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≪研究ノート≫学校法人会計基準における2つの収支計算書の役割を巡る検討 / 林 兵磨 (常葉大学教授)

更新日:6月11日

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常葉大学教授  林 兵磨


キーワード:

私立大学、学校法人、学校法人会計基準、資金収支計算書、

消費収支計算書、事業活動収支計算書、基本金


要 旨:

 本稿では、日本の学校法人会計基準、とりわけ当該会計基準に規定されている2つの収支計算書(資金収支計算書及び消費収支計算書)について検討を行っている。  

 本稿の目的は、まず学校法人会計において、なぜ2つもの収支計算書(資金収支計算書及び消費収支計算書〔現行の事業活動収支計算書〕)を必要とするかを、そして2つの収支計算書類のそれぞれの役割は何であるかを明らかにしていくことであり、その上で学校法人会計の中に「基本金制度」を導入した論理と、現在の学校法人に与えている影響について考察することにある。以下は、その概要である。  

 収支計算書のうち、まず資金収支計算書については、私立学校法人の学納金納入時期の 期間的ズレに対応するために、学校法人会計に半発生主義会計も取り入れたことを明らか にした。他方、消費収支計算書については、私立大学における基本財産(固定資産)の規模 拡大により、発生主義会計を適用せざるを得なくなり、それに対応するために設けられた 計算書類である。

 また、非営利組織の1つである学校法人に係る会計であるにも関わらず、営利企業会計と同じ発生主義会計を採用することによって、学校法人の「永続性」担保の手段である「基本金制度」導入を可能たらしめた。それは、「基本金制度」導入のためには、発生主義会計に多く見られる「見積もり・仮定・判断」といった行為が必要となってくるからである。 そのために、学校法人会計基準は、発生主義会計の新たな別の収支計算書として、消費収支計算書まで設けた。

 ところで、この「基本金制度」は、多くの私立大学の財務状況の改善に寄与したこともまた事実である。しかし、私立学校法人を取り巻く環境は、学校法人会計基準作成当時と現在では、大きく異なっている。それゆえ、学校法人会計基準の「基本金制度」は、現代の大学教育の現場においてはむしろマイナスの効果が与えている。

 いずれにせよ、学校法人会計に今一番求められていることは、政策的意図を組み込むことによって複雑な体系を持った計算書類ではなく、できる限りありのままの状態を記した 計算書類を作成するようにすることである。1人でも多くの利用者が、理解可能性に優れ た計算書類により、適切な判断ができるよう導くことが肝要であるように思われる。


構 成:

I  学校法人会計基準の概要

II 資金収支計算書とその役割

III 消費収支計算書の役割と基本金制度

IV 学校法人会計基準の改正を巡る問題点


Abstract

 In Japan, Accounting Standard of School Corporations has based on cash flow statement.  However, the statement presents only transactions are involved in cash.

 School corporations that own universities usually have large fixed assets.

 Therefore, we need another financial on the basis of accrual basis accounting system besides cash flow statement.

 For this reason, the accounting standard required school corporations to make new financial statement like a income statements in business accounting. According to the new financial statement, school corporations also have to make balance sheet. It presents “Kihonkin” in net assets. Although it has contributed to improve in financial conditions of schools.Several problems have been pointed out by some researchers.

 This system was being criticized by many scholarsin that the rules canʼt warrant credibility of accounting information.

 I think that “Kihonkin” should be reconsidered because it has too strong effective to protect financial conditions. There are too many universities in Japan in spite of declining birth rating.  “Kihonkin” causes some serious problems


※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。

 

Ⅰ 学校法人会計基準の概要

 周知のように、日本における最初の学校法人会計基準は、1971年(昭和46年)に公表された。 当該会計基準は、国等から私学助成金等の補助金を受けようとする学校法人が、統一的な会計処理を行うための遵守すべき会計基準として設定されたものである。とりわけ、補助金に対する説明責任を果たすために資金収支計算書が必要とされた1)

