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  • ≪論文≫非営利組織におけるクラウドファンディングやファンドレイジング費の会計的課題

    PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 國學院大學教授 金子良太 キーワード: ファンドレイジング費 クラウドファンディング ミッション FASB 要 旨: 本稿では、非営利組織において寄付による資金調達、とりわけクラウドファンディングが 活発となる中で、ファンドレイジング費の会計的課題を検討し、わが国の非営利組織会計基 準への示唆を示す。非営利組織に特有のファンドレイジング費の会計的課題は、いまだ未解 決であるというのが本稿の問題意識である。  米国では長年にわたって、ファンドレイジング費はプログラム費用や管理費とは区分され てきた。これに対してわが国では、ファンドレイジング費を事業費や管理費とは別に区分計 上せず、多くは事業費に含められてきた。  クラウドファンディングは資金調達の一手段であって従来の寄付と共通する点が多いが、 支払手数料等の取扱いをめぐっては会計上の課題をより浮かび上がらせる。クラウドファン ディングを利用する寄付者の情報ニーズに着目し、プロジェクトごとの報告の必要性やクラ ウドファンディングのウェブサイト運営企業の情報開示の必要性を提示する。 構 成: I  はじめに II ファンドレイジングとクラウドファンディングの意義 III クラウドファンディングの会計とファンドレイジング費 IV クラウドファンディングの隆盛に伴う会計上の課題 Ⅴ まとめと展望 Abstract I will discuss accounting for crowdfunding fundraising expenses. This paper examines accounting issues associatedwith fundraising costs and provides suggestions for non-profit accounting standards in Japan as fundraising throughdonations, especially crowdfunding, becomes popular with non-profit organizations. Focusing on the information needs of funders who use crowdfunding, I will present issues such as the necessity ofreporting for each project and the necessity of information disclosure by companies operating crowdfunding websites. Ⅰ はじめに 本稿の問題意識は、非営利組織において寄付による資金調達、とりわけクラウドファンディング(以下「CF」)が活発となる中で、ファンドレイジング費の会計的課題を検討し、これまでの議論をレビューし、わが国の非営利会計基準設定への示唆を示すことにある。寄付等を得る手段は個別訪問、街頭での呼びかけ、イベント開催時での寄付の呼びかけ、CFなど多様であるが、近年盛んとなっているCFがファンドレイジング費を巡る課題をより可視化している。また、CFによる資金提供者の情報ニーズに着目する。 CFとは、インターネット等を通じて、不特定多数から資金を調達する手段である。購入型 (特定の商品の対価として)・投資型(特定の事業 に対する投資として)・寄付型(特定の事業に対する寄付として)に大別される。営利企業でも非営利組織でも行われるが、非営利組織では、とりわけ社会的意義の高いプロジェクトに対して寄付をする寄付型CFが重要である。 本稿は、次の通り構成される。第2章では、 CFの意義を示し、それらの特徴を述べる。第3章では、CFの会計処理について、ファンドレイジング費に着目して述べる。第4章では、 CFの進展に伴う会計上の課題を明示する。第5章では、これまでの議論をまとめ、今後の展望を示す。 Ⅱ ファンドレイジングとクラウドファンディングの意義 1 寄付型CFの概要 非営利組織において、寄付は非常に重要なファンドレイジングの手段であることは言うま でもない。寄付を集めるには多くの方法があるが、近年はCFが注目されている。 寄付型CFの代表的な例を図表1に示すと、次の通りとなる。 寄付型CFにおいては、非営利組織のウェブサイトで行うこともあれば、外部のCFサイト を使用することも多い。特に、中小規模組織においては自身の知名度が低くウェブサイトへの訪問が少ないこと、またCFに対するノウハウが限定的なこともあって、専門のCFサイトを利用することが多い。 CFサイトの利用にあたっては、手数料が生 じることが一般的である。手数料はサイトによっても、またサイト運営会社の提供するサービス内容によっても異なる。単に集金やウェブ サイトへの掲載を代行するだけのものから、 CFの企画や広報にいたるコンサルティングまで多岐にわたる。なお、代表的なCFサイトにおいては、寄付額から差し引かれる手数料は寄付額の10%以上にのぼり、このほか寄付額にかかわらず一定の手数料が徴収されることもある。手数料の内訳は様々であるが、CFサイトの利用手数料やクレジットカード等の決済手数料が課されることが一般的である。このほか、一定の手数料を利用者(寄付者)側に課すサイトもある。サービスの内容が様々であり、手数料は安いほどよいというわけではないが、手数 料部分については非営利組織が使用できない資源となり、寄付者の観点からは手数料に配慮が必要である。 図表1 寄付型クラウドファンディング 2 寄付型CFのメリットとデメリット 本稿で検討する寄付型CFについては、従来の伝統的な街頭募金や戸別訪問、電話やダイレクトメール(DM)での寄付の呼びかけと比較した場合にメリットとデメリットとがある。寄付型CFのメリットをあげると、次の点がある。 第一に、熱心な支持者を有する宗教組織、全国的に知名度の高い組織でなくても、事業や ミッションに対する「共感」を手掛かりにした資源調達が可能となり、組織の収益源泉を確保できる。これまでの寄付では、人的・地域的な結びつき等が不可欠で、そうでない組織は一般的には寄付を集めるのが難しかった。CFでは、 知名度の高くない組織でもプロジェクトへの共感等を手掛かりに、大規模な資金調達が可能となった事例がみられる。 第二に、これまでも組織とかかわりを持たなかった層(地域・年代)からの寄付が期待できる。 人的・地域的なつながりを重視した寄付は、どうしても高年齢層に偏りがちになる。若年層は、インターネットの利用時間は多く、社会的な貢献に対する意識も高い傾向にあり、寄付型CFは有効な手段となりうる。 第三に、戸別訪問・街頭での呼びかけやDM等に依存するよりも、ファンドレイジング費を安くできる可能性がある。街頭での呼びかけ等は人件費、交通費等が多くかかるし、DMには配送コストがかかるので、寄付型CFは送料や人件費を抑え、受取寄付金に対するファンドレイジング費の比率を下げることができる可能性がある。 いっぽう、寄付型CFにはデメリットも挙げられる。 第一に、寄付型CFのほとんどは非営利組織が行う特定のプロジェクトに対する寄付となるため、組織の財政基盤を確立するような資金調達や、プロジェクトを限定しない形での資金調達は難しい。また、特定のプロジェクト以外への資金の使用が認められず、組織の自由な意思決定により資源を利用することができないことが多い。 第二に、寄付型CFでは人々からの共感が得やすいプロジェクトに寄付が集まる結果、非営利組織がそれらのプロジェクトの遂行で手一杯となり、ミッションを達成するために本来すべきプロジェクトが優先されない傾向が生じることがある。非営利組織の活動は多岐にわたるが、どうしても人々の関心のひきやすい分野とそうでない分野とがあり、CFを通じてプロジェクトは多くの人々の共感を得て資金を集めやすいプロジェクトになってしまう。このことは、寄付型CFが中長期的な組織ミッションの達成につながらない可能性を示している。 第三に、CFにかかるファンドレイジング費が高くつく可能性がある。CFのメリットとし てファンドレイジング費が安くなる可能性については前述したが、むしろ高くなる可能性もある。その理由として、CFサイトを運営する企業から課される手数料率が必ずしも低くないことがあげられる。また、CFでは多くのプロジェクトの中からサイト訪問者が寄付先を選ぶこととなり、自身のプロジェクトを目立たせることが不可欠となる。人々の興味をひく取り組みに追加的な費用がかかったり、寄付者に対して返礼品等を準備する事例もある。この結果、CFサイトを通じたファンドレイジングの総合的な費用が高くなる可能性がある。  以上の通り、寄付型CFにはメリットとデメリットとがあるが、これらを前提としたうえで、次章では会計に焦点を絞って議論を進めていく。 Ⅲ クラウドファンディングの会計とファンドレイジング費 1 寄付型CFの会計 ここでは、非営利組織がCFにより寄付を受け入れた時点の会計処理を示す。CFによって 受け入れた寄付は、受取寄付金として処理され、各種の手数料を差し引いて非営利組織に入金されることとなる。この仕訳を示せば、次のとおりである。 (借)現 金 預 金 ×× (貸)受取寄付金 ×× 支払手数料 ×× 借方の支払手数料と貸方の受取寄付金については、収益・費用のどの区分に記載されるのであろうか。 最初に、貸方の受取寄付金について検討する。寄付型CFの多くは特定のプロジェクトに対する寄付となり、わが国の公益法人会計基準に基づくと、当該受取寄付金は寄付者による使途の指定のある指定正味財産の増加となろう。もっとも、寄付型CFにおける使途の指定の方法には多様性があり、使途の指定の範囲が組織の活動分野全般にわたるなど幅広く、資金の使用において組織の裁量の余地が大きいものの場合には、一般正味財産の増加とすることも考えられる。また少額の寄付もあるので、金額的重要性の観点からそれらを一般正味財産の増加として処理することも考えられる。 次に、借方の支払手数料の費用区分について検討する。費用の分類として、わが国の公益法人会計基準やNPO法人会計基準では、費用を事業費と管理費とに大別している。ファンドレイジングにより生じる費用の区分を考える上では、ファンドレイジング活動の目的や費用の性質について検討する必要がある。次節で、これらの費用の区分について詳細に検討する。 2 ファンドレイジング費を他の費用と区分する必要性 ファンドレイジングにかかる費用は、ファンドレイジング費と称される。ファンドレイジング費につき詳細に規定する米国FASBのASC (Accounting Standards Codification)958-720-45-7では、ファンドレイジング費を、寄付を集めるための活動から生じる費用としている。ちなみに企業会計では、ファンドレイジング費という区分は存在せず、非営利組織会計に特有のものとなる。 寄付を集めるための活動の性質について検討する。寄付を集めるための活動は、それ自体が 非営利組織のミッションを達成するための事業ではない。たとえば、難民の支援活動を行う団体において、支援活動を行うための寄付の募集は、難民支援にかかるミッション達成に直接かかわるものではない。ミッションを達成するための活動費用とそのための資源の調達にかかる費用とを区分することで、組織の活動内容や成果をミッションとの関連でより適切にとらえることができるであろう。そう考えれば、ファンドレイジング費は事業活動に伴って発生する事業費とは区分することで組織の活動内容をより適切に理解することができる。 次に、収益の表示と対比したファンドレイジング費の表示について検討する。非営利組織の収益は、事業収益等の(企業でも行われる)交換取引から得られる部分と、非営利組織独自の取引である寄付等の収益を区分表示する。非営利組織の収益源泉を明確に表示することは重要である。寄付を獲得するためには、各種広報や様々なイベントの開催など様々な費用がかかる。事業収益と寄付等の収益とが区分表示されているのと同じように、費用についても事業にかかった事業費と寄付を獲得するために生じたファンドレイジング費とを区分することで、非営利組織の事業の性質がより明確になる。また、受取寄付金とファンドレイジング費が示されることで、受取寄付金に対するファンドレイジング費の比率も明確になる。とりわけ寄付に活動資金の多くを依存する組織にとって、寄付の獲得が活動の発展や組織の存続にとって重要である。資源を提供する寄付者にとっては、寄付の使途だけではなくファンドレイジング費にも高い関心を有する。また、組織は寄付を集めるために様々な手段をとるが、これに伴ってファン ドレイジング費用も多額となることがある。金 額的重要性の観点からも、区分開示の必要性が認められよう。 また、寄付者がファンドレイジング費に関心を有するのには、次のような理由もある。ファンドレイジング費が増加すると、寄付金額を一定とすれば、その分事業に投下される費用が減少する。寄付者は、提供した資源のより多くが事業に費やされることを望むだろう。一方非営利組織にとっては、ファンドレイジング費を上回る資源の流入がもたらされる限り、多くのファンドレイジング費がかかっても寄付を集め る動機がある。多くの資源の獲得を目指す非営利組織と、寄付を事業に使用することを望む寄付者の利害は必ずしも一致しない。このような 状況の下で寄付者は、組織が寄付者の期待通りに行動するよう、ファンドレイジング費を監視する必要がある。この目的からは、ファンドレ イジング費を他の費用と区分することが必要である。 以上より、寄付者に対しての情報提供を重視する観点から、ファンドレイジング活動の特質や重要性を考慮して寄付を集めるためのファンドレイジング費を他の費用と区分する必要性を示した。 もっとも、前述した通りわが国においては ファンドレイジング費を事業費・管理費いずれかに区分することとなっている。寄付型CFの手数料は、特定のプロジェクトと関連付ける寄付によって生じるものであるため、事業費の内訳区分として表示されることが多い。例えば国境なき医師団日本の活動計算書においても、ファンドレイジングにかかる費用は「募金活動費」として他とは区分表示されているものの、事業費の区分に含められている。また、他の多くの組織ではファンドレイジング費を単独で区分表示していない。次節では、ファンドレイジング費の区分計上を行う際の障害となるジョイ ント・コストについて検討する。 3 ジョイント・コストのファンドレイジング費への配分 ファンドレイジング費用は、形態別にみれば人件費・家賃・広告宣伝費・支払手数料など多様な形態を有している。また、あるイベントの一環として合わせて寄付の募集が行われることも多く、ファンドレイジングの活動と本来の事業活動との線引きが明確でないことも多い。事務所では様々な目的の活動で、家賃・光熱費・ 通信費等が発生する。また1人の職員が事業、ファンドレイジング、各種の管理業務を担当することもある。このため、目的別の費用区分を行うに当たっては、複数の目的にかかわって発生する事業費や人件費、家賃等のジョイント・ コストを事業費、管理費、ファンドレイジング 費等に区分する必要が生じる。 