top of page

≪論文≫非営利組織の財政基盤の確立―ミッションへの共感醸成の重要性―

更新日:6月11日

※表示されたPDFのファイル名はサーバーの仕様上、固有の名称となっています。

 ダウンロードされる場合は、別名で保存してください。


明治大学教授  石津寿惠


キーワード:

ミッション 行政委託 社会的企業 資金調達 社会福祉


要 旨:

 非営利組織の経営状況が厳しさを増す中、財源確保は益々重要である。主な財源である事 業収益と、増加が見込まれる寄付金を巡っては、公益サービス提供形態、提供組織などにお いて多様化が進んできている。こういった状況下で非営利組織が埋没せず、非営利としての 存在意義を発揚し続けるためには、組織体自体がミッションを常に再確認しながら事業活動 を行うこと、ミッションに社会からの共感を得ることが必要である。そのためには具体的な 個々の活動とミッションをストーリー性をもって情報発信していくこと、情報の提示のみな らず社会との対話を通じて共感を得ていくことが重要である。


構 成:

I  はじめに

II 経営状況と財源の現状る意義

III 公益サービスに関する提供形態、提供組織、財源獲得方法の多様化

IV ミッションへの共感の醸成―議論からのインプリケーション

Ⅴ 小括


Abstract

 As NPOs face increasingly difficult business conditions, securing financial resources is becoming increasingly important. NPOs face ever greater complexity in their main sources of funding; namely, business income and donations, which are expected to increase. This complexity includes diversification of how and by whom public services are delivered. Under these circumstances, to remain relevant as a non-profit and avoid falling into oblivion, the NPO itself must constantly reaffirm its mission in the course of conducting its business activities while gaining empathy from the public for its mission. To this end, it is important for the NPO to use storytelling to disseminate information on its particular activities and mission, and to gain empathy through dialogue with the public rather than by simply presenting information


 

Ⅰ はじめに

 COVIT-19感染症は、経済・健康・雇用面は勿論のこと、孤独や不安といった心の問題を含めた多方面に影響を与え、「誰も取り残されない支援」を求める社会意識を招来するようになった。 さらに、厚生労働省が発表した「新しい生活様式の実践例」では人との接触を8割減らす10のポイントが示されるなど(厚生労働省[2022])、これまでの人間関係の在り方は大きく変化してきている。このような生活環境の複雑化・凋落傾向、 またさらには自然災害・紛争の頻発などによる 様々な社会ニーズに対応する非営利組織への期待は益々大きくなってきている。しかしその一方、 法人形態、成り立ち、活動分野、規模などが多様なため一概に言えないものの、非営利組織の経営状況は厳しさを増している。  

 ドラッカーは、非営利組織は一人ひとりの人 と社会を変える存在であるとし、「考えるべきはミッションは何か」であり、まず初めにすべきことはミッションを考え抜くことだとする (Drucker[1990]3-5頁、上田訳[2007]2-3頁)。 ミッションは非営利組織の存在の根源と言えるものである(島田[2009]46頁)。  

 非営利組織がミッションの達成を目指してその活動を維持・発展させていくためには、財政基盤を確保することが不可欠である。本稿は、第26回全国大会統一論題「非営利組織の財政基盤の確立へ向けて―ミッション達成と両立する取り組み―」に関し1)、まず、議論の前提とな る非営利組織の経営状況、公益サービスの提供 形態や提供組織等の多様化の現状を概観する。 その後、統一論題報告・討論からのインプリケーションとして、ミッションの達成を旨とする非営利組織がその存在意義を一層示し、社会の共感・支持を得ることによってその財政基盤を確立させる方向性に関して展望する。


Ⅱ 経営状況と財源の現状

1 経営状況の現状

 非営利組織の経営状況に関して、特定非営利活動法人(以下、NPO法人)、公益法人、社会福祉法人について見ると、ほぼ一貫して悪化してきている。その概要を法人形態別に見ると下記のようである2)

⑴ NPO法人(認証法人、認定法人)の概況3)

 まず、2020年度における特定非営利活動の事業に係る収支差額(経常収益-経常費用)を中央値で見ると前回調査(2017年度)の1/3程度に減 少し、認証法人では0.0万円、認定法人でも23.1 万円と厳しい経営状況である(内閣府[2018b]24 頁、同[2021b]24頁)。  

 また、経常収益について見ると、500万円以下の法人は、認定法人では18%であるのに対して、認証法人では54.8%と半数以上である上、0円の法人も10.3%存在する。他方、認定法人では経常収益が1億円超の法人が17.8%となり、その割合も増加(2015年度13.2%)している(内閣府[2016b]18頁、同[2021b]25頁)。  

