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≪査読付論文≫非営利法人組織における会計の役割― 日独医療改革のもとでの経営改善に向けて― / 森 美智代 (熊本県立大学教授)

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熊本県立大学教授 森美智代


キーワード:

非営利法人組織 医療改革 国立病院機構 公立病院 病院会計準則       

独立行政法人会計基準 民営化 GmbH AG コンツェルン


要 旨:

 日本とドイツでは医療改革が進められている。両国の医療改革において、国の財源によっ て運営されてきた国公立病院における経営改善に焦点をあてている。医療改革において、 経営組織の変化とそれにともなう公会計から企業会計への移行が、医療経営に経営業績の 評価と管理を可能とした。本研究は、日独医療改革における経営組織の変化と企業会計が 医療経営に及ぼした影響について考察している。医療という非営利法人組織に企業会計が 及ぼした影響は大きい。しかし、まずは医療の「質の維持向上」につとめなければならな いことはいうまでもない。


構 成:

I  はじめに

II 国及び自治体の財源を基盤に運営されてきた国公立病院

III わが国の国公立病院改革

Ⅳ ドイツにおける医療機関改革

Ⅴ 非営利組織における「会計の役割」

Ⅵ おわりに 


Abstract

 Currently, medical care reform are being conducted in Germany and Japan. One area of reform is the shift in accounting systems from public to corporate accounting. The importance of this change is underscored by the fact that the management of public and national hospitals has subsequently improved following implementation. This report outlines the significance of the move to corporate accounting. While there are obvious social and economical differences between the two countries, the transition from a public to a private accounting system is a common characteristic.  

 This report deals with four case studies of medical care reform in the two countries, and reveals the function of corporate accounting in effecting medical reform. It further demonstrates how the shift to corporate accounting has resulted in increasingly efficient management.  

 Yet, in addition to providing solid management the primary task of maintaining quality medical care must be recognized


※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。

 

Ⅰ はじめに

 近年、医療制度改革は、医療保険制度、医療提供体制、診療報酬の見直しを3つの骨格として進められている1)。その制度改革の中心にある医療組織は、非営利法人組織とみなされ、この営利法人組織は、一般に利益分配をしない組織或は法人として特徴づけられる2)。非営利法人組織は、社会及び経済において公的組織と民間組織の間で中間組織としてみなされ、国及び自治体の政策にかかわっていることが多い。

 その中間組織である非営利組織(NonprofitOrganisation)は、ますます民間─商業競争(privatkommerzieller Konkurrenz)に直面する3)といわれる。これまで、わが国の旧国立病院及び公立病院は非営利組織としてみなされており、営利企業の市場原理とは全く独立していたといえる。しかしわが国の財政が赤字で、少子高齢化の社会現象が加速するにつれ、医療費負担の増大は避けられない。このような現状のもとで財政を基盤とした公的保険制度は、医療経営に「費用対効果」、それを担保する「医療の質」の維持及び向上を強いることとなった。このような状況は、すべての国民に医療保険が義務付けられているドイツにおいても同様である。両国の公的な医療機関は、社会的な役割を果たしてきたが、経営改善を余儀なくされる現状におかれている。  

 本稿は、高齢化社会に向けて、さらに将来増加する医療費に対する財政処置を基盤に実施された医療改革からくる医療経営の改善に注目する。収益の大部分が診療報酬で占められる医療機関に、組織再編とともに企業会計を導入することの意義について考察することにする。


Ⅱ 国及び自治体の財源を基盤に運営されてきた国公立病院

 わが国の医療機関の種類は、開設者別にみると、旧国立病院(現:国立病院機構)、公立[自治体]病院(都道府県、市町村等の地方公共団体が開設する病院)、その他公的病院(日赤、済生会、 厚生連、北社協が開設する病院等)、社会保険関係団体病院(全社連、厚生年金事業振興団、船員保険 会、各種共済組合及びその連合会等の社会保険関係団体が開設する病院等)4)に分類される。この分類のなかで、旧国立病院は、中央省庁等改革の 一環として改革が行われ、また公立病院は、各自治体の財政改革とともに改革が行われている。 行財政改革と関係している国公立病院の経営改善において、組織再編とともに企業会計が及ぼした影響に研究の視点を置いている。わが国の医療は国民皆保険制度をとっていることから、 医療改革は、マクロ的観点からみて、財政改革と密接に関係している。またミクロ的観点からみて、医療改革は「費用対効果」による組織の経営改善に視点が向けられた。そのことが、これまでの官庁会計から、経営業績の評価と管理 (経営分析)を可能とする企業会計への移行をもたらした。  

