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非営利法人会計制度の回顧と展望― 公益法人会計基準の検討を中心に ― / 藤井秀樹 (京都大学教授)

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京都大学教授  藤井秀樹


キーワード:

FASB 一取引二仕訳 公益法人会計基準 財産目録        

資産負債アプローチ 実物資本観


要 旨:

 戦後の非営利法人会計制度は、非営利法人の組織特性を基底に据えながらも、情報利用 のあり方に規定される形で、漸次的な進化を遂げてきた。その緩やかな展開方向として、 資金収支計算中心の体系から正味財産増減計算中心の体系への移行が観察される。ただし、 その移行は、たんなる企業会計方式の導入にとどまるものではなく、将来の企業会計方式 の先取りと評すべき側面も伴っていた。情報の一般利用の進展いかんが、基準のあり方(企 業会計方式のさらなる導入や基準統一化の是非および可能性)を左右することになるであろう。


構 成:

I  はじめに

II 制度の形成過程とその特徴

III 現行制度の比較検討

IV 基準の計算構造の検討

Ⅴ おわりに


Abstract

 In Japan, since the end of the World War II, accounting for not-for-profit entities (NFPs) has been evolved progressively in line with usersʼ needs for information, while keeping some proper practices that stem from specificities of their organizational characters. We can observe a transit from cash-flow to accrual bases as a whole picture of system change in accounting. This transit is characterized not only by catching up business accounting, but also by anticipating update of business accounting standards. The general usersʼ deeds for information will determine standards setting in the future, i.e., how far standard-setters should implant business accounting rules in NFPs, and/or whether they should unify the standards which are currently different from each other types of NFPs


 

Ⅰ はじめに

非営利法人会計制度の形成過程を回顧し、その今後のあり方を展望することが、本稿の課題 である。個別論点について多少なりとも立ち 入った検討を行うさいには、公益法人会計基準を取り上げる。当該基準が、上記の課題を遂行するうえで恰好の検討素材を提供するものとなっているからである。また、わが国の非営利法人会計制度の特徴を浮き彫りにするための参照対象として、アメリカの事例にも、必要に応じて言及する。


Ⅱ 制度の形成過程とその特徴

 この節では、わが国における非営利法人会計制度の特徴を、通時的(歴史的)な側面から明らかにしていきたい。図表1は、わが国におけ る主要な非営利法人会計制度の形成過程を要約したものである。以下、図表1によりながら、 検討を進めていく。


図表1 非営利法人会計制度の形成過程


1  第1期―原初的制度の形成―

 わが国では戦後、補助金行政とのリンケージを軸に、行政利用を前提にした基準設定が先行する形で、非営利法人会計基準の開発が進められた。「〔非営利法人の設立・運営においては〕 所轄官庁による認可主義が大きなウエイトを占 め、〔会計制度の形成にあたっては〕それらの許認可、監督等の行政目的が優先」(日本公認会計士協会近畿会[2000]5 頁)されたからであった。  

 補助金行政とのリンケージが最も強い社会福祉法人会計の制度整備(社会福祉法人会計要領の公表)が嚆矢となり、学校法人会計基準(旧基準)の設定がそれに続いた。さらにその後、公益法人会計基準(1977年基準)、病院会計準則、 公益法人会計基準(1985年基準)が公表された。 「『公益法人会計基準』の改正(1985年基準の公表 ―引用者)がここに成ったことによって、一応、 非営利法人における会計基準が出揃った感じとなり、非営利法人会計の世界は大きな転機を迎えるに至った」(藤井[1985] 7 頁)とされる1)。  

 以上から理解されるように、戦後もっぱら官庁主導で基準設定が進み、1980年代半ばに主要会計制度の原型が完成した。原初的制度の形成によって特徴づけられる戦後から1980年代半ばまでを、制度形成の第1期と見なすことができるであろう。

