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≪論文≫地方自治体の内部統制の現状と課題― パブリック・ガバナンスの充実強化に向けて― / 石川恵子(日本大学教授)

更新日:2023年1月16日

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日本大学教授 石川恵子


キーワード:

地方自治体 内部統制 パブリック・ガバナンス 人口減少化 持続可能性地方自治法 人手不足 議員の成り手不足


要 旨:

 本稿は、地方自治体の内部統制の現状と課題を地方自治体の内部統制に影響を及ぼす2つの事象に注目して考察している。本稿が注目する2 つの事象とは、⑴人口減少化に伴う職員の人手不足と業務量の増加、⑵小規模な市町村における議員の成り手不足と小規模団体が抱える特有の問題である。これらの事象は地方自治体の内部統制の脆弱化を招くことを懸念させるものである。 はじめに、2 つの事象が地方自治体の内部統制・ガバナンスにどのような影響を及ぼすかについて、事例を紹介して考察している。次に、地方自治体における内部統制の整備・運用の制度導入を考察している。地方自治体では2020年4 月より地方自治法に依拠した内部統制の整備・運用が開始されている。最後に、滋賀県湖南市における内部統制の整備・運用の事例を紹介して、人手不足に伴うリスクに対応した内部統制のあり方を示している。これらの考察結果に基づいて、今後の地方自治体のパブリック・ガバナンスの充実強化に向けた展望を示している。


構 成:

Ⅰ はじめに

Ⅱ 地方自治体の内部統制・ガバナンスに影響を及ぼす2 つの事象

Ⅲ 地方自治法の内部統制の整備・運用の導入と実務上の現状と課題

Ⅳ 湖南市の内部統制の整備・運用の事例

Ⅴ 考察結果


Abstract

This paper considers the current status and issues of local government internal control, focusingon two events that affect local government internal control. The two events that this paper focuseson are ⑴ labor shortages and increased workloads due to the declining population, ⑵ shortages ofparliamentarians in small municipalities, and the unique problems faced by small organizations.These events raise concerns that the internal control of local governments will be weakened.First, this paper introduces examples and consider how the two events affect the internal controland governance of local governments. Next, this paper considers the introduction of internalcontrol systems of local governments. Local governments have started to develop and operateinternal controls based on the Local Autonomy Law in April 2020. Finally, this paper introduces anexample of the maintenance and operation of internal control in Konan City, Shiga Prefecture, andshow how internal control should be in response to risks associated with labor shortages. Based onthe results of these considerations, the outlook for the enhancement and strengthening of publicgovernance of local governments in the future is shown.


Ⅰ はじめに

 本稿は、地方自治体の内部統制の現状と課題について地方自治体の内部統制に影響を及ぼしている2 つの事象に注目して考察する。 本稿が地方自治体の内部統制に影響を及ぼす事象として注目するのは、⑴人口減少化に伴い顕在化している職員の人手不足と業務量の増加である。そして、もう1 つは⑵小規模団体における議員の成り手不足と組織特有の問題である。

 こうした事象に注目する理由は、地方自治体の内部統制の脆弱化を招くことを懸念させること、ひいてはガバナンスの充実強化への妨げとなることにある。近時、こうした事象を背景に、職員の異動時に伴う業務の引継ぎを確実に行うことが厳しい状況を招いており、過重労働に至った事例や、繁忙期に未払いが発生するなど内部統制が有効に機能しなかった事例が散見された。こうした事例に共通するのは、人手が足りていた頃であれば、内部統制上の課題が露呈しなかったことである。

 上述した問題意識に基づいて、はじめに、2つの事象⑴職員の人手不足と業務量の増加、そして⑵小規模団体における議員の成り手不足と組織特有の問題を背景に、地方自治体の内部統制およびガバナンスにどのような影響を及ぼしているか、事例を示して考察する。 次に地方自治体の内部統制の整備・運用の制度導入に照らし合わせて、実務上の現状と課題を考察する。2017年に地方自治法が改正され、47都道府県と20政令市の首長に対して、内部統制の整備・運用の義務を課した。そして、2020年4 月より内部統制の整備・運用の制度が施行された。なお、20政令市以外のすべての市町村は、努力義務団体として位置付けられている。

