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米国の非営利組織の公益性判断基準 / 金子良太 (國學院大學教授)

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國學院大學教授 金子良太


キーワード:

内国歳入法(IRC)第501条C項⑶ パブリック・チャリティ       

プライベート・ファウンデーション パブリック・サポート・テスト(PST)       Form 990 Form1023


要 旨:

 米国における非営利組織の代表格である内国歳入法(IRC)第501条C項⑶に規定される 組織を中心に述べる。次に、団体として認定されるための手続や認定を受けるための基準 を紹介する。そして、それらの団体がIRSに提出する書類の種類と内容を述べる。続いて、 当該団体や寄付者に対する課税上の優遇について整理する。最後に、議論を総括し、我が 国の制度設計にあたって検討すべき点を明らかにする。


構 成:

はじめに

I  米国の非営利組織の概要と内国歳入法(IRC) 第501条C項⑶について

II パブリック・チャリティになるための条件

III 501⒞⑶団体が提出を求められる書類

Ⅳ 501⒞⑶団体に関連する税の優遇

Ⅴ まとめと展望


Abstract

 In the wake of nonprofit sector, the status of NPO have attracted renewed attention. This paper discusses 501⒞⑶ tax-exempt status in the U.S.A. This study provides a better understanding about Form 1023 and Form 990. This study raises implications about how the disclosure and the regulation is carried out and the potential growth of NPOs in the coming years.

 

はじめに

 本稿では、米国の非営利組織の公益性判断基準について扱う。本稿では特に公益性の高い団体に求められる、認定申請時の書類(Form1023) や毎事業年度終了後に提出する書類(Form990) の内容について詳しく述べる。続いて、各種の課税優遇を中心に考察することとする。


Ⅰ 米国の非営利組織の概要と内国歳入法(IRC)第501条C項⑶について

1 内国歳入法(IRC)第501条C項⑶の概要

 米国では、国家(連邦法)として非営利組織の統一的な法律は存在しない。各種法人格の規定は、各州の法律による。そのため、法人格の種類や取得の手続は、各州により異なる。我が国のような、公益法人等特定の法人格を取得することで課税の優遇を得られる制度にはなっていない。  

 各団体は、連邦税を管轄する内国歳入局(IRS; Internal Revenue Service 以下、「IRS」とする。)に、 連邦税の非課税団体としての認可を申請することができる。なお、法人格なき社団や信託 (trust)であっても、認可を申請できる。連邦法である内国歳入法(IRC;Internal Revenue Code 以下、「IRC」とする。)により、公益性が認められる組織については、各種の連邦税の優遇が受けられる。  

 非営利の各種団体については、主としてIRC501条に定められているが、29の種類に区分されている。それらは、非営利である点は共通するものの、公益性の高いものから共益的な 団体までさまざまである。税の優遇の内容はそ れぞれ異なる。  

 中でも、IRC501条⒞⑶に規定される法人(以下、「501⒞⑶団体」とする。)は、公益性が高い (charitable)と考えられる。そして、他の非営利の同人組織や業界団体などの共益組織等とは区別され、政治活動やロビー活動等も制限される分、連邦税の恩典も最も大きい。米国で、「NPO」といえば、この501⒞⑶団体を指すことも多い。以下、501⒞⑶団体を中心に述べていく。  

 Giving USA(2014)によれば、IRC501条⒞ に規定される団体のうちの約70%が501⒞⑶団体で、2012年末には団体数は約108万となっている。なお、この数は2008年の約128万より大幅減となっている。これは、2006年より施行されたThe Pension Protection Actの影響が大きい。これにより、宗教団体を除く多くの団体で、 年間総収入金額が25,000ドルに満たなくとも、 税務申告書(後述するForm990-EZ)の提出が義務付けられた。そして、3年連続して提出を怠った団体が認可を取消されることとなった。 これにより、一貫して増加してきた団体数が、一転して減少することとなった。

