≪査読付論文≫離島航空におけるソーシャルキャピタルの経済評価
- 非営利法人研究学会事務局
- 3月5日
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高崎経済大学教授 小熊 仁
キーワード:
離島航空 ソーシャルキャピタル 仮想評価法(Contingent Value Method: CVM)
支払い意思額(Willingness to pay:WTP) ランダム効用モデル 生存分析モデル
要 旨:
本論文では、航空サービスにより創出されるソーシャルキャピタル(Social Capital:以下SCと呼ぶ)の経済価値を計測するため、那覇~与論線を対象にCVMに基づき評価を行った。その結果、同路線では少なくとも年間約200~250億円のSCが生み出されており、このうちブリッジング型のSCは全体のおよそ70%、残る30%はボンディング型のSCによって占められていることがわかった。また、これらの価値には航空サービスの利用回数や職業の有無など様々な個人属性や個々のSC変数が反映されており、航空サービスが地域間交流や社会活動への参加をはじめ地域に多様な機会を創出していることが明らかになった。
構 成:
Ⅰ はじめに
Ⅱ 分析の枠組みと分析対象路線の概要
Ⅲ アンケート調査の内容と分析方法
Ⅳ 分析結果と考察
Ⅴ まとめと分析課題
Abstract
This study evaluated the monetary value of Social Capital(SC)stemming from air service on the Naha-Yoron route based on the Contingent Value Method.
Results revealed that the Naha-Yoron route generated SC of at least 20 to 25 billion yen annually. Of this amount, bridging SC accounted for approximately 70% of the total, and the remaining 30% comprised bonding SC. Moreover, these values reflect various personal attributes, such as the frequency of air travel and employment status, as well as individual SC variables. This study also clarified that air travel creates a variety of opportunities in the community, including inter-communal exchange and participation in social activities.
※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。
Ⅰ はじめに
1 本論文の問題意識
人口減少や慢性的な労働力不足により、離島航空は厳しい経営を余儀なくされている。しかし、離島航空は離島の社会生活基盤を確立する上で必要不可欠な手段であることから、サービスの衰退は日常生活や離島の社会経済全般に大きな影響をもたらす。したがって、このような離島航空の便益を評価するにあたっては、移動時間の短縮や旅行費用の減少といった直接的な便益ばかりではなく、生活利便性の向上や交流圏の拡大など地域社会に与える多様な便益を含めながらこれを把握していく必要がある。
ソーシャルキャピタル(Social Capital:以下SCと呼ぶ)とは人々の協調活動を活発にすることにより、社会の効率性を高める信頼・規範・ネットワークを意味し(Putnam(2000))、犯罪抑制、 防災、健康増進、経済成長をはじめ地域社会に様々な便益を及ぼす。そして、このような人と人との関係によって生み出される便益は交通サービスとも密接に関わっており(宇都宮(2019))、例えば、Bradbury(2006)は、交通サービスが人々に移動機会を提供し、人的交流や社会活動への参加を創出するための媒体として機能すると指摘している。