 最後に、滋賀県湖南市の内部統制の整備・運用の事例を紹介して、人手不足に伴うリスクに対応した内部統制のあり方を示したい。滋賀県湖南市は一般市であり、内部統制の整備・運用については努力義務とされている。湖南市の内部統制の構築における特筆すべき点は、原課の職員が作成した業務手順書を内部統制のインフラとしてリスクを可視化していることである。業務手順書をインフラとした内部統制の構築は、人手不足に伴い顕在化しているリスクに対応するものであり、内部統制の脆弱化に歯止めをかけることが期待される。 これらの考察結果に基づいて、今後の地方自治体のパブリック・ガバナンスの充実強化に向けた展望を示したい。


Ⅱ  地方自治体の内部統制・ガバナンスに影響を及ぼす2 つの事象

1  職員の人手不足と業務量の増加-引継ぎのリスクの顕在化

 地方自治体の職員の人手不足と業務量の増加は、内部統制の脆弱化を招く事象の1 つである。業務量の増加については、2020年度以降、新型コロナウイルスへの対応と重なり、1 人当たりの業務量が確実に増えている傾向もあることから、とりわけ内部統制への影響について注視していく必要があろう。

 こうした事象を背景に、内部統制の脆弱化を示すものとして、職員が業務を確実に引き継ぐことができなかったことから生じる引継ぎのリスクが顕在化している1 )。また、業務の繁忙期に給与未払いリスクも発生している2 )

 もとより、地方自治体の組織では、毎年4 月に人事異動がある。人事異動に当たっては、前任者から後任者に対して確実にかつ迅速に業務の引継ぎが行われる必要がある。とりわけ、地方自治体の業務の特性は、国の所轄官庁が策定している法令およびガイドラインを遵守して行われていることから、業務の引継ぎは正確かつ着実に行われる必要もある。

 ところが、近時、職員の業務の引継ぎのリスクが顕在化している。これに関連して、大分県庁の職員が過重労働の末、亡くなられていた事例、北海道標津町の職員が過重労働の末、亡くなられていた事例がある。以下、それぞれの事例の概要について要約する。それぞれの事例に共通しているのは、異動時の業務の引継ぎのあり方に問題があったことである。

① 大分県庁の事例3 )

 大分県庁の事例では、2018年6 月に福祉保健企画課の職員が亡くなられていたことが明らかにされた。2018年4 月に当該職員は福祉保健企画課に配属され、予算・決算の資料の作成業務に携わっていた。

 当時、前任者である職員は県外に異動しており、当該職員は十分な引継ぎがなされていないことが明らかにされた。さらに、当該職員が決算業務に携わったことが、これまでなかったことも明らかにされた。

② 北海道標津町の事例4 )

 北海道標津町の事例では、2019年7 月に商工観光課の職員が亡くなられていた。2019年4 月に当該職員は商工観光課に配属された。当該職員の業務は、北方領土の啓発目的のために全国から集まってくる修学旅行生の受け入れ業務であった。北海道標津町の周辺地域は北方領土の1 つ、国後島から20㎞の距離に位置している。

 そして、当時、当該職員は、元上司から十分な引継ぎを受けることなく、業務を行っていたこと、その業務量は1 人では完了できないものであったことが明らかにされた。当時の引継ぎ資料には、「後日、個別に引き継ぐことにしたい」という記述が多く示されていた。 これらの事例に共通している問題の所在は、異動時の業務の引継ぎのあり方として、後任者が前任者から業務を確実に引き継いでいなかったことである。すでに述べたとおり、業務の引継ぎに当たっては、確実かつ迅速に行われることが求められる。

 こうした事例が増えつつあるのは、人手不足と業務量の増加にあるが、これまでの引継ぎのあり方としては、職員が口伝により前例踏襲で行われていたことがある。これは標津町の引継ぎ資料に「後日、個別に引き継ぐことにしたい」という文言からも明白である。