このようなジョイント・コストの配分について、FASBの公表するASC 958-720-45-2Aでは、プログラムや他の支援活動の実施や監督にかかる費用は、それぞれの費用区分に適切に配分することを求めている。たとえば、ITにかかる費用は一般管理(経理や人事等)、ファンドレイジングやプログラム活動にも便益をもたらしている。それゆえ、費用は直接便益を受ける機能へ配分される。区分を適切に行うためには、ジョ イント・コストの適切な配分基準を確立することが不可欠となる。 米国公認会計士協会(AICPA)は、1998年11月にStatement of Position(SOP)98-2「ファンドレイジングを行う非営利組織、政府系組織の活動費用の会計」を公表した。特にジョイント・ コストの配分の基準を明確にすることがSOP98-2の趣旨である。非営利組織の活動のうち特定の要件を満たしたものをプログラムまたは一般管理費用とし、それ以外をファンドレイジング費とする。本報告書の適用対象は民間非営利組織だけではなく、(州・地方政府の会計基準を規定する)GASBの公表する会計基準を適用する政府系組織も含まれ、組織形態を問わずファンドレイジング費の配分について規定する ものとなっている。 SOP98-2公表前の実務では、ジョイント・コストは、事業費に多くを配分する実務が一般的であった。この結果、ファンドレイジング費に実態より少ない費用しか配分されない懸念があった。SOP98-2では、事業及び一般管理に配分できる費用を列挙したうえで、それ以外はファンドレイジング費とすることで、より多くの金額が適切にファンドレイジング費に配分されることが意図されている。 SOP98-2では大別して目的、対象、内容の3つの基準を示した(pars.8-11)。プログラム活動の目的はミッションの達成に直接つながるもので、寄付者(または潜在的な寄付者)ではなくサービスの受益者を対象とし、対象者や受益の内容が明確であることが必要である。ジョイント・ コストは、これらに合致する場合には事業費とすることができるが、そうでない場合、管理費またはファンドレイジング費となる。そのうえで、ジョイント・コストについては、コストが発生したイベントの類型、コストの配分方法を 示す表や記述、1期間の総額や各項目への配分割合、コストの配分方法に関する補足情報等の開示が求められる(par.18)。このような開示を通じたファンドレイジング費の開示の適正化 が意図されていたが、実際の意図通りに開示されたのか、次節で述べる。 4 ファンドレイジング費を適切に計上・開示することの難しさ 非営利組織には、ファンドレイジング費を低く見せようとする動機がある。ファンドレイジング費が高いことは、寄付者の寄付の動機を弱めたり、理事者に対する批判を生む可能性があるからである。このことを実証した米国の先行研究もある。たとえば、Jones and Roberts [2006]、Krishnan et al.[2006]、Keating et al.[2008]は、非営利組織がジョイント・コス トをファンドレイジング費ではなく事業費に配分する傾向があることを実証した。また、 Keating et al.[2008]では、調査サンプルの12%は事業費に過大にジョイント・コストを配分していると結論付けた。Tinkelman[2006] では、実態は異なる場合があるにもかかわらずファンドレイジング費は毎年安定的に推移していることから、費用を一定に保つ組織の行動を示す証拠を示している。 このように、ファンドレイジング費は区分開示が望ましいものの、ジョイント・コストの配分の難しさや非営利組織におけるファンドレイジング費を少なく開示したい動機からその配分に恣意性が介入し、現実には区分開示を通じた適切な情報提供が難しいという問題点がある。このことは、ファンドレイジング費の区分開示を行う障害となっている。これまでの議論を前提としたうえで、次節では寄付型CFにおけるファンドレイジング費の特徴について考察する。 Ⅳ クラウドファンディングの隆盛に伴う会計上の課題 1 寄付型CFにおけるファンドレイジング費の特徴 寄付型CFにおいて発生するファンドレイジング費の主なものとしては、前述した通りCFサイト運営業者への支払手数料があげられる。 この手数料は、他の目的をあわせ持つジョイント・コストではなく、CFサイトにおける寄付に対して直接生じるファンドレイジング費である。寄付型CFの手数料については、ファンドレイジング費であることが明確であり、費用配分をめぐる恣意性の介入する余地も少ない。このことは、寄付型CFにおいてはファンドレイ ジング費の計上が相対的に容易であることを意味する。 CFが盛んになることは、ファンドレイジング費の区分開示の必要性を再認識させる。寄付型CFの隆盛をきっかけに、CFを包含したファ ンドレイジング活動全体にかかる会計基準等の整備が求められる。 2 寄付型CFの支援者の情報ニーズ 非営利組織会計において、寄付等を通じた資源提供者は財務報告の重要な利用者として位置づけられる。寄付型CFを通じた資源提供者は、他の寄付者と情報ニーズが異なる点はないのだろうか。 寄付型CFは、特定の事業に対して、目標額を示して資金を募集することが一般的である。このような事業に共感して寄付する支援者は、自らが寄付した特定の事業に対する興味関心をより多く有する。しかし、組織や事業に対する情報入手の手段は、地域的、人的つながりがない分、限定的となる。多くの寄付型CFの支援者は小口の支援者であるので、組織に対して個別に資金の使途報告を求められる立場にない。現在の非営利組織会計では、一般目的財務報告では原則として組織全体の情報開示が求められ、寄付の使途に関する報告は限定的である。寄付型CFの寄付者に対して、CFによる寄付の使途を示す実績報告は一部で行われているものの、その様式や内容も統一されているものではなく、活動実績報告は活動内容の報告がメインで金額の開示は限定的である。現行の一般目的財務報告において開示される情報が、寄付型CFの寄付者の情報ニーズと合致するか、検証していく必要がある。 3 寄付型CFサイトにおける情報開示の必要性 寄付型CFにおいては、非営利組織ではなく寄付を仲介する役割を果たすウェブサイトの運営業者の情報開示も重要である。寄付金から手数料が差し引かれて非営利組織に送金されることを考えれば、寄付者が直接ウェブサイト運営業者に手数料を支払うわけではないにしても、寄付者であるサイト利用者に対して手数料を明確に開示していくことが求められよう。手数料が明示されているウェブサイトも存在するものの、すべてで統一的に開示されているわけではない。手数料等の開示を通じて、寄付者が手数料を考慮したウェブサイトの選択を行うことで、業者間の競争、ひいては手数料の低下が促されることは、非営利組織が受領する資源の増加にもつながる。 また、CFを行う非営利組織の会計情報、これまで当該組織が行ったCFの実績報告等がCF を行う際に重要な情報となる。一部の組織においてはこれらの情報をCFサイト上で公開しているものの、その開示内容は様々であり、必ずしもCFを行う際に開示が求められているわけではない。これらの情報開示により、非営利組織が行う事業だけではなく、組織の財政状態や運営状況、これまでのCFの実績を考慮した寄付先の選択が可能になる。 寄付型CFは時間軸が短く、また少額の寄付においては組織の財務情報に関するニーズは必ずしも高くない。一方で、非営利組織が今後継続的に支援を受けていくためには、非営利組織と支援者の間の関係構築は不可欠で、適切な情報開示が望まれる。CFにおける非営利組織間の競争が、「共感」を求めることはもちろん会計報告や成果報告が重視される形で進展すれば、より効率的な資金の流れが促進されるので はないか。 Ⅴ まとめと展望 本稿では、最初に寄付型CFの特徴、メリットとデメリットについて説明した。続いて、非営利組織における寄付型CFの受入時の会計処理と、ファンドレイジング費の意義と区分について述べた。次に、ファンドレイジング費をめぐる問題点や先行研究を示し、ファンドレイジング費の区分の理論と実態の乖離を示した。そのうえで、寄付型CFの支払手数料は直接費で、事業費や管理費とは区分して示すことが容易でありファンドレイジング費として区計上すべきであることを主張した。最後に、寄付型CFの利用者のニーズに着目し、現行会計基準の求める組織全体の財務報告を超えた、CFのウェブサイトを運営する企業における手数料等の開示、またCFにおける非営利組織自身の情報開示の必要性を示した。 わが国では寄付を受け入れている非営利組織は限定的で、また特定の寄付者へ依存することも多く、寄付を募集することでかかるファンドレイジング費自体になじみが薄い。もっとも、今後、CFを行う団体の増加も予想される。寄付文化の醸成という意味でも、非営利組織における各種の情報開示はもちろん、それを支える 基盤となるようなCFサイトにおける各種の情報開示やファンドレイジング費の明確化が必要である。CFに関する手数料の開示、ファンドレイジング費の明確化等がわが国の寄付文化の醸成、ひいては非営利組織の発展につながることを願い、本稿を締めくくりたい。 (付記)本稿は、非営利法人研究学会第26回全国大会統一論題報告に加筆修正したもる。科学研究費補助金基盤研究(C)課題番号 19K02021による研究成果の一部である。 [参考文献] 五百竹宏明[2022]「クラウドファンディング における寄付者の意思決定プロセスに関する 研究」『北陸大学紀要』第52号、27-35頁。 NPO法人会計基準協議会[2017]『NPO法人会 計基準』。 NPO法人会計基準協議会[2019]『認定 NPO 法人に対する寄付金の会計処理に関する調査 報告書』。 金子良太[2017]「ファンドレイジングと会計 上の区分開示をめぐる動向:米国の事例を中 心に」『公益・一般法人』第938号、54-67頁。 内閣府公益認定等委員会[2008]『公益法人会 計基準』。 原尚美[2022]『税理士のためのクラウドファ ンディングの実務』第一法規。 日野修造[2016]『非営利組織体財務報告論』 中央経済社。 AICPA.[1998], Statement of Position 98-2 Accounting for costs of activities of Not-forprofit organizations and state and local governmental entities that include fundraising. FASB.[2016], Accounting Standards Update No.2016-14 “Not-for-Profit Entities(Topic 958)” Jones C.L. and Roberts A.A.[2006], Management of financial information in charitable organizations: The case of joint-cost allocations, The Accounting Review, 81, pp.159- 178. Keating E.K., Parsons L.M., and .Roberts A.A. [2008], Misreporting fundraising: How do nonprofit organizations account for telemarketing campaigns? The Accounting Review, 83⑵, pp.417-446. Krishnan R., Yetman M.H. and Yetman R.J. [2006], Expense misreporting in nonprofit organizations, The Accounting Review, 81⑵, pp.399-420. Tinkelman D.[2006], The Decision-Usefulness of Nonprofit Fundraising Ratios: Some Contrary Evidence, Journal of Accounting, Au︲ diting and Finance, 21⑷, pp.441-462. (論稿提出:令和4年12月20日)

  • ≪論文≫成果の可視化と非営利活動のミッション―PFS・SIB・休眠預金等活用・社会的投資などの視点から―

    PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 関西大学教授  馬場英朗 キーワード: 成果連動型民間委託契約 インパクト評価 EBPM イノベーション インパクト・ウォッシング 利害関係者価値 要 旨: 近年、成果連動型民間委託契約や休眠預金等活用など、社会的インパクト評価等による成 果の可視化を前提とする財源が増えている。成果を可視化することは資金提供者へのアカウ ンタビリティとして重要であるが、安易な成果が強調されるとミッションが歪められ、非営 利が果たすべき社会変革への意識が損なわれるという批判もある。特に、委託や助成では成 果を達成するプロセスを仮定して成果指標を設定することが求められており、目先の成果に 囚われてしまう危険性もあるが、株主利益から利害関係者利益へというSDGsの流れのなか で社会的投資が広がりつつあり、非営利活動においても資金提供者利益から利害関係者利益 へと意思決定の基盤をゲーム・チェンジさせる契機とも考えられる。PFS等による成果の可 視化を適切に機能させるために、多様な意見やノウハウを取り入れながら合理性のある成果 指標などを設定するための合意形成の仕組みが期待される。 構 成: I  はじめに II 成果連動型民間委託契約における成果の可視化 III 休眠預金等活用における成果の可視化 IV 成果の可視化がミッションに与える影響 Ⅴ 社会的投資市場の推進とミッション Ⅵ 今後の展望と課題 Abstract Financial resources for nonprofits based on performance visualization by social impact measurement have increased. These include Pay for Success contracts and utilization of funds related to dormant deposits. Performance visualization is important for accountability to funders, but there has been criticism that emphasizing easy results distorts the mission of the nonprofit and undermines awareness of social change. In particular, performance-based commissions and subsidies are often required to set performance indicators based on the assumption of processes to reach the intended results; therefore, the risk of obsession with short-term results might exist. However, in the trend of SDGs, social investment is spreading, and this can be considered an opportunity for a change in the orientation of decision-making for nonprofit activities from the funder’s interest to the stakeholder’s interest. In order to rationalize performance visualization, a consensus-building scheme should be established to synthesize diverse opinions and know-how Ⅰ はじめに 非営利組織の財源は従来から、人々からの支援としての寄付や、自律した財源としての事業収益が注目されてきたが、財務情報のみでは活動の成果が伝わりにくく、財源を拡大することが容易ではないというジレンマがあった。