
第29回大会記
2025年10月11~12日 熊本学園大学
統一論題 「地方創生と災害復興:非営利法人がつなぐ復興と発展の未来」
1 はじめに
(公社)非営利法人研究学会第29回全国大会が、2025年(令和 7 年)10月11日(土)・12日(日) の両日、熊本学園大学において開催された。本大会は「地方創生と災害復興:非営利法人がつなぐ 復興と発展の未来」を統一論題に掲げ、全国各地より多くの研究者及び実務家が参集し、活発な議 論が交わされた。
2 大会概要
大会前日の2025年10月10日(金)には、常任理事会および理事会が開催された。 2 日間の大会期間中は、自由論題報告、特別講演、統一論題報告・討論、社員総会、新理事会、特別委員会報告、スタディ・グループ報告、企画ワークショップ等からなるプログラムが組まれ、概ね予定通り進行した。
大会 1 日目は、自由論題報告により幕を開け、自治体外郭団体の運営課題や民間非営利活動に対する政府関与の変化など、制度と運営の両面から多様な視点が提示された。続く特別講演では、能登半島地震の事例をもとに、災害地支援における非営利組織の役割と課題について示唆に富む講演が行われ、参加者に深い印象を残した。
午後の統一論題報告では、災害復興における地方自治体と非営利法人の連携、中間支援組織の役割、被災地の記憶を次世代につなぐ取り組みなど、理論と実践を架橋する報告がなされた。これを受けた統一論題討論では、地域に根差した非営利法人の持続的な関与のあり方について、建設的な意見交換が展開された。その他、社員総会や新理事会、特別委員会報告(最終報告)が実施され、大会終了後には懇親会が開催された。
大会 2 日目の午前中は、 2 会場に分かれて自由論題報告が行われ、公会計、医療・福祉、地域産業、教育、地域防災といった各分野における非営利法人や公共組織をめぐる研究成果が報告された。
午後には、特別委員会報告(中間報告)およびスタディ・グループ報告(中間報告)が行われ、続いてスタディ・グループ報告(最終報告)が実施された。さらに、企画ワークショップとして、「地域における公益法人」をテーマに、新公益法人制度、ガバナンスおよび会計に関する報告とセッションが行われ、制度改革と現場実践を結ぶ議論が深化した。
熊本という被災経験を有する地域で開催された本大会は、非営利法人が担うべき役割を改めて問い直す機会となった。研究と実務、過去の災害と未来の地域社会をつなぐ本大会の成果は、今後の非営利法人研究および実践のさらなる発展に寄与するものとなった。
3 大会プログラムの実施状況
3 − 1 特別講演
講演者:藤井秀樹氏(金沢学院大学副学長・京都大学名誉教授)
「災害地支援における非営利組織の役割―能登半島地震からの教訓―」
本講演では、能登半島地震において、非営利組織が能登特有の地理的孤立や長期化する避難生活に対して、組織の機動力を活かした個別支援や、コミュニティ維持の伴走者として重要な役割を果たした教訓から、非営利組織を「行政(公助)の隙間を埋める不可欠な存在」と位置づけ、平時から官民連携のプラットフォームと持続可能な組織基盤を構築することの重要性について論じられた。
3 − 2 統一論題報告及び討論
「地方創生と災害復興:非営利法人がつなぐ復興と発展の未来」
座長:日野修造氏(熊本学園大学)
第 1 報告者 澤田道夫氏(熊本県立大学)
「災害復興における地方自治体と非営利法人の連携」
第 2 報告者 吉田忠彦氏(近畿大学)
「災害被災地の活性化と中間支援組織―ネットワーク化と事業支援―」
第 3 報告者 澤田成章氏(東海大学)
「未来へつなぐ被災地の記憶―沖永良部台風の記憶と記録を次世代にどう繋ぐか―」
本セッションは、非営利組織が地域社会で果たすべき役割を多角的に議論することを目的に開催された。2016年の熊本地震をはじめ、各地で頻発する災害の経験を踏まえ、単なる復旧を超えた「復興」や「創生」において、行政・住民・現場を多層的に「つなぐ」非営利法人の重要性について議論が行われた。制度的視点(自治体との連携や政策的基盤:澤田道夫氏)および実践的視点(中間支援組織のネットワークや現場の課題:吉田忠彦氏)、継承的視点(記憶のアーカイブ化や未来への防災教育:澤田成章氏)の 3 つの視点から報告および討論が行われ、非営利法人が単なる補完的なものではなく、社会に不可欠な主体として位置づけられるための可能性を問い直すものであった。