 これまで人手が足りていた頃であれば、こうした引継ぎ方法は確実で効率的な側面もあり、職場環境にも余裕があったことから、周囲のサポートも得られることができたであろう。もとより、口伝による引継ぎが行われる理由は、多くの地方自治体では、業務が可視化されていないことがある。従前、地方自治体の職員には専門性が求められるといわれる所以でもある。

 もっとも、地方自治体の組織の持続可能性、そして職員の働き方を見据えるのであれば、従前のような口伝による引継ぎ方法は、おのずと限界が来るのは明白である。業務を確実に引き継ぎ、将来の職員の働き方を配慮するのであれば、業務を可視化し、かつこれを標準的な仕様で共通化していくことが求められる。とはいえ、現状では、各課で属人的にマニュアル等が整備されている状況がある。


2  小規模団体における議員の成り手不足と組織特有の問題-ガバナンスに与える影響

⑴ 議員の成り手不足

 人手不足がガバナンスに与える影響のもう1つの側面は、過疎化が進む小規模団体で議員の成り手不足の問題にみられる。小規模な市町村では、議員の高齢化が進んでおり、成り手不足が深刻化している。

 現行の地方自治体の制度では、議員は地方自治体のガバナンスを担う主体としての役割がある。このガバナンスを担う主体が不足することは、現行の地方自治体の制度に与える影響、ひいては地域住民のサービスに与える影響は大きいといえる。

 以下では、議員の高齢化と成り手不足を示す事例について高知県大川村と群馬県昭和村の事例の概要を要約する。

① 町村総会の検討の事例-高知県大川村5 )

 高知県大川村の人口は約400人程度で、離島を除き、日本では最も人口が少ない村である。大川村では2017年に、議会に代わり住民で構成する「町村総会」を設置することについての検討を開始した。「町村総会」とは、住民が直接議案を審議する総会である6 )。町村総会の検討を開始するに至った背景には、議員の高齢化と成り手不足があった。

 2017年当時、大川村の議員定数は6 名で、現職の6 名の議員のうち3 名が77〜79歳という高齢者であった。当時懸念されたことは、次の選挙までに立候補者が定数に満たなかった場合には、再選挙が求められることである。公職選挙法は、議員の欠員が定数の6 分の1 を超えた場合には、再選挙を行うことを定めている7 )。仮に大川村で、議員定数6 名に対して立候補者が4 名であった場合には、再選挙となる。

 検討の結果、大川村では町村総会の設置は回避されたが、新たな世代の議員の成り手を確保することが課題であることが明らかにされた。

② 議員の定員割れによる再選挙の実施-群馬県昭和村の事例8 )

 群馬県昭和村は、人口が7,000名程度の村である。昭和村の事例は、議員の成り手不足により、再選挙が実際に行われた事例である。

 2018年当時、昭和村の議員定数は12名であり、立候補したのは9 名(現職7 名・新人2 名)であった。昭和村の場合、立候補者が10名あれば、再選挙が避けられた。

 上述したように、小規模な市町村では議員の成り手不足が深刻化している。議員はガバナンスの主体でもあることから、成り手不足を解消していく必要がある。また、小規模な市町村では監査委員の識見委員の成り手不足も深刻である9 )

⑵ 小規模団体における組織特有の問題

 小規模団体には、ガバナンスに影響を及ぼすもう1 つの側面として、小規模団体における組織特有の問題がある。

 小規模団体の組織の特性は、職員数が極めて少人数であり、職場環境と住環境が近いことである。とりわけ、過疎化が進んでいる市町村であれば、この傾向が強まるであろう。

 そして、小規模団体における組織特有の問題とは、小規模団体にはこのような特性があるがゆえに、業務が1 人に偏りやすく、チェック機能が有効に機能しない状況を招きやすい10)。すなわち、分担によるチェック機能が形骸化しやすく、内部けん制機能が有効に機能しない状況を招きやすい。

