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≪査読付論文≫NPO法人による交通空白地有償運送の効率性評価 / 小熊 仁(高崎経済大学准教授)

更新日:2023年1月16日

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高崎経済大学准教授 小熊 仁


キーワード

交通空白地有償運送 ボランティア運転手 DEA(Data Envelopment Analysis) 効率性 非裁量要因


要 旨

 本論文では、全国30件のNPO法人を対象に、DEAに基づいて交通空白地有償運送の効率性を評価した。分析の結果、交通空白地有償運送はNPO法人の収入規模や収益性に関わらず効率性格差が生じており、事業全体として規模を拡大し、規模の適正化を目指すことにより効率性の改善をもたらすことが明らかになった。また、NPO法人の収益性や経営資源の蓄積の程度は交通空白地有償運送の効率性と関連しているとはいえず、収益性や経営資源が比較的劣る団体であっても効率的なサービスを展開していることが分かった。


構 成

Ⅰ 本論文の問題意識と目的

Ⅱ 交通空白地有償運送と分析対象NPO法人の概要

Ⅲ DEAによる交通空白地有償運送の効率性評価

Ⅳ 分析結果

Ⅴ まとめと今後の分析課題


Abstract

This paper evaluated the efficiency of Fare-paying Conveyance in Areas without PublicTransportation System based on Data Envelopment Analysis for 30 NPOs nationwide. As aresult, it was clear that those system had an efficiency gap regardless of the operating revenuescale and profitability of NPO and expanding the scale of the business and aiming for optimizationof the scale would lead to improved the efficiency. In addition, this paper showed that therelationship of the profitability and the degree of management resources was not related to theefficiency and even these relatively inferior organizations could provide efficient services.


※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。


Ⅰ 本論文の問題意識と目的

 わが国では人口減少やモータリゼーションの進展によって、地方の中山間地域を中心にバス路線の減便や廃止が相次いでいる。従来、このような地域に対しては地方自治体が事業者に補助金を与えるか、地方自治体のコミュニティバスに代替するという形でサービスが維持されてきた。しかし、地方自治体の財政負担の拡大に伴い、サービスの継続に困難をきたす地域もみられ、自家用車を所有しない学生や高齢者に対する交通手段の確保が問題となっている。

 こうしたなか、NPO法人をはじめとする非営利組織が道路運送法第78条「自家用自動車による有償旅客運送」の例外規定(交通空白地有償運送)を活用し、公共交通機関が著しく不便な地域の住民に対し交通サービスを提供する事例が広まっている。2018年度現在、交通空白地有償運送に従事する非営利組織の数は全国で116団体に上っており、事業者や地方自治体によるサービスでは対応が困難な地域の移動手段として重要な役割を果たしている。

 しかし、交通空白地有償運送は利用者が少なく収益が見込めない地域に展開し、その事業の大半はボランティア運転手の自発的な参加によって支えられている。そのため、常に採算性や人員確保のリスクがつきまとい、非営利組織が自らの力で事業を継続していくことは容易ではない。したがって、交通空白地有償運送が引き続き地域住民の移動手段としての機能を担い、これを定着させていくに当たっては、これを手掛ける非営利組織が限られた資源をもとに効率的なサービスを供給できるか否かが問われることになる。

 従来、交通空白地有償運送をめぐっては愛知県豊根村の交通空白地有償運送にかかる実証実験の結果と問題点を整理した田中・佐藤(2004)、複数の先進的事例をもとに交通空白地有償運送の導入条件を考察した若菜・広田(2004)、交通空白地有償運送の歴史や事例検証からサービスの意義や課題について考察した早川(2005)、島根県飯南町における交通空白地有償運送の開設の経緯とNPO法人の活動内容を検討した加藤(2009)をはじめさまざまな研究が蓄積されてきた。しかし、先行研究の多くは個別事例を対象にサービス開始前後の経過や今後の課題について検証した研究が中心を占め、サービスの効率性に対する定量的な評価や効率性の向上に向けた改善案の提示は行われていない。この点で課題が残されている。