それに対して、近年では成果を重視する助成や委託、あるいはストーリーによって共感を得るクラウドファンディングなど、非営利活動が生み出した成果を可視化することによって、支払いを受ける根拠とみなす成果指向にもとづいた財源が拡大している。 ただし、非営利活動が生み出す成果を過度に単純化することは、非営利のビジネス化を招くという批判もある。EBPM(証拠にもとづく政策立案)などの世界的な広がりをみると、成果の可視化に取り組むことは不可避とも考えられるが、その一方では多様性や地域性を尊重すべきという揺り戻しも生じている。また、現場団体のなかにも、成果の可視化に対して積極的に取り組む団体と、成果は簡単に説明できるものではないと考える慎重な団体とに二極化している状況も見受けられる。 成果の可視化に取り組むべきかどうかは、資金提供者などの期待も考慮しながら、個々の団体が判断することではあるが、成果の可視化を性急に求めるような圧力が常態化すると、非営利活動のミッションが歪められるという警戒感も根強く存在する。その一方で、わが国の非営利セクターでは成果の可視化とミッションとの関係性について、十分に議論が深められていないままに様々な実践が導入されている。 そこで本研究では、成果連動型民間委託契約やその一類型であるソーシャル・インパクト・ ボンド、あるいは休眠預金等活用に導入されている社会的インパクト評価などを概観することにより、成果指向型のプログラムに積極的に取り組む団体と、懐疑的な団体による主張を整理するとともに、成果の可視化が非営利活動のミッションにどのような影響を与えているかを考察する。さらには、政府が推し進めようとしている社会的投資市場の育成などの動向も踏まえて、投融資における成果とミッションのあり方についても検討を加える。 Ⅱ 成果連動型民間委託契約における 成果の可視化 成果連動型民間委託契約(Pay for Success: PFS)とは、「解決を目指す行政課題、事業目標に対応した成果指標をアウトカムとして設定し、地方公共団体等が当該行政課題の解決のためにその事業を民間事業者に委託等した際に支払う額等が、当該成果指標値の改善状況に連動する事業方式」(内閣府[2021]2頁)である。 もともとイギリスではPbR(Payment by Results)という仕組みがあり、官民あるいは営利・ 非営利を問わず、より良いサービスを提供できる主体が公共サービスを担うべきという考え方のもと(HM Government[2011]p.9)、民間事業者が生み出した財政削減額の範囲内で、当該事業に対して報酬を支払うことができるという公共調達スキームが導入されていた。そして、 PbRの一類型として、民間投資家から調達した資金を用いて公共サービスを実施し、一定水準の成果が達成されると行政から元利金が支払われるというソーシャル・インパクト・ボンド (SIB)が、2010年にイギリスで初めて導入されて世界各国へと広がった1)。その後、アメリカではSIBを含めて、成果に応じて報酬が支払われる公共調達のことをPFSと称するようになり、日本でも2021年に内閣府がPFSの共通的ガイドラインを公表している。 PFSと従来型の委託事業を比較すると、図表1に示したような相違点がある。従来型の委託事業では、事前に定められた仕様に従って事業を実施することが求められており、そのために必要なコスト等が見積もられて、成果にかかわらず定額の支払いが行われる。それに対して、 PFSでは事業目標とそれに対応した成果指標が設けられているが、成果を達成するためにどのようなアプローチを選択するかは民間事業者に委ねられており、そのために必要となるコスト等を事前に見積もることが難しい。そこで、コスト等ではなく成果にもとづいて支払いを行うことにより、民間事業者の創意工夫やイノベーショ ンを誘発し、社会課題を解決するための新しいアプローチを生み出すことが企図されている。 海外ではPFSは、短期受刑者の再犯防止やホームレス支援、問題を抱える若者への教育あ るいは就労支援、児童保護や養子縁組、医療福祉や健康増進など、幅広い分野に活用されている。それに対して、日本ではパイロット事業の段階であり、内閣府による2020年度から3年間のアクションプランでは医療・健康、介護、再犯防止が重点分野とされてきたことから、図表2に示すように医薬・介護に係る事業にPFSが集中している2)。また、短期あるいは単年度の事業も多く、予算規模も小さいことから、事業目標の代理となる合理的な成果指標を設定し、検証に必要なデータを十分に集めることが難しいという課題もある。 したがって、PFSに関するこれらの課題を考慮すると、本来的に目標とすべき成果指標が適切に設定されず、定量的あるいは定性的な評価を行うために形式的な指標が設定されるリスクは常に存在する。国際的にみても、公共サービスの成果を測定するインパクト評価の手法はいまだ定まっていないため、成果指向に対する関心が高まり、新しく参入する事業者が増えるにつれて、実態のともなわない成果が強調される インパクト・ウォッシングの危険性が高まるという指摘がなされている(OECD[2019]p.236)3)。 さらには、首長あるいは行政職員のなかにおいても、PFSが低コストでより高い成果をあげる成果主義として認識されている場合がある4)。 しかしながら、PFSを単なる成果報酬と混同するならば、失敗を恐れるあまり成果が達成されたと見せかける形だけの成果指標が設定されるなど、従来から指摘されてきたいわゆる「行政 の無謬性」を脱却できない恐れが生じる。成果指向に対して慎重な姿勢をとっている団体は、このように形骸化した評価が横行することにより、非営利活動のミッションがないがしろにされるリスクを危惧しているものと考えられる。 図表1 成果連動型民間委託契約(PFS)と従来型委託 図表2 日本における成果連動型民間委託契約(PFS)事業 Ⅲ 休眠預金等活用における成果の可視化 2018年に「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」(休眠預金等活用法)が施行され、10年以上取引がない休眠預金を原資として、2019年度から社会課題の解決や民間公益活動に対する助成が行わ れている。図表3に示すように、休眠預金等は預金保険機構に移管された後、指定活用団体が各地の資金分配団体に助成を行い、さらに資金分配団体から民間公益活動を実施する実行団体へと助成が行われる5)。 休眠預金等活用は、国民の預金等を原資としていることから、そのプロセスの透明性や適正性を確保し、社会的な成果を明らかにして国民の信頼性を担保するために、社会的インパクト評価を実施することが定められている6)。そして、成果をしっかりと説明することにより、従来型の助成のように人件費や設備関係といった事業資金について、事前に使途を決めて拘束するのではなく、現場団体がなるべく柔軟に活用できるようにすることが企図されてる。 社会的インパクト評価を実施する際には、事前に達成すべき成果を明示したうえで、イン プットからアウトプット、さらにはアウトカムに至る情報を体系的に収集し、ロジック・モデル等にもとづいて相互に接続することが求められている(内閣府[2018]27頁)。図表4は内閣府のパイロット調査によって、若年無業者の就労支援事業に係るロジック・モデルと社会的インパクトが端的に図式化されたものであるが、 就労に課題を抱える若者に対して相談やインターンシップ、中間的就労などのプログラムを 実施することにより(インプット⇒アウトプット)、外出機会が増えて引きこもりが解消し、 自己肯定感が向上し(初期的アウトカム)、就職活動をスタートして就労が決定し(中間的アウトカム)、企業や地域社会の担い手になる(長期的アウトカム)というロジックにもとづいて、 成果指標を設定して変化の流れとその社会的価値を測定している。 社会的インパクト評価は、「単に就労を何人達成したか」という最終成果のみを重視する成果主義ではなく、事業目標に応じた成果指標を設定し、長期的なアウトカムだけではなく、初期的あるいは中間的なアウトカムも丁寧に測定することが意図されている。したがって、社会的インパクト評価は必ずしも非営利活動のミッションを損なうものではなく、むしろミッションから成果への流れを一般にもわかりやすく説明することをねらいとしている。  ただし、休眠預金等活用における社会的インパクト評価はパイロット事業として実施されている段階であり、予算規模が小さい、実施期間が短い、必要なデータ(エビデンス)が得られないなどの技術的課題も多く残されている。そのため、成果を測定しやすい分野あるいは対象者に事業が偏るのではないか、アウトカムではなくアウトプットの測定にとどまっているのではないか、といった疑念を非営利セクターや一般社会から向けられることもある状況となっており、評価の妥当性に対する多方面からの検証が待たれるところである7)。 図表3 休眠預金等活用の流れ 図表4 ロジック・モデルと社会的インパクト Ⅳ 成果の可視化がミッションに与え る影響 いわゆる成果主義は最終成果に着目し、それに応じて成果報酬が支払われるのに対して、 PFSや休眠預金等活用では事業目標から最終成果に至るまでのロジックを想定し、途中段階での成果指標を設定することにより、最終成果の前段階にある初期的あるいは中間的な成果に対しても支払いを行ったり、事業が生み出した成果と認めたりすることを可能にしている。したがって、その際に実施される社会的インパクト評価等が適切に機能していれば、成果指向によるこれらのスキームがミッションに悪影響を与えることはなく、むしろ多様な成果を社会に対して丁寧にアピールすることにつながると考えられる。 しかしながら、実際には「適正な成果指標やその評価方法、支払条件の設定、契約手続についての情報等が少ない」(内閣府[2020]3頁) ことから、成果を変化として測定し、社会に生み出された中長期的な影響を見える化するという、本来的な意味での社会的インパクト評価が実施できているプログラムはまだ限られている。そのため、不十分な評価方法を採用することによってインパクト・ウォッシングが引き起こされたり、データや能力の不足によって評価の形骸化が生じたりする恐れがある。 もしこのように不適切な評価が広がれば、安直で見栄えのよい成果が強調されて、非営利活動のミッションが歪められる危険性がある。そのため、諸外国では評価の専門スキルを有するインパクト・オフィサー等を雇用あるいは契約し、評価対象の事業とは独立した立場から成果を検証させたり、外部評価機関を導入したりするといった工夫もなされている。 しかしながら、将来的に極端な成果指向が進むと、小規模な活動や地域における地道な活動、当事者性が強い活動が排除されたり、「より困難な状況下にある、成果を『見せにくい』当事者が放置される」(現場視点で休眠預金を考える会 [2018]3頁)といった状況が起こったりする懸念も考えられる8)。この点について、休眠預金等活用は助成であることから、子どもや若者への支援、就労や社会的孤立の解消、地域活性化など、比較的に幅広い分野が採択されているのに対して、公共調達であるPFSでは成果に応じた支払いを検証するために、より厳密なインパクト評価が求められることから、現状では医療・介護に集中しており、適用分野や対象者を拡大することが今後の課題となっている。 イギリスでは、ニュー・パブリック・マネジ メント(NPM)のもとで公共サービス市場の民間開放が進んだ結果、全国的・国際的な大企業あるいは大規模NPOが事業を占有し、地域の社会的企業やチャリティ団体を排除しているという批判が起こった。そのため、2013年に公共 サービス(社会的価値)法が施行され、さらに 2018年からはこの法令のもとで政府の公共調達に社会的価値評価を導入するように求めることにより、経済性だけではない多様な価値を公共調達に反映させ、非営利活動のミッションについても尊重するように配慮がなされている9)。 Ⅴ 社会的投資市場の推進とミッション 政府は「骨太の方針2022」(内閣府[2022]) において、「新しい資本主義が目指す民間の力を活用した社会課題解決に向けた取組や多様性に富んだ包摂社会の実現、一極集中から多極化した社会をつくり地域を活性化する改革の方向性を示す」(同1頁)として、「従来の『リスク』、『リターン』に加えて『インパクト』を測定し、『課題解決』を資本主義におけるもう一つの評価尺度としていく必要がある」(同12頁)と述べている。そして、ソーシャル・セクターの発展を支援するために、社会的インパクト投資資金を呼び込むことを提言しており、その方策としてSIBや休眠預金等活用が位置づけられている。 日本ではPFSのうちでも、外部の民間資金を導入するSIBについてはあまり導入が進んでおらず、また休眠預金等の活用は助成のみが行われており、欧米諸国と比べて社会的投資市場がまだ形成できていない状況にある。そのため、政府は「休眠預金等活用法施行5年後の見直しに際し、これまでの取組について評価を行い、出資や貸付けの在り方、手法等の検討を進め、 本年度中に結論を得る」(同12頁)という方針を示し、休眠預金等を社会的投資市場の育成に向けた呼び水とすることを期待している。 それに対して、海外ではインパクト投資を含めた社会的投資市場が拡大しているが、必ずしも上述したような社会的インパクト評価を前提としているわけではない。イギリスでは社会的投資市場を推進するために休眠預金等が投融資に活用されているが、資金が有効に活用されたことを丁寧に説明するように求められる助成とは異なり、資金の返還を受けられる投融資では (社会的なものを含む)リターンが成果指標となる。ただし、このような社会的リターンの追求が広まることに対して、「社会課題」に対する取り組みは進展するとしても、非営利組織が本来もっていた「社会変革」への意識が薄れるのではないかという懸念が実践家などからも表明されている10)。しかしながら、欧州を中心とした社会的投資の広がりはSDGsの文脈のなかで、株主利益あるいは資金提供者利益から利害関係者利益へと意思決定の前提を転換させるゲーム・チェンジとしての側面を有しており、正しい理解が広がれば非営利活動のミッションを社会に浸透させる契機となる可能性もあると思料する11)。 