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- 情報公開 | 公益社団法人 非営利法人研究学会
定款・役員名簿(法人概要を参照) 第九期(2022年8月1日~2023年7月31日) 貸借対照表 第八期(2021年8月1日~2022年7月31日) 貸借対照表 第七期(2020年8月1日~2021年7月31日) 貸借対照表 第六期(2019年8月1日~2020年7月31日) 貸借対照表 第五期(2018年8月1日~2019年7月31日) 貸借対照表 第四期(2017円11月1日~2018 年7月31日 )※公益認定後 貸借対照表 第三期(2017年8月1日~2017年10月31日)※公益認定前 貸借対照表 第二期(2016年8月1日~2017年7月31日 ) 貸借対照表 第一期(2016年1月7日~2016年7月31日 ) 貸借対照表 情報公開
- 第12回学会賞・学術奨励賞 | 公益社団法人 非営利法人研究学会
学会賞・学術奨励賞の審査結果 第12回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告 平成25年9月21日 非営利法人研究学会 審査委員長:堀田和宏 非営利法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第12回学会賞(平成24年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)、学術奨励賞(平成24年度全国大会における報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文及び刊行著書)及び学術奨励賞特賞(平成24年度全国大会における報告に基づく実務者の論文及び刊行著書)の候補作を慎重に選考審議した結果、今次は学会賞、学術奨励賞特賞に該当する論文はなく、下記の論文を学術奨励賞に値するものと認め選定しましたので、ここに報告いたします。 1. 学会賞 該当作なし 2. 学術奨励賞 深山誠也「社会福祉法人の競争戦略と組織―高齢者介護組織を対象とする実証研究―」(平成24年度非営利法人研究学会全国大会自由論題報告、於:北星学園大学、『非営利法人研究学会誌』Vol.15所収) 【受賞理由】 【論文の概要及び授賞理由】 平成25年度「学術奨励賞」は、深山誠也氏の論文「社会福祉法人の競争戦略と組織―高齢者介護組織を対象とする実証研究―」が選考されました。なお、本論文は、本年8月に刊行されました『非営利法人研究学会誌』第15巻に収録されています。 本論文は、北海道において高齢者介護事業を展開している全部で394の社会福祉法人のうちの298法人から得られた質問票調査データにもとづいて、社会福祉法人の競争戦略と組織特性の相互関係を実証的に解明した研究です。 本論文の内容を簡単に紹介します。 Ⅰ 節において、本論文の目的が、社会福祉法人の環境-競争戦略-組織特性-組織成果間の相互関係の解明であることを述べています。具体的には、⑴社会福祉法人はいかなる競争戦略を採用しているのか、⑵競争戦略は固有の組織特性を備えているのか、⑶競争戦略と組織特性が適合的である場合、組織成果は高いのか、の3点を明らかにすることである。 Ⅱ節において、この分野の先行研究を検討し、それらの問題点を明らかにしています。 Ⅲ節において、競争戦略と組織特性の相互関係を実証的に解明するための準備として、まず検証されるべき3つの仮説を提示するとともに、これら3つの仮説間の関係を示す理論的枠組を明らかにしています。さらに、仮説を構成する概念の測定方法を定義しています。 Ⅳ節において、①調査対象と②調査方法が示されています。 Ⅴ節において、調査結果の詳細な定量的分析が試みられています。 最後のⅥ節において、本研究の意義と今後の課題が明らかにされています。 本研究の第1に評価すべき点は、従来、経営学ではほとんど注目されてこなかった社会福祉法人を分析対象として取りあげていることです。高齢者介護の進展や介護保険制度の導入等によって、高齢者介護事業を展開している社会福祉法人の効果的・効率的経営は、益々求められています。したがって、社会福祉法人の経営の実態の解明は、極めて重要な課題であるといえます。 第2に評価すべき点は、第1の点とも関連しますが、高齢者介護事業を展開している社会福祉法人の経営全体の包括的な分析を試みていることです。この分野の数少ない先行研究は、もっぱら介護老人福祉施設の運営を分析するものがほとんどであり、その分析項目は、施設長のリーダーシップ等に限定されていました。 第3に評価すべき点は、この社会福祉法人の経営全体の包括的な実証分析の結果、次の4点を明らかにしていることです。⑴社会福祉法人においては、有効な3つの競争戦略(コスト志向戦略、差別化志向戦略、差別化・コスト併用戦略)が存在する。⑵環境不確実性の認知が異なる場合、採用される競争戦略が異なる。⑶競争戦略が異なる場合、採用される組織特性は異なる。⑷競争戦略 が異なる場合、有効な組織特性の組み合わせは異なる。 しかし、本論文にも問題点がない訳ではありません。これら環境-競争戦略-組織特性-組織成果間の相互関係が、「なぜ」「どのよう」にして形成されたのか、すなわち、競争戦略と組織特性の形成プロセスについては、本論文では必ずしも解明されていません。この点で、本研究は静態的な分析に止まっています。研究が静態的分析に止まっている点に関しては、筆者も認識しており、今後の研究課題として、競争戦略と組織特性の動態的分析の必要性があげられています。 以上のように、本論文は、高齢者介護事業を展開している社会福祉法人の経営の実態を組織論の研究方法にもとづいて解明した非常に手堅い研究成果であるといえます。 したがって、審査委員会は、全員一致で、本論文が「学術奨励賞」を受賞するに値するものと決定いたしました。 3. 学術奨励賞特賞 該当作なし
- 第11回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会
第11回大会記 2007.9..8-9 近畿大学 統一論題 非営利組織研究の課題と展望 近畿大学教授 吉田忠彦 2007年9月7日、8日、9日の3日間にわたって非営利法人研究学会第11回大会が、近畿大学において開催された。大会準備委員長は興津裕康・近畿大学教授。 7日の第一日目は、理事会に充てられた。折からの台風によって、前日午後から東海道新幹線が不通になっていたが、当日の朝になってようやく運行が再開され、ダイヤの乱れから到着が遅れる理事もあったものの、無事予定どおり理事会が開催された。 8日の二日目には、まず会員総会が行われ、その後引き続いて統一論題の報告と討議が行われた。統一論題は、「非営利組織研究の課題と展望」。10年を経た当学会の新たな10年の初めの大会ということから、今後のこの分野の研究の課題と展望の検討をテーマとしたものである。そのため、会計、経営、税制、社会的企業といった分野の、それぞれを代表する研究者が登壇し、非営利組織研究についての多角的な報告と討議が行われた。その後には、懇親会が催された。 9日の三日目の午前中は、自由論題報告が4つのセッションに分かれて行われた。また、日本のNPOの状況を分析したもの、イギリスの地域における行政とNPOの協働に関するもの、政治に関わる分野を手掛けるものなど、研究領域が拡大している様子が現れていた。大学院生による報告や、グループによる研究報告、財団における実務経験に基づく報告など多彩な報告が行われた。午後の最初のプログラムは学会長スピーチで、大矢知浩司第三代会長による「学会の10年を振り返って」という演題のスピーチが行われた。 さらにその後、東日本研究部会報告「NPO、政府、企業間の戦略的協働」(主査:小島廣光・北海道大学大学院教授)と、特別研究部会報告「公益法人の財源獲得と制度改革—公益法人の財源(贈与・遺贈等)に関する多角的検討—」(主査:石崎忠司・中央大学教授)が行われ、その2つの研究部会報告をめぐる熱心な質疑応答を経て、午後4時に大会は盛会のうちに幕を閉じた。 【統一論題報告の概要と討論】 統一論題は、当学会の事務局として長年学会を支えてきた川崎貴嗣氏を司会として、それぞれ研究分野の異なる4人が登壇した。 最初に登壇したのは、立命館大学の川口清史教授。立命館総長としての校務のため、予定を繰り上げての報告と質疑応答となった。「社会的企業概念の意義と射程」というテーマで、欧米における社会的企業の台頭やその経済的・社会的意義が論じられた。そこから、日本における非営利組織の発展は、当初のボランティア性の重視から、むしろ社会性を持った事業活動へとその重点を移しており、必ずしも非分配制約をコアとはしない組織の概念化が必要であると主張。こうした新たな視点の提示に、フロアからの質問・コメントが相次いだ。 その後、短い休憩を挟んで残りの3人が続けて報告、それに対するフロアからの質問票を回収し、それへの回答を中心にした討論という形で進行された。 まず、「非営利組織経営学の課題と可能性」のテーマで報告した島田恒・京都文教大学教授は、組織のあるべきビジョンを描くという哲学に立つ経営学は、テイラー、バーナード、ドラッカーと引き継がれ、産業社会の限界が露呈する中で非営利組織経営学の拡充へと繋がっていったと指摘。そして、非営利組織にとって根源的使命であるミッションは公益に繋がるものでなければならず、そのためには社会や人間の根源的存在論や公益論を探求する哲学が広く議論されることが重要であると主張した。 「非営利組織のミッションと外部財務報告の課題」のテーマで報告した藤井秀樹・京都大学大学院教授は、非営利組織における会計の役割は、成果指向型マネジメントの支援にあるという立場から、非営利組織における外部財務報告の現状と課題について論じた。売上高、利益、投資利益率などでは測定できない非営利組織の業績評価には、サービス提供の努力および成果についての情報が最も有用な情報になるにもかかわらず、FASBにおいては、そうした情報の提供は将来の課題として先送りされていると指摘。また、日本の新公益法人会計基準でも同じ課題を抱えているという。しかし、非営利組織の活動の特質と多様性を鑑みた場合、会計基準に依拠した画一的実務は適さず、結局それは個々の非営利組織の自主性と創造性に依拠した試行に委ねられる。それだけに個々の非営利組織にとっては、成果指向型マネジメントの実践を通じて顧客の支持を広げ、サービス提供能力を強化していくうえで、サービス提供の努力と成果に関する報告の整備拡充は欠くことのできない課題となると主張した。 最後の成道秀雄・成蹊大学教授は、「新公益法人税制への要望」というテーマで、この度の公益法人制度の改革について、主に税制の視点からその意義と課題について論じた。新しい制度の下での公益認定基準と租税原理・原則との摺合せが検討され、公益認定基準をおおよそ税法の課税・非課税基準として用いることの妥当性、さらに税法において別の非課税基準が必要とされる点が指摘された。また、公益認定されない一般社団法人・一般財団法人においても、依然として持分を有していないため、営利法人と同様に原則課税としてよいのか、課税の公平性から検討を要すると指摘した。 3者の報告のいずれもが、大会参加者を刺激する鋭い視点や指摘を含むもので、多くの質問票が寄せられた。約1時間という非常に限られたものであったが、司会の手際の良さも手伝って、ほぼすべての質問票への回答を交えて、濃縮された討論が行われた。 報告者と聴講者とが一体となったこうした活発な議論の風景は、決して大所帯でない当学会の良さを逆に映していた。とは言え、今大会中に会員数が200名を超えたことも、当学会の新たな10年の始まりを象徴する出来事であった。 非営利組織の増大やそれをめぐる諸制度の整備と同時に、非営利組織に関する新たな問題や課題が発生することが予想される。当学会に期待される役割もますます重要なものになることを再認識する大会となった。
- 第17回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会