3 − 3 自由論題
[編集者注]
自由論題報告については、各報告者からご提供いただいた原稿をもとに編集・掲載しております。そのため、報告ごとに視点や記述スタイルが必ずしも統一されていない箇所がありますことを、あらかじめご承知おきください。
3 − 3 − 1 大会 1 日目―司会:亀岡保夫氏(公認会計士)
① 吉永光利氏(九州共立大学)
「自治体外郭団体の現状と諸制度に対する運営課題―自己組織化現象におけるゆらぎの視点から―」
本報告は、指定管理者制度や公益法人制度をめぐる改革過程において生じる「制度的ゆらぎ」に着目し、自治体外郭団体の運営実態を検討したものである。この「制度的ゆらぎ」には、運営の不安定化をもたらす側面と、新たな運営秩序を生み出す契機となる側面がある。こうした二面性を踏まえつつ、外郭団体が制度変動の下で試行錯誤を重ねている実態を整理した。なお、この二面性に関しては、吉永[2025]で指摘しているところである。報告後の討論では、自治体の立場が必ずしも一貫していない点を踏まえ、自治体を外郭団体の内部要因ではなく、外部環境として捉える視点の有効性が指摘された。
② 初谷 勇氏(大阪商業大学)
「民間非営利活動に対する政府関与の変化:法人(団体)設立等に関する準拠主義を手がかりとして」
本報告では、「民間非営利活動に対する政府関与はどのように変化してきているか」とのリサーチクエスチョンについて、「法人(団体)設立等に関する準拠主義」(以下「準拠主義」)を手がかりとして考察がなされた。サブクエスチョンとして①民間非営利活動(組織)に対する政府関与とは、何を対象にどのような動機に基づいて行われるか、②準拠主義の名称と行政行為の分類との関係は、③準拠主義はどのように分類されてきたか、④準拠主義の分類で観察される問題点は何か、⑤準拠主義と政府関与は、NPO法人と宗教法人においてどのように推移したか、またそれはなぜか等の諸点が検討され、準拠主義の階梯的理解やその内の「認証」の政策的含意等が提示された。
3 − 3 − 2 大会 2 日目(第 1 会場)―司会:宮本幸平氏(神戸学院大学)
① 滝沢 凜氏(福岡大学)
「公会計におけるリスク開示に係る一考察」
本研究は、公的組織によるリスクを伴う政策に焦点を当てて、事後的な財務報告に依存したアカウンタビリティの限界を指摘するものである。現行の財務報告制度は、事前にリスク開示を果たすものではないことから、市民の「知る権利」に反する状況が生まれているといえる。本研究では、石川県能登町における「地方創生臨時交付金」や佐賀県玄海町における「原子力発電施設等立地地域基盤整備支援事業交付金」の事例を取り上げ、「ハイリスク・ハイリターンな政策の抑止」や「リスクの世代間公平性」といった視点から財務報告が不十分であるという示唆を得ている。報告をふまえて、政策の「リスク」および「リターン」が具体的に指す内容や、「ソーシャルインパクト」との関連性等について質問が出された。
② 谷光 透氏(川崎医療福祉大学)
「新型コロナウイルス補助金が地方独立行政法人運営の病院財務に与えた影響―岡山市立総合医療 センターの事例―」
本報告では、地方独立行政法人岡山市立総合医療センターを事例に、新型コロナウイルス補助金が財務に与えた影響を分析した。
法人化後の第 1 期から第 5 期は赤字が続いていたが、新型コロナウイルス感染症に対応した第 7 期から第 9 期は、病床確保事業の交付金を含む補助金等収益により、大幅な黒字を達成した。しかし、第10期は、補助金が大幅に減少し、物価高騰や人件費の増加により、約499百万円の大幅な当期総損失を計上した。
過大に支給された可能性のある新型コロナ関連補助金の大部分は、内部留保されず、法人設立後の赤字の埋め合わせに充当されており、地方独立行政法人化後の独立経営が不十分であるとした。
③ 東郷 寛氏(近畿大学)・團 泰雄氏(近畿大学)
「公共的価値創造に向けた非営利組織の戦略的行為」
