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≪査読付論文≫クライシス下における信用保証協会の役割―中小企業支援に着目して― / 櫛部幸子(大阪学院大学准教授)

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大阪学院大学准教授  櫛部幸子


キーワード:

中小企業支援 クライシス デフォルト 信用保証協会 信用補完制度 

緊急保証制度 特別保証制度


要 旨:

 本稿では、信用保証協会が、中小企業融資においてどのような役割を果たす非営利法人で あるかを説明する。そのうえで、公的資金を基礎とする信用保証協会にデフォルトが生じる ことの是非、そもそも信用保証協会のミッションは何であるのか、クライシス下においてど のような視点をもとに保証判断をするべきなのかを検討する。クライシス下においても、救 うべき企業(事業の継続性が望める企業)に保証を行うことが重要であり、さらなる会計情報等の提出を求め、事業の継続性に関する適切な判断を行い、保証承諾をしていくことが重要であることを述べる。


構 成:

I  はじめに

II 信用保証協会

III クライシス下における信用保証協会の対応事例:阪神・淡路大震災(1995年1月17日)

IV クライシス下における信用保証協会の対応事例:東日本大震災(2011年3月11日)

Ⅴ 信用保証協会がクライシス下で果たす役割

Ⅵ おわりに


Abstract

 This paper explains the role the Credit Guarantee Association can play in loans to SMEs as a non-profit organization. In addition, it also examines whether loan default is acceptable to the Credit Guarantee Association, which is based on public funds, the mission of the Credit Guarantee Association, and from what perspective judgments regarding credit guarantees should be made in crises. In crises, it is important that SMEs can expect business sustainability through guarantees; therefore, this paper also discusses the importance of requesting further accounting information and making appropriate decisions for business sustainability as well as accepting warranties.


※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。


 

Ⅰ はじめに

 本稿の目的は、信用保証協会がどのような非営利法人であり、信用補完制度という業務を通じ中小企業の資金繰り支援においてどのような役割を果たしているのかを明らかにすることである。更に、各地域の信用保証協会(全国51協会)の財政状態が、利用者であるその地域の中小企業の信用保証に直接的な影響を与えることを指摘する。  

 各信用保証協会は、法律・制度・規制の枠内で、「どこまで会計情報を重視するか」・「どこまで定性的な要因を考慮に入れるか」などの一定の裁量権を有し、保証判断を行っている。災害や感染症、天変地異などを原因として引き起こされる経済的危機であるクライシスの下では、この裁量の余地が、平常時より大きくなることが予想される。そこで、信用保証協会の財政状態に顕著に影響を与えたクライシスの事例として阪神・淡路大震災と、財政状態に緩やかな影響を与えるに止まったクライシスの事例として東日本大震災を取り上げ、これらのクライシス下において実施された信用保証制度の違いや、保証判断の際の会計情報の活用度合いの違いが、後のデフォルト発生率に違いを生じさせる結果となったことを明らかにする。そこで、これらをふまえて信用保証協会がクライシス下で果たすべき役割とは何であるかを改めて検討する。


Ⅱ 信用保証協会

1 信用保証協会の主な業務とその業務を支える法律

 信用保証協会の主な業務は、信用保証と信用保険である。これにより信用補完制度を実行している。信用補完制度とは、中小企業者等、金融機関、信用保証協会の三者から成り立つ「信用保証制度」と信用保証協会が中小企業金融公庫(日本政策金融公庫)に対して再保険を行う「信用保険制度」の総称である1)。信用保証については信用保証協会法に基づき、信用保険については中小企業信用保険法・包括保証保険約款に基づき業務が行われている。また各信用保証協会(全国51協会)は、業務方法書・定款に基づき業務を行っている2)。  信用補完制度の仕組みを示したものが以下の図表1である。信用補完制度は、「中小企業が金融機関等で融資を受ける際の信用保証を行うことにより、中小企業の資金調達を円滑にすること」を目的とした制度である。中小企業者が順調に返済できた場合には問題は生じないが、 返済できない場合、信用保証協会が代位弁済を行う(図表1の⑥)3)。この代位弁済については、 2007年以降責任共有制度4)が導入され、基本的には貸倒れた金額の8割を信用保証協会が代位弁済することとなっている(2割は金融機関が負担する)。また信用保証協会が代位弁済を行った金額の約7割は、中小企業金融公庫より保険金として信用保証協会に支払われる(図表1の ⑧)。これは信用保証協会が中小企業金融公庫と保険契約を結んでいるからである。なお代位弁済金額の約3割は、求償権として貸倒れをした中小企業者に返済を求めることとなる(図表1の⑦)。しかし回収が困難である場合には、 期末に求償権を償却し、実質、信用保証協会の損失となる。信用保証協会は、公的基金を基礎 とした非営利法人であり、最終的にはこれらの損失は税金で補填されることとなる。  