 本論文は交通空白地有償運送の効率性を定量的に評価し、効率性の向上に向けた改善案と将来のサービス維持にかかる運営上の示唆を導出することが目的である。具体的には、「内閣府NPOホームページ」よりデータが得られた30件のNPO法人の交通空白地有償運送を対象にDEA(Data Envelopment Analysis:包絡分析法)に基づいてサービスの効率性を定量的に計測し1 )、非効率の解消に向けた改善案を提示することが目標である2 )


Ⅱ  交通空白地有償運送と分析対象NPO法人の概要

1  交通空白地有償運送の内容

 交通空白地有償運送は2006年の道路運送法改正に伴い設置された制度で、公共交通機関が著しく不便な地域においてNPO法人等が自家用車を使用し、有償で地域住民の輸送に当たるものである。2006年度の制度開始以降、交通空白地有償運送を担う非営利組織の団体数は増加傾向にあり、2018年度末現在、116団体がサービスの提供に従事している。

 交通空白地有償運送は通常、非営利組織が地域住民からボランティア運転手を募り、運転手として登録された住民が利用者の予約状況に従い、非営利組織所有の自家用車(またはボランティア運転手の自家用車)を用い個別に輸送を行う3 )。利用者はあらかじめ、非営利組織の会員として入会を済ませ、利用の際には希望日時、乗車地、目的地を非営利組織に伝える。非営利組織は利用者の依頼内容に応じ最も適格な運転手を選択し輸送を依頼する。依頼を受けた運転手は指定された乗車地に配車し、利用者を目的地まで輸送する4 )。運賃は法制度上タクシーの半額以内と規定されているが、その徴収形態はさまざまで、たとえば距離別運賃や定額運賃を適用するケース、あるいは入会時の会費と併せ月、あるいは年間の利用料金を一括で徴収(料金納入後はフリー乗車可)するケース等組織によって大きく異なる。


表1  分析対象NPO法人の概要


 表1 は分析対象NPO法人が手掛ける交通空白地有償運送の概要をあらわしたものである。はじめに、運行形態は定時・定路線の乗合輸送を取り扱う10団体を除きすべて予約制を採用している。そして、NPO法人への入会に当たっては会費の支払いを求める場合と求めない場合があり、前者の場合は年間1,000〜2,000円程度の会費を徴収している。一方、運賃に関しては、20団体が定額運賃を採用し、残る10団体は距離別運賃( 7 団体)、もしくは会費制による一括納入( 3 団体)を適用している。使用車両はNPO法人の所有車両を利用するケース、ボランティア運転手の車両を利用するケース、両者を併用するケース等団体別に特徴がみられる。しかし、定時・定路線の乗合輸送を扱う団体では一定の輸送キャパシティを確保する必要がある関係から、NPO法人が8 〜14人乗りの車両を調達し輸送に当たっている。最後に、ボランティア運転手数は団体別にばらつきがみられ、十分な数の運転手を調達できている団体とそうでない団体の差があらわれている。


2  分析対象NPO法人の経営概況

 続いて、分析対象NPO法人の経営状況を表2 のとおり示す。分析対象NPO法人30団体のうち16団体は年間収入500万円未満の団体から構成されている。その一方で、1,000万円以上の収入を得ている団体は9 団体に上る。平均値は1,133万円、中央値は451万円で、団体ごとに収入規模に差が生じていることが分かる。全体の収入構成としては補助金が最も高い割合(44.2%)を占め、次に交通空白地有償運送以外の事業収入(38.5%)、交通空白地有償運送による事業収入(11.7%)、会費(3.7%)、その他の収入(1.1%)、寄附金(0.8%)と続く(表3 参照)。団体の収入規模別にみると、年間収入2,000万円未満の団体は補助金の比率が高く、他方で年間収入2,000万円以上の団体では、交通空白地有償運送以外の事業収入が補助金を上回る結果となっている。交通空白地有償運送による事業収入は年間収入500万円未満の団体では30.7%に上るのに対し、年間収入500〜2,000万円未満の団体は19.3%、年間収入2,000万円以上の団体は6.3%に止まり、収入規模の増加に従い交通空白地有償運送による事業収入の構成比は低くなる傾向が読み取れる。この理由は、交通空白地有償運送がもともと収益の見込めない事業であるため、補助金に加えその他の事業からの収入を得られなければ組織を維持できないからである。