本研究は、非営利組織(NPO)の視点から、公民パートナーシップ(PPP)を通じた多様な公共的価値(PV)創出の有効条件を明らかにすることを目的とする。兵庫県内で活動するNPO 2 団体を対象に、PV創造に向けた戦略的行為を分析した結果、以下の知見を得た。第一に、対象組織はPPPに内在する制度ロジックを自組織のミッションに適合させることで、行政から資源と正統性を獲得していた。第二に、PPPを通じて構築した組織能力を環境変化に応じて再構成する「ダイナミック・ケイパビリティ(動的能力)」を発揮することが、多様なPVの創造に寄与していた。今後の課題として、フロアーからの指摘に基づき、公的資金の受領に伴うNPOの行政へのアカウンタビリティ履行状況を分析視点に組み込み、有効なPV創出の条件にかかる議論の精緻化を図る必要がある。
3 − 3 − 3 大会 2 日目(第 2 会場)―司会:澤田道夫氏(熊本県立大学)
① 山田雄久氏(近畿大学)
「伝統産業を通じた地域経済システムの形成―佐賀県有田町の事例を中心に―」
本報告は、日本の代表的伝統産業である佐賀県有田焼産地を対象に、バブル崩壊後の需要減退から産業観光を軸とした新たな地域経済システムへと再編される過程を検証するものである。産地における観光地化が新たな地域経済の経営主体を生み出し、産業観光を軸とした地域経済の新しいシステムを形成しつつある現状について検討を加えながら、重層的な主体による取り組みが、伝統産業の再生と新たな地域経済システム形成に果たす役割を明らかにするものである。
② 菅原浩信氏(北海学園大学)
「北海道都市部のふれあいサロンにおける参加者の満足度の向上」
本報告では、ふれあいサロンの参加者における満足度に着目し、どうすれば参加者の満足度が向上するのか明らかにすることを目的とした。そのため、北海道内11市のふれあいサロンの参加者に対して実施したアンケート調査票データの分析を行った。その結果、①特定の場所でないと実施が容易ではないプログラムにも対応すること、②試しに参加費を無料とする機会を設けてみること、③スタッフの側から参加者に対し積極的なアプローチを行うこと、④ふれあいサロンでやってほしいプログラムの提案を出してもらい、それを採用することなどにより、参加者の満足度の向上を図っていくことが必要であると考えられる。
③ 井寺美穂氏(熊本県立大学)
「課題探究教育から生まれた地域防災活動の実践」
本報告は、若者が主体的・協働的に課題解決に取り組む「課題探究学習」を事例に、地域防災力を高める手法を考察するものである。具体的には、豪雨災害の被災地において、中高生が「防災運動会」を企画・実施し、それらの競技を通じて幅広い世代が楽しみながら防災意識を高める試みを事例に考察が進められている。防災活動と親和性の高い活動が住民参加を促すことや、地域のキーパーソンの協力、そして主体的に行動できる「公共的人材」の育成が、持続可能な地域防災には不可欠であることが主張された。
3 − 4 特別委員会報告
3 − 4 − 1 最終報告
座長:柴 健次氏(関西大学)
高等教育機関(大学):「大学の経営とガバナンス」
堀田和宏氏(近畿大学)・竹中 徹氏(京都文教大学)・工藤栄一郎氏(西南学院大学)
青木志帆氏(東京大学)・亀岡保夫氏(公認会計士)・小林麻理氏(早稲田大学)
本報告は、日本の大学における経営とガバナンスの現状と課題を包括的に論じたものである報告では、少子化等の環境変化の中で、大学の公共性と持続可能性を両立させるための経営体への転換と、ガバナンスと経営の高度な両立の重要性について言及がなされた。
3 − 4 − 2 中間報告
座長:尾上選哉氏(日本大学)
「公益法人制度改革」
久保秀雄氏(京都産業大学)・出口正之氏(国立民族学博物館)・中村雅浩氏(税理士)
日野修造氏(熊本学園大学)・藤井 誠氏(法政大学)・古市雄一朗氏(大原大学院大学)
本報告は、2025年 4 月施行の改正公益法人制度(令和 6 年改正)を受け、民間公益活動の更なる進展を目指して、制度の現状や課題、解決策を検討しようとするものである。本報告では、これらの改正等が、過去の硬直的な運用を是正し、法人の自主性を尊重するものであると評価しつつ、実運用上の課題を考察している。
3 − 5 スタディ・グループ報告
3 − 5 − 1 中間報告
座長:上松公雄氏(税理士・大原大学院大学)
「非営利法人課税に対する実務的視点及び海外制度からの検討」
白土英成氏(公認会計士・税理士)・田口安克氏(公認会計士・税理士)