Ⅵ 今後の展望と課題 過去に筆者がPFSや休眠預金等活用、あるいは社会的インパクト投資に取り組む国内外の団体にヒアリングしたところでは、これらの事業によって非営利活動のミッションが損なわれたという話はほとんど聞かれず、むしろ成果指向の考え方が組織内外におけるミッションの浸透に寄与している、という意見が多く聞かれた。 したがって、成果の可視化はミッションを必ずしも棄損するものではないが、成果指向に肯定的な団体と否定的な団体との間で、ミッションの捉え方やレベル感に違いがあるようにも感じられる。すなわち、目の前にある社会課題の解決にひとつひとつ取り組むことがミッションの実現につながるという考え方と、より大きな視点で社会変革を意識しながら事業に取り組まないとミッションを見失ってしまうという考え方である。特に、事業目標(ターゲット)の上位に位置する政策目的(ゴール)を忘れないようにしなければ、目先の成果に囚われて成果指標を達成すればよいという意識に陥りがちになるため、常に上位にあるミッションへと立ち返りながら事業を遂行することが重要になると考えられる。 また、わが国では制度面やコスト面から実現が難しいところであるが、馬場[2020]において指摘したように、イギリスでは競争的対話 (competitive dialogue)などの制度を用いて、行政および複数の事業者、受益者、地域住民など、幅広い利害関係者が参加して、PFS事業のスキームや評価方法を事前に議論し、入札仕様に 反映するという仕組みがとられているケースがある。日本では事業形成に先立ち、想定される事業者などに内々でヒアリング等が行われることも多いが、多様な意見やノウハウを取り入れながら合理性のある成果指標を設定するためには、参加機会が公平に与えられた透明性のある合意形成の仕組みも必要になると考えられる12) 。 (付記)本稿は非営利法人研究学会第26回全国大会の統一論題報告に加筆修正したものである。本稿はJSPS科研費22K01804による研究成果の一部である。 [注] 1)イギリスやアメリカにおけるSIBの導入経緯や仕組みについては、塚本・金子[2016]に詳しく説明されている。 2)このアクションプランでは、「重点3分野でのPFS事業を実施した地方公共団体等の数」 がPFS普及促進のメルクマールとされており (内閣府[2020]7頁)、図表2に示した37件のPFS事業うち29件(78.4%)が医療・健康、介護、再犯防止の分野によって占められている。 3)インパクト・ウォッシングとは、成果を過大に見せたり、本来目的とするインパクトがないのに成果が出たと見せかけたりすることであり、例えば、成果の出やすい対象者を抽出 すること(cream-skimming)、都合のよい成果を強調すること(cherry-picking)、成果が出たと誤認させる報告を行うこと(gaming of results)などが懸念されている(OECD[2019] p.88)。 4)PSFは本来、イノベーションや創意工夫を誘発することにより、社会課題の新しい解決方法を探ることがねらいとなるが、日本経済新聞[ウェブサイト]にも「事業の成果に応じ て行政側が報酬を払う」ことにより、「地方自治体の限られた財源の中で、行政サービス の質を維持・向上させる手法として近年注目されている」と紹介されるなど、効率化やコ スト削減を目指す従来型委託の延長線上で捉えられる傾向が根強くある。ただし、内閣府 [2019]2頁によれば、実際にPFSに取り組む地方自治体ではPFS導入のねらいを「行政 コストの削減が見込まれる」(50.0%)や「より高い成果の創出が期待される」(55.9%)だけでなく、「社会的課題を解決する新たな手法を把握・実証できる」(55.9%)と回答しており、現場レベルではPFSの趣旨がある程度は浸透している。 5)休眠預金等として移管された後も財産権が消滅するわけではなく、預貯金者は取引を行っていた金融機関で残高を引き出すことが可能である。休眠預金等活用およびその社会的イ ンパクト評価の仕組みについては、馬場ほか [2022]を参照されたい。 6)内閣府[2016]2頁によれば、社会的インパ クトとは「短期、長期の変化を含め、当該事業や活動の結果として生じた社会的、環境的なアウトカム」であり、それらのアウトカムを「変化」として定量的・定性的に測定することが社会的インパクト評価になる。 7)休眠預金等活用における社会的インパクト評価は自己評価を基礎とするが、実行団体が 行った評価を資金分配団体が、資金分配団体が行った評価を指定活用団体が、それぞれ点 検・検証する役割を担っている。また、諸外国ではGovernment Outcomes Lab(オックス フォード大学) やGovernment Performance Lab(ハーバード大学)など、大学等の研究機関が評価の事例収集や検証に大きく貢献している。 8)アメリカではEBPMのもとで「データ万能主義に陥り、数字がないと政策が作れないというジレンマが生じている」(NIKKEI STYLE [ウェブサイト])という指摘もあり、厳密な成果指標を求めすぎると、データを取りやすい事業や対象者にPFSが集中するということ が起こりうる。 9)原田[2019]55-56頁によれば、バーミンガム市における社会的価値評価の例として、地元雇用、地元からの購入、コミュニティのパートナー、よき雇用主、環境と持続可能性、倫理的調達、社会イノベーションの促進という7項目が設けられており、価格40%・品質 45%・社会的価値15%といったウェイト付けで入札が行われている。 10)例えば、大久保[2018]7頁では、「今、事業型NPOは事業の開発や収益の拡大などが注目され、『見える化』する数字での成果を出してはいるものの、ではその課題を改善す るための市民による社会変革への活動をしているのかといえば、その視点がない団体が結 構多いのではないか、と日頃の団体支援を通じて感じています」と指摘されている。 11)利害関係者利益を財務諸表に取り込む試みとして、ハーバードビジネススクールが提唱するインパクト加重会計が関心を集めつつある。インパクト加重会計では、製品(数量・ 期間・アクセス・質・選択性・環境・リサイクル)、 雇用(賃金・キャリア・機会・健康・多様性・ロケーション)、環境(水・排出物)に関する正と負のインパクトが一定のフレームワークにもとづいて金銭換算されている(Impact Economy Foundation[2022])。 12)現状における取り組みとしては、内閣府が官民連携プラットフォームのワーキング・グループを設置し、特定テーマや特定地域におけるPFS活用に向けた意見交換や勉強会を開 催している。例えば、富山市などでは行政と民間事業者がオープンに参加できる場を設け て、PFSに適した事業内容や評価方法について意見を交わしている。 [参考文献] 馬場英朗[2020]「コレクティブ・インパクトを推進する公共調達手法としての競争的対 話」、『公共経営とアカウンタビリティ』、第 1巻第1号、12-23頁。 馬場英朗・青木孝弘・今野純太郎[2022]「休眠預金等の投融資への活用に関する考察―社会的投資ホールセール銀行の役割と社会的インパクト評価」、『関西大学商学論集』、第67 巻第2号、17-30頁。 現場視点で休眠預金を考える会[2018]「休眠預金等に係る資金の活用に関する意見」。 原田晃樹[2019]「公共調達・契約における社会的価値評価―社会的インパクト評価の実際とサード・セクターの持続可能性の視点から」、『自治総研』、通巻493号、35-71頁。 HM Government[2011]“Open Public Services White Paper”. Impact Economy Foundation[2022]“Impact-Weighted Accounts Framework (Public consultation version)”. 内閣府[2016]「社会的インパクト評価の推進に向けて―社会的課題解決に向けた社会的インパクト評価の基本的概念と今後の対応策について」、社会的インパクト評価検討ワーキ ング・グループ。 内閣府[2017]「社会的インパクト評価の実践による人材育成・組織運営力強化調査 最終 報告書〈別冊2〉認定特定非営利活動法人Switch インパクトレポート」、認定NPO法人 Switch。 内閣府[2018]「休眠預金等交付金に係る資金の活用に関する基本方針」、内閣総理大臣決定、平成30年3月30日。 内閣府[2019]「成果連動型民間委託契約に係るアンケート調査の結果について」、政策統括官(経済社会システム担当)内閣官房 日本経 済再生総合事務局、平成31年4月25日。 内閣府[2020]「成果連動型民間委託契約方式の推進に関するアクションプラン」成果連動型民間委託契約方式の推進に関する関係府省庁連絡会議決定、令和2年3月27日。 内閣府[2021]「成果連動型民間委託契約方式 (PFS:Pay For Success)共通的ガイドライン」、 成果連動型事業推進室。 内閣府[2022]「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ―課題解決を成長 のエンジンに変え、持続可能な経済を実現」、 閣議決定、令和4年6月7日。 内閣府[ウェブサイト]「成果連動型民間委託契約方式(PFS:Pay For Success)ポータルサイト」、https://www8.cao.go.jp/pfs/pfstoha.html(2022/10/10)。 日本経済新聞[ウェブサイト]「松江市、『成果連動型の民間委託』の導入研究へ覚書(2022年 7月22日)」、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC2173E0R20C22A7000000 (2022/10/14)。 NIKKEI STYLE[ウェブサイト]「鎌倉市37歳教育長UCLAで知ったデータ重視の落とし穴(2022年 1月31日)」、https://style.nikkei.com/article/DGXZQOLM18AKA0Y2A110C2000000 (2022/10/14)。 OECD[2019]“Social Impact Investment 2019: the Impact Imperative for Sustainable Development”. 大久保朝江[2018]「この20年で市民意識は醸成してきたのか」、『月刊杜の伝言板ゆるる』、 vol.250、6-7頁。 塚本一郎・金子郁容編著[2016]『ソーシャルインパクト・ボンドとは何か―ファイナンスによる社会イノベーションの可能性』、ミネルヴァ書房。 (論稿提出:令和4年10月15日)

  • ≪論文≫非営利組織の財政基盤の確立―ミッションへの共感醸成の重要性―

    PDFファイル版はこちら ※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。 明治大学教授  石津寿惠 キーワード: ミッション 行政委託 社会的企業 資金調達 社会福祉 要 旨: 非営利組織の経営状況が厳しさを増す中、財源確保は益々重要である。主な財源である事 業収益と、増加が見込まれる寄付金を巡っては、公益サービス提供形態、提供組織などにお いて多様化が進んできている。こういった状況下で非営利組織が埋没せず、非営利としての 存在意義を発揚し続けるためには、組織体自体がミッションを常に再確認しながら事業活動 を行うこと、ミッションに社会からの共感を得ることが必要である。そのためには具体的な 個々の活動とミッションをストーリー性をもって情報発信していくこと、情報の提示のみな らず社会との対話を通じて共感を得ていくことが重要である。 構 成: I  はじめに II 経営状況と財源の現状る意義 III 公益サービスに関する提供形態、提供組織、財源獲得方法の多様化 IV ミッションへの共感の醸成―議論からのインプリケーション Ⅴ 小括 Abstract As NPOs face increasingly difficult business conditions, securing financial resources is becoming increasingly important. NPOs face ever greater complexity in their main sources of funding; namely, business income and donations, which are expected to increase. This complexity includes diversification of how and by whom public services are delivered. Under these circumstances, to remain relevant as a non-profit and avoid falling into oblivion, the NPO itself must constantly reaffirm its mission in the course of conducting its business activities while gaining empathy from the public for its mission. To this end, it is important for the NPO to use storytelling to disseminate information on its particular activities and mission, and to gain empathy through dialogue with the public rather than by simply presenting information Ⅰ はじめに COVIT-19感染症は、経済・健康・雇用面は勿論のこと、孤独や不安といった心の問題を含めた多方面に影響を与え、「誰も取り残されない支援」を求める社会意識を招来するようになった。 さらに、厚生労働省が発表した「新しい生活様式の実践例」では人との接触を8割減らす10のポイントが示されるなど(厚生労働省[2022])、これまでの人間関係の在り方は大きく変化してきている。このような生活環境の複雑化・凋落傾向、 またさらには自然災害・紛争の頻発などによる 様々な社会ニーズに対応する非営利組織への期待は益々大きくなってきている。しかしその一方、 法人形態、成り立ち、活動分野、規模などが多様なため一概に言えないものの、非営利組織の経営状況は厳しさを増している。 ドラッカーは、非営利組織は一人ひとりの人 と社会を変える存在であるとし、「考えるべきはミッションは何か」であり、まず初めにすべきことはミッションを考え抜くことだとする (Drucker[1990]3-5頁、上田訳[2007]2-3頁)。 ミッションは非営利組織の存在の根源と言えるものである(島田[2009]46頁)。 非営利組織がミッションの達成を目指してその活動を維持・発展させていくためには、財政基盤を確保することが不可欠である。