2  第2期―基準のアップデート―

 2000年代に入ると行財政改革(とりわけ2001 ~2006年の「聖域なき構造改革」)の一環として、 民間非営利活動の効率的な運営を目指した制度の抜本的な見直しが進められることになった。 その見直しを受ける形で、各種会計基準のアッ プデートがほぼ時を同じくして実施された。図表1に見られるように、直近の約10年間(2004~2015年)に、各種会計基準の改訂が集中している。  

 一連の基準改訂において観察される最も大きな特徴は、従来の資金収支計算中心の体系を維持したケースと、正味財産増減計算中心の体系に移行したケースの、二極化が生じたことである。社会福祉法人会計基準と学校法人会計基準が前者のケースに属し、公益法人会計基準、医療法人会計基準、NPO法人会計基準が後者のケースに属する。

 いずれのケースに属するにせよ、第1期にお いて形成された原初的制度を、経済社会の新しい変化をふまえてアップデートしたという点においては、一連の基準改訂は軌を一にしている。 基準のかかるアップデートによって特徴づけられる直近の約10年間を、制度形成の第2期と見なすことができるであろう。ちなみに、図表1で取り上げた主要現行制度はいずれも、第2期に形成されたものである。

3  アメリカ基準との比較検討

 以上の過程を通じて形成されたわが国の主要会計制度の特徴を、アメリカ基準(FAS)と比較することによって、さらに一歩踏み込んだ形で浮き彫りにしておきたい。日米の基準間に観察される主たる相違は、次の2点である。  

 第1は、アメリカ基準は領域横断的な統一基 準として設定されているのに対して、日本基準は法人形態別基準として設定されていることである。わが国では統一基準の必要性がこれまで繰り返し叫ばれてきたにも拘わらず(宮内 [1984];斎藤[1985];日本公認会計士協会近畿会 [2000]等)、その作業に進展は見られず、現在に至るもなお法人形態別基準の併存状態が続いている。

 アメリカで統一基準の開発が可能となってい る背景要因の1つとして、基準設定が民間の独立団体であるFASBに一元化されていることを指摘することができるであろう2)。FASBの基準設定は、資源提供者への情報提供機能を重視 した考え方(意思決定有用性アプローチdecision- usefulness approach)に依拠して進められている3)。 つまり、アメリカでは情報の行政利用は基準設定上の制約要因となっておらず4)、その限りで情報の領域横断的な比較可能性を重視した基準設定が可能となっているのである。意思決定有用性アプローチの影響は、わが国においても一部の基準(たとえば公益法人会計基準やNPO法人 会計基準等)において観察されるが、非営利法人会計制度全体に浸透するには至っていない。 わが国では、基準の早期設定を導いた情報の行政利用(Ⅱ節1参照)が、基準統一化の局面で はそれを阻害する要因として作用しているのである。  

 第2は、アメリカでは個別の会計処理等(たとえば「減価償却の認識」や「寄付の会計」等)に限定した基準の開発が進められているのに対して(この方式を便宜的に「個別基準アプローチ」と 呼ぶ)、わが国では特定の法人について包括的な会計原則や会計処理等を定めた基準(たとえば「公益法人会計基準」や「社会福祉法人会計基準」 等)の開発が進められていることである(この方式を便宜的に「包括基準アプローチ」と呼ぶ)。  

 報告主体の経済的実態に関する情報を資源提供者に提供することを基本目的とする点で企業会計と非営利会計は共通しており、したがって両者は同一の基準に拠るのが原則であって、非営利法人に固有の取引や事象に限って個別の基準を用意すれば事足りるというのが、個別基準アプローチの基本的な考え方である。これに対して、非営利会計の独自性と体系性を相対的に重視するのが、包括基準アプローチである5)。 こうしたアプローチの相違が生じた理由は、必ずしも明らかではない6)。ちなみに、基準統一化にあたっての論点整理を行った日本公認会計士協会[2015](第3.14項)では、包括基準アプローチの採用が提唱されている。