また、Kamruzzaman, et al.(2014)は、交通サービスが地域社会にモビリティの向上と交流機会の増加を生み出し、地域における交流ネットワークの強化に貢献するとしている。 Schwanen, et al.(2015)は、交通サービスを通した人的交流や社会活動への参加がSCの蓄積につながり、これによって社会的包摂(Socialinclusion)の実現や地域の活力向上といった便益が創出されると述べている。
このように、交通サービスは人的交流や社会活動への参加の機会を提供し、SCの醸成に寄与する。とりわけ、離島航空のように地域間交流や各種社会活動への参加に欠かせないサービスにおいては、サービスの存在そのものがSC形成の基盤となり、QOLの増進や生活満足度の改善をはじめ広範な便益を創成する可能性がある1)。
2 先行研究の整理と本論文の目的
従来、交通サービスとSCの関係をめぐっては、交通空白地域における公共交通サービス開設・再生にかかる住民の支援意識とSCの関連について検証した谷内ら(2009)、都道府県別のマクロデータを利用し、公共交通の利用とSCの関係を明らかにした宇都宮(2016、2019)、豪・ビクトリア州のバスサービス整備に伴う住民の主観的幸福感とSCとの関連を分析したStanley, et al.(2019)、コロンビア・ボゴタ市における次世代都市交通システムの開設が住民の移動手段の選択やSCの醸成に与える効果を考察したGuzman, et al.(2023)らの研究がある。
その一方で、離島航空については長崎~小値賀・上五島線運航休止後の空港の利活用策を考察した松本(2007)、航空会社に対するヒアリングに基づきその現状と経営改善に向けた対策を提起した福田(2010)、那覇~徳之島線の運航休止要因と航空会社の経営改善策を提案した宗田(2014)、熊本~天草線・長崎~五島福江線を対象に需要特性や需要喚起策を検討した後藤ら(2021)などの研究が存在する。しかし、前者は交通サービスの運用や再生に対する住民の意識とSCとの関連性に着目した研究が多く、交通サービスによってどの程度のSCが生み出されているのかについてはあまり検証が行われていない。また、後者はヒアリングや事例調査等を通しサービス維持の方向性や経営改善策を提案した研究が中心であり、SCとの関係性にかかる検討やその定量的把握はほとんど試みられていない。
このことから、本論文では離島航空を対象に交通サービスにより創出されるSCの定量的評価を行う。具体的には、那覇~与論線を対象に仮想評価法(Contingent Value Method:以下CVMと呼ぶ)に基づくアンケートを試み、ランダム効用モデルと生存分析モデルという2 つの分析モデルをもとに航空サービスが創出するSCの経済価値を推計することが目標である。
なお、本論文と同様の枠組みを利用し鉄道駅開設に伴う経済価値とその価値構成を評価した研究として小熊(2021)、沖縄離島における航空サービスの経済価値と価値構成を評価した研究として小熊・西藤・引頭・福田(2023)などがある。だが、小熊(2021)や小熊・西藤・引頭・福田(2023)は鉄道駅や航空サービスの存在が利用者や住民に及ぼす存在効果の計測に主眼を置いた研究であり、航空サービスによって創出されるSCの経済価値を評価したものではない。
さらに、複数のモデルを用いた価値の推計は試行されておらず、異なる視点と分析手法をもとにSCの経済価値を明らかにする本論文とは目的が異なる。
Ⅱ 分析の枠組みと分析対象路線の概要
1 分析の枠組み
SCのような無形、かつ非市場財としての特性を有する資本の経済価値を定量的に評価することは困難である。しかし、Cordes, et al.(2003)、Powdthavee(2007)、Huang & Helliwell(2010)、 Colombo & Stanca(2014)、Orlowski & Wicker(2015)などは、環境経済評価や公共事業評価においてしばしば用いられるヘドニック法やCVM等を利用しその経済価値を計測している。例えば、Cordes, et al.(2003)は米国・ネブラスカ州ニルバーナ地域の1,569世帯を対象にCVMを用いて、居所からの「引っ越し(Move)」に伴う人的交流・社会活動の機会損失に対する受入補償額(Willingness to accept:以下WTAと呼ぶ)を質問し、ランダム効用モデルに基づきSCの経済価値を推定している。これに対し、Powdthavee(2007)やHuang & Helliwell(2010)などは、主観的幸福感は所得やSCによって反映されるという「ヘドニック仮説」を応用しながら、前者を被説明変数、後者を説明変数とする幸福度関数を推計し、これをもとにSCの経済価値を推計している。