 これを示す事例として、東京都青ヶ島村の事例がある。以下では、青ヶ島村の事例の概要を要約する。

③ 内部けん制機能が機能しなかった事例-東京都青ヶ島村の事例11)

 東京都青ヶ島村は、離島の1 つであり、人口が200人弱で、最も人口が少ない村である。 2018年5 月、元総務課長が3 年間にわたり、44件の不適正な事務処理の契約を行っていたことが明らかにされた。当該不適正な事務処理のもとでは、見積書・契約書を作成していない、あるいは、理由を明確にせずに随意契約が行われていた。 その総額は2 億2 千万円であった。その内訳には、東京都の交付金が9,500万円、国の交付金・補助金4,500万円が含まれていた。

 当時、青ヶ島村には副村長が存在しておらず、元総務課長が行った業務に対する決裁業務は元総務課長が1 人で行っていた。すなわち、分担によるチェック機能が行われておらず、事実上、内部けん制機能が有効に機能していない状況があった。

 青ヶ島村の事例のように、小規模市町村では、職員数が極めて少ない。このため、内部けん制機能を強化し、いかにガバナンスを機能させていくかという課題もある。


Ⅲ  地方自治法の内部統制の整備・運用の導入と実務上の現状と課題

 冒頭で述べたとおり、2017年に地方自治法が改正され、47都道府県と20政令市には内部統制の整備・運用の義務が課せられた。

 地方自治体における内部統制およびガバナンスに係る諸規定を設けているのは地方自治法である。もっとも、地方自治法は、「内部統制」あるいは「ガバナンス」という用語を使用した規定を設けていない。その代わりに、地方自治法は地方自治体の手続に係る諸規定を設けており、地方自治法およびこれに関連するガイドラインを遵守することで、地方自治体の内部統制の強化あるいはガバナンスの向上に繋げている。

 内部統制の整備・運用について義務を課している条文は、地方自治法第150条である。総務省は、2019年3 月に地方自治法第150条の解釈指針である「地方公共団体における内部統制制度の導入・実施ガイドライン(以下、「ガイドライン」という。)」を公表した12)。ガイドラインは地方自治体の内部統制の制度導入および実施に当たって参考となる基本的な枠組みや要点を示している。

 以下では、地方自治体における⑴内部統制の制度導入の背景、地方自治法および関連するガイドラインが示す⑵内部統制の整備・運用の仕組み、そして⑶内部統制の対象となるリスクについて整理する。これらを整理したうえで、地方自治法が求める内部統制の制度に照らし合わせて、内部統制に係る実務上の現状と課題を考察する。


1  内部統制の制度導入の背景

 地方自治体の内部統制の整備・運用の導入が議論された契機は、2010年ごろに地方自治体で行われていた不適正な経理処理の影響がある13)。不適正な経理処理とは、地方自治法を誤った解釈をして、経理処理されていた契約事務等の手続である。

 ここでいう地方自治法の誤った解釈とは、会計年度内に予算を使い切らなければ、来年度予算が減額されるという意識が働いたことである。このため、たとえば、年度末に予算をいったん業者に預けて、翌年度に、これを使えるような経理処理が行われていた。これが「預け」と呼称される経理処理である。

 周知のとおり、地方自治体の会計は単年度会計主義で行われている。すなわち、予算については、翌年度末までに妥当な事務手続によって、当該予算を消化することが義務付けられている。これが地方自治法の誤った解釈の動機付けとなった。

 当該問題については、会計検査院が2008〜2010年度にかけて都道府県と政令市を対象に調査を実施した14)。調査結果では、ほとんどの地方自治体において、不適正な経理処理が行われていたことが明らかにされた。

 不適正な経理処理が顕在化した後、総務省の地方公共団体における内部統制の整備・運用に関する検討会において、地方自治体の内部統制が議論された15)。その後、第31次地方制度調査会の議論を経て「人口減少社会に的確に対応する地方行政体制及びガバナンスのあり方に関する答申」が公表された。こうした議論を経て2017年に地方自治法が改正され、地方自治体の首長に対して内部統制の整備・運用の義務が課せられた。