Ⅲ 現行制度の比較検討

 この節では、図表1で取り上げた主要会計制度の特徴を、共時的(領域横断的)な側面から明らかにしていきたい。図表2は、各会計制度を形成する現行基準を比較対照したものである。図表2から理解される当該各制度の特徴を整理 すると、以下のようになる。  

 第1は、医療法人会計基準7)とNPO法人会計 基準を除くと、主務官庁ないしその付置団体等が設定主体となっており、従来の官庁主導の基準設定方式が基本的に踏襲されていることである。このことは、既述のように、制度形成においては情報の行政利用が現在もなお支配的な要因であり続けていることを物語っているが、逆にいえば、わが国では未だ一般利用者の情報ニーズがアメリカにおけるほどには成熟していないということを示唆していると解釈することも可能であろう。  

 第2は、基準の強制力が法人形態ごとに異なっていることである。ごく大づかみにいえば、 補助金行政とのリンケージが相対的に強い社会福祉法人会計基準と学校法人会計基準は強制力を持ち、そのリンケージが相対的に弱い公益法人会計基準8)、医療法人会計基準、NPO法人会計基準は任意適用(原則適用)とされている。  

 第3は、基準のアップデートにおいて資金収支計算書を財務諸表から除外する傾向が観察されるなかで、強制力を有する社会福祉法人会計基準と学校法人会計基準は、資金収支計算書を財務諸表の 1 つとして維持していることである。

このことは、情報の行政利用が資金収支計算書と密接な関係にあることを示している9)。  第4は、企業会計では1974年の商法改正に よって廃止された財産目録10)が、2008年公益法人会計基準11)と学校法人会計基準を除く4基準 で、財務諸表の1つとして維持されていることである。このことは、資産・負債の実在性を表示する財産目録が、情報の主たる利用者が行政か一般かという問題を超えた固有の情報価値を有していること、そしてまたそのような認識が制度設計者に広く共有されていることを示唆している(Ⅳ節3参照)。  

 Ⅱ節での検討もふまえつつ、以上の知見を再整理すれば、わが国における現行制度の特徴は以下のようにまとめることができるであろう。わが国の現行制度は、非営利法人の組織特性に規定された、その意味で超歴史的・領域横断的 な特徴を一部に残しながらも(たとえば財産目録の維持)、想定された主たる情報利用のあり方 (とりわけ補助金行政とのリンケージの強弱)の相違を反映して基準の強制力や財務諸表の体系に相違を生み出している。そうした全体状況のもとで、制度変化の緩やかな方向として、資金収支計算中心の体系から正味財産増減計算中心の体系への移行が観察される。次節では、以上の 諸点を念頭に置きながら、基準の具体的な計算構造の検討を行うことにしたい。


図表2 非営利法人会計制度の比較


Ⅳ 基準の計算構造の検討

 この節では、非営利法人会計の計算構造上の諸特徴を、公益法人会計基準を事例として取り上げ、検討する。当該基準は、資金収支計算中心の体系(1985年基準)から正味財産増減計算中心の体系(2004年基準・2008年基準、以下「新基準」と総称する12))への移行を他に先駆けて経験した事例であるため、非営利法人会計の計算構造の変化とその諸特徴を明らかにするうえで恰好の検討素材を提供するものとなっている。

1  設例による計算構造の概観

 以下では、次の設例によりながら検討を進める13)



⑴ 1985年基準にもとづく財務諸表の作成

 設例の一連の取引について、1985年基準で規定された処理規則にもとづいて仕訳を行うと、図表3のようになる14)。1985年基準では、収支計算書の作成が義務づけられていたために、複合取引(資金資産と非資金資産・負債の交換取引) について、⑴資金資産の増減額(収支計算書に収容)と、⑵収入・支出の戻し額(ストック式の正味財産増減計算書15)に収容)を、別途に記録する必要があった。この記帳は一般に、「一取引 二仕訳」と呼ばれていた。図表3の仕訳では、 ③⑥⑦が、それに該当する。

