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  • 第22回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    第22回大会記 2018.9.8-9 武蔵野大学 統一論題 NPO法施行20年~その回顧と展望~  平成30年9 月7 日(金)より9 日(日)の日程で、非営利法人研究学会第22回全国大会が行われた。会場は、2020年東京オリンピックのメイン会場として様々な工事が急ピッチで進められる江東区有明に所在する武蔵野大学有明キャンパスにおいて、武蔵野大学に所属する5 名の準備委員のもと、本大会は盛大に開催された。本稿は、今大会の概要を報告するものである。  今回の大会の統一論題テーマは、「NPO法施行20年~その回顧と展望~」であり、1998年のNPO法施行より、20年間経過した現時点で回顧を試み、これからの20年間を展望することを目的として設定された。  まず、基調講演として、1998年当時、NPO法の制度設計に経済企画庁国民生活局長という立場で携わった井出亜夫氏(元経済企画庁国民生活局長、元慶應義塾大学教授)による「NPO法制定当時を回顧する」というテーマで行われた。その後、統一論題報告者として、濱口博史氏(弁護士)および江田寛氏(公認会計士)による報告が行われた。井出氏は制度設計から、濱口氏は法律専門家から、江田氏は会計専門家からこの20年間のNPOの諸制度を牽引してきた立役者であり、含蓄のある報告が行われた。以後、報告要旨を掲載する。  また、自由論題報告は、各地方部会での予備報告を経た10の報告が行われ、各会場ともに闊達な議論が展開された。なお、本稿に掲載の要旨は、各報告の司会者に依頼したため、原文に忠実に掲載するため、文字数等の体裁に少々の不統一さがあるが、ご了解いただきたい。 基調講演  「NPO法制定当時を回顧する」(井出亜夫・元経済企画庁国民生活局長、元慶應義塾大学教授)  井出報告の要旨は以下の通りである。まず、市場経済のグローバル化に伴いNPO活動が活発に展開されるようになってきた。しかし、日本においては、1995年の阪神・淡路大震災がその契機となったが、わが国民法は、その具体的受け皿を欠き、戦後の民法改正においても公益は国家(行 政)が司るという公益国家(行政)管理主義が貫かれていた。NPO法の制定は、この明治憲法思想を延長する考えを是正する一歩を切り開いたが、長年にわたる公益国家管理主義思想は一朝にして変わるものではない。冷戦の終結に伴い、市場経済システムは格差の拡大等の問題も発生させ、企業の社会的責任を求める声も大きくなっている。より高度な市民社会の形成に当ってNPOの役割は大きい、とする。 統一論題報告 第1 報告 「法律専門家から見たNPO法20年」(濱口博史・弁護士)  濱田報告の要旨は以下の通りである。NPO法の制定時においてはNPO法人と旧民法法人とのすみわけが論ぜられたが、民法改正と一般法人法及び公益認定法の制定によって状況が変わった。そこでは、所轄庁による認証に基づく設立の意味が問われている。また、準則主義をとり、税法上ではあるが非営利型の類型をもつ一般法人法との関係が問題となるに至った。そして、これらを踏まえたとき、NPO法の今後の方向性が問われる。  本報告では、認証にかかわる部分について、一般法人法との関係について、の二点に場合分けして、今後のあるべき姿について濱田氏の私見が述べられた。 第2 報告 「NPO法人会計基準の考え方と2017年12月改正の方向性」(江田寛・公認会計士)  江田報告の要旨は以下の通りである。まず、報告の前半は、NPO法人会計基準制定以前の状況について言及し、NPO法人会計基準の策定がいかに必要性であったかを強調される。引き続き本報告では、同基準が提示した重要なテーマについて言及した後、策定以後の状況について課題を含 めて検討している。  そして最後に江田氏のメッセージとして、以下の2 点が強調された。まず、市民とNPO法人を繋ぐ架け橋としてのNPO法人会計基準が「市民の手」でよりブラッシュアップされ、NPO法人の社会的評価の確立に貢献してほしいと思っていること。加えて、本非営利法人研究学会所属の研究 者及び実務家諸氏のサポートを強く期待すること。 自由論題報告 自由論題報告第一会場 第1 報告 「非営利組織とはどのような組織か」(松原由美・早稲田大学)   松原報告は、非営利組織の定義の再考を検討したものである。まず、定義を「ある概念 L. M.サラモン(1982)」による非営利組織の定義、公益法人制度改革(『有識者会議報告書』2004年)や経済産業研究所の『新しい非営利法人制度研究会報告書』における非営利組織(法人)の定義を検討し、問題点を指摘している。そして松原報告は、⑴まず、営利を定義(営利とは、利益を上げること)し、⑵営利の否定語として非営利の定義(非営利とは、利益を上げないこと)をし、⑶非営利組織を「利益を上げない組織」と定義する。さらに、この定義における「利益」とは「将来のコスト」であると主張された。 第2 報告 「東大阪市版地域分権制度確立にむけての軌跡と課題」(中塚華奈・大阪商業大学)  中塚報告は、2012年度から始まった東大阪市の地域分権制度の確立に向けての取り組みの経緯と軌跡を概観し、東大阪市の「協働のまちづくり部」と共同で著者が実施した関係諸団体へのアンケート調査や聞き取り調査をもとにして、制度確立を阻む要因の抽出と課題を明らかにしたものである。中塚報告では、結論として次の4 つの課題をあげている。⑴既存活動の後押しもできる制度への拡充の検討。⑵様々な立場の市民が存在することから、情報公開・伝達方法の検討および拡充。⑶条例策定のような原理原則、価値観、方針の決定にはトップダウン的アプローチ、具体的な行動や判断についてはボトムアップ的アプローチという、両者の特性を活かしたアプローチの検討。⑷地域分権には「地域=地域」、「地域=役所」、「役所=役所」の協働が必須であるが、今回は「役所=役所」の協働が機能せず、縦割り行政の弊害であると考えられるので、部局横断的に進める権限を有する部署の必要性。 第3 報告 「社会的投資によるコミュニティ再生―英国のコミュニティ・シェアーズを事例に―」(今井良広・兵庫県地域創生局長)  今井報告は、近年財政制約が深刻化する中で多様化・複雑化する社会課題の解決方策としての役割が拡大しつつある社会的投資について、その概念、理論的背景を探り、英国の事例を用いて社会的投資をめぐる政策形成・展開過程を考察した。特にコミュニティへの参加型投資スキームであるコミュニティ・シェアーズ(community shares)に焦点をあて、その普及・拡大状況を明らかにした。わが国でも社会的投資の拡大に向けた検討が進められており、休眠口座の活用、法人制度の創設などとともに、個人投資家層の充実について提言がなされている。そのなかでコミュニティ・シェアーズの市民参加型の取り組みを参考にすべきことも多いとの報告がされた。今後、コミュニティへの資金供給の流れを拡大し、持続的なものにしていくには、コミュニティ・シェアーズに適用される投資減税制度や自主的認証制度、情報開示方法なども参照していくべきとの提言がなされた。 第4 報告 「職業能力開発と非営利法人:技能継承の担い手として」(初谷勇・大阪商業大学)  初谷報告は、NPO政策の規範的検討として、NPOの存立や発展を支援する「基底的NPO政策」とNPOとの政策遂行主体との間での協業関係におけるNPOの位置を検討する「派生的NPO政策」とを峻別し、さらにこのフレームワークをNPO法人だけでなく、広く公益法人や特別法に基づく 法人にも広げて検討を試みる。本報告はそうした流れにおいて特別法に基づく法人として職業訓練法(職業能力開発促進法)に基づく職業訓練法人に焦点を当てた。同法人制度の立法経過、改正経緯、役割期待や活用の実態を考察し、存在意義、法人の現況とその問題の摘出、解決の道筋を検討する。また、働き方改革などの雇用・労働政策の改正が進められるなか、政策体系の一翼を担う職業訓練(職業能力開発)政策について『「鼎立するNPO政策」の構図と枠組み』を適用することにより見出された課題についても検討した。 第5 報告 「日本のNPO支援組織の展開」(吉田忠彦・近畿大学)  日本のNPO支援組織は、NPOの普及にしたがって事業内容や方向性を変化させてきた。「NPOサポートセンター」と呼ばれたりする時期もあったが、近年では「中間支援組織」という呼び方が定着してきた。報告では支援組織の類型が報告され、最近の動向を写真と共に紹介された。日本における「中間支援組織」は、その名称のルーツと思われる「intermediary (organization)」とは若干のズレがあることが報告された。特に多くのNPOが必要とする財源確保への支援が手薄であったが、最近になってそのズレを埋めるような動向として「市民ファンド」や「日本ファンドレイジング協会」に代表されるような動きが報告された。一方では行政による市民活動支援施設の設置はさらに普及している。この報告では、それらの日本のNPO支援組織の動向を紹介し、今後の展開の可能性が示された。 自由論題報告第二会場 第1 報告 「NPO経営者におけるアカウンタビリティの質的データ分析」(中嶋貴子・大阪商業大学)  本発表は、岡田彩氏(金沢県立大学)との共同研究であるが、今回は中嶋氏のみの発表となる。発表の要旨は次のとおりである。  日本の非営利セクターはNPO法施行20年を迎えたものの、特にNPO経営者が考えているアカウンタビリティ概念については十分に論じられていない。そこで、NPOの代表理事などの経営に携わる人を対象にインタビュー調査を実施し、質的データ分析法に従ってコンテンツ分析を行い、彼 らが有するアカウンタビリティ概念の共通性を明らかにすることが本発表の目的である。 インタビューは8 団体9 名を対象に実施された。コンテンツ分析で対象とした13項目の利害関係者に関する項目のうち、重視する利害関係者として、「一般市民・地域住民」「政府機関」「日本国 内の他のNPO」の3 つが共通概念として浮かび上がった。次に、説明責任の果たし方に関する対応方法に関する20項目のうち「活動の成果を高める」「協同的なパートナーシップ構築・維持する」「正確な情報を提供する(財務に関する情報以外)」「様々な意見に対応し、運営にフィードバックする」の4 つが共通概念として浮かび上がった。最後に、利害関係者と対応方法のコンテンツ分析の結果をクロス集計し、それぞれの共通概念の関係性を示す概念マトリックスを作成した。その結果、「成果向上に対する交渉的アカウンタビリティ」「ミッションに基づく先見的アカウンタビリティ」「参加促進に対する創造的アカウンタビリティ」の3 つが示された。  以上の発表に対して、フロアーからは対象となるNPO経営に携わる人の範囲がもっと広いのではないかという質問が寄せられた。 第2 報告 「『創業者統治』の機能からみるガバナンス―ミッションとアカウンタビリティの相克―」(川野祐二・下関市立大学)  発表の要旨は次のとおりである。非営利法人の創業者・設置者によるガバナンス(創業者統治)体制は、非営利法人経営者の暴走を防ぎ、ミッションを確実に履行するための統治手段の一つとなる。しかし、創業者統治が強力に行われると、経営者が創業者へのアカウンタビリティを重視するあまり、かえってミッションを軽視する可能性を秘めている。このアカウンタビリティとミッションの関係性の矛盾と克服を考察する必要があるが、その先には実は天下り問題があり、個々の非営利法人のガバナンスの在り方を考えるうえで、創業者と経営者の関係性の構築は主柱の一つとなる。  非営利法人のガバナンスを考えるうえで起点に据えるべきはミッションであり、誰のものでもない非営利法人は「誰のため、何のため」という視点からガバナンスを構築すべきである。しかし、それでもいくつかの問題を抱えることになる。例えば、経営者が暴走した場合、営利企業の株主総会では、所有者たる株主が「もの言う株主」となってそれを是正する機能を有している。しかし非営利法人の場合は、最高意思決定機関である社員総会や評議委員会を構成するメンバーは法人所有者ではない。したがって、所有意識のない構成メンバーがミッションの維持や経営の健全性に無関心になる傾向があることを心得る必要がある。むしろ非営利法人の方が、経営者の暴走を見過ごす傾向があるといっても過言ではない。こうした状況で非営利法人は、「ミッションを健全に目指す経営をいかにして確保すればよいのか」が問題となる。  発表そのものは15分ほどで終わり、そのあと質問となったが、フロアーから質問が出なかったので、司会者が最近のスポーツ系非営利法人のガバナンス問題を例に質問をし、多少の議論を行った。そのあと、岡本仁宏氏(関西学院大学)より、高所大所からアドバイスがあった。 第3 報告 「公益法人税制改革における政府税制調査会の役割」(出口正之・国立民族学博物館)  公益法人税制改革において、政府税制調査会の果たした役割は大きなものがあった。  政府税調は、公益法人に対しては、不公平税制の是正という観点から、一般法人の事業との競合性がある場合、収益事業課税の原則に則ることが適当であるとしてきた。しかしながら、平成17年の答申では、公益法人制度改革に合わせて、「理念としての税制」を検討している。すなわち、「わが国においては、寄附文化はこれまで比較的希薄と言われており、寄附文化を発展させるためには、寄附金税制の抜本的な改革のみならず、公益的な非営利法人において適正な事業活動や情報公開により寄附者の理解を得るための一層の努力が求められる」としている。このような経緯を経て、わが国における公益法人税制改革において、新たな寄附金制度が導入された。  公益法人に関する税制改革は、公益法人制度改革に合わせて、政府税制調査会におけるこのような議論を踏まえて、理念の税制として捉えなおした結果であるといえる。 第4 報告 「一般法人の非営利性についての再検討―非分配制約の意義を中心に―」(古市雄一朗・大原大学院大学)  営利法人と非営利法人を分類する基準として、組織の活動期間中に剰余金の分配を行わない事および残余財産を特定の者に分配しないという非分配制約は、制度においても重要な役割を果たしている。非営利組織は、非分配制約を課されることで、社会からの信頼を得て活動を推進することができ、例えば、寄付や補助金という資源の提供を受け入れやすいことがある。  一般法人の場合、剰余金及び残余財産の分配が行われないことが制度上求められていると理解されている。しかしながら、一般法人法第239条第2 項は、定款の規定により残余財産の帰属が定まらないときには、「その帰属は、清算法人の社員総会又は評議員会の決議によって定める」と規定している。このため、特定の社員や設立者、その他利害関係者に残余財産を分配することが可能となっている。残余財産が実質的に分配可能な一般法人は、非営利組織として分類されることに検討の余地があるといえる。 