 ところで、この学校法人会計基準は、いわゆる「演繹法」によって作成されたといわれている2)。この理由として、当該会計基準作成に携わった村山徳五郎氏は、次のように述べている。すなわち、「会計の原則が新たな展開を指向するとき、『演繹型』の発想が不可欠の用具であった3)」と。このことから学校法人会計基準は、学校法人以外の他の非営利法人に係る会計基準には見られない特徴を有していることを示唆している。その特徴とは、「基本金制度」をあげることができよう。  

 他方、学校法人会計基準は、上記のように特徴的な側面を有する一方、非営利組織会計で伝統的に用いられていた資金収支計算書も、依然として計算書類の1つとして位置づけている。これは「非営利組織の利益追求は社会的にタブー視され、経営業績を示す計算書(企業会計の損益計算書に相当するもの)は重視されず(あるいは不要)4)」という考え方も、依然として根強いことが理由として考えられる。

 ところで、私立大学を有する学校法人(以下、「私立大学法人」という)は、会計基準設定段階から現在まで一貫して、自身を「消費経済体」であると位置づけてきた。この「消費経済体」 なる表現は、現在、私立大学法人のホームペー ジ上でもしばしば見受けられるところである。ここでいう「消費経済体」という概念は、利潤追求を目的とする営利企業を「生産経済体」と位置づけて、それと対立する概念であるとの説明がなされることが多い。ただし、このように私立大学法人のことを「消費経済体」と位置づ けるとしても、「その事業活動の遂行に不可欠の手段となるべき資産を消費しきって、法人自体の消滅を招いていいはずのものでもない5)」 との考えも謳われている。

 ところで、上記「基本金制度」については、 研究者や実務家等から、その概念や会計処理方法について、学術論文等によりこれまで多くの批判を受けてきた6)。例えば、「『学校法人会計基準』にある―(中略)―基本金の内容は、学校法人の財務的な基盤確保・内部留保には寄与する反面、―(中略)― 父母・学生への学費の高負担を押しつける仕組みになっている7)」 等といった批判である。

 そこで、本稿の目的は、学校法人会計基準が、「基本金制度」を設けた背景や根拠について検討していきたい。とりわけ、本稿では「基本金制度」に関連して、当該会計基準が、なぜ2つの収支計算書(「資金収支計算書」及び「事業活動収支計算書(旧:消費収支計算書)」を必要とするのか、そして2つの収支計算書の役割はそれぞれ何であるかを明らかにしつつ、「基本金制度」 について考察していきたい。 そして、この考察を通じ、学校法人会計における「基本金制度」が、制定当初(1970年代前 半)と比較して大きく変化している、現代の私立大学を取り巻く現状にどのような影響を与えているのかについて述べていきたい。


Ⅱ 資金収支計算書とその役割 

 学校法人会計基準に定める基本計算書類は、 記載されている基準の条文の順番から、①資金収支計算書、②消費収支計算書(現行の事業活動収支計算書)、③貸借対照表の3つである。

 このうちまず、資金収支計算書は、内容的には、営利企業会計におけるキャッシュ・フロー計算書とほぼ近似しているといえるとの指摘がある8)。そして、現行の学校法人会計基準(以下、「平成27年学校法人会計基準」という)は、この資金収支計算書を次のように規定している。  

 「学校法人は、毎会計年度、当該会計期間の諸活動に対応するすべての収入及び支出の内容並びに当該会計年度における支払資金の収入及び支出のてん末を明らかにするため、資金収支計算を行う。」(平成27年学校法人会計基準・第6条)

 上記の条文から、資金収支計算書には、目的が2つあることが分かる。すなわち、「当該会計期間の諸活動に対応するすべての収入及び支出の内容」を明らかにする目的と、「当該会計年度における支払資金の収入及び支出のてん末」を明らかにする目的の2つである。

 そこで、順序は前後するが、まず先に資金収支計算書の後者の目的について説明する。ここで「支払資金の収入及び支出のてん末を明らかにする」とは、当年度中に実際に生じた収入及び支出だけ記録することを意味する。そして、このてん末は、資金収支計算書上の次期繰越支払資金として表示され、この次期繰越支払資金は、当該年度末時点の貸借対照表上における現金預金勘定の金額と一致することとなる。  

