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執筆者の写真非営利法人研究学会事務局

≪査読付論文≫公益認定取消しと公益認定制度についての再検討 / 古市雄一朗 (大原大学院大学准教授)

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大原大学院大学准教授  古市雄一朗


キーワード:

公益認定 認定取消し 公益性の意義 公益法人と一般法人       

最適資源配分


要 旨:

 公益認定の取消しは、言わば公益認定と表裏一体の関係にあり公益認定の取消しについ ての現状を整理し、その意義について検討する事で公益認定の意義やそれをチェックする 機関の果たす役割や一般法人を含めた法人制度全体について検討を行った。公益法人から 一般法人への移行についての制度を再検討する事で行政の資源配分の立場からより効率的 に公益法人の活動を推進させる事ができる可能性を指摘した。


構 成:

I  はじめに

II 公益認定の取消しと公益認定基準

III 公益認定取消しの事例

IV 公益認定等委員会の果たす役割と法人区分の意義について

Ⅴ むすびにかえて


Abstract

 This paper discusses that the authorization system of the public interest corporations and annual checking of their qualification will promote the efficient resource allocation for the public benefit


※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。

 

 はじめに

 平成20年12月の公益法人制度改革による新制度移行後、公益認定を受けた法人の公益認定が取消される事例が複数発生している。現行の制度では、一般財団法人および一般社団法人(以下、一般法人)のうち、公益認定等委員会により公益認定を受けた法人が公益財団法人および公益社団法人(以下、公益法人)として認定される事になる。  

 公益認定を受けた公益法人には、税制上の優遇措置に加え、各種の運営上のメリットがある。 公益認定等委員会は、公益認定のみならず、その後の指導監督を行い公益認定を受けた法人としてふさわしくないと判断した場合には、法人に与えた公益認定の取消しの判断を下す事ができる。すなわち、公益認定等委員会は、公益法人を外部からチェックすることで公益法人の活動の公益性を担保し、公益活動を行うのにふさわしい組織としての資質を継続して保つうえで重要な役割を果たしていると言える。  

 公益認定の取消しは、言わば公益認定と表裏一体の関係にあり公益認定の取消しについての現状を整理し、その意義について検討する事で公益認定の意義やそれをチェックする機関の果たす役割、一般法人を含めた法人制度全体について検討課題を探索することができると言える。  

 本稿においては、公益社団法人および公益財団法人の認定等に関する法律(以下、認定法) 第29条第1項に規定される必要的取消し事由および同第2項に規定される任意的取消し事由に基づいて公益認定等委員会により公益認定取消しの判断がなされた事例を検討の対象とする。なお、法人が自ら認定取消しの申請を行った場合については、公益認定等委員会から重大な指導・勧告が行われず、法人の自主的な判断により認定取消しが行われたと考えられる場合には、本稿における検討の対象外とする1)

 まず次節において、公益認定が取消される制度上の背景とそれに関連して公益認定基準において公益法人に求められる条件について整理を行う。Ⅲにおいて、実際の公益認定の取消しが 行われた事例について検討を行う。続くⅣにおいて、公益法人に対するチェック機能の意義と一般法人を含めた制度全体の在り方について検討を行う。


Ⅱ 公益認定の取消しと公益認定基準

 従来、旧民法34条を根拠とするいわゆる旧公益法人制度では、主務官庁に大きな権限が与えられ公益性の判断が裁量的に行われており、なおかつ法人格の認可と公益性の有無についてセットで判断されていた。平成20年の制度改革以降の新制度においては、公益性の判断基準がルールベースで明確にされ、公益性の有無と法人格の有無の判断も分離されるようになった。 また、公益性の判断を行うのも主務官庁から内閣府の審議会である公益認定等委員会または、都道府県の場合にはそれぞれの条例に基づいて 設けられる公益認定等審議会に代わり2)、主務官庁の規制の在り方は、裁量による事前規制からルールベースの事後チェックに重きがおかれるようになった。公益認定が行われた後、公益認定の取消しが行われる事由は以下の2つである。

 ⑴ 必要的取消し事由(認定法第29条第1項)

  次のいずれかに該当した場合には、公益認定は、必ず取消されなければならない

  ① 欠格事由に該当するに至ったとき3)