本稿は、第26回全国大会統一論題「非営利組織の財政基盤の確立へ向けて―ミッション達成と両立する取り組み―」に関し1)、まず、議論の前提とな る非営利組織の経営状況、公益サービスの提供 形態や提供組織等の多様化の現状を概観する。 その後、統一論題報告・討論からのインプリケーションとして、ミッションの達成を旨とする非営利組織がその存在意義を一層示し、社会の共感・支持を得ることによってその財政基盤を確立させる方向性に関して展望する。 Ⅱ 経営状況と財源の現状 1 経営状況の現状 非営利組織の経営状況に関して、特定非営利活動法人(以下、NPO法人)、公益法人、社会福祉法人について見ると、ほぼ一貫して悪化してきている。その概要を法人形態別に見ると下記のようである2)。 ⑴ NPO法人(認証法人、認定法人)の概況3) まず、2020年度における特定非営利活動の事業に係る収支差額(経常収益-経常費用)を中央値で見ると前回調査(2017年度)の1/3程度に減 少し、認証法人では0.0万円、認定法人でも23.1 万円と厳しい経営状況である(内閣府[2018b]24 頁、同[2021b]24頁)。 また、経常収益について見ると、500万円以下の法人は、認定法人では18%であるのに対して、認証法人では54.8%と半数以上である上、0円の法人も10.3%存在する。他方、認定法人では経常収益が1億円超の法人が17.8%となり、その割合も増加(2015年度13.2%)している(内閣府[2016b]18頁、同[2021b]25頁)。 概して認証法人の方が認定法人より経営状況が厳しく、また認定法人は法人間での経営状況の差が広がっていると考えられる。 ⑵ 公益法人の概況 2021年における公益目的事業の収支状況(公益目的事業収入と同費用)を見ると、前年に比べて公益目的事業収入は5.0%減少する一方、同費用 は1.2%増加しており、経営が厳しい傾向にあることがわかる。特に、公益目的事業収入が無い法人は23.1%(20年は20.0%)に及ぶなど、組織体 としての継続性が危ぶまれかねない法人が増加している(内閣府[2021a]28頁、同[2022]28頁)。 ⑶ 社会福祉法人の概況 社会福祉分野の主要な担い手である社会福祉 法人について独立行政法人医療福祉機構の調査により経営状況を概観すると下記のようである。 サービス活動増減差額率(サービス活動収益対サービス活動増減差額比率)については、2016年度の3.9%からほぼ一貫して悪化しており2021年度には2.5%に低下している。また、赤字法人の割合は2016年度の23.2%からほぼ一貫して高くなり2021年度には31.3%に及ぶなど厳しい状況の法人が増えている。なお、途中の2020年度においてはサービス活動増減差額比率、赤字法人割合とも若干好転したが、これはCOVIT-19感染症への対応のための介護報酬の特例加算などの影響と考えられる。特例加算は時限的なものであるため2021年度には再び悪化傾向に戻っている(独立行政法人医療福祉機構[2023]1頁)。 2 財源の現状 非営利組織は営利組織と異なり、ほとんどの場合、発生するコストを利用者から回収するのではなく、様々なステークホルダーから資源を集めてサービスを提供している。法人形態別の収入構造と、近年増加傾向がみられる寄付の状況について概観すると下記のようである。 ⑴ 収入構造 ① NPO法人 特定非営利活動事業収益を財源別構造で見ると、従来から認証法人、認定法人ともに財源比率が最も高いのは事業収益である。しかし構成割合の状況は両法人で違いがみられる。  図表1は2020年度における両法人の財源別収入状況である。まず、認定法人(図表1の下) で最も割合が大きいのは事業収益で37.9%である。しかし、その割合は減少してきている(2015年度67.3%)。一方、2番目に割合が大きい寄付金(32.2%)は従来より割合を高めてきている (2015年度9.7%)。 認証法人(図表1の上)については、事業収 益の割合が83.1%と突出して大きく、これは従来と変わりない。一方、寄付金は2.4%と僅かである。寄付金が0円の法人割合は60.1%を占めており、その割合が増加(2015年度40.5%)していることから、寄付が得られる法人とそうでない法人とが分かれてきていると考えられる(内閣府[2016b]20、22頁、同[2021b]26、27頁)。 図表1 特定非営利活動事業における経常収益の収入源別収入の内訳 ② 公益法人 内閣府調査では法人の財源別全体構造が示されていない。ここでは収入項目別に示されている寄付金の状況についてのみ概観する。まず寄付金収入の状況としては中央値では2015年以来、1百万円から3百万円程度で推移しているが、いずれの年度でも半数程度の法人における寄付金は0円となっている(内閣府[2016a]27頁、同[2018a]27頁、同[2020a]26頁、同[2021a]26 頁、同[2022]26頁)。 2021年については寄付金0円の公益法人は48.1%である。これを法人種類別にみると公益 財団法人が40.5%であるのに対して、公益社団法人では58.1%となり、特に寄付金0円の公益社団法人のうち89.6%が都道府県所管公益社団法人となるなど寄付金収入が得られる法人には偏りがある。逆に、寄付金額が1億円以上になる公益法人は3.2%存在し、このうちの67.4%が内閣府所管の公益財団法人となっており、法人種類により格差があることがわかる(内閣府 [2022]26頁)。 なお、収益事業を行っている法人割合は2021年において46.8%であり従来とそれほど変動はない。これを法人種類別にみると都道府県所管の公益社団法人が最も高く55.3%、逆に最も低いのは内閣府所管の公益財団法人で28.4%となっており、先の寄付の状況と逆の傾向にあることがわかる(内閣府[2022]32頁)。 ③ 社会福祉事業 社会福祉領域における財源別収入状況が示されている厚生労働省の「介護事業経営概況調査」 によれば、例えば調査回答数が最も多い介護老人福祉施設における2021年度の収支差率は1.3% (収入には「新型コロナ感染症関連の補助金収入」を含む)に過ぎずギリギリの経営であることがわかる。総収入に占める割合が最も大きいのは介護料収入で77.7%、次いで保険外の利用料21.6%、補助金収入0.6%となっている(厚生労働省老健局老人保健課[2023]3頁)。介護事業については3年に一度の介護報酬改定によるコントロールがあるため経年変化は抑制的であり、またCOVIT-19感染症の影響下においては、「新型コロナ感染症関連の補助金収入」が経営を下支えしたと考えられる。 ⑵ 寄付の状況 日本における2020年の寄付の状況を概観すると、個人寄付額については1兆2,126億円(うち ふるさと納税6,725億円)で、10年前(2010年)の約2.5倍、寄付者数については4,352万人で、同1.2倍である(日本ファンドレイジング協会[2021] 10、11頁)。この間、2011年の東日本大震災時に人数・金額とも急増した後、いったん落ち込んだが、ふるさと納税導入の影響もあり持ち直し、2020年にはさらに増加した。これはCOVIT-19感染症による社会連帯意識の高揚等などによると考えられる。 個人寄付総額の名目GDPに占める割合を諸外国と比較すると、2020年に米国は1.55%、英国0.26%(半年分)に対して、日本は0.23%にとどまるなど寄付額はいまだ限定的であるものの (日本ファンドレイジング協会[2021]28頁)、様々な災害の頻発が連帯意識を強め、日本でも寄付意識が高揚してきたと考えられる。 なお、法人寄付については2019年の寄付額は 6,729億円で、10年前(2009年)の1.2倍であるが、 寄付社数は29万法人で、同34.1%もの減少となっている。この間、福島や熊本の地震や相次ぐ豪雨など自然災害の影響もあり、2016年に寄付額を大きく増やした(総額1兆1,229億円)のち減少し(日本ファンドレイジング協会[2021]10、 11頁)、2019年はCOVIT-19感染症による経営難 が寄付額・法人数とも減少させたと推察される。 また、寄付の受け皿(寄付先)を見ると共同募 金(37.2%)、日本赤十字社(29.5%)、町内会・自治会(28.9%)が高く、民間非営利組織である公益法人は20.0%、NPO法人は12.4%、社会福祉法人は7.8%と低くなっている(複数回答)(内閣府[2020b] 20頁)4)。 例えば2020年度におけるNPO法人の寄付受入れのための取組について見ると、「特に取り組んでいることはない」とするのは認定法人では6.8%であるが、認証法人では7割程度にのぼっている(内閣府[2021b]38頁)。寄付の受け皿として非営利組織の認知度を高めていくことは重要と考えられ、そのための取組を進めることが不可欠と言える。 Ⅲ 公益サービスに関する提供形態、 提供組織、財源獲得方法の多様化 事業収益は非営利組織の財源として大きな部分を占めている5)。しかしながら、特定の財源に頼らず多様な財源を持つことについて、例えば平田([2012]66頁)は、特定の財源への経済的依存度を高めるとその特定の利害関係者の影響力が強くなり、組織のガバナンスや自律性を低下させる危険性を生むとし、田中([2011] 125頁)も、単一の収入源への依存はリスクが大きいため財源の分散が重要であり、収入構成比が低い寄付等の比率を高めて事業収入とのバランスをとる必要があるとする。さらに小田切 ([2017]7頁)も実証研究の結果として事業収入に依存するほどミッション・ドリフトが起こりやすく、逆に民間セクターからの寄付や会費・ 助成金はミッション・ドリフトと結びつきにくいとしている6)。 多様な財源の確保は、非営利組織の自律性を確保する上からも、また、多様な財源を持つことが様々なステークホルダーからの支持を得ている証左となることからも重要と考えられる。 以下では、財源の多様化を進める当たっての近年の環境変化として、「サービス提供形態の多様化」に関して、現在主要な財源となっている事業収益のうち行政委託等について、「サービス提供組織の多様化」に関してソーシャル・エンタープライズ(社会的企業)について、さらに、「財源獲得方法の多様化」に関して今後増加が期待される寄付金の新しい手法としてのクラウドファンディング(crowd funding,以下CF)について、という3つの点から検討する。 1 公的サービス提供形態の多様化―行政委託等 財政悪化への対応、急速な民営化への揺り戻し(振り子・周期現象)、社会問題解決への民間知識・技術導入の必要性などを背景として、行政サービス提供形態の多様化が図られてきている(山本[2009]28-29頁)。その形態には、従来より民営化、民間委託、独立行政法人化が、そして官民のパートナーシップに基づくPPP (Public Private Partnership)として指定管理者制度、包括的民間委託、PFI(Private Finance Initiative)、さらにはPFS(成果連動型民間委託契約方式、Pay For Success)などの形態も出現するなど7)、地方公共団体におけるサービス提供形態・契約のパターンは今後一層多様化する可能性がある。  従来より民間非営利組織にとって、国・地方公共団体の事業を受託する利点としては、委託金の安定的確保による継続的発展の可能性、地域での評判を高めることによる新たな資金源への接近機会の増加、行政との知見の共有による組織運営の改善などが挙げられると同時に、その自律性喪失等が問題とされてきた(村田[2009] 22-23頁)。また、行政委託は金額規模が大きいため財政難に苦慮する非営利組織にとって重要な収入源になることからそこに活動が集中してしまい、新たなアイディアによる社会問題の解決というイノベーション力が枯渇する懸念も指摘されてきた(田中[2006]46-49頁)。さらに、官のかかわるサービスには他の地方公共団体の動向を参考に行うなど同質性が希求される側面もある(田尾他[2009]207-212頁)。そうであればこれに加わった場合、民としての活動の制約につながる可能性も生じ得る。 このように、財源という意味からも行政委託は非営利組織にとって重要だが、その委託方法について、従来の行政の下請け的な委託については非営利組織の自律性に影響を与えるとの危惧も示されてきた。しかしながら近年、官民(公共、民間、サード・セクター)の関係はパートナーシップという位置づけにシフトしてきており、「各セクターの有機的でかつ効果的なコミットメントが行われれば、公共サービスの特質と各セクターの特性との最適ミックスを実現するメカニズムが機能する」(小林[2012]9-10頁) と考えられる。多様な主体の協働によるシナ ジー効果が発揮されることにより、ニーズに合った、あるいはニーズを掘り起こした質のよいサービスを提供することが期待される。 村田([2021]53頁)は社会福祉領域に限定した言及ではあるが、PPPについても「これまで以上に公的機関と社会福祉法人の境界をあいまいにすると同時に、市場原理が導入された社会福祉法人経営は企業化を加速化させ、セクター境界を曖昧にし、またセクター内部の多様化をもたらす要素をはらんでいる」とも懸念している。パートナーシップが促進される過程にあって、事業を受託するに際して非営利組織が非営利としての自律性をいかに維持して事業を推進し、その存在意義をいかに発揚していくかは依然大きな課題のひとつと考えられる。 2 公益サービス提供組織の多様化―ソーシャ ル・エンタープライズ 近年、多様化した社会的課題に対してセクターを超えたコラボレーションによって取組む スタイルが試みられており、様々なスタイルで取組む事業体はソーシャル・エンタープライズ (社会的企業)と総称されている(谷本[2020] 181-183頁)。図表2はソーシャル・サービスを提供するソーシャル・エンタープライズの組織形態について示している。  図表2のように、ソーシャル・エンタープライズの形態は、まず非営利組織と営利組織に分けられ、その間に中間組織が存在する。営利組織については株式会社として運営される社会志向型企業と、一般企業で社会的課題に取り組むものなどが存在する(谷本[2020]184-185頁)。 平田([2012]61-65頁)は、営利企業によるCSR 活動もこの中に位置づけて、ソーシャル・エンタープライズについて、純粋非営利と純粋営利のそれぞれの要件が様々な割合で混合したものだとしている8)。また例えば、ソーシャル・サー ビスへの支援策を見ると、経済産業省ではその成長に向けた環境整備策の1つとして、間接金融(融資)や寄付・助成などの充実といった資金調達を挙げているが、その支援対象を特定の 組織形態に絞っているわけではない(経済産業省[2011]1頁)。つまりソーシャル・サービス の提供において、外部ステークホルダーの視点からは、営利・非営利の境界は区別されない傾向も見られる。 こういった状況下では、例えば事業の受託・ 実施プロセスにおいて、非営利組織はマーケティング手法に長けた営利企業との競争に晒される中、非営利本来の役割とずれが生じる方向に進む可能性もありえる。さらにこれが非営利組織における収益事業の拡大につながる場合、 本来のミッションがブレたり、アイデンティティが変質したりすることが起こる懸念も生じる(谷本[2020]192頁)。非営利組織には、非営利として他の組織形態と差別化し、組織のアイデンティティを維持・発展させながらいかに活動を推進していくかが一層問われることになる。 