 同様に、従来、わが国の医療保険及び介護保険制度にもっとも影響を及ぼしたドイツでも、 国(Staat)、連邦(Bund)、州(Land)、町(Stadt)、 郡(Kreis)等の医療機関の経営改善のため医療改革が行われている。ドイツの医療機関は、公的医療施設、非営利医療施設、民間医療施設と3つに分類されている5)。その背景には、高齢化社会にともなう医療費が年々上昇傾向にあり、それは財政を揺るがすものとなっていることがある。その結果、公的医療施設が民間医療施設に再編され、或は民間医療機関に買収されている(民営化)という現状がみられる。  

 次に、両国の医療機関の経営改善のため、経営組織が再編され、それにともなう会計制度に変化がみられることに焦点をあてることにする。したがって国立及び公立の医療機関へ民間的経営手法と企業会計を導入したことは、医療経営組織にどのような影響を及ぼしているかという4事例をとおして、非営利法人組織における 「会計の役割」を探究することにする。


Ⅲ わが国の国公立病院改革

 日独の医療改革における「会計の役割」を探究するために、表1で示すように日独の医療改革を区分比較しながら考察する。まずは医療経営の改善基盤は民間的経営手法の導入、経営組織の再編にある。さらに経営業績の評価及び管理をするのが「会計の役割」である。以上の仮説のもとで、論究することにする。  

 前述の開設者別の病院の種類のなかで、従来の国公立病院における公会計では、補助金による運営、他会計繰り入れの会計処理が行われ、経営組織自体の経営業績を評価し、また管理するには不明瞭な会計処理であった。国公立病院は国及び自治体の財源を基盤に運営されてきたことから、国は行財政改革を行う一方、他方では医療機関には経営改善を求めた。つまり公立病院の場合には、総務省が「公立病院改革ガイドライン―実施プラン―調査結果」(Plan-DoSee-Check)に従って、企業会計の経営分析指標 「効率化にかかる目標数値例」を示し、自治体に公立病院の経営改善を迫った。

 またこれまで民間医療機関では果たせない社会的役割を担ってきた旧国立病院の経営改善にも、以下のように企業会計の導入がみられる。


表1 日独医療改革の比較

出所:総務省及び厚生労働省資料、ドイツ商法及び社会法資料に基づき作成した。

*制度化されていない任意開示 (Röhn-Klinikum AG)。


1 国立病院の医療改革

 国立病院は、2004年に独立行政法人国立病院機構(以降:国立病院機構)として中央省庁等の改革の一環として再編された。もともと国立病院は、旧陸海軍病院(146施設)を引き継いで発足し、戦後のGHQ(General Headquarters:総司令部(連合国最高司令官総司令部))の占領下で再編及び統合の過程を経て、採算性のない病院及び療養所は廃止された。2004年に本部の他に、 九州ブロック、中国四国ブロック・近畿ブロッ ク・東海ブロック・関東信越ブロック・北海道東北ブロック等、6ブロックに区分された。本部を入れて、143の国立病院機構として、厚生労働省の所管のもとで医療改革が行われた6)

 これまで当機構は特別会計であったが、2004年以降は企業会計原則が導入され、以下のような改革が進められてきた。

 1)組織のスリム化として人件費削減、つまり国家公務員が減らされる。  

 2)余剰資産等の売却が行われ、また病院の統廃合及び再編、さらに国立病院の跡地が   売却されて、国庫に納付された。2014年には143病院(本部を含め)になる。  

 3)財政支出の削減のために、2009年から2011年にわたり運営費交付金が削減される。  4)その他、契約の適正化、共同購入によって、医療品の見直し及び医療機器の拡大等   に取り組むことで、診療業務部門(事業) 等に要する費用の削減が図られる7)