 次に、資金収支計算書の前者の目的について説明する。ここで「当年度の諸活動に対応す る」とは、当年度末の時点で未収分及び未払分があったしても、それらが当年度の活動に帰属するものであるならば、それらは当年度の収支計算に含まれることを意味している。さらに、 前期中にすでに行われた、当年度活動に帰属する前払分及び前受分についてもまた当年度の収支計算に含まれることを意味している。

 つまり、後者の目的の方は、現金主義により達成されるのであるが、他方、前者の目的については半発生主義(つまり、営利企業でいうところの「権利確定主義」)によって達成されることになる。このように、学校法人会計基準に基づく資金収支計算書は、1 つの計算書類の中に現金主義会計及び半発生主義会計という2つの役 割を担うこととなっているのである。このため、資金の概念も2つあることになり9)、ひいては、現金預金(支払資金)の金額も一致しなくなってしまう。そこで、学校法人会計基準はこの問題を解決させるべく、資金収支計算書に「資金調整勘定」なる項目を設けて、両者の調整を図っているのである。ただ、このような仕組みを持つ資金収支計算書は、難解な構造となって いるとの指摘もある10)

 それでは、なぜこのような難解な計算構造が持ち込まれたのであろうか。その主たる原因は、他の非営利組織とは異なり、日本の私立学校に おける学生生徒等納付金(学納金)の納入時期の特性が原因となっているものと推測できる。 通常、私立学校は次年度の学生生徒等納付金の約半分の金額を、前年度中に受け入れることとなる。このように実際の現金の受け入れと活動が帰属する期間との間にずれが生じ、そしてまたその金額的にも大きい点も考慮に入れると、この期間のずれはもはや無視しえなくなってくる11)。それゆえ、「調整」が必要なのである。

 このことを以下で[説例]を設けて説明を行う。

[説例]

⑴  当年度中(X 1 年度中)に、次年度の学納金 1,000,000円のうち、前期分すなわち半額分 (500,000円)を現金で受領した。

(現  金)500,000 / (前受金収入)500,000

⑵  次に、当年度末となり、上記前受金収入は、収益ではなく非損益取引であるので、これを前受金(負債)に振り替える。

(前受金収入)500,000 / (前 受 金)500,000

⑶  次年度(X 2 年度)になり、上記前受金を当期分の収入に振り替える。

(前期末前受金)500,000 / (学納金収入)500,000

⑷  そして、前受金勘定(負債)を消去するための仕訳を行う。

(前 受 金)500,000 / (前期末前受金)500,00

 上記一連の仕訳で登場した「前期末前受金」 こそが「資金調整勘定」に該当する。「前期末前受金」は、次年度(X2年度)において、当該年度の活動に帰属する収入であるために、 いったん資金収支計算書上に収入として計上する。しかし、実際にはX2年度中の収入ではないため(X1年度中に受領済みのため)、「資金調整勘定」によって、資金収支計算書上、今度は収入から控除するのである。

 このように、資金収支計算書の構造は複雑なものとなっている。「資金調整勘定」は、以上見てきたとおりであるが、このことは会計基準設定時の昭和46年にはやむをえなかったとされ12)、 見切り発車の形でスタートしたことになる。ただし、その後、消費収支計算書及び貸借対照表に関係者が習熟し、その利用が普及するにとも なって、資金収支計算の目的は本来のものに復帰させる予定であることが、当初記されていた13)。しかし、現在においてもなお、学校法人会計基準の改正が行われつつも、未だこの課題は果たせていないままでいる。

 ところで、学校法人会計基準に定められた2つの収支計算書(資金収支計算書及び消費収支計算書)の作成方法には、二系統法と一系統法の2つの方法があるとされる14)。ただし、どの方法を採用しても、作成される計算書類の内容は最終的には同じものとなろう。