  ②  偽りその他不正の手段により公益認定、変更認定等を受けたとき

  ③  正当な理由無く行政庁の命令に従わないとき

  ④  法人から公益認定取消しの申請があったとき

 ⑵ 任意的取消し事由(認定法第29条第2項)    

  次のいずれかに該当した場合には、行政機関が公益認定を取消す事ができる

  ①  公益認定基準(認定法5条第1号から第18号)のいずれかに適合しなくなったとき   ②  認定法第14条から第26条の規定を遵守していないとき4)  

  ③  上記のほか、法令又は法令に基づく行政機関の処分に違反したとき

 任意的取消し事由については、直ちに認定取消しということではなく、まずは、法人に対して是正を求め、必要に応じ、勧告・命令という手順を踏むため実際に行政機関の処分に違反した事を理由として認定取消しが行われる場合には、必要的取消し事由の⑶を根拠に取消しが行われると考えられる(内閣府[2013]10頁)。  

 上記の2つの取消し事由を比べるならば、必要的取消し事由は、基本的に重大な法令違反等による取消しであるのに対して、任意的取消し事由は、公益法人が公益認定基準を満たさなくなった場合、すなわち認定法の目的に掲げられている法人の活動が公益の増進および活力ある社会の実現に資することができなくなったと判断された場合に行われるものであると言える。  

 認定法における公益認定の基準が示されている認定法第5条第1号から第18号の内容を整理すると以下の通りである。

 第1号  公益事業を行う事を主たる事業目的とすること。

 第2号  公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎、技術的能力があること。

 第3号  法人の社員、評議員、理事等の関係者に特別の利益を提供しないこと。

 第4号  株式会社等への寄附等を行わないこと。

 第5号 投機的な取引を行わないこと。

 第6号  公益目的事業の収入がその事業に必要な適正な費用を超えないこと(収支相償)。

 第7号  収益事業等が公益目的事業の実施に影響を与えないこと。

 第8号  公益目的事業比率が50%以上であること(公益目的事業比率)。

 第9号  遊休財産額が一定額を超えないこと (遊休財産保有制限)。

 第10号  理事の関係者の理事または監事の構成比に関する制限。

 第11号  他の同一団体の関係者が理事または監事に占める構成比に関する制限。

 第12号  一定の規模以上の場合の会計監査人の設置。

 第13号  役員の報酬等の支給基準を定めること。

 第14号  社団法人において社員の資格について不当な扱いをしないこと。

 第15号  他の団体の意思決定に関与する株式等の財産の保有禁止。

 第16号  公益目的事業に不可欠な特定財産に関して定款で定めること。

 第17号  公益認定取消し時に公益目的取得財産残高の贈与に関する取決めを定款で定めること。

 第18号  清算時の残余財産の贈与に関する取決めを定款に定めること。

 すなわち、重大な法令違反を行った法人が公益認定を取消されるのは、当然として重大な違反を犯していないとしても基準に照らして、公益性を有しなくなった法人は、公益認定が取消される可能性を認定法は示している。  

 上記の公益認定の基準について先行研究ではその内容をいくつかのグループに区分し分類を行ってきた。  

 江田[2012]13-19頁では、①事業の公益性の確保、②適正な運営管理の確保および③財務に関する基準の3つに区分する検討を行っている。

 すなわち①「事業の公益性の確保のための基準」として1号、2号、5号、7号を挙げてお り、公益を目的とする事業を適性に実施し得る法人に該当するか否かを判断する尺度であるとしている。また②「適正な運営管理の確保」にあてはまる基準として3号、4号、10号、11号、12号、13号、14号、15号、16号、17号、18号を挙げており、これらの内容は、公益目的事業の実施を主たる目的とする法人のガバナンスに係る部分を再構築したもので具体的には一般法人に要求されているガバナンスの基準に、より厳しいガバナンスの基準が付加しているものであるとしており、公益目的事業を適性に実施できる法人の判断基準であるとしている。  