第17回大会記 2013.9.21-22 近畿大学 統一論題 非営利法人における制度・会計・税制の改革を総括する 日本大学大学 古庄 修 非営利法人研究学会第17回大会は、本年9月21日(土)から9月22日(日)の日程で、大阪府東大阪市の近畿大学(大会実行委員長 吉田忠彦近畿大学教授)において開催された。 本大会の統一論題は、「非営利法人における制度・会計・税制の改革を総括する」であり、大会初日の理事会等に引き続き、2日間にわたり会員各位の多彩な研究成果が披瀝された。 以下、ここでは本学会プログラムのなかで統一論題報告、部会報告および特別公開セッションにおける報告と討論の概要をお伝えする。16篇に及ぶ個人または共同研究に基づく自由論題報告については、いずれも研究意欲旺盛かつ学会の発展に資する内容であったが、紙幅の都合上、割愛させて頂く。 なお、会員総会の開会に先立ち、本研究学会の常任理事として草創期の学会運営ならびに学会誌の編集に一方ならぬご尽力を賜った故川崎貴嗣氏のご冥福を祈り、氏に対する感謝とともに黙祷が捧げられたことを付記したい。 【統一論題報告】 大会2日目に、本大会を記念し、出口正之氏(国立民族学博物館教授)による基調講演「公益法人制度改革を総括する—移行期間終了を目前に控えて—」が行われた。出口氏は、内閣府公益認定等委員会の第1期(非常勤)および第2期(常勤)の6年間にわたり当該委員を務められた。氏の見識と深い洞察に基づく公益法人制度改革の経緯の詳細な説明と総括を受けて、広く非営利法人をめぐる税制、会計および制度の各観点から、上記統一論題報告が行われた。 登壇した3名の報告者とテーマは、①成道秀雄氏(成蹊大学教授)「非営利法人税制の今後の課題」、②古庄 修(日本大学教授)「非営利法人会計基準の統一問題—わが国における財務報告制度改革を指向して—」、③齋藤真哉氏(横浜国立大学教授)「非営利法人制度の現状と課題」であった。 成道氏は、平成20年度における非営利法人課税の大改正をふまえて、問題点の整理と今後の課税の在り方について議論を展開された。氏は、非営利型法人の要件充足を確認する制度を設けるべきこと、一般社団・財団法人法第131条に基づく基金の課税上の性格が検討されるべきことを提言するとともに、公益認定法人と非営利型法人に対するみなし寄附金の取扱い、法人形態の変更時における累積所得金額の課税制度、収益事業課税、金融収益課税および宗教法人・学校法人等に対する本来の事業に対する課税等、課税の在り方をめぐる論点を明示し、非営利法人が事業を安定的に継続していくために、非課税とすべき範囲の拡張に繋がる見直しを主張された。 古庄(筆者)は、英国における財務報告制度の再編成とそのなかに組み込まれた非営利法人(英国では公益目的事業体(PBE)と定義する)の会計基準をめぐる議論の経緯と到達点をふまえて、わが国における非営利法人会計(基準)の現在を相対化して捉えることにより、これまで主張されてきた非営利法人に横断的な会計基準の必要性と可能性を改めて検討した。企業会計と非営利法人会計の相克の歴史を乗り越えて、現在まで「セクター中立」に基づいて両者が接近し、共通化が進められてきたとしても、両者の間にある距離感を適切に保持する必要もある。かかる観点から、最近日本公認会計士協会から公表された研究報告書を素材として、横断的かつ首尾一貫した「会計枠組み構築」の必要性、統一的な非営利法人会計基準と法人別会計指針の相互の連係および会計基準設定主体の在り方に係る論点を考察するとともに、当該統一会計基準の設定をめぐる学会の役割と課題を示した。 齋藤氏は、非営利法人の本質を捉えて、非営利法人の存在意義とその変化の理由を市場の失敗と政府の失敗を論拠として説明されたうえで、新たな制度への移行が進められている一般社団・財団法人、公益社団・財団法人をはじめとする非営利法人制度全体を総括し、その現状をふまえた課題を検討された。氏は、準則主義(登記主義)と認可主義の理解をふまえて、許可主義を採用した旧公益法人制度の問題を指摘するとともに、準則主義における非営利法人の自立と自律の必要性を強調された。また、公益の意味を税制優遇との関係において再確認したうえで、公益性の認定における収支相償をめぐる課題、および特例民法法人から一般社団・財団法人への移行、合併等の組織変更に伴う課題として非営利法人のミッションの見直しが必要となる問題を具体的な事例を示して明快に説明された。 各報告直後に行われた討論においては、吉田忠彦氏を座長として、非営利法人制度の現状認識を共有し、当該制度改革の到達点と課題について活発な質疑が交わされた。 【部会報告】 大会3日目に開催された研究部会報告においては、東日本部会として岡村勝義氏(神奈川大学)を委員長とする「日本及び諸外国における非営利法人制度に関する研究—制度史・制度設計・報告制度・税制度等を中心として—」と、西日本部会として森 美智代氏(熊本県立大学)を委員長とする「地域における行政、医療及び福祉の現状と課題」の各報告が行われた。 東日本部会報告については、わが国において新たに施行された非営利法人制度を諸外国の非営利法人制度の歴史的経緯、制度設計の方法および制度自体の特徴を主としてガバナンスや財務報告制度と関連させて検討することにより、非営利法人制度の在り方に論究した最終報告書が示された。本報告書には、「公益法人の制度転換と会計枠組みの変化」、「NPO法人会計基準の検討」、「わが国学校法人会計基準のこれまでの展開と最近の動向」、「協同組合持分会計に関する研究」、「英国チャリティの会計—チャリティ会計とチャリティ委員会の役割—」、「英国の非営利組織—非営利法人制度と財務報告の制度的枠組み—」、「米国における非営利組織の類型と会計基準設定の現状」および「米国における寄付に係る会計基準—1992年改訂公開草案—」の各論考が、収録されている。当日は、尾上選哉氏(大原大学院大学准教授)が米国における寄付に関する会計基準について、特に収集品の会計処理の特徴と論点を検討された。 もう一つの西日本部会報告については、地域における行政をめぐる環境の変化と地域の連係とガバナンスの在り方、そして地域における医療と福祉の在り方に焦点をあて、熊本県等における具体的な事例研究に基づいて報告書が一貫した主題の下にまとめられた。本報告書には、地域における行政の現状を考察した「環境の変化と自治体職員像の変容」、「地域の公共を担う地縁組織—その重要性と活性化のあり方—」、「コミュニティと自治—中山間地域における地域ガバナンス—」が、また地域における医療と福祉問題に論究し、「大学のミッションと財務報告の役割」、「公立病院の医療改革の現状」、「地域包括ケアシステムの現状と課題—定期巡回・随時対応サービスを中心に—」の各論考が収録されている。 なお、本学会総会において地域部会が再編成され、今後、北海道、関東、中部、関西および九州に各部会が配置されることが決定した。研究者と実務家の双方向の議論の場として、学会の底上げに繋がる各部会のより一層の発展を祈念したい。 【特別公開セッション】 本年度の学会では、特別セッションとして、江田寛氏(公認会計士)を座長とするパネルディスカッション「善意は被災者に届いているか—東日本大震災の寄付の大半が行政的配分に委ねられた理由を探る—」が企画された。本セッションは、会員の研究成果を外部に公開し、議論の場を積極的に提供することにより社会に貢献することを目的としており、当日の登壇者は、岩永清滋氏(公認会計士)、大久保朝江氏(NPO法人杜の伝言板ゆるる代表理事)、藤井秀樹氏(京都大学教授)、牧口一二氏(NPO法人ゆめ風基金代表理事)の4名であった。 被災者に分配される義援金は公共的配分手続きに基づき、公平・平等を旨とするが、他方で、被災後4か月が経過した時点で義援金は3,000億円に達していたにもかかわらず、被災者に配分されたのはその25%である775億円にすぎなかった。また、被災者支援の資金となる支援金も一部に集中し、その他の団体が資金不足となる等、いびつな偏りが見られたという。本セッションにおいては、義援金と支援金の定義およびその相違点について理解を深めるところから始まり、寄附が義援金に集中した理由や、NPOの現場における支援金の調達方法等、明確な問題意識をもって「善意」の効率的な配分システムの在り方とその構築に向けた熱情に溢れた活発な議論が展開された。
- 第1回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会
1997.10.4 青山学院大学 統一論題 公益法人研究の現状と課題—公益法人研究の原点を巡って— 1 非営利セクターとしての公益法人の戦略行動 2 公益法人会計の問題点と改質向上への一考察 3 社会福祉法人会計の本質 公益法人研究学会(会長:守永誠治氏)の第1回大会は、1997年10月4日、青山学院大学青山キャンパスの11号館において開催された。 統一論題「公益法人研究の現状と課題─公益法人研究の原点を巡って─」のもと、興津裕康氏(近畿大学)の総合司会により二題の研究報告並びに討論が行われた。 また、自由論題の報告と記念講演も併せて行われた。 1 非営利セクターとしての公益法人の戦略行動 報告:吉田忠彦氏(近畿大学豊岡短期大学) 吉田氏は「非営利組織としての公益法人の戦略行動《と題し、公益法人を非営利セクターの中核として捉えた上で、その経営戦略を規定する要因と戦略の類型について報告された。すなわち、非営利組織は①自ら掲げる使命遂行を目的とするが、②一方では組織の存続・拡大の慣性も働き、マクロ的には③組織の生存領域及び規模は政府(主務官庁)の調整に大きく影響される、と分析。そうした環境に適応するために、非営利組織は事業構造の戦略、競争の戦略、協調戦略をとるべきだと強調した。ただ、それらの戦略は、サービスの受け手だけでなく、支払い手となる多様な関連他者からのフィードバック情報に基づいて策定されるため、吊声獲得や協調戦略が重視されなければならないと主張された。 2 公益法人会計の問題点と改質向上への一考察—アメリカ非営利法人会計基準との比較— 報告:若林茂信氏(東京経営短期大学) 若林氏は「公益法人会計の問題点と改質向上への一考察《と題して報告された。この中で氏は現在国際的に最高の水準にある、私的セクターに属する非営利法人を対象としたアメリカの会計基準の発展の軌跡から現状を展望、その顕著な特色として12項目を抽出。このうち、日本の公益法人(広義に想定)会計を改質向上させるために適切と思われる8項目を教訓として選定され、これを公益法人会計の問題点を考察する上での好個の研究資料として活用すべきであることを主張された。 3 社会福祉法人会計の本質—施設会計を中心として— 報告:松倉達夫氏(中部女子短期大学) 松倉氏は自由論題として「社会福祉法人会計の本質《をテーマに、特に施設会計を中心に報告された。現在社会福祉法人に適用されている経理規定準則は1976年に発表され、それ以前の会計指針に比して近代化し、改善されたが、なお実務上問題があることを、氏は次の事項を掲げて本質を追究し、問題点の理論的な指摘がなされた。①消費経済体、②受託者会計、③複式簿記の徹底、④発生主義会計、⑤経理責任の明確化、⑥管理組織の確立、⑦予算の重要性、⑧収支計算書と貸借対照表。 以上の報告のほか、統一論題を総括するパネルディスカッションが開かれ、松葉邦敏氏(成蹊大学)を座長として、報告者の吉田氏、若林氏に白井万佐夫氏(公認会計士)、永島公朗氏(産能短期大学)、朊部信男氏(産能短期大学)がパネラーとなり、大会参加者を交えて活発な討論が展開された。 また、今大会では武田昌輔氏(成蹊大学)が「公益法人課税の史的変遷と今日的課題」と題して記念講演をされ、大会に華をそえた。 この後、会場を青学会館に移して懇親会が催され、青山学院大学を代表して経営学部長の杉山学氏が挨拶、会田一雄氏(慶應義塾大学)による乾杯の発声があり、会員の親睦と学会の今後の発展を祈った。 第1回大会記
- 関東部会報告 | 公益社団法人 非営利法人研究学会
地域部会報告 非営利法人研究学会には、学会内で地 域別に活動するスタディグループがあります。将来的には、複数のスタディグループとスタディグループが連携して活動していくことを目指しています。 ●下の地図上の部会名をクリックすると、部会別の報告ページに移動します。 関東部会報告 ■第32回関東部会記 日時:2022年3月21日(月・祝)13時〜 場所:Zoomミーティング(テレビ・Web会議ツール) 1. はじめに 非営利法人研究学会第32回関東部会が、2022年3月21日(祝)13時より、ビデオ会議システム zoom を用いて開催された。約30名の参加者を迎え、古庄修関東部会長(日本大学教授)から挨拶があった後、参加者の近況報告が行われた。その後、金子良太関東部会幹事の司会のもと、部会報告・討論会が行われた。 2. 部会報告 (1)「ドイツ公的医療機関の組織再編と会計制度・実務―日本の公立病院改革との比較を踏まえて」 森 美智代氏 (熊本県立大学名誉教授) 本報告は、ドイツの公的医療機関・民間医療機関の組織再編について詳細に検討した後に、日独の医療機関の医療経営改革の背景と現状、日本の公立病院改革の方向性まで幅広い内容にわたって行われた。 森氏からは、最近のコロナ禍における現状や、日独双方の具体的事例についても報告があった。 フロアからは、各種の用語の定義や日独の違い等、多くの質問が行われた。 (2)「非営利研究組織の社会価値についてー(一財)日本自動車研究所の経験からー」 半田 茂氏 ((一財)日本自動車研究所 前代表理事・専務理事) 本報告は、半田氏の所属していた日本自動車研究所 (JARI)の概要や歴史、非営利組織たる研究機関の研究活動の価値、そして他団体との連携や活動の広報等を通じた価値を発信し、社会から理解を得る必要性についてのものであった。 フロアからは非営利組織の社会的価値等について多くの質問があった。多くのコメントがあり、予定時間の15時30分頃に終了した。 3.次回の予定 次回の部会は、武蔵野大学の主催で2022年5月(開始時間未定)に久々の対面開催予定(詳細は、決定次第非営利法人研究学会のホームページ・メーリングリストに掲載されます。今後の状況により、開催方法や日時が変更される可能性があります)。 文責:金子良太(國學院大學) ■第31回関東部会(北海道合同部会)記 日時:2021年7月31日(土)13時〜17時 場所:Zoomミーティング(テレビ・Web会議ツール) 1. はじめに 非営利法人研究学会北海道部会・関東部会の合同部会が、2021年7月31日(土)13時より、ビデオ会議システムZoomを用いて開催された。