2 501⒞⑶団体の特徴と活動

 501⒞⑶団体の活動目的は、慈善・宗教・教育・科学振興・文教・公衆衛生・虐待防止・スポーツ競技など多岐にわたる。公益を目的とする団体で税務上の特典が大きい分、特定の者への利益供与や不適切な活動を行った場合、懲罰的課税がある。501⒞⑶団体には、次頁表1のような特徴がある。そのうえで、501⒞⑶団体の活動として、具体的には次頁表2のような活動が挙げられる。

3 501⒞⑶団体の区分

 501⒞⑶団体は、パブリック・チャリティ(以 下、「PC」とする。)とプライベート・ファウンデーション(以下、「PF」とする。)とに区分さ れる。Giving USA(2014)によれば、2012年末 現在で約90%がPCであり、PCに区分されない団体がPFとなる。PCのほうが税制上の優遇が大きい。PCとして認定されるためには、IRC509条⒜1に定められたパブリック・サポート・テスト(以下、「PST」とする。)の要件を満たすほか、いくつかの方法がある。これらの要件を満たすことは、より公益性が高いと考えられ、そうでない団体よりも税制上の優遇を大きくして いる。  

 PFでは、投資収益に対して1~2%課税される。また、毎年度末における資産(例えば美術館の所有する絵画など直接公益目的に必要な資産は除く)の時価に対し5%以上を翌年度に公益目的で支出しなければならない(IRC4942)とされている。また、営利企業の議決権・所有権(ownership interest)に関し、PFと不適格者(PFの理事、家族等)を合計して20%超の権利を保有してはならない(IRC4943)として、PFによる企業への影響力行使を規制している。


表1 501⒞⑶団体の特徴

出典:IRSのwebsite Tax-Exempt Status http://www.irs.gov/pub/irs-pdf/p4220.pdf

(2014年10月30日アクセス)をもとに筆者作成


表2 501⒞⑶団体の活動

出典:IRSのwebsite 501⒞⑶団体について

http://www.irs.gov/Charities-&-Non-Profits/Charitable-Organizations/Exempt-Purposes-InternalRevenue-Code-Section-501⒞⑶

(2014年10月30日アクセス)をもとに筆者作成


Ⅱ パブリック・チャリティになるための条件

1 パブリック・チャリティの4類型

 課税の優遇の程度の大きいPCになるためには、次頁表3のような4つの類型がある。

 以下では、IRSの審査が必要な次頁表3の、 ②③の2類型について述べる。


表3 PCの4類型

出典:IRC509条a項をもとに、筆者作成。


2 パブリック・サポーティッド・オーガニゼーション(IRC509⒜1)

 収入の3分の1以上が一般寄付や政府・公的機関からの助成補助による団体については、広く一般から支持を得ており、広範な税制上の優遇を受けるパブリック・サポーティッド・オーガニゼーションとされる。この条件を満たしているかを、以下のPSTの算式で判断する。過去4年の平均値をもとに、次のとおり算出する。

 (寄付金+助成金)/総収入 ≧ 1/3

 なお、分母の総収入には、本来事業収入は含まれない。総収入に含まれるのは、主として寄付金、助成金、非関連事業収益、資産運用収入などになる。この点で、事業収入を分母に含める我が国の認定NPO法人のPSTとは異なっている。  

 分子に算入しうる各団体からの寄付額は、寄付総額の2%までとなっている。大口の寄付があっても、寄付総額への算入に限度を設けている。なお、分母の総収入にはそのような規定はない。つまり、大口の寄付を受けると分母の総収入は寄付額分だけ増加するが、分子には最大でも寄付総額の2%までしか算入できず、結果として算出される比率を減少させることにつながる。少数の大口寄付ではなく、多くの小口の寄付に支えられる団体ほど、数値は有利になる。 なお、政府団体等からの助成金については分子に算入する助成金額に2%の上限が適用されず、 大口の助成は、比率算定に有利に働く。IRSの個別判断ではなく、あくまで広く一般からの寄付を得られているかを基準とするところにPSTの特徴がある。