第5 報告 「非営利法人における実質的配分可能性」(齋藤真哉・横浜国立大学)  非営利法人の特性として、剰余または残余財産についての非分配性を挙げることができるが、現実には実質的に非分配性を否定する状況が見受けられるとの問題意識にもとづき、⑴剰余等が実質的に分配されている可能性はどのような状況で生じうるのか、⑵公益性のある事業の拡大・充実を図ろうとする場合に、剰余等の実質的分配可能性にどのように対応する必要があるか、について検討がなされた。  まず、実質的分配可能性の状況として、齋藤氏は、①残余財産の帰属(例えば、出捐者(設立者)に対する残余財産の寄附や、当該法人の管理者が統制している他の非営利法人への非合理的な財産移転の場合)、②役員報酬等(例えば、当該法人の役員に就任している出捐者や社員、その家族等に対して、社会通念上妥当と考えられる金額を超えた額が報酬等として支払われる場合)、③利益相反取引(例えば、出捐者や社員が役員を務める株式会社(営利法人)との間で、当該株式会社に超過収益を与えるような価格で取引がなされる場合)の3 つを提示された。  そのうえで、公益性のある活動の「真の発展」に向けて、行政の外郭団体を民間非営利法人としての位置づけから除外すること、税制上の非営利型の再検討、公益性の判断を実質的に行うこと、情報公開の充実とアクセスの容易化、これが求められるとの提言がなされた。 介護・福祉系法人研究部会セッション  今回の全国大会では、新しい試みとして研究部会の研究成果を中心とした小規模なセッションを企画した。その目的は、地域包括ケアシステムの運用が始まり、また新しい非営利の法人格として、地域連携推進法人の設立が可能となったからである。制度改革の渦中にある医療・福祉系の非営利法人に関する情報を共有し、学会の有識のメンバーからの意見等をくみ上げ、今後の展開にむけて有意義な議論を喚起することが本セッションの役割である。  本セッションは、千葉正展氏(独立行政法人福祉医療機構)の司会により、「包括化」をキーワードに、吉田初恵氏(関西福祉科学大学)による「介護の包括化」、玉置隼人氏(厚生労働省地域福祉課)による「福祉の包括化」、上村知宏氏(独立行政法人福祉医療機構)による「医療の包括化」という論点で報告が行われ、その後、パネルディスカッションが行われた。当代、制度設計の最先端をひた走る気鋭の面々による最先端の議論は、極めて有益な内容となった。  本セッションの報告要旨は、千葉氏による別稿により、改めて開示する予定であり、本稿では割愛させていただいた。

  • 2023最終報告(NPO法人研究会) | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    非営利法人研究学会 NPO法人研究会 最終報告 (2021年9月-2023年9月) NPO法人制度の特長と新たな展開の可能性

  • 第12会大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    第12回大会記 2008.9.5-6 日本大学 統一論題 非営利組織の業績測定・評価に関する多角的アプローチ 日本大学  堀江正之 はじめに  非営利法人研究学会第12回全国大会は、2008年9月5日・6日の両日、日本大学(準備委員長:堀江正之)において開催された。その前日(4日)には理事会が開かれ、事務局から会務報告のほか、総会提出のための前年度決算案・次年度予算案等の議案を承認した。  1日目は総会に続いて統一論題報告と討議があり、2日目は自由論題報告・特別講演と研究部会報告が行われた。なお、今次大会の参加者は、当日申込みを含め101名であった。 【統一論題報告・討議】  統一論題のテーマは「非営利組織の業績測定・評価に関する多角的アプローチ」であり、石崎忠司(中央大学)座長の下、報告と討議が進められた。  どこの学会でも見受けられることであるが、「統一論題という名の自由論題」と揶揄されるように、各報告者が自らの関心テーマをほんの少々統一論題テーマに引っ掛けるだけのものとなりがちである。そのため今次大会は、堀田和宏氏(近畿大学名誉教授)が最初に登壇されて、討論のための「土俵」の確定が試みられた。  堀田氏は、その前半で、まずもって「誰が、誰のために、何のために、どれの、どこを、どのように」測定・評価するかを確認して確定する必要があると指摘、「断片的な業績評価システムを首尾一貫した整合性あるシステムに統合する包括的業績評価システムのフレームワーク確立」の重要性を訴えられた。 その議論を受けて、堀田報告の後半では、BSCの4つの視点、CCAF(カナダ包括監査財団)の12の属性の視点、J.Cuttらの提言等を検討され、組織の持続性、組織の社会性、非営利組織における組織有効性のジレンマを小括とされ、再び「評価の本質とその限界の再考」、「非営利組織とは何か」に遡った検討の中で、多様なサービスの性質及び形態に適合する測定・評価フレームワークの構築を主張された。  これに引き続き、第1報告として、梅津亮子氏(九州産業大学)が「サービスの原価と見えない価値」と題して、組織外のボランティアが組織に対して無償のサービスを提供する流れ(ボランティア→組織)、組織の職員がエンドユーザーに対して無償のサービスを提供する流れ(組織→エンドユーザー)という2つのパターンから、インプットとアウトプット関係の中で、原価測定と評価の枠組みの中に位置づけ、無償によるサービス活動を原価によって可視化し、活動内容を評価していくための仕組みを提案された。  第2報告の今枝千樹氏(愛知産業大学)は、「非営利組織の業績報告」と題して、アメリカ政府会計基準審議会によって1994年に公表された概念書第2号の改訂公開草案と、公表された返答の要請について、かかる概念書の改訂部分と改訂の背景及びガイドラインの整理・検討に基づいて、政府組織を含む広義の非営利組織における業績報告のあり方について詳細な検討を加えられ、その内容及び設定過程についての検討が、我が国の政府機関における業績報告に係る議論の参考になると主張された。  第3報告の齋藤真哉氏(横浜国立大学)は、「非営利組織の公益性評価—公益認定の基準を踏まえて—」と題して、新たな公益法人制度上の公益認定基準を取り上げて、非営利組織にとっての公益性の社会的意義とその評価について検討された。公益性は社会システムの中で支援する必要があるか否かにより評価し、公益性と税制優遇はリンクしている等のポイントを示され、単なる公益性評価ではなく、非営利組織の公益性評価というところを強調され、そこに非営利組織の存在意義を求める必要があると主張された。  以上の報告に対し、座長の石崎氏より、積極的にフロアー、特に自由論題報告予定者のうち、今回の統一論題のテーマと関連深い方に意見が求められ、活発な討論が展開された。 【自由論題報告】  自由論題報告は合計で18報告あり、紙幅の関係もあって、そのすべてを紹介できないが、院生会員の報告も3分の1強を占め、学会の将来的な活性化を感じさせるものであった。  その内容も、非営利組織を巡るガバナンス・管理・会計・財務・税務・監査等の諸問題を広くカバーするものであった。大会では統一論題が重視される傾向にあるが、自らの地道な研究成果を披露する自由論題にこそ、本当に面白いものがあるように思わせる報告が多かった。 【特別講演・研究部会報告】  今次大会では、本学会副会長の興津裕康氏(近畿大学名誉教授)による「企業会計と非営利の会計—財務会計研究からみた非営利組織の会計を考える—」、そして開催校側から勝山進氏(日本大学商学部部長)による「組織の環境会計」と題する特別講演が行われた。  興津氏は、公益法人会計基準を中心に、非営利の会計を企業会計の視点から検討され、公益法人会計基準は企業会計基準に極めて類似してきたように思われるが、「これでよいのか、非営利の会計の色彩が失われてきているのではないか」と結ばれた。  また勝山氏は、昨今その研究が急速に進められつつある環境会計の現状と課題について、国際動向を踏まえて整理され、自治体の環境会計、大学の環境会計などの事例も紹介されながら非営利組織への適用可能性を探られた。  特別講演に続き、小林麻理氏(早稲田大学)を主査とする東日本研究部会報告が行われ、公益認定基準を巡る諸問題について、メンバーによる研究の成果報告が行われ、フロアーを交えた活発な意見交換が行われた。 おわりに  非営利組織の業績測定・評価は、一息に「多様性あり」と言ってしまえばそれまでである。「多角的であること、多角的にならざるを得ないこと」を深く考えてみることに意味があるように思う。統一論題だけでなく、自由論題もともに直接・間接の違いはあるかも知れないが、基底において、いずれもこの問題に迫るものであった。 〈付記〉 本稿の執筆に際しては、大原大学院大学の江頭幸代氏のお力添えをいただいた。記して感謝したい。

  • 文献四季報 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    書 名:非営利法人経営論 執筆者:岩﨑保道[編著] 所属機関:高知大学評価改革機構 発行所:大学教育出版 発行年月:2014年10月 総ページ数:190 書 名:非営利組織のソーシャル・アカウンティング― 社会価値会計・社会性評価のフレームワーク構築に向けて ― 執筆者:馬場英朗 所属機関:関西大学 発行所:日本評論社 発行年月:2013年10月 総ページ数:218 書 名:ボランティアの今を考える 執筆者:桜井政成[編著] 所属機関:立命館大学 発行所:ミネルヴァ書房 発行年月:2013年9月 総ページ数:222 書 名:戦略的協働の経営 執筆者:後藤祐一 所属機関:長崎大学 発行所:白桃書房 発行年月:2013年4月 総ページ数:140 書 名:非営利組織の理論と今日的課題 執筆者:堀田和宏 所属機関:近畿大学 発行所:公益情報サービス 発行年月:2012年3月 総ページ数:917 書 名:非営利組織の理論と今日的課題 執筆者:堀田和宏 所属機関:近畿大学 発行所:公益情報サービス 発行年月:2012年3月 総ページ数:917 書 名:市民社会政策論―3・11後の政府・NPO・ボランティアを考えるために― 執筆者:田中弥生 所属機関:(独法)大学評価・学位授与機構 発行所:明石書店 発行年月:2011年8月 総ページ数:384 書 名:現代企業簿記会計 執筆者:横山和夫 所属機関:東京理科大学 発行所:中央経済社 発行年月:2002年9月 総ページ数:504 書 名:非営利組織体の会計 執筆者:杉山 学 他 編著 所属機関:青山学院大学 発行所:中央経済社 発行年月:2002年9月 総ページ数:330 文献四季報  このページは本学会会員が発表した図書・学術論文を収録するものです。会員の研究学績を広く社会に紹介するために設けました。情報がありましたらメール等にてお寄せください。  なお、執筆者の所属機関は発表当時のものです。 ■図書の部

  • 第13回学会賞・学術奨励賞 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    学会賞・学術奨励賞の審査結果 第13回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告 平成26年9月10日 非営利法人研究学会 審査委員長:堀田和宏    非営利法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第13回学会賞(平成25年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)、学術奨励賞(平成25年度全国大会における報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文及び刊行著書)及び学術奨励賞特賞(平成25年度全国大会における報告 に基づく実務者の論文及び刊行著書)の候補作を慎重に選考審議した結果についてここに報告いたします。 1. 学会賞  該当作なし 2. 学術奨励賞   後藤 祐一『戦略的協働の経営』(白桃書房、2013年4月刊) 【概要及び受賞理】  平成25年度「学術奨励賞」は、後藤祐一氏の著書『戦略的協働の経営』が選考されました。本書は、2013年4月に白桃書房から刊行されています。この著書の第3章の事例研究は、『非営利法人研究学会誌』第11巻に収録されている同氏の単著論文「戦略的協働を通じた車粉問題の解決プロセス」にもとづいて執筆されています。  本書は、NPO、政府、企業という異なるセクターに属する3つの主体の協働によって、困難な社会的課題の解決に成功した2つの先駆的事例を詳細に分析することによって、戦略的協働が形成・実現・展開されるプロセスの解明を試みたものです。  以下、本書の内容を簡単に紹介します。序章では、本研究の背景と目的が説明されています。  第1章では、はじめに、戦略的協働とは、「異なるセクターに属する主体が協調し、個々の主体だけでは解決が困難な社会的課題の解決に向けて活動するプロセス」であると定義されています。次に、先行研究の検討が行われ、戦略的協働を分析するための枠組である「協働の窓モデル」が説 明されています。「協働の窓モデル」は、著者が参加した非営利法人研究学会・東日本研究部会によって提示された分析モデルです。このモデルは、協働が形成・実現・展開されていくプロセスを経時的・動態的に記述・分析することを可能とする概念枠組です。  この「協働の窓モデル」にもとづき、第2章では、ツール・ド・北海道における戦略的協働の事例研究が、第3章では、車粉問題の解決における戦略的協働の事例研究がそれぞれ試みられています。具体的には、まず、2つの事例が4期に区分され、それぞれの事例が記述されています。次に、年代記分析が適用され、2つの戦略的協働が「なぜ」また「どのように」して形成・実現・展開されたかが分析されています。  第4章では、第2章で行われたツール・ド・北海道における戦略的協働の事例研究の分析結果と、第3章で行われた車粉問題の解決における戦略的協働の事例研究の分析結果にもとづいて、2つの戦略的協働の共通点が明らかにされ、10の仮説命題が導出されています。  終章では、本研究の要約、研究の意義および今後の課題が示されています。  本研究の第1に評価すべき点は、戦略的協働という複雑な社会的現象が「なぜ」また「どのように」して形成・実現・展開されるのかを実証的に解明しようとした点です。近年、「協働」を分析対象とする研究が少しずつ試みられるようになってきました。  しかし、既存の研究は、事例や制度を単に紹介したものがほとんどであり、戦略的協働という現象の実態は必ずしも十分に解明されてきませんでした。  第2に評価すべき点は、「協働の窓モデル」が、戦略的協働の一連のプロセスを分析する上で極めて有用な枠組であることを示した点です。本研究では、「協働の窓モデル」にもとづく2つの事例研究を試みることにより、戦略的協働に関する10の仮説命題が導出されています。  第3に評価すべき点は、第2の点とも関連しますが、社会的課題の解決を目的とした戦略的協働を行う際の具体的指針を提示している点です。すなわち、本研究によって導出された戦略的協働の実現可能性に関する8つの仮説命題は、それぞれ実践的意義を有しています。  しかし、本研究にも問題点がない訳ではありません。  第1に、本研究で分析された2つの事例の記述は、コンパクトに要領よくまとめられてはいますが、他方で2事例を併せても約50ページに過ぎません。事実に関するもう少し詳細かつ具体的な情報が提供されていれば、内容により深みがでたのではなかろうかという点です。  第2に、これは少数事例を対象とする定性的研究の宿命ではありますが、本研究から導出された仮説命題は、2つの事例研究から導出されたものに過ぎず、命題の一般化可能性については弱みが残る点です。したがって今後、本書で提示されている仮説的命題は、より多くの戦略的協働を対象 とした事例研究、あるいは定量的な研究を通じて検証される必要があるでしょう。  以上のように、本書は、著者自らが参加した共同研究の成果にもとづいて、著者自らが選択した2つの戦略的協働の形成・実現・展開の一連のプロセスを実証的に解明した先駆的で手堅い研究成果であるといえます。  したがって、審査委員会は、全員一致で、本書が「学術奨励賞」を受賞するに値するものと決定いたしました。 3. 学術奨励賞特賞  該当作なし

