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≪査読付論文≫公益法人制度の昭和改革と平成改革における組織転換の研究1) / 出口正之 (国立民族学博物館教授)

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国立民族学博物館教授 出口正之


キーワード:

公益法人制度改革 上方転換 中間転換 下方転換 クリープ現象       

公益目的支出計画 学校法人 社会福祉法人


要 旨:

 本稿は「明治以来の110年ぶりの改革」と言われる公益法人制度改革について、あえて第 二次世界大戦後の公益法人から学校法人・社会福祉法人への組織変更を「昭和改革」とし、 今般の「平成改革」での移行とを比較したものである。組織変更と移行とを「転換」とい う用語で一括りにした上で、昭和改革の組織変更は制約と効果の増大を明確にもたらす「上 方転換」、平成改革のうち一般法人への移行を制約と効果の減少を明確にもたらす「下方転 換」、公益法人への移行を両者の中間にある「中間転換」と位置づけた。その上で、政策人 類学的な手法を用いながら、今改革の中で「行政の法令に対する忍び寄る歪み」として定 義される「クリープ現象」の存在を明らかにした。


構 成:

I  はじめに

II 私立学校法・社会福祉事業法の成立と学校法人・社会福祉法人

III 「上方転換」としての学校法人・社会福祉法人への組織変更

Ⅳ 平成改革における移行

Ⅴ 一次資料から見る学校法人・社会福祉法人の組織変更

Ⅵ 平成改革の「フィールド」の実態

Ⅶ 平成改革における「クリープ現象」

Ⅷ おわりに 


Abstract

 This research compares the Showa reform with the Heisei reform of Public Interest Corporations (PICs), although the radical reform of PICs in 2008 is explained to be the first reform in 110 years since enforcement of Civil Code in Meiji era. The Showa reform of PICs is new legislation for School Corporations and Social Welfare Corporations enacted in 1950ʼs. Changing into School Corporations and Social Welfare Corporations from PICs causes, definitely, to increase both legal effect and regulatory oversight, transformation to School and Social Welfare Corporation is named as “Upper Transformation” and moving to General Corporations from PICs is called as “Lower Transformation” adversely. Changing into new PICs from old PICs is between them and is installed as “Mid-stage Transformation”. Taking the anthropology of policy, the paper finds “Creep Phenomena” of the new reform that is defined as “ministerial creeping skew to laws”.


※ 本論文は学会誌編集委員会の査読のうえ、掲載されたものです。

 

Ⅰ はじめに

 今般の2006年の「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(平成18年法律第48号。以下 「一般法」という)、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(平成18年法律第49 号。以下「認定法」という)、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成18年法律第50号。以下「整備法」という)のいわゆる公益法人制度改革関連三法に伴う公益法人制度改革は「明治以来の110年ぶりの改革」と形容されることが多い(たとえば内閣府2014a、公益法人協会2014)。もちろん、公益法人の民法の関連規定を改正したのは、110年ぶりのことであり、こうした主張は疑いようがない。しかし、第二次世界大戦後の私立学校法(昭和24年12月15日法律第270号)の成立による学校法人の創設、社会福祉事業法(現社会福祉法。昭和26年3月29日法律第45号)の成立による社会福祉法人の創設は決して小さな出来事ではなかった。現代の公益法人制度改革と比較した場合、第一に、公益法人から別法人への「組織変更」ないし「移行」 (両者を指す用語として本稿では以下「転換」という 用語を使用する)が行われたこと。第二に多数の法人が関わったこと。第三にそれらの転換が期間集中的に役所の管理下のもとで行われたこ と。以上3点の共通点が認められる。そこで、本稿では、第二次世界大戦後の両法の施行並びにそれに伴う組織の変更を公益法人の「昭和改革」と呼び、今般の改革を「平成改革」と称して両者を比較してみることとした2)。  

 学校法人、社会福祉法人の誕生によって裁量権に着目して「許可主義から認可主義の原則」 へと変わったという理解が一般的である(たとえば田中1980)。ただし、学校法人については立法に関わった福田繁・安嶋彌(1950)が学校法人の設立は特許であるとしており、特許説、認可説についても諸種あるところである(市川2004)。また、昭和改革の時には行政手続法(平成5年11月12日法律第88号)が存在しなかったことにも留意が必要だ。こうした観点から「昭和改革」においては、公文書などできるだけ一次資料に当たりながら、法律との距離感を見るこ とによって組織変更の実態を探った。また、平 成改革については、「政策人類学」(anthropology of policy)を提唱するShore and Wright(1997) における「フィールド」の定義に基づき、「フィールド」の現場を踏まえた。Shore and Wrightの定義する「フィールド」とは、「政策 は政府のプロセスやエージェントの強力な概念的な分析道具となる。それは『フィールド』の抜本的な再概念化という可能性を秘めている。 つまり、フィールドとは、限られた地域的な部分としてのものではなくて、権力とガバナンスのシステムを通して明瞭に区切られた社会的かつ政治的な空間として存在する」(Shore and Wright 1997:p.14)というものである。ここで再概念化しようとする、もともとのフィールドとは社会人類学者がフィールドワークを行う場としてのフィールドであるが、それを「権力とガバナンスのシステムを通して明瞭に区切られた社会的かつ政治的な空間」として、再定義することによって、社会人類学者もその研究対象 に入っていくという宣言である。これは、言い換えれば、社会人類学者による政策研究の開始宣言に近いものといえるだろう。  

