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非営利法人の公益性判断基準― 一般社団・財団法人と特定非営利活動法人を事例として ― / 初谷 勇 (大阪商業大学教授)

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大阪商業大学教授 初谷 勇


キーワード:

非営利法人 公益性判断 公益増進性判断 一般社団・財団法人       

NPO法人 地方分権改革


要 旨:

 本論では、非営利法人の公益性判断とその準拠する考え方について、一般社団・財団法 人とNPO法人とを比較検討した。非営利法人の公益性判断は二段階で捉えられる。一つは、 法人格を取得する際に受ける公益性判断である。これにより法人は法人税制上優遇される。 二つ目は、公益増進性判断である。これにより、法人への寄附者が税制上優遇される。第一の公益性判断については、一般社団・財団法人は、許可主義の廃止と準則主義の採用により行政庁による公益性の判断を受けなくなった。NPO法人は、所轄庁の公益性の判断を受けるが、判断主体の地方分権化・分散化が進み、判断基準も拡充した。第二の公益増進性判断については、一般社団・財団法人は、「民間の担う公益」を掲げる制度改革により判断主体が民間合議制機関となり、判断基準は法定・統一化された。NPO法人は、分権化により判断主体が所轄庁に一元化され、判断基準の根拠法がNPO法となり緩和が進んだ。


構 成:

I  はじめに

II 分析枠組み

III 公益(増進)性判断主体と公益(増進)性判断基準の設定

Ⅳ 公益(増進)性判断主体と公益(増進)性判断基準の変化

Ⅴ 公益(増進)性判断主体と公益(増進)性判断基準の準拠する考え方の推移

Ⅵ おわりに:公益増進性判断基準としての条例個別指定PST 


Abstract

 This paper compared general incorporated associations, general incorporated foundations, and specified nonprofit organizations with regard to authorization of charitable status of nonprofit organizations and the background on which such authorization is based. The charitable status of nonprofit organizations is authorized in two stages. In the first stage, charitable status is authorized when a general incorporated association, general incorporated foundation, or specified nonprofit organization becomes a juridical person. This authorization entitles the juridical person to receive preferential treatment under the Corporation Tax Law. In the second stage, the improved public interest is evaluated. This evaluation entitles donors to the juridical person to receive preferential treatment under the Income Tax Law, Corporation Tax Law, and Inheritance Tax Law. In the first-stage authorization of charitable status, general incorporated associations and general incorporated foundations were exempted from the evaluation for public interest by administrative agencies when the system of permission by evaluation was replaced by a system permission based on rules. Although specified nonprofit organizations are still evaluated for utility by competent authorities, the evaluation authority has been decentralized or assigned to local governments and the evaluation criteria have been expanded. The authority to evaluate public interest improvement by general incorporated associations and general incorporated foundations in the second stage has been given to the commissioners of the Public Interest Commission selected from among private citizens following system reform advocating public interests borne by the private sector, and the evaluation criteria have been legally established and standardized. The authority to evaluate specified nonprofit organizations has been given uniformly to competent authorities through decentralization of power, and the evaluation criteria have been relaxed as such criteria have come to be governed by the NPO Law

 

Ⅰ はじめに

 本論は、非営利法人研究学会第18回大会の統一論題「非営利法人に係る公益性の判断基準」 における筆者の報告に基づく。  

 大会実行委員会から報告者らに示された統一 論題の発題趣旨は次のとおりであった。

「法人格の付与と公益性の認定を分離した制度設計となっている『一般社団・財団法人』 と『特定非営利活動法人』の各々の公益性判断基準には、『程度の差として理解されるも のだけではなく、根本的に公益性の捉え方が異なると思われる要素も見受けられる』こと から、『日本における公益性判断に係る思考を検討する』ことを主目的とし、その検討を 補完するために、他国の公益性の判断基準を取り上げる。」  