  • 第23回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    第23回大会記 〈2019年9 月15〜16日 久留米大学〉 統一論題 公益法人制度改革10周年―公益法人の可能性と課題を探る― 齋藤真哉  横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授  令和元年9 月15日(日)より16日(月)の日程で、非営利法人研究学会第23回全国大会が、久留米大学(御井キャンパス・本館)において行われた。   大会1 日目に、「公益法人制度改革10周年―公益法人の可能性と課題を探る―」を統一論題とする研究報告及びディスカッションが行われた。当該論題は、「民による公益の増進」を目的として、公益法人制度改革関連三法が平成20年12月に施行されてから10年が経過したことを機に、その制度改革の目的が達成されているのか、制度上の今後の課題は何かという問題意識に基づいて、さらには公益法人が果たす社会的役割に対する今後の展望についても検討すべきとの趣旨から設定されたものであり、制度と会計、税務の各観点から公益法人制度を見直すことを内容とした。  登壇した3 名の報告者とテーマは、①出口正之氏(国立民族学博物館)「税制優遇のルビンの壺:価値的多様性と手段的多様性の奨励」、②尾上選哉氏(大原大学院大学)「会計からみる公益法人制度改革の課題と可能性」、③苅米裕氏(苅米裕税理士事務所)「公益法人の拡充のために公益法人税制が果たすべき機能の考察」であった。なおコーディネーター(座長)は、齋藤真哉(横浜国立大学)が務めた。 統一論題報告 第1 報告 「税制優遇のルビンの壺:価値的多様性と手段的多様性の奨励」(出口正之・国立民族学博物館)  出口氏は、公益法人制度の改革における公益法人制度改革関連三法の立法趣旨が、「民間による公益の増進」にあったことを再確認し、そこでの重要な要素として「多様性」と「機動性」があったと整理された。そして民間における公益を増進するためには、行政の関与が最小限に止められる必要があるとの認識が示された。そして、その例として研究助成の場合を取り上げて、もし研究助成を民間に任せるとしても行政が統一された基準等により制約を掛けるならば、民間においても事務費等が掛かるため、たとえば日本学術振興会だけが研究助成を決定した方が効率的であることを説明された。そこで民間の公益法人の行為等を税制優遇等により規制することは、かえってパレート最適を妨げることが考えられるとの見解が示された。ルビンの壺とは、背景に黒地を用いて白地で壺を描いた図であり、白地に注目すれば壺に見え、黒地に注目すれば向かい合った2 人の顔に見えるというものである。官のロジックになじまない領域にそれを持ち込んでいることを、「ルビンの壺現象」と呼び、そもそも多様性のある民間に税制優遇を根拠としてそうした多様性を消し去るような官の介入があることが、本来の立法趣旨である「民間による公益の増進」を阻害する結果を導いているという問題点が指摘された。 第2 報告 「会計からみる公益法人制度改革の課題と可能性」(尾上選哉・大原大学院大学)  尾上氏は、会計の観点から、公益法人制度改革の趣旨に照らして、改革後の制度が有効な社会的システムとして機能しているのか、改善すべき課題は何か、今後の公益法人制度の発展に会計がどのように寄与しうるのかについて論じられた。改革後の制度の有効性については、制度改革により公益認定された法人の数よりも、一般法人の数の増加が著しい(後者が前者の約100倍)現状を踏まえて、制度改革が公益の増進に直結したのかについては疑問があるとの含意が示された。そして公益法人制度を支える柱としての会計について、公益法人に適した会計基準・会計制度になっているのかについて、課題が提示された。すなわち、1 つには、持分権者不在の公益法人(非営利法人)に対して、資本主理論に立脚する企業会計の理論と手法を導入していること、今1 つには、資源提供者に対する受託責任に関する会計情報の量・質の低下である。それらの課題に対して、公益法人の会計を法人主体理論に立脚して構築すること、またそうした理論に基づいた貸借対照表の表示方法の組換えや財産目録の活用、規模別の会計基準の適用が提唱された。さらに、一般法人の情報開示の検討や一般法人に適用される会計基準が必要であるとの見解が示された。そうすることで、情報開示と法人自治が推進され、一般法人をも含めた民による公益の増進が期待できると主張された。 第3 報告 「公益法人の拡充のために公益法人税制が果たすべき機能の考察」(苅米裕・苅米裕税理士事務所)  苅米氏は、制度改革により「公益的活動の健全な発展を促進し、一層活力ある社会の実現を図る」という課題の解決に寄与できたのかという問題意識に基づいて、税制の観点から制度改革後の税制について検討を加えられた。まず改革以降の法人税の課税を、公益認定された法人及び一般法人の両方について概括的に説明された。すなわち、税法上は、公益法人等と非営利型法人、普通法人との分類により、収益事業課税か全所得課税か、また公益目的事業に対する非課税措置、みなし寄附金制度等について整理された。その上で、財産相続に関わる節税スキームとして一般社団法人等が利用されているとの指摘をされた。具体的には、相続財産を一般法人に移転させることで、その所有権は喪失するものの、自ら又は子供が理事に就任することで、実質的な支配を継続することができるという内容である。特に非営利型の場合、寄附金収入は非課税となる点も確認された。こうしたスキームに対して一定の場合に相続税が課されることが紹介された。加えて、税制とも関わる公益認定の財務三基準や公益目的支出計画について言及された。それらを踏まえて、公益法人等に対しては全所得課税を前提として公益活動支出を即時償却扱いとする方法や、非営利型法人に対して公益活動等に使用しない純資産の一部に追加課税する方法等を取り上げて検討がなされた。  各研究報告に続いて行われたディスカッションにおいては、公益法人をめぐる諸課題、具体的には公益認定のあり方、監督やガバナンス(自律性)、情報開示、税制優遇に関して、活発な質疑応答が行われた。 特別企画  日本公認会計士協会「非営利組織における財務報告の検討〜財務報告の基礎概念・モデル会計基準の提案〜」に関する報告及びパネルディスカッションは、会田一雄(慶應義塾大学)をコーディネーターとして実施された。  まず、松前江里子氏(日本公認会計士協会)により、環境変化に応じて非営利セクター全体に共通の会計枠組の必要性を背景に、非営利組織における財務報告の基礎概念とモデル会計基準について、プロジェクトの活動経過を踏まえて、報告がなされた。続いてパネルディスカッションに入り、藤井秀樹氏(京都大学)より今回のプロジェクトの社会的意義及び組織特性から導出されたモデル会計基準の特質について、また、日野修造氏(中村学園大学)より純資産の区分とフロー財務表の表示形式に焦点を向け、米国FASと比較しながらモデル会計基準により作成される情報内容が論じられた。さらに、会場からの質問に対して、報告者及びパネリストからの回答及び討論が活発に展開され、今後の非営利セクター内での会計基準統合化の途を展望し、本報告を総括した(文責:会田一雄)。 自由論題報告 自由論題報告第1 会場 第1 報告 「副(福)業の可能性を拓く―福祉職の人材基盤強化にむけた中間支援組織の挑戦」(平尾剛之・きょうとNPOセンター、吉田忠彦・近畿大学)   65歳以上の人口の割合が全人口の21%を占めている社会、いわゆる「超高齢社会」を先進国の中で最初に日本が迎えている。生産労働人口が減少し、これまでの「当たり前」では対応できない、また多様な働き方が求められている現状において、中間支援組織であるきょうとNPOセンターは公益財団法人トヨタ財団の助成を得て、福祉現場での副業によるキャリア形成を推進するための福業推進プロジェクトを形成し、福祉職への就労機会の創出や社会支援基盤の強化にむけた取組みに挑戦している(文責:吉田忠彦)。 第2 報告 「非営利組織におけるコア・スタッフの育成と確保のための人的資源管理施策―中間支援組織を事例として」 (東郷寛、團泰雄・近畿大学)   日本の支援型NPOの多くは経営基盤が不安定であるために、コア・スタッフのリテンションが困難であるという課題を抱えているが、ミッションを具現化するための経営課題にうまく対処するためにはコア・スタッフのリテンションやそれに伴う人的資源管理(HRM)施策の整備が不可欠である。従来のNPOにおけるHRMに関する研究ではこの点が十分に論じられていない。  そこで、本研究ではHRMの視点から、3 つの支援型NPOの事例分析をもとに、支援型NPOが社会的価値を生み出すための条件に関する以下の仮説を導出した。①共通の経営環境下にある組織間でも、社会的価値創造を支える戦略的行為能力に差が見られる、②コア・スタッフの確保と育成面での違いが、戦略的行為能力の違いを生み出している、③組織の成長とHRMの仕組み化の程度がコア・スタッフのリテンションの程度とスタッフの組織内キャリア形成の促進の程度を規定する、④組織内の知識と情報の循環が活性化するとスタッフのエンゲージメントが高まり、スタッフの成長ひいてはコア・スタッフのリテンションに影響を与える。  また、事例分析からはコア・スタッフの役割の重要性やエンゲージメントを高める施策の重要性が明らかとなり、今後はコア・スタッフの育成施策が能力向上や組織成果につながるメカニズムの特定などが課題となることを示した(文責:東郷寛)。 第3 報告 「NPO支援をめぐる施設、組織、政策―アクターネットワーク・セオリーの視点から」(吉田忠彦・近畿大学)  わが国のNPO支援をめぐる施設、組織、政策の相互作用について、ラトゥールらによって推進されるアクターネットワーク・セオリーの視点から分析することを目的として、神奈川県によって1996年に設立された「かながわ県民活動サポートセンター」の設立プロセスと「かながわボランタリー活動推進基金21」の設置プロセスをケースとして取り上げた。  センターも基金も、当時の知事の強いリーダーシップによって導かれたが、それだけでは実現しなかった。その背景となる要素があった。神奈川県では米軍基地があることで住民運動が盛んであったし、神奈川県や横浜市では長年にわたって革新自治体が強く、行政と市民活動とはある程度の相互依存関係もあった。さらに、その長年にわたる革新自治体によって行政の財政事情が悪化しており、それが元大蔵官僚であった知事を生むことになった。またもう1 つ大きな点は、横浜駅から徒歩数分という利便性の高い所に県の行財政改革の対象となる県民センターという箱モノがあったことである。日本の社会全体の流れにおいても、阪神・淡路大震災が発生し、ボランティア革命と呼ばれるような動きがあり、NPO法成立に向けてのさまざまな場所での活動が活発化していた。これらの諸要素が相互作用していたのである。決してワンマンな知事の意向や力だけでセンターや基金はできたわけではなく、基本の計画でさえその後にも市民団体との間で交渉が続けられ、変化していったのである(文責:吉田忠彦)。 自由論題報告第2 会場 第1 報告 「地方創生と公民協働のまちづくり」(澤田道夫・熊本県立大学)  「地方創生」の取り組みについては、2015年に地方版総合戦略が策定されて以降、全国でさまざまな取り組みが展開されている。しかし、そもそも「地方創生」が始まったきっかけについてはあまり知られていない。地方創生の取り組みが始まったのは日本創成会議が2014年に発表したレポート(いわゆる増田レポート)からである。同レポートにおいて、今後の人口減少社会の中で市区町村の半数に当たる896の自治体が「消滅可能性都市」という指摘を受け、全国にショックが広がった。これに対処するために国が始めたのが「地方創生」である。 ではなぜ「消滅可能性都市」なのか。同レポートでは若年女性が2010年から2040年までの30年間に50%以上減少する自治体を消滅可能性都市と呼んだ。若年女性が域外に流出してしまうことが次世代の人口を減少させ、地域の持続可能性を低下させる。すなわち、地方創生の鍵を握るのは若い世代の雇用・出産・子育て等に関する支援ということになる。しかし多くの市町村ではこの事実を理解しないまま、既存の地域振興策のマイナーチェンジに終始しているのが実態であろう。 この点において、本学会が研究対象とする非営利法人は、若年女性の活躍の場となるケースも多く、地方創生にとって重要な役割を果たしている。今後自治体が地方創生の取り組みを進めるに当たり、非営利法人との協働が必要であろう(文責:澤田道夫)。 第2 報告 「民間非営利活動と地域資源活用に関する経済学的考察―広島安芸高田神楽の事例研究―」 (今枝千樹・愛知産業大学、藤井秀樹・京都大学)  地方創生につながる地域資源を開発するには、資源の戦略的な重点配分が不可欠であり、そのためには地域資源の提供者と支援者の間の情報の非対称を緩和する必要がある。かかる問題意識から広島安芸高田神楽のケーススタディを行い、以下の知見を得た。第1 に、事情に精通したマルチプレイヤーが情報の非対称性の緩和に大きく貢献し、支援の傾斜配分を可能にしていることである。第2 に、地域資源として活用可能な神楽団の選抜にあたり、競演大会での優勝実績がシグナリングとして機能していることである。第3 に、神楽が地域資源として実質的に機能していることである。第4 に、持続可能な取組みとするには人材の育成が大きな鍵になることである(文責:今枝千樹)。 