 また、信用保証協会の保証制度は大きく4種類に分類することができる。1つ目は全国的制度であり、国が主導する全国共通の制度として創設され、保険法上も個別に保険種が定められている保証制度である。2つ目は地公体制度として、地公体が独自の要件を付して行う保証制度である(主に損失補償や保証料の援助)。3つ目に金融機関との提携保証制度、4つ目に協会独自制度(全国の51協会それぞれが独自の保証制度を打ち出すことが出来る)があり、協会独自制度には特定の融資を対象とした保証料が割安な制度もある5)


図表1 信用補完制度の仕組み

出典:江口[2005]、11頁、図表1-1に筆者加筆


2 保証承諾の限度額と保証協会の財政状態

 各地域の信用保証協会は、上述の信用補完制度に基づき、法律・制度・規制の中で個々の判断をし、保証承諾を行っている。これは、一定の規制の中で、各信用保証協会が個々に判断する裁量の余地があることを意味し、保証承諾の可否の決定は各信用保証協会の個々の判断に依存していることを意味している。  

 また各信用保証協会が保証承諾できる金額の上限は、その信用保証協会の財政状態に依存している。  

 ある信用保証協会の例であるが、定款に以下の内容が記されている。定款第2章・業務(保証債務の最高限度)第7条では「保証債務額の最高限度は、基本財産の合計額の15倍とする。信用保証総額は、保証債務の総額に10分の3.5を乗じて得た額とする」とあり、定款第3章・資産及び会計(基本財産)第8条では、「毎事業年度の収支差額の剰余は、その100分の50の範囲内で収支差額変動準備金として繰り入れること ができる。繰り入れ後の差額は基本財産の増加とする」とあり、実際には、毎事業年度の収支差額の50%の範囲内で、信用保証の裏付けとして基本財産に積み立てることが要請されてい る。ここから代位弁済が多く発生し、求償権を償却すると、収支差額金の額にマイナスの影響が生じ、最終的には基本財産の額に影響を与え、 信用保証(保証承諾)に影響が生じる。つまり、代位弁済を多く出してしまうと、その地域の信用保証協会は保証承諾の上限金額を下げざるを得なくなり、中小企業の資金調達に困難が生じることとなる。例えば基本財産が156億円ある信用保証協会は、156億円×15÷3.5/10=最高限度額6,686億円となり、この金額までの信用保証(保証承諾)が可能であるが、基本財産の金額が少ない信用保証協会では、保証承諾金額 の上限は当然低くなる6)。ここから、各信用保証協会の個々の保証承諾の判断が、結果としてその地域の中小企業の資金調達に直接的な影響を与えることがわかる。

3 信用保証協会のミッション

 信用保証協会事業の基本理念として、「事業の維持・創造・発展に努める中小企業に対し公的機関として、その将来性と経営手腕を適正に評価することにより、信用を創造し、信用保証を通じて、金融の円滑化に努める(信用保証協会事業の基本理念一部抜粋)7)」と記されている。 これは経営努力をし、継続が望める中小企業に対し、金融機関での借り入れの際に信用保証を行うことにより、資金調達の円滑化を促すということを意味している。  クライシス下では保証申込件数が急増し、信用保証協会は限られた時間内で緊急に保証の判断を強いられることとなる。保証判断に裁量の余地を有する信用保証協会の業務において、クライシス下ではこの裁量の余地が平常時より大きくなり、保証判断の重要性がより高まることが予想される。つまりクライシス下における信用保証協会の保証判断は、「適切な保証判断を行うことにより、資金(税金)のバラマキではなく、救うべき企業(事業の維持・創造・発展に努める中小企業)を救う」・「中小企業をむやみに延命させるのではなく、資金調達の支援をすることにより救うべき企業を救う」ことが、平常時より強く求められることとなる。