 Shore and Wrightはヨーロッパを研究対象としていた社会人類学者であったが、EUの政策を目の当たりにして、政策研究に独自の文化的視点を入れてきたものである。近年では、観光、マーケティング等の分野を研究対象として、人類学の素養を使用する「応用人類学」という分野が注目されているが、広い意味では政策人類学もそのような範疇にも入るものと考えられる3)。  

 筆者は第1期、2期(2007-2013)の内閣府公益認定等委員会委員として直接移行認定、移行認可の作業に関わった。そこは言うまでもなく「権力とガバナンスのシステムを通して明瞭に区切られた社会的かつ政治的な空間」である。 移行認定・移行認可の状況を把握し、単に法律上の相違だけではなく、「フィールド」で得られた知見と共に両者を比較した。そのような手 法をShore and Wrightに依拠して「政策人類学」と呼ぶならば、本研究は「政策人類学的手法」を用いた政策研究となる。ただし、依拠したものはすべて公表資料に限定した4)


Ⅱ 私立学校法・社会福祉事業法の成立と学校法人・社会福祉法人

 第二次世界大戦後、学校に対して公金の拠出が望まれていたが、憲法第89条には「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」の後段(下線部 引用者)の解釈により、 公金の支出ができないものと考えられていた。 そこで、助成に関する必要規定を新たに設けて、公益法人とは別枠をつくることが構想された。そのことで「公の支配」に属する教育の事業で あることを示し、学校法人というものが設けられたのである(福田・安嶋1950、長峰1985、初谷 2001、堀2007)。  

 私立学校法では、評議員や残余財産の取扱いなどが盛り込まれ、さらに民法34条法人では法律上疑義のあった、収益事業が明確に規定された5)。私立学校法の成立に直接関与した福田繁・安嶋彌によると、監督を規定した私立学校法第5条は監督の制限、監督事項の限定列挙であり、他方で同法59条は憲法89条の「公の支配」との関係から、助成を受けた学校法人及びその設置する学校に対して、所轄庁は学校教育法等に規定する監督権外の規定を設けたものであるという(福田・安嶋1950)。  

 社会福祉事業法についても、基本的には先行した私立学校法と同様の理由があげられる(木村忠二郎1951)。ただし、この間のGHQの影響がより一層明確に指摘されている(吉田1989、秋葉2008,2009)。GHQは昭和21年10月「政府の私設社会事業団体に対する補助に関する件」で、 国庫資金及び府県または市町村は、私設社会事業団体の創設・再興に補助金を交付してはならないとの通牒を、都道府県に発することを厚生大臣に迫ったこととされている(吉田1989: 336)。このような「公私分離」についてのGHQ の影響と憲法89条問題については、社会福祉法人研究ではすでに定説化しているといえる(例えば、安立清史1998,2008)。


Ⅲ 「上方転換」としての学校法人・ 社会福祉法人への組織変更

 昭和改革において、公益法人からの新法人への組織の変更は寄附行為(ないし定款)の変更の認可に伴う「組織変更」という形態がとられた(私立学校法附則第3項、社会福祉事業法附則第12項)。平成改革では、移行期間中に存続する旧公益法人である「特例民法法人」(整備法第42条)はいったん解散の登記を行って新法人を登記する「移行」が行われ(整備法第106条第1項)、この点は大きな違いである。  

 私立学校は、「この法律施行の際現に民法による財団法人で私立学校(学校教育法第98条の規定により存続する私立学校を含む。)を設置しているもの及び学校教育法第98条の規定により存続する私立学校で民法による財団法人であるもの (以下「財団法人」と総称する。)は、この法律施行の日から一年以内にその組織を変更して学校法人となることができる(附則第2項)」となっており、具体的手続きとして、組織変更のため必要な寄附行為の変更をし、所轄庁の認可を受けなければならない(附則第3項)と、「所轄庁の認可」による寄附行為の変更によって組織変更を行うこととしていた。なお、財団法人の寄附行為の変更に当たっては、「この場合においては、財団法人の寄附行為に寄附行為の変更に関する規定がないときでも、所轄庁の承認を得て理事の定める手続により、寄附行為の変更をすることができるものとする」(附則第3項後段) と寄附行為変更特例が定められた6)。  