 このうちまず、二系統法であるが、この方法は、資金収支計算書を作成するための仕訳と、消費収支計算書を作成するための仕訳の2種類 の仕訳を同時に行う方法であり、いわゆる「一取引二仕訳」を行う方法となる。しかし、この方法は各取引が発生するごとに2つの仕訳を行わなくてはならず、この方法になじみのない者にとっては、難解な印象を与えかねないであろう。

 そこで一系統法であるが、この方法は、資金収支計算書か消費収支計算書のいずれかの計算書をまず先に作成し、その後、先に作った計算書に修正を加える形で、もう一方の計算書類を作成するという方法である。このことから、この一系統法には、先にどちらの収支計算書を作成するのか、その順序の違いから、2つの方法が考えられることになる。つまり、まず先に資金収支計算書の作成を行い、その後、消費収支計算書を作成する方法(以下、「資金収支計算書ベース法」という)と、反対に、まず先に消費収支計算書の作成を行い、その後、資金収支計算書を作成する方法(以下、「消費収支計算書ベース法」という)がある15)

 このように一系統法の2つの方法のうち、 「資金収支計算書ベース法」の方が、「消費収支計算書ベース法」に比して、優れていると思われる。その理由としては、まず、現実に行われる実際の取引を基本にしているので、受け入れやすい点があげられる。換言すれば、実際の世界(リアルの世界)から出発し、リアルの世界の修正へ導くことである。また、歴史的な経緯を見ても、まず資金収支計算書が存在し、それを補完する目的で消費収支計算書が設けられた。このことを反映してか、学校法人会計基準の条文も、まず資金収支計算書から述べられている。 そして、もっとも重要な点は、先にも触れたように学校法人会計基準における資金収支計算書は、単純に現金主義によるものだけでなく、半発生主義も加味されている。これだけでも複雑な構造を有しているわけであるので、まずはこの資金収支計算書を完全に作成することが肝要であろうと思われる点にある。

 そこで、「資金収支計算書ベース法」に拠った、資金収支計算書の作成手順を簡単に見ておきたい16)。まず、当期間中に実際に行われた収入及び支出取引を記録する。そしてこれらを集計して「現預金増減表」といった表をいったん作成する。次に、この「現預金増減表」に資金調整取引を示す「資金調整勘定」の記載額分だけ収入・支出額を減額する。この「資金調整勘定」は、厳密には「収入に係る資金調整取引 (資金収入調整勘定)」と「支出に係る資金調整取引(資金支出調整勘定)」の2つがある。このうち、「資金収入調整勘定」の具体例として、先にも触れた前期間中の学納金前受け、すなわち、当期間中には実際の収入はなかったものの、前年度中にその分の収入が既にあった「前期末前受金」がある。つまり、資金収支計算書上で当期中には収入がなくてもこれを計上しておき、 後で「資金収入調整勘定」でその分だけ減額し、 支払資金のてん末に合わせるのである。

 このように、学校法人会計基準の資金収支計算書は複雑な構造を持つのであるが、それではなぜ、この上に消費収支計算書をさらに設ける必要があるのだろうか。次にこのことについて見ていきたい。


Ⅲ 消費収支計算書の役割と基本金制度

 本章では、平成27年学校法人会計基準以前の旧学校法人会計基準に規定されていた消費収支計算書について、取り上げ検討していくこととしたい。  

 旧学校法人会計基準は、消費収支計算書について次のように規定していた。  

 「学校法人は、毎会計年度、当該会計年度の消費収入及び消費支出の内容及び均衡の状態を明らかにするため、消費収支計算を行なうものとする。」(旧学校法人会計基準・第15条)

 また、ここでいう消費収入について、当該旧学校法人会計基準は次のように定義している。

 「消費収入は、当該会計年度の帰属収入(学校法人の負債とならない収入をいう。以下同じ。)を計算し、当該帰属収入の額から当該会計年度において― (中略)― 基本金に組み入れる額を控除して計算する」(旧学校法人会計基準・第16条第1項)

 ところで、この消費収入は企業会計の収益の概念と類似し、また、消費支出は企業会計の費用の概念に類似するとされる。そして、学校法人会計における消費収支計算書とは、企業会計でいう損益計算書に類似する計算書ということになる。  