Ⅲ クライシス下における信用保証協会の対応事例:阪神・淡路大震災 (1995年1月17日)

 1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災において、中小企業支援を行った信用保証協会の保証制度やデフォルトの発生率について説明する。

1 兵庫県信用保証協会の阪神・淡路大震災時の取り組み

 兵庫県信用保証協会は、被災した中小企業に対する信用保証限度額を拡充するため、中小企業信用保険法における普通保険と無担保保険についての限度額の別枠化を実施し(最大2億 3,500万円)、無担保・無保証人保険の拡充を行った8)。さらに、大震災発生直後の1995年2月から8月までの7ヵ月の間、被災中小企業者の事業復旧に必要な資金を保証する「災害復旧融資」 にも積極的に取組み、47,011件、5,421億7,900万円の保証承諾を実施した9)。また、神戸市は災害復旧融資を利用する中小企業等に対し、信用保証料を負担する措置をいち早くとった10)

2 兵庫県信用保証協会における保証承諾金額と代位弁済率の推移

 図表2は兵庫県信用保証協会における保証承諾金額・代位弁済率(代位弁済率=代位弁済額÷ 保証債務残高×100)の推移を示したものである。  

 これによると、1975年頃より代位弁済率が増加しはじめ1980年代前半に高い代位弁済率を示している。これは、オイルショック(第一次 1973年、第二次1979年)によりクライシスが生じた影響であると考えられる。  

 更に1995年に阪神・淡路大震災が発生し、その後代位弁済率は急激に増えている。しかし1998年に増加がゆるやかになり、再度翌年から急激に増加している。これは、1998年に行われた中小企業金融安定化特別保証制度(以下、特別保証制度とする)が影響し、代位弁済の増加に歯止めがかかったものの、その後すぐに急激に増加し、結果として阪神・淡路大震災の影響を受けていた兵庫県信用保証協会にさらなる追い打ちをかけたものと考えられる。  

 大震災から約15年後(2009年12月末)においても、兵庫県信用保証協会の『信用保証トピックス(平成22年1月)』によれば、「災害復旧融資」 の保証債務残高は残り、代位弁済を行う状況が続いていることが明らかとなっている。2009年12月末の『災害復旧融資』の保証債務残高は 2,041件、145億5,000万円となり、代位弁済の累計は6,772件、519億1,300万円となっている11)


図表2 保証承諾金額・代位弁済率の推移(単位:千円・%)

出典:兵庫県信用保証協会[2019b]をもとに筆者作成


3 特別保証制度(1998年10月1日~2001年 3月31日12)

 阪神・淡路大震災の3年後に特別保証制度が実施された。これは、中小企業を中心とした「貸し渋り」問題の解消のために創設された制度である。国は、この特別保証制度の実施に当たり、 2,000億円を都道府県等に交付し、都道府県等は、これを各信用保証協会に出捐した。信用保証協会は、この出捐金を既存の基金と区別して金融安定化特別基金として積み立て13)、これを取り崩す形で、基本財産を補填している14)。この制度は、設計当初より「高い事故率」・「ある程度デフォルトが生じること」が予想されている中で実施された可能性が高いと考えられる。 この実施により、兵庫県の信用保証協会は一時的ではあるが、代位弁済率を減少させている。

4 特別保証制度の問題点と利点

 特別保証制度は適用要件のハードルが下げられている。緊急保証制度が信用保証を提供する際に信用保証協会が一定の審査を行うのに対し、特別保証制度は、ネガティブリスト15)を採用し、ネガティブリストに該当する場合以外は、 原則として信用保証の提供を認めていた16)。このようなことから特別保証制度には、保証判断が早く行われ、即効性が高く、急激な中小企業の倒産を防ぐことができ、スローランディングさせる効果があった。しかし、これにより赤字に転ずる信用保証協会が増加した17)。特別保証制度は、適用業種の限定もなく、幅広く多くの中小企業を救うという点では効果があったが、長くデフォルトが続く原因の一つとなったともいえよう。