2  内部統制の整備・運用の仕組み

 地方自治体の内部統制の整備・運用の仕組みは、年間を通じて、以下の流れで進められる。

 ①  担任する事務について必要な内部統制の体制を整備する16)

 ②  内部統制の体制に係る基本方針を作成し、公表する17)

 ③  内部統制推進部局を設け、内部統制の推進を行う。

 ④  内部統制評価部局を設け、内部統制評価報告書を作成する18)

 ⑤  監査委員が内部統制評価報告書を審査する19)

 ⑥  内部統制評価報告書と審査報告書を議会に提出し、公表する20)

 (図表1 )は、年間を通じた地方自治体の内部統制の整備・運用の流れを示している。

 地方自治体の内部統制の整備・運用の仕組みのモデルとされたのは、会社法が大会社に対して義務付けている内部統制の考え方と金融商品取引法が上場会社に対して義務付けている内部統制の整備・運用の仕組みである。





 民間企業の内部統制の整備・運用の責任者は経営者にある。地方自治法は、地方自治体の内部統制の整備・運用の責任者が、首長にあることを明文化している。

 また、上場企業に義務付けられた内部統制の仕組みは、経営者が内部統制の有効性を評価し、内部統制報告書を作成すること、そして内部統制報告書を外部の監査人が監査することからなる。地方自治体の内部統制の構築においても、首長が内部統制の有効性を評価し、内部統制評価報告書を作成し、監査委員が当該内部統制評価報告書を審査するという仕組みを義務付けた。

 また、民間企業では上場企業という比較的大規模な組織で内部統制の整備・運用の仕組みの構築が義務付けられている。地方自治法は、47都道府県・20政令市という比較的大規模な組織に対して義務付けている。もとより、こうした内部統制の整備・運用の仕組みを構築するためには、相当な予算が必要であり、これに係る人材育成も必要となる。それゆえ、比較的小規模の市町村に地方自治法が意図する仕組みを強制することは現実的ではないという状況もある。


3  内部統制の対象となるリスク

 地方自治法が内部統制の整備・運用の対象としているリスクとは、担任する事務から生じるリスクである。 これには⑴財務に関する事務その他総務省令で定める事務手続21)(以下、「財務事務手続」という。)から生じるリスク、そして⑵財務に関する事務以外の事務で管理および執行が法令に適合し、かつ、適正に行われていることを特に確保する必要がある事務手続22)(以下、「その他の事務手続」という。)から生じるリスクがある。

⑴ 財務事務手続から生じるリスク

 財務事務手続から生じるリスクは、内部統制の整備・運用を義務付けられたすべての地方自治体に対応が求められるリスクである。 もとより、財務事務手続とは、現金取引に係わる事務手続である。具体的には、地方自治法第9 章で定められている財務事務全般の事務である。地方自治法第9 章は、予算・収入・支出・決算・契約・現金および有価証券の出納と保管・時効・財産に係わる事務に係る諸規定を設けている。

 財務事務手続から生じるリスクの具体例は、既に述べた不適正な経理処理から派生するリスクが該当する。また、事務手続から生じる未払い、未収、過払い等のリスクも該当する。これらの財務事務手続から生じるリスクに対しては、地方自治法が既に会計管理者、および監査委員による統制を設けている。

⑵  その他の事務手続から生じるリスク

 その他の事務手続から生じるリスクとは、現金取引を伴わない事務手続から生じるリスクである。具体的には、原課の職員が携わる所管業務の事務手続から生じるリスクが該当している。たとえば、これには、地域住民の情報漏洩のリスクがある。また、すでに述べた引継ぎのリスクもこれに該当する。

 地方自治法は当該リスクについては、首長が必要と認識した場合を除いて任意での対応を求めている。

 もっとも、その他の事務手続から生じるリスクは、任意での対応とはいえ、多くの地方自治体が、その対応を検討し、対応している状況もある。とりわけ、情報漏洩に係るリスクに対しては、義務を課せられた地方自治体では取り組んでいる状況がある。