 概して認証法人の方が認定法人より経営状況が厳しく、また認定法人は法人間での経営状況の差が広がっていると考えられる。

⑵ 公益法人の概況

 2021年における公益目的事業の収支状況(公益目的事業収入と同費用)を見ると、前年に比べて公益目的事業収入は5.0%減少する一方、同費用 は1.2%増加しており、経営が厳しい傾向にあることがわかる。特に、公益目的事業収入が無い法人は23.1%(20年は20.0%)に及ぶなど、組織体 としての継続性が危ぶまれかねない法人が増加している(内閣府[2021a]28頁、同[2022]28頁)。

⑶ 社会福祉法人の概況

 社会福祉分野の主要な担い手である社会福祉 法人について独立行政法人医療福祉機構の調査により経営状況を概観すると下記のようである。  

 サービス活動増減差額率(サービス活動収益対サービス活動増減差額比率)については、2016年度の3.9%からほぼ一貫して悪化しており2021年度には2.5%に低下している。また、赤字法人の割合は2016年度の23.2%からほぼ一貫して高くなり2021年度には31.3%に及ぶなど厳しい状況の法人が増えている。なお、途中の2020年度においてはサービス活動増減差額比率、赤字法人割合とも若干好転したが、これはCOVIT-19感染症への対応のための介護報酬の特例加算などの影響と考えられる。特例加算は時限的なものであるため2021年度には再び悪化傾向に戻っている(独立行政法人医療福祉機構[2023]1頁)。

2 財源の現状

 非営利組織は営利組織と異なり、ほとんどの場合、発生するコストを利用者から回収するのではなく、様々なステークホルダーから資源を集めてサービスを提供している。法人形態別の収入構造と、近年増加傾向がみられる寄付の状況について概観すると下記のようである。

⑴ 収入構造

① NPO法人

 特定非営利活動事業収益を財源別構造で見ると、従来から認証法人、認定法人ともに財源比率が最も高いのは事業収益である。しかし構成割合の状況は両法人で違いがみられる。  図表1は2020年度における両法人の財源別収入状況である。まず、認定法人(図表1の下) で最も割合が大きいのは事業収益で37.9%である。しかし、その割合は減少してきている(2015年度67.3%)。一方、2番目に割合が大きい寄付金(32.2%)は従来より割合を高めてきている (2015年度9.7%)。  

 認証法人(図表1の上)については、事業収 益の割合が83.1%と突出して大きく、これは従来と変わりない。一方、寄付金は2.4%と僅かである。寄付金が0円の法人割合は60.1%を占めており、その割合が増加(2015年度40.5%)していることから、寄付が得られる法人とそうでない法人とが分かれてきていると考えられる(内閣府[2016b]20、22頁、同[2021b]26、27頁)。


図表1 特定非営利活動事業における経常収益の収入源別収入の内訳


② 公益法人

 内閣府調査では法人の財源別全体構造が示されていない。ここでは収入項目別に示されている寄付金の状況についてのみ概観する。まず寄付金収入の状況としては中央値では2015年以来、1百万円から3百万円程度で推移しているが、いずれの年度でも半数程度の法人における寄付金は0円となっている(内閣府[2016a]27頁、同[2018a]27頁、同[2020a]26頁、同[2021a]26 頁、同[2022]26頁)。  

 2021年については寄付金0円の公益法人は48.1%である。これを法人種類別にみると公益 財団法人が40.5%であるのに対して、公益社団法人では58.1%となり、特に寄付金0円の公益社団法人のうち89.6%が都道府県所管公益社団法人となるなど寄付金収入が得られる法人には偏りがある。逆に、寄付金額が1億円以上になる公益法人は3.2%存在し、このうちの67.4%が内閣府所管の公益財団法人となっており、法人種類により格差があることがわかる(内閣府 [2022]26頁)。  

 なお、収益事業を行っている法人割合は2021年において46.8%であり従来とそれほど変動はない。これを法人種類別にみると都道府県所管の公益社団法人が最も高く55.3%、逆に最も低いのは内閣府所管の公益財団法人で28.4%となっており、先の寄付の状況と逆の傾向にあることがわかる(内閣府[2022]32頁)。