 この仕訳にもとづき、1985年基準が求める主要財務諸表(主要計算書類)を作成すると、図表4 のようになる。収支計算書では、当期に発生した収入と支出が勘定科目ごとに総額で表示される。その結果明らかにされる当期収支差額650が、正味財産増減計算書に振り替えられ、 同計算書において当期正味財産増加額1,450が表示される。当該増加額1,450は、貸借対照表で表示される正味財産1,450と一致する16)。また、 収支計算書で表示される次期繰越収支差額650は、貸借対照表で表示される現金650と一致する。以上のような形で、3つの財務諸表は連携(articulate)している17)


図表3  1985年基準による仕訳


図表4 1985年基準にもとづく財務諸表


⑵ 新基準にもとづく財務諸表の作成

 設例の一連の取引について、新基準で規定された処理規則にもとづいて仕訳を行うと、複合取引に関する「一取引二仕訳」は解消することになる。他の仕訳に変更はないので、複合取引に係る③⑥⑦の仕訳のみを示すと、図表5のようになる。

 この仕訳にもとづき、新基準が求める主要財務諸表を作成すると、図表6のようになる。貸借対照表で表示される正味財産合計1,450と、正味財産増減計算書で表示される正味財産期末残高1,450は一致する。貸借対照表と正味財産増減計算書の連携関係に着目すれば、その基本構造は企業会計における貸借対照表と損益及び包括利益計算書のそれと同一といえる。


図表5 新基準による仕訳(複合取引の仕訳のみ)


図表6  2008年基準にもとづく財務諸表


2  1985年基準と新基準の比較検討

 1985年基準で作成が求められていた収支計算書は、今日の企業会計でいう直接法による キャッシュ・フロー計算書と同じ構造を備えた報告書であり(藤井[2011]53頁)、これを貸借対照表と連携させるために必要とされたのが、 既述の一取引二仕訳であった。しかし当該会計処理とそれに依拠して作成される財務諸表については「理解が難しい」(越尾[2005]24頁)との批判が、かねてよりなされてきた18)。  

 新基準は、収支計算書を「内部的な管理・統制(ガバナンス)目的の書類」(加古[2005a]19 頁)と位置づけ、財務諸表から除外した。これによって、財務諸表の体系は、貸借対照表とフロー式の正味財産増減計算書19)を基本とするものに改編され、一取引二仕訳は不要となった。これが、計算構造の観点から見た場合の、資金収支計算中心の体系から正味財産増減計算中心の体系への移行の核心である。新基準ではさらに、アメリカ基準(FAS117)を範として、正味財産の部の拘束別区分表示も導入された20)。以上の基準改訂により、⑴財務諸表の簡素化、⑵ 効率性に係る情報の提供21)、⑶受託責任の明確化、⑷財務内容の透明化が、図られたとされる (越尾[2005]27-28頁)。

3  新基準と企業会計基準の比較検討

 新基準で導入された正味財産増減計算書の一般正味財産増減の部で表示される当期一般正味財産増減額(図表6では当期一般正味財産増加額450)は、「企業会計でいうところの当期純利益に相当するもの」(加古[2005a]21頁)となる22)。 そして、当該増減額と当期指定正味財産増減額 (図表6では当期指定正味財産増加額1,000)の合計額(図表6では1,450)は、企業会計でいう包括利益に相当するものとなる23)。 わが国に包括利益計算書(企業会計基準第25号) が導入されたのは2010年であったが24)、公益法人においてはそれに先立つ2004年に、包括利益に相当する会計情報を表示する財務諸表が導入されたのであった。こうした制度改訂が企業会計に先行した背景事情として、非営利法人会計の基底にある実物資本観と、近年の企業会計基 準の開発を指導する会計観である資産負債アプローチ25)の親和性(より踏み込んでいえば「融合」) を指摘することができるであろう。  