 以上の改革に基づき、人件費、運営費交付金、 医療費等の費用削減をめざした経営改善に、次のように企業会計が導入された。  

 当該機構の財務諸表は、独立行政法人会計基準に従って作成される。しかしこの基準に規定されていない会計処理は、企業会計原則に準拠することとなる。独立行政法人通則法 (以降: 通則法)第38条第1項により、毎事業年度、財務諸表を作成し、当該事業年度の終了年後3か月以内に厚生労働大臣に提出して、その承認を受けなければならない。なお通則法第39条に従って財務諸表、事業報告書(会計に関する部分に限定される)及び決算報告書について、監事の監査の他に、会計監査人の監査を受けなければならない。この会計監査人の選任は厚生労働大臣が行う8)。  

 以上の会計手続きのもとで、本部は143機構の統括財務諸表を作成している。その際、企業会計でいう部門別、つまり診療業務部門、研修教育業務部門、臨床業務部門等に区分された財務諸表(注4の会計規程第3条参照)が開示されている。また当該機構の総括財務諸表から明らかになるのは、表2に示すように、運営費交付金の減少に対して医業収益の上昇につとめていることである。  

 表2では、独立行政法人化後の企業会計導入 によって、2004年~2014年損益計算書(収益部) に表示された医業収益は上昇傾向にある。また グラフ1に示すように、貸借対照表における長期借入金の減少から支払利息の費用も減少傾向にある。このような国立病院機構内部における預託及び借入が本部を中心とした機構間で行われ、内部資金を保有するしくみとなっている。  

 企業会計導入前、2004年以前の決算書では、 旧国立病院は、「国立病院特別会計法」(昭和24年法律第190号)にもとづき特別会計をとっていた。独立行政法人化前の旧国立病院の財務諸表 (貸借対照表、業務費用計算書、資産・負債差額増減計算書、区分別収支計算書、注記)が開示されている。当該決算書では、他会計からの受け入れ (65,056百万円)が行われ、本来の医療機関としての診療収入(76,985百万円)と比較すると、約85%が他会計から繰り入れられている。その他、 旧国立病院の決算書では、一般会計への繰り入れ、国際整理基金特別会計への繰り入れ等、各国立病院の資金繰入の調整が行われ9)、各旧国 立病院自体の医療経営状況は不明瞭である。


表2 統括損益計算書における収益の部

出所:独立行政法人国立病院機構 : 平成16年度~平成25年度財務諸表より作成した。千円以下は四捨五入している。


グラフ1 長期借入金と支払利息の関係の推移

出所:独立行政法人国立病院機構平成16年度~平成25年度財務諸表より作成した。千円以下は四捨五入している。


2 公立病院の医療改革

 他方、総務省の所管のもとで、公立病院の医療改革は、前述したように、2007年ガイドライン、2009年プラン、さらに2010年から実施調査結果が公表されている10)。この調査結果にしたがって、表3に設定された平均的経営目標指標から判断して、2007年~2014年までの間に、表4の結果からも公立病院では民間的経営手法が導入されて経営改善が行われていることが明らかになる。  

 公立病院は、自治体の地方公営企業と位置づけられ、財政健全化法(地方公共団体の財政健全化に関する法律[健全化法2009年])に従って進められた。健全化法に基づき財務状況の悪化した公立病院の経営見直しが行われる背景には、地方公共団体の財政を客観的に表示し、財政早期 健全化と再生の必要性を判断するもの(健全化判断比率)として、①実質赤字比率、②連結実質赤字比率、③実質公債費率、④将来負担比率等の4つの指標が掲げられ、それに基づき、健全化判断比率のいずれかが、早期健全化基準以上である場合には、当該健全化判断比率を公表して、年度末までに「早期健全化計画」を策定し、さらに再生判断比率(健全化判断比率のうちの将来負担比率を除いた3つの指標)のいずれかが 財政再生基準以上である場合には、同様に財政 再生計画を策定すること等が義務付けられた11)