③ 社会福祉事業

 社会福祉領域における財源別収入状況が示されている厚生労働省の「介護事業経営概況調査」 によれば、例えば調査回答数が最も多い介護老人福祉施設における2021年度の収支差率は1.3% (収入には「新型コロナ感染症関連の補助金収入」を含む)に過ぎずギリギリの経営であることがわかる。総収入に占める割合が最も大きいのは介護料収入で77.7%、次いで保険外の利用料21.6%、補助金収入0.6%となっている(厚生労働省老健局老人保健課[2023]3頁)。介護事業については3年に一度の介護報酬改定によるコントロールがあるため経年変化は抑制的であり、またCOVIT-19感染症の影響下においては、「新型コロナ感染症関連の補助金収入」が経営を下支えしたと考えられる。

⑵ 寄付の状況

 日本における2020年の寄付の状況を概観すると、個人寄付額については1兆2,126億円(うち ふるさと納税6,725億円)で、10年前(2010年)の約2.5倍、寄付者数については4,352万人で、同1.2倍である(日本ファンドレイジング協会[2021] 10、11頁)。この間、2011年の東日本大震災時に人数・金額とも急増した後、いったん落ち込んだが、ふるさと納税導入の影響もあり持ち直し、2020年にはさらに増加した。これはCOVIT-19感染症による社会連帯意識の高揚等などによると考えられる。  

 個人寄付総額の名目GDPに占める割合を諸外国と比較すると、2020年に米国は1.55%、英国0.26%(半年分)に対して、日本は0.23%にとどまるなど寄付額はいまだ限定的であるものの (日本ファンドレイジング協会[2021]28頁)、様々な災害の頻発が連帯意識を強め、日本でも寄付意識が高揚してきたと考えられる。  

 なお、法人寄付については2019年の寄付額は 6,729億円で、10年前(2009年)の1.2倍であるが、 寄付社数は29万法人で、同34.1%もの減少となっている。この間、福島や熊本の地震や相次ぐ豪雨など自然災害の影響もあり、2016年に寄付額を大きく増やした(総額1兆1,229億円)のち減少し(日本ファンドレイジング協会[2021]10、 11頁)、2019年はCOVIT-19感染症による経営難 が寄付額・法人数とも減少させたと推察される。  

 また、寄付の受け皿(寄付先)を見ると共同募 金(37.2%)、日本赤十字社(29.5%)、町内会・自治会(28.9%)が高く、民間非営利組織である公益法人は20.0%、NPO法人は12.4%、社会福祉法人は7.8%と低くなっている(複数回答)(内閣府[2020b] 20頁)4)。  

 例えば2020年度におけるNPO法人の寄付受入れのための取組について見ると、「特に取り組んでいることはない」とするのは認定法人では6.8%であるが、認証法人では7割程度にのぼっている(内閣府[2021b]38頁)。寄付の受け皿として非営利組織の認知度を高めていくことは重要と考えられ、そのための取組を進めることが不可欠と言える。



Ⅲ 公益サービスに関する提供形態、 提供組織、財源獲得方法の多様化


 事業収益は非営利組織の財源として大きな部分を占めている5)。しかしながら、特定の財源に頼らず多様な財源を持つことについて、例えば平田([2012]66頁)は、特定の財源への経済的依存度を高めるとその特定の利害関係者の影響力が強くなり、組織のガバナンスや自律性を低下させる危険性を生むとし、田中([2011] 125頁)も、単一の収入源への依存はリスクが大きいため財源の分散が重要であり、収入構成比が低い寄付等の比率を高めて事業収入とのバランスをとる必要があるとする。さらに小田切 ([2017]7頁)も実証研究の結果として事業収入に依存するほどミッション・ドリフトが起こりやすく、逆に民間セクターからの寄付や会費・ 助成金はミッション・ドリフトと結びつきにくいとしている6)。  

 多様な財源の確保は、非営利組織の自律性を確保する上からも、また、多様な財源を持つことが様々なステークホルダーからの支持を得ている証左となることからも重要と考えられる。 以下では、財源の多様化を進める当たっての近年の環境変化として、「サービス提供形態の多様化」に関して、現在主要な財源となっている事業収益のうち行政委託等について、「サービス提供組織の多様化」に関してソーシャル・エンタープライズ(社会的企業)について、さらに、「財源獲得方法の多様化」に関して今後増加が期待される寄付金の新しい手法としてのクラウドファンディング(crowd funding,以下CF)について、という3つの点から検討する。

