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「」に対する検索結果が70件見つかりました

  • 2022最終報告(公益・一般法人研究会) | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    非営利法人研究学会 公益・一般法人研究会 公益・一般法人制度の研究【2022年度最終報告】 公益・一般法人における税務問題の実務視点からの研究

  • 第3回学会賞・学術奨励賞 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    学会賞・学術奨励賞の審査結果 第3回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告 平成16年9月4日 非営利法人研究学会 審査委員長:松葉邦敏 ​ 公益法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第3回学会賞(平成15年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)及び学術奨励賞(平成15年度全国大会の報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文)の候補作を慎重に審議した結果、残念ながら学術奨励賞に該当する論文はなく、下記の刊行著書を学会賞に選定しましたので、ここに報告いたします。 1. 学会賞 小島廣光(北海道大学)『政策形成とNPO法−問題,政策,そして政治』(A5判、276頁、有斐閣、2003年11月) 【受賞論文の内容と受賞理由】 本書は、その必要性はほとんど一般に理解されていたNPO法が、阪神・淡路大震災を契機として、短時日に「なぜ」しかも「どのようにして」政策形成・立法化されたのかを解明することが著者の直接の動機となり、これを明らかにすることがその目的となったものである。 したがって、その内容は、分析方法としての「改訂・政策の窓モデル」を用いながら(第2章)、NPOの政策形成・立法過程に関わる参加者が輻輳し、それぞれが利害と思惑を異にする中で、どのような過程を踏んで立法化が進捗したか、詳細かつ丹念に事実関係を跡づけ、分析・解明している(第3章から第5章)。さらに、この分析・解明は単に事実を分析・解明しそれを説明するにとどまらず、このNPO法成立過程を評価し、かつ問題点を指摘して将来のあるべき市民立法への提言まで展開している(第6章)。 著者は非営利組織研究の第一線にあるとはいえ、少なくとも経営学の学徒として、異質の政治の世界における政策形成・立法過程の問題に直接挑戦したことはまず賞賛されるべきである。しかも、従来の分析方法(例えば、政策の窓モデル)よりさらに組織的知識創造モデルの視点を取り入れた独自の「改訂・政策の窓モデル」の方法に基づいて立法過程を視ている点が注目される。特に著者が本書において注力した方法である。さらに、方法論において斬新であるばかりでなく、多数の膨大なデータを駆使して政策形成の分析・解明を行い、理論と実証の双方に裏付けられた理論化を試みた点で高く評価される。そのうえで、具体的なNPOの政策形成過程を民法施行(1898年)から阪神・淡路大震災の発生前(1994年)までを1期として、その後のNPO法(優遇税制立法を含む)成立(2001年)までの短期間(6年間)を細かく分けて全6期にわたる詳細な年代記を記述したうえで、独自の方法論によってそれぞれの期間の特質を見事に摘出している。最後に、これは重要な点であるが、本書が立法過程において十分に評価される点と今後の何らかの立法において留意すべき点、さらには市民立法への提言をしていることである。今日すでに、政治と行政、それらと既存の団体と一般市民団体の間に繰り広げられている「公益法人改革」の問題の諸側面を考察し、問題の在処を探る場合に多くの示唆を与えてくれる。 以上から、問題把握の独創性、論述展開の克明性、理論化過程から生まれた具体的な提言などにおいて、極めて優れた著作であり、本学会の学会賞にふさわしい論考として選定することに審査委員の一致した見解を得た。 2. 学術奨励賞 該当論文なし

  • 九州部会報告 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    九州部会報告 ■第9回九州部会記 日時 :2016年7月9日(土) 場所 :久留米大学 ​ 第1報告「公園維持管理における組織と人の役割」 山内元六氏(山鹿市役所) 本報告では、公園施設の事例分析を通じ、「協働概念に基づくアソシエーション組織」の検討を行った。熊本県山鹿市の“湯の瀬川公園”では、国や市、地域住民や公園利用者といったメンバーから構成される“菊池川育てねっと”が公園の維持管理を行っている。この官民連携の組織は様々なステークホルダーから構成されており、R.M.マッキーバーが提唱した「社会集団類型のアソシエーション」であると考えられる。また、官民が協力して清掃等の維持管理活動に取り組んでいることから協働概念に基づく活動であるとも考えられる。この事例から、共通の目的が存在する際には、アソシエーションと協働概念が紐づけられることを明らかにした(文責:山内)。 ​ 第2報告「防災と地域ガバナンス ― 被災者支援のあり方を中心に ― 」 黒木誉之氏(長崎県立大学) 熊本地震の特徴は、車中泊避難等による指定避難所以外での避難者の多さである。この問題は熊本県だけの問題ではなく、熊本県以外の地域も今後対応を検討しておく必要がある。そこで今回の調査は、震源地となった熊本県益ましきまち城町を対象に、①指定避難所以外で被災者が避難された場所を確認(条件の抽出)し、②その場所に避難された被災者への救援活動の実態を調査し課題等を明らかにすることを目的として行った。 現段階の調査結果として、①について、公園やショッピングモール、コンビニエンスストア等の駐車場に加え、幹線道路の路肩等について報告を行った。②については、企業やNGO・NPOの活動のみならず、SNSの活用による個人の活動が行政や団体による活動の隙間を埋めているとの報告を行った。 今後は現地での継続調査に加え、東日本大震災の被災地である宮城県南三陸町での調査も実施予定である(文責:黒木)。 ​ 第3報告「非営利組織体会計における純資産分類の意義と財務評価」 日野修造氏(中村学園大学) 非営利組織体の財務評価と純資産の分類には密接な関係があると考え、純資産分類の意義と財務評価に焦点を当てて、報告を行った。また検討の基点は、アメリカの非営利組織体会計に関する文献である。 検討の手順はまず、純資産の各分類手法を確認した。次に非営利組織体の財務評価は財務的弾力性、ハードマネー創出能力及び純資産の維持により評価することを明らかにした上で、一時拘束純資産に着目した財務分析について私見を述べた。 結果として、非営利組織体の純資産は資源提供者の提供資源に対する拘束の影響を考慮することが極めて重要であるとした。そして、さらに一時拘束純資産の分類区分を設けることで、より充実した財務評価・分析が可能になることを明らかにした(文責:日野)。 ​ ■第8回九州部会記 日時 :2015年12月19日(土) 場所 :熊本県立大学 ​ 1. 基調講演 「非営利組織会計基準の統一化に向けた 課題と展望 ― 日本公認会計協会『論点整理』に寄せて ―」 藤井秀樹氏(京都大学) 本年(2015年)5月に公表された日本公認会計士協会『非営利組織の財務報告の在り方に関する論点整理』に拠りながら、基準統一化に向けた課題を整理し、当該問題の今後の展開方向を展望した。海外(とりわけ英米)の先例との異動及び企業会計との関係に焦点を当てた検討を行った結果、⑴非営利組織の範囲や財務報告の目的については海外の先例と相違はないが、⑵企業会計の枠組みから独立した非営利組織会計の枠組みを構築しようとしている点、⑶基礎概念については個別文書を作らず、会計基準に組み込む形で示そうとしている点で、『論点整理』は独自のアプローチを採用していることが明らかとなった。