限定的である(図表4)。 また、同じ収入源であっても、安定的に獲得できる傾向にある収入源かどうか、すなわち収入源の予測可能性が高いかどうかは、団体の属性により異なる傾向にあるが、各収入源の中でも地方自治体からの支援は全体的に予測可能性が高いことが観察できる。 さらに、収入源の集中度の指標に着目すると、 その値は0.36~0.60であり(図表4)、財源が集中している傾向はみられない。 これらは以下のように考察できる。オーケストラ団体はそれぞれの設立経緯や運営状況等の属性により収入源の構造に差異が存在しており、属性の性質に合致した予測可能性の高い特定の財源を主軸として資金調達を行っている。 これは仮説①と整合的であり、団体の属性を考慮して分析を行うことの重要性を確認することができた。しかし、留意すべきは、分析①の方法では、特定の財源に集中する傾向にあるのか、それとも財源を多様化させる傾向にあるのかについて、収入源の集中度の指標からは観察できないという点である。そこで以下の分析②では、 分析①で示された団体の属性や収入源の予測可能性を考慮したうえで、収入源の種類や収入源の集中度等が組織の存続見通し(短期的又は中長期的持続性)に及ぼす影響を調べた。 図表4 オーケストラ団体の収入源の構成 図表5 オーケストラ団体の収入源の推移 2 収入源の集中度が持続性に及ぼす影響 以下では、分析②の結果を用いて仮説②の検証を行う。分析②の推定結果を図表6に示す。 各説明変数が短期的持続性に与える影響をパネルSに、中長期的持続性に与える影響をパネルLに示している。なお、パネルL_Aではオーケ ストラ団体の主たる活動である演奏活動に由来する収入比率(ORCHESTRA_Rit)が中長期的持続性に与える影響を、パネルL_Bでは社会的支援による収入比率(SOCIAL_Rit)が中長期的持続性に与える影響を、パネルL_Cでは社会的支援による収入の内訳に着目し、会費や個人からの寄付金・募金等の民間支援(PRIVATE_ Rit)、文化庁の基金等の政府の公的支援(ARTFUNDS_Rit)、助成金等の地方自治体の公的支援 (LOCAL_Rit)、及び民間助成団体の支援 (PFUNDS_Rit)の各収入比率が中長期的持続性に与える影響を示している。また、パネルLでは活動財源の使途の拘束性の観点からも分析を行うため、正味財産全体(NA_ALLit)、資金提供者からの使途の拘束性のない一般正味財産 (NA_NRit)、及び使途の拘束性のある指定正味財産(NA_Rit)の3つの視点から分析を行った。 この推定にあたり、事前分析として固定効果を推定したところ、分析②に用いるサンプルを構成する団体間で固定効果が存在することが確認された。分析結果1においても固定効果の存在が明らかである。そこで、各団体固有の効果をコントロールするため、固定効果(fixed effect)モデルを用いて推定を行った。 まず、収入源の集中度(CONCENit)に着目すると、短期的・中長期的持続性に対して統計的に有意な結果が得られなかった。そのため、 仮説②の検証に関し、収入源を多様化させることで団体が持続性を高めているかどうかは判然としない。 ここで分析結果1において示された団体の属性に関する分析結果を踏まえ、収入源の集中度 (CONCENit)と地方型ダミー(REGIONit)の交差項の係数に着目すると、中長期的持続性に対して当該係数は統計的に有意な正の値が得られ た。これは、中長期的な持続性を高めるためには、地方型の属性に該当する団体が特定の財源 (分析結果1からは地方自治体からの支援と推定される)に、集中して依存することが有効に作用しうること示しており、先行研究(馬場ほか [2010]等)とは逆の結果となった。 図表6 回帰分析の結果:収入構成が短期的・中長期的持続性に及ぼす影響 図表7 分析①・分析②に用いたデータの内訳 3 収入源の種類や性質が持続性に及ぼす影響 演奏収入比率(ORCHESTRA_Rit)は、短期的持続性に対して統計的に正に有意な値が得られた。これは、オーケストラ団体が活動を遂行し、支出規模を拡大して短期的持続性を高めるためには、演奏収入比率を増大させることが有効に作用しうることを示唆している。逆に、地方自治体の公的支援収入比率(LOCAL_Rit)は、 短期的持続性に対して統計的に負に有意な値が得られた。 他方、演奏収入比率は中長期的持続性に対しては統計的に負に有意な値が得られた。逆に、 社会的支援による収入比率(SOCIAL_Rit)は統計的に正に有意であり、このうち地方自治体の公的支援収入比率は、統計的に正に有意な値が得られた。 使途の拘束性に着目した場合、社会的支援による収入比率は、指定正味財産・収入比率(NA_ Rit)に対して統計的に正に有意であり、演奏収入比率は負に有意な値が得られた。 これらは以下のように考察できる。オーケストラ団体は、その主たる活動である演奏活動に由来する収入のみではその活動を維持することはできず、社会的な支援により中長期的な活動の持続性を維持している。特に、予測可能性が高い収入源と考えられる(分析結果1)地方自治体からの支援を取り崩すことで団体の活動に よる赤字を補填している。このことは、前述の Baumol and Bowen[1966]やBrooks[2000] の指摘と整合的である。留意すべきは、社会的な支援は使途の拘束性のある正味財産の蓄積に対して有効に作用しうるという点であると考えられる。この点については、Ⅶ(おわりに)で述べる。 4 頑健性分析 主分析にて示された推定結果の頑健性について検討する。主分析では2013年から2020年の8年間における分析を行なったが、計測期間を5 年間(2016年から2020年)に変更しても主分析の結果が維持されるかどうかを確認した。この分析は、政府や助成団体等による一時的な支援や海外公演等の特定目的の支援の影響を一定程度 排除するためである。 分析結果は図にはしていないが、次の点が確認された。⑴分析結果2及び3の推定結果に関して、下記⑵以外の主分析の推定結果と5年間の推定結果は同様に統計的に有意な水準にあることが確認され、下記⑵以外の主分析の推定結 果は維持されることが確認された。⑵パネル L_Cの推定結果において、民間支援収入比率 (PRIVATE_Rit)、政府の公的支援収入比率 (ARTFUNDS_Rit)、民間助成団体の支援収入比率(PFUNDS_Rit)については、5年間の推定結果では統計的に有意な水準にないことが確認された。これは、前述の影響が排除されたためと考えられる。またこの結果は、民間支援が中長期的持続性に対して統計的に有意であるとする主分析の結果が、計測期間によっては頑健でない可能性も示唆している。 他方、地方自治体の公的支援収入比率(LO︲ CAL_Rit)の正味財産全体(NA_ALLit)に関する分析結果は、計測期間を変更した場合でも統計的に有意な水準であることが確認された。すなわち、分析結果1で示唆された地方自治体の支援の予測可能性の高さに基づく分析結果2及び3は、頑健性分析においても維持される7)。 5 考察:非営利文化芸術団体の特徴と収入源の予測可能性 分析結果1~4から、以下のように考察できる。収入源の集中度の指標が、短期的・中長期的持続性に及ぼす影響ついて統計的に有意な結果とならなかったのは、以下の理由によると考えられる。オーケストラ団体は、演奏活動に由来する収入のみではその活動を維持することができないという特徴を有しているため、社会的な支援に頼らざるを得ない。しかし、オーケストラ団体が獲得可能な社会的支援は、団体の設立経緯等の属性によっては、変動性がある・一 時的である・金額が少ない等の理由で収入源の 予測可能性が低いものが存在する。そのため、 オーケストラ団体は、演奏活動による収入源を主とし、社会的支援については収入源を分散することにより、結果的に資金調達の多様化を追求しているのではないかと考えられる。 また、中長期的持続性を高めるうえで収入源への集中度を高めることが特定の属性では有効に作用し得るという、先行研究とは異なる結果となったのは、以下の理由によると考えられる。 オーケストラ団体にとって、社会的な支援の中でも予測可能性の高い収入源である地方自治体からの公的支援は、中長期的持続性を高めるうえで有効に作用する可能性のある収入源として 機能している。特に、地方型はこの予測可能性が高い収入源の構成割合が高い傾向にあるため、収入源の集中度に関して統計的に有意な結果となったのではないかと考えられる。これらは、 前述のFroelich[1999] やKingston and Bolton[2004]の指摘と整合的であるが、本稿では、オーケストラ団体にとって、そのうち地方自治体からの支援の予測可能性と依存度が高いことが確認された。 このように、団体の属性と収入構造の関連性を分析することにより、団体の属性により収入構造に差異が存在することを確認するとともに、オーケストラ団体は団体の属性と関連性のある予測可能性の高い財源に対して依存度が高い傾向があるという結果が得られた。このことが非営利文化芸術団体の経営構造や存続見通しに影響を与える重要な要素である可能性が高いことが示唆される。そのため、非営利文化芸術 団体の財務分析を行ううえでは、収入源の集中度だけでなく、団体の属性と収入源の予測可能性の関連性を考慮することが有用であると考えられる。 Ⅶ おわりに 本稿では、オーケストラ団体のサンプルを用いて、非営利文化芸術団体の収入源の種類、性質、及び集中度等が団体の持続性に及ぼす影響を調べた。 本稿の成果の一つ目は、Baumol and Bowen [1966]等が指摘する非営利文化芸術団体の特徴が、日本のオーケストラ団体にとっても経験的妥当性を有していることがデータから確認された点である。Tuckman and Chang[1991]等の財務上の脆弱性と収入源の多様化に関する論拠はデータからは確認されなかったが、この結果は、寄付等の社会的支援に頼ることを前提とする非営利文化芸術団体の収入構造の特徴や、 団体の属性と収入源の予測可能性の関連性を加味して分析することの重要性を示唆している。 本稿の成果のもう一つは、純資産の拘束性に着目して分析を行なった点である。社会的な支援の存在は、オーケストラ団体の中長期的な持続性を高めるうえで重要であるが、それは使途指定のある純資産の蓄積に対して有効に作用しうるのであって、オーケストラ団体は、潜在的なリスクに対応するために使途指定のない純資 産を蓄積しているわけではない。本稿の分析結果で示されたように、オーケストラ団体は、その主たる活動に由来する収入のみではその活動を維持できず、社会的な支援を取り崩すことで団体の活動による赤字を補填しているという特徴がある。そのため、社会的支援に起因する純 資産の蓄積は、団体の活動の継続や団体の存続を脅かすような潜在的なリスクに備えるためには有効とはいえない可能性が示唆される。 また、本稿では、地方自治体からの公的支援がオーケストラ団体にとって予測可能性が高い現状にあることがデータから確認されたが、このような行政からの支援は財政難から多くを期待できなくなっている。近年における行政からの支援からインパクト投資に至る経緯や、収入源の多様化の議論に鑑みた民間支援の重要性の高まりから8)、多様な財源及び多様な事業体を活用した社会的課題の解決の枠組みへの延伸は事実であるとしても、報告主体である活動の担い手にとっての財務情報の限界・役割に関する検討、そして活動を支える側に対する情報開示のあり方に関する検討は、今後の課題として残されていると考える。 なお、本稿における分析では、前述のとおり、 データの入手が限られていたため少数のサンプルに基づいており、非営利文化芸術団体のすべ ての組織を網羅しているわけではない。また、 公益法人に限定して分析を行っており、オーケストラ団体の主たる活動に着目して分析を行うため地方一体型オーケストラについては分析の対象から外している。この特定の団体を超えた一般化については、今後の研究で検討する必要がある。 [注] 1)例えば、Greenlee and Trussel[2000]、Hager [2001]、Trussel[2002]、Keating et al. [2005]、Green et al.[2021]等がある。 2)本稿の事前分析では、管理費のデータを確認することのできるオーケストラ団体の89データを用いて推定を行なっているが、管理費比率に関して統計的に有意な結果を確認するこ とはできず、サンプル数も少ないため本稿の考察の対象から外している。 3)日本のオーケストラとオペラを対象としたBaumol and Bowen[1966]に類似した経済 学的研究としては、Kurabayashi and Matsuda[1988]がある。 4)Rは全収入源の合計値、nは分類した収入源の数、rは各収入とすると、以下の式で算出 される。CONCEN=(r1 /R)2 +(r2 /R)2 +…+(rn /R)2 =Σn i=1(ri /R)2 (i=1, 2,…, n) 2+(r2 /R)2 +…+(rn /R)2 =Σn i=1(ri /R)2 (i=1, 2, …, n)こ れは、1以下の正の値をとり、1に近いほど単独の収入源に集中していることを示す。2乗 することにより情報として変質していると考えられるため、他の収入比率と同時に説明変数に加えて推定を行った。 5)地方一体型に分類されるオーケストラ団体に は、地方自治体によって設立され公共ホールの運営を行っている財団法人の多くが該当していた。ホール運営事業や他の文化芸術事業 とオーケストラ運営事業が区分できないものが多かったため、分析対象から除外した。 6)ここで、図表3からいくつかの変数間に高い相関が観察されており、推定において多重共線性の問題が懸念される。各推定において VIF(Variance Inflation Factor)を算出したと ころ、一般に多重共線性が懸念される水準である10を下回っていた。分析②では多重共線 性が重大な問題にならないと考えられるため、これらの変数を同時に含めて推定を行っている。 7)なお、地方自治体からの支援(LOCAL_Rit) については、8年間の推定結果では一般正味財産(NA_NRit)に対して統計的に正に有意、 5年間の推計結果では指定正味財産(NA_ Rit)に対して統計的に正に有意と異なる結果となった。計測期間によっては推定結果が頑健でない可能性が示唆されるため、両期間の分析結果で統計的に有意な結果となった正味財産全体(NA_ALLit)に対する結果のみを考察範囲として採択する。 8)この点、従来、文化芸術団体に対する支援に関しては、文化芸術活動に対する公的支援のあり方や文化政策のあり方に関する議論が中心であった。文化芸術団体に対する支援に関 して、日本とアメリカ等の諸外国の背景の違いも指摘されており、日本では政府や地方自 治体が文化芸術団体の主要な資金提供者であるが、アメリカでは租税優遇措置を前提条件 として民間資金により支えられており、芸術家や芸術団体と民間支援者を結びつけるため の触媒としての政府の役割についても指摘されている。詳しくは片山[2006]等を参照。 [引用文献] Baumol, W.J. and Bowen, W.G. 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  • ≪査読付論文≫クライシス下における信用保証協会の役割―中小企業支援に着目して― / 櫛部幸子(大阪学院大学准教授)

    PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 大阪学院大学准教授  櫛部幸子 キーワード: 中小企業支援 クライシス デフォルト 信用保証協会 信用補完制度 緊急保証制度 特別保証制度 要 旨: 本稿では、信用保証協会が、中小企業融資においてどのような役割を果たす非営利法人で あるかを説明する。そのうえで、公的資金を基礎とする信用保証協会にデフォルトが生じる ことの是非、そもそも信用保証協会のミッションは何であるのか、クライシス下においてど のような視点をもとに保証判断をするべきなのかを検討する。クライシス下においても、救 うべき企業(事業の継続性が望める企業)に保証を行うことが重要であり、さらなる会計情報等の提出を求め、事業の継続性に関する適切な判断を行い、保証承諾をしていくことが重要であることを述べる。 構 成: I  はじめに II 信用保証協会 III クライシス下における信用保証協会の対応事例:阪神・淡路大震災(1995年1月17日) IV クライシス下における信用保証協会の対応事例:東日本大震災(2011年3月11日) Ⅴ 信用保証協会がクライシス下で果たす役割 Ⅵ おわりに Abstract This paper explains the role the Credit Guarantee Association can play in loans to SMEs as a non-profit organization. In addition, it also examines whether loan default is acceptable to the Credit Guarantee Association, which is based on public funds, the mission of the Credit Guarantee Association, and from what perspective judgments regarding credit guarantees should be made in crises. In crises, it is important that SMEs can expect business sustainability through guarantees; therefore, this paper also discusses the importance of requesting further accounting information and making appropriate decisions for business sustainability as well as accepting warranties. ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ はじめに 本稿の目的は、信用保証協会がどのような非営利法人であり、信用補完制度という業務を通じ中小企業の資金繰り支援においてどのような役割を果たしているのかを明らかにすることである。更に、各地域の信用保証協会(全国51協会)の財政状態が、利用者であるその地域の中小企業の信用保証に直接的な影響を与えることを指摘する。 各信用保証協会は、法律・制度・規制の枠内で、「どこまで会計情報を重視するか」・「どこまで定性的な要因を考慮に入れるか」などの一定の裁量権を有し、保証判断を行っている。災害や感染症、天変地異などを原因として引き起こされる経済的危機であるクライシスの下では、この裁量の余地が、平常時より大きくなることが予想される。そこで、信用保証協会の財政状態に顕著に影響を与えたクライシスの事例として阪神・淡路大震災と、財政状態に緩やかな影響を与えるに止まったクライシスの事例として東日本大震災を取り上げ、これらのクライシス下において実施された信用保証制度の違いや、保証判断の際の会計情報の活用度合いの違いが、後のデフォルト発生率に違いを生じさせる結果となったことを明らかにする。そこで、これらをふまえて信用保証協会がクライシス下で果たすべき役割とは何であるかを改めて検討する。 Ⅱ 信用保証協会 1 信用保証協会の主な業務とその業務を支える法律 信用保証協会の主な業務は、信用保証と信用保険である。これにより信用補完制度を実行している。信用補完制度とは、中小企業者等、金融機関、信用保証協会の三者から成り立つ「信用保証制度」と信用保証協会が中小企業金融公庫(日本政策金融公庫)に対して再保険を行う「信用保険制度」の総称である1)。信用保証については信用保証協会法に基づき、信用保険については中小企業信用保険法・包括保証保険約款に基づき業務が行われている。また各信用保証協会(全国51協会)は、業務方法書・定款に基づき業務を行っている2)。  信用補完制度の仕組みを示したものが以下の図表1である。信用補完制度は、「中小企業が金融機関等で融資を受ける際の信用保証を行うことにより、中小企業の資金調達を円滑にすること」を目的とした制度である。中小企業者が順調に返済できた場合には問題は生じないが、 返済できない場合、信用保証協会が代位弁済を行う(図表1の⑥)3)。この代位弁済については、 2007年以降責任共有制度4)が導入され、基本的には貸倒れた金額の8割を信用保証協会が代位弁済することとなっている(2割は金融機関が負担する)。また信用保証協会が代位弁済を行った金額の約7割は、中小企業金融公庫より保険金として信用保証協会に支払われる(図表1の ⑧)。これは信用保証協会が中小企業金融公庫と保険契約を結んでいるからである。なお代位弁済金額の約3割は、求償権として貸倒れをした中小企業者に返済を求めることとなる(図表1の⑦)。しかし回収が困難である場合には、 期末に求償権を償却し、実質、信用保証協会の損失となる。信用保証協会は、公的基金を基礎 とした非営利法人であり、最終的にはこれらの損失は税金で補填されることとなる。 また、信用保証協会の保証制度は大きく4種類に分類することができる。1つ目は全国的制度であり、国が主導する全国共通の制度として創設され、保険法上も個別に保険種が定められている保証制度である。2つ目は地公体制度として、地公体が独自の要件を付して行う保証制度である(主に損失補償や保証料の援助)。3つ目に金融機関との提携保証制度、4つ目に協会独自制度(全国の51協会それぞれが独自の保証制度を打ち出すことが出来る)があり、協会独自制度には特定の融資を対象とした保証料が割安な制度もある5)。 図表1 信用補完制度の仕組み 出典:江口[2005]、11頁、図表1-1に筆者加筆 2 保証承諾の限度額と保証協会の財政状態 各地域の信用保証協会は、上述の信用補完制度に基づき、法律・制度・規制の中で個々の判断をし、保証承諾を行っている。これは、一定の規制の中で、各信用保証協会が個々に判断する裁量の余地があることを意味し、保証承諾の可否の決定は各信用保証協会の個々の判断に依存していることを意味している。 また各信用保証協会が保証承諾できる金額の上限は、その信用保証協会の財政状態に依存している。 ある信用保証協会の例であるが、定款に以下の内容が記されている。定款第2章・業務(保証債務の最高限度)第7条では「保証債務額の最高限度は、基本財産の合計額の15倍とする。信用保証総額は、保証債務の総額に10分の3.5を乗じて得た額とする」とあり、定款第3章・資産及び会計(基本財産)第8条では、「毎事業年度の収支差額の剰余は、その100分の50の範囲内で収支差額変動準備金として繰り入れること ができる。繰り入れ後の差額は基本財産の増加とする」とあり、実際には、毎事業年度の収支差額の50%の範囲内で、信用保証の裏付けとして基本財産に積み立てることが要請されてい る。ここから代位弁済が多く発生し、求償権を償却すると、収支差額金の額にマイナスの影響が生じ、最終的には基本財産の額に影響を与え、 信用保証(保証承諾)に影響が生じる。つまり、代位弁済を多く出してしまうと、その地域の信用保証協会は保証承諾の上限金額を下げざるを得なくなり、中小企業の資金調達に困難が生じることとなる。例えば基本財産が156億円ある信用保証協会は、156億円×15÷3.5/10=最高限度額6,686億円となり、この金額までの信用保証(保証承諾)が可能であるが、基本財産の金額が少ない信用保証協会では、保証承諾金額 の上限は当然低くなる6)。ここから、各信用保証協会の個々の保証承諾の判断が、結果としてその地域の中小企業の資金調達に直接的な影響を与えることがわかる。 3 信用保証協会のミッション 信用保証協会事業の基本理念として、「事業の維持・創造・発展に努める中小企業に対し公的機関として、その将来性と経営手腕を適正に評価することにより、信用を創造し、信用保証を通じて、金融の円滑化に努める(信用保証協会事業の基本理念一部抜粋)7)」と記されている。 これは経営努力をし、継続が望める中小企業に対し、金融機関での借り入れの際に信用保証を行うことにより、資金調達の円滑化を促すということを意味している。  クライシス下では保証申込件数が急増し、信用保証協会は限られた時間内で緊急に保証の判断を強いられることとなる。保証判断に裁量の余地を有する信用保証協会の業務において、クライシス下ではこの裁量の余地が平常時より大きくなり、保証判断の重要性がより高まることが予想される。つまりクライシス下における信用保証協会の保証判断は、「適切な保証判断を行うことにより、資金(税金)のバラマキではなく、救うべき企業(事業の維持・創造・発展に努める中小企業)を救う」・「中小企業をむやみに延命させるのではなく、資金調達の支援をすることにより救うべき企業を救う」ことが、平常時より強く求められることとなる。 Ⅲ クライシス下における信用保証協会の対応事例:阪神・淡路大震災 (1995年1月17日) 1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災において、中小企業支援を行った信用保証協会の保証制度やデフォルトの発生率について説明する。 1 兵庫県信用保証協会の阪神・淡路大震災時の取り組み 兵庫県信用保証協会は、被災した中小企業に対する信用保証限度額を拡充するため、中小企業信用保険法における普通保険と無担保保険についての限度額の別枠化を実施し(最大2億 3,500万円)、無担保・無保証人保険の拡充を行った8)。さらに、大震災発生直後の1995年2月から8月までの7ヵ月の間、被災中小企業者の事業復旧に必要な資金を保証する「災害復旧融資」 にも積極的に取組み、47,011件、5,421億7,900万円の保証承諾を実施した9)。また、神戸市は災害復旧融資を利用する中小企業等に対し、信用保証料を負担する措置をいち早くとった10)。 2 兵庫県信用保証協会における保証承諾金額と代位弁済率の推移 図表2は兵庫県信用保証協会における保証承諾金額・代位弁済率(代位弁済率=代位弁済額÷ 保証債務残高×100)の推移を示したものである。 これによると、1975年頃より代位弁済率が増加しはじめ1980年代前半に高い代位弁済率を示している。これは、オイルショック(第一次 1973年、第二次1979年)によりクライシスが生じた影響であると考えられる。 更に1995年に阪神・淡路大震災が発生し、その後代位弁済率は急激に増えている。しかし1998年に増加がゆるやかになり、再度翌年から急激に増加している。これは、1998年に行われた中小企業金融安定化特別保証制度(以下、特別保証制度とする)が影響し、代位弁済の増加に歯止めがかかったものの、その後すぐに急激に増加し、結果として阪神・淡路大震災の影響を受けていた兵庫県信用保証協会にさらなる追い打ちをかけたものと考えられる。 大震災から約15年後(2009年12月末)においても、兵庫県信用保証協会の『信用保証トピックス(平成22年1月)』によれば、「災害復旧融資」 の保証債務残高は残り、代位弁済を行う状況が続いていることが明らかとなっている。2009年12月末の『災害復旧融資』の保証債務残高は 2,041件、145億5,000万円となり、代位弁済の累計は6,772件、519億1,300万円となっている11)。 図表2 保証承諾金額・代位弁済率の推移(単位:千円・%) 出典:兵庫県信用保証協会[2019b]をもとに筆者作成 3 特別保証制度(1998年10月1日~2001年 3月31日12)) 阪神・淡路大震災の3年後に特別保証制度が実施された。これは、中小企業を中心とした「貸し渋り」問題の解消のために創設された制度である。国は、この特別保証制度の実施に当たり、 2,000億円を都道府県等に交付し、都道府県等は、これを各信用保証協会に出捐した。信用保証協会は、この出捐金を既存の基金と区別して金融安定化特別基金として積み立て13)、これを取り崩す形で、基本財産を補填している14)。この制度は、設計当初より「高い事故率」・「ある程度デフォルトが生じること」が予想されている中で実施された可能性が高いと考えられる。 この実施により、兵庫県の信用保証協会は一時的ではあるが、代位弁済率を減少させている。 4 特別保証制度の問題点と利点 特別保証制度は適用要件のハードルが下げられている。緊急保証制度が信用保証を提供する際に信用保証協会が一定の審査を行うのに対し、特別保証制度は、ネガティブリスト15)を採用し、ネガティブリストに該当する場合以外は、 原則として信用保証の提供を認めていた16)。このようなことから特別保証制度には、保証判断が早く行われ、即効性が高く、急激な中小企業の倒産を防ぐことができ、スローランディングさせる効果があった。しかし、これにより赤字に転ずる信用保証協会が増加した17)。特別保証制度は、適用業種の限定もなく、幅広く多くの中小企業を救うという点では効果があったが、長くデフォルトが続く原因の一つとなったともいえよう。 