1 公的サービス提供形態の多様化―行政委託等

 財政悪化への対応、急速な民営化への揺り戻し(振り子・周期現象)、社会問題解決への民間知識・技術導入の必要性などを背景として、行政サービス提供形態の多様化が図られてきている(山本[2009]28-29頁)。その形態には、従来より民営化、民間委託、独立行政法人化が、そして官民のパートナーシップに基づくPPP (Public Private Partnership)として指定管理者制度、包括的民間委託、PFI(Private Finance Initiative)、さらにはPFS(成果連動型民間委託契約方式、Pay For Success)などの形態も出現するなど7)、地方公共団体におけるサービス提供形態・契約のパターンは今後一層多様化する可能性がある。  従来より民間非営利組織にとって、国・地方公共団体の事業を受託する利点としては、委託金の安定的確保による継続的発展の可能性、地域での評判を高めることによる新たな資金源への接近機会の増加、行政との知見の共有による組織運営の改善などが挙げられると同時に、その自律性喪失等が問題とされてきた(村田[2009] 22-23頁)。また、行政委託は金額規模が大きいため財政難に苦慮する非営利組織にとって重要な収入源になることからそこに活動が集中してしまい、新たなアイディアによる社会問題の解決というイノベーション力が枯渇する懸念も指摘されてきた(田中[2006]46-49頁)。さらに、官のかかわるサービスには他の地方公共団体の動向を参考に行うなど同質性が希求される側面もある(田尾他[2009]207-212頁)。そうであればこれに加わった場合、民としての活動の制約につながる可能性も生じ得る。  

 このように、財源という意味からも行政委託は非営利組織にとって重要だが、その委託方法について、従来の行政の下請け的な委託については非営利組織の自律性に影響を与えるとの危惧も示されてきた。しかしながら近年、官民(公共、民間、サード・セクター)の関係はパートナーシップという位置づけにシフトしてきており、「各セクターの有機的でかつ効果的なコミットメントが行われれば、公共サービスの特質と各セクターの特性との最適ミックスを実現するメカニズムが機能する」(小林[2012]9-10頁) と考えられる。多様な主体の協働によるシナ ジー効果が発揮されることにより、ニーズに合った、あるいはニーズを掘り起こした質のよいサービスを提供することが期待される。  

 村田([2021]53頁)は社会福祉領域に限定した言及ではあるが、PPPについても「これまで以上に公的機関と社会福祉法人の境界をあいまいにすると同時に、市場原理が導入された社会福祉法人経営は企業化を加速化させ、セクター境界を曖昧にし、またセクター内部の多様化をもたらす要素をはらんでいる」とも懸念している。パートナーシップが促進される過程にあって、事業を受託するに際して非営利組織が非営利としての自律性をいかに維持して事業を推進し、その存在意義をいかに発揚していくかは依然大きな課題のひとつと考えられる。

2 公益サービス提供組織の多様化―ソーシャ ル・エンタープライズ

 近年、多様化した社会的課題に対してセクターを超えたコラボレーションによって取組む スタイルが試みられており、様々なスタイルで取組む事業体はソーシャル・エンタープライズ (社会的企業)と総称されている(谷本[2020] 181-183頁)。図表2はソーシャル・サービスを提供するソーシャル・エンタープライズの組織形態について示している。  図表2のように、ソーシャル・エンタープライズの形態は、まず非営利組織と営利組織に分けられ、その間に中間組織が存在する。営利組織については株式会社として運営される社会志向型企業と、一般企業で社会的課題に取り組むものなどが存在する(谷本[2020]184-185頁)。 平田([2012]61-65頁)は、営利企業によるCSR 活動もこの中に位置づけて、ソーシャル・エンタープライズについて、純粋非営利と純粋営利のそれぞれの要件が様々な割合で混合したものだとしている8)。また例えば、ソーシャル・サー ビスへの支援策を見ると、経済産業省ではその成長に向けた環境整備策の1つとして、間接金融(融資)や寄付・助成などの充実といった資金調達を挙げているが、その支援対象を特定の 組織形態に絞っているわけではない(経済産業省[2011]1頁)。つまりソーシャル・サービス の提供において、外部ステークホルダーの視点からは、営利・非営利の境界は区別されない傾向も見られる。  
 こういった状況下では、例えば事業の受託・ 実施プロセスにおいて、非営利組織はマーケティング手法に長けた営利企業との競争に晒される中、非営利本来の役割とずれが生じる方向に進む可能性もありえる。さらにこれが非営利組織における収益事業の拡大につながる場合、 本来のミッションがブレたり、アイデンティティが変質したりすることが起こる懸念も生じる(谷本[2020]192頁)。非営利組織には、非営利として他の組織形態と差別化し、組織のアイデンティティを維持・発展させながらいかに活動を推進していくかが一層問われることになる。