 これらの比率の基準設定は、表5で示すように、公立病院の経営指標とともに開示されている。

 この比率の基準に適合しない自治体は、公営企業の赤字及び債務を含めた連結評価が余儀なくされ、経営状況の悪い公立病院は自治体との連結評価からの切り離しが行われることとなった。その結果、公立病院は、独立行政法人化、 指定管理者制度、民間譲渡という組織替えの選択をせざるをえないことになる12)。これまで公立病院の経営状況が良くない場合には一般会計負担金の繰り出しが行われ、自治体からの地方交付税或は国庫補助金による補助が行われてきた。2009年度から2013年度までには公営企業法の財務適用が全部適用になった病院は114から 2013年度末には358となった13)。  

 経営指標の数値は、企業会計の経営分析によって設定された数値である。従来の経常収支 が赤字であった病院数を黒字の病院へ引き上げるための目標数値である。つまり経営業績を評価し、管理(外部管理と内部管理)する会計が、 表5で示す公立病院の経常収支比率を引き上げ、 病院経営改善のための目標指標となった。  

 厚生労働省は、わが国の医療機関における共通した会計基準を設定するために、他開設主体の独自の会計基準があることも考慮して、「医療法の一部を改正する法律の一部施行について」(1992年健政第418号通知)において、病院を開設する医療法人の会計処理は、原則として 「病院会計準則」により会計処理するものとしている」(同通知第三2⑵)と定め、国公立病院は、病院会計準則に従って財務諸表を作成し、公開している14)。  

 他方、公的医療機関の減少は、ドイツにおける設置者別の医療機関数の推移(グラフ2)にみることができる。


表3 総務省による公立病院改革における経営効率化にかかる目標数値例

出所:総務省、『公立病院改革ガイドライン』「経営効率化にかかる目標数値例、2007年より抜粋。病院規模及び採算性の有無に従った経営効率化の目標値を公表しているなかで、別紙1で、上表のような「主な経営指標にかかる全国平均値の状況:平成18 年度」を示している。


表4 地方公営企業における病院事業の組織再編

出所:総務省、「地方公営企業の抜本改革の取組状況」(平成25年4月現在)の調査状況が示されているが、この報告書では公営企業型地方行政法人制度の導入の病院数については、まだ明確な結果は得られなかった。


表5 公立病院の全国平均経営指標

出所:総務省、公立病院『病院経営分析比較表』より作成した。


グラフ2 ドイツ医療開設者別の医療施設数

注1)教会、福祉、民法上の財団、非営利法人団体の施設。

出所:Statistisches Bundesamt, Gesundheits,Kostennachweis der Krankenhäuser, 2009, S. 3, S.13 より作成した。


Ⅳ ドイツにおける医療機関改革

 グラフ2が示すように、ドイツの医療機関は、連邦統計局の統計では3つの医療機関開設者 (Trager)に分類され、公的医療機関は減少傾向にある。それに対して民間医療機関は増加している。これは、不採算の公的医療機関が廃止或いは統合されたか、または民間の医療機関に買収されて、公的医療機関が減少していることを示している。  

 公的医療機関の減少の根拠には、2つの民営化がある。1つめの民営化は、公的医療機関の組織変更である。2つめの民営化は、大規模な民間病院による公的病院の買収(M&A)である。すなわち州、郡、市、町の公的医療機関、大学病院等、赤字経営に陥った医療機関は、形式的民営化(組織変更等)、或は実質的民営化(民間医療機関へ譲渡或は買収される等)の選択肢をとらざるを得ない15)