 実物資本観とは、実体資本維持説とも呼ばれ、「回収・維持すべき資本を(中略)、経営を構成する物財そのものとみる考え方」(中野[2007] 598頁)をいう。ミッションの達成に係るサービスを継続的に提供することを存在理由とする非営利法人においては一般に、維持すべきは、 貨幣資本(貸方資本)ではなく、サービスの提供を物理的に支える実物資本(借方資本)とする思考が働くことになる26)。かかる思考は、会 計的認識・測定において資産の実在性を重視する点で、資産負債アプローチと基本的立場を同じくしている。このことが、上記の親和性(ないし「融合」)の基盤をなす。そしてまた、制度設計における実物資本観の作用は、わが国における多くの非営利法人会計制度が現在もなお財産目録を維持している理由を説明するものともなる(Ⅲ節参照)。 とりあえずここでは、わが国における非営利法人会計制度が、企業会計方式の導入(資金収支計算中心の体系から正味財産増減計算中心の体系への移行)を基調としながらも、一部で将来の企業会計方式(財務諸表における包括利益の開示) を先取りする形で進化を遂げてきたことを確認しておきたい。後者の現象は、企業会計と非営利会計の新たな接近を示唆している27)


Ⅴ おわりに

 戦後の非営利法人会計制度は、非営利法人の組織特性を基底に据えながらも、情報利用のあり方に規定される形で、漸次的な進化を遂げてきた。その緩やかな展開方向として、資金収支計算中心の体系から正味財産増減計算中心の体系への移行が観察される。ただし、その移行は、たんなる企業会計方式の導入にとどまるものではなく、将来の企業会計方式の先取りと評すべき側面も伴っていた28)。情報の一般利用の進展いかんが、基準のあり方(企業会計方式のさらなる導入や基準統一化の是非および可能性)を左右することになるであろう。


[注]

1)公益法人会計基準の設定・整備が遅れたのは、 公益法人の活動領域が多岐にわたり、関係省庁間の意見調整が難航したからであった(藤井[1985] 7 頁)。

2)基準設定がFASBに一元化されているということは、統一基準の設定に対する一般的承認 (general acceptance)の結果と考えるべきかもしれない。かかる理解による場合、なぜ アメリカではそのような一般的承認を形成することが可能であったかが、次に問われるべ き問題となろう。その検討は本稿の課題を超えたものとなるので、別の機会に譲りたい。 ちなみに、わが国の企業会計基準委員会 (ASBJ)はFASBをモデルとして設立された基準設定団体であるが、現在のところ非営利 法人会計基準の開発はASBJの審議事項とされていない。

3)意思決定有用性アプローチの理論的含意については、差し当たり藤井[1997](第3 章)を参照されたい。

4)FASB概念書では、基準開発にあたっては、「必要とする〔個別的な〕情報を非営利組織から入手することができない外部情報利用 者」を想定し、規制機関はそうした利用者か ら除外するとされている(FASB[1980] par.10)。FASBは、このような想定にもとづく財務報告を、「一般目的外部財務報告」 (general purpose external financial reporting)と呼んでいる。つまり、FASBの基準設定において情報の行政利用は想定され ていないのである。

5)ただし、包括基準アプローチにおいても、 リース会計基準や減損会計基準等の準用は想 定されている。このことから明らかなように、 当該アプローチは必ずしも自己完結的な基準設定を目指すものではない。

6)こうしたアプローチの相違は、考え方においては程度の相違といえるが、基準のあり方には大きな影響を及ぼす。

7)医療法人会計基準の設定主体は、四病院団体協議会(構成団体は、一般社団法人日本医療法人協会、公益社団法人日本精神病院協会、 一般社団法人日本病院会、公益社団法人全日本病院協会)であるが、当該基準は厚生労働省医政局長通知(2014年3月19日)でオーソ ライズされている。

8)江田[2011]( 5 頁)では、2004年基準は強制適用、2008年基準は任意適用とする解釈が示されている。

9)ただし、資金収支計算書の様式は会計基準ごとに異なっており、長谷川[2014](ⅱ頁) によれば、そのことが「非営利会計の混迷の原点」をなすとされている。

10)より正確にいえば、当該改正により、商業帳簿および株式会社の計算に関する規定から財産目録に関する規定が削除された。

11)2008年基準においては、財産目録は、財務諸表からは除外されたが、作成すべき書類としては維持されている(2008年基準第1の1)。

12)2008年基準は、2004年基準の考え方を基本的に踏襲し、新公益法人制度に対応させるためにマイナーチェンジを図ったものである(江田[2011]3頁)。計算構造の点で、2004年基準と2008年基準の間に差異はない。