 すでに述べたとおり、地方自治体の内部統制の整備・運用の仕組みは金融商品取引法の上場企業の内部統制の整備・運用の仕組みをモデルとしている。ただし、その対象となるリスクの考え方は、民間企業とは異なっている。上場企業は、財務諸表に重大な影響を及ぼすリスクへの対応に限定されている。

 これに対して、地方自治体の内部統制の整備・運用の仕組みで対象となるのは、任意ではあるが、財務事務手続以外から派生するリスクも範疇としている。この点は民間企業の内部統制の整備・運用の仕組みとは相違する点である。


4  内部統制の制度に対する実務上の現状と課題

 ここで、地方自治法が求める内部統制の制度に照らし合わせて、実務上、いかなる現状と課題があるかを⑴人手不足と業務量の増加、そして⑵小規模団体における議員の成り手不足・小規模団体の特有の問題に関連付けてまとめたい。

 第1 に、職員の人手不足と業務量の増加による引継ぎのリスクへの対応である。 地方自治法の制度上、対象となるリスクは、原則として、現金の取引に係る財務事務手続から生じるリスクである。一方で、その他の事務手続から生じるリスクについては任意とされた。引継ぎのリスクは、むしろ後者のリスクに該当している。

 現状では、財務事務手続から生じるリスクについては、すでに、会計管理者および監査委員による統制がある。また、財務事務手続については、業務の流れが可視化され、それに伴うリスクも可視化されやすい状況がある。

 一方で、その他の事務手続から生じるリスクについては、各課の統制に任されている。そして、所管業務に係る業務については、可視化されていない状況がある。これは、大分県庁の事例・北海道標津町の事例をとりあげ、示したとおりである。引継ぎのリスクに対応していくためには、業務手順書等を使用して、可視化することが必要になる。

 第2 に、小規模団体における議員の成り手不足と小規模団体の特有の問題への対応についてである。 地方自治法の内部統制の整備・運用の義務は、都道府県と政令市に課し、それ以外の市町村には、努力義務とした。これは、地方自治法が求める内部統制の整備・運用の仕組みの構築には、予算と人材が必要になるため、こうした対応が小規模市町村では厳しい状況があることによる。

 もっとも、小規模市町村であっても、内部統制あるいは内部けん制機能を強化することは、必須といえる。その理由は、たとえ、小規模な市町村であっても、原課の職員が扱う金額は大きいこと、そして利害関係者は地域住民あるいは国民という広範囲に及ぶことによる。重要性が高い金額を職員が扱っていることについては、東京都青ヶ島村の事例で示したとおりである。

 とはいえ、その一方で内部けん制機能の強化については、小規模な市町村では、議員の成り手不足もあり、ガバナンス主体が不足している。これについては高知県大川村・群馬県昭和村の事例で示したとおりである。

 上述したとおり、地方自治法が求める内部統制の制度に対して、実務上の現状と課題は2 つの側面から整理することができる。

 それは、⑴地方自治法の内部統制の整備・運用は、その対応が任意とされているリスクがあり、これには、所管業務に係る引継ぎのリスクも含まれることである。そして、当該リスクは、事務手続の流れが可視化されていない状況がある。

 また、⑵地方自治法は、小規模団体に対して、内部統制の整備・運用の仕組みの構築を求めていないとはいえ、内部統制の機能強化・ガバナンスの向上は不可欠であることである。というのも、たとえ小規模市町村であっても地域住民あるいは国民に対する影響が大きいからである。


Ⅳ  湖南市の内部統制の整備・運用の事例

 本稿は、上述した内部統制の課題の1 つである引継ぎのリスクに対応した事例として、滋賀県湖南市の内部統制の整備・運用の事例に注目する23)。湖南市は、人口が5 万人程度の比較的小規模な一般市であり、地方自治法が求める内部統制の仕組みの構築は、努力義務団体として位置付けられている。

 2019年に湖南市では、地方自治法とガイドラインに依拠して内部統制の仕組みを構築し、内部統制の整備・運用を開始した。湖南市の内部統制が対象としているリスクは、地方自治法が任意としている所管課の事務手続から派生するリスクを含めている。そして、むしろ、当該リスクを主たるリスクとして洗い出し、これをチェックしている。