 なお、以上のPST要件を満たさなくとも、パブリック・サポーティッド・オーガニゼーショ ンとして認定される方法がある。寄付等の割合が3分の1に満たない団体でも、⑴総収入の10%以上が政府機関および一般公衆からの支援によるものであること⑵継続的かつ誠実に、一般公衆、政府機関、他のパブリック・チャリ ティ等から寄付を募集したり、公益に資するプログラムを実施していること(10 percent facts and circumstances test)という条件を満たすことにより、501⒞⑶団体として認められる可能性がある。その際には、団体のガバナンス(親族や利害関係者が多く理事等に就任したりしていないか、高額な給与を得ている従業員がいないか)、会費の金額は適当か(会員となることでのメリットと比較して高額すぎることはないか)など多くの点が考慮される。さまざまな観点が総合的に考慮さ れるため、この認定については、IRSの裁量の余地があるといえる。


3 事業型パブリック・チャリティ(IRC509⒜2)

 事業型パブリック・チャリティで想定されるのは、対価を受け取って公益的なサービスを提供し、かつ多くから支援を受けている団体である。事業収入が多い団体の場合、前述のPSTの算式を満たすことは難しい。そこで、代わって次の算式を満たす団体については、事業型パブリック・チャリティとして、501⒞⑶団体と認めている。算式は次のとおりで、過去4年間の平均で算出する。  

 (寄付金+助成金+事業収入)/総収入(事業収入を含む)≧ 1/3  

 前述したPSTの算式とは異なり、分母と分子双方に本来事業を含むことになる。なお、事業型パブリック・チャリティでは、投資収益や非関連事業収益は総収入の1/3を超えてはならないとされている。これは前述のパブリック・ サポーティッド・オーガニゼーションにはない規定である。


Ⅲ 501⒞⑶団体が提出を求められる書類

 団体が501⒞⑶団体としての認定を受けるに当たっては、IRSにForm1023という書類を提 出する。認定を受けた後は、毎事業年度終了後、 Form990等の税務申告書を提出することが求められる。税務申告書といっても、その目的は税務当局への報告にとどまらない。会計数値のみならず活動内容やガバナンスに関する各種情報も求められ、広く一般に公開される。以下、 Form1023、 Form990の順に紹介する。

1 団体の申請に当たって提出するForm1023

 501⒞⑶団体の申請にあたって、IRSに対して各団体はForm1023という書類を提出する。ここには、主として次のような項目が記載される。


表4 Form1023に記載される情報

出典:IRSのwebsite Form 1023

http://www.irs.gov/pub/irs-pdf/f1023.pdf(2014年10月30日アクセス)をもとに筆者作成


 様式は、IRSのウェブサイト等で公開されている。pdfファイルで13ページ以上にわたる詳細なものである。書類の作成は小規模団体にとって過重な負担であるという声に応えて、 2014年よりこれを簡略化したForm 1023-EZが導入された。なお、過去3年の年間総収入 5万ドル未満かつ総資産25万ドル未満の団体がForm 1023-EZによる申請を利用できる。その他にも詳細な規定があり、IRSのウェブサイトでは、申請しようとする団体がForm 1023- EZを利用できるかどうかに関する質問表等も準備されている(http://www.irs.gov/pub/irs-pdf/ i1023ez.pdf)。新規申請の約70%がForm1023- EZでの申請が可能となると見込まれている。 当該申請は電子申請のみで、2014年10月現在、手数料は400ドルである。

 なお、従来米国では設立から年数が浅い団体であっても一定期間税優遇を認める仮認定制度 (Advanced ruling process)があった。そして、設立後5年を経たあとに別途Form8734という書類を提出して本認定が行われた。仮認定制度は我が国の認定NPO法人制度で参考とされ、NPO法の改正に当たって導入された。一方、 米国では、仮認定制度は廃止されており、設立間もない団体でも本認定を受けることができるようになった。そして、設立6年目のForm990でPSTの要件を満たすことを示せば引き続き 501⒞⑶団体としての地位を保持することができるようになった。