第3 報告 「中山間地域を支える非営利法人の地域おこし活動―その意義と活動構造を中心に―」 (井寺美穂・熊本県立大学)  本報告は、耕作放棄地の増加や地域づくりの衰退など多くの課題を抱える中山間地域のひとつである熊本県山鹿市の岳間地域において、地域おこし活動を積極的に展開する特定非営利活動法人(NPO法人)-岳間ほっとネット-の活動事例を分析対象としながら、地域における法人活動の意義やその活動構造について考察を試みるものである。地域担当職員制度の効果により、きめ細やかな行政メニューが提供され、積極的な活動展開が行われているという仮説のもと、研究を展開している。  結論としては、①活動の中心である少人数のブレーンが役割分担をしながら、地域内外の他団体とのパイプ役を果たし、団体間連携が図られていること、②「当事者志向」の地域担当職員が「地域係」という担当業務を担いながら地域支援を行うことにより、NPO法人の積極的な活動展開につながっていることを明らかにしている(文責:井寺美穂)。 自由論題報告第3 会場 第1 報告 「子ども食堂におけるドメインの定義」(菅原浩信・北海学園大学)  本報告は、子ども食堂において、どのようなドメインの定義がなされているのかを明らかにすることを目的としている。具体的には、新潟県内の6 つの子ども食堂を分析対象として採り上げ、当該子ども食堂の運営団体の代表者等に対する聴取調査を実施し、その結果についての分析及び考察を試みている(文責:菅原浩信)。 第2 報告 「NPO法人の認定制度からみえてきた問題点について―支援団体からの聞き取りを通じて―」(川村基・四国大学)  本報告は、わが国において、NPO法人の数に比して認定NPO法人の数が少ない理由を、支援団体への聞き取り調査から明らかにすることを目的としている。認定NPO法人が少ない理由として、①認定制度の問題点と②NPO法人のマネジメントの2 つが指摘された(文責:川村基)。 第3 報告 「災害とソーシャル・キャピタルに関する一考察」(黒木誉之・長崎県立大学)  本報告は、熊本地震の熊本県益城町と東日本大震災の宮城県南三陸町の現地調査の結果から、被災者による取り組みをソーシャル・キャピタルの視点から分析したものである。分析の結果、次の3 点が明らかにされた。①平時期には祭りなどが重要である。②災害期にはサードプレイスが必要である。③復旧期以降には緩やかなネットワークを形成するサードプレイスが必要である(文責:黒木誉之)。 自由論題報告第4 会場 第1 報告 「18世紀の懐徳堂から考察する資本維持」(水谷文宣・関東学院大学)  現代日本における高橋(2003)は資本維持のためにも減価償却は根拠がないとする。アメリカにおいてはSFAC No.6が資本維持は必要と唱えている。日本の実務家からあるかもしれない反応は、日本ではどうか、実務ではどうかというものである。研究手法としては、アーカイバル・メソッドを採用した。懐徳堂は18世紀に大阪で設立された私立学校であり、武士ではなく町人が経営していた。大阪大学総合図書館の懐徳堂文庫に大量の史料が保管されている。本報告では現存する最古の『懐徳堂義金簿』を活用した。1781年に前書きが書かれている。  修繕が必要となり懐徳堂は存続の危機となった。学校において建物はサービス提供能力に直結する。収入が支出を超過していることが実体資本維持の達成を示す。イギリスの複会計システムと相性が良いのは取替法であり、『懐徳堂義金簿』には取替という言葉が登場していた。ただし当時の日本は鎖国中であった。古典的にはシュミットが物価変動を考慮した実体資本維持を提唱していた。齋藤(2016)はシュミットとは異なる実体資本維持を提唱している。懐徳堂は齋藤(2016)の言う実体資本維持はしていたと言える。学校法人会計基準には基本金概念があり資本維持の発想がある。残された課題は、シュミットの実体資本維持が懐徳堂でも現代会計でも採られていない理由は何かということである(文責:水谷文宣)。 第2 報告 「非営利法人会計における公正価値情報の有用性の考察」(宮本幸平・神戸学院大学)  報告では、非営利法人会計において、近年新たに導入された公正価値会計の情報が有用となるかにつき、経済学の分析ツールである「比較制度分析」を援用して分析を行った。  まず、非営利法人会計の「基本目的」(objectives)につき、非営利法人会計概念書に基づいて整理された。非営利法人会計の「基本目的」(objectives)に関して、FASB概念書第4 号によれば、資源提供者その他の情報利用者が、用役を提供し続ける組織体の能力を評価するのに役立つこととされる。このようなFASBの規定につき、非営利法人会計の概念として措定すべき重要なものが、財務的に保持していかなければならない能力である「財務的生存力」であることが説明された。  次に、非営利法人会計において公正価値評価を導入することの、会計理論的問題点が明らかにされた。保有する金融商品や有形固定資産が公正価値で評価されることになれば、未実現損益が認識されて、財務的生存力の査定に影響を及ぼす可能性がある。公益法人会計/貸借対照表に対し、不確実性及び非客観性が実現利益と比べて強い公正価値評価額が誘導されれば、社会福祉法人会計や学校法人会計よりも、財務生存力を査定する能力の点で劣ることになることが指摘された。  さらに、「比較制度分析」による、非営利法人における、公正価値会計導入の要因分析が行われた。公正価値会計情報を適正に表示して資金提供を受け続けている「非営利法人」の期待将来利得の割引価値をV a、現在資金提供を受けていない「非営利法人」の期待将来利得の割引価値をViuと(i =h、C )とすると、次の式が導出される。  そしてこれをもとに、非営利法人が、公正価値会計情報を表示しないインセンティブを持たない、以下の条件式が導出された。  式より、αと3 つの小カッコの中がいずれも正であるため、WはπC及びπhの値に依存している。ここでπCの値が低いときは、損失非表示を行ったことによる再契約率が低いことを示す。そして、πCの値が低い場合には、「非営利法人」が将来に得られたはずの利得を失う確率( 1 -πC)が高くなり、この場合に「非営利法人」の利得Wが小さくなる。したがって、非営利法人が公正価値会計情報を適正に表示すれば利得が増加することが、本ゲーム・モデルから導出される式によって明らかになると結論付けた(文責:宮本幸平)。 第3 報告 「英国の小規模チャリティと会計」(上原優子・立命館アジア太平洋大学)  わが国の非営利・公益法人の中で、小規模なものは多い。これらの法人では組織的体力が弱いために、十分な管理体制や適切な財務諸表の作成が困難な状況にあるものが存在する。NPO法人も公益法人も、そもそもの法人の趣旨から考えれば、社会に貢献する組織が数多く成長し、活性化することが望まれている。  英国のチャリティも同様に、小規模な組織は多いが、その組織規模の負担を考慮した制度が存在する。財務諸表の作成に関しては、一定規模以下のチャリティには、現金主義での財務諸表の作成が認められている。専門性を必要とする会計について、負担を感じている組織も多いことが予想されるわが国の小規模法人の状況を考えると、英国のように段階的な会計処理を検討することには意義があると考える(文責:上原優子)。 NPO法人研究部会ワークショップ「現場の声に耳を傾ける」  NPO法人研究部会報告というタイトルではあるが、せっかく地方で実施する大会なので大会実行委員会から「ご当地企画」として現場の声を実際に聞きたいという要望があり、異例の形のセッションとなった。  大会委員長の伊佐淳氏から上記の意図が述べられた後、公益財団法人佐賀未来創造基金専務理事吉村興太郎氏から、設立の経緯、公益法人への道、現在の広範なプログラムの説明がなされた。その後、事業拡大のために行政庁を佐賀県から内閣府へ変更しようとしたところ、佐賀県認定なのに熊本地震でボランティアを派遣したことを責められるなどして結局諦めた経緯が語られた。次に、認定NPO法人ピースウィンズジャパンをはじめ非営利組織での経験豊富である、宮原信孝氏が一般財団法人を立ち上げたばかりの筑後川コミュニティ財団の設立の経緯を報告した。久留米には市民団体が約400近くあり、寄付をしてもよいという人もいるが、鍵は税控除だと言われているので何としても公益を目指したいと決意が語られた。 次に、ファシリテーターの出口から、行政は細かな対応に流れるからこそ有識者による第三者機関が制度として入っているのであって、有識者といわれる人たちの能力が、制度が求める以下の場合の時についてはそれを指摘する責任がアカデミックコミュニティには存在すると締めくくった(文責:出口正之)。

  • 第2回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    統一論題 公益法人のレーゾン・デートルを考える  1 非営利組織のマネジメント  2 「公益性」の概念に関わる論点  3 公益法人のレーゾン・デートル─財政学の視点から 青山学院大学  杉山 学 第2回大会記 1998.10.3 近畿大学  去る1998年10月3日、公益法人研究学会(守永誠治氏(静岡産業大学))の第2回大会が、近畿大学において開催された。  統一論題『公益法人のレーゾン・デートルを考える』のもと、松葉邦敏氏(成蹊大学)の総合司会により、3題の研究報告並びに討論が行われた。また、自由論題の報告と記念講演も併せて行われた。  自由論題は、会場をA会場とB会場に分け、A会場(11月ホール小ホール)(司会:藤井秀樹氏(京都大学))では、「公益法人の事業戦略」田口敏行氏(静岡産業大学)、「営利企業による非営利活動の実態と今後の動向」竹内拓氏(産能短期大学)が、B会場(20号館5A)(司会:杉山学氏(青山学院大学))では、「非営利組織における理事会と経営者の役割」吉田忠彦氏(近畿大学豊岡短期大学)、「学校法人会計の問題点と財政状況開示の現状」早川幸夫氏(村田簿記学校)の計4題が発表された。  また、記念講演では柿木昇治氏(広島修道大学)に「シニア研究の視点−心理学研究からみた老人問題あれこれ」と題してご講演いただき、大会に華を添えた。  以下、統一論題の報告の要旨を杉山 学氏(青山学院大学)にまとめていただいた。 1 非営利組織のマネジメント    報告:小島廣光氏(北海道大学)  非営利組織を社会的ニーズの充足と市民の社会参加を実現する、という2つの課題に挑戦している組織と捉える。まず環境適応理論に依拠しながら非営利組織を分析するための概念的枠組と分析視角が提示される。概念的枠組では、⑴組織間環境、⑵技術、⑶市場環境が考察される。分析視角は、⑴資源依存モデル(技術戦略・統治との関係及び環境状況と組織特性との関係)である。  非営利組織を資源依存性とタスクの不確実性という2次元により4つのセルに分類し、それぞれのセルに属する非営利組織の特性を示し、その結果として4つの仮説を演繹する。そして、4つの仮説を社会福祉法人北海道いのちの電話ほけ2つの非営利組織を対象にして検証している。さらに、環境状況−戦略−組織特性に関する基本モデルを示し、6つの仮説を演繹し、当該仮説を141の非営利組織を対象に検証している。使用された分析視角は、もっぱら営利組織の分析のために開発されたものであるが、非営利組織に対しても有効であると小島氏は主張する。したがって、本研究で得られた分析結果は非営利組織のみならず、営利法人にも有効であることを示唆している。 2 「公益性」の概念に関わる論点    報告:渋谷幸夫氏(株式会社ケイネット)  民法34条に公益性の概念規定がなされていないことが、公益法人等をめぐる問題の根源であるという問題意識から、⑴公益性の概念、⑵指導監督基準における公益性、⑶行政と公益性、⑷公益性の概念と非営利性概念、⑸公益性の認定、に関して考察する。  公益を「社会全般の利益、すなわち不特定多数の者の利益を目的とするものである」との通説は、「公益を目的としていないが、公益に関するものであればよい」とする民法規定より厳格である。しかし、現存する公益法人の中には特定多数の者の利益を目的としているものもあり、公益性の定義としての「不特定多数の者の利益」とは何か、が問われている。民法は法人を営利法人と公益法人に区分している。民法34条の規定には公益性と非営利性の2つの基準が存在しており、たとえば、公益性はあるが、営利を目的とする法人は公益法人とはなり得ないという、問題が生ずる。渋谷氏は、営利・非営利を、まず事業内容から、次に団体構成員に利益を分配するか否かの観点から判断する、とする能見教授の見解とを比較検討し、民法の改正を含めて抜本的改革を提唱する。 3 公益法人のレーゾン・デートル    報告:植田和弘氏(京都大学)  貧困の克服・不平等の是正・恐慌循環の対処を課題とする経済学を起点に、「安価な政府」論と経費膨張の法則という概念を用いた現代財政システムの基本問題から、公共サービスの供給システムの確立過程を史的考察する。国営中心の福祉政策は官僚制の拡大から重税をもたらすこととなった。1978年カリフォルニア州13号提案は、公共サービスの充実による税負担の過重に対する納税者の反乱であった。しかし、その結果、教育・福祉のカットを含む行政水準が低下した。ここに福祉サービス供給システムにおける公共と民間の分担が課題となり、官僚制によるサービスの硬直性からニーズに合ったサービスを提供できる非営利組織が注目されることとなった。非営利組織の役割は公共サービスの官僚化を防止することにあり、受益者は公共機関、民間、非営利組織それぞれによって提供されるサービスを選択する必要がある。植田氏は選択するための情報の開示が不十分であること、また、在るべき非営利組織のサービスと現実とのギャップを克服する条件の整備が課題であると指摘する。  討論会では座長:戸田博之氏(神戸学院大学)の司会のもと、上記3者の報告に関して、藤井秀樹氏(京都大学)、吉田忠彦氏(近畿大学豊岡短期大学)、樽見弘紀氏(立教大学)、亀岡保夫氏(公認会計士)、建部好治氏(公認会計士)、川野裕二氏(豊田財団)、守永誠治氏(静岡産業大学)から、公益性と非営利性の概念及び相互関連性などに関して質疑応答があり、報告者相互間やフロアを交えての活発な討論が行われた。  その後、場所を同大学の地下食堂に移し、懇親会が催され、終始なごやかなうちに会員の親睦がはかられた。