 4名の報告者のうち筆者(第二報告者)への役割期待は、この題意にも窺われるように、① (第一報告が一般社団・財団法人の側から論じられるのに対し、)特定非営利活動法人(以下「NPO法人」という。)の側からその公益性判断基準について、一般社団・財団法人の公益性判断基準との相違点を整理し、そこに見られる②「程度の差として理解されるもの」と「根本的に公益性の捉え方が異なるもの」とを区別し、③そうした「公益性判断に係る思考」を検討することにあった。

 そこで、これらの検討課題に対し、筆者のNPO政策論(非営利法人政策論)の観点から、「公益(増進)性判断」と「中央・地方政府間関係」に係る二つの分析枠組みを用いて考察することとした1)。その上で、その「公益性判断に係る思考」を、認定特定非営利活動法人(以 下「認定NPO法人」という。)制度に導入された公益性判断基準であるパブリック・サポート・ テスト(PST)の出所:アメリカの非営利法人制度における「公益性判断基準に係る思考」に照らしたとき、両者の関係をどのように理解することができるのかについては第三報告に譲ることとした。


Ⅱ 分析枠組み

 本論は二つの分析枠組みを用いる。第一は、 公益性判断と公益増進性判断の区別とそれらの段階的な把握である。第二は、中央・地方政府間関係における集権・分権と集中・分散の区別である。

1 公益性判断と公益増進性判断

 まず、公益性判断と公益増進性判断の区別と段階的把握について述べる。  

 前掲の題意にいう「公益性判断」とは、一般社団・財団法人が公益認定により公益社団・財団法人となる場合やNPO法人が認定により認定NPO法人となる場合のように、寄附金税制上の優遇対象法人となる場合の「公益認定」や 「認定」に際して行われる公益性判断を包括して指していると考えられる。しかし、本論では、 従来の制度において任意団体が旧公益法人やNPO法人の法人格を取得する場合のように、法人所得課税上普通法人より優位な立場(収益事業課税)に到らせる「許可」や「認証」に際して行われてきた公益性判断を第一段階の「公益性判断」とし、さらに寄附金優遇対象法人に到らせる「公益認定」や「認定」に際して行われる公益性判断を第二段階の「公益性判断」 (以下、前者と区別するために「公益増進性判断」という。)として連続的、段階的に捉えることとしたい2)

2 集権・分権と集中・分散

 次に、中央・地方政府間関係における集権・分権と集中・分散の区別については、先行研究による分析枠組みを援用する3)。  

 1983年、天川晃は、中央政府と地方団体の関係を分析するモデルとして〈集権〉─〈分権〉(centralization-decentralization)軸と〈分離〉─ 〈融合〉(separation-interfusion)軸の組み合わせによる4類型を提示した。集権・分権軸は、 中央政府との関係で見た地方団体の意思決定の自律性を示し、地方団体とその住民に許された自主的な決定の範囲を狭く限定しようというのが集権型、反対にこの範囲を拡大させるのを分権型とする。一方、分離・融合軸は、中央政府と地方団体の行政機能の関係を示し、地方団体の区域内の中央政府の行政機能を誰が担うのかを問題とする。地方団体の区域内のことではあっても中央政府の機能は中央政府の機関が独自に分担するのが分離型、逆に、中央政府の機能ではあっても地方団体の区域内のことであれば地方団体がその固有の行政機能とあわせて分担するのが融合型とする4)。天川は、このモデ ルを日本の地方自治制度の位置づけに用い、明 治以降の集権・融合型が「戦後改革」を経て分権・融合型に再編されたとする(図1の①→②→③に相当)。  

 次いで1998年、神野直彦は、日本の行政システムを分類するモデルとして集中・分散軸と集権・分権軸の組み合わせによる4類型を提示した。それによると、政府体系を構成する各級政府が人々に提供する行政サービスの提供義務が上級政府に留保されている度合が強いほど集中的なシステム、その逆は分散的なシステムとする。また、これらの行政サービス提供義務の実質的決定権が上級政府に留保されている度合が強いほど集権的なシステム、その逆は分権的なシステムとする。神野は、このモデルを各国の行政システムの類型化に用い、日本は集権的分散システムであるとした5)図2の①)。  