表2  分析対象NPO法人の年間収入規模

 表4 は、分析対象NPO法人の経常損益をあらわしたものである。これによると経常損失を計上している団体は11団体に上る。経常利益を生み出している団体は19団体に及ぶが、1 団体を除きいずれも0 〜499万円未満の範囲に止まっている。そして、表5 をもとに団体の正味財産の蓄積の程度をみると、債務超過( 0 円未満)となった団体は4 団体、500万円未満は17団体となり、多くの団体でストックが十分に蓄積されていない状況が読み取れる。しかし、収入規模の増加に伴い正味財産は蓄積される傾向にあり、たとえば年間収入2,000万円以上の団体では5 団体が1,000万円以上の財産を蓄積している。ただし、これは交通空白地有償運送以外の事業収入等から蓄積されたストックであり、採算性の乏しい交通空白地有償運送の存在が団体の収益を阻害する要因となっている可能性は否定できない。


表3  分析対象NPO法人の収入構成


表4  分析対象NPO法人の経常損益


表5  分析対象NPO法人の正味財産



Ⅲ  DEAによる交通空白地有償運送の効率性評価

1  DEAの内容と分析モデル

 DEAとはDMU(Decision Making Unit)と呼ばれる評価主体の入出力の比率から、最も生産的な活動を行っているDMUの集合体(=「効率的フロンティア(参照集合)」)を導き出し、フロンティアから各DMU間の相対的な距離(Slack:スラック)を計測するもので、推計に当たっては「規模に対する仮定」と「指向性の仮定」という2 つの仮定に基づいてモデルが構築される。前者は「生産規模に対し収穫一定を仮定したモデル(Constant Returns to Scale Model: CRS モデル)」と「生産規模に対し収穫逓増(逓減)を仮定したモデル(Variable Returns to Scale Model:VRS モデル)」である。後者は、出力を所与とし効率的フロンティアまでの入力の過剰を計測する「入力指向型モデル(Input-oriented Model)」と入力を所与とし効率的フロンティアまでの出力の不足を計測する「出力指向型モデル(Output-oriented Model)」である。

 本論文では、各団体の交通空白地有償運送が所与の入力でどの程度の効率性を発揮しているかを評価するため、出力指向型モデルを用いて効率性の評価を行う。また、生産技術や生産規模は団体別に異なることから、VRSモデルを用いて分析を試みる。いま、Cooper, et a(l. 2007)に従い、下記のとおり出力指向型のVRSモデルを定式化する。はじめに、j 個のDMU(ここでは交通空白地有償運送)がn種類の入力(χ)によってm種類の出力(y)を生み出していると仮定する。このとき、i 番目のDMUの効率値(η*)は次の線形計画問題を解くことにより求められる。


 ここで効率値η*は0 ≤η* ≤ 1の範囲であらわされ、η* = 1ならばDMU i は効率的、η* < 1ならば非効率的と判断される。DMUi の効率値η *がη* < 1となった場合、η*は効率的フロンティアから乖離しているため、次のような入力の余剰と出力の不足(スラック)が導出される。



 ⑵式は効率的フロンティアからの距離を意味しており、DMUi はこの入力余剰分を削減し出力不足分を増加すれば効率的な生産活動が達成される。このことから、⑵式は改善案とも呼ばれる。

 ところで、本論文の分析対象とする30件の交通空白地有償運送は、生産技術や生産規模はもちろん、輸送を取り巻く社会経済環境が事業別に大きく異なる。そして、これらの中には人口や団体の活動年数をはじめ事業独自の裁量ではコントロールできない非裁量要因が含まれており、これを除去せずに効率性を評価すると、スラックが過大(過小)に計測され、効率性の過小(過大)評価に繋がる可能性がある。