 当該事例で特筆すべき点は、⑴内部統制の整備において、所管課の業務に係る業務手順書をインフラとして、これに基づいてリスクの洗い出しを行っていること、そして⑵内部統制の運用に当たっては、定期的に当該業務手順書とリスクの見直しを行っていることである。

 湖南市の内部統制に注目する理由は、内部統制の機能強化に向けて2 つのリスクの抑制効果が期待されることである。それは、引継ぎのリスクを抑制すること、そして法令の解釈を誤らせないことである。実際、2019年度の内部統制の評価報告書には、この2 つのリスクの抑制効果が報告された24)

⑴ 湖南市における内部統制の整備

 湖南市の内部統制の整備・運用を所管しているのは総合政策部の業務監察室である。業務監察室は、内部統制の整備・運用と各所管課が作成し、見直しをする業務手順書およびリスク評価シートのとりまとめをしている。

 上述したように、湖南市の内部統制の整備で特筆すべきは、所管課が作成した業務手順書を使用して、リスクの洗い出しを行っていることである。(図表2 )は湖南市の業務手順書を示している25)

 もとより、湖南市の業務手順書は2019年の内部統制の整備・運用の開始に向けて作成されたものではない。2002年11月にISO9001の認証取得したことに始まる。ISO9001の認証では、業務の現状と課題を把握するために、業務の可視化が必要になる。そこで作成されたのが業務手順書であった。

 その後、2008年11月に、ISO9001の認証更新をやめたが、業務手順書は「業務手順の改善」ツールとして位置付けられ、継続して作成され、ホームページ上に公表され続けた。ホームページ上に公表され続けた理由は、地域住民に対する説明責任にあった。

⑵ 湖南市における内部統制の運用

 湖南市の内部統制の運用において特筆すべきは、原課の職員が定期的に業務手順書の見直しと、リスクの見直しを行っていることである。すなわち、湖南市では、所管業務に携わる原課の職員が年に2 回( 4 月と10月)、業務手順書の見直しと併せてリスクの洗い出しと見直しを行っている。

 業務手順書とリスクの見直しに原課の職員が携わることの効果は、内部統制の運用が、他人事ではなく、自分事であるという自発性を誘発することにある。



(『湖南市内部統制ハンドブック』より抜粋26)


Ⅴ 考察結果

 本稿は、⑴職員の人手不足と業務量の増加、そして⑵議員の成り手不足と組織特有の問題が内部統制およびガバナンスにいかなる影響を及ぼしているかを事例により明らかにしたうえで、地方自治法が示す内部統制の整備・運用に照らして、実務上の内部統制の現状と課題について考察した。

 最後に、本稿の考察結果を踏まえたうえで、パブリック・ガバナンスの充実強化に向けた今後の展望をまとめたい。

 職員の人手不足と業務量の増加は、職員の異動時の引継ぎのリスクを招いている。もとより、業務の引継ぎは確実かつ十分に行うことが求められる。また、地方自治体の職員の業務の特性上、法令を遵守することが求められることから、法令の解釈を誤らないための人材育成も必要である。

 その1 つの展望として、湖南市の事例を示した。湖南市では、内部統制の整備・運用に当たり、組織内の業務を全庁的に可視化し、定期的かつ継続的な業務の見直しを行っている。これは、引継ぎのリスクを抑制し、法令を誤って解釈することを低減するための有効な内部統制のあり方である。

 一方で、小規模な市町村における議員の成り手不足と組織特有の問題が、ガバナンスの充実強化の妨げとなることを示した。もとより、たとえ小規模な市町村であっても、扱っている金額が大きいことから地域住民または国民への影響度に鑑みる必要がある。