Ⅳ クライシス下における信用保証協会の対応事例:東日本大震災(2011 年3月11日) 2011年3月11日に発生した東日本大震災において、中小企業支援を行った信用保証協会の保証制度やデフォルトの発生率について説明する。 東日本大震災時の信用保証では、緊急保証制度(セーフティネット5号)が採用された。このセーフティネット5号の適用要件には会計情報 (売上高)や個別の対話をもとにした経営者の資質の判断、業種の限定などがある18)。  東日本大震災に関わった各信用保証協会の代位弁済率(代位弁済率=代位弁済額÷保証債務残高 ×100)を示したものが以下の図表3であるが、 代位弁済の発生率が非常に低いことがわかる。 ここから、東日本大震災の際の保証判断は、時間がかかったとの反省点はあるものの、デフォ ルトを回避する点においては、おおむね成果を出しているものといえよう。 これには、緊急保証制度を採用し、保証判断に売上高の情報を組み込む(会計情報を組み込む) ことが功を奏したと考えられる。信用保証協会 は基本的には、「運転資金」・「設備投資」・「その他」に対する3区分に対し保証を行うが、東日本大震災の緊急保証では「運転資金に対する保証」が98%を超えている。つまり売上が急激に落ちている企業が対象であった。また保証期 間が最長10年(3割が借換え)であるが、3年後の借り換えの際には事業計画書の提出が要件となるなど事業の継続性が問われ、売上高のような定量的な観点だけでなく、経営者の人柄など定性的な要件も保証の際の判断材料となった。このことから保証判断に時間はかかったものの、デフォルト回避については一定の成果を 出した19)と信用保証協会も認めている。阪神・ 淡路大震災と比較し、「原発への補償金などの 特別な手当が支給されている」ことや「事業を再開せず廃業をしている可能性が高い」、「保証 期間が最大10年間であり、今後影響が出る」ことも可能性としてはあるが、会計情報を用いた 保証判断や、CRD20)を用いたスコアリングによ る保証判断21)が一定の成果を出していると考えられる。 図表3 東日本大震災における信用保証協会の代位弁済率(単位:%) 出典:中小企業庁[2012]・[2015]・[2018]・[2020]・[2021a]をもとに筆者作成 Ⅴ 信用保証協会がクライシス下で果たす役割 特別保証制度と緊急保証制度では、適用対象 となる中小企業の業種の限定の有無、保証判断の際の会計情報の利用の有無やネガティブリス トの採用の有無などの違いがある。これにより、結果として、デフォルト発生率には大きな違いがあったと考えられる。両者は共に貸し渋りを緩和する効果があるが、緊急保証制度は、企業の信用リスクに対するモニタリングを行い、企業の継続性の判断を行っているため、信用リスクの高い企業を延命させないことによって市場の効率性を維持するという効果を有している。 内田衡純氏22)は、「国の財政状況が悪化していく中で、特別保証制度を再実施することには十分な検討が求められる」とし、特別保証制度の実施については慎重な意見を述べており、緊急保証制度の採用を促している23)。現状では、特別保証制度から緊急保証制度への転換が行われており、今回の新型コロナウイルス対応保証で は緊急保証制度が採用されている。 信用保証協会は公的資金を基礎とし、信用保証を行う非営利法人である。そもそも公的資金を用いて社会的弱者である中小企業を支援するという考えに立てば、デフォルト回避が必ずしも重要な視点ではないかもしれない。しかし、 信用保証協会のミッションは、中小企業に資金提供すること自体ではなく、不測の事態等で一時的に資金ショートしてしまう中小企業を資金面で支援することでその事業の継続を図ることである。デフォルトが生じた際には、結果的に税金を財源とする資金投入が行われるため、信用保証協会は国民や住民に対しても責任を有することとなる。そこで、どの程度まで中小企業を支援するのか、どのレベルまでの中小企業を支援するのかの線引きが重要であるといえよう。つまり信用保証協会が、事業の継続性に対する適切な判断を行い、保証承諾をしていくことが重要であると考える。  そもそも信用保証協会のミッションは、「事業の維持・創造・発展に努める中小企業に対し公的機関として、その将来性と経営手案を適正に評価すること」により「信用を創造し、信用保証を通じて、金融の円滑化に努める」ことである。クライシス下において限りある資源を効率的に配分するには、何らかの制度や仕組みが必要であり、会計はその重要な要素である。公平・中立・簡素な制度設計が望まれるが、本来、 救うべきではない企業(事業の継続性が望めない企業)に融資・保証を行うのは本末転倒である。 今後さらなる会計情報の提出を求め、事業の継続性に対する適切な判断を行い、保証承諾をしていくことが、信用保証協会がクライシス下で果たす役割であるといえよう。 Ⅵ おわりに 信用保証協会は、一定の法規・制度・規制の中で、保証判断を行い、中小企業の資金調達を 支援する役割を担っている。この役割の中には裁量の余地があり、クライシス下ではこの裁量の余地が平常時より大きくなる傾向にある。過去の2つのクライシスの事例から、制度上の差異によりデフォルトの発生率に差異が生じることが明らかとなったが、同時に与えられた裁量の余地の中で、各信用保証協会が最善の対応をしようとしていたことも明らかとなっている。 また両制度の比較から、デフォルト回避には、 積極的な会計情報を利用した保証判断が重要であることも明らかとなった。 中小企業に関する施策の新しい動きとして、 以下が挙げられる。まずは、1999年に中小企業基本法が改正され、従来の「中小企業は社会的弱者」という取扱いから、自助を前提とする取扱いにシフトしている(中小企業基本法 第1章 総則(中小企業者の努力等)第7条)。これは、今までは二重構造論・下請制度など、中小企業の社会的に弱い立場が問題視されていたが、今後は中小企業者自身が経営努力をし、自助(中小企業者の自主的な努力・支援を前提とする考え)を していくという考えにシフトしていることを意味している。ここから、資金調達面においても、自力での継続性のある中小企業に対し会計情報の開示を要請する形での施策が必要であると考える。 またこれは、2013年に経営者保証に関するガ イドラインが策定されたことからもいえよう。 経営者保証に関するガイドラインは、個人保証に依存しながら無理な経営を続ける中小企業に対し、ある程度早い段階で(損失が少ない段階で) の事業の清算を促すものであり、無理な延命をさせないという意図から策定されている。 さらに金融検査マニュアルが2019年に廃止されているが、これは「今後の融資判断においては、 金融機関がそれぞれの個性・特性に即して行うべきであり、中小企業の過去の実績だけでなく、 個別の対話等を通じて把握した中小企業の将来を見据えた融資を行うべきである」との方針から行われたものである。そうなれば、中小企業者には金融機関と対等に話せる対話力や会計知識が当然必要となってくる。経営者自身・中小企業者自身の努力が求められているのである。 今後もクライシスが起こりうる可能性はある。クライシス下において、信用保証協会は、 より積極的に中小企業の会計情報を活用し、経営努力を続ける事業継続性のある中小企業に対し保証判断を行うことが重要であると考える。 [謝辞] 本稿は、JSPS科研費 JP21K01830 基盤研究 ⒞の助成を受けたものである。 本稿の執筆にあたり、甲南大学名誉教授 河﨑照行先生、鹿児島県立短期大学教授 宗田健一先生にご指導・ご示唆をいただきました。ここに記し感謝申し上げます。 [注] 1)一般社団法人全国信用保証協会連合会 [2020]、5頁。 2)鹿児島県信用保証協会提供資料2020年。 3)これを信用保証協会では事故が発生したという。 4)責任共有制度は、信用保証協会と金融機関が適切な責任共有を図ることにより、両者が連携して中小企業者に適切な支援を行うことを目的としている。責任共有制度には「部分保 証方式」と「負担金方式」の2つの方式がある(一般社団法人 全国信用保証協会連合会[2020]、 9頁)。 5)中小企業庁[2004]、5頁。 6)CRDとはCredit Risk Databaseの略であり、 中小企業の財務データを集めたデータベースである。信用保証協会の平常時の保証判断は、 CRDの値と実際の中小企業の財務諸表を比較したスコアリングに加え、中小企業特性などを総合的に検討し行なわれている。 7)一般社団法人 全国信用保証協会連合会 [2020]、序文。 8)河上[2016]、26頁。 9)兵庫県信用保証協会[2010]。 10)内閣府[2008]。 11)兵庫県信用保証協会[2010]。 12)当初2000年3月31日までの予定であったが、 金融経済環境の激変への適応、円滑化を図るため、2001年3月末まで1年間延長している (会計検査院[2006])。 13)会計検査院[1999]。 14)兵庫県信用保証協会[2018]、55頁。 15)ネガティブリストの内容は以下である。次の事由に該当する場合は、保証対象としないこととする。①破産、和議、会社更生、会社整理等法的整理手続き中、私的整理手続き中であり、事業継続見込みが立たない場合②手形・ 小切手に関して不渡りがある場合及び取引停止処分を受けている場合③信用保証協会に求償権債務が残っている者及び代位弁済が見込まれる場合④粉飾決算や融通手形操作を行っている場合⑤多額な高利借入れを利用してい て、早期解消が見込めない場合⑥税金を滞納し、完納の見込みが立たないような企業の場 合⑦法人の商号、本社、業種、代表者を頻繁に変更している場合⑧前回保証資金が合理的 理由なく使途目的に反して流用された場合⑨ 暴力的不法行為者等が申し込む場合、または、 申込みに際し、いわゆる金融斡旋屋等の第三者が介入する場合⑩業績が極端に悪化し大幅債務超過の状態に陥っており、事業好転が望めず事業継続が危ぶまれる場合。 16)経済産業委員会調査室 内田[2010]、161頁。 17)会計検査院[2003]。「表13 協会及び事業団における事業収支の推移」によると、全国の信用保証協会が実施する信用保証事業に係る 収支の2001年度は1088億円マイナスの収支差額、2002年度は610億円マイナスの収支差額となっている。 18)セーフティネット5号の適用要件は以下である。①~③のいずれかの要件に当てはまる中小企業者であって、事業所の所在地を管轄する市町村長又は特別区長の認定を受けたも の。①指定業種に属する事業を行っており、 最近3か月間の平均売上高等が前年同期比マ イナス3%以上減少している中小企業者②指 定業種に属する事業を行っており、製品等原 価のうち20%以上を占める原油等の仕入価格が上昇しているにもかかわらず、製品等価格 に転嫁できていない中小企業者③指定業種に 属する事業を行っており、最近3か月間(算 出困難な場合は直近決算期)の平均売上総利益率又は平均営業利益率が前年同期比マイナス 3%以上低下している中小企業者。 19)江口[2009]、17-21頁。 20)CRDは、信用保証協会の適切な保証判断ために作成されたデータベースであり、全国信用保証協会連合会・牧野洋一会長の依頼によりCRD協会(CRD作成機関)が設立された。 (CRD協会[2001]。) 21)2001年に中小企業の財務データを収集・管理し、客観的に金融機関が融資判断をできるように、CRD協 会が創設された。 よって、 CRDを用いてのスコアリングは、2001年以 降行われている(CRD協会[2001])。つまり、 阪神・淡路大震災が発生した当時、CRDを用いたスコアリングはまだ存在していない。 しかし、東日本大震災時においては、CRD を用いたスコアリングがすでに普及していた と考えられる。 22)経済産業省経済産業委員会調査室。 23)経済産業省経済産業委員会調査室 内田 [2010]、166-167頁。 [参考文献] 家森信善・相澤朋子[2016]「東日本大震災か らの復興期の中小企業金融―震災後5年の経 験から浮かび上がる課題―」『商工金融』 2016年5月号、2016年5月、5-20頁。 一般財団法人 アジア太平洋研究所 地域金融 研究会[2011]『地域金融研究会報告書―関西地域金融の現状と課題―』2011年12月、1 -121頁。 一般社団法人 全国信用保証協会連合会[2020] 『日本の信用保証制度 2020年』。https://www.zenshinhoren.or.jp/document/jp_Credit_Guarantee_System_in_Japan_2020.pdf 江口浩一郎[1998]「代弁率上昇に国の財政補填策を[特集 中小企業を襲う信用収縮]」『週 刊 金融財政事情』1998年12月21日号、1998 年12月、26-28頁。 江口浩一郎[1999a]「『中小企業金融安定化特別保証制度』導入の経緯と制度創設[特集 中小企業金融安定化特別保証制度への取り組み]」『信用保証』第98号、1999年3月、7- 15頁。 江口浩一郎[1999b]「中小企業金融安定化特別保証制度の概要」『リージョナルバンキン グ 』第49巻第1号、1999年1月、22-27頁。 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  • ≪査読付論文≫NPO支援組織と制度ロジック変化―アリスセンターのケース― / 吉田忠彦(近畿大学教授)

    PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 近畿大学教授  吉田忠彦 キーワード: アリスセンター NPO支援組織 制度ロジック 中間支援組織 サポートセンター 制度的複雑性 要 旨: NPO支援組織がどのように発生し、どのようにひとつの制度として普及していったのか、 そして組織はその制度とどのように向い合うのかを、NPO支援組織の先駆的存在といわれるアリスセンターを事例として分析する。アリスセンターは市民運動のロジックを土台としながら、NPOや中間支援組織の制度のロジックを選択的に取り込みながら事業を選択した。 このケースを制度理論や制度ロジックという概念を用いて分析する。 構 成: I  はじめに II 分析対象と方法 III 事例の分析 IV ディスカッション Ⅴ まとめ Abstract This study analyzes how NPO support organizations emerge, how they spread as an institution, and how organizations interact with this institution, using the ALICE Center, which is considered a pioneer of NPO support organizations, as a case study. The ALICE Center bases its selection of projects on the logic of the civic movement, while selectively incorporating the institutional logics of the NPOs and intermediary support organizations. This case was analyzed using the concepts of institutional theory and institutional logic. ※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。 Ⅰ はじめに 日本においては1995年に発生した阪神・淡路大震災を契機として、特定非営利活動促進法の成立をはじめとした日本独自のNPOの制度化が進展した。日本でNPOという場合、それは文字通りの非営利組織(NPO:Nonprofit Organization)全体を指すのではなく、公益法人をはじめとした既存の非営利法人とは区別された新しい概念としてのNPOを指している。公益法人等の既存の非営利法人制度は、主務官庁による許認可や指導監督など官のコントロールが強く、市民の自発的な活動の受け皿となるどころ か、むしろ足かせにさえなっていると指摘されていた。こうした認識の下に、市民の自発的な活動の受け皿となるような柔軟な制度を築くという共通の目的のもとに、さまざまな分野の団体や個人が関与し、阪神・淡路大震災の発生から3年を経てNPO法は成立したのである。 こうした日本独自のNPOの構築を目指した活動は、NPO法成立だけに向けられたわけで はない。それに先立って「シーズ・市民活動を 支える制度をつくる会」といったアドボカシー活動団体が発足したり、サポートセンター、中間支援組織などと呼ばれるNPOの支援組織の設立なども進められた。特に支援組織については、「日本NPOセンター」、「NPOサポートセンター」、「NPO事業サポートセンター」などの全国をカバーする、いわゆるナショナルセンターと同時に、都市部を中心に各地で地域の支援組織の設立が、NPO法成立前後に相次いだ。 さらにNPO法人の設立が進むにつれて、自治体による地域の市民活動を支援するための施設の設置も普及していった。このような支援施設をNPO支援組織に管理・運営させる公設民営方式が、まだ市民活動支援のノウハウの蓄積が薄かった自治体、支援事業の場や財源の確保が難しいNPO支援組織の双方にとって好都合であったため、都市部を中心に急速に普及していった。そしてまたこの自治体による支援施設の設置が、各地のNPO支援組織の設立とその存続を支えることになった。やがてNPO法人や市民活動を支援する組織は、「サポートセンター」という呼び名から「中間支援組織」という呼び名が一般的になっていった。 本稿においては、このようなNPO支援組織がどのように発生し、どのようにひとつの制度として普及していったのか、そして組織はその制度とどのように向い合うのかを分析するために、NPO支援組織の先駆的存在といわれるアリスセンターを事例として取り上げ、組織論における制度理論や制度ロジックという概念を用いて分析する。 Ⅱ 分析対象と方法 1 まちづくり情報センターかながわ(アリスセンター) 本研究で分析する対象は、日本独自のNPO およびそれらを支援する組織の制度化と、その制度化の中で自らのアイデンティティや事業を模索した「まちづくり情報センターかながわ(通称・アリスセンター)」(以後アリスセンター)である。 アリスセンターを分析対象とする理由は、それが日本におけるNPOサポートセンター、中間支援組織の先駆的存在と目されており、以後に設立されるNPO支援組織に影響を及ぼし、 その制度化の源泉の1つとなったと考えられるからである。日本において「NPO」や「中間支援組織」という言葉や概念が生まれる前から活動していたアリスセンターは、自身が日本独自のNPOやNPO支援組織の制度化の源泉となる一方で、その制度化の流れと向かい合いながら、自らのアイデンティティと事業を探索したのである。 NPO支援組織は「サポートセンター」、「NPO 支援センター」、「中間支援組織」というような名称のゆれが生じているだけではなく、法人格、 事業内容、設備、従事者の資格など、その具体的実態についても多様かつ曖昧で、明確に定義することは難しい。実際、NPO支援組織に関する唯一の公的調査報告書である内閣府の 『NPO支援組織レポート2002』においても、「多元的社会における共生と協働という目標に向かって、地域社会とNPOの変化やニーズを把握し、人材、資金、情報などの資源提供者とNPOの仲立ちをしたり、また、広義の意味では各種サービスの需要と供給をコーディネートする組織」と定義されているものの1)、その調査対象となっているものにはボランティアセンター、市の生活情報センター、さらには日本 NPO学会というようなものなどさまざまな団体が含まれている2)。 より実態に則したものとしては、日本NPOセンターが全国の支援センターをリストする際にあげた、①(個人ではなく)NPOの組織支援を主としている、②NPOの組織相談に対応できるスタッフが常勤している、③分野を限定せ ずに支援をしている、という3項目からなる基準がある。日本NPOセンターでは、この基準に従ってホームページに団体をリストしているが3)、1988年設立のアリスセンターはその中で最も早く設立されたものとなっている。 2 分析の方法 本研究では、いかにして制度化が進み、その中で組織がその流れに対してどのような対応や相互作用を行うかを分析する。そのため、日本独自のNPOやNPO支援組織の制度化の流れの中における特定の組織の行動を長期的に観察する。 具体的な調査方法としては、まず第1にドキュメンツ分析を行った。アリスセンターが活 動を開始した1987年から約10年にわたって刊行した機関紙『らびっと通信』250号分、その後を引き継いで刊行された機関誌『たあとる通信』 40号分、その他アリスセンターや関係者によって刊行された報告書や雑誌記事等のドキュメンツを収集し、分析した。  そして第2に、歴代の事務局長や理事などの関係者へのインタビューである。これは2001年より2021年までの20年間に約10名の関係者を対象に断続的に行った。ひとりあたりおおよそ2 時間程度のインタビューを2回から3回行った。また、直接の関係者ではないもののアリス センターと重要なかかわりがあった人物に対してもインタビューを行った。 さらに、アリスセンターの事務所を訪問したり、アリスセンターの主催する研究会、アリスセンターのスタッフが登壇するパネルディスカッションなどにも参加し、観察を行った。 これらの調査によって得られた情報から、アリスセンターに関する詳細な年表を作成した。 また、その設立の背景から現在に至るまでのモ ノグラフを作成した4)。この年表とモノグラフは、インタビュー対象者によるチェックを受け、 事実関係の確認を行った。  インタビューは事前に質問項目を送付した上で行ったが、話題が広がることをコントロール はせずに、ほぼオープンエンドでインタビュー対象者が自由に話すことを重視した5)。 Ⅲ 事例の分析 1 アリスセンター設立の背景と経緯 アリスセンターは1988年に設立された。そのきっかけは、長洲一二神奈川県知事を囲む会において、生活クラブ生協神奈川の理事長だった横田克己が神奈川県における市民活動の情報センターの必要性をスピーチの中で訴えたところ、かつて飛鳥田一雄横浜市長の右腕として活躍した鳴海正泰と、建築家で後にアリスセン ターの代表となる緒方昭義とが反応し、その実現に向けて3人が動き出したことにある。緒形は建築事務所を構える一方、学生時代から市民運動に関わり、生活クラブの他にも米軍基地住宅建設に反対する池子の森の活動や、逗子市の 市長選挙などにも関わっていた。 アリスセンターと言う通称は、設立の中心となり設立後は代表となった緒形がまちづくり情報センターかながわという団体の英文名として、 「Center for Alternative Live Intelligible Community & Environment」としたものを、最初の2文字を省いた頭字語が偶然「ALICE」となったことによる。この英文名は最初の団体パンフレット6)には最初の「Center」が「Base」と変 えられ、「もうひとつの、いきいきとした、わかりやすい地域社会と環境づくりのための基地」 という訳が付けられている。これが緒形たち設立者が目指した団体の姿と考えてよいだろう。 1980年代にはこの「もうひとつの(Alternative)」がキーワードのひとつとなっていた7)。 それはかつてのカウンターカルチャーのなごりでもあったし、政党や労働組合などに先導されたかつての運動から生活者目線での運動へのシフトも意味していた。とりわけ神奈川県では米軍基地があり、それに対する運動がさかんだったり、神奈川県、横浜市、藤沢市など革新自治体が多かった。さらに、生協を中心にした生活クラブの活動も活発だった。1986年にチェルノブイリ原発事故が起こったことも反原発運動などの市民活動を活発化させていた。 一方、従来の運動やボランティア活動から新しい展開を目指す動きも現れはじめていた。とりわけ1984年に翻訳刊行されたリップナック= スタンプスの『ネットワーキング』は、そうした新しい展開を模索していた人びとを触発し、 各地で多様な市民活動のゆるやかなつながりを目指す活動が起こった8)。 アリスセンターの設立発起人には緖形、鳴海、 横田の他に青木雨彦(評論家)、いいだもも(評論家)、須見正昭(平和運動家)、横山桂次(中央大教授)、服部孝子(横浜消費者の会)、又木京子(神奈川ネットワーク運動)といった市民運動に関係する者が多かった。 また、運営委員にはやはり緖形、鳴海、横田 の3人、そして岩崎容子(鎌倉市議)、上林得郎 (神奈川県自治研センター)、佐野充(日本大学)、 嶋田昌子(中区女性フォーラム)、服部孝子(横浜市消費者の会)、安田八十五(筑波大学)、柳谷あき子(藤沢市議)、渡部允(ジャーナリスト)、関一郎(弁護士)らが就いた。緒形はその代表となった。 2 スタート時の事業の模索 緖形、鳴海、横田の3人を中心にアリスセンター設立計画は動き出し、横田は生活クラブ生協からスタッフがアリスセンターに出向するという形でその人件費を負担した。横田はその後は直接的にはアリスセンターの運営に具体的には関与はせず、緖形、鳴海が中心となってアリスセンターの運営を支えた。 スタート時のスタッフは専従1名、アルバイト2名だった。事務所は緒形の建築事務所と同じ建物の同じ階に置かれた。スタッフ3名の人件費は生活クラブ生協から、事務所の賃貸料は会費から賄われた。いずれにしても、アリスセンターはスタート時より固定的な事務所と常駐する複数のスタッフを備えた団体だったのである。 運営委員会を中心にして設定されたアリスセンターの目的は、次の3点にまとめられた9)。 ① 今日の社会のあり方に疑問を持ち、新しい生き方や社会を創ろうと考えている人々が相互に交流する場をつくります。 ② 広く資料や情報を収集・ストックし、様々な創造的行動のための知識べースとして活用します。 ③ 蓄積された情報や部分の合意をもとに、問題を新しい視点から提起し、解決するための具体的なプログラムを研究・開発します。 この3点は、後には①情報交換の拠点(市民活動の情報センター)、②支援センター、③シンクタンクという形に整理された。 3人のスタッフは学生時代に選挙の応援活動 や自由ラジオ10)などの経験はあったものの、いずれも30代前半から20代の若者で、本格的な活 動の経験はなかった。それに、そもそも他に類似の団体がなく、具体的な事業の内容は決まっていなかった。この時の様子を最初の事務局長だった土屋真美子は次のように述べている11)。 「あまりにも漠然としたこの目的の前に、 スタッフは何を具体的にして良いのやら理解できず、大変悩んだ。とりあえず取り組 めそうなのは①の情報交換の拠点である。 まずは情報を集めて発信しようと、「らびっと通信」という情報誌を「月2回」のペースで発行することにした」。 また、スタート時のもう一つの事業として「ワンダーランド・神奈川」と名づけられたパソコン通信ホスト事業が行われた。まだインター ネットがなかったこの時代では、パソコン通信は新しい通信手段として注目を集めていた。このパソコン通信の事業は、むしろ情報センターとしてのアリスセンターの中心的なものとして スタート時から開始されたが、2、3年のうちに事業は低迷し、まもなく終了となった12)。 3 情報サービスの転回 3人のスタッフは、設立時の構想の内の「① 情報交換の拠点(市民活動の情報センター)」を最初の目標とし、その具体的事業として情報誌の発行を行った。これはスタッフが神奈川県内の市民団体やそのイベントなどに出向いて情報を集め、それを紹介するといったものだった。 しかし、その情報サービスのあり方については、 開始から数年で大きな転回が行われた。スタッフが苦労して集めた市民団体の情報は、一体何のためのものだったのかを再検討せねばならない事態が起こっていたからである。 それは、アリスセンターへの問い合わせの多くが市民団体からではなく、行政、マスコミ、 コンサルからのものだったということである。 この当時のことを土屋は次のように振り返っている13)。 「ただ、この時期あたりからスタッフは妙なことに気づきはじめてもいた。相談や間 い合わせは徐々に増えてきたのだが、その多くが行政やマスコミからの問い合わせな のである。たしかにアリスセンターは認知されはじめ、市民からの情報の提供は多く なっていたので、らびっと通信の情報欄は 充実してきていたが、具体的な市民団体からの相談よりもマスコミや行政からの問い合わせの方が圧倒的に多い。「本来、市民 活動のための情報センターなのに、なぜか?」と自答して出た結論は、現在アリスセンターで取り扱っている情報は、市民として発信したい情報ではあるが、自分たちが欲しい情報ではないのかもしれない、ということだった」。 ここで、自分たちが何のために情報センター を作ろうとしていたのかを問い直し、「市民活動の情報」ではなく「市民活動のための情報」 を提供するという転回をしたのである。これについてスタッフだった川崎は以下のように振り返っている14)。 