宇都宮(2019)によると、SCは人的交流や社会活動への参加等をはじめ地域社会の構造、住民構成、教育など幅広い要素から創出される。このため、ヘドニック法による計測では分析に含まれない多くの外生変数による「見せかけの相関」が生じ、推計結果にバイアスが発生する可能性がある。他方、CVMも質問の設定や支払い手段の提示方法などにより様々なバイアスが生じ、推計精度が低下するという問題が存在する。
ただし、シナリオに工夫を加え、バイアスを除去していけばある程度信頼性の高い結果を導出することが可能である。このことから、本論文ではCVMを利用し離島航空がもたらすSCの経済価値を評価し、SCの性質別ごとの評価構造の違いについて明らかにしていく。
2 分析対象路線の概要
与論島は沖縄本島北部の辺戸岬から北東28kmの距離に位置する人口5,115人(2024年10月現在)の島であり、鹿児島県最南端の離島である。周囲には北東70kmに沖永良部島、さらにその30km先には徳之島が位置し、その地理的近接性から沖縄本島の文化が色濃く残る島である。島の交流圏は奄美群島よりも沖縄本島との結びつきが強く、買い物・通院の日常用務から進学・就職等に至るまで沖縄本島への依存が高い。また、同島は沖縄本島からの離島観光地としても人気を誇っており、夏季、ならびに秋季・冬季のイベント開催時には県内外から多数の観光客が訪れる。
本論文において分析対象とする那覇~与論線は南西航空(現:日本トランスオーシャン航空)初の県外路線として1978年 8 月から運航が始まり、1997年 4 月以降は琉球エアーコミューターが毎日 1 往復運航を行っている(夏季は 2 往復に増便:所要時間40分)。さらに、2022年 7 月からは日本エアコミューターが「奄美群島アイランドホッピングルート」の 1 つとして奄美~与論~那覇~奄美路線を開設し、現在は 1 日1.5往復(夏季は2.5往復)の運航がある。2023年度の利用者数は 4 万6,710人であり、平均ロードファクター(座席利用率)は81.0%にも上る。その一方で、同路線は航行距離231kmの短距離路線であり、空港滑走路長の関係上、小型機のみの就航に限られることから、輸送効率が低いという制約がある。このことから、国による租税公課の減免や鹿児島県奄美地域離島航空路線協議会による「地域公共交通確保維持改善事業」など様々な支援制度を活用しながらサービスが維持されている。
なお、与論島と沖縄本島の間には那覇~与論線以外にもマリックスライン、マルエーフェリーのフェリー会社 2 社による那覇~本部~与 論~沖永良部~徳之島~鹿児島航路がある(毎日 1 往復運航:那覇~与論所要時間 3 時間)。しかし、所要時間の問題からフェリーによる往来は 26.4%に止まっており、一般的な移動は航空サービスによって賄われている2)
Ⅲ アンケート調査の内容と分析方法
1 アンケート調査の概要
本論文では、離島航空がもたらすSCの経済価値を計測するため、与論空港の利用者に対しCVMに基づくアンケートを行った。アンケー トは2023年 9 月 6 日(水)~9月8日(金)の 3 日間にわたって実施し3)、与論空港ターミナルビルにおいて質問票と返信用封筒が入った封筒を直接配布し、後日郵送回収するという手続きをとった。アンケートの調査項目には①那覇~与論線の片道 1 便増便実現に対する支払意思額(Willingness to pay: 以 下WTPと 呼ぶ)4)、 ② WTPに占めるSCの構成要素、③個人属性、④航空サービスの年間利用回数、⑤SCの蓄積状況、⑥地域愛着の程度、⑦暮らし向きの水準にかかる質問が含まれており、 3 日間合計で500部配布した(表 1 )。
このうち、①那覇~与論線の片道 1 便増便実現に対するWTPとはサービスの仮想的な環境変化に対し効用水準を得るためのWTPをあらわし、那覇~与論線がもたらす経済価値を推計するための質問である。本論文では図 1 の通り那覇~与論線が現状の 1 日1.5往復から 2 往復に増便されるという仮想シナリオを設定し、これを実現するために既存の運賃に対しどの程度上乗せして支払う意思があるかを尋ねる「追加負担方式」によって 1 便・ 1 人あたりの経済価値を把握することにした5)。