 その2つの民営化の事例を取り上げて考察する。

1 公的医療機関の民営化

 代表的な形式的民営化には、Vivantes GmbH16) が挙げられる。この医療機関は、2000年公的組織から有限会社(GmbH)へ組織再編した。この組織再編直後は、表6に示すように、損失が生じていた。しかし組織変更後は、人件費の削減につとめ、企業と同様に、商法に従った個別決算書と連結決算書を作成している。2000年に民営化した公的医療機関は、2008年までに経営戦略が実行されることになっていた(表7)。そのため、経営における費用削減は人件費、病床数に向けられている(グラフ3)。

 Vivantesは、ベルリン州100%所有の有限会社へ組織替えをした。この組織替えによって、ベルリン州の資本所有のもとで、商法(HGB) の会計規定に従って、Vivantes GmbHグループの連結決算書が作成されることになった17)。  

 2つめの民営化は、公的医療機関が企業によって買収されるケースである。


グラフ3 国州立医療病院グループの病床数と入院患者数の推移

出所:Vivantes Kliniken GmbH, Geschäftsbericht 2004 ~ 2013 より作成した。


表6 ドイツ国州立病院 (Vivantes Kliniken GmbH) グループの組織再編直後の営業状況

出所:Vivantes Kliniken GmbH, Geschäftsbericht 2003~2005 より作成した。( )は損失である。/は開示されていない。


表7 ドイツ国州立病院 (Vivantes Kliniken GmbH) グループの営業状況

出所:Vivantes Kliniken GmbH, Geschäftsbericht 2004~2013 より作成した。/は開示されていない。


2 企業買収による民営化

 これまでドイツの医療市場を支配していたの は、HELIOS-Klinike GmbH, Asklepios-Kliniken GmbH, Röhn-Klinikum AG, Sana-Kliniken AGの4つの大規模民間医療機関グループであった。これらの4つの医療機関グループがドイツの医療市場の大部分を占めている。基本的には病院を中心として、リハビリ、介護、診療所等の施設と連携した組織となっている(表8)。

 しかし2013年以降、これまで多くの医療機関を買収してきたRöhn-Klinikum AGが、医薬品及び医療機器の開発、製造、販売会社である Frezenius欧州株式会社の傘下にあるHELIOSKliniken GmbHに買収され、2014年には欧州における最大の医療機関グループが誕生した18)。 Röhn-Klinikum AGは、これまで大学病院、公的医療機関を買収してきた。2006年には買収した12施設の医療機関のうち、9施設は公的医療機関である。またAsklepios-Kliniken GmbHも、 これまで州立病院(LBK Hamburg)等を買収してきた。表9に示す民間医療機関による公的医療機関の買収は、実質的民営化とみなされる。  

 医療機関の統合は、製薬及び医療費の上昇傾向に対処するための現象である。また医療からリハビリ、介護等のサービスの拡張は、医療機関のグローバル化を進め、これまでの間接金融の資金調達が、資本市場における資金調達である直接金融へ移行することになった。そのことは、会計制度にも影響している。つまり欧州証券取引所へ進出する上場企業と同様に、国内の会計基準に従った連結決算書に国際的財務報告会計基準(IFRS)を適用した財務諸表が開示されることになる19)


表8 ドイツ4大コンツェルン医療機関の病床数と従業員数

出所:Röhn-Klinikum AG, HELIOS-Kliniken GmbH, Asklepios-Kliniken GmbH, SANA-Klinken AG, Geschäftsbericht 2008-2012より作成した。


表9 2003年~2004年における主要な買収医療機関

出所:Zech, Markus, Die Privatisierung öffentlicher Krankenhäuser in der Bundesrepublik Deutschland, S. 28. in : Gesundheitsreport HPS Research vom 05. 01. 2004. より抜粋。


Ⅴ 非営利組織における「会計の役割」

 以上、わが国における公的医療機関の医療改革とドイツの2つの民営化にみられる会計制度の変化をとおして、非営利組織における「会計の役割」について考察してきた。そのなかで、「非営利組織における会計の目的と非営利組織の特殊性から、①内部管理の目的、つまり組織の課題遂行のために、管理は実質的に会計情報に遡ることになる。②外部管理の目的、営利組織と同様に非営利組織においても情報の非対称性から、公開された会計情報が投資家の意思決定にとっても重要となる。」20)ということがいえる。つまり両国の医療改革は、非営利組織に 「営利組織における会計」の影響を及ぼした。