東条美和氏(千葉商科大学)・安田京子氏(税理士)
和田奈穂実氏(國立成功大學歴史研究所博士班三年級・文藻外語大學日本語系兼任講師)
本報告は、アジア諸国の非営利法人制度の整理と、実務的視点からの課税上の問題提起が行われた。具体的にはシンガポールと台湾を対象とし、シンガポールについては、法人格の種類(保証有限責任会社等)よりも「Charity(慈善団体)」や「IPC(公益施設)」の地位が免税や寄附金控除において重要である点や、国家と連携した特殊な体制について報告された。また、国内実務の検討では、一時預かり事業の収益事業該当性や、収益事業から公益事業への支出における「みなし寄附金」の妥当性、役員による資産移動の給与該当性など、複数の判例・裁決事例を基に、制度の解釈や適正な経理処理のあり方を検証している。
3 − 5 − 2 最終報告
座長:境 裕治氏(第一勧業信用組合)
「中小企業等協同組合のガバナンスに係る研究―情報開示による社会的モニタリングを含んで―」
齋藤真哉氏(横浜国立大学)・鷹野宏行氏(武蔵野大学)
本報告は、中小企業等協同組合のガバナンス構造とその課題を多角的に分析し、その改善策について考察を進めてきた結果について、特に信用組合と共済事業に焦点を当て、ガバナンスの現状と今後の方向性について最終提言を行うものであった。
3 − 6 企画ワークショップ
司会:松前江里子氏(日本公認会計士協会テクニカルディレクター(非営利担当))
「地域における公益法人―社会的課題解決の促進に向けた新公益法人制度とガバナンス及び会計―」
髙角健志氏(内閣府/公益認定等委員会事務局/事務局長)
菅田裕之氏(日本公認会計士協会/常務理事(非営利担当))
山田健一郎氏(公益財団法人佐賀未来創造基金/理事長)
永原聖也氏(熊本経済同友会/常任幹事/まちづくり委員会委員長・九州電力/執行役員/熊本支店長)
橋本誠也氏(熊本県/理事/総務部市町村・税務局長)
本ワークショップでは、2025年 4 月施行の新公益法人制度下で、地域課題解決の担い手としての公益法人が果たすべき役割と展望について議論された。前半は内閣府より、収支相償原則の見直しや「公益充実資金」の創設といった財務規律の柔軟化、行政手続の簡素化、外部理事導入によるガバナンス強化など、制度改正の要点が報告された。また、後半は日本公認会計士協会より、新制度と一体的に開発された「新公益法人会計基準」および「モデル会計基準」の意義が示され、組織結合(合併)やガバナンス機能としての会計のあり方が提示された。さらに、地域再生推進法人等の具体例を通じ、行政や経済界との連携による地方創生と寄附促進の方策について、実務家を交えた多角的な検討が行われた。
4 謝辞
非営利法人研究学会第29回全国大会準備委員会より、謹んで御礼申し上げます。
本大会は、熊本地震から10年目を迎えつつある熊本の地で、災害復興と地域再生における非営利法人の役割を問い直すべく開催いたしました。全国から多くの研究者・実務家の皆様にご参集いただき、対面での熱意あふれる議論を展開できたことは、準備委員会として最大の喜びであります。
初日の自由論題や特別講演では、能登半島地震の教訓をもとに、災害地支援における非営利組織の役割が共有され、続く統一論題では地方創生と災害復興の連続性について、理論と実践の両面から深い洞察が得られました。 2 日目も多岐にわたる分野で実証的な報告が相次ぎ、制度的課題から地域防災まで、重層的な議論を深めることができました。
本大会が、平時からのネットワーク構築や地域に根差した組織の持続可能性を再考する一助となれば幸いです。開催にあたり多大なるご支援を賜りました事務局をはじめとした関係諸機関、そして何よりご参加いただいた皆様に、心より深く感謝申し上げます。熊本での交流が、今後の非営利法人研究と地域社会の発展に寄与することを願い、大会の総括と謝辞とさせていただきます。
2026年 4 月23日
(公社)非営利法人研究学会第29回全国大会準備委員会
準備委員長 日野 修造(熊本学園大学 教授)
森 美智代(熊本県立大学 名誉教授)
伊佐 淳(久留米大学 教授)
川野 祐二(久留米大学 教授)
黒木 誉之(長崎県立大学 教授)
澤田 道夫(熊本県立大学 教授)
井寺 美穂(熊本県立大学 准教授)