 ただし、小規模な市町村には、地方自治法に依拠した内部統制の構築が人材面・予算面で厳しい状況がある。すなわち、小規模団体では、規模の大きい団体と同様の方法、すなわち法律に依拠した方法でガバナンスを強化することは現実的ではない状況がある。これに関連して、高知県大川村では、若手議員の育成が必要であることを打ち出している。小規模団体のガバナンスの強化には、人材育成といった各団体の自助力が不可欠である。そのうえで、必要に応じて法的な拘束力が求められよう。

(付記)本稿は、非営利法人研究学会第24回全国大会の統一論題報告に加筆修正したものである。


[注]

1)総務省のガイドラインでも当該リスクをあげている。総務省・地方公共団体における内部統制・監査に関する研究会『地方公共団体における内部統制制度の導入・実施ガイドライン』2019年3 月。

2)これに関連して、神奈川県藤沢市の保育課において、繁忙時期と重なり、未払い金が発生していたことが明らかにされた。朝日新聞[朝刊]2018年11月24日。

3)大分県職員の事例については以下の新聞記事を参照されたい。朝日新聞[朝刊]2019年6月5 日。

4)北海道標津町の事例については以下の新聞記事を参照されたい。朝日新聞[朝刊]2020年1 月10日

5)高知県大川村の事例については、以下の新聞記事を参照されたい。朝日新聞[朝刊]2020年5 月5 日。

6)地方自治法第94条は、町村は条例により選挙権を有する者の総会を設けることを認める条文を設けている。

7)公職選挙法第34条・第110条。

8)群馬県昭和村の事例については以下の新聞記事を参照されたい。読売新聞[朝刊]2018年11月21日。

9)小規模な市町村の識見の監査委員の成り手不足については、以下の拙稿を参照されたい。石川恵子「小規模な市町村に対応した内部統制と監査のあり方-静岡県「監査事務の共同化」の検討事例からの考察」『地方財務』No.769、2018年7 月、85-98頁。

10)監査論においては、こうした状況を「不正のトライアングル」と呼称している。不正のトライアングルについては、以下の拙著を参照されたい。石川恵子『地方自治体の内部統制-少子高齢化と新たなリスクへの対応』中央経済社、2017年11月、103-106頁。

11)東京都青ヶ島村の事例については以下の新聞記事を参照されたい。朝日新聞[夕刊]2018年5 月30日。

12)総務省・地方公共団体における内部統制・監査に関する研究会『地方公共団体における内部統制制度の導入・実施ガイドライン』前掲。

13)不適正な経理処理については、以下の拙著を参照されたい。石川恵子『地方自治体の内部統制-少子高齢化と新たなリスクへの対応』中央経済社、2017年11月、109-116頁。吉見宏編著石川恵子「第10章地方自治体の不適正な経理処理」『会計不正事例と監査』、2018年8 月、185-198頁。

14)会計検査院『都道府県及び政令指定都市における国庫補助金に係わる事務費等の不適正な経理処理等の事態、発生の背景及び再発防止策についての報告書」、2010年12月。

15)総務省地方公共団体における内部統制の整備・運用に関する検討会『地方公共団体における内部統制制度の導入に関する報告書』、2014年3 月。

16)地方自治法第150条第1 項。

17)地方自治法第150条第3 項。

18)地方自治法第150条第4 項。

19)地方自治法第150条第5 項。

20)地方自治法第150条第6 項。

21)地方自治法第150条第1 項第1 号。

22)地方自治法第150条第1 項第2 号。

23)湖南市の事例については、以下の拙稿を参照されたい。石川恵子「持続可能な組織づくりの視点から内部統制の構築を考える-滋賀県湖南市の内部統制の事例」『地方財務』No.795、2020年9 月、51-65頁。

24)湖南市総合政策部業務観察室『令和元年度(2019年度)湖南市内部統制評価報告書』、2020年5 月。

25)湖南市の業務手順書については、湖南市のホームページを参照されたい。https://www.city.shiga-konan.lg.jp/soshiki/sogo_seisaku/jinji/tougou/20097.htm(l 最終閲覧日:2020年12月12日)

26)湖南市総合政策部業務監察室『湖南市内部統制ハンドブック』、2019年10月。


(論稿提出:令和2 年12月18日)

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