 社会福祉事業法でもほぼ同様の規定が設けられた。「この法律の施行の際、現に民法第34条の規定により設立した法人で、社会福祉事業を経営しているもの(以下「公益法人」という。)は、 昭和27年5月31日までに、その組織を変更して社会福祉法人となることができる」(社会福祉事業法附則第11項)。定款または寄附行為の変更の厚生大臣の認可と、寄附行為変更の特例(附則 12項)が定められた。両者の違いは、私立学校が財団法人に限った組織変更であるのに対して、社会福祉法人は社団法人及び財団法人である点と、前者は所轄庁の認可、後者は厚生大臣の認可とされていた点である。  

 両者は民間の自主性という前提はあるものの、 助成金や補助金など公的資金を受け入れることを可能にするという効果と「公の支配」を明確 化するための監督の強化という制約を受け入れるということが盛り込まれた形での制度ができ上がり、組織変更が行われたのである。公益法人との比較においては、明らかに効果も制約も大きくなる組織転換であるので、ここではそれ を「上方転換」と呼んでおこう。

 なお、ほぼ同時期の改正医療法に基づく医療法人の新設は、民法34条法人設立の簡易化を目指したものである。昭和25年の国会での立法趣旨説明では「病院等を建設して、医療事業を行おうとする場合においても、その経営主体が法人格を取得することが困難であつて、(中略)本事業の経営主体に対して、容易に法人格取得の道を与えるために、この際医療法の一部を改正して、医療法人の章を追加しようとするものであります」(国会議事録1950a)と述べられている。

 つまり、医療法人制度の新設は学校法人等とは方向性が逆で、新設の法人の設立簡易化のためにつくられた制度である。制度の対象は、既存公益法人ではない新設法人で、民法34条法人からの「転換」は想定されておらず、解散して新規に医療法人になる道はあるものの税の観点を含めてメリットがない旨の国会答弁もわざわざなされている7)。これは特定非営利活動促進法が施行されても、公益法人から特定非営利活動法人への転換が意図されていないことと同じである。そこで、学校法人・社会福祉法人との相違が明確になるように、転換の必要性が立法時に意図されて無いという意味でこれを「無転換」と呼んでおこう。


Ⅳ 平成改革における移行

1 「中間転換」としての公益法人への移行

 公益法人の平成改革は以下の三点から成り立っている。第一に公益法人の設立の許可及び 監督を主務官庁が行う旧来の制度を改め、登記のみで法人が設立できる制度を創設した(一般法)。  

 第二に、そのうち公益目的事業8)を行うことを主たる目的とする法人については、行政庁 (内閣総理大臣又は都道府県知事)が、民間有識者からなる合議制の機関の意見に基づき、公益法人に認定する制度を設けるとともに、公益法人による当該事業の適正な実施を確保するための措置等を定める制度を創設した(認定法)。  

 第三に中間法人及び現行公益法人に係る経過措置等を定めたものである(整備法)。  新規の認定である公益認定については認定法第5条に認定要件が列挙され、これまでのよう に不透明な許可及び指導監督から、法令に基づ く認定・監督へと変わった。  

 公益法人の平成改革における組織転換である移行については、平成20年12月1日の法律の施行から、従来の公益法人は特例民法法人となり (整備法第42条)、5年の間に公益法人への移行認定申請を行うか、一般法人への移行認可申請を行うこととなった(整備法44条、45条)。移行期間の満了の日までに移行の申請を行わなかった法人は解散したものとみなされる(整備法第 46条第1項)。  

 特例民法法人の公益法人への移行については整備法第1章第4節第4款(第98条-第114条) に、同じく一般法人への移行については同5款 (第115条-第132条)に規定された。昭和改革と比べるとほとんどのことが法律で規定されていた。移行認定においては、①定款の変更の案の内容が一般法及び認定法並びにこれらに基づく命令の規定に適合するものであること。②認定法第5条各号に掲げる基準に適合するものであることの二点をもって認定をすることとなっていた(整備法第100条)

 そこで、認定法第5条を概略見ていこう。いわゆる収支相償規定(6号)9)というフロー上の要件、遊休財産の保有の制限規定(9号)10)というストック上の要件、さらに公益目的事業比率50パーセント以上の公益目的性要件(8号)11) の財務基準が設けられた。これらはすでに「財務三基準」と呼ばれることが一般化している (たとえば、江田2012)。

 その他に、「特別の利益」を与えないことなどの適正運営関連の要件が法定された。

 また、従来、法令上、行いえたか否かが不透明だった収益事業等についても認定法第5条7号で「公益目的事業以外の事業(以下「収益事業等」という。)を行う場合には、収益事業等を行うことによって公益目的事業の実施に支障を及ぼすおそれがないものであること」(下線部 引用者)とされ、公益法人行政上初めて収益事業に関する規定が法定されたのである。なお、 ここでの「収益事業」は税法上、私立学校法上、さらに社会福祉法上の「収益事業」とそれぞれ異なることに留意が必要である(出口2014)。