図表2 ソーシャル・エンタープライズの組織形態


3 財源獲得方法の多様化―寄付の新たな動きクラウドファンディング

 先に見たように、個人寄付を中心として寄付額は増加傾向にあるものの、その受け皿(受入先)として公益法人等の民間非営利組織の割合は高くない。  

 ここでは、寄付獲得方法の多様化という側面から、寄付の手段の中でも額の増加・活用の活発化が期待されるCFについて概観する。CFとは、一般に、新規・成長企業等と資金提供者をインターネット経由で結び付け、多数の資金提供者(=crowd〔群衆〕)から少額ずつ資金を集める仕組みとされる(内閣府消費者委員会[2014]1頁注1)。このCFの認知度は、英米では7割であるのに対して日本では5割とまだそれほど高くない(総務省[2019]137-138頁)。しかしながら、CFを活用する認定法人は2020年度で 14.4%(2015年度8.8%)に増加してきており(内閣府[2016b]30頁、 同[2021b]38頁)、 また、 2021年度の日本国内CFの市場規模は1,642兆円にも上っている(矢野経済研究所[2022])。CFは、 近年におけるソーシャルメディアを利用する生活様式の普及と相まって、今後寄付の新しい手段として規模を拡大する可能性がある。  

 CFは、資金を募る側(プログラム起案者・実行者)と資金提供者(支援者)とをつなぐ仲介事業者のプラットフォームにより運営される場合が多い。一般に資金を募る側は個人・組織形態 (営利・非営利)といった制限はない。例えば日本における最大の仲介業者とされるCAMPFIRE(案件数66,000件、支援額610億円)9)の募集プ ログラムを見ても、資金を募る側の組織形態についての記載は見当たらない。そうであれば資金提供者は提供プログラム選択の意思決定に当たって、資金を募る側の組織形態の情報に接しえない。したがって、現状では資金提供の意思決定の際に非営利性ということがプライオリ ティとして認識されないまま、営利企業をはじめとする他の様々な組織形態・個人と競合する と考えられる。さらに、インターネット利用の手軽さから、規模が大きく案件内容が豊富な海外のファンド仲介業者(例えば米国のKickstarter、成功案件231,047件、支援資金総額64億1171万ド ル)10)は世界中から支援を集めていることから、 今後、CFを通じた資金調達は海外との競合関係に晒される可能性もある。  

 内閣府調査によれば、「寄付をした理由」として「社会の役に立ちたいと思ったから」が最も多く59.8%となっており、寄付者の社会貢献意識が強いことがわかる(内閣府[2020b]22頁)。新たな財源確保としてのCFのポテンシャルを勘案すれば、非営利組織が非営利性の意義やミッションを情報発信・共有して支援を獲得していくことは財源確保にとって有用と考えられる。



Ⅳ ミッションへの共感の醸成―議論 からのインプリケーション―

 公益サービスにおける提供形態、提供組織、及び財源獲得方法の多様化は、サービス需要者にとっては様々な組織からそれぞれの強みを生かしたサービス供給を受けることにつながり、また、寄付額の増加が期待されるため社会にとっての意義も大きいと考えられる。

 他方こういった多様化は、非営利組織にとっては他の法人形態との境界を曖昧にしたり(千葉[2022]14頁)、また、財源確保の必要性等から資金集めが容易な事業を優先させることにもつながりかねず(金子[2022]21頁)、非営利としてのミッション達成に向けた活動に負の影響が生じる可能性も懸念される。また、非営利組織自体が、自己の役割・立場を明確に維持し続けなければ、他の組織形態と競合する中で、その存在が埋没してしまう危険性もあり得る。  

 このような状況の中で、営利企業のように出資による財源調達ができない非営利組織が、財源を確保し活動を促進させていくためには、自律性を確保し、非営利としての存在意義についての社会的理解を高め、ミッションへの社会からの共感を醸成することが必要だと考えられる。ここでは、統一論題報告・討論で行われた 「ミッション達成と両立する財政基盤の確立に向けた取り組み」の議論の中から「共感を得るための情報開示」について内容面と情報共有方法の面から検討する。

1 ストーリー性を意識した報告の発信

 事業委託やCFによる活動は、資金提供者の意向による言わばひも付きの財源であるため、各事業やプログラムの「事後報告」による説明責任の遂行が必要になる。しかしこのことが、結果として当該法人全体の活動を短期的、ミクロ的視点に終始させてしまい、ミッションへの意識を薄くさせるのであれば問題である。  