企業会計基準委員会(ASBJ)との協力関係の形成が、今後の主要な課題のひとつとなろう(文責:藤井)。 2. 部会報告​ 第1報告「非営利・公益法人としての私立大学」 伊佐 淳氏(久留米大学) 日本の私立大学は、法制度上、非営利法人の一種である学校法人であり、広義の公益法人の範疇に位置付けられている。したがって、私立大学は、非営利の公益法人であるということができる。翻って、2014(平成26)年、学校教育法が改正されたが、そこに至る議論の過程では、大企業におけるガバナンスやマネジメントを、大学の運営者がお手本とするべきものとされた観がある。すなわち、素早い意思決定のためのガバナンスの構築や、学長の強力なリーダーシップによる教学部門の改革が強調されているのである。しかしながら、営利法人ではなく、非営利・公益法人としての私立大学においては、経営部門のトップに対するチェック・アンド・バランスを果たすためのガバナンスこそが重視されねばならないのではないか(文責:伊佐)。 ​ 第2報告「 農業における非営利法人の役割」 源田佳史(公認会計士) 以下の3つの点について報告した。まず、①「農協法改正に伴う農協の非営利規定の削除に対する対応」では、農協運営における経済性や効率性を重視していった結果、反作用としての公益的な業務(生活購買や厚生事業)は、非営利法人へ移管する傾向を解説した。次に、②「TPP対応としての輸出農産物の各農業団体の調整機能としての中立性公平性の確保」では、農協や農業団体、農業関連企業が利益調整を行いつつ、「オール九州」としての農産物輸出やインバウンド需要喚起のための調整機能があることを紹介した。最後に、③「農業地域の担い手の高齢化に伴う耕作放棄地の拡大や鳥獣害対策のための非営利法人の活用」では、耕作放棄対策として農事組合法人の設立や農地中間管理機構(非営利法人)の活動支援がなされていることや、鳥獣害対策のための非営利活動の必要性を指摘した(文責:源田)。 ​ 第3報告「公立病院の経営改革の現状 ― 新公立病院改革ガイドライン(2015年)を踏まえて ―」(熊本県を事例として) 森 美智代氏(熊本県立大学) 本報告では、2007年に公表された公立病院改革ガイドラインと2015年に公表された新公立病院改革ガイドラインの比較検討をした。 公立病院の運営は、自治体の管轄のもとで、公共サービスとして画一性が求められてきた。 また人事及び予算の権限は自治体にあり、予算至上主義によって医療機関の経営改善に遅れがあった。 しかし2000年代に入ると自治体には財政健全化計画の策定が義務付けられ(地方公共団体の財政の健全化に関する法律:2009年健全化法)、この法律とともに公立病院改革が進められてきた。 2007年ガイドラインでは①「経営効率化」②「再編・ネットワーク化」③「経営形態の見直し」が3つの柱となっている。これを継続して、2015年新ガイドラインでは、④「地域医療構想」を踏まえた役割が明確化された。 したがって公立病院の果たすべき役割の精査・病床の機能区分ごとの将来の病床数の必要量等が示され、地域医療構想が確認された。新しいガイドラインでは、特に経営の安定化のための目標指標が追加された。熊本の公立病院を事例として、経営改革の現状を紹介した(文責:森)。 九州部会

  • 第22回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    第22回大会記 2018.9.8-9 武蔵野大学 ​ 統一論題 NPO法施行20年~その回顧と展望~ ​ 平成30年9 月7 日(金)より9 日(日)の日程で、非営利法人研究学会第22回全国大会が行われた。会場は、2020年東京オリンピックのメイン会場として様々な工事が急ピッチで進められる江東区有明に所在する武蔵野大学有明キャンパスにおいて、武蔵野大学に所属する5 名の準備委員のもと、本大会は盛大に開催された。本稿は、今大会の概要を報告するものである。 今回の大会の統一論題テーマは、「NPO法施行20年~その回顧と展望~」であり、1998年のNPO法施行より、20年間経過した現時点で回顧を試み、これからの20年間を展望することを目的として設定された。 まず、基調講演として、1998年当時、NPO法の制度設計に経済企画庁国民生活局長という立場で携わった井出亜夫氏(元経済企画庁国民生活局長、元慶應義塾大学教授)による「NPO法制定当時を回顧する」というテーマで行われた。その後、統一論題報告者として、濱口博史氏(弁護士)および江田寛氏(公認会計士)による報告が行われた。井出氏は制度設計から、濱口氏は法律専門家から、江田氏は会計専門家からこの20年間のNPOの諸制度を牽引してきた立役者であり、含蓄のある報告が行われた。以後、報告要旨を掲載する。 また、自由論題報告は、各地方部会での予備報告を経た10の報告が行われ、各会場ともに闊達な議論が展開された。なお、本稿に掲載の要旨は、各報告の司会者に依頼したため、原文に忠実に掲載するため、文字数等の体裁に少々の不統一さがあるが、ご了解いただきたい。 ​ 基調講演 ​ 「NPO法制定当時を回顧する」(井出亜夫・元経済企画庁国民生活局長、元慶應義塾大学教授) 井出報告の要旨は以下の通りである。まず、市場経済のグローバル化に伴いNPO活動が活発に展開されるようになってきた。しかし、日本においては、1995年の阪神・淡路大震災がその契機となったが、わが国民法は、その具体的受け皿を欠き、戦後の民法改正においても公益は国家(行 政)が司るという公益国家(行政)管理主義が貫かれていた。NPO法の制定は、この明治憲法思想を延長する考えを是正する一歩を切り開いたが、長年にわたる公益国家管理主義思想は一朝にして変わるものではない。冷戦の終結に伴い、市場経済システムは格差の拡大等の問題も発生させ、企業の社会的責任を求める声も大きくなっている。より高度な市民社会の形成に当ってNPOの役割は大きい、とする。 ​ 統一論題報告 第1 報告 「法律専門家から見たNPO法20年」(濱口博史・弁護士) 濱田報告の要旨は以下の通りである。NPO法の制定時においてはNPO法人と旧民法法人とのすみわけが論ぜられたが、民法改正と一般法人法及び公益認定法の制定によって状況が変わった。そこでは、所轄庁による認証に基づく設立の意味が問われている。また、準則主義をとり、税法上ではあるが非営利型の類型をもつ一般法人法との関係が問題となるに至った。そして、これらを踏まえたとき、NPO法の今後の方向性が問われる。 本報告では、認証にかかわる部分について、一般法人法との関係について、の二点に場合分けして、今後のあるべき姿について濱田氏の私見が述べられた。 第2 報告 「NPO法人会計基準の考え方と2017年12月改正の方向性」(江田寛・公認会計士) 江田報告の要旨は以下の通りである。まず、報告の前半は、NPO法人会計基準制定以前の状況について言及し、NPO法人会計基準の策定がいかに必要性であったかを強調される。引き続き本報告では、同基準が提示した重要なテーマについて言及した後、策定以後の状況について課題を含 めて検討している。 そして最後に江田氏のメッセージとして、以下の2 点が強調された。まず、市民とNPO法人を繋ぐ架け橋としてのNPO法人会計基準が「市民の手」でよりブラッシュアップされ、NPO法人の社会的評価の確立に貢献してほしいと思っていること。加えて、本非営利法人研究学会所属の研究 者及び実務家諸氏のサポートを強く期待すること。 ​ ​ 自由論題報告 ​ 自由論題報告第一会場 第1 報告 「非営利組織とはどのような組織か」(松原由美・早稲田大学) ​ 松原報告は、非営利組織の定義の再考を検討したものである。まず、定義を「ある概念 L. M.