図表2 ソーシャル・エンタープライズの組織形態 3 財源獲得方法の多様化―寄付の新たな動きクラウドファンディング 先に見たように、個人寄付を中心として寄付額は増加傾向にあるものの、その受け皿(受入先)として公益法人等の民間非営利組織の割合は高くない。 ここでは、寄付獲得方法の多様化という側面から、寄付の手段の中でも額の増加・活用の活発化が期待されるCFについて概観する。CFとは、一般に、新規・成長企業等と資金提供者をインターネット経由で結び付け、多数の資金提供者(=crowd〔群衆〕)から少額ずつ資金を集める仕組みとされる(内閣府消費者委員会[2014]1頁注1)。このCFの認知度は、英米では7割であるのに対して日本では5割とまだそれほど高くない(総務省[2019]137-138頁)。しかしながら、CFを活用する認定法人は2020年度で 14.4%(2015年度8.8%)に増加してきており(内閣府[2016b]30頁、 同[2021b]38頁)、 また、 2021年度の日本国内CFの市場規模は1,642兆円にも上っている(矢野経済研究所[2022])。CFは、 近年におけるソーシャルメディアを利用する生活様式の普及と相まって、今後寄付の新しい手段として規模を拡大する可能性がある。 CFは、資金を募る側(プログラム起案者・実行者)と資金提供者(支援者)とをつなぐ仲介事業者のプラットフォームにより運営される場合が多い。一般に資金を募る側は個人・組織形態 (営利・非営利)といった制限はない。例えば日本における最大の仲介業者とされるCAMPFIRE(案件数66,000件、支援額610億円)9)の募集プ ログラムを見ても、資金を募る側の組織形態についての記載は見当たらない。そうであれば資金提供者は提供プログラム選択の意思決定に当たって、資金を募る側の組織形態の情報に接しえない。したがって、現状では資金提供の意思決定の際に非営利性ということがプライオリ ティとして認識されないまま、営利企業をはじめとする他の様々な組織形態・個人と競合する と考えられる。さらに、インターネット利用の手軽さから、規模が大きく案件内容が豊富な海外のファンド仲介業者(例えば米国のKickstarter、成功案件231,047件、支援資金総額64億1171万ド ル)10)は世界中から支援を集めていることから、 今後、CFを通じた資金調達は海外との競合関係に晒される可能性もある。 内閣府調査によれば、「寄付をした理由」として「社会の役に立ちたいと思ったから」が最も多く59.8%となっており、寄付者の社会貢献意識が強いことがわかる(内閣府[2020b]22頁)。新たな財源確保としてのCFのポテンシャルを勘案すれば、非営利組織が非営利性の意義やミッションを情報発信・共有して支援を獲得していくことは財源確保にとって有用と考えられる。 Ⅳ ミッションへの共感の醸成―議論 からのインプリケーション― 公益サービスにおける提供形態、提供組織、及び財源獲得方法の多様化は、サービス需要者にとっては様々な組織からそれぞれの強みを生かしたサービス供給を受けることにつながり、また、寄付額の増加が期待されるため社会にとっての意義も大きいと考えられる。 他方こういった多様化は、非営利組織にとっては他の法人形態との境界を曖昧にしたり(千葉[2022]14頁)、また、財源確保の必要性等から資金集めが容易な事業を優先させることにもつながりかねず(金子[2022]21頁)、非営利としてのミッション達成に向けた活動に負の影響が生じる可能性も懸念される。また、非営利組織自体が、自己の役割・立場を明確に維持し続けなければ、他の組織形態と競合する中で、その存在が埋没してしまう危険性もあり得る。 このような状況の中で、営利企業のように出資による財源調達ができない非営利組織が、財源を確保し活動を促進させていくためには、自律性を確保し、非営利としての存在意義についての社会的理解を高め、ミッションへの社会からの共感を醸成することが必要だと考えられる。ここでは、統一論題報告・討論で行われた 「ミッション達成と両立する財政基盤の確立に向けた取り組み」の議論の中から「共感を得るための情報開示」について内容面と情報共有方法の面から検討する。 1 ストーリー性を意識した報告の発信 事業委託やCFによる活動は、資金提供者の意向による言わばひも付きの財源であるため、各事業やプログラムの「事後報告」による説明責任の遂行が必要になる。しかしこのことが、結果として当該法人全体の活動を短期的、ミクロ的視点に終始させてしまい、ミッションへの意識を薄くさせるのであれば問題である。 馬場([2022]32頁)は、事業目標の上位となる政策目的が浸透しなければ、目先の成果に囚われて「成果指標を達成しさえすればよい」との意識が働くことにより、結局ミッションが棄損する恐れがあることを指摘している。また、千葉([2022]9頁)は、民間社会事業の重要なミッションを「制度では未対応のニーズに対して先駆的・開拓的に援助実践を行うこと」と説明する。しかしながら社会福祉事業の実情は、社会福祉法制度と措置制度を両輪として発展する過程で、活動の中心が公的財源の付く制度的事業に集中し、その報告は年次的進行管理・目標達成に重点が置かれる傾向にある11)。 非営利組織の情報開示は活動・プログラムの 成果について、単年度の進行管理を束にした「事後報告」にとどめるのでは不十分である。非営利組織は、ミッション達成のために社会ニーズの変化に対応した弾力的視点で活動を行っていくことに重要な存在意義が認められる。このため、ミッションと個々の活動・プログラムとをストーリー性をもって結び付けた「成果報告」 をすることにより、自分たちの活動の振り返りを通じた継続的ミッション回帰を図るとともに、ステークホルダーに「ミッションを実現するための非営利組織」という存在意義を示すことが必要である。 このストーリー性の重視という視点は、企業が取り入れるようになってきた統合報告が「各要素が企業戦略の全体の中でどう位置付けられ、相互にどのように関係があるかをnarrative(ストーリー)として有機的に伝えていくことが価値創造プロセスの実効的な開示に不可欠」(貝沼他[2019]98頁)と捉えていることと軌を一にする方向であり、営利組織とは異なるミッションを持つ非営利組織としての意義を明確に示すことにつながる有用な方法と考えられる。 2 対話によるミッションへの理解の促進 馬場([2022]25-26頁)によれば、(パートナーシップにおいて)「英国では多様なステークホルダーの合意形成を通じてミッションを反映させる機会がある」とのことであり、また、透明性を確保する合意形成の仕組みには多様なステークホルダーを巻き込んだ対話型スキームの導入が必要とされる(同32頁)。金子([2022]3頁)はCFをストーリーにより共感を得る手法と位置づけ、活動の可視化が求められるとしている。CFのプログラム成立・活動の実施には、プログラム作成・提示のプロセスの中で社会ニーズ・ 関心をいかに取り込み、共感を得るかが重要であるため、ステークホルダーとの意見交換・対話が重要と考えられる。 また現在、地域福祉が推進されている中で、 社会福祉法人の地域における公益的取組の内容としては「地域関係者とのネットワークづくり」が25.6%、「ニーズ把握のためのサロン活動」が 10.2%を占めるなど、ここでもステークホルダー との交流に重きが置かれていることがわかる (千葉[2022]19頁)。 現在確かに、資金受取者である非営利組織はHPなどを通じて活動等の紹介を行っており、 情報発信がなされている12)。しかし共感を得るためには、「自分たちの思いはコレ、こんなことをやっています。賛同する人は支援してください」というように自分たちの立場を主張する姿勢のみではなく、「こんなことやっています、 どうでしょうか」とステークホルダーの意見も聞く機会を設け、また、資金提供者の方も「こ ういうことはどうでしょう。こういう事業であれば寄付をしたい」という意思の発言ができる 対話の機会を設けることが有用ではないかと考えられる。 企業においてもスチュワードシップ・コードの浸透など投資家との対話が重視されてきているが13)、非営利組織においてもそれと同様の方向を進めることは有用と考えられる。資金提供者が単に「結果の開示としての情報」に基づいて意思決定するのみではなく、結果までのプロセスや、更には中・長期的な方向性について対話することにより相互の歩み寄りが叶い、ミッションへの理解・関心が深まり、ステークホルダーからの共感に結び付けることができる。多くの人々からその活動を理解・信頼されるようミッションを伝え、対話により共感を得て、非営利組織活動に対する正統性を確保していくプロセスを構築していくことは、財政基盤の確立に資するものと考えられる。 Ⅴ 小括 非営利組織の経営状況は厳しさを増してきている。非営利組織は、営利企業と異なり出資により財源が得られるわけではなく、またサービスの提供に伴うコストについて、ほとんどの場合利用者から得ているわけでもない。多様なステークホルダーから資源を得て公益サービスの提供を行っている。 本稿では、公益サービスに関する提供形態、提供組織、財源獲得方法の多様化といった環境変化の中で、経営状況の厳しい非営利組織が財政基盤を確立するためには、非営利としての意義を明確に示し他の法人形態と差別化すること、そして社会からミッションへの共感を得ることが重要であるとした。そしてそのためにストーリーを意識した報告と、対話によるミッション理解の醸成が必要ではないかということを考察した。 ソーシャル・サービスの提供における営利と非営利の境界はソーシャル・エンタープライズという括りの中で今後一層あいまいになる可能性もある。しかし例えば、公益法人では公益認定等委員会という公益性に関する外部の目があり14)、またNPO法人は社員10名以上で議決権は一人1票であることなどから、営利組織よりも組織の意義や活動を振り返る機会があるなど、ミッションの堅持がなされやすい体制と言える。また、配当を行わないため経営状況がひっ迫する状況下でも逆に活動の継続性が期待できる面がある。また、非営利組織は社会に対して公益サービスを提供していくが、利益を求めるものではないため、利用者とサービスの売手と買手という関係を超えた協働関係を構築することが可能である。非営利組織の意義やミッションへの理解(活動理解)を深め、一層「共感を呼ぶ」組織体となれば、継続的な支援の輪が広がり、財政基盤の確立につながると考えられる。 ここでは、「ミッション達成と両立する財政基盤の確立に向けた取り組み」について「共感を得るための情報開示」の視点から検討したが、 財政基盤の確立には一層多角的な検討が必要である。 また、公益サービスを取り巻く様々な多様化が進む中で、非営利であることの優位性についてはさらに精緻に分析する必要がある。これらについては今後の課題としたい。 [注] 1)第26回全国大会統一論題「非営利組織の財政基盤の確立へ向けて―ミッション達成と両立する取り組み」においては、以下の3報告が行われた。「成果の可視化と非営利のミッショ ン―PFS・SIB・休眠預金等活用・社会的投資などの視点から」(馬場英朗氏)、「非営利組織におけるクラウドファンディングやファンドレイジング費用の会計的課題」(金子良太氏)、「非営利組織における経営基盤の強化と法人間の連携―社会福祉法人のミッションと社会福祉連携推進法人の動向等に着目して」 (千葉正展氏)。 2)NPO法人、公益法人、社会福祉法人の経営状況について、2023年3月1日における最新 版の公的調査(参考資料参照)までに基づいて概観した。調査によって行われた調査年度 (頻度)や調査項目が異なる部分があるため、すべての項目について3法人を比較した記載 とはなっていない。 3)本稿では、認定や特例認定を受けていない NPO法人を認証法人、認定・特例認定を受 けているNPO法人を認定法人と記す。 4)ふるさと納税による都道府県・市町村の受入 れは12.8%(内閣府[2020b]20頁)。 5)例えばNPO法人の事業収入は「保険・医療・ 福祉の増進」活動をする法人では自己事業収入(保険収入)割合が、それ以外の活動をする法人では受託事業収入割合が最も高くなっ ている(常勤有給職員1人当たり人件費が300万円超の法人に対する調査)(内閣府[2014]18頁)。 6)ミッション・ドリフト(mission drift)とは、「組織の資源や活動が、その組織の公式的な目的からそれること」である(小田切[2017]1頁)。 なお小田切([2017]8頁)は、過度な財源多様化については資金提供者の増加による調整などにより、最終的にミッションを曖昧にする側面があるとも推察している。 7)PPPについては国土交通省HP https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kanminrenkei/1-1.html#:~: text=PPP、PFSについては内閣府HP https://www8.cao.go.jp/pfs/index.html参照。 8)さらに横山([2012]81頁)は、企業の収益事業におけるNPOとのパートナーシップは企業主導型の協働、企業の収益事業外におけるNPOとのパートナーシップはNPO主導型のソーシャル・サービスにおける協働が主となると分類している。 9)CAMPFIREのHPによる。https://camp-fire.jp/stats https://www.kickstarter.com/(2022年 12月1日アクセス)。クラウドファンディングには購入型、寄付型、金融型などの種類があるがここでは全体の金額が示されている。 10)KickstarterのHPによる。https://www.kickstarter.com/(2022年12月1日アクセス)。 11)なお、2016年度改正改正社会福祉法において、 これまでの制度的事業中心から「社会福祉法人の本旨から導かれる本来の役割を明確化するため」、各法人が創意工夫を凝らした取組を行う方向が示されるようになった(千葉 [2022]18頁)。 12)NPO法人では認定法人の93.7%、認証法人の 57.2%がHPやブログで活動内容について情報発信をしている(内閣府[2021b]15頁)。 13)金融庁においては、2014年にスチュワードシップ・コードが策定され(スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会[2020])、2018年には「投資家と企業の対話ガイドライン」 が策定(2021年改訂)されている(金融庁[2021])。 14)齋藤([2014]30-31頁)は、新公益法人制度の発足に関して、法人が自らのミッションを 再確認・再検討する良い機会であると評価している。 [参考文献] 貝沼直之、浜田宰編著[2019]『統合報告で伝える価値創造ストーリー』、商事法務。 金子良太[2022]「非営利組織におけるクラウドファンディングやファンドレイジング費の会計的課題」(非営利法人研究学会第26回全国大会統一論題資料)。 金融庁[2021]『投資家と企業の対話ガイドライン』。 経済産業省[2011]『ソーシャルビジネス推進研究会報告書概要』。 