 馬場([2022]32頁)は、事業目標の上位となる政策目的が浸透しなければ、目先の成果に囚われて「成果指標を達成しさえすればよい」との意識が働くことにより、結局ミッションが棄損する恐れがあることを指摘している。また、千葉([2022]9頁)は、民間社会事業の重要なミッションを「制度では未対応のニーズに対して先駆的・開拓的に援助実践を行うこと」と説明する。しかしながら社会福祉事業の実情は、社会福祉法制度と措置制度を両輪として発展する過程で、活動の中心が公的財源の付く制度的事業に集中し、その報告は年次的進行管理・目標達成に重点が置かれる傾向にある11)。  

 非営利組織の情報開示は活動・プログラムの 成果について、単年度の進行管理を束にした「事後報告」にとどめるのでは不十分である。非営利組織は、ミッション達成のために社会ニーズの変化に対応した弾力的視点で活動を行っていくことに重要な存在意義が認められる。このため、ミッションと個々の活動・プログラムとをストーリー性をもって結び付けた「成果報告」 をすることにより、自分たちの活動の振り返りを通じた継続的ミッション回帰を図るとともに、ステークホルダーに「ミッションを実現するための非営利組織」という存在意義を示すことが必要である。  

 このストーリー性の重視という視点は、企業が取り入れるようになってきた統合報告が「各要素が企業戦略の全体の中でどう位置付けられ、相互にどのように関係があるかをnarrative(ストーリー)として有機的に伝えていくことが価値創造プロセスの実効的な開示に不可欠」(貝沼他[2019]98頁)と捉えていることと軌を一にする方向であり、営利組織とは異なるミッションを持つ非営利組織としての意義を明確に示すことにつながる有用な方法と考えられる。

2 対話によるミッションへの理解の促進

 馬場([2022]25-26頁)によれば、(パートナーシップにおいて)「英国では多様なステークホルダーの合意形成を通じてミッションを反映させる機会がある」とのことであり、また、透明性を確保する合意形成の仕組みには多様なステークホルダーを巻き込んだ対話型スキームの導入が必要とされる(同32頁)。金子([2022]3頁)はCFをストーリーにより共感を得る手法と位置づけ、活動の可視化が求められるとしている。CFのプログラム成立・活動の実施には、プログラム作成・提示のプロセスの中で社会ニーズ・ 関心をいかに取り込み、共感を得るかが重要であるため、ステークホルダーとの意見交換・対話が重要と考えられる。  

 また現在、地域福祉が推進されている中で、 社会福祉法人の地域における公益的取組の内容としては「地域関係者とのネットワークづくり」が25.6%、「ニーズ把握のためのサロン活動」が 10.2%を占めるなど、ここでもステークホルダー との交流に重きが置かれていることがわかる (千葉[2022]19頁)。  

 現在確かに、資金受取者である非営利組織はHPなどを通じて活動等の紹介を行っており、 情報発信がなされている12)。しかし共感を得るためには、「自分たちの思いはコレ、こんなことをやっています。賛同する人は支援してください」というように自分たちの立場を主張する姿勢のみではなく、「こんなことやっています、 どうでしょうか」とステークホルダーの意見も聞く機会を設け、また、資金提供者の方も「こ ういうことはどうでしょう。こういう事業であれば寄付をしたい」という意思の発言ができる 対話の機会を設けることが有用ではないかと考えられる。  

 企業においてもスチュワードシップ・コードの浸透など投資家との対話が重視されてきているが13)、非営利組織においてもそれと同様の方向を進めることは有用と考えられる。資金提供者が単に「結果の開示としての情報」に基づいて意思決定するのみではなく、結果までのプロセスや、更には中・長期的な方向性について対話することにより相互の歩み寄りが叶い、ミッションへの理解・関心が深まり、ステークホルダーからの共感に結び付けることができる。多くの人々からその活動を理解・信頼されるようミッションを伝え、対話により共感を得て、非営利組織活動に対する正統性を確保していくプロセスを構築していくことは、財政基盤の確立に資するものと考えられる。



Ⅴ 小括

 非営利組織の経営状況は厳しさを増してきている。非営利組織は、営利企業と異なり出資により財源が得られるわけではなく、またサービスの提供に伴うコストについて、ほとんどの場合利用者から得ているわけでもない。多様なステークホルダーから資源を得て公益サービスの提供を行っている。  

 本稿では、公益サービスに関する提供形態、提供組織、財源獲得方法の多様化といった環境変化の中で、経営状況の厳しい非営利組織が財政基盤を確立するためには、非営利としての意義を明確に示し他の法人形態と差別化すること、そして社会からミッションへの共感を得ることが重要であるとした。そしてそのためにストーリーを意識した報告と、対話によるミッション理解の醸成が必要ではないかということを考察した。  