 西尾勝は、上記の天川モデル、神野の分類軸を援用した上で、戦後日本の地方制度の特徴点として、⑴集権的分散システム、⑵集権融合型 =地方制度、⑶「三割自治」、⑷市町村優先主義と市町村横並び平等主義を挙げている6)。西尾は、このうち⑵について、日本の行政システムを先進諸国並みのグローバル水準に近づけるために、まずは日本独特の機関委任事務制度を全面廃止し、国と自治体の融合の度合を大幅に緩和することが求められ、それが集権性の度合を大幅に緩和すること(図1の①→②に相当)にも寄与するとし7)、第一次分権改革の根底を成した考え方に言及している。  

 地方分権改革が20年を経て一定の進展を見せた今日、日本の特徴点に係る西尾の指摘は、我が国において、かりに集権融合型の傾向が依然強いとしても、行政サービス提供義務の各級政府間の融合の度合(上級政府に集中的か、下級政府に分散的か)を検討し、集権的分散システムから分権的分散システムへの移行(図2の①→ ②)の可否や是非を議論する必要があるという問題提起と解することができる8)。地方分権改革を、意思決定権限の集権性の緩和と、行政サービス提供義務の中央政府への集中度を緩和し自治体への分散度を高める改革として捉えるものといえよう。  

 本論のテーマに即して考えるならば、天川モデルにいう「集権・分権」は、非営利法人の公益(増進)性判断(行為)における自治体の意思決定の自立性の問題として、また、「融合・ 分離」は、公益(増進)性判断という行政機能の中央・地方政府間の分担関係の問題として捉えることができる。一方、神野の分類軸にいう 「集中・分散」は、非営利法人の公益(増進) 性判断(と、それを通じて創出される「公益(増進) 性を具えた非営利法人」を通じて行われる公共サービスの提供)義務が上級政府に留保される度合の問題として、また、この場合の「集権・分権」は、そうした公共サービス提供義務の実質的決定権が上級政府に留保される度合の問題として捉えることができる。


図1 集権・分権軸と融合・分離軸(天川モデル)

出所:天川[1983]に基づき、筆者作成。



図2 集権・分権軸と集中・分散軸

出所:神野[1998]、同[2002]、西尾[2007]の記述をもとに筆者作成。



Ⅲ 公益(増進)性判断主体と公益(増進)性判断基準の設定

1 従来の公益法人制度における公益(増進) 性判断主体と公益(増進)性判断基準

 まず、従来の公益法人制度における公益性判断主体と公益性判断基準、また公益増進性判断主体と公益増進性判断基準を振り返る。そこでは、公益法人の設立許可及び指導監督に関する権限は主務官庁にあり(主務官庁制・許可主義)、法人の設立と「公益性判断」が各主務官庁において一体的になされ、法人格の付与と法人課税上の優遇が連動していた。その上で一定の要件に基づく厳格な「公益増進性判断」に適合した法人のみが寄附金優遇対象法人である「特定公 益増進法人」に認定されていた。

⑴ 公益(増進)性判断主体

 第一に、公益性判断主体である「主務官庁」 は、内閣の行政事務を分担管理する府省を指すが、1の都道府県の区域内に事業が限られる法人については、その権限は都道府県知事等に委任されていた9)。その後、1997年の「地方分権推進委員会第二次勧告」から第三次、第四次勧告を受け、1999年の地方分権一括法(2000年施行)に基づく地方自治法改正により機関委任事務が廃止されたことから、公益法人の設立許可に関する事務のうち都道府県知事等に委任されているものは都道府県の自治事務となった。

 この間の事情を見るならば、1996年3月、「地方分権推進委員会中間報告」に「機関委任事務制度そのものを廃止する決断をすべきである」との記述が盛り込まれ、廃止後の事務区分のあり方や一つひとつの事務の分類についての検討が始められた。具体的には、同年10月以降、地方分権推進委員会は各省庁の所管法の関与の規定の見直しや、事務の区分を法定受託事務にするのか自治事務にするのかという「振り分け作業」を「グループヒアリング」により集中的に実施した。このグループヒアリングでは、「法人の設立許可」の問題も地方分権推進委員会と各省との間で争われ、「およそ法人設立の 許可は国に専属している」とする省庁の主張が、 振り分け作業の中で修正されたことが報告されている10)