 そこで、本論文ではFried, et a(l. 1999)による「多段階アプローチ」を援用する。具体的には、第1 段階において⑴式を用い分析対象NPO法人のサービス供給にかかる効率値を計測し、⑵式に基づき非効率なDMUi のスラックを導出する。第2 段階では、第1 段階において導き出されたDMUi の出力指標mのスラック(S im) を被説明変数、DMUi の出力指標m に影響を及ぼす非裁量要因(Q im ) を説明変数とし、非裁量要因がスラックに与える影響を分析する。ここでスラックはSim=≥0の値をとることから、Tobitモデルを用いて推計を行う。


 αmは定数項、βm,kはパラメーター、νimは誤差項、添え字k は非裁量要因の種類である。

 第3 段階では、各DMUi の出力指標の現実値(y im ) に対しTobitモデルによって推定されたパラメーター (βm,k) とDMUi の非裁量要因(Q im,k ) を用いて、次のような調整を加え、非裁量要因の影響を除いた出力指標の調整値

を求める。


 なお、非裁量要因の値が大きい場合、

は負の値をとる可能性がある。そのため、本論文ではTsutsui and Tone(2007)に従い、この調整値に以下のような修正を加えた再調整値(y AAim)を使用する。この再調整値は現実値の範囲内に収まり、調整値と同じ順位になるという利点がある。

 第4 段階では⑸式で導出された再調整値を利用し、再び⑴式に基づき効率値を計測する。これによって、非裁量要因を除外した効率性の評価が可能になる。


2  データ

 本論文の分析で使用するデータは2018年度の30件に及ぶ交通空白地有償運送のクロスセクションデータである。はじめに、NPO法人は交通空白地有償運送の提供に必要な資本、労働、その他生産要素を投入し、利用者および収入を確保しているという前提を置く。次に、NPO法人が交通空白地有償運送に投入する入力項目として「最大提供可能座席数」、「ボランティア運転手数」、「事業支出」、出力項目として「利用者数」と「事業収入」を採用する。ここで「最大提供可能座席数」とは一輸送当たりに提供可能な最大座席数を意味し、NPO法人所有車両数とボランティア運転手車両数の合計に各車両別の乗車定員の合計(運転手を除く)を乗じた値である5 )。「ボランティア運転手数」は交通空白地有償運送の運転手として各NPO法人に登録された運転手の人数である。「事業支出」と「事業収入」は、NPO法人が交通空白地有償運送に対し投じた費用と収入を意味する6 )。つまり、本論文では資本としての「最大提供可能座席数」、労働としての「ボランティア運転手数」7 )、その他生産要素としての「事業支出」を所与とし、いかに多くの産出(「利用者数」と「事業収入」)が得られたかという技術的効率性の概念に基づき効率性を評価する。

 ところで、本論文の分析対象NPO法人のうち、18団体は交通空白地有償運送以外の事業を手掛けている。このうち「NPO法人会計基準」に準拠し会計報告を行っている法人は11団体で、残りの7 団体は独自の会計基準に則り会計報告を公開している。そして、これら7 団体の会計報告には「事業収入」の金額にかかる記載はある一方で、「事業支出」の金額が掲載されていない。このため、本論文では五百竹(2017)を参考に、「事業収入」を獲得するに当たっては応分の支出が必要と判断し、交通空白地有償運送の事業収入比率を全体の事業支出に乗じることで各団体の「事業支出」を算出した。

 一方、出力項目別のスラックに影響を与える非裁量要因には、交通空白地有償運送のサービスを取り巻く環境的側面に着目し、サービス開始年度から分析対象年度(2018年度)までの「活動期間」、「輸送取扱地域人口(対数)」、「市町村昼夜間人口比率」、「市町村65歳以上単身世帯率」を選択した8 )。表6 はデータの基本統計量を示したものである。