 ③の財務に関する基準として、6 号、8 号、9号を挙げており、これらのいわゆる財務三基準については、税制上の優遇を与える制約についての抽出基準であるとしている。

 (齋藤[2009]41-44頁)では、①公益目的事業関連、②経理・情報開示関連、③自己統制関連、④その他(精算時等)の4 グループに分類している。  

 ①の公益目的事業関連については、公益性に直接関わる基準として1号、2号、4号、6 号、8号、9号、15号が主に当てはまり実施事業に関して不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与する事が求められ、収支相償を求めて営利競合を避ける事や公序良俗に反する事業を禁止する内容であるとしている。②の経理・情報開示関連については、2号および12号が当てはまり、 許可主義から準則主義への移行に伴い、社会全体によるモニタリング、委託された財産に関する報告義務についての内容が盛り込まれており、それは、組織が社会的に必要とされているか否かについての評価を導くとしている。③の自己統制関連については、 3号、10号、11号、13号、14号が該当し、組織の自律性が求められる事との関連で社会的必要性を否定される事のないような組織管理が求められるために必要な基準であるとしている。

 また、岡村[2015a]266-269頁では、1号 から18号を1号を核としそれを補完ないし補足する関係を持つ基準の集合としての①「公益目 的事業の確保」のための基準に分類されるグループと公益目的事業法人の組織特性に関する基準の集合である②「公益目的事業法人の組織特性」の2つのグループに分類している。

 すなわち①公益目的事業の確保のための基準として1号を核に2号、3号、4号、5号、6号、7号、8号、9号、10号、11号、13号、15 号、16号がそれを補完する関係にあり、②公益目的事業法人の特性に関する基準として12号、 14号、17号、18号が公益目的事業法人としての組織の特性として求められるとしている。岡村もまた6号基準の収支相償は、税優遇の適合基準であることを指摘している。  

 岡村[2015a]でも示されているように公益認定基準の分類に見る整理の仕方は論者によって異なっており基準間の関連についての理解が定まっていないと言える(岡村[2015a]267頁)。  

 本稿においては、公益認定の取消しを議論の出発点としており、任意的取消し事由として認定基準を満たさなくなった場合には、法人が公益事業を行う主体としてふさわしくないと判断され公益認定が取消されるという観点から分類を行う。そのような観点に立つならば、公益認定基準の中身は①法人の主たる事業が公益目的事業であるかの判断基準である1号、6号、7号、8号、9号、15号と②法人が公益目的事業を行う上で備えているべき資質を有しているかの判断基準である2号、3号、4号、5号、10号、11号、12号、13号、14号、16号、17号、18号の 2つのグループに分けられると言える。すなわち、公益法人が公益認定を取消される場合としては、重大な違反をした場合に加え、法人が名目的にも実質的にも公益目的を主たる事業としなくなった場合と公益事業を行うための技術や能力、ガバナンス体制を維持できなくなった時に認定が取消されると言える。先行研究および本稿における認定基準の分類をまとめると 図表1の通りである。  

 本稿における分類は法人の目的が公益事業であるか否かの判定基準と組織が有しているべき特性に関する判断基準の2つに注目し分類を 行っている点は岡村[2015a]に近い。しかしながら本稿においては、組織が行う主たる活動が公益目的事業ならば、1号はもちろん当然の結果として収支相償は達せられ(6号)、公益目的事業に影響を与えるほどに収益事業に比重がおかれる事も無く(7号)、公益目的事業比率や、遊休財産の保有額が一定の水準を超える事も無く(8号、9号)収益の獲得を主目的とする株式会社をコントロールするための株式の保有等は行わない(15号)と考えられるため、上記を1つの区分とした。  

 一方で、公益目的事業を行い公益を推進しそれに伴う恩恵を享受する組織は、それを遂行するのに必要な経理的基礎を有し(2号)、公益とは真逆の私益目的や特定利害関係者への利益提供につながる事業を行わず(3号、4号)、公益目的の推進を損なうリスクを伴う事業を行う事も無いと考えられる(5号)。また、適切なガバナンスを損ない特定の者に対する利益提供につながる可能性のある運営体制を構築しないはずである(10号、11号、13号、14号)。さらに、 アカウンタビリティの担保のために必要に応じて会計監査人を設置してチェック機能を働かせ (12号)、公益目的事業を達成するのに必要な財産を適切に運用できる経理を行う(16号)。そして、非営利性と矛盾する残余財産の分配を可能にするような定款を設ける事は無いと言える (17号、18号)。  