2 PCが毎年IRSに提出する書類の種類

 PCとして地位を得た後、毎事業年度終了後にIRSに対して提出する書類は、団体の規模に よって異なる。大規模な団体であるほど、より詳細な書類が求められる。規模に応じて、提出しなければならない書類は3種類に分かれており、次のとおりである。


表5 PCが提出する書類の種類(規模別)(2014年10月現在)

出典:IRSのwebsite Form990の種別(http://www.irs.gov/Charities-&-Non-Profits/Form-990-Series-Which-FormsDo-Exempt-Organizations-File%3F-%28Filing-Phase-In%29 (2014年10月30日アクセス)をもとに、筆者作成。


 なお、小規模な団体がより大規模な団体向けの書類を作成・開示することは認められる。例えば、Form 990-EZの提出が求められている 団体が、Form990 を提出したり、Form990-Nの提出が求められている団体が、Form990- EZを提出するなどである。それぞれの書類は、 各団体の会計年度終了後、5ヶ月後の15日(た とえば1月1日から12月31日までを事業年度とする団体の場合、5月15日が提出期限となる)までに提出が求められる。提出後、広く一般に公開される。

3 Form990

 はじめに、比較的大規模な団体に求められ、 内容も詳細なForm990について述べる。近年その記載内容は拡充される傾向にある。とりわけ、 特に理事の報酬などガバナンスに関連する情報の充実が求められ、最近では2008年にガバナンスに関連する事項を中心に記載すべき内容が大幅に拡充され、その後もさらに開示内容を充実させていく方向にある。Form990には、次頁表6のような内容が記載される。  

 Form990に記載される情報は、FASBが規定する会計基準と一部異なる。例えば、FASBは 一定の条件のもとで、ボランティアの提供を受けた場合、サービスの受け入れを収益とし、その費消を費用に含めることを求めている(ASC Accounting Standards Codification 958-605-25- 10)が、Form990では、ボランティアは貨幣額に換算されず、費用や収益に影響しない。また、 FASBの基準は有価証券の時価評価を求めてい る(ASC 958-320-35-1)が、Form990ではそれは求められていない。これにより、FASB基準に基づく正味財産の残高と、Form990での正味財産の残高が異なってくることがある。  

 Form990では、pdfファイルで公開される様式だけでも12ページに及んでいる。そして、すべての団体が共通の様式に従うことによって、 比較可能性も担保されている。もっとも、作成には時間と専門的能力が求められるため、筆者の聞き取りによれば、多くの団体が会計事務所にForm990の作成や作成補助を依頼している。

4 Form990-EZ

 Form990-EZになると、Form990と比較して小規模な団体が対象となり、各種の財務情報やガバナンス情報の記載は簡略化されたものと なる。その構成は32頁表7のとおりである。  

 Form990-EZでは、開示情報は限定され、資産・負債・正味財産や収益・費用に関する情報についても細分化が求められない。そして、 IRSが公表する様式もpdfフォーマットで6ページ と、Form990の半分程度となっている。もっとも、 理事等の報酬の情報等、ガバナンスに関する情報は求められている。


表6 Form990の構成とその内容

出典:IRSのwebsite Form990の様式 http://www.irs.gov/pub/irs-pdf/f990.pdf 

(2014年10月30日アクセス) をもとに筆者作成


表7 Form990-EZへの記載事項とその内容

出典:IRSのwebsite Form 990-EZの様式 http://www.irs.gov/pub/irs-pdf/f990ez.pdf (2014年10月30日ア クセス)をもとに筆者作成


5 Form990-N

 Form990-Nは小規模な団体を対象とした書類であり、組織の名称、代表者名、ウェブサイトのURL、会計年度などごく簡単な記載でよい。米国連邦政府における電子化の流れに沿い、 Form990-Nは、e-postcard という電子申請のみが受付手段である。  

 2008年度以降、教会など一部を除きForm990 -Nの提出は必須となっており、3年連続で提出がない場合、501⒞⑶団体としての地位が取り消されることになる。

6 PFが提出するForm990-PF

 PFが毎事業年度終了後に提出する書類として、Form990-PF がある。次頁の表8に示す 構成となっている。PFでは、PCとは異なる情報が求められており、書類の構成が大きく異なっている。そして、Form990-PFも他のForm990と同様に一般に公開される。  