サラモン(1982)」による非営利組織の定義、公益法人制度改革(『有識者会議報告書』2004年)や経済産業研究所の『新しい非営利法人制度研究会報告書』における非営利組織(法人)の定義を検討し、問題点を指摘している。そして松原報告は、⑴まず、営利を定義(営利とは、利益を上げること)し、⑵営利の否定語として非営利の定義(非営利とは、利益を上げないこと)をし、⑶非営利組織を「利益を上げない組織」と定義する。さらに、この定義における「利益」とは「将来のコスト」であると主張された。 第2 報告 「東大阪市版地域分権制度確立にむけての軌跡と課題」(中塚華奈・大阪商業大学) 中塚報告は、2012年度から始まった東大阪市の地域分権制度の確立に向けての取り組みの経緯と軌跡を概観し、東大阪市の「協働のまちづくり部」と共同で著者が実施した関係諸団体へのアンケート調査や聞き取り調査をもとにして、制度確立を阻む要因の抽出と課題を明らかにしたものである。中塚報告では、結論として次の4 つの課題をあげている。⑴既存活動の後押しもできる制度への拡充の検討。⑵様々な立場の市民が存在することから、情報公開・伝達方法の検討および拡充。⑶条例策定のような原理原則、価値観、方針の決定にはトップダウン的アプローチ、具体的な行動や判断についてはボトムアップ的アプローチという、両者の特性を活かしたアプローチの検討。⑷地域分権には「地域=地域」、「地域=役所」、「役所=役所」の協働が必須であるが、今回は「役所=役所」の協働が機能せず、縦割り行政の弊害であると考えられるので、部局横断的に進める権限を有する部署の必要性。 ​ 第3 報告 「社会的投資によるコミュニティ再生―英国のコミュニティ・シェアーズを事例に―」(今井良広・兵庫県地域創生局長) 今井報告は、近年財政制約が深刻化する中で多様化・複雑化する社会課題の解決方策としての役割が拡大しつつある社会的投資について、その概念、理論的背景を探り、英国の事例を用いて社会的投資をめぐる政策形成・展開過程を考察した。特にコミュニティへの参加型投資スキームであるコミュニティ・シェアーズ(community shares)に焦点をあて、その普及・拡大状況を明らかにした。わが国でも社会的投資の拡大に向けた検討が進められており、休眠口座の活用、法人制度の創設などとともに、個人投資家層の充実について提言がなされている。そのなかでコミュニティ・シェアーズの市民参加型の取り組みを参考にすべきことも多いとの報告がされた。今後、コミュニティへの資金供給の流れを拡大し、持続的なものにしていくには、コミュニティ・シェアーズに適用される投資減税制度や自主的認証制度、情報開示方法なども参照していくべきとの提言がなされた。 ​ 第4 報告 「職業能力開発と非営利法人:技能継承の担い手として」(初谷勇・大阪商業大学) 初谷報告は、NPO政策の規範的検討として、NPOの存立や発展を支援する「基底的NPO政策」とNPOとの政策遂行主体との間での協業関係におけるNPOの位置を検討する「派生的NPO政策」とを峻別し、さらにこのフレームワークをNPO法人だけでなく、広く公益法人や特別法に基づく 法人にも広げて検討を試みる。本報告はそうした流れにおいて特別法に基づく法人として職業訓練法(職業能力開発促進法)に基づく職業訓練法人に焦点を当てた。同法人制度の立法経過、改正経緯、役割期待や活用の実態を考察し、存在意義、法人の現況とその問題の摘出、解決の道筋を検討する。また、働き方改革などの雇用・労働政策の改正が進められるなか、政策体系の一翼を担う職業訓練(職業能力開発)政策について『「鼎立するNPO政策」の構図と枠組み』を適用することにより見出された課題についても検討した。 第5 報告 「日本のNPO支援組織の展開」(吉田忠彦・近畿大学) 日本のNPO支援組織は、NPOの普及にしたがって事業内容や方向性を変化させてきた。「NPOサポートセンター」と呼ばれたりする時期もあったが、近年では「中間支援組織」という呼び方が定着してきた。報告では支援組織の類型が報告され、最近の動向を写真と共に紹介された。日本における「中間支援組織」は、その名称のルーツと思われる「intermediary (organization)」とは若干のズレがあることが報告された。特に多くのNPOが必要とする財源確保への支援が手薄であったが、最近になってそのズレを埋めるような動向として「市民ファンド」や「日本ファンドレイジング協会」に代表されるような動きが報告された。一方では行政による市民活動支援施設の設置はさらに普及している。この報告では、それらの日本のNPO支援組織の動向を紹介し、今後の展開の可能性が示された。 ​ 自由論題報告第二会場 第1 報告 「NPO経営者におけるアカウンタビリティの質的データ分析」(中嶋貴子・大阪商業大学) 本発表は、岡田彩氏(金沢県立大学)との共同研究であるが、今回は中嶋氏のみの発表となる。発表の要旨は次のとおりである。 日本の非営利セクターはNPO法施行20年を迎えたものの、特にNPO経営者が考えているアカウンタビリティ概念については十分に論じられていない。そこで、NPOの代表理事などの経営に携わる人を対象にインタビュー調査を実施し、質的データ分析法に従ってコンテンツ分析を行い、彼 らが有するアカウンタビリティ概念の共通性を明らかにすることが本発表の目的である。 インタビューは8 団体9 名を対象に実施された。コンテンツ分析で対象とした13項目の利害関係者に関する項目のうち、重視する利害関係者として、「一般市民・地域住民」「政府機関」「日本国 内の他のNPO」の3 つが共通概念として浮かび上がった。次に、説明責任の果たし方に関する対応方法に関する20項目のうち「活動の成果を高める」「協同的なパートナーシップ構築・維持する」「正確な情報を提供する(財務に関する情報以外)」「様々な意見に対応し、運営にフィードバックする」の4 つが共通概念として浮かび上がった。最後に、利害関係者と対応方法のコンテンツ分析の結果をクロス集計し、それぞれの共通概念の関係性を示す概念マトリックスを作成した。その結果、「成果向上に対する交渉的アカウンタビリティ」「ミッションに基づく先見的アカウンタビリティ」「参加促進に対する創造的アカウンタビリティ」の3 つが示された。 以上の発表に対して、フロアーからは対象となるNPO経営に携わる人の範囲がもっと広いのではないかという質問が寄せられた。 ​ 第2 報告 「『創業者統治』の機能からみるガバナンス―ミッションとアカウンタビリティの相克―」(川野祐二・下関市立大学) 発表の要旨は次のとおりである。非営利法人の創業者・設置者によるガバナンス(創業者統治)体制は、非営利法人経営者の暴走を防ぎ、ミッションを確実に履行するための統治手段の一つとなる。しかし、創業者統治が強力に行われると、経営者が創業者へのアカウンタビリティを重視するあまり、かえってミッションを軽視する可能性を秘めている。このアカウンタビリティとミッションの関係性の矛盾と克服を考察する必要があるが、その先には実は天下り問題があり、個々の非営利法人のガバナンスの在り方を考えるうえで、創業者と経営者の関係性の構築は主柱の一つとなる。 非営利法人のガバナンスを考えるうえで起点に据えるべきはミッションであり、誰のものでもない非営利法人は「誰のため、何のため」という視点からガバナンスを構築すべきである。しかし、それでもいくつかの問題を抱えることになる。例えば、経営者が暴走した場合、営利企業の株主総会では、所有者たる株主が「もの言う株主」となってそれを是正する機能を有している。しかし非営利法人の場合は、最高意思決定機関である社員総会や評議委員会を構成するメンバーは法人所有者ではない。したがって、所有意識のない構成メンバーがミッションの維持や経営の健全性に無関心になる傾向があることを心得る必要がある。むしろ非営利法人の方が、経営者の暴走を見過ごす傾向があるといっても過言ではない。こうした状況で非営利法人は、「ミッションを健全に目指す経営をいかにして確保すればよいのか」が問題となる。 