Ⅳ クライシス下における信用保証協会の対応事例:東日本大震災(2011 年3月11日)

 2011年3月11日に発生した東日本大震災において、中小企業支援を行った信用保証協会の保証制度やデフォルトの発生率について説明する。  

 東日本大震災時の信用保証では、緊急保証制度(セーフティネット5号)が採用された。このセーフティネット5号の適用要件には会計情報 (売上高)や個別の対話をもとにした経営者の資質の判断、業種の限定などがある18)。  東日本大震災に関わった各信用保証協会の代位弁済率(代位弁済率=代位弁済額÷保証債務残高 ×100)を示したものが以下の図表3であるが、 代位弁済の発生率が非常に低いことがわかる。 ここから、東日本大震災の際の保証判断は、時間がかかったとの反省点はあるものの、デフォ ルトを回避する点においては、おおむね成果を出しているものといえよう。  

 これには、緊急保証制度を採用し、保証判断に売上高の情報を組み込む(会計情報を組み込む) ことが功を奏したと考えられる。信用保証協会 は基本的には、「運転資金」・「設備投資」・「その他」に対する3区分に対し保証を行うが、東日本大震災の緊急保証では「運転資金に対する保証」が98%を超えている。つまり売上が急激に落ちている企業が対象であった。また保証期 間が最長10年(3割が借換え)であるが、3年後の借り換えの際には事業計画書の提出が要件となるなど事業の継続性が問われ、売上高のような定量的な観点だけでなく、経営者の人柄など定性的な要件も保証の際の判断材料となった。このことから保証判断に時間はかかったものの、デフォルト回避については一定の成果を 出した19)と信用保証協会も認めている。阪神・ 淡路大震災と比較し、「原発への補償金などの 特別な手当が支給されている」ことや「事業を再開せず廃業をしている可能性が高い」、「保証 期間が最大10年間であり、今後影響が出る」ことも可能性としてはあるが、会計情報を用いた 保証判断や、CRD20)を用いたスコアリングによ る保証判断21)が一定の成果を出していると考えられる。


図表3 東日本大震災における信用保証協会の代位弁済率(単位:%)

出典:中小企業庁[2012]・[2015]・[2018]・[2020]・[2021a]をもとに筆者作成


Ⅴ 信用保証協会がクライシス下で果たす役割

 特別保証制度と緊急保証制度では、適用対象 となる中小企業の業種の限定の有無、保証判断の際の会計情報の利用の有無やネガティブリス トの採用の有無などの違いがある。これにより、結果として、デフォルト発生率には大きな違いがあったと考えられる。両者は共に貸し渋りを緩和する効果があるが、緊急保証制度は、企業の信用リスクに対するモニタリングを行い、企業の継続性の判断を行っているため、信用リスクの高い企業を延命させないことによって市場の効率性を維持するという効果を有している。 内田衡純氏22)は、「国の財政状況が悪化していく中で、特別保証制度を再実施することには十分な検討が求められる」とし、特別保証制度の実施については慎重な意見を述べており、緊急保証制度の採用を促している23)。現状では、特別保証制度から緊急保証制度への転換が行われており、今回の新型コロナウイルス対応保証で は緊急保証制度が採用されている。  