「すでにある情報やノウハウを行き交わせるだけでは、市民活動にとってそれほど有 益なセンターとはならないということがわかってきた。市民活動にとって本当に有益 なのは、多くの市民団体がもっていない情報やノウハウであり、そうした情報やノウ ハウを蓄積し、提供することが必要なのだと考えるようになった」。 市民活動にとって有益な情報やノウハウを提供することをあらためて考えながら、スタッフたちは具体的事業をさらに模索していった。 4 事業の探索と深化 月2回の機関紙の発行はその後も続けられたが、そこでは市民活動団体によるイベントのアナウンス、掲示板としてのパートと、市民活動に関係するトピックの特集記事のパートとの2部構成となった。 そして、市民活動の事務局を担うという事業が新たに加えられた。これはアリスセンターが常設の事務所とスタッフを抱えていたことで引き受けることになったものだったが、それによってさまざまな関係者や団体のネットワークのハブとしての役割を担うことになり、アリスセンターは神奈川県の市民活動の中での存在感を高めることになった。1990年には「アースデイかながわ連絡会」の事務局を担い、そこから 『地球を救う127の方法』というリーフレットを発行することになったが、チェルノブイリの原発事故がまだ記憶に新しい中でこのリーフレットは評判となり、8万5千部も発行することになった。その後、1992年に「ファイバー・ リサイクル・ネットワーク」の事務局を担い、 古着のリユース事業は定期開催されることになった。 同じ時期にはじめられたもう1つの事業が委託調査だった。初めて受託した調査は、あき缶処理協会から受けた「商店街における廃棄物処理の実態調査」だった。アリスセンターが環境問題に関わっていたことから依頼があったものである。調査といってもポイ捨てあき缶の数を数えるというものだったが、これが委託調査を事業とするきっかけとなった。そして横浜市などから委託調査を受けるようになり、アリスセンターを支える重要な収入となっていった。またこの時期にはトヨタ財団から助成を受け、「市民活動マネジメント」に関する調査や講座を行ったりもしている。 これまでの情報センターとしての活動の蓄積、それによって築いたネットワークを活かし たシンクタンク的な事業が、アリスセンターの中で徐々に大きくなっていったのである。そして、特に行政からの委託事業について、法人格がないことがネックとなることがあり、それを解消するために有限会社の「アリス研究所」が 設立された。これは委託事業を受けるための形式的な会社であり、緒形と初代事務局長だった土屋が代表という形であったが、内部の実態としてはその業務もこれまでのアリスセンターのスタッフでまかなわれた。 アリスセンターが積極的に委託事業を引き受けることに対して、市民運動の世界で指導者的立場にあった須田春海から忠告を受けたが、事務局長だった土屋は「他に方法がない」と反論したという15)。いわゆる市民運動は、抗議活動やビラ配布などのアドホックな活動を中心とし、常設の事務所やスタッフを置くことはなかったが、アリスセンターはそうではなく、それらを備えたセンターであることがそもそもの設立の目的だったのである。とはいえ、生活クラブからの人件費負担もいつまで続くかわからず、事務局長だった土屋は、事務所とスタッフを抱えるアリスセンターを維持することに腐心していたのである。当時のことを土屋は次のように振り返っている16)。 「生活クラブ生協のスポンサーは6年間続いたが、基本的には人件費のみで「活動費 は自分で稼げ」という方法だった。それゆえ、会費をつのったり、業を行って活動費 をひねり出すのが要求され、スタッフは月末には預金通帳をながめて青くなる、とい うまさに自転車操業状態だったが、結果的にはこれによって自立のノウハウが蓄積さ れ、活動の基盤が確立できたのである」。 これがアリスセンターの事業探索の一方の動機であり、また事業を深化させる動機でもあったのである。設立者たちから引き継いだ市民運動の精神をコアにしながらも、維持費の確保が必要な体勢による必要性から、従来の市民運動の組織とは異なる事業展開が模索されたのである。本体はあくまでも任意団体としながら、行政からの委託事業を受けるための有限会社を併設したのもその結果だったのである。 5 NPO法の影響 1995年の1月に発生した阪神・淡路大震災は、 多大な被害と社会へのインパクトをもたらした。行政機能が麻痺する一方で140万人ともいわれるボランティアによって被災地支援が行われ、それは「ボランティア元年」と評された。 公益法人をはじめとする既存の非営利法人制度の問題点は以前から指摘されていたが、具体的な法人制度改革に向けての動きはこの阪神・淡路大震災をきっかけとした。 そして1998年に成立した特定非営利活動促進法(NPO法)はアリスセンターにもいくつかの大きな影響を及ぼした。まず第1に、アリスセ ンターが新しいNPOのサポートセンターの先駆的存在として認知され、全国的に注目されるようになったことである。NPO法成立に向けての動きの中で、一方では新しいNPOの設立やネットワークづくりを支援するセンターの設立が増えていった。1996年の11月に設立された 日本NPOセンターをはじめとして、1996年には市民フォーラム21(4月)、シンフォニー(4 月)、NPOサポートセンター(4月、NPO推進フォー ラムが改称)、CS神戸(10月)、大阪NPOセンター (11月)などが、翌年の1997年にはNPO政策研 究所(5月)、広島NPOセンター(9月)、せん だい・みやぎNPOセンター(11月)などが設立され、その後も都市部を中心に続々と支援センターが設立されていった。1998年12月にNPO法が施行されるよりも前からNPO法人設立急増を見据えて、各地でそれを支援する体制作りが進んだのである。 それらのNPO支援センターのナショナルセンターと目されていた日本NPOセンターが、 設立して間もなく発行した機関紙の準備号で、 アリスセンターは裏面一面のスペースを使って紹介された17)。また、日本NPOセンターによる 毎年のイベントとなるNPOフォーラムの第1回目の現地事務局としてアリスセンターが選ば れた。こうしてアリスセンターは全国的に知られるようになり、スタッフはさまざまなフォーラムやセミナーに登壇したり、他の団体から相談を受けるようになった。 NPO法の影響の第2は、アリスセンターの事業の競合者の出現をもたらしたことである。 NPO法成立によってNPO法人設立が増加することが確実となり、それに対応するための体制作りの必要性から、その参照先としてアリスセンターは全国的な注目を浴びるようになったが、支援体制づくりは民間だけではなく、行政の方でも進められた。都道府県ではNPOの認証事務を行う部署が設置され、そこでは単に認証の手続きだけではなくその支援事業の必要性も認知されたのである。行政によるNPO支援は、そのための施設を設置するという形で進行した。その初期において全国的に大きなインパ クトを与えたのが、神奈川県による「かながわ県民活動サポートセンター」だった18)。それは、 その後もそれを凌駕する施設が現れないほどの規模を有するものであった。また、会議室や作業設備などを市民に提供する施設ではあったが、そうしたハード面だけにとどまらず、徐々に支援のプログラムを備えていくことになった。この県民活動サポートセンターの出現は、 全国の自治体による支援センター設置の動きを刺激した。もちろん、神奈川県下の自治体にも大きな影響を及ぼし、表1のように続々と行政による市民活動センターの設置が進んだのである。これらの行政が設立する支援センターは、 市民活動支援というプログラムにおいてアリスセンターの事業と競合したばかりではなく、さらにそのセンターの運営をいわゆる中間支援組 織と呼ばれる組織に委託で(その後には指定管理者として)任せるようになり、アリスセンターの行う事業と競合するNPO支援組織を増加、 成長させることになったのである。 さらに第3として、アリスセンター自体の NPO法人化に関わる事がらがある。アリスセ ンターは法人格を持たない任意団体として10年にわたって活動してきたが、NPO法成立に向けた運動にも参加し、NPO法が成立したのを受けてすぐに法人化した。その際に、これまで設立以来10年にわたってアリスセンターを支え てきた運営委員会のメンバーから一新されたメンバーによる理事会が組まれた。アリスセンターの顔だった緒形だけが理事長として1期だけ残り、他はこれまでよりずっと若いメンバーが理事となった。さらに役員の任期は2年とされ、その再任は1度だけとされた。緒形については最初の1期だけ理事長を務め、その後任には緒形より40歳も若い大学助手の饗庭伸が就くことになった。NPO法人化に伴って定められたこの2年2期までという役員任期は、その後 アリスセンターの役員の顔ぶれを4年ごとに入れ替えていくことになるのである。 表1  神奈川県内の公設市民活動支援施設の設立 6 低迷とその後 公益法人をはじめとする既存の非営利法人は、主務官庁の許可主義や設立後の指導監督など、官によるコントロールが強く、また税制優遇資格との不分離性などがあり、それとは異なる市民が主体の法人制度を作ることがNPO法を作るのにコミットした市民団体側の目的だった。それが既存の非営利法人とは切り離された日本独自のNPOを生み出した。そうした市民主導のNPOを先導する存在としてNPO支援組織の重要性が指摘され、そしてその先駆的存在としてアリスセンターは全国的に注目されることになった。 しかし、知名度が高まる一方でその足元は崩れはじめていた。市民活動を支援する活動の必要性は広く認知され、行政による支援施設が続々と設置され、支援組織も増加し、そのキャパシティも高まっていった。とりわけアリスセンターの活動の地元である神奈川県、横浜市においては、革新自治体であった時期が長かったこともあり、それらの施設や組織が揃っていくスピードは速かった。それらが行う事業は、これまでアリスセンターが探索し、軌道に乗せつつあったものと同じだったのである。それどころか、行政の施設はスペースや資金などの面においてアリスセンターより豊富であり、多くの利用者を集めていた。そしてその施設の管理・ 運営の仕事を受託した支援組織も同時に成長していった。 ところが、行政による支援施設やそれを管理・ 運営する支援組織が増加し、成長していく中で、 その方向性がアリスセンターの目指すものとは微妙なズレを見せるようになっていった。新しいNPOの世界では、積極的に行政との協働が進められ、かつての市民運動のように行政に対して抗議したり、要望を突きつけるというような活動は避けられるようになっていたのである。また、行政の設置した施設で行われる市民 活動やそれを管理運営する支援組織の事業も、自ずと行政の枠組みの中でのものに制限される傾向が見られるようになっていったのである19)。この点について、川崎は次のように述べ ている20)。 「行政の委託事業としての市民活動・NPO支援では、NPOの政策提案、特に政治的に争点となるような取り組みを支援することは難しい。民設民営の中間支援組織であれば、政治的 な争点に関わる問題に取り組むNPO、例えば原発のない社会をめざすNPOや自然保全のために開発計画に反対するNPOなどにも、組織として賛同して行動をともにすることもできる。 NPOが新たな法律や条例の制定などをめざす場合、民設民営の中間支援組織であれば、ともに国会や自治体議会に働きかけるような活動もできる。しかし、公設公営や公設民営の市民活動支援施設の事業の一環としてはそこまでは路み込めない。政治的な争点に対して中立であること、そして設置した自治体の政策から逸脱しないことが求められる」 行政と対立することがあるのも常識だった市民運動の精神を受け継いだアリスセンターで は、こうした流れを批判的にとらえ、行政の設置した支援施設の管理運営の事業には手をあげなかったのである。その一方では、後発の支援組織がその仕事を得て、組織としての経営基盤を安定させていった。 そしてアリスセンターでは、収入の柱だった行政からの委託事業の減少に直面していた。アリスセンターが設立された1988年ごろはバブル景気のピークであり、行政においても財政的な余裕があり、さまざまな社会課題への取り組みや市民活動への支援など多様な取り組みがなされ、その中のいくぶんかがアリスセンターへの委託事業となっていた。しかし、バブル経済崩壊がはじまり、行政の財政も引き締められて いったのである。 こうした状況の中で、2001年3月には初代事務局長だった土屋がアリスセンターを去った。 土屋がアリスを去った理由は、アリス内部の事情やトラブルによるものではなく、新しい 「NPO」や「NPO支援」の流れに対する違和感からのものだった。土屋は日本における新しい「NPO」が隆盛しはじめ、その中での自分たちのヘゲモニーを期そうとする人びとに対して違和感を覚えた。それにもかかわらず、これからの新しい「NPO」界を引っ張っていこうという人たちの輪の中に、アリスがむしろその先輩格として巻き込まれてしまっており、言いようのない居心地の悪さを感じ、もうアリスを辞めるしかないと思ったという21)。 そして、土屋とともに初期からのスタッフで2代目の事務局長だった川崎も、2006年に家庭の事情などによってアリスセンターを去った。 その後任には公募によって国際機関で働いていた藤枝香織が選ばれた。役員の方は、NPO法人になった際に作られた定款で任期が2年2期までとされていたために、法人化前のアリスセ ンターの関係者は誰もいなくなっていた。もちろん、役員任期後も会員としてアリスを支える者が多かったが、かつての運営委員会でもアリスの事業が軌道に乗ってからは、現場スタッフの提示する事業計画のほとんど承認機関になっていたし22)、初期からの関係者はすでにかなりの年配になっていた。さらに、この任期の制限によって適任者が枯渇し、神奈川県在住の役員 がほとんどいなくなり、理事会も東京で行われるようになっていた23)。会員の数も初期からの人的なつながりが希薄化する中で徐々に減っていった。 厳しい状況の中で事務局長に就任した藤枝 は、『たあとる通信』の発行も続け、委託事業も受託していたものの、徐々に活動は低迷し、 やがてアリスセンターの解散を検討するようになった。そして、その時点での役員たちと解散 の方向を取り決めた。しかし、先代の事務局長だった川崎にその件を相談したところ、これまでのアリスセンターの役員、会員などの関係者 の意向を聞くべきであるとの示唆を受け、ちょうどアリスセンター設立の25周年の時期にも重なっていたために、これまでの活動の総括と今 後のことを検討する機会として25周年記念集会と、『たあとる通信』でのその特集を組むことになった24)。