発表そのものは15分ほどで終わり、そのあと質問となったが、フロアーから質問が出なかったので、司会者が最近のスポーツ系非営利法人のガバナンス問題を例に質問をし、多少の議論を行った。そのあと、岡本仁宏氏(関西学院大学)より、高所大所からアドバイスがあった。 第3 報告 「公益法人税制改革における政府税制調査会の役割」(出口正之・国立民族学博物館) 公益法人税制改革において、政府税制調査会の果たした役割は大きなものがあった。 政府税調は、公益法人に対しては、不公平税制の是正という観点から、一般法人の事業との競合性がある場合、収益事業課税の原則に則ることが適当であるとしてきた。しかしながら、平成17年の答申では、公益法人制度改革に合わせて、「理念としての税制」を検討している。すなわち、「わが国においては、寄附文化はこれまで比較的希薄と言われており、寄附文化を発展させるためには、寄附金税制の抜本的な改革のみならず、公益的な非営利法人において適正な事業活動や情報公開により寄附者の理解を得るための一層の努力が求められる」としている。このような経緯を経て、わが国における公益法人税制改革において、新たな寄附金制度が導入された。 公益法人に関する税制改革は、公益法人制度改革に合わせて、政府税制調査会におけるこのような議論を踏まえて、理念の税制として捉えなおした結果であるといえる。 第4 報告 「一般法人の非営利性についての再検討―非分配制約の意義を中心に―」(古市雄一朗・大原大学院大学) 営利法人と非営利法人を分類する基準として、組織の活動期間中に剰余金の分配を行わない事および残余財産を特定の者に分配しないという非分配制約は、制度においても重要な役割を果たしている。非営利組織は、非分配制約を課されることで、社会からの信頼を得て活動を推進することができ、例えば、寄付や補助金という資源の提供を受け入れやすいことがある。 一般法人の場合、剰余金及び残余財産の分配が行われないことが制度上求められていると理解されている。しかしながら、一般法人法第239条第2 項は、定款の規定により残余財産の帰属が定まらないときには、「その帰属は、清算法人の社員総会又は評議員会の決議によって定める」と規定している。このため、特定の社員や設立者、その他利害関係者に残余財産を分配することが可能となっている。残余財産が実質的に分配可能な一般法人は、非営利組織として分類されることに検討の余地があるといえる。 第5 報告 「非営利法人における実質的配分可能性」(齋藤真哉・横浜国立大学) 非営利法人の特性として、剰余または残余財産についての非分配性を挙げることができるが、現実には実質的に非分配性を否定する状況が見受けられるとの問題意識にもとづき、⑴剰余等が実質的に分配されている可能性はどのような状況で生じうるのか、⑵公益性のある事業の拡大・充実を図ろうとする場合に、剰余等の実質的分配可能性にどのように対応する必要があるか、について検討がなされた。 まず、実質的分配可能性の状況として、齋藤氏は、①残余財産の帰属(例えば、出捐者(設立者)に対する残余財産の寄附や、当該法人の管理者が統制している他の非営利法人への非合理的な財産移転の場合)、②役員報酬等(例えば、当該法人の役員に就任している出捐者や社員、その家族等に対して、社会通念上妥当と考えられる金額を超えた額が報酬等として支払われる場合)、③利益相反取引(例えば、出捐者や社員が役員を務める株式会社(営利法人)との間で、当該株式会社に超過収益を与えるような価格で取引がなされる場合)の3 つを提示された。 そのうえで、公益性のある活動の「真の発展」に向けて、行政の外郭団体を民間非営利法人としての位置づけから除外すること、税制上の非営利型の再検討、公益性の判断を実質的に行うこと、情報公開の充実とアクセスの容易化、これが求められるとの提言がなされた。 介護・福祉系法人研究部会セッション 今回の全国大会では、新しい試みとして研究部会の研究成果を中心とした小規模なセッションを企画した。その目的は、地域包括ケアシステムの運用が始まり、また新しい非営利の法人格として、地域連携推進法人の設立が可能となったからである。制度改革の渦中にある医療・福祉系の非営利法人に関する情報を共有し、学会の有識のメンバーからの意見等をくみ上げ、今後の展開にむけて有意義な議論を喚起することが本セッションの役割である。 本セッションは、千葉正展氏(独立行政法人福祉医療機構)の司会により、「包括化」をキーワードに、吉田初恵氏(関西福祉科学大学)による「介護の包括化」、玉置隼人氏(厚生労働省地域福祉課)による「福祉の包括化」、上村知宏氏(独立行政法人福祉医療機構)による「医療の包括化」という論点で報告が行われ、その後、パネルディスカッションが行われた。当代、制度設計の最先端をひた走る気鋭の面々による最先端の議論は、極めて有益な内容となった。 本セッションの報告要旨は、千葉氏による別稿により、改めて開示する予定であり、本稿では割愛させていただいた。 ​ ​

  • 文献四季報2002 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    論文標題:法人税の基本問題雑考 著者名:武田昌輔:所属機関:成蹊大学 雑誌名:會計 第162巻第3号:発行所:森山書店 発表年月:2002年9月:ページ:111〜123 ​ 論文標題:商法における資本制度の揺らぎと「資本の部」の表示 著者名:安藤英義:所属機関:一橋大学 雑誌名:會計 第162巻第2号:発行所:森山書店 発表年月:2002年8月:ページ:1〜14 ​ 論文標題:税制改革の基本問題 著者名:武田昌輔:所属機関:成蹊大学 雑誌名:税経通信 VOL.57 NO.12:発行所:税務経理協会 発表年月:2002年8月:ページ:50〜56 ​ 論文標題:地方自治体会計の課題—その情報公開の実態からの問題提起— 著者名:斎藤真哉:所属機関:青山学院大学 雑誌名:月刊公益法人 8月号:発行所:全国公益法人協会 発表年月:2002年8月:ページ:6〜13 ​ 論文標題:企業組織再編成と「資本の部」 著者名:成道秀雄:所属機関:成蹊大学 雑誌名:企業会計 VOL.54 NO.7:発行所:中央経済社 発表年月:2002年6月:ページ:44〜53 ​ 論文標題:新会計基準と企業行動—変化と継続— 著者名:藤井秀樹:所属機関:京都大学 雑誌名:會計 第161巻第5号:発行所:森山書店 発表年月:2002年5月:ページ:1〜14 ​ 論文標題:公益法人会計基準の見直し問題 著者名:村山徳五郎:所属機関:東北公益文化大学 雑誌名:企業会計 VOL.54 NO.6:発行所:中央経済社 発表年月:2002年5月:ページ:97〜104 ​ 論文標題:会計の二つの機能をめぐる諸問題−利害調整と情報提供 著者名:安藤英義:所属機関:一橋大学 雑誌名:一橋論叢 第127巻第4号:発行所:一橋叢書編集所 発表年月:2002年4月:ページ:1〜16 ​ 論文標題:キャッシュフロー経営と会計の概念フレームワーク 著者名:佐藤倫正:所属機関:名古屋大学 雑誌名:税経通信 VOL.57 NO.7:発行所:税務経理協会 発表年月:2002年4月:ページ:1〜2(巻頭言) ​ 論文標題:金融資産・金融負債の構成比率の分析 著者名:浦崎直浩:所属機関:近畿大学 雑誌名:税経通信 VOL.57 NO.7:発行所:税務経理協会 発表年月:2002年4月:ページ:50〜58 ​ 論文標題:ドイツにおける発生主義予算と公会計制度 著者名:亀井孝文:所属機関:南山大学 雑誌名:南山経営研究 第16巻第3号:発行所:南山大学経営学会 発表年月:2002年3月:ページ:167〜184 ​ 論文標題:公正価値会計の視座 著者名:浦崎直浩:所属機関:近畿大学 雑誌名:税経通信 VOL.57 NO.4:発行所:税務経理協会 発表年月:2002年2月:ページ:31〜37 ​ 論文標題:法人税法上の有価証券の範囲 著者名:武田昌輔:所属機関:成蹊大学 雑誌名:有価証券の譲渡・評価損益 (日税研論集VOL.48):発行所:日本税務研究センター 発表年月:2002年2月:ページ:3〜55 ​ 論文標題:有価証券の譲渡損益 著者名:成道秀雄:所属機関:成蹊大学 雑誌名:有価証券の譲渡・評価損益 (日税研論集VOL.48):発行所:日本税務研究センター 発表年月:2002年2月:ページ:87〜141 ​ 論文標題:有価証券の評価損益 著者名:守永誠治:所属機関:静岡産業大学 雑誌名:有価証券の譲渡・評価損益 (日税研論集VOL.48):発行所:日本税務研究センター 発表年月:2002年2月:ページ:143〜170 ​ 論文標題:外貨建有価証券等の評価 著者名:野田秀三:所属機関:桜美林大学 雑誌名:有価証券の譲渡・評価損益 (日税研論集VOL.48):発行所:日本税務研究センター 発表年月:2002年2月:ページ:171〜210 ​ 論文標題:予測要素の増大がもたらす会計測定・理論への影響 著者名:黒川行治:所属機関:慶應義塾大学 雑誌名:會計 第161巻第2号:発行所:森山書店 発表年月:2002年2月:ページ:27〜38 ​ 論文標題:会計基準設定の現代的特徴と会計研究の役割 著者名:藤井秀樹:所属機関:京都大学 雑誌名:會計 第161巻第2号:発行所:森山書店 発表年月:2002年2月:ページ:50〜61 ​ 論文標題:公益法人会計基準の見直しに関する論点の整理(中間報告) —その意義と評価について— 著者名:江田 寛:所属機関:公認会計士 雑誌名:月刊公益法人 2月号:発行所:全国公益法人協会 発表年月:2002年2月:ページ:38〜45 ​ 論文標題:非営利組織体における財務諸表の構成要素−FASB財務会計概念基準書第6号を中心に− 著者名:橋本俊也 他:所属機関:税理士 雑誌名:愛知学院大学論叢「経営研究」 第11巻第2号:発行所:愛知学院大学経営学会 発表年月:2002年1月:ページ:77〜87 ​ 論文標題:商法と会計基準 著者名:安藤英義:所属機関:一橋大学 雑誌名:企業会計 VOL.54 NO.1:発行所:中央経済社 発表年月:2002年1月:ページ:30〜36 ​ 論文標題:税法と会計基準 著者名:武田昌輔:所属機関:成蹊大学 雑誌名:企業会計VOL.54 NO.1:発行所:中央経済社 発表年月:2002年1月:ページ:37〜42 ​ 論文標題:公益性とその認定基準(下) 著者名:渋谷幸夫:所属機関:常成福祉会 雑誌名:月刊公益法人 1月号:発行所:全国公益法人協会 発表年月:2002年1月:ページ:34〜43 ◆図書の部 書 名:現代企業簿記会計 執筆者:横山和夫:所属機関:東京理科大学 発行所:中央経済社 発行年月:2002年9月:総ページ数:504頁 ​ 書 名:非営利組織体の会計 執筆者:杉山 学 他 編著:所属機関:青山学院大学 発行所:中央経済社 発行年月:2002年9月:総ページ数:330頁 文献四季報 2002 このページは本学会会員が、2002年1月〜12月中に学内誌、学会誌、商業誌等に発表した又は今後発表する論文及び単行本を収録するものです。会員の研究学績を広く社会に紹介するために設けました。 情報がありましたらメール等にてお寄せください。 著者名が複数の場合は連記しています。また、所属機関は発表当時のものです。 当学会の学会誌に掲載されたものに関しては、出版のご案内をご参照下さい。 ◆論文の部

  • 第9回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    第9回大会記 2005.9.9-10 神奈川大学 統一論題 1 非営利組織の制度進化と新しい役割 2 非営利組織の失敗—その原因と予防装置— 3 公益法人制度改革で何が変わるか 4 非営利法人課税制度への提言 文京学院大学 依田俊伸 公益法人研究学会第9回全国大会は、2005年9月9日(金)・10日(土)の日程で、神奈川大学において開催された。第1日目は、理事会の開催に充てられた。以下では、第2日目の研究報告大会の模様を中心に、学会の開催状況を紹介する。 1 自由論題報告 4会場で行われ、以下の9題が報告された(氏名のカッコ内は所属機関)。 第1会場〔司会:金川一夫氏(九州産業大学)〕⑴東郷寛氏(公共・非営利組織研究フォーラム)「イングランドの官民協働における非営利組織の役割」、⑵今井良広氏(兵庫県健康生活部)「英国における地域協定(LAAs)の意義と役割—非営利組織の活動基盤としての可能性—」、⑶兵頭和花子氏(兵庫県立大学)「非営利組織体の情報開示—非営利組織体のミッション評価の必要性とその実態—」 第2会場〔司会:吉田初恵氏(関西福祉科学大学)〕⑴永島公孝氏(筑波大学大学院)「非営利法人における委員会手当の所得区分」、⑵成田伸一氏(社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター)「社団法人における賛助会員に関する考察」、⑶小笠原修身氏(社会福祉法人ふじの郷さつき学園)「社会福祉法人の監査制度とその課題」 第3会場〔司会:小島廣光氏(北海道大学)〕⑴早坂毅氏(関東学院大学大学院)「非営利組織の現物寄附と現状分析—NPO法人100件を分析して—」、⑵丸山真紀子氏(久留米大学病院)「e—ヘルスネットワークについての一考察—データー利用を中心にして—」、⑶吉田忠彦氏(近畿大学)「NPO支援センターのタイプ別機能特性」 第4会場〔司会:江田寛氏(公認会計士)〕⑴王妹三氏(九州産業大学大学院)「非営利組織における収支計算書の問題点—目的と基本概念—」、⑵江頭幸代氏(広島商船高等専門学校)「営利企業の非営利活動の研究—とくに環境コストとライフサイクル・コスト—」、⑶関口博正氏(神奈川大学)「公会計における非交換取引(Non—Exchange Transaction)の認識と測定—運営費交付金等の処理を中心にして—」 2 研究部会報告 大矢知浩司氏(九州産業大学)の司会により、以下の3報告が順次行われた。 ⑴東日本研究部会〔主査・小島廣光氏(前出)〕「NPO、政府、企業間の戦略的パートナーシップ」 ⑵西日本研究部会〔主査・吉田忠彦氏(前出)〕「地域と非営利組織のマネジメント」 ⑶特別研究部会〔主査・石崎忠司氏(中央大学)〕「公益法人の財源(贈与・遺贈等)に関する多角的検討」 午後に入り、会員総会では、報告事項・審議事項すべて原案どおり承認されたが、その結果、会則改定により本学会が「非営利法人研究学会」に改称されることとなった。また、2005年学会賞・学術奨励賞の選考結果が報告され、本年の学会賞は、該当作なし、学術奨励賞は、吉田初恵氏(前出)「介護保険制度改革に向けての論点」が受賞、本賞と副賞が授与された。 3 統一論題報告と討論 「非営利組織の今日的課題と展望—新しい『非営利法人制度』も視野に入れて—」をテーマとして、杉山学氏(青山学院大学)の司会の下に、次の4氏により行われた。 ⑴藤井秀樹氏(京都大学)「非営利組織の制度進化と新しい役割」 藤井氏の報告では、まず、わが国における非営利組織の制度進化のプロセスが、比較制度分析の手法を用いて明らかにされた。これを踏まえ、公益法人制度改革における未解決の問題として、(a)公益性の判断基準の不明確性、(b)モラル・ハザードの可能性、(c)公益性と市場原理の関係の未整理といった点が提起され、その解決のためには、成果重視型マネジメント及び非営利組織を財務面で有効に支援しうる優遇税制が必要であるとの指摘がなされた。 ⑵島田恒氏(京都文教大学)「非営利組織の失敗—その原因と予防装置—」 島田氏は、非営利組織の本質に属する要因から派生する失敗に焦点を合わせ、その原因と予防措置を検討した結果、「外部評価の機会の希薄性」という本質から、非営利組織の失敗(「クライアント視点の欠如」、「競争市場への埋没」)が生み出されるとし、その予防措置として、「絶えざるミッションの問い直し」の下での「適切なガバナンス」、「行政や企業との協働」を提言した。 ⑶山岡義典氏(法政大学)「公益法人制度改革で何が変わるか」 山岡氏は、公益法人制度改革の現状を踏まえ、新しい法人制度・税制の要点及び新しい非営利法人制度とNPO法人制度の関係の行方を展望する報告を行った。その中で、特に法人制度では新たな非営利法人の解散時の財産帰属及び公益性の認定、税制では公益性の認定による課税環境の激変が要点であると強調、新しい非営利法人制度とNPO法人制度の関係については、NPO法人よりも新しい非営利法人のほうが選好され、やがてNPO法人制度が新しい非営利法人制度に統合されるのが望ましいとの見解を表明した。 ⑷成道秀雄氏(成蹊大学)「非営利法人課税制度への提言」 成道氏の報告では、「公益法人制度改革の基本的枠組み」に基づき公表された「新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方」に検討が加えられ、新たな非営利法人課税制度への問題提起が行われた。そのうえで、「公益性判断」に関して具体的で形式的な判断基準が必要であること、「収益事業課税」に関して特掲収益事業を廃止し原則課税とすべきこと、「寄附金控除制度」に関しては政府による事業活動への干渉に対して十分な配慮がなされるべきであり、自由な公益活動を阻害してはならないことが提言された。 4氏の報告後、多数の会員から寄せられた質問への回答を基に、さらにフロアの会員と報告者の間で議論が展開され、活発な討論が行われた。 統一論題報告・統一論題討議終了後、神奈川大学ラックスホールにて懇親会が開催された。本学会会長松葉邦敏氏(成蹊大学)の挨拶があり、懇親会は終始和やかな雰囲気の中19時散会した。

  • 第11回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    第11回大会記 2007.9..8-9 近畿大学 統一論題 非営利組織研究の課題と展望 近畿大学教授 吉田忠彦 2007年9月7日、8日、9日の3日間にわたって非営利法人研究学会第11回大会が、近畿大学において開催された。大会準備委員長は興津裕康・近畿大学教授。 7日の第一日目は、理事会に充てられた。折からの台風によって、前日午後から東海道新幹線が不通になっていたが、当日の朝になってようやく運行が再開され、ダイヤの乱れから到着が遅れる理事もあったものの、無事予定どおり理事会が開催された。 8日の二日目には、まず会員総会が行われ、その後引き続いて統一論題の報告と討議が行われた。統一論題は、「非営利組織研究の課題と展望」。10年を経た当学会の新たな10年の初めの大会ということから、今後のこの分野の研究の課題と展望の検討をテーマとしたものである。そのため、会計、経営、税制、社会的企業といった分野の、それぞれを代表する研究者が登壇し、非営利組織研究についての多角的な報告と討議が行われた。その後には、懇親会が催された。 9日の三日目の午前中は、自由論題報告が4つのセッションに分かれて行われた。また、日本のNPOの状況を分析したもの、イギリスの地域における行政とNPOの協働に関するもの、政治に関わる分野を手掛けるものなど、研究領域が拡大している様子が現れていた。大学院生による報告や、グループによる研究報告、財団における実務経験に基づく報告など多彩な報告が行われた。午後の最初のプログラムは学会長スピーチで、大矢知浩司第三代会長による「学会の10年を振り返って」という演題のスピーチが行われた。 さらにその後、東日本研究部会報告「NPO、政府、企業間の戦略的協働」(主査:小島廣光・北海道大学大学院教授)と、特別研究部会報告「公益法人の財源獲得と制度改革—公益法人の財源(贈与・遺贈等)に関する多角的検討—」(主査:石崎忠司・中央大学教授)が行われ、その2つの研究部会報告をめぐる熱心な質疑応答を経て、午後4時に大会は盛会のうちに幕を閉じた。 【統一論題報告の概要と討論】 統一論題は、当学会の事務局として長年学会を支えてきた川崎貴嗣氏を司会として、それぞれ研究分野の異なる4人が登壇した。 最初に登壇したのは、立命館大学の川口清史教授。立命館総長としての校務のため、予定を繰り上げての報告と質疑応答となった。「社会的企業概念の意義と射程」というテーマで、欧米における社会的企業の台頭やその経済的・社会的意義が論じられた。そこから、日本における非営利組織の発展は、当初のボランティア性の重視から、むしろ社会性を持った事業活動へとその重点を移しており、必ずしも非分配制約をコアとはしない組織の概念化が必要であると主張。こうした新たな視点の提示に、フロアからの質問・コメントが相次いだ。 その後、短い休憩を挟んで残りの3人が続けて報告、それに対するフロアからの質問票を回収し、それへの回答を中心にした討論という形で進行された。 まず、「非営利組織経営学の課題と可能性」のテーマで報告した島田恒・京都文教大学教授は、組織のあるべきビジョンを描くという哲学に立つ経営学は、テイラー、バーナード、ドラッカーと引き継がれ、産業社会の限界が露呈する中で非営利組織経営学の拡充へと繋がっていったと指摘。そして、非営利組織にとって根源的使命であるミッションは公益に繋がるものでなければならず、そのためには社会や人間の根源的存在論や公益論を探求する哲学が広く議論されることが重要であると主張した。 「非営利組織のミッションと外部財務報告の課題」のテーマで報告した藤井秀樹・京都大学大学院教授は、非営利組織における会計の役割は、成果指向型マネジメントの支援にあるという立場から、非営利組織における外部財務報告の現状と課題について論じた。売上高、利益、投資利益率などでは測定できない非営利組織の業績評価には、サービス提供の努力および成果についての情報が最も有用な情報になるにもかかわらず、FASBにおいては、そうした情報の提供は将来の課題として先送りされていると指摘。また、日本の新公益法人会計基準でも同じ課題を抱えているという。しかし、非営利組織の活動の特質と多様性を鑑みた場合、会計基準に依拠した画一的実務は適さず、結局それは個々の非営利組織の自主性と創造性に依拠した試行に委ねられる。それだけに個々の非営利組織にとっては、成果指向型マネジメントの実践を通じて顧客の支持を広げ、サービス提供能力を強化していくうえで、サービス提供の努力と成果に関する報告の整備拡充は欠くことのできない課題となると主張した。 最後の成道秀雄・成蹊大学教授は、「新公益法人税制への要望」というテーマで、この度の公益法人制度の改革について、主に税制の視点からその意義と課題について論じた。新しい制度の下での公益認定基準と租税原理・原則との摺合せが検討され、公益認定基準をおおよそ税法の課税・非課税基準として用いることの妥当性、さらに税法において別の非課税基準が必要とされる点が指摘された。また、公益認定されない一般社団法人・一般財団法人においても、依然として持分を有していないため、営利法人と同様に原則課税としてよいのか、課税の公平性から検討を要すると指摘した。 3者の報告のいずれもが、大会参加者を刺激する鋭い視点や指摘を含むもので、多くの質問票が寄せられた。約1時間という非常に限られたものであったが、司会の手際の良さも手伝って、ほぼすべての質問票への回答を交えて、濃縮された討論が行われた。 報告者と聴講者とが一体となったこうした活発な議論の風景は、決して大所帯でない当学会の良さを逆に映していた。とは言え、今大会中に会員数が200名を超えたことも、当学会の新たな10年の始まりを象徴する出来事であった。 非営利組織の増大やそれをめぐる諸制度の整備と同時に、非営利組織に関する新たな問題や課題が発生することが予想される。当学会に期待される役割もますます重要なものになることを再認識する大会となった。