26名の参加者を迎え、古庄修関東部会長(日本大学教授)が司会をされた。大原昌明北海道部会長(北星学園大学教授)による開会の挨拶の後、特別講演、研究報告が行われ、活発な議論が行われた。 2. 特別講演会 「多元社会における非営利組織の役割に関する一試論 —『理念』の創造性をめぐって—」 三井泉氏(日本大学経済学部教授) 経営理念研究そしてフォレットの学説研究で著名な三井氏に、多元社会の下での非営利組織の意義についてご講演頂いた。 講演においてフォレットそしてドラッカーの視点から、多元社会について言及され、異なる世界観や価値観を持つ個々人から成り立つのが多元社会であり、多元社会においては、各人の異質性を排除するのではなく、この異質性を受け入れながら社会秩序を維持し、社会を発展させていくことが目指されるとの主張がなされた。 また、経営理念研究の視点から、経営理念は営利組織・非営利組織を問わず、あらゆる経営行動の根幹であり、人々をより創造的・主体的に行動させることを可能にするものであると主張された。そして、この経営理念は、その時々の状況に適応すべく変容することで、組織の創造力の源泉としての機能を長期的に発揮し続けていく可能性を秘めていると言及された。企業とは異質な非営利組織の存在、また無数に存在する非営利組織がそれぞれの経営理念をよりよく機能させることで、よりよい社会が実現される可能性に言及され、講演を締めくくられた。講演後の質疑応答では。営利組織および非営利組織で「理念」が果たすドライビングフォースとしての意義等が議論され、多様なバックグラウンドを持つ研究者による活発な意見交換が行われた。 3. 部会報告 第1報告 「オーケストラ団体における活動財源の集中度と予測可能性に関する実証研究」 武田紀仁氏(日本大学 経済学研究科博士後期課程) 本報告では、オーケストラ団体のサンプルを用いて、収入源の種類が団体の持続性に及ぼす影響について分析が行われた。その結果、収入源と持続性の関係を分析するうえでは、収入源の種類や集中度に加えて、収入源の予測可能性を考慮することが有用である点が説明された。また、収入源の予測可能性は、収入源の性質や団体の属性と関係性があることが指摘され、団体 の存続のための財務的な対策として、団体の特徴を考慮した戦略的な資金調達計画の重要性が示唆された。 参加者からは、統計分析の手法の精緻化に向けての意見交換や、分析対象として文化・芸術系の団体をその対象とした意義について活発な議論が行われた。 第2報告 「クライシスの中小企業支援において信用保証協会が果たした役割―兵庫県信用保証 協会を中心に―」 櫛部幸子氏(鹿児島国際大学) コロナ禍の中小企業の資金繰り支援における会計情報の活用状況についてアフターコロナにおけるデフォルトリスクを指摘し、過去のクライシス(阪神・淡路大震災と東日本大震災)において実施された「信用保証協会の保証」のデフォルトの状況を調査し、過去の信用保証協会の「信用保証」において、どのような施策がデフォルトを軽減・回避することにつながったのかについて、コロナ渦における支援の状況との比較分析による報告が行われた。 参加者からは、デフォルトが最終的に社会に与える影響や平時と非常時で中小企業への与信にどのような影響があるかについての質問がされ、活発な議論が行われた。 部会の最後に齋藤真哉学会長(横浜国立大学教授)より、本学会の研究が多様性をもって活性化しており、今後の更なる研究の発展が期待できる点が述べられ、合同部会は盛会のうちに終了した。 文責:村田大学(大原大学院大学)・古市雄一朗(大原大学院大学) ■第30回関東部会記 日時 : 2021年3月20日(土) 場所 :Zoomミーティング(テレビ・Web会議ツール) 1. はじめに 非営利法人研究学会第30回関東部会が、2021年3月20日(土)10時30分より、ビデオ会議システム zoom を用いて開催された。31名の参加者を迎え、古庄修関東部会長(日本大学教授)から挨拶があった後、古庄部会長の司会のもと、研究報告・討論会が行われた。 2. 部会報告 第1報告 「課題としてのファンドレイジング・パラドックスと、その解決のための地域性と共感のメカニズムについての考察ー横浜市における事例研究を中心としてー」 瀬上 倫弘氏 (横浜市立大学大学院都市社会文化研究科共同研究員) 本報告は、非営利活動促進のための経済的考察として、横浜市における事例研究を中心に、NPO法人が行うファンドレイジングにおける課題と、それを解決する効果的なファンドレイジングの要素を探求するものであった。 瀬上氏からはNPOにおける寄付の必要性について説明があった後、ファンドレイジングの成功要因を探る入口として、ファンドレイジングの必要性につきNPOの存在論に遡って考察が示された。事例として、「共感と地域性におけるメカニズム」を基礎概念として横浜市における中小規模団体が示された。最後に、2019年8月10日 非営利法人研究学会 第25回関東部会研究発表 における瀬上氏の発表に対する各種の質問に対して回答する形で前回報告後の研究の進展が示された。 フロアからは、横浜市の事例を選択した理由、他地域における事例にも着目する必要性等、多くの質問が行われた。 第2報告 「非営利組織会計の国際的枠組み」 金子良太氏(國學院大學) 私 金子からは、英国の職業的専門家団体であるCIPFA(英国勅許公共財務会計協会)より、同じく英国の非営利組織の支援団体であるHumentumの協力を得て公表された非営利組織会計の国際的枠組みの形成を目指すConsultation Paper (CP)「International Financial Reporting for Non-Profit Organizations (非営利組織の国際的財務報告)」について報告した。 2021年1月に公表されたCPの目的、全体構成、今後の課題について示した。 フロアからは非営利組織における国際的枠組みが本当に必要なのか、また日本への適用可能性や今後の方向性等について多くの質問があった。多くのコメントがあり、予定時間を超過した12時40分頃に終了した。 文責:金子良太(國學院大學) ■第29回関東部会(北海道合同部会)記 日時 : 2020年7月26日(日) 場所 :Zoomミーティング(テレビ・Web会議ツール) 1. はじめに 2020年7月26日(日)午後1時より、今年度第二回目となる非営利法人研究学会北海道・関東合同部会が開催された。今回も前回に引き続き、ビデオ会議システムzoomを用いて行われた。形式的な主催校として武蔵野大学が引き受け、私、鷹野宏行が司会の任を仰せつかった。 今回も北海道・関東以外の全国からの会員の参加者があり、総勢32名に上り、活況な研究会が行われた。以後、研究報告・討論等の概要を記すこととする。 2. 部会報告 第1報告 「非営利組織のガバナンスが租税回避行動に与える影響に関する実証分析」 黒木淳氏(横浜市立大学准教授)・夏吉裕貴氏(横浜市立大学大学院後期博士課程1年) 黒木・夏吉両氏の発表の目的は、わが国非営利組織で収益事業を通じた租税回避行動が行われているか調査し、もし行われているならば、非営利組織のガバナンスが同行動にいかなる影響を及ぼしているかを明らかにすることに主眼が置かれるものである。 米国における先行研究をペースとして、わが国非営利組織に実証研究を試みる。 結論としては、わが国の非営利組織にも租税回避行動はみられるが、米国の先行研究より著しく小さく、その行動が小さい原因として、非常勤理事、寄付者、規制の3つがモニタリングし、その抑制に寄与しているとした。 第2報告 「コミュニティ病院を所有する米国非営利組織の財務諸表に関する一考察 −メイヨー・クリニックを題材として−」 谷光透氏(川崎医療福祉大学講師) 谷光氏の発表は、米国の新しい非営利組織会計基準の内容を吟味し、その基準がすでに適用の段階に入っている、米国において著名な病院であるメイヨー・クリニックで実際に作成された財務諸表(連結を含む)を考察する。 この考察の過程において、我が国の非営利組織会計の在り方、非営利組織共通の会計の枠組み、病院を所有する非営利組織固有の情報開示の在り方を探るべく、持論を展開する。 氏によれば、病院の規模に応じて、missionに応じた純資産の区分、費用の機能別表、連結情報等の開示が必要であるとする。 第3報告 「「一般法人会計基準案」の策定経緯とその論点について」 髙山昌茂氏 (協和監査法人代表社員・公認会計士) 高山氏は、非営利法人研究学会において組成された「一般法人への公益法人会計基準適用の研究会委員会」の活動についての中間報告として今回の発表を位置付け、以下のような発表を行った。まず、現在まで7回開催された研究会の議事録を公表した。途中、いわゆる「モデル会計基準」の公開を前後して、1年間の休会があったことも報告された。 続いて、草案として策定されている「一般法人会計基準」(案)について説明があった。なお、本発表の最終的な報告は、今年度の全国大会で行われる旨の説明があった。 文責:鷹野宏行(武蔵野大学) ■第28回関東部会(北海道合同部会)記 日時 : 2020年6月14日(日) 場所 :Zoomミーティング(テレビ・Web会議ツール) 1. はじめに (公社)非営利法人研究学会北海道・関東合同部会が、2020年6月14日(日)14時より、Zoomミーティング(テレビ・Web会議ツール)を用いて開催された。25名の参加者を迎え、大原昌明北海道部会長(北星学園大学教授)・古庄修関東部会長(日本大学教授)から挨拶があった後、関東部会幹事の筆者、金子良太の司会のもと、研究報告・討論会が行われた。 2. 部会報告 第1報告 「日中戦争までの米中からの日本の民間非営利組織会計への影響−コンバージェンスについての示唆を得るための学説史−」 水谷文宣氏 (関東学院大学) 本報告はトップ・ダウンのアプローチが民間非営利組織会計のコンバージェンスに必要か否かの示唆を得ることを目的とする。 アドプションには、IASBのような特定の機関が主導して会計基準を普及させることがほぼ必須である。トップ・ダウンのアプローチと言える。企業会計について日本では複数の会計基準を競争させるべし、などの形でトップ・ダウンのコンバージェンスに反対する意見がある。 報告では、戦前・戦中の民間非営利組織会計に関する資料から、寄附に関する言及が非常に少ないこと、多くは課税当局のために執筆された資料であることを明らかにした。そして、寄附への関心の欠如は、彼らの関心が複式簿記による資本増殖の反映にあったためと思われるとの報告者の考察が示された。 フロアからはテーマに関する質問等が積極的に行われた。 第二部 討論会 新型コロナウイルスが非営利組織・会計・経営に与える影響について 非営利組織は、新型コロナウイルスの影響から無縁ではいられない。今回のセッションでは、25名の参加者が発言できる形で新型コロナウイルスの影響についての実体験・課題等が話し合われた。 最初に、今回の事態を受けての公益法人における社員総会対応等について質疑応答が行われた。次に、将来の見通しが立ちにくい中での収益事業の取扱い、会計上の減損や繰延税金の取扱いについても課題提起がなされた。 また、医療・福祉分野の経営に与える影響や資金繰りへの対応策等も話し合われた。多くのコメントがあり、16時20分頃に終了した。 文責:金子良太(國學院大學) ■第27回関東部会記 日時 : 2019年10月26日(土) 場所 : 國學院大学 渋谷キャンパス 1. はじめに 非営利法人研究学会第27回関東部会が、2019年10月26日(土)14時より、國學院大学渋谷キャンパス(3号館3404室)において開催された。8名の参加者を迎え、金子良太氏(國學院大学)の司会の下、2つの報告が行われた。 2. 部会報告 第1報告 「宗教法人法の体系的特質~同法による規制の範囲と限界~をめぐって」(2018年度非営利法人研究学会関東部会短期研究) 竹内拓氏(非営利法人経営管理研究会) 竹内氏は、⑴宗教法人の実態、⑵宗教法人法の目的、⑶宗教法人法の規制範囲、⑷法的規制の沿革と現行法への影響、⑸宗教法人法の特徴、⑹宗教法人法改正の経緯と主な改正点の構成により報告された。 まず、宗教法人法は、宗教施設の管理に重点を置き、また、同法は宗教団体の目的を達成するための業務及び事業を行うことに資することを目的としていることを確認された。ただ、規制の面に関しては、憲法で保障される「信教の自由」を尊重すべきものとされているため、その規制の対象は宗教行為以外の領域となると述べられた。なお、非宗教法人には、実際に宗教活動を行っている団体に対しても、宗教法人法の適用はなく、規制の対象外となっていることも指摘された。 続いて、宗教団体に対する法制の沿革について触れ、宗教法人令において、宗教法人の設立を届出制としたことによって生じた各種の問題点の反省から宗教法人法においては認証制(準則主義)が採用されたとの見解を示された。なお、認証制度に関して、一般に申請後3月以内に認証が下りるものとされているが、複数年分(3年以上)の会計書類と宗教施設の存在、礼拝の実施の有無などの実績が問われるため、申請までに相応の時日を要することが紹介された。 この認証制度のほか、責任役員制度と公告制度が宗教法人法における特徴点(これまでの法令に存在しなかったもの)であるとされ、責任役員制度は宗教法人における必置機関として法人の業務及び事業の運営に当たるが、伝統的宗教活動団体においては、責任役員とは別に、総代、長老などの役員が置かれ、その下で慣習による支配が行われることによる運営上の調整の問題が起こり得ることに言及された。 