 PFでは、投資収益に対して課税がなされることもあり、投資額やそのリターンに関する情報が、PCを対象とするForm990と比較して詳 細に開示されていることが特徴である。これは、PFの投資活動が課税の回避につながらないよう牽制することも目的であると考えられる。  

 以上のとおり、501⒞⑶団体では、団体の規模、そしてPCかPFかにより書類の種類は異なる。小規模団体に配慮し複数の様式が用意されているが、いずれも広く一般に公開されていることが特徴である。


Ⅳ 501⒞⑶団体に関連する税の優遇

 本章では、団体自身が享受する税の優遇、そ して団体に対する寄付者(法人・個人)が享受できる優遇について述べる。IRCは連邦税の優遇を規定した連邦法であり、州税や地方税の規定はさまざまである。ここでは、主として連邦税について述べる。

1 当該団体の法人所得税等に関する優遇

 501⒞⑶団体では、PCにおいては事業からの所得及び投資収益には、連邦法人所得税等は課税されない。PFでは、投資収益に対して2% (一部は1%)の課税が行われる(IRC4940)。団体の本来の非営利目的に関連しない活動から得られた非関連事業収益(Unrelated Business Income) については、法人税が課税される。税率は通常の営利企業と同率に設定され、軽減税率は存在しない。非関連事業収益が1年間で1,000ドル以上生じた団体については、Form990-Tという書類を以上に述べたForm990とは別に提出しなければならない。 なお、連邦税の他、各州において州税・地方税においても優遇されることが多いようである。例えば、固定資産税や売上税の一部が免除される州が多い。


表8 Form990-PFの構成と内容

出典:IRSのwebsite Form990-PFの様式 http://www.irs.gov/pub/irs-pdf/f990pf.pdf (2014年10月30日ア クセス)をもとに筆者作成


2 当該団体への寄付者(個人)に対する課税の優遇

 団体に対して寄付をする個人や法人に対しても、税優遇がある。寄付者が個人である場合、 連邦個人所得税及び連邦遺産税が減額される。  

 連邦個人所得税においては、所得控除が行われる。なお、控除が可能となるのは、個人で項目別控除(Itemized Deduction)を選択し、所得控除を申請する場合である。概算控除(Standard Deduction)の場合には対象とならない。かつては概算控除の対象者にも所得控除が認められていたことがあったが、現在では適用されない。 オバマ政権では、概算控除対象者に対する寄付控除を復活させる動きがあったものの、実現していない。ちなみに、米国民の約3割が項目別控除を採用しているが、概算控除を選択する国民の方が多い。一般的に、項目別控除を採用する個人は富裕層に属することが多い。このような富裕層からの寄付が、米国のNPO活動に大いに貢献している。  

 所得控除の限度額は、対象がPCかPFか、また寄付をする資産が現金か、それ以外の資産か (土地や有価証券等)によって異なる。PCに対する寄付は、PFに対する寄付よりも優遇されて いる。  

 PCへの現金の寄付は課税所得の最大50%の所得控除と限度額が大きく、PFへの寄付は(一部を除き)課税所得の最大30%に制限されている。現金以外の有価証券や土地等の場合、PCでは課税所得の最大30%で、PFでは(一部を除き)最大20%である。なお、自ら事業を行う事業型PFでは、控除上限額がPCに準じて設定される。  

 特徴的なのは、ある年度において制限を超えて寄付を行った場合、限度超過分は5年間の繰越が認められることである。ある年度に多額の、特に分割が難しい土地や建物などを寄付する際には、繰越の恩典は大きい。ちなみに、我が国では繰越は認められていない。  

 遺贈の場合には、PCでもPFでも、課税対象財産から100%控除でき、その分連邦贈与税及び遺産税が軽減される。遺贈は大口の寄付となる傾向があり、これが米国の寄付文化を支えている。以上に述べた連邦税の優遇がある他、州 によっては、州税や地方税でも優遇が得られることがある。