 次に、この消費収支計算書の作成についてであるが、先に見た「資金収支計算書ベース法」 では、資金収支計算書を修正することによって行う。その上で、消費収支計算書作成のための具体的な修正項目には、次のようなものがある。すなわち、「資金収支計算の収入及び支出には、 帰属収入でない収入及びそれの返済支出、当該年度の諸活動に対応しない収入及び支出等が含まれている。資金収支計算のそれらの収入及び支出は、消費収支計算では除かれなければならないから、修正仕訳が必要となる17)」と。ここでもう一度整理すると、必要な会計処理としては、①借入金収入等の非損益取引を取り除くこと、②経過項目及び資金調整勘定を整理すること、ということになる。さらにこれらに加えて、消費収支計算書の作成上、③固定資産関連取引項目(固定資産購入に係る取引記録の修正、基本金組入処理、減価償却費の計上)に係る修正も行うことが要請される。

 なお本稿では、以下において、上記③固定資産項目に係る修正ついて、以下で[説例]を交えつつ、説明を行っていきたい。

[説例]

⑴  まず、当年度中に基本金組入の原資となる収入が必要となってくる。なお、日本の私立大学法人での主たる収入は、学納金収入に依存しているため、ここでも 学納金収入 (1,000,000円)があったとする。

(現 金)1,000,000 / (学納金収入)1,000,000

⑵  次に、同じ年度中に同額の建物(校舎等) の基本財産(固定資産)を現金で購入する。

(建物購入支出)1,000,000 / (現 金)1,000,000

⑶  そして年度末になり、建物購入支出は、非損益性の支出であるので、これを消去し、貸借対照表上の建物勘定を表示するため、下記の仕訳を行う。

(建 物)1,000,000 / (建物購入支出)1,000,000

⑷  また、基本金の組入れに係る仕訳が必要となってくる。なぜなら、期中取引をベースに作成する資金収支計算書には、基本金組入については何も会計処理されていないからであ る。そこで、消費収支計算書作成の目的上、基本金組入れを示すため、次のような仕訳が 必要となってくる。

(基本金組入)1,000,000 / (基本金)1,000,000

⑸  最後に、消費支出(費用)の一項目として、上記建物に係る減価償却費を計上するため、下記の仕訳を行う(直接法の場合)。

(減価償却費)1,000,000 / (建 物)1,000,000

 ところで、そもそも学校法人会計基準が、消費収支計算書を設けた背景は何であろうか。学校法人会計基準作成の検討段階ですでに、次のような見解が示されていた。「資金収支計算書は、たしかに学校法人の活動の全体(ただし一年間の)を資金的に表すはたらきにおいて優れている18)」が、それだけでは不十分であるという。なぜなら、「企業会計側では、企業における固定資産の増大と信用経済の発達によって、企業会計の技術的な進化が促されたものであることは、疑うべくもない19)」が、このことは私立大学法人においても同様である。さらには、「現在の私立学校において、施設又は設備等の増大は目を見張るばかり20)」であるとの指摘もある。消費収支計算書の設定原因は、このような実状による。

 このうち、信用経済の発展に伴う部分の対応策は、先に見たとおり、資金収支計算書に「資金調整勘定」を設けることによって行った。つまり、半発生主義(権利確定主義)会計までは対処済みである。次に、学校法人に固定資産増大傾向に対処するべく、減価償却費を計上する場としての消費収支計算書が必要となってくる。つまり、消費収支計算書は、発生主義会計の部分を担うこととなるのである。このように、2つの収支計算書の間には、明確な役割分担があるといえる。