 なお、特例民法法人から公益法人への移行は、 寄附金に対する税制優遇のある特定公益増進法人となるものの、認定法の制約が従来の指導監督基準をベースにしていること、また、特例民法法人の中には既に特定公益増進法人であったものが存在することから、効果、制約の両者を比較しても、「明らかに上方転換」とも「明らかに下方転換」とも言えない。そこで、本稿では、特例民法法人から公益法人への移行については両者の中間にある「中間転換」と呼んでおくことにする12)

2 「下方転換」としての一般法人への移行

 公益法人制度の昭和改革は憲法89条の「公の支配」の強化に伴う「上方転換」であり、目的を変更して公益法人に留まるという選択肢まで剥奪されていなかったとはいえ、事実上、従来の活動を継続するには学校法人・社会福祉法人への組織変更を行わざるをえなかったものと考えられる。

 これに対して平成改革で行われた移行では、 特例民法法人に対して、公益法人への移行認定または一般法人への移行認可への申請という2つの選択肢が明確に与えられていた。移行認定を受けた法人は、税制上の優遇措置をはじめとする効果を享受できるが、他方で、法令で求められた組織運営を行い、事後的監督に服し、認定取消しに伴うリスクを負うこととなる。このため、認定を受けるか否かは、認定により享受できる効果と認定に伴い服すべきものとなる制約とを法人自身が比較衡量した上で、その自主的な選択に委ねる制度となっている(整備法第 44条)。その結果、同種の特例民法法人が、一方は公益法人へと移行し、他方は一般法人へと移行するということも、事前に想定されていた。 また、「上方転換」である学校法人・社会福祉法人への組織変更、「中間転換」である公益法人への移行と異なり、一般法人への移行は、効果は小さくなるものの、制約もまた小さいわけであるから、「下方転換」と呼ぶべき組織転換であった。その際、移行については一旦、形式上、解散の登記をすることになるので(整備法第159条)、問題となるのは旧民法72条との法律的な整合性である。閣議決定においては、「財産の承継に関する条件を付すこと」とされており13)、法人の財産を承継しつつ、旧民法のシ・ プレ原則を保持させるという難しい立法技術を要する措置としての「移行後も公益目的に使用しなければならない財産額」(以下「公益目的財産額」という)を支出する「公益目的支出計画」 が盛り込まれた(整備法第119条)。その際「財産額の算定の考え方として、現行の公益法人が解散した場合の残余財産に相当する額ということで、公益目的財産額というものを考えるという形」(内閣府公益認定等委員会2007b)としていた。  

 認可の要件は、①定款の変更の案の内容が一般社団・財団法人法及びこれに基づく命令の規定に適合するものであること、②公益目的支出計画が適正であり、かつ、当該認可申請法人が当該公益目的支出計画を確実に実施すると見込まれるものであること(整備法117条)となっていた。  

 移行認定と同じく、移行認可についても、内閣総理大臣は公益認定等委員会(整備法113条第3項)に、都道府県知事は合議制機関(整備法 138条第3項)に諮問しなければならない。


Ⅴ 一次資料から見る学校法人・社会福祉法人の組織変更

1 学校法人の「上方転換」の「フィールド」 の実態

 昭和改革については、国立公文書館において実際の組織変更の申請書・稟議書を調査した。学校法人については、私立学校法施行規則(昭 和25年3月14日文部省令第12号)附則第2項に従って、以下の書類が添付されている。学校法人寄附行為(新寄附行為)、財団法人寄附行為(旧寄 附行為)、理事会決議書、財産目録、不動産の権利の所属についての証明書、動産の価格評価書、有価証券及び預金の現在高証明書、変更後2年の事業計画及びこれに伴う予算書、役員の就任承諾書・履歴書・身分証明書及び教職的確確認書・判定書の写、役員のうちに各役員についてその配偶者または三親等以内の親族が含まれていないことを証する書類、私立学校の学則、財団法人の登記簿の謄本が添付されている。この中で詳細に記述されているものは財産目録である。会計の書類上、財産目録が最も重視されていたことがわかる。  

 当時の基本財産は土地、建物、設備、機械、 図書、標本、什器があげられ、いずれも実物資産である。他方で、運用財産は、株式・現預金を含む金融財産があげられ、その点でこの区分は極めて明瞭である。私立学校法で初めて明文の規定ができた収益事業に関しての土地・建物については、区分して計上されている。土地建物について登記簿の複写が添付され、動産については、動産評価委員会が設置され、評価を行っている。

 また、身分証明書については本籍地の役所より、「1 禁治産、準禁治産の宣告を受けたことはない、2 破産、家資分散の宣告又は身代限の処分を受けたことがない」という証明書が発行、 添付されている14)。  

 以上の通り、学校法人に関しては、法令に則った形で、申請書類添付書が構成されている ことがわかる。事務作業は、手書きやガリ版刷りが駆使されており、二部を作成しなければならなかったことも併せて、1年の期間での法人の事務作業は相当大きかったものと推察される。  