 上記の公益認定基準の区分を踏まえて、議論を整理するならば、公益認定が取消される原因としては、

  • タイプA: 必要的取消し事由の内容に当たる各種法令、規則の重大な違反による認 定取消し

  • タイプB: 任意的取消し事由のうち主たる事業が公益目的と判断されなくなった事 により公益認定基準を満たさなくなった事による認定取消し

  • タイプC: 任意的取消し事由のうち法人が公益目的事業を推進するのに必要な資質 を失った事により公益認定基準を満たさなくなった事による認定取消し

の3つが少なくとも考えられると言える。  

 次項においては、実際の公益認定取消しの事例について上記タイプA~タイプCの、どの取消しのパターンに当てはまるかという視点を中心に実際の公益認定の取消しの事例について検討を行う。


図表1 公益認定基準の分類


Ⅲ 公益認定取消しの事例

 本項においては、平成20年の新制度移行後に公益認定の取消しが行われた主な事例を挙げ、 取消しの原因についての分類を行う。また、取消しにいたる理由や経緯については、行政庁から公表された資料を基に整理を行う。なお、法人の名称等は、当時のものである。

事例① 公益社団法人全日本テコンドー協会

日付:平成26年7月1日

取消し理由:  

 取消しの判断が行われる前に当該法人は2度の勧告を受けている。1度目の勧告は、平成25年12月に行われ一般法人法第48条で規定されている社員の議決権についての規定に違反し、賞罰規定において社員の資格停止処分を受けた社員に対して議決権の行使を認めない規定が問題になった。すなわち社員総会における議決権の行使に関する一般法人法違反が指摘された。  

 2度目の勧告は平成26年4月に行われ、法人の作成する帳簿外の資金の流れが存在し、代表理事が助成金を自ら集金し、それを自己又は自己の関連会社の名義で寄付し、寄付金控除等を受けているなど、代表理事個人の財布と法人の会計区分がされておらず、公益法人に求められる経理的基礎が備わっていないという指摘が行われた。  

 上記の勧告の内容である、議決権の制限についての一般法人法違反と経理的基礎の改善措置が完了する前に平成26年5月15日に法人側から公益認定の取消し申請が行われ、公益認定の取消しが行われた。  

 前節で整理した取消し理由の分類としては、 議決権の不当な制約についての一般法人法違反については、タイプA(規則の重大な違反による認定取消し)にあてはまり、経理的基礎の不足については、タイプC(公益事業を行うのに必要な資質を有さなくなった事による認定取消し)が当てはまると言える。

事例② 公益財団法人平等院(千葉県)

日付:平成27年10月5日

取消し理由:

 当該法人は、公益目的事業として「社会的弱者のための霊園の建設及び経営」を定め、公益目的事業以外の事業は行わないものとして公益認定を受けていた。その後、平成26年6月17日には、事業計画、事業報告等の書類が提出されず、報告徴収が実際された。平成27年8 月3日 には、公益目的事業である社会的弱者のための霊園の建設および経営の実施状況について、 サービスの利用者が社会的弱者であることについて審査を実施する際に用いる審査基準および審査結果について記録した書類等の提出を求める報告徴収を実施した。これらの経緯を経て平成27年8月26日には、公益目的事業の実施状況および経理的基礎の確認を行うための立入検査が実施された。  

 千葉県公益認定等審議会は、墓地の造営に際して特定の業者による独占販売を認めていた点や、公益目的事業である社会的弱者のための霊園建設において、社会的弱者か否かによる審査を行っていなかったこと、および適切な経理処理を行わず経理的基礎を欠いている点を問題視していた。そして、「営利事業者である石材店に独占販売権を与えることで多額の資金提供を受けることを企図していたにもかかわらず(中略)虚偽の内容の書面を提出するなどによりその事実を隠蔽し社会的弱者の存在に仮託して事業内容を偽った」として認定法第29条第1項第2号(虚偽の申請による必要的取消し)に該当するとして公益認定取消しの判断が行われた(千葉県公益認定等審議会[2015])。

 この事例における取消し理由は、虚偽の内容による公益認定申請と、申請内容とかけ離れた事業の実施という事でタイプA(規則の重大な違反による認定取消し)が当てはまると言える。

事例③ 公益財団法人日本ライフ協会

日付:平成28年3月19日

取消し理由:

 当該法人は、公益目的事業として高齢者のための「みまもり家族事業」を実施していた。この事業は、一人暮らしの高齢者に対する身元保証や万一の時の支援事業を行うものであるが支援事業については利用者からの預託金を原資として実施する事になっていた。その事業を公益目的事業として実施する前提として、利用者からの預託金は、弁護士等が管理する三者契約となっていたが実際には、法人が直接預託金を管理する二者契約による管理が行われるようになり資金の流用も行われるようになった。この点について平成28年1月15日には、二者契約の預託金を早急に確保するための回復計画の策定を行うよう勧告が行われた。その後、当該法人は 平成28年2月1日に大阪地方裁判所に対して民事再生手続きの申し立てを行うに至った。二者契約により集めた預託金は、法人により目的外の事業に流用され勧告後には預託金の不足額は5億円近くにのぼり、約5,000万円の債務超過に陥っていた。  

 公益認定等委員会は、民事再生手続きにより、 債務の肩代わりをするスポンサーが現れるか債務の減免等を受けなければ事業を継続できないような公益法人については、明確な財政基盤があるとは言えず、公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎を有しているとは、認められないため公益認定基準を満たさなくなったとして公益認定の取消しの判断を行った。取消し理由の分類としては、タイプC(公益事業を行うのに必要な資質を有さなくなった事による認定取消し)が当てはまると言えるが、そもそも預託金を二者契約により管理するのは、公益認定の前提を無視した公益目的事業内容の不正な変更でありタイプA(規則の重大な違反による認定取消し)にも当てはまると言える。

事例④ 公益社団法人日本ポニーベースボール協会

日付:平成28年3月19日

取消し理由:

 当該法人は、平成23年に「ポニーベースボー ルのルールに従って、青少年に正しい野球を普及し、かつ、その発展をはかり、野球を通じて、 日本および海外における会員相互の親善を深め、 スポーツマンシップと国際センスを持った健全な社会人の育成を目的とする」(法人HPより) として公益認定を受けたが、平成26年までの4ヵ年にわたり社団法人であるにもかかわらず、 社員総会を一度も開催していなかった。しかしながら、行政庁に対して社員総会を行っている旨の虚偽の報告を行っていた。また、開催されていない社員総会議事録および理事会議事録を偽造していた。さらに当該法人の代表理事が特定の理事の退任届けを偽造し、役員の変更について不正な登記を行っていた。  

 言うまでも無く一般法人法で社団法人に求められている社員総会を開催しないことは、一般法人法第36条に違反しており、認定法第29条第2項(任意的取消し事由)第3号の「法令に違反した時」に該当する。また、社員総会議事録の偽造や退任届けの偽造は、刑法第159条における私文書偽造や同157条における公正証書原本不実記載に抵触する行為である。

 取消し理由の分類としては、多くの要素が関連しているがもっとも重大な問題は、各種法令違反を恒常的に繰り返していた点にあり、タイプA(規則の重大な違反による認定取消し)に当てはまると言える。

事例⑤ 公益財団法人香焼遠見霊園(長崎県)

日付:平成28年3月29日

取消し理由:

 長崎市税の滞納により認定法第29条第1項による欠格事由に該当することになり、必要的取消し事由として公益認定が取消される事となった。取消し理由の分類としては、タイプA(規則の重大な違反による認定取消し)に当てはまると言える。

事例⑥ 公益財団法人日本生涯学習協議会

日付:平成28年7月22日

取消し理由:

 当該法人は、公益目的事業として生涯学習講座の審査、監修および指導により健全な生涯学習の普及発展に寄与する事業を挙げていたが行政庁は、平成28年6月3日に勧告を行い公益目的事業を行うのに必要な技術的能力を早急に確立し、法令を遵守し、適切な法人運営を確立するための措置を講ずる事を求めていた。  

 具体的には法人が設置した監修講座の中に科学的な見地からその内容を検証する必要があるにもかかわらず、それが行われていない事や講座の内容について公益認定を受けた際の申請書に記載された方法によらず形式的又は簡易な審査によって監修講座と認めていた点が指定されている。また、資格講座の募集の過程で「内閣府」の名称を強調し、あたかも国が直接認定に関与した資格等であるかのごとく誤認させるような表示を行っていた。