 ただし、実は、消費収支計算書は、単に学校法人会計を発生主義会計に基づいて表示した、ということだけではなかった。そして、次のように展開していく。すなわち、「事業主体の永続が至上命題となり、したがって法人の財政的維持ということがその財政計画上の最大の課題となる。しかし、このようなとき、単純な収支計算は―(中略)―、有効な情報を提供することがほとんどできない。なぜなら、収支会計の最大の欠点は、その計算思考に、将来にわたる計画性と先見性の概念がはなはだ乏しい21)」と いうものである。つまり、私立学校法人財政を将来にわたって永続的に維持させることを目的とする場合、各年度における資金収支の均衡だけでは、かならずしも学校法人財政の健全性、安全性を約束するものではないのである22)。そのため新たな計算思考の導入が必要となり23)、 それこそが、学校法人会計基準が、消費収支計算書を導入した本当の理由なのである24)。そして、この目的を達成するため、消費収支計算は、 計算技術的には、企業会計の損益計算の仕組み を援用したものとなる25)

 しかし、ここであらためて学校法人会計における消費収支計算書における発生主義会計導入の効果について考察する必要があるように思える。確かに、営利企業会計では、周知の通り発生主義会計を採用しているのだが、この場合、「企業の維持あるいは企業資本の維持までは内蔵」されているかは吟味する必要があろう。企業会計には、会計公準の1つとして、確かに 「企業継続の公準」があるものの、これはあくまでも「前提」に過ぎない。  

 他方、学校法人会計では、「学校法人におけ る財政は、法人の永続的な維持と発展を可能にするよう26)」と述べているとおり、積極的に学校法人を永続的に維持させなければならないという強い意思が反映されている。なぜ、学校法人会計基準において、このことをどのようにして可能たらしめたのであろうか。それは、とりもなおさず、消費収支計算書が発生主義会計を導入していることが、まずもって下地となっていることが指摘されよう。言うまでもなく、発生主義会計は概ね見積もりや判断といったものが介入する余地がある。これに対して、資金収支計算書では、実際に発生した他者との、現金 のやりとりのみが対象となるので、このような役割はそぐわないであろう。

 そして、これに加えてさらに重要なことは、なんと言っても「基本金制度」の導入であろう。これに関連して、学校法人会計基準制定について検討されていた当時、学校法人会計に係る3つの基本的前提(「公器性」、「永続性」、「予算制度」)が示されていた。このように、その基本的前提1つが学校法人の「永続性」であった。これは、当時の私立学校法人の財政状況は大変苦しく、これを改善させることが必要であったという事情によるところが大きい。そして、その「永続性」を担保するための対応策の1つが、「基本金制度」の導入であり、もう1つは私学助成金の投入であった。本稿ではこのうち、「基本金制度」について、以下において取り上げることとする。なお、ここでは、4種類ある 基本金(第1号基本金から第4号基本金まで)のうち、最も計上額の大きく重要性が高いと思われる第1号基本金を想定して考察を行っていく。  

 先にも述べたが、この「基本金制度」には、 多くの批判が寄せられてきた。それら批判点のうち、計算構造上のものを整理すると、①基本金組入額決定の恣意性、②帰属収入(当期間中の収入額から借入金等の収入額を控除した部分のことをいい、主として学納金収入)から先に基本金組入れを行うという基本金組入の先行性、③基本金組入と基本金組入対象資産に係る減価償却費の計上という二重計上、という3点に集約することができよう。ただし、この3点については、それぞれ独立して存在するのではなく、互いに関連し合っていることに留意されたい。帰属収入(学納金収入)からまず基本金組入額として、固定資産取得に要した金額分をまず先に確保する。そして、その計上額自体も私立学校法人の自主性に任されている。さらに、貸借対照表上、純資産の部に基本金として維持すべき 金額を明示することができる。そして、③毎期の減価償却費計上によって更新資金をこれまた 学納金からチャージする、という具合である。このことが「基本金制度」を通じた「永続性」 確保のスキームである。とりわけ、③の基本金 組入れと減価償却費計上の重複適用は、借入金 依存体質であった当時の私立学校法人の財政状況の改善に大きく寄与したことが窺える。また、 先に見た学費値上げは、これら計算構造のことが反映された結果として生じたものである。

 ここまでのことを整理すると、次のようであ る。一般に財務諸表というと、貸借対照表と損益計算書のことを指す。ところが、これら財務諸表には、「多くの会計上の見積りや仮定や判断が入り込んでいる27)」。学校法人会計基準は、学校法人における基本財産(固定資産)の増大を契機として、企業会計で行われている発生主義会計の中に、学校法人の永続性を担保する仕組みとしての「基本金」を、組み入れることをしたのである。  