さらに、公告制度と並び財産目録及び収支計算書の作成、備置き、閲覧並びに所定の書類に関する所轄庁への提出が定められていることで、いわば公衆の監督が機能するため、この点が宗教法人において監事を必置機関としない理由のひとつとなっているとの見解を述べられた。なお、監事が必置機関とされていない理由については、宗教行為が監査対象に及ぶ恐れがあることも挙げられた。 最後に、宗教法人に関する認証の問題と関連して、宗教団体が宗教法人としての認証を受ける手数等を回避することを意図して、一般社団法人あるいは一般財団法人の類型を選択する可能性の有無についての問題提議があった。 この点は参加者との質疑応答における論題として引き継がれ、参加者からは、宗教団体が一般社団法人あるいは一般財団法人の類型を選択することは制度的には可能であり、現に、古くからある地域の祠を保存することを目的とした公益財団法人が存在することなどが紹介された。ただし、一般社団法人あるいは一般財団法人には、宗教法人と異なり税制上の利点がないことが指摘され、類型の採用は限られるとされた。 第2報告「「私立大学版ガバナンス・コード」の設定と課題」 古庄修氏(日本大学経済学部) 古庄氏は、ご自身が部会長を務める大学等学校法人研究部会における活動状況に触れられた後に、わが国の非営利法人に係る「ガバナンス・コード」の策定を巡る議論として、まず、アベノミクス成長戦略の一環として営利企業における導入経緯を紹介され、その広がりを受けて、次のとおり、非営利法人の領域、とりわけ私立大学においても策定に向けた動きが活発化している状況について紹介された。 ⑴ 2017年3月:大学監査協会による「大学ガバナンスコード(案)」の公表 ⑵ 2019年1月:文部科学省大学設置・学校法人審議会学校法人分科会学校法人制度改善検討小委員会公表の「学校法人制度の改善方策について」において「「私立大学版ガバナンス・コード」(自主的行動基準)の策定の推進」の明示 ⑶ 2019年3月:日本私立大学協会私立大学基本問題研究委員会・大学事務研究委員会による「日本私立大学協会憲章「私立大学版ガバナンス・コード(中間報告)」」の公表 「私立大学版ガバナンス・コード」の構成は、①私立大学の自主性・自律性(特色ある運営)の尊重、②安定性・継続性、③教学ガバナンス、④公共性・信頼性、⑤透明性の確保であり、このうち、透明性の確保(情報公開)において自主的な公開の範囲として、「理事の経歴および役員報酬基準」が含まれている点に注目された。ただし、私立学校のガバナンス体制に係る情報公開などは含まれておらず、営利企業、上場企業におけるガバナンス・コードとの相違があるとされ、また、「私立大学版ガバナンス・コード」に対しては、「情報公開の更なる促進」が求められるなどの批判が存在することが紹介された。 さらに、2019年6月28日に自由民主党行政改革推進部・公益法人等のガバナンス改革検討チームから公表された「公益法人等のガバナンス改革検討チームの提言とりまとめ」の中から、「学校法人制度に対する8の提言」について採り上げられ、ここでは、自主的なプリンシプルベースの行動規範の策定が期待されているものと解説された。 最後に、大学における統合報告の現状について触れられ、何と何が統合した報告書なのかが明確になるまで安易に「統合」というべきではないとの見解が示されたが、一方で、大学監査協会が2014年に公表した「大学法人のディスクロージャー-その目的と体系化-」は、大学の事業報告書の「統合報告」化に係るモデル試案を他に先駆けて提示したことは特筆すべきとされた。 以上の報告を受け、参加者からは、「私立学校法がルールベースを採用しているのに、なぜ、学校法人のガバナンス・コードはプリンシプルベースとなるのか」「ガバナンス・コードは内部自治の標準化を目指すものなのか」「現況は、日本私立大学協会のみが策定作業を行っているのか」「今後、別の団体においても策定が進むのか」「ガバナンス・コードとESGとの関係」「コンプライアンスとガバナンスの捉え方の違い」に関する質問が出された。 文責:上松公雄(大原大学院大学) ■第26回関東部会記 日時 : 2019年8月23日(金) 場所 : (一財)日本自動車研究所 2階会議室 1. はじめに 非営利法人研究学会第26回関東部会が、2019年8月23日(金)13時より、一般財団法人日本自動車研究所2階会議室において開催された。約10名の参加者を迎え、関東部会長の齋藤真哉氏(横浜国立大学)の司会のもと、3つの報告が行われた。 加えて、日本自動車研究所内の研究施設の見学会も行われ、各自動車メーカーの新車開発などの秘匿性の高い実験が行われる施設のため、一般には公開されていない場所の見学という稀有な機会に恵まれた。 2. 部会報告 第一部 非営利法人の現場との交流 第1報告 森田明芳氏(一般財団法人日本自動車研究所事務局) 一般財団法人日本自動車研究所(以下、「JARI」とする。)は、自動車に関する技術の試験・評価を行う総合的な研究機関である。1961年設立の財団法人自動車高速試験場をその前身として、1969年よりは同試験場を自動車に関する総合的な研究機関として改組して発足した、とのことである。 2003年には、財団法人日本電動車両協会及び財団法人自動車走行電子技術協会と統合し、自動車及び関連産業、エネルギー、電機、情報・通信など幅広い関連産業との連携を深めるとともに、事業領域の拡大、未来を的確にとらえた先導的な研究の推進、次世代自動車の普及の促進を図ることをミッションと据える。2012年には一般法人に移行して、新生、一般財団法人日本自動車研究所として新たにスタートしたとのことである。 近年、地球環境問題への対応、自動車のAI・IoT化の進展、自動車に対するニーズの多様化などを背景に、自動車産業は大きな転換期を迎えており、JARIは「環境・エネルギー」「安全」「自動運転・IT・エレクトロニクス」の3つの主要な研究分野として先進的な研究に取り組んでいるとのことである。JARIの収入源泉は多岐にわたり、受託研究からの収入、補助金収入、寄付収入、会費収入、事業収入、不動産収入などである。総収入は概ね90億円程度で、安定的に推移している。従業員は379名(2019年4月現在)であり、都内に2か所の事務所と、本つくば研究施設のほか、茨城県城里町に城里テストセンターという広大な実験施設を保有する。 つくばエクスプレス研究学園駅はかつての敷地であり、城里テストセンターへの施設移転前の実験施設の跡地であるとのことで、現在でも同駅周辺に広大な敷地を保有しているということである。また、つくば市役所に賃貸している敷地もJARIのものであり、広大な敷地に恵まれた研究施設であるとの印象をもった。 法人の概要の説明があったのち、同施設内の見学を企画していただけた。見学したのは、特異環境試験場という施設である。雨や霧、逆光といった実際の交通環境で想定される走行状況を再現し、車両の周辺環境(信号灯や標識、歩行者)などを認識するセンサー・カメラ等の性能評価を行うことが可能な施設である。この施設は世界に唯一無二の施設であり、外国の自動車メーカーからも実験の依頼が来るような最先端最新鋭の実験施設であるとのことである。実際に、降雨実験や噴霧実験をしていただくことができ、大変に貴重な体験をさせていただくことができた。 第二部 研究会 第2報告「会計から見る公益法人制度改革の課題と可能性」 尾上選哉氏(大原大学院大学) 尾上氏からは、本年度の非営利法人研究学会全国大会の統一論題にて披露される発表の事前発表として、会計の観点から、公益法人制度改革の趣旨に照らして、新公益法人制度が有効な社会システムとして機能しているか現状を把握し、改善すべき課題を明らかにするとともに、今後の公益法人制度の発展に会計がどのように寄与しうるかを論じたいとの問題意識のもと報告が行われた。 概ね次のような発表の構成であった。まず、「Ⅰ.公益法人制度の現状」、「Ⅱ.公益法人会計の課題と可能性」、「Ⅲ.「民による公益」の増進に向けて」である。尾上氏は、公益法人と一般法人に場合分けしながら、整理していく手法をとった。統一論題での発表の試論とのことであり、フロアからは本発表に向けた様々なアドバイスや意見が供出され闊達な議論が行われた。 第3報告「子ども食堂におけるドメインの定義」 菅原浩信氏(北海学園大学) 菅原氏からは、子どもの貧困に対する民間発の取組みとして注目されている「子ども食堂」について、その数の拡大とともに長期的継続的な運営に関する研究が必要であるという問題意識のもと報告があった。 氏の発表は概ね、先行研究調査、事例研究(新潟県内6施設)、分析(4つのグループへの分類化)、考察という手法により、展開された。今後の研究に関しては、本調査が新潟県内に限定され、調査施設の数も限定的であり、この調査手法を拡大して、分析事例を増やすことにより、経営戦略や組織特性等の抽出を試みていきたいとのことである。 文責:鷹野宏行(武蔵野大学) ■第25回関東部会記 日時 : 2019年8月10日(土) 場所 : 横浜国立大学 みなとみらいキャンパス 1. はじめに 非営利法人研究学会第25回関東部会が、2019年8 月10日(土)14時より、横浜国立大学みなとみらいキャンパスにおいて開催された。15名の参加者を迎え、齋藤真哉氏(横浜国立大学)の司会のもと、2 つの報告が行われた。 2. 部会報告 第1報告 「非営利法人におけるファンドレイジングの課題と地域性との関係性についての考察 」 瀬上倫弘氏(特定非営利活動法人国際連合世界食糧計画WFP協会事業部マネジャー・横浜市立大学大学院都市社会文化研究科博士後期課程) 瀬上氏は、現在、作成中の博士論文に基づいて報告をされた。 まず、ファンドレイジングはなぜ必要なのか?NPOの存在意義について、旧来からの「市場の失敗」「比較優位性からの存在意義」とは別に「対自発的感性主義」という新しい観点からNPOの存在意義について説かれ、続いて、ファンドレイジングについて「社会的課題の理解と共感」と定義された。さらに、活動資金が不足していること、そのためにファンドレイジングによる資金獲得が必要であるが、逆説的にそのファンドレイジングを実施するための資金も高額で用意することが難しい点をファンドレイジング・パラドックスとし、その課題と位置づけられた。そして、この課題の解決のために事例研究が必要となるとした上で、個人・企業のそれぞれからのファンドレイジングの成功事例の紹介と事例研究に対する分析結果について述べられた。 まず、個人からのファンドレイジングの成功事例としては、「かながわ寄付toカタログ」が紹介され、分析結果として「『地域性』がファンドレイジングの成功要因のひとつの鍵」であること、並びに、地域性が「『ファンドレイジング・パラドックス』の克服に資する」ことが報告された。 次に、企業からのファンドレイジングの成功事例のうち、WFPに関連する事例として「よこはまウォーキングポイント」が紹介され、また、企業を対象としたファンドレイジングと寄付に応じた企業の視点を明らかにするものとして「日本補助犬情報センター」と「SHAKE SHACK」による事例が紹介された。 この企業を対象としたファンドレイジングの事例研究に対する分析結果としては「個人の場合と同様に企業の場合にもファンドレイジングの成功要因として『地域性』という要素が影響していると推察することができた」とまとめられたが、「地域性」には強弱の差があること、個人と企業とにおいての捉え方が異なることが付言された。 最後に、地域を志向したファンドレイジングを「地域ファンドレイジング」と呼び、「地域ファンドレイジング」が海外支援においても有効であるかについての検討として「国連NPOの財務分析」「財務分析からの考察」が行われ、現時点における「仮説」がまとめられた。 以上の報告を受け、参加者からは、「ファンドレイジング・パラドックスについては、統計などに基づいて検証されているか?」「国連NPOの財務分析の結果としては、ファンドレイジング・コスト率が高く、寄付を効率的に使えていない団体がよいとされてしまうが、これは適当か?」「カントによる共感なき寄付との関連はどうか?」「共感の定義は、なにか?」「経済学的分析の観点から1,000のうちの6 つの事例だけで分析となるか?」「非営利法人を対象とするのであれば、他の法人形態についてもサンプルとして取り上げるべきでは?」「『地域性』や『共感』について、個人と企業がそれぞれに考える『地域性』『共感』があるのではないか?」など、多岐多様な質問が出され、活発な議論が展開された。質疑応答を含めて報告は2 時間を超えるものとなった。 第2報告「英国チャリティをめぐる近年の動向と制度対応 」 古庄 修氏(日本大学経済部) 古庄氏は、ご自身が2014年以後に公表された英国チャリティの財務報告に関連する6 篇の論考及び解説の内容を基に、その動向について報告された。 報告においてはまず、FRS第102号の公表に至る過程において、公益目的事業体(PBE)向け財務報告基準(FRSPBE)の設定が議論されたものの、FRSPBEは設定されず、英国においては、企業会計と非営利組織の会計の制度的枠組みを共通化したことの経緯について触れられた上で、企業会計との共通化、非営利組織間の会計基準の共通化の形態として、英国においては、2 つの概念フレームの上に1 つの財務会計基準(UKGAAP)があってそのなかにPBEに対する会計基準が含まれる形で位置付けられており、これと結びつきながらモジュール・アプローチとしてチャリティSORPが存在する3 層構造となっていることが確認された。 