この25周年の事業を企画する段階で、藤枝はアリスセンターを離れ、川崎やかつての理事であった内海宏、菅原敏夫、鈴木健一などが役員となり、心機一転が図られることになり現在に至っている。 Ⅳ ディスカッション 1 発見事象 以上、アリスセンターの設立とその事業展開を時系列的に記述することによって発見された事象は以下のようなものである。 ① アリスセンター設立を構想したメンバーたちは市民運動との関わりが強く、その精神がアリスセンターの基本的な価値、理念となっていた。 ② 設立時には具体的事業はまだ決まっておらず、設立されてからスタッフによって事業が探索された。また、事業の探索はその後も継続された。 ③ 情報をめぐる事業は、「市民活動の情報」 から「市民活動のための情報」へという転回があった。 ④ 「NPO」、「サポートセンター」、「中間支援組織」などの言葉や概念は、アリスセンターが事業を探索し、実行した後から出てきた。 ⑤ アリスセンターは「NPO」、「サポートセ ンター」、「中間支援組織」などの言葉や概念が社会的に一般化することを利用しようとした。しかし一方で、その流れに対して疑問を持っていた。 ⑥ 自らの基本的な価値や理念を「市民運動」 に置き、それは事業や団体の位置づけが変わっても変わることがなかった。 2 考察 本稿の問題意識は、NPO支援組織がどのように発生し、どのようにひとつの制度として普及していったのか、そして組織はその制度とどのように向い合うのかということである。 ここでいう制度とは、諸組織間や組織フィー ルドで形成される認知的な標準様式、そしてそれによってもたらされる形式やシステムなどを指す。組織はどのように行動したり、その構造を変化させていくのかを説明するのに、合理性を追求するため、あるいは環境に適応するためと説明されてきたが、合理性の追求や環境への適応という組織の行動をより正確に、現実的に説明するために導入されたのが制度という概念だった。 組織は合理性を追求しようとするが、どういう行動をとることが合理性につながるかが評価しにくい場合、あいまいな場合には「正当性」 を追求する。合理性と組織の実際の活動との関係性が不明確な場合、両者の関係が緩やかなも のにされたり(ルースカップリング)、直接的な関係づけが放棄(ディ・カップリング)されたりする。そして組織で実際に行われている活動が合理的なものであると正当化(神話化)される。 こうした正当性という文化的、認知的側面が組織の構造や行動を規定するというのが制度という概念を導入した説明である。 この制度を概念とした理論は多くの研究者の関心を集め、さまざまな議論が展開されている。その中でも、この制度がどのようにして形成さ れるのかについては多くの議論が展開された。 DiMaggio and Powell(1983)による同型化という概念はその中心概念となっていた。諸組織は正当性を追求するために、正当性があると見なされた組織の活動や形態を採用(模倣)する。 これによって諸組織の同型化が生じる。さらにその諸組織の同型化は個々の組織に圧力となり、同型化の流れが強化される。このようなプロセスによって諸組織間や組織フィールドで形成される認知的な標準様式、そしてそれによっ てもたらされる形式やシステムなどが制度を形成するというものである25)。 しかし、同型化しながら制度が形成されるという説明だけではその制度の最初の発生や変化が説明できないことから、それを説明する概念として注目されるようになったのが制度ロジックであった。これは制度というものはワンピー スなものではなく、組織や組織フィールドにいる人びとの認知的なものであり、そこにはそれを認知したり、正当性を認める価値や信念や規範といったものがいくつか混合された状態で存在するというものである。こうした制度を形成するものが制度ロジックである。Thorntonらは制度ロジックを「社会的に構築された、歴史的な文化的シンボルと物質的実践のパターンから得られる、さまざまな価値、信念、規範、関心、アイデンティティ」と定義している26)。また、Greenwoodらは「組織の現実をどのように解釈するか、何が適切な行動を構成するか、 どのように成功するかを規定する包括的な原則のセットである。言い換えれば、ロジックは、 社会的状況をどのように解釈し、機能させるかについてのガイドラインを提供するものである」27)としている。 本稿で取り上げたケースにおいては、「NPO」、「中間支援組織」を制度ロジックとして捉えることができるだろう。もちろん、「NPO」については実際にNPO法という法律制度となっているが、それを条文から構成された法制度として見るだけでは「NPO」を十分 には論じられない。諸活動の結果として成立、 施行されたNPO法は、既存の非営利法人制度の改革の流れの中で捉えなければ、その意味は説明できないのである。なぜ日本において長く民間の公益活動を担ってきた公益法人などと区別して「NPO」が論じられ、別の法人制度が作られたかを説明するには、公益法人制度の歴史的経緯、阪神・淡路大震災をきっかけとした NPO法成立に向けた運動などが踏まえられていなければならないのである。そういう意味で 「NPO」は、NPO法人制度を中心とした制度を形成する価値、信念、規範、関心、アイデンティティである制度ロジックと見なすことが必要なのである。 また、中間支援組織についても、明確な定義がなされないままにNPOを支援するNPOとして、さらには現場組織を支援する組織全般を指す用語として一般化しているが、「NPO」の中でも特別なポジションにある存在として制度ロジックとなっている。「中間支援組織」は、地域の市民活動のまとめ役、世話役、代弁者として位置づけられ、また行政側からは市民活動の窓口、境界連結者、公民連携のパートナーと見なされる。さらには、公民連携の物理的な形としての公設民営の市民活動支援施設の管理運営者であることが標準的な姿となっている。 アリスセンターをめぐる制度ロジックとしては、さらにその初期における「市民運動」も加える必要がある。「市民運動」、「NPO」、「中間 支援組織」という制度ロジックは、大きく見るならば「市民活動」、「NPO」あるいは「民間」 という一つの制度ロジックとして捉えることもできるだろう。しかし、このケースで確認できたことは、アリスセンターという組織はこの3つの制度ロジックの流れを識別しながら事業を探索し、自らのアイデンティティを確認してい たということである。こうした組織の行動を説明するためには、ここではこれらを異なる制度 ロジックとして捉えることが重要である。 表2は「市民運動」、「NPO」、「中間支援組織」 という3つの制度ロジックの特性の違いを整理したものである。それぞれの実際の組織や活動は多様であるが、ここでは特性の違いを分かりやすくするために典型的なものを想定して整理している。 これらの3つの制度ロジックとアリスセン ターとの関係を整理しておこう。まず、アリスセンターは市民運動のロジックの中に身を置いていた横田、緒形、鳴海らによって構想された。そのベースには、学生運動、基地反対住民運動、 生活クラブ、神奈川ネットワーク、革新自治体があり、その中にあったロジックの構成要素は行政との対抗、生活者主権、反保守などである。 そしてこれらがアリスセンターの基層を成した。 しかし、アリスセンターはこの市民運動のロジックをそのまま受け継いだわけではなかっ た。常駐の事務所と専従スタッフを備えるというこれまでの運動体とは異なる要素をその出発点から持っていたために、この態勢を維持するという、いわば組織としての慣性が事業の探索という行動を導いた。また、この組織の慣性が市民運動のロジックとのコンフリクトを生み、 スタッフはその葛藤の中で具体的事業を探索し、その意味付けを行っていた。 やがて「NPO」というこれまでの市民運動やそのあり方をリニューアルする制度が形成されはじめ、その社会的なインパクトを自分たち の活動にとっての追い風として積極的に取り入れた。しかし、NPOのロジックの中には市民運動のロジックと対立するものもあり、アリスセンターのスタッフたちは自分たちのアイデン ティティとして市民運動のロジックを残しながら、「NPO」の制度に乗る(利用する)という行動をとった。 こうした制度やそのロジックの選択的利用 は、「中間支援組織」の制度化の中でも行われた。 外部から「中間支援組織」のパイオニアと目され、自らもそのようにふるまいながら、その中の主流となっていた公設民営の支援センターの管理運営事業には乗ることはなかった。「中間支援組織」の制度化の中で、各地の主だった中間支援組織が行政設置の支援センターの管理運営事業を受けることでその存続基盤を安定させていたが、アリスセンターではその基層としての、「市民運動」のロジックからはそれは受け入れられなかったのである。 アリスセンターのその後の低迷の原因のひとつは、この行政設置の支援センターの管理運営事業を選択しなかったことにあるといってよいだろう。しかし、「市民運動」のロジックをその基本的価値としている組織としては、むしろ行政設置の支援センターの管理運営事業を選択して、それによって行政による制約に縛られるような状態になってしまうことこそが自らの存在意義の喪失となるのである。 表2 各制度ロジックの特性 出所:Thornton et.al. 2008などを参考に筆者作成 Ⅴ まとめ 本稿においては、中間支援組織のパイオニアとされるアリスセンターの設立前から今日に至るまでの行動を「市民運動」、「NPO」、「中間支援組織」などの制度ロジックとの関係の中から分析した。日本において「NPO」、「中間支援組織」という言葉や概念が生まれるより前から事業を行っていたアリスセンターが、それらのパイオニアとして社会的に認知されながら、 その制度化の流れを解釈し、その制度化を利用したり、逆に翻弄される様子を記述することができた。 制度と組織との関係を分析するには、ある時点の姿だけを切り取ったスナップショット的な分析では限界があり、ある程度の時間的な幅の中での変化を観察する必要がある。歴史的制度論という方法が提示されるのもこのためである。本研究では、具体的ケースについて30年余りにわたる期間の分析ができた。またそれは、 阪神・淡路大震災やNPO法成立という歴史的なイベントを経過して制度化が生じた期間であった。この期間において日本独自のNPOや中間支援組織の制度化が起こったのである。そうした複数の制度の流れの中にありながら、アリスセンターという組織は時には自らがその参照先となりながら、それらの中のロジックを使い分けていたケースを示した点に本研究の意義があると思われる。 一方、課題も残されている。まず、本稿において制度あるいは制度ロジックとして識別した 「市民運動」、「NPO」、「中間支援組織」が、 それぞれ制度あるいは制度ロジックとして扱われることが妥当である説明が十分とはいえない。そもそも社会学的制度論とか新制度理論といわれる諸研究での「制度」という概念は認知的側面を重視するため、何をもって制度として規定されるのかが明確ではない。逆にいえば、 そうした解釈の余地があったり、認知の差がありうるからこそ、それをめぐっての組織ごとの行動の違いや制度の変化が説明できるのである。また、そうした制度はそれに関わる諸組織や組織フィールドとの相互作用の中で変化し続ける。したがって、制度それ自体を厳密に捕捉するということ自体が困難なのである。しかし、 明文化されたルール、同型化した組織の数、発生したイベント数、メディア掲載頻度などを測定して、ある程度は制度というものを推定するということは可能だろう。あるいは、ディスコース分析や計量テキスト分析などによって関係する人びとが認識する制度やロジックを定量的に把握することも今後は必要と思われる。 [謝辞] 本稿を作成するにあたり多くの方にインタビューに応じていただいたり、資料を提供いた だいた。とりわけアリスセンターの事務担当理事だった故鈴木健一氏にはそれらの調整をいただいた。記して感謝したい。本研究はJSPS科研費、 18K01781、20K01871、20K01844、21K01665、 22K01739の助成を受けたものである。 [インタビューリスト] 土屋真美子(初代事務局長)、川崎あや(2代目 事務局長)、藤枝香織(3代目事務局長)、饗庭伸(2 代目理事長)、内海宏(現理事長)、鈴木健一(故人・ 元理事)、菅原敏夫(理事)、早坂毅(元監事)、 横田克巳(生活クラブ生協神奈川元理事長)、山岡義典(日本NPOセンター顧問)、椎野修平(元かながわ県民サポートセンター部長)、藤井敦史(立教大学教授・元アルバイトスタッフ) [注] 1)内閣府国民生活局(2002)、3ページ。 2)前掲書、「アンケート調査送付先一覧」、146-149ページ。 3)日本NPOセンターHP「NPO支援センター一 覧」、2021年12月17日確認  https://www.jnpoc.ne.jp/?page_id=757 4)アリスセンターの設立の背景から設立後の初期についてのモノグラムは一部公刊済みである(吉田2021、吉田2022)。またその後についても、後編として公刊予定である。 5)インタビュー対象者が自由に話すことで、事前には予期していなかった新たな情報が得られる可能性があること、そしてインタビュー する側のストーリーの展開に対象者が合わせてしまうことを防ぐためである。 6)アリスセンターの最初のパンフレット(1988 年) 7)リップナック=スタンプス(1984)においては「もうひとつのアメリカ」が論じられ、 1985年には日本各地のオルタナティブ運動の現場を紹介する『もうひとつの日本地図』が 刊行された。アリスセンターの創設者のひと りである横田克巳も『オルタナティブ市民社 会宣言 ―もうひとつの「社会」主義―』(1989) という著書を出している。 8)当時、JYVAの発行する雑誌『グラスルーツ』 の編集をしていた播磨靖夫などが中心となって「ネットワーキング研究会」が発足し、これが1989年に「日本ネットワーカーズ会議」 となった。また、仙台市では後に「せんだい・ みやぎNPOセンター」を立ち上げる加藤哲夫らが地域の団体のアルマナックである『セ ンダードマップ』を刊行した。 9)アリスセンターの最初のパンフレット(1988 年) 10)小出力による自主FM放送の運動で、「ミニ FM」とよばれることもあった。「自由ラジオ」 という言葉は粉川哲夫が提唱したといわれて いる。参考、粉川(1983)。 11)土屋(1999)、84-85ページ 12)パソコン通信は注目されていたもののこの当時はまだパソコンの普及もそれほどではなくまた通信コストも高く利用者も限られていた。 