 上申されている意見は、1.続き(適法である)、 2.変更後の寄附行為(適法かつ妥当と認める)、 3.資産(教育の継続上支障がないと認める)、4.新寄附行為にのっとって適法に選任された役員である、5.結論(認可して差し支えないものと認め る)となっている(カッコ内は標準的な記載)。但し、役員については、「当分の間、従前の役員とするものであるが、差支えないと思う。」という表記も認められており、新役員選任については、柔軟な対応がとられている。

2  社会福祉法人の「上方転換」の「フィールド」の実態

 社会福祉法人については、「起案事由」として、学校法人の「1.手続きから5.結論」までの 「意見」と同様のものが添付されている。但し、 社会福祉法人の最終的な認可者は厚生大臣であり、都道府県の組織変更の申請副申書(都道府県の意見)も添付されている。都道府県作成による申請副申書は「1.総括的所見、2.調書、2 -1定款準則と相違する箇所、2-2事業、2 -2-1社会福祉事業、2-2-2附帯事業、 2-2-3収益事業、2-3資産の適当な理由、 2-4寄附財産、2-5事業計画、収支予算、 財源の適当な理由、2-6両局長通知記第一の三(イ)、(ロ)に関する意見、2-6-1役員の選考について法第15条に規定する公私分離の原則について、2-6-2役員の法人運営についての 理解と熱意、2-7その他必要と認める事項に関する報告若しくは意見(添付書類の内容、施設の届出認可等について)となっている。認可書に当たっては、北海道の財団法人Aの認可に関して以下のような記載もあった。  

 「申請書には左の点に不備があるので、認可書交付までに修正するよう北海道庁を通じて連絡済みである。1.定款第24条『掲示するか又 は』を『掲示するとともに』に改めること 2. 定款第13条第2項に「積立金9,028円96銭」を基本財産として挿入すること 3.昭和26年度又は昭和28年度予算書事業計画を追送させること 4.負債の返済計画をもっと具体的に作成すること 5.財産目録の負債の後に「差引正味財産 1,827,228円96銭」を入れること 6.役員の住所の番地について細かいミスがあるから修正すること 右の点の書類を具備すれば認可しても差し支えないものと思料する。」。  

 以上の通り、所轄庁が直接認可した学校法人と異なり、厚生大臣認可の社会福祉法人には都道府県を通じた法人とのやりとりの記載が残っている。申請副申書1総括的所見には、法人の設立の経緯や運営の状況とともに、熱意や理解に関する記述が特掲されており、同書2-6の 「両局長通知記第一の三(イ)、(ロ)に関する意見」 というものの存在が際立っている。  

 例えば、財団法人Aでは「(役員は)いづれも地域社会の民間人であり、法第5条に規定する公私分離の原則に違肯しない」となっており、民間人が役員を務めることが社会福祉事業法第5条の公私分離の原則の重要事項として認可の過程で確認されていたことがわかる。また「役員の法人運営に対する理解と熱意が充分に認められる」と評価されている(財団法人A組織変更  国立公文書館蔵)。  

 「公私分離の原則」については、法律上は、同5条第1項第2号(現社会福祉法第61条第1項第2号)の「国及び地方公共団体は、他の社会福祉事業を経営する者に対し、その自主性を重んじ、不当な関与を行わないこと」を根拠にしているものと考えられる。憲法89条を根拠に持つ「公私分離原則」から役員人事に民間人のみが役員を務めることが導き出されていたことは、 その後の公益法人天下り問題を考慮するうえで意義深い。また、(ロ)として役員の「理解と熱意」という精神要件が認可事項として特掲され ていたことが判明した。これは厚生労働省の 「『社会福祉法人の認可』について」に受け継がれ、「⑴理事は、社会福祉事業について熱意と理解を有し、かつ、実際に法人運営の職責を果たし得る者であること」という記述が現代も生きている。「熱意と理解」の解釈の運用によっては、所轄庁の裁量が非常に大きなものとなってこよう15)


Ⅵ 平成改革の「フィールド」の実態

 平成改革では、平成20年12月1日時点での 24,317法人のうち、5年間の移行期間中、実際の移行申請法人数(取下げ分を含む)は20,729法人。そのうち、公益認定申請数が9,054法人、一般法人への認可申請数が11,682法人であった (内閣府2014a)。筆者はこのうち、内閣府への移行認定申請の法人約2,000、移行認可申請の法人約2,000、新規の公益認定の法人約300の申請の「フィールド」に関わったことになる。  

 公益法人改革では、公益法人の実態が玉石混交であるという認識はほぼ共有されていた(内閣府2014a)。したがって、移行前の全法人がすべて公益法人へ移行するとは想定されていなかったので、特例民法法人の約4割が公益法人へ移行したが、この数字があながち少ないとは言えない。内閣府は、これまでの『特例民法法人の年次報告』を根拠にして移行前の公益法人のうち、総支出の50%以上で公益事業を実施していた法人も約4割という数字を根拠に、移行公益法人数の数字が見合っていると述べている (内閣府2014a)。これは、確かにその通りであるが、『特例民法法人の年次報告』における「公益事業」と認定法における「公益目的事業」とは内容が大きく異なることから、一概に、4割という数字の評価はできない。また、法人の自 主的な選択の結果でもあり、移行認定の数についてはほとんど計測すべき基準がない状態である16)。さらに、公益法人へ移行する具体的な法人数については予想する数字はほとんどないに等しい状況であった。唯一、依拠可能な数字として『平成20年度公益法人に関する年次報告書』(総務省)に記載された「本来の公益法人 数」20,711法人がある(総務省2008)。  