 また、特定公益増進法人を認定する公益増進性判断主体も、主務官庁が財務大臣と協議の上行っていた11)

⑵ 公益(増進)性判断基準

 第二に、公益性判断基準については、従来の制度下でも既に各主務官庁による縦割りの自由裁量による弊害が指摘されていたことを受けて、 基準の一定の統一性を確保するために、主務官 庁間の連絡調整を踏まえ、「公益法人の設立許可及び指導監督基準」(平成8年9月20日閣議決定)及び「公益法人の設立許可及び指導監督基 準の運用指針」(平成8年12月19日公益法人等の指導監督等に関する関係閣僚会議幹事会申合せ)が定められ、これらに基づいて公益性判断が行われ るようにはなっていた。

 このように、従来の公益法人制度では、公益性判断主体については、当初、国への集権を基本に機関委任を通じた都道府県知事等へ分散する体制であったものから、都道府県への部分的な分権(自治事務化)・分散の体制へ移行し、公益性判断基準については統一化に向けた伏流が見られたということができる。また、公益増進性判断主体については、都道府県への法定受託事務化による分散体制にとどまり、公益増進性判断基準については主務官庁の大きな裁量が残存していた。

2 NPO法人制度における公益(増進)性判断 主体と公益(増進)性判断基準

 次に、NPO法人制度における公益性判断主体と公益性判断基準、また公益増進性判断主体と公益増進性判断基準を振り返る。  

 1998年に民法第34条(当時)に対する特別法 として特定非営利活動促進法(以下「NPO法」 という。)が成立した。上記の公益法人の場合とパラレルに述べるならば、NPO法人の設立認証及び監督に関する権限は所轄庁にあるものとされた(所轄庁・認証主義)。法人の設立と「特 定非営利活動」該当性の判断―公益性判断―が所轄庁において一体的になされ、法人格の取得 は「人格なき社団並み」(普通法人と公益法人の中間)の限りにおいて法人課税上の優遇(収益事業課税)と連動していた。  

 公益法人における特定公益増進法人のような公益増進性判断を通じた寄附金優遇対象法人 (認定NPO法人)の制度は、NPO法制定後3年を 経た2001年に創設されたものの、同制度の利用はその後10年を経ても僅少にとどまった12)

⑴ 公益(増進)性判断主体

 公益性判断主体である所轄庁は、原則として法人の所在する都道府県の知事とされ、例外的に2以上の都道府県の区域内に事務所を設置す るものは経済企画庁長官(のち内閣総理大臣)とされた(同法第9条)。また、公益増進性判断主体は国税庁長官とされた。

⑵ 公益(増進)性判断基準

 次に公益性判断基準については、認証基準が法定され(NPO法第12条第1項)、公益増進性判断基準については、租税特別措置法に規定されていた(同法第41条の18、第66条の11の2)。

 このようにNPO法人制度では、公益性判断主体は、当初から都道府県への分権・分散体制が原則とされ、公益性判断基準については法定された。しかし、公益増進性判断主体や公益増進性判断基準は、別途税務当局の管轄下にあった。


Ⅳ 公益(増進)性判断主体と公益(増進)性判断基準の変化

1 新公益法人制度における公益(増進)性判断主体と公益(増進)性判断基準

 2006年に成立した公益法人制度改革三法による新公益法人制度により、上記Ⅲの1で見た旧公益法人制度の主務官庁制・許可主義が廃止された。一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般社団・財団法人法」という。)に より一般社団・財団法人の法人格取得は準則主義に基づくものとされたことから、従来の意味での公益性判断主体(主務官庁)や公益性判断基準(設立許可基準)は消失した。  