  • 第27回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    第27回大会記 2023年9月16日~17日 大阪商業大学 統一論題 「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」 1 はじめに  公益社団法人非営利法人研究学会第27回全国大会が、2023(令和5)年9月16日(土)・17日(日) の両日、大阪商業大学(大阪府東大阪市)のユニバーシティホール蒼天、4号館2階・3階等を会場として開催された。  2023年5月に新型コロナウィルス感染症も5類感染症に移行したことから、本大会もすべてのプログラムを対面で実施した。幸い両日とも好天に恵まれ、全国から90名を超える多数の会員・非会員の出席をいただいた。  本大会では、統一論題を「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」と設定し、社会の中で非営利法人(非営利組織)をいっそう振興し、幅広く支援する政策や活動、制度や仕組みのあり方について、研究報告や討論会を行うこととした。  大会中は統一論題報告、自由論題報告、四つの分野別研究会と一つのスタディグループによる研究報告が行われた。また、本大会独自の企画ワークショップや企画セッションでは、非営利法人による公益的活動の持続的発展や柔軟な展開に資する法制や税制、支援のあり方について、理論と実務の両面から議論を深めることができた。  大会前日の9月15日(金)に常任理事会と理事会、16日(土)に社員総会と新理事会が開催された。 2 統一論題 報告及び討論  かつて東西冷戦の終結を背景として、世界的な民間非営利セクターの台頭が論じられた。爾来四半世紀余りを経て、わが国でも非営利法人(非営利組織は、社会や地域の充実・発展に不可欠な 主体として大いに普及、定着してきた。一方、公益法人制度をはじめさまざまな法人類型にわたり不断に改革が重ねられている。  ロシアによるウクライナ侵攻など国内外における政治・経済・社会の激変の下、政府、民間企業と鼎立する非営利法人(非営利組織)は、改めてその存在意義や果たし得る役割、機能を強く問われている。  そこで、本大会では、前掲のとおり、統一論題を「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」と設定し、3名の会員による「報告」、座長の進行の下「討論」を行った。 2.1 統一論題報告 (16日、13:00-14:45) (1) 解題(統一論題趣旨説明) [司会]初谷 勇 氏(大阪商業大学)    導入として、統一論題を「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」と設定した趣旨説明と本論題に込めた問題関心、次いで3名の報告者の紹介ならびに報告を依頼した趣旨など「解題」がなされた。  統一論題報告では、非営利法人(非営利組織)の一層の充実と伸展を支える振興策や支援活動等 について、現状を把握、評価し、解決の急がれる課題について、取り組むべき方策等も含めて論ずるものとした。特に、「国民、市民や専門家など個人」、「民間企業、中間支援団体、士業団体など組織や団体」、「国・地方自治体の政策、制度」の各々による振興と支援という3つの側面と、それらの側面相互の関連性も踏まえつつ、理論と実践をつなぐ活発な議論を目指すものとした。  次いで、各報告者から以下の研究報告がなされた。 (2) 第1報告 「専門職・士業団体による公益的活動と非営利法人の振興と支援:弁護士及び弁護士会の取り組みを事例として」 三木秀夫 氏(弁護士)  本報告では、まず、三木氏が弁護士、プロボノとして早期から培われた非営利法人(非営利組織)への持続的な関心と、さまざまな非営利法人への多角的な関与の経験が紹介された。  その上で、「専門職・士業団体の制度的な位置づけと、その公益的活動とは何か。それらの公益的活動には、非営利法人の振興と支援に当たるものがあるのか」という問題関心の下に、①個々の弁護士個人による自発的な公益的活動、②単位弁護士会やそれらの連合会という組織の活動、③弁護士や弁護士会の運動や提言に基づき、あるいは契機として推進、整備されている政策や制度、という3つの局面から見た非営利法人(非営利組織)の振興と支援について論じられた。 (3) 第2報告 「非営利法人の振興に寄与する『中間支援』とは何か:NPOそして中間支援組織の言語論的転回の視点」 吉田忠彦 氏(近畿大学)  本報告では、まず経営学、組織論の研究者として、吉田氏が非営利法人(非営利組織)への問題意識を抱いた経緯と、多年にわたり研究対象としてきた「中間支援組織」の系譜、現状の紹介がなされた。 その上で、「非営利法人の振興に寄与する『中間支援』とは何かを論究」し、「『NPO』、『中間支援組織』を、言語と活動との関係から分析する」ことを研究目的とし、その考察のために、わが国で非営利法人(非営利組織)の「中間支援組織」と見なされる組織の系譜と発展の経緯、それらの組織の設立パターンを整理された。 次いで、「NPO」、「中間支援組織」という言語と、実際の組織やその活動の実体との結びつきに「ゆれ」があるとし、「中間支援組織」という用語とその意味を分析するアプローチとして、「人文学における言語論的転回の視点を導入」して説明された。 (4) 第3報告 「非営利法人の官民協働理論の応用としての『フィランソロピー首都』創造に向けた取り組み」 出口正之 氏(国立民族学博物館)  本報告では、まず、非営利研究者として、文化人類学的な視点から会計問題に関心を伸展させてきた出口氏の、非営利セクターの振興と支援に関するこれまでの取り組みが紹介された。  その上で、「アンソロビジョン(人類学的思考)で非営利法人制度を再検討」するため、大阪府・ 市の政策に参与し、その「副首都ビジョン」(2017年)で副首都の4機能の1つに挙げられた「民都」の具現化を図り、非営利セクター全体の民間組織を目指す「『民都・大阪』フィランソロピー会議」 を発足させて運営してきた経験とその活動成果について報告された。  次いで、この「民都・大阪」フィランソロピー会議の運営の羅針盤として、Bryson、Crosby、Stoneらの論文で示された「セクター間協働」の成功の要素に係る「22の提案」を参照したことが紹介され、実際に適用・援用した結果を評価された。 2.2 統一論題討論 (16日、17:15-18:15)  統一論題「非営利法人(非営利組織)の振興と支援」について上記の3報告を受けて、同日後刻 に、統一論題の討論が行われた。  討論者を兼ねる座長(初谷 勇 氏)から、3報告に対してコメントと質問がなされ、三木秀夫 氏、 吉田忠彦 氏、出口正之 氏の各パネリストから回答やコメントが返され、活発な討論が行われた。フロアから寄せられた質問にも、指名を受けたパネリストから応答がなされた。 3 自由論題報告  今大会は、2022年12月に改正された新たな学会諸規程に基づき運営したところであるが、自由論題報告についても、地域部会での報告、推薦を得て応募する方法に加え、大会準備委員会に直接申し込み応募する方法が整えられたことから、2023年6月末の締切までに、両方法の選択により計7名の会員の応募があった。  7月初旬に準備委員会を開催し、応募原稿の形式・内容を確認の上、全ての応募を採択し、大会で報告をいただいた。後掲のスタディグループ中間報告と合わせて、大会両日とも同時に4会場に分かれ、おのおの個別に司会者を立て、平行して以下の自由論題報告がなされた。各会場では、報告に対して真摯な質疑応答が交わされた。 3.1 自由論題報告① (16日、16:20-17:00) (1) 第1報告 (16日、1-1) [司会]馬場英朗 氏(関西大学) 「公益法人に要求される収支相償の考察 ― 特定費用準備資金と地方財政法等に係る積立基金の比較 ―」 苅米 裕 氏(税理士)  本報告では、公益認定基準の一つである収支相償に対する問題意識から、「年度間の財源調整等の規定が、地方公共団体には前年度までの歳入欠陥を埋めるための財源、及び災害等により生じた経費又は減収の財源として、財政調整基金の積立による対応が図られているが、公益法人には過去の正味財産の減少額を充当すること、また、災害等の不確実な事象に対するその対応措置が存していない」ことに着目し、「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告で当該対応の欠落をフォローする公益充実資金(仮称)の措置を求める旨の記載がなされていることを評価し、「地方公共団体の財政運営に類似する環境下を参考とする対応」を期待するとされた。 (2) 第2報告 (16日、1-2) [司会]中嶋貴子 氏(大阪商業大学)  「自治体外郭団体の運営実態に関する研究 ― 自己組織性の視角による考察に基づいて―」 吉永光利 氏((公財)倉敷市スポーツ振興協会)  本報告は、「自治体外郭団体が国等による多様な行政施策に対応しながら、どのような運営を行っているのか、自己組織性の視角から、その実態を考察するものである」。  外郭団体は、「その特性から、組織の存続可否も含めて、国等が行う施策の影響を受けることが多い」が、「従来の国等による支配的・管理的な運営から脱却し、自律性をもった運営へと転換している事例が見られる」。そこで、本報告では、「自治体外郭団体の運営がどのように変わっているのか、とくに、変容の起点となる人(職員)の意識や行動に焦点を当てて、運営の実態を考察」している。 ⑶ 第3報告 (16日、①-3) [司会]吉田初恵 氏(天理大学) 「戦中期自伝からみる企業家フィランソロピストの篤志観形成史 ― 石橋正二郎と水明荘夜話」 川野祐二 氏(下関市立大学)    本報告では、「日本を代表する非営利法人の多くが、日本を代表する企業家たちによって創設され、また支援されてきた」こと、また、「時代を象徴する社会貢献事業は、企業を率いた『企業家』によって実行に移された」との認識の下、「ブリジストンの創業者にして、石橋財団や九州医学専門学校 などを創設、芸術と教育の社会事業家でもあった石橋正二郎をとりあげ」ている。1944(昭和19)年11月という「戦中期に記された石橋正二郎初の自伝『水明荘夜話』に注目し、戦中期およびその前後における彼の篤志観の一端を歴史的に考察」された。 3.2 自由論題報告② (17日、16:20-17:00) ⑴ 第4報告 (17日、②-1) [司会]馬場英朗 氏(関西大学) 「決算書から見るNPO法人会計の問題点 ― 北海道をケースとして ―」 大原昌明 氏(北星学園大学)    本報告では、「適正な決算書を作成することは、法人のミッションを遂行するための会費収入や寄付金収入を安定的に受け取るための大前提」としたうえで、「NPO法人の決算書作成実務に存在する問題点を、実態調査(北海道内のNPO法人の全数調査)を通して抽出し、その問題点を解決するための方策を考察する検討資料」を提示している。決算書作成にかかわる問題点として、⑴会計基準準拠か否か、⑵計算構造周知の不徹底さ、⑶すべてがゼロ法人、⑷区分表示と項目の適否の4点、また、情報開示の現状に関する問題点として、3割程度の法人が事業報告書等を所轄庁に未提出であることを指摘し、これらの問題点を解決し、信頼性を高め、比較可能性を担保するためにも、会計基準準拠の決算書作成をなお一層啓発すべきと提言されている。 ⑵ 第5報告 (17日、②-2) [司会]中嶋貴子 氏(大阪商業大学) 「地方自治体が推進する要保護児童を対象とした就農プロジェクト~きつきプロジェトの事例~」 山田敦弘 氏(日本総合研究所)    本報告では、近年「人口減少などに起因する様々な課題を抱える地方自治体において」、「福祉を推進することで地域再生も合わせて推進することができれば、理想的な取組みである」との問題意識の下に、報告者も深くかかわった大分県杵築市における「きつきプロジェクト」(大分県内の九つの児童養護施設の入所児童を対象に、杵築市の農家及び農業法人で1日~数日の就農体験をしてもらう事業)の事例研究を行っている。「福祉の推進」と「地域再生」の連携の可能性、直面する課題、解決ポイントなどについて、主に地方自治体の立場に立って分析した成果が発表された。 ⑶ 第6報告 (17日、②-3) [司会]森美智子 氏(熊本県立大学) 「我が国の非営利組織会計統一化の必要性 ― 病院及び社会福祉法人会計の相違点に焦点を当てて ―」 谷光 透 氏(川崎医療福祉大学)    本報告では、「医療法人であっても社会福祉事業を行うことができるため、社会福祉事業を主たる事業としている社会福祉法人と事業が重複しており、それぞれ会計基準が異なるために事業の横断的理解が困難」な現状にあるとの問題意識の下、「⑴病院会計準則、医療法及び社会福祉法の目的」 と「⑵それらの目的に沿った情報開示制度の現状」の視点から、非営利組織会計統一の必要性について検討がなされた。 ⑷ 第7報告 (17日、②-4) [司会]藤澤浩子 氏(法政大学) 「地域担当職員制度の真価」 井寺美穂 氏(熊本県立大学)    本報告では、「人口減少時代の地域経営/自治体経営のためには、地域と行政の対話や協働を促し、双方が知恵を出し合いながら、効率的に問題へ対処していく必要があり」、「地域問題に対応可能な地域の自治力を向上・維持するためには、自治力を補完する仕組みの構築が必要である」との問題認識の下に、仕組みの「一つである地域担当職員制度」を取り上げている。    多くの自治体に注目されながらも、浸透していない同制度の「問題点を考察しながら、その有用性に注目し、地域への適応可能性について検討」している。熊本市、長洲町など熊本県内4市町における同制度運用状況の調査結果も踏まえ、地域担当職員制度の機能と逆機能を挙げ、それらの逆機能を解消し、有用性を高めるよう、「自治体組織全体による総合的な仕組みづくりに関わるような制度設計」の必要性を説かれた。 4 分野別研究会報告(17日、9:30~12:10)    分野別研究会報告は、大会2日目の17日午前に、四つの研究会の報告を連続して実施した。分野別研究会は2年間の活動期間とされており、「公益・一般法人研究会」は初年度をおえての中間報告、  「NPO法人研究会」、「医療・福祉系法人研究会」、「大学等学校法人研究会」の3者は2年度目をおえての最終報告であった。    なお、2022年12月の学会諸規程の改正により、現行の分野別研究会は、各々その最終報告をもって終了するものとされ、新たに特別委員会が設置されることとなった(その後、今大会時の理事会で二つの特別委員会の設置が承認されている)。 4.1 分野別研究会報告⑴ (17日、9:30~10:10) 「公益・一般法人研究会」 (中間報告) [座長]尾上選哉 氏(日本大学) [司会]櫛部幸子 氏(大阪学院大学)    公益・一般法人研究会では、「寄付という経済事象に関わる種々の現状や課題を明らかにするとともに、課題に対する解決策をも可能な限り模索し提示することを目的として」、「寄付について、会計・法律・税務・経営という多角的な視点から考察・検討を行うもの」とされている。  今回の中間報告では、全5章からなる中間報告書が提出され、座長の尾上選哉氏の司会により、 「研究報告の章立て」(予定)のうち、「第1章 寄付にかかる会計のあり方」(尾上選哉氏)、「第3章 寄付の使途拘束をめぐる慣行と法的問題―公益法人の自律性と説明責任を踏まえたリスクマネジメント―」(久保秀雄氏)、「第4章 寄付にかかる税務」(上松公雄氏)の3報告が行われた。 なお、次年度全国大会での最終報告では第2章、第5章を中心に報告を行い、最終報告書を作成、配布の予定とされた。 ①「寄付にかかるスチュワードシップ会計」 尾上選哉 氏(日本大学)    本報告では、「非営利組織における寄付の受領の重要性という観点から、自発的な反対給付を伴わない寄付を受領し、その寄付を主な資金源として活動する非営利組織において、どのような会計を行うことが、非営利組織のミッション(使命)継続につながるかを考察・検討された。 ②「寄付の使途拘束をめぐる慣行と法的問題 ― 公益法人の自律性と説明責任を踏まえたリスクマネジメント―」 久保秀雄 氏(京都産業大学)    本報告では、「使途に制限が課された使途拘束のある寄付に関して、受領者が何らかの事情でその制限に従うことができなくなった場合、受領者はどのように対処するのが望ましいのか」との問題関心の下、寄付の使途拘束をめぐる慣行と法的問題を検討している。公益法人を主な対象に、若干の事例に関する探索的調査から、寄付者の意思を受領者(受贈者)がいわば拡大解釈して使途の変更を行い、寄付の有効活用が図られている現状を把握し、そうした対処のリスクを法的問題と寄付の促進に対するブレーキという観点から指摘した上で、有効な対策の提案を試みられた。 ③「寄付に係る税務」 上松公雄 氏(大原大学院大学)    本報告では、「誰が、どのような資産を、どのような機会、経緯、理由によって、どのような非営利法人に寄附をした場合に、どのような租税法規及び税務上の取扱いが適用されるのかについて整理すること」を目的として、まず課税上の原則的取扱い、寄付の実施形態を述べ、拠出者が個人である場合の租税負担軽減または非課税の特例等と、租税回避防止規定が検討された。 4.2 分野別研究会報告 ⑵(10:10~10:50) 「NPO法人研究会」 (最終報告) [座長]初谷 勇 氏(大阪商業大学) [司会]澤田道夫 氏(熊本県立大学) 「共通論題:NPO法人制度の特長と新たな展開の可能性」    NPO法人研究会では「NPO法人制度の特長と新たな展開の可能性」を共通論題として設定し、 各委員による個別論題の研究報告やゲストによる報告など議論を重ねてきたことが示され、今回は、最終報告として、委員の澤田道夫氏の司会により、4委員から次の4報告がなされた。 ①「非営利法人の体系とNPO法人」 初谷 勇 氏(大阪商業大学)    本報告では、非営利法人の体系化のとらえ方(枠組み)と、NPO法人の位置づけや意義について、系統分類学や文化系統学の先行研究も踏まえて「系統」と「分類」の観点から整理した上で、まず「系統」問題として、一般法人法の一般法化とそのなかでのNPO法のあり方やNPO法人の方針選択について、また「分類」問題として、非営利法人の類型(形態)分類、事業分類等における分類基準について論じられた。 ②「町内会・自治会基盤の非営利組織法人化の意義と課題:横浜市内18区地区センター指定管理者 調査から」 藤澤浩子 氏(法政大学)    本報告では、横浜市において、従来、施設管理目的の地縁系団体であった「区民利用施設協会」 を前身とする法人が、18区の地区センター等複数の住民利用施設の指定管理者となっていることに着目し、「地縁系組織の法人化」のケーススタディとして、その法人形態、組織体制、組織化の沿革、業務内容・組織運営等について精査した結果に基づき考察を加えられた。 ③「地域コミュニティの持続可能性とNPO法人制度」 澤田道夫 氏(熊本県立大学)    本報告では、「NPO法人等の活用による自治会等の法人化が、地縁組織の活性化を可能とするのではないか」との問題意識に基づき、きらりよしじまネットワーク(山形県)、東陽まちづくり協議会子育て支援ネットワーク(熊本県)、坪井川遊水池の会(同左)の三つのNPO法人の事例調査も踏まえ、地縁組織の法人化に求められる当事者の意識とNPO法人の強みについて論じられた。 ④「コロナ禍がNPO法人の財務に与えた影響」 中尾さゆり 氏((特活)ボランタリーネイバーズ)    コロナ禍は、NPO法人の活動に大きな影響を与えた。人が集まり交流する活動ができず存続の危機に直面した団体がある一方で、困難を抱える人々への支援活動が拡大し、新たな寄付金や助成金を獲得し、活動を広げた団体もある。    本報告では、2020年度分・2021年度分として名古屋市に提出されたNPO法人の財務諸表を分析し、コロナ禍がNPO法人の財政状態に与えた影響を調査するとともに、各法人の事業報告書から各種施策の活用状況等を把握した。これらの調査結果を通じて、コロナ禍におけるNPO法人の財務基盤の状況を踏まえた支援について検討、考察がなされた。 4.3 分野別研究会報告⑶ (17日、10:50~11:30) 「医療福祉系法人研究会」 (最終報告) [座長]・[司会]鷹野宏行 氏(武蔵野大学)    医療福祉系法人研究会では、今回、最終報告として、委員3名の報告がなされた。 ①「労働者協同組合会計基準のあり方~会計基準の設定主体論の見地から~」 鷹野宏行 氏(武蔵野大学)    「平成18年、各種協同組合法の改正により、本法ないし施行規則に公正なる会計慣行へのいわゆる『しん酌規定』が明文化された」。「令和4年10月に労働者協同組合法が施行され、同法第75条には、『組合の会計は、一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従うものとする』とし、いわゆるしん酌規定が明文化されている」。    本報告では、「労働者協同組合法の施行により、労協における会計基準も議論のそ上にのせるべき」であり、「株式会社とは似て非なる協同組合における独自の制度を企業会計との比較において検討することも、それなりに意義があると思われる」との問題意識から、協同組合セクターの中の農業協同組合、中小企業等協同組合、生活協同組合の各系統の協同組合における会計基準について、その有無、名称、設定主体を比較し、労働者協同組合会計基準の設定の必要性、設定主体、内容等の論点を指摘された。 ②「社会福祉法人の大規模化・協働化の政策課題と方向性」 千葉正展 氏(独立行政法人福祉医療機構)    中小・零細な事業者が多いとされる社会福祉法人について、国の審議会等で、医療・介護・福祉の効率化の観点から規模の拡大・協働化を求める意見が度々示されている。一方、社会福祉法人の規模の議論では、法人の有する施設数に係る「1法人1施設の解消」と、一つ一つの施設の規模(=定員数)に係る「施設の規模拡大」の二つの側面の混同も見受けられる。社会福祉法人の事業の性格(労働集約型産業に類する事業)や、社会福祉施設に定められている各種の最低基準の存在などが、規模の経済性の制約要因となっている可能性もある。    本報告は、こうした問題意識の下、「社会福祉法人の規模の経済性について、社会福祉法人の財務諸表電子開示システムのデータを用いて分析し、現下進められている社会福祉法人の事業展開を誘導する政策についての方向性・あり方を検討」し、「拠点規模を拡大しつつ、そこで提供されるサービスについては、個別ケア、地域密着ケアが提供されることを目指すのが有効ではないか」とされた。 ③「労働者協同組合の設立動向 ~ 労協ながのへのインタビューをふまえて ~」 佐藤正隆 氏(武蔵野大学)    本報告では、「長野県で第1号の労働者協同組合の法人格の取得団体」である労協ながのに対するインタビュー調査を通じて、法人格取得の動機や意思決定、「出資」・「労働」・「経営」の三点における根本的な考え方や運営状況、同組合の今後の課題等を明らかにし、労働者協同組合の設立動向について説かれた。 4.4 分野別研究会報告 ⑷(17日、11:30~12:10) 「大学等学校法人研究会」 (最終報告) [座長]・[司会]柴 健次 氏(関西大学)    今期の大学等学校法人研究会は、前期研究会の主題(「大学のガバナンスとアカウンタビリティ」)を引き継ぎつつ、さらに「経営体としての大学に求められること」を主題(研究テーマ)に掲げ、本報告時に全11章からなる最終報告書を提出された。    本報告では、同研究会の最終報告として、座長の柴健次氏の司会の下、次の2報告が行われた。 ①「経営体としての大学に求められること」 柴 健次 氏(関西大学)    本報告では、柴健次氏が、座長として研究会の主題:「経営体としての大学に求められること」につき研究を推進するため提示された「図解」に基づき、研究会で行われた各委員等の個別報告(最終報告書の各章に収録)を俯瞰し、それらの主題との関わり、位置づけを明らかにしつつ、各々の要旨を説かれた。    同図解は、「大学の経営」を中心に据えて、上方に経営を統制する「ガバナンス」を置き、下方に経営の結果の報告につながる「会計やその他の報告(特に統合報告)」を置く縦のライン、左方に「研究」を置き、右方に「教育」を置く横のラインを想定している。同研究会では縦のラインと横のラインを総合的に考えて、「経営体としての大学」を追求している例として東京大学を研究の中心に据えたことから、座長より、委員である青木志帆氏の「実践事例:『公共を担う経営体』としての東京大学の取組」の要点も紹介、解説された。 ②「世界大学ランキングとその問題点」 工藤栄一郎 氏(西南学院大学)    本報告では、わが国において、従来「事前規制型コントロール」として機能していた大学設置基準から、大綱化以降、自己点検・評価に基づく認証評価制度が「事後確認型コントロール」として質保証が図られていること、他方、高等教育の市場(教員学生)のグローバル化を背景として「市場型大学評価」として世界大学ランキングが登場したことを踏まえ、ランキングの特性(評価主体、評価方法)、3大世界大学ランキング、評価指標の仕組み(メソドロジー)、ランキングがもたらすさまざまな問題について論じられた。 5 スタディグループ報告(中間報告)(16日、11:00-11:50)  スタディグループは、昨年度活動期間の1年延長が承認され、2回目の中間報告がなされた。 「非営利組織の持続可能性と連携:ソーシャル・サービスの連携推進の発展可能性をめぐる多角的検討」 [座長]・[司会]國見真理子 氏(田園調布学園大学) ①「今期のSG研究活動に関するご報告」 國見真理子 氏(田園調布学園大学)、榎本芳人 氏(厚生労働省)    「医療や福祉等の分野では、ソーシャル・サービス提供の持続可能性の面から『連携推進法人』 を発足させる動きがある。」    本報告では、まず座長の國見氏から、「これらの連携推進がどのような内容でどのように展開されているのかという特徴や現況の把握、現状ではどのようなメリットやデメリットがあるかについて検討」し、同制度の今後の展開について考察された。    次いで、榎本氏から、スタディグループによる連携推進法人の訪問調査の結果として、社会福祉法人(京都府、滋賀県)、社会福祉連携推進法人(和歌山県)、地域医療連携推進法人(滋賀県)の4事例が報告された。 ②「ソーシャル・サービスの連携推進の海外事例:米国のIntegrated Healthcare Networkを中心に」 尾上選哉 氏(日本大学)    本報告では、2017年に地域医療連携推進法人が創設された背景を確認した上で、同法人創設の際に参考とされた米国のIntegrated Healthcare Network(IHN)の経緯や、「医療の質向上とコスト抑制をも追求する」「医療事業体」としての特徴を考察し、その形態別の構成員のあり方や意思決定の一元化など今後の検討課題を提示された。 ③「米国の非営利組織会計におけるヘルスケア事業体の位置づけ」 金子良太 氏(國學院大學)    本報告では、「日本の連携推進法人制度を検討するにあたり、より広域連携や医療組織の大規模化が進んでいる米国の事例を参照することは有用」との認識の下、FASBが統一的に設定する非営利組織会計の中で特有の規定が置かれるヘルスケア事業体について検討し、その特徴等が考察された。 6 企画ワークショップ(17日、13:00-14:50)    大会準備委員会による企画ワークショップとして、「NPO法人の事業承継の特性を探る~中小企 業の事業承継との比較から」が開催された。 「NPO法人の事業承継の特性を探る~中小企業の事業承継との比較から」 [司会]中尾さゆり 氏(NPO法人ボランタリーネイバーズ、税理士) パネリスト:下園美保子 氏(NPO法人アダージョちくさ)、長瀬充寛 氏(税理士法人TAG経営)、 早坂 毅 氏(税理士) (趣旨)    「NPO法成立から25年近くが経過し、NPO法人においても事業承継・世代交代が組織運営の課題として浮上しており、すでに事業承継を済ませている法人もある。    政策サイドの高い問題意識や法制度の整備により、中小企業の事業承継に関する学術的な議論は一定の蓄積がある。一方、非営利法人、特にNPO法人については、体系的に研究の蓄積がされている状況に至ってはいないように見受けられる。    本ワークショップでは、「中小企業の事業承継と非営利法人(NPO法人)の事業承継の相違点から、非営利組織の事業承継の特性を探り、事業承継についての論点整理を行う」ことを趣旨とする。中小企業の事業承継との比較、NPO法人の特性を考慮しながら、今後NPO法人をはじめと する非営利組織の事業承継に関する論点を探索するものとする。」    本ワークショップでは、司会者の中尾さゆり 氏によりテーマの解題がなされた後、「NPO法人の事業承継」を当事者として実践したり、経営や税務等の相談・助言実績を重ねているパネリスト3名による以下の報告がなされ、次いで、パネリスト間のフリーディスカッション、フロアからの質疑、議論が活発に行われた。 ①「中小企業の事業承継の現状 ~ 非営利法人の事業承継との比較のために~」 長瀬充寛 氏(税理士法人TAG経営)    本報告では、中小企業の事業承継の現状(経営者の高齢化と事業承継実施企業と非実施企業の二極化)、事業承継時の悩み・相談例(親族の内外で区分)、事業承継の全体像、事業承継の実務で遭遇する落とし穴、事業承継計画のポイントなどの解説を通じて、非営利法人の事業承継と比較検討する上での視点、論点を示された。 ②「NPO法人事業承継実践事例」 下園美保子 氏(NPO法人アダージョちくさ)    本報告では、精神障害者に対する障害者福祉制度、就労継続支援B型の動向を述べた上で、その1つであるNPO法人アダージョちくさ(名古屋市)の事業承継を当事者(承継者)として実践した体験に基づき、就任時の課題とその解決のために行った改革、その結果を紹介し、「小規模かつ時代変遷に沿った事業承継に必要なこと」を4点集約された。 ③「NPO法人等非営利組織の事業承継事例とその特徴」 早坂 毅 氏(税理士)    本報告では、報告者が実務上携わった事業承継・世代交代の多数の事例について、代表者の属性や理事・事業内容の変更などに着目して一定の「類型」を区分し、各類型に該当する6事例について、その概要とそこから見て取れる非営利組織の事業承継の問題点や論点を指摘された。 7 企画セッション(17日、15:00-16:10)    大会準備委員会による企画セッションを、次の開催趣旨に基づき開催した。  