厚生労働省『新しい生活様式の実践例』https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00116.html(2022年12月10日アクセス) 厚生労働省老健局老人保健課[2023]『令和4年度介護事業経営概況調査結果(案)』。 小田切康彦[2017]「サードセクター組織におけるミッション・ドリフトの発生要因」、 『RIETI Discussion Paper Series 17-J068』、独立行政法人経済産業研究所。 小林麻理[2012]「非営利セクターとのパートナーシップによる公共サービスの提供」、『非営利法人研究学会誌』、第14巻、1-14頁。 国土交通省HP https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kanminrenkei/1-1.html#:~:text=PPP 齋藤真哉[2014]「非営利法人制度の現状と課題」、『非営利法人研究学会誌』、第16巻、23- 34頁。 島田恒[2009]『[新版]非営利組織のマネジメント』、東洋経済新報社。 スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会[2020]『「責任ある機関投資家」の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》』。 総務省[2019]『情報通信白書 平成28年版』。 田尾雅夫他4名[2009]「多様化に関する調査とその分析」、宮川公男・山本清編著『行政サービス供給の多様化』、多賀出版。 田中弥生[2006]『NPOが自立する日―行政の下請け化に未来はない―』、日本評論社。 田中弥生[2011]『市民社会政策論』、明石書店。 谷本寛治[2020]『企業と社会―サスティナビリティ時代の経営学―』、中央経済社。 千葉正展[2022]『非営利組織における経営基盤の強化と法人間の連携』(非営利法人研究学会第26回全国大会統一論題資料)。 独立行政法人福祉医療機構[2023]『2021年度社会福祉法人の経営状況について』。 内閣府https://www8.cao.go.jp/pfs/index.html (2022年12月1日アクセス) 内閣府消費者委員会[2014]『クラウドファン ディングに係る制度整備に関する意見』。 内閣府[2014]『平成25年度特定非営利活動法人に関する実態調査報告書』 内閣府(2016a)『平成27年公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告』。 内閣府(2016b)『平成27年度特定非営利活動法人に関する実態調査報告書』。 内閣府(2018a)『平成29年公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告』。 内閣府(2018b)『平成29年度特定非営利活動法人に関する実態調査報告書』。 内閣府(2020a)『令和元年公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告』。 内閣府(2020b)『令和元年度市民の社会貢献に関する実態調査報告書』。 内閣府(2021a)『令和2年公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告』。 内閣府(2021b)『令和2年度特定非営利活動法人に関する実態調査報告書』。 内閣府(2022)『令和3年公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告』。 日本ファンドレイジング協会[2021]『寄付白書2021』、日本ファンドレイジング協会。 馬場英朗[2022]『成果の可視化と非営利のミッション』(非営利法人研究学会第26回全国大会統一論題資料)。 平田譲二[2012]「社会を発展させるソーシャル・イノベーション」平田譲二編著『ソーシャル・ビジネスの経営学―社会を救う戦略と組織―』、46-70頁、中央経済社。 村田文世[2009]『福祉多元化における障害当事者組織と「委託関係」』、ミネルヴァ書房 村田文世[2021]「公私協働に伴う社会福祉法人のアカウンタビリティ拡大と「公益的取組」 の法制化:プリンツパル・エージェント理論からマルチ・ステークホルダー理論への転換」 『日本社会事業大学研究紀要』第67巻、43- 57頁。 矢野経済研究所[2022]『国内クラウドファンディング市場の調査を実施(2022年)』https://www.yano.co.jp/market_reports/C64107100 (2022年12月1日アクセス) 山本清[2009]「行政サービス供給の多様化の背景と課題」、宮川公男・山本清編著『行政サー ビス供給の多様化』、多賀出版。 横山恵子[2012]「既存企業における戦略の発展」、平田譲二編著『ソーシャル・ビジネス の経営学―社会を救う戦略と組織―』、71- 87頁、中央経済社。 CAMPFIREのHP https://camp-fire.jp/stats https:// www.kickstarter.com Drucker,P.F,[1990], Managing the Non-Profit Organization: Practices and Principles, Harper Colliins Publishers. 上田惇生訳[2007] 『非営利組織の経営』、ダイヤモンド社。 KickstarterのHP https://www.kickstarter.com (論稿提出:令和5年3月2日)

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  • 第3回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    国士舘大学 戸田容弘・臼田正利 統一論題 公益法人の課題と21世紀への期待 1 ミッションベイスト・マネジメント 2 独立行政法人の創設について 3 公益活動における継続事業の概念 4 非営利組織の評価の課題 第3回大会記 1999.10.2 国士舘大学 1999年10月2日(土)、午前10時から公益法人研究学会第3回全国大会が国士舘大学・世田谷キャンパスにおいて開催された。80数名の参加者を得、活発な報告と討論が展開され、最後に懇親会を経て閉会した。 本大会の統一論題は「公益法人の課題と21世紀への期待—公益活動におけるミッションを巡る諸問題—」であり、司会・座長=堀田和宏氏(近畿大学)のもとに4題の研究報告並びに討論が行われた。 自由論題報告は2つの会場に分かれて行われた。A会場では、永島公朗氏(日本大学)の司会のもと、若林茂信氏(公認会計士)「公益法人会計にも国際化の洗礼を」、立岡 浩氏(広島国際大学)「NPO及び組織間関係NPOにおけるマネジメント研究」、B会場では、竹内 拓氏(産能短期大学)の司会のもと、高橋選哉氏(青山学院大学)「NPO法人税制の現状と課題」、樽見弘紀氏(北海学園大学) 「共同募金システムの中心課題〜米国ユナイテッド・ウェイの<ドナー・チョイス>をめぐって〜」の計4題の報告が行われた。 記念講演として、本会会長の守永誠治氏(静岡産業大学)に「大航海時代より大公開時代へ」を講演していただいた。大公開時代に備えて今後の公益法人の発展のためには、本公益法人研究学会の研究とその実務への適用が期待される。 統一論題の報告要旨及び討論は以下のとおりである。 なお、以下の報告要旨のまとめについては、国士舘大学の戸田容弘氏及び臼田正利氏によるものである。 ​ 1 ミッションベイスト・マネジメント 報告:島田 恒氏(龍谷大学) 公益法人の存在と活動の本質はそのミッションであり、またその組織発展の原理もミッションに根ざすものである。 したがって、公益法人は、自らの卓越した意図をミッションに表現し、それを成果に獲得して「もう一つの社会」に貢献していく。 20世紀「産業社会」を歴史的に掘り下げ、その発展と限界をDruckerやSimonの所説を説明しながら、自由主義産業社会では、産業の発展、経済の発展は人々に物的豊かさをもたらしはしたが、政治は経済発展を優先し、文化価値が経済的交換価値で値踏みされ、教育は偏差値序列で評価され、「あまりにも経済」という病理を社会にもたらした、と指摘する。そこで、非営利組織の存在の座標を、効率性や公平性・画一性原理ではなく、人間性・市民性・社会性の原理に基づかせ、非常利組織の存在の意義を確保している。 本来ミッションとは、人間を変え社会を変えていくキリスト教の根源的使命を表現する言葉であり、島田氏が関係する日本キリスト教海外医療協力会や(財)アジア保健研修財団のミッションの実践を通して、 独自性と多様性のある非営利組織の第3セクターとして存在感を深めている実証を示した。 それには、絶えす、ミッションを見直し、問い直し、金ではなく、人による協力、 草の根の協力に徹することを確認した。それを支えるものがボランティアとスタッフ、ボラン夕リズムの重要性であり、その源泉はミッションに対する共鳴にほかならない、と指摘している。 ​ 2 独立行政法人の創設について 報告:岡本義朗氏(中央省庁等改革推進本部) 平成11年4月27日、「中央省庁等改革推進に関する方針」が中央省庁等改革推進本部(全閣僚により構成)で決定された。それに基づき、独立行政法人(独法と略称)制度が設けられ、その基本となる共通法律事項は、独立行政法人通則法に規定され、本年7月8日国会で成立した。この独法制度の特徴は、第一に、国の事務・事業の実施部門を国家行政組織から独立させた。第二に、国の事務・事業の実施部門に対して、民間の企業経営における長所をとりいれた(独法の特性に応じた形での企業会計原則の導入、自己責任に基づく業務運営の目玉としての評価システムの導入)制度設計である。 この独法には、本来的に追求すべき3つの価値(公共性、自主性、透明性)がある。つまり、公共上の見地から確実に実施され、適性・効率的に運営され、運営の自主性は十分に配慮され、その業務内容を公表して組織及び運営の状況を国民に明らかにすることである。そのため、独法の制度には、①業務運営では、自己責任、目標管理、事後評価(客観性の確保)を導入、②人事管理システムでは、業績給与の導入、役員の公募制、解任の仕組み等を導入、③アカウンタビリティとディスクロージャーの仕組みでは、広範かつ徹底したディスクロージャーのもとに、独法の業務内容、業績、評価等に関する広範な事項を国民に公表する、㈬財務会計制度(国からの予算措置、弾力的な執行、企業会計原則の導入等)により、発生主義の考え方や、複式簿記に従った会計処理が行われ、財務諸表として貸借対照表、損益計算書が作成される。また、その適正性、客観性を担保するため、原則として会計監査人の監査を義務づけた。 企業会計原則導入に伴う主要論点として、①アカウンタビリティの確保、㈪業績評価の観点、課題として、(ア)企業会計における収益と費用の関係、(イ)資本と利益の区別の原則には、独法の制度上の特性に応じて必要な修正を加えて理解する。 特に、運営費交付金、施設費、減価償却の取扱い及び独法の損益計算について、 現時点での意義をこの制度の設定主体者側の立場から論じ、報告している。 ​ 3 公益活動における継続事業の概念 報告:小宮 徹氏(公認会計士) 公益事業体は、設立目的そのものが公益的貢献であり使命であるので、社会ニーズに可能な限り応えていくことが公益活動の命題であり、継続事業の存続要件である。 ゴーイング・コンサーンとしての公益事業体は、公益活動を維持・遂行するため収入と支出を伴う。収支の均衡・不均衡は事業体の財産状態に影替を与える。財政的基盤としての純財産(正味財産)は公益活動に必要であり、その適正水準は保持されなければならない。公益事業体は収入面に制約があり、支出面が優先されるので、企業経営よりさらに厳しいチェックアンドバランスの管理手法が適用されるべきであろう。 「公益法人会計基準」では、貸借対照表の作成は取得原価主義に拠るべきことを定めているが、過去の記録である取得原価によって作成される貸借対照表にはその情報的価値に限界がある。公益法人会計でも、貸借対照表は時価主義によって作成することが望ましい。 公益法人の内部留保の計算方式は、総資産から公益法人に必須の財産と純負債(引当資産を控除した後の)を差し引く方式であり、合理的である。 財政安定のため支出は収入の範囲にとどめ、特に長期収入と長期支出の均衡を図る。正味財産の増減は長期財政収支の均衡を示す。長期事業計画に基づき長期予算を編成し財政収支の行先を見通し、採算性の維続的維持を図る。長期予算編成には、予算による計数管埋が不可欠で、①長期事業方針、②収入予測、③資金調達計画が特に重要でめる。 公益活動の成果は、公益事業体が提供するサービスとして、その受益者等の利害関係者から評価される。しかし、その質的成果や量的評価は難しい。公益活動の社会的貢献の尺度を計測可能な財務的数値に求めるとすれば、その成果は、資金を如何に効果的に公益活動に投下したかで評価され得る。資金財源の調達、公益活動のコストの負担も評価の一面である。 それらの社会的評価のもとで、公益事業体は、ゴーイング・コンサーンとして支持を得、存続する、と指摘している。 ​ 4 非営利組織の評価の課題 報告:石崎忠司氏(中央大学) 非営利組織の評価は財政の評価だけでは不十分である。多面的な評価判断が必要である。非営利組織の評価を営利組織の評価との比較によって検討している。 1 非営利組繊のミッションと経済合理性の両立 組織目的・形態からみた不経済性では、経済合理性、コスト、品質、時間を戦略要因と認識した経営戦略をとっているか。経済合理性が組織の存続を左右し、組織存続のためには戦略が重要である。 2 非営利組織の評価体系 営利企業の業績評価が多元化しており、この背景が非営利組織の評価にも影響を与えている。その評価体系には、㈰「成果評価」=ミッションの達成度の評価、㈪「組織評価」=組織の多面的な総合評価、を指摘する。「成果評価」としての有効性、公益性、経済性の評価では、「公益性の良否は有効性の良否を左右する」、「有効性の良否は経済性の良否を左右する」、「経済性の良否は公益性を左右する」という関係にある。 3 有効性(ミッションの達成度)の評価方法——成果評価 資金が拠出されている場合にはガバナンスが生じる。ミッションの成果の要因分析においては、①ミッションの妥当性、②顧客ニーズの把握の妥当性、③ミッション遂行計画の妥当性を挙げている。 4 公益性(ミッションの戦略・計画)評価方法 5 経済性(資金の制約)の評価方法 非営利組織の会計制度の体系化が進んでいないため、経済効率の評価、財務安全性の評価、組織間比較に困難性がある。 6 非営利組織の組織評価 複数の指標による総合評価=効果性、公益性、経済性をまとめた多様な総合評価の必要性を指摘している。 また、評価の課題として、情報の公開、第三者機関による評価、評価指標の開発と標準値の算定・公開、社会性、環境パフォーマンスの評価方法の確立など多様な課題を指摘している。 討論会では座長:堀田和宏氏(近畿大学)の司会のもと、発表者4人の報告に基づいて、以下の諸先生から、社会的ニーズとしてのミッションの在り方、ミッションベイスト・マネジメントの評価、ボランティア組織のガバナンス、非営利組織の成果評価、企業会計原則の導入と公会計原則の在り方、減価償却の取扱いなどについて 質疑応答があり、熱心な討論が行われた。質問者は次のとおりである。 臼田克昌氏(日本赤十字社)、吉田忠彦氏(近畿大学豊岡短大)、亀岡保夫氏(公認会計士)、岡村勝義氏(神奈川大学短期大学部)、会田一雄氏(慶應義塾大学)、菊谷正人氏(国士舘大学)、斎藤真哉氏(青山学院大学)、小島廣光氏(北海道大学)、立岡 浩氏(広島国際大学)、守永誠治氏(静岡産業大学)、江田 寛氏(公認会計士)、高橋選哉氏(青山学院大学)、服部信男氏(静岡産業大学)、樽見弘紀氏(北海学園大学)、武田昌輔氏(成蹊大学)、早坂 毅氏(関東学院大学)、保谷六郎氏(聖学院大学)、松葉邦敏氏(国士舘大学)、薄井正徳氏(目黒寄生虫館)。 統一論題発表報告・討論終了後、5号館学生ホールにおいて懇親会が開催された。 開催校を代表して国士舘大学・三浦信行学長の挨拶があり、 なごやかな雰囲気のなか19時30分終了した。