 次に、平成27年に改正された学校法人会計基準の問題点を指摘し、学校法人会計基準が、現在の私立大学にどのような影響を及ぼすか、また改善に向けた私見についても少し述べていきたい。


Ⅳ 学校法人会計基準の改正を巡る問題点

 前節でも少し触れたが、平成27年に学校法人 会計基準の改正が行われた。大きな改正箇所としては、消費収支計算書の名称が事業活動収支計算書に改められたことがあげられる。平成27年学校法人会計基準では、事業活動収支計算書について次のように定義している。  「学校法人は、毎会計年度、当該会計年度の次に掲げる活動に対応する事業活動収入及び事業活動支出の内容を明らかにするとともに、当該会計年度において第29条及び第30条の規定により基本金に組み入れる額(以下、基本金組入額という。)を控除した当該会計年度の諸活動に対応する全ての事業活動収入及び事業活動支出の均衡の状態を明らかにするため、事業活動収支計算を行うものとする。」(平成27年学校法人会計基準・第15条)

 この事業活動収支計算書という計算書類は、本質的には従前の消費収支計算書と変わらないものの、表示上、学校法人の活動を、①教育活動、②教育活動以外の経常的な活動、③それ以外の活動という3つの区分に分けて表示することを指示している等の点で新しくなっている28)。 ちなみに、この平成27年の学校法人会計基準の改正は、学校法人会計基準に基づく計算書類を広く国民に分かりやすく開示するという趣旨に よるものであった。しかし、学校法人会計基準 において特徴的な計算構造の部分、つまり「基 本金制度」に関する部分等については、改正前の旧学校法人会計基準に規定されていた消費収支計算書の内容をそのまま引き継いでいるのである。

 つまり、平成27年学校法人会計基準が公表さ れたときに、文部科学省は改正の意図として、 学校法人会計を「分かりやすくする」とした。この「分かりやすく」とは、計算書類上の表示について区分表示を設ける等の規定のことであった。つまり、表示部分についての改正が主であり、計算構造についての改正は行われなかった。しかし、せっかく表示部分を改正して 「分かりやすく」しても、本質的な部分つまり計算構造における必要な見直しを行った上でなくては、意味をなさなくなってしまう。  

 例えば、学校法人会計の計算書類に対する理解可能性を高めるというのであれば、資金収支計算書について、当期間中の実際の収入・支出のみに基づいた資金収支計算書を作成するようにする。換言すれば、「資金調整勘定」のない資金収支計算書の方が、現実のリアルな姿を描いており、計算書としてもすっきりとして、ひいては理解可能性も高まるであろう。

 他方、事業活動収支計算書ついて言えば、当該計算書が損益計算書に類似しているというのであれば、現行の事業活動収支計算書における 「基本金制度」部分を見直し、より企業会計の損益計算書に近づけていくということも方法の1つであろう。

 しかし、いずれにしても重要なことは、日本の現在の私立大学の実状に呼応した計算構造の見直しが必要であるということである。学校法人会計基準は、元来、設立当時の私立学校法人の危機的な財政状態を救うべく、政策的意図が強い基準内容となっていた。しかし、当時も現在も「私立大学の危機」であると叫ばれてはいるが、その本質は大きく異なっている。学校法人会計基準設定当時は、受験生の確保は困難ではなく、それゆえ、潤沢な学納金収入が得られ、そこから基本金組入を行った。このことが私立大学法人の財政状態の改善をもたらした。つまり、潤沢な学納金収入が前提となっており、入学希望者が少ないということはなかった。他方、現在は急激な少子化が進み、私立大学は飽和状 態にある。現在のこの状況下で、基本金組入れの規定を当てはめると、とにかくも学納金収入の確保をしなければならず、そのために大学入学基準を緩めなくてはならなくなってくる。このことが、高等教育現場に教育水準の維持を困難にするといった混乱をもたらしている。非営利法人の財政状態維持のために、結果として大学の本来のミッションを果たすことが難しいということであれば、それは本末転倒であるといえよう。