Ⅳ 分析結果

1  非裁量要因の推計結果

 表7 には非裁量要因の推計結果が示されている。活動期間と輸送取扱地域人口は利用者数のスラックに対しそれぞれ1 %、10%水準で正に有意な結果となった。このことは、輸送取扱地域人口が多く、活動期間が長い団体ほど利用者数を十分に獲得できていないことを示唆している。これらの2 つの変数が想定される結果と異なった理由は、輸送取扱地域人口規模が大きい地域では、サービスに対する利用者の要望もさまざまで、地域住民のニーズに合致したサービスを提供しにくいことがあげられる。また、活動期間の長さは、通常、それが長くなるほどサービスの定着性が高まり、定期的な利用者の獲得に結びつくが、時間の経過に伴いサービスへの関心が次第に希薄になり、利用者が伸び悩む場合がある(加藤[2009])9 )。しかし、これはあくまで推測の域を出ないことから、引き続き検討を重ねていく必要がある。

 他方、事業収入のスラックに対しては市町村65歳以上単身世帯率が10%水準で負に有意な結果を示した。この結果は、65歳以上単身世帯の高齢者が多い地域ほどサービスの利用機会が多く、事業収入の増加に貢献している可能性があることを意味している。なお、市町村中夜間人口比率はいずれのスラックに対しても有意な結果を示さなかった。


2  DEAによる効率値の推計結果

 表8 は、DEAによる効率値の推計結果を示したものである。なお、本論文では団体別の効率性に加え、事業規模の適正状況を把握するため、別途CRSモデルによる効率値の推計を行い、VRSモデルの推計値との比に基づき「規模の効率性」も導出している10)。推計の結果、VRSモデルで最も効率的な(効率値が1 を示した)団体は13団体に上った。これに対し、効率値が最も低い団体はNPO法人絆(0.189)、NPO法人多里まちづくりサポート(0.220)、NPO法人助け合いなかさと(0.263)の順となった。全体の平均値は0.745となり、約25%の非効率が生じていることが明らかになった。


表7  非裁量要因の分析結果


表8  DEAによる分析結果



図1 収入規模と効率性の関係


図2  経常損益と効率性の関係


図3  正味財産と効率性の関係

 一方、規模の効率性については規模に対して収穫一定(Constant)が6 団体、規模に対して収穫逓増(Increasing)が19団体、規模に対して収穫逓減(Decreasing)が5 団体であった。このうち、NPO法人あつたライフサポートの会(0.118)、NPO法人アイタク太田(0.304)、NPO法人春野のえがお(0.348)、NPO法人鴨庄(0.377)、NPO 法人にこにこ日土(0.958)、NPO法人むかつく(0.696)、NPO法人平島を守る会(0.549)の7 団体はVRSモデルの効率値が1 を示しているが、規模に対して収穫逓減の状態にある。このことから、これらの団体は事業規模の拡大を通し規模の適正化を目指す必要がある。平均値は0.909で、全般として適正規模を下回る状態で事業に従事していることが判明した。

 図1 は団体の収入規模別にみた効率値の分布を図示したものである。効率値が0.5未満に止まった団体は8 団体存在し、このうち5 団体は年間収入500万円未満の団体であった。しかし、年間収入500万円未満の16団体のうち6 団体は効率値が1 に到達し、年間収入500〜2,000万円未満の団体や年間収入2,000万円以上団体の中にも効率値が1 に届かない団体がみられることから、団体の収入規模の大きさは交通空白地有償運送の効率性に影響を与えているわけではないことが分かる。他方、経常損益との関係についてみると、効率値が1 となった13団体のうち8 団体が経常利益0 円未満または500万円未満の団体である(図2 )。さらに、これらの団体は効率値0.8〜 1 未満に3 団体、0.5〜0.8未満に2 団体が含まれており、その一方で、経常利益500万円以上の9 団体のうち4 団体は効率値が1 に到達していない。したがって、交通空白地有償運送の効率性は団体の収益性とは関連が薄く、収益が低い団体であっても限られた資源を有効に活用し、効率的なサービスを展開していることが判明した。正味財産との関係では、0円未満6 団体、500万円未満6 団体、1,000万円以上1 団体の効率値が1 を示した(図3 )。ただし、正味財産の蓄積の程度と効率値の分布の関係には経常損益との関係と同様団体ごとにばらつきがみられ、経営資源のストックが直ちに交通空白地有償運送の効率性向上に結びついているとはいえないことが分かった。