 上記の内容が勧告されていたにもかかわらず、 その改善が認められる前に当該法人から公益認定取消しの申請が行われ、公益認定が取消されるに至った。公益認定の取消しのタイプとしては、勧告においても指摘されているように、公益目的事業を行うのに必要な技術的能力を有していなかったという点でタイプC(公益事業を行うのに必要な資質を有さなくなった事による認定取消し)が当てはまると言える。

 これまでの公益認定取消しの主な事例をまとめると図表2のようになる。  

 本節で見てきたように公益認定の取消し理由は、主に重大な法令違反に起因するタイプAもしくは、公益目的事業を適性に行う組織としての資質を有していない事によるタイプCによるものである。公益認定を受けてからの期間等を考えるならばタイプAまたはタイプCに分類されて、処分が行われている事例では、法人により不適切な運営が意図的に行われている可能性が高く、それを完全に防止するのは困難である。 逆に言えば公益認定の取消しという影響の大きい対応は、極めて悪質な事例に限られて適用されており本稿において取消し理由のタイプBとして分類している任意的取消し事由のうち主たる事業が公益目的と判断されなくなった事による認定取消しに当てはまる事例が無い事からも分かるように、現行の公益認定の取消しに関する制度は、公益認定の活動を過度に制限するものとはなっていないと言える。  

 次節においては、公益認定を行う監督機関の果たす役割と一般法人を含めた制度全体を考えた時に公益認定が取消され、公益法人から一般法人への移行が行われる意義について検討を行う。


図表2「公益認定取消しの主な事例」2016年9月末現在


Ⅳ  公益認定等委員会の果たす役割と法人区分の意義について

 旧公益法人制度における法人設立の根拠法である旧民法34条では、「学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益に関する社団又は財団であって、営利を目的としないものは、主務官庁の許可を得て、法人とすることができる。」と 定められており旧公益法人は営利を目的としない非営利性と公益性の 2 つの要件を兼ね備えている必要があった。非営利性の判断基準については、持分権者の存在の有無を中心としてその概念についての合意形成が得られていたと考え られるが、公益性の判断基準についてはその限 りではなかったと言える。そのことが、監督官庁の裁量の影響を大きく受ける許可主義による法人の設立につながったと考えられる。  

 社会一般の不特定多数の利益を指す公益性について、非営利法人が備えているべき公益について考えるならば、範囲を絞った形で公益の概念の整理が必要であると思われる。  

 例えば、齋藤[2014]29頁では、「公益法人に求められる公益は、営利法人にも政府にも出来ない領域であり、非営利法人の社会的意義は市場の失敗と政府の失敗の交叉する領域で活動することにある。」と非営利法人に求められている公益性を定義している。すなわち、利益の獲得を目的とする一般企業に任せるならば、利益を獲得する事が出来ないため社会に対して提供されなくなる事業で、なおかつ社会に必要な事業であるが政府が行うよりも民間の非営利法人に任せたほうがより効率的に事業が行うことが出来る事業を行うことに公益法人はその存在意義を見出すことが出来ると言える。このような観点に立つならば、公益法人が享受する税金の優遇措置をはじめとする各種恩典は公益法人が政府に代わり必要なサービスを提供している事により得られる特権であると言える。社会全体で見るならば、政府が資源を直接投入して事業を行うよりも、公益法人が事業を行うことでより効率的な仕方で必要なサービスを提供することができると考えられる。  

 上記の理解に立つならば、公益法人が公益目的事業を継続して行っているかをチェックするためのコストについても、それを法人にのみ負わせるのではなく社会全体で負担していくという考えが必要になると思われる。公益法人の活動を推進していくために法人の自律性を促す事は重要であるが例えば、規模を問わず会計監査人を設置する事を義務付けたり、常勤の職員をある程度の人数常駐させなければ対応できないようなガバナンス構造を公益法人に求めると法人が負担するコストが過大になり、本来社会が必要としている公益のサービスを提供する機会が限られる事になる。むしろ、公益認定を行う機関による指導監督が充分に行えるように必要な資源を投入する事で公益性が担保される仕組みが考えられる。その事により生じるコストは、 社会が公益法人から提供されるサービスを受益する対価と見なすことができると言える。  