その一方で、WTPの回答にあたっては、戦略バイアスや仮想バイアスの少ない二段階二項選択方式を採用し6)、提示された初回提示額(T)について賛同すると回答した場合にはもう 1 段階高い金額(TU)を提示し、賛同しないと回答した場合には初回提示額よりも 1 段階低い金額(TL)を示した。提示金額は【パターン①】500円(T)-1,000円(TU)-250円(TL)、【パター ン②】1,000円(T)-1,500円(TU)-500円(TL)、 【パターン③】1,500円(T)-2,000円(TU)-1,000 円(TL)の 3 つのパターンを用意し、各パターンをランダムに均等配布し質問を試みた。
続いて、②WTPに占めるSCの構成要素に関する質問では、提示金額に対しYY(TとTU両方に賛同)、YN(Tのみ賛同)、NY(TLのみ賛同)と回答した被験者に対しWTPに占めるSC構成要素の割合について全体が100%となるよう質問を行った。ここではStanley, et al.(2019)や宇都宮(2016)などに従い、SCをボンディング型とブリッジング型に区別し7)、SCの構成要素を計測するための代理変数として図 2 に示す質問を作成した8)。
また、SCの構成要素と各種便益の重複計上を避けるため、利便性の向上やその他の効果にかかる回答欄も追加した。調査の結果、アンケートの回収部数は139部であり(回収率27.8%)、このうちSCの経済価値を把握する上で有効なサンプルは137部であった。
表 1 アンケートの概要

出所:筆者作成
図 1 WTPの質問

出所:筆者作成
図 2 SCの構成要素に関する質問

出所:筆者作成
2 分析方法
二段階二項選択方式によって得たWTPを用い、財・サービスの経済価値を推計する方法は、累積分布関数に対数ロジスティック分布を仮定したランダム効用モデルとワイブル分布を仮定した生存分析モデル、対数正規分布を仮定した支払い意思額関数モデルの 3 つがある。本論文では経済理論との整合性が高く、既往研究でも頻繁に利用されるランダム効用モデルと、柔軟でモデルの当てはまりが良いとされる生存分析モデルの 2 つのモデルを用いて推計を行った。推計にあたっては、まずアンケート調査によって得た回答結果のうち、WTPに対して影響を与える要因として、個人属性とSC属性を抽出した。前者は、男性ダミー、年齢、1 か月あた り航空サービス利用回数、職業ダミー、島外利用者ダミー、地域への愛着ダミー、暮らし向きダミーの 7 つの変数である。
後者は、古川・橋本(2010)を参考に、8 項目・ 5 件法により質問したSCの蓄積状況に対する回答結果から因子分析を行い(主因子法・バリマックス回転)、これによって抽出された 3 つの因子を「信頼」・「規範」・「ネットワーク」とした(表2 )。そして、これらの 3 つの因子についてサンプル別に導出された因子得点をSC属性としてそれぞれ分析に加えた。これらの属性を加えた理由は、Jones, et al.(2015)らによって指摘されているように、SCの経済価値は被験者がもともと有するSCの蓄積状況と密接に関係し、WTPの程度を左右する可能性があるからである。
続いて、以上の要因を説明変数とし、下記のランダム効用モデルと生存分析モデルによりWTPを推計した。
Tは提示金額、xは属性ベクトル、βとσは係数、αは定数項である。推計にあたっては最尤法を用い、p値が有意にならず、データの信頼性に欠ける説明変数を削除しながらAIC(赤池情報量規準)が最小となるモデルを利用しWTPの平均値と中央値を推計した。
ところで、有効回答サンプルのなかには「抵抗回答」と「温情効果」に該当するサンプルが含まれている。前者は対象財・サービスに対し価値を認めているにもかかわらず、支払い手段やシナリオの内容に納得できない等の理由で回答を拒否したサンプルを指す。後者は、対象財・サービスへの支払い行為そのものに対する満足感・義務感を理由としてWTPを表明したサンプルをあらわす。これらはいずれもWTPの過大(過小)評価をまねくことから、分析対象から除外し分析を試みる必要がある。本論文では、はじめに抵抗回答に該当するサンプルとして「質問の仮定が受け入れられないから」と回答した 3 サンプルを抵抗回答とみなし、これを除外して分析を行った。