Ⅴ まとめと今後の分析課題

 本論文では、交通空白地有償運送の効率性を評価するため、内閣府NPOホームページから得られた30件のNPO法人を対象にDEAに基づいて効率値を推計した。その結果、交通空白地有償運送についてはNPO法人の収入規模や収益性等に関わらず効率性格差が生じており、事業全体として規模を拡大し、規模の適正化を目指すことが効率性の改善に結びつくことを明らかにした。また、団体の収益性や経営資源の蓄積の程度は交通空白地有償運送の効率性と関連しているとはいえず、収益性や経営資源が比較的劣る団体であっても効率的なサービスを展開していることが分かった。

 交通空白地有償運送を手掛ける団体の数は増加しつつあり、サービスの形態も多様化の傾向がみられる。しかしながら、交通空白地有償運送は市場が欠落した領域での事業を余儀なくされ、しかも事業の根幹はボランティア運転手の労働力によって支えられている。このことから、仮に事業の効率化が実現していたとしても、いま以上に事業領域を拡張し、効率性を維持していくことは容易ではない。人口減少や少子高齢化の進展に伴い、むしろ事業規模の縮小を迫られる可能性もある。したがって、たとえば、地理的に近接する団体間の統合や連携を通し規模の適正化や資源の共有化を目指し、これらの共同事業を対象とした支援制度の拡充などを視野に入れながら、サービスの効率化を実現していくことが望まれる。なお、事業の共有化に従い利用者のニーズを幅広く汲み取る必要も出てくることから、この場合は団体間の役割分担等についてあらかじめ当事者間で取り決めを行っておくことが必要である。

 最後に、本論文には以下の課題が残されている。第1 に、本論文はデータ収集上の制約から評価対象をNPO法人に絞った。しかし、交通空白地有償運送にはNPO法人以外にもさまざまな団体が関与していることから、今後はこれらの団体を含めながら分析を試みる必要がある。第2 に、本論文は一定数の分析サンプルを確保するため、単年度ベースで評価を試みた。だが、効率値は対象年度により異なることが考えられるため、今後は複数年ベースで評価を行う必要がある。第3 に、本論文ではロジスティック回帰モデルをはじめさまざまな分析モデルを用いながら交通空白地有償運送の効率性に影響を与える要因について別途分析を試行した。ところが、いずれも係数が有意とはならず、これらの要因を解明するには至らなかった。第4 に、本論文は交通空白地有償運送の効率性に焦点を当て事業の評価を行ったが、交通空白地有償運送をはじめ地域住民の生活を支える事業を評価するに当たっては、効率性のみならず、受益者のニーズ充足度やミッションの充足度など多様な評価指標を用いながら事業の有効性を検証する必要がある。以上は今後の分析課題としたい。


[注]

1)もっとも、交通空白地有償運送のようなボランティアによる自発的な参加により支えられている事業の効率性を財務データのみに基づいて計測することは、事業そのものの実態や性格に馴染まない可能性がある。しかし、サービスを定着させ、地域住民の貴重な足として継続的な役割を果たしていくためには、ボランティア運転手をはじめとする希少な資源を用いていかに効率的なサービスを供給できるかという視点が必要不可欠である。

2)ところで、交通空白地有償運送に関わる非営利組織はNPO法人や社会福祉法人等さまざまな組織が含まれる。しかし、統一されたデータベースがなく、法人のウェブサイトでも財務データがほとんど公開されていない。このことから、本論文ではNPO法人のみを分析対象とする。なお、本論文では国土交通省自動車局「自家用有償旅客運送事例集」2020年3 月、ならびに全国移動サービスネットワーク(2010)に基づき交通空白地有償運送を担うNPO法人46団体を分析対象としてリストアップしたが、このうち16団体はすでに事業が廃止されている、あるいは、その他まちづくり等関連事業と一括して財務諸表を公開している等の理由から正確なデータを得ることができない。そのため、本論文は交通空白地有償運送のデータを直接入手することができたNPO法人30団体を対象に分析を試みることにした。