3 当該団体への寄付者(法人)に対する課税 の優遇

 法人が寄付を行った場合、連邦法人所得税の計算上、所得控除が行われる。なお、控除できるのは課税所得の10%までという上限があり、 PCでもPFでも変わらない。また、個人の場合とは異なり、現金を寄付してもそれ以外の資産を寄付しても、10%の上限は変わらない。フォード財団やGM財団といった企業財団は、 企業からの寄付に資金調達の多くを依存しており、PFとなっている。法人の場合も、ある年度に上限を超える寄付を行った場合、限度超過分は5年間の繰越が認められる。また、州によっては、州税や地方税でも優遇が得られることがある。


Ⅴ まとめと展望

 米国では、501⒞⑶団体が課税上優遇の大きい、公益性の高い団体として扱われている。団体として認定を受けるにあたって、PSTが重要な役割を果たしている。多くの個人の寄付に支えられている団体を、公益性の高い団体(PF) として優遇している。活動内容や活動目的が公益に資するものであっても、特定の大口寄付に頼る団体は、同等の優遇が得られない制度となっている。  

 米国では、我が国の公益認定にある遊休財産規制や収支相償規制と同様の規制はない。もっとも、それは米国において501⒞⑶団体の認定やその後の運用が容易であることを必ずしも意味しない。例えば、501⒞⑶団体から不当な利益を得たり、自己取引を行った場合には、懲罰的課税が行われる。そして、Form990では、会計情報だけではなく活動やガバナンスに関する情報についても、広く一般に公開されている。また、PFでは毎年保有する資産の一部を組織外に拠出することが求められる。これは、遊休財産の保有ひいては租税回避を防ぐための措置である。さらに、PFでは投資収益にも課税される。  

 寄付者に対する優遇を見ると、米国では所得控除のみで税額控除は選択できないのに対して、我が国では税額控除も選択できる。特に低所得者にとっては、税額控除が有利になる。さらに、米国では所得控除を受けられるのは項目別控除を選択し申告を行う納税者に限定されているのに対して、我が国ではそのような制限はない。このように、我が国における個人の寄付に関する税控除は、米国より充実している点がある。もっとも、ある年に多額の寄付を行うといった場合には、我が国では限度超過分の繰越が認められないが、米国では5年間にわたって認めら れる。  

 以上の通り、日米の制度は異なるが、本稿はその是非を判断することが目的ではない。我が国において、米国の実務から学ぶべき点はどこにあろうか。第一に、PCとPFの取り扱いは検討に値しよう。活動が公益目的であっても、広く一般から寄付を得るPCの条件に合う団体とそうでない団体とで、別規制となっている。 501⒞⑶団体の認定や活動に一定の自由度を確保するとともに、PFでは、租税回避の防止や税収の確保を図っている。第二に、Form990等による一般への情報開示である。大規模団体では、会計情報のみならずガバナンスや活動内容の情報開示を充実させている。小規模団体へは別様式にて配慮を行っている。PFにおいては、各種投資収益に対する情報も求められる。これらが共通の様式で開示されることで、非営利組織の活動や財務に対する一般の理解の促進につながっている。我が国においても、会計情報とそれ以外の活動・ガバナンス情報を、組織間の比較可能性を担保したうえで積極的に開示していくことが求められよう。


 本論文は、科学研究費補助金平成24~26年度基盤研究C一般課題番号24530582「統一公会計基準設定に向けた国内・国際公会計基準の比較分析」の研究成果の一部である。


[参考文献]

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Lampkin.M.L., “Automatic Revocation of Nonprofitsʼ Tax-Exempt Status.” Guidestar USA, 2010.  

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[参考ウェブサイト]

Applying for 501⒞ ⑶ Tax-Exempt Status

http://www.irs.gov/pub/irs-pdf/p4220.pdf ほかIRSのウェブサイト全般(2014年10月 30日最終アクセス)  

Urban Institute http://www.urban.org/ (2014年10月30日最終アクセス)

(論稿提出:平成26年11月28日)

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