次に、温情効果にあたるサンプルはWTPを表明した理由として「支払うことに満足感がある」「支払わなければならない義務感がある」と回答した52サンプルが該当する。これらのサンプルは、航空サービスに対する支援意識や島への帰属意識など様々な要素からWTPの表明に至ったサンプルであり、サービスに対する純粋な評価を示したものではないため、分析対象に含めない方が望ましい。しかし、本論文の目的は航空サービスにより創出されるSCの経済価値を評価することにあり、航空サービスその ものに対する経済価値を推計することが目標ではない。また、SCという財の特性上、こうした共感やコミットメントを含めて評価を行わないと、かえって過小評価に結び付くおそれもある。このことから、本論文では、温情効果を含めた134サンプルとこれを除いた82サンプルのWTPを同時推計し評価を行うことにした。表 3 は基本統計量を示したものである
⑴ ランダム効用モデル

⑵ 生存分析モデル

表 2 SCの蓄積状況に関する質問と因子分析の結果

出所:筆者作成
表 3 基本統計量

出所:筆者作成
Ⅳ 分析結果と考察
1 分析結果
表 4 と表 5 はAIC最小モデルに基づくWTPの推計結果を示したものである。温情効果を含む場合も除外した場合もランダム効用モデルと生存分析モデルとの間に差はさほど生じていない。しかし、モデルの適合度については後者の方がやや良好な結果をあらわしている。
はじめに、温情効果を含むサンプルで分析した結果では、ランダム効用モデルで 1 便・ 1 人あたり平均1,422円(中央値2,046円)、生存分析モデルで1,421円(中央値2,000円)のWTPが導出された。他方、温情効果を除いたサンプルでは、ランダム効用モデルで 1 便・ 1人あたり平均 1,182円(中央値1,447円)、生存分析モデルで1,212 円(中央値1,404円)のWTPが計測された。
次いで、これらの値を利用しアンケートで回答があったSC要素の構成比の平均を乗じ、 1 便・1 人あたりに含まれるSC要素の経済価値を評価した。その結果、温情効果を含むサンプルではランダム効用モデルで831.9円(中央値1,196.9円)、生存分析モデルで831.3円(中央値 1,170.0円)の価値が推計された。これに対し、温情効果を除いたサンプルでは、ランダム効用モデルで646.9円(中央値791.9円)、生存分析モデルで663.2円(中央値768.3円)となった。SC要素の構成比をみると、いずれのモデル・サンプルにおいてもネットワーク(ブリッジング型)が全体の約60%を占め、ネットワーク(ボンディング型)は30%、規範(ブリッジング型)は10%強となった。このことは、那覇~与論線が島内外の知人・親族との交流を推進するのみならず、様々な人的交流や社会参加を促す手段として機能していることを示唆している。
最後に、被験者のWTPに影響を与える要因を明らかにするために、AIC(赤池情報量規準)が最小になるよう、個人属性変数とSC属性変数を選択し分析を行った。その結果、温情効果を含むサンプルでは両モデルともに 1 か月あたり航空サービス利用回数、職業ダミー、島外利用者ダミー、因子得点(ネットワーク)、温情効果を除くサンプルでは両モデルで職業ダミー、生存分析モデルにおいては年齢が有意水準を満たしていることがわかった。ただし、後者のサンプルは前者に比べ標本数が小さく、推計精度が低下している可能性があることから、ここでは前者の解釈のみを示すことにする。
はじめに、 1 か月あたり航空サービス利用回数はランダム効用モデルでは 5 %有意水準、生存分析モデルでは10%有意水準で係数が負の値をあらわした。那覇~与論線の運航頻度は 1 日 1.5往復に限られており、1 便あたりの平均搭乗率も80.0%(2023年度)に上る。このため、予約時には既に満席となっている場合が多く、利用に制限を受ける場合が多い。このような利用機会の制約と増便を求める意向がWTPの表明につながったと判断される。