 ソーシャル・サービスの提供における営利と非営利の境界はソーシャル・エンタープライズという括りの中で今後一層あいまいになる可能性もある。しかし例えば、公益法人では公益認定等委員会という公益性に関する外部の目があり14)、またNPO法人は社員10名以上で議決権は一人1票であることなどから、営利組織よりも組織の意義や活動を振り返る機会があるなど、ミッションの堅持がなされやすい体制と言える。また、配当を行わないため経営状況がひっ迫する状況下でも逆に活動の継続性が期待できる面がある。また、非営利組織は社会に対して公益サービスを提供していくが、利益を求めるものではないため、利用者とサービスの売手と買手という関係を超えた協働関係を構築することが可能である。非営利組織の意義やミッションへの理解(活動理解)を深め、一層「共感を呼ぶ」組織体となれば、継続的な支援の輪が広がり、財政基盤の確立につながると考えられる。  

 ここでは、「ミッション達成と両立する財政基盤の確立に向けた取り組み」について「共感を得るための情報開示」の視点から検討したが、 財政基盤の確立には一層多角的な検討が必要である。  

 また、公益サービスを取り巻く様々な多様化が進む中で、非営利であることの優位性についてはさらに精緻に分析する必要がある。これらについては今後の課題としたい。


[注]

1)第26回全国大会統一論題「非営利組織の財政基盤の確立へ向けて―ミッション達成と両立する取り組み」においては、以下の3報告が行われた。「成果の可視化と非営利のミッショ ン―PFS・SIB・休眠預金等活用・社会的投資などの視点から」(馬場英朗氏)、「非営利組織におけるクラウドファンディングやファンドレイジング費用の会計的課題」(金子良太氏)、「非営利組織における経営基盤の強化と法人間の連携―社会福祉法人のミッションと社会福祉連携推進法人の動向等に着目して」 (千葉正展氏)。

2)NPO法人、公益法人、社会福祉法人の経営状況について、2023年3月1日における最新 版の公的調査(参考資料参照)までに基づいて概観した。調査によって行われた調査年度 (頻度)や調査項目が異なる部分があるため、すべての項目について3法人を比較した記載 とはなっていない。

3)本稿では、認定や特例認定を受けていない NPO法人を認証法人、認定・特例認定を受 けているNPO法人を認定法人と記す。

4)ふるさと納税による都道府県・市町村の受入 れは12.8%(内閣府[2020b]20頁)。

5)例えばNPO法人の事業収入は「保険・医療・ 福祉の増進」活動をする法人では自己事業収入(保険収入)割合が、それ以外の活動をする法人では受託事業収入割合が最も高くなっ ている(常勤有給職員1人当たり人件費が300万円超の法人に対する調査)(内閣府[2014]18頁)。

6)ミッション・ドリフト(mission drift)とは、「組織の資源や活動が、その組織の公式的な目的からそれること」である(小田切[2017]1頁)。 なお小田切([2017]8頁)は、過度な財源多様化については資金提供者の増加による調整などにより、最終的にミッションを曖昧にする側面があるとも推察している。

7)PPPについては国土交通省HP https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kanminrenkei/1-1.html#:~: text=PPP、PFSについては内閣府HP https://www8.cao.go.jp/pfs/index.html参照。

8)さらに横山([2012]81頁)は、企業の収益事業におけるNPOとのパートナーシップは企業主導型の協働、企業の収益事業外におけるNPOとのパートナーシップはNPO主導型のソーシャル・サービスにおける協働が主となると分類している。

9)CAMPFIREのHPによる。https://camp-fire.jp/stats https://www.kickstarter.com/(2022年 12月1日アクセス)。クラウドファンディングには購入型、寄付型、金融型などの種類があるがここでは全体の金額が示されている。

10)KickstarterのHPによる。https://www.kickstarter.com/(2022年12月1日アクセス)。

11)なお、2016年度改正改正社会福祉法において、 これまでの制度的事業中心から「社会福祉法人の本旨から導かれる本来の役割を明確化するため」、各法人が創意工夫を凝らした取組を行う方向が示されるようになった(千葉 [2022]18頁)。

12)NPO法人では認定法人の93.7%、認証法人の 57.2%がHPやブログで活動内容について情報発信をしている(内閣府[2021b]15頁)。

13)金融庁においては、2014年にスチュワードシップ・コードが策定され(スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会[2020])、2018年には「投資家と企業の対話ガイドライン」 が策定(2021年改訂)されている(金融庁[2021])。

14)齋藤([2014]30-31頁)は、新公益法人制度の発足に関して、法人が自らのミッションを 再確認・再検討する良い機会であると評価している。


[参考文献]