 信用保証協会は公的資金を基礎とし、信用保証を行う非営利法人である。そもそも公的資金を用いて社会的弱者である中小企業を支援するという考えに立てば、デフォルト回避が必ずしも重要な視点ではないかもしれない。しかし、 信用保証協会のミッションは、中小企業に資金提供すること自体ではなく、不測の事態等で一時的に資金ショートしてしまう中小企業を資金面で支援することでその事業の継続を図ることである。デフォルトが生じた際には、結果的に税金を財源とする資金投入が行われるため、信用保証協会は国民や住民に対しても責任を有することとなる。そこで、どの程度まで中小企業を支援するのか、どのレベルまでの中小企業を支援するのかの線引きが重要であるといえよう。つまり信用保証協会が、事業の継続性に対する適切な判断を行い、保証承諾をしていくことが重要であると考える。  そもそも信用保証協会のミッションは、「事業の維持・創造・発展に努める中小企業に対し公的機関として、その将来性と経営手案を適正に評価すること」により「信用を創造し、信用保証を通じて、金融の円滑化に努める」ことである。クライシス下において限りある資源を効率的に配分するには、何らかの制度や仕組みが必要であり、会計はその重要な要素である。公平・中立・簡素な制度設計が望まれるが、本来、 救うべきではない企業(事業の継続性が望めない企業)に融資・保証を行うのは本末転倒である。 今後さらなる会計情報の提出を求め、事業の継続性に対する適切な判断を行い、保証承諾をしていくことが、信用保証協会がクライシス下で果たす役割であるといえよう。


Ⅵ おわりに

 信用保証協会は、一定の法規・制度・規制の中で、保証判断を行い、中小企業の資金調達を 支援する役割を担っている。この役割の中には裁量の余地があり、クライシス下ではこの裁量の余地が平常時より大きくなる傾向にある。過去の2つのクライシスの事例から、制度上の差異によりデフォルトの発生率に差異が生じることが明らかとなったが、同時に与えられた裁量の余地の中で、各信用保証協会が最善の対応をしようとしていたことも明らかとなっている。 また両制度の比較から、デフォルト回避には、 積極的な会計情報を利用した保証判断が重要であることも明らかとなった。  

 中小企業に関する施策の新しい動きとして、 以下が挙げられる。まずは、1999年に中小企業基本法が改正され、従来の「中小企業は社会的弱者」という取扱いから、自助を前提とする取扱いにシフトしている(中小企業基本法 第1章 総則(中小企業者の努力等)第7条)。これは、今までは二重構造論・下請制度など、中小企業の社会的に弱い立場が問題視されていたが、今後は中小企業者自身が経営努力をし、自助(中小企業者の自主的な努力・支援を前提とする考え)を していくという考えにシフトしていることを意味している。ここから、資金調達面においても、自力での継続性のある中小企業に対し会計情報の開示を要請する形での施策が必要であると考える。  

 またこれは、2013年に経営者保証に関するガ イドラインが策定されたことからもいえよう。 経営者保証に関するガイドラインは、個人保証に依存しながら無理な経営を続ける中小企業に対し、ある程度早い段階で(損失が少ない段階で) の事業の清算を促すものであり、無理な延命をさせないという意図から策定されている。  

 さらに金融検査マニュアルが2019年に廃止されているが、これは「今後の融資判断においては、 金融機関がそれぞれの個性・特性に即して行うべきであり、中小企業の過去の実績だけでなく、 個別の対話等を通じて把握した中小企業の将来を見据えた融資を行うべきである」との方針から行われたものである。そうなれば、中小企業者には金融機関と対等に話せる対話力や会計知識が当然必要となってくる。経営者自身・中小企業者自身の努力が求められているのである。  

 今後もクライシスが起こりうる可能性はある。クライシス下において、信用保証協会は、 より積極的に中小企業の会計情報を活用し、経営努力を続ける事業継続性のある中小企業に対し保証判断を行うことが重要であると考える。


[謝辞]

 本稿は、JSPS科研費 JP21K01830 基盤研究 ⒞の助成を受けたものである。  

 本稿の執筆にあたり、甲南大学名誉教授 河﨑照行先生、鹿児島県立短期大学教授 宗田健一先生にご指導・ご示唆をいただきました。ここに記し感謝申し上げます。


[注]

1)一般社団法人全国信用保証協会連合会 [2020]、5頁。

2)鹿児島県信用保証協会提供資料2020年。

3)これを信用保証協会では事故が発生したという。

4)責任共有制度は、信用保証協会と金融機関が適切な責任共有を図ることにより、両者が連携して中小企業者に適切な支援を行うことを目的としている。責任共有制度には「部分保 証方式」と「負担金方式」の2つの方式がある(一般社団法人 全国信用保証協会連合会[2020]、 9頁)。