 一方、公益増進性判断主体は行政庁(内閣総理大臣又は都道府県知事)とされたが、実質的には民間有識者からなる合議制の機関の意見に基づき公益認定がなされることとなった。公益増進性判断基準が明確に公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「公益認定法」という。)に法定され(同法第5条)、公益認定された法人はすべて寄附金優遇対象法人(特 定公益増進法人)となり、大幅に増加した13)

 このように、新公益法人制度では、従前の制度における公益性判断主体と公益性判断基準が消失し、公益増進性判断主体の民間化と公益増進性判断基準の法定、統一化が図られた。

2 改正NPO法に基づく公益(増進)性判断主 体と公益(増進)性判断基準

 上記Ⅲの2で見たNPO法人制度は、東日本大震災の後、「新しい公共」の担い手となる NPO法人を拡充する趣旨の下に2011年6月22 日に公布された改正NPO法(2012年4月1日施行)によって大きく進化した。公益性判断主体の所轄庁のうち、2以上の都道府県に事務所を置く法人については、内閣府から主たる事務所の所在地の都道府県に、1の政令指定都市の区域のみに事務所を置く法人については、都道府県から政令指定都市に、各々所轄庁が変更された。公益増進性判断主体も国税庁長官による認定制度が廃止され、代わってNPO法の中に所轄庁(都道府県知事又は政令指定都市の長)による 「認定制度」が法定され(第三章)、公益性判断主体と一元化された。  

 次に、公益性判断基準については、拡充され (3種類の活動分野の追加等)、公益増進性判断基準(認定基準)については、2005、2006、2008 各年度の緩和に続き、PST基準が相対値、絶対値、条例個別指定の三つのいずれかを充足すればよいこととされる(第45条第1項1号)など、 大幅に緩和されるとともに選択肢が拡充された。 また、設立初期のNPO法人に財政基盤の脆弱な法人が多い事実から、1回限りのスタートアップ支援として、PST基準を免除した「仮認定制度」も導入された。

 このように、NPO法人制度では、公益(増進)性判断主体の一元化と地方分権・分散がさらに進み、 公益(増進)性判断基準の大幅緩和が続いている。


Ⅴ 公益(増進)性判断と公益(増進) 性判断の準拠する考え方の推移

 以上の推移から、「はじめに」で述べた問題関心のうち、NPO法人制度と公益法人制度の 比較からうかがえる①と②の相違点の整理とその内容(程度の差か根本的な考え方か)を検討するならば、さしあたり次のように整理すること ができる(表1参照)。

⑴ 公益性判断

① 公益性判断主体  

 公益法人制度では、公益性判断主体の 「地方分権・分散化」から主体の「消失」 に至ったのに対し、NPO法人制度では、 公益性判断主体の「地方分権・分散化」が 昂進している。  

② 公益性判断基準    

 公益法人制度では、公益性判断基準の 「統一化への伏流」が見られたが、やがて 基準の「消失」に至ったのに対し、NPO法人制度では、公益性判断基準が「法定」 され、さらにその「拡充」に至っている。    

 これらの相違は、公益法人の場合は公益性判断のよりどころとなる考え方が許可主義から準則主義へ転換したことによるもの であり、NPO法人の場合は認証主義の下 での地方分権・分散化と対象の拡充に向けた対応の深まりという「程度」の問題と捉えることができる。


表1 公益法人と特定非営利活動法人の公益性判断および公益増進性判断

出所:筆者作成


⑵ 公益増進性判断

① 公益増進性判断主体    

 公益法人制度では、公益増進性判断主体の「都道府県知事等への分散」から「都道府県知事への分散の継続と合議制機関設置による民間化」であるのに対し、NPO法人制度では、公益増進性判断主体の「(公益性判断主体である)所轄庁への一元化」が見られた。  

② 公益増進性判断基準    

 公益法人制度では、公益増進性判断基準 の「自由裁量」から「法定・統一化」に 至っているのに対し、NPO法人制度では、公益増進性判断基準の「根拠法の転換と基準緩和の昂進」が見られる。