 11,682の一般法人への移行認可法人のうち、公益目的財産額が確定しているものが、3,366 法人(内閣府2014b)である。公益目的支出計画の終了の時期については、平成50年までが74.1%、平成51年以降のものが25.9%となった(内閣府 2014b)。ただし、中には、公益目的支出計画の期間が2000年を超えるような法人も出てきて批判もされている。


Ⅶ 平成改革における「クリープ現象」

 平成改革における「フィールド」を踏まえた 上で、「時間の経過と法令との関係」という新しい視点を入れていきたい。これは、Johnson (2009)の「コンプライアンス・クリープ」の概念に刺激を受けたものである。Johnsonの概念は米国でSarbanes-Oxley法の規制を、法令上規制対象となっていない企業までが「コンプライアンス」として自発的に徐々に取り入れていく状況を述べたものである。さらにJohnson は監査法人が監査手法をSarbanes-Oxley法に合わせてしまうと、Sarbanes-Oxley法の対象となっていない全てのクライアントに対しても、同じ手法で監査してしまうことを指摘している。これは興味深い指摘である。Johnsonは明記してはいないが、もともと「クリープ(creep)」の 概念はレオロジーで頻繁に使用されていた概念であり17)、それを新規に援用してみたい。

 もともとレオロジーでいう「クリープ」とは、一定の力を加え続けたときの固体の挙動、すなわち歪みをいう。加える力がある段階までは、元に戻る性質(弾性)を帯び、時間の経過とともに弾粘性、さらに力を加え続けると固体の挙動ではなく液体の挙動である粘性まで変化する。この加えた力と歪みについてレオロジーでは 「クリープ」と呼ぶ。法令に基づく行政の挙動は、形式上、当然一貫はしてはいるが、尺度を小さくして見ていけば、それが一定の幅を持って歪み得るものと考えられる18)。言い換えれば、法令の解釈の意図的な変更とまでは言えないものの、認定・認可・監督に影響すると思われる 「行政の法令に対する徐々に加えられていく歪み」が存在するものと仮定し、それをここでは 「クリープ現象」として定義したい。たとえば、「平成25年公益法人に関する概況」(移行期間の総括)」(内閣府2014b)には、「収益事業等は、あくまで本来の公益事業に付随して行われるべきものであり、認定法は、他の事業と区分して経理を行うことを求めている(認定法§19)」(下線部引用者)と述べている。  

 認定法第5条7号の収益事業等は同法第5条に掲げる特別の利益や公序良俗違反などの適用は当然受けるものの、「公益目的事業の実施に 支障を及ぼすおそれがない」ものであれば足り、「あくまで本来の公益事業に付随して行われるべきもの」については、公益認定等委員会1期、2期の間には、出てこなかった規制である。これなどは非常にわかりやすい「忍び寄る歪み= クリープ」であろう。こうした歪みはある一定段階までは元に戻すことは可能であろうが、臨界点を超えると制度そのものが変形してしまう。  

 以上のような観点から平成改革における「クリープ現象」を探し出すと、もっと微妙なものが「フィールド」で出てきた。移行認可における公益目的財産額については、前述の通り「認可を受けたときに解散するものとした場合において旧民法第72条の規定によれば当該特例民法法人の目的に類似する目的のために処分し、又は国庫に帰属すべきものとされる残余財産の額に相当するもの」(整備法第119条)というものであった。これについては、当初「一方的に法人の責めに帰すことはできないものの、今日的な意味での公益事業の比率が低下した一方で、経緯的に比較的大きな財産額を有する法人が多数存在しているという現実」を前提にして、「従来は法人を監督する上で、法人が保有する財産を『公益目的財産』と『収益事業等財産』 に区分するということを行ってこなかったという事実も踏まえる必要がある。今般の公益法人制度改革の目的は、『民による公益の増進』である。一般法人への移行認可への諸要件の定め方如何によって、公益目的事業を含む非営利活動の担い手である一般法人の財産を不必要に消耗させたり、あるいは、活動形態を必要以上に制約することにより法人のバイタリティーを消失せしめるようなことは、今回の改革の趣旨に沿っているものとはいえない」(内閣府公益認定等委員会2008b)というような趣旨が共有されていた。それゆえ公益目的財産額の算定に当たっては、「負債(資産の控除を含む。)として計上さ れている引当金(引当金に準ずるものを含む。)については、公益目的財産額の算定から控除する。 また、会費等の積み立てによる準備金等(法令等により将来の支出又は不慮の支出に備えて設定することが要請されているもの)については、負債として計上されていない場合であっても、法人において合理的な算定根拠を示すことが可能である場合には、引当金と同様に公益目的財産額の算定から除くことができる」(公益認定等ガイドライン。下線部引用者)という公益目的財産額から控除可能なものを列挙したガイドラインができ上がっている。つまり、そこには「溜め込 んだお金を公益に使わせる」というような懲罰的な制度ではなく、あくまで私有財産との線引きが難しい中で閣議決定の「財産承継に関する 条件」を立法技術的に作り上げたものであり、可能な限り公益目的財産額を少なく計算できるような配慮に基づいて作られていた。こういう基本的な考え方から、たとえば、博物館の展示品等については「簿価がないものにつきましては、財産とみなさない」「時価もないようなものについては財産目録だとか財務諸表には出ていないと思いますし、もともと審査のしようもない」(内閣府公益認定等委員会2008b)ということが導き出されている19)