  • 第16回学会賞・学術奨励賞 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    学会賞・学術奨励賞の審査結果 第16回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告 平成29年9月5日 非営利法人研究学会 審査委員長:堀田和宏 非営利法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第16回学会賞(平成28年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)、学術奨励賞(平成28年度全国大会における報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文及び刊行著書)及び学術奨励賞特賞(平成28年度全国大会における報告 に基づく実務者の論文及び刊行著書)の候補作を慎重に選考審議した結果についてここに報告いたします。 1. 学会賞 該当作なし 2. 学術奨励賞 該当作なし 3. 学術奨励賞特賞 該当作なし

  • 第14回学会賞・学術奨励賞 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    学会賞・学術奨励賞の審査結果 第14回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告 平成27年9月16日 非営利法人研究学会 審査委員長:堀田和宏 非営利法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第14回学会賞(平成26年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)、学術奨励賞(平成26年度全国大会における報告に基づく大学院生並びに若手研究者等の論文及び刊行著書)及び学術奨励賞特賞(平成26年度全国大会における報告 に基づく実務者の論文及び刊行著書)の候補作を慎重に選考審議した結果についてここに報告いたします。 1. 学会賞 該当作なし 2. 学術奨励賞 該当作なし 3. 学術奨励賞特賞 該当作なし

  • 情報公開 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    定款・役員名簿(法人概要を参照) ​ 第五期(2018年8月1日~2019年7月31日) ​ 収支予算 事業計画 ​ 第三期(2017年8月1日~2017年10月31日)※公益認定前 第四期(2017円11月1日~2018 年7月31日 )※公益認定後 ​ 事業計画 第二期(2016年8月1日~2017年7月31日 ) ​ 貸借対照表 ​ ​ 第一期(2016年1月7日~2016年7月31日 ) 貸借対照表 ​ ​ ​情報公開

  • 第8回大会記 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    第8回大会記 2004.9.3-4 九州産業大学 統一論題 非営利組織のガバナンスと活動のディスクロージャー 1 NPO法人のガバナンス 2 非営利組織の活動状況の開示 3 公益法人会計基準の改訂と今後の課題 4 非営利組織のガバナンスとアカウンタビリティ 青山学院大学 杉山 学 公益法人研究学会第8回全国大会は、2004年9月3日(金)・4日(日)の両日、九州産業大学において開催された。第1日目は理事会が開催され、第2日目は報告および討議が行われた。紙幅の関係上、統一論題報告の要約と自由論題報告者・報告テーマ、研究部会報告者・報告テーマを紹介することにする。 ⑴ 統一論題報告・統一論題討議 「非営利組織のガバナンスと活動のディスクロージャー」を統一論題のテーマとして下記の報告が行われた。 小島廣光氏(北海道大学)「NPO法人のガバナンス」 小島氏は㈰マネジメント、㈪内部ガバナンスおよび㈫外部ガバナンスについて財団法人とNPO法人を比較検討し、特に5つの視点からNPO法人の外部ガバナンスの特徴を明らかにされた。そして外部ガバナンスは、マネジメントの自発性・自律性をより尊重すると同時に、その透明性を求めており、NPO法人の存続・成長の不可欠の要件としてこのような外部ガバナンスの重要性を主張された。 梅津亮子氏(九州産業大学)「非営利組織の活動状況の開示—財団法人鉄道弘済会および医療法人静寿会の事例を中心として—」 梅津氏は、財団法人鉄道弘済会の事業報告について官報を、また医療法人静寿会の事業報告については、梅津氏がその作成に直接関わった活動報告書を検討し、公益法人における活動(事業)報告書の重要性を強調された。 加古宜士氏(早稲田大学)「公益法人会計基準の改訂と今後の課題」 加古氏は、平成15年3月28日に公表された「公益法人会計基準(案)」(公益法人会計基準検討会:座長加古宜士氏)の特徴を、特に財務諸表の体系について、広く一般の国民に対する分かり易い外部報告の充実という視点から、予算や決算といった法人のガバナンスに係る計算書類(収支計算書)は外部報告の財務諸表から除外し、損益計算書と同様な正味財産増減計算書(フロー式)を原則とすること、また寄付者の意図を明確にするため正味財産を二区分した点などを明らかにされた。 堀田和宏氏(近畿大学)「非営利組織のガバナンスとアカウンタビリティ」 堀田氏は、組織と経営者がプログラム—パフォーマンス測定・評価の視点や評価基準を自ら設定して「自己評価をする枠組み」を設定すること、さらにパフォーマンス評価を多次元の視点から「外部評価をする枠組み」を設定することの重要性を明らかにし、特に経営者の経営倫理の確保と社会的評価の枠組みの設定が求められることを主張された。 以上の報告に対し、興津裕康氏(近畿大学)の司会により、出席者からの多岐にわたる質問がなされ、活発な質疑応答を通して報告者の主旨が明確となり、出席者全員にとって有意義なひと時となった。 ⑵ 自由論題報告 報告者および報告テーマは次の通りである。 第1会場:司会・藤井秀樹氏(京都大学) 野口房子氏(県立長崎シーボルト大学)「高齢社会政策の二国間比較—日本とスウェーデン—」 依田俊伸氏(国士舘大学)「医療法人における出資と非営利性—最高裁平成15年6月27日決定を手がかりにして—」 成道秀雄氏(成蹊大学)「認定NPO法人の認定要件の検討」 第2会場:司会・小宮 徹氏(公認会計士) 用丸るみ子氏(税理士)「地域開発と公益活動のバランス」 吉田初恵氏(関西福祉科学大学)「介護保険制度改革に向けての論点」 北沢紀史夫氏(財団法人日本医薬情報センター)「日本医薬情報センターにおけるガバナンスの実際」 第3会場:司会・齋藤真哉氏(青山学院大学) 于 佳氏(九州産業大学大学院)「多国籍企業現地子会社の情報開示—現地国との調和—」 原田 隆氏(独立行政法人産業技術総合研究所)「公的アカウンタビリティと業績評価」 高橋選哉氏(吉備国際大学)「非営利組織体の活動報告」 西村友幸氏(釧路公立大学)「アソシエーションの中の官僚制—厚生労働省所管の社団法人における職員数の規定因—」 第4会場:司会・松倉達夫氏(ルーテル学院大学) 桜井政成氏(東京福祉大学)「非営利組織における理事会の義務と役割に関する理論的考察」 東郷 寛氏(バーミンガム大学大学院)「イギリス住宅協会の経営戦略」 橋本俊也氏(税理士)「非営利組織体の会計目的とディスクロージャー」 吉田忠彦氏(近畿大学)「中間支援組織の類型と課題」 ⑶ 研究部会報告 司会・原田満範氏(岡山商科大学) 東日本研究部会:主査・小島廣光氏(北海道大学) 「NPO,政府,企業間の戦略的パートナーシップ」 西日本研究部会:主査・吉田忠彦氏(近畿大学) 「地域と非営利組織のマネジメント」 なお、次年度は、松葉邦敏会長のもと(石崎忠司氏(中央大学)および成道秀雄氏(成蹊大学)が推進役)に設置された「公益法人の財源(贈与・遺贈等)に関する多角的研究」をテーマとした特別研究部会の報告が予定されており、その成果が期待される。 ⑷ 第3回学会賞・学術奨励賞 学会賞には小島廣光氏(北海道大学)の著作『政策形成とNPO法—問題,政策,そして政治』(有斐閣、2003年11月)が選定された。なお、今次は学術奨励賞は該当者なしであった。 4日には大会準備委員会のご尽力により、参加者は人間国宝十四代酒井田柿右衛門九州産業大学大学院芸術研究科教授の指導のもと「柿右衛門様式窯・窯開き」に立ち会う貴重な経験をさせて頂いたことを記して感謝申し上げたい。