続いて、島外利用者ダミーは、両モデルともに10%有意水準で係数が正の値をあらわした。(一社)ヨロン島観光協会に対するヒアリング調査によれば、2023年度における与論島の観光客数は6.4万人に上り、航空による来訪者の47.3%は那覇~与論便を利用している。その一方で、サービスの運航頻度は少なく平均搭乗率も高いため、増便による来訪機会の増大を望む声が強い。こうした意識が評価に反映されたものと推察される9)。
次に、職業ダミーはランダム効用モデルにおいては 5 %有意水準、生存分析モデルにおいては 1 %有意水準で係数が正の値を示した。これはJones, et al.(2015)らの先行研究において指摘されているように、WTPの多寡は所得の程度に左右され、これを多く得る有職者ほど高いWTPを表明しやすいことを裏付けるものである。また、因子得点(ネットワーク)は両モデルにおいて10%有意水準で係数が正の値を示した。島内外の様々な人的交流や社会参加を志向する被験者ほどWTPを表明している可能性があり、航空サービスが移動手段としてのみならず、これらを実現する上で必要不可欠な役割を果たしていることの証左であると考えられる。
表 4 分析結果(温情効果を含む)

(注)*:p<0.10、**:p<0.05、***:p<0.01
出所:筆者作成
表 5 分析結果(温情効果を除く)

(注)*:p<0.10、**:p<0.05、***:p<0.01
出所:筆者作成
2 考察
ここまで見てきたように、那覇~与論線が 1 便・ 1 人あたりのSC創成にもたらす経済価値は、温情効果を含む場合で831.3~1,170.0円、含まない場合で646.9~791.9円に上ることが明らかになった。そして、このうちボンディング型は温情効果を含む場合で251.5~362.1円、含まない場合で203.1~248.6円、ブリッジング型については温情効果を含む場合で579.8~834.8 円、含まない場合で443.8~543.8円であることが判明した。
その一方で、これらの価値には航空サービスの利用回数をはじめとする個人属性やSC要素など様々な要因が反映されており、航空サービスが地域間交流や社会活動への参加を含め地域に多様な便益を生み出す役割を担っていることもわかった。仮に、これらの平均値・中央値を代表値とし、那覇~与論線の年間平均利用者数と年間運航回数を乗じると、温情効果を含む場合で約247~356億円(うちボンディング型75~108億円、ブリッジング型172~248億円)、含まない場合で192~235億円(うちボンディング型60~74億円、ブリッジング型132~161億円)となり、少なくとも年間およそ200~250億円前後のSCが那覇~与論線によって創出されていることになる(表 6 )。
離島航空をめぐる経営は厳しく、今後も人口の減少や少子高齢化がいっそう進展することから、国や地方自治体等の支援なしに運航を維持することは困難である。航空サービスを取りやめ、フェリーで代替させるべきとの見解も存在するが、航空サービスはフェリーと異なり、迅速、かつ安定的な移動を確保できる手段であることから、地域社会の人的交流や社会活動への参加を推進する上で欠かせないものである。
本論文では、CVMを適用することにより離島航空が創出するSCの定量的評価を試み、直 接的な便益のみでは測ることができない特有の効果について計測を試行した。もっとも、SCにはその結びつきの強さから排他性をもたらし、その一方で、外的志向の高さゆえに人間関係の希薄さを生み出すという問題がある。しかし、両者が均等に蓄積されることにより地域社会に多種多様な便益を生み出す可能性がある。
このようななか、那覇~与論線はブリッジング型を中心としたSCの創成に貢献しており、導出された経済価値は利用者の交流ネットワークの価値をあらわすと同時に航空サービスの社会的貢献度を示しているとも言い換えられる。このことから、国や地方自治体はこれらを参考に引き続き航空サービスに対する支援のあり方について検証していくとともに、地域においても今一度航空サービスの価値について問い直す必要がある。
なお、本論文において提示した経済価値は温情効果を含む場合と除外した場合でやや評価に相違がみられる。また、平均値と中央値のいずれを採用するかによっても評価結果に差が生じる。いずれの視点から評価を行うべきかに関しては議論が分かれるところであり、今後の検討課題としたい。
表 6 那覇~与論線がSC創出にもたらす総経済価値




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