 つまるところ、今日、学校法人会計に対して求められていることは、リアルな数字を表すよう計算書類の計算構造の見直しを伴った上で、学校法人の財務を分かりやすく、シンプルな形で情報を提供することであろう。例えば、現行の資金収支計算書を純化したものを提示することも一考の余地があろう。学校法人会計基準の役割は、社会情勢の変化と共に大きく変化している。私立学校法人の計算書類の理解可能性向上は、受験者の大学選定にも資するとも予想される。ひきつづき今後の動向に注視して、検討していきたい。


[注]

1)長谷川哲嘉「非営利会計における収支計算書 ~非営利会計混迷の原点~」『早稲田商学』 第436号、2013年6月、29頁。

2)村山徳五郎「演繹思考の会計原則」『企業会計』第23巻第1号、1971年1月、161頁。

3)前掲論文、162頁。

4)長谷川哲嘉 前掲論文、26頁。

5)高橋吉之助・村山徳五郎『学校法人会計の理論』国元書房、1968年、69頁。

6)野中郁江・梅田守彦・山口不二夫『私立大学の財務分析ができる本』大月書店、2001年、 75頁。

7)酒井治郎『会計学の基本問題』文理閣、2013 年、174頁。

8)山口善久『新訂学校法人会計と複式簿記のすべて』学校経理研究会、2007年、41頁。

9)前掲書、207頁。

10)長谷川哲嘉、前掲論文、56頁。

11)大学行政管理学会編『これならわかる!学校会計』学校経理研究会、2014年、71頁。

12)長谷川哲嘉、前掲論文、60頁。

13)前掲論文、59頁。

14)山口善久、前掲書、81頁。

15)前掲書、80頁。

16)前掲書、247頁。

17)前掲書、277頁。

18)高橋吉之助・村山徳五郎『新学校法人簿記会計入門』第一法規、1978年、97頁。

19)高橋吉之助・村山徳五郎『学校法人会計の理論』国元書房、1968年、68頁。

20)前掲書、68頁。

21)前掲書、68頁。

22)高橋吉之助・村山徳五郎『新学校法人簿記会計入門』第一法規、1978年、98頁。

23)高橋吉之助・村山徳五郎『学校法人会計の理論』国元書房、1968年、69頁。

24)高橋吉之助・村山徳五郎『新学校法人簿記会計入門』第一法規、1978年、99頁。

25)前掲書、99頁。

26)高橋吉之助・村山徳五郎『学校法人会計の理論』国元書房、1968年、43頁。

27)佐藤倫正・向伊知郎編著『ズバッとわかる会計学』同文舘出版、2014年、75頁。

28)事業活動収支計算書の表示方法を見れば、基本金組入前収支差額から基本金組入額を控除するので、基本金の組入れは後から行うかのような印象を与えるが、基本金の先行組入れは、従来と変わらず、当期の事業収入額から 先に控除する点に留意する必要がある。


[参考文献]

酒井治郎『会計学の基本問題』文理閣、2013年。

佐藤倫正・向伊知郎編著『ズバッとわかる会計学』同文館出版、2014年。

大学行政管理学会編『これならわかる!学校会計』学校経理研究会、2014年。

高橋吉之助・村山徳五郎『学校法人会計の理論』国元書房、1968年。

高橋吉之助・村山徳五郎『新学校法人簿記会計入門』第一法規、1978年。

長谷川哲嘉「非営利会計における収支計算書~非営利会計混迷の原点~」『早稲田商学』 第436号、2013年6月。

村山徳五郎「演繹思考の会計原則」『企業会計』第23巻第 1 号、1971年。

野中郁江・梅田守彦・山口不二夫『私立大学 の財務分析ができる本』大月書店、2001年。

山口善久『新訂学校法人会計と複式簿記のすべて』学校経理研究会、2007年。

(論稿提出:平成28年12月11日)

(加筆修正:平成29年 7 月 4 日)



 

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