 以上より、本論の最初に掲げた統一論題の題意に対応させて小括するならば、一般社団・財団法人とNPO法人の各々の公益性判断のよりどころとなる考え方は、前者においては制度改革を経て、「官による公益」から「民間の担う公益」へ「根本的に公益性の捉え方が異なる」 ものとなった(転換した)。一方、後者においては、もともと「民間(市民)の担う公益」活動の器として構想されつつ、その公益性判断に (認証主義の範囲で)行政庁の一定の関与を残した制度設計がなされ、同制度とその準拠する思考は維持されている。公益性の捉え方が変化したというよりは、公益性の判断主体の分権・分散化と判断対象の拡充に向けた判断基準の緩和 といった対応の深まりが見られるのであり、いわば「程度の差として理解されるもの」が進行しているといってよい14)


Ⅵ おわりに:公益増進性判断基準としての条例個別指定PST

 最後に、本論で述べた非営利法人の公益性判断とその準拠する考え方について、筆者が用いた分析枠組みに照らして小括しておきたい。  

 第一に、非営利法人の公益性判断とその準拠する考え方を明らかにする上で、一般社団・財団法人とNPO法人を比較検討するに当たり、公益性判断を包括的に捉えるのではなく、段階的に把握することにより、公益(増進)性判断 の判断主体と判断基準の設定と変化の様相はより明確に対比できたのではないかと考えられる。  

 第二に、地方分権改革を経て、我が国の中央地方政府間関係は、まず、従前の強い「集権融合型」から集権と融合の度合を各々緩和させた、弱い「集権融合型」へ、さらに「分権融合型」 を志向してきた。また、「集権分散型」から、「分権分散型」へ移行してきた。換言するならば、前者においては「融合」を、後者においては「分散」を基調としながら各々「分権」の度合を高めてきたということができる。本論で見た一般社団・財団法人とNPO法人に係る近年の立法や法改正による制度改革(改編)もまた、その潮流の中にあるといえる。

 そうした観点から注目されるのは、2011年の改正NPO法で導入された「市民公益税制」の 中の「条例個別指定PST」である。2009年9月、「新しい公共の担い手を支える環境を税制面から支援する」ことを標榜し、「市民公益税制P T報告書」(2010年12月)における提言を経て、 平成23年度税制改正大綱に「市民公益税制」が盛り込まれた。次いで2011年6月に改正NPO法が成立するとともに、税制改正(新寄附税制)も行われたが、この新寄附税制では、所得税の税額控除制度の導入とともに、認定NPO法人の認定要件の緩和(新PST・選択制)が行われ、 ①相対値基準(寄附金等収入金額/経常収入金額≧20%)、②絶対値基準(各事業年度中の寄附金額が3,000円以上の寄附者数が、年平均100人以上)、③ 地域において活動するNPO法人等の支援(条例で個人住民税の寄附金控除対象として個別指定)が選択可能になった15)

 このうち③については、各自治体の条例個別指定により個人住民税(都道府県民税4%、市町村民税6%)の税額控除を受けられるようにす るもので(地方税法第37条の2第1項3号、4号)、3号条例指定の対象は認定NPO法人、独立行政法人、公益社団・財団法人、学校法人、社会福祉法人、更生保護法人等であり、既に全都道府県で条例が制定されている。一方、4号条例指定の対象はNPO法人であるが、これまで北海道、神奈川県、埼玉県、三重県、滋賀県、京都府、奈良県、鳥取県、大分県、熊本県等で条例が制定されている。

 この条例個別指定は、本論のテーマに照らすならば、公益増進性判断主体のさらなる地域分散を促進するものであり、各自治体には、いかなるNPO法人を指定するかについて主体的な基準設定と判断力が要請される。このことは、「分権分散」の意義を踏まえるならば、自治体経営において、管内の非営利法人という組織資源の横断的活用力が求められる一例ともいえる。また、公益増進性判断基準の観点からは、同制度では各自治体における指定に係る判断基準の多様性(分岐)を許容しており、指定に当たっての判断方法等についても各団体の創意に委ねられている。このことは、所轄庁の認証主義を 基盤としつつ、所管区域における寄附文化の醸成による非営利法人の財政基盤強化や、区域内の地域課題の解決に資するNPO法人との総合的な関係性構築力が各自治体に求められているといってよい。  