 公益法人が提供する公益サービスの意義を、 企業に任せると提供されず、政府に任せると効率的に提供する事が難しくなる領域のサービスと捉えるならば、法人が提供するサービスが公益目的であるか否かの判断には、行政の判断が大きな役割を果たす事になる。行政が、サービスの提供の必要性を認識しながらもより効率的なサービスの提供方法があると考えた場合に、公益認定を行い公益法人にそのサービスを担うことを期待するためである5)。このように考えるならば、ある時点では公益目的になると判断 されていた事業が外部環境の変化により公益性 を失う事は充分に考えられる。例えば、過疎地域で地域住民のためのバス事業が公益認定されたとしてその後、その地域が急速に発展し民間企業がサービスを提供しても充分に利益が獲得できるような外部環境の変化があれば、企業がその市場に参入してくる事になり、市場の失敗は解消されることになる。そのような場合には、それまでバス事業を行っていた公益法人の活動はすでにその役割を終えたことになり、各種恩典の形でその法人に資源を提供する事は、不合理な資源配分になる。そのような場合には、行政の側がその法人の公益認定を取消し、一般法人として活動を継続させるという判断が合理的 であると言える6)。すなわち、前節における認定取消し分類のタイプB(主たる事業が公益目的と判断されなくなった事による認定取消し)に当てはまる認定取消しが行われることになる事が考えられる。公益認定とタイプBのような取消しが柔軟に組み合わされれば、行政は常に効率的な資源配分を求めて意思決定を行う事が可能になると言える。 しかしながら、現行の制度においては、公益法人から一般法人への移行はある種のハードラ ンディグになっている。具体的には、公益認定が取消されたときには、一般法人への移行(認定法第29条第5項、第6項)、公益目的取得財産残額の贈与(認定法第30条)、欠格事由への該当 (第6条第1号イ、第2号)により法人は5年間新たな認定を受けられなくなるといった影響を受けることになる。  

 現行の制度では、公益法人から一般法人への移行は、実質的には一種のパニッシュメントとしての側面を有していると解さざるを得ない。 例えば欠格事由への該当は、その事を端的に表していると言える。また、公益目的取得財産残額の贈与にしても例えば、新規に法人を設立し公益認定を受けて公益目的事業を行った法人が公益認定の取消しを受けた場合には、その時点での公益目的取得財産残額の贈与を行わなければならないが、その中身は事業開始時(公益認 定を受けた時点)に公益保有目的財産に定めた部分(言わば公益活動の原資に当たる部分)とその後の活動を通して獲得された部分(言わば果実に相当する部分)から構成されており、原則としてそれらすべてを他の公益法人又は、国に贈与しなければならない。公益活動を行うことで 内部に累積した果実部分だけでなく事業開始時の原資部分までもが贈与の対象となる事は、一度公益認定を受けてその後取消しを受けた場合には、公益認定を受ける時点での財政状態よりも不利な状態で一般法人へ移行する事を意味す ると言えるのではないか。  

 公益認定を受けることで一種の恩典とそれに伴う義務を法人が負うと考えた場合に、法人がその義務を果たせなくなった時には、恩典を失うのは、当然としても恩典を受ける前の状態よりも不利な財政状態にする事は検討の余地があると思われる。とりわけ、公益認定と一般法人への移行を柔軟に運用し、認定取消しを行うことを考えるならば一般法人への移行のあり方についてはさらなる検討を行う必要があると言える。


Ⅴ むすびにかえて

 本稿においては、公益認定の取消しの事例についての考察と共に公益認定基準の内容について検討を行うことで、行政が公益認定を行うことの意義について検討を行った。現状においては、公益認定が取消される事例の多くは、タイプA(重大な違反による認定取消し)またはタイプC(公益目的事業を推進するのに必要な資質を失った事による認定取消し)の取消しであり、言わばその処分は当然のものといえるものばかりであった。むしろ、本稿におけるタイプB(事業が公益目的と判断されなくなった事による認定取消し)を理由とする処分が行われていないことから現行のチェック機能は法人の活動を過度に制約するものになっておらず、法人が公益活動 を推進する事を目指すうえで一定の効果を挙げていると考えられる。  

 行政が法人の公益認定に強い影響を与えている状況は、行政が市場の失敗と政府の失敗の交叉する領域の問題に対して非営利法人を用いて効率的に対応する手段であると解するならば、そのチェックにかかるコストや公益活動を推進するために公益法人に与えられる恩典を与える事に伴うコストは、社会が適切なサービスを受益するためのコストであると言える点を指摘した。  