Ⅵ おわりに

 これまでの日独の医療改革をとおして、非営利組織における「会計の役割」について検討した。その際に、前述した医療制度改革の3つの骨格のもとで、多面的に医療改革が進められてきた。厚生労働省の所管のもとで、医療経営改善のために、組織内部では、さまざまな医療改革(DPC導入、看護基準、病床数削減、ジェネリック製薬の利用、医療ミス等の危機管理等)が行われている。そのなかで経営改善のために、経営組織の再編、民間的経営手法の導入がみられる日独の医療改革を比較して「会計の役割」を考察してきた。

 その結果、「小規模の非営利組織では、最も簡単な形式で収支計算ならびに財産目録だけが会計に含まれていた」21)。しかし、これは複雑な営業取引を記録する必要がなかった組織である場合である。組織の規模が大きくなると、比較的複雑な取引を対象とすることから、会計の表示能力にも複式簿記が必要となる。これを基礎として年度決算書が作成される。組織の規模に従った損益計算書、貸借対照表、附属明細書等の財務諸表が求められる。さらにキャッシュフロー計算書、自己資本変動計算書、状況及び 業績報告書が必要となる。したがって連結財務諸表では、多くの連結組織において要約された年度決算書が含まれた会計情報が求められることになる22)。従来の行政と自治体(たとえば官庁)の伝統的な会計制度であるカメラル会計 (Kameralistik)は、「成果経済の意思決定の資料としてはますます否定され、実務の意義は消失している」23)とあるように、簡単な収支計算だけにとどまらず、これまで述べてきた非営利組織を取り巻く現状を考慮すれば、この見解は無 視できない。  

 本稿では言及しなかったが、医療経営の改善には「医療の質」の維持及び向上が重視されなければならないことは言うまでもない。非営利法人組織における「会計の役割」に絞って考察した。

 その結果、非営利法人組織の会計は、「費用対効果」の経営改善が求められる以上、経営の業績評価と管理(外部管理と内部管理)のための役割を担うことになる。さらに資金調達方法に従った資金提供者に対する会計報告が求められる「説明責任」の役割を担うことになる。  

 本稿は、非営利法人組織における会計の役割について、具体的な会計処理による医療経営に及ぼす影響と資金調達方法に従った「説明責任」については、今後の研究課題である。


[注]

1) 杉山幹夫、石井孝宜、五十嵐邦彦編著『医療法人の会計と税務』(八訂版)、同文館出版、 2014年、7頁。

2) 本稿で、非営利法人組織としているのは、営利を目的にしていない組織と法人を対象としている。というのは地方公営企業の公立病院、また民営化された病院は民間病院として法人格を有しているので、医療改革をとおして、組織が公から民への移行にした法人を含めた 非営利組織に言及しているからである。

3) Zimmer, Annette/Priller, Eckhard/ K.Anheier, Helmut, Der Nonproft-Sektors in Deutschland, in:Simsa/Meyer/Badelt (Hrsg.), Handbuch der Nonprofit-Organisation,5. Auflage, Stuttgart 2013, S. 15.

4) 厚生労働省大臣官房統計情報部人口動態・保健社会統計課保健統計室「医療施設調査・病院報告」で開設者別の病院が分類されている (厚生労働省[http://www.mhlw.go.jp/]参照)。

5) Statistisches Bundesamt,Gesundheits 2013, Grunddaten der Krankenhäuser, Anteil der Krankenhäuser nach Trägerschaft 2013. 連邦統計局の統計によれば、2013年には1996病院 数のうち、公的病院が占める割合は29.9%、 非営利病院は35.4%、民間病院は34.8%を占め ている。