5)中小企業庁[2004]、5頁。

6)CRDとはCredit Risk Databaseの略であり、 中小企業の財務データを集めたデータベースである。信用保証協会の平常時の保証判断は、 CRDの値と実際の中小企業の財務諸表を比較したスコアリングに加え、中小企業特性などを総合的に検討し行なわれている。

7)一般社団法人 全国信用保証協会連合会 [2020]、序文。

8)河上[2016]、26頁。

9)兵庫県信用保証協会[2010]。

10)内閣府[2008]。

11)兵庫県信用保証協会[2010]。

12)当初2000年3月31日までの予定であったが、 金融経済環境の激変への適応、円滑化を図るため、2001年3月末まで1年間延長している (会計検査院[2006])。

13)会計検査院[1999]。

14)兵庫県信用保証協会[2018]、55頁。

15)ネガティブリストの内容は以下である。次の事由に該当する場合は、保証対象としないこととする。①破産、和議、会社更生、会社整理等法的整理手続き中、私的整理手続き中であり、事業継続見込みが立たない場合②手形・ 小切手に関して不渡りがある場合及び取引停止処分を受けている場合③信用保証協会に求償権債務が残っている者及び代位弁済が見込まれる場合④粉飾決算や融通手形操作を行っている場合⑤多額な高利借入れを利用してい て、早期解消が見込めない場合⑥税金を滞納し、完納の見込みが立たないような企業の場 合⑦法人の商号、本社、業種、代表者を頻繁に変更している場合⑧前回保証資金が合理的 理由なく使途目的に反して流用された場合⑨ 暴力的不法行為者等が申し込む場合、または、 申込みに際し、いわゆる金融斡旋屋等の第三者が介入する場合⑩業績が極端に悪化し大幅債務超過の状態に陥っており、事業好転が望めず事業継続が危ぶまれる場合。

16)経済産業委員会調査室 内田[2010]、161頁。

17)会計検査院[2003]。「表13 協会及び事業団における事業収支の推移」によると、全国の信用保証協会が実施する信用保証事業に係る 収支の2001年度は1088億円マイナスの収支差額、2002年度は610億円マイナスの収支差額となっている。

18)セーフティネット5号の適用要件は以下である。①~③のいずれかの要件に当てはまる中小企業者であって、事業所の所在地を管轄する市町村長又は特別区長の認定を受けたも の。①指定業種に属する事業を行っており、 最近3か月間の平均売上高等が前年同期比マ イナス3%以上減少している中小企業者②指 定業種に属する事業を行っており、製品等原 価のうち20%以上を占める原油等の仕入価格が上昇しているにもかかわらず、製品等価格 に転嫁できていない中小企業者③指定業種に 属する事業を行っており、最近3か月間(算 出困難な場合は直近決算期)の平均売上総利益率又は平均営業利益率が前年同期比マイナス 3%以上低下している中小企業者。

19)江口[2009]、17-21頁。

20)CRDは、信用保証協会の適切な保証判断ために作成されたデータベースであり、全国信用保証協会連合会・牧野洋一会長の依頼によりCRD協会(CRD作成機関)が設立された。 (CRD協会[2001]。)

21)2001年に中小企業の財務データを収集・管理し、客観的に金融機関が融資判断をできるように、CRD協 会が創設された。 よって、 CRDを用いてのスコアリングは、2001年以 降行われている(CRD協会[2001])。つまり、 阪神・淡路大震災が発生した当時、CRDを用いたスコアリングはまだ存在していない。 しかし、東日本大震災時においては、CRD を用いたスコアリングがすでに普及していた と考えられる。

22)経済産業省経済産業委員会調査室。

23)経済産業省経済産業委員会調査室 内田 [2010]、166-167頁。


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 CRD協会[2001]『CRD運営協会設立趣旨報告書』。https://www.crd-office.net/CRD/ about/syusi.pdf


 参考文献のURLの最終閲覧日はすべて2021年12月16日である。

論稿提出:令和3年12月16日

加筆修正:令和4年6月30日

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