次いで、今回の報告の主題となる英国チャリティを巡り近年、発覚、発生した「Mrs Olive Cookeのケース」について紹介された。「Mrs Olive Cookeのケース」は寄付者を追い詰める寄付勧誘や断ることのできない(強制的な)寄付の存在を明らかにする事例であり、この一件が契機となって2016年にチャリティ法の改正が行われ、これにより新設された開示規定の概要について報告された。 さらに、2018年4 月に『公益・一般法人』に掲載された解説記事に基づいて、2017年7 月に改訂されたソフト・ローである英国チャリティのガバナンス・コード(チャリティ・コード)について、改訂の狙いと内容についての確認が行われた。また、チャリティ・コードにおいてApply or Explain(適用せよ、そうでなければ説明せよ)アプローチが採用されていることを前提として、その【推奨される実務】のなかから注目すべき点の抜粋確認が行われた。なお、チャリティ・コード改訂の背景には「Kids Companyの破綻」の存在などがあることが示された。 最後に、2020年度の本学会全国大会における統一論題の主題として、①東京五輪開催に合わせた競技団体のガバナンスとインテグリティ、②非営利法人におけるガバナンスをめぐる論点などを主催校として検討している旨が述べられた。 出席者からは、「チャリティ・コードの適用形式を区分する基準と外部監査の要否」「チャリティSORPにおける中小向けIFRSの適用可否」「チャリティ・コードにおける存続可能性について」「寄付勧誘から悲劇を生まないためのファンドレイジングを行う側の倫理規程のあり方」などの質問が出され、第1 報告に続いて第2 報告においても活発な質疑応答が展開された。質疑応答を含めて1時間半に及ぶ報告となった。 最後に今後の学会開催予定等について報告があり、18時10分頃、閉会した。 文責:上松公雄(大原大学院大学) ■第24回関東部会記 日時 : 2019年7月20日(土) 場所 : 日本大学 経済学部7号館(東京都千代田区) 1. はじめに 非営利法人研究学会第24回関東部会が、2019年7月20日(土)13時より、日本大学経済学部7号館2階講堂(東京都千代田区神田三崎町)において開催された。約40名の参加者を迎え、古庄修氏(日本大学経済学部)の司会のもと、3つの報告が行われた。 今回は、日本簿記学会簿記実務研究部会及び税務会計研究学会特別委員会との共催となった。これら3学会の各部会・委員会は、いずれも非営利組織の会計をテーマにしている点で一致し、今回の合同開催に至った。 2. 部会報告 最初に、非営利法人研究学会の齋藤関東部会長より、非営利組織の会計をテーマとして様々な観点から検討する3学会が合同で研究会を発表する意義が示された。 第一部 研究会 第1 報告「非営利法人の特質~会計・税務の観点から~」 齋藤 真哉氏(横浜国立大学) 齋藤氏は、会計を考察する前提として、まず近年の日本における非営利法人をめぐる環境制約の変化として、行政からの補助の削減や非営利法人において生じた不正について言及された。また、日本における非営利法人をめぐる会計や税務の動向を概観された。 次に、非営利法人の特徴としての特定のミッションの存在、残余財産に対する請求権者の不在、直接的反対給付を要しない財・サービスの受領の可能性等についてより詳細に報告された。 その他にも多くの点について詳細な報告がなされた後、まとめに入られた。特に非営利法人会計では、企業会計と同じ基礎概念で整理できるのか、何が同じで何が異なるのかについての明確化の必要性を強調された。合わせて、諸外国の基準をそのまま導入するのではなく、会計理論や日本の実情に照らして基準の内容の十分な検討が必要であるとされた。 第2報告「非営利組織体の簿記の現状把握と課題」 小野 正芳氏(千葉経済大学) 日本簿記学会簿記実務研究部会部会長である小野氏からは、非営利組織体における複式簿記の役立ちという観点から報告がなされた。部会では、パブリックセクターに含まれる地方自治体、地方三公社、独立行政法人、国立大学法人、公立大学法人とプライベートセクターの公益法人、NPO法人、医療法人、私立学校法人、社会福祉法人、宗教法人、農業協同組合まで広範囲にわたって研究がなされている。 非営利組織体への複式簿記導入の経緯として、⑴ 当初から非営利組織による複式簿記が求められている組織体、⑵ 収支計算及び財産目録の作成のための簿記処理から複式簿記による簿記処理へ移行した組織体、⑶ 未だ複式簿記による簿記処理が求められていない組織体とに区分して詳細な報告がなされた。また、簿記学会ということで、複式簿記の具体的な会計処理にも言及された。 第3報告「 非営利法人の課税をめぐる課題」 尾上 選哉氏(大原大学院大学) 税務会計研究学会特別委員会委員長の尾上氏からは、非営利法人の税務に係る各種の課題について報告がなされた。具体的には、以前の公益法人税制、新たな公益法人税制、非営利法人への所得課税の検討、法人税以外の特別措置等について言及された。 非営利法人には各種の税制優遇措置が採られているが、その理由が必ずしも明確でなかったり、様々な措置の間での整合性が不十分であったりする課題が示された。 第3報告終了後、齋藤真哉氏をコーディネーターとして、討論会・意見交換会が行われた。 フロアと発表者との間では、企業における複式簿記と非営利法人における複式簿記との違い、複式記入と複式簿記との違い、使途の指定された財産の受入れにかかる会計処理等をめぐり活発なやりとりがあった。 最後に今後の学会開催予定等について報告があり、17時30分頃、閉会した。 文責:金子良太(國學院大学) ■第23回関東部会記 日時 : 2019年5月11日(土) 場所 : 武蔵野大学 有明キャンパス(東京都江東区) 1. はじめに 非営利法人研究学会第23回関東部会が、2019年5 月11日(土)14時より、武蔵野大学有明キャンパス(東京都江東区)において開催された。18名の参加者を迎え、開催校の鷹野宏行氏(武蔵野大学)の司会のもと、1つの報告及びラウンドテーブルが行われた。 2. 部会報告 第一部 研究会 第1 報告「宗教法人法における機関の特徴―宗教法人法における機関の特徴から生ずる税務上の問題点に関する一考察―」(2018年度非営利法人研究学会関東部会短期研究)」 上松公雄氏(税理士・大原大学院大学) 上松氏より、宗教法人における機関の特徴の観点から、宗教法人法上の役員でない者が法人税法上の役員となる可能性があるため、宗教法人法において役員の範囲を明確にする必要性に関する報告がなされた。 宗教法人における機関を、一般社団法人、社会福祉法人、学校法人と比較検討を行い、以下の4つの特徴をあげた。①合議制機関及び監事が必置機関とはなっていない。②役員の範囲が明確ではない。③職務・権限について規定されているのは責任役員及び代表役員のみである。④登記すべき者は代表権を有する者となっている。このような特徴が宗教法人法の役員と法人税法上の役員との範囲が異なる要因となっている可能性を示唆した。また、法人税法上の役員の範囲は①役員の例示及び②実質的経営従事者という2つの観点を判断基準とするが、宗教法人の機関は法人税法上の役員の例示には該当しない。このため、実質的経営従事者であるかどうかによって法人税法上の役員該当性を判断すべきことになり、代表役員に関しては職務・権限の内容から法人税法上の役員に該当するものと判断されるが、責任役員については法人の規則において定める職務・権限の内容に基づいて判断する必要がある。さらには、宗教法人は設置すべき機関が不明確であり、理事及び監事が存在しないため、他の非営利法人とガバナンスの有効性と役員の課税について不公平が生じる可能性が否めない。 フロアからの主な質問とそれに対する回答は以下のとおりである。 旧宗教法人令の施行下において宗教団体か否かの線引きの根拠はどこにあったのかという質問に対しては、旧宗教團體法の定めるところが前提とされていたものと理解されるとの回答であった。 宗教法人はガバナンスが有効に機能しておらず、特定の者が優遇されている可能性があること及び、本来役員でない者が税法上の役員として認定されてしまい税務上不合理に扱われている可能性があるという問題があると理解してよろしいかという質問には、そのような理解で問題ないとの回答があった。 なぜ宗教法人法に監事に関する規定が明文化されていないのかという質問については、今後、竹内先生との共同研究で明らかにしていくとの回答であった。 宗教法人法の機関に関する課題が浮き彫りになり、フロアからの質問も宗教法人に関する本質的な議論となり活発な質疑応答となった。 第二部 ラウンドテーブル 第2報告「非営利組織の財務報告~JICPA非営利組織会計検討会の提案~」 齋藤真哉氏(横浜国立大学) 齋藤氏から2019年4月にJICPAから公表された「非営利組織における財務報告の検討~財務報告の基礎概念・モデル会計基準の提案~」(公開草案)に関する報告がなされた後にディスカッションが行われた。 非営利組織の社会的役割期待の大きさや自立した運営の必要性、さらには監督官庁ごとに異なる会計基準が作られている会計コストを考えると、非営利組織に関する会計基準の統一化を図ろうとすることには一定の意義があるとされた。 齋藤氏より次の問題点も指摘された。財務報告には、財務情報と非財務情報を含むとされているが、その質的特性や財務諸表の構成要素等に非財務情報がいかに反映されているのか不明である。多様な情報利用者と基礎概念との関係にもあいまいさが残る。財務諸表の構成要素に純資産が含まれているのに、活動計算書により計算される純資産増減額が含まれないのか。 報告の後、フロアも含めたディスカッションが、次の論点等について行われた。財務諸表の構成要素について、基本金のように非営利法人の資本や余剰について別の定義づけや異なる勘定科目を設定することは有用であり、基本財産額や余剰のような概念を用いてステークホルダーの理解に資することが必要ではなかろうか。また、純資産の拘束別区分に関しては、 3区分とされたことに関して、拘束の程度によって分けるべきであるが、時代の変遷や寄付者の死亡等により寄付の意図を確認できなくなること等のために、ガバナンス上は寄付者の意図は管理するべきであるものの、拘束性を3区分として表示することはほとんど不可能であり、別資料として開示する方法も有用ではなかろうか。この論点については、アメリカ基準が3区分から2区分へ変更した理由や歴史的背景を交えて議論が交わされた。 ディスカッションは活発に行われ17時15分頃、閉会した。 文責:榮田悟志(武蔵野大学) ■第22回関東部会、北海道(合同開催)記 日時 : 2019年3月8日(金) 場所 : (一財)産業経理協会(東京都千代田区) 1. はじめに 非営利法人研究学会北海道・関東合同部会が、2019年3 月8 日(金)13時より、一般財団法人産業経理協会2 階会議室(東京都千代田区神田淡路町)において開催された。約20名の参加者を迎え、関東部会長の齋藤真哉氏(横浜国立大学)の司会のもと、4 つの報告が行われた。 2. 部会報告 第一部 非営利法人の現場との交流 第1 報告「非営利法人の現場との交流」 田代恭之氏(一般財団法人産業経理協会 事業部マネージャー) 産業経理協会は、会社、その他諸団体における財務、経理等の研究、調査及び普及を行う目的で活動している団体である。1941年9月13日に日本原価計算協会の名称で発足してから現在まで80年近くに及ぶ活動を重ねている。1946年に財団法人産業経理協会と改称し、その後公益法人制度改革のもとで2013年4 月1 日より一般財団法人産業経理協会へ組織変更し、現在に至っている。2017年6 月より、会計学者の安藤英義氏が会長に就いている。会計学者を始めとする大学教員が、多く理事や評議員に就いていることも特徴的である。 田代氏からは、法人の各種事業について説明があった。主要事業としてセミナー(役員・幹部向け)、短期講習会(実務担当者向け)、講座(実務担当者向け)、研究会(専門領域に応じて現在9 の研究会)、機関紙(産業経理を年4 回発刊)がある。いずれも非常に歴史の長いもので、多くの企業が会員となっている。もっとも、リーマン・ショック以降は法人会員が減少しその後も会員数は伸び悩みの傾向がある。近年は法人へ向けての営業活動を強化していること、様々な類型の賛助会員制度を設けていることが説明された。 産業経理協会は、筆者も『産業経理』に寄稿したことがあり、会計学研究者には非常に身近な存在で、参加者による様々な質問が行われた。学会会場として会議室を提供いただいたことにも、感謝申し上げたい。 第二部 研究会 第2報告「 Fiscal SponsorshipとPro Bono」 早坂 毅氏(早坂毅税理士事務所) 早坂氏からは、非営利組織の不祥事防止研究会のプロジェクトとして、2018年12月2 日~12日の行程でアメリカ西海岸の非営利組織や法律事務所を調査した報告があった。早坂氏ら3 名は、非営利団体の活動が活発であるアメリカ西海岸、とりわけ先進地区として有名なサンフランシスコ市内でのインタビュー調査を企画、実施した。 