  • 第2回学会賞・学術奨励賞 | 公益社団法人 非営利法人研究学会

    平成15年10月11日 非営利法人研究学会 審査委員長:守永誠治 ​ 公益法人研究学会学会賞・学術奨励賞審査委員会は、第2回学会賞(平成14年度全国大会の報告に基づく論文及び刊行著書)及び学術奨励賞(平成14年度全国大会の報告に基づく大学院生並びに若手研究者の論文)の候補作を慎重に審議した結果、今回は学会賞に該当する論文または刊行著書はなく、学術奨励賞として次の2つの論文を選定しましたので、ここに報告いたします。 1. 学会賞 該当者なし 2. 学術奨励賞 今枝千樹(京都大学大学院経済学研究科博士後期課程)「非営利組織の業績評価と会計情報拡張の必要性—SEA報告の適用をめぐる議論とその先駆的実施例の検討—」(平成14年度公益法人研究学会全国大会自由論題報告、於・京都大学、『公益法人研究学会誌』VOL.5掲載) 【受賞論文の内容と受賞理由】 非営利組織における業績評価の問題は、社会的関心の極めて高いトピックでありながら、そのリサーチが困難であるとする観点から、わが国ではこれまでに必ずしも十分な成果をみることができなかった。このような研究環境の中で、本論文は、アメリカでの議論と経験から生み出された成果を手掛かりとしながら、この問題に取り組もうとする意気込みがみられる。この点を最初に評価できる。 非営利組織は、その固有の使命の達成を目的として活動し、資源提供者はその使命の遂行に対する関心に基づいて非営利組織に資源を提供している。したがって、非営利組織の業績は基本的には、その使命をどのように達成したかというその達成度によって評価する必要がある。ところが、非営利組織の設立・運営に関する経験が最も豊富に蓄積されたアメリカにおいてさえ、現行の会計基準では、財務的業績情報の提供を要求するにとどまっている点に留意する必要がある。本論文は、幅広い関連文献の詳細な検討を通じて以上の問題点を明らかにすると同時に、非営利組織会計の制度的整備を図るためには、非営利組織における使命の達成度の評価に役立つ情報を含める方向で会計情報を拡張する必要があることを主張するに至っている。 政府機関は、その活動環境において交換関係(exchange relationship)を欠き、単一の利益指標で業績が測定できないなど、非営利組織と極めて類似した特徴を持つ。アメリカにおいては、そうした特徴を持つ政府機関の業績評価に役立つ情報を提供する手段としてSEA報告を導入することが政府会計基準審議会(GASB)によって提唱されている。本論文では、SEA報告の特徴を、GASB概念書を手掛かりとしながら明らかにしたうえで、非営利組織における会計情報拡張の具体策としてSEA報告の非営利組織への適用を提案し、当該提案の必要性と可能性を、アメリカの非営利組織におけるSEA報告の先駆的実施例の紹介と検討を交えつつ、論証を試みている。 本論文は、非営利組織における業績評価という取扱い難い問題を、関連文献と一次資料の丹念な分析・検討に基づいて論じたものであり、その論理構成と論旨は極めて明快である。本論文が、非営利組織研究における業績評価の問題点の集約と、今後の方向に道を備える貢献は、大であると言える。今後の成果を期待するに十分なものである。ただ、現段階では、アメリカにおける議論と経験に関する検討に、やや難無しとは言えない側面も散見されるが、さりとて本論文の学術的価値を損なうほどのものでもない。むしろ、本論文は、非営利組織の業績評価に対する問題の着眼点とそれに対するアプローチから判断して、学術奨励賞に値するに十分なものであるとの審査委員の一致した見解を得た。 以上の点から、本論文を学術奨励賞に選定した。 3. 学術奨励賞 江頭幸代(広島商船高等専門学校)「環境コストと撤去コスト—ダムのライフサイクル・コスティングを中心として—」(平成14年度公益法人研究学会全国大会自由論題報告、於・京都大学、『公益法人研究学会誌』VOL.5掲載) 【受賞論文の内容と受賞理由】 ライフサイクル・コスティングは、アメリカ国防総省による軍需品の購入コスト・運用コスト全体の最少化要請に対応するところから生まれた原価管理手法であり、近年では日本の防衛庁や国土交通省でも導入されている。トップレベルの営利組織では、開発・設計、調達・生産・物流、リサイクル・撤退といった製品ライフサイクルの中で、製品ライフサイクル・コストの把握と計算が実施されている。文献データベースを検索すれば、膨大な文献がみられるところである。しかし、寡聞ではあるが工学関係の文献も含めて、明確な定義に基づき一定の体系のもとにライフサイクル・コスティングを展開している研究は、比較的少ないようである。また、ライフサイクル・コストに含めるべきコストの範囲も明確ではない。 本論文の第1の特徴は、ライフサイクル・コスティングを製品一生涯のコストの見積計算であり、管理手法であると定義し、2つの製品ないしは事業のライフサイクルを明確に区分して展開していることである。すなわちとしては、ユーザーにおける製品(ないしは事業)の開発から生産ないしは販売、その後製品を市場から撤退させてサービスを終了する時点までのライフサイクルであり、としては、製品の販売からユーザーの手に移り、ユーザーが製品を廃棄するに至るライフサイクルである。この2つのライフサイクルを明確に区分することにより、使用コスト・維持コスト・撤退ないしは破棄コスト・環境コスト等の位置づけが異なってくる。ライフサイクルを2つに区分することは、本論文のすぐれた着想として評価できる。 本論文の第2の特徴は、のライフサイクルを前提にライフサイクル・コストの範囲、特に撤去コスト・環境コストを明確にしていることである。本論文の取り上げるダムの事例は、日本一の氾濫川を制御する国土交通省直轄鶴田ダムと日本初の撤去が決った熊本県営荒瀬ダム(50年の水利権期限切れ)である。鶴田ダムの事例から後背地完全緑化、湖水循環、ダム周辺観光地化、河口海水溯上による取水口付替等広範囲なコストを示している。また熊本県営荒瀬ダムからは、泥土撤去、コンクリート処理地、ダム撤去による環境変化対応コスト等を示している。 ライフサイクル・コスティングの本来の目的からしても、環境コスト・撤去または撤退コストを企画設計段階で考慮してコスト計算に組み込むべきであり、取り上げた事例は的確であると言えよう。従来のライフサイクル・コスティングに関する文献では、ライフサイクル・コスティングの概略ないしはそれによる管理方法の説明に終始し、データ作成のプロセスないしは具体的なコストの例示が少ない。できる限り事例を収集・検討して、そのコストの範囲を明確にし、その発生確率の研究に歩を進めなければならない段階にきている。ただ、本論文の範囲外ではあるが、企画設計段階でダムのコスト・ベネフィットを考慮するとして、その現在価値を計算するとき、50年ないしは100年といったタイムスパンでは、物価変動率と過去の平均利子率を利用できないのではないかと審査委員は判断した。著者の今後の研究に期待したい。 いずれにしても、2つのライフサイクルを区別してライフサイクル・コストの範囲を環境コスト・撤去ないしは撤退コストにまで拡大したライフサイクル・コスティングを展開する本論文は、研究の体系化、問題の着眼点、現代的意義(たとえば海外事業、撤退をあまり考慮しない体質を持つ非営利組織への適用)からみて学術奨励賞に十分値するとの審査委員の一致した見解を得た。 以上の点から本論文を学術奨励賞に選定した。 学会賞・学術奨励賞の審査結果 第2回学会賞・学術奨励賞の審査結果に関する報告

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