 ところが、公益目的支出計画の趣旨として 「これまで公益法人として寄附や税制優遇等を受けて形成してきた財産が、事業内容や残余財産の帰属が法人自治に委ねられる一般法人に移行することにより無制限に公益以外に費消されることは適当ではない」(内閣府2011。下線部引用者)と、「税制優遇等を受けて形成した」という点が前面に出て、規範的な意味において費消させるという、「忍び寄る歪み=クリープ現象」が徐々に現れてきた。その結果、例えば、公益目的財産額の算定が高いことに由来することによって、公益目的支出計画が2000年を超える法人が出てくる事態も生じた。この問題に関して、雑誌『公益法人』に識者が、コメントしている。コメントするに当たって公益目的支出計画について説明しているので、それを見てみよう。ある県の公益認定等委員会委員(公益法人協会取材班2012:p.15)は「一部の公益法人が、 営利企業の利益に相当する剰余金を蓄積して、 多額の『内部留保』をため込んでいることは、 本来『非営利』であるべき組織として適切でない、また、その結果法人税の負担を繰り延べ、免れているというのが公益法人の内部留保問題の本質であった。旧公益法人(特例民法法人) から一般法人への移行プロセスにおける公益目的支出計画とは、旧公益法人が内部留保していた公益目的財産額を本来の目的のために計画的に使用させ最終的にゼロにするものである」と解説している(下線部 引用者)。制度の説明として、税との関係を挙げ、旧民法72条のことは出てきていない。このように一般的な感覚として違和感がないように入り込むことが、まさに 「忍び寄る歪み=クリープ現象」である。2000 年問題についての是非を本稿では問うものではないが、少なくとも、2000年問題は「制度上の問題」ではなく、制度設計上、十分に想定されて回避を企図(公益目的財産額は可能な限り低く計算可能と)していたものが、「忍び寄る歪み= クリープ現象」によって回避されることなく生じた問題だということを指摘しておきたい。

 これは社会福祉法人の「熱意や理解」といった認可要件にも共通している問題と思われる。


Ⅷ おわりに

 以上の通り、明治以来の110年ぶりの改革として議論される公益法人制度改革を昭和改革との比較で見てきた。法人格間での会計基準の分断、専門家の分断などについても、昭和改革の余波としてあげたいが、紙数の関係もあって別稿に持ち越したい。裁量権を巡って、「許可主義から認可主義へ」という講学上の理解は、それほどフィールドの現場としては単純ではないことも明らかになった。とりわけ、「クリープ現象」に光を当てることによって、行政側から意図的に裁量権を行使しているのではないにしろ、法人側から見れば時間の経過とともに徐々に認定や監督が、制度設計時と比較して、緩和的にないし厳格的に変化するということもあり得ると考えられる20)。特に、公益法人制度改革では、一期と二期、二期と三期の間に二度の政権交代があり、公益認定等委員会委員もその都度大幅に変わってきたため、「クリープ現象」が 生じやすい状況にあったともいえる。さらに、「上方転換」が行われた学校法人・社会福祉法 人との税制上の平仄状態からくる規制強化に向かう「クリープ現象」というものもあり得るかもしれない。言い換えれば、公益法人の「中間転 換」が「上方転換」に引っ張られる可能性である。  

 例えば、公益目的支出計画の「クリープ現象」は移行認定した公益法人に対しても「公益法人の財産は税制優遇を受けて形成されたものであり、法人やその構成員のみならず、いわば国民から託された財産と言っても過言ではあり ません」(「内閣府公益認定等委員会だより20号」下線部引用者)と、同様の影響を与え始めており、現在ではこうした考え方が定着した感すらある。  

 民間公益活動とは、言い換えれば、私有財産を公益活動に使用するということでもある。少なくとも政府の助成金・補助金を前提にした昭和改革の「上方転換」との相違を明確にしておかねばならぬだろう。


[注]