Fiscal Sponsorshipは、非営利組織が他の小規模非営利組織の後方事務や組織運営支援、具体的には財務、コンプライアンス、助成金管理、人事管理や社会保険等のサービスを提供することで組織運営を支援するものである。早坂氏は、多くの非営利組織を支援するTidesへの訪問調査事例を報告された。Tidesは、環境、医療、労働問題、移民の権利、同性愛者の権利、女性の権利等の分野で先進的な政策を推進する団体であると同時、多くの小規模組織の支援も行っている。非常に安価な対価で、多くの組織の広範な後方支援を行っている。 このほか、早坂氏からはPro Bonoの先進的事例として法律事務所のMorrison and Foerster法律事務所が仕事の5 %をPro Bonoへ使うよう奨励されている事例も示された。 参加者からは、Fiscal Sponsorshipについての質問や、日本での実態等を巡って様々な質問が交わされた。 第3報告「18世紀の懐徳堂の帳簿」 水谷文宣氏(関東学院大学) 水谷氏からは、日本の実務における資本維持計算の必要性を現金主義の時代から探るという問題意識のもと、18世紀の帳簿について報告があった。 報告で使用された帳簿は教育を行う組織の『懐徳堂義金簿』であり、1781年(天明元年)にさかのぼるという。そして現在は、大阪大学の懐徳堂文庫に大量の資料が保存されている。水谷氏は、大阪大学を訪問して調査を行った。そして、それらを踏まえた上で資本維持計算は民間非営利組織でも必要であり、減価償却が必要である旨を報告された。 参加者からは、「資本維持」の意義や、減価償却の目的等をはじめ多くの質問がなされた。 第3報告「 地場産業産地における商工共同システムの変化 有田焼産地を事例として」 東郷 寛氏(近畿大学) 東郷氏からは、商工協業システムたる「事業システム」の変容の視点から有田焼産地の発展過程を明らかにすることを目的にした研究として、業界レベルでの産地発信型・事業システムについての報告があった。そして、有田を出自とする新興商業者や新興窯元集団による新たな事業システム(有田焼のブランド化を企図)の構築が明らかにされた。 参加者からは、本報告と非営利組織・活動との関係、有田焼産地の近年の動き等の質問があった。 文責:金子良太(國學院大學) ■第21回関東部会、医療・福祉系法人研究会(合同開催)記 日時 : 2018年7月7日(土) 場所 : 國學院大学渋谷キャンパス(東京都渋谷区) 1. はじめに 非営利法人研究学会第21回関東部会、医療・福祉系法人研究会(合同開催)が、2018年7月7日(土)14時より、國學院大学渋谷キャンパス(東京都渋谷区)において開催された。17名の参加者を迎え、開催校の金子良太氏(國學院大学)の司会のもと、2つの報告が行われた。 2. 部会報告 第一部 非営利法人の実務報告 第1 報告「日本体育施設協会が実施する指定管理者外部評価の実務」 本間 基照氏 (MS&ADインターリスク総研株式会社) 本間氏より、体育施設を外部者の立場から評価する指定管理者という実務家の視点から、指定管理者の必要性、実施している業務の概要及び外部評価の課題に関して説明があった。 指定管理者外部評価を受けるか否かは原則として自由であり受ける目的も様々であるが、安全な利用を目的として、地方自治体は評価を受けることを義務付けている場合がある。体育施設の管理を適切に行い、利用者数を多くすることを目的とすることや、床が剥がれて利用者が怪我をするような施設の老朽化による事故が起こることを未然に防ぐとういう観点からも外部評価の意味は大きいといえる。また、指定管理者制度による評価の目的の一つとして、民間企業が体育施設に関する入札に参加することができる参入障壁を下げることにもある。いわゆる外郭団体のみで体育施設を運営するのではなく、スケールメリットが得やすく、経営のノウハウを持っている民間企業も体育施設の運営に参加を促すことによって、利用者の効用を高めることにも資すると考えられる。 評価実施項目として、安定的経営姿勢・運営実施体制、コンプライアンス、施設の効用の最大限発揮、安全管理、地域交流などがある。 フロアからの質問とそれに対する回答は以下の通りである。評価は時代や利用者のターゲットの別で行っているのか、また、時代に応じて評価を変化する予定があるのかという質問に対しては、年度末に項目の見直しを行っており、今後も考慮していかなければならないとの回答であった。温水プールに関して、近くにごみの焼却場がある場合とない場合では、燃料費がかなり違うが、置かれている環境制約によって評価も変化させているのかという質問には、1人あたりの利用料などで評価しているので、環境制約は考慮していないので今後の課題としたいとの回答であった。評価指標においては、公益目的を念頭においた指標を設けるほうが良いのではないだろうかという意見があった。地方と都心では利用者や集客力が大きく異なるので、施設の可変性(観客席、女子トイレと男子トイレの数など)等は評価項目として重要視されるべきではないかという意見があがった。 実務の現場の実情と課題がわかる大変興味深い発表であり、フロアからの質問も評価項目に関する本質的な議論となり活発な質疑応答となった。 第二部 研究会 第2報告「社会福祉法人充実残額の算定傾向に関する分析」 千葉正展氏 (独立行政法人福祉医療機構) 千葉氏からは、社会福祉法人の社会福祉充実残額の算定に関して、厚生労働省の示した算定式では内部留保以外の要因の混在や特例計算などによって、過大もしくは過小評価されている可能性があることから、充実残額算定式の見直しの要否に資する傾向分析に関する報告がなされた。例えば、建物等の耐用年数は借入金の借入期間を超過していることにより、借入金完済後から耐用年数到来の期間の減価償却費による回収資金が内部留保に混在しているため充実残額が過大評価される可能背がある。また、特例計算によって充実残額が過小評価される可能性も指摘される。この計算方法については、施行後の実施状況を踏まえ検討することとされ、算定制度の傾向分析を行う必要がある。そのほか充実残額については検証機能がないため、算出された金額の正確性に関して保証されていないというという制度上の問題点の指摘がなされた。 フロアからは、そもそも、社会福祉法人の内部留保に関する批判はなぜ出てしまったのか、という質問があがった。これは数字的根拠なき批判であったため、内部留保である社会福祉充実額につき充実計画の策定及び実行がなされることになったという経緯の説明がなされた。内部留保そのものに関する社会的な見解の問題ともいえる本質的な議論である。また、社会福祉充実額の数値の正確性に関する質問では、充実計画は充実額がプラスの場合にのみ作成すればよく、マイナスの場合には作成されず、作成されない場合には会計監査対象外であり、充実残額の算定課程におけるマイナスされる金額の適正性は担保されないという監査の盲点も明らかとなった。 各報告とも多くの質疑応答や質疑に基づく議論が活発になされ、議論は予定時間終了後も続き、17時20分頃、閉会した。 文責:榮田悟志(武蔵野大学) ■第20回関東部会記 日時 : 2018年5月19日(土) 場所 : 武蔵野 大学有明キャンパス 1. はじめに 非営利法人研究学会第20回関東部会が、2018年5月19日(土)14:00より、武蔵野大学有明キャンパスにおいて開催された。18名の参加者を迎え、開催校の鷹野宏行氏(武蔵野大学)の司会のもと、三つの報告が行われた。 2. 部会報告 第1 報告「一般法人の非営利性についての再検討」 古市雄一朗氏(大原大学院大学) 古市氏より、まず、一般法人(一般社団・財団法人)は非分配制約を満たしていないのではないかという問題認識に関する説明があった。次に、非分配制約の意義、非営利組織に非分配制約が徹底されない事の問題点に関する検討の説明があった。前者の非分配制約の意義としては、非営利法人と営利法人を区別するメルクマールとして機能すること、契約の失敗を解消することなどがあげられた。後者の問題点としては、非営利性のある法人とそうでない法人が混在している法人が混在していること、非営利を謳いながら非営利法人として活動する恩典を用いて活動し利益を蓄積した上で特定の個人に対して利益を提供する余地が残されていることなどがあげられた。帰結として、残余財産の分配の可能性を残している一般法人は、厳密な意味での非営利性を有していない可能性があることが指摘された。 フロアーより、残余財産の分配の余地が残されている法人が非営利法人として一般法人の中に含められている制度的背景などに関して質問がなされ、活発な議論が展開された。 第2報告「非営利組織に関する一考察」 松原由美氏(早稲田大学) 松原氏より、まず、「非営利組織とはどういう組織か」というテーマに関する説明があった。次に、非営利組織の定義、非営利組織の利益概念を検討した内容が説明された。非営利組織の定義に関する検討は、非分配性を捉えた一般的な定義には問題があるとし、営利ではないことを捉えた定義とすべきとの提案がなされた。また、非営利組織の利益概念の検討では、非営利の利益概念と営利の利益概念を対峙させ、前者を将来のコスト、後者を儲けとして研究されている。考察として必要利益(許容範囲)の概念、将来の建替えコストなどの将来の非営利事業のためのコストに対する引当金設定の導入、さらに実質配当禁止の措置をもって、非営利組織の名にふさわしい経営を実現することが示唆された。 フロアーより、許容範囲設定のあとの処理はどうなるのか、提案された定義がいかなる問題を解決するか、などの質問がなされ、活発な議論が展開された。 第3 報告「収支相償の判断における調整項目の検討~特定費用準備資金の取り扱いを中心として~」 榮田悟志氏(武蔵野大学) 榮田氏より、まず、特定費用準備資金の利用の低さに関する問題点の説明があった。次に、収支相償の判断を伴う特定費用準備資金の利用に関する考察があり、どのような条件であれば特定費用準備資金の利用が高まるかについての検討がなされた。帰結として収支相償計算の調整項目としての特定費用準備資金の使用に関して、第一段階と第二段階で繰入れの意味合いが異なるため異なる取り扱いをすること、また公益目的事業で儲けた分は公益に還元するという考えにより、特定費用準備資金を利用しやすい環境整備が提起された。しかしながら、収支相償を求める場合には、会費、寄付金、補助金等を経常収益として収支相償の判断の計算に含めるか否かなども議論の余地があり、特定費用準備資金の繰入れと取崩しなどと総合的に議論されるべきであることも主張された。 フロアーより、特定費用準備金の利用が20%という内閣府公表の数値に対して、その利用により収支相償を達成する必要がある法人に限れば60%を大きく上回る数値となるという指摘もあった。また、制度の運用に関して、監督官庁及び公益法人との間に認識のずれが生じている可能性もあるなどの指摘もあり、活発な議論が展開された。 文責:山田和宏(横浜国立大学博士課程後期) ■第18回関東部会記 日時 : 2017年11月26日(月) 場所 : 武蔵野 大学有明キャンパス 1. はじめに 非営利法人研究学会第18回関東部会が、 2017年11月26日(日)13時30分より、武蔵野 大学有明キャンパス 1 号館(東京都江東区有明)において開催された。約20名の参加者を迎え、開催校の鷹野宏行氏(武蔵野大学)の司会のもと、3つの報告が行われた。 2. 部会報告 第一部 非営利法人の現場との交流 第1 報告 中村英正氏(公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 CFO) 2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックの準備及び運営を担うことを目的に設立された公益財団法人である。日本オリンピック協会と東京都とが1 億5 千万円ずつを出捐して2014年に発足し、その後東京都は57億円の追加出捐を行っている。 中村氏からは、実務家の立場から、組織の活動内容や公益法人の課題について報告があった。まず、2020年のオリンピックを成功させることを目的とした団体で、大会終了後は清算が予定されている点が(他の公益法人と異なる)大きな特徴である。また、役員数はオリンピック・パラリンピックが国、自治体、スポンサー企業、スポーツ団体等多くの関係者を巻き込んでいくイベントだけあって、35名と非常に多い。通常3 か月に1 回で開催される理事会の開催日程の調整には大変な苦労を伴うが、多くの理事が多忙な日程をやりくりして参加されているとのことであった。また、財団に勤務する職員も、東京都、国、スポンサー企業、スポーツ団体等の出身である。当然出身母体ごとに仕事のやり方は大きく異なっており、その点での調整の苦労もうかがい知ることができた。もっとも、「オリンピック・パラリンピックを成功させる」という使命(ミッション)が極めて明確な組織であり、いわゆる「アイデンティティ・クライシス」に陥ることはないとのことであった。 フロアからは2020年のオリンピックを開催するまでの毎年度の収支相償をどう考えるか、オリンピック終了後の清算において不足や剰余が発生した時の取扱いをどうするのか等、多くの質問が提起され、質問は14時半頃まで続いた。