「非営利法人による公益活動の振興に資する公益認定法改正とは~ 会計・ガバナンスの観点から」 [司会]松前江里子氏(日本公認会計士協会) [特別報告]北川 修氏(内閣府) [パネリスト]北川 修氏、齋藤真哉氏(横浜国立大学)、 大原昌明氏(北星学園大学)、石津寿惠氏(明治大学) (趣旨)  新しい時代に即応した公益法人制度の改革が進められている。  2023年6月、「新しい公益法人制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告が公表され、政府では「社会的課題を解決する経済社会システムの構築」の一環として、「社会的課題を解決する NPO・公益法人等への支援」の下、「公益法人の改革」(公益認定法の改正)を掲げ(「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」)、推進中である。2024年には改正法案の国会提出、2025年には新(改正)公益法人制度の施行が目指されている。     本学会は、これまで民間非営利活動の拡大に合わせ「公益法人研究学会」から「非営利法人研究学会」に改称し、公益認定を受けて公益社団法人として活動を続けている。非営利法人研究の推進や研究成果の公表とともに、「非営利法人に関する啓発」を重要な事業の一つとする。  そこで、本大会の機会に学会外にも門戸を開き(注:CPD、税理士会研修に申請等)、学術的・ 実務的観点から関心の高い公益法人制度改革の潮流について、理解と考察を深める機会を設けることとする。    制度改革の実務に当たる内閣府の公益法人行政担当室長から制度見直しの方向性と進捗状況について特別報告をいただき、会員の内に専門とする会員も多い会計とガバナンスの観点から、改革の課題と論点について考察する。  本セッションでは、会計・ガバナンスの観点から、今後の法改正や政策推進上、特に重要と考えられる課題や論点に焦点を絞って行うが、一般・公益法人にとどまらず、広く非営利法人を視野に入れた示唆や触発も期待するところである。参加者、聴き手である会員・非会員(CPD・税 理士会研修受講者)の理論・実務両面からの関心にも配慮するものとしたい。」      本セッションでは、松前江里子 氏(公認会計士)の司会の下、まず、北川 修 氏(内閣府)による「特別報告」が行われた。その後、北川 氏、齋藤真哉 氏(横浜国立大学)、大原昌明 氏(北星学 園大学)、石津寿惠 氏(明治大学)をパネリストとしてフリーディスカッションが行われた。 ⑴ 特別報告 「非営利法人による公益活動の振興に資する公益認定法改正とは ~ 会計・ガバナンスの観点から」 北川 修 氏(内閣府)  北川修 氏(内閣府大臣官房公益法人行政担当室長/内閣府公益認定等委員会事務局事務局長)の特別報告では、まず、公益法人制度改革について、2006年改革と今回検討中の改革の対比がなされた。    今回の改革は、「『収支相償』等の規制に対する批判(一方で、不祥事に鑑みた広義公益法人のガバナンス強化論)」を政治的・社会的背景とし、「新資本主義実現会議における経済界からの問題提起」を直接的な契機として、「社会的課題解決に資する民間の公益的活動の活性化」を制度改革目的としている。政策的な位置づけは、「新しい資本主義実現(経済成長戦略)」であり、改革の基幹コンセプトは、「法人活動の自由度拡大」と「(広義の)ガバナンスの充実」である。経済財政政策担当大臣の下、内閣府大臣官房公益法人行政担当室が担当部局となり、検討の場として「新しい公益法人制度の在り方に関する有識者会議」が設けられた。    次いで、今回検討中の改革について、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和 4年6月7日閣議決定)以降、上記「有識者会議」の開催(令和4年10月~令和5年5月)及び最終報告(令和5年6月)、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」及び「経済財政運営と改革の基本方針2023」(ともに令和5年6月16日閣議決定)などでの検討状況や主要論点の解説、今後の政策展開の見通し、将来に向けて残された課題などについて述べられた。 ⑵ パネルディスカッション パネリスト:北川 修 氏(内閣府)、齋藤真哉 氏(横浜国立大学)、大原昌明 氏(北星学園大学)、 石津寿惠 氏(明治大学)    パネルディスカッションでは、北川 修 氏、齋藤真哉 氏、大原昌明 氏、石津寿惠 氏の4名のパネリストにより、北川氏の「特別報告」を受けて、今回の改革の意義や政策的な位置付け、基幹コンセプト2点の具体的な意味の問い直しをはじめ、主要論点の中でも、特に「収支相償原則の見直し」、「遊休財産規制の見直し」、「わかりやすい財務情報の開示」、「法人機関ガバナンスの充実」などについてディスカッションが行われた。    会計とガバナンスに関わる理論的な観点はもとより、各パネリストの公益認定等に係る各都道府県合議制機関での実務経験も踏まえた視点から、率直かつ活発な意見が交わされるとともに、フロアからの質問に北川氏がきめ細かく応答、説明されるなど、今回の制度改革について認識を深めるとともに、本学会としても改めて学術的に検討を加える貴重な契機、機会となった。 8 謝辞    第27回大会は、9月17日(日)17:30に終了した。    今大会は、大阪商業大学が開催校であるが、大会準備委員会は、専門領域、活動分野、所属等を異にする会員5名で構成した。    準備委員会は、2022年末の学会諸規程の改正を踏まえ、大会開催概要の編成に本格的に着手した。1月の常任理事会で統一論題案の承認を得るとともに、新たに選任された東西両地域部会長とも調整のうえ、自由論題報告の募集・審査手続の細目と日程案を詰め、自由論題報告募集要領の方向性についても了承を得た。    大会プログラムでは、統一論題報告・討論はもとより、自由論題報告の募集・審査、分野別研究会・スタディグループ報告の報告者と内容の確定、企画ワークショップ及び企画セッションの企画・準備等において、報告者、司会者をはじめ各研究会等の座長・委員、登壇者の皆様のご理解ご協力により、改正規程に則った運営を行なうことができた。    自由論題報告については、応募ルートが拡充、複線化した結果、地域部会報告を経ての応募が4件、準備委員会への直接応募が3件となり、新たな仕組みも会員に円滑に活用していただけたようである。また、東西両地域部会長には、応募期限(6月末)までにおのおの複数回の部会を開催するなど研究報告機会の設定にご協力いただけた。    なお、準備委員会で決定し常任理事会に報告して公開した当初のプログラムから、大会当日までに生じた報告者や司会者の変更等については、それぞれ事前に各座長およびご本人から速やかに届出をいただき、大会前に変更の旨を参加者に告知することができた。本大会記もすべて実施結果に基づくことを申し添えたい。    大会における報告者、パネリスト、司会者(討論者)、各報告へのご出席者をはじめ、企画プログラム登壇者のご所属機関(内閣府等)、当日の運営をご支援いただいた学会事務局(全国公益法人協会)、さらに本大会をそれぞれCPD(継続的専門能力開発)、認定研修会に採択いただいた日本公認会計士協会ならびに近畿税理士会などすべての関係者に厚く御礼申し上げます。    最後に、大会の会場準備・運営にご配慮いただいた開催校の関係者及び学生スタッフの皆さんに感謝申し上げます。       2024年3月31日                                    (公社)非営利法人研究学会第27回全国大会準備委員会                 準備委員長 初谷 勇(大阪商業大学)                       委員 中嶋貴子(大阪商業大学)                       櫛部幸子(大阪学院大学)                       馬場英朗(関西大学)                         中尾さゆり((特活)ボランタリーネイバーズ)

  • ワーキングペーパー | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    ワーキングペーパー  本学会では、非営利分野の発展に寄与することを目的として『ワーキングペーパー』を発行しています。 ▶ワーキングペーパー投稿規程(PDF) ◆2019年度ワーキングペーパー一覧 ワーキングペーパー

  • 第1回学会賞・学術奨励賞 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    学会賞・学術奨励賞の審査結果 第1回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告 平成14年7月27日 非営利法人研究学会 審査委員長:守永誠治  公益法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、学会賞(平成13年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)及び学術奨励賞(平成13年度全国大会の報告に基づく大学院生並びに若手研究者の論文)の候補作品を慎重に審議した結果、つぎの2点の論文を受賞論文として選定しましたので、ここに報告いたします。なお、著書については学会賞に該当するものはありませんでした。 1. 学会賞 堀田和宏(近畿大学)「非営利事業の社会的機能と責任」(平成13年度公益法人研究学会全国大会統一論題報告、於・中央大学、『公益法人研究学会誌』VOL.4掲載) 【受賞論文の内容と受賞理由】   もともと、非営利事業の責任は、それぞれのもつミッションを持続的に遂行するということにあり、このミッションに信頼を寄せて集まる寄付者、政府・地方自治体、購入者、利用者、ボランティアなどの利害関係者の信頼と期待に応えることである。そのために、非営利事業に求められている社会経済的機能とその責任を明らかにし、その結果、どこに解決すべき問題があるかを明らかにしようとする。本論文の出発点がここにある。  非営利事業の社会経済的機能とその責任について、つぎの4つのカテゴリーが示されている。つまり、非営利組織特有の寄付行為者とミッションに対する受託責任、サービス測定・評価に弱いクライアントの信頼に応える責任、準公共財のサービス供給に対するいわゆる社会公共的責任、組織自体の継続性確保のための組織維持責任がこれである。これが、期待と信頼になるのであるが、このような期待と信頼に反して、意外とも思われるマイナスの機能、つまりモラルハザードをもつ可能性が出てくることを指摘している。非営利事業なるがゆえに生ずるモラルハザードを分析し、信頼性のゆえに、この種のモラルハザードを防ぐ手だて—公共の規制、利害関係者の統治力や競争促進制度—が十分に整備されていないため、この中で自己生産的な経営が制度化されていると指摘する。  このような問題を克服するために、まず第1に、外部からの「統治力」を補強することが急務であり、第2にこの「統治力」を保証するための経営者側の「アカウンタビリティ」を拡大・深化させるべきであると考えている。第1の点は、本論文の強調するNPOガバナンスのあり方を再構築する方向である。また、第2の点は、「今日のアカウンタビリティは、多様な利害関係者がそれぞれなりの経営への統治力を確保できるように、経営の透明性と公正性を証明する責任」としてこれを展開、つまり拡大・深化する必要があることを力説する。  本論文は、非営利事業に求められる社会経済的機能とその責任を明らかにし、非営利事業なるがゆえに生ずるモラルハザードを取り上げ、これを克服するためにNPOガバナンスの再構築とそれを可能にするアカウンタビリティを拡大・深化させる必要性を明らかにしようとしている点に特徴がみられ、問題の着眼点、分析方法と検討内容、提言など論文の展開を通じて卓越した非営利事業研究に対する姿勢を窺うことができる。このような研究は、受賞者の長年にわたる研究生活の中から生み出されたものであって、一朝一夕にして成し遂げられるものでないことは何人も認めるところである。同時に、この研究が非営利事業研究の今後の発展に寄与するところ大であるとの審査委員の一致した見解を得た。  以上の点から本論文を学会賞として選定した。 2. 学術奨励賞 梅津亮子(九州産業大学大学院博士後期課程)「看護サービスの活動レベルの原価標準設定」(平成13年度公益法人研究学会全国大会自由論題報告、於・中央大学、『公益法人研究学会誌』VOL.4掲載) 【受賞論文の内容と受賞理由】   本論文は、無形サービス活動の効率性(efficiency)と有効性(effectiveness)の測定・評価という枠組みの中で、これまで独自の研究領域として認識されていない看護サービスを対象とした原価計算モデルの開発を試みたものである。  論者が取り上げる原価計算モデルは、活動レベルの標準と患者レベルの標準から看護サービスを捉えることにあるが、本論文は、原価計算モデルの基礎的な部分を構成する看護サービスの活動レベルでの原価標準設定を中心に論述したものである。  原価計算を一般化できるような測定尺度とするためには、異なる環境のもとでの利用が難しい実際原価ではなく、標準原価が望ましいと考えている。看護サービスの測定・評価体系の中で標準を設けるということは、看護サービスとりわけ看護活動を測定可能なように具現化することを意味する。それ故に、本論文では、看護活動という単位によって原価標準を実証的に測定することを試みている。  そのため膨大な看護サービス関係及び活動基準原価計算関係の文献を渉猟した上で、看護サービス活動を115活動に分類して「看護活動標準調査表」を作成し、国立N病院の協力を求め全6病棟でデータを実際に収集している(本論文では呼吸器病棟の事例を提示している)。調査事項は、病棟ごとの患者1人に対して1つの看護活動を1回行う場合の保険点数、材料品目と費用、活動プロセス、作業時間等である。作業時間については、各活動を準備・説明・実施・後片付けに分けて測定している。この区分はクリティカル・パス分析に資するためという。また、説明を特に独立させているのは、この作業がInformed Consentと患者の満足を高める重要な作業と考えているからである。  本論文では、看護サービスを看護活動という具体的な行動に細分化することによって、その活動の現場における原価を把握し、看護必要度分類別の患者1人当たり原価とを統合することで、看護サービスについての原価標準の計算が可能であることを明らかにし、また、その結果はモデルの妥当性と可能性を示すものとなっている点に、これまでの研究にない貢献が見られるところである。特に、看護サービスに関する原価計算は、これまで十分に論じられることがなく、また、ここで示された方法は、他の無形サービスの分析においても利用可能である点にも注目すべきであろう。「看護サービスの効率性と有効性の測定・評価」という、いわば長編小説の構成部分を短編論文という形にしているため多少の難点も指摘できるであろうが、その研究体系・オリジナリティ・文献渉猟の確かさ・その努力からみて学術奨励賞に十分値するとの審査委員の一致した見解を得た。  以上の点から学術奨励賞に本論文を選定した。