  • 第8回学会賞・学術奨励賞 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    学会賞・学術奨励賞の審査結果 第8回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告 平成21年9月26日 非営利法人研究学会 審査委員長:大矢知浩司 ​ 非営利法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第8回学会賞(平成20年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)及び学術奨励賞(平成20年度全国大会における報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文及び刊行著書)の候補作を慎重に選考審議した結果、今次は残念ながら学術奨励賞に該当する論文はなく、下記の論文を学会賞に値するものと認め選定しましたので、ここに報告いたします。 1. 学会賞 伊藤研一(摂南大学)・道明義弘(奈良大学〔名誉教授〕)「大統領府創設の“ねらい”ー行政組織の効率測定と予算配分:サイモンとバーナードー」(平成20年度非営利法人研究学会全国大会報告、於・日本大学、『非営利法人研究学会誌』VOL.11所収) 【受賞論文の特徴と受賞理由】 本稿は、先に第10回全国大会統一論題で報告され、その報告をベースに纏められた論考「アメリカ行政府の構造改革ー組織論はF. D. ローズベルトを助けたか?ー」(『非営利法人研究学会誌』VOL.9所収)で論じられた1939年のローズベルト米大統領による行政府の構造改革についての概括的な説明をさらに押し進め、行政府の効率測定と予算配分問題を、詳細かつ出来るだけ具体的に明らかにしようとするものである。この課題は、伊藤の初期サイモン研究において、サイモンの研究課題が社会的な背景の下において実行されており、1930年代の社会的経済的な状況の解明が必須であることを明らかにしてきているが、サイモンにおける理論形成の背景を社会的な全体状況の下で解明し、サイモン理論の創造・形成の過程を、社会的な行動との関係の下で明らかにしようとする試みは、この伊藤の試みを除けば、ほとんどなされたことがないと思われる。このような試みを通じて、理論が時代の子であることを伊藤は具体的に明らかにするとともに、時代の変遷において、理論がどのように位置づけられるかを解明できるという。この初期サイモンを研究する過程の一環として、先の論稿と本稿がある。 効率測定については、ローズベルト大統領の構造改革以前には、1916年に連邦政府は、後に予算局に吸収されることになる効率局を設置して、行政府の効率測定を実行しようとしている。本稿では、効率局による年次の報告書を手掛かりに、効率局の行動を要約し、その行動が予算局にどのように結びつき、予算局においては、どのような行動が期待されていたのかを明らかにしようとしている。1933年に予算局に吸収された効率局については、わが国ではこれまで注目されることがなく、したがって、その行動が紹介されることはなかったが、現在、わが国の行政において重要な課題とされている行政の縦割り問題を解決し、行政における効率を高めるためには、改めてこの効率局の行動を見直す必要があろうと論者は言う。 効率局においては、人事における効率評定システムの作成と評価の実行、各省の業務遂行についての調査と効率化、業務の重複についての調査、統計資料の作成と管理という職務を実行していたが、効率局を予算局に吸収した理由の1つは、予算配分にこの効率局において蓄積したノウハウを利用しようとすることにある。効率局の行動を予算局との関係の下において明らかにしたのは、本稿が最初であろう。 大恐慌を経て、アメリカの時代的な要請であった効率問題の解決は、また、このような時代背景の下において生み出されてきているサイモン理論に大きな影響を与えており、サイモン理論の理論的な基礎は一貫して「効率」にあると、伊藤・道明は喝破している。時代と切り結ぶことによって、サイモンは、時代の中から、その要請に応えるべく彼の理論を構成していることが明らかになっている。連邦政府における構造改革は、効率問題を通じて、サイモンの理論と結びついている。サイモンにとって、連邦政府の構造改革に辣腕を振るったブラウンロー委員会の構成メンバーであるメリアムはシカゴ大学の恩師であり、また、ギューリックとは効率研究を通じて、リドレーを介して知悉の関係にある。後日、サイモンは、ギューリックに対して、構造改革の理論的基礎が伝統理論であるとして激しい論難を浴びせたが、この論難がサイモンの効率測定研究の成果に基づくことを、伊藤・道明は明らかにしようとするものであった。 本稿においては、ブラウンロー委員会の提案のうち予算局に関する部分を取り上げ、1939年の構造改革における変革をGovernment Manualの組織図を示すことによって詳細に跡づけるとともに、担当官の氏名を明らかにすることで、その中にサイモンの知己が任命されていることを見出している。予算局が大統領府に移管されるとともに、その権限は大きく変化し、予算配分と情報管理という枢要な職能を果たすようになる。そこにサイモンは知人を有していたし、また、他の政府機関にも知己を持っている。このように、当時のサイモンは、政府の中心的な機関に属する人物との関係を有しており、彼の理論形成には、当時の時代的な全体状況が色濃く反映しているという。 ブラウンロー委員会の提案において示されている予算局の大統領府への移管と、その職能の拡大は、そのまま1939年の構造改革において実行されていることが明らかにされている。ブラウンロー委員会における予算局に関する提案と、ローズベルト大統領の議会への提案Reorganization Plan No.1 of 1939 とは、軌を一にするものであり、大統領は、委員会の提案どおりに予算局を大統領府へ移管し、予算局の職能を拡大するという提案を行っていることが分かる。経営管理の腕として、大統領は予算局の行動には極めて重要な役割を期待した。これは、ギューリックの考え方を具体化したものであり、伝統的な経営理論の成果の1つとみなすことができる。そこでの理論的なバックボーンは、管理原則論であり、管理過程論であった。 このギューリックの理論に対して、激しい論難を浴びせたサイモンの考え方の基礎には、彼自身の効率研究成果が横たわっている。本稿においては、その論難へ至る研究成果、効率測定問題の研究過程を詳細に追跡しており、リドレーとの共同研究において、リドレーの有効性を重視しつつも、サイモンは独自に効率重視の考え方を提示し、共同研究をリードしたことを明らかにしている。サイモンは、効率測定を操作可能なものとして提示することが必要と考えており、そのフレームワークを案出しようとしている。このようにして生み出された効率の考え方が、生涯を通じて、サイモンの研究成果における通奏低音となっているというのが、伊藤・道明の見解である。 ローズベルト大統領は、大恐慌を克服し、民主主義を守り抜くために必要な要件として、効率を掲げているが、この考え方は、ギューリックにもサイモンにも共通したものであった。しかし、ギューリックには、操作可能な形での効率概念のフレームワークが欠けていたのに対して、サイモンにおいては、不完全ではあるが、操作可能な形で、そのフレームワークを提示できたという自負が見られるとともに、時代の要請に応えるという充足感が溢れている。同時代のバーナードも、時代とともに歩み、有効性と効率性を組み合わせた評価フレームワークを提示している。 本稿では、ローズベルト大統領がニュー・ディール政策を実行し、効率を求めて、連邦行政府の構造改革を断行する時代にあって、サイモンの初期研究においても、効率問題が主要な関心事であり、時代と切り結びつつ、サイモンは自分の考え方をまとめていっていることを、構造改革に関する文献とサイモン・リドレーが著している文献とに基づきつつ詳細に明らかにしている。時代の動きを描きつつ、それにシンクロする形で、サイモンという研究者の自らの理論形成の過程を明らかにしており、両者に共通するキーワードとして、効率という概念を見出しているところに、本稿の特徴が見られる。 以上から、問題指摘の独創性、文献渉猟、論述展開の緻密さ、効率性と予算との関係を明確にした現代的意義づけ等、極めて優れた大作であり、審査委員会は一致して、学会賞にふさわしい論文に選定した。 2. 学術奨励賞 該当者なし

  • 第12会大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    第12回大会記 2008.9.5-6 日本大学 統一論題 非営利組織の業績測定・評価に関する多角的アプローチ 日本大学 堀江正之 はじめに 非営利法人研究学会第12回全国大会は、2008年9月5日・6日の両日、日本大学(準備委員長:堀江正之)において開催された。その前日(4日)には理事会が開かれ、事務局から会務報告のほか、総会提出のための前年度決算案・次年度予算案等の議案を承認した。 1日目は総会に続いて統一論題報告と討議があり、2日目は自由論題報告・特別講演と研究部会報告が行われた。なお、今次大会の参加者は、当日申込みを含め101名であった。 【統一論題報告・討議】 統一論題のテーマは「非営利組織の業績測定・評価に関する多角的アプローチ」であり、石崎忠司(中央大学)座長の下、報告と討議が進められた。 どこの学会でも見受けられることであるが、「統一論題という名の自由論題」と揶揄されるように、各報告者が自らの関心テーマをほんの少々統一論題テーマに引っ掛けるだけのものとなりがちである。そのため今次大会は、堀田和宏氏(近畿大学名誉教授)が最初に登壇されて、討論のための「土俵」の確定が試みられた。 堀田氏は、その前半で、まずもって「誰が、誰のために、何のために、どれの、どこを、どのように」測定・評価するかを確認して確定する必要があると指摘、「断片的な業績評価システムを首尾一貫した整合性あるシステムに統合する包括的業績評価システムのフレームワーク確立」の重要性を訴えられた。 その議論を受けて、堀田報告の後半では、BSCの4つの視点、CCAF(カナダ包括監査財団)の12の属性の視点、J.Cuttらの提言等を検討され、組織の持続性、組織の社会性、非営利組織における組織有効性のジレンマを小括とされ、再び「評価の本質とその限界の再考」、「非営利組織とは何か」に遡った検討の中で、多様なサービスの性質及び形態に適合する測定・評価フレームワークの構築を主張された。 これに引き続き、第1報告として、梅津亮子氏(九州産業大学)が「サービスの原価と見えない価値」と題して、組織外のボランティアが組織に対して無償のサービスを提供する流れ(ボランティア→組織)、組織の職員がエンドユーザーに対して無償のサービスを提供する流れ(組織→エンドユーザー)という2つのパターンから、インプットとアウトプット関係の中で、原価測定と評価の枠組みの中に位置づけ、無償によるサービス活動を原価によって可視化し、活動内容を評価していくための仕組みを提案された。 第2報告の今枝千樹氏(愛知産業大学)は、「非営利組織の業績報告」と題して、アメリカ政府会計基準審議会によって1994年に公表された概念書第2号の改訂公開草案と、公表された返答の要請について、かかる概念書の改訂部分と改訂の背景及びガイドラインの整理・検討に基づいて、政府組織を含む広義の非営利組織における業績報告のあり方について詳細な検討を加えられ、その内容及び設定過程についての検討が、我が国の政府機関における業績報告に係る議論の参考になると主張された。 第3報告の齋藤真哉氏(横浜国立大学)は、「非営利組織の公益性評価—公益認定の基準を踏まえて—」と題して、新たな公益法人制度上の公益認定基準を取り上げて、非営利組織にとっての公益性の社会的意義とその評価について検討された。公益性は社会システムの中で支援する必要があるか否かにより評価し、公益性と税制優遇はリンクしている等のポイントを示され、単なる公益性評価ではなく、非営利組織の公益性評価というところを強調され、そこに非営利組織の存在意義を求める必要があると主張された。 以上の報告に対し、座長の石崎氏より、積極的にフロアー、特に自由論題報告予定者のうち、今回の統一論題のテーマと関連深い方に意見が求められ、活発な討論が展開された。 【自由論題報告】 自由論題報告は合計で18報告あり、紙幅の関係もあって、そのすべてを紹介できないが、院生会員の報告も3分の1強を占め、学会の将来的な活性化を感じさせるものであった。 その内容も、非営利組織を巡るガバナンス・管理・会計・財務・税務・監査等の諸問題を広くカバーするものであった。大会では統一論題が重視される傾向にあるが、自らの地道な研究成果を披露する自由論題にこそ、本当に面白いものがあるように思わせる報告が多かった。 【特別講演・研究部会報告】 今次大会では、本学会副会長の興津裕康氏(近畿大学名誉教授)による「企業会計と非営利の会計—財務会計研究からみた非営利組織の会計を考える—」、そして開催校側から勝山進氏(日本大学商学部部長)による「組織の環境会計」と題する特別講演が行われた。 興津氏は、公益法人会計基準を中心に、非営利の会計を企業会計の視点から検討され、公益法人会計基準は企業会計基準に極めて類似してきたように思われるが、「これでよいのか、非営利の会計の色彩が失われてきているのではないか」と結ばれた。 また勝山氏は、昨今その研究が急速に進められつつある環境会計の現状と課題について、国際動向を踏まえて整理され、自治体の環境会計、大学の環境会計などの事例も紹介されながら非営利組織への適用可能性を探られた。 特別講演に続き、小林麻理氏(早稲田大学)を主査とする東日本研究部会報告が行われ、公益認定基準を巡る諸問題について、メンバーによる研究の成果報告が行われ、フロアーを交えた活発な意見交換が行われた。 おわりに 非営利組織の業績測定・評価は、一息に「多様性あり」と言ってしまえばそれまでである。「多角的であること、多角的にならざるを得ないこと」を深く考えてみることに意味があるように思う。統一論題だけでなく、自由論題もともに直接・間接の違いはあるかも知れないが、基底において、いずれもこの問題に迫るものであった。 〈付記〉 本稿の執筆に際しては、大原大学院大学の江頭幸代氏のお力添えをいただいた。記して感謝したい。

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