1 時間半近くにわたる中村氏の説明と質疑応答は、公益法人の運営のみならず東京オリンピック・パラリンピックへの興味をかきたてるに十分なものであった。 第二部 研究会 第2報告「非営利組織とはどのような組織か」 松原由美氏(早稲田大学) 松原氏は、まず「非営利」そして「非営利 組織」の定義が抱える問題点について明らか にされた。また、営利組織と非営利組織の利 益は似て非なるものであり、これを同一視して議論することは適切ではないと主張された。 また、非営利組織の利益概念の特徴についても言及された。特に通説に対する異論や、非営利組織に対する一般的な誤解を問題意識として報告がなされた。 フロアからは、「非営利」や「利 益」の定義をめぐって質問があり、その後活発な議論 が交わされた。 第3 報告「韓国のフードバンクと現物寄付の評価」 上原優子氏(立命館アジア太平洋大学) 上原氏からは、近年わが国でも注目が高まっているフードバンクを主題とした発表が行われた。フードバンクとは、様々な理由で処分されてしまう食品を、食べ物に困っている人に届ける活動である。米国での活動が盛んであるが、近年わが国でも活動が活発化している。発表は韓国のフードバンクに焦点を当て、韓国では経済の停滞や貧富の格差によりそれを必要とする人が増加し、政府がフードバンクの活動に深くかかわっていることが報告された。また、韓国では(米国と異なり)基本的に単式簿記で収支計算を行い、財務諸表は一般に公開はしていない。ただし、寄付食品の利用状況については公表しているとのことであった。 今後わが国でもフードバンクの会計上の取扱い、寄付食品の評価等が課題となるという課題が提起され、発表が締めくくられた。 フロアからは、寄付食品の評価の方法や米国のフードバンクとの違い等について質問があった。 各報告とも活発な質疑応答があり、16時50分頃、閉会した。 文責:金子良太(國學院大学) ■第17回関東部会記 日時 : 2017年8月20日(日) 場所 : 横浜国立大学みなとみらいキャンパス 1. はじめに 非営利法人研究学会第17回関東部会が、2017年8 月20日(日)13時より、横浜国立大学みなとみらいキャンパス(神奈川県横浜市西区みなとみらい)において開催された。15名の参加者を迎え、開催校の齋藤真哉氏(横浜国立大学)の司会のもと、3つの報告が行われた。 2. 部会報告 第一部 非営利法人の現場との交流 第1 報告「社会福祉法改正後初めての決算を実務から振り返る」 船山 奨氏(税理士法人みらいコンサルティング) 船山氏より、税理士という実務家の立場から、社会福祉法改正の背景、趣旨及び課題に関して説明があった。まず、経営組織のガバナンス強化の観点から理事・理事長に対する牽制機能及び一定規模以上の社会福祉法人に対する公認会計士等による法定監査の義務付けの説明があった。これに関連して、厚生労働省及び日本公認会計士協会と連携して専門家の活用による法定監査対象外の社会福祉法人に対する事務処理体制を向上する目的の支援実施報告書を日本税理士会連合会会長から税理士会会長宛に周知のお願いが公表されたことが説明された。事業運営の透明性の確保に関しては、役員報酬基準及び役員区分ごとの報酬総額の記載に関する説明があった。また、社会福祉法人は公益性が強い事業を営んでいるため、本業については法人税を非課税とするべきではなかろうかとの意見も示された。 フロアからは、法定監査における公認会計士の独立性の問題、税理士の行う支援業務との住み分けに関する問題や、行政監査との比較などの議論が交わされた。また、理事の報酬に関しては、評議員会での承認が必要となり透明性が確保されているが、個人別の開示がなされていないなど問題が多く残っている点が指摘された。さらには充実計画に関する説明に対して実務ではどのような取扱いがなされているのか、残額がある法人の割合はどの程度なのかという実務の現場に関する質問も寄せられるなど、大変興味深い実務家の観点からの発表であった。 第二部 研究会 第2報告「非営利組織の内部留保」 石津寿惠氏(明治大学) 石津氏からは、公益法人、学校法人、社会福祉法人に関する内部留保に関して、会計情報として適切に開示することの必要性と、その仕組みとしての短期的な単年度の収支バランス(収支相償:公益法人、収支均衡:学校法人、社会福祉充実計画:社会福祉法人)と会計情報がリンクされることの必要性が示された。これにより社会から批判が多い非営利組織の内部留保の状況を明らかにし、会計情報として適切に開示することができると示唆された。 また、短期的なバランスとは、資金収支ではなく発生主義による収支であることが示された。 フロアからは、公益法人、学校法人、社会福祉法人の異なる法人に適用される会計基準を同じ土俵に上げて論じることに関する質問があがり、収支バランスと内部留保のリンクに関するさらなる説明がなされ、非営利組織の社会的意義に立ち返った議論も交わされた。 第3 報告「セクター中立会計の課題と可能性」 金子良太氏(國學院大学) 金子氏からは、ニュージーランドは20年の間にセクター中立会計を導入したがそれを廃棄したという事例が紹介され、セクター中立会計及び非営利組織会計の統一的枠組みを考えていく方向性や、多様な利害関係者の利害調整に関する研究の必要性が示唆された。営利組織、非営利組織、公的組織といった各セクターについてひとつの会計基準を共有するという極論を検討することにより、非営利組織の会計に関する位置づけや問題点を明らかにするといった意義があることや、営利・非営利・政府といった組織目的が異なることが会計の違いにはつながらないというアンソニーの主張が紹介された。 フロアからは、ニュージーランドがセクター中立会計を廃棄した経緯について、IFRS自体の問題なのか、IFRSの適用には限界があることは分かっていたが最終的に諦めたのかという質問がなされ、IFRSを適用することができる組織などに関する議論が行われた。また、セクター中立会計を現時点で導入している国はあるのかという質問に対して、完全ではないが、オーストラリアやイギリスなどがある旨が回答された。 各報告とも多くの質疑応答があり、議論は予定時間終了後も続き、17時40分頃、閉会した。 文責:榮田悟志(武蔵野大学) ■第16回関東部会記 日時 :2017年7月8日(土) 場所 :日本大学経済学部7号館 非営利法人研究学会第16回関東部会が、2017年7 月8 日(土)13時より、日本大学経済学部7 号館(東京都千代田区三崎町)において開催された。20名以上の参加者を迎え、開催校の古庄修氏(日本大学)の司会のもと、3 つの報告が行われた。 ■第1部 非営利法人の現場との交流 ■第1報告 浅川伸氏(公益財団法人 日本アンチ・ドーピング機構 通称JADAJapan Anti-Doping Agency) JADAは、ドーピング検査やドーピングに関する啓発活動を行う機関である。日本オリンピック委員会(JOC)、日本体育協会(JASA)、日本プロスポーツ協会(JPSA)を中心にして、2001年(平成13年)に創立された。浅川氏から、実務家の立場から、組織の活動内容や公益認定をめぐる課題について話があった。まず、数年前に大きな話題となったロシアによる組織的なドーピング問題と、その後の経過について話があった。ドーピングによって、オリンピック等の競技大会の信頼性は失われ、ルールを守って参加するアスリートに不公平な結果となってしまう。2020年の東京オリンピックを成功させるためには、ドーピングを絶対に認めない毅然とした態度と違反を摘発する仕組みの強化が必要であることを認識させられた。 公益法人の運営に当たっては、理事会や評議員会といった法人運営の方向性を決める会議が頻繁に行われない中で、日々の業務運営を行う常勤職員には運営の決定権限があまりないことが、スピード感のある法人運営を難しくしていることが示された。特に、多くのステイクホルダーを抱える組織においては理事会等が肥大化する傾向にある。ドーピングなど日々刻々と動く事態に対応していくために、また基本財産(JADAの場合、基本財産は6,700万円)の運用収益が極めて限定的となっている現状では、社会のニーズに応えて法人が存続していくために素早い意思決定や現場への権限移譲が不可欠であるとの説明があった。 JADAの公益財団法人化に際しては、法人の意思決定や業務運営がスピード感・緊張感をもってなされるよう組織変革が行われたとのことである。 フロアからはJADAの収支や世界的組織(WADA)との関係、公益財団法人化がもたらした影響等、多くの質問が提起され、質問は15時頃まで続いた。2 時間近くにわたる浅川氏の説明と質疑応答は、公益法人の運営のみならず東京オリンピック等への興味をかきたてるに十分なものであった。 ■第2部 研究会 ■第2報告 猫崎隆之氏(ニッシントーア・岩尾株式会社)「公益法人会計基準における意義と課題」 猫崎氏からは、公益法人会計基準が改正された経緯、その後の公益法人制度改革と会計基準との関係等について、報告がなされた。そして、特に平成20年改正の会計基準には理解可能性に問題があること、内訳表の作成など現場にも多くの負担がかかっていることが説明された。また、公益法人会計には説明責任の履行が期待されていることが示された。 フロアからは、公益法人会計基準の「意義」と「課題」をより明確にすることが必要であるとの助言があった。 ■第3報告 伊藤 葵氏(富山国際大学)「非営利セクターにおける中間支援組織の重要性」 伊藤氏からは、公共サービス提供における中間支援組織の重要性について、組織間関係論の視点に基づき、報告がなされた。中間支援組織では多様なステイクホルダーをつなぐセクター間調整機能が弱い傾向にあると推測され、この機能の拡充が課題であることが示された。 フロアからは、中間支援組織の定義づけや公的サービス提供という視点から研究を行った理由等について質問がなされた。 各報告とも多くの質疑応答があり、議論は予定時間終了後も続き、17時40分頃、閉会し た。 文責:金子良太(國學院大学) ■第13回関東部会記 日時 :2016年5月14日(土) 場所 :武蔵野大学有明キャンパス 1. はじめに 第13回関東部会が武蔵野大学有明キャンパスを会場に開催された。齋藤真哉部会長の挨拶後、部会長(第1 報告)及び鷹野宏行氏(第2・3報告)の司会により研究報告が行われた。 2. 部会報告 ■第1報告 榮田悟司・鷹野宏行氏(武蔵野大学)「産後ケア施設をめぐる制度・運営・組織形態研究序説」 榮田・鷹野両氏の報告では、出産直後の産褥期における母子に対する産後ケア施設の制度設計を検討するために、今回は世田谷区が武蔵野大学に土地を提供し事業運営を委託している「武蔵野大学付属産後ケアセンター桜新町」を題材として採り上げ、産後ケア施設の実態を明らかにし、法的整備の必要性が検討された。 まず、少子化対策が社会問題となっている昨今にあって、産褥期における母親の精神的・肉体的ケアの重要性が指摘された。そして、現在では多くの自治体等において、産後ケア事業や産後ケア施設への補助が行われるようになっているが、産後ケア事業・施設の認知度、自治体の補助、施設等の利用率に地域差が存在すると同時に、産後ケア・サービスそのものにも大きなバラツキがあることが問題の所在として採り上げられた。 そして、今後の産後ケア施設の拡充のために課題となる法的な整備についての検討が加えられた。今回の報告はタイトルにもあるように「序説」であり、今後、自治体へのアンケート調査、産後ケアの先進国といわれる韓国の産後ケア施設への訪問や実態調査などを行い研究を取りまとめていきたいとのことであった。 ■第2報告 金子良太氏(國學院大學)「非営利組織における規模別の会計基準導入の可能性」 金子氏の報告では、非営利組織には中小組織が多く、会計規制においては規模別の配慮が必要であるとの問題意識から、ニュージーランド(以下、NZ)で導入された非営利組織の規模別会計を例として挙げ、規模別会計基準導入の可能性の検討が行われた。 まず、NZの非営利組織の会計について、歴史的経緯を含めた概要が紹介された。NZでは2000年代に入ると企業会計に基づくセクター中立会計が、そして2007年からはNZ版IFRSが非営利組織に適用されていたが、2011年にその廃止が決定され、2015年4月から「事業費用」を基準とする非営利組織の規模別会計基準が導入された。なぜこのような会計枠組みの大幅な変更を伴う改革が行われたかについて、従来の会計基準は非営利組織に順守されておらず、順守される規制構築の必要性があったと報告者の見解が明らかにされた。 次いで、事業費用の金額により4区分された規模別会計基準の概要が紹介され、各区分での財務報告の実態が明らかにされた。 最後に、公益法人会計基準における「中小組織版」会計基準の検討結果を踏まえ、法人類型別に非営利組織の会計基準が設定されているわが国の現状で、NZのような規模別会計基準の策定の是非などが議論された。 ■第3報告 千葉正展氏(独立行政法人福祉医療機構)「社会福祉法人制度改革の背景と諸問題」 千葉氏の報告では、近時の社会福祉法人制度改革の背景及び内容の概括をし、制度改革で未解決となっている課題の検討が行われた。 まず、制度改革の背景として、次の5 つが挙げられた。①会社法の創設や公益法人制度改革等が進む中で、社会福祉法人の他の法人と比較したガバナンスレベルの相対的低下、②世論などにおける社会福祉法人の内部留保に対する批判、③社会福祉事業から「社会福祉事業と福祉サービス」という新しい公共概念(福祉の範囲の変化)、④公益法人等に対する法人税課税の議論、⑤不適正事案の発生。 そして、「経営組織のガバナンスの強化」、「事業運営の透明性の向上」、「財務規律の強化」、「地域における公益的な取組みを実施する責務」、「行政の関与のあり方」という視点で制度改革が進んでいることが指摘された。 制度改革における課題として、①会計監査人監査の費用対効果、②社会福祉充実残額の算定、③社会福祉充実事業、地域における公益的取組の責務と財源、④法人の経営管理機能(ガバナンス)強化と財源を採り上げて検討が行われた。特に、世論の内部留保批判に対応するためには、社会福祉法人の余裕財産の明確化が必要であり、そのために「社会福祉充実残額」という概念を用いて分析が行われた。 文責:尾上選哉(大原大学院大学) 関東部会報告 アンカー 1