  • 第17回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    第17回大会記 2013.9.21-22 近畿大学 統一論題 非営利法人における制度・会計・税制の改革を総括する 日本大学大学  古庄 修  非営利法人研究学会第17回大会は、本年9月21日(土)から9月22日(日)の日程で、大阪府東大阪市の近畿大学(大会実行委員長 吉田忠彦近畿大学教授)において開催された。  本大会の統一論題は、「非営利法人における制度・会計・税制の改革を総括する」であり、大会初日の理事会等に引き続き、2日間にわたり会員各位の多彩な研究成果が披瀝された。  以下、ここでは本学会プログラムのなかで統一論題報告、部会報告および特別公開セッションにおける報告と討論の概要をお伝えする。16篇に及ぶ個人または共同研究に基づく自由論題報告については、いずれも研究意欲旺盛かつ学会の発展に資する内容であったが、紙幅の都合上、割愛させて頂く。  なお、会員総会の開会に先立ち、本研究学会の常任理事として草創期の学会運営ならびに学会誌の編集に一方ならぬご尽力を賜った故川崎貴嗣氏のご冥福を祈り、氏に対する感謝とともに黙祷が捧げられたことを付記したい。 【統一論題報告】  大会2日目に、本大会を記念し、出口正之氏(国立民族学博物館教授)による基調講演「公益法人制度改革を総括する—移行期間終了を目前に控えて—」が行われた。出口氏は、内閣府公益認定等委員会の第1期(非常勤)および第2期(常勤)の6年間にわたり当該委員を務められた。氏の見識と深い洞察に基づく公益法人制度改革の経緯の詳細な説明と総括を受けて、広く非営利法人をめぐる税制、会計および制度の各観点から、上記統一論題報告が行われた。  登壇した3名の報告者とテーマは、①成道秀雄氏(成蹊大学教授)「非営利法人税制の今後の課題」、②古庄 修(日本大学教授)「非営利法人会計基準の統一問題—わが国における財務報告制度改革を指向して—」、③齋藤真哉氏(横浜国立大学教授)「非営利法人制度の現状と課題」であった。  成道氏は、平成20年度における非営利法人課税の大改正をふまえて、問題点の整理と今後の課税の在り方について議論を展開された。氏は、非営利型法人の要件充足を確認する制度を設けるべきこと、一般社団・財団法人法第131条に基づく基金の課税上の性格が検討されるべきことを提言するとともに、公益認定法人と非営利型法人に対するみなし寄附金の取扱い、法人形態の変更時における累積所得金額の課税制度、収益事業課税、金融収益課税および宗教法人・学校法人等に対する本来の事業に対する課税等、課税の在り方をめぐる論点を明示し、非営利法人が事業を安定的に継続していくために、非課税とすべき範囲の拡張に繋がる見直しを主張された。  古庄(筆者)は、英国における財務報告制度の再編成とそのなかに組み込まれた非営利法人(英国では公益目的事業体(PBE)と定義する)の会計基準をめぐる議論の経緯と到達点をふまえて、わが国における非営利法人会計(基準)の現在を相対化して捉えることにより、これまで主張されてきた非営利法人に横断的な会計基準の必要性と可能性を改めて検討した。企業会計と非営利法人会計の相克の歴史を乗り越えて、現在まで「セクター中立」に基づいて両者が接近し、共通化が進められてきたとしても、両者の間にある距離感を適切に保持する必要もある。かかる観点から、最近日本公認会計士協会から公表された研究報告書を素材として、横断的かつ首尾一貫した「会計枠組み構築」の必要性、統一的な非営利法人会計基準と法人別会計指針の相互の連係および会計基準設定主体の在り方に係る論点を考察するとともに、当該統一会計基準の設定をめぐる学会の役割と課題を示した。  齋藤氏は、非営利法人の本質を捉えて、非営利法人の存在意義とその変化の理由を市場の失敗と政府の失敗を論拠として説明されたうえで、新たな制度への移行が進められている一般社団・財団法人、公益社団・財団法人をはじめとする非営利法人制度全体を総括し、その現状をふまえた課題を検討された。氏は、準則主義(登記主義)と認可主義の理解をふまえて、許可主義を採用した旧公益法人制度の問題を指摘するとともに、準則主義における非営利法人の自立と自律の必要性を強調された。また、公益の意味を税制優遇との関係において再確認したうえで、公益性の認定における収支相償をめぐる課題、および特例民法法人から一般社団・財団法人への移行、合併等の組織変更に伴う課題として非営利法人のミッションの見直しが必要となる問題を具体的な事例を示して明快に説明された。  各報告直後に行われた討論においては、吉田忠彦氏を座長として、非営利法人制度の現状認識を共有し、当該制度改革の到達点と課題について活発な質疑が交わされた。 【部会報告】  大会3日目に開催された研究部会報告においては、東日本部会として岡村勝義氏(神奈川大学)を委員長とする「日本及び諸外国における非営利法人制度に関する研究—制度史・制度設計・報告制度・税制度等を中心として—」と、西日本部会として森 美智代氏(熊本県立大学)を委員長とする「地域における行政、医療及び福祉の現状と課題」の各報告が行われた。 東日本部会報告については、わが国において新たに施行された非営利法人制度を諸外国の非営利法人制度の歴史的経緯、制度設計の方法および制度自体の特徴を主としてガバナンスや財務報告制度と関連させて検討することにより、非営利法人制度の在り方に論究した最終報告書が示された。本報告書には、「公益法人の制度転換と会計枠組みの変化」、「NPO法人会計基準の検討」、「わが国学校法人会計基準のこれまでの展開と最近の動向」、「協同組合持分会計に関する研究」、「英国チャリティの会計—チャリティ会計とチャリティ委員会の役割—」、「英国の非営利組織—非営利法人制度と財務報告の制度的枠組み—」、「米国における非営利組織の類型と会計基準設定の現状」および「米国における寄付に係る会計基準—1992年改訂公開草案—」の各論考が、収録されている。当日は、尾上選哉氏(大原大学院大学准教授)が米国における寄付に関する会計基準について、特に収集品の会計処理の特徴と論点を検討された。  もう一つの西日本部会報告については、地域における行政をめぐる環境の変化と地域の連係とガバナンスの在り方、そして地域における医療と福祉の在り方に焦点をあて、熊本県等における具体的な事例研究に基づいて報告書が一貫した主題の下にまとめられた。本報告書には、地域における行政の現状を考察した「環境の変化と自治体職員像の変容」、「地域の公共を担う地縁組織—その重要性と活性化のあり方—」、「コミュニティと自治—中山間地域における地域ガバナンス—」が、また地域における医療と福祉問題に論究し、「大学のミッションと財務報告の役割」、「公立病院の医療改革の現状」、「地域包括ケアシステムの現状と課題—定期巡回・随時対応サービスを中心に—」の各論考が収録されている。  なお、本学会総会において地域部会が再編成され、今後、北海道、関東、中部、関西および九州に各部会が配置されることが決定した。研究者と実務家の双方向の議論の場として、学会の底上げに繋がる各部会のより一層の発展を祈念したい。 【特別公開セッション】  本年度の学会では、特別セッションとして、江田寛氏(公認会計士)を座長とするパネルディスカッション「善意は被災者に届いているか—東日本大震災の寄付の大半が行政的配分に委ねられた理由を探る—」が企画された。本セッションは、会員の研究成果を外部に公開し、議論の場を積極的に提供することにより社会に貢献することを目的としており、当日の登壇者は、岩永清滋氏(公認会計士)、大久保朝江氏(NPO法人杜の伝言板ゆるる代表理事)、藤井秀樹氏(京都大学教授)、牧口一二氏(NPO法人ゆめ風基金代表理事)の4名であった。  被災者に分配される義援金は公共的配分手続きに基づき、公平・平等を旨とするが、他方で、被災後4か月が経過した時点で義援金は3,000億円に達していたにもかかわらず、被災者に配分されたのはその25%である775億円にすぎなかった。また、被災者支援の資金となる支援金も一部に集中し、その他の団体が資金不足となる等、いびつな偏りが見られたという。本セッションにおいては、義援金と支援金の定義およびその相違点について理解を深めるところから始まり、寄附が義援金に集中した理由や、NPOの現場における支援金の調達方法等、明確な問題意識をもって「善意」の効率的な配分システムの在り方とその構築に向けた熱情に溢れた活発な議論が展開された。

  • 第9回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    第9回大会記 2005.9.9-10 神奈川大学 統一論題  1 非営利組織の制度進化と新しい役割  2 非営利組織の失敗—その原因と予防装置—  3 公益法人制度改革で何が変わるか  4 非営利法人課税制度への提言 文京学院大学  依田俊伸  公益法人研究学会第9回全国大会は、2005年9月9日(金)・10日(土)の日程で、神奈川大学において開催された。第1日目は、理事会の開催に充てられた。以下では、第2日目の研究報告大会の模様を中心に、学会の開催状況を紹介する。 1 自由論題報告  4会場で行われ、以下の9題が報告された(氏名のカッコ内は所属機関)。  第1会場〔司会:金川一夫氏(九州産業大学)〕⑴東郷寛氏(公共・非営利組織研究フォーラム)「イングランドの官民協働における非営利組織の役割」、⑵今井良広氏(兵庫県健康生活部)「英国における地域協定(LAAs)の意義と役割—非営利組織の活動基盤としての可能性—」、⑶兵頭和花子氏(兵庫県立大学)「非営利組織体の情報開示—非営利組織体のミッション評価の必要性とその実態—」  第2会場〔司会:吉田初恵氏(関西福祉科学大学)〕⑴永島公孝氏(筑波大学大学院)「非営利法人における委員会手当の所得区分」、⑵成田伸一氏(社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター)「社団法人における賛助会員に関する考察」、⑶小笠原修身氏(社会福祉法人ふじの郷さつき学園)「社会福祉法人の監査制度とその課題」  第3会場〔司会:小島廣光氏(北海道大学)〕⑴早坂毅氏(関東学院大学大学院)「非営利組織の現物寄附と現状分析—NPO法人100件を分析して—」、⑵丸山真紀子氏(久留米大学病院)「e—ヘルスネットワークについての一考察—データー利用を中心にして—」、⑶吉田忠彦氏(近畿大学)「NPO支援センターのタイプ別機能特性」  第4会場〔司会:江田寛氏(公認会計士)〕⑴王妹三氏(九州産業大学大学院)「非営利組織における収支計算書の問題点—目的と基本概念—」、⑵江頭幸代氏(広島商船高等専門学校)「営利企業の非営利活動の研究—とくに環境コストとライフサイクル・コスト—」、⑶関口博正氏(神奈川大学)「公会計における非交換取引(Non—Exchange Transaction)の認識と測定—運営費交付金等の処理を中心にして—」 2 研究部会報告  大矢知浩司氏(九州産業大学)の司会により、以下の3報告が順次行われた。 ⑴東日本研究部会〔主査・小島廣光氏(前出)〕「NPO、政府、企業間の戦略的パートナーシップ」 ⑵西日本研究部会〔主査・吉田忠彦氏(前出)〕「地域と非営利組織のマネジメント」 ⑶特別研究部会〔主査・石崎忠司氏(中央大学)〕「公益法人の財源(贈与・遺贈等)に関する多角的検討」  午後に入り、会員総会では、報告事項・審議事項すべて原案どおり承認されたが、その結果、会則改定により本学会が「非営利法人研究学会」に改称されることとなった。また、2005年学会賞・学術奨励賞の選考結果が報告され、本年の学会賞は、該当作なし、学術奨励賞は、吉田初恵氏(前出)「介護保険制度改革に向けての論点」が受賞、本賞と副賞が授与された。 3 統一論題報告と討論  「非営利組織の今日的課題と展望—新しい『非営利法人制度』も視野に入れて—」をテーマとして、杉山学氏(青山学院大学)の司会の下に、次の4氏により行われた。 ⑴藤井秀樹氏(京都大学)「非営利組織の制度進化と新しい役割」  藤井氏の報告では、まず、わが国における非営利組織の制度進化のプロセスが、比較制度分析の手法を用いて明らかにされた。これを踏まえ、公益法人制度改革における未解決の問題として、(a)公益性の判断基準の不明確性、(b)モラル・ハザードの可能性、(c)公益性と市場原理の関係の未整理といった点が提起され、その解決のためには、成果重視型マネジメント及び非営利組織を財務面で有効に支援しうる優遇税制が必要であるとの指摘がなされた。 ⑵島田恒氏(京都文教大学)「非営利組織の失敗—その原因と予防装置—」  島田氏は、非営利組織の本質に属する要因から派生する失敗に焦点を合わせ、その原因と予防措置を検討した結果、「外部評価の機会の希薄性」という本質から、非営利組織の失敗(「クライアント視点の欠如」、「競争市場への埋没」)が生み出されるとし、その予防措置として、「絶えざるミッションの問い直し」の下での「適切なガバナンス」、「行政や企業との協働」を提言した。 ⑶山岡義典氏(法政大学)「公益法人制度改革で何が変わるか」  山岡氏は、公益法人制度改革の現状を踏まえ、新しい法人制度・税制の要点及び新しい非営利法人制度とNPO法人制度の関係の行方を展望する報告を行った。その中で、特に法人制度では新たな非営利法人の解散時の財産帰属及び公益性の認定、税制では公益性の認定による課税環境の激変が要点であると強調、新しい非営利法人制度とNPO法人制度の関係については、NPO法人よりも新しい非営利法人のほうが選好され、やがてNPO法人制度が新しい非営利法人制度に統合されるのが望ましいとの見解を表明した。 ⑷成道秀雄氏(成蹊大学)「非営利法人課税制度への提言」  成道氏の報告では、「公益法人制度改革の基本的枠組み」に基づき公表された「新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方」に検討が加えられ、新たな非営利法人課税制度への問題提起が行われた。そのうえで、「公益性判断」に関して具体的で形式的な判断基準が必要であること、「収益事業課税」に関して特掲収益事業を廃止し原則課税とすべきこと、「寄附金控除制度」に関しては政府による事業活動への干渉に対して十分な配慮がなされるべきであり、自由な公益活動を阻害してはならないことが提言された。  4氏の報告後、多数の会員から寄せられた質問への回答を基に、さらにフロアの会員と報告者の間で議論が展開され、活発な討論が行われた。  統一論題報告・統一論題討議終了後、神奈川大学ラックスホールにて懇親会が開催された。本学会会長松葉邦敏氏(成蹊大学)の挨拶があり、懇親会は終始和やかな雰囲気の中19時散会した。

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