13)土屋(1999)、86ページ 14)川崎(2004)、30ページ。 15)土屋(2013)、28ページ。 16)土屋(1999)、84ページ 17)日本NPOセンター(1997)、「訪ねてみました情報拠点」 18)かながわ県民活動サポートセンターの設立の経緯については、吉田(2020)を参照のこと。 19)たとえば「さいたま市市民活動サポートセンター」では、政治的な活動を行う市民団体がセンターの利用登録団体であることに市議会議員が異議を唱え、このセンターは指定管理者制度から市の直営となった。 20)川崎(2020)、52-53ページ。 21)土屋真美子へのインタビュー。2021年8月22 日、Zoomでのオンライン。 22)土屋インタビュー、同上。 23)早坂毅へのインタビュー。2019年6月17日、 於:早坂毅税理士事務所(横浜市) 24)『たあとる通信』のアリスセンター25周年記念特集号は、37号(2013年4月)から40号(2013 年7月)まで毎月刊行された。 25)DiMaggio and Powell(1983)では同型化のパターンとして模倣的同型化の他に強制的同型化、規範的同型化を説明している。 26)Thornton, Ocasio and Lounsbury(2012), p.2 27)Greenwood et.al.(2011), p.318 [参考文献] DiMaggio, P.J. and W. W. Powell,(1991)“The Iron Cage Revisited: Institutional Isomorphism and Collective Rationality in Organizational Fields,” American Sociological Re︲ view, Vol.48, 1983, pp.147-160. in Powell W. W. and P.J, DiMaggio ed., 63-82. Greenwood, R., M. Raynard, F. Kodeih, E. R. Micelotta, & M. Lounsbury,(2011)“Institutional Complexity and Organizational Responses”, Academy of Management Annals, 5⑴, pp.317-371. 川崎あや「市民社会へ ―個人はどうあるべきか」財団法人まちづくり市民財団編  『まちづくりと市民参加Ⅳ』2002年12月、34- 40ページ 川崎あや『NPOは何を変えてきたか』有信堂、 2020年5月 粉川哲夫編『これが「自由ラジオ」だ』晶文社、 1983年7月 Lipnack,J. and J.Stamps,(1982)Networking: The First Report and Directory, Doubleday & Company,N.Y.,.(J・リップナック/J・スタ ンプス『ネットワーキング』(正村公宏監修、社会開発統計研究所訳)プレジデント社 1984年5月) 内閣府国民生活局編『NPO支援組織レポート 2002』2002年8月日本NPOセンター『NPOのひろば』創刊準備号、 1997年3月 Thornton, P.H., and W. Ocasio,(2008)“Institutional logics,” The Sage Handbook of Organi︲ zational Institutionalism, pp.99-128. Thornton, P.H., W. Ocasio and M. Lounsbury, (2012)The Institutional Logics Perspective: A New Approach to Culture, Structure and Process. Oxford: Oxford University Press. 土屋真美子「神奈川の市民活動の変化に応じて変わってきたアリスセンター」『造景』 No.19、1999年2月84-88ページ 土屋真美子「協働の25年 ~協働はもう過去の話か?」『たあとる通信』39号2013年6月、 28-32ページ 野草社:「80年代」編集部編『もうひとつの日本地図』野草社、1984年10月 横田克巳『オルタナティブ市民社会宣言 ―もうひとつの「社会」主義―』現代の理論社、 1989年3月 横田克巳『愚かな国の、しなやか市民』ほんの木、2002年6月 吉田忠彦「市民活動支援をめぐる施設、組織、 政策」『非営利法人研究学会誌』22号、2020年8月、57-73ページ。 吉田忠彦「アリスセンターの設立と事業展開 ―中間支援組織の解体のために―(上)」 『商経学叢』67巻3号、2021年3月、121- 138ページ。 吉田忠彦「アリスセンターの設立と事業展開 ―中間支援組織の解体のために―(中)」 『商経学叢』68巻3号、2022年3月、407- 440ページ。 論稿提出:令和3年12月21日 加筆修正:令和4年4月9日

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  • 第15回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    第15回大会記 2011.9.14-15 熊本県立大学 統一論題 地域の公共サービスと非営利活動―医療・福祉・介護の理論と実際― 公認会計士 清水貴之 非営利法人研究学会の第15回大会は、2011年9月14日(水)・15日(木)の両日にかけて、熊本県立大学を会場に開催し(大会委員長:森美智代氏)、会員を含め100名を超える参加者が集った。また、前日9月13日には常任理事会及び理事会が開催された。 大会1日目には、冒頭に総会が開催された。大会委員長、会長からの挨拶の後、新入会員の報告や学会誌の刊行など、昨年度の事業報告が行われ、学術奨励賞等の審査結果の発表と表彰が行われた。総会終了後、引き続いて本大会の統一論題「地域の公共サービスと非営利活動―医療・福祉・介護の理論と実際―」に基づき基調講演が行われ、その後統一論題に関する報告及びパネルディスカッションが行われた。パネルディスカッション終了後、会場を熊本テルサに移して懇親会が開催された。 【統一論題報告・討論】 大会1日目午後の統一論題は、藤井秀樹氏(京都大学)を座長として行われた。同論題に係る基調講演は、林田直志氏(熊本県健康福祉部長)が「熊本県における保健・医療・福祉政策と非営利活動」について行った。全国有数の長寿県である熊本県では、従前から福祉及び医療に力を入れてきていること、そして当該分野における非営利法人の重要性がますます増大していることなどについて、報告が行われた。 統一論題報告では、以下の3名の報告者から報告が行われた。 吉田初恵氏(関西福祉科学大学)は、「2012年の介護保険制度改正をめぐる諸課題」について報告した。来年4月に迫る介護保険制度 の改正の内容と当該改正の抱える課題として、地域包括ケアシステムにおける地域住民や行政、NPO等によるネットワーク構築の重要性、新たなサービスの開始に伴う恒久的な財源の確保の必要性等について問題提起を行った。 寺崎修司氏(熊本赤十字病院神経内科部長・医療連携室長)は、「熊本の脳卒中の地域医療連携ネットワークと地域連携パス」について報告した。長期に及ぶ脳卒中の診療の全てを単独の施設で行うことが不可能であるため複数機関の医療連携の必要性が増大していることや、そのような状況に対応するために1995年に設立された熊本県におけるネットワーク(K-STREAM)の活動等が報告された。 小林麻理氏(早稲田大学)は、「地域連携を促進する行政の役割転換と最適公共サービスの創出」について報告した。従来の行政主導型の公共サービスを見直し、地域に存在する多様なアクターの協働により、地域の中でいかに最適な公共サービスを提供していくか、そのガバナンスのあり方と行政の役割転換の 必要性について、医療・介護制度改革を題材として論じられた。 報告の終了後、休憩を挟んで討論が行われた。討論においては、医療・福祉・介護の分野を中心に、今後の公共サービスの提供のあり方と、その中に占める非営利法人の役割の重要性について活発な議論が行われた。 【自由論題報告】 大会2日目には、午前中に自由論題に関する報告が実施された。また、午後からは特別講演が行われるとともに、東日本・西日本両研究部会から各部会の研究内容が紹介された。午前中は、3会場に分かれて9つのテーマで 自由論題報告が行われた。各会場の報告者及び論題は以下のとおりである。 第1会場[司会:齋藤真哉氏(横浜国立大学)] ⑴今枝千樹氏(愛知産業大学)「非営利法人組織の財務報告」、⑵馬場英朗氏(愛知学泉大学)・中嶋貴子氏(大阪大学大学院)「非営利組織の成長と収入の安定性―NPO法人 のパネル・データ分析から―」、⑶五百竹宏明氏(県立広島大学)・毛利愛美氏(県立広島大学)「NPO法人の会計情報と資金調達に関 する実証分析」 第2会場[司会:川野祐二氏(下関市立大学)] ⑴河谷はるみ氏(九州看護福祉大学)「社会福祉サービスの質の保障と第三者評価事業 ―外部評価の意義と眼界―」、⑵日向浩幸氏(中央大学大学院)「自治体病院の経営革新」、⑶佐久間義浩氏(富士大学)「自治体病院におけるリスクマネジメント―アンケート調査を中心として―」 第3会場[司会:明石照久氏(熊本県立大学)] ⑴土把勲嗣氏(九州大学大学院法学部研究院専門研究員)「公共事業と政治参加―熊本県の川辺川ダム開発の事例報告―」、⑵澤田道夫氏(熊本県立大学)「新しい公共と地域のガバナンス」、⑶初谷勇氏(大阪商業大学)「地方議会改革とNPO」 【特別講演】 午後からは、江田寛氏(公認会計士・NPO法人会計基準策定委員会委員長)による、「新しいNPO法人会計基準への期待」と題した特 別講演が行われた。NPO法人に対する社会からの信頼について、東日本大震災において様々なNPO法人が被災地で活動しているにもかかわらず、支援者からの義捐金の大半は日本赤十字社等に集中しているという現状を通して、NPO法人がいまだ十分に信頼が得られていないことについて説明がなされた。そして、新たなNPO法人会計基準の策定・公表について、この会計基準が普及することでNPO法人に対する社会の信頼の醸成への貢献が期待されること、真の信頼を獲得するためには会計基準のみならず会計報告の適正性が確保されなければならないことを強調した。 【研究部会報告】 特別講演終了後、小島廣光氏(札幌学院大学)が司会となり、研究部会報告が行われた。東日本研究部会[部会長:岡村勝義氏(神奈川大学)]からは、「日本及び諸外国における非営利法人制度に関する研究―制度史・制度設計・広告制度・税制度等を中心にして―」というテーマについて、西日本研究部会[部会長:藤井秀樹氏(京都大学)]からは「非営利法人におけるアカウンタビリティ指向の業績評価とガバナンスの包括的フレームワーク」というテーマについて、それぞれ研究の進捗状況が報告がされた。 最後に、会長及び大会委員長からの閉会挨拶が行われ、盛況のうちに閉幕した。

  • 九州部会報告 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    九州部会報告 ■第9回九州部会記 日時 :2016年7月9日(土) 場所 :久留米大学 ​ 第1報告「公園維持管理における組織と人の役割」 山内元六氏(山鹿市役所) 本報告では、公園施設の事例分析を通じ、「協働概念に基づくアソシエーション組織」の検討を行った。熊本県山鹿市の“湯の瀬川公園”では、国や市、地域住民や公園利用者といったメンバーから構成される“菊池川育てねっと”が公園の維持管理を行っている。この官民連携の組織は様々なステークホルダーから構成されており、R.M.マッキーバーが提唱した「社会集団類型のアソシエーション」であると考えられる。また、官民が協力して清掃等の維持管理活動に取り組んでいることから協働概念に基づく活動であるとも考えられる。この事例から、共通の目的が存在する際には、アソシエーションと協働概念が紐づけられることを明らかにした(文責:山内)。 ​ 第2報告「防災と地域ガバナンス ― 被災者支援のあり方を中心に ― 」 黒木誉之氏(長崎県立大学) 熊本地震の特徴は、車中泊避難等による指定避難所以外での避難者の多さである。この問題は熊本県だけの問題ではなく、熊本県以外の地域も今後対応を検討しておく必要がある。そこで今回の調査は、震源地となった熊本県益ましきまち城町を対象に、①指定避難所以外で被災者が避難された場所を確認(条件の抽出)し、②その場所に避難された被災者への救援活動の実態を調査し課題等を明らかにすることを目的として行った。 現段階の調査結果として、①について、公園やショッピングモール、コンビニエンスストア等の駐車場に加え、幹線道路の路肩等について報告を行った。②については、企業やNGO・NPOの活動のみならず、SNSの活用による個人の活動が行政や団体による活動の隙間を埋めているとの報告を行った。 今後は現地での継続調査に加え、東日本大震災の被災地である宮城県南三陸町での調査も実施予定である(文責:黒木)。 ​ 第3報告「非営利組織体会計における純資産分類の意義と財務評価」 日野修造氏(中村学園大学) 非営利組織体の財務評価と純資産の分類には密接な関係があると考え、純資産分類の意義と財務評価に焦点を当てて、報告を行った。また検討の基点は、アメリカの非営利組織体会計に関する文献である。 検討の手順はまず、純資産の各分類手法を確認した。次に非営利組織体の財務評価は財務的弾力性、ハードマネー創出能力及び純資産の維持により評価することを明らかにした上で、一時拘束純資産に着目した財務分析について私見を述べた。 結果として、非営利組織体の純資産は資源提供者の提供資源に対する拘束の影響を考慮することが極めて重要であるとした。そして、さらに一時拘束純資産の分類区分を設けることで、より充実した財務評価・分析が可能になることを明らかにした(文責:日野)。 ​ ■第8回九州部会記 日時 :2015年12月19日(土) 場所 :熊本県立大学 ​ 1. 基調講演 「非営利組織会計基準の統一化に向けた 課題と展望 ― 日本公認会計協会『論点整理』に寄せて ―」 藤井秀樹氏(京都大学) 本年(2015年)5月に公表された日本公認会計士協会『非営利組織の財務報告の在り方に関する論点整理』に拠りながら、基準統一化に向けた課題を整理し、当該問題の今後の展開方向を展望した。