1) 本稿は非営利法人研究学会のルールに従い、 同学会関西部会で発表し、かつ、全国大会で 発表した内容に新しい知見を付加して大幅な変更を加えたものである。

2) ただし、昭和改革における組織の転換は、法律上「組織変更」の用語が使用され、昭和改革については、「移行」の用語が使用されている。そこで本稿では、両者を「組織転換」 という統一的用語で表現することとした。また、平成改革においては、特例無限責任中間 法人も移行措置がとられたが、本稿では論考の外に置いた。

3) 「応用人類学」については日本において一定の広がりを見せている。他方で、スタンフォード大学出版会から「政策人類学」シリーズが刊行され始めたが、「政策人類学」 はまだ新しい研究分野であり、日本において普及しているものではない。

4) 「フィールド」で得たことについては、論考の参考としたが、論考の根拠とすることは現時点では研究倫理上の問題が明確ではないとの判断による。

5) 公益法人の収益事業は法定されておらず長らく「法務省における有権解釈昭和35年10月7日付民事甲第2531号」に依拠していた」「公益法人等の指導監督等に関する関係閣僚会議幹事会申合せ」。

6) 寄附行為変更特例は平成改革において規定されなかった。

7) 「日本赤十字社とか、済生会は、御承知の通り民法に基く公益法人でございます。(中略) お話の済生会等がいよいよ行詰つて医療法人になりたいと言いました場合には、別に何ら制限をする必要はないと思つております。その場合には公益法人を解散して、この法律に基く法人になるわけでございます。ただ実際問題としては、特別な解散理由の発生しない 限りこの法人になることは、今申し上げたような実際の問題、課税の関係から、却つて利 益ではないかも知れんと思つております。」(国会議事録1950b)とある。

8)認定法第2条4号で定義される。

9) 「その行う公益目的事業について、当該公益目的事業に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額を超えないと見込まれるものであること」。この規定の略称については、 「実費弁償」という略称が事務局から示されたが、法人税法基本通達で既に使用されてい る用語は誤解を与えるという委員からの指摘で、「収支相償」に改められた。(公益認定等 委員会2007a、2007c)

10) 「その事業活動を行うに当たり、第16条第2項に規定する遊休財産額が同条第1項の制限を超えないと見込まれるものであること」。

11) 「その事業活動を行うに当たり、第15条に規定する公益目的事業比率が100分の50以上となると見込まれるものであること」。

12) 各法人の受け止め方はいろいろであろうが、中間であるという認識の一つとして「新制度では基準が法律で明記され、透明性が確保されています。内容も厳しくなった訳ではあり ません」(内閣府2014a)という表明がある。

13) 「公益法人制度改革に関する有識者会議の報告書」を受け、「今後の行政改革の方針(閣議決定2004)」においては、「現行公益法人のうち、新たな判断主体により、公益性の判断要件を踏まえた一定の基準に適合すると判定されたものは、公益性を有する非営利法人に簡易な手続で移行すること、一方、当該基準に適合しないと判定されたものや公益性を有する非営利法人への移行を望まないものは、財産承継に関する条件の下、基本的に一般の 非営利法人(一般的な非営利法人制度に基づく法人であって、公益性を有するとの判断を受けていないものをいう。)に移行することとする方向で、その公平かつ合理的な基準及び手続について、引き続き検討する。」とある。

14) この他に「3重罪、軽罪の刑に処せられたことはない」というものが付加されていたものがある。

15) 社会福祉事業法第18条において社会福祉主事は、事務吏員又は技術吏員とし、年齢二十年以上の者であつて、人格が高潔で、思慮が円熟し、社会福祉の増進に熱意があり、且つ、 左の各号の一に該当するもののうちから任用しなければならない。第57条第2項に基づい て、社会福祉法人以外の者が第一種社会福祉事業営むときの、「許可」要件たる同条第4 項第3号に「実務を担当する幹部職員が社会福祉事業に関する経験、熱意及び能力を有す ること。」(厚生労働省2014)とあって、現在でも同様の規定となっている。

16) 他の依拠する規準としては、移行直前の各主務官庁は、当時の公益性に関する基準から判断して、所管法人を①本来の公益法人、②互助・共済団体等、③営利法人等転換候補及び ④その他の4類型に分類していたことがあげられる。このうち、「本来の公益法人」とは、 その目的・事業に現在においても公益性があり、公益法人として十分な資格を持っている 法人のことである。これに該当する法人は20,711法人であった。ただし、依拠するには根拠が弱い(出口2015)。

17) Johnsonがレオロジーから発想を得ているのかどうかは不明である。

18)これはレオロジーからの発想である。

19) もちろん意図的に隠していれば、虚偽申告になるし、土地や建物などは財産目録に載っていなければ、会計書類として不完全なものと考えられる。

20) 本稿では、「クリープ現象」は厳格化するものについて発見し論述したが、この点は緩和化することも理論的にはあり得ることである。この点は査読者から有益なコメントを受 けた。謝意とともに記したい。


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(論稿提出:平成26年11月28日)

( 加筆修正:平成27年3月23日)


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