13)この設例は、加古[2005a](21頁)による。 ただし、検討の便宜上、一部を改作している。

14)1985年基準にもとづく会計処理の詳細については、藤井[2011]を参照されたい。

15)1985年基準で原則様式とされた正味財産増減計算書では、資産・負債の増減にもとづいて正味財産増減額を把握する方式が採用されたために、当該計算書は「ストック式」と称された(内閣総理大臣官房管理室編[1985]44 -45頁)。

16)この一致は、設例において当期首に当該法人が設立されたこと(すなわち前期繰越正味財産額ゼロ)を想定しているためである。もし、当期首に前期繰越正味財産額があった場合には、当該財産額と当期正味財産増加額の合計額が、貸借対照表で正味財産として表示されることになる。

17)収支計算書では直接法による資金計算が、正味財産増減計算書では間接法による資金計算が、それぞれ示されている。この点の詳細については、藤井[2011](53頁)を参照されたい。

18)一取引二仕訳の簿記理論上の問題点については、若林[1997](276頁);泉[2002](7-8頁);藤井[2011](53-55頁)を参照されたい。

19)新基準の正味財産増減計算書では、収益・費用の差額によって正味財産増減額を把握する方式(企業会計における損益計算書と同様の方式)が採用されているために、1985年基準で原則様式とされた正味財産増減計算書と対比する場合には、その特徴を表す呼称として 「フロー式」が用いられている。

20)正味財産(純資産)の拘束別区分表示の特徴および考え方については、日本公認会計士協会[2016](第2.4 ~ 2.14項); 日野[2016] (第3~4章)を参照されたい。なお、2016年8月に、新基準のモデルとされたアメリカ基準の改訂が実施され、従来の 3 区分は 2 区分に変更された。この問題については、 Cohn[2016]; 金子[2016]; 日野[2016] (補章)を参照されたい。

21)新基準における効率性の考え方については、 加古[2005b](33頁)を参照されたい。

22)ただし、非営利法人には持分(資本)が存在しないことから、当期一般正味財産増減額が 「当期純利益に相当するもの」となることが、 計算構造上、保証されているわけではない。 この点については、藤井[2016]での検討を参照されたい。

23)このことは、2004年基準のモデルとされたFAS117の財務諸表様式で表示される当期純資産増加額が包括利益を表示するものであることからも(Northcutt[1995]pp.54-55)、容易に理解されるところである。

24)その他の包括利益を間接表示する株主資本等変動計算書(企業会計基準第6号)は2005年に導入されているが、その点を考慮しても、 公益法人会計制度が、企業会計制度に先行して包括利益情報の開示を導入したことに変わりはない。

25)資産負債アプローチの詳細については、差し当たり藤井[2014]を参照されたい。

26)これに対して、Anthony [1978](pp.48-49) のいう「財務的生存力」(financial viability)は、ソフト・マネー(使途制約のない資金)による内部留保力を問題にしたも のとなっている。

27)この点については、藤井[2016]での検討を参照されたい。

28)やや図式的に整理すれば、戦後の非営利法人会計制度の進化は、①固有性の維持(財務諸表としての財産目録の維持、一部の法人では資金収支計算書の維持)、②企業会計方式の導入(資金収支計算中心の体系から正味財産増減計算中心の体系への移行)、③企業会計 方式の先取り(財務諸表における包括利益情報の実質的開示)という3つの局面から構成されていたといえるであろう。ただし、それぞれの特徴には、例外が存在する。そうした 例外の存在は、法人形態別基準の併存の産物であり、したがってそれ自体、当該制度の特徴をなすものと評することができるかもしれない。


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