海外(とりわけ英米)の先例との異動及び企業会計との関係に焦点を当てた検討を行った結果、⑴非営利組織の範囲や財務報告の目的については海外の先例と相違はないが、⑵企業会計の枠組みから独立した非営利組織会計の枠組みを構築しようとしている点、⑶基礎概念については個別文書を作らず、会計基準に組み込む形で示そうとしている点で、『論点整理』は独自のアプローチを採用していることが明らかとなった。企業会計基準委員会(ASBJ)との協力関係の形成が、今後の主要な課題のひとつとなろう(文責:藤井)。 2. 部会報告​ 第1報告「非営利・公益法人としての私立大学」 伊佐 淳氏(久留米大学) 日本の私立大学は、法制度上、非営利法人の一種である学校法人であり、広義の公益法人の範疇に位置付けられている。したがって、私立大学は、非営利の公益法人であるということができる。翻って、2014(平成26)年、学校教育法が改正されたが、そこに至る議論の過程では、大企業におけるガバナンスやマネジメントを、大学の運営者がお手本とするべきものとされた観がある。すなわち、素早い意思決定のためのガバナンスの構築や、学長の強力なリーダーシップによる教学部門の改革が強調されているのである。しかしながら、営利法人ではなく、非営利・公益法人としての私立大学においては、経営部門のトップに対するチェック・アンド・バランスを果たすためのガバナンスこそが重視されねばならないのではないか(文責:伊佐)。 ​ 第2報告「 農業における非営利法人の役割」 源田佳史(公認会計士) 以下の3つの点について報告した。まず、①「農協法改正に伴う農協の非営利規定の削除に対する対応」では、農協運営における経済性や効率性を重視していった結果、反作用としての公益的な業務(生活購買や厚生事業)は、非営利法人へ移管する傾向を解説した。次に、②「TPP対応としての輸出農産物の各農業団体の調整機能としての中立性公平性の確保」では、農協や農業団体、農業関連企業が利益調整を行いつつ、「オール九州」としての農産物輸出やインバウンド需要喚起のための調整機能があることを紹介した。最後に、③「農業地域の担い手の高齢化に伴う耕作放棄地の拡大や鳥獣害対策のための非営利法人の活用」では、耕作放棄対策として農事組合法人の設立や農地中間管理機構(非営利法人)の活動支援がなされていることや、鳥獣害対策のための非営利活動の必要性を指摘した(文責:源田)。 ​ 第3報告「公立病院の経営改革の現状 ― 新公立病院改革ガイドライン(2015年)を踏まえて ―」(熊本県を事例として) 森 美智代氏(熊本県立大学) 本報告では、2007年に公表された公立病院改革ガイドラインと2015年に公表された新公立病院改革ガイドラインの比較検討をした。 公立病院の運営は、自治体の管轄のもとで、公共サービスとして画一性が求められてきた。 また人事及び予算の権限は自治体にあり、予算至上主義によって医療機関の経営改善に遅れがあった。 しかし2000年代に入ると自治体には財政健全化計画の策定が義務付けられ(地方公共団体の財政の健全化に関する法律:2009年健全化法)、この法律とともに公立病院改革が進められてきた。 2007年ガイドラインでは①「経営効率化」②「再編・ネットワーク化」③「経営形態の見直し」が3つの柱となっている。これを継続して、2015年新ガイドラインでは、④「地域医療構想」を踏まえた役割が明確化された。 したがって公立病院の果たすべき役割の精査・病床の機能区分ごとの将来の病床数の必要量等が示され、地域医療構想が確認された。新しいガイドラインでは、特に経営の安定化のための目標指標が追加された。熊本の公立病院を事例として、経営改革の現状を紹介した(文責:森)。 九州部会

  • 第5回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    第5回大会記 2001.10.5-6 中央大学 統一論題 公益法人の社会的機能と責任 国士舘大学大学院 依田俊伸 2001年10月6日、午前9時50分から第5回公益法人研究学会全国大会が中央大学市ヶ谷キャンパスにおいて開催された。約100名の参加者を得て、活発な報告と討論が展開された。ちなみに本大会は、日本公認会計士協会によるCPE研修指定を受けた。 現在の大きな社会経済の構造改革の中にあって、公益法人に対しても、社会的責任を忘れたり効率を軽視しているものが少なくないとして改革が求められているという状況に鑑み、本大会の統一論題は、「公益法人の社会的機能と責任」と定められた。 自由論題報告は、3会場で行われた。第1会場〔司会:小宮 徹氏(公認会計士)〕では千葉正展氏(社会福祉・医療事業団)「介護利用型軽費老人ホーム等の経営診断指標について」、若林茂信氏(公認会計士)「公益法人会計基準の見直しに関する中間報告の問題点の検討」、第2会場〔司会:松倉達夫氏(ルーテル学院大学)〕では、吉田初恵氏(関西福祉科学大学)「介護保険の負担と給付について—自治体間格差の実証研究—」、立岡 浩氏(花園大学)「NPOとしての社会福祉法人の戦略・統治・リーダーシップ」、第3会場〔司会:佐藤俊夫氏(国士舘大学)〕では、梅津亮子氏(九州産業大学大学院)「病院看護サービスの原価測定—九州中規模病院のケーススタディを中心として—」、岡村勝義氏(神奈川大学)「公益法人情報開示の新展開—第三セクターに関連して—」の計6題の報告が行われ、それぞれ熱心な質疑応答が交わされた。 研究部会中間報告は、2会場で行われた。第1会場では、戸田博之氏(神戸学院大学)の司会のもと、西日本部会報告「非営利組織におけるマネジメントの多角的検討」の報告がなされた。第2会場では、杉山 学氏(青山学院大学)の司会のもと、東日本部会報告「わが国の公益法人会計に関する研究—社会福祉法人会計の現状と問題点—」の報告が行われた。 午後に入り、会員総会の後、興津裕康氏(近畿大学)の司会のもと、4氏による統一論題報告が行われた。報告者名、論題及びその要旨は次のとおりである。 論題1:公益法人の社会的役割と情報公開—会計情報を中心として— 亀岡保夫氏(公認会計士) 公益法人は、その活動を通じて社会福祉、学術、芸術等の分野における一定の社会的必要性を充足するという「社会的機能」を営んでいるものであり、その活動が、主として民間私人の創意工夫に基づき、かつ、社会の発展に絶えず寄与しているという点において存在意義を有している。 公益法人の本来の役割は、「不特定多数の者の利益」の実現にあるが、特に生命や生活という人間の根源的な営みに関する「不特定多数の者の利益」の実現への公益性の追求において公益法人は中核的な役割を果たしている。 そもそも公益法人(民法第34条に基づいて設立される法人)については、既に「公益法人の設立許可及び指導監督基準」により、特定の情報の公開が定められ、一定程度の公開が達成されている。しかし、今日の市場重視型の経済システムにおいては、財源の効率的、経済的利用が重要となり、それを判断する市場(国民、市民)に対してさらに一層の情報が提供されなければならない。公益法人がその事業の内容や活動の成果について、対外的に情報公開を行うことにより社会的に高い評価を得ていくことが、法人の事業の発展・存続のために必要である。情報公開において中心となるのは財務に関する情報である。さらに、公開される情報の信頼性を担保するために公認会計士等の監査が大変有効かつ効果的である。 以上を踏まえ、公益法人は、指導監督基準で定められているからではなく、自ら積極的に情報公開していくことが大切であり、また、監査についても、要請されるのではなく、自ら積極的に外部監査を導入していくことが望まれる。 論題2:公益法人への社会の期待—社会的機能と責任— 会田一雄氏(慶應義塾大学) 現在のわが国のように、ある程度社会が成熟し、しかも行財政改革を進めるに当たり、パブリックセクターのウエイトを軽減しなければならない環境下では、公益法人制度のあり方についてはもはや行政に委ねるのではなく、社会全体で議論すべき時期を迎えている。 公益法人の社会的機能を論じるに当たっては、まず組織の本質を解明しておく必要があり、本報告では、公益性と非営利性の意義を再確認し、社会が公益法人全体に対して何を求めているかを論じる。公益性とは、不特定多数の者の利益の実現であるが、これは法人の事業内容そのものの性格を表している。この点で、株式会社はその目的が富の最大化であるため、公益的な活動を行っていても公益性を云々されることはないが、反公益的活動を行う場合には指弾され排除される。非営利性とは、利益の獲得を目的とせず、利益を分配しないということである。したがって、非営利性においては支出の内容が十分に吟味されなければならず、特に、当該支出が資産か経費に該当するかという資産性の検討が重要となる。費用に該当する場合には、その適正性が要求される。 次に、法人が社会から付託された機能を果たすために、いかに社会との関係性を築き、また社会との接点を見出していくのかについてのアプローチを探る。公益法人が社会の期待に応える方法として、他の法人に対して税の支援措置や補助金といった優位性を持つとするとその優位性をどのように付与するかが問題になる。これには、アメリカ型とイギリス型があるが、どのような場合であれ、社会が期待するのは、民間主体であり、行政から独立した公益法人の存在である。公益法人が社会の期待に応えるためには、アカウンタビリティ(説明責任)を十分に果たす必要がある。そのためにはディスクロージャーが不可欠である。 ディスクロージャーの内容としては、組織目的・事業内容、財務内容が挙げられる。ディスクロージャーの方法にも様々なものが考えられるが、継続的かつタイムリーな情報公開が必要である。公益法人は社会全体により支えられると同時に社会の期待に応えるという責務を負っているのである。 論題3:公益法人・非営利組織の存在理由と活動環境 藤井秀樹氏(京都大学) 本報告は、財務会計論の立場から、非営利組織の存在理由とその活動環境について検討することを目的とするが、ここでいう「非営利組織」とは、公式に設立された組織であること、民間組織であること、利益分配をしないこと、組織内部で自主的に管理されていること、運営や管理にボランティアを含むこと、公共の利益に奉仕すること、という6つの特徴を備えた組織と定義する。 非営利組織の存在理由を大別すると、経済的機能に関わるものと、社会的価値に関わるものの2系統に分類できる。前者には市場の失敗、政府の失敗があり、後者には多元的価値と自由がある。そこで、上記2系統の存在理由の関係及び非営利組織に固有の存在理由は何かが問題となる。経済的機能に関わる存在理由は、非営利組織が経済社会において存在するための前提条件と言える。それに対して社会的価値に関わる存在理由こそ非営利組織に固有の存在理由である。というのは、社会的価値に関わる存在理由には上記の特徴が深く作用しているが、このうちのボランタリズムを不可欠の特徴とする組織は、非営利組織以外に見当たらないからである。 ここから、非営利組織における2つのパラドックス、すなわち「非市場性のパラドックス」(非営利組織は、その非市場的資源配分機能を市場経済の中で遂行せざるを得ない。)及び「非営利性のパラドックス」(非営利組織は、財務的基盤を自律的に確保しなければならない。)が発生する。ここにプロフェッショナリズムとボランタリズムとの両立が不可避の課題となる。 プロフェッショナリズムとボランタリズムとの両立を図るには、まずプロフェッショナリズムの向上が必要である。その環境整備のための方策として、会計学の観点から、資源調達制度の拡充とりわけ寄付の活性化と情報開示の強化を提案したい。この場合、会計は「修正された市場メカニズム」を期待どおりに機能させる情報システムとして活用されることになる。その意味で、非営利組織における会計の役割は今後ますます高まっていくものと思われる。 論題4:非営利事業の社会的機能と責任 堀田和宏氏(近畿大学) 非営利事業のあるべき経済社会的機能は、政府事業の限界の補完と営利企業の市場の失敗の補完にある。したがって、個別事業としての非営利事業は、政府機関とは異なる独自性・自立性ならびに効率性を発揮する経営と営利企業とは異なる有効性と信頼性に応える経営をするべき機能を持つ。 非営利事業の固有の責任とは、ミッションに信頼を寄せて集まる、それぞれのコンスティチューエンシー(寄付者・政府・購入者・ボランティア等)の信頼と期待に応えることである。そのためには、経営行動の意思決定の仕組みと事前計画・管理活動の過程(ガバナンス)に対する監視・評価方法と情報開示のあり方(アカウンタビリティ)を構築する必要がある。 しかし、非営利事業においては、営利企業が持つ基本的な責任メカニズムを持たないことから、モラルハザードの危険が大きい。そこで、委任を受けた寄付者/助成者への受託責任及びクライアント/利用者への社会公共的責任を遂行するためには、まずNPOガバナンスの再構築が必要である。 NPOガバナンスにおいては、寄付者・理事会と経営者の適正な役割分担という法的組織構造と現実の乖離の解決という問題及び外部との寄付/助成委託関係、内部の階層関係、非階層関係(ボランティア)にそれぞれガバナンスのあり方を再構築するためのガバナンスに参加させるネットワークの編成、監視・参加制度や社会勢力の監視活動の保証・促進という問題がある。ガバナンスにとって受託義務その他の義務履行責任と義務履行の説明責任はその基本的構成要素である。 最近のアカウンタビリティが求められる背景から、アカウンタビリティが多様化かつ複雑化している。さらにアカウンタビリティの内容が財務アカウンタビリティからプロセス監視・プログラム評価のアカウンタビリティへと拡大している。 以上から、単なる事後の説明責任ではなく、経営機関の行動と経営管理の監視(事前統制)、業績達成のモニタリング(経営管理プロセス・プログラムの監視・評価)、社会的責任の達成度を評価するメカニズムの構築、監視体制と社会的責任を問う具体的な制裁措置の構築、が必要とされる。 シンポジウムでは、大矢知浩司氏(九州産業大学)の司会のもと、上記4氏の報告を踏まえ、公益法人・非営利組織の固有の存在理由、公益法人におけるガバナンスのモラルハザード、ディスクロージャーの3つの観点から質疑応答が整理され、熱心な討論が行われた。質問者は以下のとおりである。 島田 恒氏(龍谷大学)、坂本倬志氏(神戸学院大学)、川崎貴嗣氏(公益情報サービス)、千葉正展氏(社会福祉・医療事業団)、吉田初恵氏(関西福祉科学大学)、吉田 寛氏(神戸商科大学)、杉山 学氏(青山学院大学)、永島公朗氏(公認会計士)、松葉邦敏氏(国士舘大学) ​ シンポジウム終了後、6階2611号教室において懇親会が開催された。本学会会長守永誠治氏の挨拶があり、和やかな雰囲気のなか19時10分散会した。

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