6) 2003年独立行政法人国立病院機構(http:// www.hosp.go.jp/)。2015年4月以降国立病院機構の従業員は非公務員となる。

7) 厚生労働省、『独立行政法人国立病院機構の組織・業務全般の見直し当初案について』、 (平成25年9月26日)、「国立病院改革案について」説明資料参照。

8) 国立病院機構、独立行政法人国立病院機構会計規程(平成16年4月1日規程第34号)第1章  総則 第2条参照。

9) 「国立病院特別会計事業の概要」(厚生労働省http://www.mhlw.go.jp/参照)。

10) 総務省、公立病院改革ガイドライン(平成19 年12月24日)、公立病院改革プランの実施状況 等(平成23年9月30日現在)、公立病院改革プラン実施状況等の調査結果(調査日:平成26年3月31日)参照。

11) 総務省、「平成24年度決算に基づく健全化判断比率・資金不足比率の概要」(平成25年11月29日)9頁。

12) 総務省、公立病院改革ガイドライン(平成19 年12月24日)参照。

13) 総務省、「公立病院改革の概要」(公立病院改革プランの実施状況等)5頁、資料3参照。

14) 拙稿、「公立病院改革における現状と課題― 民間的経営手法の導入による会計の役割を通して」『経理研究』第57号、189-190頁(2014年3月10日)。みすず監査法人編著『病院会計と監査』じほう、3-10頁、2007年。

15) Bericht der Arbeitsgruppe des Vorstandes der Bundesärztekammer, Zunehmende Privatisierung von Krankenhäusern in Deutschland, 2007, S.45.

16) Vivantes GmbH Gesundheit, Geschäftsbericht  2013, S.1.

17) Vivantes GmbH Gesundheit, Geschäftsbericht  2003-2013.

18) 拙稿、「ドイツ医療機関の現状と経営分析─ 会計的観点からの我が国の医療改革との関連において─」『会計』第182巻第2号、124- 138頁、2012年。

19) 拙稿、「非営利組織への民間的経営手法導入における会計の役割─公立病院の医療改革を中心として─」『会計』第184巻第3号、20- 25頁、2013年。

20) Horak, Christian/Baumüller, Josef, 9. Controlling und Rechnungswesen in NPOs, in:Simsa/Meyer/Badelt(Hrsg.), a. a. O., S. 322-323.

21) Simsa/Meyer/Badelt (Hrsg.), a. a. O., S. 323.

22)Simsa/Meyer/Badelt (Hrsg.), a. a. O., S. 324.

23)Ebenda.


[参考文献]

Bruhn,Manfred,Qualitätsmanagement für Nonprofit-Organisationen,Wiesbaden 2013.  

Kuntz, Lüdwig/Bazan, Markus(Hrsg.), Management im Gesundheitswesen,Wiesbaden 2012.  

Simsa/Meyer/Badelt(Hrsg.), Handbuch der Nonprofit-Organisation,5. Auflage,Stuttgart 2013.  

Steymann, Gloria, Vertrauen bei Megers & Acquisitions, Wiesbaden 2012.

あずさ監査法人編『公立病院の経営改革』同文館出版、2010年。  

新日本有限責任監査法人編『独立行政法人会計基準』白桃書房、2013年。  

杉山幹夫、石井孝宜、五十嵐邦彦編著『医療法人の会計と税務』(八訂版)、同文館出版、2014年。 みすず監査法人編著『病院会計と監査』じほ う、2007年。


[参考論文]

拙稿「公立病院改革における現状と課題─民間的経営手法の導入における会計の役割を通して─」『経理研究』No.57、184-198頁、 2014年。  

──「非営利組織への民間的経営導入における会計の役割─公立病院の医療改革を中心として─」『会計』第184巻第3号、15-28頁、2013年。  

──「医療改革のもとでの病院経営分析の課題─ドイツ・コンツェルン医療機関を中心として─」『経理研究』No.56、300-316頁、 2013年。  

──「ドイツ医療機関の現状と経営分析─会計的観点からの我が国の医療改革との関連において─」『会計』第182巻第2号、124 -138頁、2012年。

(論稿提出:平成26年11月28日)

( 加筆修正:平成27年3月30日)

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