 同制度は、公益増進性判断に係る判断主体と 判断基準の両面における新展開の契機としての 意義を有していると考えられ、その展開と全国自治体の取り組み動向が注目される。そうし問題関心に基づく市民公益税制についての考察 は、別稿に譲ることとしたい。


[注]

1) 筆者のNPO政策論の考え方については、初谷[2001b]、第1章および初谷[2012]序 章参照。

2) 筆者はかつて、公益法人法制における主務官庁による法人設立許認可を「公益性評価システム」、公益法人税制における主務官庁にる特定公益増進法人の認定を「公益増進性評 価システム」と呼び、両者を連続的に捉えて、任意団体から公益法人へ、公益法人から特定 公益増進法人への移行における政府とNPOの関係を考察した。合わせて、両システムの分析枠組みを公益法人と特定非営利活動法人にそれぞれ当てはめて比較検討している(初谷[2001b]、4.2.2(44-49頁)、4.2.3(49-53頁))。また、NPO政策の観点から、公益法人及び特定非営利活動法人の法制及び税制上見られる「行政裁量」の課題について横断的に整理し、行政学等の先行研究における「裁量論」 で提示された分析枠組みを活用しながら、具体的な「公益性」や「公益増進性」の認定事例を分析し、適切な裁量統制のあり方について検討した(初谷[2001a])。

3) 以下の先行研究の分析枠組みの整理に基づき、 筆者は地域分権の制度設計と行程管理について論じている。初谷[2014]参照。

4)天川[1983]、120-121頁。

5) 西尾[2007]、8頁。神野は、「地方政府が主として『実行』、つまり主として公共サービスを供給していれば『分散』、中央政府が主として『実行』し、公共サービスを供給していれば『集中』とすれば、日本の政府間財政関係は分散システムである。しかし、『分権』 か『集権』かのメルクマールはあくまで決定権限にある。そこで中央政府が主として決定権を持っていれば『集権』、地方政府が主として決定権を持っていると『分権』とすれば、 日本の政府間財政関係は、あくまでも集権システムである。したがって、日本の政府間財政関係は『決定』が中央政府、『実行』が地方政府という集権的分散システムと呼ぶことができる。」と述べる(神野[1998]、118、124 頁)。そして、「いま求められるのは、『集権的分散システム』を打破して『分権的分散システム』を創り出すことである。」とする。 なお、「自治体が自己決定権を持つことで」 「団体自治と住民自治を兼ね備えた真の地方自治が可能になる。その場合、『縦割り』を 特徴とする国から権限と財源を移譲して、自治体が総合的な視点からサービスを担うという意味で、『分権的分散システム』は自治体の『集権的自己決定』を特徴とする。」と指摘している(神野、金子[1999]、229-230頁)。 同旨、神野[2002]、294頁。

6) 西尾[2007]、7-18頁。なお、西尾の天川モデルに対する評価については、西尾[1990]、403-438頁(「第12章 集権と分権」(原著論文 は1987年))に詳しい。また、その集権分権理論の再構成について西尾[2007]、Ⅴ章参照。

7)同上、13頁。

8) 同上、223頁。なお、西尾が②の集権融合型 は、①の集権的分散システムが日本で形成された由来、少なくともその一つの由来を説明したものになっており、(天川モデルを改装した)自らの類型区分と神野の類型区分は相互に全く矛盾していないとするのも本文と同趣 旨と考えられる。同上、10頁。

9) 機関委任事務。その他、主務官庁の権限が国の地方支分局長に委任されている例もあった。

10) 磯部力他[2014]、23頁。大森彌は、当時、 地方分権推進委員会がこうした省庁の主張に対し、「国家とは、実体法上に言えば、国と地方公共団体で構成されるのだから、形成権的な権能について専ら国の事務ということでなくていいのだ」と反論し、振り分け作業の 中で「宗教法人と学校法人と社会福祉法人以外の設立許可は都道府県知事に権限を持たせ るという整理になったことで、従前の固定観念が打破できたのではないか」と顧みている。