3)ここで、ボランティア運転手は第二種運転免許を所有している者、または、第一種運転免許を所有し、国が認定する講習を修了している者が担当することになっている。また、組織によって異なるが、ボランティア運転手は有償であることが多く、輸送時間、輸送距離、待機時間等に応じて謝礼を受け取ることが一般的である。

4)なお、車両については、①NPO所有車両を利用する場合、②ボランティア運転手の持ち込み車両を利用する場合、③NPO所有車両とボランティア運転手の持ち込み車両を併用する場合がある。このほか、交通空白地有償運送には予約制をとらず、特定の地域を対象に定時・定路線の乗合輸送を行うサービスが存在する。ここでは、地域住民から募られたボランティア運転手が乗合バスと同様の方式で利用者の運送に当たることもある。

5)車両数をそのまま入力変数として用いなかった理由は、NPO法人所有車両・ボランティア運転手車両の車種は軽自動車、セダン、ワゴン、マイクロバス等多岐に及び、一回当たりの輸送能力が大きく異なるためである。なお、具体的な車種名および各車両の台数・乗車定員はNPO法人の会計報告に記載されていない場合があるため、この場合は全国移動サービスネットワーク(2010)に掲載されている情報を用いて処理することにした。

6)ここでの「事業収入」には交通空白地有償運送による事業収入(運賃収入)に加え、交通空白地有償運送に対する補助金や寄附、ならびに会費が含まれている。これらを加えた理由は、非営利組織の活動目的はミッションの達成にあり、NPO法人が交通空白地有償運送に対し投じた費用からどの程度社会的支持を得ているかという成果も含め評価した方が、活動の実態と整合的に評価できると判断したからである。

7)本来、労働に関しては、ボランティア運転手の従事日数や従事時間数なども加味し分析を行った方がより実態に即した分析を行うことが可能である。しかし、これらのデータは個人情報に関わり一般的には公開されていないため、やむを得ずここではボランティア運転手数を用いた。

8)これらの変数を選択した理由は次のとおりである。第1 に「活動期間」は交通空白地有償運送のサービス開始から時間が経過するほど地域住民への定着度が高まり、利用者と事業収入の増加が期待できる。第2 に「輸送取扱地域人口」は地域別に範囲が大きく異なり、人口規模が大きいほどサービスの利用機会が高まり利用者と事業収入の増大に寄与する。第3 に「市町村昼夜間人口比率」は、昼間人口比率が多くなるとその地域では住民の外出機会が多くなり、サービスの利用機会が増加する。一方、昼間人口比率が少ない地域はもともと住民の外出機会が少なく、利用者や事業収入の増加は見込めない。第4 に、「市町村65歳以上単身世帯率」は交通空白地有償運送の利用者の多くが家族や知人の送迎を含め他者や自身による移動手段を一切所有しない高齢者が中心であるため、この比率が高い地域ほどサービスの利用機会は増大する。以上の変数は、いずれも事業とは直接関係なしに生じる非裁量要因である。

9)もともと交通空白地有償運送の輸送取扱地域は人口減少や高齢化が著しい過疎地域が中心であり、輸送取扱地域人口の規模や活動期間の長さに関わらず需要が低迷していることから、それらの要素が利用者数や事業収入のスラックに影響を与えている可能性も否定できない。このため、本論文では非裁量要因を示す変数の候補として「人口減少率」や「65歳以上人口比率」を設定し、分析を試みたがいずれも有意な値は示されなかった。この点については別途検証が必要である。

10)CRSモデルは、すべてのDMUにかかる生産技術は規模に対し収穫一定という仮定を置いて効率値を計測し、技術的効率性を推計する。一方、VRSモデルは生産規模に対し異なった収穫を仮定し技術的効率性と規模の効率性を推定する。このことから、CRSモデルの効率値とVRSモデルの効率値の比をとることによって純粋な規模の効率性を導出することができる。


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(論稿提出:令和2 年12月7 日)

(加筆修正:令和3 年3 月30日)

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