- 入会のご案内 | 公益社団法人 非営利法人研究学会
入会のご案内 ■会員区分と年会費 正会員(個人会員) 10,000 円 学生会員※1 5,000 円 賛助会員(個人・法人・団体) 30,000 円 名誉会員 8,000円 シニア会員※2 5,000円 ※令和元年9月15日の理事会で会費金額が変更となりました。詳しくは「会費等に関する規則」 をご覧ください。 ※1 学生会員は会費を納付する毎に在学証明書を提出いただきます。 ※2 正会員は、本学会に正会員として10 年以上在籍し、本人の年齢が70 歳に達した場合、事務局に届け出ることによりシニア会員になることができます。 ■会員特典 ・学会誌その他の資料送付 ・地域部会・各研究会・全国大会への参加・発表 ・学会ML(メーリングリスト)への登録 ・学会誌への投稿(査読付) ・ワーキングペーパーへの投稿 ■お申込み方法 入会のお申込みは申込書(Word文書又はPDFファイル)をダウンロードし、必要事項をご記入のうえ、弊会事務局までFAX(宛先:03-6631-4285)もしくはEメール(宛先:office@npobp.or.jp)にてご送付下さい。 入会申込み書
- 第6回学会賞・学術奨励賞 | 公益社団法人 非営利法人研究学会
学会賞・学術奨励賞の審査結果 第6回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告 平成19年9月8日 非営利法人研究学会 審査委員長:大矢知浩司 非営利法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第6回学会賞(平成18年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)及び学術奨励賞(平成18年度全国大会の報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文)の候補作を慎重に選考審議した結果についてここに報告いたします。 1. 学会賞 該当作なし 2. 学術奨励賞 該当作なし
- ワーキングペーパー | 公益社団法人 非営利法人研究学会
ワーキングペーパー 本学会では、非営利分野の発展に寄与することを目的として『ワーキングペーパー』を発行しています。 ▶ワーキングペーパー投稿規程(PDF) ◆2019年度ワーキングペーパー一覧 ワーキングペーパー
- 2024最終報告(公益・一般法人研究会) | 公益社団法人 非営利法人研究学会
非営利法人研究学会 公益・一般法人法人研究会 最終報告 (2022年-2024年) 公益・⼀般法⼈等における寄付をめぐる多⾓的検討
- 第14回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会
第14回大会記 2010.9.25・26 早稲田大学 統一論題 非営利法人制度改革と市民社会ガバナンス 公認会計士 清水貴之 非営利法人研究学会の第14回大会は、2010年9月25日・26日の両日、早稲田大学8号館(大会委員長:小林麻理氏)において開催され、100名を超える会員が参集した。その前日(9月24日)には常任理事会及び理事会が開かれた。 大会1日目は事辞典刊行委員会、会員総会に引き続き、本大会の統一論題「非営利法人制度改革と市民社会ガバナンス」に関するキーノートスピーチの後、パネリストよりそれぞれの立場から報告が行われ、柴健次氏(関西大学)の司会の下に討論が行われた。 【統一論題報告と討論】 キーノートスピーチは、大内俊身氏(元東京高等裁判所民事部総括判事・前内閣府公益認定等委員会委員)が「非営利法人制度の現状と課題」について行った。旧民法法人(公益法人)制度に対する批判と、そうした課題に対応した主たる立法の動きについて触れた後、新しい非営利法人制度の概要として、一般法人と公益法人の内容及び先の課題が解消されたか等について述べられた。旧民法法人制度において問題であった権利能力のない社団・財団が、準則主義の採用により一般法人としての設立が可能となった点は、画期的なことであると指摘された。 統一論題報告では、吉田忠彦氏(近畿大学)氏が、ガバナンス論の観点から「社会ガバナンスとNPO」について報告した。ガバナンス論には、政府によるコントロールの修正又は代替方法としての国家単位のネットワーク・ガバナンス論とマネジメントの上位概念としての組織単位のコーポレート・ガバナンス論があると分類した上で、現在、ガバナンスが問題となっているのは中央政府が機能不全を来していることが原因であるとした。 入山映氏(サイバー大学)は、市民セクターの社会における重要性を強調する観点から、「公益法人制度改悪 その根底にあるもの」について報告した。その中で公益とは、現在の公益法人制度においては、非営利かつ不特定多数とされているが、ガバナンスとは自分のことは自分で決め、その上で責任も自分で取るということであり、そもそも公益概念への適否の枠組みを政府が決定すること自体が間違っていると指摘した。公益概念に基づく現公益法人制度は廃し、非営利法人という制度に一本化すべきであると提言された。 髙山昌茂氏(公認会計士)は、予算がガバナンスにおいて果たす機能の観点から「公益法人制度改革とガバナンス 損益予算について」の論題で報告した。公益法人の予算に関する取扱いは、昭和52年策定の会計基準及び昭和60年会計基準の予算準拠主義による収支予算書から、平成16年会計基準の内部管理事項としての収支予算書、そして、平成20年会計基準の損益予算へと変遷してきたが、損益予算ではガバナンスの観点からは限界があり、公益法人にとって真に必要な予算とは収支予算ではないかと指摘された。 討論においては、今般の公益法人制度改革において、準則主義による法人設立の意義については共通の認識が得られたものの、公益認定制度のあり方やNPO法人との関係などについて活発な質疑・討論が行われた。 【自由論題報告】 大会2日目午前中は、4会場に分かれて15の自由論題報告が行われた、各会場の報告者及び論題は以下のとおりである。 第1会場[司会:齋藤真哉氏(横浜国立大学)] ⑴村山秀幸氏(公認会計士)「公益認定法の収支相償規定の意味と実務的対応の検討」、⑵竹内拓氏(自由が丘産能短期大学)「ファンドレイジングの変遷とその対応策」、⑶田中弥生氏(大学評価・学位授与機構)/馬場英朗氏(愛知学泉大学)/石田祐氏(明石工業高等専門学校)「新しい公共と税制優遇―認定NPO 法人は寄付文化を促進するか?―」 第2会場[司会:会田一雄氏(慶応義塾大学)] ⑴小野英一氏(東北公益文科大学大学院)「NPM(ニュー・パブリック・マネジメント)を活かした非営利組織マネジメントについて」、⑵川野祐二氏(下関市立大学)「公益志向の近代市民結社とイノベーション:自治的アソシエーションの拡大と民主主義」、⑶八島雄士氏(九州共立大学)「行政とNPO の協働におけるバランスト・スコアカードの適用可能性」、⑷大原昌明氏(北星学園大学)/鈴木克典氏(北星学園大学)「『自転車タクシー事業の現状と課題』―事業者へのヒアリング調査に基づいて―」 第3会場[司会:江田寛氏(公認会計士)] ⑴古市雄一朗氏(福山大学)「非営利組織の会計における貸借対照表の意義」、⑵馬場英朗氏(愛知学泉大学)「3省庁からみた民間非営利組織への事業積算―イコール・フッティングは考慮されているか?―」、⑶兵頭和花子氏(兵庫県立大学)「非営利組織の財務的基盤とその会計」、⑷佐久間義浩氏(富士大学)「非営利組織における内部統制の現状―公的医療機関における内部統制に関するアンケート調査による分析―」 第4会場[司会:富永さとる氏(パブリック・ベネフィット研究所)] ⑴伊藤葵氏(早稲田大学大学院)「日本型地域プラットフォームの形成―行政とNPOの連携による効果的なガバナンスに向けて―」、⑵角谷嘉則氏(立命館大学)「ボランティアの専門性の高度化―障害者の就労支援を事例として―」、⑶東郷寛氏(近畿大学)「公民パートナーシップ(PPP)のマネジメント:先行研究レビュー」、⑷初谷勇氏(大阪商業大学)「非営利法人制度改革と市民社会の安全」 【特別講演】 午後からは、田中羊子氏(ワーカーズコープセンター事業団・専務理事)による「『新しい公共』の創造と協同労働の可能性」と題する特別講演が行われた。田中氏は、協同労働の協同組合という新しい就労機会創出の仕組みとしてのワーカーズコープのこれまでの活動内容を紹介され、事業者が、利用者や地域と協同して事業を行なうことにより、「新しい公共」の場が創出されるとともに利用者や地域のニーズに合ったサービス提供が行われると指摘された。 【研究部会報告】 特別講演の質疑終了後、東日本研究部会[主査:小林麻理氏(早稲田大学)]と西日本研究部会[主査:藤井秀樹氏(京都大学)]からそれぞれの部会報告が行われ、最後に大会準備委員長の小林麻理氏の閉会挨拶により盛況のうちに閉幕した。
- 第3回学会賞・学術奨励賞 | 公益社団法人 非営利法人研究学会
学会賞・学術奨励賞の審査結果 第3回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告 平成16年9月4日 非営利法人研究学会 審査委員長:松葉邦敏 公益法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第3回学会賞(平成15年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)及び学術奨励賞(平成15年度全国大会の報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文)の候補作を慎重に審議した結果、残念ながら学術奨励賞に該当する論文はなく、下記の刊行著書を学会賞に選定しましたので、ここに報告いたします。 1. 学会賞 小島廣光(北海道大学)『政策形成とNPO法−問題,政策,そして政治』(A5判、276頁、有斐閣、2003年11月) 【受賞論文の内容と受賞理由】 本書は、その必要性はほとんど一般に理解されていたNPO法が、阪神・淡路大震災を契機として、短時日に「なぜ」しかも「どのようにして」政策形成・立法化されたのかを解明することが著者の直接の動機となり、これを明らかにすることがその目的となったものである。 したがって、その内容は、分析方法としての「改訂・政策の窓モデル」を用いながら(第2章)、NPOの政策形成・立法過程に関わる参加者が輻輳し、それぞれが利害と思惑を異にする中で、どのような過程を踏んで立法化が進捗したか、詳細かつ丹念に事実関係を跡づけ、分析・解明している(第3章から第5章)。さらに、この分析・解明は単に事実を分析・解明しそれを説明するにとどまらず、このNPO法成立過程を評価し、かつ問題点を指摘して将来のあるべき市民立法への提言まで展開している(第6章)。 著者は非営利組織研究の第一線にあるとはいえ、少なくとも経営学の学徒として、異質の政治の世界における政策形成・立法過程の問題に直接挑戦したことはまず賞賛されるべきである。しかも、従来の分析方法(例えば、政策の窓モデル)よりさらに組織的知識創造モデルの視点を取り入れた独自の「改訂・政策の窓モデル」の方法に基づいて立法過程を視ている点が注目される。特に著者が本書において注力した方法である。さらに、方法論において斬新であるばかりでなく、多数の膨大なデータを駆使して政策形成の分析・解明を行い、理論と実証の双方に裏付けられた理論化を試みた点で高く評価される。そのうえで、具体的なNPOの政策形成過程を民法施行(1898年)から阪神・淡路大震災の発生前(1994年)までを1期として、その後のNPO法(優遇税制立法を含む)成立(2001年)までの短期間(6年間)を細かく分けて全6期にわたる詳細な年代記を記述したうえで、独自の方法論によってそれぞれの期間の特質を見事に摘出している。最後に、これは重要な点であるが、本書が立法過程において十分に評価される点と今後の何らかの立法において留意すべき点、さらには市民立法への提言をしていることである。今日すでに、政治と行政、それらと既存の団体と一般市民団体の間に繰り広げられている「公益法人改革」の問題の諸側面を考察し、問題の在処を探る場合に多くの示唆を与えてくれる。 以上から、問題把握の独創性、論述展開の克明性、理論化過程から生まれた具体的な提言などにおいて、極めて優れた著作であり、本学会の学会賞にふさわしい論考として選定することに審査委員の一致した見解を得た。 2. 学術奨励賞 該当論文なし