貝沼直之、浜田宰編著[2019]『統合報告で伝える価値創造ストーリー』、商事法務。

金子良太[2022]「非営利組織におけるクラウドファンディングやファンドレイジング費の会計的課題」(非営利法人研究学会第26回全国大会統一論題資料)。

金融庁[2021]『投資家と企業の対話ガイドライン』。

経済産業省[2011]『ソーシャルビジネス推進研究会報告書概要』。

厚生労働省『新しい生活様式の実践例』https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00116.html(2022年12月10日アクセス)

厚生労働省老健局老人保健課[2023]『令和4年度介護事業経営概況調査結果(案)』。

小田切康彦[2017]「サードセクター組織におけるミッション・ドリフトの発生要因」、 『RIETI Discussion Paper Series 17-J068』、独立行政法人経済産業研究所。

小林麻理[2012]「非営利セクターとのパートナーシップによる公共サービスの提供」、『非営利法人研究学会誌』、第14巻、1-14頁。

齋藤真哉[2014]「非営利法人制度の現状と課題」、『非営利法人研究学会誌』、第16巻、23- 34頁。

島田恒[2009]『[新版]非営利組織のマネジメント』、東洋経済新報社。

スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会[2020]『「責任ある機関投資家」の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》』。

総務省[2019]『情報通信白書 平成28年版』。

田尾雅夫他4名[2009]「多様化に関する調査とその分析」、宮川公男・山本清編著『行政サービス供給の多様化』、多賀出版。

田中弥生[2006]『NPOが自立する日―行政の下請け化に未来はない―』、日本評論社。

田中弥生[2011]『市民社会政策論』、明石書店。 谷本寛治[2020]『企業と社会―サスティナビリティ時代の経営学―』、中央経済社。

千葉正展[2022]『非営利組織における経営基盤の強化と法人間の連携』(非営利法人研究学会第26回全国大会統一論題資料)。

独立行政法人福祉医療機構[2023]『2021年度社会福祉法人の経営状況について』。

内閣府https://www8.cao.go.jp/pfs/index.html (2022年12月1日アクセス) 内閣府消費者委員会[2014]『クラウドファン ディングに係る制度整備に関する意見』。

内閣府[2014]『平成25年度特定非営利活動法人に関する実態調査報告書』

内閣府(2016a)『平成27年公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告』。

内閣府(2016b)『平成27年度特定非営利活動法人に関する実態調査報告書』。

内閣府(2018a)『平成29年公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告』。

内閣府(2018b)『平成29年度特定非営利活動法人に関する実態調査報告書』。

内閣府(2020a)『令和元年公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告』。

内閣府(2020b)『令和元年度市民の社会貢献に関する実態調査報告書』。

内閣府(2021a)『令和2年公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告』。

内閣府(2021b)『令和2年度特定非営利活動法人に関する実態調査報告書』。

内閣府(2022)『令和3年公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告』。

日本ファンドレイジング協会[2021]『寄付白書2021』、日本ファンドレイジング協会。

馬場英朗[2022]『成果の可視化と非営利のミッション』(非営利法人研究学会第26回全国大会統一論題資料)。

平田譲二[2012]「社会を発展させるソーシャル・イノベーション」平田譲二編著『ソーシャル・ビジネスの経営学―社会を救う戦略と組織―』、46-70頁、中央経済社。

村田文世[2009]『福祉多元化における障害当事者組織と「委託関係」』、ミネルヴァ書房

村田文世[2021]「公私協働に伴う社会福祉法人のアカウンタビリティ拡大と「公益的取組」 の法制化:プリンツパル・エージェント理論からマルチ・ステークホルダー理論への転換」 『日本社会事業大学研究紀要』第67巻、43- 57頁。

矢野経済研究所[2022]『国内クラウドファンディング市場の調査を実施(2022年)』https://www.yano.co.jp/market_reports/C64107100 (2022年12月1日アクセス)

山本清[2009]「行政サービス供給の多様化の背景と課題」、宮川公男・山本清編著『行政サー ビス供給の多様化』、多賀出版。

横山恵子[2012]「既存企業における戦略の発展」、平田譲二編著『ソーシャル・ビジネス の経営学―社会を救う戦略と組織―』、71- 87頁、中央経済社。

Drucker,P.F,[1990], Managing the Non-Profit Organization: Practices and Principles, Harper Colliins Publishers. 上田惇生訳[2007] 『非営利組織の経営』、ダイヤモンド社。 KickstarterのHP https://www.kickstarter.com


(論稿提出:令和5年3月2日)




Comments


bottom of page