11) これを主務官庁による「2度の審査」とするものとして、水野[2011]、27頁。

12) 2012年10月25日時点でも280法人(NPO法人総 数の0.60%)にとどまっていた。

13) 旧公益法人制度での公益法人24,317法人のうち、特定公益増進法人は862法人(3.5%)に 過ぎなかったが、新公益法人制度で移行申請した20,736法人のうち公益認定された法人は 9,054法人(44%)と、約10倍に増加している(内閣府資料に基づく)。

14)  このように、一般社団・財団法人では公益 性判断のよりどころとなる考え方が従前とは 「根本的に変化」したのに対し、NPO法人で は公益性判断に行政庁のー定の関与を残す制 度とその準拠する思考を維持しつつ、公益性の判断主体の分権・分散化と判断基準の緩和 を進めることにより、「程度の差として理解されるもの」が進行している。    

 筆者は別稿で、公益法人制度改革の指導理念として標傍された「民の担う公共」という 価値観に一般社団・財団法人の実体が追いつくようになり、さらに「新しい公共」や「共 助社会」における民間公益活動の担い手の創出、育成という政策考慮が重なっていくこと によって、一般社団・財団法人が具えるようになる正統性との比較において、NPO法人がなお独立した体系として並存し続けることにいかなる積極的な「体系」的意義や正統性 を見出すことができるかが、改めて課題とし て浮上してきていると指摘した(初谷[2015]、 197-198頁)。    

 その課題に答える上でも、本文で見た両者の公益性判断のよりどころとなる考え方の相 違が、両法人類型の接近や収斂、あるいは離隔や放散のいずれを促すものとなるかについ ては、引き続き観察、検討を要するものと考える。

15) 市民公益税制については、加藤[2010]、市 民公益税制PT[2010]、日本租税理論学会編 [2011]を参照。


[参考文献]

天川晃[1983]「広域行政と地方分権」『行政の転換期』(ジュリスト増刊総合特集)、120 -126頁。  

磯部力、大森彌、小早川光郎、神野直彦、西尾勝、松本英昭、中川浩昭、西村清司、 (司会)山崎重孝、小川康則[2014]「巻頭座談会 地方分権の20年を振り返って②」 『地方自治』第796号(2014年3月号)、2-35頁。  

加藤慶一[2010]「NPOの寄附税制の拡充について」『レファレンス』2010年8月号、 国立国会図書館調査及び立法考査局。  

市民公益税制PT[2010]「市民公益税制PT報告書」(平成22年12月1日㈬)、市民公益税制 PT。  

神野直彦[1998]『システム改革の政治経済学』岩波書店。

─[2002]『財政学』有斐閣。  

神野直彦、金子勝[1999]『「福祉政府」への提言』岩波書店。  

西尾勝[1990]『行政学の基礎概念』東京大学出版会。

─[2007]『地方分権改革』(行政学叢書5)、東京大学出版会。  

日本租税理論学会編[2011]『市民公益税制の検討』法律文化社。  

初谷勇[2001a]「NPO政策と行政裁量─公益性及び非営利性の認定をめぐって─」 『ノンプロフィット・レビュー』Vol.1 No.1、 27-39頁。

─[2001b]『NPO政策の理論と展開』大阪大学出版会。

─[2012]『公共マネジメントとNPO政策』ぎょうせい。

─[2014]「第11章 地域分権の制度設計と行程選択」日本地方自治研究学会編 [2014]『地方自治の深化』清文社、189- 208頁。

─[2015]「第7章 論点の再整理 よりよい非営利法人法体系に向けて」岡本仁宏編著『市民社会セクターの可能性─110 年ぶりの大改革の成果と課題』関西学院大学出版会、185-210頁。

水野忠恒[2011]『租税行政の制度と理論』有斐閣。

(論稿提出:平成27年1月8日)

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