 上記の議論を前提にするならば公益法人から一般法人への移行の在り方についてさらなる検討の余地を有していると言える。一般法人への移行においては、実質的にパニッシュメントにあたる要素が伴うが、現状に見られるタイプA やタイプCに該当するような悪質な事例への対応としては、それは理解できるとしても、外部環境の変化により法人の活動が公益性を失った場合に一般法人への移行を行う場合には、パニッシュメントの要素は与えられるべきではないと言えるが、現行の制度においては、その区分は行われていない点を指摘した。外部環境の変化により公益事業が行えなくなった法人に公益認定による恩典を与え資源を投下する事は不合理な資源配分であると言える。一般法人と公益法人の行き来をスムーズにすることで社会が必要とする公益サービスがタイムリーに提供される事が期待できる。なお、非営利組織のそもそもの存在理由は、自らが定めたミッションの達成であるがそのミッションにおいて広く多数の者に貢献する事を目的とする事と現行制度で認められる公益性が同一でないとしても、その事が各組織のミッションとして社会への貢献を掲げる事を否定する訳ではないのは、自明であり本稿における公益性判断に関する議論はあくまで行政の有限な資源を現行制度を前提とした上でより有効に用い、その結果公益活動が推進される事を期待してのものである。

※  本研究は、科研費「租税支出効果のディスクロージャーおよび評価・分析のための会計学的研究」 [課題番号:26380640]による研究成果の一部です。


[注]

1) 公益認定等委員会から指導・監督が行われた後にその問題点の改善が認められる前に自ら公益認定の取消し申請を行ったような事例が存在するが、そのような場合は、実質的に公 益認定の取消しを受けたと考える事ができるため、公益認定の取消しを受けた事例として検討の対象とする。

2) 本稿においては、特に必要がある場合を除き公益認定を行う機関について公益認定等委員会と表現し論を進める事とする。

3) 欠格事由の例としては、以下のような点が挙げられる。  

 ・ 理事、監事、評議員のうちに禁固刑以上の刑に処せられた者(認定法等関連法規違反の場合には、罰金刑以上)がいる場合  

 ・ 定款や事業計画書の内容が法令や法令に基づく行政機関の処分に違反している  

 ・ 事業を行うに当たり法令上必要な行政機関の許認可等を受ける事ができない。  

 ・国税、地方税の滞納処分が執行されている  

 ・暴力団員等が事業活動を支配している

4) 認定法の第 2 節「公益法人の事業活動等」に当たる部分であり、公益法人が事業を行う上で遵守すべき内容に当たる

5) 本稿においては、現行制度において公益法人に対して一般法人と比べて多くの公的資源が投下されている現状を所与として検討を行っており、その理由を行政サービスの補完とい う部分に求めて検討を行っている。言うまでもなくこの事は民間が公益活動を行うことの 主体性を否定するものではない。

6) 実際にこのバス事業を続けて市場にとどまった場合には、充分な利益が創出される事から、公益認定基準の 1 つである収支相償基準が満たされない事になり、その状態が続くならば、公益認定が取消される事になると考えられる。


[参考文献]

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公益・一般法人編集部[2016a]「公益法人NEWS 日本ライフ協会、公益認定取消し へ」『公益・一般法人』 No912、全国公益法人協会、16-24頁。  

公益・一般法人編集部[2016b]「公益法人NEWS 議事録偽造で公益認定取消しへ」 『公益・一般法人』 No.913、全国公益法人協会、 6 -11頁。  

公益・一般法人編集部[2016c]「公益法人NEWS 公益認定の返上、全国で相次ぐ」

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公益・一般法人編集部[2016d]「公益法人NEWS 市税滞納で初の認定取消へ」『公益・一般法人』 No917、全国公益法人協会、9 頁。  

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星さとる[2013b]「初の是正勧告の内容と認定取消要件をめぐる新展開〔下〕― ガバナンス・内部統制と認定取消しのリンケージ ― 」『公益・一般法人』 No.855、全国公益法人協会、31-41頁。

(論稿提出:平成28年11月30日)

(加筆修正:平成29年 3 月31日)






 



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